説明

定電流駆動発振回路

【課題】簡単な構成でかつ、少ない消費電流で発振器の発振余裕を維持することができる。
【解決手段】VXT>Vtnの場合、コンデンサ22に充電されていた電荷が放電され、放電電流の一方がP−MOSFETを流れるドレイン電流Ibhと共にグランドに流れ、放電電流の他方が帰還抵抗34を介して水晶振動子20の他方の極に流れる。水晶振動子20の他方の極に流れた放電電流は、水晶振動子20の発振周波数に基いて発振される。発振された信号は、帰還抵抗34によって水晶振動子20の他方の極へ帰還されて発振を継続する。バック電位VDは、VD=VD2−(−VXT)となる。バック電位VDの値が大きくなるとP−MOSFET26のN型基板の空乏層が広がるため、P−MOSFET26の閾値電圧は小さくなり、ドレイン電流Ibhの量が少なくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定電流を用いて駆動する発振回路(定電流駆動発振回路)に係り、特にLSIのクロック等に用いられる定電流駆動発振回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の定電流水晶発振回路では、低消費電力化を行うために、発振停止制御信号を用いて、発振停止モード時に発振回路の発振動作を停止させることが行われている(特許文献1)。
【0003】
また、低消費電力化を行うために、切替回路を用いて電源投入時にCMOSインバータのNチャンネル型電界効果トランジスタ(以下、N−MOSFETという。)のバックゲート電圧を低くして閾値電圧を低くすることで、水晶発振回路を電源投入時に安定した発振状態まで速やかに立ち上げると共に、N−MOSFETのバックゲート電圧を高くして閾値電圧を高くすることで、水晶発振回路の発振安定後に消費電力を下げることが行われている水晶発振回路もある(特許文献2)。
【0004】
更に、低電源電圧で発振動作を行うために、CMOSインバータのPチャンネル型電界効果トランジスタ(以下、P−MOSFETという。)のゲート端子に入力されるゲート電圧を電圧降下回路によって下げ、ドレイン電流を大きくすることが行われている発振回路もある(特許文献3)。
【0005】
また、CMOSインバータのP−MOSFETのゲート端子へ入力されるゲート信号を一定にし、常にP−MOSFETを導通状態にすることで、P−MOSFETを流れるドレイン電流を一定にし、P−MOSFET及びN−MOSFETが同時に導通した場合に発生する貫通電流を抑制することが行われている定電流駆動水晶発振回路もある(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−225904号公報
【特許文献2】特開2001−298326号公報
【特許文献3】特開平6−97732号公報
【特許文献4】特開2008−219387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の定電流水晶発振回路では、発振動作不要時に発振回路を停止させて低消費電力化を行っているにすぎず、発振動作時に低消費電力化を行うことはできない、という問題がある。
【0008】
また、特許文献2に記載の水晶発振回路では、切替回路によってCMOSインバータのN−MOSFETのバックゲート電圧を高くして、N−MOSFETの閾値電圧を高くしているため回路構成が複雑になる、という問題がある。
【0009】
更に、特許文献3に記載の発振回路では、低電源電圧で発振動作を行っているにすぎず、CMOSインバータのN−MOSFETがオン状態のときにP−MOSFETを介してN−MOSFETに流れるドレイン電流が無駄になってしまう、という問題がある。
【0010】
また、特許文献4に記載の定電流駆動水晶発振回路では、CMOSインバータのP−MOSFETに流れるドレイン電流を一定にし、貫通電流を抑制しているにすぎず、特許文献3と同様に、N−MOSFETがオン状態のときにP−MOSFETを介してN−MOSFETに流れるドレイン電流が無駄になってしまう、という問題がある。
【0011】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、発振器から出力される信号のレベルに基いて電界効果トランジスタの閾値電圧を調整することで、簡単な構成で、かつ少ない消費電流で発振器の発振余裕を維持することができる定電流駆動発振回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明に係る定電流駆動発振回路は、一端と他端とを有する発振器と、ゲート端子に第1の閾値電圧より低いレベルの信号が入力されてオンしたときに、第1の端子から流入した電流を第2の端子から流出する第1の電界効果トランジスタと、前記第2の端子及び前記発振器の一端に接続された第3の端子、及び前記発振器の他端に接続されたゲート端子を備え、該ゲート端子に前記発振器から出力され、かつ第2の閾値電圧より高いレベルの信号が入力されてオンしたときに、前記第3の端子から流入した電流を第4の端子から流出する第2の電界効果トランジスタと、前記第1の電界効果トランジスタがオンする際の前記第1の閾値電圧を前記発振器から出力された信号のレベルに応じて調整する調整手段と、を備えている。
【0013】
請求項1の発明によれば、発振器から出力される信号のレベルが第2の閾値電圧より高くなると第2の電界効果トランジスタがオンすると共に、調整手段によって、第1の電界効果トランジスタの第1の閾値電圧が小さくなるように調整され、第2の電界効果トランジスタに流れる電流が少なくなるので、第2の電界効果トランジスタの消費電力が少なくなる。
【0014】
また、請求項2記載の発明に係る定電流駆動発振回路は、前記調整手段を、一端が電源に接続され、かつ他端が前記第1の電界効果トランジスタのバックゲート端子に接続された抵抗、及び一方の極が前記抵抗の他端に接続され、かつ他方の極が前記第2の電界効果トランジスタのゲート端子に接続されたコンデンサで構成している。
【0015】
請求項2の発明によれば、調整手段を、一端が電源に接続され、かつ他端が第1の電界効果トランジスタのバックゲート端子に接続された抵抗、及び一方の極が抵抗の他端に接続され、かつ他方の極が第2の電界効果トランジスタのゲート端子に接続されたコンデンサで構成したので、回路構成を簡単にすることができる。
【0016】
また、請求項3記載の発明に係る定電流駆動発振回路は、一端が前記第2の電界効果トランジスタのゲート端子に接続され、かつ他端が前記第2の電界効果トランジスタの前記第3の端子に接続された帰還抵抗を設けている。
【0017】
請求項3の発明によれば、発振器の出力端から出力された信号が、帰還抵抗を介して発振器の入力端へ入力されるため、継続して発振を行うことができる。
【0018】
また、請求項4記載の発明に係る定電流駆動発振回路は、前記第1の電界効果トランジスタをPチャンネル型電界効果トランジスタで構成し、かつ前記第2の電界効果トランジスタをNチャンネル型電界効果トランジスタで構成している。
【0019】
請求項4の発明によれば、第1の電界効果トランジスタをPチャンネル型電界効果トランジスタで構成し、かつ第2の電界効果トランジスタをNチャンネル型電界効果トランジスタで構成しているため、消費電力を低くすることができる。
【0020】
また、請求項5記載の発明に係る定電流駆動発振回路は、前記発振器を、水晶振動子と、前記水晶振動子の一方の極に接続された第1のコンデンサと、前記水晶振動子の他方の極に接続された第2のコンデンサとで構成している。
【0021】
請求項5の発明によれば、発振器を水晶振動子と、水晶振動子の一方の極に接続された第1のコンデンサと、水晶振動子の他方の極に接続された第2のコンデンサとで構成しているため、発振周波数の異なる水晶振動子を用いた場合にも対応することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように本発明によれば、発振器から出力される信号のレベルが高くなるに従って第1の電界効果トランジスタの閾値電圧を小さくしているので、第2の電界効果トランジスタがオンしたときに第2の電界効果トランジスタへ流れる電流が少なくなり、簡単な回路構成で、かつ少ない消費電流で発振余裕を維持することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施の形態に係る定電流駆動発振回路の回路図である。
【図2】本実施の形態に係る定電流駆動発振回路の波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0025】
図1に示すように、本実施の形態に係る定電流駆動型の発振回路10は、発振器12と増幅部14とバイアス回路16と出力部18とで構成されている。
【0026】
発振器12は、ノードXTB(入力端)から入力された信号を所定の周波数の信号になるように発振させる水晶振動子20、水晶振動子20から出力される信号の発振周波数を調整する2つのコンデンサ22、及びコンデンサ24で構成されている。
【0027】
水晶振動子20の一方の極は、ノードXTBに接続されるとともに、コンデンサ22を介してグランドに接続され、水晶振動子20の他方の極は、ノードXT(出力端)に接続されるとともに、コンデンサ24を介してグランドに接続されている。
【0028】
増幅部14は、P−MOSFET26、N−MOSFET28、抵抗30、直流成分を除去するコンデンサ32、及び帰還抵抗34で構成されている。
【0029】
P−MOSFET26のゲート端子は、バイアス回路16と接続され、ソース端子は、電源VD1と接続され、ドレイン端子は、N−MOSFET28のドレイン端子と接続され、バックゲート端子は、抵抗30を介して電源VD2と接続されると共に、コンデンサ32を介してN−MOSFET28のゲート端子と接続されている。
【0030】
N−MOSFET28のゲート端子は、水晶振動子20の他方の極及びコンデンサ24と接続されると共に、帰還抵抗34の一端と接続され、ドレイン端子は、水晶振動子20の一方の極及びコンデンサ22と接続されると共に、帰還抵抗34の他端と接続され、ソース端子及びバックゲート端子は、グランドに接続されている。
【0031】
出力部18は、P−MOSFET36及びN−MOSFET38で構成されている。
【0032】
P−MOSFET36のゲート端子は、N−MOSFET38のゲート端子と接続されると共に、水晶振動子20の一方の極、コンデンサ22、P−MOSFET26のドレイン端子、N−MOSFET28のドレイン端子、及び帰還抵抗34の他端と接続され、ソース端子は、電源VD3と接続され、ドレイン端子は、N−MOSFET38のドレイン端子と接続されると共に、出力端子と接続されている。
【0033】
N−MOSFET38のソース端子は、グランドに接続されている。
【0034】
ここで、P−MOSFET26のバックゲート端子に入力される電圧をVDとし、P−MOSFET26のソース端子に印加される電圧をVD1とし、P−MOSFET26のソース端子とバックゲート端子との間のダイオード成分の閾値をVfとすると、VD<0でかつ、VD<(VD1−Vf)となった場合に、P−MOSFET26のソース端子とバックゲート端子との間に電流が流れることを防ぐために、VD1<VD2とする。
【0035】
また、ノードXTの電位VXTを電源の電圧VD2を基準にしてVDとして出力するために、抵抗30の抵抗値を高く、例えば100(MΩ)とする。
【0036】
次に、定電流駆動発振回路10の動作について説明する。
【0037】
以下、N−MOSFET28の閾値電圧を所定電圧Vtn、P−MOSFET36及びN−MOSFET38のゲート端子へ入力されるゲート信号をVg、P−MOSFET36及びN−MOSFET38の閾値電圧をV’thとして説明する。
【0038】
バイアス回路16からP−MOSFET26のゲート端子にP−MOSFET26の閾値電圧より低いレベルの信号BH(以下、バイアス信号という。)が入力されると、P−MOSFET26は、オン状態となり、ソース端子に流入した電流がドレイン端子から流出し、ソース端子からドレイン端子にドレイン電流Ibhが流れる。
【0039】
バイアス回路16は、P−MOSFET26のゲート端子へ常に一定レベルのバイアス信号BHを入力するので、閾値電圧が所定電圧Vtnの状態では、P−MOSFET26は常にオン状態となり、常にドレイン電流Ibhが流れる。
【0040】
ドレイン電流Ibhは、コンデンサ22へ流れてコンデンサ22を充電すると共に、水晶振動子20の一方の極に流れる。
【0041】
水晶振動子20の一方の極に流れたドレイン電流Ibhは、水晶振動子20の発振周波数に基いて発振される。
【0042】
水晶振動子20によって発振された信号は、図2に示すように正弦波となり、VXT≦Vtn(Ibh=増加区間)の信号又はVXT>Vtn(Ibh=減少区間)の信号となってノードXTから出力され、帰還抵抗34によって水晶振動子20の一方の極へ帰還されて発振を継続すると共に、P−MOSFET36及びN−MOSFET38のゲート端子へ入力される。
【0043】
VXT≦Vtnの場合、すなわちIbhの増加区間では、コンデンサ32に充電された電荷は、抵抗30と接続された極が正の極性になるので、バック電位VDは、VD=VD2−(+VXT)となる。
【0044】
バック電位VDの値が小さくなるとP−MOSFET26のN型基板の空乏層が狭くなるため、P−MOSFET26の閾値電圧は大きくなり、図2に示すようにP−MOSFET26を流れるドレイン電流Ibhの量が多くなる。
【0045】
ノードXTの電位VXTが帰還抵抗34で反転増幅されてP−MOSFET36及びN−MOSFET38のゲート端子に入力されるので、Vg>V’thとなり、P−MOSFET36がオフ状態になると共に、N−MOSFET38がオン状態になり、出力端子(out)へ出力される信号は、ローレベルとなる。
【0046】
VXT>Vtnの場合、すなわちIbhの減少区間では、N−MOSFET28がオン状態となり、コンデンサ22に充電されていた電荷が放電され、放電電流の一方がP−MOSFETを流れるドレイン電流Ibhと共にグランドに流れ、放電電流の他方が帰還抵抗34を介して水晶振動子20の他方の極に流れる。
【0047】
水晶振動子20の他方の極に流れた放電電流は、水晶振動子20の発振周波数に基いて発振される。
【0048】
発振された信号は、帰還抵抗34によって水晶振動子20の他方の極へ帰還されて発振を継続する。
【0049】
コンデンサ32に充電された電荷は、抵抗30と接続された極が負の極性になるので、バック電位VDは、VD=VD2−(−VXT)となる。
【0050】
バック電位VDの値が大きくなるとP−MOSFET26のN型基板の空乏層が広がるため、P−MOSFET26の閾値電圧は小さくなり、図2に示すように、P−MOSFET26を流れるドレイン電流Ibhの量が少なくなる。
【0051】
ノードXTBの電位VXTBがP−MOSFET36及びN−MOSFET38のゲート端子に入力されるので、V’th>Vgとなり、P−MOSFET36がオン状態になると共に、N−MOSFET38がオフ状態になり、出力端子から出力される信号は、ハイレベルになる。
【0052】
以上説明したように、本実施の形態に係る定電流駆動発振回路は、増幅部のPチャンネル型電界効果トランジスタの閾値電圧を発振器から出力される信号のレベルが高くなるに従って小さくしているので、簡単な回路構成で、かつ少ない消費電流で発振器の発振余裕を維持することができる。
【0053】
なお、本実施の形態では、水晶振動子20を用いた場合を説明したが、セラミック振動子、CR発振回路、及びLC発振回路を用いてもよい。
【符号の説明】
【0054】
10 定電流駆動発振回路
12 発振器
14 増幅部
16 バイアス回路
18 出力部
20 水晶振動子
22 コンデンサ
24 コンデンサ
26 Pチャンネル型MOS−FET
28 Nチャンネル型MOS−FET
30 抵抗
32 コンデンサ
34 帰還抵抗
36 Pチャンネル型MOS−FET
38 Nチャンネル型MOS−FET

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端と他端とを有する発振器と、
ゲート端子に第1の閾値電圧より低いレベルの信号が入力されてオンしたときに、第1の端子から流入した電流を第2の端子から流出する第1の電界効果トランジスタと、
前記第2の端子及び前記発振器の一端に接続された第3の端子、及び前記発振器の他端に接続されたゲート端子を備え、該ゲート端子に前記発振器から出力され、かつ第2の閾値電圧より高いレベルの信号が入力されてオンしたときに、前記第3の端子から流入した電流を第4の端子から流出する第2の電界効果トランジスタと、
前記第1の電界効果トランジスタがオンする際の前記第1の閾値電圧を前記発振器から出力された信号のレベルに応じて調整する調整手段と、
を備えた定電流駆動発振回路。
【請求項2】
前記調整手段を、一端が電源に接続され、かつ他端が前記第1の電界効果トランジスタのバックゲート端子に接続された抵抗、及び一方の極が前記抵抗の他端に接続され、かつ他方の極が前記第2の電界効果トランジスタのゲート端子に接続されたコンデンサで構成した請求項1記載の定電流駆動発振回路。
【請求項3】
一端が前記第2の電界効果トランジスタのゲート端子に接続され、かつ他端が前記第2の電界効果トランジスタの前記第3の端子に接続された帰還抵抗を設けた請求項1又は請求項2記載の定電流駆動発振回路。
【請求項4】
前記第1の電界効果トランジスタをPチャンネル型電界効果トランジスタで構成し、かつ前記第2の電界効果トランジスタをNチャンネル型電界効果トランジスタで構成した請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の定電流駆動発振回路。
【請求項5】
前記発振器を、水晶振動子と、前記水晶振動子の一方の極に接続された第1のコンデンサと、前記水晶振動子の他方の極に接続された第2のコンデンサとで構成した請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の定電流駆動発振回路。

【図1】
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【図2】
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