説明

定着装置及びこれを搭載した画像形成装置

【課題】性能と配置との双方を満たす定着装置及びこれを搭載した画像形成装置を提供する。
【解決手段】誘導加熱コイル(52)と、加熱部材(46)の外面に対峙する包絡円形の面を有し、コイルを載置するコイル保持部(53)と、コイルの周囲にて磁路を形成するコア(58)と、コアの外面に沿って設けられ、磁気を遮蔽する遮蔽部材(60)と、コアの回転に伴い、遮蔽部材が磁気を遮蔽する遮蔽位置と、磁気の通過を許容する退避位置とに切り替える磁気遮蔽量調整手段(83)とを具備し、コイル保持部の包絡円形の中心位置と加熱部材の回転中心位置とが異なり、コアの位置は維持、或いは加熱部材に近接させる一方、コイル保持部が加熱部材から離れてコアに近接するように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー画像を担持した用紙を加熱したローラ対や加熱ベルトとローラとのニップ間に通しながら、未定着トナーを加熱溶融させて用紙に定着させる定着装置及びこれを搭載した画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の画像形成装置においては近年、定着装置でのウォームアップタイムの短縮や省エネルギー等の要望から、熱容量を少なく設定できるベルト方式が注目されている。また、近年、急速加熱や高効率加熱の可能性をもった電磁誘導加熱方式(IH)が注目されており、カラー画像を定着させる際の省エネルギー化の観点から、電磁誘導加熱をベルト方式と組み合わせたものが多数製品化されている。ベルト方式と電磁誘導加熱とを組み合わせる場合、コイルのレイアウト及び冷却の容易さ、さらにはベルトを直接加熱できるメリット等から、ベルトの外側に電磁誘導器具を配置するケースが多く採用されている(いわゆる外包IH)。
【0003】
上記の電磁誘導加熱方式においては、定着装置に通紙される用紙サイズの幅(通紙幅)に合わせて、非通紙域での過昇温を防止するために各種の技術が開発されており、特に外包IHにおけるサイズ切り替え手段を有した技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。詳しくは、コイルの周囲にて磁路を形成するセンタコアを備えており、このコアが回転すると、コイルで発生させた磁界によりヒートローラを誘導加熱でき、非通紙域及び通紙域におけるヒートローラの発熱量に差を設けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第05/038535号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の技術では、発熱性能や磁気遮蔽性能と、配置スペースの確保との両立を達成できないとの問題がある。
具体的には、前者の発熱性能とは、ウォームアップタイムの長さで評価することができ、コイルとヒートローラとの距離が短い方が望ましい。これに対し、後者の磁気遮蔽性能とは、非通紙域におけるヒートローラの温度で評価可能であり、センタコアとヒートローラとの距離が短い方が望ましい。
【0006】
一方、実際のコイルはコイル保持部(コイルボビン)に載置されており、上記従来の技術で云えば、当該ボビンは、その中心位置がヒートローラの回転中心位置と同心の包絡円形の面を有し、このボビンはコイルとヒートローラとの間に配置されることになる。つまり、コイルの位置をヒートローラに近づけたくても、ボビンとヒートローラとの接触を避けなければならない。なお、ボビンの強度を確保するには、その包絡円形部分を薄肉で形成するのは好ましくない。
【0007】
さらに、センタコアの位置をヒートローラに近づけたくても、依然としてボビンが邪魔になる。この場合に、ボビンのうち、センタコアやヒートローラとの対峙部分を除去することも考えられるが、これでは、ボビンの強度がやはり低下するし、コイルがヒートローラからの輻射熱の影響を受け易くなるとの新たな問題がある。
【0008】
このように、コイルやセンタコアをヒートローラに近づける点と、コイルボビンを設ける点とはトレードオフにも似た関係にあるが、これら双方をできる限り満たす配置が存在するはずである。しかし、上記従来の技術では、この点については格別な配慮がなされていない。
そこで、本発明の目的は、上記課題を解消し、性能と配置との双方を満たす定着装置及びこれを搭載した画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための第1の発明は、画像形成部でトナー画像が転写された用紙を回転する加熱部材と加圧部材との間に挟み込んで搬送し、この搬送過程で、少なくとも加熱部材からの熱によりトナー画像を用紙に定着させる定着装置であって、加熱部材の外面に沿って配置され、加熱部材を誘導加熱するための磁界を発生させるコイルと、加熱部材の外面に対峙する包絡円形の面を有し、コイルを載置するコイル保持部と、コイルを挟んで加熱部材の反対側に配置され、コイルの周囲にて磁路を形成するべく磁性材料で構成された第1のコアと、コイルによる磁界の発生方向でみて第1のコアと加熱部材との間に介挿して設けられ、第1のコアとともに磁路を形成するべく磁性材料で構成された第2のコアと、第2のコアの外面に沿って設けられ、コイルの発生させる磁界内で磁気を遮蔽するべく非磁性金属で構成された遮蔽部材と、第2のコアの回転に伴い、遮蔽部材が磁気を遮蔽する遮蔽位置と、磁気の通過を許容する退避位置とに切り替える磁気遮蔽量調整手段とを具備し、コイル保持部の包絡円形の中心位置と加熱部材の回転中心位置とが異なり、第2のコアの位置は維持、或いは加熱部材に近接させる一方、コイル保持部が加熱部材から離れて第2のコアに近接するように配置されている。
【0010】
第1の発明によれば、コイルで発生させた磁界により回転する加熱部材を誘導加熱してトナー画像の加熱溶融を行う方式(外包IH)を採用し、第1のコアは、コイルの発生させる磁界を導く磁路を形成するためにコイルの周囲に配置されている。また、磁気遮蔽量調整手段が第2のコアを回転させて遮蔽部材を退避位置に移動させると、コイルの発生させる磁界が第1のコア、第2のコアに導かれて加熱部材に渦電流を発生させ、磁気誘導加熱を行う。一方、磁気遮蔽量調整手段が第2のコアを回転させて遮蔽部材を遮蔽位置に移動させると、磁路内の磁気抵抗が増大して磁界強度が低下し、加熱部材の発熱量を低減させる。
【0011】
ここで、従来の如く、コイル保持部の包絡円形の中心位置と加熱部材の回転中心位置とが同心ではなく、これら包絡円形の中心位置と回転中心位置とを異ならせ、コイル保持部が従来に比して加熱部材から離れて第2のコアに近づく方向に移動しており、第2のコアは加熱部材から離さない。これにより、第2のコアと加熱部材との近接状態は確保しつつ、これら第2のコアと加熱部材との間にコイル保持部を配置することができ、発熱性能や磁気遮蔽性能と、配置スペースの確保との両立が可能になる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明の構成において、コイル保持部は、包絡円形の面で構成された曲面部と、平坦に形成され、加熱部材と第2のコアとの双方に対峙する対峙面部とを備えていることを特徴とする。
第2の発明によれば、第1の発明の作用に加えてさらに、コイル保持部は第2のコアに近づけられているが、このコイル保持部のうち平坦な対峙面部が第2のコアに対峙しているため、第2のコアと加熱部材との近接状態を確保しつつ、第2のコアと加熱部材との間をコイル保持部で確実に塞ぐことができる。この結果、対峙面部が無い場合に比してコイル保持部の強度が向上するし、コイルが加熱部材からの輻射熱の影響を受け難くなる。
【0013】
第3の発明は、第1の発明の構成において、コイル保持部は、包絡円形の面で構成された曲面部と、加熱部材と第2のコアとの双方に対峙し、曲面部に比して薄肉の対峙面部とを備えていることを特徴とする。
第3の発明によれば、第1の発明の作用に加えてさらに、コイル保持部は第2のコアに近づけられているが、このコイル保持部のうち薄肉の対峙面部が第2のコアに対峙しているため、第2のコアと加熱部材との近接状態を確保しつつ、第2のコアと加熱部材との間をコイル保持部で確実に塞ぐことができる。よって、対峙面部が無い場合に比してコイル保持部の強度が向上するし、コイルが加熱部材からの輻射熱の影響を受け難くなる。
【0014】
第4の発明は、第1から第3の発明の構成において、加熱部材には加熱ベルトが掛け回されており、コイル保持部に対峙した加熱ベルトの表面からコイル保持部に対峙した第2のコアの表面までの直線距離L(mm)としたとき、3.0≦L≦4.0を満たすことを特徴とする。
第4の発明によれば、第1から第3の発明の作用に加えてさらに、加熱ベルトの表面から第2のコアの表面までの直線距離Lを3.0mm〜4.0mmの範囲で設定すれば、第2のコアと加熱ベルトとを近接でき、磁気遮蔽性能を確保できる。また、これら第2のコアと加熱ベルトとの間にコイル保持部を配置できるし、かつ、コイル保持部上のコイルと加熱ベルトとの距離も良好になって発熱性能を確実に維持できる。
【0015】
第5の発明は、第2や第3の発明の構成において、曲面部のうち加熱部材に対峙する下面で規定された仮想の包絡円から対峙面部に対峙した第2のコアの表面までの直線距離f(mm)としたとき、0≦f≦1.0を満たすことを特徴とする。
第5の発明によれば、第2や第3の発明の作用に加えてさらに、第2のコアの表面が曲面部を延長した仮想の包絡円に接する場合の他、当該包絡円から1.0mmまで離れていた場合にも、第2のコアと加熱部材との近接状態は確保しつつ、これら第2のコアと加熱部材との間にコイル保持部を配置可能になる。
【0016】
第6の発明は、第1から第5の定着装置を搭載し、これを用いて画像形成部で形成されたトナー画像を用紙に定着させる画像形成装置であることを特徴とする。
第6の発明によれば、第1から第5の発明の作用に加えてさらに、発熱性能や磁気遮蔽性能を満たしているので、良好なトナー画像が形成される結果、画像形成装置の信頼性が向上する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、コイル保持部の包絡円形の中心位置と加熱部材の回転中心位置とを異ならせ、コイル保持部は加熱部材から離す一方、第2のコアは加熱部材から離さないため、発熱や磁気遮蔽の性能面と配置スペースの確保とを両立できる定着装置及びこれを搭載した画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】一実施形態の画像形成装置の構成を示した概略図である。
【図2】定着ユニットの構造例を示す縦断面図である。
【図3】センタコアの周辺の平面図である。
【図4】センタコア及び遮蔽部材の説明図である。
【図5】センタコアの回転に伴う動作例を示す図である。
【図6】コイルボビンのみの位置を調整した実験結果である。
【図7】センタコアのみの位置を調整した実験結果である。
【図8】図2の要部拡大図である。
【図9】定着ユニットの他の構造例を示す図である。
【図10】定着ユニットのさらに他の構造例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、一実施形態の画像形成装置1の構成を示した概略図である。画像形成装置1は、例えば外部から入力された画像情報に基づいて印刷用紙等の印刷媒体の表面にトナー画像を転写して印刷を行うプリンタ、複写機、ファクシミリ装置、それらの機能を併せ持つ複合機等としての形態をとることができる。
【0020】
図1に示される画像形成装置1は、例えばタンデム型のカラープリンタである。この画像形成装置1は、内部で用紙にカラー画像を形成(プリント)する四角箱状の装置本体2を備え、この装置本体2の上面部には、カラー画像が印刷された用紙を排出するための排出トレイ3が設けられている。
装置本体2内において、その下部には、用紙を収納する給紙カセット5が配設されている。また、装置本体2内の中央部には、手差しの用紙を供給するスタックトレイ6が配設されている。そして、装置本体2の上部には画像形成部7が設けられており、この画像形成部7は、装置外部から送信される文字や絵柄などの画像データに基づいて用紙に画像を形成する。
【0021】
図1でみて装置本体2の左部には、給紙カセット5から繰り出された用紙を画像形成部7に搬送する第1の搬送路9が配設されており、右部から左部にかけては、スタックトレイ6から繰り出された用紙を画像形成部7に搬送する第2の搬送路10が配設されている。また、装置本体2内の左上部には、画像形成部7で画像が形成された用紙に対して定着処理を行う定着ユニット(定着装置)14と、定着処理の行われた用紙を排出トレイ3に搬送する第3の搬送路11とが配設されている。
【0022】
給紙カセット5は、装置本体2の外部(例えば図1の手前側)に引き出すことにより用紙の補充を可能にする。この給紙カセット5は収納部16を備えており、この収納部16には、給紙方向のサイズが異なる少なくとも2種類の用紙を選択的に収納可能である。なお、収納部16に収納されている用紙は、給紙ローラ17及び捌きローラ18により1枚ずつ第1の搬送路9側に繰り出される。
【0023】
スタックトレイ6は、装置本体2の外面にて開閉可能であり、その手差し部19には手差し用の用紙が1枚ずつ載置されるか、又は複数枚が積載される。なお、手差し部19に載置された用紙はピックアップローラ20及び捌きローラ21により1枚ずつ第2の搬送路10側に繰り出される。
第1の搬送路9と第2の搬送路10とはレジストローラ22の手前で合流しおり、レジストローラ22に供給された用紙はここで一旦待機し、スキュー調整とタイミング調整を行った後、二次転写部23に向けて送出される。送出された用紙には、二次転写部23で中間転写ベルト40上のフルカラーのトナー画像が用紙に二次転写される。この後、定着ユニット14でトナー画像が定着された用紙は、必要に応じて第4の搬送路12で反転され、最初とは反対側の面にも二次転写部23でフルカラーのトナー画像が二次転写される。そして、反対面のトナー画像が定着ユニット14で定着された後、第3の搬送路11を通って排出ローラ24により排出トレイ3に排出される。
【0024】
画像形成部7は、ブラック(B)、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)の各トナー画像を形成する4つの画像形成ユニット26〜29を備える他、これら画像形成ユニット26〜29で形成した各色別のトナー画像を合成して担持する中間転写部30を備えている。
各画像形成ユニット26〜29は、感光体ドラム32と、感光体ドラム32の周面に対向して配設された帯電部33と、帯電部33の下流側であって感光体ドラム32の周面上の特定位置にレーザビームを照射するレーザ走査ユニット34と、レーザ走査ユニット34からのレーザビーム照射位置の下流側であって感光体ドラム32の周面に対向して配設された現像部35と、現像部35の下流側であって感光体ドラム32の周面に対向して配設されたクリーニング部36とを備えている。
【0025】
なお、各画像形成ユニット26〜29の感光体ドラム32は、図示しない駆動モータにより図中の反時計回り方向に回転する。また、各画像形成ユニット26〜29の現像部35には、各トナーボックス51にブラックトナー、イエロートナー、シアントナー及びマゼンタトナーがそれぞれ収納されている。
中間転写部30は、画像形成ユニット26の近傍位置に配設された後ローラ38と、画像形成ユニット29の近傍位置に配設された前ローラ39と、後ローラ38と前ローラ39とに跨って配設された中間転写ベルト40と、各画像形成ユニット26〜29の感光体ドラム32における現像部35の下流側の位置に中間転写ベルト40を介して圧接可能に配設された4つの転写ローラ41とを備えている。
【0026】
この中間転写部30では、各画像形成ユニット26〜29の転写ローラ41の位置で、中間転写ベルト40上に各色別のトナー画像がそれぞれ重ね合わせて転写されて、最後にはフルカラーのトナー画像となる。
第1の搬送路9や第2の搬送路10は、給紙カセット5やスタックトレイ6から繰り出されてきた用紙を中間転写部30側に搬送するものであり、装置本体2内で所定の位置に配設された複数の搬送ローラ43と、中間転写部30の手前に配設され、画像形成部7における画像形成動作と給紙動作とのタイミングを取るためのレジストローラ22とを備えている。
【0027】
定着ユニット14は、画像形成部7でトナー画像が転写された用紙を加熱及び加圧することにより、未定着トナー画像を用紙に定着させる処理を行うものである。定着ユニット14は、例えば加熱式の加圧ローラ(加圧部材)44と定着ローラ45からなるローラ対を備え、このうち加圧ローラ44が例えば金属製であり、定着ローラ45が金属製の芯材と弾性体の表層(例えば、シリコンスポンジ)及び離型層(例えば、PFA)を有するものである。また、定着ローラ45に隣接してヒートローラ(加熱部材)46が設けられており、この円筒形のヒートローラ46と定着ローラ45には加熱ベルト48が掛け回されている。なお、定着ユニット14の詳細な構造についてはさらに後述する。
【0028】
用紙の搬送方向でみて、定着ユニット14の上流側及び下流側にはそれぞれ搬送路47が設けられており、中間転写部30を通って搬送されてきた用紙は上流側の搬送路47を通じて加圧ローラ44と定着ローラ45との間のニップに導入される。そして、加圧ローラ44及び定着ローラ45間を通過した用紙は下流側の搬送路47を通じて第3の搬送路11に案内される。
【0029】
第3の搬送路11は、定着ユニット14で定着処理の行われた用紙を排出トレイ3に搬送する。このため第3の搬送路11には、適宜位置に搬送ローラ49が配設されるとともに、その出口には上記の排出ローラ24が配設されている。
〔定着ユニットの詳細〕
次に、本実施形態の画像形成装置1に適用された定着ユニット14の詳細について説明する。
【0030】
図2は、定着ユニット14の構造例を示す縦断面図である。なお、図2では、画像形成装置1に実装した状態から向きを約90°反時計回りに転回させて示している。したがって、図1中でみて下方から上方への用紙搬送方向は、図2でみると右方から左方となる。なお、装置本体2がより大型(複合機等)である場合、図2に示される向きで実装されることもある。また、この他のレイアウトとして、図2に示される状態から左右いずれかに傾斜した姿勢で定着ユニット14が配置される場合もある。
【0031】
本実施例の定着ユニット14は、上記のように加圧ローラ44、定着ローラ45、ヒートローラ46及び加熱ベルト48を備えている。加圧ローラ44は、例えば直径50mm程度の金属製(例えば、SUS)の芯金上に厚み2〜5mm程度のSiゴム層を形成し、さらにその表層に離型層(例えばFPA)を成形している。定着ローラ45は、例えば直径45mmの金属製(例えば、SUS)の芯金上に厚み5〜10mm程度のシリコンゴムスポンジ層を有している。
【0032】
また、ヒートローラ46は、芯金が例えば直径30mm程度、厚み0.2〜1.0mm程度の磁性金属(例えば、Fe)であり、その表面には離型層(例えば、PFA)が形成され、さらに、加熱ベルト48は、その基材の厚みが例えば35μm(1μm=1×10−6m)の強磁性材料(例えばNi電鋳基材)であり、その表層に厚み200〜500μm程度の薄膜の弾性層(例えば、シリコンゴム)が形成され、その外面には離型層(例えば、PFA)が形成されており、例えば150〜200℃の範囲に調整される。なお、加熱ベルト48に発熱機能を持たせない場合はPI等の樹脂ベルトであってもよい。
【0033】
上記のように定着ローラ45が表層にシリコンスポンジの弾性層を有することから、加熱ベルト48と定着ローラ45との間にはフラットニップが形成される。なお、加圧ローラ44の内側には、ハロゲンヒータ44aが設けられている。
この他に定着ユニット14は、ヒートローラ46及び加熱ベルト48の外側にIHコイルユニット50を備えている(図1には示されていない)。IHコイルユニット50は、誘導加熱コイル52をはじめ一対のアーチコア(第1のコア)54、同じく一対のサイドコア(第1のコア)56及びセンタコア(第2のコア)58から構成されている。
【0034】
〔コイル〕
図2の例では、ヒートローラ46及び加熱ベルト48の円弧状の部分で誘導加熱を行うため、誘導加熱コイル(コイル)52は円弧状の外面に沿う仮想的な円弧面上に配置されている。実際には、ヒートローラ46及び加熱ベルト48の外側に、図8でも後述するコイルボビン(コイル保持部)53が配置されており、このボビン53上に誘導加熱コイル52が巻線状に配置される構成である。コイルボビン53は、ヒートローラ46の外面に沿う半円筒形状に成形されている。なお、ボビン53の材質は、耐熱性樹脂(例えばPPS、PET、LCP)であることが好ましく、また、コイル52の固定は、例えばシリコン系接着剤を用いて行う。
【0035】
〔第1のコア〕
図2でみてセンタコア58は中央に位置し、その両側で対をなすように上記のアーチコア54及びサイドコア56が配置されている。このうち両側のアーチコア54は、互いに対称をなす断面アーチ形に成形されたフェライト製コアであり、それぞれ全長は誘導加熱コイル52の巻線領域よりも長い。また、両側のサイドコア56は、ブロック形状に成形されたフェライト製のコアである。両側のサイドコア56は各アーチコア54の一端(図2では下端)に連結して設けられており、これらサイドコア56は誘導加熱コイル52の巻線領域の外側を覆っている。
【0036】
アーチコア54は、例えばヒートローラ46の長手方向に間隔をおいて複数箇所に配置されている(図3)。本実施形態では、アーチコア54の幅は10mm程度としている。また、アーチコア54の配置密度は、高ければ高いほど磁界の誘導性能がよいが、ある程度密度を減らしても性能の低下は少ないので、充分な性能を発揮できる範囲で高いコストパフォーマンスが得られるように配置密度を設定することが好ましい。また、軸方向の加熱ベルト48の温度分布を調整する場合、アーチコア54の配置密度を調整することで対応することが可能である。本実施形態では、例えばアーチコア54の配置密度を全体で1/2〜1/3程度とし、誘導加熱コイル52の両端部での配置密度を中央付近よりも高めに設定することで、端部領域での温度低下の改善も行っている。
【0037】
また、サイドコア56は、1つが30〜60mm程度の長さであり、複数のサイドコア56がヒートローラ46の長手方向に間隔をあけずに連続して配置されている。サイドコア56を配置する範囲の全長は誘導加熱コイル52の巻線領域の長さに対応している。このようにサイドコア56を連続的に複数配置することで、アーチコア54の配置による温度分布の振れ幅を均す効果がある。なお、各コア54,56の配置は、例えば誘導加熱コイル52の磁束密度(磁界強度)分布に合わせて決定されており、アーチコア54がある程度の間隔をおいて配置されている分、その抜けた箇所でサイドコア56が磁界の集束効果を補い、長手方向での磁束密度分布(温度差)を均している。
【0038】
アーチコア54及びサイドコア56の外側には、例えば図示しない樹脂製のコアホルダが設けられており、このコアホルダによりアーチコア54及びサイドコア56が支持される構造である。コアホルダの材質もまた、耐熱性樹脂(例えばPPS、PET、LCP)であることが好ましい。
なお、図2の例では、ヒートローラ46の内側にサーミスタ及びサーモスタット62が設置されている。サーミスタ等62は、ヒートローラ46の特に誘導加熱による発熱量の大きい箇所の内側に配置することができる。また、より実用的には、加熱ベルト48に非接触タイプのセンサをコイルユニット50の下方に配置して、このベルト48の外面温度を検出する。
【0039】
〔第2のコア〕
図2,3に示されたセンタコア58は、例えば断面円筒形状をなすフェライト製コアである(外径約18mm)。センタコア58は、その中央には軸方向に例えば非磁性金属(SUS等)や耐熱性樹脂(PPS、PET、LCP等)の軸部材59が挿通され、ヒートローラ46と略同様に、用紙の最大通紙幅13インチ(例えば340mm程度)に対応するだけの長さを有している。なお、当該用紙を用いる場合には20kHz以上の交番電流(交番周波数は例えば30kHz)を使用し、可聴領域を避ける。
【0040】
〔遮蔽部材〕
また、センタコア58には、その外面に沿って遮蔽部材60が取り付けられている。遮蔽部材60は薄板状をなし、全体的に円弧状に湾曲して形成されている。なお、遮蔽部材60は例えば図示のようにセンタコア58の肉厚部分に埋め込んだ状態に設置されていてもよいし、センタコア58の外面に貼り付けた状態で設置されていていてもよい。遮蔽部材60の貼り付けは、例えばシリコン系接着剤を用いて行うことができる。
【0041】
なお、遮蔽部材60の構成としては、非磁性かつ良導電部材が好ましく、例えば無酸素銅などが用いられる。遮蔽部材60はその面に垂直な磁界が貫通することによる誘導電流で逆磁界を発生させ、錯交磁束(垂直な貫通磁界)をキャンセルすることで遮蔽する。また、良導電性部材を用いることで誘導電流によるジュール発熱を抑制し、効率よく磁界を遮蔽することができる。導電性を向上するには、例えば(1)なるべく固有抵抗の小さい材料を選定すること、(2)部材の厚みを厚くすること、等の方法が有効である。具体的には、遮蔽部材60の板厚は0.5mm以上が好ましく、本実施形態では例えば1mmのものを用いている。
【0042】
図2に示されるように、遮蔽部材60が加熱ベルト48の表面に近接する位置(遮蔽位置)にあると、誘導加熱コイル52の周囲で磁気抵抗が増大して磁界強度が低下する。一方、図2に示される状態からセンタコア58が180°回転(方向は特に限定しない)し、遮蔽部材60が加熱ベルト48から最も離隔した位置(退避位置)に移動すると、誘導加熱コイル52の周囲で磁気抵抗が低下し、センタコア58を中心として両側のアーチコア54及びサイドコア56を通じて磁路が形成され、加熱ベルト48やヒートローラ46に磁界が作用する。
【0043】
〔センタコアの詳細〕
図3は、センタコア58の周辺の平面図である。センタコア58は、通紙方向(図3中の矢印方向)と直交する用紙の幅方向に延びており、その全長は最大通紙幅(例えばA3縦、A4横)よりも僅かに大きい。
IHコイルユニット50には例えばステッピングモータ66が装備されており、軸部材59はこのモータ66の動力により回転する。このため軸部材59の一端部には従動ギヤ59aが取り付けられており、この従動ギヤ59aにステッピングモータ66の出力ギヤ66aが噛み合わされている。ステッピングモータ66を駆動すると、その動力によって軸部材59が回転し、センタコア58を長手方向の軸線回りに一体に回転させることができる。
【0044】
このとき、センタコア58の回転角度(基準位置からの回転変位量)を検出するため、軸部材59の一端部にインデックス72が設けられており、これにフォトインタラプタ74が組み合わされている。インデックス72の位置はセンタコア58の回転角度に関する基準位置に設定され、基準位置でフォトインタラプタ74にインデックス72が反応(例えば遮光)する。
【0045】
センタコア58の回転角度は、例えばステッピングモータ66に印加する駆動パルス数によって制御することができ、ステッピングモータ66にはそのための制御部(磁気遮蔽量調整手段)83が付属する。制御部83は、例えば制御用ICと入出力ドライバ、半導体メモリ等によって構成することができる。フォトインタラプタ74からの検出信号は入力ドライバを通じて制御用ICに入力され、これに基づいて制御用ICはセンタコア58の基準位置を検出することができる。一方、制御用ICには、図示しない画像形成制御部から現在の用紙サイズに関する情報が通知される。これを受けて制御用ICは、半導体メモリ(ROM)から用紙サイズに適した回転角度(基準位置を0度としたときの角度)の情報を読み出し、その目標とする回転角度に到達する分の駆動パルスを一定周期で出力する。駆動パルスは出力ドライバを通じてステッピングモータ66に印加され、これを受けてステッピングモータ66が作動する。なお、各種の用紙サイズに応じたセンタコア58の回転角度の調整についてはさらに後述する。
【0046】
図3に示される例では、上記の遮蔽部材(図2の参照符号60)として3種類の第1遮蔽部材60a、第2遮蔽部材60b及び第3遮蔽部材60cがセンタコア58の軸方向(長手方向)に分割して配置されている。これら第1〜第3遮蔽部材60a,60b,60cは、それぞれセンタコア58の軸方向でみた配置と長さが異なるとともに、センタコア58の周方向でみた長さ(センタコア58を被覆する幅)も異なっている。以下、この点について説明する。
【0047】
図4は、センタコア58に対する第1〜第3遮蔽部材60a,60b,60cの軸方向の配置とそれぞれの長さ、及び周方向の幅を示す図である。
図4(A)に示されているように、3種類の遮蔽部材60a,60b,60cは、センタコア58の軸方向で対称に設けられており、このうち第1遮蔽部材60aがセンタコア58の両端部に配置され、そこから中央に向かって順に第2遮蔽部材60b、第3遮蔽部材60cが並べて配置されている。このとき、最も内側(中央寄り)に位置する第3遮蔽部材60cは、最小の用紙サイズに対応した通紙域W1の外側に設けられている。また、第2遮蔽部材60bは、中間の用紙サイズに対応した通紙域W2の外側に設けられており、そして、これより1サイズ大きい通紙域W3の外側に第1遮蔽部材60aが設けられている。このような配置であれば、例えば最大の用紙サイズを13インチ(340mm)として、これより小さい用紙サイズをA3(297mm)、A4縦(210mm)、A5縦(149mm)の3種類とし、合計4種類の用紙サイズに対応することができる。各遮蔽部材60a,60b,60cの軸方向の長さWP1,WP2,WP3は、それぞれ対応する用紙サイズに合わせて設定されている。
【0048】
なお、本実施形態では、各遮蔽部材60a,60b,60cの境界位置は、実際には各通紙域W1,W2,W3に対して、10±5mm程度まで内側に食い込む(進入する)ように設定している。このように、各遮蔽部材60a,60b,60cを各通紙域W1,W2,W3に対して食い込み気味に設定するのは、通常、非通紙域の温度が通紙域内の温度よりは高めになるため、非通紙域からの伝熱も考慮すると、上記程度まで各遮蔽部材60a,60b,60cを食い込ませておくことにより、境界付近での温度分布のバランスをとりやすくすることができる。
【0049】
〔遮蔽部材の周方向の幅〕
図4(B),(G):上記のように4種類の用紙サイズに対応する場合、第1遮蔽部材60aの周方向でみた幅は、センタコア58の中心角A1で240度に設定されている。
図4(C),(F):また第2遮蔽部材60bの周方向でみた幅は、に示されているように中心角A2で160度に設定されている。
図4(D),(E):そして第3遮蔽部材60cの周方向でみた幅は、中心角A3で80度に設定されている。
【0050】
図5は、センタコア58の回転に伴う動作例を示す図である。なお、図5では説明の都合上、ボビン53の図示を省略する。また、第1遮蔽部材60aを例に挙げているが、その他の第2及び第3遮蔽部材60b,60cについても同様である。
図5(A):センタコア58の回転に伴い、両端部の第1遮蔽部材60aを退避位置に切り替えた場合の動作例を示す。この場合、誘導加熱コイル52の発生させる磁界がサイドコア56、アーチコア54及びセンタコア58を通じて加熱ベルト48及びヒートローラ46を通過する。このとき強磁性体である加熱ベルト48及びヒートローラ46に渦電流が発生し、それぞれの材料の持つ固有抵抗によりジュール熱が発生して加熱が行われる。
【0051】
図5(B):第1遮蔽部材60aを遮蔽位置に切り替えた場合、センタコア58の両端部の位置(通紙域の外側)では磁気経路上に第1遮蔽部材60aが位置するため、そこで磁界の発生が部分的に抑制される。これにより、非通紙域では発熱量が抑えられ、加熱ベルト48やヒートローラ46の過昇温を防止することができる。
【0052】
ところで、図2に示されたコイルボビン53は、誘導加熱コイル52を載置している上面側やヒートローラ46(上記例で云えば加熱ベルト48が該当)に対峙している下面側は包絡円形に形成されており、この包絡円形を描くための中心位置とヒートローラ46の回転中心位置とは、上記従来の技術でも述べたように、一般には同心で構成されている。
【0053】
そして、ボビン53の厚みを例えば2mmに設定すると、ボビン53の強度が高く、その成型も容易になり、また、このボビン53の下面側からヒートローラ46(上記例で云えば加熱ベルト48が該当)の外面までのギャップを例えば2mmに設定すると、加熱ベルト48がボビン53の下面側に接触せず、これらボビン53の下面側とヒートローラ46の外面とのクリアランスを確保できる。
【0054】
さらに、本発明者によるシミュレーション結果などによれば、コイル52をヒートローラ46に近接できれば発熱性能が向上し、定着ユニット14のウォームアップタイムが短くなり、また、センタコア58をヒートローラ46に近接できれば磁気遮蔽性能が向上し、非通紙域におけるヒートローラ46の温度が抑えられることが分かっている。
【0055】
しかしながら、上述したボビン53の強度・成型性や、ボビン53とヒートローラ46とのクリアランスの双方を満たすためには、センタコア58とヒートローラ46(上記例で云えば加熱ベルト48が該当)とのクリアランスは4mm程度必要になってしまうため、センタコア58をヒートローラ46に近接できないとの懸念がある。
【0056】
この懸念を払拭する1つの方法としては、センタコア58に対峙するボビン53の頂上部分にボビン53を貫通する孔をその長手方向に沿って穿設することが考えられる。
そこで、まずは、当該孔を有したコイルボビン(厚みは2mmに設定、図2のコイルボビン53とは異なるため、符号を付さない)を用い、このボビンの位置やセンタコア58の位置を種々変更することにより、IHコイルユニット50の最適な構造を導き出している。
【0057】
この最適構造を導き出すための評価は、(1)ヒートローラ46の温度分布、(2)発熱性能、(3)磁気遮蔽性能の3項目について実施している。以下、詳細に説明する。
図6は、センタコア58の位置を変更せず、上記孔を有したコイルボビンのみの位置を変更した実験結果である。
【0058】
図6(A):ヒートローラ46(上記例で云えば加熱ベルト48が該当)の長手方向の温度分布であり、定着ユニット14のウォームアップが完了した直後のベルト48の表面温度を測定したものである。当該ボビンの下面側とベルト48とのギャップが2mmの場合(図中に実線で示す)には、特にベルト48の両端部分において、温度の勾配が急になっているのに対し、当該ギャップが5.5mmの場合(図中に一点鎖線で示す)には温度の勾配が緩やかになり、端部温度ダレが悪化している。つまり、端部温度ダレの傾向を鑑みれば、当該ボビンはベルト48から離さない方が好ましいことが分かる。
【0059】
図6(B):定着ユニット14のウォームアップに要する時間を測定したものである。当該ボビンとベルト48とのギャップを2〜5.5mmの範囲で変化させると、このギャップが3〜4mmの付近でピークになり、特にギャップが2mmの場合にはウォームアップに要する時間が長くなっている。つまり、このピーク特性を鑑みれば、当該ボビンの下面側とベルト48とのギャップを3〜4mmに設定すると、磁束の流れ方に対して最適な位置になることが分かる。
【0060】
なお、図示していないが、当該ボビンとベルト48とのギャップを2〜4.5mmの範囲で変化させ、非通紙域における加熱ベルト48の温度を測定すると、このギャップが大きくなるに連れて、温度が低下していた。しかし、これは、上記端部温度ダレの影響を受けたものとも推測できるため、当該ギャップの変化による磁気遮蔽性能については同等であると考えられる。
【0061】
次に、図7は、上記孔を有したコイルボビンの位置を変更せず、センタコア58のみの位置を変更した実験結果である。
図7(A):ベルト48の長手方向の温度分布であり、図6(A)と同様に、センタコア58の表面とベルト48との距離が2mmの場合(図中に実線で示す)には温度の勾配が急になり、当該距離が5.5mmの場合(図中に一点鎖線で示す)には端部温度ダレが悪化している。つまり、この場合にも、センタコア58はベルト48から離さない方が好ましいことが分かる。
【0062】
図7(B):非通紙域における加熱ベルト48の温度を測定したものである。センタコア58とベルト48との距離を2〜4.5mmの範囲で変化させると、まず、通紙域の温度(図中に○印で示す)は温調器で一定に制御されているのに対し、非通紙域の温度(図中に□印や△印で示す)は次第に上昇傾向にある。これは、当該距離が大きくなると、センタコア58を通過しないでベルト48に直接に到達する磁束の比率が増大するものと推測でき、磁気遮蔽性能は、上述した当該ボビンとベルト48とのギャップではなく、センタコア58とベルト48との距離に大きく依存し、やはりセンタコア58はベルト48から離さない方が好ましいことが分かる。
【0063】
なお、図示していないが、定着ユニット14のウォームアップに要する時間を測定したが、明確な傾向は現れなかった。つまり、発熱性能は、センタコア58とベルト48との距離ではなく、上述した当該ボビンとベルト48とのギャップの影響に依存することが分かる。
〔まとめ〕
以上の結果から、発熱性能はコイルボビンの位置に、磁気遮蔽性能はセンタコアの位置にそれぞれ依存しており、当該ボビンの下面側とベルト48の表面とのギャップは3〜4mmが適切である。よって、当該ボビンの下面側の包絡円形の中心位置はヒートローラ46の回転中心位置と同心に構成せず、当該ボビンはヒートローラ46から離れて上方に向けてシフトさせた方がよい。
【0064】
これに対し、センタコア58とベルト48との距離は1mmでも離さず、センタコア58の位置は維持、或いは、ヒートローラ46に向けて下方にシフトさせ、例えばボビンの下面側の包絡円に接するように構成させた方がよい。
ところで、本実験で用いたボビンは、センタコア58の対峙部分に孔を有しており、この孔はボビンの強度を低下させる原因になる。また、ヒートローラ46側からの輻射熱が当該孔を介してコイル52に伝達するため、コイル52に悪影響を及ぼす一方、このコイル52を冷却するファンからの冷却風が当該孔を介してヒートローラ46側に到達して、このローラ46側に悪影響を及ぼし得る。
【0065】
そこで、本実施例のコイルボビン53は、センタコア58及びベルト48の双方に対峙する箇所を塞いでいる。
より詳しくは、上記図2を拡大した図8に示される如く、コイルボビン53は、包絡円形の面で構成され、コイル52を載置する曲面部53bを有し、この厚みは2mmで構成されている。そして、その包絡円形の中心位置は、ヒートローラ46の回転中心位置から約0.8mm(図中にaで示す)上方へシフトしている。
【0066】
この結果、当該ボビン53の下面とベルト48の表面とのギャップは、サイドコア56近傍では殆ど変化せず、センタコア58近傍では約3.3mmを確保でき、上述した発熱性能も満たす。
さらに、センタコア58は、その表面がボビン53の下面側の包絡円に接する位置とし、少なくとも上方へシフトさせなくて済むので、上述した磁気遮蔽性能も満たすことが可能になる。
【0067】
そして、ボビン53を上方に移動でき、当該ボビン53の下面とベルト48の表面とのギャップが、センタコア58近傍においては約3.3mmを確保できたことから、同図でみて曲面部53b,53bの間には、センタコア58及びベルト48の双方に対峙する対峙プレート(対峙面部)53aが形成されている。この対峙プレート53aは、曲面部53bに比して薄肉(厚さbが1mm)の平坦に構成され、曲面部53bと同じ材質で一体形成される。
【0068】
また、このボビン53の下面とベルト48の表面とのギャップを約3.3mmにできた結果、センタコア58の表面から対峙プレート53aの上面までの距離cについては、ボビン53の形状精度や変形等やセンタコア58の振れにも対応可能な0.8mmとし、このプレート53aの下面から加熱ベルト48の表面までの距離dについては、ベルト48の振れにも対応可能な1.5mmとなり、さらに、対峙プレート53aの厚みbについては、その成型性を確保可能な1mmとなり、対峙プレート53aを挟んで対峙した加熱ベルト48の表面からセンタコア58の表面までの直線距離Lがb+c+d=3.3mmになる。
【0069】
ところで、上記実施例のボビン53のシフト量aは約0.8mmであるが、これは、上記包絡円形の中心位置とヒートローラの回転中心とを同心でみた場合に、約2.5mmのギャップを設けていたからである。すなわち、この同心でみたギャップが約2.0mmに設定した場合には、上記シフト量aは約1.3mmにすることができる。
【0070】
一方、上述のセンタコア58は、その表面がボビン53の下面側の包絡円に接して構成されているが、必ずしもこの形態に限定されない。
具体的には、図9に示されるように、センタコア58の表面と、図中に二点鎖線で示された下面53cの包絡円との直線距離fが1mm以下であれば、上記各条件を依然として満たすことができる。
【0071】
〔定着ユニットの他の構造例〕
次に、図10は、定着ユニット14のさらに他の構造例を示す図である。この構造例では、断熱性のある弾性層を有した定着ローラ(加熱部材)45の外周には、加熱ベルト(加熱部材)48が巻かれており、ベルト48の熱容量を小さくでき、ウォームアップタイムがより短縮可能になる。そして、アーチコア54とコイル52との間には、コイル52の巻線に沿って配置した図示しないリング状の回路ユニットを配置する。なお、当該ユニットには、櫛歯状のオープンな固定リング回路や、この回路に接触する可動リング回路を設けることで閉回路を形成し、磁界の相殺によって用紙サイズの変更に対応させる。これらの構成を除き、この図10の構成は上記図2と同じである。
【0072】
つまり、この図10の場合にも、コイルボビン53を上方へシフトし、コア58とベルト48との間に対峙プレート53aを形成することができる。なお、これら各構造例の他、外包IH方式の種々の定着ユニットにも適用可能である。
以上のように、本発明は、センタコア58とヒートローラ46(図2では加熱ベルト48も含み、また、図10では定着ローラ45や加熱ベルト48が該当)とを近接させたいが、これらセンタコア58とヒートローラ46との間はコイルボビン53で塞ぎたい点を主眼としたものである。
【0073】
そして、本実施例によれば、コイル52で発生させた磁界により円筒形のヒートローラ46を誘導加熱してトナー画像の加熱溶融を行う方式(外包IH)を採用し、アーチコア54、サイドコア56は、コイル52の発生させる磁界を導く磁路を形成するためにコイル52の周囲に配置されている。また、図2のように、制御部83がセンタコア53を回転させて遮蔽部材60を退避位置に移動させると、コイル52の発生させる磁界がコア54,56,58に導かれてヒートローラ46に渦電流を発生させ、磁気誘導加熱を行う。一方、制御部83がセンタコア58を回転させて遮蔽部材60を遮蔽位置に移動させると、磁路内の磁気抵抗が増大して磁界強度が低下し、ヒートローラ46の発熱量を低減させる。
【0074】
ここで、従来の如く、コイルボビン53の包絡円形の中心位置とヒートローラ46の回転中心位置とが同心ではなく、これら包絡円形の中心位置と回転中心位置とを異ならせ(図8)、コイルボビン53が従来に比してヒートローラ46から離れてセンタコア58に近づく方向に移動しており、センタコア58はヒートローラ46から離さない。これにより、センタコア58とヒートローラ46との近接状態は確保しつつ、これらセンタコア58とヒートローラ46との間にコイルボビン53を配置することができ、発熱性能や磁気遮蔽性能と、配置スペースの確保との両立が可能になる。
【0075】
さらに、コイルボビン53はセンタコア58に近づけられているが、このボビン53のうち平坦であって、薄肉の対峙プレート53aがセンタコア58に対峙しているため、センタコア58とヒートローラ46との近接状態を確保しつつ、センタコア58とヒートローラ46との間をボビン53、つまり、対峙プレート53aで確実に塞ぐことができる。この結果、対峙プレート53aが無い場合に比してボビン53の強度が向上するし、コイル52がヒートローラ46や加熱ベルト48からの輻射熱の影響を受け難くなり、さらに、加熱ベルト48がコイル52の冷却風の影響も受け難くなる。
【0076】
さらにまた、加熱ベルト48の表面からセンタコア58の表面までの直線距離Lを3.0mm〜4.0mmの範囲で設定すれば、センタコア58と加熱ベルト48とを近接でき、磁気遮蔽性能を確保できる。また、これらセンタコア58と加熱ベルト48との間に対峙プレート53aを配置できるし、かつ、曲面部53b上のコイル52と加熱ベルト48との距離も良好になって発熱性能を確実に維持できる。
【0077】
また、センタコア58の表面が曲面部53bを延長した仮想の包絡円に接する場合の他、図9に示される如く、当該包絡円から1.0mmまで離れていた場合にも、センタコア58と加熱ベルト48との近接状態は確保しつつ、これらセンタコア58と加熱ベルト48との間に対峙プレート53aを配置可能になる。
【0078】
さらに、発熱性能や磁気遮蔽性能を満たしているので、良好なトナー画像が形成される結果、画像形成装置1の信頼性が向上する。
本発明は上述した実施形態に制約されることなく、種々に変形して実施可能である。例えば、アーチコア54やサイドコア56を含めた各部の具体的な形態は図示のものに限らず、適宜に変形可能である。
【0079】
そして、これらいずれの場合にも上記と同様に、性能と配置との双方を満たすことができるとの効果を奏する。
【符号の説明】
【0080】
1 プリンタ(画像形成装置)
7 画像形成部
14 定着ユニット(定着装置)
44 加圧ローラ(加圧部材)
45 定着ローラ(加熱部材)
46 ヒートローラ(加熱部材)
48 加熱ベルト(加熱部材)
50 IHコイルユニット
52 誘導加熱コイル(コイル)
53 コイルボビン(コイル保持部)
53a 対峙プレート(対峙面部)
53b 曲面部
53c 下面
54 アーチコア(第1のコア)
56 サイドコア(第1のコア)
58 センタコア(第2のコア)
60 遮蔽部材
83 制御部(磁気遮蔽量調整手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像形成部でトナー画像が転写された用紙を回転する加熱部材と加圧部材との間に挟み込んで搬送し、この搬送過程で、少なくとも前記加熱部材からの熱によりトナー画像を用紙に定着させる定着装置であって、
前記加熱部材の外面に沿って配置され、前記加熱部材を誘導加熱するための磁界を発生させるコイルと、
前記加熱部材の外面に対峙する包絡円形の面を有し、前記コイルを載置するコイル保持部と、
前記コイルを挟んで前記加熱部材の反対側に配置され、前記コイルの周囲にて磁路を形成するべく磁性材料で構成された第1のコアと、
前記コイルによる磁界の発生方向でみて前記第1のコアと前記加熱部材との間に介挿して設けられ、前記第1のコアとともに磁路を形成するべく磁性材料で構成された第2のコアと、
前記第2のコアの外面に沿って設けられ、前記コイルの発生させる磁界内で磁気を遮蔽するべく非磁性金属で構成された遮蔽部材と、
前記第2のコアの回転に伴い、前記遮蔽部材が磁気を遮蔽する遮蔽位置と、磁気の通過を許容する退避位置とに切り替える磁気遮蔽量調整手段とを具備し、
前記コイル保持部の包絡円形の中心位置と前記加熱部材の回転中心位置とが異なり、前記第2のコアの位置は維持、或いは前記加熱部材に近接させる一方、前記コイル保持部が前記加熱部材から離れて前記第2のコアに近接するように配置されていることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
請求項1に記載の定着装置であって、
前記コイル保持部は、包絡円形の面で構成された曲面部と、平坦に形成され、前記加熱部材と前記第2のコアとの双方に対峙する対峙面部とを備えていることを特徴とする定着装置。
【請求項3】
請求項1に記載の定着装置であって、
前記コイル保持部は、包絡円形の面で構成された曲面部と、前記加熱部材と前記第2のコアとの双方に対峙し、前記曲面部に比して薄肉の対峙面部とを備えていることを特徴とする定着装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の定着装置であって、
前記加熱部材には加熱ベルトが掛け回されており、前記コイル保持部に対峙した前記加熱ベルトの表面から前記コイル保持部に対峙した前記第2のコアの表面までの直線距離L(mm)としたとき、
3.0≦L≦4.0
を満たすことを特徴とする定着装置。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の定着装置であって、
前記曲面部のうち前記加熱部材に対峙する下面で規定された仮想の包絡円から前記対峙面部に対峙した前記第2のコアの表面までの直線距離f(mm)としたとき、
0≦f≦1.0
を満たすことを特徴とする定着装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の定着装置を画像形成装置に搭載し、これを用いて画像形成部で形成されたトナー画像を用紙に定着させることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−256645(P2010−256645A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107276(P2009−107276)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】