定着装置、画像形成装置およびプログラム
【課題】加圧部材の温度を検知する手段の有無にかかわらず加圧部材の温度に対応して定着部材の温度制御を行なうことができ、定着動作を安定して行なうことができる定着装置を提供する。
【解決手段】用紙Pにトナー像を定着する定着ベルト61と、定着ベルト61の外周面に圧接することで定着ベルト61との間に未定着トナー像を保持した用紙Pが通過するためのニップ部Nを形成する加圧ロール62と、定着ベルト61を加熱するIHヒータ80と、加圧ロール62を回転させることで定着ベルト61を回転させる駆動モータ90と、定着ベルト61の回転数を検知する回転検知計を備え、IHヒータ80は、加圧ロール62の温度変化に応じて変化する定着ベルト61の回転数に応じて定着開始後における定着ベルト61への加熱量を調整することを特徴とする定着ユニット60。
【解決手段】用紙Pにトナー像を定着する定着ベルト61と、定着ベルト61の外周面に圧接することで定着ベルト61との間に未定着トナー像を保持した用紙Pが通過するためのニップ部Nを形成する加圧ロール62と、定着ベルト61を加熱するIHヒータ80と、加圧ロール62を回転させることで定着ベルト61を回転させる駆動モータ90と、定着ベルト61の回転数を検知する回転検知計を備え、IHヒータ80は、加圧ロール62の温度変化に応じて変化する定着ベルト61の回転数に応じて定着開始後における定着ベルト61への加熱量を調整することを特徴とする定着ユニット60。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置、画像形成装置、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を用いた複写機、プリンタ等の画像形成装置では、例えばドラム状に形成された感光体を一様に帯電し、この感光体を画像情報に基づいて制御された光で露光して感光体上に静電潜像を形成する。そして、この静電潜像をトナーによって可視像(トナー像)とし、更にこのトナー像を記録材に転写し、これを定着装置によって定着して画像形成している。
【0003】
特許文献1には、1対の熱ローラと加圧ローラとを有し、それぞれにヒータが内蔵される定着装置であり、加圧ローラは支を中心に上下に回動するレバーに保持され熱ローラに対して圧着及び圧着が解除されるようになっており、そして加圧ローラの所定の位置にこの表面温度を検出する非接触のセンサが設けられ該センサは加圧ローラの圧着時と解除時との何れの場合でも加圧ローラとの距離が変わらない位置に配置するものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−274066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで一般に、定着装置の定着部材の温度を制御することは、定着動作を安定して行なうという観点から重要である。ところが定着部材の温度が、加圧部材の温度に影響を受けることがある。そしてこの場合、定着動作を安定して行なうことができないことがあった。
本発明は、加圧部材の温度を検知する手段の有無にかかわらず加圧部材の温度に対応して定着部材の温度制御を行なうことができ、定着動作を安定して行なうことができる定着装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、記録材にトナー像を定着する定着部材と、前記定着部材の外周面に圧接することで当該定着部材との間に未定着トナー像を保持した記録材が通過するための定着加圧部を形成する加圧部材と、前記定着部材を加熱する加熱手段と、前記加圧部材を回転させることで前記定着部材を回転させる駆動部と、前記定着部材の回転数を検知する回転数検知手段と、を備え、前記加熱手段は、前記加圧部材の温度変化に応じて変化する前記定着部材の回転数に応じて定着開始後における当該定着部材への加熱量を調整することを特徴とする定着装置である。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記加熱手段は、前記定着部材への加熱量を段階的に減少させるとともに加熱量を段階的に減少させる時間を変化させることで当該定着部材への加熱量を調整することを特徴とする請求項1に記載の定着装置である。
請求項3に記載の発明は、前記加圧部材を移動させることで当該加圧部材が前記定着部材の外周面へ圧接する状態と離間する状態とを変更可能とする加圧部材移動手段を更に備えることを特徴とする請求項1または2に記載の定着装置である。
【0008】
請求項4に記載の発明は、トナー像を形成するトナー像形成手段と、前記トナー像を記録材に転写する転写手段と、記録材にトナー像を定着する定着部材と、当該定着部材の外周面に圧接することで当該定着部材との間に未定着トナー像を保持した記録材が通過するための定着加圧部を形成する加圧部材と、当該定着部材を加熱する加熱手段と、当該加圧部材を回転させることで当該定着部材を回転させる駆動部と、当該定着部材の回転数を検知する回転数検知手段と、を備える定着手段と、前記加熱手段を制御する加熱制御手段と、を備え、前記加熱制御手段は、前記加圧部材の温度変化に応じて変化する前記定着部材の回転数を前記回転数検知手段から取得し、取得した当該回転数に応じて定着開始後における当該定着部材への加熱量を前記加熱手段を制御することで調整することを特徴とする画像形成装置である。
【0009】
請求項5に記載の発明は、前記加熱制御手段は、前記定着部材への加熱量を段階的に減少させるとともに加熱量を段階的に減少させる時間を変化させるように前記加熱手段を制御することを特徴とする請求項4に記載の画像形成装置である。
【0010】
請求項6に記載の発明は、コンピュータに、加圧部材の温度変化に応じて変化する定着部材の回転数を取得する機能と、前記定着部材の回転数の変化に基づき、定着開始後における当該定着部材への加熱量を調整する手順を決定する機能と、前記手順に基づき、加熱手段を制御する機能と、を実現するためのプログラムである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、加圧部材の温度を検知する手段の有無にかかわらず加圧部材の温度に対応して定着部材の温度制御を行なうことができ、定着動作を安定して行なうことができる定着装置を提供できる。
請求項2の発明によれば、本発明を採用しない場合に比較して、定着部材の温度制御がより簡単になる。
請求項3の発明によれば、加圧部材が定着部材の外周面へ圧接する際の定着部材の回転数により加熱手段の制御パターンを決定することができる。
請求項4の発明によれば、本構成を採用しない場合に比較して、より良好な画質を得ることができる画像形成装置を提供することができる。
請求項5の発明によれば、本発明を採用しない場合に比較して、画像形成装置の制御がより簡単になる。
請求項6の発明によれば、加圧部材の温度を検知する手段の有無にかかわらず加圧部材の温度に対応して定着部材の温度制御を行なう機能をコンピュータにより実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施の形態の定着装置が適用される画像形成装置の構成例を示した図である。
【図2】本実施の形態の定着ユニットの構成を示す正面図である。
【図3】図2における定着装置のIII−III断面図である。
【図4】定着ベルトの断面層構成図である。
【図5】本実施の形態のIHヒータの構成を説明する断面図である。
【図6】定着ベルトの温度が透磁率変化開始温度以下の温度範囲にある場合の磁力線の状態を説明する図である。
【図7】移動機構により加圧ロールを定着ベルトから離間させた状態を説明した図である。
【図8】本実施の形態の定着動作開始後における定着ベルトの温度変化を説明した図である。
【図9】加圧ロールの表面温度に対する定着ベルトの回転数について説明した図である。
【図10】IHヒータの制御を行なうための定着ユニット制御部の構成について説明した図である。
【図11】定着ユニット制御部が行なう処理の流れについて説明したフローチャートである。
【図12】定着ベルトの回転数の変化とIHヒータの制御パターンについて作成されたLUTの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<画像形成装置の説明>
図1は本実施の形態の定着装置が適用される画像形成装置の構成例を示した図である。図1に示す画像形成装置1は、所謂タンデム型のカラープリンタであり、画像データに基づき画像形成を行う画像形成部10、画像形成装置1全体の動作を制御する制御部31を備えている。さらには、例えばパーソナルコンピュータ(PC)3や画像読取装置(スキャナ)4等との通信を行って画像データを受信する通信部32、通信部32にて受信された画像データに対し予め定めた画像処理を施す画像処理部33を備えている。
【0014】
画像形成部10は、トナー像を形成するトナー像形成手段の一例であり、予め定められた間隔を置いて並列的に配置される4つの画像形成ユニット11Y,11M,11C,11K(「画像形成ユニット11」とも総称する)を備えている。各画像形成ユニット11は、静電潜像を形成してトナー像を保持する像保持体の一例としての感光体ドラム12、感光体ドラム12の表面を予め定めた電位で一様に帯電する帯電器13、帯電器13によって帯電された感光体ドラム12を各色画像データに基づき露光するLED(Light Emitting Diode)プリントヘッド14、感光体ドラム12上に形成された静電潜像を現像する現像器15、転写後の感光体ドラム12表面を清掃するドラムクリーナ16を備えている。
画像形成ユニット11各々は、現像器15に収納されるトナーを除いて略同様に構成され、それぞれがイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)のトナー像を形成する。
【0015】
また、画像形成部10は、各画像形成ユニット11の感光体ドラム12にて形成された各色トナー像が多重転写される中間転写ベルト20、各画像形成ユニット11にて形成された各色トナー像を中間転写ベルト20に順次転写(一次転写)する一次転写ロール21を備えている。さらに、中間転写ベルト20上に重畳して転写された各色トナー像を記録材(記録紙)である用紙Pに一括転写(二次転写)する二次転写ロール22、二次転写された各色トナー像を用紙P上に定着させる定着手段(定着装置)の一例としての定着ユニット60を備えている。なお、本実施の形態の画像形成装置1では、中間転写ベルト20、一次転写ロール21、および二次転写ロール22によりトナー像を用紙Pに転写する転写手段が構成される。
【0016】
本実施の形態の画像形成装置1では、制御部31による動作制御の下で、次のようなプロセスによる画像形成処理が行われる。すなわち、PC3やスキャナ4からの画像データは通信部32にて受信され、画像処理部33により予め定めた画像処理が施された後、各色毎の画像データとなって各画像形成ユニット11に送られる。そして、例えば黒(K)色トナー像を形成する画像形成ユニット11Kでは、感光体ドラム12が矢印A方向に回転しながら帯電器13により予め定めた電位で一様に帯電され、画像処理部33から送信されたK色画像データに基づきLEDプリントヘッド14が感光体ドラム12を走査露光する。それにより、感光体ドラム12上にはK色画像に関する静電潜像が形成される。感光体ドラム12上に形成されたK色静電潜像は現像器15により現像され、感光体ドラム12上にK色トナー像が形成される。同様に、画像形成ユニット11Y,11M,11Cにおいても、それぞれイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の各色トナー像が形成される。
【0017】
各画像形成ユニット11の感光体ドラム12に形成された各色トナー像は、一次転写ロール21により矢印B方向に移動する中間転写ベルト20上に順次静電転写(一次転写)され、各色トナーが重畳された重畳トナー像が形成される。中間転写ベルト20上の重畳トナー像は、中間転写ベルト20の移動に伴って二次転写ロール22が配置された領域(二次転写部T)に搬送される。重畳トナー像が二次転写部Tに搬送されると、そのタイミングに合わせて用紙保持部40から用紙Pが二次転写部Tに供給される。そして、重畳トナー像は、二次転写部Tにて二次転写ロール22が形成する転写電界により、搬送されてきた用紙P上に一括して静電転写(二次転写)される。
【0018】
その後、重畳トナー像が静電転写された用紙Pは、定着ユニット60まで搬送される。定着ユニット60に搬送された用紙P上のトナー像は、定着ユニット60によって熱および圧力を受け、用紙P上に定着される。そして、定着画像が形成された用紙Pは、画像形成装置1の排出部に設けられた用紙積載部45に搬送される。
一方、一次転写後に感光体ドラム12に付着しているトナー(一次転写残トナー)、および二次転写後に中間転写ベルト20に付着しているトナー(二次転写残トナー)は、それぞれドラムクリーナ16、およびベルトクリーナ25によって除去される。
このようにして、画像形成装置1での画像形成処理がプリント枚数分のサイクルだけ繰り返し実行される。
【0019】
<定着ユニットの構成の説明>
次に、本実施の形態の定着ユニット60について説明する。
図2および図3は本実施の形態の定着ユニット60の構成を示す図であり、図2は正面図、図3は図2におけるIII−III断面図である。
まず、断面図である図3に示すように、定着ユニット60は、交流磁界を生成するIH(Induction Heating)ヒータ80、IHヒータ80により電磁誘導加熱されて用紙Pにトナー像を定着する定着部材の一例としての定着ベルト61、定着ベルト61に対向するように配置される加圧部材の一例としての加圧ロール62、定着ベルト61を介して加圧ロール62から押圧される押圧パッド63を備えている。
さらに、定着ユニット60は、押圧パッド63等の構成部材を支持するホルダ65、IHヒータ80にて生成された交流磁界を誘導して磁路を形成する感温磁性部材64、感温磁性部材64を通過した磁力線を誘導する誘導部材66、定着ベルト61からの用紙Pの剥離を補助する剥離補助部材70、定着ベルト61の表面に接触して配設され定着ベルト61の温度を検知する温度検知手段の一例としての温度センサ75を備えている。また詳しくは後述するが、加圧ロール62は、定着を行なうときには定着ベルト61の外周面に圧接することで定着ベルト61との間に未定着トナー像を保持した用紙Pが通過するためのニップ部N(定着加圧部)を形成し、定着を行なわないときには定着ベルト61から離間するように移動する移動機構200を備える。なお本実施の形態において、IHヒータ80は、定着ベルト61を加熱する加熱手段として捉えることができる。
【0020】
<定着ベルトの説明>
定着ベルト61は、原形が円筒形状の無端のベルト部材で構成され、例えば原形(円筒形状)時の直径が30mm、幅方向長が370mmに形成されている。また、図4(定着ベルト61の断面層構成図)に示したように、定着ベルト61は、基材層611、基材層611の上に積層された導電発熱層612、トナー像の定着性を向上させる弾性層613、最上層に被覆された表面離型層614からなる多層構造のベルト部材である。
【0021】
基材層611は、薄層の導電発熱層612を支持するとともに、定着ベルト61全体としての機械的強度を形成する耐熱性のシート状部材で構成される。また、基材層611は、IHヒータ80にて生成された交流磁界が感温磁性部材64まで作用するように、磁界を通過させる物性(比透磁率、固有抵抗)を持った材質、厚さで形成される。一方、基材層611自身は、磁界の作用により発熱しないか、または発熱し難く構成される。
具体的には、基材層611として、例えば、厚さ30〜200μm(好ましくは50〜150μm)の非磁性ステンレススチール等の非磁性金属や、厚さ60〜200μmの樹脂材料等が用いられる。
【0022】
導電発熱層612は、導電層の一例であって、IHヒータ80にて生成される交流磁界によって電磁誘導加熱される電磁誘導発熱体層である。すなわち、導電発熱層612は、IHヒータ80からの交流磁界が厚さ方向に通過することにより、渦電流を発生させる層である。
通常、IHヒータ80に交流電流を供給する励磁回路(後段の図5も参照)の電源として、安価に製造できる汎用電源が使用される。そのため、IHヒータ80により生成される交流磁界の周波数は、一般に、汎用電源による20kHz〜100kHzとなる。それにより、導電発熱層612は、周波数20kHz〜100kHzの交流磁界が侵入し通過するように構成される。
【0023】
導電発熱層612に交流磁界が侵入できる領域は、交流磁界が1/eに減衰する領域である「表皮深さ(δ)」として規定され、次の(1)式から導かれる。(1)式において、fは交流磁界の周波数(例えば、20kHz)、ρは固有抵抗値(Ω・m)、μrは比透磁率である。
そのため、導電発熱層612の厚さは、周波数20kHz〜100kHzの交流磁界が導電発熱層612を侵入し通過するように、(1)式で規定される導電発熱層612の表皮深さ(δ)よりも薄層に構成される。また、導電発熱層612を構成する材料として、例えば、Au,Ag,Al,Cu,Zn,Sn,Pb,Bi,Be,Sb等の金属や、これらの金属合金が用いられる。
【0024】
【数1】
【0025】
具体的には、導電発熱層612として、厚さ2〜20μm、固有抵抗2.7×10−8Ω・m以下の例えばCu等の非磁性金属(比透磁率が概ね1の非磁性体)が用いられる。
また、定着ベルト61が定着設定温度まで加熱されるまでに要する時間(以下、「ウォームアップタイム」)を短縮する観点からも、導電発熱層612は、薄層に構成するのが好ましい。
【0026】
次に、弾性層613は、シリコーンゴム等の耐熱性の弾性体で構成される。定着対象となる用紙Pに保持されるトナー像は、粉体である各色トナーが積層して形成されている。そのため、ニップ部Nにおいてトナー像の全体により均一に熱を供給するには、用紙P上のトナー像の凹凸に倣って定着ベルト61表面が変形することが好ましい。そこで、弾性層613には、例えば厚みが100〜600μm、硬度が10°〜30°(JIS−A)のシリコーンゴムが好適である。
表面離型層614は、用紙P上に保持された未定着トナー像と直接接触するため、離型性の高い材質が使用される。例えば、PFA(テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、シリコーン共重合体、またはこれらの複合層等が用いられる。表面離型層614の厚さとしては、薄すぎると、耐摩耗性の面で充分でなく、定着ベルト61の寿命を短くする。その一方で、厚すぎると、定着ベルト61の熱容量が大きくなりすぎ、ウォームアップタイムが長くなる。そこで、表面離型層614の厚さとして、耐摩耗性と熱容量とのバランスを考慮し、1〜50μmが好適である。
【0027】
<押圧パッドの説明>
押圧パッド63は、シリコーンゴム等やフッ素ゴム等の弾性体で構成され、加圧ロール62と対向する位置にてホルダ65に支持される。そして、定着ベルト61を介して加圧ロール62から押圧される状態で配置され、加圧ロール62との間でニップ部N(定着加圧部)を形成する。
また、押圧パッド63は、ニップ部Nの入口側(用紙Pの搬送方向上流側)のプレニップ領域63aと、ニップ部Nの出口側(用紙Pの搬送方向下流側)の剥離ニップ領域63bとで異なるニップ圧が設定されている。すなわち、プレニップ領域63aでは、加圧ロール62側の面がほぼ加圧ロール62の外周面に倣う円弧形状に形成され、より均一で幅の広いニップ部Nを形成する。また、剥離ニップ領域63bでは、剥離ニップ領域63bを通過する定着ベルト61の曲率半径が小さくなるように、加圧ロール62表面から局所的に大きなニップ圧で押圧されるように形成される。それにより、剥離ニップ領域63bを通過する用紙Pに定着ベルト61表面から離れる方向のカール(ダウンカール)を形成して、用紙Pに対する定着ベルト61表面からの剥離を促進させている。
【0028】
なお、本実施の形態では、押圧パッド63による剥離の補助手段として、ニップ部Nの下流側に、剥離補助部材70を配置している。剥離補助部材70は、剥離バッフル71が定着ベルト61の回転移動方向と対向する向き(所謂カウンタ方向)に定着ベルト61と近接する状態でホルダ72によって支持される。そして、押圧パッド63の出口にて用紙Pに形成されたカール部分を剥離バッフル71により支持することで、用紙Pが定着ベルト61方向に向かうことを抑制する。
【0029】
<感温磁性部材の説明>
次に、感温磁性部材64は、定着ベルト61の内周面に倣った円弧形状で形成され、定着ベルト61の内周面とは予め定めた間隙(例えば、0.5〜1.5mm)を有するように近接させるが、非接触で配置される。感温磁性部材64を定着ベルト61と近接させて配置するのは、感温磁性部材64の温度が定着ベルト61の温度に対応して変化する、すなわち、感温磁性部材64の温度が定着ベルト61の温度と略同じ温度となるように構成するためである。また、感温磁性部材64を定着ベルト61と非接触で配置するのは、画像形成装置1のメインスイッチがオンされ、定着ベルト61が定着設定温度まで加熱される際に、定着ベルト61の熱が感温磁性部材64に流入するのを抑制して、ウォームアップタイムの短縮を図るためである。
【0030】
また、感温磁性部材64は、その磁気特性の透磁率が急変する温度である「透磁率変化開始温度」(後段参照)が各色トナー像が溶融する定着設定温度以上であって、定着ベルト61の弾性層613や表面離型層614の耐熱温度よりも低い温度範囲内に設定された材質で構成される。すなわち、感温磁性部材64は、定着設定温度を含む温度領域において強磁性と非磁性(常磁性)との間を可逆的に変化する特性(「感温磁性」)を有する材質で構成される。そして、感温磁性部材64は、強磁性を呈する透磁率変化開始温度以下の温度範囲において磁路形成部材として機能し、IHヒータ80にて生成され定着ベルト61を透過した磁力線を内部に誘導して、感温磁性部材64の内部を通過する交流磁界(磁力線)の磁路を形成する。それにより、感温磁性部材64は、定着ベルト61とIHヒータ80の励磁コイル82(後段の図5参照)とを内部に包み込むような閉磁路を形成する。一方、透磁率変化開始温度を超える温度範囲においては、感温磁性部材64は、IHヒータ80にて生成され定着ベルト61を透過した磁力線を、感温磁性部材64の厚さ方向に横切るように透過させる。それにより、IHヒータ80にて生成され定着ベルト61を透過した磁力線は、感温磁性部材64を透過し、誘導部材66の内部を通過してIHヒータ80に戻る磁路を形成する。
なお、ここでの「透磁率変化開始温度」とは、透磁率(例えば、JIS C2531で測定される透磁率)が連続的に低下を開始する温度であり、例えば感温磁性部材64等の部材を透過する磁束量(磁力線の数)が変化し始める温度点をいう。したがって、透磁率変化開始温度は、物質の磁性が消失する温度であるキュリー点に近い温度となるが、キュリー点とは異なる概念を有するものである。
【0031】
感温磁性部材64に用いる材質としては、透磁率変化開始温度が例えば140(定着設定温度)〜240℃の範囲内に設定された例えばFe−Ni合金(パーマロイ)等の二元系感温磁性合金やFe−Ni−Cr合金等の三元系の感温磁性合金等が用いられる。例えば、Fe−Niの二元系感温磁性合金においては約Fe64%、Ni36%(原子数比)とすることで225℃前後に透磁率変化開始温度を設定することができる。このようなパーマロイや感温磁性合金等の金属合金等は、成型性や加工性に優れ、熱伝導性も高く安価である等の理由から、感温磁性部材64に適する。その他の材質としては、Fe,Ni,Si,B,Nb,Cu,Zr,Co,Cr,V,Mn,Mo等からなる金属合金が用いられる。
また、感温磁性部材64は、IHヒータ80により生成された交流磁界(磁力線)に対する表皮深さδ(上記(1)式参照)よりも厚い厚さで形成される。具体的には、例えばFe−Ni合金を用いた場合には50〜300μm程度に設定される。
【0032】
<ホルダの説明>
押圧パッド63を支持するホルダ65は、押圧パッド63が加圧ロール62からの押圧力を受けた状態での撓み量が一定量以下となるように、剛性の高い材料で構成される。それにより、ニップ部Nにおける長手方向の圧力(ニップ圧)の均一性を維持している。さらに、本実施の形態の定着ユニット60では、電磁誘導を用いて定着ベルト61を加熱する構成を採用していることから、ホルダ65は、誘導磁界に影響を与えないか、または与え難い材料であり、かつ、誘導磁界から影響を受けないか、または受け難い材料で構成される。例えば、ガラス混入PPS(ポリフェニレンサルファイド)等の耐熱性樹脂や、例えばAl,Cu,Ag等の非磁性金属材料等が用いられる。
【0033】
<誘導部材の説明>
誘導部材66は、感温磁性部材64の内周面に倣った円弧形状で形成され、感温磁性部材64の内周面とは予め定めた間隙(例えば、1.0〜5.0mm)を有する非接触に配置される。また、誘導部材66は、例えばAg,Cu,Alといった固有抵抗値が比較的小さい非磁性金属で構成される。そして、感温磁性部材64が透磁率変化開始温度以上の温度に上昇した際に、IHヒータ80により生成された交流磁界(磁力線)を誘導して、定着ベルト61の導電発熱層612よりも渦電流Iが発生し易い状態を形成する。それにより、誘導部材66の厚さは、渦電流Iが流れ易いように、表皮深さδ(上記(1)式参照)よりも充分に厚い予め定められた厚さ(例えば、1.0mm)で形成される。
【0034】
<IHヒータの説明>
続いて、定着ベルト61の導電発熱層612に交流磁界を作用させて電磁誘導加熱するIHヒータ80について説明する。
図5は、本実施の形態のIHヒータ80の構成を説明する断面図である。図5に示したように、IHヒータ80は、例えば耐熱性樹脂等の非磁性体から構成される支持体81、交流磁界を生成する励磁コイル82を備えている。また、励磁コイル82を支持体81上に固定する弾性体で構成された弾性支持部材83、励磁コイル82にて生成された交流磁界の磁路を形成する磁心84を備えている。さらには、磁界を遮蔽するシールド85、磁心84を支持体81側に加圧する加圧部材86、励磁コイル82に交流電流を供給する励磁回路88を備えている。
【0035】
支持体81は、断面が定着ベルト61の表面形状に沿って湾曲した形状で形成され、励磁コイル82を支持する上部面(支持面)81aが定着ベルト61表面と予め定めた間隙(例えば、0.5〜2mm)を保つように形成されている。また、支持体81を構成する材質としては、例えば、耐熱ガラス、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォン、PPS(ポリフェニレンサルファイド)等の耐熱性樹脂、またはこれらにガラス繊維を混合した耐熱性樹脂等の耐熱性のある非磁性材料が用いられる。
励磁コイル82は、相互に絶縁された例えば直径0.17mmの銅線材を例えば90本束ねたリッツ線が長円形状や楕円形状、長方形状等の中空きの閉ループ状に巻かれて構成される。そして、励磁コイル82に励磁回路88から予め定めた周波数の交流電流が供給されることにより、励磁コイル82の周囲には、閉ループ状に巻かれたリッツ線を中心とする交流磁界が生成される。励磁回路88から励磁コイル82に供給される交流電流の周波数は、一般に、上記した汎用電源により生成される20kHz〜100kHzが用いられる。
【0036】
磁心84は、例えばソフトフェライト、フェライト樹脂、非晶質合金(アモルファス合金)、やパーマロイ、感温磁性合金等の高透磁率の酸化物や合金材質で構成される強磁性体が用いられ、磁路形成手段として機能する。磁心84は、励磁コイル82にて生成された交流磁界による磁力線(磁束)を内部に誘導し、磁心84から定着ベルト61を横切って感温磁性部材64方向に向かい、感温磁性部材64の中を通過して磁心84に戻るといった磁力線の通路(磁路)を形成する。すなわち、励磁コイル82にて生成された交流磁界が磁心84の内部と感温磁性部材64の内部とを通過するように構成して、磁力線が定着ベルト61と励磁コイル82とを内部に包み込むような閉磁路を形成する。それにより、励磁コイル82にて生成された交流磁界の磁力線が定着ベルト61の磁心84と対向する領域に集中される。
ここで、磁心84は磁路形成による損失が小さい材料が望ましい。具体的には、磁心84は渦電流損を小さくする形態(スリット等による電流経路遮断や分断化、薄板束ね等)での使用が望ましく、ヒステリシス損の小さい材料で形成されることが望ましい。
また、定着ベルト61の回転方向に沿った磁心84の長さは、感温磁性部材64の定着ベルト61の回転方向に沿った長さよりも小さく構成される。それにより、磁力線のIHヒータ80周辺への漏洩が減り、力率が向上する。さらには、定着ユニット60を構成する金属製部材への電磁誘導を抑え、定着ベルト61(導電発熱層612)での発熱効率を高める。
【0037】
<定着ベルトが発熱する状態の説明>
引き続いて、IHヒータ80により生成された交流磁界によって定着ベルト61が発熱する状態を説明する。
まず、上記したように、感温磁性部材64の透磁率変化開始温度は、各色トナー像を定着する定着設定温度以上であって定着ベルト61の耐熱温度以下となる温度範囲内(例えば、140〜240℃)に設定されている。そして、定着ベルト61の温度が透磁率変化開始温度以下の状態にある場合には、定着ベルト61に近接する感温磁性部材64の温度も定着ベルト61の温度に対応して、透磁率変化開始温度以下となる。そのため、感温磁性部材64は強磁性を呈するので、IHヒータ80により生成された交流磁界の磁力線Hは、定着ベルト61を透過した後、感温磁性部材64の内部を広がり方向に沿って通過する磁路を形成する。ここでの「広がり方向」とは、感温磁性部材64の厚さ方向と直交する方向を意味する。
【0038】
図6は、定着ベルト61の温度が透磁率変化開始温度以下の温度範囲にある場合の磁力線(H)の状態を説明する図である。図6に示したように、定着ベルト61の温度が透磁率変化開始温度以下の温度範囲にある場合には、IHヒータ80により生成された交流磁界の磁力線Hは、定着ベルト61を交差して透過し、感温磁性部材64の内部を広がり方向(厚さ方向と直交する方向)に沿って通過する磁路を形成する。そのため、定着ベルト61の導電発熱層612を横切る領域での単位面積あたりの磁力線Hの数(磁束密度)は多くなる。
【0039】
すなわち、IHヒータ80の磁心84から磁力線Hが放射されて定着ベルト61の導電発熱層612を横切る領域R1,R2を通過した後、磁力線Hは強磁性体である感温磁性部材64の内部に誘導される。そのため、定着ベルト61の導電発熱層612を厚さ方向に横切る磁力線Hは感温磁性部材64の内部に進入するように集中し、領域R1,R2での磁束密度は高くなる。また、感温磁性部材64の内部を広がり方向に沿って通過した磁力線Hが再び磁心84に戻るに際しても、導電発熱層612を厚さ方向に横切る領域R3では、感温磁性部材64内の磁位の低い部分から集中して磁心84に向けて放射される。そのため、定着ベルト61の導電発熱層612を厚さ方向に横切る磁力線Hは、感温磁性部材64から集中して磁心84に向かうこととなり、領域R3での磁束密度も高くなる。
【0040】
磁力線Hが厚さ方向に横切る定着ベルト61の導電発熱層612では、単位面積当たりの磁力線Hの数(磁束密度)の変化量に比例した渦電流Iが発生する。それにより、図6に示したように、磁束密度の変化量が大きい領域R1,R2および領域R3では、大きな渦電流Iが発生する。導電発熱層612に生じた渦電流Iは、導電発熱層612の固有抵抗値Rと渦電流Iの二乗の積であるジュール熱W(W=I2R)を発生させる。それにより、大きな渦電流Iが発生した導電発熱層612では、大きなジュール熱Wが発生する。
このように、定着ベルト61の温度が透磁率変化開始温度以下の温度範囲にある場合には、磁力線Hが導電発熱層612を横切る領域R1,R2や領域R3において大きな熱が発生する。それにより、定着ベルト61は加熱される。
【0041】
ところで、本実施の形態の定着ユニット60では、定着ベルト61の内周面側において定着ベルト61に近接させて感温磁性部材64を配置している。それにより、励磁コイル82にて生成された磁力線Hを内部に誘導する磁心84と、定着ベルト61を厚さ方向に横切って透過した磁力線Hを内部に誘導する感温磁性部材64とが近接した構成を実現している。そのため、IHヒータ80(励磁コイル82)により生成された交流磁界は、磁路が短いループを形成するので、磁路内での磁束密度や磁気結合度は高まる。それにより、定着ベルト61の温度が透磁率変化開始温度以下の温度範囲にある場合、定着ベルト61にはさらに効率的に熱が発生する。
【0042】
<加圧ロールの説明>
加圧ロール62は、定着ベルト61に対向するように配置され、図3の矢印D方向に、例えば140mm/sのプロセススピードで回転する。そして、加圧ロール62と押圧パッド63とにより定着ベルト61を挟持した状態でニップ部Nを形成し、このニップ部Nに未定着トナー像を保持した用紙Pを通過させることで、熱および圧力を加えて未定着トナー像を用紙Pに定着する。
加圧ロール62は、例えば直径18mmの中実のアルミニウム製コア(円柱状芯金)621と、コア621の外周面に被覆された例えば厚さ5mmのシリコーンスポンジ等の耐熱性弾性体層622と、さらに例えば厚さ50μmのカーボン配合のPFA等の耐熱性樹脂被覆または耐熱性ゴム被覆による離型層623とが積層されて構成される。そして、例えば20kgfの荷重で定着ベルト61を介して押圧パッド63を押圧している。
【0043】
このように、加圧ロール62の表面を構成する耐熱性弾性体層622と離型層623は、比較的柔らかい素材により形成されている。そのため、定着時以外においても加圧ロール62を定着ベルト61を介して押圧パッド63に圧接する状態のまま放置すると、元の形状に復元することができなくなるおそれがある。即ち、加圧ロール62は、ニップ部N(定着加圧部)により形成される形状のまま変形してしまう。その場合、ニップ部Nに押圧する圧力が設計通りとはならないため、定着を規定通りに行なうことができなくなり、定着ユニット60そのものの性能を損なうことになる。
【0044】
よって、加圧ロール62に加圧部材移動手段としての移動機構200を設け、定着時以外の時間帯は、加圧ロール62を、定着ベルト61から離間させる動作を行なう。即ち、加圧ロール62は、定着を行なうときには定着ベルト61の外周面に圧接することで定着ベルト61との間に未定着画像を保持した用紙Pを挿通するためのニップ部Nを形成し、定着を行なわないときには定着ベルト61から離間するように移動する。つまり本実施の形態では、移動機構200により加圧ロール62を移動させることで加圧ロール62が定着ベルト61の外周面へ圧接する状態と離間する状態とを変更可能としている。
【0045】
図7は移動機構200により加圧ロール62を定着ベルト61から離間させた状態を説明した図である。
図7に示すように加圧ロール62と定着ベルト61とは離間した状態にある。その結果、加圧ロール62は、元の円形形状に形状復元がなされるため、加圧ロール62が変形し元の形状に戻らなくなるおそれが少なくなる。
なお定着を行なう際には、移動機構200により再び加圧ロール62を定着ベルト61と接触させ、図3で説明したニップ部Nを形成する位置に戻すことが可能である。
【0046】
<加圧ロールと定着ベルトの駆動機構の説明>
続いて図2、図3、図7を使用して、本実施の形態の定着ユニット60における加圧ロール62と定着ベルト61の駆動機構について説明する。
【0047】
ここで、まず定着ユニット60は、図7に示すような、定着動作前の離間状態に設定されているものとする。定着動作前の待機時では、移動機構200によって、加圧ロール62は定着ベルト61から離れたウォームアップ位置に置かれる。このウォームアップ位置は、ウォームアップ時における加圧ロール62の配置位置であり、加圧ロール62が定着ベルト61とは物理的に接触しない所謂ラッチOFF状態になる。
【0048】
図2に示すように、定着ユニット60では、駆動部の一例としての駆動モータ90からの回転駆動力が、回転軸91に固定された伝達ギヤ92と、伝達ギヤ93,94,95,96を介してシャフト97に伝達される。それにより、加圧ロール62に回転駆動力が伝わり加圧ロール62が矢印D方向に回転駆動される。
【0049】
次に、駆動モータ90からの回転駆動力は、回転軸91に伝達ギヤ92と同軸に固定された伝達ギヤ101と、回転伝達制限部材の一例としてのワンウェイクラッチ102を介してシャフト103に伝達され、シャフト103に結合された伝達ギヤ104,105から定着ベルト61の両側に配されたエンドキャップ部材67のギヤ部67bに伝達される。それによって、エンドキャップ部材67から定着ベルト61に回転駆動力が伝わり、エンドキャップ部材67と定着ベルト61とが一体となって回転駆動される。このとき、定着ベルト61が定着ベルト61の両端部から駆動力を直接受けて矢印C方向に回転する。
【0050】
次に、定着ユニット60は、図3に示すような定着動作時には、移動機構200によって、加圧ロール62は定着ベルト61に圧接した所謂ラッチON状態に置かれる。ラッチOFF状態で、加圧ロール62の表面速度に対して定着ベルト61の表面速度が遅くなるようにギヤ列の減速比を設定する。このためラッチON状態では定着ベルト61が加圧ロール62に従って回転するようにワンウェイクラッチ102が作動することになり、駆動モータ90からシャフト103への回転駆動力の伝達が停止する。つまり図3の状態では、加圧ロール62には、回転駆動力が伝わっているが、定着ベルト61には回転駆動力が伝わらない状態となる。そのため駆動モータ90からの回転駆動力を受け、加圧ロール62は、矢印D方向に駆動する一方で、定着ベルト61は、加圧ロール62の回転に従って矢印D方向へ回転する状態となる。即ちこの状態で、駆動モータ90は、加圧ロール62を回転させることで定着ベルト61を回転させている。
【0051】
なお、本実施の形態の定着ユニット60は、回転数検知手段の一例である回転検知計107を備え、定着ベルト61の回転数を検知する。回転検知計107により検知した定着ベルト61の回転数を定着ユニット制御部300に出力される。そして定着ユニット制御部300は、駆動モータ90の制御を行なう。即ち、回転検知計107により検知した定着ベルト61の回転数に基づき、駆動モータ90をフィードバック制御する。また定着ユニット制御部300は、移動機構200の制御を行ない、移動機構200により加圧ロール62を移動させることで、加圧ロール62と定着ベルト61との圧接および離間の各状態を変更する。
【0052】
移動機構200は、位置決め駆動源としてのラッチモータ201と、ラッチモータ201に接続される回転軸202と、伝達ギヤ203,204と、伝達ギヤ204に接続されるシャフト205と、シャフト205により回転する偏心カム206と、加圧ロール62のシャフト97に接続し偏心カム206により移動するレバー207とを備えている。そしてこの偏心カム206の回転によりレバー207が押され、それにより加圧ロール62が図2で見て上下方向に移動する。これにより加圧ロール62が、定着ベルト61との間で圧接、離間の動作を行なう。
【0053】
<IHヒータ80の制御の説明>
ここで定着動作の際には、定着ユニット制御部300は、IHヒータ80の制御も行なっている。そして温度センサ75から取得された定着ベルト61の温度に基づき、IHヒータ80をフィードバック制御する。そしてこれとともに定着ユニット制御部300は、定着開始後においてIHヒータ80による定着ベルト61への加熱量を段階的に減少させる制御を行なっている。
【0054】
図8は、本実施の形態の定着動作開始後における定着ベルト61の温度変化を説明した図である。
図8において横軸は時間、縦軸は定着ベルト61の温度を表わす。図中IHヒータ80による加熱開始後、定着ベルト61の温度は上昇する。そして時間aにおいて移動機構200により加圧ロール62が定着ベルト61に圧接する(ラッチON)。そして時間a〜bまで定着ベルト61の温度は下降する。これは、加圧ロール62により定着ベルト61の熱が奪われるためである。次に時間b〜時間cにおいて定着ベルト61の温度は、温度T1でほぼ一定に保持されるように制御される。そして本実施の形態では、時間cにおいて、IHヒータ80に印加する電力量を減少させ、定着ベルト61の温度を温度T2まで下降させる。また時間dにおいて、IHヒータ80に印加する電力量を更に減少させ、定着ベルト61の温度を温度T3まで下降させる。本実施の形態では、定着ベルト61の温度を例えば、1℃〜2℃ずつ下降させる制御を行なう。
【0055】
このようにして定着ユニット制御部300は、定着開始後においてIHヒータ80に印加する電力量を段階的に減少させる制御を行ない、これに対応して定着ベルト61の温度も段階的に下降する。定着ベルト61の温度をこのように段階的に下降させるのは、定着の際に用紙Pに供給する熱量をほぼ一定とするためである。つまり定着動作開始後、時間の経過により、定着ベルト61により発生した熱が、加圧ロール62に移動することで加圧ロール62の温度は上昇する。そのため定着の際に用紙Pには、定着ベルト61の他に加圧ロール62からも熱が供給される。このとき定着ベルト61の温度がほぼ一定のままであると、用紙Pに対し予め定められた熱量よりも過剰の熱が供給されることになる。この場合、用紙Pに転写されたトナーが過剰に溶融し、トナーが用紙Pに定着されずに、定着ベルト61側に付着する所謂ホットオフセット現象が生じやすくなる。この現象が生じると形成される画像が悪化する。また用紙Pに過剰な熱を供給することで、電力消費量が増加しやすくなる。
【0056】
ここで従来は、時間c,dは予め定められており、変更しないのが一般的であった。つまり本実施の形態の定着ユニット60では、加圧ロール62に温度を検知する手段を有しないため、加圧ロール62の温度変化を考慮せずにIHヒータ80の制御を行なっていた。
しかしながらこの場合、用紙Pに供給される熱量が一定になりにくく、上述したホットオフセット現象が生じることがある。
そこで本実施の形態では、加圧ロール62の温度変化に応じて変化する定着ベルト61の回転数に応じて定着開始後における定着ベルト61への加熱量を調整する。これにより加圧ロール62に温度を検知する手段の有無にかかわらず、加圧ロール62の温度変化を考慮してIHヒータ80の制御を行い、定着ベルト61の加熱量を調整することができる。
【0057】
図9は、加圧ロール62の表面温度に対する定着ベルト61の回転数について説明した図である。
図9において横軸は加圧ロール62の温度を表わし、縦軸は定着ベルト61表面の線速度を表わす。図9に示すように加圧ロール62の表面温度が上昇すると定着ベルト61の線速度は増加する。定着ベルト61表面の線速度は、定着ベルト61の回転数と対応関係にあり、この場合、加圧ロール62の表面温度が上昇すると定着ベルト61の回転数が増加することを意味する。これは加圧ロール62の温度が変化すると加圧ロール62に径変化が生じるためである。即ち、加圧ロール62の温度が高くなると、加圧ロール62は膨張し、直径が大きくなる。よって加圧ロール62の回転数の変化がなければ、定着ベルト61の回転数は増加する。本実施の形態では、上述した通りラッチON後の駆動モータ90(図3参照)からの回転駆動力は、加圧ロール62側に伝わり、定着ベルト61側には伝わらない。これにより駆動源は、加圧ロール62側となり、加圧ロール62は予め定められた回転数で回転する。そのため定着ベルト61の回転数は、加圧ロール62の径変化に対応したものとなる。これは加圧ロール62の温度に対応して定着ベルト61の回転数が変化すると言い換えることもできる。
【0058】
つまり加圧ロール62の温度を検知する手段の有無にかかわらず、定着ベルト61の回転数を検知する回転検知計107(図2参照)を利用し、定着ベルト61の回転数の変化を監視することで、加圧ロール62の温度を予測することができる。本実施の形態では、ラッチON後の定着ベルト61の回転数の変化に応じてIHヒータ80を制御し、定着ベルト61の加熱を行なう。より具体的には、IHヒータ80による定着ベルト61への加熱量を段階的に減少させる時間を変化させる。つまり図8で説明した時間c,dを定着ベルト61の回転数の変化に応じて変更する。このようにすれば加圧ロール62の温度を考慮してIHヒータ80を制御することになり、その結果、用紙Pに供給される熱量がほぼ一定となりやすい。そのためホットオフセット現象がより生じにくくなる。更にIHヒータ80により適切な電力量を印加することができ、消費電力を節減しやすい。
【0059】
図10は、IHヒータ80の制御を行なうための定着ユニット制御部300の構成について説明した図である。そして図11は、定着ユニット制御部300が行なう処理の流れについて説明したフローチャートである。
【0060】
定着ユニット制御部300は、制御部31(図1参照)との間でコマンドの送受信を行なうための入出力部301と、移動機構200により加圧ロール62の移動を行なう加圧ロール移動部302と、定着ベルト61の回転数を取得する定着ベルト回転数取得部303と、定着ベルト61の回転数の変化からIHヒータ80の制御パターンを決定する制御パターン決定部304と、定着ベルト61の回転数の変化とIHヒータ80の制御パターンの関係を記憶する記憶部305と、制御パターン決定部304により決定された制御パターンによりIHヒータ80に印加する電力を調整する電力調整部306とからなる。
【0061】
ここで、定着ベルト回転数取得部303は、定着ベルト61の回転数について、回転検知計107(図2参照)から取得する。そしてこれから制御パターン決定部304が定着ベルト61の回転数の変化を算出する。
【0062】
本実施の形態において、記憶部305に記憶されている定着ベルト61の回転数の変化とIHヒータ80の制御パターンの関係は、例えばLUT(Look up Table)のような形で作成されている。
【0063】
図12は、定着ベルト61の回転数の変化とIHヒータ80の制御パターンについて作成されたLUTの一例である。
図12では、定着ベルト61の回転数と対応関係にある定着ベルト61表面の線速度を検知し、この線速度(mm/s)の変化量に対するIHヒータ80に印加する電力量を減少させるタイミング(s)について規定されている。このタイミングは、図8の時間c,dに対応する。このLUTでは、定着ベルト61表面の標準的な線速度である目標線速度と実際の線速度を比較し、この変化量により3段階に分け、このそれぞれに対する電力量を減少させるタイミング(s)が設定されている。具体的には、本実施の形態では、ラッチON後、1s後の定着ベルト61表面の線速度を検知する。目標線速度に対する実際の線速度の変化量が+4mm/s以上である場合、0mm/s以上+4mm/s未満である場合、0mm/s未満である場合に分けられる。これらの線速度の変化量は、それぞれ加圧ロール62が高温の場合、中温の場合、低温の場合に対応している。
【0064】
次に、図10および図11を使用して、定着ユニット制御部300が行なう処理について説明を行なう。
まず入出力部301が制御部31(図1参照)から定着動作開始のコマンドを受信する(ステップ101)。定着動作開始のコマンドを受信すると、加圧ロール移動部302が、移動機構200に制御信号を出力し加圧ロール62を定着ベルト61に圧接させる方向に移動させる(ステップ102)。それとともに電力調整部306が、IHヒータ80に対する電力の印加を開始する(ステップ103)。また定着ベルト回転数取得部303が、ラッチON後、1s後の定着ベルト61の回転数を取得する(ステップ104)。次に制御パターン決定部304が、定着ベルト61の回転数の変化を導出して記憶部305のLUTを参照し、定着ベルト61の回転数の変化からIHヒータ80の制御パターンを決定する(ステップ105)。そして電力調整部306は、この制御パターンによりIHヒータ80を制御し、図8で説明した3回目の加熱を行なう(ステップ106)。
【0065】
なお上述した例では、定着ベルト回転数取得部303が、ラッチON後、1s後の定着ベルト61の回転数を取得し、これによりIHヒータ80の制御パターンを決定していたが、これに限られるものではない。この時間は任意に設定できる。また複数回取得し、その度にIHヒータ80の制御パターンを決定してもよい。この場合、例えば、ラッチON後、1s後の定着ベルト61の回転数からIHヒータ80の制御パターンを決定し、更にその後の定着ベルト61の回転数によりIHヒータ80の制御パターンが変更されることになる。
【0066】
本実施の形態においてIHヒータ80の制御は、定着ユニット制御部300が行なっている。この場合定着ユニット制御部300は、加熱手段を制御する加熱制御手段として捉えることができる。なお本実施の形態では、このような制御を定着ユニット60に設けられた定着ユニット制御部300で行なったが、これに限られるものではなく、例えば制御部31で行なってもよい。
【0067】
また本実施の形態における定着ユニット制御部300が行なう動作は、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することにより実現される。即ち、定着ユニット制御部300に設けられた制御用コンピュータ内部の図示しないCPUが、定着ユニット制御部300内の入出力部301、加圧ロール移動部302、定着ベルト回転数取得部303、制御パターン決定部304、記憶部305、電力調整部306等の各機能を実現するプログラムを実行し、これらの各機能を実現させる。
【0068】
よって図12において説明した定着ユニット制御部300が行なう処理を実現するためのプログラムは、コンピュータに、加圧ロール62の温度変化に応じて変化する定着ベルト61の回転数を取得する機能と、定着ベルト61の回転数の変化に基づき、定着開始後における定着ベルト61への加熱量を調整する手順を決定する機能と、この手順に基づき、IHヒータ80を制御する機能と、を実現するためのプログラムとして捉えることができる。
【符号の説明】
【0069】
1…画像形成装置、60…定着ユニット、61…定着ベルト、62…加圧ロール、75…温度センサ、80…IHヒータ、90…駆動モータ、107…回転検知計、200…移動機構、300…定着ユニット制御部、N…ニップ部、P…用紙
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置、画像形成装置、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を用いた複写機、プリンタ等の画像形成装置では、例えばドラム状に形成された感光体を一様に帯電し、この感光体を画像情報に基づいて制御された光で露光して感光体上に静電潜像を形成する。そして、この静電潜像をトナーによって可視像(トナー像)とし、更にこのトナー像を記録材に転写し、これを定着装置によって定着して画像形成している。
【0003】
特許文献1には、1対の熱ローラと加圧ローラとを有し、それぞれにヒータが内蔵される定着装置であり、加圧ローラは支を中心に上下に回動するレバーに保持され熱ローラに対して圧着及び圧着が解除されるようになっており、そして加圧ローラの所定の位置にこの表面温度を検出する非接触のセンサが設けられ該センサは加圧ローラの圧着時と解除時との何れの場合でも加圧ローラとの距離が変わらない位置に配置するものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−274066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで一般に、定着装置の定着部材の温度を制御することは、定着動作を安定して行なうという観点から重要である。ところが定着部材の温度が、加圧部材の温度に影響を受けることがある。そしてこの場合、定着動作を安定して行なうことができないことがあった。
本発明は、加圧部材の温度を検知する手段の有無にかかわらず加圧部材の温度に対応して定着部材の温度制御を行なうことができ、定着動作を安定して行なうことができる定着装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、記録材にトナー像を定着する定着部材と、前記定着部材の外周面に圧接することで当該定着部材との間に未定着トナー像を保持した記録材が通過するための定着加圧部を形成する加圧部材と、前記定着部材を加熱する加熱手段と、前記加圧部材を回転させることで前記定着部材を回転させる駆動部と、前記定着部材の回転数を検知する回転数検知手段と、を備え、前記加熱手段は、前記加圧部材の温度変化に応じて変化する前記定着部材の回転数に応じて定着開始後における当該定着部材への加熱量を調整することを特徴とする定着装置である。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記加熱手段は、前記定着部材への加熱量を段階的に減少させるとともに加熱量を段階的に減少させる時間を変化させることで当該定着部材への加熱量を調整することを特徴とする請求項1に記載の定着装置である。
請求項3に記載の発明は、前記加圧部材を移動させることで当該加圧部材が前記定着部材の外周面へ圧接する状態と離間する状態とを変更可能とする加圧部材移動手段を更に備えることを特徴とする請求項1または2に記載の定着装置である。
【0008】
請求項4に記載の発明は、トナー像を形成するトナー像形成手段と、前記トナー像を記録材に転写する転写手段と、記録材にトナー像を定着する定着部材と、当該定着部材の外周面に圧接することで当該定着部材との間に未定着トナー像を保持した記録材が通過するための定着加圧部を形成する加圧部材と、当該定着部材を加熱する加熱手段と、当該加圧部材を回転させることで当該定着部材を回転させる駆動部と、当該定着部材の回転数を検知する回転数検知手段と、を備える定着手段と、前記加熱手段を制御する加熱制御手段と、を備え、前記加熱制御手段は、前記加圧部材の温度変化に応じて変化する前記定着部材の回転数を前記回転数検知手段から取得し、取得した当該回転数に応じて定着開始後における当該定着部材への加熱量を前記加熱手段を制御することで調整することを特徴とする画像形成装置である。
【0009】
請求項5に記載の発明は、前記加熱制御手段は、前記定着部材への加熱量を段階的に減少させるとともに加熱量を段階的に減少させる時間を変化させるように前記加熱手段を制御することを特徴とする請求項4に記載の画像形成装置である。
【0010】
請求項6に記載の発明は、コンピュータに、加圧部材の温度変化に応じて変化する定着部材の回転数を取得する機能と、前記定着部材の回転数の変化に基づき、定着開始後における当該定着部材への加熱量を調整する手順を決定する機能と、前記手順に基づき、加熱手段を制御する機能と、を実現するためのプログラムである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、加圧部材の温度を検知する手段の有無にかかわらず加圧部材の温度に対応して定着部材の温度制御を行なうことができ、定着動作を安定して行なうことができる定着装置を提供できる。
請求項2の発明によれば、本発明を採用しない場合に比較して、定着部材の温度制御がより簡単になる。
請求項3の発明によれば、加圧部材が定着部材の外周面へ圧接する際の定着部材の回転数により加熱手段の制御パターンを決定することができる。
請求項4の発明によれば、本構成を採用しない場合に比較して、より良好な画質を得ることができる画像形成装置を提供することができる。
請求項5の発明によれば、本発明を採用しない場合に比較して、画像形成装置の制御がより簡単になる。
請求項6の発明によれば、加圧部材の温度を検知する手段の有無にかかわらず加圧部材の温度に対応して定着部材の温度制御を行なう機能をコンピュータにより実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施の形態の定着装置が適用される画像形成装置の構成例を示した図である。
【図2】本実施の形態の定着ユニットの構成を示す正面図である。
【図3】図2における定着装置のIII−III断面図である。
【図4】定着ベルトの断面層構成図である。
【図5】本実施の形態のIHヒータの構成を説明する断面図である。
【図6】定着ベルトの温度が透磁率変化開始温度以下の温度範囲にある場合の磁力線の状態を説明する図である。
【図7】移動機構により加圧ロールを定着ベルトから離間させた状態を説明した図である。
【図8】本実施の形態の定着動作開始後における定着ベルトの温度変化を説明した図である。
【図9】加圧ロールの表面温度に対する定着ベルトの回転数について説明した図である。
【図10】IHヒータの制御を行なうための定着ユニット制御部の構成について説明した図である。
【図11】定着ユニット制御部が行なう処理の流れについて説明したフローチャートである。
【図12】定着ベルトの回転数の変化とIHヒータの制御パターンについて作成されたLUTの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<画像形成装置の説明>
図1は本実施の形態の定着装置が適用される画像形成装置の構成例を示した図である。図1に示す画像形成装置1は、所謂タンデム型のカラープリンタであり、画像データに基づき画像形成を行う画像形成部10、画像形成装置1全体の動作を制御する制御部31を備えている。さらには、例えばパーソナルコンピュータ(PC)3や画像読取装置(スキャナ)4等との通信を行って画像データを受信する通信部32、通信部32にて受信された画像データに対し予め定めた画像処理を施す画像処理部33を備えている。
【0014】
画像形成部10は、トナー像を形成するトナー像形成手段の一例であり、予め定められた間隔を置いて並列的に配置される4つの画像形成ユニット11Y,11M,11C,11K(「画像形成ユニット11」とも総称する)を備えている。各画像形成ユニット11は、静電潜像を形成してトナー像を保持する像保持体の一例としての感光体ドラム12、感光体ドラム12の表面を予め定めた電位で一様に帯電する帯電器13、帯電器13によって帯電された感光体ドラム12を各色画像データに基づき露光するLED(Light Emitting Diode)プリントヘッド14、感光体ドラム12上に形成された静電潜像を現像する現像器15、転写後の感光体ドラム12表面を清掃するドラムクリーナ16を備えている。
画像形成ユニット11各々は、現像器15に収納されるトナーを除いて略同様に構成され、それぞれがイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)のトナー像を形成する。
【0015】
また、画像形成部10は、各画像形成ユニット11の感光体ドラム12にて形成された各色トナー像が多重転写される中間転写ベルト20、各画像形成ユニット11にて形成された各色トナー像を中間転写ベルト20に順次転写(一次転写)する一次転写ロール21を備えている。さらに、中間転写ベルト20上に重畳して転写された各色トナー像を記録材(記録紙)である用紙Pに一括転写(二次転写)する二次転写ロール22、二次転写された各色トナー像を用紙P上に定着させる定着手段(定着装置)の一例としての定着ユニット60を備えている。なお、本実施の形態の画像形成装置1では、中間転写ベルト20、一次転写ロール21、および二次転写ロール22によりトナー像を用紙Pに転写する転写手段が構成される。
【0016】
本実施の形態の画像形成装置1では、制御部31による動作制御の下で、次のようなプロセスによる画像形成処理が行われる。すなわち、PC3やスキャナ4からの画像データは通信部32にて受信され、画像処理部33により予め定めた画像処理が施された後、各色毎の画像データとなって各画像形成ユニット11に送られる。そして、例えば黒(K)色トナー像を形成する画像形成ユニット11Kでは、感光体ドラム12が矢印A方向に回転しながら帯電器13により予め定めた電位で一様に帯電され、画像処理部33から送信されたK色画像データに基づきLEDプリントヘッド14が感光体ドラム12を走査露光する。それにより、感光体ドラム12上にはK色画像に関する静電潜像が形成される。感光体ドラム12上に形成されたK色静電潜像は現像器15により現像され、感光体ドラム12上にK色トナー像が形成される。同様に、画像形成ユニット11Y,11M,11Cにおいても、それぞれイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の各色トナー像が形成される。
【0017】
各画像形成ユニット11の感光体ドラム12に形成された各色トナー像は、一次転写ロール21により矢印B方向に移動する中間転写ベルト20上に順次静電転写(一次転写)され、各色トナーが重畳された重畳トナー像が形成される。中間転写ベルト20上の重畳トナー像は、中間転写ベルト20の移動に伴って二次転写ロール22が配置された領域(二次転写部T)に搬送される。重畳トナー像が二次転写部Tに搬送されると、そのタイミングに合わせて用紙保持部40から用紙Pが二次転写部Tに供給される。そして、重畳トナー像は、二次転写部Tにて二次転写ロール22が形成する転写電界により、搬送されてきた用紙P上に一括して静電転写(二次転写)される。
【0018】
その後、重畳トナー像が静電転写された用紙Pは、定着ユニット60まで搬送される。定着ユニット60に搬送された用紙P上のトナー像は、定着ユニット60によって熱および圧力を受け、用紙P上に定着される。そして、定着画像が形成された用紙Pは、画像形成装置1の排出部に設けられた用紙積載部45に搬送される。
一方、一次転写後に感光体ドラム12に付着しているトナー(一次転写残トナー)、および二次転写後に中間転写ベルト20に付着しているトナー(二次転写残トナー)は、それぞれドラムクリーナ16、およびベルトクリーナ25によって除去される。
このようにして、画像形成装置1での画像形成処理がプリント枚数分のサイクルだけ繰り返し実行される。
【0019】
<定着ユニットの構成の説明>
次に、本実施の形態の定着ユニット60について説明する。
図2および図3は本実施の形態の定着ユニット60の構成を示す図であり、図2は正面図、図3は図2におけるIII−III断面図である。
まず、断面図である図3に示すように、定着ユニット60は、交流磁界を生成するIH(Induction Heating)ヒータ80、IHヒータ80により電磁誘導加熱されて用紙Pにトナー像を定着する定着部材の一例としての定着ベルト61、定着ベルト61に対向するように配置される加圧部材の一例としての加圧ロール62、定着ベルト61を介して加圧ロール62から押圧される押圧パッド63を備えている。
さらに、定着ユニット60は、押圧パッド63等の構成部材を支持するホルダ65、IHヒータ80にて生成された交流磁界を誘導して磁路を形成する感温磁性部材64、感温磁性部材64を通過した磁力線を誘導する誘導部材66、定着ベルト61からの用紙Pの剥離を補助する剥離補助部材70、定着ベルト61の表面に接触して配設され定着ベルト61の温度を検知する温度検知手段の一例としての温度センサ75を備えている。また詳しくは後述するが、加圧ロール62は、定着を行なうときには定着ベルト61の外周面に圧接することで定着ベルト61との間に未定着トナー像を保持した用紙Pが通過するためのニップ部N(定着加圧部)を形成し、定着を行なわないときには定着ベルト61から離間するように移動する移動機構200を備える。なお本実施の形態において、IHヒータ80は、定着ベルト61を加熱する加熱手段として捉えることができる。
【0020】
<定着ベルトの説明>
定着ベルト61は、原形が円筒形状の無端のベルト部材で構成され、例えば原形(円筒形状)時の直径が30mm、幅方向長が370mmに形成されている。また、図4(定着ベルト61の断面層構成図)に示したように、定着ベルト61は、基材層611、基材層611の上に積層された導電発熱層612、トナー像の定着性を向上させる弾性層613、最上層に被覆された表面離型層614からなる多層構造のベルト部材である。
【0021】
基材層611は、薄層の導電発熱層612を支持するとともに、定着ベルト61全体としての機械的強度を形成する耐熱性のシート状部材で構成される。また、基材層611は、IHヒータ80にて生成された交流磁界が感温磁性部材64まで作用するように、磁界を通過させる物性(比透磁率、固有抵抗)を持った材質、厚さで形成される。一方、基材層611自身は、磁界の作用により発熱しないか、または発熱し難く構成される。
具体的には、基材層611として、例えば、厚さ30〜200μm(好ましくは50〜150μm)の非磁性ステンレススチール等の非磁性金属や、厚さ60〜200μmの樹脂材料等が用いられる。
【0022】
導電発熱層612は、導電層の一例であって、IHヒータ80にて生成される交流磁界によって電磁誘導加熱される電磁誘導発熱体層である。すなわち、導電発熱層612は、IHヒータ80からの交流磁界が厚さ方向に通過することにより、渦電流を発生させる層である。
通常、IHヒータ80に交流電流を供給する励磁回路(後段の図5も参照)の電源として、安価に製造できる汎用電源が使用される。そのため、IHヒータ80により生成される交流磁界の周波数は、一般に、汎用電源による20kHz〜100kHzとなる。それにより、導電発熱層612は、周波数20kHz〜100kHzの交流磁界が侵入し通過するように構成される。
【0023】
導電発熱層612に交流磁界が侵入できる領域は、交流磁界が1/eに減衰する領域である「表皮深さ(δ)」として規定され、次の(1)式から導かれる。(1)式において、fは交流磁界の周波数(例えば、20kHz)、ρは固有抵抗値(Ω・m)、μrは比透磁率である。
そのため、導電発熱層612の厚さは、周波数20kHz〜100kHzの交流磁界が導電発熱層612を侵入し通過するように、(1)式で規定される導電発熱層612の表皮深さ(δ)よりも薄層に構成される。また、導電発熱層612を構成する材料として、例えば、Au,Ag,Al,Cu,Zn,Sn,Pb,Bi,Be,Sb等の金属や、これらの金属合金が用いられる。
【0024】
【数1】
【0025】
具体的には、導電発熱層612として、厚さ2〜20μm、固有抵抗2.7×10−8Ω・m以下の例えばCu等の非磁性金属(比透磁率が概ね1の非磁性体)が用いられる。
また、定着ベルト61が定着設定温度まで加熱されるまでに要する時間(以下、「ウォームアップタイム」)を短縮する観点からも、導電発熱層612は、薄層に構成するのが好ましい。
【0026】
次に、弾性層613は、シリコーンゴム等の耐熱性の弾性体で構成される。定着対象となる用紙Pに保持されるトナー像は、粉体である各色トナーが積層して形成されている。そのため、ニップ部Nにおいてトナー像の全体により均一に熱を供給するには、用紙P上のトナー像の凹凸に倣って定着ベルト61表面が変形することが好ましい。そこで、弾性層613には、例えば厚みが100〜600μm、硬度が10°〜30°(JIS−A)のシリコーンゴムが好適である。
表面離型層614は、用紙P上に保持された未定着トナー像と直接接触するため、離型性の高い材質が使用される。例えば、PFA(テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、シリコーン共重合体、またはこれらの複合層等が用いられる。表面離型層614の厚さとしては、薄すぎると、耐摩耗性の面で充分でなく、定着ベルト61の寿命を短くする。その一方で、厚すぎると、定着ベルト61の熱容量が大きくなりすぎ、ウォームアップタイムが長くなる。そこで、表面離型層614の厚さとして、耐摩耗性と熱容量とのバランスを考慮し、1〜50μmが好適である。
【0027】
<押圧パッドの説明>
押圧パッド63は、シリコーンゴム等やフッ素ゴム等の弾性体で構成され、加圧ロール62と対向する位置にてホルダ65に支持される。そして、定着ベルト61を介して加圧ロール62から押圧される状態で配置され、加圧ロール62との間でニップ部N(定着加圧部)を形成する。
また、押圧パッド63は、ニップ部Nの入口側(用紙Pの搬送方向上流側)のプレニップ領域63aと、ニップ部Nの出口側(用紙Pの搬送方向下流側)の剥離ニップ領域63bとで異なるニップ圧が設定されている。すなわち、プレニップ領域63aでは、加圧ロール62側の面がほぼ加圧ロール62の外周面に倣う円弧形状に形成され、より均一で幅の広いニップ部Nを形成する。また、剥離ニップ領域63bでは、剥離ニップ領域63bを通過する定着ベルト61の曲率半径が小さくなるように、加圧ロール62表面から局所的に大きなニップ圧で押圧されるように形成される。それにより、剥離ニップ領域63bを通過する用紙Pに定着ベルト61表面から離れる方向のカール(ダウンカール)を形成して、用紙Pに対する定着ベルト61表面からの剥離を促進させている。
【0028】
なお、本実施の形態では、押圧パッド63による剥離の補助手段として、ニップ部Nの下流側に、剥離補助部材70を配置している。剥離補助部材70は、剥離バッフル71が定着ベルト61の回転移動方向と対向する向き(所謂カウンタ方向)に定着ベルト61と近接する状態でホルダ72によって支持される。そして、押圧パッド63の出口にて用紙Pに形成されたカール部分を剥離バッフル71により支持することで、用紙Pが定着ベルト61方向に向かうことを抑制する。
【0029】
<感温磁性部材の説明>
次に、感温磁性部材64は、定着ベルト61の内周面に倣った円弧形状で形成され、定着ベルト61の内周面とは予め定めた間隙(例えば、0.5〜1.5mm)を有するように近接させるが、非接触で配置される。感温磁性部材64を定着ベルト61と近接させて配置するのは、感温磁性部材64の温度が定着ベルト61の温度に対応して変化する、すなわち、感温磁性部材64の温度が定着ベルト61の温度と略同じ温度となるように構成するためである。また、感温磁性部材64を定着ベルト61と非接触で配置するのは、画像形成装置1のメインスイッチがオンされ、定着ベルト61が定着設定温度まで加熱される際に、定着ベルト61の熱が感温磁性部材64に流入するのを抑制して、ウォームアップタイムの短縮を図るためである。
【0030】
また、感温磁性部材64は、その磁気特性の透磁率が急変する温度である「透磁率変化開始温度」(後段参照)が各色トナー像が溶融する定着設定温度以上であって、定着ベルト61の弾性層613や表面離型層614の耐熱温度よりも低い温度範囲内に設定された材質で構成される。すなわち、感温磁性部材64は、定着設定温度を含む温度領域において強磁性と非磁性(常磁性)との間を可逆的に変化する特性(「感温磁性」)を有する材質で構成される。そして、感温磁性部材64は、強磁性を呈する透磁率変化開始温度以下の温度範囲において磁路形成部材として機能し、IHヒータ80にて生成され定着ベルト61を透過した磁力線を内部に誘導して、感温磁性部材64の内部を通過する交流磁界(磁力線)の磁路を形成する。それにより、感温磁性部材64は、定着ベルト61とIHヒータ80の励磁コイル82(後段の図5参照)とを内部に包み込むような閉磁路を形成する。一方、透磁率変化開始温度を超える温度範囲においては、感温磁性部材64は、IHヒータ80にて生成され定着ベルト61を透過した磁力線を、感温磁性部材64の厚さ方向に横切るように透過させる。それにより、IHヒータ80にて生成され定着ベルト61を透過した磁力線は、感温磁性部材64を透過し、誘導部材66の内部を通過してIHヒータ80に戻る磁路を形成する。
なお、ここでの「透磁率変化開始温度」とは、透磁率(例えば、JIS C2531で測定される透磁率)が連続的に低下を開始する温度であり、例えば感温磁性部材64等の部材を透過する磁束量(磁力線の数)が変化し始める温度点をいう。したがって、透磁率変化開始温度は、物質の磁性が消失する温度であるキュリー点に近い温度となるが、キュリー点とは異なる概念を有するものである。
【0031】
感温磁性部材64に用いる材質としては、透磁率変化開始温度が例えば140(定着設定温度)〜240℃の範囲内に設定された例えばFe−Ni合金(パーマロイ)等の二元系感温磁性合金やFe−Ni−Cr合金等の三元系の感温磁性合金等が用いられる。例えば、Fe−Niの二元系感温磁性合金においては約Fe64%、Ni36%(原子数比)とすることで225℃前後に透磁率変化開始温度を設定することができる。このようなパーマロイや感温磁性合金等の金属合金等は、成型性や加工性に優れ、熱伝導性も高く安価である等の理由から、感温磁性部材64に適する。その他の材質としては、Fe,Ni,Si,B,Nb,Cu,Zr,Co,Cr,V,Mn,Mo等からなる金属合金が用いられる。
また、感温磁性部材64は、IHヒータ80により生成された交流磁界(磁力線)に対する表皮深さδ(上記(1)式参照)よりも厚い厚さで形成される。具体的には、例えばFe−Ni合金を用いた場合には50〜300μm程度に設定される。
【0032】
<ホルダの説明>
押圧パッド63を支持するホルダ65は、押圧パッド63が加圧ロール62からの押圧力を受けた状態での撓み量が一定量以下となるように、剛性の高い材料で構成される。それにより、ニップ部Nにおける長手方向の圧力(ニップ圧)の均一性を維持している。さらに、本実施の形態の定着ユニット60では、電磁誘導を用いて定着ベルト61を加熱する構成を採用していることから、ホルダ65は、誘導磁界に影響を与えないか、または与え難い材料であり、かつ、誘導磁界から影響を受けないか、または受け難い材料で構成される。例えば、ガラス混入PPS(ポリフェニレンサルファイド)等の耐熱性樹脂や、例えばAl,Cu,Ag等の非磁性金属材料等が用いられる。
【0033】
<誘導部材の説明>
誘導部材66は、感温磁性部材64の内周面に倣った円弧形状で形成され、感温磁性部材64の内周面とは予め定めた間隙(例えば、1.0〜5.0mm)を有する非接触に配置される。また、誘導部材66は、例えばAg,Cu,Alといった固有抵抗値が比較的小さい非磁性金属で構成される。そして、感温磁性部材64が透磁率変化開始温度以上の温度に上昇した際に、IHヒータ80により生成された交流磁界(磁力線)を誘導して、定着ベルト61の導電発熱層612よりも渦電流Iが発生し易い状態を形成する。それにより、誘導部材66の厚さは、渦電流Iが流れ易いように、表皮深さδ(上記(1)式参照)よりも充分に厚い予め定められた厚さ(例えば、1.0mm)で形成される。
【0034】
<IHヒータの説明>
続いて、定着ベルト61の導電発熱層612に交流磁界を作用させて電磁誘導加熱するIHヒータ80について説明する。
図5は、本実施の形態のIHヒータ80の構成を説明する断面図である。図5に示したように、IHヒータ80は、例えば耐熱性樹脂等の非磁性体から構成される支持体81、交流磁界を生成する励磁コイル82を備えている。また、励磁コイル82を支持体81上に固定する弾性体で構成された弾性支持部材83、励磁コイル82にて生成された交流磁界の磁路を形成する磁心84を備えている。さらには、磁界を遮蔽するシールド85、磁心84を支持体81側に加圧する加圧部材86、励磁コイル82に交流電流を供給する励磁回路88を備えている。
【0035】
支持体81は、断面が定着ベルト61の表面形状に沿って湾曲した形状で形成され、励磁コイル82を支持する上部面(支持面)81aが定着ベルト61表面と予め定めた間隙(例えば、0.5〜2mm)を保つように形成されている。また、支持体81を構成する材質としては、例えば、耐熱ガラス、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォン、PPS(ポリフェニレンサルファイド)等の耐熱性樹脂、またはこれらにガラス繊維を混合した耐熱性樹脂等の耐熱性のある非磁性材料が用いられる。
励磁コイル82は、相互に絶縁された例えば直径0.17mmの銅線材を例えば90本束ねたリッツ線が長円形状や楕円形状、長方形状等の中空きの閉ループ状に巻かれて構成される。そして、励磁コイル82に励磁回路88から予め定めた周波数の交流電流が供給されることにより、励磁コイル82の周囲には、閉ループ状に巻かれたリッツ線を中心とする交流磁界が生成される。励磁回路88から励磁コイル82に供給される交流電流の周波数は、一般に、上記した汎用電源により生成される20kHz〜100kHzが用いられる。
【0036】
磁心84は、例えばソフトフェライト、フェライト樹脂、非晶質合金(アモルファス合金)、やパーマロイ、感温磁性合金等の高透磁率の酸化物や合金材質で構成される強磁性体が用いられ、磁路形成手段として機能する。磁心84は、励磁コイル82にて生成された交流磁界による磁力線(磁束)を内部に誘導し、磁心84から定着ベルト61を横切って感温磁性部材64方向に向かい、感温磁性部材64の中を通過して磁心84に戻るといった磁力線の通路(磁路)を形成する。すなわち、励磁コイル82にて生成された交流磁界が磁心84の内部と感温磁性部材64の内部とを通過するように構成して、磁力線が定着ベルト61と励磁コイル82とを内部に包み込むような閉磁路を形成する。それにより、励磁コイル82にて生成された交流磁界の磁力線が定着ベルト61の磁心84と対向する領域に集中される。
ここで、磁心84は磁路形成による損失が小さい材料が望ましい。具体的には、磁心84は渦電流損を小さくする形態(スリット等による電流経路遮断や分断化、薄板束ね等)での使用が望ましく、ヒステリシス損の小さい材料で形成されることが望ましい。
また、定着ベルト61の回転方向に沿った磁心84の長さは、感温磁性部材64の定着ベルト61の回転方向に沿った長さよりも小さく構成される。それにより、磁力線のIHヒータ80周辺への漏洩が減り、力率が向上する。さらには、定着ユニット60を構成する金属製部材への電磁誘導を抑え、定着ベルト61(導電発熱層612)での発熱効率を高める。
【0037】
<定着ベルトが発熱する状態の説明>
引き続いて、IHヒータ80により生成された交流磁界によって定着ベルト61が発熱する状態を説明する。
まず、上記したように、感温磁性部材64の透磁率変化開始温度は、各色トナー像を定着する定着設定温度以上であって定着ベルト61の耐熱温度以下となる温度範囲内(例えば、140〜240℃)に設定されている。そして、定着ベルト61の温度が透磁率変化開始温度以下の状態にある場合には、定着ベルト61に近接する感温磁性部材64の温度も定着ベルト61の温度に対応して、透磁率変化開始温度以下となる。そのため、感温磁性部材64は強磁性を呈するので、IHヒータ80により生成された交流磁界の磁力線Hは、定着ベルト61を透過した後、感温磁性部材64の内部を広がり方向に沿って通過する磁路を形成する。ここでの「広がり方向」とは、感温磁性部材64の厚さ方向と直交する方向を意味する。
【0038】
図6は、定着ベルト61の温度が透磁率変化開始温度以下の温度範囲にある場合の磁力線(H)の状態を説明する図である。図6に示したように、定着ベルト61の温度が透磁率変化開始温度以下の温度範囲にある場合には、IHヒータ80により生成された交流磁界の磁力線Hは、定着ベルト61を交差して透過し、感温磁性部材64の内部を広がり方向(厚さ方向と直交する方向)に沿って通過する磁路を形成する。そのため、定着ベルト61の導電発熱層612を横切る領域での単位面積あたりの磁力線Hの数(磁束密度)は多くなる。
【0039】
すなわち、IHヒータ80の磁心84から磁力線Hが放射されて定着ベルト61の導電発熱層612を横切る領域R1,R2を通過した後、磁力線Hは強磁性体である感温磁性部材64の内部に誘導される。そのため、定着ベルト61の導電発熱層612を厚さ方向に横切る磁力線Hは感温磁性部材64の内部に進入するように集中し、領域R1,R2での磁束密度は高くなる。また、感温磁性部材64の内部を広がり方向に沿って通過した磁力線Hが再び磁心84に戻るに際しても、導電発熱層612を厚さ方向に横切る領域R3では、感温磁性部材64内の磁位の低い部分から集中して磁心84に向けて放射される。そのため、定着ベルト61の導電発熱層612を厚さ方向に横切る磁力線Hは、感温磁性部材64から集中して磁心84に向かうこととなり、領域R3での磁束密度も高くなる。
【0040】
磁力線Hが厚さ方向に横切る定着ベルト61の導電発熱層612では、単位面積当たりの磁力線Hの数(磁束密度)の変化量に比例した渦電流Iが発生する。それにより、図6に示したように、磁束密度の変化量が大きい領域R1,R2および領域R3では、大きな渦電流Iが発生する。導電発熱層612に生じた渦電流Iは、導電発熱層612の固有抵抗値Rと渦電流Iの二乗の積であるジュール熱W(W=I2R)を発生させる。それにより、大きな渦電流Iが発生した導電発熱層612では、大きなジュール熱Wが発生する。
このように、定着ベルト61の温度が透磁率変化開始温度以下の温度範囲にある場合には、磁力線Hが導電発熱層612を横切る領域R1,R2や領域R3において大きな熱が発生する。それにより、定着ベルト61は加熱される。
【0041】
ところで、本実施の形態の定着ユニット60では、定着ベルト61の内周面側において定着ベルト61に近接させて感温磁性部材64を配置している。それにより、励磁コイル82にて生成された磁力線Hを内部に誘導する磁心84と、定着ベルト61を厚さ方向に横切って透過した磁力線Hを内部に誘導する感温磁性部材64とが近接した構成を実現している。そのため、IHヒータ80(励磁コイル82)により生成された交流磁界は、磁路が短いループを形成するので、磁路内での磁束密度や磁気結合度は高まる。それにより、定着ベルト61の温度が透磁率変化開始温度以下の温度範囲にある場合、定着ベルト61にはさらに効率的に熱が発生する。
【0042】
<加圧ロールの説明>
加圧ロール62は、定着ベルト61に対向するように配置され、図3の矢印D方向に、例えば140mm/sのプロセススピードで回転する。そして、加圧ロール62と押圧パッド63とにより定着ベルト61を挟持した状態でニップ部Nを形成し、このニップ部Nに未定着トナー像を保持した用紙Pを通過させることで、熱および圧力を加えて未定着トナー像を用紙Pに定着する。
加圧ロール62は、例えば直径18mmの中実のアルミニウム製コア(円柱状芯金)621と、コア621の外周面に被覆された例えば厚さ5mmのシリコーンスポンジ等の耐熱性弾性体層622と、さらに例えば厚さ50μmのカーボン配合のPFA等の耐熱性樹脂被覆または耐熱性ゴム被覆による離型層623とが積層されて構成される。そして、例えば20kgfの荷重で定着ベルト61を介して押圧パッド63を押圧している。
【0043】
このように、加圧ロール62の表面を構成する耐熱性弾性体層622と離型層623は、比較的柔らかい素材により形成されている。そのため、定着時以外においても加圧ロール62を定着ベルト61を介して押圧パッド63に圧接する状態のまま放置すると、元の形状に復元することができなくなるおそれがある。即ち、加圧ロール62は、ニップ部N(定着加圧部)により形成される形状のまま変形してしまう。その場合、ニップ部Nに押圧する圧力が設計通りとはならないため、定着を規定通りに行なうことができなくなり、定着ユニット60そのものの性能を損なうことになる。
【0044】
よって、加圧ロール62に加圧部材移動手段としての移動機構200を設け、定着時以外の時間帯は、加圧ロール62を、定着ベルト61から離間させる動作を行なう。即ち、加圧ロール62は、定着を行なうときには定着ベルト61の外周面に圧接することで定着ベルト61との間に未定着画像を保持した用紙Pを挿通するためのニップ部Nを形成し、定着を行なわないときには定着ベルト61から離間するように移動する。つまり本実施の形態では、移動機構200により加圧ロール62を移動させることで加圧ロール62が定着ベルト61の外周面へ圧接する状態と離間する状態とを変更可能としている。
【0045】
図7は移動機構200により加圧ロール62を定着ベルト61から離間させた状態を説明した図である。
図7に示すように加圧ロール62と定着ベルト61とは離間した状態にある。その結果、加圧ロール62は、元の円形形状に形状復元がなされるため、加圧ロール62が変形し元の形状に戻らなくなるおそれが少なくなる。
なお定着を行なう際には、移動機構200により再び加圧ロール62を定着ベルト61と接触させ、図3で説明したニップ部Nを形成する位置に戻すことが可能である。
【0046】
<加圧ロールと定着ベルトの駆動機構の説明>
続いて図2、図3、図7を使用して、本実施の形態の定着ユニット60における加圧ロール62と定着ベルト61の駆動機構について説明する。
【0047】
ここで、まず定着ユニット60は、図7に示すような、定着動作前の離間状態に設定されているものとする。定着動作前の待機時では、移動機構200によって、加圧ロール62は定着ベルト61から離れたウォームアップ位置に置かれる。このウォームアップ位置は、ウォームアップ時における加圧ロール62の配置位置であり、加圧ロール62が定着ベルト61とは物理的に接触しない所謂ラッチOFF状態になる。
【0048】
図2に示すように、定着ユニット60では、駆動部の一例としての駆動モータ90からの回転駆動力が、回転軸91に固定された伝達ギヤ92と、伝達ギヤ93,94,95,96を介してシャフト97に伝達される。それにより、加圧ロール62に回転駆動力が伝わり加圧ロール62が矢印D方向に回転駆動される。
【0049】
次に、駆動モータ90からの回転駆動力は、回転軸91に伝達ギヤ92と同軸に固定された伝達ギヤ101と、回転伝達制限部材の一例としてのワンウェイクラッチ102を介してシャフト103に伝達され、シャフト103に結合された伝達ギヤ104,105から定着ベルト61の両側に配されたエンドキャップ部材67のギヤ部67bに伝達される。それによって、エンドキャップ部材67から定着ベルト61に回転駆動力が伝わり、エンドキャップ部材67と定着ベルト61とが一体となって回転駆動される。このとき、定着ベルト61が定着ベルト61の両端部から駆動力を直接受けて矢印C方向に回転する。
【0050】
次に、定着ユニット60は、図3に示すような定着動作時には、移動機構200によって、加圧ロール62は定着ベルト61に圧接した所謂ラッチON状態に置かれる。ラッチOFF状態で、加圧ロール62の表面速度に対して定着ベルト61の表面速度が遅くなるようにギヤ列の減速比を設定する。このためラッチON状態では定着ベルト61が加圧ロール62に従って回転するようにワンウェイクラッチ102が作動することになり、駆動モータ90からシャフト103への回転駆動力の伝達が停止する。つまり図3の状態では、加圧ロール62には、回転駆動力が伝わっているが、定着ベルト61には回転駆動力が伝わらない状態となる。そのため駆動モータ90からの回転駆動力を受け、加圧ロール62は、矢印D方向に駆動する一方で、定着ベルト61は、加圧ロール62の回転に従って矢印D方向へ回転する状態となる。即ちこの状態で、駆動モータ90は、加圧ロール62を回転させることで定着ベルト61を回転させている。
【0051】
なお、本実施の形態の定着ユニット60は、回転数検知手段の一例である回転検知計107を備え、定着ベルト61の回転数を検知する。回転検知計107により検知した定着ベルト61の回転数を定着ユニット制御部300に出力される。そして定着ユニット制御部300は、駆動モータ90の制御を行なう。即ち、回転検知計107により検知した定着ベルト61の回転数に基づき、駆動モータ90をフィードバック制御する。また定着ユニット制御部300は、移動機構200の制御を行ない、移動機構200により加圧ロール62を移動させることで、加圧ロール62と定着ベルト61との圧接および離間の各状態を変更する。
【0052】
移動機構200は、位置決め駆動源としてのラッチモータ201と、ラッチモータ201に接続される回転軸202と、伝達ギヤ203,204と、伝達ギヤ204に接続されるシャフト205と、シャフト205により回転する偏心カム206と、加圧ロール62のシャフト97に接続し偏心カム206により移動するレバー207とを備えている。そしてこの偏心カム206の回転によりレバー207が押され、それにより加圧ロール62が図2で見て上下方向に移動する。これにより加圧ロール62が、定着ベルト61との間で圧接、離間の動作を行なう。
【0053】
<IHヒータ80の制御の説明>
ここで定着動作の際には、定着ユニット制御部300は、IHヒータ80の制御も行なっている。そして温度センサ75から取得された定着ベルト61の温度に基づき、IHヒータ80をフィードバック制御する。そしてこれとともに定着ユニット制御部300は、定着開始後においてIHヒータ80による定着ベルト61への加熱量を段階的に減少させる制御を行なっている。
【0054】
図8は、本実施の形態の定着動作開始後における定着ベルト61の温度変化を説明した図である。
図8において横軸は時間、縦軸は定着ベルト61の温度を表わす。図中IHヒータ80による加熱開始後、定着ベルト61の温度は上昇する。そして時間aにおいて移動機構200により加圧ロール62が定着ベルト61に圧接する(ラッチON)。そして時間a〜bまで定着ベルト61の温度は下降する。これは、加圧ロール62により定着ベルト61の熱が奪われるためである。次に時間b〜時間cにおいて定着ベルト61の温度は、温度T1でほぼ一定に保持されるように制御される。そして本実施の形態では、時間cにおいて、IHヒータ80に印加する電力量を減少させ、定着ベルト61の温度を温度T2まで下降させる。また時間dにおいて、IHヒータ80に印加する電力量を更に減少させ、定着ベルト61の温度を温度T3まで下降させる。本実施の形態では、定着ベルト61の温度を例えば、1℃〜2℃ずつ下降させる制御を行なう。
【0055】
このようにして定着ユニット制御部300は、定着開始後においてIHヒータ80に印加する電力量を段階的に減少させる制御を行ない、これに対応して定着ベルト61の温度も段階的に下降する。定着ベルト61の温度をこのように段階的に下降させるのは、定着の際に用紙Pに供給する熱量をほぼ一定とするためである。つまり定着動作開始後、時間の経過により、定着ベルト61により発生した熱が、加圧ロール62に移動することで加圧ロール62の温度は上昇する。そのため定着の際に用紙Pには、定着ベルト61の他に加圧ロール62からも熱が供給される。このとき定着ベルト61の温度がほぼ一定のままであると、用紙Pに対し予め定められた熱量よりも過剰の熱が供給されることになる。この場合、用紙Pに転写されたトナーが過剰に溶融し、トナーが用紙Pに定着されずに、定着ベルト61側に付着する所謂ホットオフセット現象が生じやすくなる。この現象が生じると形成される画像が悪化する。また用紙Pに過剰な熱を供給することで、電力消費量が増加しやすくなる。
【0056】
ここで従来は、時間c,dは予め定められており、変更しないのが一般的であった。つまり本実施の形態の定着ユニット60では、加圧ロール62に温度を検知する手段を有しないため、加圧ロール62の温度変化を考慮せずにIHヒータ80の制御を行なっていた。
しかしながらこの場合、用紙Pに供給される熱量が一定になりにくく、上述したホットオフセット現象が生じることがある。
そこで本実施の形態では、加圧ロール62の温度変化に応じて変化する定着ベルト61の回転数に応じて定着開始後における定着ベルト61への加熱量を調整する。これにより加圧ロール62に温度を検知する手段の有無にかかわらず、加圧ロール62の温度変化を考慮してIHヒータ80の制御を行い、定着ベルト61の加熱量を調整することができる。
【0057】
図9は、加圧ロール62の表面温度に対する定着ベルト61の回転数について説明した図である。
図9において横軸は加圧ロール62の温度を表わし、縦軸は定着ベルト61表面の線速度を表わす。図9に示すように加圧ロール62の表面温度が上昇すると定着ベルト61の線速度は増加する。定着ベルト61表面の線速度は、定着ベルト61の回転数と対応関係にあり、この場合、加圧ロール62の表面温度が上昇すると定着ベルト61の回転数が増加することを意味する。これは加圧ロール62の温度が変化すると加圧ロール62に径変化が生じるためである。即ち、加圧ロール62の温度が高くなると、加圧ロール62は膨張し、直径が大きくなる。よって加圧ロール62の回転数の変化がなければ、定着ベルト61の回転数は増加する。本実施の形態では、上述した通りラッチON後の駆動モータ90(図3参照)からの回転駆動力は、加圧ロール62側に伝わり、定着ベルト61側には伝わらない。これにより駆動源は、加圧ロール62側となり、加圧ロール62は予め定められた回転数で回転する。そのため定着ベルト61の回転数は、加圧ロール62の径変化に対応したものとなる。これは加圧ロール62の温度に対応して定着ベルト61の回転数が変化すると言い換えることもできる。
【0058】
つまり加圧ロール62の温度を検知する手段の有無にかかわらず、定着ベルト61の回転数を検知する回転検知計107(図2参照)を利用し、定着ベルト61の回転数の変化を監視することで、加圧ロール62の温度を予測することができる。本実施の形態では、ラッチON後の定着ベルト61の回転数の変化に応じてIHヒータ80を制御し、定着ベルト61の加熱を行なう。より具体的には、IHヒータ80による定着ベルト61への加熱量を段階的に減少させる時間を変化させる。つまり図8で説明した時間c,dを定着ベルト61の回転数の変化に応じて変更する。このようにすれば加圧ロール62の温度を考慮してIHヒータ80を制御することになり、その結果、用紙Pに供給される熱量がほぼ一定となりやすい。そのためホットオフセット現象がより生じにくくなる。更にIHヒータ80により適切な電力量を印加することができ、消費電力を節減しやすい。
【0059】
図10は、IHヒータ80の制御を行なうための定着ユニット制御部300の構成について説明した図である。そして図11は、定着ユニット制御部300が行なう処理の流れについて説明したフローチャートである。
【0060】
定着ユニット制御部300は、制御部31(図1参照)との間でコマンドの送受信を行なうための入出力部301と、移動機構200により加圧ロール62の移動を行なう加圧ロール移動部302と、定着ベルト61の回転数を取得する定着ベルト回転数取得部303と、定着ベルト61の回転数の変化からIHヒータ80の制御パターンを決定する制御パターン決定部304と、定着ベルト61の回転数の変化とIHヒータ80の制御パターンの関係を記憶する記憶部305と、制御パターン決定部304により決定された制御パターンによりIHヒータ80に印加する電力を調整する電力調整部306とからなる。
【0061】
ここで、定着ベルト回転数取得部303は、定着ベルト61の回転数について、回転検知計107(図2参照)から取得する。そしてこれから制御パターン決定部304が定着ベルト61の回転数の変化を算出する。
【0062】
本実施の形態において、記憶部305に記憶されている定着ベルト61の回転数の変化とIHヒータ80の制御パターンの関係は、例えばLUT(Look up Table)のような形で作成されている。
【0063】
図12は、定着ベルト61の回転数の変化とIHヒータ80の制御パターンについて作成されたLUTの一例である。
図12では、定着ベルト61の回転数と対応関係にある定着ベルト61表面の線速度を検知し、この線速度(mm/s)の変化量に対するIHヒータ80に印加する電力量を減少させるタイミング(s)について規定されている。このタイミングは、図8の時間c,dに対応する。このLUTでは、定着ベルト61表面の標準的な線速度である目標線速度と実際の線速度を比較し、この変化量により3段階に分け、このそれぞれに対する電力量を減少させるタイミング(s)が設定されている。具体的には、本実施の形態では、ラッチON後、1s後の定着ベルト61表面の線速度を検知する。目標線速度に対する実際の線速度の変化量が+4mm/s以上である場合、0mm/s以上+4mm/s未満である場合、0mm/s未満である場合に分けられる。これらの線速度の変化量は、それぞれ加圧ロール62が高温の場合、中温の場合、低温の場合に対応している。
【0064】
次に、図10および図11を使用して、定着ユニット制御部300が行なう処理について説明を行なう。
まず入出力部301が制御部31(図1参照)から定着動作開始のコマンドを受信する(ステップ101)。定着動作開始のコマンドを受信すると、加圧ロール移動部302が、移動機構200に制御信号を出力し加圧ロール62を定着ベルト61に圧接させる方向に移動させる(ステップ102)。それとともに電力調整部306が、IHヒータ80に対する電力の印加を開始する(ステップ103)。また定着ベルト回転数取得部303が、ラッチON後、1s後の定着ベルト61の回転数を取得する(ステップ104)。次に制御パターン決定部304が、定着ベルト61の回転数の変化を導出して記憶部305のLUTを参照し、定着ベルト61の回転数の変化からIHヒータ80の制御パターンを決定する(ステップ105)。そして電力調整部306は、この制御パターンによりIHヒータ80を制御し、図8で説明した3回目の加熱を行なう(ステップ106)。
【0065】
なお上述した例では、定着ベルト回転数取得部303が、ラッチON後、1s後の定着ベルト61の回転数を取得し、これによりIHヒータ80の制御パターンを決定していたが、これに限られるものではない。この時間は任意に設定できる。また複数回取得し、その度にIHヒータ80の制御パターンを決定してもよい。この場合、例えば、ラッチON後、1s後の定着ベルト61の回転数からIHヒータ80の制御パターンを決定し、更にその後の定着ベルト61の回転数によりIHヒータ80の制御パターンが変更されることになる。
【0066】
本実施の形態においてIHヒータ80の制御は、定着ユニット制御部300が行なっている。この場合定着ユニット制御部300は、加熱手段を制御する加熱制御手段として捉えることができる。なお本実施の形態では、このような制御を定着ユニット60に設けられた定着ユニット制御部300で行なったが、これに限られるものではなく、例えば制御部31で行なってもよい。
【0067】
また本実施の形態における定着ユニット制御部300が行なう動作は、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することにより実現される。即ち、定着ユニット制御部300に設けられた制御用コンピュータ内部の図示しないCPUが、定着ユニット制御部300内の入出力部301、加圧ロール移動部302、定着ベルト回転数取得部303、制御パターン決定部304、記憶部305、電力調整部306等の各機能を実現するプログラムを実行し、これらの各機能を実現させる。
【0068】
よって図12において説明した定着ユニット制御部300が行なう処理を実現するためのプログラムは、コンピュータに、加圧ロール62の温度変化に応じて変化する定着ベルト61の回転数を取得する機能と、定着ベルト61の回転数の変化に基づき、定着開始後における定着ベルト61への加熱量を調整する手順を決定する機能と、この手順に基づき、IHヒータ80を制御する機能と、を実現するためのプログラムとして捉えることができる。
【符号の説明】
【0069】
1…画像形成装置、60…定着ユニット、61…定着ベルト、62…加圧ロール、75…温度センサ、80…IHヒータ、90…駆動モータ、107…回転検知計、200…移動機構、300…定着ユニット制御部、N…ニップ部、P…用紙
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録材にトナー像を定着する定着部材と、
前記定着部材の外周面に圧接することで当該定着部材との間に未定着トナー像を保持した記録材が通過するための定着加圧部を形成する加圧部材と、
前記定着部材を加熱する加熱手段と、
前記加圧部材を回転させることで前記定着部材を回転させる駆動部と、
前記定着部材の回転数を検知する回転数検知手段と、
を備え、
前記加熱手段は、前記加圧部材の温度変化に応じて変化する前記定着部材の回転数に応じて定着開始後における当該定着部材への加熱量を調整することを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記加熱手段は、前記定着部材への加熱量を段階的に減少させるとともに加熱量を段階的に減少させる時間を変化させることで当該定着部材への加熱量を調整することを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記加圧部材を移動させることで当該加圧部材が前記定着部材の外周面へ圧接する状態と離間する状態とを変更可能とする加圧部材移動手段を更に備えることを特徴とする請求項1または2に記載の定着装置。
【請求項4】
トナー像を形成するトナー像形成手段と、
前記トナー像を記録材に転写する転写手段と、
記録材にトナー像を定着する定着部材と、当該定着部材の外周面に圧接することで当該定着部材との間に未定着トナー像を保持した記録材が通過するための定着加圧部を形成する加圧部材と、当該定着部材を加熱する加熱手段と、当該加圧部材を回転させることで当該定着部材を回転させる駆動部と、当該定着部材の回転数を検知する回転数検知手段と、を備える定着手段と、
前記加熱手段を制御する加熱制御手段と、
を備え、
前記加熱制御手段は、前記加圧部材の温度変化に応じて変化する前記定着部材の回転数を前記回転数検知手段から取得し、取得した当該回転数に応じて定着開始後における当該定着部材への加熱量を前記加熱手段を制御することで調整することを特徴とする画像形成装置。
【請求項5】
前記加熱制御手段は、前記定着部材への加熱量を段階的に減少させるとともに加熱量を段階的に減少させる時間を変化させるように前記加熱手段を制御することを特徴とする請求項4に記載の画像形成装置。
【請求項6】
コンピュータに、
加圧部材の温度変化に応じて変化する定着部材の回転数を取得する機能と、
前記定着部材の回転数の変化に基づき、定着開始後における当該定着部材への加熱量を調整する手順を決定する機能と、
前記手順に基づき、加熱手段を制御する機能と、
を実現するためのプログラム。
【請求項1】
記録材にトナー像を定着する定着部材と、
前記定着部材の外周面に圧接することで当該定着部材との間に未定着トナー像を保持した記録材が通過するための定着加圧部を形成する加圧部材と、
前記定着部材を加熱する加熱手段と、
前記加圧部材を回転させることで前記定着部材を回転させる駆動部と、
前記定着部材の回転数を検知する回転数検知手段と、
を備え、
前記加熱手段は、前記加圧部材の温度変化に応じて変化する前記定着部材の回転数に応じて定着開始後における当該定着部材への加熱量を調整することを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記加熱手段は、前記定着部材への加熱量を段階的に減少させるとともに加熱量を段階的に減少させる時間を変化させることで当該定着部材への加熱量を調整することを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記加圧部材を移動させることで当該加圧部材が前記定着部材の外周面へ圧接する状態と離間する状態とを変更可能とする加圧部材移動手段を更に備えることを特徴とする請求項1または2に記載の定着装置。
【請求項4】
トナー像を形成するトナー像形成手段と、
前記トナー像を記録材に転写する転写手段と、
記録材にトナー像を定着する定着部材と、当該定着部材の外周面に圧接することで当該定着部材との間に未定着トナー像を保持した記録材が通過するための定着加圧部を形成する加圧部材と、当該定着部材を加熱する加熱手段と、当該加圧部材を回転させることで当該定着部材を回転させる駆動部と、当該定着部材の回転数を検知する回転数検知手段と、を備える定着手段と、
前記加熱手段を制御する加熱制御手段と、
を備え、
前記加熱制御手段は、前記加圧部材の温度変化に応じて変化する前記定着部材の回転数を前記回転数検知手段から取得し、取得した当該回転数に応じて定着開始後における当該定着部材への加熱量を前記加熱手段を制御することで調整することを特徴とする画像形成装置。
【請求項5】
前記加熱制御手段は、前記定着部材への加熱量を段階的に減少させるとともに加熱量を段階的に減少させる時間を変化させるように前記加熱手段を制御することを特徴とする請求項4に記載の画像形成装置。
【請求項6】
コンピュータに、
加圧部材の温度変化に応じて変化する定着部材の回転数を取得する機能と、
前記定着部材の回転数の変化に基づき、定着開始後における当該定着部材への加熱量を調整する手順を決定する機能と、
前記手順に基づき、加熱手段を制御する機能と、
を実現するためのプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−194418(P2012−194418A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58962(P2011−58962)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】
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