説明

定着ベルト、定着装置、画像形成装置、および定着装置の製造方法

【課題】定着ベルト方式の定着装置において、定着ベルトの柔軟性を向上させて記録材の定着ベルトに対する巻き付きを防止できる温度範囲を広くする。
【解決手段】熱収縮率が5.5%以下であるフッ素樹脂チューブからなる離型層82の内側に、この離型層82の内径よりも外径が小さい円筒型の基材像84を同心状に配置する工程と、離型層82と基材層84との間にシルコーンゴムを注入し、加熱処理によって上記シリコーンゴムを硬化させて弾性層83を形成する工程とによって基材層84、弾性層83、および離型層82からなる定着ベルト71を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の画像形成装置に搭載される定着ベルト方式の定着装置に用いられる定着ベルト、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複写機、レーザプリンタ、ファクシミリなどに多く採用されている電子写真方式の画像形成装置では、表面に光導電性物質を含む感光層を形成した潜像担持体の表面に電荷を付与して均一に帯電させた後、この潜像担持体の表面に種々の作像プロセスにより画像情報に対応する静電潜像を形成し、この静電潜像を現像手段から供給される現像剤で顕像化してトナー像を形成し、このトナー像を紙などの記録材に直接あるいは中間転写媒体を介して転写し、記録材に転写されたトナー像を定着装置によって記録材上に定着する処理が行われる。なお、現像剤には、トナーのみからなる一成分現像剤と、トナーとキャリアとからなる二成分現像剤とがある。
【0003】
トナー像の定着方法としては、熱定着方式が一般的であり、従来より熱ローラ定着方式が汎用されている。熱ローラ定着方式では、内部に熱ヒーターを持ち、外周を離型性の良いゴム又は樹脂で被覆したヒートローラ(定着ローラ)とゴムローラ(加圧ローラ)とを圧接させ、そのローラ間にトナー像が形成された記録材を通過させてトナーを加熱溶融し、トナーを記録材上に定着させる。熱ローラ定着法は、ヒートローラ全体が所定の温度に保持されるため高速化に適している。
【0004】
ところで、近年、フルカラー対応のレーザプリンタ等のフルカラー画像形成装置では、赤、黄、青、黒の4色のトナーが用いられている。このようなフルカラーのトナー像を定着させるためには、単にトナーを軟化して加圧しながら定着させる単色トナーの定着の場合とは異なり、複数種のカラートナーを溶融に近い状態で混色する必要があるため、トナーを溶融状態にまで加熱することが求められる。
【0005】
このため、フルカラーの画像形成装置における熱ローラ定着方式の定着装置では、金属等の支持体(芯金)の上にシリコーンゴム等の弾性体からなる弾性層を形成し、その表面を離型性に優れたフッ素樹脂で被覆した構成の定着ローラと加圧ローラとを圧接させ、これらローラ間にトナー像が形成された記録材を通過させてトナーを加熱溶融し、トナーを記録材上に定着させている。
【0006】
ところが、弾性層を備えた定着ローラを用いる定着装置では、画像形成装置の運転開始時に、熱伝導性の低い弾性層を持つヒートローラ(定着ローラ)を所定の温度にまで加熱する必要があり、電源投入から運転可能となるまでの待ち時間が長いという問題があった。また、ヒートローラ(定着ローラ)全体を加熱しなければならないため、消費電力が大きいという問題もあった。
【0007】
そこで、近年、無端状(円筒状)の定着ベルトと加圧ローラとを圧接させ、定着ベルトと加圧ローラとの間にトナー像が形成された記録材を通過させて定着ベルトの熱によってトナーを加熱して記録材に定着させる定着ベルト方式の定着装置が提案されている。定着ベルト方式の定着装置は、熱容量が低い薄い定着ベルトを加熱するため、定着ベルト表面が短時間で所定の温度に達し、電源投入後の待ち時間を大幅に削減することができるという利点を有している。
【0008】
例えば、特許文献1には、フルカラーの画像形成装置においてトナーを溶融状態まで加熱できるように、薄肉の金属チューブまたは耐熱プラスチックチューブの外面に耐熱エラストマー層が形成され、さらにその外面にフッ素樹脂の層が形成された積層構造を有し、耐熱エラストマー層の硬度、および定着用ベルトの全長にわたって直径方向に荷重を与えたときの荷重方向歪みおよび荷重垂直方向歪みを特定の範囲内に設定した定着用ベルトを用いることにより、カラートナーをより効果的に包み込むようにした定着用ベルトが開示されている。また、特許文献1では、定着用ベルトの製造工程において、フッ素樹脂チューブを熱収縮させて耐熱エストラマー層に密着させることが記載されている。
【0009】
また、特許文献2には、基材上にゴム層を形成し、10μm以上20μm未満の厚みを有し、かつ上記ゴム層の外径より小さな内径を有するフッ素樹脂チューブを準備し、このフッ素樹脂チューブの一端を拡径させながら、このフッ素樹脂チューブを上記ゴム層上に被覆することにより、基材上にゴム層とフッ素樹脂層とがこの順に設けられた層構成を有する定着用ベルトを製造することが記載されている。
【0010】
また、特許文献3には、チューブ状に成型された該薄肉フィルムとフッ素樹脂チューブとの間に液状ゴムを注入し型内で加熱硬化させることにより、フッ素樹脂の焼成処理時に薄肉フィルムが熱劣化することを防止する定着ベルトの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−10893号公報(平成10年月日公開)
【特許文献2】特開2008−257098号公報(平成20年10月23日公開)
【特許文献3】特開平10−217356号公報(平成10年8月18日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記各特許文献の技術では、定着ベルトの柔軟性が低いため、定着可能な温度範囲が狭くなるという問題がある。
【0013】
つまり、一般に、定着ベルト方式の定着装置で用いられる定着ベルトは、弾性層の厚さが薄いため、定着ベルトに対する記録材のセルフストリッピング性(自己剥離性)が弱く、記録材の定着ベルトに対する巻き付きが生じやすいので、熱ローラ定着方式の定着装置に比べて定着可能な温度範囲が狭くなりやすい。なお、記録材の定着ベルトに対する巻き付きは、定着ベルトの柔軟性が低いほど生じやすい。このため、上記各特許文献の技術では、定着ベルトの柔軟性が低いので、定着可能な温度範囲が狭くなってしまう。
【0014】
例えば、上記特許文献1の技術では、(i)内層のチューブの外面に充填剤や加硫剤を配合した耐熱エラストマーをプレス加硫し、表面を研磨した後、RTV型シリコーンゴムやフッ素樹脂の分散液を塗布し、熱処理して硬化または燒結させることにより定着ベルトを製造するか、あるいは(ii)充填剤や加硫剤を配合した耐熱エラストマーから熱収縮性チューブを作成し、これを内層のチューブの外面に被覆して、熱収縮させることにより、耐熱エラストマー層を形成している。このため、熱処理時あるいは熱収縮時の残留応力によって定着ベルトの柔軟性が損なわれ、その結果、定着可能な温度範囲が狭くなってしまう。
【0015】
また、特許文献2では、ゴム層が形成された基材の内径よりも小さな内径を有するフッ素樹脂チューブを拡径させ、その中にゴム層が形成された基材を挿入して定着ベルトを製造するので、定着ベルトに残留応力が存在し、それによってベルトの柔軟性が損なわれるため、定着可能な温度範囲が狭くなってしまう。
【0016】
また、特許文献3の技術は、基層となるフィルム上に弾性層と離型層とを備えた定着ベルトを製造する際のコスト低減を課題とするものであり、定着ベルトの柔軟性については考慮されていない。このため、離型層となるフッ素樹脂チューブの材質によっては定着ベルトの柔軟性が損なわれ、定着可能な温度範囲が狭くなってしまう場合がある。
【0017】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、定着ベルト方式の定着装置において、定着ベルトの柔軟性を向上させて記録材の定着ベルトに対する巻き付きを防止できる温度範囲を広くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の定着ベルトは、上記の課題を解決するために、トナー像が形成された記録材に加熱した無端状の定着ベルトの外周面を圧接させることによって上記トナー像を上記記録材に定着させる定着ベルト方式の定着装置に備えられる定着ベルトであって、内周面側から外周面側に向かって基材層、弾性層、および離型層がこの順で形成されており、上記離型層はフッ素樹脂チューブからなり、このフッ素樹脂チューブの内周面側に上記弾性層および上記基材層が設けられており、かつ、上記フッ素樹脂チューブを周方向に垂直な方向の長さが200mmになるように切断し、このフッ素樹脂チューブの内径の90%の外径を有するアルミパイプに被せ、上記フッ素樹脂チューブを被せたアルミパイプを200℃に加熱したオーブン内に3分間投入して加熱収縮させたときの、加熱収縮前のフッ素樹脂チューブの外径と加熱収縮後のフッ素樹脂チューブの外径との差を加熱収縮後のフッ素樹脂チューブの外径で除算した値である熱収縮率が5.5%以下であり、荷重が付与されていない状態の当該定着ベルトの外径をAとし、当該定着ベルトを両端が固定支持された外径13mmのパイプ部材に掛け、さらに当該定着ベルトの内側における上記パイプ部材よりも下方の位置に外径13mm、重さ115gの荷重ローラを通して上記パイプ部材および当該定着ベルトによってこの荷重ローラを支持させることで当該定着ベルトに荷重を付与したときの当該定着ベルトの外周面における上端部から下端部までの長さをBとしたときに、S=(B−A)/Aで定義される定着ベルトの柔軟性Sの値が0.15以上であることを特徴としている。
【0019】
上記の構成によれば、熱収縮率が5.5%以上であるフッ素樹脂チューブを離型層として用いることにより、定着ベルトの製造段階におけるフッ素樹脂チューブの残留応力の発生を抑制し、定着ベルトの柔軟性を高めることができる。そして、定着ベルトの柔軟性Sが0.15以上であることにより、定着ベルトに対する記録材のセルフストリッピング性(自己剥離性)を向上させることができるので、記録材の巻き付きを生じさせることなく定着処理を行える温度範囲を広くすることができる。
【0020】
また、上記離型層は、当該離型層を構成する材質からなる幅10mmの短冊状試験片に対してチャック間距離50mm、試験速度100mm/minの条件で引張試験を行ったときの、上記試験片が破断せずに耐えられる最大引張荷重を、引張荷重を付与する前の上記試験片における引張荷重の付与方向に垂直な断面の断面積で徐した値である引張強度が82MPa以上であってもよい。
【0021】
上記離型層の引張強度が82MPa以上であれば、定着ベルトの耐久性の低下を抑制し、定着処理によって定着ベルトに皺が発生することを防止できる。
【0022】
また、上記離型層は、PTFEチューブからなる構成であってもよい。また、上記基材層はポリイミドからなり、上記弾性層は液状シリコーンゴムからなる構成であってもよい。
【0023】
上記の構成によれば、熱収縮率5.5%以下、かつ柔軟性Sが0.15以上である定着ベルトを実現することができる。
【0024】
本発明の定着装置は、トナー像が形成された記録材に加熱した無端状の定着ベルトを圧接させることによって上記トナー像を上記記録材に定着させる定着ベルト方式の定着装置であって、上記したいずれかの定着ベルトを備えている。
【0025】
上記の構成によれば、定着ベルトに対する記録材のセルフストリッピング性(自己剥離性)を向上させることができるので、記録材の巻き付きを生じさせることなく定着処理を行える温度範囲を広くすることができ、記録材の搬送不良(ジャム)を防止することができる。
【0026】
本発明の画像形成装置は、記録材上にトナー像を形成する画像形成部と、上記画像形成部によって記録材上に形成されたトナー像をこの記録材に定着させる上記したいずれかの定着装置とを備えている。
【0027】
上記の構成によれば、定着装置において記録材の搬送不良(ジャム)が生じることを防止することができる。
【0028】
本発明の定着ベルトの製造方法は、トナー像が形成された記録材に加熱した無端状の定着ベルトの外周面を圧接させることによって上記トナー像を上記記録材に定着させる定着ベルト方式の定着装置に備えられる定着ベルトの製造方法であって、熱収縮率が5.5%以下であるフッ素樹脂チューブの内側に、このフッ素樹脂チューブの内径よりも外径が小さい円筒型の基材とを上記フッ素樹脂チューブと上記基材とが同心円を成すように配置する工程と、上記フッ素樹脂チューブと上記基材との間に弾性層前駆体を注入する工程と、加熱処理によって上記弾性層前駆体を硬化させて弾性層を形成する工程とを含み、上記熱収縮率は、上記フッ素樹脂チューブを周方向に垂直な方向の長さが200mmになるように切断し、このフッ素樹脂チューブの内径の90%の外径を有するアルミパイプに被せ、上記フッ素樹脂チューブを被せたアルミパイプを200℃に加熱したオーブン内に3分間投入して加熱収縮させたときの、加熱収縮前のフッ素樹脂チューブの外径と加熱収縮後のフッ素樹脂チューブの外径との差を加熱収縮後のフッ素樹脂チューブの外径で除算した値であることを特徴としている。
【0029】
上記の製造方法によれば、フッ素樹脂チューブの熱収縮に起因する残留応力が残ることを抑制できるので、残留応力に起因する定着ベルトの柔軟性の低下を抑制できる。したがって、柔軟性の高い定着ベルトを実現できるので、定着ベルトに対する記録材のセルフストリッピング性(自己剥離性)を向上させることができ、記録材の巻き付きを生じさせることなく定着処理を行える温度範囲を広くすることができる。
【発明の効果】
【0030】
以上のように、本発明の定着ベルトは、内周面側から外周面側に向かって基材層、弾性層、および離型層がこの順で形成されており、上記離型層はフッ素樹脂チューブからなり、このフッ素樹脂チューブの内周面側に上記弾性層および上記基材層が設けられており、かつ熱収縮率が5.5%以下であり、柔軟性Sの値が0.15以上である。
【0031】
それゆえ、定着ベルトに対する記録材のセルフストリッピング性(自己剥離性)を向上させることができるので、記録材の巻き付きを生じさせることなく定着処理を行える温度範囲を広くすることができる。
【0032】
また、本発明の定着ベルトの製造方法は、熱収縮率が5.5%以下であるフッ素樹脂チューブの内側に、このフッ素樹脂チューブの内径よりも外径が小さい円筒型の基材とを上記フッ素樹脂チューブと上記基材とが同心円を成すように配置する工程と、上記フッ素樹脂チューブと上記基材との間に弾性層前駆体を注入する工程と、加熱処理によって上記弾性層前駆体を硬化させて弾性層を形成する工程とを含む。
【0033】
上記の製造方法によれば、フッ素樹脂チューブの熱収縮に起因する残留応力が残ることを抑制できるので、残留応力に起因する定着ベルトの柔軟性の低下を抑制できる。したがって、柔軟性の高い定着ベルトを実現できるので、定着ベルトに対する記録材のセルフストリッピング性(自己剥離性)を向上させることができ、記録材の巻き付きを生じさせることなく定着処理を行える温度範囲を広くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態にかかる画像形成装置の断面図である。
【図2】図1の画像形成装置に備えられる作像ユニットの断面図である。
【図3】図1の画像形成装置に備えられる定着装置の断面図である。
【図4】図3に示した定着装置に備えられる定着ベルトの柔軟性の測定方法を示す説明図である。
【図5】図3に示した定着装置に備えられる定着ベルトの製造工程を示すフローチャートである。
【図6】定着ベルトの離型層の物性値と定着可能な温度範囲との関係を調べた実験の実験条件を示す表である。
【図7】図6に示した実験条件で上記実験を行った結果を示す表である。
【図8】図1の画像形成装置に備えられる定着装置の変形例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の一実施形態について説明する。
【0036】
(1−1)画像形成装置100の構成
図1は、本実施形態にかかる画像形成装置100の構成を示す断面図である。この図に示すように、画像形成装置100は像形成部1と、中間転写部2と、2次転写部3と、定着装置4と、記録材供給部5とを備えている。
【0037】
像形成部1は、作像ユニット10y,10m,10c,10bを備えている。これら各作像ユニットは、各色相のデジタル信号(画像情報)に対応する静電潜像を形成し、形成した静電潜像を各色のトナーにより現像して各色のトナー像を形成する。すなわち、作像ユニット10yはイエロー色の画像情報に対応するトナー像を形成し、作像ユニット10mはマゼンタ色の画像情報に対応するトナーを形成し、作像ユニット10cはシアン色の画像情報に対応するトナー像を形成し、作像ユニット10bはブラック色の画像情報に対応するトナー像を形成する。
【0038】
作像ユニット10y,10m,10c,10bは、それぞれイエロー色現像剤、マゼンタ色現像剤、シアン色現像剤またはブラック色現像剤を使用すること、および像形成部1に入力される画像情報のうち、イエロー色成分像に対応する画素信号、マゼンタ色成分像に対応する画素信号、シアン色成分像に対応する画素信号、ブラック色成分像に対応する画素信号がそれぞれ入力されること以外は同様の構成である。このため、以下では、イエロー色に対応する作像ユニット10yを代表例として示し、他の作像ユニットについてはその説明を省略する。
【0039】
なお、各色に対応する作像ユニット10などの部材を個々に示す場合には、アルファベットの添字:y(イエロー色)、m(マゼンタ色)、c(シアン色)、b(黒色)を付して表す。作像ユニット10y,10m,10c,10bは、中間転写媒体である中間転写ベルト23の移動方向(副操作方向。図1に示した矢印28の方向。)の上流側から下流側にこの順番で一列に並んで配列されている。
【0040】
図2は、作像ユニット10yの構成を示す断面図である。この図に示すように、作像ユニット10yは、感光体ドラム11yと、感光体ドラム11yの表面を均一に帯電する帯電ローラ12yと、帯電された感光体ドラム11yの表面にイエロー色の画像情報に応じたレーザ光13yを露光して静電潜像を形成する光走査ユニット13(図1参照)と、感光体ドラム11yの表面に形成された静電潜像にイエロー色のトナーを付着させることによってイエロー色のトナー像を形成する現像装置14yと、中間転写ベルト23に中間転写されずに感光体ドラム11yの表面に残存したトナーを除去回収するドラムクリーナ15yとを備えている。また、中間転写ベルト23を介して感光体ドラム11yに対向する位置には、感光体ドラム11y上のトナー像を中間転写ベルト23に転写(一次転写)させるための転写ローラ(一次転写部)24yが配置されている。
【0041】
感光体ドラム11yは、円柱状または薄膜シート状(好ましくは円筒状)の導電性基体と、導電性基体の表面に形成された感光層とを備えている。また、感光体ドラム11yは、軸先回りに回転可能に支持されており、図示しない駆動手段によって回転駆動される。なお、感光体ドラム11yの構成は特に限定されるものではなく、従来から公知のものを用いることができる。なお、本実施形態では、アルミニウム素管からなる導電性基体と、アルミニウム素管の表面に形成された有機感光層とからなる感光層とからなる直径30mmの感光体ドラム11yを用いた。また、アルミニウム素管をGND(Ground)電位に接続した。
【0042】
有機感光層は、電荷発生物質を含む電荷発生層と、電荷輸送物質を含む電荷輸送層とを積層して形成されるものであってもよく、電荷発生物質と電荷輸送物質とを1つの層に含むものであってもよい。また、有機感光層の層厚は、特に限定されるものではないが、本実施形態では20μmとした。また、有機感光層と導電性基体との間に下地層を設けてもよい。さらに、有機感光層の表面に保護層を設けてもよい。
【0043】
感光体ドラム11yは、図2に示した矢印の方向(図1,図2における反時計周りの方向)に回転駆動される。感光体ドラム11yの駆動手段(図示せず)は、制御手段(図示せず)によって制御され、これにより感光体ドラム11yの回転速度が制御される。なお、本実施形態では感光体ドラム11yの周速度を173mm/sとした。
【0044】
帯電ローラ12yは、感光体ドラム11yの表面を所定の電位に帯電させる帯電手段である。なお、帯電手段は帯電ローラ12yに限定されるものではなく、帯電ローラ12yに代えて、例えば、ブラシ型帯電器、チャージャー型帯電器、またはスコロトロン等のコロナ帯電器などを用いてもよい。
【0045】
光走査ユニット13は、表面が均一に帯電された感光体ドラム11yの表面にイエロー色の画像情報に対応するレーザ光13yを照射し、感光体ドラム11yの表面に、イエロー色の画像情報に対応する静電潜像を形成する潜像形成手段である。レーザ光の光源には、例えば半導体レーザ素子などが用いられる。
【0046】
現像装置14yは、イエロー色のトナーとキャリアとを含むイエロー色現像剤16yを感光体ドラム11yに対向するように配置された現像スリーブ18yの表面に担持して感光体ドラム11yの表面に対向する位置に搬送し、感光体ドラム11yの表面に形成されている静電潜像を現像して顕像化する現像手段である。なお、現像手段の構成はこれに限らず、例えばキャリアを含まない一成分現像剤を用いて現像処理を行う現像装置を用いてもよい。
【0047】
現像スリーブ18yは、感光体ドラム11yに近接する現像ニップ部において、感光体ドラム11yの回転駆動方向と同じ方向に回転駆動する。したがって、軸線回りの回転駆動方向は感光体ドラム11yの回転駆動方向とは逆方向になる。なお、本実施形態では、現像スリーブ18yの周速度を感光体ドラム11yの周速度の1.5倍である260mm/sとした。
【0048】
以下に、本実施形態の画像形成装置100に用いられる現像剤16y,16m,16c,16bの構成成分について詳細に説明する。
【0049】
トナーは、結着樹脂、着色剤および離型剤を含有する。結着樹脂としてはこの分野で常用されるものを使用でき、例えば、ポリスチレン、スチレンの置換体の単独重合体、スチレン系共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタンなどが挙げられる。結着樹脂は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。
【0050】
これらの結着樹脂の中でも、カラートナー用としては、保存性、耐久性などの点から、軟化点100〜150℃、ガラス転移点50〜80℃の結着樹脂が好ましく、前記の軟化点およびガラス転移点を有するポリエステルが特に好ましい。ポリエステルは軟化または溶融状態で高い透明度を示す。結着樹脂がポリエステルである場合、イエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックのトナー像が重ね合わされた多色トナー像を記録材に定着させると、ポリエステル自体は透明化するので、減法混色によって充分な発色が得られる。
【0051】
着色剤としては、従来から電子写真方式の画像形成技術に用いられるトナー用顔料および染料を使用できる。顔料としては、たとえば、アゾ系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、キナクリドン系顔料、フタロシアニン系顔料、イソインドリノン系顔料、イソインドリン系顔料、ジオキサジン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体系顔料などの有機系顔料、カーボンブラック、酸化チタン、モリブデンレッド、クロムイエロー、チタンイエロー、酸化クロム、ベルリンブルーなどの無機系顔料、アルミニウム粉などの金属粉などが挙げられる。顔料は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。
【0052】
離型剤としては、例えば、ワックスを使用できる。ワックスとしてはこの分野で常用されるものを使用でき、例えば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、パラフィンワックスなどが挙げられる。トナーは、結着樹脂、着色剤および離型剤の他に、帯電制御剤、流動性向上剤、定着促進剤、導電剤などの一般的なトナー用添加剤の1種または2種以上を含有できる。
【0053】
トナーは、着色剤、離型剤などを結着樹脂と溶融混練して粉砕する粉砕法、着色剤、離型剤、結着樹脂のモノマーなどを均一に分散した後、結着樹脂のモノマーを重合させる懸濁重合法、結着樹脂粒子、着色剤、離型剤などを凝集剤によって凝集させ、得られる凝集物の微粒子を加熱する乳化凝集法などの公知の方法に従って製造できる。
【0054】
トナーの体積平均粒径は、特に制限されないけれども、好ましくは2〜7μmである。体積平均粒径が上記範囲であるトナーを用いることにより、記録材に対する被覆率が高くなるので、低付着量での高画質化およびトナー消費量の低減化を達成できる。
【0055】
トナーの体積平均粒径が2μm未満では、トナーの流動性が低下し、現像動作の際に、トナーの供給、撹拌および帯電が不充分になり、トナー量の不足、逆極トナーの増加などが起こり、高画質画像が得られないおそれがある。一方、体積平均粒径が7μmを超えると、中心部分まで軟化し難い大粒径のトナー粒子が多くなるので、画像の記録材8への定着性が低下するとともに、画像の発色が悪くなり、特にOHPへの定着の場合には、画像が暗くなる。
【0056】
本実施形態で用いられる各色のトナーは、着色剤以外は次に示す同じ構成を有する。このトナーは、例えば、ガラス転移点60℃、軟化点120℃および体積平均粒径6μmのトナーであり、負帯電性の絶縁性非磁性トナーである。このトナーを用いて、X−Rite社製310による反射濃度測定値が1.4の画像濃度を得るには、5g/mのトナー量が必要である。このトナーは、結着樹脂としてガラス転移点60℃かつ軟化点120℃のポリエステル、離型剤としてガラス転移点50℃かつ軟化点70℃の低分子ポリエチレンワックス、および着色剤として各色の顔料を含み、ワックス含有量がトナー全量の7重量%、顔料含有率がトナー全量の12重量%および残部が結着樹脂のポリエステルである。
【0057】
このトナーに含まれる低分子ポリエチレンワックスは、結着樹脂のポリエステルよりもガラス転移点および軟化点が低いワックスである。このようなワックスを用いれば、結着樹脂のガラス転移点よりも低い温度下でも、トナー同士の付着力、トナーと中間転写ベルト23または記録材との付着力が増加するので、液状物である定着液を付与する際に、定着液によるトナーの流れ、凝集などが発生するのを抑制できる。さらに、トナー中のワックスが軟化すると、ワックスが存在する箇所からトナー内部に定着液が浸透し易くなる。したがって、定着液の付与時に短時間でトナー全体が軟化または膨潤し、記録材への転写時に充分な定着強度が得られ、トナー像の重ね合わせによる発色も充分になる。
【0058】
現像剤16y,16m,16c,16bは、トナーの他にキャリアを含んでいてもよい。キャリアとしては、磁性を有する粒子を使用することができる。磁性を有する粒子の具体例としては、たとえば、鉄、フェライトおよびマグネタイトなどの金属、これらの金属とアルミニウムまたは鉛などの金属との合金などが挙げられる。これらの中でも、フェライトが好ましい。
【0059】
また、磁性を有する粒子に樹脂を被覆した樹脂被覆キャリア、または樹脂に磁性を有する粒子を分散させた樹脂分散型キャリアなどをキャリアとして用いてもよい。磁性を有する粒子を被覆する樹脂としては特に制限はないけれども、例えば、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、スチレン/アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、エステル系樹脂、およびフッ素含有重合体系樹脂などが挙げられる。また、樹脂分散型キャリアに用いられる樹脂としても特に制限されないけれども、例えば、スチレンアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂、およびフェノール樹脂などが挙げられる。
【0060】
キャリアの形状は、球形または扁平形状が好ましい。また、キャリアの体積平均粒径は特に制限されないけれども、高画質化を考慮すると、好ましくは30μm以上50μm以下である。さらに、キャリアの抵抗率は、好ましくは10Ω・cm以上、さらに好ましくは1012Ω・cm以上である。キャリアの抵抗率は、キャリアを0.50cmの断面積を有する容器に入れてタッピングした後、容器内に詰められた粒子に1kg/cmの荷重を掛け、荷重と底面電極との間に1000V/cmの電界が生ずる電圧を印加したときの電流値を読取ることから得られる値である。抵抗率が低いと、現像スリーブ18にバイアス電圧を印加した場合にキャリアに電荷が注入され、感光体ドラム11にキャリア粒子が付着し易くなる。また、バイアス電圧のブレークダウンが起こり易くなる。
【0061】
キャリアの磁化強さ(最大磁化)は、好ましくは10emu/g〜60emu/g、さらに好ましくは15emu/g〜40emu/gである。磁化強さは現像スリーブ18の磁束密度にもよるけれども、現像スリーブ18の一般的な磁束密度の条件下においては、10emu/g未満であると磁気的な束縛力が働かず、キャリア飛散の原因となるおそれがある。また、磁化強さが60emu/gを超えると、キャリアの穂立ちが高くなり過ぎる非接触現像では、潜像担持体である感光体ドラム11と非接触状態を保つことが困難になる。また、接触現像ではトナー像に掃き目が現れ易くなるおそれがある。
【0062】
現像剤16y,16m,16c,16bにおけるトナーおよびキャリアの使用割合は特に制限されず、トナーおよびキャリアの種類に応じて適宜選択すればよい。
【0063】
ドラムクリーナ15yは、中間転写ベルト23に中間転写されずに感光体ドラム11y上に残存したイエロー色のトナーを感光体ドラム11yの表面から除去して回収する。
【0064】
このように、作像ユニット10yでは、感光体ドラム11yをその軸線回りに回転駆動させながら、図示しない電源により帯電ローラ12yに例えば−1200Vを印加し、放電させることより感光体ドラム11yの表面を例えば−600Vに帯電させる。次に、帯電状態にある感光体ドラム11yの表面に、光走査ユニット13からイエロー色の画像情報に対応するレーザ光13yを照射し、イエロー色の画像情報に対応する露光電位−70Vの静電潜像を形成する。
【0065】
次いで、感光体ドラム11yの表面と現像スリーブ18yの表面に担持されるイエロー色現像剤とを近接させる。現像スリーブ18yには現像電位として−450Vの直流電圧が印加されており、現像スリーブ18yと感光体ドラム11yとの電位差によって、静電潜像にイエロー色トナーが付着し、感光体ドラム11yの表面にイエロー色トナー像が形成される。このイエロー色トナー像は、後述するように、感光体ドラム11yの表面に圧接し、矢印28の方向に回転駆動される中間転写ベルト23に中間転写される。感光体ドラム11yの表面に残留するイエロー色トナーとはドラムクリーナ15yにより除去回収される。以後、同様にしてイエロー色のトナー像形成動作が繰り返し実行される。
【0066】
中間転写部2は、図1に示したように、中間転写ベルト23と、中間転写ローラ24y,24m,24c,24bと、支持ローラ25,26,29と、ベルトクリーナ27とを備えている。中間転写ベルト23は、支持ローラ25,26,29の間に張架されてループ状の移動経路を形成する無端ベルト状の像担持体であり、感光体ドラム11y,11m,11c,11bとほぼ同じ周速度で、矢印28の方向、すなわち感光体ドラム11y,11m,11c,11bに臨む像担持面が、感光体ドラム11yとの対向位置から感光体ドラム11bとの対向位置に向って移動するように回転駆動される。
【0067】
中間転写ベルト23には、例えば厚さ100μmのポリイミドフィルムを使用できる。ただし、中間転写ベルト23の材料はポリイミドに限定されるものではなく、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリプロピレンなどの合成樹脂や、各種ゴムなどから構成されるフィルムを用いてもよい。また、合成樹脂または各種ゴムからなるフィルム中に、中間転写ベルト23の電気抵抗値を調整するために、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャネルブラック、グラファイトカーボンなどの導電材が配合されていてもよい。また、中間転写ベルト23には、トナーに対する付着力の弱いフッ素樹脂組成物やフッ素ゴムなどから構成される被覆層が設けられていてもよい。被覆層の構成材料としては、たとえば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やPFA(PTFEとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体)などが挙げられる。被覆層には導電材が配合されていてもよい。
【0068】
中間転写ベルト23の像担持面は、中間転写ベルト23の回転駆動方向における上流側から、感光体ドラム11y,11m,11c,11bにこの順番で圧接する。中間転写ベルト23と感光体ドラム11y,11m,11c,11bとが圧接する位置が各色トナー像の中間転写位置である。
【0069】
中間転写ローラ24y,24m,24c,24bは、それぞれ、中間転写ベルト23を介して感光体ドラム11y,11m,11c,11bに対向するように設けられ、かつ中間転写ベルト23における像担持面の反対面に圧接し、かつ図示しない駆動手段によりその軸線回りに回転駆動可能に設けられるローラ状部材である。
【0070】
中間転写ローラ24y,24m,24c,24bには、たとえば、金属製軸体と、金属製軸体の表面に被覆される導電性層とを含むローラ状部材が用いられる。金属製軸体は、例えば、ステンレス鋼などの金属により形成される。金属製軸体の直径は特に制限されないけれども、好ましくは8mm〜10mmである。導電性層は、導電性弾性体などにより形成される。導電性弾性体としてはこの分野で常用されるものを使用でき、例えば、カーボンブラックなどの導電剤を含む、エチレン−プロピレンゴム(以下、EPDMと記す)、発泡EPDM、発泡ウレタンなどを用いることができる。導電性層によって、中間転写ベルト23に高電圧が均一に印加される。
【0071】
中間転写ローラ24y,24m,24c,24bには、感光体ドラム11y,11m,11c,11bの表面に形成されるトナー像を中間転写ベルト23上に転写するために、トナーの帯電極性とは逆極性の中間転写バイアスが定電圧制御によって印加される。これによって、感光体ドラム11y,11m,11c,11bに形成されるイエロー、マゼンタ、シアンおよびブラック色のトナー像が中間転写ベルト23の像担持面に順次重ね合わさって転写され、多色のトナー像が形成される。ただし、イエロー、マゼンタ、シアンおよびブラック色の一部のみの画像情報が入力される場合には、作像ユニット10y,10m,10c,10bのうち、入力される画像情報の色に対応する作像ユニット10のみにおいてトナー像が形成される。
【0072】
支持ローラ25,26,29のうち、支持ローラ25,26は、図示しない駆動手段によって軸線回りに回転駆動可能に設けられ、張架した中間転写ベルト23を矢印28の方向に回転駆動させる。支持ローラ25,26,29には、例えば直径30mm、肉厚1mmのアルミニウム製円筒体(パイプ状ローラ)が用いられる。このうち、支持ローラ25は、中間転写ベルト23を介して後述する2次転写ローラ31と圧接して2次転写ニップ部を形成するようになっている。すなわち、支持ローラ25は、中間転写ベルト23を張架する機能、および中間転写ベルトを回転駆動する機能に加えて、中間転写ベルト23上のトナー像を記録材に2次転写させる機能も有している。なお、支持ローラ25は電気的に接地されている。
【0073】
ベルトクリーナ27は、中間転写ベルト23の像担持面上のトナー像を後述する2次転写部3によって記録材に転写した後、記録材に転写されずに像担持面上に残存するトナーを除去する部材であり、中間転写ベルト23を介して支持ローラ29に対向するように設けられる。
【0074】
このように、中間転写部2では、中間転写ローラ24y,24m,24c,24bにトナーの帯電極性とは逆極性の高電圧が均一に印加することによって、感光体ドラム11y,11m,11c,11b上に形成されたトナー像を中間転写ベルト23の像担持面の所定位置に重ね合わされて中間転写させ、中間転写ベルト23上に多色のトナー像を形成させる。このトナー像は、後述するように、2次転写ニップ部において記録材に2次転写される。2次転写後に中間転写ベルト23の像担持面に残留するトナーおよび紙粉などがベルトクリーナ27により除去され、像担持面には再度トナー像が転写される。
【0075】
2次転写部3は、図1に示したように、支持ローラ25と、2次転写ローラ31とを備えている。2次転写ローラ31は、中間転写ベルト23を介して支持ローラ25に圧接し、かつ軸線方向に回転駆動可能に設けられるローラ状部材である。2次転写ローラ31は、例えば、金属製軸体と、該金属製軸体の表面に被覆される導電性層とからなる。金属製軸体は、例えば、ステンレス鋼などの金属により形成される。導電性層は、導電性弾性体などにより形成される。導電性弾性体としてはこの分野で常用されるものを使用でき、例えば、カーボンブラックなどの導電材を含む、EPDM、発泡EPDM、発泡ウレタンなどが挙げられる。2次転写ローラ31は図示しない電源に接続され、トナー粒子の帯電極性とは逆極性の高電圧が均一に印加される。中間転写ベルト23と2次転写ローラ31との圧接部が2次転写ニップ部である。
【0076】
2次転写部3では、中間転写ベルト23上のトナー像が2次転写ニップ部に搬送されるのに同期して、後述の記録材供給部5から送給される記録材が2次転写ニップ部に搬送される。そして、2次転写ニップ部においてトナー像と記録材とが重ね合わされ、2次転写ローラ31にトナーの帯電極性とは逆極性の高電圧が均一に印加されることによって、中間転写ベルト23上のトナー像が記録材に2次転写される。そして、トナー像を担持した記録材は、定着手段である定着装置4に搬送される。
【0077】
なお、中間転写部2および2次転写部3は、潜像担持体である感光体ドラム11の表面に形成されたトナー像を記録材に転写させるための転写手段に相当する。
【0078】
(1−2)定着装置4の構成
図3は定着装置4の構成を示す断面図である。この図に示すように、定着装置4は、定着ベルト71と、定着ローラ50、加熱ローラ72、加圧ローラ60、加熱手段64,74,75、およびサーミスタ76を備えた定着ベルト方式の定着装置である。
【0079】
定着ベルト71は、互いに略平行に配置された定着ローラ50と加熱ローラ72とに張架されてループ状の移動経路を形成する無端状のベルト部材であり、記録材8上のトナーを加熱溶融させて記録材8に定着させるためのものである。具体的には、定着ローラ50と加圧ローラ60とは定着ベルト71を介して圧接するように配置されており、定着ベルト71は、加熱ローラ72によって加熱され、この定着ベルト71と加圧ローラ60との間に挿入された記録材8に担持されているトナー像を構成するトナーを加熱溶融させて記録材8に定着させる。なお、定着ベルト71は矢印56方向に回転駆動される加圧ローラ60に従動して矢印78の方向に回転(従動回転)するようになっている。
【0080】
本実施形態では、定着ベルト71として、基材層84と、弾性層83と、離型層82とを含む3層構造からなる、定着ローラ50および加熱ローラ72に張架しない場合の形状が直径50mmの円筒形状である無端ベルトを用いた。なお、定着ベルト71の構成および製造方法の詳細については後述する。
・ 定着ローラ50は、図示しない支持手段によって回転自在に支持され、定着ベルト71に従動して矢印57の方向に所定の速度で回転するようになっている。つまり、加圧ローラ60が図示しない駆動手段によって回転駆動され、定着ベルト71が加圧ローラ60に従動回転し、定着ローラ50が定着ベルト71に従動回転するようになっている。本実施形態では、定着ローラ50として、芯金51と弾性体層52と表面層53とからなる直径30mmの円筒形状に形成されるローラ状部材を用いた。
【0081】
芯金51を形成する金属には熱伝導率の高い金属を使用でき、例えば、アルミニウム、鉄などが挙げられる。芯金51の形状としては、円筒状、円柱状などが挙げられるけれども、芯金51からの放熱量が少ない円筒状の方が好ましい。
【0082】
弾性体層52を構成する材料としては、ゴム弾性を有するものであれば特に制限はないけれども、さらに耐熱性にも優れるものが好ましい。このような材料の具体例としては、シリコーンゴム、フッ素ゴム、フルオロシリコーンゴムなどが挙げられる。これらの中でも、特に液状熱硬化型シリコーンゴムが好ましい。なお、定着ローラ50の表面の摺動性を向上させて定着ベルト71の寄り(回転移動方向に垂直な方向への移動)を修正しやすくするために、弾性層上に表面層53を設けてもよい。
【0083】
表面層53を構成する材料としては、耐熱性および耐久性に優れ、摺動性が高いものであれば特に制限されないが、例えば、PFA(テトラフルオロエチレンとペルフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのフッ素系樹脂材料、フッ素ゴム等を用いることができる。
【0084】
また、画像形成装置100の電源ONから画像形成可能になるまでの立ち上げ時間の短縮、トナー像定着時に記録材8に熱を奪われることに起因する定着ローラ50の表面温度の低下などを防止するために、定着ローラ50の内部に加熱手段を設けてもよい。
【0085】
加熱ローラ72は、回転自在に支持されかつ図示しない加圧手段によって定着ベルト71を定着ローラ50とは反対方向に付勢してこの定着ベルト71にテンションを加えられるように設けられたローラ状部材である。加熱ローラ72は、定着ベルト71に従動して矢印78の方向の回転(従動回転)する。加熱ローラ72には、例えば、アルミニウム、鉄などの熱伝導率の高い金属からなる金属製ローラを使用できる。必要に応じて金属製ローラの表面にフッ素樹脂層を設けてもよい。
【0086】
また、加熱ローラ72は、図3に示したように、その内部に加熱ローラ72を介して定着ベルト71を加熱するための加熱手段74,75を備えている。加熱手段74,75は図示しない電源に接続されており、この電源から加熱手段74,75を発熱させるための電力が供給される。加熱手段74,75には一般的な加熱手段を使用できる。また、加熱ローラ72の外部から誘導加熱にて加熱ローラ72する構成としてもよく、定着ベルト71を直接加熱する構成としてもよい。本実施形態では加熱手段74,75としてハロゲンランプを用いた。
【0087】
加圧ローラ60は、図示しない加圧機構により定着ベルト71を介して定着ローラ50に圧接するように配置されている。なお、加圧ローラ60は、定着ローラ50の鉛直方向最下点よりも定着ローラ50における回転方向下流側の位置に圧接し、定着ニップ部55を形成するように配置されている。また、加圧ローラ60は図示しない駆動手段によって回転駆動される。また、加圧ローラ60は、定着ベルト71によるトナー像の記録材8への加熱定着に際し、溶融状態にあるトナーを記録材8に対して押圧することによって、トナー像の記録材8への定着を促進する。
【0088】
本実施形態では、加圧ローラ60として、芯金61と、弾性体層62と、表面層63とからなる直径30mmのローラ状部材を用いた。芯金61、弾性体層62および表面層63を形成する材料としては、それぞれ、定着ローラ50の芯金51、弾性体層52および表面層53を形成する金属または材料と同じものを使用できる。また、芯金61の形状についても定着ローラ50と同様の形状のものを用いることができる。
【0089】
加圧ローラ60の内部には、加熱手段64が設けられている。これは、画像形成装置100の電源ONから画像形成可能になるまでの立ち上げ時間の短縮、トナー像定着時に記録材8に熱が奪われることに起因する加圧ローラ60の表面温度の急激な低下などを防止するためである。本実施形態では、加熱手段64としてハロゲンランプを用いた。
【0090】
サーミスタ76は、定着ベルト71を介して加熱ローラ72に対向する位置において定着ベルト71に近接するように設けられ、定着ベルト71の温度を検知する。サーミスタ76による検知結果は画像形成装置100の動作を制御するCPU(Central Processing Unit、中央処理装置)等の画像形成装置100の制御部(図示せず)に入力される。定着装置4に備えられる各部の動作(回転駆動動作、加熱動作等)は、この制御部によって制御される。
【0091】
上記制御部は、画像形成装置100が画像形成指示を受けると、加熱ローラ72、加圧ローラ60の内部に設けられる加熱手段64,74,75に電力を供給する電源(図示せず)に制御信号を送り、加熱手段64,74,75への電力供給を開始させる。なお、上記の画像形成指示は、画像形成装置100に備えられた操作パネル(図示せず)または画像形成装置100に通信可能に接続されるコンピュータなどの外部機器から入力される。
【0092】
加熱手段64,74,75は、定着ローラ50、加熱ローラ72、加圧ローラ60および定着ベルト71の表面がそれぞれの設定温度になるように加熱する。定着ローラ50および加圧ローラ60の近傍に設けられる温度検知センサ(図示せず)が設定温度に到達したことを検知し、その検知結果が上記制御部に入力されると、上記制御部は加圧ローラ60を回転駆動させる駆動手段(図示せず)に制御信号を送り、加圧ローラ60を矢印56の方向に回転駆動させる。これにより、定着ベルト71、定着ローラ50および加熱ローラ72が加圧ローラ60に従動回転する。この状態で、未定着トナー像を担持する記録材8が2次転写ニップ部から定着装置4の定着ニップ部55に搬送される。この記録材8が定着ニップ部55を通過する際に、トナー像を構成するトナーが加熱加圧されて記録材8に定着され、画像が形成される。
【0093】
また、上記制御部は、サーミスタ76の検知結果から、定着ベルト71の温度が設定範囲内にあるか否かを判定する。そして、定着ベルト71の温度が設定範囲よりも低い場合には、加熱手段74,75に接続される電源に制御信号を送り、加熱手段74,75に電力を供給させて加熱手段74,75を発熱させる。また、定着ベルト71の温度が設定範囲よりも高い場合には、加熱手段74,75への電力供給状態を確認し、電力供給が継続されている場合に電力供給を停止させるための制御信号を送る。なお、サーミスタ76よりも定着ベルト71の回転方向下流側の位置において定着ベルト71を介して加熱ローラ72に対向する位置には、定着ベルト71の異常昇温を検知するためのサーモスタット(図示せず)が設けられており、このサーモスタットによる検知結果は上記制御部に入力される。上記制御部はサーモスタットが定着ベルト71の異常昇温を検知した場合に、電源から加熱手段74,75への給電を停止する。
【0094】
(1−3)定着ベルト71の構成
上述したように、定着ベルト71は、基材層84と、弾性層83と、離型層82とからなる3層構造を有している。
【0095】
基材層84を形成する材料としては、耐熱性および耐久性に優れるものであれば特に制限されないけれども、耐熱性合成樹脂を上げることができ、中でも、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ニッケル電鋳、SUSなどが好ましい。これらの材料は、強度、耐熱性、価格性等に優れている。基材層84の厚さは、特に制限されないけれども好ましくは、30μm以上200μm以下である。本実施形態では、ポリイミドからなる厚さ50μmの基材層84を用いた。
【0096】
弾性層83を構成する材料としては、ゴム弾性を有するものであれば特に制限はないけれども、さらに耐熱性にも優れるものが好ましい。このような材料の具体例としては、たとえば、シリコーンゴム、フッ素ゴム、フルオロシリコーンゴムなどが挙げられる。これらの中でも、特にゴム弾性に優れるシリコーンゴムが好ましい。
【0097】
また、弾性層83の硬度は、JIS−A硬度1度以上60度以下であることが好ましい。JIS−A硬度が上記の範囲であれば、弾性層83の強度の低下、密着性の不良を防止しつつ、トナーの定着性の不良を防止できる。上記シリコーンゴムとしては具体的には、1成分系、2成分系又は3成分系以上のシリコーンゴム、LTV型、RTV型又はHTV型のシリコーンゴム、縮合型又は付加型のシリコーンゴム等を使用できる。
【0098】
また、弾性層83の厚さは、100以上200μm以下であることが好ましい。弾性層83の厚さを200μm以下とすることで、弾性層83の変形を抑制し、定着ベルト71にしわが発生することを抑制できる。また、弾性層83の厚さが100μm未満であると、後述する定着ベルト71の製造工程において液状シリコーンゴムを基材とチューブとの間に注入するのが困難となる。また、弾性層83の厚さが100μm以上200μm以下の範囲内であれば、弾性層83の弾性効果を維持しつつ、断熱性を低く抑えることができて省エネルギー効果を発揮できる。本実施形態では、シリコーンゴムからなる厚さ150μm、JIS−A硬度5度の弾性層83を設けた。
【0099】
離型層82は、熱収縮率が5.5%以下のフッ素樹脂チューブよりなる。つまり、本実施形態では、詳細は後述するが、予め形成されたフッ素樹脂チューブの内部に基材層84を挿入し、フッ素樹脂チューブと基材層84との間に弾性層83を形成することによって製造された定着ベルト71を用いている。これにより、定着ベルト71の外周面にフッ素樹脂を含有する樹脂を塗布し、それを焼成することで離型層を形成した定着ベルトよりも耐久性を向上させることができる。
【0100】
また、本実施形態では、離型層82を構成するフッ素樹脂チューブとして、熱収縮率が5.5%以下のものを用いている。
【0101】
なお、上記の熱収縮率は、フッ素樹脂チューブを径方向に垂直な方向の長さが200mmになるように切断して試料とし、このフッ素樹脂チューブの内径(フッ素樹脂チューブの内周面の周長を円周率で除算した値)の90%の外径を有するアルミパイプに被せ、フッ素樹脂チューブを被せたアルミパイプを200℃に加熱したオーブン内に3分間投入してフッ素樹脂チューブを加熱収縮させたときの、加熱収縮前のフッ素樹脂チューブの外径と加熱収縮後のフッ素樹脂チューブの外径との差を加熱収縮後のフッ素樹脂チューブの外径で除算した値、すなわち「熱収縮率=(加熱収縮前のチューブ外径−加熱収縮後のチューブ外径)/加熱収縮後のチューブ外径」を計算することによって求めた。
【0102】
熱収縮率が5.5%よりも大きい場合には、残留応力の影響で定着ベルト71の表層が硬くなり、用紙の剥離性が低下して定着可能な温度範囲が狭くなってしまうが、熱収縮率が5.5%以下であるフッ素樹脂チューブを用いることにより、用紙の剥離性の低下に起因して定着可能な温度範囲が狭くなることを防止できる。
【0103】
また、本実施形態では、離型層82を構成するフッ素樹脂チューブとして、引張強度が82MPa以上のものを用いている。
【0104】
なお、上記の引張強度は、短冊状試験片(幅10mm)を用い、チャック間距離:50mm、試験速度:100mm/minの条件で軸方向(幅方向に垂直な方向)に引張試験を実施し、試験片が破断せずに耐えられる最大引張荷重を、上記長さ方向に垂直な試験片の断面の断面積(荷重を付与する前の断面積)で徐した値である。
【0105】
また、従来の定着ベルトに使用されているフッ素樹脂チューブの引張強度は35MPa程度であるのが当業者の技術常識であり、引張強度が80MPa以上のフッ素樹脂チューブを用いた定着ベルトは公知のものではないと考えられる。
【0106】
引張強度が82MPa以上であれば、十分な耐久性を持った離型層82を形成することができる。また、引張強度が82MPa以上のフッ素樹脂チューブを用いることにより、従来と同程度の耐久性を達成するために必要なフッ素樹脂チューブの厚みを従来よりも薄くできるので、弾性層83の弾性を活かしながら、記録材の微小な凹凸に追従して変形し、記録材上のトナーを適切に定着させることができる。
【0107】
フッ素樹脂チューブの材料としては、熱収縮率5.5%以下であって、耐熱性および耐久性に優れ、トナーとの付着力が弱いものであれば特に制限されないが、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレンとペルフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体)などのフッ素系樹脂材料などが挙げられる。
【0108】
また、離型層82の厚さは5μm以上50μm以下であることが好ましい。この厚さ範囲であれば、適度な強度を持ち、弾性層の弾性を活かしながら、記録材の微小な凹凸に追従して変形し、記録材上のトナーを適切に定着させることができる。
【0109】
また、本実施形態では、柔軟性Sが0.15以上である定着ベルト71を用いた。
【0110】
なお、柔軟性Sは、図4に示す方法によって算出した。すなわち、自重等で変形していない状態(荷重が付与されていない状態)の定着ベルト71の外周面の周長を円周率で除算することで算出される定着ベルト71の外径をAとし、定着ベルト71の幅(220mm)よりも長い金属パイプ(パイプ部材)21(長さ:230mm、外径13mm)に定着ベルト71をセットし、この金属パイプ21の両端を固定支持し、定着ベルト71の幅(220mm)よりも長い測定用の荷重ローラ22(長さ:230mm、外径13mm、重さ115g)を定着ベルト71の内側における金属パイプ21よりも下方の位置に通して金属パイプ21および定着ベルト71によってこの荷重ローラ22を支持させることで定着ベルト71に荷重を付与したときの定着ベルト71の外周面における上端部から下端部までの長さをBとしたときに、「S=(B−A)/A」で定義される値である。
【0111】
柔軟性Sが0.15以上である定着ベルト71を用いることにより、定着ベルトに対する記録材のセルフストリッピング性(自己剥離性)を向上させ、記録材の定着ベルトに対する巻き付きを防止することができるので、定着可能な温度範囲を広くすることができる。
【0112】
(1−4)定着ベルト71の製造方法
次に、定着ベルト71の製造方法について図5を参照しながら説明する。図5は定着ベルト71の製造手順を示すフローチャートである。
【0113】
まず、離型層82となるフッ素樹脂チューブの外径よりも内径が少しだけ大きい円筒状金型を直立保持し、この円筒状金型の内側にフッ素樹脂チューブを挿通し、フッ素樹脂チューブと円筒状金型とを固定する(工程P1)。なお、フッ素樹脂チューブの内面をエッチングにより粗面化し、粗面化した面にプライマーを塗布して乾燥させる処理が施されたフッ素樹脂チューブを用いてもよい。
【0114】
また、工程P1と並行して、丸棒型(円柱型)の外周面に基材層84となる円筒型の材料(例えばポリイミド)を被せて丸棒型と上記材料とを固定する(工程P2)。
【0115】
その後、内面にフッ素樹脂チューブが挿通された円筒状金型の内側に、外面に基材層84となる材料が被された丸棒型を挿入し、円筒状金型と丸棒型とが同心円を成すように保持する(工程P3)。
【0116】
次に、円筒状金型と丸棒型との間、すなわちフッ素樹脂チューブと基材層84となる材料との間に弾性層83となる液状硬化型材料(弾性層前駆体。例えばシリコーンゴム。)を注入し、フッ素樹脂チューブと基材層84となる材料との間に液状硬化型材料が十分に充填されたときに加熱を開始する(工程P4)。
【0117】
その後、液状硬化型材料が硬化すると、丸棒型および円筒金型を引き抜く(工程P5)。
【0118】
これにより、基材層84(例えばポリイミド)上に弾性層83(例えばシリコーンゴム)および離型層82(例えばPTFEチューブあるいはPFAチューブ)が被覆された3層構造からなる定着ベルト71が完成する(工程P6)。上記の製造方法により、離型層82として収縮率が5%以下のフッ素樹脂チューブを備えた定着ベルト71を製造することができる。
【0119】
(1−5)実験結果
次に、定着ベルトの離型層として用いるフッ素樹脂チューブの熱収縮率、引張強度、および定着ベルトの柔軟性Sと、定着可能な温度範囲との関係を調べた実験結果について説明する。
【0120】
図6はこの実験に用いた定着ベルトの構成および特性値を示す図である。この図に示すように、実施例1〜8および比較例1〜3の合計11種類の定着ベルトを用いて実際に定着処理を行い、定着可能な温度範囲を調べた。具体的には、上記各定着ベルトを上述した定着装置4に装着し、用紙先端に2mmのボイドを形成し、用紙先端部および用紙後端部に3.5mm幅でトナー付着量:1.0mg/cmのベタ画像を形成したA4サイズの記録材に対する定着処理を行った。なお、上記の各定着ベルトは、いずれも上述した製造方法によって製造されたものであり、各層の材質または厚さが異なる以外は同様の構成である。
【0121】
図6に示したように、離型層(フッ素樹脂チューブ)の厚さが薄く、離型層の熱収縮率が小さく、基材層の厚さが薄いほど柔軟性Sは大きくなる。
【0122】
図7は各定着ベルトについての実験結果を示す表である。なお、図7に示した表における「定着温度」の項目において実験結果が「×」のものは低温オフセットまたは記録材の定着ベルトへの巻き付きが生じたことを示し、「△」のものは定着後の画像に光沢乱れが見られたことを示している。また、図7における「定着温度」の項目には示していないが、実施例6〜8では定着ベルトの離型層に皺が生じた。
【0123】
また、図7に示した表における「評価」の項目のうち、「巻付き」については定着温度150℃以上190℃以下の温度範囲で巻き付きが生じなかったものを「○」、定着温度190℃未満で巻き付きが生じたものを「×」とした。また、「光沢乱れ」については、定着温度150℃以上190℃以下で定着後の画像に光沢乱れが見られなかったものを「○」、定着温度190℃未満で光沢乱れが生じたものを「×」とした。また、皺の発生については、定着ベルトに皺が生じなかったものを「○」、皺が生じたものを「×」とした。
【0124】
図7に示したように、離型層(フッ素樹脂チューブ)の熱収縮率が5.5%以上であり、かつ定着ベルトの柔軟性Sが0.15以上である場合には、150℃〜190℃の広い範囲で記録材の巻き付きを生じさせずに定着処理を行うことができた。また、離型層(フッ素樹脂チューブ)の引張強度が82MPa以上である場合には離型層に皺が生じてしまうことがなく、ハンドリング特性や耐刷性の高い定着ベルトを実現できた。
【0125】
以上のように、本実施形態にかかる定着ベルト71は、内周面側から外周面側に向かって基材層84、弾性層83、および離型層82がこの順で形成されており、離型層82は熱収縮率が5.5%以下のフッ素樹脂チューブからなり、柔軟性Sの値が0.15以上である。
【0126】
このような、従来の定着ベルトよりも柔軟性が高い定着ベルトを用いることにより、定着ベルトに対する記録材のセルフストリッピング性(自己剥離性)を向上させ、記録材の巻き付きを生じさせることなく定着処理を行える温度範囲を広くすることができる。
【0127】
また、離型層82として、引張強度が82MPa以上のフッ素樹脂チューブを用いている。これにより、耐久性の高い定着ベルトを実現できる。
【0128】
なお、定着装置4の構成は上記した構成に限られるものではない。例えば、図3に示した定着装置4に代えて、図8に示す定着装置4bを用いてもよい。
【0129】
図3に示した定着装置4と図8に示した定着装置4bとの相違点は、定着ローラ50および加熱ローラ72に代えて、耐熱樹脂ステイ93、金属ステイ94、板状ヒータ91およびヒータ取付部92を備えている点である。金属ステイ94は定着装置4の筐体に固定されており、耐熱樹脂ステイ93は金属ステイ94に固定されている。また、板状ヒータ91はヒータ取付部92によって耐熱樹脂ステイ93に取り付けられており、定着ベルト71の内周面に当接してこの定着ベルト71を加熱するようになっている。そして、定着ベルト71は耐熱樹脂ステイ93に懸架されている。
【0130】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明は、定着ベルト方式の定着装置に備えられる定着ベルトおよびその製造方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0132】
4,4b 定着装置
21 金属パイプ(パイプ部材)
22 荷重ローラ
50 定着ローラ
60 加圧ローラ
64,74,75 加熱手段
71 定着ベルト
72 加熱ローラ
76 サーミスタ
82 離型層
83 弾性層
84 基材層
100 画像形成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トナー像が形成された記録材に加熱した無端状の定着ベルトの外周面を圧接させることによって上記トナー像を上記記録材に定着させる定着ベルト方式の定着装置に備えられる定着ベルトであって、
内周面側から外周面側に向かって基材層、弾性層、および離型層がこの順で形成されており、
上記離型層はフッ素樹脂チューブからなり、このフッ素樹脂チューブの内周面側に上記弾性層および上記基材層が設けられており、かつ、上記フッ素樹脂チューブを周方向に垂直な方向の長さが200mmになるように切断し、このフッ素樹脂チューブの内径の90%の外径を有するアルミパイプに被せ、上記フッ素樹脂チューブを被せたアルミパイプを200℃に加熱したオーブン内に3分間投入して加熱収縮させたときの、加熱収縮前のフッ素樹脂チューブの外径と加熱収縮後のフッ素樹脂チューブの外径との差を加熱収縮後のフッ素樹脂チューブの外径で除算した値である熱収縮率が5.5%以下であり、
荷重が付与されていない状態の当該定着ベルトの外径をAとし、当該定着ベルトを両端が固定支持された外径13mmのパイプ部材に掛け、さらに当該定着ベルトの内側における上記パイプ部材よりも下方の位置に外径13mm、重さ115gの荷重ローラを通して上記パイプ部材および当該定着ベルトによってこの荷重ローラを支持させることで当該定着ベルトに荷重を付与したときの当該定着ベルトの外周面における上端部から下端部までの長さをBとしたときに、S=(B−A)/Aで定義される定着ベルトの柔軟性Sの値が0.15以上であることを特徴とする定着ベルト。
【請求項2】
上記離型層は、当該離型層を構成する材質からなる幅10mmの短冊状試験片に対してチャック間距離50mm、試験速度100mm/minの条件で引張試験を行ったときの、上記試験片が破断せずに耐えられる最大引張荷重を、引張荷重を付与する前の上記試験片における引張荷重の付与方向に垂直な断面の断面積で徐した値である引張強度が82MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の定着ベルト。
【請求項3】
上記離型層は、PTFEチューブからなることを特徴とする請求項1または2に記載の定着ベルト。
【請求項4】
上記基材層はポリイミドからなり、上記弾性層は液状シリコーンゴムからなることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の定着ベルト。
【請求項5】
トナー像が形成された記録材に加熱した無端状の定着ベルトを圧接させることによって上記トナー像を上記記録材に定着させる定着ベルト方式の定着装置であって、
請求項1から4のいずれか1項に記載の定着ベルトを備えることを特徴とする定着装置。
【請求項6】
記録材上にトナー像を形成する画像形成部と、
上記画像形成部によって記録材上に形成されたトナー像をこの記録材に定着させる請求項5に記載の定着装置とを備えていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
トナー像が形成された記録材に加熱した無端状の定着ベルトの外周面を圧接させることによって上記トナー像を上記記録材に定着させる定着ベルト方式の定着装置に備えられる定着ベルトの製造方法であって、
熱収縮率が5.5%以下であるフッ素樹脂チューブの内側に、このフッ素樹脂チューブの内径よりも外径が小さい円筒型の基材とを上記フッ素樹脂チューブと上記基材とが同心円を成すように配置する工程と、
上記フッ素樹脂チューブと上記基材との間に弾性層前駆体を注入する工程と、
加熱処理によって上記弾性層前駆体を硬化させて弾性層を形成する工程とを含み、
上記熱収縮率は、上記フッ素樹脂チューブを周方向に垂直な方向の長さが200mmになるように切断し、このフッ素樹脂チューブの内径の90%の外径を有するアルミパイプに被せ、上記フッ素樹脂チューブを被せたアルミパイプを200℃に加熱したオーブン内に3分間投入して加熱収縮させたときの、加熱収縮前のフッ素樹脂チューブの外径と加熱収縮後のフッ素樹脂チューブの外径との差を加熱収縮後のフッ素樹脂チューブの外径で除算した値であることを特徴とする定着ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−81252(P2011−81252A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234345(P2009−234345)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】