説明

定着装置

【課題】ファーストコピーまでの立ち上がり時間が相当短縮される定着装置を実現する。
【解決手段】定着装置は、定着ローラ1と、定着ローラに対して圧接配置され、熱伝導により定着ローラの外周面を加熱する加熱ローラ2と、定着ローラとの間にニップを形成する加圧ローラ3とを有し、定着ローラは、シャフトの外周に形成され、互いに連通する多数の空孔を含む連泡性の複合弾性ゴム層11と、複合弾性ゴム層の外周に形成されると共に平滑な外周面を有し、前記複合弾性ゴム層の外周面を平滑な外周面に変換するシリコンゴム皮膜12と、シリコンゴム皮膜の外周面上に設けた離型層13とを有する。加圧ローラは、ローラ本体の外周面に設けた離型層31と、前記ローラ本体の内側空間内に配置した赤外線ランプとを有し、前記定着ローラとの間においてニップを形成する加圧ローラとしての機能及び定着ローラの外周面を加熱する加熱ローラとしての機能を果たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルカラーのプリンタや複写機に好適な定着装置、特に立ち上がり時間が短縮され、オンディマンドの要求に適合した定着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フルカラーの複写機やプリンタの定着装置として、ヒートロール方式の定着装置が実用化されている。フルカラー用のヒートロール定着装置では、ヒートロール(定着ローラ)と加圧ローラとを圧着してニップを形成し、トナー像が形成された記録紙はニップ間を通過することにより定着が行われている。フルカラーのプリンタ装置では、記録紙上に4色のトナー像が重ねて形成されるため、トナー像を定着する際比較的大量の熱量を供給する必要がある。このため、ヒートロールとして、内側空間内に赤外線ランプが配置されたアルミニウムの円筒体が用いられ、円筒体の外周面に0.5mm程度の厚さのシリコンゴム層が形成され、シリコンゴム層の外周にフッ素樹脂層が形成されたヒートローラが用いられている。このような構成のヒートローラでは、シリコンゴム層の熱伝達速度が遅いため、ファーストコピーまでの加熱時間として約90秒程必要であり、ファーストコピーまでの立ち上がり時間が長時間かかる不具合が指摘されている。
【0003】
ファーストコピーまでの時間が短縮された定着装置として、フィルム加熱方式の定着装置が既知である(例えば、特許文献1参照)。フィルム加熱定着装置では、加熱手段として抵抗発熱体が用いられ、加熱体と加圧ローラとの間に定着フィルムが配置されている。そして、定着フィルムを抵抗発熱体に対して摺動させ、接触による熱伝導により定着フィルムが加熱されている。トナー像が形成された記録紙は、定着フィルムと加圧ローラとの間に形成されるニップを通過し、加熱された定着フィルムによりトナー像が記録紙上に加熱融着されている。
【0004】
別の定着装置として、外部加熱方式の定着装置が既知である(例えば、特許文献2参照)。外部加熱方式の定着装置は4本ローラ方式で構成され、定着ローラと加熱ローラとを圧着してニップを形成し、定着ローラに対して第1の加熱ローラが圧着され、加圧ローラにも第2の加熱ローラが圧着されている。定着ローラ及び加熱ローラは共にシリコンゴムローラにより構成され、第1及び第2の加熱ローラは、中空円筒状のローラ本体とその内側空間内に配置したハロゲンランプとから構成されている。そして、定着ローラ及び加圧ローラは加熱ローラと接触することにより熱伝導により加熱されている。
【0005】
ヒートロール定着装置に用いられる加圧ローラとして、ウレタンスポンジローラに液状シリコンを含浸させ、金型内で加硫処理することにより製造される加圧ローラが既知である(例えば、特許文献3参照)。この既知の加圧ローラは、金属のシャフトの外周に多数の空孔を含む連泡性のシリコンゴム層が形成され、その外周に平滑な外周面を有し厚さが0.5mm程度の薄いシリコン皮膜とフッ素樹脂層(又はフッ素樹脂チューブ)とが形成されている。連泡性の弾性ゴム層は多数の空孔を含むので、加圧ローラとしての熱容量は主として薄いシリコンゴム皮膜とフッ素樹脂層とにより規定され、熱容量が小さい低硬度ローラとしての特性を有している。
【特許文献1】特開平5−2350号公報
【特許文献2】特開2004−12621号公報
【特許文献3】特開2010−176143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のフルカラー用の定着装置では、定着ローラの外周面にシリコンゴム層が形成され、シリコンゴム層の熱伝導速度が遅いため、内側空間内に配置したハロゲンランプから放射された赤外光が中空円筒状のローラ本体に吸収され、熱エネルギーに変換されて定着ローラの外周面に伝導するまでに長時間かかり、ファーストコピーまでの立ち上がり時間が遅くなる欠点がある。従って、従来のヒートロール方式の定着装置では、待機中にヒートローラの温度を180℃程度に維持し続ける必要があり、電気的エネルギーを無駄に使用する不具合があった。
【0007】
上述したフィルム加熱方式の定着装置では、定着フィルムを加熱体の表面に押し当てながら走行させ、定着フィルムは加熱体と接触することにより加熱されている。しかし、定着フィルムは加熱体の表面と接触しながら走行するため、定着フィルムが磨耗してしまい、耐久性に難点がある。また、定着フィルムは加熱体の表面上を摺動しながら走行するため、定着フィルムの表面と加熱体の表面との間に空気層が介在し、加熱体の表面と定着フィルムの表面との間の実質的な接触面積が小さく、加熱体から定着フィルムへの熱伝導効率が低くなる欠点がある。このため、定着フィルムを所定の定着温度まで昇温させるためには、加熱体の温度を相当高くする必要がある。
【0008】
これに対して、外部加熱方式の定着装置では、加熱ローラと定着ローラとの間にニップが形成され、両ローラは互い同期して回転している。従って、加熱ローラと定着ローラとはニップが形成されながら同期して回転するため、加熱ローラと定着ローラとの間に良好な接触状態が確保され、良好な熱伝導が行われている。また、加熱ローラと定着ローラとの間に摩擦が生じないため、良好な耐久性が確保される利点も達成される。
【0009】
しかしながら、従来の外部加熱方式の定着装置は、定着ローラ及び加圧ローラの両方を加熱するために4本のローラが必要であり、定着装置の空間として広いスペースが必要となると共に製造コストが高価になる欠点があった。また、定着ローラ及び加圧ローラとして、発泡性シリコンゴムのゴムローラが用いられているため、定着ローラ及び加圧ローラの外周面に凹凸が形成され、部分的な定着ムラが発生する欠点も指摘されている。すなわち、発泡性のシリコンゴム材料の表面には、発泡性ウレタンゴムと同様に空孔による凹凸が形成されるため、定着ローラと加圧ローラとを圧着しても、局所的に凹部が形成されてしまい、部分的な定着ムラが発生する欠点があった。
【0010】
本発明の目的は、フルカラーの定着装置に用いられ、ファーストコピーまでの立ち上がり時間が相当短縮され、オンディマンドの要請に適合する定着装置を実現することにある。
さらに、本発明の別の目的は、ファーストコピーまでの立ち上がり時間が相当短縮されると共に大きなスペースを必要とせず、しかも定着ムラの発生しない定着装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による定着装置は、未定着トナー像を記録紙上に定着させる定着ローラと、定着ローラに対して圧接するように配置され、熱伝導により定着ローラの外周面を加熱する加熱ローラと、定着ローラに対して圧接するように配置され、定着ローラとの間にニップを形成する加圧ローラとを有し、未定着トナー像が形成されている記録紙は、未定着トナー像が定着ローラと直接接触するように定着ローラと加圧ローラとの間に形成されたニップを通過する定着装置であって、
前記定着ローラは、金属のシャフトと、シャフトの外周に形成され、互いに連通する多数の空孔を含む連泡性の複合弾性ゴム層と、複合弾性ゴム層の外周に形成されると共に平滑な外周面を有し、前記複合弾性ゴム層の外周面を平滑な外周面に変換するシリコンゴム皮膜と、シリコンゴム皮膜の外周面上に設けた離型層とを有し、
前記加熱ローラは、中空円筒状のローラ本体と、ローラ本体の内側空間内に配置した赤外線ランプとを有し、
前記加圧ローラは、中空円筒状のローラ本体と、ローラ本体の外周面に設けた離型層と、前記ローラ本体の内側空間内に配置した赤外線ランプとを有し、前記定着ローラとの間においてニップを形成する加圧ローラとしての機能及び定着ローラの外周面を加熱する加熱ローラとしての機能を果たすことを特徴とする。
【0012】
本発明では、トナー像を定着させる定着ローラとして、内周側から弾性ゴム層、シリコンゴム皮膜、及び離型層が順次形成された耐熱性弾性ゴムローラを用いる。本発明による定着ローラの熱容量は、外周側の薄い離型層及びシリコンゴム皮膜によりほぼ規定されるので、定着ローラの外周面の温度は、圧接配置した加熱ローラ及び加圧ローラから熱伝導により供給される熱エネルギーにより直ちに昇温する。従って、ファーストコピーまでの待機時間が10秒程度に短縮されたオンディマンドの要求に適合した定着装置が実現される。しかも、定着ローラのゴム硬度は、周密なシリコンゴムローラのゴム硬度よりも相当低いので、小径の定着ローラであっても幅の広いニップが形成される。この結果、記録紙がニップを通過する定着時間が比較的長くなり、比較的低い定着温度でカラーのトナー像を定着することが可能である。
【0013】
本発明による定着装置の好適実施例は、定着ローラの複合弾性ゴム層は、連泡性のウレタンスポンジとウレタンスポンジの隔壁を被覆するシリコンゴム皮膜との二重構造体により構成され、前記複合弾性ゴム層の外周に形成した平滑な外周面を有するシリコンゴム皮膜と前記ウレタンスポンジの隔壁を被覆するシリコンゴム皮膜とは、ウレタンスポンジに含浸した液状シリコンを金型内で加硫処理することにより同時に形成されることを特徴とする。ウレタンスポンジに液状シリコンを含浸し、金型内で加硫処理することにより、ローラの外周面が平滑なシリコンゴムで被覆された定着ローラが実現され、定着ムラが防止された定着装置が実現される。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、定着ローラとして、外周面が平滑なシリコン皮膜により被覆され、多数の空孔を含む連泡性の弾性ゴムローラを用いると共に、内側空間内に加熱源が配置された加圧ローラを用いているので、ファーストコピーまでの立ち上がり時間が相当短縮されると共に大きなスペースを必要とせず、しかも定着ムラの発生しない定着装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による定着装置のローラ軸線と直交する面で切って示す線図的断面図である。
【図2】図1のII線で切って示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1及び図2は本発明による定着装置の一例を示す図であり、図1はローラ軸線と直交する面で切って示す線図的断面図、図2は図1のII−II線断面図である。本発明による定着装置は、記録紙上に形成された未定着トナー像を定着する定着ローラ1と、定着ローラ1に外部から熱エネルギーを供給する加熱ローラ2と、定着ローラ1との間にニップを形成する加圧ローラ3とを有する。定着ローラ1に対して、加熱ローラ2及び加圧ローラ3は圧接配置され、これら3本のローラは互いに同期して回転する。定着ローラ1と接触するように温度センサ4が配置され、温度センサ4は制御装置に接続され、温度センサからの出力信号を用いて定着ローラ1の外周面の温度を所定の定着温度に維持する。未定着トナー像が形成された記録紙5は、定着ローラ1と加圧ローラ3との間に形成されるニップを通過し、定着ローラから供給される熱エネルギーによりトナー像が記録紙上に加熱融着される。すなわち、トナー像が形成された記録紙は、トナー像が形成された面が定着ローラ1と接触するようにニップを通過する。よって、記録紙上のトナー像は、定着ローラ1と直接接触し、記録紙上に融着される。
【0017】
定着ローラ1は、金属のシャフト10と、シャフトの外周に設けた連泡性の弾性ゴム層11と、弾性ゴム層の外周に形成されたシリコンゴム皮膜12と、シリコンゴム皮膜の表面を被覆する離型層13とを有する。本例では、連泡性の弾性ゴム層として、多数の空孔を含み、ウレタンゴムとシリコンゴムとにより構成される複合弾性ゴム層を用いる。また、離型層13として、本例ではフッ素樹脂チューブを用いる。シャフト10は、その両端に設けた軸受14a及び14bにより回転自在に支持する。
【0018】
加熱ローラ2は、例えばアルミニウムの中空円筒状のローラ本体20を有し、ローラ本体の内側空間内に赤外線ランプ21を配置する。加熱ローラ2は、ローラ本体20の両端に設けた軸受22a及び22bにより回転自在に支持する。加熱ローラ2には、軸受22a及び22bを介して圧着スプリング23a及び23bが連結され、加熱ローラは定着ローラ1に対して圧接配置される。
【0019】
加熱ローラ2は、定着ローラ1の外周面を外部から加熱すると共に、定着ローラ1の外周面をクリーニングするクリーニングローラとしても機能する。すなわち、定着ローラ1の外周面には離型層13が形成され、高い離型性を有する。これに対して、加熱ローラの表面はアルミニウムが直接露出するため、その離型性は低くいものである。従って、定着ローラ1の表面にトナーが付着しても、付着したトナーは定着ローラ1から加熱ローラ2側に転移し、加熱ローラは定着ローラの表面をクリーニングするクリーニングローラとして機能する。この場合、加熱ローラの外周面にトナー層が形成されても、当該トナー層は定着ローラ側に転移せず、定着ローラの外周面は常時クリーニングな状態に維持され、定着ローラをクリーニングするためのクリーニング機構が不要になる。
【0020】
加圧ローラ3は、アルミニウムの中空円筒状のローラ本体30を有し、その外周面にはフッ素樹脂からなる離型層31が形成される。ローラ本体の内側空間内に赤外線ランプ32を配置する。加圧ローラ3は、ローラ本体30の両端に設けた軸受33a及び33bにより回転自在に支持する。加圧ローラには、軸受33a及び33bを介して圧着スプリング34a及び34bが連結され、加圧ローラは定着ローラに対して圧接配置される。従って、加圧ローラ3は、定着ローラ1との間においてニップを形成すると共に、定着ローラ1に熱エネルギーを供給する加熱ローラとしての機能も果たす。また、加圧ローラの一端に駆動ギィアが装着され、駆動装置(図示せず)から回転駆動力が伝達される。そして、加圧ローラの回転駆動力は定着ローラに伝達され、定着ローラの回転駆動力は加熱ローラに伝達される。これにより、定着ローラ、加熱ローラ及び加圧ローラは同期して回転する。尚、本例では、加熱ローラ3を駆動系に連結したが、定着ローラ1を駆動系に連結し、加熱ローラ2及び加熱ローラ3を従動回転させることもできる。
【0021】
制御回路(図示せず)からコピー信号が発生すると、定着ローラ1、加熱ローラ2及び加圧ローラ3は同期して回転し、定着ローラ1の外周面は、加熱ローラ2及び加圧ローラ3から熱伝導により供給される熱エネルギーにより、例えば160〜200℃程度の定着温度に加熱される。定着ローラの外周面が定着温度に到達すると、未定着トナー像が形成された記録紙が搬送され、記録紙上のトナー像は記録紙上に溶融定着される。定着ローラの表面温度は温度センサ4により検出され、コピー動作中(印刷動作中)定着ローラの表面は所定の定着温度に維持される。本発明による定着ローラ1は、多数の空孔を含む低硬度ゴムローラであるため、定着ローラ1と加熱ローラ2及び加圧ローラ3との間に、強い圧着力を作用させることなく、幅の広いニップを形成することが可能である。従って、ベンディングが発生することなく、定着ローラと加熱ローラ及び加圧ローラとの間に比較的長い接触時間が得られ、極めて良好な熱伝達効率が達成される。
【0022】
定着ローラ1について説明する。図1及び図2を参照するに、本発明による定着ローラ1は、金属のシャフト10と、シャフトの外周に設けた連泡性の複合弾性ゴム層11と、複合弾性ゴム層の外周に形成されたシリコンゴム皮膜12と、シリコンゴム皮膜の表面を被覆し離型層として機能するフッ素樹脂チューブ13とを有する。本発明者が種々のゴム材料について実験及び解析を行った結果、各種ローラのゴム硬度を一層低下させるためには、連泡性ゴム材料を用いることが有益であるとの結論に至った。すなわち、発泡性ゴム材料は、単位体積当たりのゴム材料が占める割合が小さいため、それ自体でゴム硬度を低下させることができる。しかし、発泡性シリコンゴムのように、各気泡が独立している単泡性ゴム材料に押圧力が作用した場合、気泡内に存在する気体からの弾性反発力が大きいため、ゴム硬度を低下させるためには限界がある。これに対して、連泡性のゴム材料に押圧力が作用した場合、気泡内の気体は、隣接する気泡間を連通させる孔等を介して外部に放出されるため、作用する押圧力に応じて自在に弾性変形することができ、ゴム硬度が大幅に低下する。しかしながら、従来のシリコンゴムの製造技術では、連泡性のシリコンゴムを製造することは製造上極めて困難であり、製造コストが大幅に高価になってしまう。
【0023】
そこで、本発明では、定着ローラの弾性ゴム材料として、ウレタンスポンジをベースとして用いる。ウレタンスポンジは、低硬度のゴム材料であるから、加圧ローラの弾性ゴム層として用いれば、相当低い硬度のゴムローラが実現される。しかも、連泡性ゴム材料であるからゴム層内の各空孔はウレタンスポンジの側面を介して外部と連通し、加熱ローラと接触して温度が高くなっても、空孔が膨張してローラ径が増大するする不具合が発生せず、常時一定のローラ径を維持することが可能である。
【0024】
他方において、ウレタンスポンジを弾性ゴム層として用いた場合、第1の欠点として、ウレタンスポンジの外周面には多数の凹凸が存在し、金属のシャフトの外周にウレタンスポンジ層を形成してウレタンゴムローラを形成した場合、ローラの外周面に無数の凹凸が形成され、表面の平滑性に難点がある。よって、ウレタンスポンジローラの外周面に離型層としてフッ素樹脂チューブを装着しても、フッ素樹脂チューブの厚さは比較的薄いため、下地のウレタンゴムの凹凸がそのまま現れてしまい、外周面に無数の凹凸のある定着ローラとなってしまう。この欠点は、発泡性のシリコンゴムを用いても同様に発生する。第2の欠点として、ウレタンゴム自体の耐熱温度が比較的低いことである。ウレタンゴムの耐熱性温度は、シリコンゴムの耐熱性温度よりも低いため、ウレタンゴムローラの外周面に高い耐熱性を有するフッ素樹脂チューブを装着しても、長期間にわたって使用すると、熱劣化が進行し、耐久性に難点がある。
【0025】
上述した欠点を解消するため、本発明では、ウレタンスポンジの外周面にシリコンの皮膜を形成する。シリコン皮膜を形成するに際し、ウレタンゴムローラを作成し、当該ウレタンゴムローラのウレタンスポンジの内部まで液状シリコンを含浸させ、その状態で円筒状の金型内に配置する。そして、ウレタンゴムローラと金型とを一緒にして高速回転させる。金型と共にウレタンゴムローラが高速回転することにより、内部に含浸された液状シリコンは外周側に材料移動し、ウレタンスポンジの外周面の凹部は液状シリコンによりほぼ均一に充填され、金型の内周面とウレタンゴムの表面との間に液状シリコンの薄い膜が形成される。そして、その状態で加硫処理を行う。この状態で加硫処理を行えば、ウレタンスポンジの外周面の凹部内にシリコンが充填され、金型の内周面に対応した平滑なシリコン皮膜が形成される。この結果、ウレタンスポンジの外周面は平滑な外周面に変換される。尚、金型を高速回転させることにより、ウレタンスポンジの外周面の凹部内に存在していた空気は、液状シリコンの材料移動によりウレタンスポンジの側面から外部に放出されるので、シリコン皮膜に気泡の痕跡が形成される不具合は解消される。
【0026】
さらに重要なこととして、ウレタンスポンジの隔壁の表面が、液状シリコンにより被覆された状態で加硫処理されるため、ウレタンスポンジのゴムの隔壁はシリコンゴム皮膜で被覆された状態となる。この結果、ウレタンスポンジ層は、ウレタンゴムとシリコンゴムとから構成される複合弾性ゴム層に変換され、シリコンの耐熱性にほぼ匹敵する耐熱性が得られることである。すなわち、定着ローラが160〜200℃程度に加熱されて、ウレタンゴムの一部分が局所的に熱劣化しても、当該部分はシリコンゴム皮膜で被覆されているので、シリコンゴムが耐熱性弾性ゴムとして機能し、弾性ゴムローラとして全く問題は生じない。この結果、ウレタンゴムの比較的低い耐熱性はシリコンの耐熱性まで改善され、熱劣化の問題も解消する。
【0027】
本発明において用いられる液状シリコンは、比較的低い温度で加硫できるRTV型の液状シリコン又は110〜180℃程度の温度で加硫するLTV型の液状シリコンを用いることができる。また、液状シリコンの粘度として、ウレタンスポンジの内部まで侵入でき、且つウレタンスポンジの隔壁表面に保持される程度の粘度、例えば10000〜50000cs程度の比較的高粘度の液状シリコンが用いられる。
【0028】
さらに、本発明では、表面が平滑なシリコン皮膜の外周面について下地処理を行った後、フッ素ラテックス、ウレタンゴム、又はシリコンレジンをコーティングすることも可能である。例えば、シリコン皮膜の外周面についてフッ素ラテックス処理(FLC処理)を行えば、ローラ外周面の離型性が一層改善されたゴムローラや加圧ローラが実現される。特に、本発明によるゴムローラ及び加圧ローラは、常温環境下と加熱環境下で交互に用いられても、ローラ自体に熱膨張及び収縮が生じないため、フッ素ラテックス皮膜の耐久性が大幅に改善される。従って、加圧ローラとして用いる場合、フッ素樹脂チューブを装着する代わりに、シリコン皮膜上にフッ素ラテックス皮膜を形成して加圧ローラとして用いることも可能である。さらに、ウレタン樹脂は、ゴム材料として汚染物を発生しない特性があるため、シリコン皮膜上にウレタンゴムをコーティングすれば、ローラから汚染物が発生しないゴムローラとして最適である。
【0029】
さらに、本発明による定着ローラの重要な特性として、定着ローラとしての熱容量が主として外周の離型層及びシリコンゴム皮膜の2つの層により規定されることである。本発明の定着ローラは、シャフトに形成した弾性ゴム層は、多数の空孔を有し、ウレタンゴムとシリコンゴムとにより構成される複合弾性ゴム層である。この連泡性の複合弾性ゴム層は多数の空孔を含むため熱容量は比較的小さく、且つ空気層が多いため、熱伝導率も低いものである。従って、定着ローラの外周面側から供給される熱エネルギーは、主としてフッ素樹脂チューブ及び薄いシリコンゴム層に蓄積され、内側の弾性ゴム層及び金属シャフトに伝導する熱エネルギーは比較的少量である。しかも、フッ素樹脂チューブの厚さは50〜100μmであり、シリコンゴム皮膜の厚さも100〜500μm程度であり、これらの層の熱容量は極めて小さい。従って、外周面から供給される熱エネルギーは熱容量の小さい外周のフッ素樹脂チューブ及びシリコンゴム皮膜に主として蓄積されるので、定着ローラの外周面は極めて短時間で定着温度に昇温し、ファーストコピーまでの待機時間が大幅に短縮される。
【0030】
次に、加熱ローラ2の構造について説明する。図2を参照するに、加熱ローラ1は、アルミニウムの中空円筒状のローラ本体20を有する。ローラ本体20は、軸線方向にそって記録紙の幅を超える長さを有し、厚さが0.2〜0.3mm程度の薄い厚さを有する第1のローラ部分20aと、第1のローラ部分の両端にそれぞれ形成され、例えば0.8mm程度の厚い厚さを有する第2及び第3のローラ部分と20b及び20cとを有する。厚さが0.2mm程度の薄いアルミニウムの円筒体は、外形保持能力が比較的弱くローラとしての心円度が低下する欠点がある。よって、ローラ本体として、ローラの軸線方向の全長にわたって一様な薄い厚さの円筒体を用いたのでは、機械的強度が不十分となるおそれがある。この問題点を解決するため、本発明では、ローラ本体を3つのローラ部分により構成する。すなわち、ローラ本体は、その軸線方向の中央に位置し、記録紙の幅にほぼ等しい長さを有する厚さの薄い第1のローラ部分20aと、第1のローラ部分の両端にそれぞれ形成され、厚い厚さを有し剛体として作用する第2及び第3のローラ部分20b及び20cとにより構成する。そして、厚さの厚い第2及び第3のローラ部分に軸受を配置してフレームに固定する。このように、厚さの薄い第1のローラ部分の両端に厚さが厚く剛体として作用するローラ部分を形成することにより、厚さの薄い第1のローラ部分に外部応力が作用しても、剛体として作用する両端の厚いローラ部分により規制されるため、外形保持性能が高くなり、心円度が低下する不具合が解消される。
【0031】
さらに、加熱ローラ2が圧接される定着ローラ1は、多数の空孔を含む低硬度のゴムローラであるため、定着ローラ1に薄肉の加熱ローラ2を圧接しても、定着ローラから加熱ローラに作用する反発力が小さいため、加熱ローラのローラ本体として0.2mm程度の厚さの薄肉のローラ本体を用いても、ローラ本体が変形する不具合は発生しない。
【0032】
加圧ローラ3の構造は、ローラ本体30の外周面上にフッ素樹脂層又はフッ素樹脂チューブの離型層31が形成されている点を除き、加熱ローラの構造と同一である。従って、加圧ローラ3も、加熱ローラ2と同様に熱容量が小さく、ファーストコピーまでの立ち上がり時間が短縮された加熱ローラとして作用する。尚、加圧ローラ3の外径寸法R1は、加熱ローラ2の外径寸法R2に対して、R2<R1となるように設定することが好ましい。すなわち、加熱ローラ2は、熱伝導により定着ローラの外周面を加熱するため、熱損失を防止する観点よりローラ外径は比較的小さくすることが望ましい。これに対して、加圧ローラ3は、加熱ローラとしての機能と共に定着ローラとの間においてニップを形成する機能を果たすため、幅の広いニップを形成するため、定着ローラの外径寸法とほぼ同一の外径寸法に設定する必要がある。従って、加熱ローラ及び加圧ローラの機能を考慮し、R2<R1となるように設定する。
【0033】
尚、加熱ローラ2及び加圧ローラ3のローラ本体の内側に補強用のスパイラル状のコイルバネを配置することも可能である。この場合、前記ローラ本体の第1のローラ部分の内径をr1とし、第2及び第3のローラ部分の内径をr2とし、前記コイルバネの外径をr3とした場合に、式r2<r3<r1を満たすように設定することが望ましい。補強用のコイルバネは、その軸線方向及び半径方向に変位可能であるが、半径方向の径変化はほとんど発生しない特性を有する。従って、薄肉の加熱ローラを定着ローラに対して圧着しても、ローラ本体の第1のローラ部分の半径方向の変位はコイルバネにより規制され、半径方向に僅かに弾性変形するだけであり、ベンディング量は極めて小さい利点が達成される。
【0034】
次に、加熱ローラ及び加圧ローラの制御方法の一例について説明する。制御装置からコピー信号が発生すると、定着ローラ1、加熱ローラ2及び加圧ローラ3は同期して回転を開始し、加熱ローラ及び加圧ローラに装着された赤外線ランプはフルパワーで点灯する。続いて、定着ローラ1の外周面の温度が所定の定着温度に到達すると、加圧ローラに配置された赤外線ランプは消灯し、加熱ローラの赤外線ランプだけを継続して点灯する。この際、定着ローラの表面温度は、加熱ローラから供給される熱エネルギーにより定着温度に維持される。続いて、感光ドラムに静電潜像が形成され、カラーのトナー像が記録紙に形成され、当該記録紙は定着装置にまで搬送され、定着動作が行われる。定着動作中、定着ローラの表面温度は加熱ローラから供給される熱エネルギーにより所定の定着温度に維持される。このように、コピー動作開始時において、定着ローラ1は加熱ローラ2及び加圧ローラ3の両方により加熱されるため、コピー信号発生時からファーストコピーまで10秒程度に短縮される。尚、定着ローラの表面温度が定着温度に到達した際、加圧ローラを消灯させず、100〜200W程度の低いエネルギーで点灯し続け、加圧ローラが大幅に降温するのも防止し、加圧ローラの表面温度が100〜130℃程度に維持することも可能である。
【0035】
本発明は上述した実施例だけに限定されず、種々の変更や変形が可能である。例えば、加熱ローラ及び加圧ローラの制御方法は一例であり、プリンタや複写機の性能や動作に応じて設計することが可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 定着ローラ
2 加熱ローラ
3 加圧ローラ
4 温度センサ
5 記録紙
10 シャフト
11 弾性ゴム層
12 シリコンゴム皮膜
13,31 離型層
20,30 ローラ本体
21,32 赤外線ランプ
14a,14b,22a,22b,33a,33b 軸受
23a,23b,34a,34b スプリング



【特許請求の範囲】
【請求項1】
未定着トナー像を記録紙上に定着させる定着ローラと、定着ローラに対して圧接するように配置され、熱伝導により定着ローラの外周面を加熱する加熱ローラと、定着ローラに対して圧接するように配置され、定着ローラとの間にニップを形成する加圧ローラとを有し、未定着トナー像が形成されている記録紙は、未定着トナー像が定着ローラと直接接触するように定着ローラと加圧ローラとの間に形成されたニップを通過する定着装置であって、
前記定着ローラは、金属のシャフトと、シャフトの外周に形成され、互いに連通する多数の空孔を含む連泡性の複合弾性ゴム層と、複合弾性ゴム層の外周に形成されると共に平滑な外周面を有し、前記複合弾性ゴム層の外周面を平滑な外周面に変換するシリコンゴム皮膜と、シリコンゴム皮膜の外周面上に設けた離型層とを有し、
前記加熱ローラは、中空円筒状のローラ本体と、ローラ本体の内側空間内に配置した赤外線ランプとを有し、
前記加圧ローラは、中空円筒状のローラ本体と、ローラ本体の外周面に設けた離型層と、前記ローラ本体の内側空間内に配置した赤外線ランプとを有し、前記定着ローラとの間においてニップを形成する加圧ローラとしての機能及び定着ローラの外周面を加熱する加熱ローラとしての機能を果たすことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
請求項1に記載の定着装置において、前記定着ローラの複合弾性ゴム層は、連泡性のウレタンスポンジとウレタンスポンジの隔壁を被覆するシリコンゴム皮膜との二重構造体により構成され、前記複合弾性ゴム層の外周に形成した平滑な外周面を有するシリコンゴム皮膜と前記ウレタンスポンジの隔壁を被覆するシリコンゴム皮膜とは、ウレタンスポンジに含浸した液状シリコンを金型内で加硫処理することにより同時に形成されることを特徴とする定着装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の定着装置において、前記加熱ローラのローラ本体はアルミニウムの中空円筒体により構成され、前記定着ローラと直接接触して定着ローラの外周面をクリーニングするクリーニングローラとして機能することを特徴とする定着装置。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載の定着装置において、前記加熱ローラの外径をR1とし、前記加圧ローラの外径をR2とした場合に、加熱ローラ及び加圧ローラの外径は、R1<R2となるように設定したことを特徴とする定着装置。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の定着装置において、前記加熱ローラ及び加圧ローラのローラ本体は、軸線方向にそって記録紙の幅を超える長さを有し、厚さの薄い第1のローラ部分と、第1のローラ部分の両端にそれぞれ形成され、第1のローラ部分の厚さよりも厚い厚さを有する第2及び第3のローラ部分とを有し、
前記第2及び第3のローラ部分に軸受が装着されていることを特徴とする定着装置。
【請求項6】
請求項5に記載の定着装置において、前記加熱ローラ及び加圧ローラのローラ本体の内側空間内に補強用のスパイラル状のコイルバネが配置され、前記ローラ本体の第1のローラ部分の内径をr1とし、第2及び第3のローラ部分の内径をr2とし、前記コイルバネの外径をr3とした場合に、式r2<r3<r1を満たすように設定されていることを特徴とする定着装置。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−118147(P2012−118147A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265885(P2010−265885)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(591221167)ミツマ技研株式会社 (17)
【Fターム(参考)】