説明

完全制御型植物工場

【課題】淡水魚陸上養殖の排水が河川や湖沼へ直接流入するのを防止しつつ効率的な利用を図る。
【解決手段】栽培架台10には4段に栽培ベッド12が配置されている。各栽培ベッド12の上方には、人工光源であるLED14が配置されている。最下段の栽培ベッド12の下方には、タンク21が配置されている。タンク21内の養液は、栽培ベッド112に養液を供給する循環経路の一部となっている。タンク21内では、淡水魚の養殖が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光を完全に遮断した人工環境下で植物栽培を行ういわゆる完全制御型植物工場に関する。
【背景技術】
【0002】
レタス類などの軟弱野菜中心として、土壌を使用しない栽培方法である養液栽培が普及してきている。特許文献1に記載されているように、太陽光を遮断して人工光源を使用すると共に温度などの環境が制御された閉鎖空間である完全制御型植物工場も注目されている。完全制御型植物工場では、周年計画生産ができる。一方、家畜に代わる動物性たんぱく源として水産物の需要が世界的に増加している。そのため、ウナギやサケ・マス類といった淡水性魚類の陸上養殖が実用化されつつある。
【0003】
【特許文献1】特開平10−178901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
完全制御型植物工場での栽培方式としては、N,P,Kなどが適宜混合されてなる、植物の生育に適した化学肥料を水に溶かした養液をタンクに投入し、養液をタンクと栽培ベッドとの間でポンプを用いて循環させ、植物の根部から養液を供給させるのが一般的である。この栽培方式では、養液内の栄養素が植物へと吸収されていくことのために、養液内の栄養素が徐々に減少していく。したがって、養液のpH(水素イオン濃度)やEC(電気伝導度)を自動的にコントロールする追肥作業や、定期的な養液の交換作業が一般的に行われている。なお、養液の供給回路系統は、複数の栽培部で共通になっている。したがって、万が一病害などが発生すると、循環する養液を介してすべての栽培部に病害が広がるリスクも大きい。
【0005】
日本において淡水魚の陸上養殖は、河川などからの分岐水を屋内外の大型水槽に入れ、一定量を排水する、いわゆる掛け流し方式が主流である。排水内には、魚類のエサとして与えられた残飯や魚類の排泄物が多く含まれている。陸上養殖の排水は、N,Pなどを多く含んでいる。そのため、こういった排水が河川や湖沼へ直接流入すると河川などの富栄養化の原因となり、環境保全・水質保全面から好ましくない。
【0006】
一方、完全制御型植物工場は大規模な施設となるため、効率的な利用が望まれている。
【0007】
そこで、本発明の目的は、淡水魚陸上養殖の排水が河川や湖沼へ直接流入するのを防止しつつ効率的な利用が可能な完全制御型植物工場を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
本発明の完全制御型植物工場は、太陽光が遮断され且つ人工光源が用いられていると共に温度を含めた環境制御が行われる閉鎖環境下において、植物の養液栽培が行われる完全制御型植物工場である。そして、前記養液栽培に用いられる養液が、前記養液栽培が行われる栽培ベッドと前記養液のタンクとを含む循環経路を循環させられる。さらに、前記循環経路内において淡水魚類の陸上養殖が行われる。すなわち、この完全制御型植物工場は、植物の栽培と淡水魚の養殖とを組み合わせた複合生産システムである。
【0009】
本発明によると、植物の栽培と淡水魚の養殖とが組み合わせられることによって、施設の効率的な利用を図ることができる。また、養液が循環経路を循環させられるので、排水が河川や湖沼へ直接流入するのを防止することができ、水環境の保全に役立つ。さらに、淡水魚の残飯や排泄物が植物の栄養源として吸収されることで、化学肥料を抑えた養液栽培が可能になる。さらに追肥としての液肥に有機液肥を使用することで、従来の養液栽培では困難な無化学肥料での栽培が可能にもなるため、より安全・安心な農産物を栽培し、消費者に年間安定して供給することが可能となる。
【0010】
このように本発明は、食の安全や安心という観点及び環境保護という観点から、理想に近い農産物生産を行えるものである。しかも、陸上淡水養殖と養液栽培を同じ施設で行うことができることから、両方の生産が期待できることはもちろん、設備コストを抑えることが可能であるという経済的な利益が期待される。
【0011】
淡水魚類の陸上養殖が行われるのが前記タンク内であることが好ましい。これにより、飼育水槽を別途用意する必要がなくなる。タンクはポリプロピレンやFRPなどの安全な材質からなることが好ましく、断熱されているものが望ましい。養殖する魚類によっては、養液を冷却・加温する装置が付属されることが望ましい。なお、飼育水槽がタンクとは別に設けられていてもよい。
【0012】
前記栽培ベッドの下方に、前記タンクが配置されていることが好ましい。これにより、施設の効率的な利用をより一層図ることができる。
【0013】
前記養液の主成分は有機由来成分であることが好ましい。これにより、より安全・安心な農産物を栽培することができる。
【0014】
前記養液の温度を測定するための温度測定手段と、前記温度測定手段による測定結果に基づき、栽培される植物の生長及び養殖される淡水魚類の成育にしたがって、前記養液の温度を調整するための温度制御手段を備えていることが好ましい。これにより、植物の生長及び淡水魚類の成育を促進することができる。
【0015】
前記養液の水素イオン濃度及び電気伝導度を測定するpH・EC測定手段と、
前記pH・EC測定手段による測定結果に基づき、栽培される植物の生長及び養殖される淡水魚類の成育にしたがって、前記養液の水素イオン濃度及び電気伝導度を制御するpH・EC制御手段とを備えていることが好ましい。これにより、植物の生長及び淡水魚類の成育を促進することができる。
【0016】
本発明においては、栽培ベッドを2段以上の複数段に立体的に配置することが望ましい。完全制御型植物工場の人工光源としては、植物への近接照射を可能とし、空間を立体的により有効に利用するため、蛍光ランプや、LED、冷陰極ランプなどを使用することが望ましい。
【0017】
養液をポンプで循環するたん液またはかん液式の栽培方式が望ましく、隣り合う栽培ベッドがそれぞれ独立した回路であることが望ましい。
【0018】
養液の循環方式は、タンクからポンプで上部にある栽培ベッドに供給し、それを再度タンクに自然落下で戻す方式であってよい。そして、この循環経路には、ゴミなどを除去するための繊維質のフィルタを設けることが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る完全制御型植物工場の斜視図である。図1に描かれた完全制御型植物工場1は、建造物内の1フロアに設けられたものであって、栽培室2と、機械室3と、完全制御型植物工場1の出入り口1aが設けられた出荷・作業室4と、管理室5と、倉庫6とから構成されている。完全制御型植物工場1は、断熱構造を持つ、太陽光を完全に遮断した建物内にある。完全制御型植物工場1は、炭酸ガスの供給装置などを備えている。
【0021】
栽培室2には、スチール製又はアルミ製の栽培架台10が6列に配列されている。栽培室2の床から天井までの距離は約2.5mである。栽培架台10は高さ1.5m、幅0.7m〜1.3m、長さ20〜30mである。栽培室2内の温度及び湿度は、空調機2aによって年間を通して植物の生育に最適な一定温度(15〜25℃程度)に調整されている。機械室3内には、制御盤、灌水装置、発芽・育苗装置、保冷庫などが設置されている。
【0022】
栽培架台10には、その斜視図である図2に示すように、平面視において互いに重なるように栽培ベッド12が4段に配置されている。栽培ベッド12の重畳数は、2〜8段程度であってもよい。栽培ベッド12は、上方開放箱型の発泡スチロール製であって、たん液またはがん液の循環方式に対応したものである。栽培ベッド12は、発泡スチロール製であるので断熱効果が高い。
【0023】
図3に、栽培架台10を図2に示す矢印A方向から見た模式的な側面図を示す。図3は、各栽培ベッド12に水を供給するための機構を説明するための図面である。図3に示すように、栽培架台10に支持された4つの栽培ベッド12のうち最下段のものの下方には、上方開放箱型のタンク21が配置されている。
【0024】
本実施の形態において、タンク21は飼育水槽として用いられる。タンク21は幅1.2mであり、深さ50cmまでと浅いため、栽培ベッド12の長さに応じて、長手方向に任意の長さまで延ばすことで、養殖容積を確保することが望ましい。
【0025】
タンク21には、機械室3内の灌水装置から適宜水が補給される。タンク21から排出された水は、ポンプ22によって、繊維質材料からなるフィルタ25を介して、給水管23に送液される。給水管23内の水は、各栽培ベッド12の右端に供給される。栽培ベッド12の右端に供給された水は、栽培ベッド12内を左方に向かって流れる。そして、栽培ベッド12の左端から排出された水は、排水管24から排出されて、タンク21に戻される。用水としては、化学肥料を使用していない、有機100%の液肥を希釈したものを、タンク21に投入し使用する。つまり、養液の主成分が有機由来成分である。
【0026】
図3に描かれた例では、タンク21、ポンプ22、給水管23及び排水管24からなる循環経路がすべての栽培架台10に共通であるが、栽培架台10が長い場合は、上記のような循環経路を、1個〜2個の栽培ベッド12ごとに設けてもよい。これにより、万が一の病害などの蔓延を抑制することができる。
【0027】
図2に戻って、各栽培ベッド12の上方には、栽培ベッド12にて栽培されている植物に照射される光の人工光源として、多数のLED14が配置されている。LED14は、長さ約120cmの範囲内に10cm〜20cm間隔で等間隔に一直線上に配置されることによって、LED列を形成している。このLED列の代わりに、光源として、蛍光ランプ(FL)や冷陰極ランプを配置してもよい。
【0028】
光源と植物体との距離は、10〜20cm程度である。このような距離とすることによって、植物体にできるだけ均一に光が照射され、かつ光源からの発熱の影響を少なくすることができる。このときの光強度は150〜200μmo1/m/s程度となるようにする。
【0029】
図2に示すように、タンク21には、タンク21内の水温を測定するための温度計30が取り付けられている。さらに、タンク21には、温度計30による測定結果に基づいて、タンク21内の水温を15〜25℃の範囲で調整できる水温調節装置31が取り付けられている。水温調節装置31は、栽培される植物の生長及び養殖される淡水魚類の成育にしたがって、タンク21内の水温を適切な温度に制御する。
【0030】
また、図2に示すように、タンク21には、タンク21内の養液の水素イオン濃度及び電気伝導度を測定するpH・EC測定装置32と、pH・EC測定装置32による測定結果に基づき、栽培される植物の生長及び養殖される淡水魚類の成育にしたがって、養液の水素イオン濃度を6〜8の範囲内で、電気伝導度を0.6〜1.5mSの範囲内で制御するpH・EC制御装置33とが取り付けられている。これにより、養液の水素イオン濃度及び電気伝導度が常に栽培と養殖に最適な数値範囲に保たれる。
【0031】
タンク21内の養液は、栽培開始時は化学肥料または有機液肥を使用したものからスタートし、魚の成長に従って、EC濃度を保てる程度にその使用量をコントロールし減らしていきながら栽培を行う。給餌は、養殖する魚類の摂餌量に応じて、一定量を自動給餌装置34で与える。本実施の形態のような完全制御型の場合、水温コントロールが容易であって用水の水温が周囲環境(18〜25℃)に近い状態に保たれるため、熱帯性の鑑賞魚を養殖するのにも適している。
【0032】
以上説明した本実施の形態の完全制御型植物工場1では、植物の栽培と淡水魚の養殖とが組み合わせられることによって、施設の効率的な利用を図ることができる。また、養液が循環経路を循環させられるので、排水が河川や湖沼へ直接流入するのを防止することができ、水環境の保全に役立つ。さらに、淡水魚の残飯や排泄物が植物の栄養源として吸収されることで、化学肥料を抑えた養液栽培が可能になる。さらに追肥としての液肥に有機液肥を使用することで、従来の養液栽培では困難な無化学肥料での栽培が可能にもなり、より安全・安心な農産物を栽培し、消費者に年間安定して供給することが可能となる。
【0033】
また、淡水魚類の陸上養殖が行われるのがタンク21内であるので、別途飼育水槽を用意する必要がなくなる。そして、栽培ベッド12の下方にタンク21が配置されているので、施設の効率的な利用をより一層図ることができる。
【0034】
また、タンク21内の養液の主成分が有機由来成分であるので、より安全・安心な農産物を栽培することができる。
【0035】
さらに、水温調節装置31が、温度計30による測定結果に基づき、栽培される植物の生長及び養殖される淡水魚類の成育にしたがって、タンク21内における養液の温度を調整するので、植物の生長及び淡水魚類の成育を促進することができる。
【0036】
加えて、タンク21内の養液の水素イオン濃度及び電気伝導度を測定するpH・EC測定装置32と、測定装置32による測定結果に基づき、栽培される植物の生長及び養殖される淡水魚類の成育にしたがって、養液の水素イオン濃度を所定範囲内で、電気伝導度を所定範囲内で制御するpH・EC制御装置33とがタンク21に取り付けられているので、植物の生長及び淡水魚類の成育を促進することができる。
【0037】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る完全制御型植物工場について説明する。本実施の形態は、有機肥料を用いたトマトなどの果菜類の栽培と淡水魚養殖とを組合せたものである。
【0038】
図4は、本実施の形態に係る完全制御型植物工場100の概略斜視図である。図4に示す完全制御型植物工場100は、太陽光を遮断した建屋101内に上方開放箱型の栽培ベッド112を配置したものである。図示を省略するが、太陽光を遮断した建屋101内には、多数の栽培ベッド112が配置されているとする。
【0039】
本実施の形態では、栽培ベッド112は、温室内で果菜類などを生産するため、一段に配置されている。栽培ベッド112は、第1の実施の形態と同様のたん液・かん液式のものが使用されている。
【0040】
栽培ベッド112の下部には、飼育水槽としてのタンク121が配置されている。栽培ベッド112、栽培ベッド112からの排水が通過する排水管124、タンク121、ポンプ122、フィルタ125、栽培ベッド112に水を供給する給水管123という循環経路が形成されている。本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に栽培ラインごとに養液の循環経路が独立している。そのため、万一の病害の蔓延を防ぐことができる。
【0041】
なお、図4には図示されていないが、本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、タンク121には、温度計、水温調節装置、pH・EC測定装置、pH・EC制御装置、自動給餌装置が取り付けられているものとする。
【0042】
太陽光を遮断した建屋101の天井からは、人工光源として、高圧ナトリウムランプ又はメタルハライドランプなどの高光量を得られるランプが吊り下げられている。これにより、栽培ベッド112の上方から、栽培ベッド112で栽培されている植物に光を照射することができる。
【0043】
用水としては、化学肥料を使用していない、有機100%の液肥を希釈したものを、タンクに投入し使用する。つまり、養液の主成分が有機由来成分である。
【0044】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更を上述の実施の形態に施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る完全制御型植物工場の斜視図である。
【図2】図1に描かれた完全制御型植物工場に含まれる栽培架台の斜視図である。
【図3】図2に描かれた栽培架台を、図2に示す矢印A方向から見た模式的な側面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る完全制御型植物工場の概略斜視図である。
【符号の説明】
【0046】
1 完全制御型植物工場
2 栽培室
3 機械室
4 出荷・作業室
5 管理室
6 倉庫
10 栽培架台
12 栽培ベッド
14 LED(発光ダイオード)
21 タンク
22 ポンプ
23 給水管
24 排水管
30 温度計
31 水温調節装置
32 pH・EC測定装置
33 pH・EC制御装置
34 自動給餌装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光が遮断され且つ人工光源が用いられていると共に温度を含めた環境制御が行われる閉鎖環境下において、植物の養液栽培が行われ、
前記養液栽培に用いられる養液が、前記養液栽培が行われる栽培ベッドと前記養液のタンクとを含む循環経路を循環させられ、
前記循環経路内において淡水魚類の陸上養殖が行われることを特徴とする完全制御型植物工場。
【請求項2】
淡水魚類の陸上養殖が行われるのが前記タンク内であることを特徴とする請求項1に記載の完全制御型植物工場。
【請求項3】
前記栽培ベッドの下方に、前記タンクが配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の完全制御型植物工場。
【請求項4】
前記養液の主成分が有機由来成分であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の完全制御型植物工場。
【請求項5】
前記養液の温度を測定するための温度測定手段と、
前記温度測定手段による測定結果に基づき、栽培される植物の生長及び養殖される淡水魚類の成育にしたがって、前記養液の温度を調整するための温度制御手段を備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の完全制御型植物工場。
【請求項6】
前記養液の水素イオン濃度及び電気伝導度を測定するpH・EC測定手段と、
前記pH・EC測定手段による測定結果に基づき、栽培される植物の生長及び養殖される淡水魚類の成育にしたがって、前記養液の水素イオン濃度及び電気伝導度を制御するpH・EC制御手段とを備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の完全制御型植物工場。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−131909(P2008−131909A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321142(P2006−321142)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(594156020)エスペックミック株式会社 (10)
【Fターム(参考)】