説明

定着ローラ、該定着ローラを有する定着装置、及び該定着装置を有する画像形成装置、並びに定着ローラの製造方法

【課題】加熱された定着ローラと、加圧ローラとの間に、トナー像を担持した記録材を通過させて、そのトナー像を記録材上に定着する定着装置において、定着ローラのウォームアップ時間を短縮し、かつトナー像の定着性と、記録材の搬送性を高める。
【解決手段】定着ローラ16を、剛体より成る基材23、その表面に設けた断熱層25、さらにその表面に設けた発熱体31、さらにその表面に設けた円筒状部材26によって構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着ローラ、該定着ローラを有する定着装置、及び該定着装置を有する画像形成装置、並びに定着ローラの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタ、ファクシミリ、或いはこれらの少なくとも2つの機能を備えた複合機などとして構成される画像形成装置においては、記録材上にトナー像を形成し、そのトナー像を定着装置によって定着している。定着装置としては、加熱定着方式、圧力定着方式或いは溶剤定着方式などの定着装置が従来より知られている。このうちの熱定着方式の定着装置は、記録材上のトナーに熱と圧力を加えてトナー像を記録材上に定着するものであり、従来より広く採用されている定着方式である。かかる熱定着方式の定着装置でも最も一般的なものは、定着ローラとその定着ローラに圧接した加圧部材を有し、その定着ローラを加熱して当該定着ローラと加圧部材の間にトナー像を担持した記録材を通過させることにより当該トナー像を記録材上に定着する定着装置である。また定着ローラと他のローラとに無端状の定着ベルトを巻き掛けると共に、当該定着ベルトを介して加圧部材を圧接させ、その定着ベルトを加熱し、定着ローラと加圧部材の間に記録材を通過させて、当該記録材上のトナー像を定着する熱定着方式の定着装置も従来より周知である。
【0003】
上述の熱定着方式の定着装置においては、トナー像の定着動作時に定着ローラ或いは定着ベルトがトナー像の定着に適した定着温度になっている必要がある。このため、画像形成装置の電源オン時には、定着ローラ又は定着ベルトが定着温度に達してから定着動作を開始しなければならない。定着ローラ又は定着ベルトがこのような定着温度に達するまでの時間は、一般にウォームアップ時間と称せられているが、従来の定着装置では、このウォームアップ時間が長くなり、ユーザに多大な不便をかけるおそれがあった。
【0004】
そこで、定着ローラの厚みを薄くしてその熱容量を小さくし、短時間で定着ローラないしは定着ベルトを定着温度にまで加熱できるように構成することが考えられる。定着ローラを薄肉化すればする程、ウォームアップ時間を短縮でき、ユーザの待ち時間を短かくすることができる。
【0005】
ところが、定着ローラの厚みを薄くすると、その剛性が低下し、加圧部材に直接又は定着ベルトを介して圧接した定着ローラの長手方向中央が撓んだり、弾性的に潰れ変形し、これによって定着ローラと加圧部材の間を搬送される記録材にしわが発生してその搬送性が低下したり、トナー像に対して所定の均一な圧力と定着に必要な熱量を与えることができなくなり、トナー像を確実に定着できなくなるおそれがある。このように、定着ローラを用いた定着装置においては、ウォームアップ時間を短かくし、かつ当該定着ローラの剛性低下を防止するという2つの要求を同時に満足させなければならないが、従来は、このような要求を同時に満足させることは困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の第1の目的は、ウォームアップ時間を従来より短縮できると共に、剛性の低下を抑えることのできる定着ローラを提供することにある。
【0007】
本発明の第2の目的は、上記定着ローラを有する定着装置を提供することにある。
【0008】
本発明の第3の目的は、上記定着装置を有する画像形成装置を提供することにある。
【0009】
本発明の第4の目的は、上記定着ローラの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記第1の目的を達成するため、剛体より成る円筒状の基材と、該基材の外側に配置された断熱層と、該断熱層の外側に設けられた円筒状部材とを具備して成る定着ローラを提案する(請求項1)。
【0011】
その際、前記断熱層と円筒状部材の間に配置された発熱体を具備すると有利である(請求項2)。
【0012】
また、上記請求項1に記載の定着ローラにおいて、前記基材は、その内部に輻射ヒータが配置される透明ガラス管より成り、前記断熱層は、前記透明ガラス管の外周面に疎らに配置されていると有利である(請求項3)。
【0013】
さらに、上記請求項1乃至3のいずれかに記載の定着ローラにおいて、前記断熱層は、多層に重ねた耐熱性樹脂フィルムより成ると有利である(請求項4)。
【0014】
また、上記請求項1乃至3のいずれかに記載の定着ローラにおいて、前記断熱層は、多層に重ねた穴のあいた耐熱性樹脂フィルムより成ると有利である(請求項5)。
【0015】
さらに、上記請求項1乃至3のいずれかに記載の定着ローラにおいて、前記断熱層は、多孔質の耐熱性樹脂より成ると有利である(請求項6)。
【0016】
また、上記請求項1乃至6のいずれかに記載の定着ローラにおいて、前記円筒状部材は、厚さ0.3mm以下の金属より成ると有利である(請求項7)。
【0017】
さらに、本発明は、上記第2の目的を達成するため、請求項1乃至7のいずれかに記載の定着ローラと、該定着ローラに圧接する加圧部材とを具備する定着装置を提案する(請求項8)。
【0018】
また、上記請求項8に記載の定着装置において、前記円筒状部材の代りに、当該円筒状部材を有さない定着ローラと他のローラとに巻き掛けられた無端状の定着ベルトを具備し、該定着ベルトを介して、円筒状部材を有さない定着ローラと前記加圧部材とが圧接しているように構成することもできる(請求項9)。
【0019】
さらに、本発明は、上記第3の目的を達成するため、請求項8又は9に記載の定着装置と、該定着装置により定着されるトナー像を記録材上に形成する作像手段を具備する画像形成装置を提案する(請求項10)。
【0020】
また、本発明は、上記第4の目的を達成するため、円筒状部材以外の定着ローラ部材を一体化したローラ体を構成すると共に、該円筒状部材を熱膨張させた後、その内部に、前記ローラ体を挿入し、次いで円筒状部材を冷却して、該円筒状部材とローラ体を一体化することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の定着ローラの製造方法を提案する(請求項11)。
【発明の効果】
【0021】
請求項1及び2に係る発明によれば、定着ローラの基材と円筒状部材の間に断熱層が設けられているので、円筒状部材のウォームアップ時間を短縮でき、しかも円筒状の基材により定着ローラの剛性を高め、トナー像の定着性と、記録材の搬送性を高めることができる。
【0022】
請求項3に係る発明によれば、定着ローラの基材と円筒状部材の間に断熱層が設けられているので、円筒状部材のウォームアップ時間を短縮でき、しかも円筒状の基材により定着ローラの剛性を高め、トナー像の定着性と、記録材の搬送性を高めることができる。さらに基材が透明ガラス管より成り、かつ断熱層が疎らに配置されているので、基材内の輻射ヒータからの輻射熱を効率よく円筒状部材に伝えることができる。
【0023】
請求項4に係る発明によれば、耐熱性樹脂フィルムの間に空気層ができるため、断熱層の断熱効果を高めることができる。
【0024】
請求項5に係る発明によれば、穴のあいた耐熱性樹脂フィルムを複数重ねた断熱層を用いたので、その断熱層熱に多量の空気が存在し、これによって断熱層の断熱性をより高めることができる。
【0025】
請求項6に係る発明によれば、断熱層が多孔質であるため、断熱層内に多量の空気が存在し、これによって断熱層の断熱性をより高めることができる。
【0026】
請求項7に係る発明によれば、円筒状部材の熱容量を極めて小さくできるので、ウォームアップ時間をより確実に短縮させることができる。
【0027】
請求項8及び9に係る発明によれば、ウォームアップ時間の短縮と、記録材の搬送性及びトナーの定着性を高めた定着装置を供することができる。
【0028】
請求項10に係る発明によれば、ウォームアップ時間の短縮と、記録材の搬送性及びトナーの定着性を高めた定着装置を備えた画像形成装置を供することができる。
【0029】
請求項11に係る発明によれば、容易に定着ローラを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態例を図面に従って詳細に説明する。
【0031】
図1は、画像形成装置の一例であるレーザプリンタの垂直断面図であり、ここに示した画像形成装置は、記録材上にトナー像を形成する作像手段30と、記録材上のトナー像を定着する定着装置14と、作像手段30に記録材を給送する記録材給送装置7とを具備している。先ず作像手段30の構成と作用を明らかにする。
【0032】
図1に例示した作像手段30は、画像形成装置本体1の内部に配置された像担持体の一例であるドラム状の感光体2を有し、プリント動作が行われるとき、感光体2は図1における反時計方向に回転駆動される。このとき、帯電装置3によって、感光体表面が所定の極性に均一に帯電され、その帯電面に、露光装置の一例であるレーザ書き込みユニット4から出射する光変調されたレーザ光Lが照射され、これによって感光体上に静電潜像が形成される。
【0033】
上記静電潜像は、現像装置5によってトナー像として可視像化される。ここに示した現像装置5は、粉体状の現像剤Dを収容した現像ケース18と、その現像剤を担持して搬送する現像ローラ6を有し、その担持された現像剤のトナーが感光体表面に静電的に移行して静電潜像がトナー像として可視像化される。
【0034】
また、本例の作像手段30は、感光体2上に形成されたトナー像を後述するように記録材上に転写する転写装置の一例である転写ローラ11と、転写後の感光体表面に付着する転写残トナーを除去するクリーニング装置12と、記録材を感光体から分離する分離爪15とを有している。
【0035】
次に、記録材給送装置7の構成と作用を説明する。
【0036】
記録材給送装置7は、画像形成装置本体1の下部に配置されたカセット8と、給送ローラ9と、一対のレジストローラ10とを有し、カセット8に収容された記録材Pが給送ローラ9の回転によって1枚ずつ送り出される。送り出された記録材Pは、その先端が一対のレジストローラ10に突き当って、一旦、停止する。次いで、所定のタイミングでレジストローラ10が回転を開始し、これにより、感光体2上に形成されたトナー像に整合するタイミングで、記録材が、転写ローラ11と感光体2との間の領域の転写部に向けて送り出される(矢印A方向)。記録材が転写部を通る時、感光体表面のトナー像が記録材表面に転写される。記録材Pとしては、紙、樹脂シート又は樹脂フィルムなどが使用される。
【0037】
記録材Pに転写されずに感光体表面に付着する転写残トナーは、クリーニング装置12のクリーニング部材13によって感光体表面から除去され、その表面が清掃される。記録材Pは、除電針15より成る分離装置の作用で感光体2から分離される。
【0038】
次に定着装置14の概略を説明する。
【0039】
図1に示した定着装置14は、定着ローラ16と、加圧部材の一例である加圧ローラ17を有し、これらのローラ16,17は互いに圧接しながら図1に矢印で示した方向にそれぞれ回転する。除電針15により感光体2から分離された記録材は、定着ローラ16と加圧ローラ17との間を通り、このとき記録材上のトナーが、定着ローラ16から受ける熱の作用で溶融し、しかも定着ローラ16と加圧ローラ17から圧力を受ける。このようにして記録材上のトナー像が記録材上に定着される。定着装置14を通過した記録材は、排紙ローラ対19によって画像形成装置本体1の外装カバーにより構成された排紙トレイ20上に排出される。
【0040】
また、本例の定着装置14は、定着ローラ16の表面温度を検知する温度検知手段の一例であるサーミスタ24を有し、このサーミスタ24は定着ローラ16の表面に当接している。定着ローラ16はサーミスタ24の温度検知結果に基づいて、トナー像の定着に適した定着温度に加熱される。
【0041】
加圧ローラ17は、定着ローラ16に対して平行に位置し、金属製の剛体より成る芯金21と、その外周面に固定された例えばシリコーンゴムより成る弾性体層22を具備し、その弾性体層22は、定着ローラ16との圧接部において圧縮した状態に弾性変形し、これによって記録材搬送方向に所定の幅を持つニップNが形成される。
【0042】
以上、図1に示した画像形成装置の基本構成とその作用を説明したが、この画像形成装置の定着装置14、特にその定着ローラ16は、次に説明するように各種態様で構成される。
【0043】
図2は、その第1の例の定着ローラ16を示す拡大断面図である。ここに例示した定着ローラ16は、剛体より成る円筒状の基材23と、その基材23の半径方向外側に配置された断熱層25と、その断熱層25の半径方向外側に設けられた円筒状部材26とを具備し、図2に示した例では、基材23の外周面に直に断熱層25が固定され、その断熱層25の外周面に直に円筒状部材26が固定されていて、これらの要素23,25,26が同心状に配置されている。
【0044】
基材23は、例えば硬質の樹脂又は金属、ガラス、或いはそれらの複合材料により構成され、その厚さは2mm以上であることが好ましい。
【0045】
また断熱層25は、例えば、耐熱性に優れた樹脂により構成される。具体的には、特にポリイミドより成る断熱層25が優れているが、そのほか、ポリイミドアミド、アラミド、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリベンゾイミダゾール、液晶ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、シリコーン、アルミナなどの有機、無機材料、或いはこれらの材料とポリイミドを含めた材料の複合材料などから断熱層25を構成することができる。
【0046】
円筒状部材26は、厚みの薄い樹脂又は金属により構成され、特に、厚さが0.3mm以下、好ましくは0.2mm以下の金属より成る熱容量の特に小なる円筒状部材26を用いることが有利である。円筒状部材26の外周面には、記録材P上のトナーが移行し難くなるように、例えばフッ素系の樹脂から成る離型層29が形成されているが、かかる離型層29を省略することもできる。
【0047】
上述の定着ローラ16は、適宜な加熱手段により加熱され、例えば図2に示すように、ヒータ27を内設した加熱ローラ28を定着ローラ16の外周面に当接させ、定着ローラ16の回転に伴って、ヒータ27により加熱された加熱ローラ28を図2に矢印で示す方向に回転させ、これによって定着ローラ16の表面をトナー像の定着に適した温度に加熱することができる。定着ローラ16の外部からの輻射、対流、或いは誘導加熱手段により、定着ローラ16を加熱することもできる。
【0048】
上述した定着ローラ16によれば、画像形成装置の電源オンに伴って定着ローラ16と加熱ローラ28が回転を開始し、ヒータ27への通電によってその熱が加熱ローラ28を介して定着ローラ16の円筒状部材26に伝えられ、これが加熱されるが、この円筒状部材26は熱容量が小さく、しかもその内側には断熱層25が存在するので、円筒状部材26の熱が基材23に伝わり難い。このため、極めて短時間で、円筒状部材26をトナー像の定着に適した温度にまで昇温させることができ、ウォームアップ時間を確実に短縮することができる。
【0049】
しかも、定着ローラ16と加圧ローラ17が図1に矢印で示した方向に回転してこれらのローラ16,17の間に記録材が通されてトナー像の定着動作が行われるとき、定着ローラ16はその中心側に剛体より成る基材23と、断熱層25を有しているので、定着ローラ16は大きな剛性を示す。特に、基材23は、内部が中空な円筒状に形成されているので、同じ量の材料を用いて製造した中実の軸より成る基材を採用した場合に比べ、その剛性を著しく高めることができる。
【0050】
上述のように定着ローラ16の剛性を高めることができるので、加圧ローラ17により加圧された定着ローラ16の長手方向中央部が弾性的に大きく撓んだり、大きく潰れ変形することはなく、トナー像の定着に必要なニップN(図1)を確保でき、記録材上のトナーに対して定着に必要とされる均一な圧力と熱量を付与することができる。これによって、トナー像を確実に記録材上に定着でき(定着性の向上)、しかも定着ローラ16と加圧ローラ17に挟持されて搬送される記録材にしわが発生する不具合を防止できる(記録材の搬送性の向上)。
【0051】
図3に示した第2の例の定着ローラ16は、断熱層25と円筒状部材26の間に配置された発熱体31を有し、その発熱体31の円筒状部材26の側の表面には、例えばポリイミドフィルムなどの電気的に絶縁性を示す絶縁層33が積層されている。その他の構成は図2に示した定着ローラと変りはない。発熱体31は、例えば、金属製のシートないしはフィルムより成る抵抗体によって構成され、かかる発熱体31への通電によって発熱体31を発熱させ、これにより定着ローラ16の円筒状部材26を加熱する。この構成によっても、その外側の円筒状部材26の熱容量が小さく、しかも断熱層25によって円筒状部材26の熱が基材23の側に伝わり難くなり、さらに基材23と断熱層25とによって定着ローラ16の大きな剛性が確保されるので、図2に示した定着ローラと全く同様に、ウォームアップ時間を短縮でき、しかも定着性の向上と、記録材の搬送性の向上、すなわち記録材へのしわの発生を防止することができる。
【0052】
図4に模式的に示した第3の例の定着ローラ16は、基材23が透明ガラス管より成り、その内部に、例えばハロゲンヒータより成る輻射ヒータ32が配置される。透明ガラス管より成る基材23のまわりには、先に例示した材料より成る断熱層25が設けられているが、この例の断熱層25は、透明ガラス管より成る基材23の外周面に疎らに配置されている。
【0053】
図5は、図4に示した円筒状部材26を除去して断熱層25を露出させたときの定着ローラの側面図であるが、ここに示した例では、断熱層25がテープ状に形成され、かかるテープ状の断熱層25が透明ガラス管より成る円筒状の基材23の表面に、隙間Gをあけてらせん状に巻き付けられている。断熱層25が透明ガラス管の外周面に隙間Gをあけて疎らに配置されているのである。かかる断熱層25のまわりに、先の例の場合と同じく構成された円筒状部材26が固定されている。図4に示した定着ローラ16の他の構成は図1に示した定着ローラと変りはなく、発熱体が設けられていない点も、図1に示した定着ローラと相違はない。
【0054】
上述の第3の定着ローラ16においては、輻射ヒータ32への通電によりそのヒータ32で発生した輻射熱が、透明ガラス管より成る基材23を透過し、さらにテープ状の断熱層25の間の隙間Gを通って円筒状部材26に達し、ここで吸収され、これによって円筒状部材26が加熱される。この構成によっても、画像形成装置の電源オンに伴う輻射ヒータ32への通電によって、熱容量の小さな円筒状部材26を加熱し、しかも断熱層25の作用によって、円筒状部材26の熱を基材23の側へ伝え難くすることができるので、円筒状部材26を早期に定着温度にまで昇温させ、ウォームアップ時間の短縮を図ることができる。断熱層25は、基材23上に隙間Gをあけて疎らに位置しているので、輻射ヒータ32からの輻射熱が断熱層25に吸収され難く、しかもその隙間Gを通して効率よく円筒状部材26に到達し、さらに円筒状部材26の熱を、断熱層25によって基材23の側へ伝わり難くすることができるのである。また、透明ガラス管より成る円筒状の基材23と、断熱層25とによって定着ローラ16の剛性を高めることができ、これによって先に示した例の場合と同様に、トナー像の定着性を高め、しかも記録材にしわを生ぜしめることなく、これを搬送でき、記録材の搬送性を高めることができる。
【0055】
輻射ヒータ32としては、ガラス中の透過性に優れた短波長の発光分布の光を発生するヒータを用い、その色温度が2700K以上であることが好ましい。
【0056】
なお、図3乃至図5に示した第2及び第3の例の定着ローラ16の場合には、その定着ローラ16の円筒状部材26を定着温度にまで昇温させるウォームアップ(立上り)時に、当該定着ローラ16を停止させたままにしてもよいし、これを回転させるようにしてもよい。
【0057】
上述した各例の定着ローラ16の断熱層25としては、先に例示した材料より成る単層のフィルムないしはシートを用いてもよいが、図6に模式的に拡大して示すように、厚さtが例えば50μm程の耐熱性フィルム34を多層に重ねたものを用いると有利である。フィルム34としては、例えば先に例示した樹脂より成るフィルムを用いることができる。このように、断熱層25が、多層に重ねた耐熱性樹脂フィルム34より成ると、そのフィルム間に微小な空気層AGが形成され、これによって弾熱性を格段と向上させることができる。
【0058】
また、図7に模式的に拡大して示すように、例えば先に例示した樹脂より成る耐熱性フィルム36を多層に重ね、その各フィルム36に穴35を形成した断熱層25を用いることもできる。このように、多層に重ねた穴35のあいた耐熱性樹脂フィルム36より成る断熱層25を用いると、その各フィルム36の接触面積が減少し、しかも断熱層25の内部により多くの空気が存在するので、断熱性をより一層向上させ、定着ローラ16のフォームアップ時間をより一層短縮させることができる。
【0059】
さらに、図8に模式的に拡大して示すように、例えばポリイミド粉末を焼結して内部に多数の空隙を形成したシート状の断熱層25を用いることもできる。このように、多孔質の耐熱性樹脂より成る断熱層25を用いると、その内部により一層多くの空気を存在させることができ、その断熱性をより確実に高めることができる。
【0060】
図1に示した定着装置14は、上述の例の定着ローラ16と、その定着ローラ16に圧接する加圧部材の一例である加圧ローラ17を有しているが、かかる加圧ローラ17の代りに、例えば、複数のローラに巻き掛けられて駆動される加圧ベルトより成る加圧部材を用い、その加圧ベルトを定着ローラ16に圧接させ、当該定着ローラ16と加圧ベルトの間に記録材を通し、このときその記録材上のトナー像を熱と圧力の作用により定着するように構成することもできる。
【0061】
また、以上説明した各構成の定着ローラ16から円筒状部材26を省き、その円筒状部材を有さない定着ローラと他のローラとに定着ベルトを巻き掛けて定着装置を構成することもできる。
【0062】
図9は、図2に示した定着ローラ16から円筒状部材26を除去して成る定着ローラ16と、他のローラ37とに、例えば、厚さが0.2mm以下、好ましくは0.1mm以下の無端状の金属製の定着ベルト38を巻き掛け、その定着ベルト38を介して、加圧部材の一例である加圧ローラ17を定着ローラ16に圧接させた定着装置14の例を示している。定着ローラ16とローラ37の間の定着ベルト内空間に、例えばハロゲンヒータより成るヒータ41が配置され、このヒータ41への通電によって定着ローラ16と定着ベルト38が加熱される。定着ベルト38の表面に、例えばフッ素系樹脂より成る離型層39を形成し、定着ベルト38の表面にトナーが付着するオフセットを防止するように構成することが好ましい。このように、円筒状部材の代りに、当該円筒状部材を有さない定着ローラ16と他のローラ37とに巻き掛けられた無端状の定着ベルト38を具備し、該定着ベルト38を介して、円筒状部材を有さない定着ローラ16と加圧部材とが圧接するように、定着装置14を構成するのである。かかる定着装置14によっても、そのウォームアップ時に、定着ローラ16と、ローラ37と、定着ベルト38と、加圧ローラ17を回転させつつ、ヒータ41への通電によって定着ローラ16と定着ベルト38を加熱するとき、これらを早期に定着温度にまで昇温させ、ウォームアップ時間の短縮を図ることができる。しかも剛性の大なる基材23によって、定着ローラ16の全体の剛性を高め、定着動作時のトナー像の定着性と、記録材の搬送性を高めることができる。
【0063】
また、ローラ37も、剛性の大なる円筒状の基材23Aと、その外周面に固定された断熱層25Aを有していると、定着ベルト38の熱がローラ37に移行し難くなり、定着ベルト38のウォームアップ時間をより一層短縮することが可能となる。
【0064】
図3乃至図5に示した定着ローラ16から円筒状部材26を除去して成る定着ローラに、定着ベルトを巻き掛けて、図9に示した定着装置14と同様な定着装置を構成することもでき、かかる定着装置によっても上述した作用効果を奏することができる。この場合には、図9に示したヒータ41を省略することもできる。
【0065】
また図1に示した画像形成装置は、以上説明した各定着ローラ16ないしはその定着ローラ16を有する定着装置14と、該定着装置14により定着されるトナー像を記録材P上に形成する作像手段30を具備する画像形成装置の一例を示すものであるが、作像手段として、図1に示したもの以外の各種形式の作像手段を採用することもできる。
【0066】
円筒状部材26を有する前述の定着ローラ16は適宜な方法で製造することができるが、次のようにして簡単に定着ローラ16を製造することもできる。
【0067】
図10の(a)に示すように、円筒状部材26を用意し、この円筒状部材26を図10の(b)に示すように加熱して膨張させ(膨張方向を矢印で示す)、その径を拡大させる。一方、円筒状部材26以外の定着ローラの部材を一体化してローラ体40を構成し、図10の(c)に示すように、膨張した円筒状部材26の内部にローラ体40を挿入し、次いで図10の(d)に示すように円筒状部材26を冷却してその径を縮小させ(収縮方向を矢印で示す)、円筒状部材26とローラ体40を一体化する。定着ローラ16を構成する各部材を接着剤によって固定してもよい。また円筒状部材26の表面の離型層29は、円筒状部材26をローラ体40に一体化する前に形成してもよいし、一体化後に形成してもよい。
【0068】
上述した各例の定着ローラ16及び定着ベルト38を加熱する手段としては、図示した例に限らず、外部からの熱伝導、輻射、対流、外部と内部の少なくとも一方からの誘導加熱手段などを適宜採用することができる。
【実施例】
【0069】
次に定着装置のより具体的な実施例と比較例を説明する。
【0070】
各実施例と比較例に用いた定着ローラ16の円筒状部材26は、外径50mm、長さ365mmであり、その表面にPFA樹脂より成る離型層29を積層した。円筒状部材26は全てアルミニウム製で、その厚さは後述するとおりである。定着ローラ16に圧接する加圧ローラ17は、芯金21上にシリコーンゴム製の弾性体層22を設けたものであり、その長手方向各端部を120Nの力で加圧して、当該加圧ローラ17を定着ローラ16に圧接させ、両ローラ16,17の接触部、すなわちニップNの幅を約9mmとした。かかる定着ローラ16の表面の目標温度を160℃とし、その表面温度が160℃となるように、当該定着ローラをウォームアップすると共に、定着動作時には定着ローラ16の表面温度が160℃となるように温度制御し、紙より成る記録材を330mm/秒の速さで回転する定着ローラ16と加圧ローラ17の間に通し、記録材上のトナー像を定着した。このようにして、1200W投入時のウォームアップ時間と、記録材の搬送性及びトナー像の定着性を評価した結果が表1である。
【0071】
表1の各実施例と比較例における定着ローラ16のより具体的な構成と、その加熱方式は次のとおりである。
(1)実施例1−1(図3参照)
円筒状部材26:厚さ0.2mmのアルミニウム製。
加熱方式:円筒状部材26の内周面に25μm厚さのポリイミドフィルムより成る絶縁層33を配置し、その内側にステンレス鋼製の発熱体31を配置し、この発熱体31の通電により、当該発熱体31を発熱させた。断熱層25の外周面にテープ状の発熱体31を、定着ローラ16の軸線方向に間隔をあけてらせん状に巻回して取り付けた。
断熱層25:0.2mmの厚さのポリイミド成形品。
基材23:肉厚2mmのアルミニウム製。
(2)実施例1−2(図3参照)
円筒状部材26:実施例1−1と同じ。
加熱方式:実施例1−1と同じ。
断熱層25:50μmの厚さのポリイミドフィルムを4層に重ね合せたもの(図6参照)。
基材23:実施例1−1と同じ。
(3)実施例1−3(図3参照)
円筒状部材26:実施例1−1と同じ。
加熱方式:実施例1−1と同じ。
断熱層25:50μmの厚さのポリイミドフィルムに面積率50%の穴をあけ、そのフィルムを4層に重ね合せたもの(図7参照)。
基材23:実施例1−1と同じ。
(4)実施例1−4(図3参照)
円筒状部材26:実施例1−1と同じ。
加熱方式:実施例1−1と同じ。
断熱層25:ポリイミド粉末を、空隙率60%、厚さ0.2mmに焼結したもの(図8参照)。
基材23:実施例1−1と同じ。
(5)比較例1−1
円筒状部材26:実施例1−1と同じ。
加熱方式:実施例1−1と同じ。
断熱層:無し
基材:無し
(6)比較例1−2
円筒状部材26:厚さ2mmのアルミニウム製。
加熱方式:実施例1−1と同じ。
断熱層:無し
基材:無し
(7)比較例1−3
円筒状部材26:厚さ1.5mmのアルミニウム製。
加熱方式:実施例1−1と同じ。
断熱層:無し
基材:無し
(8)実施例2(図4及び図5参照)
円筒状部材26:厚さ0.2mmのアルミニウム製。
加熱方式:基材23内の中央に配置したハロゲンヒータ32に通電。
断熱層25:幅5mm、厚さ50μmのポリイミドフィルムを4層重ね合せたものを、15mmの隙間Gをあけて基材23の外周面にらせん状に巻回。
基材23:肉厚2mmの透明ガラス管。
(9)比較例2−1
円筒状部材26:実施例2と同じ。
加熱方式:実施例2と同じ。
断熱層:無し
基材:無し
(10)比較例2−2
円筒状部材26:厚さ2mmのアルミニウム製。
加熱方式:実施例2と同じ。
断熱層:無し
基材:無し
(11)比較例2−3
円筒状部材26:厚さ1.5mmのアルミニウム製。
加熱方式:実施例2と同じ。
断熱層:無し
基材:無し
(12)実施例3(図9参照)
定着ベルト:厚さ0.1mmのステンレス鋼製。
加熱方式:定着ベルト38の内側に配置したハロゲンヒータ41に通電。
断熱層25:ポリイミド粉末を空隙率60%、厚さ0.2mmに焼結したもの(図8参照)。
基材23:厚さ2mmのアルミニウム製。
【0072】
【表1】

【0073】
実施例3においては、定着ローラ16と定着ベルト38のウォームアップ時に、定着ローラ16と定着ベルト38を共に回転させ、他の場合は、ウォームアップ時に定着ローラ16を停止させた。表1中の「○」は記録材にしわが発生せず、記録材の搬送性が良好であったこと、及びトナー像の定着性が良好であったことを示し、「×」はそうでなかったことを示す。
【0074】
表1から判るように、基材23の無い比較例の場合、円筒状部材26の肉厚が2mmよりも小さなときは、記録材の搬送性を満たすことができない。これは、定着ローラ16の剛性不足により、定着ローラ16の長手方向中央部が撓み、或いは潰れ変形し、記録材の搬送性が悪化したためである。特に、比較例1−1及び2−1では、円筒状部材26の厚みが0.2mmと極く薄いため、定着ローラ16が完全に変形し、全ての記録材にしわが発生した。しかもトナー像の定着性を満足させることもできない。これは、定着ローラ16の変形により、トナー像の定着に必要なニップN(図1)が得られないためである。
【0075】
一方、比較例1−2及び2−2では、円筒状部材26の厚さが2mmと厚いため、記録材の搬送性とトナー像の定着性は満足するものの、実施例に比べて大幅に長いウォームアップ時間が必要である。このような定着ローラ16を用いた場合には、電源はオンされているが、プリント動作が行われていない待機時に、定着ローラ16を定着温度よりも低い待機温度に予熱しておく必要があるが、かかる予熱を行えば、定着装置の非使用時にも大きなエネルギーを消費する不具合を免れない。
【0076】
実施例1−1,1−2及び1−3においては、発熱体31からの熱伝動によって円筒状部材26を加熱し、断熱層25によって、円筒状部材26の熱が基材23へ伝わることを防止できるので、ウォームアップ時間を短縮できる。但し、断熱層25にも多少の熱が伝わるので、比較例1−1よりもややウォームアップ時間が長いが、比較例1−2及び1−3に比べてウォームアップ時間を大幅に短縮できた。
【0077】
また、実施例2では、輻射ヒータ32の輻射熱が透明ガラス管を透過するので、実施例1−1,1−2及び1−3に比べてウォームアップ時間が若干長くなるが、比較例2−2及び2−3に比べて大幅に短縮されている。
【0078】
いずれの実施例においても、ウォームアップ時間が10秒以下となっているが、このようにウォームアップ時間を10秒以下にできれば、通常、ユーザに対してほとんど不便を感じさせない。従って、電源オン状態での定着装置の非使用時に定着ローラを予熱しておかなくともよく、或いは従来よりも低い予熱温度で定着ローラを待機させておくことができ、これによって消費エネルギーを効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】画像形成装置の一例を示す概略垂直断面図である。
【図2】定着ローラの一例を示す横断面図である。
【図3】定着ローラの他の例を示す横断面図である。
【図4】定着ローラのさらに他の例を示す横断面図である。
【図5】図4に示した定着ローラの円筒状部材を除去して断熱層を露出させた状態の側面図である。
【図6】断熱層の模式的な拡大断面図である。
【図7】他の断熱層の模式的な拡大断面図である。
【図8】さらに他の断熱層の模式的な拡大断面図である。
【図9】定着ローラと他のローラに定着ベルトを巻き掛けた定着装置を示す断面図である。
【図10】定着ローラの製造工程を示す断面図である。
【符号の説明】
【0080】
14 定着装置
16 定着ローラ
23 基材
25 断熱層
26 円筒状部材
30 作像手段
31 発熱体
34 耐熱性樹脂フィルム
36 耐熱性樹脂フィルム
37 ローラ
38 定着ベルト
40 ローラ体
AG 空気層
P 記録材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛体より成る円筒状の基材と、該基材の外側に配置された断熱層と、該断熱層の外側に設けられた円筒状部材とを具備して成る定着ローラ。
【請求項2】
前記断熱層と円筒状部材の間に配置された発熱体を具備する請求項1に記載の定着ローラ。
【請求項3】
前記基材は、その内部に輻射ヒータが配置される透明ガラス管より成り、前記断熱層は、前記透明ガラス管の外周面に疎らに配置されている請求項1に記載の定着ローラ。
【請求項4】
前記断熱層は、多層に重ねた耐熱性樹脂フィルムより成る請求項1乃至3のいずれかに記載の定着ローラ。
【請求項5】
前記断熱層は、多層に重ねた穴のあいた耐熱性樹脂フィルムより成る請求項1乃至3のいずれかに記載の定着ローラ。
【請求項6】
前記断熱層は、多孔質の耐熱性樹脂より成る請求項1乃至3のいずれかに記載の定着ローラ。
【請求項7】
前記円筒状部材は、厚さ0.3mm以下の金属より成る請求項1乃至6のいずれかに記載の定着ローラ。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の定着ローラと、該定着ローラに圧接する加圧部材とを具備する定着装置。
【請求項9】
前記円筒状部材の代りに、当該円筒状部材を有さない定着ローラと他のローラとに巻き掛けられた無端状の定着ベルトを具備し、該定着ベルトを介して、円筒状部材を有さない定着ローラと前記加圧部材とが圧接している請求項8に記載の定着装置。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の定着装置と、該定着装置により定着されるトナー像を記録材上に形成する作像手段を具備する画像形成装置。
【請求項11】
円筒状部材以外の定着ローラ部材を一体化したローラ体を構成すると共に、該円筒状部材を熱膨張させた後、その内部に、前記ローラ体を挿入し、次いで円筒状部材を冷却して、該円筒状部材とローラ体を一体化することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の定着ローラの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−128109(P2007−128109A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−10906(P2007−10906)
【出願日】平成19年1月21日(2007.1.21)
【分割の表示】特願2000−160951(P2000−160951)の分割
【原出願日】平成12年5月30日(2000.5.30)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】