説明

安定な経口用固形医薬組成物

本発明は、温湿度条件下、特に低含量において、ラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の安定化製剤の提供を目的とするものであり、脂肪族カルボン酸またはそのエステル、ヒドロキシカルボン酸またはそのエステル、酸性アミノ酸、エノール酸、芳香族カルボキシル化合物またはそのエステル、およびカルボキシル基を有する高分子物質からなる群より選択された1種または2種以上を含有することを特徴とするラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の安定な経口用固形医薬組成物およびその安定化方法の提供に関する。また、本発明は、1日量として0.002〜0.02mgの塩酸ラモセトロン又はこれと等モル量のラモセトロン若しくは製薬学的に許容されるその他の塩を有効成分として含有する下痢型過敏性腸症候群治療剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、カルボニル基を有する特定の化合物を含有することを特徴とするラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の安定な経口用固形医薬組成物に関する。また、本発明は、カルボニル基を有する特定の化合物を配合することを特徴とするラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の経口用固形医薬組成物の安定化法に関するものである。また、本発明は、下痢型過敏性腸症候群の新規な治療方法に関する。
【背景技術】
ラモセトロン(ramosetron)は、化学名を(−)−(R)−5−[(1−メチル−1H−インドール−3−イル)カルボニル]−4,5,6,7−テトラヒドロ−1H−ベンズイミダゾール((−)−(R)−5−[(1−methyl−1H−indol−3−yl)carbonyl]−4,5,6,7−tetrahydro−1H−benzimidazole)と称する。該ラモセトロンおよびその製薬学的に許容される塩を含む一連のテトラヒドロベンズイミダゾール誘導体は、優れたセロトニン(5−HT)受容体拮抗作用を有し、抗悪性腫瘍剤投与により誘発される悪心、嘔吐等の消化器官症状を抑制する有用な医薬化合物として報告されており(特許文献1参照)、特にラモセトロンの塩酸塩がすでに上市されている(以下、市販の医薬化合物を塩酸ラモセトロンという)。塩酸ラモセトロンは、成人に対し、その0.1mgを一日一回経口投与することにより優れた薬理効果を発揮することも知られており、山之内製薬よりナゼアOD錠0.1mgの商品名で販売されている。
また、セロトニン受容体拮抗薬には、セロトニン(5−HT)受容体を刺激し、アセチルコリンの遊離を増大させることから、過敏性腸症候群(IBS)の治療薬としての適用も期待されている。しかし、臨床で過敏性腸症候群患者に対する治療効果を確認できたセロトニン受容体拮抗薬はわずかであり、塩酸ラモセトロンについてもその有効性は未だ報告されていない。
本発明者らは、塩酸ラモセトロンの過敏性腸症候群に対する治療有効量は、抗悪性腫瘍剤投与により誘発される消化器官症状の抑制剤として現在使用されている投与量0.1mgよりもはるかに低用量ではないかとの着想を得た。
しかし、一般に医薬化合物を製剤化する場合、低含量になるほど、医薬化合物にとっては医薬添加剤との相互作用を受けるため、その安定性は低下することが懸念される。
製品の塩酸ラモセトロン0.1mg錠剤は、乾燥剤入りの包装形態が採用されている為、製薬学的には安定な製剤であり、上市品としても問題なかった。しかし、低含量製剤においては乾燥剤のみによる安定化効果は不充分であると考えられる。
【特許文献1】欧州特許第381422号明細書
【発明の開示】
したがって、温湿度条件下、特に低含量において、ラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の安定化製剤の提供が要望されている。
現在上市されている塩酸ラモセトロンを含むラモセトロンおよびその製薬学的に許容される塩の通常製剤は、光照射により僅かに分解物が認められるが、温湿度保存条件下では安定である。本発明者らは、低用量において効果が期待される過敏性腸症候群などの適応症に最適な製剤化検討を行ったところラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩は、高温度、多湿条件下に保存するときその定量値が低下し、分解されやすくなることを知った。そこで、本発明者らは低含量においても安定なラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の製剤を開発すべく鋭意検討した結果、アスコルビン酸が温湿度に対する顕著な安定化効果を奏することを知見した。本発明者らは、さらに没食子酸プロピルによる安定化効果を検討したところ、意外にも、優れた安定化効果を奏したアスコルビン酸やエリソルビン酸などのエノール酸による温湿度に対する安定化効果よりも、没食子酸プロピルの方が、遙かに顕著な安定化効果を奏することを見いだした。本発明者らは、さらに鋭意検討の結果、驚くべきことに前記没食子酸プロピルなどの芳香族カルボン酸やそのエステルよりもさらにクエン酸(水和物)、クエン酸(無水物)、酒石酸、カルボキシメチルセルロースなどのヒドロキシカルボン酸またはそのエステル、脂肪族カルボン酸またはそのエステル、酸性アミノ酸やカルボキシメテルセルロースなどのカルボキシル基を有する高分子物質が、温湿度に対し極めて優れた安定化効果を奏することを知見した。
本発明者らは、さらに、特に黄色三二酸化鉄、赤色三二酸化鉄、および酸化チタンからなる群より選択される着色剤をラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩に添加するときは、極めて顕著な光安定化効果を奏することも見いだした。
すなわち、本発明は、上記知見に基づいて完成されたものであり、
1.脂肪族カルボン酸またはそのエステル、ヒドロキシカルボン酸またはそのエステル、酸性アミノ酸、エノール酸、芳香族カルボキシル化合物またはそのエステル、およびカルボキシル基を有する高分子物質からなる群より選択された1種または2種以上を含有することを特徴とするラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の安定な経口用固形医薬組成物、
2.ヒドロキシカルボン酸またはそのエステル、エノール酸、芳香族カルボキシル化合物またはそのエステル、およびカルボキシル基を有する高分子物質からなる群より選択された1種または2種以上を含有することを特徴とするラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の安定な経口用固形医薬組成物、
3.ヒドロキシカルボン酸またはそのエステルおよびカルボキシル基を有する高分子物質からなる群より選択された1種または2種以上を含有することを特徴とするラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の安定な経口用固形医薬組成物、
4.脂肪族カルボン酸またはそのエステルが、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、およびフマル酸からなる群より選択された1種または2種以上である前記1記載の医薬組成物、
5.ヒドロキシカルボン酸またはそれらのエステルが、酒石酸、リンゴ酸、およびクエン酸からなる群より選択された1種または2種以上である前記1記載の医薬組成物、
6.ヒドロキシカルボン酸またはそれらのエステルが、酒石酸およびクエン酸からなる群より選択された1種または2種以上である前記1記載の医薬組成物、
7.酸性アミノ酸が、アスパラギン酸、またはグルタミン酸である前記1記載の医薬組成物、
8.エノール酸が、アスコルビン酸、またはエリソルビン酸である前記1記載の医薬組成物、
9.芳香族カルボキシル化合物またはそのエステルが、フタル酸、または没食子酸プロピルである前記1記載の医薬組成物、
10. カルボキシル基を有する高分子物質が、カルボキシメチルセルロース、またはアルギン酸である前記1記載の医薬組成物、
11. 脂肪族カルボン酸またはそのエステル、ヒドロキシカルボン酸またはそのエステル、酸性アミノ酸、エノール酸、芳香族カルボキシル化合物またはそのエステル、およびカルボキシル基を有する高分子物質からなる群より選択された1種または2種以上の配合量が、処方中0.01〜90重量%である前記1〜10の何れか1項に記載の医薬組成物、
12. ラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の配合量が、処方中0.0001〜0.5重量%である前記1〜11の何れか1項に記載の医薬組成物、
13. ラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の配合量が、処方中0.0005〜0.05重量%である前記12に記載の医薬組成物、
14. さらに、光安定化剤を含有する前記1〜13のいずれか1項に記載の医薬組成物、
15. 光安定化剤が、黄色三二酸化鉄、赤色三二酸化鉄、および酸化チタンからなる群より選択された1種又は2種以上である前記14記載の医薬組成物、
16. 脂肪族カルボン酸またはそのエステル、ヒドロキシカルボン酸またはそのエステル、酸性アミノ酸、エノール酸、芳香族カルボキシル化合物またはそのエステル、およびカルボキシル基を有する高分子物質からなる群より選択された1種または2種以上を配合することを特徴とするラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の経口用固形医薬組成物の安定化法、
17. 脂肪族カルボン酸またはそのエステルが、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、およびフマル酸からなる群より選択された1種または2種以上である前記16記載の安定化法、
18. ヒドロキシカルボン酸またはそれらのエステルが、酒石酸、リンゴ酸、およびクエン酸からなる群より選択された1種または2種以上である前記16記載の安定化法、
19. 酸性アミノ酸が、アスパラギン酸、またはグルタミン酸である前記16記載の安定化法、
20. エノール酸が、アスコルビン酸、またはエリソルビン酸である前記16記載の安定化法、
21. 芳香族カルボキシル化合物またはそのエステルが、フタル酸、または没食子酸プロピルである前記16記載の安定化法、
22. カルボキシル基を有する高分子物質が、カルボキシメチルセルロース、またはアルギン酸である前記16記載の安定化法、
23. 脂肪族カルボン酸またはそのエステル、ヒドロキシカルボン酸またはそのエステル、酸性アミノ酸、エノール酸、芳香族カルボキシル化合物またはそのエステル、およびカルボキシル基を有する高分子物質からなる群より選択された1種または2種以上の配合量が、処方中0.01〜90重量%である前記16〜22の何れか1項に記載の安定化法、
24. ラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の配合量が、処方中0.0001〜0.5重量%である前記16〜23の何れか1項に記載の安定化法、
25. ラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の配合量が、処方中0.0005〜0.05重量%である前記24記載の安定化法、
26. さらに、光安定化剤を配合する前記16〜25のいずれか1項に記載の安定化法、
27. 光安定化剤が、黄色三二酸化鉄、赤色三二酸化鉄、および酸化チタンからなる群より選択された1種又は2種以上である前記26記載の安定化法、
を提供するものである。
一般的に抗酸化剤は、その作用機序から3つに分けられるとされており、「医薬品の開発 第12巻 製剤素材II p.310平成2年10月28日発行」には、▲1▼酸化に弱い薬品の代わりに酸化されて酸素を消費し薬品を保護する物質(例えば、アスコルビン酸などの水溶性還元剤)、▲2▼遊離基の受容体として反応し、連鎖反応を遮断すると考えられる物質(例えば、没食子酸プロピルなどの脂溶性抗酸化剤)、そして▲3▼単独では抗酸化作用を持たないが、抗酸化剤と組み合わせるとその抗酸化作用を増強させる物質(例えば、クエン酸などの脂溶性抗酸化剤のシネルギスト(相乗作用剤))が挙げられている。ラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の安定化機序については未だ詳細には解明されていないが、本発明では、単独でほとんど抗酸化作用を有しないクエン酸が、他の抗酸化剤よりも安定なラモセトロン製剤をもたらしたことから、温湿度保存条件下における分解の抑制が、単なる酸化分解抑制に基づいてなされたものではないものと推定される。
なお、セロトニン受容体拮抗薬を含有した注射剤の血管刺激性を低下させることを目的として、特定のセロトニン拮抗剤に、多価アルコールまたは糖アルコール、およびクエン酸塩を含有したpH値が3〜5に調節された注射剤に関する発明が開示されている(特開平7−10753号)。しかしながら、本発明とは技術的課題が異なり、温湿度に対する塩酸ラモセトロンの低含量での安定な経口固形製剤については記載も示唆もない。
また、光学活性体であり、製剤中でラセミ化する5−HT受容体拮抗薬であるシランセトロンに対し、水溶性の酸性物質を含有してなるラセミ化に対して安定な医薬組成物に関する発明が開示されている(特開平11−92369号)。しかしながら、ラセミ化を抑制する技術とは技術的課題が相違する。
更に本発明者らは、上述の低含量の塩酸ラモセトロンの安定化製剤を用いて、下痢型過敏性腸症候群患者に対する12週間に及ぶ臨床試験を行った結果、顕著な有効性を確認し、発明を完成させた。
すなわち、本発明は、
28.1日量として0.002〜0.02mgの塩酸ラモセトロン又はこれと等モル量のラモセトロン若しくは製薬学的に許容されるその他の塩を有効成分として含有する下痢型過敏性腸症候群治療用医薬組成物、或いは、
29.1日量として0.002〜0.02mgの塩酸ラモセトロン又はこれと等モル量のラモセトロン若しくは製薬学的に許容されるその他の塩を有効成分として含有する過敏性腸症候群の下痢症状改善用医薬組成物、に関する。
また、本発明は、
30.下痢型過敏性腸症候群治療剤の製造の為の1日量として0.002〜0.02mgの塩酸ラモセトロン又はこれと等モル量のラモセトロン若しくは製薬学的に許容されるその他の塩の使用、或いは、
31.過敏性腸症候群の下痢症状改善剤の製造の為の1日量として0.002〜0.02mgの塩酸ラモセトロン又はこれと等モル量のラモセトロン若しくは製薬学的に許容されるその他の塩の使用、に関する。
また、本発明は、
32.1日量として0.002〜0.02mgの塩酸ラモセトロン又はこれと等モル量のラモセトロン若しくは製薬学的に許容されるその他の塩を患者に投与することを含む下痢型過敏性腸症候群の治療方法、或いは、
33.1日量として0.002〜0.02mgの塩酸ラモセトロン又はこれと等モル量のラモセトロン若しくは製薬学的に許容されるその他の塩を患者に投与することを含む過敏性腸症候群の下痢症状の改善方法、に関する。
後述の試験例2に臨床試験結果が示された塩酸ラモセトロンの投与量は0.005mgと0.01mgの1日1回経口投与である。しかし、0.005mg投与により0.01mgと変わらない顕著な治療効果であったことから、更にこの半量程度でも有効性が期待できる。また、試験例2の対象は日本人の成人患者であり、小児の至適用量は更に少量である可能性が示唆され、欧米人の至適用量が日本人の倍量であることもよくあることである。従って、塩酸ラモセトロンの特に好ましい投与量は1日量0.002〜0.02mgの範囲であるが、患者の年齢や民族の相違により、1日量0.001〜0.05mgの範囲で下痢型過敏性腸症候群或いは過敏性腸症候群の下痢症状を改善できると考えられる。
本発明の経口用医薬組成物について、以下説明する。
本発明に用いられるラモセトロンは、前述の化学名を有した特公平6−25153号実施例44等に記載の医薬化合物であり、その製薬的に許容され得る塩としては、具体的には、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸などとの鉱酸塩、酢酸、シュウ酸、コハク酸、クエン酸、マレイン酸、リンゴ酸、フマール酸、酒石酸、メタンスルホン酸などの有機酸との塩、グルタミン酸、アスパラギン酸などの酸性アミノとの塩が挙げられる。中でも、市販されている塩酸ラモセトロンが好ましい。また、ラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩は前記公報に記載された製造方法により容易に入手することができる。
ラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の使用量は、有効量であれば特に限定はなく、特にその低用量製剤化において温湿度に対して不安定になることが見いだされたものではあるが、高含量の製剤においても本質的に内在していた課題であると推定されるので同様に安定化効果は期待される。したがい、過敏性腸症候群の適応症に対する有効量に限定されるものではなく、従来市販品の有効量も包含される。具体的には、ラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の配合量が処方中0.0001〜0.5重量%であり、より好ましくは、処方中0.0001〜0.25重量%であり、更に好ましくは処方中0.0005〜0.05重量%である。また、ラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の単位製剤あたりの使用量で表現すると、具体的には、0.1〜500μgであり、より好ましくは、0.1〜250μg、更に好ましくは1〜50μgである。
本発明に用いられるラモセトロンを安定化させる化合物としては、前記のようにカルボニル基を有する特定の化合物であって、ラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩を安定化させるものである。カルボニル基を有する特定の化合物として具体的には、脂肪族カルボン酸(詳細には、飽和または不飽和で、直鎖状または分枝状の脂肪族モノ−、ジ−またはトリ−カルボン酸。特に、炭素数が3〜36の脂肪族カルボン酸)またはそのエステル、ヒドロキシカルボン酸(詳細には、飽和または不飽和で、直鎖状または分枝状の脂肪族ヒドロキシモノ−、ジ−またはトリ−カルボン酸。特に、炭素数が3〜36のヒドロキシカルボン酸)またはそのエステル、酸性アミノ酸、エノール酸、芳香族カルボキシル化合物(詳細には、炭素数1乃至4個のアルキル基やヒドロキシ基が置換していてもよい芳香族モノ−、ジ−またはトリ−カルボン酸。特に、炭素数が7〜20の芳香族カルボン酸)またはそのエステル、カルボキシル基を有する高分子物質が挙げられ、これらの化合物は1種または2種以上組合せて適宜使用することができる。
とりわけ、カルボニル基を有する特定の化合物としては、ヒドロキシカルボン酸またはそのエステル、カルボキシル基を有する高分子物質、芳香族カルボキシル化合物またはそのエステルや、エノール酸が好ましく、特にヒドロキシカルボン酸またはそのエステル、カルボキシル基を有する高分子物質や、芳香族カルボキシル化合物またはそのエステルが好適であり、至適にはヒドロキシカルボン酸またはそのエステル、カルボキシル基を有する高分子物質がより好ましい。
脂肪族カルボン酸としては好ましくは、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸である。ヒドロキシカルボン酸として、好ましくは酒石酸、リンゴ酸、クエン酸であり、更に好ましくは酒石酸、クエン酸である。酸性アミノ酸として好ましくは、グルタミン酸やアスパラギン酸である。芳香族カルボキシル化合物として好ましくは、フタル酸、没食子酸プロピルであり、更に好ましくは没食子酸プロピルである。カルボキシル基を有する高分子物質として好ましくは、カルボキシメチルセルロースやアルギン酸であり、更に好ましくは、カルボキシメチルセルロースである。また、エノール酸として好ましくは、アスコルビン酸やエリソルビン酸であり、更に好ましくは、アスコルビン酸である。
上記のカルボニル化合物には、クエン酸水和物あるいはクエン酸無水物のように、水和物や結晶水を持たない無水物も本発明の安定化効果を発揮することが解明されており、水和物、無水物、あるいはこれらの混合物のいずれも含まれる。また、高分子物質の重合度、分子量などは特に限定されるものではないが、カルボキシメチルセルロースでは、特に重量平均分子量が約11万程度、アルギン酸では約20万程度のものが好ましい。
ラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩を安定化させる化合物の配合量としては、ラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩(好ましくは塩酸ラモセトロン)を安定化させる量であれば制限されない。処方中、0.01〜90重量%であり、好ましくは0.01〜50重量%であり、更に好ましくは製造性も加味して、0.1〜10重量%である。
本発明の経口用固形医薬組成物には、各種医薬添加剤が適宜使用され、製剤化される。かかる医薬添加剤としては、製薬的に許容される添加剤であれば特に制限されない。例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、酸味料、発泡剤、人工甘味料、香料、滑沢剤、着色剤などが使用される。賦形剤としては、例えば乳糖、結晶セルロース、微結晶セルロース、D−ソルビトール、D−マンニトールなどが挙げられる。結合剤としては、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポビドン、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、アラビアゴムなどが挙げられる。崩壊剤としては、例えばトウモロコシデンプン、バレイショデンプン、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドンなどが挙げられる。酸味料としては、例えばクエン酸、酒石酸、リンゴ酸などが挙げられる。発泡剤としては、例えば重曹などが挙げられる。人工甘味料としては、例えばサッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、アスパルテーム、ステビア、ソーマチンなどが挙げられる。香料としては、例えばレモン、レモンライム、オレンジ、メントールなどが挙げられる。滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、タルク、ステアリン酸などが挙げられる。なお、着色剤としては、例えば黄色三二酸化鉄、赤色三二酸化鉄、酸化チタン、食用黄色4号、5号、食用赤色3号、102号、食用青色3号などを使用することができるが、中でも黄色三二酸化鉄、赤色三二酸化鉄や酸化チタンを配合するときは顕著な光安定化効果を奏することが確認されており、これらの着色剤は光安定化剤としても挙動する。医薬添加剤としては、1種または2種以上組合せて適宜適量添加することができる。
本発明の医薬組成物は、自体公知の方法により製造することができ、例えば、散剤、錠剤、フィルムコート錠剤、口腔内崩壊錠などにすることができる。口腔内崩壊錠の技術としては近年、多くのものが開発されているが、特に制限がなく、例えば、米国特許第5466464号明細書、米国特許第5576014号明細書、米国特許第6589554号明細書、国際公開第03/009831号パンフレット、国際公開第02/092057号パンフレットなどに従い、口腔内崩壊錠とすることができる。
着色剤の添加方法としては、フィルムコートの他に、口腔内速崩壊錠などフィルムコートが困難な場合には、造粒時にラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩と一部又は全量の着色剤を含む結合液として湿式造粒を行ったり、着色剤を含有した粉末をラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩を含む結合液で湿式造粒を行うことによって製造する方法が挙げられる。着色剤の添加量は、着色剤の種類や添加方法によって適量決定する。例えば、フィルムコートの場合は、組成物全体に対して通常0.01〜10重量%であり、好適には0.05〜2重量%である。造粒時にラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩と一部又は全量の色素を含む結合液として湿式造粒を行ったり、色素を含有した粉末をラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩を含む結合液で湿式造粒を行う場合には、組成物全体に対して通常0.1〜20重量%であり、好適には0.2〜10重量%であり、更に好適には製造性も加味して、0.2〜5重量%である。例えば、精製水にラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩、必要に応じて有機酸、着色剤を溶解または懸濁させる工程、賦形剤、必要に応じて有機酸、着色剤を配合した粉末に流動層造粒機などの湿式造粒機中で当該水溶液または懸濁液を噴霧し乾燥する工程からなる。当該水溶液または懸濁液および/または流動させる粉末には製薬的に許容される医薬添加剤を均一に分散させ添加しても良い。当該水溶液及び懸濁液は通常湿式造粒で行われる結合剤としての濃度で使用される。
本発明のラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の経口用固形医薬組成物の安定化は、前記医薬組成物に関する発明の説明に記載した通りの方法により実施できる。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例、比較例、試験例を挙げてさらに本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下に示される用語「部」とは、重量部を表したものである。
[比較例1]
塩酸ラモセトロン 0.02部
乳糖 86部
ヒドロキシプロピルセルロース 3部
黄色三二酸化鉄 0.2部
酸化チタン 10部
軽質無水ケイ酸 0.3部
ヒドロキシプロピルセルロース3部および塩酸ラモセトロン0.02部を水35部にマグネチックスターラーを用いて攪拌溶解させた後、酸化チタン10部および黄色三二酸化鉄0.2部をライカイ機を用いて練合し、噴霧液(ヒドロキシプロピルセルロース、濃度8重量%)を調製した。つぎに、乳糖86部を流動層造粒機(製品名FLOW COATER、フロイント社製)に仕込み、前記噴霧液を5g/minの噴霧速度で噴霧することにより流動造粒した。造粒後、この造粒物を吸気温度40℃で5分間乾燥した後、軽質無水ケイ酸0.3部を混合し、本発明製剤の比較散剤を得た。
【実施例1】
塩酸ラモセトロン 0.02部
乳糖 86部
ヒドロキシプロピルセルロース 3部
酒石酸 1部
黄色三二酸化鉄 0.2部
酸化チタン 10部
軽質無水ケイ酸 0.3部
ヒドロキシプロピルセルロース3部、塩酸ラモセトロン0.02部および酒石酸1部を水35部にマグネチックスターラーを用いて攪拌溶解させた後、酸化チタン10部および黄色三二酸化鉄0.2部をライカイ機を用いて練合し、噴霧液(ヒドロキシプロピルセルロース、濃度8重量%)を調製した。つぎに、乳糖86部を流動層造粒機(FLOW COATER、フロイント社製)に仕込み、前記噴霧液を5g/minの噴霧速度で噴霧することにより流動造粒した。造粒後、この造粒物を吸気温度40℃で5分間乾燥した後、軽質無水ケイ酸0.3部を混合し、本発明製剤の散剤を得た。
[比較例2]
塩酸ラモセトロン 0.0008部
マンニトール 89部
マルトース 10部
ステアリン酸マグネシウム 1部
マルトース10部および塩酸ラモセトロン0.0008部を水67部にマグネチックスターラーを用いて攪拌溶解して噴霧液(濃度15董量%)を調製した。つぎに、マンニトール90部を流動層造粒機(FLOW COATER、フロイント社製)に仕込み、前記噴霧液を10g/minの噴霧速度で噴霧することにより流動造粒した。造粒後、この造粒物を吸気温度40℃で5分間乾燥した後、ステアリン酸マグネシウム1部を混合した。その混合粉末を、ロータリー打錠機を用いて一錠当たり120mgで打錠し、初期硬度約1kpを有する錠剤とした。これを25℃、相対湿度75%で18時間保存した後、30℃、相対湿度40%で4時間保存し、本発明製剤の比較錠剤を得た。
【実施例2】
塩酸ラモセトロン 0.0008部
マンニトール 89部
クエン酸無水物 0.1部
マルトース 10部
赤色三二酸化鉄 1部
ステアリン酸マグネシウム 1部
マルトース10部、塩酸ラモセトロン0.0008部およびクエン酸無水物0.1部、赤色三二酸化鉄1部を水67部にマグネチックスターラーを用いて攪拌懸濁して噴霧液(濃度15重量%)を調製した。つぎに、マンニトール89部を流動層造粒機(FLOW COATER、フロイント社製)に仕込み、前記噴霧液を10g/minの噴霧速度で噴霧することにより流動造粒した。造粒後、この造粒物を吸気温度40℃で5分間乾燥した後、ステアリン酸マグネシウム1部を混合した。その混合粉末を、ロータリー打錠機を用いて一錠当たり120mgで打錠し、初期硬度約1kpを有する錠剤とした。これを25℃、相対湿度75%で18時間保存した後、30℃、相対湿度40%で4時間保存し、本発明製剤の口腔内崩壊錠を得た。
【実施例3】
実施例2と同様の製造法で、クエン酸無水物の添加量を0.2部に代えて、本発明製剤の口腔内崩壊錠を得た。
【実施例4】
実施例2と同様の製造法で、クエン酸無水物の添加量を0.5部に代えて、本発明製剤の口腔内崩壊錠を得た。
【実施例5】
塩酸ラモセトロン 0.0008部
マンニトール 89部
アスコルビン酸 0.2部
マルトース 10部
赤色三二酸化鉄 1部
ステアリン酸マグネシウム 1部
マルトース10部、塩酸ラモセトロン0.0008部およびアスコルビン酸0.2部、赤色三二酸化鉄1部を水67部にマグネチックスターラーを用いて攪拌懸濁して噴霧液(濃度15重量%)を調製した。つぎに、マンニトール89部を流動層造粒機(FLOW COATER、フロイント社製)に仕込み、前記噴霧液を10g/minの噴霧速度で噴霧することにより流動造粒した。造粒後、この造粒物を吸気温度40℃で5分間乾燥した後、ステアリン酸マグネシウム1部を混合した。その混合粉末を、ロータリー打錠機を用いて一錠当たり120mgで打錠し、初期硬度約1kpを有する錠剤とした。これを25℃、相対湿度75%で18時間保存した後、30℃、相対湿度40%で4時間保存し、本発明製剤の口腔内崩壊錠を得た。
【実施例6】
実施例5と同様の製造法で、アスコルビン酸量を0.5部に代えたものを製造し、本発明製剤の口腔内崩壊錠を得た。
【実施例7】
塩酸ラモセトロン 0.0008部
マンニトール 88部
マルトース 10部
黄色三二酸化鉄 1部
クエン酸無水物 0.2部
ステアリン酸マグネシウム 1部
マルトース10部、塩酸ラモセトロン0.0008部、赤色三二酸化鉄1部およびクエン酸無水物0.2部を水67部にマグネチックスターラーを用いて攪拌懸濁して噴霧液(濃度15重量%)を調製した。つぎに、マンニトール88部を流動層造粒機(FLOW COATER、フロイント社製)に仕込み、吸気温度50℃、噴霧速度10g/min、スプレー/ドライ/シェーキングのサイクルを15秒/15秒/10秒で、前記噴霧液を噴霧することにより流動造粒した。造粒後、この造粒物を吸気温度40℃で5分間乾燥した後、ステアリン酸マグネシウム1部を混合した。その混合粉末を、ロータリー打錠機を用いて一錠当たり120mgで打錠し、初期硬度約1kpを有する錠剤とした。これを25℃、相対湿度75%で18時間保存した後、30℃、相対湿度40%で4時間保存し、本発明製剤の口腔内崩壊錠を得た。
【実施例8】
塩酸ラモセトロン 0.01部
アビセル 86部
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 10部
クエン酸水和物 0.5部
ヒドロキシプロピルセルロース 3部
ステアリン酸マグネシウム 0.5部
ヒドロキシプロピルセルロース3部、クエン酸水和物0.5部、塩酸ラモセトロン0.01部を水27部にマグネチックスターラーを用いて攪拌溶解させ、噴霧液(ヒドロキシプロピルセルロース濃度10重量%)を調製した。つぎに、アビセル86部、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース10部を流動層造粒機(製品名:GPCG−5、パウレックス社製)に仕込み、前記噴霧液を100g/minの噴霧速度で噴霧することにより流動造粒した。造粒後、この造粒物を吸気温度40℃で5分間乾燥した後、ステアリン酸マグネシウム0.5部を混合した。その混合粉末を、ロータリー打錠機を用いて一錠当たり100mgで打錠し、本発明製剤の錠剤を得た。
【実施例9】
塩酸ラモセトロン 0.1部
乳糖 77部
コーンスターチ 19部
カルボキシメチルセルロース(CMC) 5部
ヒドロキシプロピルセルロース 3部
ステアリン酸マグネシウム 0.3部
ヒドロキシプロピルセルロース3部、塩酸ラモセトロン0.1部を水35部にマグネチックスターラーを用いて攪拌溶解させ、噴霧液(ヒドロキシプロピルセルロース濃度8重量%)を調製した。つぎに、乳糖77部、コーンスターチ19部、CMC酸5部を流動層造粒機(製品名:FLOW COATER、フロイント社製)に仕込み、前記噴霧液を10g/minの噴霧速度で噴霧することにより流動造粒した。造粒後、この造粒物を吸気温度40℃で5分間乾燥した後、ステアリン酸マグネシウム0.3部を混合した。その混合粉末を、ロータリー打錠機を用いて一錠当たり120mgで打錠し、本発明製剤の錠剤を得た。
【実施例10】
塩酸ラモセトロン 0.0008部
マンニトール 89部
没食子酸プロピル 5部
マルトース 10部
ステアリン酸マグネシウム 1部
マルトース10部、塩酸ラモセトロン0.0008部および没食子酸プロピル5部を水67部にマグネチックスターラーを用いて攪拌懸濁して噴霧液(濃度15重量%)を調製した。つぎに、マンニトール89部を流動層造粒機(FLOW COATER、フロイント社製)に仕込み、前記噴霧液を噴霧することにより流動造粒した。造粒後、この造粒物を吸気温度40℃で5分間乾燥した後、ステアリン酸マグネシウム1部を混合した。その混合粉末を、ロータリー打錠機を用いて一錠当たり120mgで打錠し、本発明製剤の錠剤を得た。
[安定性評価]
[試験例1]各種保存条件下における塩酸ラモセトロンの安定性評価
試験方法
本発明製剤を、各種保存条件(25℃75%RHボトル開放下、40℃75%RHボトル開放下、25℃60%RHボトル密栓下、40℃75%RHボトル密栓下、あるいは1000Lux・白色蛍光灯照射下)に保存し、一定期間経過した後に、本発明製剤の5℃保存品の定量値に対する各種条件下保存品の定量値を算出することによって、本発明製剤の安定化効果を評価した。定量は、液体クロマトグラフ法により試験を行った。
<結果および考察>
カルボニル基を有する特定の化合物を含まない塩酸ラモセトロン0.02%散剤およびクエン酸無水物などカルボニル基を有する特定のを含む塩酸ラモセトロン0.02%散剤について、温湿度条件下、各々の製剤中における塩酸ラモセトロンの安定性評価を行った。その結果を表1に示す。

比較例1のカルボニル基を有する特定の化合物を含まない塩酸ラモセトロン0.02%散剤では、定量値の低下が認められた。これに対し、実施例1の酒石酸を含む散剤では、5℃保存品と比べ定量値はほとんど変化が認められなかった。これらの結果から、塩酸ラモセトロンに酒石酸を添加することによって、塩酸ラモセトロンの温湿度に対する顕著な安定化効果が認められることが明らかとなった。
なお、比較例1に乾燥剤を入れて同条件で保存した場合、定量値にほとんど変化は認められなかった。ラモセトロンの高含量製剤では、上市品のように乾燥剤による対応も考えられるが、カルボニル基を有する特定の化合物を含ませることで製剤自体を同様に安定化できる。
続いて、カルボニル基を有する特定の化合物を含まない塩酸ラモセトロン1μg錠およびアスコルビン酸あるいはクエン酸無水物などカルボニル基を有する特定の化合物を含む塩酸ラモセトロン1μg錠について、温湿度条件下、各々の製剤中における塩酸ラモセトロンの安定性評価を行った。その結果を表2に示す。

比較例2のカルボニル基を有する特定の化合物を含まない塩酸ラモセトロン1μg錠では、比較例1と比べ塩酸ラモセトロンの含有量が少ないため、定量値のより大幅な低下が認められた。これに対し、同様に塩酸ラモセトロンの含有量が少ない実施例2、3、4のクエン酸無水物を含む錠剤では、5℃保存品と比べ定量値はほとんど変化が認められず、また、実施例5、6のアスコルビン酸を含む錠剤では、比較例2に比し、塩酸ラモセトロンの温湿度に対する安定化の改善効果が認められた。こららの結果から、塩酸ラモセトロンにアスコルビン酸あるいはクエン酸無水物を添加することによって、塩酸ラモセトロンの温湿度に対する安定化効果が認められること、また安定化の効果は、アスコルビン酸よりクエン酸無水物による効果が大きいことが明らかとなった。
また、表1及び表2より、製剤に含まれるラモセトロンの含有量を問わず、カルボニル基を有する特定の化合物が製剤の安定化に寄与することが分かった。カルボニル基を有する特定の化合物を含まず、かつ赤色三二酸化鉄又は黄色三二酸化鉄を含まない塩酸ラモセトロン1μg錠およびクエン酸無水物などカルボニル基を有する特定の化合物と赤色三二酸化鉄又は黄色三二酸化鉄とを含む塩酸ラモセトロン1μg錠について、温湿度条件下、各々の製剤中における塩酸ラモセトロンの安定性評価を行った。その結果を表3に示す。

まず温湿度に対しては、比較例2のカルボニル基を有する特定の化合物を含まない塩酸ラモセトロン1μg錠では、定量値の低下が認められた。これに対し、実施例3、7のクエン酸無水物を含む錠剤では、5℃保存品と比べ定量値はほとんど変化が認められなかった。つぎに光に対しては、比較例2の黄色三二酸化鉄を含まない塩酸ラモセトロン1μg錠では、塩酸ラモセトロンの残存が認められなかった。これに対し、実施例3の赤色三二酸化鉄を含む塩酸ラモセトロン1μg錠や実施例7の黄色三二酸化鉄を含む塩酸ラモセトロン1μg錠では、5℃保存品と比べ定量値はほとんど変化が認められなかった。これらの結果から、塩酸ラモセトロンにクエン酸無水物および赤色三二酸化鉄または黄色三二酸化鉄を添加することによって、塩酸ラモセトロンの温湿度および光に対する安定化効果が認められることが明らかとなった。
カルボニル基を有する特定の化合物を含む塩酸ラモセトロン10μg錠について、温湿度条件下、本発明製剤中における塩酸ラモセトロンの安定性評価を行った。その結果を表4に示す。

実施例8のクエン酸水和物を含む錠剤では、5℃保存品と比べ定量値はほとんど変化が認められなかった。この結果から、塩酸ラモセトロンに添加するクエン酸無水物の他、クエン酸水和物を添加することによっても、塩酸ラモセトロンの温湿度に対する顕著な安定化効果が認められることが明らかとなった。
カルボニル基を有する特定の化合物を含む塩酸ラモセトロン100μg錠について、温湿度条件下、本発明製剤中における塩酸ラモセトロンの安定性評価を行った。その結果を表5に示す。

実施例9のCMCを含む錠剤では、5℃保存品と比べ定量値はほとんど変化が認められなかった。この結果から、塩酸ラモセトロンに添加するクエン酸無水物、クエン酸水和物の他、CMCを添加することによっても、塩酸ラモセトロンの温湿度に対する顕著な安定化効果が認められることが明らかとなった。
没食子酸プロピルを含む塩酸ラモセトロン1μg錠について、温湿度条件下、本発明製剤中における塩酸ラモセトロンの安定性評価を行った。その結果を表6に示す。

実施例10の没食子酸プロピルを含む塩酸ラモセトロン1μg錠では、定量値は比較例2のカルボニル基を有する特定の化合物を含まない塩酸ラモセトロン1μg錠に比べ安定化効果が認められた。
[有効性評価]
[試験例2]下痢型過敏性腸症候群患者に対する臨床試験
下痢型過敏性腸症候群患者(IBS)を対象として,以下の条件で臨床試験を行った。
対象:RomeII診断基準(D.A.Drossman et al.,p351−432,Degnon Associates,McLean,2000)に準ずる下痢型IBS患者
症例数:418例
治験薬剤と投与方法:プラセボおよび塩酸ラモセトロン5μgおよび10μgを1日1回12週間経口投与した
試験期間:観察期1週間、治療期12週間
観察項目:
1.主要評価項目
(1)IBS症状の全般改善効果(被験者による評価)
治療期移行後、治験薬服薬開始日を1日目として、被験者は1週間ごとにIBSによるすべての症状を総合して治験薬によるIBS症状の全般改善効果を観察期の状態と比較して評価し、患者日誌に記入した。なお、IBS症状の全般改善効果のスコアは以下の通りとした。
0=症状がなくなった、1=かなり改善した、2=やや改善した、3=変わらなかった、4=悪くなった
4週間のうち2週間以上でスコアが0または1であった被験者を月間レスポンダーとして、プラセボ、塩酸ラモセトロン5μgおよび10μgの各群毎に、1月毎の月間レスポンダー率を算出した。
2.副次評価項目
(1)腹痛・腹部不快感改善効果(被験者による評価)
治療期移行後、治験薬服薬開始日を1日目として、被験者は1週間ごとに治験薬による腹痛・腹部不快感改善効果を観察期の状態と比較して評価し、患者日誌に記入した。なお、腹痛・腹部不快感改善効果の評価スコアは以下の通りとした。
0=症状がなくなった、1=かなり改善した、2=やや改善した、3=変わらなかった、4=悪くなった
(2)便通状態改善効果(被験者による評価)
治療期移行後、治験薬服薬開始日を1日目として、被験者は1週間ごとに治験薬による便通状態改善効果を観察期の状態と比較して評価し、患者日誌に記入した。なお、便通状態改善効果の評価スコアは以下の通りとした。
0=正常に近い状態になった、1=かなり改善した、2=やや改善した、3=変わらなかった、4=悪くなった
(3)腹痛・腹部不快感の重症度
治験期間中(観察期および治療期)、被験者は毎日その日の腹痛・腹部不快感の重症度を評価し、患者日誌に記入した。腹痛・腹部不快感の重症度スコアは以下の通りとした。
0=なし、1=弱い、2=中程度、3=強い、4=非常に強い
(4)便形状(性状)
治験期間中、被験者は毎日その日の便形状(性状)をブリストル便形状スケール(付録3)のスコア(タイプ)を用いて患者日誌に記入した。なお、1日に複数回排便した場合、あるいは1回の排便にて異なった便形状(性状)の便があった場合は、被験者がその日の最も代表的な(最もわずらわしいと感じた)便の形状(性状)を1つだけ記入した。
(5)排便回数
治験期間中、被験者は毎日その日の排便回数を患者日誌に記入した。
(6)便意切迫感
治験期間中、被験者は毎日その日の便意切迫感の有無を患者日誌に記入した。
(7)残便感
治験期間中、被験者は毎日その日の残便感の有無を患者日誌に記入した。
副次評価項目の(1)〜(3)についても主評価項目と同様に月間レスポンダー率を算出した。
<結果>
IBS症状の全般改善効果における最終時点月間レスポンダー率はプラセボ群で26.9%であった。一方、塩酸ラモセトロン5μgおよび10μg群の月間レスポンダー率はそれぞれ42.6%および43.0%であり、プラセボのレスポンダー率を15%以上上回った。5μgおよび10μg群のプラセボ群に対するp値はそれぞれ0.0273および0.0264であった。また、腹痛・腹部不快感改善効果および便通状態改善効果における最終時点月間レスポンダー率においても、塩酸ラモセトロン5μgおよび10μg群でプラセボ群を10%以上上回った。
以上のことより、塩酸ラモセトロン5μgおよび10μgの下痢型IBSに対する有効性が確認された。
【産業上の利用の可能性】
本発明の経口用固形医薬組成物は、温湿度条件下、特に低含量のラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩であっても、安定な製剤を提供することができる。
また、臨床において有効な優れた下痢型過敏性腸症候群治療剤、或いは、過敏性腸症候群の下痢症状の改善剤を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族カルボン酸またはそのエステル、ヒドロキシカルボン酸またはそのエステル、酸性アミノ酸、エノール酸、芳香族カルボキシル化合物またはそのエステル、およびカルボキシル基を有する高分子物質からなる群より選択された1種または2種以上を含有することを特徴とするラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の安定な経口用固形医薬組成物。
【請求項2】
ヒドロキシカルボン酸またはそのエステル、エノール酸、芳香族カルボキシル化合物またはそのエステル、およびカルボキシル基を有する高分子物質からなる群より選択された1種または2種以上を含有することを特徴とするラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の安定な経口用固形医薬組成物。
【請求項3】
ヒドロキシカルボン酸またはそのエステルおよびカルボキシル基を有する高分子物質からなる群より選択された1種または2種以上を含有することを特徴とするラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の安定な経口用固形医薬組成物。
【請求項4】
脂肪族カルボン酸またはそのエステルが、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、およびフマル酸からなる群より選択された1種または2種以上である請求の範囲1記載の医薬組成物。
【請求項5】
ヒドロキシカルボン酸またはそれらのエステルが、酒石酸、リンゴ酸、およびクエン酸からなる群より選択された1種または2種以上である請求の範囲1記載の医薬組成物。
【請求項6】
ヒドロキシカルボン酸またはそれらのエステルが、酒石酸およびクエシ酸からなる群より選択された1種または2種以上である請求の範囲1記載の医薬組成物。
【請求項7】
酸性アミノ酸が、アスパラギン酸、またはグルタミン酸である請求の範囲1記載の医薬組成物。
【請求項8】
エノール酸が、アスコルビン酸、またはエリソルビン酸である請求の範囲1記載の医薬組成物。
【請求項9】
芳香族カルボキシル化合物またはそのエステルが、フタル酸、または没食子酸プロピルである請求の範囲1記載の医薬組成物。
【請求項10】
カルボキシル基を有する高分子物質が、カルボキシメチルセルロース、またはアルギン酸である請求の範囲1記載の医薬組成物。
【請求項11】
脂肪族カルボン酸またはそのエステル、ヒドロキシカルボン酸またはそのエステル、酸性アミノ酸、エノール酸、芳香族カルボキシル化合物またはそのエステル、およびカルボキシル基を有する高分子物質からなる群より選択された1種または2種以上の配合量が、処方中0.01〜90重量%である請求の範囲1〜10の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
ラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の配合量が、処方中0.0001〜0.5重量%である請求の範囲1〜11の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
ラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の配合量が、処方中0.0005〜0.05重量%である請求の範囲12記載の医薬組成物。
【請求項14】
さらに、光安定化剤を含有する請求の範囲1〜13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
光安定化剤が、黄色三二酸化鉄、赤色三二酸化鉄、および酸化チタンからなる群より選択された1種又は2種以上である請求の範囲14記載の医薬組成物。
【請求項16】
脂肪族カルボン酸またはそのエステル、ヒドロキシカルボン酸またはそのエステル、酸性アミノ酸、エノール酸、芳香族カルボキシル化合物またはそのエステル、およびカルボキシル基を有する高分子物質からなる群より選択された1種または2種以上を配合することを特徴とするラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の経口用固形医薬組成物の安定化法。
【請求項17】
脂肪族カルボン酸またはそのエステルが、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、およびフマル酸からなる群より選択された1種または2種以上である請求の範囲16記載の安定化法。
【請求項18】
ヒドロキシカルボン酸またはそれらのエステルが、酒石酸、リンゴ酸、およびクエン酸からなる群より選択された1種または2種以上である請求の範囲16記載の安定化法。
【請求項19】
酸性アミノ酸が、アスパラギン酸、またはグルタミン酸である請求の範囲16記載の安定化法。
【請求項20】
エノール酸が、アスコルビン酸、またはエリソルビン酸である請求の範囲16記載の安定化法。
【請求項21】
芳香族カルボキシル化合物またはそのエステルが、フタル酸、または没食子酸プロピルである請求の範囲16記載の安定化法。
【請求項22】
カルボキシル基を有する高分子物質が、カルボキシメチルセルロース、またはアルギン酸である請求の範囲16記載の安定化法。
【請求項23】
脂肪族カルボン酸またはそのエステル、ヒドロキシカルボン酸またはそのエステル、酸性アミノ酸、エノール酸、芳香族カルボキシル化合物またはそのエステル、およびカルボキシル基を有する高分子物質からなる群より選択された1種または2種以上の配合量が、処方中0.01〜90重量%である請求の範囲16〜22の何れか1項に記載の安定化法。
【請求項24】
ラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の配合量が、処方中0.0001〜0.5重量%である請求の範囲16〜23の何れか1項に記載の安定化法。
【請求項25】
ラモセトロンまたはその製薬学的に許容される塩の配合量が、処方中0.0005〜0.05重量%である請求の範囲24記載の安定化法。
【請求項26】
さらに、光安定化剤を配合する請求の範囲16〜25のいずれか1項に記載の安定化法。
【請求項27】
光安定化剤が、黄色三二酸化鉄、赤色三二酸化鉄、および酸化チタンからなる群より選択された1種又は2種以上である請求の範囲26記載の安定化法。
【請求項28】
1日量として0.002〜0.02mgの塩酸ラモセトロン又はこれと等モル量のラモセトロン若しくは製薬学的に許容されるその他の塩を有効成分として含有する下痢型過敏性腸症候群治療用医薬組成物。
【請求項29】
1日量として0.002〜0.02mgの塩酸ラモセトロン又はこれと等モル量のラモセトロン若しくは製薬学的に許容されるその他の塩を有効成分として含有する過敏性腸症候群の下痢症状改善用医薬組成物。
【請求項30】
下痢型過敏性腸症候群治療剤の製造の為の1日量として0.002〜0.02mgの塩酸ラモセトロン又はこれと等モル量のラモセトロン若しくは製薬学的に許容されるその他の塩の使用。
【請求項31】
過敏性腸症候群の下痢症状改善剤の製造の為の1日量として0.002〜0.02mgの塩酸ラモセトロン又はこれと等モル量のラモセトロン若しくは製薬学的に許容されるその他の塩の使用。
【請求項32】
1日量として0.002〜0.02mgの塩酸ラモセトロン又はこれと等モル量のラモセトロン若しくは製薬学的に許容されるその他の塩を患者に投与することを含む下痢型過敏性腸症候群の治療方法。
【請求項33】
1日量として0.002〜0.02mgの塩酸ラモセトロン又はこれと等モル量のラモセトロン若しくは製薬学的に許容されるその他の塩を患者に投与することを含む過敏性腸症候群の下痢症状の改善方法。

【国際公開番号】WO2004/066998
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−564051(P2004−564051)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000896
【国際出願日】平成16年1月30日(2004.1.30)
【特許番号】特許第3689104号(P3689104)
【特許公報発行日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】