説明

定着装置及びそれを備えた画像形成装置

【課題】画像形成処理速度を低下させることなく、用紙のいずれの方向のカールに対しても矯正し得る定着装置を提供する。
【解決手段】定着ローラ11に貼り付いた用紙Pを定着ローラ11から分離する分離爪7と、湿度を検知する湿度センサ78とを設ける。そして、分離爪7の分離角度を、湿度センサ78によって検知した湿度によって変化させる。ここで、用紙Pのカールをより確実に矯正する観点からは、湿度センサ78によって検知した湿度によって、分離角度と共に分離爪7の先端位置も変化させるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着回転体と加圧回転体とのニップ部に、トナー画像が載った被転写部材を通過させて、トナー画像を被転写部材に溶融定着させる定着装置及びそれを備えた画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置では、感光体表面に形成された静電潜像にトナーを付着させて現像し、現像されたトナー画像を用紙などの被転写部材に転写させた後、定着装置によってトナー画像を被転写部材に定着させる。
【0003】
ここで、一般的に使用される定着装置は、圧接した一対のローラのニップ部に被転写部材を通過させて加熱・加圧を行い、トナー画像を被転写部材に溶融定着するものである。そして、多くの定着装置では、被転写部材の画像形成面と接触するローラのみを加熱する構成が用いられている。
【0004】
このような構成の場合、加熱ローラと非加熱ローラとの間で温度差が生じ、ニップ部を通過する被転写部材の画像形成面側と非画像形成面側とで水分の蒸発状態に差が生じる。通常、水分蒸発量が多くなるほど被転写部材における収縮率は高くなるので、定着装置のニップ部を通過した被転写部材に反り(以下、「カール」と記すことがある)が生じる。
【0005】
定着装置のニップ部を通過した被転写部材は、一般に、高湿度環境下では画像形成面側に凸にカールし、低湿度環境下では非画像形成面側に凸にカールする。カールした被転写部材が排紙トレイ等に排出されると積載不良が生じ、排紙トレイ等から被転写部材が落下することもある。さらには、排出された被転写部材によって、後続の被転写部材の排出が妨げられて被転写部材の詰まりが発生することもある。
【0006】
そこで、このような被転写部材のカールを矯正するため、被転写部材の搬送間隔を広げて加熱ローラと加圧ローラとの接触時間を長くして、加熱ローラと加圧ローラとの温度差を小さくしたり、被転写部材の搬送を一時休止し、その間、加熱ローラと加圧ローラとを回転させて加熱ローラと加圧ローラとの温度差を小さくすることも行われている。
【0007】
また、例えば、特許文献1では、定着部の下流側に第1搬送ローラが配置すると共に、その下流側に第2搬送ローラを配置し、第1搬送ローラから第2搬送ローラまでの搬送経路に、用紙のカールの向きとは反対の向きに湾曲するガイド部材を設けている。そして、第2搬送ローラによる用紙の搬送速度を、第1搬送ローラによる用紙の搬送速度よりも大きくし、用紙のカールの向きとは逆向きに湾曲したガイド部材に押しつけた状態で用紙を搬送して用紙のカールを矯正する技術も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001-48399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、加熱ローラと加圧ローラとを直接接触させて両ローラの温度差を小さくする対応策では、定着処理できない期間が発生し画像形成処理速度が低下する。また、被転写部材のカールを矯正する前記提案技術では、被転写部材のカールの向きは湿度等によって変わるところ、一方側のカールにしか対応できない。
【0010】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、画像形成処理速度を低下させることなく、被転写部材のいずれの方向のカールに対しても矯正し得る定着装置及び画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、定着回転体と、この定着回転体に圧接してニップ部を形成する加圧回転体と、前記定着回転体を加熱する熱源とを備え、前記定着回転体と前記加圧回転体とのニップ部に、トナー画像が載った被転写部材を通過させて、トナー画像を被転写部材に溶融定着させる定着装置であって、前記ニップ部を通過し前記定着回転体に貼り付いた被転写部材を前記定着回転体から分離する分離爪と、湿度を検知する湿度検知手段とをさらに備え、前記定着回転体の中心と前記加圧回転体の中心とを結んだ直線に対して垂直な基準線と、前記分離爪の、前記定着回転体の回転方向上流側の面(以下、「分離面」と記すことがある)とのなす角度(以下、「分離角度」と記すことがある)を、前記湿度検知手段によって検知した湿度によって変化させることを特徴とする定着装置が提供される。
【0012】
ここで、被転写部材のカールをより確実に矯正する観点からは、前記湿度検知手段によって検知した湿度によって、前記角度と共に分離爪の先端位置も変化させるのが好ましい。
【0013】
この場合、前記分離爪の先端が前記定着回転体の表面に当接するように、前記分離爪を、前記定着回転体の上方に移動自在に設けられた軸部に揺動自在に支持させ、前記軸部が移動すると、前記分離爪の先端の前記定着回転体の表面との当接位置が、前記分離爪の自重によって移動すると同時に前記角度が変化するようにしてもよい。
【0014】
また、被転写部材のカールを効果的に矯正する観点からは、前記湿度検知手段によって検知した湿度が高くなるにしたがって、前記角度を前記定着回転体の回転方向に大きくするのが好ましい。
【0015】
本発明によれば、回転自在の静電潜像担持体と、この静電潜像担持体の表面を一様に帯電させる帯電装置と、一様に帯電した静電潜像担持体の表面を露光し静電潜像担持体に潜像を形成する露光装置と、静電潜像担持体上に形成された潜像をトナーで可視像化する現像装置と、形成されたトナー画像を被転写部材に転写する転写装置と、転写されたトナー画像を加熱し被転写部材に溶融定着させる定着装置と、トナー画像を転写させる被転写部材を積載収納した収納部とを備えた画像形成装置であって、前記定着装置として前記のいずれかに記載の定着装置を用いることを特徴とする画像形成装置が提供される。
【0016】
ここで、前記定着装置の分離爪の位置を調整するための湿度検知手段は前記収納部に設けるのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の定着装置及び画像形成装置では、定着回転体から被転写部材を分離するための分離爪の分離角度を、湿度によって変化させて被転写部材のカールを矯正するので、装置の大型化や重量化を招くことがなく、また、被転写部材のいずれの方向のカールも矯正することができる。
【0018】
本発明の画像形成装置では、被転写部材のカールが矯正されるので、排出トレイ等における積載不良を招くことがない。また、画像形成処理速度の低下を招くこともない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る画像形成装置の一例を示す概要構成図。
【図2】本発明に係る定着装置の一例を示す概要構成図。
【図3】用紙がカールする説明図。
【図4】用紙がカールする説明図。
【図5】分離爪の移動機構を説明する図。
【図6】分離爪を移動させた図。
【図7】分離爪の分離角度と用紙のカール量との関係を示す図。
【図8】高湿環境下における本発明の定着装置の動作図。
【図9】低湿環境下における本発明の定着装置の動作図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る定着装置及び画像形成装置について図に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではない。
【0021】
図1は、本発明に係る画像形成装置の一実施形態を示す概略構成図である。図1に示す画像形成装置8は、トナー像を担持し、反時計回りに回転駆動する円筒状の感光体(静電潜像担持体)Dの周囲に、感光体Dの表面を一様に帯電させる帯電装置2と、感光体D表面に光を照射して静電潜像を形成する露光装置3と、感光体Dにトナーを供給し感光体D上の静電潜像を現像してトナー像を形成する現像装置4と、現像装置4によって形成された感光体D上のトナー像を用紙(被転写部材)Pに転写する転写ローラ(転写装置)5と、用紙Pに転写されずに感光体D上に残留したトナーを除去するクリーニング装置6とを備えている。
【0022】
帯電装置2は、スコロトロン方式の帯電装置であって、感光体Dに対向する面側が開口した箱状のシールド電極22と、シールド電極22内に張架された放電電極21と、シールド電極22の開口に取り付けられたグリッド電極23とを有する。放電電極21に数kVの電圧が印加されるとコロナ放電が発生し、これに感光体Dの表面が一様に帯電される。なお、帯電装置2の種類は特に限定されるものでなく、ローラ方式の帯電部材、ブレード状の帯電部材、ブラシ状の帯電部材等を用いてももちろん構わない。
【0023】
露光装置3は、帯電装置2によって一様に帯電された感光体Dの表面に、例えばパソコンなどの外部装置から入力される画像データに基づいて、選択的に光を照射して露光を行い、感光体Dの表面に所定の静電潜像を形成する。
【0024】
現像装置4は、ハウジング41と、感光体Dに対向し回転可能に設けられた現像ローラ42と、現像ローラ42に向かって現像剤を搬送する3つの搬送ローラ43とを備える。ハウジング41内にはトナーとキャリア(いずれも不図示)とからなる現像剤が収容されている。現像ローラ42に現像バイアス電圧を印加すると、現像ローラ42に印加される電圧と感光体Dの静電潜像との電位差に基づいて、トナーが感光体Dに移動し、感光体D上の静電潜像がトナーによって可視像化(トナー画像)される。
【0025】
転写ローラ5は、転写ローラ5に連結された駆動モータ(不図示)によって回転可能に設けられるとともに付勢部材(不図示)によって感光体Dに圧接している。また転写ローラ5には、不図示の電圧印加手段によって、トナーの帯電極性と逆極性の電圧が印加される。感光体Dと転写ローラ5との間を用紙が通過する際に、転写ローラ5に前記電圧が印加され、感光体Dに形成されたトナー画像が用紙Pに転写する。
【0026】
クリーニング装置6は、感光体Dに圧接するクリーニングブレード61を備え、感光体D表面に残留する未転写トナーを感光体Dから除去する。
【0027】
現像装置4の下部には、用紙Pを収納した給紙カセット51を着脱自在に収納した収納部52が配置されている。給紙カセット51内に収納された用紙Pは、収納部52の上方側部に配置された給紙ローラ53の回転によって最上紙から順に1枚ずつ搬送路に送り出される。給紙カセット51から送り出された用紙Pは、感光体Dの回転とタイミングを合わせて転写ローラ5と感光体Dの間へ送り出され、前述の通りトナー画像が用紙Pに転写される。また、収納部52の内上面には、後述する湿度センサ(湿度検知手段)78が設けられている。
【0028】
画像形成装置8は、感光体Dから用紙Pに転写されたトナー画像を定着させる定着装置1を備えている。定着装置1は、熱源としてのハロゲンヒータHを内蔵した定着ローラ(定着回転体)11と、定着ローラ11に圧接する加圧ローラ(加圧回転体)12とを有する。定着ローラ11と加圧ローラ12とのニップ部Nを用紙Pが通過する際に、トナー画像が加熱及び加圧されて用紙Pに溶融定着する。その後、用紙Pは、排紙トレイ82へ排出される。
【0029】
画像形成装置8には、画像形成装置8に関係する構成要素を総合的に制御する制御装置81を備えており、この制御装置81は、感光体D、現像ローラ42、転写ローラ5、給紙ローラ53及び定着ローラ11などの回転駆動、帯電装置2、露光装置3、現像装置4、ハロゲンヒータHなどの作動を制御する。
【0030】
図2に、定着装置1の基本構造を示す概説図を示す。定着装置1は、定着ローラ11と加圧ローラ12とを備える。加圧ローラ12は、バネなどの不図示の付勢手段によって定着ローラ11に圧接し、定着ローラ11と加圧ローラ12との間にニップ部Nが形成される。定着ローラ11は、不図示の回転駆動手段によって図中反時計回りに回転し、これによって加圧ローラ12は時計回りに従動回転する。
【0031】
そして、定着ローラ11の、ニップ部Nよりも回転方向下流側に、定着ローラ11の表面と接触するように分離爪7が設けられている。この分離爪7は、軸部72に揺動自在に支持され自重によって定着ローラ11の表面に接触している。分離爪7は、軸部72の長手方向に所定間隔で複数個設けられる。分離爪7は、定着ローラ11の貼り付いた用紙Pを定着ローラ11から分離する作用を果たす他、本発明では用紙Pのカールを矯正する作用も果たす。詳細は後述する。また、軸部72には中間ローラ95が回転自在に支持されており、中間ローラ95と搬送ガイド96との間を用紙Pが搬送される。
【0032】
定着ローラ11のハロゲンヒータHへの通電は、不図示の温度センサの検出温度に基づいて入り切り制御され、定着ローラ11の表面温度は所定温度に保持される。
【0033】
定着ローラ11は、円筒状に成形されてなる芯金111を備える。そして、芯金111の中心部の軸方向には、熱源としてハロゲンヒータHが設けられている。芯金111の材質は、アルミニウムや鉄などの金属材料が好ましい。また、その厚さは、0.1〜5mmの範囲が好ましく、軽量化及びウォームアップ時間の短縮化等を考慮すると0.2〜1.5mmの範囲がより好ましい。また、表面の離型性を向上させるために、芯金111の表面に、PFAやPTFE、ETFE等のフッ素系材料からなるチューブを被着する、あるいは前記フッ素系材料でコーティング層を形成して表層としてもよい。表層の厚さは5〜100μmの範囲が好ましい。また、水との接触角は90度以上が好ましく、より好ましくは110度である。さらに、表面粗さRaは0.01〜50μmの範囲が好ましい。フッ素系チューブとしては、市販品の「PFA350-J」、「451HP-J」、「951HP Plus」(いずれも三井・デュポンケミカル社製)が好適に使用できる。また、ニップ部Nの幅を大きくするために、芯金111と表層との間に、弾性層をさらに設けてもよい。弾性層の材質としては、弾性と耐熱性を有するものが望ましく、例えば、シリコーンゴムやフッ素ゴムなどが挙げられる。弾性層の厚さに特に限定はないが、通常は、0.05〜2mmの範囲が好ましい。
【0034】
加圧ローラ12は、円筒状の芯金121の表面に、シリコーンゴムからなる弾性層122が形成され、その表面に表層としてのPFAチューブ123が被着されてなる。弾性層122の材質としては、弾性と耐熱性を有するものが望ましく、例えば、シリコーンゴムやフッ素ゴム、シリコーンスポンジなどが挙げられる。弾性層の厚さに特に限定はないが、通常は、1〜20mmの範囲が好ましい。なお、芯金121及び表層123の好適態様は定着ローラ11の場合と同様である。
【0035】
分離爪7の材料は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)等の耐熱性樹脂から形成され、離型性を向上させるため、分離爪7の表面にはPFA、PTFE等のフッ素樹脂がコーティング層により被覆されている。
【0036】
次に、発明者が考えている、定着装置1を通過した用紙Pにカールが生じる機構について説明する。例えば高湿度環境下では、用紙Pは多くの水分を含んでいるので、定着装置1のニップ部Nを用紙Pが通過するとき、図3に示すように、用紙Pの、温度が高い定着ローラ11側の表面から水分が多く蒸発し、温度が低い加圧ローラ12側からの水分蒸発は少ない。このため、用紙P内の水分は、定着ローラ11面側で少なくなる一方、加圧ローラ12面側では多くなる非平衡状態が一時的に形成される。次いで、図4に示すように、用紙P内の水分は加圧ローラ12側から定着ローラ11側へ一気に移動する。この結果、定着ローラ11側の水分が多くなる一方、加圧ローラ12側の水分は少なくなり、用紙Pの、定着ローラ11側は集まった水分で膨張し、加圧ローラ12側は水分の減少によって収縮し、定着ローラ11側に凸のカールが生じる。
【0037】
他方、低湿度環境下では、用紙Pの内部の水分がほとんど無いので、定着装置1のニップ部Nを通過するとき、用紙P内部での水分移動もほとんど行われず、加熱されてより乾燥する定着ローラ11側の繊維収縮が大きくなって、加圧ローラ側に凸のカールが用紙Pに生じる。この他、ニップ部Nを通過した直後に、用紙搬送路から受ける機械的な外力によっても用紙Pにカールが生じることがある。
【0038】
このような用紙Pのカールを矯正するため、本発明者は、定着ローラ11の表面に貼り付いた用紙Pを定着ローラ11から分離するためにこれまでから用いられている分離爪7に着目し、種々実験を重ねた結果、定着ローラ11に対する分離爪7の分離角度を変化させて、ニップ部Nを通過した直後の用紙Pの搬送方向を変えると、用紙Pの繊維収縮結合が完了する前に、カール方向と逆方向の力を用紙Pに加えることができカールを矯正できることを見出した。
【0039】
図5に、分離爪7の分離角度を変化させる機構例を示す。分離爪7は、軸部72に揺動自在に支持され、分離爪7の先端は自重によって下方へ垂れ下がり、定着ローラ11表面に当接している。そして、定着装置1の幅方向両側の側板(不図示)一方には、支持板91が、定着ローラ11の回転軸90と同軸に回動自在に取り付けられている。軸部72は、不図示の側板に形成された円弧状の長孔94に移動自在に挿通され、不図示の側板から外方に突出した軸部72の端部は、支持板74の一方端側に固定されている。軸部72が固定された端部と軸を隔てて反対側の端部は、回転軸90を中心とした円弧状をなし、その周端には歯92が形成されている。そして、この歯92には、不図示の駆動部によって回動する歯車93が歯合している。このとき、定着ローラ11の中心C1と加圧ローラ12の中心C1とを結んだ直線Lに対して垂直な基準線L1と分離爪7の分離面71との分離角度は「+θ1」である。なお、本明細書では、基準線L1から反時計回りの角度を「+」とし、時計回りの角度を「−」とする。
【0040】
図6に示すように、不図示の駆動部によって歯車93を反時計回りに回転させると、支持板91は回転軸90を中心に時計回りに回転し、軸部72と共に分離爪7も長孔94内を時計回りに回転する。これにより、基準線L1と分離爪7の分離面71との分離角度は「−θ2」となり、分離爪7の先端の位置も定着ローラ11の回転方向上流側に移動する。
【0041】
表1に、このような構成の定着装置1を用いて行った実験結果の一部を示す。高湿環境(30℃,85%)、常湿環境(23℃,55%)、低湿環境(10℃,15%)下で画像形成装置を12時間以上放置した後、分離爪7の分離角度を「+5°」に固定した場合と、分離爪7の分離角度を所定角度に可動させた場合の、用紙Pのカール状態を調べた。なお、用紙Pのカール量は、加圧ローラ側に凸の場合を「+」とし、定着ローラ側に凸の場合を「−」とする。
【0042】
【表1】

【0043】
表1から理解されるように、湿度に関係なく分離爪7の分離角度を+5°に固定した場合には、湿度が85%と高いと、用紙のカール量は定着ローラ側に27mmの凸となり、湿度が15%と低いと、用紙のカール量は加圧ローラ側に18mmの凸となった。
【0044】
これに対し、湿度に対して分離爪7の分離角度を変化させた場合には、用紙のカール量は格段に抑えられた。具体的には、湿度が85%と高い場合、分離角度θを15°にすると、用紙のカール量は定着ローラ側に5mmの凸に抑えられた。また、湿度が15%と低い場合、分離角度θを−5°にすると、用紙のカール量は加圧ローラ側に3mmの凸に抑えられた。
【0045】
図7に、湿度に対する分離角度と用紙のカール量との関係を示す。この図は、温度30℃・湿度85%及び温度10℃・湿度15%の各環境条件下で、分離角度を変えて、定着装置を通過した後の用紙のカール方向及びカール量を測定した結果を示すものである。この図から理解されるように、分離角度を「+」方向にすると、用紙は加圧ローラ側に凸のカール量が大きくなり、逆に、分離角度を「−」方向にすると、用紙は定着ローラ側に凸のカール量が大きくなる。したがって、湿度によって分離面の角度を調整することによって用紙のカールを矯正できることがわかる。
【0046】
図8に、高湿度環境下において用紙Pのカールを矯正する場合の分離爪7の位置例を示す。前述のように、高湿度環境下では定着ローラ側に凸のカールが用紙Pに生じる。そこで、分離角度が「+θ1」となるように分離爪7を配置して、ニップ部Nを通過した用紙Pを定着ローラ11側(図の左上方)に案内して、カール方向と逆方向に外力を用紙Pに与えてカールの矯正を行う。また、合わせて、分離爪7の先端位置をニップ部から離れた位置とすることによって、用紙Pが定着ローラ11に貼り付いている時間を長くして用紙Pのカール矯正を行う。
【0047】
一方、低湿度環境下では、前述のように、加圧ローラ側に凸のカールが用紙Pに生じるので、図9に示すように、分離角度が「−θ2」となるように分離爪7を配置して、ニップ部Nを通過した用紙Pを加圧ローラ12側(図の右上方)に案内して、カール方向と逆方向の外力を用紙Pに与えてカールの矯正を行う。また、合わせて、分離爪7の先端位置をニップ部に近い位置とすることによって、用紙Pが定着ローラ11に貼り付いている時間を短くして用紙Pがカールするのを抑制する。
【0048】
なお、以上説明した実施形態では、収納部52に設置し湿度センサ78(図1に図示)の検知データに基づき分離爪7の分離角度を調整しているが、湿度センサ78の取付位置に特に限定はない。ただし、用紙Pの含有水分量がカールに大きく影響することから、用紙Pが収納されている所に湿度センサ78を設置することが望ましい。
【0049】
また、実際の制御においては、湿度に対する分離角度と用紙のカール量との関係を予め測定して、湿度に応じた分離爪7の最適角度を定める。そして、それらのデータを制御装置81(図1に図示)内に記憶させておき、湿度センサ78による検出値に基づき分離爪7を移動させるのが望ましい。
【0050】
なお、以上説明した実施形態では、自重によって分離爪7の先端を定着ローラ11の表面に当接させていたが、分離爪7の自重のみでは定着ローラ11に十分に当接しない場合などには、バネなどの付勢手段によって分離爪7の先端を定着ローラ11と当接する方向に付勢するようにしてもよい。
【0051】
また、以上説明した実施形態では、定着ローラ11と加圧ローラ12の一対のローラ構成であったが、定着回転体及び加圧回転体として無端状ベルトを用いた構成など従来公知の構成のものを用いてもよい。さらに、定着回転体を加熱する熱源として、ハロゲンヒータの他、誘導加熱や抵抗発熱体など従来公知の構成のものを用いることができる。そしてまた、本発明の定着装置を適用し得る画像形成装置としては、モノクロ又はカラーの複写機、プリンタ、FAX及びこれらの複合機などいずれであっても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係る定着装置は、定着回転体から被転写部材を分離するための分離爪の分離角度を、湿度によって変化させて被転写部材のカールを矯正するので、装置の大型化や重量化を招くことがなく、また、被転写部材のいずれの方向のカールに対しても矯正することができ有用である。
【符号の説明】
【0053】
1 定着装置
2 帯電装置
3 露光装置
4 現像装置
5 転写ローラ(転写装置)
7 分離爪
8 画像形成装置
D 感光体(静電潜像担持体)
H ハロゲンヒータ(熱源)
N ニップ部
P 用紙(被転写部材)
11 定着ローラ(定着回転体)
12 加圧ローラ(加圧回転体)
52 収納部
71 分離面
72 軸部
78 湿度センサ(湿度検知手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定着回転体と、この定着回転体に圧接してニップ部を形成する加圧回転体と、前記定着回転体を加熱する熱源とを備え、前記定着回転体と前記加圧回転体とのニップ部に、トナー画像が載った被転写部材を通過させて、トナー画像を被転写部材に溶融定着させる定着装置において、
前記ニップ部を通過し前記定着回転体に貼り付いた被転写部材を前記定着回転体から分離する分離爪と、湿度を検知する湿度検知手段とをさらに備え、
前記定着回転体の中心と前記加圧回転体の中心とを結んだ直線に対して垂直な基準線と、前記分離爪の、前記定着回転体の回転方向上流側の面とのなす角度を、前記湿度検知手段によって検知した湿度によって変化させることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記湿度検知手段によって検知した湿度によって、前記角度と共に分離爪の先端位置も変化させる請求項1記載の定着装置。
【請求項3】
前記分離爪の先端が前記定着回転体の表面に当接するように、前記分離爪が、前記定着回転体の上方に移動自在に設けられた軸部に揺動自在に支持され、
前記軸部が移動すると、前記分離爪の先端の前記定着回転体の表面との当接位置が、前記分離爪の自重によって移動すると同時に、前記角度が変化する請求項2記載の定着装置。
【請求項4】
前記湿度検知手段によって検知した湿度が高くなるにしたがって、前記角度を前記定着回転体の回転方向に大きくする請求項1〜3のいずれかに記載の定着装置。
【請求項5】
回転自在の静電潜像担持体と、この静電潜像担持体の表面を一様に帯電させる帯電装置と、一様に帯電した静電潜像担持体の表面を露光し静電潜像担持体に潜像を形成する露光装置と、静電潜像担持体上に形成された潜像をトナーで可視像化する現像装置と、形成されたトナー画像を被転写部材に転写する転写装置と、転写されたトナー画像を加熱し被転写部材に溶融定着させる定着装置と、トナー画像を転写させる被転写部材を積載収納した収納部とを備えた画像形成装置であって、
前記定着装置として請求項1〜4のいずれかに記載の定着装置を用いることを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
前記湿度検知手段を前記収納部に設けた請求項5記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−185398(P2012−185398A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49548(P2011−49548)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】