説明

定着用部材及び定着装置

【課題】オイルレス方式のワックス含有トナーに対して、トナーオフセットを起こさず、トナー離型性に優れたゴム離型層を有する定着用部材を提供すること。
【解決手段】オイルレス方式で、結着樹脂100質量部に対してワックスを0.1〜40質量部含有するトナーを記録材上に定着させる定着用部材であって、本発明は定着用部材の離型層が、ゴムから成り、このゴム層に対する180℃における結着樹脂の接触角が80°以上であり、且つ、ワックスの接触角が70°以下であることを特徴とする。結着樹脂が濡れにくく、且つ、ワックスが或る程度濡れるゴム層にすることにより、トナーとの付着力を低減することができ、オイルレス方式のワックス含有トナーに対して、トナーオフセットを起こさず、トナー離型性、柔軟性に優れたゴム離型層を有する定着用部材を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、LBP等の電子写真画像形成装置における定着技術の分野において利用され、特にオイルレス方式でトナーを記録材上に定着させるゴム離型層を有する定着用部材及びこれを備えた定着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
定着用部材には、トナー離型性が要求される。トナー離型性とは、紙等の記録材上に静電的に形成されたトナー画像を熱と圧力により定着させる際に、定着用部材の表面にトナーが如何に付着しないかということである。トナーが部材表面に付着する、つまりトナーオフセットが生じると、記録材上に形成されたトナー画像に部分的な欠けが生じたり、又、オフセットしたトナーが次の記録材の上に再定着されることなどにより画像が悪化するという問題が生じる。従って、トナー離型性に優れた材料を定着用部材の表面、つまり離型層に用いることは部材の性能上重要であると言える。
【0003】
このような定着用部材としては、円筒軸体の外周に一層以上の層構造が形成されており、その離型層にフッ素樹脂を用いたものが一般的に用いられている。フッ素樹脂は表面エネルギーが低く、非粘着性を有し、トナー離型性に優れているが、樹脂であるが故に材料硬度が高く、静電的に形成されたトナー画像を熱と圧力により定着させる際に、トナー粒子を必要以上に押し潰されてしまい、小さな文字が読みづらい等、高画質な画像を得にくいことがある。これに対してゴムから成る離型層を用いたものは、樹脂に比べて柔軟性があり、トナー粒子を必要以上に押し潰さず、高画質な画像を得易いという利点がある。
【0004】
しかしながら、一般的なゴムはフッ素樹脂に比べると表面エネルギーが高く、トナー離型性に劣ることがある。特に、カラーオイルレス定着においては、離型層に用いる材料として実用化されているのはフッ素樹脂のみであり、ゴムから成る離型層を有する定着用部材は現在まで実用化されていない。高画質な画像を得るためには、硬質な樹脂から成る離型層ではなく、柔軟なゴムから成る離型層が望まれている。
【0005】
定着用部材は200℃程度の高温で使用されるため、離型層に用いるゴムには耐熱性が要求される。このような耐熱性を有するゴム種としては、一般的にシリコーンゴム、フッ素ゴム及びフロロシリコーンゴムがある。シリコーンゴムとは、メチルビニルシロキサン、又はメチル基の一部をフェニル基に置換したメチルフェニルビニルシロキサン単位から成るポリマー等の生ゴムに、必要に応じて各種フィラーを配合したものを、付加反応架橋、有機過酸化物架橋等によって、三次元網目構造を形成させ、弾性体であるゴムとしたものである。一般的に、シリコーンゴムは耐熱性に優れていることから、主に下層の熱伝導性弾性体層として用いられている。又、離型層としては、カラー機においてジメチルシリコーンオイルを外部から供給するオイル塗布系において、主に用いられてきた。
【0006】
しかし、最近では離型性を確保するために、トナー中に離型補助効果を有するワックスを内添させ、前述したように外部からオイル塗布を行わないオイルレス定着方式がフッ素樹脂離型層で実用化されている。又、フロロシリコーンゴムは、シリコーンゴムを部分的にフッ素化したものであり、一般的にはメチルトリフロロプロピルシロキサンに、少量のメチルビニルシロキサンを共重合したポリマーである生ゴムに、補強性充填剤、例えばシリカ系充填剤等を配合したものを有機過酸化物架橋したものである。
【0007】
カラーオイルレス定着におけるゴム離型層の従来技術としては、定着部材の表面は、シリコーンゴムとフッ素樹脂が混在する複合表面から成り、且つ、フッ素樹脂、シリコーンゴム、ワックスの溶解性パラメーター(SP値)が、フッ素樹脂のSP値≦(シリコーンゴムのSP値、ワックスのSP値)の関係を有するとともに、シリコーンゴムとワックスのSP値の差異が1未満であることを特徴とする定着装置について提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
又、表面にフルオロカーボンシロキサンを主成分とするゴム層を形成して成る定着ベルトを有する定着器において、搬送手段となる記録媒体との接触部材を形成する部分のソックスレー抽出により算出されたポリジメチルシロキサン抽出量の質量百分率が0.4%以下のものであることを特徴とする画像形成装置について提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
【特許文献1】特開2002−341685号公報
【特許文献2】特開2003−084599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来例では、先ず、シリコーンゴムとフッ素樹脂の混在する複合物から成る離型層が提案されている。この系は、表面エネルギーの低いフッ素樹脂を配合することによりトナーとの付着力を小さくする効果はあると考えられるが、離型層がゴム単体ではなく、ゴムと樹脂の複合物から成るので、柔軟性の点で不十分であることがある。
【0011】
又、主鎖にパーフルオロアルキル基等を有するフルオロカーボンシロキサンを主成分とするゴム離型層に関するものが提案されている。この系は主鎖のフルオロカーボン部分がパーフルオロ化されているものであり、トナーとの付着力を小さくする効果はあると考えられ、初期には十分な離型性が得られるが、繰り返し使用していくに連れて離型性が変化し、耐久性が十分ではないことがあるので、定着器の搬送手段を改良したものであり、ゴム離型層のトナー離型性を更に改良したものではない。
【0012】
本発明の目的は、オイルレス方式のワックス含有トナーに対して、トナーオフセットを起こさず、トナー離型性に優れたゴム離型層を有する定着用部材及びこれを備える定着装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記目的は以下の発明により達成される。
(1)オイルレス方式で、結着樹脂100質量部に対してワックスを0.1〜40質量部含有するトナーを記録材上に定着させる定着用部材であって、本発明は定着用部材の離型層が、ゴムから成り、このゴム層に対する180℃における結着樹脂の接触角が80°以上であり、且つ、ワックスの接触角が70°以下であることを特徴とする。結着樹脂が濡れにくく、且つ、ワックスが或る程度濡れるゴム層にすることにより、トナーとの付着力を低減することができ、オイルレス方式のワックス含有トナーに対して、トナーオフセットを起こさず、トナー離型性、柔軟性に優れたゴム離型層を有する定着用部材を提供することができる。
(2)前記ゴム層が、側鎖にフルオロアルキル基を有するフロロシリコーンを含有するシリコーンゴムから成ることを特徴とする。シリコーンゴムに側鎖にフルオロアルキル基を有するフロロシリコーンを配合することにより、トナーとの付着力を低減することができるので望ましい。
(3)前記フロロシリコーンの側鎖に位置するフルオロアルキル基が、炭素数3〜10の直鎖状パーフルオロアルキル基であることを特徴とする。このような側鎖にすることにより、トナーとの付着力をより低減することができるので望ましい。
(4)前記フロロシリコーンのフッ素化率が、原子存在割合で、10〜50%であることを特徴とする。フッ素化率をこの範囲にすることにより、側鎖にフルオロアルキル基を有するフロロシリコーンを含有するシリコーンゴムの他の特性を大きく損なうことなく、トナーとの付着力を低減することができるので、望ましい。
(5)前記フロロシリコーンが、分子内にビニル基を有するものであることを特徴とする。ビニル基を有することにより、シリコーンゴム架橋時にフロロシリコーンを反応固定することができ、耐久性に優れたゴム離型層を得ることができるので、望ましい。
(6)前記シリコーンゴムが、4分岐性又は3分岐性のシリコーン網目構造成分を分子内に有するものであることを特徴とする。この成分を有することにより、トナ―画像を記録材上に定着させる際に、ゴム離型層に及ぼすワックスの悪影響を小さくし、トナーとの付着力を低減することができるので望ましい。
(7)前記シリコーンゴム(A)とフロロシリコーン(B)の配合割合が、質量比で(A):(B)=100:10〜100:50の範囲であることを特徴とする。配合割合がこの範囲であることにより、側鎖にフルオロアルキル基を有するフロロシリコーンを含有するシリコーンゴムの他の特性を大きく損なうことなく、トナーとの付着力を低減することができるので、望ましい。
(8)電子写真画像形成装置に用いる定着装置であって、本発明の定着用部材が、定着ベルト或は定着ローラ及び/又は加圧ベルト或は加圧ローラとして配置される定着装置であることを特徴とする。本発明の定着装置は、高画質なトナー画像を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る定着用部材は、離型層がゴムから成り、このゴム層に対する180℃における結着樹脂の接触角が80°以上であり、且つ、ワックスの接触角が70°以下であるため、オイルレス方式のワックス含有トナーに対して、トナーオフセットを起こさず、トナー離型性に優れたゴム離型層を有する定着用部材とすることができる。又、本発明に係る定着装置は、このようなゴム離型層を有する定着用部材を用いることによって、高画質の画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0016】
カラーオイルレス定着において離型層にシリコーンゴムを用いると、トナー画像の定着過程において、除々にトナー中のワックスが何らかの悪影響を離型層のシリコーンゴムに及ぼし、このことによって離型層とトナーの主成分である結着樹脂との付着力が増加することから、トナー離型性が悪化し、トナーオフセットが起こっている可能性があることを我々は見い出した。よって、トナー離型性を向上する手段の1つとして、ワックスが悪影響を及ぼす前の離型層ゴムと結着樹脂との付着力を予め小さくしておくことが考えられる。但し、結着樹脂との付着力を小さくし過ぎる、つまり、ゴム層に対して結着樹脂を濡れにくくし過ぎると、同時にワックスもゴム層に対して濡れにくくなり、ワックスの作用である離型補助効果が発揮されにくくなることも我々は見い出した。
【0017】
特許文献1の従来例は、シリコーンゴムとワックスのSP値の差異が1未満であることを特徴としているが、これはシリコーンゴムとワックスの親和性が高く、接触角で言えば、シリコーンゴムに対するワックスの接触角が小さいことであり、シリコーンゴムと結着樹脂との関係については規定していない。又、特許文献2の従来例については、離型層に用いているゴムは、両末端のシロキサン部分以外はパーフルオロ化されたものであるので、結着樹脂との付着力を小さくする効果はあると考えられる。
【0018】
しかしながら、このゴム単体ではなく、他のゴムに配合した場合には、フルオロアルキル基を側鎖ではなく主鎖に有しているために、ゴムの極表面にフルオロアルキル基が露出しにくいと考えられ、結着樹脂との付着力低減効果が十分ではないことがある。
【0019】
本発明は、定着用部材の離型層がゴムから成り、このゴム層に対する180℃における結着樹脂の接触角が80°以上であり、且つ、ワックスの接触角が70°以下であることを特徴とする。結着樹脂が濡れにくいゴム層にすることにより、結着樹脂との付着力を予め小さくすることができ、且つ、ワックスが或る程度濡れることにより、ワックスが有する離型補助効果を発揮させることができ、オイルレス方式のワックス含有トナーに対して、トナーオフセットを起こさず、トナー離型性、柔軟性に優れたゴム離型層を有する定着用部材を提供することができる。
【0020】
本発明では、具体的な系として、側鎖にフルオロアルキル基を有するフロロシリコーンを含有するシリコーンゴム離型層を提案する。
【0021】
本発明のゴム離型層に用いるシリコーンゴムは、特に限定されるものではないが、ポリマー種としては極性が低く、表面エネルギーの低いポリジメチルシロキサン、ポリメチルビニルシロキサン等が望ましい。これらポリジメチルシロキサン、ポリメチルビニルシロキサンを主体とし、且つ、分岐性又は3分岐性のシリコーン網目構造成分を分子内に有すると、ワックスのシリコーンゴムへの悪影響を小さくすることができ、結着樹脂との付着力増加を低減することができるので更に望ましい。又、架橋系としては、熱空気中でも硬化阻害を起こすことなく架橋できるという加工上の観点から、付加反応系が好ましい。又、各種充填剤は、一般的に配合すると表面エネルギーが高くなるので、配合しないか、或は配合しても量は少ない方が好ましい。
【0022】
本発明において用いる側鎖にフルオロアルキル基を有するフロロシリコーンは、特に限定されるものではないが、結着樹脂との付着力をより低減することができるので、側鎖のフルオロアルキル基は炭素数nが3〜10の直鎖状パーフルオロアルキル基であることが望ましい(図1参照)。又、フロロシリコーンのフッ素化率は、原子存在割合で、10〜50%であることが望ましい。ここで原子存在割合とは、(ポリマー中におけるC−F基の総数)/(ポリマー中におけるC−H基の総数+ポリマー中におけるC−F基の総数)のことである。フッ素化率が10%未満であると、トナーとの付着力低減効果が十分に得られないことがあるので好ましくない。フッ素化率が50%を超えると、側鎖にフルオロアルキル基を有するフロロシリコーンを含有するシリコーンゴムの他の特性、例えば強度などを大きく損なうことがあるので好ましくない。
【0023】
又、フロロシリコーンは、分子内にビニル基を有するものであることが好ましい。このビニル基は一般的に用いられている有機過酸化物架橋させるためではなく、シリコーンゴムと付加反応架橋をさせるためであり、シリコーンゴム架橋時にフロロシリコーンを反応固定することができ、トナー離型の耐久性に優れたゴム離型層を得ることができるので、望ましい。
【0024】
このようなシリコーンゴム(A)とフロロシリコーン(B)の配合割合は、質量比で(A):(B)=100:10〜100:50の範囲であることが好ましい。フロロシリコーンの配合割合がこの範囲よりも少ないと、トナーとの付着力低減効果が十分に得られないことがある。逆にこの範囲よりもフロロシリコーンの配合割合が多いと、側鎖にフルオロアルキル基を有するフロロシリコーンを含有するシリコーンゴムの他の特性、例えば強度などを大きく損なうことがあり、望ましくない。
【0025】
本発明の離型層ゴムは、表面エネルギーの観点から各種充填剤、例えば補強性充填剤を全く含まないか、或はゴム100質量部に対して5質量部以下含有することが望ましい。
【0026】
表層が余りに多く充填剤を含有し過ぎると、トナー離型性が低下してくることがあり、好ましくない。
【0027】
本発明の定着用部材は、例えば次のようにして製造することができる。即ち、ビニル基を有するポリジメチルシロキサン、付加反応に必要な水素基(Si−H)を有する架橋剤、微量の白金触媒から成る混合物100質量部と、側鎖にパーフルオロアルキル基を有するフロロシリコーン40質量部を、ミキサー、オープンロール、ニーダー等を用いて配合したサンプルを、予めプライマーを均一に塗布、乾燥させたローラ或はベルトの外周に形成されている弾性体層の少なくとも表層となるように成形型内に注入し、加熱による型架橋、脱型、二次架橋の工程を経ることにより製造することができる。
【0028】
尚、プライマー層は公知のものを使用すれば良く、その厚みは特に限定されないが、通常1〜10μm程度である。又、配合したサンプルをそのままブレードコート、リングコート等により、予めプライマーを均一に塗布、乾燥させたローラ或はベルトの外周に形成されている弾性体層の少なくとも表層となるように、コーティングし、その後加熱による架橋の工程を経ることにより製造することもできる。
【0029】
このようにして得られる定着用部材単層構造の断面を図2に示す。図2において、1はローラ或はベルト基材、2は側鎖にフルオロアルキル基を有するフロロシリコーンを含有するシリコーンゴム離型層である。
【0030】
離型層の厚さは必要に応じて適宜決めれば良いが、通常、十分な耐キズ・耐摩耗性を確保するために10μm以上であることが好ましい。又、熱伝導性等の点から500μm以下であることが望ましい。
【0031】
次に、図3に2層構造の定着用部材を示す。2層構造の定着用部材は、ローラ或はベルト基材1の外周に、先ず、従来のシリコーンゴム等から成る熱伝導性弾性体層3を形成し、この弾性体層3の外周に、本発明の側鎖にフルオロアルキル基を有するフロロシリコーンを含有するシリコーンゴム離型層2が形成される。
【0032】
熱伝導性弾性体層に用いるシリコーンゴムのポリマー種としては、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン等を挙げることができ、これに熱伝導性充填剤を配合させたものが好ましい。このような弾性体層は公知の方法、例えばシリコーンゴム材料を成形型内に注入し、加熱硬化する方法、或はコーティングによりシリコーンポリマー層を形成し、加熱オーブン等で硬化させる方法等で作製すれば良い。
【0033】
熱伝導性弾性体層の厚さは、紙等の記録材に対する追従性を確保するため等の理由から50μm以上が好ましく、熱伝導性等の点から5mm以下であることが好ましい。尚、この場合も、単層構造の定着用部材の場合と同様、ゴム離型層の厚さも適宜決めれば良く、好ましい範囲も同様である。
【0034】
尚、本発明の定着用部材は上記の単層或は2層構造の定着用部材に限定されるものではなく、3層以上の多層構造であっても良く、又、定着ベルト、定着ローラ、加圧ベルト、或は加圧ローラ等、何れの形態のものでも良い。
【0035】
次に、本発明の定着装置について説明する。
【0036】
本発明の定着装置は、電子写真画像形成装置に用いる定着装置であって、前述のような本発明の定着用部材が定着ベルト或は定着ローラ及び/又は加圧ベルト或は加圧ローラとして配置されているものである。電子写真画像形成装置としては、感光体、潜像形成手段、形成した潜像をトナーで現像する手段、現像したトナー像を転写材に転写する手段及び転写材上のトナー像を定着する手段等を有する電子写真画像形成装置が挙げられる。
【0037】
本発明の定着装置の一例について図4に構成図を示す。
【0038】
定着装置には、上ローラである定着ローラ4及び下ローラである加圧ローラ5が配置されている。この定着ローラ4と、加圧ローラ5に本発明の定着用部材が用いられる。そして、定着ローラ4と、加圧ローラ5の中心にはハロゲンランプから成るヒータ6がそれぞれ1本組込まれている。
【0039】
定着ローラ4は矢印方向に所定の周速度で回転駆動し、加圧ローラもそれに合わせて矢印方向に回転駆動する。そして、紙等の記録材上に形成されたトナー画像は、ヒーター6からの熱と、定着ローラ4と加圧ローラ5との圧力により定着される。
【0040】
定着温度は、定着ローラ4の表面温度をサーミスタ7により測定された温度を基に、ヒータ6の出力が制御され、設定温度に保たれている。定着ローラ4の表面温度(定着温度)は特に限定されないが、通常、130℃〜220℃程度である。
【0041】
尚、ここでは、上下ローラの定着装置を例として挙げたが、本発明の定着装置は本発明の定着用部材を定着ベルト或は定着ローラ及び/又は加圧ベルト或は加圧ローラとして有していれば良く、図4に示したものに限られない。
【0042】
以下に、実施例により本発明の詳細を説明するが、本発明がこれらによって何ら限定されるものではない。尚、フロロシリコーンのフッ素化率は、シリコーンゴム単体とフロロシリコーンについてIR分析を行い、両者をSi−O−Siに基づく1008cm–1のピーク強度で規格化したときの、C−H伸縮振動に基づく2960cm–1のピーク面積比から求めた。又、接触角は、接触角計CA−X型 固液両加熱恒温槽H2型付(協和界面科学製)を用い、サンプル温度180℃で測定を行った。
【実施例1】
【0043】
シリコーン直鎖状構造成分と、4分岐性又は3分岐性のシリコーン網目構造成分を共に分子内に有し、且つ、ビニル基を有するポリオルガノシロキサンと、水素基(Si−H)を有する架橋剤、微量の白金触媒から成る混合物100gに、側鎖に炭素数8個のパーフルオロアルキル基を有し、フッ素化率が30%であるフロロシリコーン40gをミキサー(万能混合攪拌機 型式5DMV−01−r ダルトン製)を用いて配合した。
【0044】
この配合したサンプルを、予め厚み1.5mmのシリコーンゴムから成る熱伝導性弾性体層の表面に接着剤(プライマーNo.101−A/B 東レ・
ダウコーニング・ シリコーン製)を塗布し、加熱乾燥させたローラ(外径φ59.2,内径φ34)を組み込んだ成形型内に注入し、加熱による型架橋を行い(130℃×30分)、脱型後、加熱オーブンで二次架橋(200℃×4時間)することにより定着用部材(外径φ59.6,ゴム離型層の厚み200μm)を仕上げた。
【0045】
上記方法により作製した定着用部材を定着ローラ4として本発明の一形態である定着装置(図4)に使用し、この定着装置に、結着樹脂100質量部に対してワックスを3質量部含有するオイルレスカラートナーの未定着画像を通紙した。
【0046】
又、上記離型層ゴムのシート状サンプル(厚み1mm)を成型し、このサンプルに対する180℃における上記オイルレスカラートナーの成分である結着樹脂とワックスの接触角を測定した結果、結着樹脂は84°、ワックスは62°であった。
【実施例2】
【0047】
補強性充填剤であるシリカを3質量部更に配合すること以外は、実施例1と同様にして定着用部材を作製した。
【0048】
この作製した定着用部材を定着ローラ4として本発明の一形態である定着装置(図4)に使用し、この定着装置に、結着樹脂100質量部に対してワックスを3質量部含有するオイルレスカラートナーの未定着画像を通紙した。
【0049】
又、上記離型層ゴムのシート状サンプル(厚み1mm)を成型し、このサンプルに対する180℃における上記オイルレスカラートナーの成分である結着樹脂とワックスの接触角を測定した結果、結着樹脂は83°、ワックスは61°であった。
【実施例3】
【0050】
側鎖に炭素数4個のパーフルオロアルキル基を有し、フッ素化率が20%であるフロロシリコーンを用いること以外は、実施例1と同様にして定着用部材を作製した。
【0051】
この作製した定着用部材を定着ローラ4 として本発明の一形態である定着装置(図4)に使用し、この定着装置に、結着樹脂100質量部に対してワックスを3質量部含有するオイルレスカラートナーの未定着画像を通紙した。
【0052】
又、上記離型層ゴムのシート状サンプル(厚み1mm)を成型し、このサンプルに対する180℃における上記オイルレスカラートナーの成分である結着樹脂とワックスの接触角を測定した結果、結着樹脂は81°、ワックスは59°であった。
【実施例4】
【0053】
フロロシリコーンの配合量を20gにすること以外は実施例1と同様にして定着用部材を作製した。
【0054】
この作製した定着用部材を定着ローラ4として本発明の一形態である定着装置(図4)に使用し、この定着装置に、結着樹脂100質量部に対してワックスを3質量部含有するオイルレスカラートナーの未定着画像を通紙した。
【0055】
又、上記離型層ゴムのシート状サンプル(厚み1mm)を成型し、このサンプルに対する180℃における上記オイルレスカラートナーの成分である結着樹脂とワックスの接触角を測定した結果、結着樹脂は83°、ワックスは66°であった。
【0056】
<比較例1>
シリコーン直鎖状構造成分と、4分岐性または3分岐性のシリコーン網目構造成分をともに分子内に有し、且つ、ビニル基を有するポリオルガノシロキサンと、水素基(Si−H)を有する架橋剤、微量の白金触媒から成る混合物100gに、主鎖にパーフルオロアルキル基を有するフルオロカーボンシロキサン(X−70−709 信越化学工業社製)40gをミキサー(万能混合攪拌機 型式5DMV−01−r ダルトン製)を用いて配合した。
【0057】
この配合したサンプルを、予め厚み1.5mmのシリコーンゴムから成る熱伝導性弾性体層の表面に接着剤(プライマーNo.101−A/B 東レ・
ダウコーニング・ シリコーン製)を塗布し、加熱乾燥させたローラ(外径φ59.2,内径φ34)を組み込んだ成形型内に注入し、加熱による型架橋を行い(130℃×30分)、脱型後、加熱オーブンで二次架橋(200℃×4時間)することにより定着用部材(外径φ59.6,ゴム離型層の厚み200μm)を仕上げた。
【0058】
上記方法により作製した定着用部材を定着ローラ4として本発明の一形態である定着装置(図4)に使用し、この定着装置に、結着樹脂100質量部に対してワックスを3質量部含有するオイルレスカラートナーの未定着画像を通紙した。
【0059】
又、上記主鎖にパーフルオロアルキル基を有するフルオロカーボンシロキサンを含有するシリコーンゴムから成る離型層ゴムのシート状サンプル(厚み1mm)を成型し、このサンプルに対する180℃における上記オイルレスカラートナーの成分である結着樹脂とワックスの接触角を測定した結果、結着樹脂は77°、ワックスは62°であった。
【0060】
<比較例2>
シリコーン直鎖状構造成分と、4分岐性または3分岐性のシリコーン網目構造成分を共に分子内に有し、且つ、ビニル基を有するポリオルガノシロキサンと、水素基(Si−H)を有する架橋剤、微量の白金触媒から成る混合物100gに、側鎖に炭素数8個のパーフルオロアルキル基を有し、フッ素化率が30%であるフロロシリコーン100gをミキサー(万能混合攪拌機 型式5DMV−01−r ダルトン製)を用いて配合した。
【0061】
この配合したサンプルを、予め厚み1.5mmのシリコーンゴムから成る熱伝導性弾性体層の表面に接着剤(プライマーNo.101−A/B 東レ・
ダウコーニング・ シリコーン製)を塗布し、加熱乾燥させたローラ(外径φ59.2,内径φ34)を組み込んだ成形型内に注入し、加熱による型架橋を行い(130℃×30分)、脱型後、加熱オーブンで二次架橋(200℃×4時間)することにより定着用部材(外径φ59.6,ゴム離型層の厚み200μm)を仕上げた。
【0062】
上記方法により作製した定着用部材を定着ローラ4として本発明の一形態である定着装置(図4)に使用し、この定着装置に、結着樹脂100質量部に対してワックスを3質量部
含有するオイルレスカラートナーの未定着画像を通紙した。
【0063】
又、上記離型層ゴムのシート状サンプル(厚み1mm)を成型し、このサンプルに対する180℃における上記オイルレスカラートナーの成分である結着樹脂とワックスの接触角を測定した結果、結着樹脂は90°、ワックスは73°であった。
【0064】
実施例1〜4及び比較例1と2の配合を表1に示す。
【0065】
【表1】

次に、実施例1〜4及び比較例1と2の評価結果を表2に示す。
【0066】
【表2】

*トナー離型性:○ 5000枚通紙クリア
× 1000枚通紙トナーオフセット発生
×× 500枚通紙トナーオフセット発生
表1,2について以下に説明する。
【0067】
実施例1〜4の場合は、側鎖にフルオロアルキル基を有するフロロシリコーンをシリコーンゴムに配合することで、結着樹脂は離型層ゴムに対して濡れにくく、且つ、ワックスは離型層ゴムに対して或る程度濡れていることが分かる。このことから、ワックス含有トナーとの付着力は小さくなっていると考えられる。又、実際に未定着画像を通紙したところ、トナー離型性が良好であり、5000枚通紙した時点でコピー画像にトナーオフセットによる画像抜けは見られなかった。又、同じく5000枚通紙した時点で高画質なトナー画像が得られた。
【0068】
比較例1については、主鎖にフルオロアルキル基を有するフルオロカーボンを配合しても、結着樹脂の離型層ゴムに対する接触角は80°未満で、実施例1〜4に比べて濡れ易く、ワックスも或る程度濡れていることが分かる。未定着画像を通紙したところ、トナー離型性が不十分であり、500枚通紙した時点で定着後画像にトナーオフセットによる画像抜けが発生し、定着性能を満足するものではなかった。次に、比較例2については、フロロシリコーンの配合量を多くすることで、結着樹脂の離型層ゴムに対する接触角は90°と実施例1〜4に比べて更に濡れにくくなっているが、ワックスも同じく濡れにくくなっていることが分かる。未定着画像を通紙したところ、トナー離型性が不十分であり、1000枚通紙した時点で定着後画像にトナーオフセットによる画像抜けが発生し、定着性能を満足するものではなかった。
【0069】
本発明の定着用部材は、離型層がゴムから成り、このゴム層に対する180℃における結着樹脂の接触角が80°以上であり、且つ、ワックスの接触角が70°以下であることから、実施例から明らかなように、オイルレス方式のワックス含有トナーに対して、トナーオフセットを起こさず、トナー離型性に優れたゴム離型層を有する定着用部材を提供することができる。又、本発明の定着装置は、このようなゴム離型層を有する定着用部材を用いることで、高画質の画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係るフロロシリコーンの化学構造式である。
【図2】本発明に係る単層構造の定着用部材の断面図である。
【図3】本発明に係る2層構造の定着用部材の断面図である。
【図4】本発明に係る定着装置の一形態の概略構成図である。
【符号の説明】
【0071】
1 基材
2 ゴム離型層
3 熱伝導性弾性体層
4 定着ローラ
5 加圧ローラ
6 ハロゲンヒータ
7 サーミスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルレス方式で、結着樹脂100質量部に対してワックスを0.1〜40質量部含有するトナーを記録材上に定着させる定着用部材において、
離型層がゴムから成り、このゴム層に対する180℃における結着樹脂の接触角が80°以上であり、且つ、ワックスの接触角が70°以下であることを特徴とする定着用部材。
【請求項2】
前記ゴム層が、側鎖にフルオロアルキル基を有するフロロシリコーンを含有するシリコーンゴムから成ることを特徴とする請求項1記載の定着用部材。
【請求項3】
前記フロロシリコーンの側鎖に位置するフルオロアルキル基が、炭素数3〜10の直鎖状パーフルオロアルキル基であることを特徴とする請求項2記載の定着用部材。
【請求項4】
前記フロロシリコーンのフッ素化率が、原子存在割合で10〜50%であることを特徴とする請求項2記載の定着用部材。
【請求項5】
前記フロロシリコーンが、分子内にビニル基を有するものであることを特徴とする請求項2記載の定着用部材。
【請求項6】
前記シリコーンゴムが、4分岐性又は3分岐性のシリコーン網目構造成分を分子内に有するものであることを特徴とする請求項2記載の定着用部材。
【請求項7】
前記シリコーンゴム(A)とフロロシリコーン(B)の配合割合が、質量比で(A):(B)=100:10〜100:50の範囲であることを特徴とする請求項2記載の定着用部材。
【請求項8】
電子写真画像形成装置に用いる定着装置であって、請求項1〜7の何れかに記載された定着用部材が定着ベルト或は定着ローラ及び/又は加圧ベルト或は加圧ローラとして配置されていることを特徴とする定着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−18173(P2006−18173A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−198094(P2004−198094)
【出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】