説明

定着装置および画像形成装置

【課題】定着装置において、ウォームアップ時間を短縮し、かつ金属パイプの過昇温を防止する。
【解決手段】可撓性を有する無端状の定着ベルト21と、定着ベルト21の外周側に定着ベルト21を押圧可能に配置される加圧ローラ31と、定着ベルト21の内周側に近接して固設された金属パイプ22と、定着ベルト21を正転駆動および反転駆動させる駆動手段と、金属パイプ22および定着ベルト21を加熱するハロゲンヒータ25と、を有し、定着ベルト21と加圧ローラ31との圧接によって形成されるニップ部に未定着トナー像を担持した用紙を通紙して加熱定着を行う定着装置20において、ウォームアップ動作時は、定着ベルト21を非回転状態で加熱し、駆動手段により定着ベルト21を反転駆動させる反転制御した場合は、該反転制御後に定着ベルト21を正転駆動させる正転制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置および画像形成装置に関する。さらに詳述すると、像担持体上に形成されたトナー像を記録媒体に定着させる定着装置およびこれを備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタ、ファクシミリ、それらの複合機等の画像形成装置として、電子写真方式を利用した画像形成装置が種々考案されており公知技術となっている。その画像形成プロセスは、像担持体である感光ドラムの表面に静電潜像を形成し、感光ドラム上の静電潜像を現像剤であるトナー等によって現像して可視像化し、現像された画像を転写装置により記録紙(用紙、記録材、記録媒体ともいう)に転写して画像を担持させ、圧力や熱等を用いる定着装置によって記録紙上のトナー画像を定着する過程により成立している。
【0003】
定着装置では、対向するローラもしくはベルトもしくはそれらの組み合わせにより構成された定着部材及び加圧部材が当接してニップ部を形成するように配置されており、該ニップ部に記録紙を挟みこみ、熱および圧力を加え、トナー像を記録紙上に定着することを行っている。
【0004】
例えば、図11に示すようなベルト定着方式の定着装置は、熱源である加熱ヒータ76を有する加熱ローラ74と表層にゴム層が設けられた定着ローラ72を内包した定着ベルト79と、定着ベルト79に当接する加圧ローラ71により形成されるニップ部(定着ニップ部)に、トナー転写済みの記録紙Pを通過させる過程で、転写されたトナー像が加熱および加圧され定着するものである。
【0005】
また、特許文献1には、フィルム加熱方式の定着装置が開示されている。このようなフィルム加熱方式の定着装置は、例えば、図12に示すように、発熱体としてのセラミックヒータ81と、加圧部材としての加圧ローラ71との間に耐熱性フィルム(定着フィルム84)を挟ませて定着ニップ部を形成させ、定着ニップ部のフィルム84と加圧ローラ71との間にトナー転写済みの記録紙Pを導入して、フィルム84と一緒に挟持搬送させることで、ニップ部においてセラミックヒータ81の熱がフィルム84を介して記録紙に与えられ、さらに定着ニップ部の加圧力にて未定着トナー画像を記録紙面に熱圧定着させるものである。
【0006】
このようなフィルム加熱方式の定着装置は、セラミックヒータ及びフィルムとして低熱容量の部材を用いてオンデマンドタイプの装置を構成することができるとともに、画像形成装置の画像形成実行時のみ熱源としてのセラミックヒータに通電して所定の定着温度に発熱させた状態にすれば良く、画像形成装置の電源オンから画像形成実行可能状態までの待ち時間が短く(クイックスタート性)、スタンバイ時の消費電力も大幅に小さい(省電力)等の利点がある。
【0007】
また、特許文献2には、加圧ベルト方式の定着装置が開示されている。この定着装置は、表面が弾性変形する回転可能な加熱定着ローラと、加熱定着ローラに接触したまま走行可能なエンドレスベルトと、エンドレスベルトの内側に非回転状態で配置されて、エンドレスベルトを加熱定着ローラに圧接させ、エンドレスベルトと加熱定着ローラとの間に記録紙が通過させられるベルトニップを設けると共に、加熱定着ローラの表面を弾性変形させる加圧パッドとを有し、下のローラをベルトにし、記録紙とローラの接触面積を広げることで熱伝導効率を大幅に向上させ、エネルギー消費を抑制すると同時に小型化を実現するものである。
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載の定着装置においては、耐久性の問題、ベルト温度安定性の問題があった。すなわち、熱源であるセラミックヒータと、ベルト内面の摺動による耐磨耗性が不十分であり、長時間運転すると連続摩擦を繰り返す面が荒れて摩擦抵抗が増大し、ベルトの走行が不安定になる、もしくは、定着装置の駆動トルクが増大する等の現象が生じるという問題があった(課題1)。
【0009】
その結果、画像を形成する記録紙のスリップが生じ画像のずれが生じる、または、駆動ギヤに係る応力が増大し、ギヤの破損を引き起こすという、不具合が発生する問題があった。
【0010】
また、フィルム加熱方式の定着装置においては、ベルトをニップ部で局所的に加熱しているため回転するベルトがニップ入り口に戻ってくる際に、ベルト温度は最も冷えた状態になり、特に高速回転を行う場合において、定着不良が出やすいという問題があった(課題2)。
【0011】
一方、ベルト内面と固定部材の摺動性の問題を改善する手段として、上記特許文献2においては、圧力パッドの表層に低摩擦シート(シート状摺動材)としてPTFEを含浸させたガラス繊維シート(PTFE含浸ガラスクロス)を用いる方法が開示されており、摺動性が向上することが示されている。
【0012】
しかしながら、このような加圧ベルト方式の定着装置では、定着ローラの熱容量が大きく、昇温が遅いため、ウォームアップにかかる時間が長いという問題があった(課題3)。
【0013】
上記の課題1〜3をすべて解決する技術として、特許文献3には、無端ベルト(定着ベルト)の内部にパイプ状の金属熱伝導体を、無端ベルトの移動をガイドすることが可能に固定し、金属熱伝導体内の熱源により金属熱伝導体を介して無端ベルトを加熱し、さらに無端ベルトを介して金属熱伝導体に接してニップ部を形成する加圧ローラを備えた定着装置が開示されている。特許文献3の発明によれば、定着装置を構成する無端ベルト全体を温めることを可能にし、加熱待機時からのファーストプリントタイムを短縮することができ、かつ高速回転時の熱量不足を解消することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、例えば、特許文献3のような低熱容量の熱定着方式を用いた定着装置では、駆動手段により加圧部材および定着部材を正転駆動させると、定着部材の回転方向下流側に定着部材と金属パイプとの間にベルト浮きが生じ得る場合がある(図3参照)。また、同様に、加圧部材および定着部材を反転駆動させると、定着部材の回転方向下流側にベルト浮きが生じ得る(図5参照)。
【0015】
このようなベルト浮きが生じた状態から、定着部材を非回転状態として実行されるウォームアップ動作が実施されると、定着ベルトへ十分に熱が伝わらないこととなり、ウォームアップ動作に時間がかかるだけでなく、金属パイプが過昇温となるおそれがあった。
【0016】
そこで本発明は、定着装置の反転制御後に、一度、正転駆動を行うことにより、定着部材と金属パイプとの間に生じるベルト浮きを無くして、ウォームアップ時間の短縮および金属パイプの過昇温を防止することができる定着装置およびこれを備えた画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
かかる目的を達成するため、請求項1に記載の定着装置は、可撓性を有する無端状の定着部材と、定着部材の外周側に該定着部材を押圧可能に配置される加圧部材と、定着部材の内周側に近接して固設されたパイプ状の金属熱伝導体と、定着部材を正転駆動および反転駆動させる駆動手段と、金属熱伝導体および定着部材を加熱する加熱手段と、を有し、定着部材と加圧部材との圧接によって形成される定着部材と加圧部材とのニップ部に未定着トナー像を担持した用紙を通紙して加熱定着を行う定着装置において、当該定着装置のウォームアップ動作時は、定着部材を非回転状態で加熱し、駆動手段により定着部材を反転駆動させる反転制御した場合は、該反転制御後に定着部材を正転駆動させる正転制御を行うものである。
【0018】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の定着装置において、反転制御は、ニップ部におけるジャム発生時になされ、正転制御後に、ウォームアップ動作を行うものである。
【0019】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2のいずれかに記載の定着装置において、反転制御後の正転制御時において、定着部材を印刷時の回転速度よりも遅い回転速度で回転させるものである。
【0020】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1から3までのいずれかに記載の定着装置において、定着部材の温度を検知する温度検知手段を有し、反転制御後の正転制御時の回転速度を、温度検知手段による検知温度に基づいて決定するものである。
【0021】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1から3までのいずれかに記載の定着装置において、駆動手段にかかるトルクを検知するトルク検知手段を有し、反転制御後の正転制御時の回転速度を、トルク検知手段による検知結果に基づいて変更するものである。
【0022】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1から5までのいずれかに記載の定着装置において、反転制御後の正転制御時における定着部材の回転量は、反転制御における回転量以上とするものである。
【0023】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1から6までのいずれかに記載の定着装置において、反転制御および正転制御を、複数回繰り返して行うものである。
【0024】
また、請求項8に記載の画像形成装置は、請求項1から7までのいずれかに記載の定着装置を備えたものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ウォームアップ時間を短縮し、かつ、金属パイプの過昇温を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態に係る画像形成装置の概略構成図である。
【図2】本実施形態に係る定着装置の概略構成図である。
【図3】正転停止時における定着装置の概略構成図である。
【図4】反転制御時のフローチャート(1)である。
【図5】反転停止時における定着装置の概略構成図である。
【図6】反転制御時のフローチャート(2)である。
【図7】反転制御時のフローチャート(3)である。
【図8】反転制御時のフローチャート(4)である。
【図9】反転制御時のフローチャート(5)である。
【図10】潤滑剤たまり発生時を示す定着装置の概略構成図である。
【図11】ベルト定着方式の定着装置の概略構成図である。
【図12】フィルム加熱方式の定着装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る構成を図1から図10に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。本実施形態に係る定着装置(20)は、可撓性を有する無端状の定着部材(定着ベルト21)と、定着部材の外周側に該定着部材を押圧可能に配置される加圧部材(加圧ローラ31)と、定着部材の内周側に近接して固設されたパイプ状の金属熱伝導体(金属パイプ22)と、定着部材を正転駆動および反転駆動させる駆動手段と、金属熱伝導体および定着部材を加熱する加熱手段(ハロゲンヒータ25)と、を有し、定着部材と加圧部材との圧接によって形成される定着部材と加圧部材とのニップ部に未定着トナー像を担持した用紙を通紙して加熱定着を行う定着装置において、当該定着装置のウォームアップ動作時は、定着部材を非回転状態で加熱し、駆動手段により定着部材を反転駆動させる反転制御した場合は、該反転制御後に定着部材を正転駆動させる正転制御を行うものである。
【0028】
(画像形成装置の構成・動作)
まず、図1を参照して、画像形成装置全体の構成・動作について説明する。図1において、1は画像形成装置としての複写機の装置本体、2は原稿Dの画像情報を光学的に読み込む原稿読込部、3は原稿読込部2で読み込んだ画像情報に基づいた露光光Lを感光体ドラム5上に照射する露光部、4は感光体ドラム5上にトナー像(画像)を形成する作像部、7は感光体ドラム5上に形成されたトナー像を記録媒体Pに転写する転写部、10はセットされた原稿Dを原稿読込部2に搬送する原稿搬送部、12〜14は転写紙等の記録媒体Pが収納された給紙部、20は記録媒体P上の未定着画像を定着する定着装置、21は定着装置20に設置された定着部材としての定着ベルト、31は定着装置20に設置された加圧部材としての加圧ローラを示す。
【0029】
図1に示す画像形成装置における、通常の画像形成時の動作について説明する。まず、原稿Dは、原稿搬送部10の搬送ローラによって、原稿台から図中の矢印方向に搬送されて、原稿読込部2上を通過する。このとき、原稿読込部2では、上方を通過する原稿Dの画像情報が光学的に読み取られる。
【0030】
そして、原稿読込部2で読み取られた光学的な画像情報は、電気信号に変換された後に、露光部3(書込部)に送信される。そして、露光部3からは、その電気信号の画像情報に基づいたレーザ光等の露光光Lが、作像部4の感光体ドラム5上に向けて発せられる。
【0031】
一方、作像部4において、感光体ドラム5は図中の時計方向に回転しており、所定の作像プロセス(帯電工程、露光工程、現像工程)を経て、感光体ドラム5上に画像情報に対応した画像(トナー像)が形成される。その後、感光体ドラム5上に形成された画像は、転写部7で、レジストローラにより搬送された記録媒体P上に転写される。
【0032】
一方、転写部7に搬送される記録媒体Pは、次のように動作する。まず、画像形成装置本体1の複数の給紙部12,13,14のうち、1つの給紙部が自動又は手動で選択される(例えば、最上段の給紙部12が選択されたものとする)。そして、給紙部12に収納された記録媒体Pの最上方の1枚が、搬送経路Kの位置に向けて搬送される。
【0033】
その後、記録媒体Pは、搬送経路Kを通過してレジストローラの位置に達する。そして、レジストローラの位置に達した記録媒体Pは、感光体ドラム5上に形成された画像と位置合わせをするためにタイミングを合わせて、転写部7に向けて搬送される。
【0034】
そして、転写工程後の記録媒体Pは、転写部7の位置を通過した後に、搬送経路を経て定着装置20に達する。定着装置20に達した記録媒体Pは、定着ベルト21と加圧ローラ31との間に送入されて、定着ベルト21から受ける熱と双方の部材から受ける圧力とによって画像が定着される。画像が定着された記録媒体Pは、定着ベルト21と加圧ローラ31との間(ニップ部)から送出された後に、画像形成装置本体1から排出される。こうして、一連の画像形成プロセスが完了する。
【0035】
(定着装置の構成)
次に、画像形成装置本体1に設置される定着装置20の構成、動作について詳述する。図2に示すように、定着装置20は、定着部材としての定着ベルト21、金属熱伝導体(金属パイプ、加熱パイプともいう)22、支持体23、ハロゲンヒータ25、ニップ形成部材26、加圧部材としての加圧ローラ31、温度検知手段40、トルク検知手段(図示せず)、等で構成される。
【0036】
[定着ベルト]
定着部材としての定着ベルト21は、薄肉で可撓性を有する無端状ベルト(またはフィルム)であって、外部のローラにより連れ回り回転する。図2に示す例では、加圧ローラ31が不図示の駆動手段により回転し、ニップ部でベルトに駆動力が伝達されることにより定着ベルト21が回転する。
【0037】
定着ベルト21は、基材上に弾性層、離型層が順次積層されていて、その全体の厚さが1mm以下に設定されている。定着ベルト21の基材は、層厚が30〜50μmであって、ニッケル、ステンレス等の金属材料やポリイミド等の樹脂材料で形成されている。
【0038】
定着ベルト21の弾性層は、層厚が100〜300μmであって、シリコーンゴム、発泡性シリコーンゴム、フッ素ゴム、等のゴム材料で形成されている。弾性層がない場合、熱容量が小さくなり、定着性が向上するが、未定着画像を押し潰して定着するときにベルト表面の微小な凹凸が画像に転写されて画像のベタ部にユズ肌状の跡が残るという不具合が生じる。これに対し、弾性層を設けることで、ニップ部における定着ベルト21表面の微小な凹凸が形成されなくなり、記録媒体P上のトナー像に均一に熱が伝わりユズ肌画像の発生が抑止される。
【0039】
定着ベルト21の離型層は、層厚が10〜50μmであって、PFA(4フッ化エチレンバーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、PES(ポリエーテルサルファイド)、等の材料で形成されている。離型層を設けることで、トナー像に対する離型性(剥離性)が担保される。
【0040】
なお、本実施形態では、定着ベルト21の直径が30mmに設定されている。定着ベルト21の内部(内周面側)には、金属熱伝導体22、支持体23、ハロゲンヒータ25、ニップ形成部材26等が固設されている。
【0041】
[ニップ形成部材]
ニップ形成部材26は、定着ベルト21の内周面側に固設されていて、定着ベルト21を介して加圧ローラ31に当接してニップ部を形成する。なお、ニップ形成部材26と定着ベルト21とが摺接しても定着ベルト21の磨耗が軽減されるように、ニップ形成部23の摺接面を摩擦係数の低い材料で形成することが好ましい。また、ニップ形成部材26と定着ベルト21の内周面との間に摺動シートを設けるようにしても良い。
【0042】
また、図2に示す例では、ニップ部の形状が凹形状26aであるが、平坦形状やその他の形状であっても良い。ニップ部の形状を凹形状26aとすることで、記録紙先端の排出方向が加圧ローラ寄りになり、分離性を向上させて、ジャムの発生が抑制することができる。
【0043】
[ヒータ]
熱源は、ハロゲンヒータ25であって、その両端部が定着装置20の側板(図示しない)に固定されている。そして、画像形成装置1の電源部により出力制御されたハロゲンヒータ25の輻射熱によって、金属熱伝導体22が加熱される。さらに、金属熱伝導体22によって定着ベルト21が全体的に加熱されて、加熱された定着ベルト21の表面から記録媒体P上のトナー像に熱が加えられる。
【0044】
なお、ハロゲンヒータ25の出力制御は、定着ベルト21表面に対向するサーミスタ等の温度検知手段40によるベルト表面温度の検知結果に基づいて制御される。また、このようなハロゲンヒータ25の出力制御によって、定着ベルト21の温度(定着温度)を所望の温度に設定することができる。
【0045】
また、図2に示す例では、熱源として、ハロゲンヒータ25を用いたが、これに限られるものではなく、熱源として、誘導加熱手段(IHコイル)、抵抗発熱体、カーボンヒータ等を用いても良い。
【0046】
[金属熱伝導体]
中空の金属熱伝導体22は、ニップ部を除く位置で定着ベルト21の内周面に対向するように固設されていて、ハロゲンヒータ25の輻射熱により加熱されて定着ベルト21を加熱する(熱を伝える)。なお、金属熱伝導体22の材料としては、アルミニウム、鉄、ステンレス等の熱伝導性を有する材料を用いることができる。本実施形態では、強度にすぐれるSUSを用いた。なお、図2に示す例では、金属熱伝導体22は、円形形状になっているが、これに限られるものではなく、頂上部分が潰れた円形形状や角型等、その他の断面形状であっても良い。
【0047】
定着ベルト21の一部のみが局所的に加熱されることなく、金属熱伝導体22によって定着ベルト21が周方向広範囲にわたって加熱されることになるために、装置を高速化した場合であっても定着ベルト21が充分に加熱されて定着不良の発生を抑止することができる。
【0048】
さらに、定着ベルト21の加熱効率を向上させるために金属熱伝導体22を薄肉化した場合であっても、金属熱伝導体22は加圧ローラ31から加圧力を受けるニップ形成部材26とは別に設けられているために、金属熱伝導体22が撓んで定着ベルト21の内周面が強くこすれる不具合や、金属熱伝導体22が撓んで定着ベルト21の駆動トルクが増加する不具合等が抑止される。
【0049】
このように、定着装置20は、定着ベルト21の一部のみが局所的に加熱されることなく、金属熱伝導体22によって定着ベルト21が周方向広範囲にわたって加熱されることになるために、装置を高速化した場合であっても定着ベルト21が充分に加熱されて定着不良の発生を抑止することができる。すなわち、比較的簡易な構成で効率よく定着ベルト21を加熱できるために、ウォームアップ時間やファーストプリント時間が短縮化されるとともに、装置の小型化が達成される。
【0050】
なお、定着ベルト21と金属熱伝導体22との外径差は、1mm以内とすることが好ましい。これにより、金属熱伝導体22と定着ベルト21とが摺接する面積が大きくなって定着ベルト21の磨耗が加速する不具合を抑止するとともに、金属熱伝導体22と定着ベルト21とが離れ過ぎて定着ベルト21の加熱効率が低下する不具合を抑止することができる。さらに、金属熱伝導体22が定着ベルト21に近設されることで、可撓性を有する定着ベルト21の円形姿勢がある程度維持されるため、定着ベルト21の変形による劣化・破損を軽減することができる。
【0051】
また、金属熱伝導体22と定着ベルト21とが摺接しても定着ベルト21の磨耗が軽減されるように、金属熱伝導体22の摺接面を摩擦係数の低い材料で形成することとしても良い。また、定着ベルト21と金属熱伝導体22との界面には、シリコーンオイルやフッ素グリス等の潤滑剤が塗布される。
【0052】
[支持体]
金属熱伝導体22の内部において、ニップ部におけるニップ形成部材26を支持し、強度を補強する支持体23を設けることも好ましい。また、支持体23がハロゲンヒータ25の輻射熱などにより加熱されてしまう場合は、その表面に断熱もしくは鏡面処理を行うことも好ましい。これにより、過度の加熱を防止して、無駄なエネルギー消費を抑制することができる。
【0053】
[加圧ローラ]
加圧部材としての加圧ローラ31は、直径が30mmであって、中空構造の芯金上に弾性層を形成したものである。加圧ローラ31の弾性層は、発泡性シリコーンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の材料で形成されている。なお、弾性層の表層にPFA、PTFE等からなる薄肉の離型層を設けることもできる。加圧ローラ31は、スプリングなどにより定着ベルト21に圧接され、ゴム層が押し潰されて変形することにより、双方の部材間に所望のニップ部を形成する。
【0054】
なお、加圧ローラ31の弾性層を発泡性シリコーンゴム等のスポンジ状の材料で形成した場合には、ニップ部に作用する加圧力を減ずることができるために、金属熱伝導体22に生じる撓みをさらに軽減することができる。
【0055】
また、本実施形態では、定着ベルト21の直径が加圧ローラ31の直径と同等になるように形成したが、定着ベルト21の直径が加圧ローラ31の直径よりも小さくなるように形成することもできる。その場合、ニップ部における定着ベルト21の曲率が加圧ローラ31の曲率よりも小さくなるために、ニップ部から送出される記録媒体Pが定着ベルト21から分離され易くなる。
【0056】
また、加圧ローラ31は、モータなどの駆動手段からギヤを介して駆動力が伝達され回転する。また、加圧ローラ31は中実のローラであっても良いが、中空のほうが熱容量は少なくて良い。また、加圧ローラ31側にもハロゲンヒータなどの熱源を有していても良い。なお、加圧ローラ内部にヒータが無い場合は、スポンジゴムを用いても良い。スポンジゴムの方が、断熱性が高まり定着ベルトの熱が奪われにくくなるので、より望ましい。
【0057】
(定着装置の制御)
上述のように、定着装置20において、定着ベルト21は、加圧ローラ31が駆動手段により時計方向に回転し、ニップ部で定着ベルト21に駆動力が伝達されることにより、定着ベルト21が反時計方向に回転する。また、定着ベルト21はニップ部で挟み込まれて回転するが、ニップ部以外では金属パイプ22にガイドされており、一定の距離以上に定着ベルト21の位置が金属パイプ22から離れてしまわないよう案内されている。
【0058】
ここで、加圧ローラ31が時計方向に回転し、定着ベルト21が反時計方向に回転する正転制御が停止すると(正転停止時という)、図3に示すように、定着ベルト21の回転方向下流側において定着ベルト21と金属パイプ22との間にベルト浮き(符号21aで示す)が生じることがある。
【0059】
また、定着装置では、一般に、巻き付きジャム等の発生時においては、ジャムを解消するために駆動手段の反転制御が行われる。反転制御は、駆動手段により、加圧ローラ31を正転時とは、反対方向(反時計方向)に回転させることにより、定着ベルト21を時計方向に回転させる制御である。
【0060】
ここで、巻き付きジャムは、定着ローラ21や加圧ローラ31に用紙が巻き付きいてしまい、用紙が定着装置から排紙されないため、ユーザは、ジャムが発生した用紙を発見、除去することが難しい。そこで、従来、定着装置では、図4のフローチャートに示すように、ジャムを検知すると、所定時間(例えば、500ms)反転制御を行い(S10)、反転制御では用紙が全て巻き付いてしまう前に、回転が停止する(S11)。このようにして、ニップ入口側に用紙を出すことでユーザがジャム紙を認識できるようにしている。
【0061】
また、この反転制御が停止した場合も(反転停止時という)、図5に示すように、正転停止時と同様に、定着ベルト21の回転方向下流側において定着ベルト21と金属パイプ22との間にベルト浮き21aが生じ得る。なお、通常、ジャム処理の際は一度脱圧されるが、その後、加圧されても定着ベルト21と金属パイプ22の間の浮きは保たれる。
【0062】
この図5に示す反転停止状態から、定着ベルト21等を非回転で加熱する定着装置のウォームアップ動作を実施すると、定着ベルト21と金属パイプ22間の空気が断熱材の役割をし、金属パイプ温度が上がりすぎてしまうこととなる。また、定着ベルト21へ熱が伝わりにくいため、ウォームアップ動作に時間がかかることとなる。
【0063】
また、上述のように定着ベルト21の内周面には、摺動性をよくするために、グリス等の潤滑剤が塗布されているが、反転制御後の正回転時は、ヒータオフ状態であるので定着装置の温度が低く、低温では潤滑剤は摺動性が悪くなるため、トルクも高くなってしまう。
【0064】
そこで、本実施形態に係る定着装置20は、図6のフローチャートに示すように、反転制御(S20)後に、正転制御を行う(S21)ことで、定着ベルト21の状態を正転停止時の状態に戻すものである(S22)。
【0065】
このように、巻き付きジャム発生時等における反転制御後、ニップ入口側の定着ベルト21が金属パイプ22から浮いた状態となった際に、一度、正転制御を行うことにより、ニップ入口側に生じるベルト浮き21aを無くして、ウォームアップ動作を、定着ベルト21を金属パイプ22に密着させた状態で実施することが可能となる。
【0066】
したがって、反転制御後に非回転加熱で行うウォームアップ動作時における金属パイプの過昇温を防止することができ、安全な定着装置とすることができる。また、正転制御を行うことにより、定着ベルト21を金属パイプ22に密着させることができるので、定着ベルト21が浮いた状態よりも、ウォームアップ動作にかかる時間を短縮することもできる。
【0067】
以下、本発明に係る画像形成装置のその他の実施形態について説明する。なお、上記実施形態と同様の点についての説明は省略する。
【0068】
(第2の実施形態)
また、駆動手段は、反転制御後の正転制御時においては、印刷時(通紙時)の回転速度(印刷速度ともいう)よりも遅い回転速度で回転させることが好ましい。この場合の制御を図7のフローチャートに示す。この場合、反転制御(S30)後に、通紙時の回転速度よりも遅い回転速度で正転制御を行って(S31)、定着ベルト21の状態を正転停止時の状態に戻すものである(S32)。
【0069】
このように反転制御後の正転制御において正回転速度を遅くすることにより、トルクを低くし、トルク上昇による機械故障等の不具合の発生を防ぐと共に、反転制御後のウォームアップ時に金属パイプの過昇温を防止し安全な定着装置とすることができる。
【0070】
(第3の実施形態)
また、反転制御後の正転制御時の回転速度は、温度検知手段40による検知温度に基づいて決定することが好ましい。この場合の制御を図8のフローチャートに示す。この場合、反転制御(S40)後に、温度検知手段40により定着ベルト表面の温度を検知し(S41)、検知温度に基づいて、その後の正転制御における回転速度を決定し(S42)、この回転速度により正転制御を行って(S43)、定着ベルト21の状態を正転停止時の状態に戻すものである(S44)。
【0071】
本実施形態では、定着ベルト21の通紙時の回転速度(駆動手段の駆動量)を基準(100%)として、正転制御時の回転速度について、「速度1」を80%、「速度2」を50%、「速度3」を20%と設定する。この設定の一覧を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
また、表2は、温度検知手段40による検知温度と、それに対応する回転速度との対応表の一覧である。この対応テーブルについては、例えば、画像形成装置の記憶手段に予め記憶させておけばよい。表1および表2に基づいて、検知温度に応じた正転制御の回転速度が決定する(S42)。
【0074】
【表2】

【0075】
このように反転制御後の正転制御において、回転前の定着ベルト温度に応じて、正転制御時の回転速度を選択、変更することにより、最適なトルクで回転させることができ、トルク上昇による機械故障等の不具合の発生を、さらに効果的に防ぐと共に、反転制御後のウォームアップ時に金属パイプの過昇温を防止し安全な定着装置とすることができる。
【0076】
(第4の実施形態)
また、反転制御後の正転制御時の回転速度は、トルク検知手段により検知される駆動手段にかかるトルクに基づいて決定することが好ましい。なお、トルク検知手段としては、公知または新規のトルク測定器等を用いれば良く、特に限られるものではない。
【0077】
この場合の制御を図9のフローチャートに示す。この場合、反転制御(S50)後に、正転制御(S51)を行うが、この際の回転速度は、反転制御時においてトルク検知手段により検知される駆動手段にかかるトルクに基づいてフィードバック制御される(S52〜S53)。正転制御後は、定着ベルト21の状態を正転停止時の状態に戻すものである(S54)。
【0078】
表3は、通紙時の回転トルクを基準(100%)とした場合のトルク検知手段による検知結果と、それに対応する回転速度との対応表の一覧である。表1および表3に基づいて、正転制御の回転速度が変更される。
【0079】
【表3】

【0080】
このように反転制御後の正転制御において、回転時のトルクを直接検知し、事前に設定した値を超えた場合に回転速度を遅くすることにより、トルク低減させることができ、より正確に回転トルクによる機械故障の不具合の発生を防ぐと共に、反転制御後のウォームアップ時に金属パイプの過昇温を防止し安全な定着装置とすることができる。
【0081】
(第5の実施形態)
また、反転制御後の正転制御時における定着ベルトの回転量(正転距離)は、直前の反転制御における定着ベルトの回転量(反転距離)よりも多くすることが好ましい。
【0082】
定着ベルト21の正回転により内面に塗布された潤滑剤がニップ形成部材表層の低摩擦シートに堰き止められる形で堆積する。このニップ部上流側に堰き止められて堆積していた潤滑剤は、反転制御が行われることにより、定着ベルト21に連れ回されてニップ上流側に移動し、図10に示すような、潤滑剤たまり50が発生しうる。このように多量の潤滑剤がベルト内面の一部に存在した状態から、ウォームアップ動作に入ると、ウォームアップ中の非回転加熱の際に、定着ベルト21へ熱が伝わらず、ウォームアップタイムが長くなり、金属パイプの異常昇温に繋がる。
【0083】
そこで本実施形態では、定着ベルト21と金属パイプ22との間における熱伝導が悪くならないよう、正転距離を直前の反転距離以上として、潤滑剤50を元の位置に戻すことにより、ウォームアップ時間が長くなることを防ぎ、金属パイプの過昇温を防止し安全な定着装置とすることができる。
【0084】
また、以上説明した反転制御および正転制御を複数回繰り返し行うことも好ましい。このように、反転制御および正転制御を繰り返すことにより、より潤滑剤50を馴染ませることができ、回転トルクを低減することができる。
【0085】
以上説明した構成による定着装置20を備えた画像形成装置(図1)とすることにより、上記効果を持った定着装置を使用することでより安全な画像形成装置を提供することができる。
【0086】
尚、上述の実施形態は本発明の好適な実施の例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上記実施形態では、加圧部材として加圧ローラ31を用いた定着装置を例に説明したが、これに限られるものではなく、例えば、加圧部材として加圧ベルトや加圧パッドを用いることも好ましい。
【符号の説明】
【0087】
1 画像形成装置
2 原稿読込部
3 露光部
4 作像部
5 感光体ドラム
7 転写部
10 原稿搬送部
12,13,14 給紙部
20 定着装置
21 定着ベルト
21a ベルト浮き
22 金属熱伝導体(金属パイプ)
23 支持体
25 ハロゲンヒータ
26 ニップ形成部材
26a 凹形状
31 加圧ローラ
40 温度検知手段
50 潤滑剤
71 加圧ローラ
72 定着ローラ
73 分離爪
74 加熱ローラ
75 定着カバー
76 ヒータ
77 テンションローラ
78 スプリング
79 定着ベルト
80 サーミスタ
81 セラミックヒータ
82 ステー
83 ホルダ
84 定着フィルム
D 原稿
K 搬送経路
L 露光光
P 記録媒体
【先行技術文献】
【特許文献】
【0088】
【特許文献1】特開平4−44075号公報
【特許文献2】特開平8−262903号公報
【特許文献3】特開2007−334205号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する無端状の定着部材と、
前記定着部材の外周側に該定着部材を押圧可能に配置される加圧部材と、
前記定着部材の内周側に近接して固設されたパイプ状の金属熱伝導体と、
前記定着部材を正転駆動および反転駆動させる駆動手段と、
前記金属熱伝導体および前記定着部材を加熱する加熱手段と、を有し、
前記定着部材と前記加圧部材との圧接によって形成される前記定着部材と前記加圧部材とのニップ部に未定着トナー像を担持した用紙を通紙して加熱定着を行う定着装置において、
当該定着装置のウォームアップ動作時は、前記定着部材を非回転状態で加熱し、
前記駆動手段により前記定着部材を反転駆動させる反転制御した場合は、該反転制御後に前記定着部材を正転駆動させる正転制御を行うことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記反転制御は、前記ニップ部におけるジャム発生時になされ、
前記正転制御後に、前記ウォームアップ動作を行うことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記反転制御後の前記正転制御時において、前記定着部材を印刷時の回転速度よりも遅い回転速度で回転させることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の定着装置。
【請求項4】
前記定着部材の温度を検知する温度検知手段を有し、
前記反転制御後の前記正転制御時の回転速度を、前記温度検知手段による検知温度に基づいて決定することを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載の定着装置。
【請求項5】
前記駆動手段にかかるトルクを検知するトルク検知手段を有し、
前記反転制御後の前記正転制御時の回転速度を、前記トルク検知手段による検知結果に基づいて変更することを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載の定着装置。
【請求項6】
前記反転制御後の前記正転制御時における前記定着部材の回転量は、前記反転制御における回転量以上とすることを特徴とする請求項1から5までのいずれかに記載の定着装置。
【請求項7】
前記反転制御および前記正転制御を、複数回繰り返して行うことを特徴とする請求項1から6までのいずれかに記載の定着装置。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれかに記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−103549(P2012−103549A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252884(P2010−252884)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】