説明

定着ローラおよびその製造方法

【課題】シリコーンエラストマーの二次加熱時の破損を抑制して製造し得る、独立気泡型シリコーンエラストマー多孔質体からなる弾性層を備える定着ローラを提供すること。
【解決手段】シャフト(12)と、シャフトの外周面上に設けられ、それぞれシャフト(12)の軸方向と交差する第1の端面(14a)および第2の端面(14b)を有する弾性層(14)を備え、弾性層(14)は、非発泡型の独立気泡型シリコーンエラストマー多孔質弾性体からなり、弾性層(14)に、第1の端面(14a)および第2の端面(14b)の少なくとも一方の端面に開口し、弾性層(14)内に延びる少なくとも1つの孔(16a)を設けたことを特徴とする定着ローラ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着ローラおよびその製造方法に係り、特に、シリコーンエラストマー多孔質体からなる弾性層を備える定着ローラおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンエラストマー多孔質体からなる弾性層を備える定着ローラは、多くの特許文献で既知である。かかる定着ローラに設けるシリコーンエラストマー多孔質体として、従来、主に、発泡現象を利用して独立気泡型の多孔質体が製造されている。しかし、発泡現象を利用してシリコーンエラストマー多孔質体を製造する方法では、シリコーンゴムの硬化と発泡を同時に行っているため、得られる多孔質体中のセル(気孔)のサイズが不均一で、セルの大きさがばらつくばかりでなく、例えば50μm以下という微細なサイズのセルを形成させることが困難である。また、発泡剤を用いて製造されたシリコーンエラストマー多孔質体は、セルのサイズが大きく、しかも不均一あるため、加熱時の形状が安定しないとともに、トルクがかかったときにその力を均一に分散させることができず、破断しやすいという問題がある。また、発泡現象を利用して製造された多孔質体には、連続気泡型のものもあるが、独立気泡型のものより強度が弱く、破断しやすいという問題がある。
【0003】
これに対し、特許文献1や特許文献2には、硬化してシリコーンエラストマーを生成する液状シリコーンゴム材、乳化剤、および水を含有する油中水型エマルジョン組成物をローラシャフトの外周に適用し、加熱することにより水を揮発させて多孔質体からなる弾性層を形成することが開示されている。特許文献1や特許文献2の手法では、得られる多孔質体は、発泡現象を伴わずに生成した非発泡型の独立気泡からなるため、均一な微細セル(気孔)を有するシリコーンエラストマー多孔質体からなる弾性層を形成することができるとともに、機械的強度にも優れている。
【特許文献1】特開2005−62534号公報
【特許文献2】特開2005−171229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に開示された非発泡型の多孔質体は、独立気泡型のものであるため、水の抜けが悪く、二次加熱で水を除去するときに水の蒸気圧で破損してしまうことが多いことが本発明者らにより見いだされた。
【0005】
そこで、シリコーンエラストマーの二次加熱時の破損を抑制して製造し得る、非発泡型の独立気泡型シリコーンエラストマー多孔質体からなる弾性層を備える定着ローラおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の側面によれば、シャフトと、シャフトの外周面上に設けられ、それぞれ前記シャフトの軸方向と交差する第1の端面および第2の端面を有する弾性層を備え、前記弾性層は、非発泡型の独立気泡型シリコーンエラストマー多孔質弾性体からなり、前記弾性層に、前記第1の端面および第2の端面の少なくとも一方の端面に開口し、前記弾性層内に延びる少なくとも1つの孔を設けたことを特徴とする定着ローラが提供される。
また、本発明の第2の側面によれば、シャフトの外周面上に、硬化してシリコーンエラストマーを生成する液状シリコーンゴム材、乳化剤および水を含有する油中水型エマルジョン組成物を適用し、これを一次加熱して一次硬化させることにより、それぞれ前記シャフトの軸方向と交差する第1の端面および第2の端面を有する弾性層前駆体を形成するとともに、前記弾性層前駆体に、前記第1の端面および第2の端面の少なくとも一方の端面に開口し、前記弾性層前駆体内に延びる少なくとも1つの孔を設ける工程、前記弾性層前駆体を二次加熱することによって二次硬化させるとともに、前記水の少なくとも一部を前記孔から除去して、独立気泡型多孔質弾性体からなる弾性層を形成する工程を含むことを特徴とする定着ローラの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、発泡現象を伴わずに均一な微細セル(気泡)を有するシリコーンエラストマー多孔質体を有する定着ローラを、二次加熱時の破損を抑制して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を種々の態様により説明する。
【0009】
本発明に係る定着ローラは、(円筒状または円柱状)シャフトと、シャフトの外周面上に設けられ、それぞれシャフトの軸方向と交差する第1の端面および第2の端面を有する弾性層を備える。弾性層は、非発泡型の(気孔(セル)の形成に発泡現象を利用しない)独立気泡型シリコーンエラストマー多孔質体からなる。そして、弾性層には、その第1の端面および第2の端面の少なくとも一方の端面に開口し、弾性層内に延びる少なくとも1つの孔が設けられている。
【0010】
本発明の定着ローラにおける弾性層は、独立気泡型シリコーンエラストマー多孔質体からなり、この多孔質体は非発泡型のものである。すなわち、多孔質体の形成には、発泡剤(blowing agentまたはfoaming agent)を用いない。
【0011】
かかる非発泡型の独立気泡型シリコーンエラストマー多孔質体からなる弾性層は、硬化してシリコーンエラストマーを生成する液状シリコーンゴム材、乳化剤および水を含有する油中水型エマルジョン組成物から形成することが好ましい。
【0012】
上記エマルジョン組成物における液状シリコーンゴム材は、加熱により硬化してシリコーンエラストマーを生成するものであれば特に制限はないが、いわゆる付加反応硬化型液状シリコーンゴムを使用することが好ましい。付加反応硬化型液状シリコーンゴムは、主剤となる不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンと架橋剤となる活性水素含有ポリシロキサンを含む。不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンにおいて、不飽和脂肪族基は、両末端に導入され、側鎖としても導入され得る。そのような不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンは、例えば、下記式(1)で示すことができる。
【0013】
【化1】

【0014】
式(1)において、R1は、不飽和脂肪族基を表し、各R2は、C1〜C4低級アルキル基、フッ素置換C1〜C4低級アルキル基、またはフェニル基を表す。a+bは、通常、50〜2000である。R1によって表される不飽和脂肪族基は、通常、ビニル基である。各R2は、通常、メチル基である。
【0015】
活性水素含有ポリシロキサン(ハイドロジェンポリシロキサン)は、不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンに対し架橋剤として作用するものであり、主鎖のケイ素原子に結合した水素原子(活性水素)を有する。水素原子は、活性水素含有ポリシロキサン1分子当たり3個以上存在することが好ましい。そのような活性水素含有ポリシロキサンは、例えば、下記式(2)で示すことができる。
【0016】
【化2】

【0017】
式(2)において、R3は、水素またはC1〜C4低級アルキル基を表し、R4は、C1〜C4低級アルキル基を表す。c+dは、通常、8〜100である。R3およびR4で表される低級アルキル基は、通常、メチル基である。
【0018】
これら液状シリコーンゴム材は、市販されている。なお、市販品では、付加反応硬化型液状シリコーンゴムを構成する不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンと活性水素含有ポリシロキサンとは別々のパッケージで提供され、以後詳述する両者の硬化に必要な硬化触媒は、活性水素含有ポリシロキサンに添加されている。
【0019】
上記エマルジョン組成物における乳化剤は、エマルジョン中に水を安定に分散させるための分散安定剤として作用するものである。すなわち、乳化剤は、水に対し親和性を示すとともに、液状シリコーンゴム材に対しても親和性を示す。乳化剤には、アニオン系、カチオン系、両性イオン系及びノニオン系の界面活性剤が含まれる。アニオン系界面活性剤としては、例えば、高級脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、ポリエチレングリコール硫酸エステル塩類を挙げることができる。ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン類、脂肪酸モノグリセライド類を挙げることができる。カチオン系界面活性剤としては、例えば、脂肪族アミン塩類、第4級アンモニウム塩類、アルキルピリジニウム塩類を挙げることができる。両性イオン系界面活性剤としては、カルボキシベタイン型、グリシン型のものが挙げられる。乳化剤は、エーテル基等の親水性基を有することが好ましい。また、乳化剤は、通常3〜13、好ましくは4〜11のHLB値を示す。より好ましくは、乳化剤として、HLB値が3以上異なる2種類のエーテル変性シリコーンオイルを併用する。その場合、さらに好ましくは、7〜11のHLB値を有する第1のエーテル変性シリコーンオイルと、4〜7のHLB値を有する第2のエーテル変性シリコーンオイルとを組み合わせて使用する。いずれのエーテル変性シリコーンオイルも、ポリシロキサンの側鎖にポリエーテル基を導入したものを用いることができ、例えば、下記式(3)で示すことができる。
【0020】
【化3】

【0021】
式(3)において、R5は、C1〜C4低級アルキル基を表し、R6は、ポリエーテル基を表す。e+fは、通常、8〜100である。R5で表される低級アルキル基は、通常、メチル基である。また、R6により表されるポリエーテル基は、通常、(C24O)x基、(C36O)y基、または(C24O)x(C36O)y基を含む。主に、x、yの数により、HLB値が決定される。これら界面活性作用を有するシリコーンオイル材は市販されている。
【0022】
水は、いうまでもなく、上記油中水型エマルジョン組成物中において、粒子(水滴)の形態で不連続相として分散して存在する。後に詳述するように、この水粒子の粒径が、本発明の独立気泡型シリコーンエラストマー多孔質体のセル(気孔)の径を実質的に決定する。水は、1〜80μmの平均粒径を有する粒子の形態で存在し得る。エマルジョン中の水粒子のサイズは、マイクロスコープ観察によって測定することができる。
【0023】
上記油中水型エマルジョン組成物は、液状シリコーンゴム材を硬化させるために、硬化触媒を含有することができる。硬化触媒としては、それ自体既知のように、白金触媒を用いることができる。白金触媒の量は、白金原子として、1〜100重量ppm程度で十分である。硬化触媒は、シリコーンエラストマー多孔質体を製造するときに油中水型エマルジョンに添加してもよいが、エマルジョンを製造する際に配合することもできる。
【0024】
上記油中水型エマルジョン組成物において、液状シリコーンゴム材100重量部に対し、乳化剤を0.2〜5.5重量部の割合で、水を10〜250重量部の割合で使用することが、水分散安定性に特に優れたエマルジョンを得る上で好ましい。乳化剤が、前記第1のエーテル変性シリコーンオイルと前記第2のエーテル変性シリコーンオイルとの組合せからなる場合、液状シリコーンゴム材100重量部に対し、第1のエーテル変性シリコーンオイルを0.15〜3.5重量部の量で、第2のエーテル変性シリコーンオイルを0.05〜2重量部の量(合計0.2〜5.5重量部)で用いることが好ましい。また、液状シリコーンゴム材が不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンと活性水素含有ポリシロキサンとの組合せからなる場合、前者と後者の重量比は、6:4〜4:6であることが好ましい。
【0025】
上記油中水型エマルジョン組成物は、種々の添加剤を含有することができる。そのような添加剤としては、着色料(顔料、染料)、導電性付与材(カーボンブラック、金属粉末等)、補強性フィラー(シリカ等)を例示することができる。さらに、油中水型エマルジョンは、例えば、脱泡を容易にすること等を目的としてエマルジョンの粘度を調整するために、分子量の低い、非反応性のシリコーンオイルを含有することができる。油中水型エマルジョンは、1cSt〜20万cStの粘度を有すると、脱泡が容易に行え、取り扱いに都合がよい。
【0026】
上記油中水型エマルジョン組成物は、種々の方法により製造することができる。一般的には、液状シリコーンゴム材、乳化剤、および水を、必要に応じてさらなる添加剤とともに混合し、十分に撹拌することによって製造される。液状シリコーンゴム材が、不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンと活性水素含有ポリシロキサンとの組合せにより提供される場合には、不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンと界面活性作用を有するシリコーンオイル材の一部を混合・撹拌して第1の混合物を得、他方活性水素含有ポリシロキサンと乳化剤の残りを混合・撹拌して第2の混合物を得ることができる。ついで、第1の混合物と第2の混合物を混合・撹拌しながら、徐々に水を添加して、撹拌することにより所望のエマルジョンを得ることができる。いうまでもなく、上記油中水型エマルジョンの製造方法はこれに限定されるものではない。液状シリコーンゴム材、乳化剤、および水、並びに必要に応じて添加される添加剤の添加順序は、どのようなものでもよい。エマルジョンを形成させるための撹拌は、例えば、300rpm〜1000rpmの攪拌器回転速度で行うことができる。エマルジョン形成後、エマルジョンを、加熱することなく、例えば真空減圧機を用いて、脱泡処理に供してエマルジョン中に存在する空気を除去することができる。
【0027】
本発明の定着ローラにおける弾性層は、後に詳述するように、上記油中水型エマルジョンの一次加熱による一次硬化(弾性層前駆体の形成)および二次加熱による脱水を経て形成することができる。弾性層は、シャフトの軸方向と交差する(通常は、直交する)両端面(第1の端面および第2の端面)を有する。そして、弾性層には、その両端面の少なくとも一方の端面に開口し、弾性層内に延びる少なくとも1つの孔が設けられている。弾性層は、弾性を示すので、弾性層に設けられる孔の存在は、定着ローラにおける弾性層の性能に実質的に悪影響を及ぼさない。すなわち、本発明の定着ローラにおいて、孔を有する弾性層は、そのような孔を持たない対応の弾性層と同様の性能を示すことが確認されている。
【0028】
水分の除去効率の観点から、弾性層に設ける孔の全長は、弾性層のシャフト方向の長さの50%以上であることが好ましい。孔の全長とは、孔が1つの場合にはその孔の長さを意味し、孔が複数存在する場合には、各孔の長さの合計を意味する。弾性層の厚さは、通常、3〜20mmである。
【0029】
さらに、水分は弾性層の外側表面から抜け得るが弾性層の内側領域からは抜けにくいことと、孔が弾性層の外側領域に存在すると画像や紙搬送に影響を与える可能性がないとはいい得ないことから、いずれの孔も、全体が、弾性層の厚さ方向の中央からシャフトまでの、弾性層の内側領域内に存在するように設けることが好ましい。
【0030】
また、水分の抜け易さと形成の容易さから、孔は、弾性層の一方の端面にのみ開口する非貫通孔であるよりも、弾性層の両端面に開口する貫通孔であることが好ましく、また孔は、シャフトの軸方向とほぼ平行に伸びることが好ましい。そして、孔は、好ましくは複数個、より好ましくは3つ以上設けられる。
【0031】
孔の断面形状には特に制限はなく、円形、四角、三角等の多角形、星形等の孔を設けることができ、水分排出性の観点からは星型が好ましいが、弾性層の変形に対する影響を考慮すると、円形の孔が望ましい。また、水分排出の効率の観点から、1つの孔の開口面積は0.008mm2以上であることが好ましい。孔の開口面積は、大きいほど水分排出効率が優れるが、弾性層の性能に対する影響を極力抑制するためには、3mm2以下であることが好ましい。
【0032】
さらに、水分の排出を弾性層内で均一に排出させるために、孔は、複数個ある場合、シャフトの中心軸に対して等角度間隔で円周上に配列されていることが好ましい。
【0033】
なお、本発明の定着ローラにおいて、弾性層は、定着ローラの最外層を構成する(すなわち、弾性層の外表面は、露出している)。
【0034】
次に、図面を参照して本発明のいくつかの態様を説明する。全図において、同様の要素には、同様の符号を付してある。
【0035】
図1は、本発明の1つの態様に係る定着ローラ10の一部破断縦断面図である。図2は、図1の線II−IIに沿う断面図を拡大して示す図である。
【0036】
定着ローラ10は、金属等からなる円柱状または円筒状シャフト12を有する。シャフト12は、弾性層が形成されるシャフト本体121とシャフト本体121の両側にシャフト本体と一体に形成されたジャーナル部122aおよび122bを有する。シャフト本体121の外周全体を覆って、非発泡型の独立気泡型シリコーンエラストマー多孔質体からなる弾性層14が設けられている。弾性層14は、それぞれシャフト10の軸方向と交差する第1の端面14aおよび第2の端面14bを有する。図1において、第1の端面14aおよび第2の端面14bは、それぞれシャフト10の軸方向と直交しており、シャフト本体121の両端面と同一平面を構成している。
【0037】
弾性層14には、弾性層14の第1の端面14aおよび第2の端面14bの少なくとも一方の端面に開口し、弾性層14内に延びる少なくとも1つ(好ましくは、複数、例えば3つまたは4つ)の孔が設けられている。図1においては、弾性層14の第1の端面14aおよび第2の端面14bの両方において開口し、弾性層14内をシャフト12の軸方向と平行に延びる2つの貫通孔16aおよび16bを見ることができる。
【0038】
図2を参照すると、孔は、4つ存在する(孔16a〜16d;孔16cおよび16dは、孔16aおよび16bと同じ構造であり、貫通孔である)。孔16a〜16dのそれぞれは、全体が、弾性層14の径方向厚さの半分の位置(弾性層14の径方向の中央を結ぶ線(中央線)CL)から弾性層14の外表面14cまでの領域(外側領域)142内にあってもよいが、図2に示すように弾性層14の中央線CLからシャフト本体121までの領域(内側領域)141内に存在していることが、上記理由から、好ましい。
【0039】
図2に示す孔16a〜16dは、シャフト(シャフト本体121)の中心軸CAに対し等角度間隔で円周上に配置されている(中心軸CAからの距離が等しい)。
【0040】
図3は、孔の数が3個である以外は図1〜図2に示す定着ローラ10と同様の構造の定着ローラ20の断面を示す。定着ローラ20において、図1〜図2に示す定着ローラ10における孔16a〜16dと同様の3つの孔22a、22bおよび22cのそれぞれは、全体が弾性層の内側領域141内に存在する。そして、孔22a〜22cは、シャフト(シャフト本体121)の中心軸CAに対し等角度間隔で円周上に配置されている(中心軸CAからの距離が等しい)。
【0041】
本発明に係る定着ローラは、シャフトの外周面上に、非発泡型の独立気泡型シリコーンエラストマー多孔質体の原料組成物(例えば、上記油中水型エマルジョン組成物)を適用し、これを一次加熱して一次硬化させることにより、それぞれシャフトの軸方向と交差する第1の端面および第2の端面を有する弾性層前駆体を形成するとともに、弾性層前駆体に、その第1の端面および第2の端面の少なくとも一方の端面に開口し、かつ弾性層前駆体内に延びる少なくとも1つの孔を設け、弾性層前駆体を、二次加熱することによって、二次硬化させるとともに、弾性層前駆体内の水分の少なくとも一部を前記孔から除去して、独立気泡型シリコーンエラストマー多孔質弾性体からなる弾性層を形成することによって製造することができる。その場合、少なくとも1つの孔形成手段を有する円筒状成形型内にシャフトを同心的に配置し、例えば上記油中水型エマルジョン組成物を成形型内に導入し、これを一次加熱することにより一次硬化させた後、脱型および孔形成手段の取り外しを行うことにより、弾性層前駆体内に、孔を形成することができる。孔形成手段は、ピン、ワイヤ、糸、ひも等の線状体により構成することができる。しかる後、得られた構造物(シャフトとその周りに形成され、孔を有する弾性層前駆体からなる構造物)を二次加熱して二次硬化させて定着ローラを得ることができる。
【0042】
例えば、円筒状成形型内に、同心的に定着ローラ用シャフトを配置し、円筒状成形型の一端を、例えば上記油中水型エマルジョン組成物の注入口を有する第1のフランジで密閉し、他端を、第2のフランジで密閉する。第1のフランジと第2のフランジの少なくとも一方は、シャフトから離間して位置するように端面から立設して設けられた少なくとも1つの線状体を有する。注入口からエマルジョン組成物を注入し、エマルジョン組成物を一次加熱することにより一次硬化させて線状体に対応する孔を有する弾性層前駆体をシャフトの周りに生成させ、その弾性層前駆体を有するシャフトを円筒状成形型から取り外し、二次加熱して、孔から脱水する。このように、本発明に従い弾性層(前駆体)に設ける孔は、水分の排出機能を果たすので、水分排出孔ということができる。
【0043】
水分排出孔は、弾性層前駆体を形成した後、その弾性層前駆体に比較的剛直な線状体を刺通することによっても形成することができる。
【0044】
上記一次加熱では、上記油中水型エマルジョン組成物中の水を揮散させることなく、液状シリコーンゴム材を加熱硬化させるために、150℃以下の加熱温度を用いることが好ましい。一次加熱の際の加熱温度は、通常、80℃以上であり、加熱時間は、通常、5分〜60分程度である。この一次加熱により、液状シリコーンゴムが硬化し、エマルジョン中の水粒子をエマルジョン中の状態のまま閉じ込める。この一次硬化したシリコーンゴムは、以下述べる二次加熱による水分の蒸発の際の膨張力に耐える程度までに硬化する。
【0045】
水粒子を閉じ込めた一次硬化シリコーンゴム(弾性層前駆体)から水分排出孔を通して水分を除去するための二次加熱は、70℃〜300℃の温度で行うことが好ましい。二次加熱温度が70℃未満では水の除去に長時間を要し、加熱温度が300℃を超えると、硬化したシリコーンゴムが劣化し得る。70℃〜300℃の加熱では、1時間〜24時間で水分は揮発除去される。二次加熱により水分が水蒸気として揮発除去されるとともに、シリコーンゴム材の最終的な硬化も達成される。揮発除去された水分は、硬化したシリコーンゴム材(シリコーンエラストマー)中に、水粒子の粒径にほぼ等しい気孔径のセルを残す。
【0046】
このように、上記油中水型エマルジョン組成物は、発泡現象を伴うことなくシリコーンエラストマーを生成させることができる。上記油中水型エマルジョン組成物中の水粒子は、一次加熱により硬化したシリコーンゴムに閉じ込められ、二次加熱の際には、単に揮発するだけである。こうして、非発泡型で、実質的に独立気泡型のシリコーンエラストマー多孔質体からなる弾性層が得られる。この多孔質体は、セル(気孔)が微細であり、しかもセルサイズの分布が狭く、均一性が高いものである。しかも、二次加熱の際、水分は水分孔を介して効率的に除去され、弾性層の裂け、破壊が抑制される。なお、上記独立気泡型のシリコーンエラストマー多孔質体は、特開2005−206884号公報において定義された単泡率が80%以上であり得る。また、上記独立気泡型のシリコーンエラストマー多孔質体は、非発泡型であるので、発泡体からなる多孔質体と比べてセル(気孔)の真球度が有意に高い。非発泡型とは、特開2005−206884号公報において示される式(A)で示される長径と短径との関係を満たすセル(気孔)が、全セル(気孔)数の50%以上を占め、さらに特開2005−206884号公報において示される式(B)によって与えられる条件をも満足するセル(気孔)が、全セル(気孔)数の80%以上を占めるものであるといいかえることができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これら実施例により限定されるものではない。
【0048】
例1〜5
例1〜5では、液状シリコーンゴム材として、東レ・ダウコーニング社から入手した液状シリコーンゴム(商品名DY35−7002)を用いた。この液状シリコーンゴムは、活性水素含有ポリシロキサンと、ビニル基含有ポリシロキサンとが別々のパッケージとして提供され、ビニル基含有ポリシロキサンには、触媒量の白金触媒が添加されているものであった。以下、前者をシリコーンゴムA剤、後者をシリコーンゴムB剤と表示する。活性水素含有ポリシロキサンは、各R4がメチル基である上記式(2)の構造を有し、他方ビニル基含有シリコーンオイルは、各R1がビニル基であり、各R2がメチル基である上記式(1)の構造を有する。
【0049】
また、乳化剤として、2種のポリエーテル変性シリコーンオイル(信越化学社製KF−618(HLB値:11)および同社製KF−6015(HLB値:4)を重量比1:1で混合したものを用いた。これらポリエーテル変性シリコーンオイルは、製品カタログによれば、いずれも、各R5がメチル基である上記式(3)の構造を有し、R6が、ポリエーテル基として、(C24O)x(C36O)y基を有するものである。
【0050】
さらに、補強性フィラーとして通常用いられているシリカ粒子も用いた。
【0051】
液状シリコーンゴム剤(シリコーンゴムA剤とB剤の配合重量比1:1)と水とシリカ粒子と乳化剤とを重量比100:100:3.75:3.75の割合で配合し、攪拌して油中水型エマルジョン組成物を調製した。
【0052】
円筒状成形型(内径:25.5mm)内に、同心的に定着ローラ用の鉄製シャフト(シャフト本体の外径:10mm;シャフト本体(弾性層形成部)の長さ:200mm)を配置し、成形型の一端を、上記エマルジョン組成物の注入口を有する第1のフランジで密閉し、他端を、シャフトから半径方向に1mm離間位置するように端面から立設して設けられた断面円形の線状ピン体(外径:0.6mm;長さ:生成する弾性層を貫通する長さ)を有するフランジで密閉し、注入口から上記油中水型エマルジョン組成物を注入した。しかる後、この成形型を150℃で35分間一次加熱した後、脱型し、得られた弾性層前駆体を有するシャフトを240℃で12時間二次加熱して、所望の弾性層を有する定着ローラを得た。このとき、各1つの定着ローラの弾性層における裂けの数を目視観察した。なお、ピン体のシャフトからの離間間隔1mmは、ピン体の半径方向においてシャフトに最も近いピン体円周上の点から半径方向におけるシャフト円周上の点まで距離である。
【0053】
ピン体の数は、1(例1;3つの定着ローラ作製;ローラNo.1〜3)、2(例2;2つのピン体は、シャフト軸対称で同一円周上に配列;1つの定着ローラ作製(ローラNo.4)、3(例3:ピン体は、シャフトの中心軸に対して等角度間隔で同一円周上に配列;2つの定着ローラ作製(ローラNo.5、6)、4(例4;ピン体は、シャフトの中心軸に対して等角度間隔で同一円周上に配列;1つの定着ローラ作製;ローラNo.7)であった。なお、ピン体を設けない(水分排出孔を設けない)場合も試験した(例5;3つの定着ローラ作製;ローラNo.8〜10)。なお、得られた弾性層の平均気孔サイズは、いずれも50μmであり、均一であった。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
例6〜10
2つのフランジに、同一直線上に位置するが、先端同士が接触しない同じ長さのピン体をそれぞれ1つずつ設けた以外は例1〜4と全く同様にして定着ローラ(2つの非貫通水分排出孔を有する定着ローラ)を作製した。各弾性層に形成された2つの非貫通水分排出孔は同じ長さを有し、その全長(2つの非貫通水分排出孔の合計長さ)は、180mm(例6)、160mm(例7)、140mm(例8)、120mm(例9)、100mm(例10)であった。例1〜4と同様に、二次加熱の際の弾性層の裂け数を目視観察した。結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
表2に示す結果から、水分排出孔の全長が弾性層の長さの50%以上であれば、裂けを生じることなく定着ローラを製造できることがわかる。
【0058】
例11〜18
ピン体の断面積(水分排出孔の開口面積)と水分排出孔の数、およびピン体のシャフトからの離間距離を表3に示すように変えた以外は、例1〜4と全く同様にして定着ローラを作製した。例11〜18のそれぞれにおいて作製した定着ローラの数は、表3に示すとおりであった。例1〜4と同様に、二次加熱の際の弾性層の裂け数を目視観察した。結果を表3に併記する。
【0059】
【表3】

【0060】
表3に示す結果から、水分排出孔の開口面積は、0.008mm2以上であることが好ましいことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の1つの態様に係る定着ローラを示す概略断面図。
【図2】図1の線II−IIに沿った断面図。
【図3】本発明の別の態様に係る定着ローラを示す概略断面図。
【符号の説明】
【0062】
10、20…定着ローラ
12…シャフト
121…シャフト本体
122a、122b…シャフトのジャーナル部
14…弾性層
14a、14b…弾性層の端面
14c…弾性層の外表面
141…弾性層の内側領域
142…弾性層の外側領域
16a〜16d、22a〜22c…孔
CA…シャフトの中心軸
CL…弾性層の中央線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと、シャフトの外周面上に設けられ、それぞれ前記シャフトの軸方向と交差する第1の端面および第2の端面を有する弾性層を備え、前記弾性層は、非発泡型の独立気泡型シリコーンエラストマー多孔質弾性体からなり、前記弾性層に、前記第1の端面および第2の端面の少なくとも一方の端面に開口し、前記弾性層内に延びる少なくとも1つの孔を設けたことを特徴とする定着ローラ。
【請求項2】
前記孔の全長が、前記弾性層のシャフト方向の長さの50%以上であることを特徴とする請求項1に記載の定着ローラ。
【請求項3】
1つの孔の開口面積が、0.008mm2以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の定着ローラ。
【請求項4】
前記孔が、前記弾性層の厚さ方向の中央から前記シャフト側の領域内に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の定着ローラ。
【請求項5】
前記孔が、前記第1の端面と第2の端面とに開口する貫通孔であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の定着ローラ。
【請求項6】
前記孔が、複数設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の定着ローラ。
【請求項7】
前記弾性層が、硬化してシリコーンエラストマーを生成する液状シリコーンゴム材、乳化剤および水を含有する油中水型エマルジョン組成物から形成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の定着ローラ。
【請求項8】
シャフトの外周面上に、硬化してシリコーンエラストマーを生成する液状シリコーンゴム材、乳化剤および水を含有する油中水型エマルジョン組成物を適用し、これを一次加熱して一次硬化させることにより、それぞれ前記シャフトの軸方向と交差する第1の端面および第2の端面を有する弾性層前駆体を形成するとともに、前記弾性層前駆体に、前記第1の端面および第2の端面の少なくとも一方の端面に開口し、前記弾性層前駆体内に延びる少なくとも1つの孔を設ける工程、前記弾性層前駆体を二次加熱することによって二次硬化させるとともに、前記水の少なくとも一部を前記孔から除去して、独立気泡型多孔質弾性体からなる弾性層を形成する工程を含むことを特徴とする定着ローラの製造方法。
【請求項9】
少なくとも1つの孔の形成手段を有する円筒状成形型内に前記シャフトを同心的に配置し、前記油中水型エマルジョン組成物を前記成形型内に導入し、前記油中水型エマルジョン組成物を一次加熱することにより一次硬化させた後、脱型を行うことにより、前記弾性層前駆体内に前記孔を形成することを特徴とする請求項8に記載の定着ローラの製造方法。
【請求項10】
前記孔の形成手段が、線状体により構成されることを特徴とする請求項8または9に記載の定着ローラの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−180979(P2008−180979A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−15178(P2007−15178)
【出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(000227412)シンジーテック株式会社 (99)
【Fターム(参考)】