説明

安定ラジカル構造を有する両親媒性化合物、該両親媒性化合物を用いた界面活性剤、該両親媒性化合物を用いたミセル、及び該両親媒性化合物を用いたエマルション

【課題】安定ラジカル化合物を組織化するために、界面活性剤としての機能を有する安定ラジカル含有化合物を提供し、当該化合物を用いたミセル又はエマルションを提供する。
【解決手段】1分子中に安定ラジカル構造、親油性部位及び親水性部位を有することを特徴とする両親媒性化合物及び当該両親媒性化合物を含有する界面活性剤を提供し、併せて当該界面活性剤を含むミセル及び当該両親媒性化合物と水・有機混合溶媒を含むエマルションを提供する。安定ラジカル構造をもつエマルションは、汎用的に各種物質を取り込むことができるため、医薬分子を取り込んでのドラッグデリバリシステムや色素・顔料を取り込んでの表示システムに好適に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定ラジカル構造を有する両親媒性化合物、該両親媒性化合物を用いた界面活性剤、該両親媒性化合物を用いたミセル、及び該両親媒性化合物を用いたエマルションに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、安定ラジカル構造を含む液晶材料が見出され磁場制御による物質輸送などへの応用が検討され始めている(特許文献1、2)。また、安定ラジカルを含む医薬品がドラッグデリバリシステムへの活用が可能であることが報告されている(特許文献3)。一方、界面活性剤は広く一般的に用いられており、ひとつの組織化された形態としてミセルやエマルションを形成させるなど、その応用範囲も広い。
【0003】
ところで、安定ラジカルの機能を活用するには、そのラジカル構造を組織化することが重要であるが、現在のところ組織化された安定ラジカル構造を提供する手段は、先の報告にある安定ラジカル含有液晶材料のみである。
安定ラジカル化合物を組織化する手法は、先に挙げた安定ラジカル構造を有する液晶材料がある。また、組織化の手法のひとつにミセルやエマルションがある。しかしながら、安定ラジカル含有の液晶を用いても、安定ラジカルを有するミセル又はエマルションを構築することはできないことから、安定ラジカルの機能活用が遅れていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−215187号公報
【特許文献2】特開2009−79020号公報
【特許文献3】特開2009−196912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、安定ラジカル化合物を組織化するために、界面活性剤としての機能を有する安定ラジカル含有化合物を提供し、当該化合物を用いたミセル又はエマルションを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、安定ラジカルを含む化合物に種々の官能基を付与することを検討することにより、安定ラジカルを含む化合物に界面活性剤としての機能を付与し、ミセルやエマルジョンを形成することに成功し、本発明の両親媒性化合物を完成するに至った。
【0007】
本発明は、1分子中に安定ラジカル構造、親油性部位及び親水性部位を有することを特徴とする両親媒性化合物及び当該両親媒性化合物を含有する界面活性剤を提供し、併せて当該界面活性剤を含むミセル及び当該両親媒性化合物と水・有機混合溶媒を含むエマルションを提供する。
【0008】
一般的にラジカル化合物は不安定であり、空気中など一般的な環境下では速やかに化学反応を起こして消失してしまう。そのため通常のラジカル化合物を様々な用途に使用される材料に用いることは困難である。しかし、ニトロキシドラジカル化合物などは、空気中でも安定であるため、ラジカルとしての特殊な性質を反映させた材料に用いることが可能となる。例えば、組織化されたラジカル材料は常磁性や強磁性などを発現させることが可能である。液晶性を示す化合物に安定ラジカルを組み込むことにより、組織化されたラジカル構造を構築でき、これを磁石などの磁場を用いて移動させることができる。
【0009】
一方、両親媒性化合物は、分子中に有機溶媒などとの親和性が高い−すなわち親油性であるアルキル基や芳香環構造と、水への親和性が高い−すなわち親水性であるイオン性部位などを併せ持った構造を有している。両親媒性化合物を水と混合すると、親油性部位を内側とし親水性部位を外側とした球体を形成することがあり、これをミセルという。また、水に少量の有機溶媒を加え、これに両親媒性化合物を加えて混合すると、有機溶媒をミセル内に取り込むことができ、このような状態をエマルションという。有機溶媒の代わりに、種々の機能性有機化合物を用いることにより、機能性有機化合物を中に取り込んだエマルションを形成させることが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の安定ラジカル構造を有する両親媒性化合物は、界面活性剤としての機能を有することから、安定ラジカル構造を含むミセルやエマルションを容易に製造することが可能となる。とりわけ安定ラジカル構造をもつエマルションは、汎用的に各種物質を取り込むことができるため、医薬分子を取り込んでのドラッグデリバリシステムや色素・顔料を取り込んでの表示システムへの応用などが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】化合物(±)-6のカチオン部のESI-MSスペクトルである。
【図2】化合物(±)-6のEPRスペクトル (THF中、濃度1mM、20℃)である。
【図3】化合物(±)-6の1H NMRスペクトルである。
【図4】化合物(±)-6の13C NMRスペクトルである。
【図5】化合物(±)-6の水溶液のEPRスペクトルの濃度依存性を表す図である。
【図6】化合物(±)-6のトルエン内包マクロエマルションの偏光顕微鏡画像である。
【図7】偏光顕微鏡観察によるマクロエマルションの消失とミクロ化を表す偏光顕微鏡画像である。
【図8】化合物(±)-6のトルエン内包エマルションのEPRスペクトルの温度依存性を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、1分子中に安定ラジカル構造をもつ両親媒性化合物に関するものであり、このラジカル化合物は、水中もしくは水・有機混合溶媒中でミセルもしくはエマルションを形成できることを特徴とする。
【0013】
本発明の両親媒性化合物は、1分子中に安定ラジカル構造、親油性部位及び親水性部位を有するものであるが、安定ラジカル構造としては次の化学式(A1)の構造で示されるニトロキシドラジカル構造が好ましい。
【0014】
【化1】

【0015】
又、親水性部位としては化学式(X−1)又は化学式(X−2)のいずれかの構造で示されるイオン性骨格が好ましい。
【0016】
【化2】

【0017】
(式中、Lはアンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオン又はピリジニウムイオンのいずれかのカチオンを表し、
(M)は塩素、臭素、ヨウ素、硝酸、硫酸、硫酸水素、亜硫酸又は亜硝酸のいずれかのアニオンを表し、
(G)はカルボン酸、スルホン酸又はリン酸のいずれかのアニオンを表し、
Qはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオン又はピリジニウムイオンのいずれかのカチオンを表す。)
【0018】
これらの置換基の内、Lは、アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン又はスルホニウムイオンが好ましく、アンモニウムイオン又はピリジニウムイオンがより好ましく、アンモニウムイオンが特に好ましい。
【0019】
(M)は、塩素、臭素又はヨウ素が好ましく、塩素又は臭素がより好ましく、塩素が特に好ましい。
(G)は、スルホン酸、カルボン酸又はリン酸が好ましく、スルホン酸又はカルボン酸がより好ましく、スルホン酸が特に好ましい。
Qは、アルカリ金属が好ましく、その中でもナトリウム又はカリウムがより好ましく、ナトリウムが特に好ましい。
【0020】
親油性部位は疎水性部位とも称され、油や非極性溶媒に溶けやすい性質を有する構造であれば特に制限が無く、一般的な有機化合物により構成される置換基を幅広く用いることが可能である。
【0021】
本発明の両親媒性化合物は具体的には、安定ラジカル構造としてW、親水性部位としてXで表されるイオン性骨格、親油性部位としてW及びX以外の部位を有する一般式(A2)で表される化合物が好ましい。
【0022】
【化3】

(式中、Wは、下記一般式(Rd−1)から一般式(Rd−3)のいずれかの構造を表し、
【化4】

(式中、Ra及びRbは、それぞれ独立的に水素原子又は1〜12個の炭素原子を有するアルキルを表す。)
Rは水素原子又は炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数1〜30のアルコキシル基、炭素数2〜30のアルケニルオキシ基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、またそれぞれの基中の一つ又は二つ以上の−CH−は互いに独立して酸素原子が相互に直接結合しないものとして、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCS−、−SCO−、−CONR−、−NRCO−(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表す。)、−CH=N−、−N=CH−、−N=N−又は−CH=CH−に置換されていても良い。)、又はU−Sp−を表し、
(式中、Uは以下の式(R−1)から式(R−15)の何れかの構造を有する重合性基を表し、
【化5】

Spは酸素原子同士が直接結合しないものとして炭素原子が酸素原子、−COO−、−OCO−、又は−OCOO−に置き換えられても良い炭素数2〜12のアルキレン基、又は単結合を表す。)
及びAは、それぞれ独立的にトランス−1,4−シクロヘキシレン基又は1,4−フェニレン基、ナフタレン−2,6−ジイル基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、また基中の芳香環の1個以上のCHは独立的にNに置換されていてもよい。)、又は単結合を表し、
m及びnは、それぞれ独立的に0、1、2又は3を表すが、m+nは1から6の整数であり、
及びZは、それぞれ独立に−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCS−、−SCO−、−CONR−、−NRCO−、−CH−、−OCH−、−CHO−、−SCH−、−SHO−、−CF−、−OCF−、−CFO−、−CFCH−、−CHCF−、−CHCH−、−CFCF−、−CH=N−、−N=CH−、−N=N−、−CH=CH−、又は単結合を表し、
(式中、Rは水素原子H又は炭素数1〜12のアルキル基を表す。)
Vは酸素原子同士が直接結合しないものとして炭素原子が酸素原子、−COO−、−OCO−若しくは−OCOO−に置き換えられても良い炭素数2〜12のアルキレン基、又は単結合を表し、
Xは以下の一般式(X−1)又は一般式(X−2)で示されるイオン構造
【化6】

(式中、Lは−NR、−SR、−PR、ピリジニウムカチオン、又は次式に示すアルキルピリミジニウムカチオン式(Py−1)から(Py−3)のいずれかを示し、
【化7】

(M)は塩素、臭素、ヨウ素、硝酸、硫酸、硫酸水素、亜硫酸、亜硝酸のいずれかのアニオン、
(G)はカルボン酸、スルホン酸、リン酸のいずれかのアニオン、
Qはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオン、ピリジニウムイオンのいずれかのカチオン、
、R、R、Rは、それぞれ独立的に水素原子H又は炭素数1〜12のアルキル基を表す。)を表す。)
【0023】
安定ラジカル構造であるWは分子の直線性を重視する場合には、(Rd−1)が好ましく、この場合、置換されるアルキル基Ra及びRbはメチル基又はエチル基が好ましい。
【0024】
Rは、炭素数10〜20のアルコキシル基、炭素数10〜20のアルキル基又は炭素数10〜20のアルケニル基が好ましく、炭素数10〜20のアルコキシル基又は炭素数10〜20のアルキル基がより好ましく、炭素数10〜20のアルコキシル基が特に好ましい。RがU−Sp−を表す場合において、Uは重合の容易さから前記式(R−1)又は前記式(R−2)が好ましく、Spは、末端の−CH−が−O−に置換されていてもよい炭素数3〜8のアルキレン基が好ましい。
【0025】
及びAは、それぞれ独立して1,4−フェニレン基、トランス−1,4−シクロヘキシレン基又はナフタレン−2,6−ジイル基が好ましく、1,4−フェニレン基又はトランス−1,4−シクロヘキシレン基がより好ましく、1,4−フェニレン基が特に好ましい。
【0026】
は、単結合、−COO−(−C(=O)−O−)又は−OCO−(−O−C(=O)−)が好ましく、単結合又は−COO−がより好ましく、単結合が特に好ましい。
は、単結合、−OCO−又は−COO−が好ましく、単結合又は−OCO−がより好ましく、単結合が特に好ましい。
【0027】
m及びnは、それぞれ独立して1、2又は3が好ましく、1又は2がより好ましい。このとき、m+nは2、3、4又は5が好ましく、2、3又は4がより好ましい。
前記m又はnが2〜3である場合、前記式(A2)中の複数のZ、A、Z及びAはそれぞれ独立している。
【0028】
及びRは、それぞれ独立して水素原子、メチル基又はエチル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましく、水素原子が特に好ましい。前記式(A2)中にR又はRが複数含まれる場合、複数のR及びRはそれぞれ独立している。
【0029】
、R、R及びRは、それぞれ独立してメチル基、エチル基又はプロピル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0030】
Vは、酸素原子同士が直接結合しないものとして炭素原子が酸素原子、−COO−、−OCO−若しくは−OCOO−に置き換えられても良い炭素数2〜8のアルキレン基又は単結合が好ましく、酸素原子同士が直接結合しないものとして炭素原子が酸素原子に置き換えられても良い炭素数2〜8のアルキレン基がより好ましい。
【0031】
両親媒性を重視する場合、A及びAはそれぞれ独立してトランス−1,4−シクロヘキシレン基又は1,4−フェニレン基が好ましく、m、nはそれぞれ1から2、Z及びZは、−COO−又は単結合、イオン性部位のXは、Lに−NR、−PR、Mが塩素イオンであることが好ましい。
【0032】
一般式(A2)は特に好ましくは、一般式(A3)で表される構造が好ましい。
【0033】
【化8】

(式中、R、A、A、m、n、Z、Z、V及びXは一般式(A2)と同じ意味を表す。)
【0034】
一般式(A3)はR、A、A、m、n、Z、Z、V、及びXの組み合わせにより種々の化合物を包含するものであるが、具体例を以下に示す化合物が好ましい。
【0035】
【化9】

【0036】
【化10】

【0037】
【化11】

【0038】
【化12】

【0039】
【化13】

【0040】
【化14】

【0041】
【化15】

【0042】
【化16】

【0043】
【化17】

【0044】
【化18】

【0045】
【化19】

【0046】
(式中、Ra及びRbは、それぞれ独立的に炭素数1〜2のアルキル基を表し、Rcは炭素数12〜18のアルキル基、炭素数12〜18のアルケニル基、炭素数12〜18のアルコキシル基又は炭素数12〜18のアルケニルオキシ基を表す。)
【0047】
上記化合物のうち、親油性を低めにしたい場合は一般式(I−a−1)〜(I−a−3)で表される化合物が好ましく、親油性を高めながらかつラジカル部位をより親水性部位に近づけたい場合は一般式(I−b−1)〜(I−b−3)、(I−d−1)〜(I−d−3)又は(I−f−1)〜(I−f−3)で表される化合物が好ましく、逆に親油性を高めながらかつラジカル部位を親水性部位から離したい場合は一般式(I−c−1)〜(I−c−3)又は(I−e−1)〜(I−e−3)で表される化合物が好ましい。さらに、ミセルもしくはエマルションを形成させた後に重合をさせたい場合には、一般式(II−a−1)〜(II−a−3)で表される化合物が好ましく、より親油性を高めかつラジカル部位を親水性部位に近づけたい場合には一般式(II−b−1)〜(II−b−3)又は(II−d−1)〜(II−d−3)で表される化合物が好ましく、逆に親油性を高めかつラジカル部位を親水性部位から離したい場合には一般式(II−c−1)〜(II−c−3)又は(II−e−1)〜(II−e−3)で表される化合物が好ましい。
【0048】
また、一般式(A3)において、Rが炭素数10〜20のアルキル基又は炭素数10〜20のアルコキシル基を、Aが1,4−フェニレン基を、Aが1,4−フェニレン基を、m及びnがそれぞれ独立に1又は2を、Z及びZがそれぞれ独立に−COO−、−OCO−又は単結合である化合物が好ましい。
【0049】
本発明の両親媒性化合物は安定ラジカル構造を有することから、常磁性を有するものであり、磁場による運動制御が可能な機能性有機材料として使用することができる。又、ラジカル構造の組織化を効率的に行えるため、磁場制御による物質輸送などへの応用、安定ラジカルを含む医薬品のドラッグデリバリシステムへの活用が可能であり、ラジカルとしての特殊な性質を有する界面活性剤として好適に使用することができる。
これらの場合において、本発明の両親媒性化合物1種のみからなるものであっても、2種以上を含有するものであっても良く、両親媒性化合物以外の公知慣用の添加剤を添加しても良い。
【0050】
本発明にかかる界面活性剤は、本発明の両親媒性化合物を含有するものである。
【0051】
本発明の界面活性剤は、ラジカルとしての特殊な性質以外に、種々の液体に添加することにより、液体の表面張力低下等の機能を有し、レベリング剤、浸透剤、起泡剤、洗浄剤、乳化剤、浄剤、分散剤、可溶化剤、加脂剤、帯電防止剤、防塵剤、湿潤・浸透剤、表面改質剤、腐食抑制剤、撥水撥油剤、塗料添加剤、離型剤、可溶化剤、イオン交換媒体、インク添加剤、光沢処理剤等としての機能を付与することができる。
【0052】
本発明の両親媒性化合物により構成される界面活性剤は、水系溶媒と混合することによりミセルを形成することができる。
すなわち、本発明にかかるミセルは、本発明の界面活性剤及び水系溶媒を含むものである。
【0053】
本発明のミセルを形成するための水系溶媒としては、水、水溶性有機溶媒、又は水と水溶性有機溶媒を混合したものが挙げられる。水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブタノール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N−メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒を使用することができる。
【0054】
本発明の両親媒性化合物により構成される界面活性剤は、水・有機混合溶媒を用いて混合することにより、有機溶媒をミセル内に取り込んだエマルションを調製することができる。又、種々の機能性有機化合物を用いることにより、機能性有機化合物を中に取り込んだエマルションを形成させることも可能となる。
【0055】
すなわち、本発明にかかるエマルションは、本発明の界面活性剤を含むものである。
【実施例】
【0056】
以下、例を挙げて本願発明を更に詳述するが、本願発明はこれらによって限定されるものではない。
(実施例1)ラジカルアンモニウム塩 (±)-6の合成
【0057】
【化20】

【0058】
よく乾燥させたニトロン(±)-2をアルゴンで満たした二口フラスコに入れ、THF (20ml)を加え、-78℃に冷却した。グリニャール試薬 (マグネシウム(0.253g, 10mmol)、4-ドデシルオキシフェニルブロミド (3.553g, 10mmol)、THF (20ml)より調製)を滴下した。ゆっくり昇温した後、常温で一晩攪拌を続けた。反応液を飽和塩化アンモニウム水溶液(100ml)に注ぎ、ジエチルエーテルで抽出した (100ml×2回)。無水MgSO4で乾燥後、溶媒留去を行った。残渣をMeOH (20ml)に溶解させ、25%濃アンモニア水 (2ml)とCu(OAc)2・H2O (0.40g, 2.0mmol)を加え、O2を1~2分間吹き込んだ。溶液が濃青色に変化した後、反応液を減圧濃縮し、MeOHを留去した。残渣にジエチルエーテル (50ml)と飽和NaHCO3水溶液 (50ml)を加え、有機層を回収し、さらに水相を1回、ジエチルエーテルで抽出した。合わせた有機層を無水MgSO4で乾燥後、溶媒を留去した。続いて、同様に、-78℃でヒドロキシ基をTBDMS保護されたp-ブロモフェノールとマグネシウムから調製したグリニャール試薬と反応させ、一晩常温で反応後、反応液に飽和NH4Cl水溶液(50ml)を加え、CH2Cl2で抽出した (50ml×2回)。有機層を回収し、無水MgSO4で乾燥後、溶媒を留去した。残渣をMeOH (20ml)に溶解させ、25%濃アンモニア水 (2ml)とCu(OAc)2・H2O (0.40g, 2.0mmol)を加え、先ほどと同様にO2吹き込みにより酸化を行った。溶媒留去し、残渣をCH2Cl2 (50ml×2回) で抽出し、飽和NaHCO3水溶液 (50ml)で洗浄し、無水MgSO4で乾燥後、溶媒を留去した。生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Hexane: Ether= 9: 1)で精製し、TBDMS保護された前駆体(±)-3を得た。(0.319g, 0.55mmol, 10.1%)
【0059】
濃度が0.05M程度になるように(±)-3をTHFに溶解させ、氷冷した。これに1Mテトラブチルアンモニウムフルオライド(TBAF) 2当量を滴下した。30分後 (TLCで反応終了を確認)、飽和NH4Cl水溶液 (30ml)を加え、ジエチルエーテル (30ml)で2回抽出を行った。有機層を無水MgSO4で乾燥後、溶媒を留去し、粗生成物を得た。これをフラッシュカラムクロマトグラフ法(CH2Cl2: Ether= 9:1~8:2)により精製し、生成物(±)-4を得た。(0.262g, 0.56mmol, 97%)
【0060】
生成物(±)-4 (105mg, 0.23mmol)をアセトン(2ml)に溶かし、炭酸カリウム(95mg, 0.69mmol)、1-ブロモ-4-クロロブタン(990mg, 5.6mmol)、を加え、還流条件下で13時間加熱、撹拌した。反応液を常温まで冷却後、炭酸カリウムをろ過で除き、溶媒を留去した。その後粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(Hexane→Hexane: Ether= 9: 1)で精製し、生成物(±)-5を得た。(89mg, 0.164mmol, 79%)
【0061】
生成物(±)-5 (100mg, 0.185mmol)をアセトニトリル(2ml)に溶かし、トリメチルアミン(578μl, 1.85mmol)を加え、反応容器をアルゴンで満たした後に80℃で13時間加熱攪拌した。室温に冷却後、真空乾燥でアセトニトリルを除き、粗生成物(±)-6をエーテルで洗浄した。洗浄はエーテル中で生成物を超音波洗浄することにより行い、洗液は静置により生成物を沈降させた後に除いた。洗浄後の生成物を真空乾燥した。収量: 0.061g (0.099mmol), 収率: 55%, 黄白色粉末。
【0062】
図1に化合物(±)-6のカチオン部のESI-MSスペクトルを示す。また、図2に化合物(±)-6のEPRスペクトル (THF中、濃度1mM、20℃)を示す。構造同定のためのNMRスペクトルとして、図3に化合物(±)-6の1H NMRスペクトル、図4に化合物(±)-6の13C NMRスペクトルを併せて示す。
【0063】
EPR (THF): g= 2.0064, aN= 1.55mT. IR (KBr) ν 3431, 3412, 2918, 2872, 2850, 2360, 2343, 1608, 1514, 1238, 1184, 918, 721, 651 cm-1.
1H NMR (400MHz, DMSO-d6, hydrazobenzeneで還元後): δ 0.86 (s, 3H), 1.17-1.39 (m, 26H), 1.73 (s, 3H) 1.89 (s, 3H), 2.09-2.18 (m, 4H), 3.08 (s, 9H), 3.92 (t, J= 2.8Hz, 2H), 4.00 (t, J= 2.8Hz, 2H), 6.84 (d, J=6.4Hz, 2H), 7.28-7.46 (m, 6H)
Hydrazobenzene: 1H NMR (400MHz, DMSO-d6): δ 6.63 (t, J= 7.2Hz, 2H), 6.73 (d, J= 7.6Hz, 4H), 7.10 (t, J= 7.6Hz, 4H)
Azobenzene: 1H NMR (400MHz, DMSO-d6): δ 7.60 (m, 6H), 7.90 (d, J=3.6Hz, 4H)
13C NMR (400MHz, DMSO-d6, hydrazobenzeneで還元後): δ 13.9, 14.0, 19.2, 19.3, 22.0, 22.1, 25.5, 25.7, 27.3, 27.6, 28.7, 29.0, 31.2, 35.2, 35.4, 52.1, 64.9, 66.0, 66.3, 66.5, 67.0, 67.2, 113.2, 113.3, 127.7, 127.7, 127.9, 140.0, 140.1, 156.4, 156.6
Hydrazobenzene: 13C NMR (60MHz, DMSO-d6): δ 111.6, 117.6, 129.4, 149.9
Azobenzene: 13C NMR (400MHz, DMSO-d6): δ 122.5, 129.4, 131.5, 151.9
Anal. Calc. for C37H60ClN2O3・1.5H2O: C, 69.06; H, 9.88; N, 4.35. Found: C, 69.10; H, 9.55; N, 4.35
【0064】
(実施例2)EPRスペクトル測定サンプルの調製
化合物(±)-6の水溶液をシランカップリング剤による表面処理を行ったキャピラリーに詰める。次いで、パテでキャピラリーを封じ、EPR管(3mmφ)に入れて測定を行った。
【0065】
(実施例3)シランカップリング剤によるキャピラリー及びバイアルの表面処理方法
3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシランの水とメタノールの10%溶液にキャピラリーあるいはバイアルを2時間浸した後、120℃で3時間乾燥させることにより、表面処理を行った。
【0066】
(実施例4)EPRスペクトルの濃度依存性
2.00×10-4M以上のスペクトルにおいて、ニトロキシドラジカル特有の三本線のピークに加え、ブロードなシグナルが現れ、化合物(±)-6の水溶液の臨界会合濃度を2×10-4Mと決定した。図5に化合物(±)-6の水溶液のEPRスペクトルの濃度依存性を示す。
【0067】
(実施例5)化合物(±)-6のエマルションの調製
化合物(±)-6 (2.78mg, 4.51μmol)、トルエン (0.42mg, 4.56μmol)、水 (1.1ml)をシランカップリング剤による表面処理を行ったバイアルに加え、超音波照射を5分行うことにより、エマルションを調製した。図6に化合物(±)-6のトルエン内包エマルションの偏光顕微鏡画像を示す。
【0068】
(実施例6)エマルションの温度変化測定
エマルション水溶液をカバーガラスに載せて偏光顕微鏡観察を行った。
EPR測定については、まず、調製したエマルション水溶液をシランカップリング剤による表面処理を施したキャピラリーに詰める。次いで、パテでキャピラリーを封じた上で、EPR管に入れ、測定を行った。
【0069】
偏光顕微鏡観察より、昇温過程の68℃において、エマルションは消失しミクロ化が起こったと考えられる。図7に偏光顕微鏡観察によるエマルションの消失とミクロ化の様子を示す。
EPR測定により、60℃以上において、ニトロキシドラジカル特有の三本線に由来するピークを観察し、エマルションの消失とミクロ化を確認した。図8に化合物(±)-6のトルエン内包エマルションのEPRスペクトルの温度依存性を示す。
【0070】
(比較例1)
次に示す安定ラジカル液晶(3.15mg, 4.51μmol)、トルエン (0.42mg, 4.56μmol)、水 (1.1ml)をシランカップリング剤による表面処理を行ったバイアルに加え、超音波照射を5分行ったがエマルションは生成しなかった。
【0071】
【化21】

【0072】
(比較例2)
次に示す安定ラジカル液晶(2.57mg, 4.51μmol)、トルエン (0.42mg, 4.56μmol)、水 (1.1ml)をシランカップリング剤による表面処理を行ったバイアルに加え、超音波照射を5分行ったがエマルションは生成しなかった。
【0073】
【化22】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に安定ラジカル構造、親油性部位及び親水性部位を有することを特徴とする両親媒性化合物。
【請求項2】
該安定ラジカル構造が化学式(A1)
【化1】

の構造で示されるニトロキシドラジカル構造であり、該親水性部位が化学式(X−1)又は化学式(X−2)のいずれかの構造で示されるイオン性骨格
【化2】

(式中、Lはアンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオン又はピリジニウムイオンのいずれかのカチオンを表し、
(M)は塩素、臭素、ヨウ素、硝酸、硫酸、硫酸水素、亜硫酸又は亜硝酸のいずれかのアニオンを表し、
(G)はカルボン酸、スルホン酸又はリン酸のいずれかのアニオンを表し
Qはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオン又はピリジニウムイオンのいずれかのカチオンを表す。)である請求項1記載の両親媒性化合物。
【請求項3】
一般式(A2)で表される、請求項1又は2記載の両親媒性化合物。
【化3】

(式中、Wは、下記一般式(Rd−1)から一般式(Rd−3)のいずれかの構造を表し、
【化4】

(式中、Ra及びRbは、それぞれ独立的に水素原子又は1〜12個の炭素原子を有するアルキルを表す。)
Rは水素原子又は炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数1〜30のアルコキシル基、炭素数2〜30のアルケニルオキシ基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子に置換されていてもよく、またそれぞれの基中の一つ又は二つ以上の−CH−は互いに独立して酸素原子が相互に直接結合しないものとして、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCS−、−SCO−、−CONR−、−NRCO−(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表す。)、−CH=N−、−N=CH−、−N=N−又は−CH=CH−に置換されていても良い。)、又はU−Sp−を表し、
(式中、Uは以下の式(R−1)から式(R−15)の何れかの構造を有する重合性基を表し、
【化5】

Spは酸素原子同士が直接結合しないものとして炭素原子が酸素原子、−COO−、−OCO−、又は−OCOO−に置き換えられても良い炭素数2〜12のアルキレン基、又は単結合を表す。)
及びAは、それぞれ独立的にトランス−1,4−シクロヘキシレン基又は1,4−フェニレン基、ナフタレン−2,6−ジイル基(それぞれの基中の1個以上の水素原子は独立的にフッ素原子又は塩素原子に置換されていてもよく、また基中の芳香環の1個以上のCHは独立的にNに置換されていてもよい。)、又は単結合を表し、
m及びnは、それぞれ独立的に0、1、2又は3を表すが、m+nは1から6の整数であり、
及びZは、それぞれ独立に−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCS−、−SCO−、−CONR−、−NRCO−、−CH−、−OCH−、−CHO−、−SCH−、−SHO−、−CF−、−OCF−、−CFO−、−CFCH−、−CHCF−、−CHCH−、−CFCF−、−CH=N−、−N=CH−、−N=N−、−CH=CH−、又は単結合を表し、
(式中、Rは水素原子H又は炭素数1〜12のアルキル基を表す。)
Vは酸素原子同士が直接結合しないものとして炭素原子が酸素原子、−COO−、−OCO−若しくは−OCOO−に置き換えられても良い炭素数2〜12のアルキレン基、又は単結合を表し、
Xは以下の一般式(X−1)又は一般式(X−2)で示されるイオン構造
【化6】

(式中、Lは−NR、−SR、−PR、ピリジニウムカチオン、又は次式に示すアルキルピリミジニウムカチオン式(Py−1)から(Py−3)のいずれかを示し、
【化7】

(M)は塩素、臭素、ヨウ素、硝酸、硫酸、硫酸水素、亜硫酸、亜硝酸のいずれかのアニオン
(G)はカルボン酸、スルホン酸、リン酸のいずれかのアニオン、
Qはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオン、ピリジニウムイオンのいずれかのカチオン、
、R、R、Rは、それぞれ独立的に水素原子H又は炭素数1〜12のアルキル基を表す。)を表す。)
【請求項4】
一般式(A3)で表される請求項3記載の両親媒性化合物。
【化8】

(式中、R、A、A、m、n、Z、Z、V及びXは一般式(A2)と同じ意味を表す。)
【請求項5】
Rが炭素数10〜20のアルキル基又は炭素数10〜20のアルコキシル基を、Aが1,4−フェニレン基を、Aが1,4−フェニレン基を、m及びnがそれぞれ独立に1又は2を、Z及びZがそれぞれ独立に−COO−、−OCO−又は単結合を表す請求項4記載の両親媒性化合物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の両親媒性化合物を含有する界面活性剤。
【請求項7】
請求項6記載の界面活性剤及び水系溶媒を含むミセル。
【請求項8】
請求項6記載の界面活性剤と水・有機混合溶媒を含むエマルション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−188388(P2012−188388A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53508(P2011−53508)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】