説明

定着装置の加熱ローラ用滑り軸受

【課題】定着装置の加熱ローラの用途での特有の加熱条件および加圧条件においても供回りせず、ボールベアリングに比べて回転トルクが3倍以下の低回転トルクに抑えられた定着装置の加熱ローラ用滑り軸受とすることである。
【解決手段】四フッ化エチレン樹脂を主成分とする筒状の滑り軸受1を軸回りに分割して軸方向の断面形状が半円弧形の焼成体2を2個合体させて筒状の滑り軸受1を構成する。半円弧形の焼成体2は、それぞれ仕上げ寸法の金型でもって焼成され、内周面には溶融成形層3が形成されている。また、半円弧形の焼成体2の外周面の周方向には径方向の外側に向かって突出する山形の滑り止め用突起4を形成し、ハウジング6に嵌め合わせて回り止めをする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複写機、プリンタ、ファクシミリなどの画像記録装置における定着装置の加熱ローラ用滑り軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
図3に示すように、一般に電子写真装置として総称される複写機またはレーザービームプリンタ等は、帯電画像を用いて原画像の情報を記録物質たる転写材に伝達する機構を有し、装置内の加熱定着部には、転写材上にそのトナー像を加熱定着させる加熱ローラ8と、転写材を加熱ローラ8に押圧して回転駆動する加圧ローラ9が装着されている。
【0003】
加熱ローラ8は、アルミニウム合金で形成されたものが多く、ヒータで約170〜230℃の高温度に加熱される。また、加圧ローラ9は、シリコーンゴム等で被覆された鉄材からなり、加熱ローラ8からの伝熱により約70〜100℃に加熱される。
【0004】
特に高温に加熱される加熱ローラ8は、回転軸に転がり軸受や滑り軸受、さらには断熱スリーブを介して支持されている。
【0005】
樹脂製の耐熱性滑り軸受の具体例としては、耐熱性および機械的強度の優れたポリフェニレンサルファイド(以下、PPSと略称する)樹脂などをリング状の軸受本体として、その摺動面にフッ素樹脂層が接着されるか、またはフッ素樹脂を配合したPPS樹脂などで滑り軸受全体を一体成形する技術などが知られている(特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開平5−117678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記した従来の画像記録装置における定着装置の加熱ローラ用滑り軸受は、種類別の性能を比較すると、ボールベアリングでは低摩擦力で回転軸の軸受トルクも小さいが、構造が複雑であるので、製造コストも高価である。
【0008】
一方、PPS樹脂を利用した滑り軸受は、構造が簡単で射出成形できるため、低コスト品ではあるが、その軸受の回転トルクは、ボールベアリングに比べて2〜5倍程度も高いという問題点がある。
【0009】
このような滑り軸受の回転トルクが大きいという問題は、その原因を本願の発明者が調査した結果、摺動面に粗さがあり、また作動時に滑り軸受が、ローラ本体と一体の回転軸と定着装置のハウジングとのいずれかと一体に静止するか、または移動するかを経時的に繰り返して静止摩擦と動摩擦を繰り返すので、いわゆる間欠的な供回り状態にあるためではないか、との原因が推定された。
【0010】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、低価格で製造できるという利点を活かした滑り軸受である定着装置の加熱ローラ用滑り軸受について、その用途での特有の加熱条件および加圧条件においても供回りせず、ボールベアリングに比べて回転トルクが3倍以下の低回転トルクに抑えられた定着装置の加熱ローラ用滑り軸受とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、この発明においては、四フッ化エチレン樹脂を主成分とする焼成体からなる筒状の滑り軸受の少なくとも内周面に、仕上げ寸法の金型で形成された溶融成形層を設けてなる定着装置の加熱ローラ用滑り軸受としたのである。
【0012】
上記したように構成されるこの発明の定着装置の加熱ローラ用滑り軸受は、少なくとも内周面に、成形後に熱収縮して定まる寸法に予め設定された仕上げ寸法に形成された金型で溶融成形層を形成しているので、内周面は射出成形体と同程度に寸法精度の高い面であって所期した低回転トルクが得られる仕上げ面となる。そしてこの滑り軸受は、所期した寸法の内径であると共に、仕上げ性および低回転トルクの安定性を確保するために、従来のような旋削加工を行なう必要がないものであり、または焼成後の寸法変化も一定なものになるから、修正する寸法が予測でき、そのため容易に仕上げ寸法に修正できるものとなる。
【0013】
このような滑り軸受は、軸回りに分割されて軸方向の断面形状がC字形、U字形または円弧形の複数の焼成体を合体させてなる筒状の滑り軸受であることが、仕上げ寸法の金型を嵌めやすくて好ましく、嵌めた金型を四フッ化エチレン樹脂の融点以上に加熱すると、筒形の予備成形体の内周面に金型による溶融成形層を確実に形成できる。
【0014】
また、このような滑り軸受またはその軸回りに分割されているものの外周面の周方向に間隔を開けて径方向の外側に向かって突出する滑り止め用突起を設けたものは、軸受に接する加熱ローラの回転によって供回りする回転力が作用しても滑り止め用突起が滑り軸受外側のハウジングなどと係合し、供回りを防止する。そのために、作動時に滑り軸受に静止摩擦力と動摩擦力が交互に加わっても間欠的な供回り状態にならず、滑り軸受の回転トルクを安定して低く保つことができる。そのような作用を奏するための滑り止め用突起の形状としては、角錐状突起、角柱状突起、山型突起または鋸歯状突起であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
この発明は、四フッ化エチレン樹脂を主成分とする筒状の滑り軸受からなる定着装置の加熱ローラ用滑り軸受の内周面に、仕上げ寸法の金型で形成された溶融成形層を設けたものであり、仕上げ性および安定した低回転トルクを確保するための旋削加工を行なう必要がなく、または焼成後の寸法変化が一定であり、修正幅を予測して容易に仕上げ寸法に修正できるものになり、また定着装置の加熱ローラの用途で特有の加熱条件および加圧条件においても供回りしないという利点がある。
このような筒状の滑り軸受が、軸回りに分割されているものでは、金型を嵌めやすく、しかも上記の利点を確実に奏するものになる。
【0016】
また、外周面の周方向に間隔を開けて径方向の外側に向かって突出する滑り止め用突起を設けることにより、ボールベアリングに比べて回転トルクが3倍以下の低回転トルクに抑えられた定着装置の加熱ローラ用滑り軸受になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
この発明の実施形態を以下に添付図面に基づいて説明する。
図1に示すように、実施形態は、四フッ化エチレン樹脂を主成分とする筒状の滑り軸受1を、軸回りに分割して軸方向の断面形状が半円弧形の焼成体2を複数(図示では2個)合体させて構成したものである。
【0018】
半円弧形の焼成体2は、それぞれ仕上げ寸法の金型でもって焼成されたものであり、内周面には溶融成形層3が形成されている。
【0019】
また、半円弧形の焼成体2の外周面の周方向には径方向の外側に向かって突出する山形の滑り止め用突起4が形成されている。
【0020】
滑り軸受1を形成している樹脂組成物は、四フッ化エチレン樹脂を主成分とし、PTFE粉末を成形用の金型内に充填して定法により予備成形と焼成工程により形成されるものであり、主成分(50重量%以上)の四フッ化エチレン樹脂を含むこと以外は特に限定されずにその組成を採用することができる。
【0021】
この発明に用いる四フッ化エチレン樹脂、すなわちポリテトラフルオロエチレン(CAS 9002-84-0)(PTFE)の粉末は、融点(327℃)以上に加熱されても溶融粘度が非常に高く、ゴム状弾性体に止まり、流動性を示さないものであり、整粒により粒径をできるだけそろえた市販のモールディングパウダーまたはファインパウダーを用いることができる。
【0022】
その他の成分としては、PTFE以外のフッ化オレフィンの重合体または共重合体であって溶融成形可能なもの、たとえばテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などが含まれていてもよい。さらに他の耐熱性樹脂が含まれていてもよく、周知例としては、芳香族ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂等が挙げられる。このような材料からなる樹脂組成物に対して、潤滑特性を悪化させない範囲内において各種添加剤を配合することもできる。
【0023】
PTFEは、ガラス繊維および炭素繊維やウイスカなどの補強材や、黒鉛などの固体潤滑材が配合されたPTFE組成物であってもよい。因みに、成形のサイクルは、通常どおり10〜15秒程度であればよく、加圧保持時間を数秒以内とする場合には、予備成形圧力を1000〜2000kgf/cm2と高めにする。また、成形品の肉厚に対応して加圧保持時間を長くし、実際の最適な成形圧力、サイクルは目的の滑り軸受の大きさに合わせて実験的手段により定めることが好ましい。
【0024】
また、この発明に用いる仕上げ寸法の金型は、筒状の滑り軸受の内周面および外周面のうち少なくとも内周面を成形するものであり、この内周面成形用の金型は、予備成形体が焼成時の熱収縮により収縮した際に密接可能な径に設計された円柱(心棒)状の金型または円筒(中空円柱)状の金型である。
【0025】
また、外周面成形用の金型は、特に圧縮成形体を密接させる必要はなく、単に焼成時に外周面に均一な加熱を可能にする熱伝導性の良いハウジングであればよい。すなわち、金型は、熱伝導性が良くて熱膨張率の低い材質のものが好ましく、例えば防錆性も考慮するとステンレス鋼製のものが適当である。
【0026】
このような金型を用いて滑り軸受の軸回り分割品を焼成すると、焼成前に予想した通りの内径寸法と外径寸法が得られ、内・外径を旋削によって修正せずとも仕上げ面として使用できる滑り軸受の分割品を製造できる。
【0027】
滑り軸受の分割品の形状は、最終の組立時の合体形状が筒状であればよく、軸回りに分割されて軸方向の断面形状がC字形、U字形または円弧形のものが挙げられる。
【0028】
その滑り軸受の分割品の外周面に突出する滑り止め用突起は、図1に示した山型のものの他、図2に示す四角柱状の突起5その他の角柱状突起、さらに図示は省略したが、間隔を空けて配列する三角錐などの角錐状突起、鋸歯状突起などが挙げられ、いずれも複数の突起を歯車状に配列して設けられる。
【0029】
このような突起は、滑り軸受の全外周のうち周方向に120°以上の範囲で設ければ、供回りせずに安定性がよいものが得られ、そのベースとなる筒状部分の厚さは0.3mm以上の厚さであることが強度的に好ましい。
【0030】
図1に示すように、このような突起を形成した滑り軸受は、その外形が整合する軸穴を形成した軸受ハウジング6に嵌めて回動しないように保持させ、内周に加熱ローラの回転軸7を回転自在に嵌め入れる。
【実施例】
【0031】
[実施例1、2]
四フッ化エチレン樹脂〔PTFE〕約70重量%およびガラス繊維約25重量%を乾式混合した後、これを半円筒型で外周に三角山型の突起を形成した圧縮成型用金型に入れて2000kg/cm2の圧力で予備成形し、図1[実施例1]および図2[実施例2]に示すように、突起の高さ約2mm、ベース部分の厚さ約2mmの半円弧状の予備成形体を圧縮成形した。次いで、内周面に仕上げ寸法の円柱型でステンレス鋼製の金型を嵌め、圧縮成形体の全体を370℃で焼成し、円筒形圧縮成形体2の内周面の表層部分に金型による溶融成形層を形成し、実施例1、2の滑り軸受を得た。
【0032】
得られた滑り軸受を、図3に示す状態に加熱ローラ8と加圧ローラ9が構成されている定着装置およびハウジング6からなる複写機から取り出した実験装置部分に装着し、加熱ローラ8の駆動ギア10を回転トルク計を介した駆動モータで加熱ローラ8の回転数を100rpm、10秒回転し1秒停止するように間欠回転させた。また、定着装置は、実際の作動状態に合わせて加熱(定着)ローラ8の表面温度を200℃に調整し、加圧ローラ9で負荷した。
【0033】
上記の評価実験の条件で試験開始直後、24時間後、100時間後の回転トルクを測定し、その平均の回転トルクを表1に示した。なお、参考のために表1中には、算出した製造コストの評価(安価:○印、中間:△印、高価:×印)と、総合判定結果(良:○印、普通:△印、不良:×印)を記号で併記した。
【0034】
【表1】

【0035】
[比較例1]
実施例1において、滑り軸受に代えてボールベアリングを採用した。
【0036】
[比較例2]
実施例1において、滑り軸受に代えてフッ素樹脂30重量%含有のポリフェニレンサルファイド樹脂系組成物からなる滑り軸受を採用した。
【0037】
表1の結果からも明らかなように、実施例1、2の滑り軸受は、低コストで製造できるものであると共に、ボールベアリングの比較例1に比べて回転トルクが2.5倍という低回転トルクに抑えられた定着装置の加熱ローラ用滑り軸受であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例1の滑り軸受の使用状態を示し、加熱ローラの回転軸に直交する断面図
【図2】実施例2の滑り軸受を示す断面図
【図3】定着装置における滑り軸受の使用状態の説明図
【符号の説明】
【0039】
1 滑り軸受
2 焼成体
3 溶融成形層
4、5 突起
6 ハウジング
7 回転軸
8 加熱ローラ
9 加圧ローラ
10 駆動ギア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四フッ化エチレン樹脂を主成分とする焼成体からなる筒状の滑り軸受の少なくとも内周面に、仕上げ寸法の金型で形成された溶融成形層を設けてなる定着装置の加熱ローラ用滑り軸受。
【請求項2】
筒状の滑り軸受が、軸回りに分割されて軸方向の断面形状がC字形、U字形または円弧形の複数の焼成体を合体させてなる筒状の滑り軸受である請求項1に記載の定着装置の加熱ローラ用滑り軸受。
【請求項3】
外周面の周方向に径方向の外側に向かって突出する滑り止め用突起を設けた請求項1または2に記載の定着装置の加熱ローラ用滑り軸受。
【請求項4】
滑り止め用突起が、角錐状突起、角柱状突起、山型突起または鋸歯状突起である請求項3に記載の定着装置の加熱ローラ用滑り軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−171387(P2007−171387A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−366665(P2005−366665)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】