定着装置および画像形成装置
【課題】記録媒体が付着する定着回転体または加圧回転体の表面に傷が生じる可能性を低減しながら、分離性能を維持することが可能な定着装置および画像形成装置を提供する。
【解決手段】互いに回転可能な定着回転体27および加圧回転体28と、少なくとも定着回転体を加熱する発熱手段30を備え、定着回転体および加圧回転体で形成される定着ニップ29にトナー像が転写された記録媒体Sを通過させ、熱と圧力の作用によりトナー像を記録媒体に定着させる定着装置18において、定着ニップを通過した記録媒体を、定着回転体の表面27aから分離する可撓性分離部材36を有し、可撓性分離部材を、定着回転体の回転軸の軸線方向aと直交する方向から定着回転体の表面に接触して変形が生じているように配置した。
【解決手段】互いに回転可能な定着回転体27および加圧回転体28と、少なくとも定着回転体を加熱する発熱手段30を備え、定着回転体および加圧回転体で形成される定着ニップ29にトナー像が転写された記録媒体Sを通過させ、熱と圧力の作用によりトナー像を記録媒体に定着させる定着装置18において、定着ニップを通過した記録媒体を、定着回転体の表面27aから分離する可撓性分離部材36を有し、可撓性分離部材を、定着回転体の回転軸の軸線方向aと直交する方向から定着回転体の表面に接触して変形が生じているように配置した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体の分離手段を備えた定着装置およびそれを備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置では、記録媒体に転写されたトナーを記録媒体に定着するための定着装置を備えている。定着装置としては、定着回転体と加圧回転体と発熱部材を備え、定着回転体と加圧回転体とを接触状態とすることで定着ニップを形成し、発熱部材で定着回転体または加圧回転体の少なくとも一方を加熱し、トナーが転写された記録媒体を定着ニップに通過させることで、記録媒体とトナーに熱と圧力を与えてトナーを記録媒体に定着している。
定着装置では、記録媒体が定着ニップ通過時に、定着回転体あるいは加圧回転体の表面に付着することがあるため、定着回転体あるいは加圧回転体の表面に剥離層をコーティングするとともに、定着ニップの下流側に分離部材を配置している。この分離部材としては、記録媒体が付着する回転体の表面に先端を接触状態とした分離爪や爪状剥離部材が一般に用いられることが多い。
【0003】
このように分離爪や爪状剥離部材が常時、定着回転体あるいは加圧回転体の表面に接触していると、接触部分の剥離層が磨耗し、その部分だけ記録媒体が回転体から離型せずに、記録媒体上のトナーが欠けることで、画像に悪影響を生じることが知られている。
そこで、特許文献1では、ソレノイド等により分離爪を回動可能に支持し、分離爪の先端を定着回転体に対して接触/離間可能としている。
特許文献2では、爪状剥離部材の先端部を弾性変形可能にして定着回転体の表面に接触させたものが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、記録媒体の分離時に分離爪の先端が定着回転体の表面に接触するので、常に分離爪が定着回転体に接触する場合に比べれば、接触時間が短くなり、結果定着回転体の剥離層に傷が生じるまでの時間は長くなるが、分離爪のとがった先端が定着回転体の表面に接触するので、定着回転体の表面に分離爪によって傷が生じるのを完全に防ぐことは難しい。
特許文献2では、爪状剥離部材の先端部が弾性変形することで、定着回転体の離型層に傷が生じる可能性が減ることが考えられるが、それに伴い、記録媒体が爪状剥離部材と定着回転体との間に入り込み易くなる、すなわち、剥離機能が低下する可能性を否定できない。
本発明は、記録媒体が付着する定着回転体または加圧回転体の表面に傷が生じる可能性を低減しながら、分離性能を維持することが可能な定着装置および画像形成装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る、互いに回転可能な定着回転体および加圧回転体と、少なくとも定着回転体を加熱する発熱手段を備え、定着回転体および加圧回転体で形成される定着ニップにトナー像が転写された記録媒体を通過させ、熱と圧力の作用により前記トナー像を記録媒体に定着させる定着装置は、定着ニップを通過した記録媒体を定着回転体または加圧回転体の表面から分離する可撓性分離部材を有し、この可撓性分離部材は、定着回転体または加圧回転体の回転軸の軸線方向と直交する方向から定着回転体または加圧回転体の表面に接触して変形が生じているように配置されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、定着ニップを通過した記録媒体を定着回転体または加圧回転体の表面から分離する可撓性分離部材を、定着回転体または加圧回転体の回転軸の軸線方向と直交する方向から定着回転体または加圧回転体の表面に接触して変形が生じるように配置したので、定着回転体または加圧回転体に付着した記録媒体の分離性能を維持しつつも、定着回転体または加圧回転体の表面との接触が面接触となるため、定着回転体または加圧回転体の表面に傷が生じる可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施形態である複写機の概略構成を示す全体図。
【図2】本発明の一実施形態である定着装置の構成を示す拡大図。
【図3】(a)は本発明の主要部となる可撓性分離部材の構成を示す斜視図、(b)は可撓性分離部材を構成する保持部材の構成を示す斜視図、(c)は可撓性分離部材を構成する可撓性部材の構成を示す斜視図。
【図4】可撓性分離部材と定着回転体との配置関係を示す斜視図。
【図5】(a)は可撓性部材の材質の状態を示す図、(b)は可撓性部材を円弧形状にした状態を示す図、(c)は円弧形状部を変形させた状態を示す図、(d)は可撓性部材の変形特性を説明する斜視図。
【図6】(a)は可撓性分離部材と定着回転体の接触状態を可撓性分離部材の長手方向から見た図、(b)は可撓性分離部材により記録媒体の分離前の状態を定着回転体の軸線方向から見た部分図、(c)は可撓性分離部材により記録媒体が良好に分離された状態を定着回転体の軸線方向から見た図、(d)は可撓性分離部材を備えていない場合も不具合を示す図。
【図7】定着回転体の軸線方向に複数の可撓性分離部材を備えた状態を示す図。
【図8】定着回転体の軸線方向に複数の可撓性分離部材を連続して備えた状態を示す図。
【図9】(a)は可撓性分離部材の変形前の状態を示す図、(b)は可撓性分離部材全体が変形した状態を示す図、(c)は可撓性分離部材の下端側が変形した状態を示す図、(d)は可撓性分離部材の上端側が変形した状態を示す図。
【図10】(a)は下端側が定着回転体と接触した可撓性分離部材と記録媒体の分離前の状態を示す図、(b)は記録媒体の分離不良状態を示す図、(c)は上端側が定着回転体と接触した可撓性分離部材と記録媒体の分離前の状態を示す図、(d)は記録媒体の分離良好状態を示す図。
【図11】(a)は可撓性分離部材における記録媒体との接触部を示す斜視図、(b)は可撓性分離部材における可撓性部材の変形量を示す拡大図。
【図12】(a)はフッ素コーティングのコーティング領域が可撓性分離部材全体の場合を説明した斜視図、(b)はフッ素コーティングのコーティング領域が可撓性分離部材における定着回転体との接触領域の場合を説明した斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。最初に画像形成装置の全体構成を説明し、その後に特徴部分の構成を説明する。図1は、画像形成装置の一形態である複写機1を示す。複写機1は、プリンタ部2と、プリンタ部2の上部に取付けられた画像読取装置3とを備えている。画像読取装置3を省いた場合、プリンタ部2自体が画像形成装置となる。画像形成装置の形態としては、複写機1やプリンタ部2に限るものではなく、ファクシミリ単体あるいは複写機1、プリンタ部2、ファクシミリの内の少なくとも2つ以上が組み合わされた複合機器も含まれる。
【0009】
プリンタ部2内の略中央部には画像形成部4が配置されている。画像形成部4は、像担持体であるドラム状の感光体5、この感光体5のまわりに配置された帯電装置6、現像装置7、転写装置8、クリーニング装置9等により構成されている。現像装置7にはトナー補給装置10が接続されている。この画像形成部4では、感光体5の外周面が帯電装置6により所定の電位に帯電され、帯電された感光体5の外周面が光書込装置11によって露光されることにより感光体5の外周面に静電潜像が形成される。そしてこの静電潜像に対して現像装置7からトナーが供給されることにより静電潜像がトナー像として顕像化され、顕像化されたトナー像が転写装置8により記録媒体S上に転写される。この転写時に記録媒体S上に転写されずに感光体5の外周面に残留したトナーは、クリーニング装置9により除去される。現像装置7では、重合法で製造された重合トナーが用いられている。
【0010】
プリンタ部2における画像形成部4の下方には、記録媒体Sを収納する上下二段の給紙カセット12、記録媒体Sを手差し給紙可能な手差しトレイ13等が設けられている。プリンタ部2内には、給紙カセット12や手差しトレイ13から給紙された記録媒体Sがプリンタ部2と画像読取装置3との間の空隙部に形成された排紙トレイ14に向けて搬送される搬送経路15が形成され、この搬送経路15に沿って、搬送ローラ16、レジストローラ17、画像形成部4、定着装置18、排紙ローラ19等が配置されている。さらに、記録媒体Sの搬送方向に沿った定着装置18よりも下流側には、搬送経路15から分岐された反転搬送経路20が設けられている。この複写機1では、定着装置18を通過した記録媒体Sを反転搬送経路20へ送り込み、この反転搬送経路20を経由して記録媒体Sを画像形成部4の上流側へ表裏逆向きにして送り出すことにより、記録媒体Sの両面へ画像形成を可能としている。画像形成装置としては、反転搬送経路20を持たない片面印刷ものに対応した複写機であってもよい。
【0011】
画像読取装置3には、読取対象となる原稿を自動送りするADF(自動原稿搬送装置)21、コンタクトガラス22、原稿の読取面を照明する光源23、原稿の読取面からの反射光を順次反射させる複数のミラー24、結像用光学レンズ25、CCD等のイメージセンサ26などが設けられている。
【0012】
図2に示すように、定着装置18は、それぞれ軸心周りに回転自在な定着回転体である定着ローラ27と、加圧回転体である加圧ローラ28と、発熱手段となる熱源30を有し、画像形成部4でトナー像が転写された記録媒体Sがこれらの定着ローラ27の表面27aと加圧ローラ28の表面28aとが接触することで形成された定着ニップ部29を通過し、その通過過程で熱と圧力とを加えられ、記録媒体S上のトナー像が記録媒体Sに定着される。
【0013】
定着ローラ27は、例えば肉厚1mm以下のローラを用いて温度応答性を向上させ、定着温度までの昇温時間を10秒程度にまで短縮するようにしてもよい。定着ローラ27の外周面には、フッ素コート処理を施し離型層27bを設けている。本形態において、離型層27bの表面を定着ローラ27の表面27aとする。定着ローラ27の内部には、ヒータなどから構成された熱源30が配置されていて、定着ローラ27をその内部から加熱している。熱源30は、図示例では2つであるが、1つでもよいし、3つ以上であってもよい。
【0014】
定着ローラ27の周りには、その周面に接触させたサーミスタ(温度検知手段)31およびサーモスタット32が設けられている。本形態では、サーミスタ31で定着ローラ27の表面温度を検知し、その検知結果に基づきサーモスタット32で熱源30をオンオフすることにより定着ローラ27を所定温度に保持する。
【0015】
加圧ローラ28の周りには、加圧スプリング33により支点34を中心として反時計まわりに回動するように付勢された加圧アーム35が設けられている。加圧アーム35で加圧ローラ28を付勢して定着ローラ27に押し当てることにより、定着ローラ27と加圧ローラ28との間に定着ニップ部29を形成する。
【0016】
記録媒体Sの搬送方向に沿った定着ニップ部29の下流側には、本発明の特徴部分となる可撓性分離部材36が配置されている。可撓性分離部材36は、図3に示すように、保持部材360と可撓性部材361とを備えている。可撓性分離部材36は、定着ローラ27の軸線方向aと直交する長手方向bに長く形成された薄い板状またはフィルム状の可撓性部材361を略半円筒状に変形させて、同じく長手方向bに長く形成された板状の保持部材360の両側360a、360bに、可撓性部材361の両側361a,361bを接着などにより固定することで構成されている。可撓性分離部材36は、図4に示すように、定着ローラ27の表面27aに、その長手方向bが定着ローラ27の軸線方向aと直交するように配置されて、湾曲させた可撓性部材361を軸線方向aと直交する方向から接触させて配置されている。可撓性部材361を軸線方向aと直交する方向から接触させるとは、可撓性部材361を保持部材360に向かって変位させるように、可撓性部材361を定着ローラ27の表面27aに接触好ましくは圧接させることである。本形態において、記録媒体Sは、定着ローラ27の表面27aに付着するものとする。
【0017】
図5(a)〜図5(c)は、可撓性部材361を長手方向bから見たときの図である。本形態において、可撓性部材361は、図5(a)に示すように、厚さ数十または数百μmの薄い金属製あるいは樹脂製の板材を、図5(b)に示すように、両側361a,361bを近づけて略半円筒状に撓ませて、図5(c)に示すように保持部材360に固定する。そして、この半円筒形状部361cに、別の厚い平板320を押し付けることで、保持部材360に向かって円筒の半径が縮まる方向にさらに変形する。ここではわかりやすいように、平板320を押し付けて変形した場合を図示したが、定着装置18に用いる場合は、図4に示すように曲面を有する定着ローラ27の表面27aに半円筒形状部361cを押し付けて配置する。図5(d)に示すように、可撓性分離部材36は、可撓性部材361が保持部材360に固定されることで、可撓性部材361と保持部材360の間に、長手方向bに位置する両端36c、36dが開放された空間部が形成される。つまり、可撓性部材361は、半円筒形状部361cをつぶす方向には容易に変形し易く、長手方向bには容易に変形し難く構成されている。
【0018】
図6(a)は、定着ローラ27と可撓性分離部材36を長手方向b(紙面垂直方向)から見た図である。図中、一転点線は定着ローラ27の回転軸を示し、可撓性分離部材36は、この回転軸(軸線方向a)と直交する紙面垂直方向に長手方向bが位置するように配置されている。図6(b)、図6(c)は、図6(a)のA−A断面線で切った場合の概略図であり、具体的には定着ローラ27の軸線方向から見た図である。なお、図6(b)、図6(c)では、保持部材360を省略している。可撓性部材361が定着ローラ27の表面27aと接触しているので、定着ニップを通過して定着ローラ27の表面27aに付着した記録媒体Sは、可撓性分離部材36によって、定着ローラ27の表面27aから分離される。これに対して、可撓性分離部材36が存在しない場合、図6(d)に示すように、記録媒体Sは定着ローラ27の表面27aから分離されない。
【0019】
従来技術で説明した先端が尖った分離爪は、定着ローラ27の表面27aと点接触に近く、その材質には金属が使用されることが多いため、定着ローラ27の外周面にコーティングされた離型層27bよりも硬い。分離爪に圧をかけて分離爪と定着ローラ27が互いに接触状態にあるとき、分離爪が削れるよりも定着ローラ27の離型層27bが削れる方が容易であるため、定着ローラ27の外周面の離型層27b(フッ素コーティング)が磨耗し易い。
【0020】
これに対し、本形態のように、分離爪に代えて、可撓性分離部材36を、定着ローラ27と記録媒体Sの分離に用いると、可撓性分離部材36の可撓性部材361が定着ローラ27の表面37aと変形した状態で接触しているので、面接触となり、半円筒形状部361aが保持部材360側に向かってつぶれる方向に変形し易くなり、分離爪を用いた場合に比べると、定着ローラ27の離型層27b(フッ素コーティング)が磨耗し難くなる。
【0021】
また、図示しないが、定着ローラ27に、薄い板金(または樹脂など)を近接させて記録媒体Sを分離することは公知であり、「分離板」方式と呼ばれるものがある。このような「分離板」方式としては例えば特開2006−011193号公報が挙げられる。このような分離板を定着ローラ27に近づけ過ぎると、記録媒体S上のトナーが分離板に固着してしまい、画像不良の原因となるおそれや分離板と定着ローラ27のギャップが増えて分離できなくなるおそれがある。一方、分離板を定着ローラ27から離しすぎると、トナー固着は減らせたとしても定着ローラ27とのギャップが広がることで、分離できなくなるおそれがある。すなわち、分離板を分離部材として用いる場合、定着ローラ27とのギャップ管理が非常に重要である。しかし、ギャップを細かく管理できる構成を設けるのは、コストアップの原因となりかねない。
【0022】
これに対して、本形態で説明した可撓性分離部材36は、もともと定着ローラ27の表面27aと接触させていて、両者のギャップはゼロであり、ギャップゼロを保って接触していればよい。すなわち、分離板のように僅かなギャップ変動に分離性能が左右されることはない。一般的に、2つの部材のギャップをゼロに近い一定の値に保つよりもゼロのままにする、すなわち、互いに接触させ続ける方が、容易に実現できるのは言うまでもない。本形態では既存の分離板方式のような、細かいギャップ管理が不要となるというメリットもある。
【0023】
図2から図6においては、可撓性分離部材36の基本構成と作用を説明するために、定着ローラ27に対して1つの可撓性分離部材36を配置した構成として説明した。このため、比較的幅の狭い記録媒体Sの分離には有効である。
【0024】
複写機1のユーザには、ユーザが自由なサイズの記録媒体Sを使用したいというニーズがあるが、従来のように予め分離爪の位置が決まっている場合、通紙可能な記録媒体Sのサイズは限られており、それ以外のサイズの記録媒体Sを通紙すると、分離できずに、耳折れ、ジャム等が発生するおそれがあった。このため、決まったサイズの記録媒体Sしか使えないのは、画像形成装置の使い勝手が十分であるとは言えない。
【0025】
そこで、図7、図8に示す形態では、可撓性分離部材36を、定着ローラ27の軸線方向aに複数配置してユニット化したのである。図7では、軸線方向aに対して間隔を開けて可撓性分離部材36を複数個配置して可撓性分離ユニット36Aとしている。このように、定着ローラ27の軸線方向aに対して複数の可撓性分離部材36を、可撓性部材361をつぶした状態で定着ローラ27の表面27aに接触した状態で配置すると、複写機1でよく使われる記録媒体Sのサイズに対応することができ、様々なサイズの記録媒体Sを分離できるので好ましい。
【0026】
図8に示す形態での場合、定着ローラ27の軸線方向aに対して間隔を開けずに可撓性分離部材36を配置して可撓性分離ユニット36Bとしている。この場合には、不定形サイズの記録媒体Sの分離も可能となり、好みのサイズの記録媒体Sを利用したいというユーザの要望に応えることができるので好ましい構成となる。
【0027】
図9は、可撓性分離部材36の変形の形態を説明する図である。図9(a)は、可撓性分離部材36を定着ローラ27の軸線方向から見た時の変形前の状態を示す。可撓性分離部材36の全体に、例えば平板(不図示)を押し当てると、図9(b)に示すように可撓性部材361の全体が保持部材360に向かって変形する。これに対し、図9(c)は、可撓性分離部材36の下方側36dに、図9(d)は可撓性分離部材36の上方側36cに、図示しない平板を押し当てて変形した状態を示す。
【0028】
このような可撓性分離部材36の変形状態の違いと、記録媒体Sの分離性について図10、図11を用いて説明する。
【0029】
図10(a)〜図10(d)は、定着ニップ通過後の、定着ローラ27の表面27aに貼りついた記録媒体Sの状態を示す。図10(a)、図10(b)は、可撓性分離部材36の、定着ローラ27の回転方向下流側に位置する部分(ここでは下方側36dとする)が定着ローラ27の表面27aに接触した場合を示し、図10(c)、図10(d)は、可撓性分離部材36の、定着ローラ27の回転方向上流側に位置する部分(ここでは上方側36cとする)が定着ローラ27の表面27aに接触した場合を示す。
【0030】
記録媒体Sが定着ローラ27の回転に伴い、可撓性分離部材36に近づくと、図10(a)に示すように、可撓性分離部材36の下方側36dを定着ローラ27の表面27aに接触させた場合、図5(d)で示したように、可撓性分離部材36は、可撓性部材361の半円筒状部361cをつぶす方向に変形し易い。したがって、記録媒体Sが分離するよりも、可撓性分離部材36が変形する方が容易であるため、図10(b)に示すように、記録媒体Sが定着ローラ27と可撓性分離部材36の間に入り込んでしまい分離されない。
【0031】
一方、記録媒体Sが定着ローラ27の回転に伴い、可撓性分離部材36に近づくと、図10(c)に示すように、可撓性分離部材36の上方側36cを定着ローラ27の表面27aに接触させた場合、図5(d)で示したように、可撓性分離部材36は、その長手方向bに変形しにくい構成であるため、可撓性部材36が変形するよりも、記録媒体Sが分離する方が容易である。このため、図10(d)に示すように記録媒体Sが可撓性分離部材36の上方側36cによって定着ローラ27の表面27aから分離される。
【0032】
より詳しく説明すると、図11(a)において太線で囲った部分、すなわち、可撓性分離部材36の上方側36cに位置する可撓性部材361の端面361Aが、定着ローラ27の表面27aと接触していてギャップはゼロであり、記録媒体Sが、この端面361Aに当たり、記録媒体Sが定着ローラ27の表面27aから分離される。このように定着ローラ27の形状に沿って可撓性分離部材36が、略半円筒形状に変形可能であると、定着ローラ27との接触が面接触となり、従来の分離爪のように、定着ローラ27の外周面の離型層27b(フッ素コーティング)を磨耗させることが極めて少なくなる。
【0033】
定着ローラ27に押し付けて変形させた状態における、可撓性分離部材36の可撓性部材361の変形方向への厚さtは、図11(b)に示すように、5mm以内が好ましい。これは、これ以上大きいと、可撓性部材361の開口部36cまたは開口部36dに記録媒体Sが引っかかって、分離できなくなるおそれがあるためである。このように、可撓性分離部材36における定着ローラ27の回転方向の上流側に位置する部分を定着ローラ27の表面27aに押し付けることで、分離性能を向上させることができる。
【0034】
可撓性分離部材36が記録媒体Sや定着ローラ27と接触すると、記録媒体Sや定着ローラ27に存在するトナーが可撓性分離部材36に固着する可能性がある。固着したトナーは、分離不良や画像不良(再び記録媒体Sに移って画像が乱れる)の原因となることがある。これを防ぐための1つの形態として、可撓性部材361の表面に摩擦係数が少ないフッ素コーティングなどのコーティングを行い、離型層370を形成するのが好ましい。このような離型層370を形成するにより、トナー固着がしにくくなり、前述の不具合がでる可能性を減らすことができる。図12(a)、図12(b)は離型層370のコーティング領域を示すものである。コーティング領域としては、図12(a)に示すように、可撓性分離部材36の可撓性部材361全面をコーティングして離型層370を形成してもよいし、あるいは図12(b)に示すように、可撓性分離部材36の一部を、例えば、主として定着ローラ27の表面27aと接触する(トナー固着が起こりやすい)可撓性部材361の部分のみをコーティングして、部分的に離型層370を形成する形態でもよい。
【0035】
本形態では、トナー固着抑止のために可撓性分離部材36にフッ素コーティングなどを施したが、コーティング処理ではなく、トナー固着がしにくい摩擦係数が少ない材質で、少なくとも可撓性部材361を構成するようにしてよい。この場合、可撓性部材361に使用する材質は制限されるが、コーティング処理の必要がなくなる。
【0036】
上述の形態において、可撓性分離部材36は、定着回転体となる定着ローラ27の表面27aに接触させる形態として説明したが、可撓性分離部材36の接触対象としては定着ローラ27に限定されるものではなく、記録媒体Sが加圧回転体である加圧ローラ28の場合、加圧ローラ28の表面に接触させた形態としてもよい。あるいは、特開2007−334205号公報に記載の、表層の定着スリーブだけが摺動により回転し、内部に固定のパッドや熱源を有する方式の定着回転体の場合、定着スリーブの表面に可撓性分離部材36を接触させる形態としてもよい。
【0037】
上述の形態において、定着装置18は、定着ローラ27と加熱ローラ28を用いたローラ方式のものを例示したが、定着回転体として、複数ローラ間に巻きかけられた無端ベルトを用いたベルト方式のものであってもよい。この場合、ベルト表面に可撓性分離部材36を接触させて配置することで、ローラ表面に接触させて場合と同様の効果を得ることができる。
【0038】
つまり、可撓性分離部材36を用いることで、従来の分離爪方式とは異なり、可撓性分離部材36が、定着回転体や加圧回転体に対して点接触ではなく面接触となるので、定着回転体や加圧回転体の表面に傷が生じる可能性を低減しながら、分離性能を維持することが可能となる。
【0039】
可撓性分離部材36を接触対象となる定着回転体(定着ローラ27)または加圧回転体(加圧ローラ28)の軸線方向に複数設けることで、各種サイズの記録媒体Sの分離を良好に行えるようになる。
【0040】
可撓性分離部材36を接触対象となる定着回転体(定着ローラ27)または加圧回転体(加圧ローラ28)の軸線方向の全域に設けることで、不定形サイズを含む、各種サイズの記録媒体Sの分離を良好に行えるようになる。
【0041】
可撓性分離部材36における回転方向上流側に位置する部分を、定着回転体(定着ローラ27)または加圧回転体(加圧ローラ28)に押しつけて配置したので、記録媒体Sが、可撓性分離部材36の端面361Aに当たって分離し易くなり、さらに分離性能を向上させることができる。
【0042】
可撓性分離部材36の全部または一部に、フッ素コーティングなどの離型層を設けることで、トナー固着による画像不良・分離不良の可能性を低減することができる。
【符号の説明】
【0043】
18 定着装置
27 定着回転体
27a 定着回転体の表面
28 加圧回転体
28a 加圧回転体の表面
29 定着ニップ
30 発熱手段
36 可撓性分離部材
36c 回転方向上流側に位置する部分
370 離型層
a 軸線方向
S 記録媒体
【先行技術文献】
【特許文献】
【0044】
【特許文献1】特開2005−099426号公報
【特許文献2】特開2010−230928号公報
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体の分離手段を備えた定着装置およびそれを備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置では、記録媒体に転写されたトナーを記録媒体に定着するための定着装置を備えている。定着装置としては、定着回転体と加圧回転体と発熱部材を備え、定着回転体と加圧回転体とを接触状態とすることで定着ニップを形成し、発熱部材で定着回転体または加圧回転体の少なくとも一方を加熱し、トナーが転写された記録媒体を定着ニップに通過させることで、記録媒体とトナーに熱と圧力を与えてトナーを記録媒体に定着している。
定着装置では、記録媒体が定着ニップ通過時に、定着回転体あるいは加圧回転体の表面に付着することがあるため、定着回転体あるいは加圧回転体の表面に剥離層をコーティングするとともに、定着ニップの下流側に分離部材を配置している。この分離部材としては、記録媒体が付着する回転体の表面に先端を接触状態とした分離爪や爪状剥離部材が一般に用いられることが多い。
【0003】
このように分離爪や爪状剥離部材が常時、定着回転体あるいは加圧回転体の表面に接触していると、接触部分の剥離層が磨耗し、その部分だけ記録媒体が回転体から離型せずに、記録媒体上のトナーが欠けることで、画像に悪影響を生じることが知られている。
そこで、特許文献1では、ソレノイド等により分離爪を回動可能に支持し、分離爪の先端を定着回転体に対して接触/離間可能としている。
特許文献2では、爪状剥離部材の先端部を弾性変形可能にして定着回転体の表面に接触させたものが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、記録媒体の分離時に分離爪の先端が定着回転体の表面に接触するので、常に分離爪が定着回転体に接触する場合に比べれば、接触時間が短くなり、結果定着回転体の剥離層に傷が生じるまでの時間は長くなるが、分離爪のとがった先端が定着回転体の表面に接触するので、定着回転体の表面に分離爪によって傷が生じるのを完全に防ぐことは難しい。
特許文献2では、爪状剥離部材の先端部が弾性変形することで、定着回転体の離型層に傷が生じる可能性が減ることが考えられるが、それに伴い、記録媒体が爪状剥離部材と定着回転体との間に入り込み易くなる、すなわち、剥離機能が低下する可能性を否定できない。
本発明は、記録媒体が付着する定着回転体または加圧回転体の表面に傷が生じる可能性を低減しながら、分離性能を維持することが可能な定着装置および画像形成装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る、互いに回転可能な定着回転体および加圧回転体と、少なくとも定着回転体を加熱する発熱手段を備え、定着回転体および加圧回転体で形成される定着ニップにトナー像が転写された記録媒体を通過させ、熱と圧力の作用により前記トナー像を記録媒体に定着させる定着装置は、定着ニップを通過した記録媒体を定着回転体または加圧回転体の表面から分離する可撓性分離部材を有し、この可撓性分離部材は、定着回転体または加圧回転体の回転軸の軸線方向と直交する方向から定着回転体または加圧回転体の表面に接触して変形が生じているように配置されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、定着ニップを通過した記録媒体を定着回転体または加圧回転体の表面から分離する可撓性分離部材を、定着回転体または加圧回転体の回転軸の軸線方向と直交する方向から定着回転体または加圧回転体の表面に接触して変形が生じるように配置したので、定着回転体または加圧回転体に付着した記録媒体の分離性能を維持しつつも、定着回転体または加圧回転体の表面との接触が面接触となるため、定着回転体または加圧回転体の表面に傷が生じる可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施形態である複写機の概略構成を示す全体図。
【図2】本発明の一実施形態である定着装置の構成を示す拡大図。
【図3】(a)は本発明の主要部となる可撓性分離部材の構成を示す斜視図、(b)は可撓性分離部材を構成する保持部材の構成を示す斜視図、(c)は可撓性分離部材を構成する可撓性部材の構成を示す斜視図。
【図4】可撓性分離部材と定着回転体との配置関係を示す斜視図。
【図5】(a)は可撓性部材の材質の状態を示す図、(b)は可撓性部材を円弧形状にした状態を示す図、(c)は円弧形状部を変形させた状態を示す図、(d)は可撓性部材の変形特性を説明する斜視図。
【図6】(a)は可撓性分離部材と定着回転体の接触状態を可撓性分離部材の長手方向から見た図、(b)は可撓性分離部材により記録媒体の分離前の状態を定着回転体の軸線方向から見た部分図、(c)は可撓性分離部材により記録媒体が良好に分離された状態を定着回転体の軸線方向から見た図、(d)は可撓性分離部材を備えていない場合も不具合を示す図。
【図7】定着回転体の軸線方向に複数の可撓性分離部材を備えた状態を示す図。
【図8】定着回転体の軸線方向に複数の可撓性分離部材を連続して備えた状態を示す図。
【図9】(a)は可撓性分離部材の変形前の状態を示す図、(b)は可撓性分離部材全体が変形した状態を示す図、(c)は可撓性分離部材の下端側が変形した状態を示す図、(d)は可撓性分離部材の上端側が変形した状態を示す図。
【図10】(a)は下端側が定着回転体と接触した可撓性分離部材と記録媒体の分離前の状態を示す図、(b)は記録媒体の分離不良状態を示す図、(c)は上端側が定着回転体と接触した可撓性分離部材と記録媒体の分離前の状態を示す図、(d)は記録媒体の分離良好状態を示す図。
【図11】(a)は可撓性分離部材における記録媒体との接触部を示す斜視図、(b)は可撓性分離部材における可撓性部材の変形量を示す拡大図。
【図12】(a)はフッ素コーティングのコーティング領域が可撓性分離部材全体の場合を説明した斜視図、(b)はフッ素コーティングのコーティング領域が可撓性分離部材における定着回転体との接触領域の場合を説明した斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。最初に画像形成装置の全体構成を説明し、その後に特徴部分の構成を説明する。図1は、画像形成装置の一形態である複写機1を示す。複写機1は、プリンタ部2と、プリンタ部2の上部に取付けられた画像読取装置3とを備えている。画像読取装置3を省いた場合、プリンタ部2自体が画像形成装置となる。画像形成装置の形態としては、複写機1やプリンタ部2に限るものではなく、ファクシミリ単体あるいは複写機1、プリンタ部2、ファクシミリの内の少なくとも2つ以上が組み合わされた複合機器も含まれる。
【0009】
プリンタ部2内の略中央部には画像形成部4が配置されている。画像形成部4は、像担持体であるドラム状の感光体5、この感光体5のまわりに配置された帯電装置6、現像装置7、転写装置8、クリーニング装置9等により構成されている。現像装置7にはトナー補給装置10が接続されている。この画像形成部4では、感光体5の外周面が帯電装置6により所定の電位に帯電され、帯電された感光体5の外周面が光書込装置11によって露光されることにより感光体5の外周面に静電潜像が形成される。そしてこの静電潜像に対して現像装置7からトナーが供給されることにより静電潜像がトナー像として顕像化され、顕像化されたトナー像が転写装置8により記録媒体S上に転写される。この転写時に記録媒体S上に転写されずに感光体5の外周面に残留したトナーは、クリーニング装置9により除去される。現像装置7では、重合法で製造された重合トナーが用いられている。
【0010】
プリンタ部2における画像形成部4の下方には、記録媒体Sを収納する上下二段の給紙カセット12、記録媒体Sを手差し給紙可能な手差しトレイ13等が設けられている。プリンタ部2内には、給紙カセット12や手差しトレイ13から給紙された記録媒体Sがプリンタ部2と画像読取装置3との間の空隙部に形成された排紙トレイ14に向けて搬送される搬送経路15が形成され、この搬送経路15に沿って、搬送ローラ16、レジストローラ17、画像形成部4、定着装置18、排紙ローラ19等が配置されている。さらに、記録媒体Sの搬送方向に沿った定着装置18よりも下流側には、搬送経路15から分岐された反転搬送経路20が設けられている。この複写機1では、定着装置18を通過した記録媒体Sを反転搬送経路20へ送り込み、この反転搬送経路20を経由して記録媒体Sを画像形成部4の上流側へ表裏逆向きにして送り出すことにより、記録媒体Sの両面へ画像形成を可能としている。画像形成装置としては、反転搬送経路20を持たない片面印刷ものに対応した複写機であってもよい。
【0011】
画像読取装置3には、読取対象となる原稿を自動送りするADF(自動原稿搬送装置)21、コンタクトガラス22、原稿の読取面を照明する光源23、原稿の読取面からの反射光を順次反射させる複数のミラー24、結像用光学レンズ25、CCD等のイメージセンサ26などが設けられている。
【0012】
図2に示すように、定着装置18は、それぞれ軸心周りに回転自在な定着回転体である定着ローラ27と、加圧回転体である加圧ローラ28と、発熱手段となる熱源30を有し、画像形成部4でトナー像が転写された記録媒体Sがこれらの定着ローラ27の表面27aと加圧ローラ28の表面28aとが接触することで形成された定着ニップ部29を通過し、その通過過程で熱と圧力とを加えられ、記録媒体S上のトナー像が記録媒体Sに定着される。
【0013】
定着ローラ27は、例えば肉厚1mm以下のローラを用いて温度応答性を向上させ、定着温度までの昇温時間を10秒程度にまで短縮するようにしてもよい。定着ローラ27の外周面には、フッ素コート処理を施し離型層27bを設けている。本形態において、離型層27bの表面を定着ローラ27の表面27aとする。定着ローラ27の内部には、ヒータなどから構成された熱源30が配置されていて、定着ローラ27をその内部から加熱している。熱源30は、図示例では2つであるが、1つでもよいし、3つ以上であってもよい。
【0014】
定着ローラ27の周りには、その周面に接触させたサーミスタ(温度検知手段)31およびサーモスタット32が設けられている。本形態では、サーミスタ31で定着ローラ27の表面温度を検知し、その検知結果に基づきサーモスタット32で熱源30をオンオフすることにより定着ローラ27を所定温度に保持する。
【0015】
加圧ローラ28の周りには、加圧スプリング33により支点34を中心として反時計まわりに回動するように付勢された加圧アーム35が設けられている。加圧アーム35で加圧ローラ28を付勢して定着ローラ27に押し当てることにより、定着ローラ27と加圧ローラ28との間に定着ニップ部29を形成する。
【0016】
記録媒体Sの搬送方向に沿った定着ニップ部29の下流側には、本発明の特徴部分となる可撓性分離部材36が配置されている。可撓性分離部材36は、図3に示すように、保持部材360と可撓性部材361とを備えている。可撓性分離部材36は、定着ローラ27の軸線方向aと直交する長手方向bに長く形成された薄い板状またはフィルム状の可撓性部材361を略半円筒状に変形させて、同じく長手方向bに長く形成された板状の保持部材360の両側360a、360bに、可撓性部材361の両側361a,361bを接着などにより固定することで構成されている。可撓性分離部材36は、図4に示すように、定着ローラ27の表面27aに、その長手方向bが定着ローラ27の軸線方向aと直交するように配置されて、湾曲させた可撓性部材361を軸線方向aと直交する方向から接触させて配置されている。可撓性部材361を軸線方向aと直交する方向から接触させるとは、可撓性部材361を保持部材360に向かって変位させるように、可撓性部材361を定着ローラ27の表面27aに接触好ましくは圧接させることである。本形態において、記録媒体Sは、定着ローラ27の表面27aに付着するものとする。
【0017】
図5(a)〜図5(c)は、可撓性部材361を長手方向bから見たときの図である。本形態において、可撓性部材361は、図5(a)に示すように、厚さ数十または数百μmの薄い金属製あるいは樹脂製の板材を、図5(b)に示すように、両側361a,361bを近づけて略半円筒状に撓ませて、図5(c)に示すように保持部材360に固定する。そして、この半円筒形状部361cに、別の厚い平板320を押し付けることで、保持部材360に向かって円筒の半径が縮まる方向にさらに変形する。ここではわかりやすいように、平板320を押し付けて変形した場合を図示したが、定着装置18に用いる場合は、図4に示すように曲面を有する定着ローラ27の表面27aに半円筒形状部361cを押し付けて配置する。図5(d)に示すように、可撓性分離部材36は、可撓性部材361が保持部材360に固定されることで、可撓性部材361と保持部材360の間に、長手方向bに位置する両端36c、36dが開放された空間部が形成される。つまり、可撓性部材361は、半円筒形状部361cをつぶす方向には容易に変形し易く、長手方向bには容易に変形し難く構成されている。
【0018】
図6(a)は、定着ローラ27と可撓性分離部材36を長手方向b(紙面垂直方向)から見た図である。図中、一転点線は定着ローラ27の回転軸を示し、可撓性分離部材36は、この回転軸(軸線方向a)と直交する紙面垂直方向に長手方向bが位置するように配置されている。図6(b)、図6(c)は、図6(a)のA−A断面線で切った場合の概略図であり、具体的には定着ローラ27の軸線方向から見た図である。なお、図6(b)、図6(c)では、保持部材360を省略している。可撓性部材361が定着ローラ27の表面27aと接触しているので、定着ニップを通過して定着ローラ27の表面27aに付着した記録媒体Sは、可撓性分離部材36によって、定着ローラ27の表面27aから分離される。これに対して、可撓性分離部材36が存在しない場合、図6(d)に示すように、記録媒体Sは定着ローラ27の表面27aから分離されない。
【0019】
従来技術で説明した先端が尖った分離爪は、定着ローラ27の表面27aと点接触に近く、その材質には金属が使用されることが多いため、定着ローラ27の外周面にコーティングされた離型層27bよりも硬い。分離爪に圧をかけて分離爪と定着ローラ27が互いに接触状態にあるとき、分離爪が削れるよりも定着ローラ27の離型層27bが削れる方が容易であるため、定着ローラ27の外周面の離型層27b(フッ素コーティング)が磨耗し易い。
【0020】
これに対し、本形態のように、分離爪に代えて、可撓性分離部材36を、定着ローラ27と記録媒体Sの分離に用いると、可撓性分離部材36の可撓性部材361が定着ローラ27の表面37aと変形した状態で接触しているので、面接触となり、半円筒形状部361aが保持部材360側に向かってつぶれる方向に変形し易くなり、分離爪を用いた場合に比べると、定着ローラ27の離型層27b(フッ素コーティング)が磨耗し難くなる。
【0021】
また、図示しないが、定着ローラ27に、薄い板金(または樹脂など)を近接させて記録媒体Sを分離することは公知であり、「分離板」方式と呼ばれるものがある。このような「分離板」方式としては例えば特開2006−011193号公報が挙げられる。このような分離板を定着ローラ27に近づけ過ぎると、記録媒体S上のトナーが分離板に固着してしまい、画像不良の原因となるおそれや分離板と定着ローラ27のギャップが増えて分離できなくなるおそれがある。一方、分離板を定着ローラ27から離しすぎると、トナー固着は減らせたとしても定着ローラ27とのギャップが広がることで、分離できなくなるおそれがある。すなわち、分離板を分離部材として用いる場合、定着ローラ27とのギャップ管理が非常に重要である。しかし、ギャップを細かく管理できる構成を設けるのは、コストアップの原因となりかねない。
【0022】
これに対して、本形態で説明した可撓性分離部材36は、もともと定着ローラ27の表面27aと接触させていて、両者のギャップはゼロであり、ギャップゼロを保って接触していればよい。すなわち、分離板のように僅かなギャップ変動に分離性能が左右されることはない。一般的に、2つの部材のギャップをゼロに近い一定の値に保つよりもゼロのままにする、すなわち、互いに接触させ続ける方が、容易に実現できるのは言うまでもない。本形態では既存の分離板方式のような、細かいギャップ管理が不要となるというメリットもある。
【0023】
図2から図6においては、可撓性分離部材36の基本構成と作用を説明するために、定着ローラ27に対して1つの可撓性分離部材36を配置した構成として説明した。このため、比較的幅の狭い記録媒体Sの分離には有効である。
【0024】
複写機1のユーザには、ユーザが自由なサイズの記録媒体Sを使用したいというニーズがあるが、従来のように予め分離爪の位置が決まっている場合、通紙可能な記録媒体Sのサイズは限られており、それ以外のサイズの記録媒体Sを通紙すると、分離できずに、耳折れ、ジャム等が発生するおそれがあった。このため、決まったサイズの記録媒体Sしか使えないのは、画像形成装置の使い勝手が十分であるとは言えない。
【0025】
そこで、図7、図8に示す形態では、可撓性分離部材36を、定着ローラ27の軸線方向aに複数配置してユニット化したのである。図7では、軸線方向aに対して間隔を開けて可撓性分離部材36を複数個配置して可撓性分離ユニット36Aとしている。このように、定着ローラ27の軸線方向aに対して複数の可撓性分離部材36を、可撓性部材361をつぶした状態で定着ローラ27の表面27aに接触した状態で配置すると、複写機1でよく使われる記録媒体Sのサイズに対応することができ、様々なサイズの記録媒体Sを分離できるので好ましい。
【0026】
図8に示す形態での場合、定着ローラ27の軸線方向aに対して間隔を開けずに可撓性分離部材36を配置して可撓性分離ユニット36Bとしている。この場合には、不定形サイズの記録媒体Sの分離も可能となり、好みのサイズの記録媒体Sを利用したいというユーザの要望に応えることができるので好ましい構成となる。
【0027】
図9は、可撓性分離部材36の変形の形態を説明する図である。図9(a)は、可撓性分離部材36を定着ローラ27の軸線方向から見た時の変形前の状態を示す。可撓性分離部材36の全体に、例えば平板(不図示)を押し当てると、図9(b)に示すように可撓性部材361の全体が保持部材360に向かって変形する。これに対し、図9(c)は、可撓性分離部材36の下方側36dに、図9(d)は可撓性分離部材36の上方側36cに、図示しない平板を押し当てて変形した状態を示す。
【0028】
このような可撓性分離部材36の変形状態の違いと、記録媒体Sの分離性について図10、図11を用いて説明する。
【0029】
図10(a)〜図10(d)は、定着ニップ通過後の、定着ローラ27の表面27aに貼りついた記録媒体Sの状態を示す。図10(a)、図10(b)は、可撓性分離部材36の、定着ローラ27の回転方向下流側に位置する部分(ここでは下方側36dとする)が定着ローラ27の表面27aに接触した場合を示し、図10(c)、図10(d)は、可撓性分離部材36の、定着ローラ27の回転方向上流側に位置する部分(ここでは上方側36cとする)が定着ローラ27の表面27aに接触した場合を示す。
【0030】
記録媒体Sが定着ローラ27の回転に伴い、可撓性分離部材36に近づくと、図10(a)に示すように、可撓性分離部材36の下方側36dを定着ローラ27の表面27aに接触させた場合、図5(d)で示したように、可撓性分離部材36は、可撓性部材361の半円筒状部361cをつぶす方向に変形し易い。したがって、記録媒体Sが分離するよりも、可撓性分離部材36が変形する方が容易であるため、図10(b)に示すように、記録媒体Sが定着ローラ27と可撓性分離部材36の間に入り込んでしまい分離されない。
【0031】
一方、記録媒体Sが定着ローラ27の回転に伴い、可撓性分離部材36に近づくと、図10(c)に示すように、可撓性分離部材36の上方側36cを定着ローラ27の表面27aに接触させた場合、図5(d)で示したように、可撓性分離部材36は、その長手方向bに変形しにくい構成であるため、可撓性部材36が変形するよりも、記録媒体Sが分離する方が容易である。このため、図10(d)に示すように記録媒体Sが可撓性分離部材36の上方側36cによって定着ローラ27の表面27aから分離される。
【0032】
より詳しく説明すると、図11(a)において太線で囲った部分、すなわち、可撓性分離部材36の上方側36cに位置する可撓性部材361の端面361Aが、定着ローラ27の表面27aと接触していてギャップはゼロであり、記録媒体Sが、この端面361Aに当たり、記録媒体Sが定着ローラ27の表面27aから分離される。このように定着ローラ27の形状に沿って可撓性分離部材36が、略半円筒形状に変形可能であると、定着ローラ27との接触が面接触となり、従来の分離爪のように、定着ローラ27の外周面の離型層27b(フッ素コーティング)を磨耗させることが極めて少なくなる。
【0033】
定着ローラ27に押し付けて変形させた状態における、可撓性分離部材36の可撓性部材361の変形方向への厚さtは、図11(b)に示すように、5mm以内が好ましい。これは、これ以上大きいと、可撓性部材361の開口部36cまたは開口部36dに記録媒体Sが引っかかって、分離できなくなるおそれがあるためである。このように、可撓性分離部材36における定着ローラ27の回転方向の上流側に位置する部分を定着ローラ27の表面27aに押し付けることで、分離性能を向上させることができる。
【0034】
可撓性分離部材36が記録媒体Sや定着ローラ27と接触すると、記録媒体Sや定着ローラ27に存在するトナーが可撓性分離部材36に固着する可能性がある。固着したトナーは、分離不良や画像不良(再び記録媒体Sに移って画像が乱れる)の原因となることがある。これを防ぐための1つの形態として、可撓性部材361の表面に摩擦係数が少ないフッ素コーティングなどのコーティングを行い、離型層370を形成するのが好ましい。このような離型層370を形成するにより、トナー固着がしにくくなり、前述の不具合がでる可能性を減らすことができる。図12(a)、図12(b)は離型層370のコーティング領域を示すものである。コーティング領域としては、図12(a)に示すように、可撓性分離部材36の可撓性部材361全面をコーティングして離型層370を形成してもよいし、あるいは図12(b)に示すように、可撓性分離部材36の一部を、例えば、主として定着ローラ27の表面27aと接触する(トナー固着が起こりやすい)可撓性部材361の部分のみをコーティングして、部分的に離型層370を形成する形態でもよい。
【0035】
本形態では、トナー固着抑止のために可撓性分離部材36にフッ素コーティングなどを施したが、コーティング処理ではなく、トナー固着がしにくい摩擦係数が少ない材質で、少なくとも可撓性部材361を構成するようにしてよい。この場合、可撓性部材361に使用する材質は制限されるが、コーティング処理の必要がなくなる。
【0036】
上述の形態において、可撓性分離部材36は、定着回転体となる定着ローラ27の表面27aに接触させる形態として説明したが、可撓性分離部材36の接触対象としては定着ローラ27に限定されるものではなく、記録媒体Sが加圧回転体である加圧ローラ28の場合、加圧ローラ28の表面に接触させた形態としてもよい。あるいは、特開2007−334205号公報に記載の、表層の定着スリーブだけが摺動により回転し、内部に固定のパッドや熱源を有する方式の定着回転体の場合、定着スリーブの表面に可撓性分離部材36を接触させる形態としてもよい。
【0037】
上述の形態において、定着装置18は、定着ローラ27と加熱ローラ28を用いたローラ方式のものを例示したが、定着回転体として、複数ローラ間に巻きかけられた無端ベルトを用いたベルト方式のものであってもよい。この場合、ベルト表面に可撓性分離部材36を接触させて配置することで、ローラ表面に接触させて場合と同様の効果を得ることができる。
【0038】
つまり、可撓性分離部材36を用いることで、従来の分離爪方式とは異なり、可撓性分離部材36が、定着回転体や加圧回転体に対して点接触ではなく面接触となるので、定着回転体や加圧回転体の表面に傷が生じる可能性を低減しながら、分離性能を維持することが可能となる。
【0039】
可撓性分離部材36を接触対象となる定着回転体(定着ローラ27)または加圧回転体(加圧ローラ28)の軸線方向に複数設けることで、各種サイズの記録媒体Sの分離を良好に行えるようになる。
【0040】
可撓性分離部材36を接触対象となる定着回転体(定着ローラ27)または加圧回転体(加圧ローラ28)の軸線方向の全域に設けることで、不定形サイズを含む、各種サイズの記録媒体Sの分離を良好に行えるようになる。
【0041】
可撓性分離部材36における回転方向上流側に位置する部分を、定着回転体(定着ローラ27)または加圧回転体(加圧ローラ28)に押しつけて配置したので、記録媒体Sが、可撓性分離部材36の端面361Aに当たって分離し易くなり、さらに分離性能を向上させることができる。
【0042】
可撓性分離部材36の全部または一部に、フッ素コーティングなどの離型層を設けることで、トナー固着による画像不良・分離不良の可能性を低減することができる。
【符号の説明】
【0043】
18 定着装置
27 定着回転体
27a 定着回転体の表面
28 加圧回転体
28a 加圧回転体の表面
29 定着ニップ
30 発熱手段
36 可撓性分離部材
36c 回転方向上流側に位置する部分
370 離型層
a 軸線方向
S 記録媒体
【先行技術文献】
【特許文献】
【0044】
【特許文献1】特開2005−099426号公報
【特許文献2】特開2010−230928号公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに回転可能な定着回転体および加圧回転体と、少なくとも定着回転体を加熱する発熱手段を備え、前記定着回転体および加圧回転体で形成される定着ニップにトナー像が転写された記録媒体を通過させ、熱と圧力の作用により前記トナー像を前記記録媒体に定着させる定着装置において、
前記定着ニップを通過した記録媒体を、前記定着回転体または前記加圧回転体の表面から分離する可撓性分離部材を有し、
前記可撓性分離部材は、前記定着回転体または前記加圧回転体の回転軸の軸線方向と直交する方向から前記定着回転体または前記加圧回転体の表面に接触して変形が生じているように配置されていることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記可撓性分離部材は、前記軸線方向に複数配置されていることを特徴とする請求項1記載の定着装置。
【請求項3】
可撓性分離部材は、前記軸線方向の全域に複数配置されていることを特徴とする請求項1記載の定着装置。
【請求項4】
前記可撓性分離部材は、前記定着回転体または前記加圧回転体の回転方向上流側に位置する部分が、前記定着回転体または前記加圧回転体の表面に接触するように配置されていることを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載の定着装置。
【請求項5】
前記可撓性分離部材は、少なくとも前記定着回転体または前記加圧回転体との接触部位に離型層を有することを特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載の定着装置。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れか1項に記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項1】
互いに回転可能な定着回転体および加圧回転体と、少なくとも定着回転体を加熱する発熱手段を備え、前記定着回転体および加圧回転体で形成される定着ニップにトナー像が転写された記録媒体を通過させ、熱と圧力の作用により前記トナー像を前記記録媒体に定着させる定着装置において、
前記定着ニップを通過した記録媒体を、前記定着回転体または前記加圧回転体の表面から分離する可撓性分離部材を有し、
前記可撓性分離部材は、前記定着回転体または前記加圧回転体の回転軸の軸線方向と直交する方向から前記定着回転体または前記加圧回転体の表面に接触して変形が生じているように配置されていることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記可撓性分離部材は、前記軸線方向に複数配置されていることを特徴とする請求項1記載の定着装置。
【請求項3】
可撓性分離部材は、前記軸線方向の全域に複数配置されていることを特徴とする請求項1記載の定着装置。
【請求項4】
前記可撓性分離部材は、前記定着回転体または前記加圧回転体の回転方向上流側に位置する部分が、前記定着回転体または前記加圧回転体の表面に接触するように配置されていることを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載の定着装置。
【請求項5】
前記可撓性分離部材は、少なくとも前記定着回転体または前記加圧回転体との接触部位に離型層を有することを特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載の定着装置。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れか1項に記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−252105(P2012−252105A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123710(P2011−123710)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]