説明

定着装置

【課題】駆動周波数が高いときに、磁束発生部を介して定着ローラへ高電力を投入できる定着装置を提供すること。
【解決手段】通電されて磁束を発生するコイル31を有する磁束発生部3を備える。その磁束による電磁誘導によって発熱する厚さ100μm以下の発熱層を外周面に沿って有する定着ローラ1を備える。コイル31に直列接続されて直列共振回路を構成するコンデンサを備える。その直列共振回路に或る駆動周波数の電圧を印加することで磁束発生部3を介して定着ローラ1を発熱させる高周波電源回路4,5を備える。定着ローラ1の外周面1aに圧接されつつ搬送されるシート90に定着ローラ1の発熱層の熱によって画像を定着させるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は定着装置に関し、より詳しくは、電磁誘導加熱方式で定着ローラを加熱し、その定着ローラの発熱でシートに画像を定着させる定着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の定着装置としては、特許文献1(特開2000−214702号公報)、特許文献2(特開2000−214713号公報)のように、相互圧接された定着ローラと加圧ローラとを有し、磁束発生部の発生磁束によって定着ローラの電磁誘導発熱性層(以下「発熱層」という。)を加熱し、両ローラの圧接ニップ部で未定着像を担持した記録材を扶持搬送して未定着像を記録材に溶融定着させるものが知られている。上記定着ローラの発熱層としては、熱容量を小さくして昇温特性を高めるために、例えば厚さ100μmという薄厚の無端状のニッケル電鋳ベルト層が用いられている。
【0003】
従来は、図12の等価回路に示すように、磁束発生部への電力供給は、並列共振回路142を含む高周波インバータ104によって行われている。この高周波インバータ104は、AC電源140と、ダイオードブリッジDB141、平滑コイルLf141および平滑コンデンサCf141からなる整流回路141と、パワートランジスタからなるスイッチング素子145と、このスイッチング素子145を過電圧から保護するためのフライホイールダイオードD145と、共振コンデンサ144を含む並列共振回路142とから構成されている。共振コンデンサ144は、磁束発生部に含まれたコイル(定着ローラに沿って配置されている)143に対して並列接続されている。なお、コイル143の両端で観測したインダクタンス、実効抵抗(上記コイルに対して電磁誘導により結合している定着ローラなどの寄与を含む。)をそれぞれLs143、Rs143と表している。
【特許文献1】特開2000−214702号公報
【特許文献2】特開2000−214713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、定着ローラの発熱層(ニッケル層)の厚さが100μm以下というように薄い場合、高い発熱効率を得るためには、より高周波にて駆動して、次式(1)に示す浸透深さ(単位;m)を浅くする必要がある。
【0005】
(浸透深さ)=(πfμρ)−1/2 …(1)
ここで、fは駆動周波数(単位;Hz)、μは発熱層の透磁率(単位;H/m)、ρは発熱層の導電率(単位;S/m)である。
【0006】
例えば発熱層(ニッケル層)の厚さが40μmである場合は、駆動周波数fは、最低でも40kHz程度、理想で60kHz以上であることが要求される。
【0007】
一方、図13の駆動波形から分かるように、上述の高周波インバータ104では、投入電力(コイル143を流れる電流ILsに依存)はスイッチング素子オン期間T(コレクタ・エミッタ間電圧VCEが低い期間)の長さに依存する。駆動周波数fを高くした場合、スイッチング素子オン期間Tが短くなるため、高い投入電力を確保するのが困難になる。例えば1200W程度を確保する場合、駆動周波数fとしては25kHz〜30kHz弱程度が上限である。
【0008】
そこで、この発明の課題は、駆動周波数が高いときに、磁束発生部を介して定着ローラへ高電力を投入できる定着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、この発明の定着装置は、
通電されて磁束を発生するコイルを有する磁束発生部と、
その磁束による電磁誘導によって発熱する厚さ100μm以下の発熱層を外周面に沿って有する定着ローラと、
上記コイルに直列接続されて直列共振回路を構成するコンデンサと、
上記直列共振回路に或る駆動周波数の電圧を印加することで上記磁束発生部を介して上記定着ローラを発熱させる高周波電源回路とを備え、
上記定着ローラの外周面に圧接されつつ搬送されるシートに上記定着ローラの発熱層の熱によって画像を定着させるようになっていることを特徴とする。
【0010】
この発明の定着装置では、高周波電源回路が上記直列共振回路に或る駆動周波数の電圧を印加することで上記磁束発生部を介して上記定着ローラを発熱させる。ここで、上記コイルとコンデンサが構成する直列共振回路では、駆動周波数と共振周波数とが一致しているときに、インピーダンスZが最小となり、電流が最も多く流れ、したがって、上記磁束発生部を介して上記定着ローラへ投入される電力が最大となる(これを適宜「最大投入電力」と呼ぶ。)。したがって、定着ローラの発熱層の厚さが100μm以下というように薄くて、駆動周波数が高く設定されるときでも、高電力を投入できる。つまり、高い発熱効率と高い投入電力とを両立させることができる。この結果、短時間でのウオームアップ、通紙速度の向上が可能となる。
【0011】
上記定着ローラの外周面に圧接されてニップ部を形成する加圧ローラを備えるのが望ましい。この場合、上記ニップ部を通してシートを円滑に搬送でき、定着される画像の質を高めることができる。
【0012】
また、上記高周波電源回路は、上記直列接続されたコイルとコンデンサの互いに反対側の端子にそれぞれ接続された一対のスイッチング素子と、上記一対のスイッチング素子を上記駆動周波数でオンオフ制御する制御部とを備えるのが望ましい。
【0013】
一実施形態の定着装置は、上記駆動周波数が上記直列共振回路の共振周波数と一致しているときに、上記高周波電源回路が上記磁束発生部および上記定着ローラへ投入できる電力をワット単位でPwMAX、上記コイルの両端部の間で観測される実効的な抵抗値をオーム単位でRsとそれぞれ表すと、
Rs≦147.88×PwMAX−0.5498 …(2)
なる関係が満たされていることを特徴とする。
【0014】
ここで、「上記コイルの両端部の間で観測される実効的な抵抗値」(これを「実効抵抗値」と呼ぶ。)とは、上記高周波電源回路を切り離し、上記コイルの両端部の間で、上記コイルに対して電磁誘導により結合する定着ローラや、上記磁束発生部に含まれたコアなどの寄与を含んで観測したときの抵抗値を指す。
【0015】
また、上記式(2)の関係は、本発明者による後述の実験により得られた実験式である。所望の最大投入電力PwMAX(単位;ワット)が定められたときに、上記式(2)の関係を満たすように上記実効抵抗値Rs(単位;オーム)を設定すれば、その最大投入電力PwMAXが得られる。なお、実効抵抗値Rsは、例えば上記コイルの巻き数や、上記定着ローラの発熱層を支持する支持層の材質などを変えることにより、可変して設定できる。
【0016】
一実施形態の定着装置は、上記定着ローラの上記発熱層を支持する支持層の体積抵抗率が3×10−8Ω・m以下であることを特徴とする。
【0017】
この一実施形態の定着装置によれば、上記実効抵抗値Rsを比較的小さく抑えることができる。したがって、最大投入電力PwMAXを高めることができる。
【0018】
一実施形態の定着装置は、上記定着ローラの上記発熱層を支持する支持層の厚みが2mm以上であることを特徴とする。
【0019】
この一実施形態の定着装置によれば、上記実効抵抗値Rsを比較的小さく抑えることができる。したがって、最大投入電力PwMAXを高めることができる。
【0020】
一実施形態の定着装置は、上記定着ローラの上記発熱層を支持する支持層の材質がアルミニウムであることを特徴とする。
【0021】
この一実施形態の定着装置によれば、アルミニウムは比較的体積抵抗率が低いことから、上記実効抵抗値Rsを比較的小さく抑えることができる。したがって、最大投入電力PwMAXを高めることができる。
【0022】
一実施形態の定着装置は、上記定着ローラの上記発熱層を支持する支持層が非磁性材料からなることを特徴とする。
【0023】
この一実施形態の定着装置によれば、上記実効抵抗値Rsを比較的小さく抑えることができる。したがって、最大投入電力PwMAXを高めることができる。
【0024】
別の局面では、この発明の定着装置は、
用紙上にトナーを定着させる定着装置であって、
支持層の周囲に順次、断熱層、発熱層、弾性層、離型層を備えるとともに、上記発熱層の厚さが100μm以下である定着ローラと、
上記定着ローラに圧接して配置された加圧ローラと、
上記定着ローラの外周に対向して配置され、通電されて磁束を発生するコイルを有する磁束発生部と、
上記コイルに直列接続されて直列共振回路を構成するコンデンサと、
上記直列共振回路に或る駆動周波数の電圧を印加することで上記磁束発生部を介して上記定着ローラを発熱させる高周波電源回路と
を備えたことを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0026】
図1は、カラーレーザプリンタ用の一実施形態の定着装置の断面構成を示している。
【0027】
この定着装置は、概略、定着ローラ1と、加圧ローラ2と、磁束発生部3と、高周波電源回路としての高周波インバータ4および制御回路5とを備えている。6は温度センサ、8は分離爪、90はシートとしての用紙である。
【0028】
定着ローラ1と加圧ローラ2は、それぞれ図1の紙面に対して垂直に延びる円筒状の部材であり、上下に互いに平行に配置され、それぞれ両端が不図示の軸受部材に回転自在に支持されている。加圧ローラ2は、バネなどを用いた不図示の加圧機構によって定着ローラ1へ向かって付勢されている。これにより、定着ローラ1の下部と加圧ローラ2の上部とが所定の加圧力(後述)で圧接されて、ニップ部を形成している。加圧ローラ2は、不図示の駆動機構により図中に矢印で示す時計回り方向に所定の周速度で回転駆動される。定着ローラ1はニップ部での加圧ローラ2との摩擦力によって加圧ローラ2の回転に従動回転する。なお、定着ローラ1を回転駆動させて加圧ローラ2を従動回転させてもよい。
【0029】
図2に示すように、定着ローラ1は、中心側から外周面1a側へ向かって順に設けられた、支持層としての芯金11と、断熱層12と、発熱層13と、弾性層14と、離型層15との5層構成になっている。定着ローラ1の硬度は、例えばASKER−C硬度で30度〜90度である。
【0030】
支持層としての芯金11は、この例では外径26mmで、厚さ4mmのアルミニウムからなっている。芯金11の材料は、強度が確保できれば、例えば鉄、PPS(ポリフェニレンサルファイド)のような耐熱性のモールドのパイプであっても良い。ただし、芯金11が発熱するのを防ぐために、電磁誘導加熱の影響が少ない非磁性材料を用いるのが望ましい。
【0031】
断熱層12は、主に、発熱層13を断熱状態にするために設けられている。この断熱層12の材料としては、耐熱性・弾性を有するゴム材や樹脂材のスポンジ体(断熱構造体)が用いられる。これにより、断熱層12は、断熱の役割だけでなく、発熱層13のたわみを許容してニップ幅を増やし、定着ローラ1の硬度を小さくして排紙性・用紙分離性能を向上させる役目を果たす。例えば、断熱層12がシリコンスポンジ材からなる場合は、厚さが2mm〜10mm、望ましくは3mm〜7mm、硬度がアスカーゴム硬度計で20度〜60度、望ましくは30度〜50度に設定される。なお、断熱層12は、ゴム材及びスポンジ体の2層構成としてもよい。
【0032】
発熱層13は、磁束発生部3からの磁束による電磁誘導によって発熱するために設けられている。この例では、発熱層13は、厚さ40μmの無端状のニッケル電鋳ベルト層からなっている。発熱層13の厚さは10μm〜100μmであるのが望ましく、20μm〜50μmであるのがより望ましい。発熱層13の厚さを100μm以下、より望ましくは50μm以下としている理由は、発熱層13の熱容量を小さくして昇温速度を高めるためである。発熱層13の材料としては、例えば磁性ステンレスのような磁性材料(磁性金属)といった、比較的透磁率μが高く、適当な抵抗率ρを持つ物を用いてもよい。さらに非磁性材料であっても、金属などの導電性のある材料は、薄膜にすることなどにより、発熱層13の材料として使用可能である。なお、発熱層13の構成は、電磁誘導によって発熱する粒子を樹脂に分散させたものとしても良い。この構成により、分離性を良くすることが可能となる。
【0033】
弾性層14は、厚み方向の弾力性によって、用紙と定着ローラ表面との密着性(カラー画像に対応するために重要である。)を高めるために設けられている。この例では、弾性層14は、耐熱性・弾性を有するゴム材や樹脂材であり、具体的には、定着温度での使用に耐えられるシリコンゴム、フッ素ゴム等の耐熱性エラストマからなっている。弾性層14に、熱伝導性、補強等を目的として各種充填剤を混入してもかまわない。充填剤として用いられる熱伝導性粒子としては、ダイヤモンド、銀、銅、アルミニウム、大理石、ガラス等があるが、実用的にはシリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、酸化ベリリウムが挙げられる。
【0034】
弾性層14の厚みは、例えば厚さ10μm〜800μmが好ましく、100μm〜300μmがより好ましい。弾性層14の厚さが10μm未満であると、目的である厚み方向の弾力性を得ることが難しくなる。一方、800μmを超える厚さになると、発熱層で発生した熱が定着フィルム外周面に達し難くなり、熱効率が悪化する傾向が生ずる。
【0035】
弾性層14がシリコンゴムからなる場合、その硬度はJIS硬度で1度〜80度、望ましくは5度〜30度であることが好ましい。このJIS硬度範囲であれば、弾性層の強度の低下、密着性の不良を防止しつつ、トナーの定着性の不良を防止できる。このシリコンゴムとしては具体的には、1成分系、2成分系又は3成分系以上のシリコンゴム、LTV(Low Temperature Vulcanization)型、RTV(Room Temperature Vulcanization)型又はHTV(High Temperature Vulcanization)型のシリコンゴム、縮合型又は付加型のシリコンゴム等を使用できる。この例では、弾性層14の材料として、JIS硬度10度、厚さ200μmのシリコンゴムを用いた。
【0036】
最外層の離型層15は、外周面1aの離型性を高めるために設けられている。この離型層15の材料は、定着温度での使用に耐えられる上にトナーに対する離型性を有することを要し、例えばシリコンゴム、フッ素ゴムや、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PFEP(パーフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)等のフッ素樹脂が好ましく用いられる。離型層15の厚さは、5μm〜100μmが好ましく、10μm〜50μmがより好ましい。また、層間接着力を向上させるためにプライマ等による接着処理を行ってもよい。なお、離型層14の中に必要に応じて、導電材、耐摩耗材、良熱伝導材をフィラとして添加することもできる。
【0037】
図3に示すように、加圧ローラ2は、中心側から外周面2a側へ向かって順に設けられた、厚さ3mmのアルミニウムからなる芯金21と、厚さ3mm〜10mmのシリコンスポンジゴムからなる断熱層22と、PTFEやPFA等の厚さ10μm〜50μmのフッ素系樹脂からなる離型層25との3層構成からなっている。
【0038】
芯金21の材料は、強度が確保できれば、例えば鉄、PPS(ポリフェニレンサルファイド)のような耐熱性のモールドのパイプであっても良い。ただし、芯金21が発熱するのを防ぐために、電磁誘導加熱の影響が少ない非磁性材料を用いるのが望ましい。
【0039】
シリコンスポンジゴムからなる断熱層22の厚さは、3mm〜10mmの範囲で使用条件に合わせて適宜変更可能である。なお、断熱層22は、シリコンゴム及びシリコンスポンジの2層構成としてもよい。
【0040】
最外層の離型層25は、外周面2aの離型性を高めるために設けられている。
【0041】
この加圧ローラ2は、図1に示す定着ローラ1に対して300N〜500Nの加圧力で圧接されて、ニップ部を形成している。この場合のニップ幅は約5mm〜15mmになる。都合によっては荷重を変化させてニップ幅を変えてもよい。
【0042】
磁束発生部3は、図1に示すように、定着ローラ1の上部を覆うように配置された台形状の断面をもつコイルボビン33と、このコイルボビン33の斜面に沿って層状に配置された励磁コイル31と、コイルボビン33の断面と略同じ台形状の断面をもち、励磁コイル31を挟んでコイルボビン33に沿って配置された磁性体コア32とを含んでいる。
【0043】
図4に示すように、コイルボビン33、励磁コイル31および磁性体コア32は、定着ローラ1の長手方向(軸方向)Xの寸法に略対応した長さ寸法を有する長尺部材である。
【0044】
コイルボビン33は、励磁コイル31および磁性体コア32を支持するために設けられている。このコイルボビン33は、非磁性材料からなるのが望ましく、この例では厚さ1mm〜3mmの耐熱性の樹脂(例えばポリイミド)からなる。
【0045】
励磁コイル31は、高周波インバータ4から電力供給を受けて磁束を発生させるために設けられている。励磁コイル31は、導線束を長円形状に複数回巻回して形成されている。この導線束は、定着ローラ1の長手方向Xに沿って延びる往路部分31aおよび復路部分31bと、定着ローラ1の両端1c,1dのところで、往路部分31aと復路部分31bとをつなぐ湾曲部分31c,31dとを有する。なお、1本の導線束は、通電効率を高めるために素線(直径0.18mm〜0.20mm程度の銅線であってエナメルで絶縁被覆されたもの)を百数十本程度束ねて形成された直径数mm程度の公知の撚り線である。これにより、高周波インバータ4から駆動周波数10kHz〜100kHz、電力100W〜2000Wの電力を受けることができる。なお、この例では、巻き線に伝熱した場合を考え、耐熱性の樹脂で被覆したものを使用した。
【0046】
磁性体コア32は、磁気回路の効率を上げるためと磁気遮蔽のために設けられている。この例では、磁性体コア32は、長手方向Xに延びる一対の縁部32P,32Pと、これらの縁部32P,32Pにまたがって一体に形成された複数の台形部32D(図1中に示した断面をもつ。)とからなっている。台形部32Dは、長手方向Xに関して両端近傍では密なピッチで配列され、長手方向Xに関して両端近傍を除く内部では粗なピッチで配列されている。この磁性体コア32の材料としては、高透磁率かつ低損失の磁性材料を用いる。パーマロイのような合金の場合は、コア内の渦電流損失が高周波で大きくなるため積層構造にしてもよい。この励磁コイル31とコア32の磁気回路部分は、磁気遮蔽が十分にできる手段がある場合は空芯(コア無し)にしてもよい。また、樹脂材に磁性粉を分散させたものを用いると、透磁率は比較的低いが、形状を自由に設定することができる。また、磁性体コア32の横断面をE字形状として中央部に定着ローラ1へ向かって突出したコアを設けることにより、発熱効率を高めることもできる。
【0047】
励磁コイル31が発生した磁束は磁性体コア32の内部を外部に漏れることなく通り、コアの突起部間で初めて磁性体コア外部に漏れ、定着ローラ1の発熱層13を貫き、発熱層13に渦電流が流れて発熱層13自体が発熱(ジュール発熱)する。定着ローラ1の発熱層13直下は断熱層12(図2参照)によって断熱されていることから、発熱層13の発熱によって弾性層14および離型層15が迅速に加熱されて、定着ローラ1の外周面1aの温度(これを「定着ローラ表面温度」と呼ぶ。)が上昇する。
【0048】
定着ローラ1の加熱と温調制御は制御回路5によって行われる。温度センサ6は例えばサーミスタであり、定着ローラ1の外周面1aに当接するように配置されている。この温度センサ6の定着ローラ表面温度を表す検出信号が制御回路5に入力される。制御回路5は、温度センサ6の検出信号をもとに高周波インバータ4を制御して高周波インバータ4から励磁コイル31への電力供給を増減させる。これにより、定着ローラ表面温度が所定の一定温度になるように自動制御される。これにより、用紙90に熱が奪われても、定着ローラ表面温度を維持することができる。
【0049】
定着動作時には、加圧ローラ2が回転駆動され、これに従動して定着ローラ1も回転する。これとともに、磁束発生部3の発生した磁束による電磁誘導によって定着ローラ1の発熱層13が発熱して定着ローラ1の表面温度が所定の一定温度になるように自動制御される。この状態で、不図示の搬送機構によって、定着ローラ1と加圧ローラ2とが作るニップ部に、未定着トナー像91が片面に形成されたシートとしての用紙90が送り込まれる。この場合、用紙90の未定着トナー像91が形成された面が定着ローラ1に接する。定着ローラ1と加圧ローラ2とが作るニップ部に送り込まれた用紙90は、ニップ部を通るときに定着ローラ1によって加熱される。これにより、未定着トナー像91が用紙90に定着される。ニップ部を通った用紙90は定着ローラ1から分離して排出されていく。万一、用紙90がニップ部通過後に定着ローラ外周面1aに張り付いてしまった場合は、定着ローラ外周面1aに当接して配置されている分離爪8がその用紙90を定着ローラ外周面1aから強制的に分離させて、ジャムを防止する。
【0050】
図6は、IHユニット43に通電を行う高周波インバータ4の回路構成を具体的に示している。
【0051】
IHユニット43は、図1中に示した磁束発生部3の励磁コイル31に加えて、励磁コイル31に対して電磁誘導により結合する定着ローラ1やコア32などの寄与を含むものであり、図6中ではインダクタンスLs43と実効抵抗Rs43とからなる直列等価回路によって表されている。なお、これらのインダクタンスLs43と実効抵抗Rs43の値は、図5に示すように、一般的にLCRメータと呼ばれるインピーダンス測定器310を磁束発生部3の励磁コイル31の両端部に接続して測定すれば良い。
【0052】
IHユニット43、実際には励磁コイル31には、共振コンデンサ44が直列接続されて直列共振回路42を構成している。この直列共振回路42の共振周波数f(単位;Hz)は、次式(3)で与えられる。
【0053】
=1/(2π(LsC)1/2) …(3)
ただし、LsはインダクタンスLs43の値(単位;H(ヘンリ))、Cは共振コンデンサ44の容量(単位;F(ファラッド))である。
【0054】
高周波インバータ4は、AC電源40と、ダイオードブリッジDB41、平滑コイルLf41および平滑コンデンサCf41からなる整流回路41と、それぞれパワートランジスタからなる一対のスイッチング素子45A,45Bと、これらのスイッチング素子45A,45Bを過電圧から保護するためのフライホイールダイオードD45A,D45Bとから構成されている。
【0055】
上記一対のスイッチング素子45A,45Bは、制御部としての制御回路5によって或る駆動周波数fでオンオフ制御されるようになっている。これにより、IHユニット43、具体的には、磁束発生部3を介して定着ローラ1へ電力が投入される。
【0056】
なお、図7は、直列共振回路42の駆動波形を示している。ILsはIHユニット43を流れる電流を示し、VCEは各スイッチング素子45A,45Bのコレクタ・エミッタ間電圧を示し、また、Tはスイッチング素子オン期間を示している。
【0057】
直列共振回路42では、駆動周波数fと共振周波数fとが一致しているときに、インピーダンスZが最小となり、電流が最も多く流れる。したがって、磁束発生部3を介して定着ローラ1へ投入される電力が最大となる(これを適宜「最大投入電力PwMAX」と呼ぶ。)。したがって、この例のように定着ローラ1の発熱層の厚さが100μm以下というように薄くて、駆動周波数fが高く設定されるときでも、高電力を投入できる。つまり、高い発熱効率と高い投入電力とを両立させることができる。この結果、短時間でのウオームアップ、通紙速度の向上が可能となる。
【0058】
定着ローラ1へ投入される電力を制御するには、駆動周波数fを共振周波数fから少し増加させて、直列共振回路42に流れる電流を少し低下させればよい。
【0059】
さて、直列共振回路42を用いる場合、最大投入電力PwMAXはIHユニット43の実効抵抗Rs43の値(以下、適宜「Rs」と呼ぶ。)に依存する。実効抵抗値Rsは、例えばIHユニット43を構成する磁束発生部3(励磁コイル31、コア32)、定着ローラ1の構成、材料及び磁束発生部3と定着ローラ1との距離等を変えることにより、可変して設定できる。
【0060】
以下、この実効抵抗値Rsを可変して設定する仕方について説明する。
【0061】
まず、磁束発生部3に関しては、例えば図8に示すように、実効抵抗値Rsは、定着ローラ1の長手方向に沿わせて巻かれる励磁コイル31の巻き数によって調整可能であり、巻き数を減らすとRsは低下する(ただし、インダクタンスLsも低下する。)。また、実効抵抗値Rsは、励磁コイル31をなす導線束の縒り数(素線を束ねる数)によっても調整可能であり、縒り数を増加させるとRsは低下する(ただし、Lsも低下する。)。
【0062】
コア32の配置に関しては、実効抵抗値Rsは、図4に示した台形部32Dの長手方向Xのピッチによって調整可能であり、長手方向Xのピッチを粗にする(間引く)とRsは低下する(ただし、Lsも低下する。)。また、コア32の形状によっても調整可能である。
【0063】
次に、定着ローラ1の構成に関しては、主に、発熱層13及び芯金11が実効抵抗値Rsに対して影響を及ぼす。
【0064】
発熱層13については、厚みを増やすと、用紙の分離にとって不利になるし、発熱層自体の熱容量も増大するため昇温特性への悪影響も考えられる。一方、厚みを減らすと、浸透深さの影響により駆動周波数fが高く設定される結果、Rsを増加させることもある(Rs及びLsは周波数依存があり、周波数の増加に伴ってRsも増加する)。したがって、発熱層13についてはそれらのバランスをとることが重要であり、実効抵抗値Rsを可変して設定するために自由に変更できる余地は少ない。
【0065】
芯金11については、外径、材質、厚みなどのパラメータを、特に不具合を生ずることなく様々に変更することができる。
【0066】
例えば図9A,図9B,図9Cに示す芯金11A、11B、11Cのように、芯金11の外径をA、B、Cというように変更することができる。外径A、B、Cは、定着ローラ1の外径(この例では40mm)に対する比が、それぞれ70%、60%、50%である場合に相当する。
【0067】
また、芯金11の材質を、Al(体積抵抗率2.75×10−8Ω・m)、Fe合金(体積抵抗率20×10−8Ω・m〜40×10−8Ω・m)、非磁性SUS(体積抵抗率70×10−8Ω・m)というように変更することができる。
【0068】
また、芯金11を中空で例えば4mm厚とし、または中実にするというように変更することができる。
【0069】
図10は、そのように芯金11の外径、材質、厚みなどのパラメータを変更したときの実効抵抗値Rsの測定結果を示している。
【0070】
この図10から明らかなように、定着ローラの外径が同等の場合において同様の材料であれば、芯金11の外径が大きい程Rsは低下する(ただし、Lsも低下する。)。
【0071】
また、芯金11の形状が同じであっても、Fe合金(体積抵抗率20×10−8Ω・m〜40×10−8Ω・m)及び非磁性SUS(体積抵抗率70×10−8Ω・m)よりもAl(体積抵抗率2.75×10−8Ω・m)のように体積抵抗率の低い材質の方がRsは低い(このとき、Lsは大差なし。)。なお、Feは、強磁性体であるから磁束を受けて発熱して、発熱層13の発熱効率を低下させる可能性がある。
【0072】
また、芯金11が中空で2mm厚以上であるか、中実である場合(最も厚くなったことに相当)は、厚みにかかわらずRs及びLsは略同じになる。芯金11が中空で2mm厚より薄い場合は、厚くなる程Rsは低下する。
【0073】
磁束発生部3と定着ローラ1との間の距離に関しては、距離を長くするとRsは低下する(ただし、Lsは増加する。)。
【0074】
図11は、上述のように磁束発生部3、定着ローラ1に関するパラメータを様々に設定して得られた各サンプルの実効抵抗値Rsと最大投入電力PwMAXとの関係を表す散布図である。
【0075】
この図11から、本発明者は、
Rs≦147.88×PwMAX−0.5498 …(2)
なる関係が満たされていることを発見した。
【0076】
これは、所望の最大投入電力PwMAX(単位;ワット)が定められたときに、この式(2)の関係を満たすように実効抵抗値Rs(単位;オーム)を設定すれば、その最大投入電力PwMAXが得られることを示している。例えば、所望の最大投入電力PwMAXが1200Wである場合には、Rsを3Ω以下に設定すれば良い。
【0077】
上述の各パラメータを組み合わせることにより、式(2)の関係を満たすように実効抵抗値Rsを低く設定することができる。
【0078】
例えば、芯金11の材料の体積抵抗率が3×10−8Ω・m以下であれば、Rsを比較的小さく抑えることができる。また、芯金11の厚みが2mm以上であれば、Rsを比較的小さく抑えることができる。また、芯金11が非磁性材料からなれば、Rsを比較的小さく抑えることができる。
【0079】
また、例えば、定着性、分離性等を改善するために定着ローラ1の断熱層12の厚みを厚く設定すると、それに伴って芯金11の外径を小さく設定することになる。この設定に起因して実効抵抗値Rsが大きくなる場合は、例えば、励磁コイル31の巻き数を減らす、または磁束発生部3と定着ローラ1との距離を増加する等の変更を行って、全体として実効抵抗値Rsが小さくなるように調整することができる。
【0080】
また、例えば定着ローラ1のべンディングを考慮し芯金11の材質をFe、SUS等、体積抵抗率の高い材料に変更したことに起因して実効抵抗値Rsが大きくなる場合も同様に、例えば、励磁コイル31の巻き数を減らす、または磁束発生部3と定着ローラ1との距離を増加する等の変更を行って、全体として実効抵抗値Rsが小さくなるように調整することができる。
【0081】
ただし、インダクタンスLsも上述のように影響を受けるため、Lsの値にも考慮する必要がある。Lsが低下すると磁束密度が低下するため、発熱効率が低くなる可能性がある。したがって、投入電力とLsに起因する発熱効率とのバランスを取ることも必要である。
【0082】
なお、この実施形態はカラープリンタ用の定着装置について説明したが、当然ながら、それに限られるものではない。この発明は電磁誘導方式の様々な定着装置に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】この発明の一実施形態の定着装置の概略構成を示す図である。
【図2】上記定着装置の定着ローラの断面構成を示す図である。
【図3】上記定着装置の加圧ローラの断面構成を示す図である。
【図4】図1の定着装置を上方から見たところを示す図である。
【図5】上記定着装置のIHユニットの実効抵抗値Rsを観測する仕方を説明する図である。
【図6】上記定着装置のIHユニットに通電を行う高周波インバータの回路構成を具体的に示す図である。
【図7】上記定着装置の直列共振回路の駆動波形を示す図である。
【図8】駆動周波数fを変化させたときの上記実効抵抗値Rsの測定結果を、励磁コイルの巻き数をパラメータとして示す図である。
【図9A】定着ローラ芯金の外径の設定例を示す図である。
【図9B】定着ローラ芯金の外径の設定例を示す図である。
【図9C】定着ローラ芯金の外径の設定例を示す図である。
【図10】駆動周波数fを変化させたときの上記実効抵抗値Rsの測定結果を、芯金の外径、材質、厚みなどをパラメータとして示す図である。
【図11】上記定着装置の磁束発生部や定着ローラに関するパラメータを様々に設定して得られた各サンプルの実効抵抗値Rsと最大投入電力PwMAXとの関係を表す散布図である。
【図12】従来の定着装置の並列共振回路を含む高周波電源回路の構成を示す図である。
【図13】上記従来の定着装置の並列共振回路の駆動波形を示す図である。
【符号の説明】
【0084】
1、1A、1B、1C 定着ローラ
2 加圧ローラ
3 磁束発生部
4 高周波インバータ
11、11A、11B、11C、21 芯金
12 断熱層
13 発熱層
14、22 弾性層
15、25 離型層
31 励磁コイル
32 コア
33 コイルボビン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電されて磁束を発生するコイルを有する磁束発生部と、
その磁束による電磁誘導によって発熱する厚さ100μm以下の発熱層を外周面に沿って有する定着ローラと、
上記コイルに直列接続されて直列共振回路を構成するコンデンサと、
上記直列共振回路に或る駆動周波数の電圧を印加することで上記磁束発生部を介して上記定着ローラを発熱させる高周波電源回路とを備え、
上記定着ローラの外周面に圧接されつつ搬送されるシートに上記定着ローラの発熱層の熱によって画像を定着させるようになっていることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
請求項1に記載の定着装置において、
上記駆動周波数が上記直列共振回路の共振周波数と一致しているときに、上記高周波電源回路が上記磁束発生部および上記定着ローラへ投入できる電力をワット単位でPwMAX、上記コイルの両端部の間で観測される実効的な抵抗値をオーム単位でRsとそれぞれ表すと、
Rs≦147.88×PwMAX−0.5498
なる関係が満たされていることを特徴とする誘導加熱定着装置。
【請求項3】
請求項1に記載の定着装置において、
上記定着ローラの上記発熱層を支持する支持層の体積抵抗率が3×10−8Ω・m以下であることを特徴とする定着装置。
【請求項4】
請求項1に記載の定着装置において、
上記定着ローラの上記発熱層を支持する支持層の厚みが2mm以上であることを特徴とする定着装置。
【請求項5】
請求項1に記載の定着装置において、
上記定着ローラの上記発熱層を支持する支持層の材質がアルミニウムであることを特徴とする定着装置。
【請求項6】
請求項1に記載の定着装置において、
上記定着ローラの上記発熱層を支持する支持層が非磁性材料からなることを特徴とする定着装置。
【請求項7】
用紙上にトナーを定着させる定着装置であって、
支持層の周囲に順次、断熱層、発熱層、弾性層、離型層を備えるとともに、上記発熱層の厚さが100μm以下である定着ローラと、
上記定着ローラに圧接して配置された加圧ローラと、
上記定着ローラの外周に対向して配置され、通電されて磁束を発生するコイルを有する磁束発生部と、
上記コイルに直列接続されて直列共振回路を構成するコンデンサと、
上記直列共振回路に或る駆動周波数の電圧を印加することで上記磁束発生部を介して上記定着ローラを発熱させる高周波電源回路と
を備えたことを特徴とする定着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−147845(P2007−147845A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−340195(P2005−340195)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】