説明

実質的に動物性タンパク質を含まない組換えフリンおよび実質的に動物性タンパク質を含まない組換えフリンを作製するための方法

本発明は、組換えフリン(rFurin)およびrFurinの作製方法に関する。より詳しくは、本発明は、実質的に動物性タンパク質を含まないrFurinおよび実質的に動物性タンパク質を含まないrFurinの作製方法に関する。かかるrFurinは、通常rFurinの作製に関係し得る他のタンパク質(血清タンパク質および宿主細胞タンパク質など)を実質的に含まない。このrFurinにより、高比活性および高純度を有し、rFurin調製物中のタンパク質夾雑物に関連する副次的悪影響のない成熟タンパク質を後に作製することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2007年12月31日に出願された米国仮特許出願第61/018,152号の優先権を主張する。米国仮特許出願第61/018,152号は、その全体が本明細書中に参考により援用される。
【0002】
本発明は、一般的に、組換えフリン(rFurin)およびrFurinの作製方法に関する。より詳しくは、本発明は、実質的に動物性タンパク質を含まないrFurin、および実質的に動物性タンパク質を含まないrFurinの作製方法に関する。
【背景技術】
【0003】
活性タンパク質または成熟タンパク質は、通常、生きている生物体には非常に少ない量で存在している。したがって、好ましくは、そのプロタンパク質またはプロ酵素を、活性化酵素(例えば、プロテアーゼ)と接触させることにより、インビトロで活性化させる。プロタンパク質(またはタンパク質前駆体)は不活性なタンパク質であり、1回以上の翻訳後修飾によって、特に、該プロタンパク質からのプロペプチドの切断によって活性となる。プロタンパク質の例としては、例えば、プロインスリン、プロトロンビン、プロフォンヴィレブランド因子(プロVWF)などが挙げられる。
【0004】
フォンヴィレブランド因子(VWF)は、凝固に関与している血液糖タンパク質である。VWFは、フォンヴィレブランド病において欠乏または欠損しており、非常の多くの他の疾患、例えば、血栓性血小板減少性紫斑病、ハイド症候群、および場合によっては溶血性尿毒症症候群に関与している。VWFは、約500〜20,000kDの範囲の大きさの一連の多量体として血漿中を循環している糖タンパク質である。VWFの多量体形態は、250kDのポリペプチドサブユニットが互いにジスルフィド結合によって連結されて構成されている。VWFは、損傷血管壁の内皮下層への初期の血小板付着を媒介し、VWFの大型多量体のみが止血活性を示すと考えられている。大きな分子量を有するVWF多量体は、内皮細胞のヴァイベル−パラーデ(Pallade)小体内に貯蔵されており、刺激を受けると遊離する。遊離したVWFは、次いで、血漿プロテアーゼによってさらにプロセッシングされ、VWFの低い分子量形態が生じる。
【0005】
ヒトでは、プロペプチドの除去はほぼ完全であるが、高レベルの組換えVWF発現を有する哺乳動物細胞株では、このプロセスはあまり効率的ではない。したがって、かかる組換え細胞株由来の細胞培養上清みは、通常、成熟VWFと、VWF前駆体(プロVWFなど)の混合物を含む。したがって、成熟VWFが得られるためには、VWF前駆体、特にプロVWFが成熟VWFに変換されることが必要である。このプロセスは、通常、プロペプチドをプロテアーゼで切断することによりなされる。
【0006】
現行の慣用的な方法では、プロ形態をプロテアーゼとともに液相中でインキュベートし、それにより成熟それ自体(すなわち、プロタンパク質からのプロペプチドの切断)を非結合状態の遊離溶液中で行なうこと、または、例えば特許文献1に記載のように、プロテアーゼを固相担体上に固定化し、これを、プロVWFを含む調製物と接触させ、該調製物とともにインキュベートすること(例えば、特許文献1参照)のいずれかにより成熟VWFが生成される。しかしながら、これらの方法は、本発明による方法と比べて種々の不都合点を含む。
【0007】
産業的には、VWFおよび、特に組換えVWF(rVWF)を、遺伝子操作したチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株内で組換え第VIII因子(rFVIII)とともに合成および発現させる。共発現rVWFの機能は、細胞培養プロセスにおいてrFVIIIを安定させることである。rVWFは該細胞内で、N末端に結合された大型プロペプチドを含むプロ形態で合成される。小胞体およびゴルジ装置内で成熟すると、プロペプチドが、細胞内プロテアーゼであるフリンの作用によって切断され、成熟タンパク質が、発現タンパク質の二量体からなる同一サブユニットのホモポリマーとして分泌される。しかしながら、この成熟は、典型的には不完全であり、プロVWFと成熟VWFの混合物を含む生成物がもたらされる。
【0008】
先の刊行物では、プロVWFが成熟VWFに、フリン(furin)またはフリン様プロテアーゼでのインビトロ処理によって変換され得ることが示されている(非特許文献1;非特許文献2;およびEP0775750A)。特に、EP0775750Aでは、フリンとVWFを組換えにより共発現させると、VWFの成熟がインサイチュで起こり得ることが示唆されている。
【0009】
組換えフリン(rFurin)は、プロrVWF(プロ組換えフォンヴィレブランド因子)を、Arg741−Ser742ペプチド結合を切断することによりrVWFに変換させる。この成熟工程は、フォンヴィレブランド病B型の処置のためのrVWF作製プロセスの一部であり、組換え第VIII因子−半減期(rFVIII−HL)の製造プロセスの一部である。フリンは、プロタンパク質コンバターゼファミリーに属し、カルシウム(Ca2+)に依存性である。フリンは、−1位と-4位にアルギニンを含む特定の配列内のアルギニンのC末端ペプチド結合を特異的に切断する。この配列は数多くのヒトタンパク質に見られ得、これは、フリンがいくつかのヒトプロタンパク質の成熟に主要な役割を果たしていることを示す。
【0010】
活性化型タンパク質の作製は、臨床上および診断上、非常に重要である。例えば、活性タンパク質または成熟タンパク質(成熟VWFなど)は、血液凝固を制御するために使用され得る。本発明は、活性化型タンパク質を後に作製するための実質的に動物性タンパク質を含まないrFurinである改善された組換えフリン(rFurin)を提供する。より詳しくは、本発明は、プロVWFを成熟VWFに変換させるための実質的に動物性タンパク質を含まないrFurinを提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第00/49047号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Schlokatら、Biotechnol.Appl.Biochem.24:257−267,1996
【非特許文献2】Preiningerら、Cytotechnology 30:1−15,1999
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、実質的に動物性タンパク質を含まない組換えフリン(rFurin)である組換えフリン(rFurin)、およびその作製方法を提供する。かかるrFurinは、通常rFurinの作製に関係し得る他のタンパク質(血清タンパク質および宿主細胞タンパク質など)を実質的に含まない。このrFurinにより、高比活性および高純度を有し、rFurin調製物中のタンパク質夾雑物に関連する副次的悪影響のない成熟タンパク質を後に作製することが可能になる。より詳しくは、このrFurinにより、高比活性および高純度を有する成熟VWFを作製することが可能になる。したがって、本発明は、組換え宿主細胞の選択および化学的に規定される培地への適応、rFurinの発現および細胞培養上清み中への分泌、ならびに細胞除去後のrFurinの精製のための方法を提供する。
【0014】
本発明の実質的に動物性タンパク質を含まないrFurinは、約0.1〜0.6ng タンパク質/単位フリン活性もしくはそれ未満の、または約2〜11μg タンパク質/mLもしくはそれ未満の範囲の濃度の宿主細胞タンパク質を含み、培養培地中の血清由来の夾雑タンパク質が本質的にないrFurinの調製物または組成物を包含する。一態様において、実質的に動物性タンパク質を含まないrFurinは、約0〜0.4pg DNA/単位フリン活性もしくはそれ未満の、または約0〜24ng DNA/mLもしくはそれ未満の濃度の夾雑宿主細胞DNAを含み、培養培地中の血清由来の夾雑タンパク質が本質的にないrFurinの調製物を包含する。
【0015】
本発明は、少なくとも10000Uフリン/mLの活性の実質的に動物性タンパク質を含まない組換えフリン、および約11μg タンパク質/mL未満の濃度の宿主細胞タンパク質を含む組成物を包含する。また、かかる組成物は、約1.0ng タンパク質/Uフリン活性未満の濃度の宿主細胞タンパク質を含むものであってもよい。一態様において、宿主細胞タンパク質はCHO細胞由来のものである。
【0016】
別の態様において、本発明は、少なくとも10000Uフリン/mLの活性の実質的に動物性タンパク質を含まない組換えフリン、および約14ng DNA/mL未満の濃度の宿主細胞DNAを含む組成物を包含する。種々の態様において、かかる組成物はまた、約0.5pg DNA/Uフリン活性未満の濃度の宿主細胞DNAを含むものであってもよい。一態様において、宿主細胞DNAはCHO細胞由来のものである。
【0017】
また、本発明は、少なくとも約100U/μgのフリン比活性の実質的に動物性タンパク質を含まない組換えフリン、および約11μg タンパク質/mL未満の濃度の宿主細胞タンパク質を含む組成物を包含する。また、かかる組成物は、約1.0ng タンパク質/Uフリン活性未満の濃度の宿主細胞タンパク質を含むものであってもよい。一態様において、宿主細胞タンパク質はCHO細胞由来のものである。
【0018】
さらに、本発明は、少なくとも約100U/μgのフリン比活性の実質的に動物性タンパク質を含まない組換えフリン、および約14ng DNA/mL未満の濃度の宿主細胞DNAを含む組成物を包含する。また、かかる組成物は、約0.5pg DNA/Uフリン活性未満の濃度の宿主細胞DNAを含むものであってもよい。一態様において、宿主細胞DNAはCHO細胞由来のものである。
【0019】
また、本発明は、本明細書に記載の実質的に動物性タンパク質を含まない組換えフリンを含む組成物の作製方法を包含する。かかる方法は、宿主細胞を培地中で、血清濃度をだんだん低下させながら、すべての血清が該培地から除去されるまで適応させる工程を含む。別の態様において、該方法は、宿主細胞を、血清を含む培地中での培養から無血清培地中での培養に移す工程を含む。例示的な態様において、宿主細胞はCHO細胞である。
【0020】
本発明は、本明細書に記載の実質的に動物性タンパク質を含まない組換えフリンを含む組成物の使用方法を包含する。かかる使用は、プロタンパク質を該組成物と、該プロタンパク質からプロペプチドが切断されて成熟タンパク質が形成される条件下で接触させる工程を含む。rFurinは、フリンによって切断されるプロタンパク質からの任意の成熟タンパク質の形成に使用され得る。一態様において、成熟タンパク質はフォンヴィレブランド因子である。別の態様では、成熟タンパク質は第VIII因子である。また、本発明では、本発明のrFurinが、これによって切断される任意のプロタンパク質のインビトロプロセッシングとインビボプロセッシングの両方に有用であることが想定される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本発明のさらなる実例を、添付の図面を参照しながら示す。該実例を以下の図1〜18に示す。
【図1】図1は、本発明の一実施形態における発現活性rFurinプロテアーゼ構築物を示す。rFurin構築物は、Cysリッチ膜貫通ドメインと細胞質ゾルドメインが除去されるようにC末端のAA577が切断されている。
【図2】図2は、CHO/rFurinクローン#488−3の作製の系図を示す。
【図3】図3は、CHO/rFurinクローン#289−20の作製の系図を示す。
【図4】図4は、PMCB#01およびPMCB#04の細胞集団におけるrFurin産生細胞のグラフによる分布の比較を示す。PMCB#04の細胞の80.74%がrFurinを発現し、PMCB#01の細胞の74.06%がrFurinを発現している。
【図5】図5は、5つの温度を3つのpH値と組み合わせて温度とpHの7つの組み合わせを得た「Doehlertマトリックス」を示す。
【図6】図6は、容積生産性(volumetric productivity)に関するデータの表面プロット解析を示す。図6のデータの座標を点で示す。表面は、単一データの推定相関を示す。
【図7】図7は、容積生産性に対する温度とpHの影響を示すコンタープロットを示す。点は、実験で試験した条件(pH/温度)を示す。
【図8】図8は、容積生産性に対して温度の影響が強く、pHの影響が弱いことを示す3次元表示である表面プロットを示す。
【図9】図9は、モデル型相関を3次元的に示す表面プロットを示す;これは、二次方程式の関係を示し、36.5℃で増殖速度が最大であることを明白に示す。
【図10】図10は、比生産性に関するデータの解析を示す。温度およびpHと比生産性との相関は、容積生産性で見られたものと同様である。
【図11】図11は、温度を37℃から35.1℃に下げることにより、容積生産性がおよそ200kU/L/dから540kU/L/dに上昇し得ることを示す。
【図12】図12は、rFurinのSDS−pageおよび銀染色を示す。キャンペーン(campaign)ORFU06002とORFU07002のCapto−MMC溶出液のバンドパターンは、高度に相関している;試料はすべて、およそ60kDaに顕著なFurinバンドを示す。キャンペーンORFU06002の試料のバッチMMC01〜MMC08では、Furinバンドがわずかに小さい分子量である傾向が見られる(図12、レーン1〜8)。
【図13】図13は、モノクローナル抗Furin抗体を用いた試料のウエスタンブロット解析を示す。
【図14】図14は、キャンペーンORFU06002のrFurin試料の等電点電気泳動(IEF)およびその後のウエスタンブロットによるrFurinの特異的バンドパターンを示す。
【図15】図15は、キャンペーンORFU07002のrFurin試料の等電点電気泳動(IEF)およびその後のウエスタンブロットによるrFurinの特異的バンドパターンを示す。
【図16】図16は、キャンペーンORFU07002のrFurin試料の等電点電気泳動(IEF)およびその後のウエスタンブロットによるrFurinのウエスタンブロットの結果を示す。
【図17】図17は、キャンペーンORFU06002(Capto−MMC溶出液)の試料のFurin逆相HPLCを示す。rFurinのフィンガープリントパターンを確立するため、試料をC4 RP−HPLCにより試験した。
【図18】図18は、キャンペーンORFU07002(Capto−MMC溶出液)の試料のFurin逆相HPLCを示す。rFurinのフィンガープリントパターンを確立するため、試料をC4 RP−HPLCにより試験した。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、無血清培地中で培養でき、かつ活性な組換えフリン(rFurin)を細胞培養上清み中に分泌することができる組換え宿主細胞株の開発と作製に関する。組換えフリンをコードするプラスミドのトランスフェクションに選択される宿主細胞株は、一態様において、組換え第VIII因子および組換えVWFの発現に使用されるものと同じである。得られたrFurinは、次いで、動物性タンパク質を実質的に含まないように精製される。
【0023】
フリンは、PACE、PACE4、PC1/PC3、PC2、PC4およびPC5/PC6としても知られており、プロタンパク質の切断、特に分泌型合成に重要な役割を果たしているサブチリシン様セリンプロテアーゼ群に属する(Van de Venら、Crit.Rev.Oncogen.4:115−136,1993)。プロタンパク質は、翻訳後、ゴルジ装置内で内在プロテアーゼにより、その成熟形態に細胞内プロセッシングされる。プロテアーゼ切断部位は、アミノ酸配列Arg−X−Lys/Arg−Argを特徴とする認識配列を含む。プロテアーゼであるフリンはプロタンパク質を、このコンセンサス配列の後ろで特異的に切断する(Hosakaら、J.Biol.Chem.266:12127−12130,1991)。
【0024】
ヒトおよびマウスのフリン、ならびにサブチリシン様プロテアーゼ機能を有するさらなるタンパク質のDNA配列およびアミノ酸配列が同定されている(Roebroekら、Mol.Biol.Rep.11:117−125,1986;Roebroekら、EMBO J.5:2197−2202,1986;Barrら、DNA Cell Biol.10:319−328,1991;Van den Ouwelandら、Nucleic Acids Res.17:7101−7102,1989;Van den Ouwelandら、Nucleic Acids Res.18:664,1990;Smeekensら、1990,J.Biol.Chem.265:2997−3000;Smeekensら、Proc.Natl.Acad.Sci USA.88;340−344,1991;Kieferら、DNA Cell Biol.10:757,1991;Nakayamaら、J.Biol.Chem.267:5897−5900,1992;およびHatsuzawaら、J.Biol.Chem.265:22075−22078,1990)。ヒトフリン遺伝子は、794個のアミノ酸からなるタンパク質をコードしており、一部の特定の機能は、個々の特徴的領域:触媒中心、中央ドメイン、シスチンリッチ領域、膜貫通ドメイン、および細胞質ドメインに割り当て可能である(Van de Venら、Crit.Rev.Oncogen.4:115−136,1993)。一態様において、ヒトフリンポリペプチドは、GenBank受託番号:EAX02111に示されたものである(米国立バイオテクノロジー情報センター、米国立医学図書館、ベテスダ、MD)。しかしながら、当業者には、フリンの生物学的活性、すなわち、プロタンパク質を切断する(例えば、プロVWFを切断して成熟VWFを生成させる)能力を有する任意のタンパク質が、本明細書に記載の方法によって作製され得ることが認識されよう。
【0025】
インタクトなフリンは、ゴルジ装置の膜系内に組み込まれ、そこで機能的に活性となる(Bresnahanら、J.Cell Biol.111:2851−2859,1990)。75〜80kDの過剰発現天然フリンの切断形態は、細胞上清み中に、分泌型タンパク質として検出され得る(Wiseら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:9378−9382,1990)。この天然に分泌されるフリンは、「流入型(shed)フリン」として知られており(Vidricaireら、Biochem.Biophys.Res.Comm.195:1011−1018,1993)、N末端側で膜貫通部分が切断されている(Veyら、J.Cell Biol.127:1829−1842,1994)。
【0026】
また、遺伝子操作による切断型フリン(膜貫通ドメインと細胞質ドメインのコード部分を欠失させたもの)を発現させ、相応して分泌させることができる。かかるN末端欠失は、アミノ酸714〜794(Leducら、J.Biol.Chem.267:14304−14308,1992,Molloyら、J.Biol.Chem.267:16396−16402,1992);アミノ酸716〜794(”SoI−PACE”)(Wasleyら、J.Biol.Chem.268:8458−8465,1993;およびRehemtullaら、Blood 79:2349−2355,1992);ならびにアミノ酸705〜794(Hatsuzawaら、J.Biol.Chem.267:16094−16099,1992)について報告されている。また、シスチンリッチ領域の欠失をさらに含むフリン変異型も報告されている(Hatsuzawaら、J.Biochem.101:296−301,1992;Creemersら、J.Biol.Chem.268:21826−21834,1993)。
【0027】
フリンの細胞内タンパク質分解の活性、およびその塩基性アミノ酸に対する選択性は、最初に、プロフォンヴィレブランド因子(プロvWF)を用いて実験において測定された。プロvWFは、741個のアミノ酸を有するプロポリペプチドと、2050個のアミノ酸を有する成熟フォンヴィレブランド因子(vWF)からなる(Verweijら、EMBO J.5:1839−1847,1986)。プロvWFからの成熟vWFの遊離は、Arg763より後ろのタンパク質分解性切断によって起こる。真核生物用発現ベクター内のプロvWF cDNAでのトランスフェクションにより、細胞培養上清み中に、等モル量の360kDのプロvWFと260kDの成熟vWFの生成がもたらされる。おそらく、vWFは、トランスフェクト細胞内で内因的に存在するフリンにより、その成熟形態にプロセッシングされる(Wiseら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:9378−9382,1990,Van de Venら、Mol.Biol.Rep.14:265−275,1990)。
【0028】
中でも、それぞれフリンまたはサブチリシン様酵素によって切断されるさらなるプロタンパク質は、一連のホルモンおよび増殖因子(例えば、プロアクチビンA、肝細胞増殖因子)、血漿タンパク質(アルブミン、第VII因子、第IX因子、第X因子)、受容体(インスリンプロ受容体)、ウイルスタンパク質(例えば、HIV−1 gp160、インフルエンザウイルス血球凝集素)ならびに細菌タンパク質(ジフテリア毒素、炭疽毒素)である(Decrolyら、J.Biol.Chem.269:12240−12247,1994;Stieneke−Groberら、EMBO J.11:2407−2414,1992;Barr,Cell 66:1−3,1991,Wasleyら、J.Biol.Chem.268:8458−8465,1993;Klimpelら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10277−10281,1992;Tsuneokaら、J.Biol.Chem.268:26461−26465,1993;Bresnahanら、J.Cell.Biol.111:2851−2859,1990;Hosakaら、J.Biol.Chem.266:12127−12130,1991;およびVeyら、J.Cell.Biol.127:1829−1842,1994)。本発明のrFurinは、このようなプロタンパク質の切断における使用も想定される。
【0029】
真核生物細胞培養物中でのインタクトなフリンおよびプロタンパク質をコードする核酸配列の共発現により、プロタンパク質のプロセッシングの増大がインビボで達成された。これは、例えば、プロ第IX因子(Wasleyら、J.Biol.Chem.268:8458−8465,1993)ならびにプロvWF(WO91/06314;Van de Venら、Mol.Bio.Rep.14:265−275,1990;およびRehemtullaら、Blood 79:2349−2355,1992)で示されている。本発明では、本発明のrFurinが、これによって切断される任意のプロタンパク質のインビトロプロセッシングとインビボプロセッシングの両方に有用であることが想定される。
【0030】
インタクトなフリンとプロタンパク質との共発現の他に、切断型フリンがプロタンパク質とともに発現された。フリン欠失変異型は、インビボで分泌型として共発現させると、酵素的に活性であることが示されている;かかる欠失変異型の酵素活性は、とりわけ、プロ第IX因子(Wasleyら、J.Biol.Chem.268:8458−8465,1993)およびプロvWF(Rehemtullaら、Blood 79:2349−2355,1992)のプロセッシングにおいて検出され得た。フリン欠失変異型を用いた共発現実験により、該タンパク質の膜貫通部分と細胞質部分は、触媒機能に必須ではないことが示された(Rehemtullaら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:8235−8239,1992)。
【0031】
WO91/06314には、原核生物細胞および真核生物細胞におけるフリンの組換え発現、フリン融合タンパク質、欠失変異型および断片の調製、組換えにより調製されたフリンの精製、ならびにインビトロでのプロタンパク質のプロセッシングのための精製フリンの使用の潜在性が、一般的に開示されている。WO92/09698には、PACE(フリン)の発現、不活性なタンパク質前駆体(例えば、プロvWFなど)との共発現、ならびに融合タンパク質の調製が記載されている。Stieneke−Groberら(EMBO J.11:2407−2414,1992)には、精製フリンによるインフルエンザウイルスHAタンパク質のインビトロ切断が記載されている。Decrolyら(J.Biol.Chem.269:12240−12247,1994)には、フリンによるHIV gp160のインビトロ切断が記載されている。
【0032】
C末端が短縮されたフリンを用いた実験において、プロアルブミンおよび相補プロC3(Odaら、Biochem.Biophys.Res.Commun.189:1353−1361,1992)、炭疽毒素(Klimpelら、Proc.Natl.Acad.Sci USA 89:10277−10281,1992)、ジフテリア毒素(Tsuneokaら、J.Biol.Chem.268:26461−26465,1993)ならびにプロ第IX因子(Wasleyら、J.Biol.Chem.268:8458−8468,1993,Bristolら、Biochemistry 33:14136−14143,1994)の切断が、インビトロで好成績で行なわれた。
【0033】
したがって、本発明のrFurinは、上記のプロタンパク質のインビボおよびインビトロでのプロセッシングにおける使用が想定される。一態様において、本発明のrFurinは、プロVWFおよびプロ第IX因子のインビトロプロセッシングに特に有用である。しかしながら、その使用は、前記タンパク質のプロセッシングに対する限定を解釈されるべきではない。さらなる態様において、本発明のrFurinは、組換えプロタンパク質のインビトロプロセッシングに特に有用である。
【0034】
本発明のさらなる態様は、プロvWFとrFurinを発現する細胞の共培養である。
したがって、細胞培養上清み(supernantant)中のプロvWFは、やはり細胞培養上清み中に存在するrFurinによってインビトロで切断されて活性形態となる。プロセッシングされたvWFは、続いて、米国特許第6,210,929号(引用により本明細書に組み込まれる)に論考されているようにして培養液から単離され、精製される。共培養では、すべて共通の発現系を使用してもよく、プロvWFとrFurinの発現に種々の系を互いに組み合わせてもよい。一態様において、同じ起源の宿主細胞内でプロvWFとrFurinの両方が発現させる発現系が使用される。
【0035】
用語「宿主細胞」は、形質転換された細胞、または核酸配列により形質転換され得、次いで対象の選択遺伝子を発現し得る細胞をいうために用いる。該用語は、親細胞の子孫を包含する(選択遺伝子が存在している限り、該子孫が元の親と形態構造または遺伝子構成が同一であっても、そうでなくても)。
【0036】
本発明は、組換えタンパク質作製のための当該技術分野で知られた任意の宿主細胞または宿主を包含する。したがって、本発明における細胞は、任意の供給源に由来するものであり得る。一態様において、本発明は、真核生物および原核生物の宿主細胞を包含する。別の態様では、本発明は、植物細胞、動物細胞、魚類細胞、両生類細胞、鳥類細胞、昆虫細胞、および酵母細胞を包含する。一態様において、例示的な酵母細胞としては、ピキア属(例えば、P.pastoris)、およびサッカロミセス属(例えば、S.cerevisiae)、ならびにSchizosaccharomyces pombe、Kluyveromyces、K.Zactis、K.fragilis、K.bulgaricus、K.wickeramii、K.waltii、K.drosophilarum、K.thernotolerans、およびK.marxianus;K.yarrowia;Trichoderma reesia、Neurospora crassa、Schwanniomyces、Schwanniomyces occidentalis、Neurospora、Penicillium、Totypocladium、Aspergillus、A.nidulans、A.niger、ハンセヌラ属、カンジダ属、クロエケラ属、トルロプシス属、およびロドトルラ属が挙げられる。例示的な昆虫細胞としては、Autographa californicaおよびヨトウガ(Spodoptera frugiperda)、ならびにショウジョウバエ属が挙げられる。
【0037】
さらなる態様において、宿主細胞は、哺乳動物細胞、例えば、一次上皮細胞(例えば、ケラチノサイト、頸部上皮細胞、気管支上皮細胞、気管上皮細胞、腎臓上皮細胞および網膜上皮細胞)ならびに確立された細胞株およびその諸系統(例えば、293胚性腎臓細胞、BHK細胞、HeLa頸上皮細胞およびPER−C6網膜細胞、MDBK(NBL−1)細胞、911細胞、CRFK細胞、MDCK細胞、CHO細胞、BeWo細胞、Chang細胞、Detroit 562細胞、HeLa 229細胞、HeLa S3細胞、Hep−2細胞、KB細胞、LS 180細胞、LS 174T細胞、NCI−H−548細胞、RPMI 2650細胞、SW−13細胞、T24細胞、WI−28 VA13、2RA細胞、WISH細胞、BS−C−I細胞、LLC−MK細胞、クローンM−3細胞、1−10細胞、RAG細胞、TCMK−1細胞、Y−1細胞、LLC−PKi細胞、PK(15)細胞、GH細胞、GH細胞、L2細胞、LLC−RC 256細胞、MH細胞、XC細胞、MDOK細胞、VSW細胞、ならびにTH−I、B1細胞、もしくはその誘導体細胞)、任意の組織または器官(例えば、限定されないが、心臓、肝臓、腎臓、結腸、腸、食道、胃、神経組織(脳、脊髄)、肺、血管組織(動脈、静脈、毛細管)、リンパ系組織(リンパ腺、アデノイド、扁桃、骨髄、および血液)、脾臓由来の線維芽細胞、ならびに線維芽細胞株および線維芽様細胞株(例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、TRG−2細胞、IMR−33細胞、Don細胞、GHK−21細胞、シトルリン血症細胞、Dempsey細胞、Detroit 551細胞、Detroit 510細胞、Detroit 525細胞、Detroit 529細胞、Detroit 532細胞、Detroit 539細胞、Detroit 548細胞、Detroit 573細胞、HEL 299細胞、IMR−90細胞、MRC−5細胞、WI−38細胞、WI−26細胞、MiCl細胞、CV−1細胞、COS−1細胞、COS−3細胞、COS−7細胞、Vero細胞、DBS−FrhL−2細胞、BALB/3T3細胞、F9細胞、SV−T2細胞、M−MSV−BALB/3T3細胞、K−BALB細胞、BLO−11細胞、NOR−10細胞、C.sub.3H/IOTI/2細胞、HSDM細胞、KLN205細胞、McCoy細胞、マウスL細胞、2071系統(マウスL)細胞、L−M系統(マウスL)細胞、L−MTK(マウスL)細胞、NCTCクローン2472および2555、SCC−PSA1細胞、Swiss/3T3細胞、Indian muntjac細胞、SIRC細胞、C.sub.ll細胞、ならびにJensen細胞、またはその誘導体細胞)である。
【0038】
例示的な哺乳動物細胞としては、さまざまなCHO、BHK、HEK−293、NS0、YB2/3、SP2/0細胞、およびヒト細胞(PER−C6またはHT1080など)、ならびにVERO、HeLa、COS、MDCK、NIH3T3、Jurkat、Saos、PC−12、HCT 116、L929、Lkt−、WI38、CV1、TM4、W138、Hep G2、MMT、白血病細胞、胚性幹細胞または受精卵細胞が挙げられる。本発明の一態様において、例示的な宿主細胞はCHO細胞である。本発明のさらなる態様において、CHO細胞を浮遊培養するための培地が使用される。
【0039】
宿主細胞は、当該技術分野で知られたさまざまな様式で、例えば限定されないが、所望のタンパク質をコードする外来核酸の挿入(任意選択で、発現ベクターの一部として)、所望のタンパク質をコードする宿主細胞の内在遺伝子の発現の増大が引き起こされるような外来発現制御配列の挿入、または所望のタンパク質をコードする内在遺伝子の発現を増大させる宿主細胞の内在発現制御配列(1つもしくは複数)の活性化によって、タンパク質を発現するように操作されたものであってもよい。
【0040】
宿主細胞の培養物は、当該技術分野で知られた任意の方法に従って調製され得、かかる宿主細胞の培養方法および該細胞によって産生された組換えタンパク質の回収方法(該細胞から、または培養培地からのいずれであれ)は、当該技術分野で知られている。かかる培養方法は、培養培地に、タンパク質産生の化学的誘導因子を添加することを伴うものであり得る。例示的な宿主細胞および手順を後述する。
【0041】
フリンポリペプチドをコードする核酸は、適切な発現ベクター内に、標準的な分子生物学的手法を用いて挿入される。一態様において、該核酸は、GenBank受託番号:EAX02111(米国立バイオテクノロジー情報センター、米国立医学図書館、ベテスダ、MD)に示されたヒトフリンポリペプチドをコードするものであるが、当業者には、フリンの生物学的活性、すなわち、プロVWFを切断して成熟VWFを生成させる能力を有する任意のタンパク質が本明細書に記載の方法によって作製され得ることが認識されよう。さらなる態様において、C末端が切断された完全分泌型rFurinを、シスチンリッチドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含むアミノ酸578〜794をコードするヌクレオチドを欠失させることにより設計した。なおさらなる態様において、精製プロセスを補助するためにアミノ酸テイルを付加してもよい。また別の態様では、10ヒスチジン残基テイルを、アミノ酸577(フレキシブルリンカーとしての機能を果たす介在する4グリシン残基伴う、または伴わない)の後ろに付加した。
【0042】
発現ベクターには、任意選択で、プロモーター、1つ以上のエンハンサー配列、複製起点、転写終結配列、ドナーおよびアクセプタースプライス部位を含む完全なイントロン配列、ポリペプチド分泌のリーダー配列またはシグナル配列をコードする配列、リボソーム結合部位、ポリアデニル化配列、発現対象のポリペプチドをコードする核酸の挿入のためのポリリンカー領域、および/または選択可能マーカーエレメントを含めてもよい。これらの各配列は、後で論考する。
【0043】
任意選択で、ベクターに「タグ」コード配列(すなわち、フリンポリペプチドコード配列の5’または3’末端に存在させたオリゴヌクレオチド配列;該オリゴヌクレオチド分子はポリHis(ヘキサHisなど)をコードする)を含めてもよく、市販の抗体を存在させるための別の「タグ」、例えば、FLAG、HA(血球凝集素インフルエンザウイルス)またはmycなどを含めてもよい。このタグは、典型的には、該ポリペプチドを発現させると該ポリペプチドに融合されており、宿主細胞からのフリンポリペプチドの検出またはアフィニティ精製のための手段としての機能を果たし得る。
【0044】
好適なベクターとしては、限定されないが、コスミド、プラスミド、または修飾ウイルスが挙げられるが、ベクター系は、選択した宿主細胞と適合性でなければならないことは認識されよう。一態様において、ベクターはプラスミドである。さらなる態様では、プラスミドはpUC系クローニングベクターである。本発明において使用され得る他のベクターとしては、発現ベクター、複製ベクター、プローブ作製ベクター、配列決定ベクター、およびレトロウイルスベクターが挙げられる。本発明で想定されるベクターとしては、限定されないが、組換えバクテリオファージ、プラスミド、ファージミドもしくはコスミドDNA発現ベクターで形質転換された微生物(細菌など);酵母発現ベクターで形質転換された酵母;ウイルス発現ベクター(例えば、バキュロウイルス)に感染させた昆虫細胞系;ウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス,CaMV;タバコモザイクウイルス,TMV)でトランスフェクトした、または細菌l発現ベクター(例えば、TiもしくはpBR322プラスミド)で形質転換した植物細胞系;さらには動物細胞系が挙げられる。
【0045】
哺乳動物系発現ベクターは、典型的には、複製起点、適当なプロモーター、また、任意の必要なリボソーム結合部位、ポリアデニル化部位、スプライスドナーおよびアクセプター部位、転写終結配列、ならびに5’フランキング非転写配列を含む。SV40ウイルスゲノムに由来するDNA配列、例えば、SV40起点、初期プロモーター、エンハンサー、スプライスおよびポリアデニル化部位は、必要とされる発現制御エレメントを提供するために使用され得る。例示的な真核生物系ベクターとしては、pcDNA3、pWLneo、pSV2cat、pOG44、PXTI、pSG(Stratagene)pSVK3、pBPV、pMSG、pSVL、およびpVITRO3が挙げられる。
【0046】
核酸は宿主細胞内に、当該技術分野で知られた任意の手段によって、例えば、DNAのリポソーム媒介性導入、受容体媒介性導入(リガンド−DNA複合体)、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、細胞融合、DEAE−デキストラン、塩化カルシウム、リン酸カルシウム沈降、微粒子ボンバードメント、ウイルスベクターでの感染、リポフェクション、トランスフェクション、または相同組換えによって導入することができる。
【0047】
用語「形質転換された」または「トランスフェクトされた」は、本明細書で用いる場合、宿主細胞が外来ポリヌクレオチドを含むように変更されていることをいい、該ポリヌクレオチドは、宿主細胞の染色体内に組み込まれてもよく、エピソームエレメントとして維持されてもよい。提供する本方法の一部の特定の態様では、宿主細胞が「トランスフェクション工程」においてトランスフェクトされることが想定される。該方法は、多数回のトランスフェクション工程を含むものであってもよい。また、宿主細胞内への外来ポリヌクレオチドの導入のための当該技術分野で知られた他の方法、例えば、手法的には「形質転換」でないエレクトロポレーションおよび細胞融合なども、本記載の解釈上、用語「形質転換」定義に含まれる。
【0048】
また、本発明は、宿主細胞を、rFurinタンパク質発現がもたらされる条件下で培養するため、すなわち増殖させるための方法を提供する。かかる方法は、宿主細胞によって産生されたrFurinを培養培地から回収する工程を含む。例示的な態様において、宿主細胞を、化学的に規定される無血清培地中で増殖する。血清は、生化学的に規定されない物質であり、充分に特定されていない多くの成分を含み、ロットごとに異なり、かつ多くの場合、微生物(ウイルスおよびマイコプラズマなど)が混入しているため、rFurinの組換え生成物中に血清が存在することは望ましくない。さらに、培養培地中に血清中の動物性タンパク質が存在すると、長時間の精製手順が必要となり得る。
【0049】
したがって、本発明は、ヒトフリン遺伝子で組換えによりトランスフェクトした細胞を培養するための、本質的に動物性タンパク質を含まない生物化学的に規定される培養培地を提供する。培地の成分は、たいてい、無機、合成または組換えであり、したがって、任意の動物源から直接得られるものではない。
【0050】
本発明の細胞培養培地は、1種類以上の置換性(replacement)化合物を含むものであり得る、金属結合性化合物であり得る1種類以上の置換性化合物を含むものであり得る、および/または1種類以上の置換性化合物を含む1種類以上の複合体を含むものであり得る。一部の実施形態において、培地は、1種類以上の置換性化合物(金属結合性化合物であり得る)と複合体形成される1種類以上の遷移元素またはその塩もしくはイオンを含む1種類以上の複合体を含むものであり得る。一部の実施形態において、培地は、インビトロでの細胞の培養を補助することができ、培養細胞のトランスフェクションを可能にするものであり得る。
【0051】
本発明の一態様によれば、遷移元素は、好ましくは、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルビジウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ランタン、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀、およびアクチニウム、またはその塩もしくはイオンからなる群より選択され、好ましくは鉄塩である。好適な鉄塩としては、限定されないが、FeCl、Fe(NOもしくはFeSOまたはFe+++もしくはFe++イオンを含有する他の化合物が挙げられる。
【0052】
培地中の金属結合性化合物としては、遷移元素と相互作用または結合し、細胞によるその取込みを助長し得る任意の巨大分子が挙げられる。かかる相互作用/結合は、性質が共有結合性であっても非共有結合であってもよい。本発明のこの態様に使用される金属結合性化合物は、好ましくは、ポリオール、ヒドロキシピリジン誘導体、1,3,5−N,N’,N”−トリス(2,3−ジヒドロキシベンゾイル)アミノメチルベンゼン、エチレンジアミン−N,N’−テトラメチレンホスホン酸、トリスクシン、酸性の糖(例えば、グルコン酸第1鉄)、グリコサミノグリカン、ジエチレントリアミン五酢酸、ニコチン酸−N−オキシド、2−ヒドロキシ−ニコチン酸、一−、二−もしくは三置換2,2’−ビピリジン、ヒドロキサム酸誘導体(例えば、アセトヒドロキサム酸)、アミノ酸誘導体、デフェロキサミン、フェリオキサミン、鉄塩基性ポルフィンおよびその誘導体、DOTA−リシン、テキサフィリン、サフィリン、ポリアミノカルボン酸、α−ヒドロキシカルボン酸、ポリエチレンカルバメート、エチルマルトール、3−ヒドロキシ−2−ピリジン、ならびにIRC011からなる群より選択される。一態様において、金属結合性化合物はポリオール、例えば、ソルビトールまたはデキストランなど、特にソルビトールである。関連する態様において、金属結合性化合物はヒドロキシピリジン誘導体、例えば、2−ヒドロキシピリジン−N−オキシド、3−ヒドロキシ−4−ピロン、3−ヒドロキシピリド(pypypyrid)−2−オン、3−ヒドロキシピリド−2−オン、3−ヒドロキシピリド−4−オン、1−ヒドロキシピリド−2−オン、1,2−ジメチル−3−ヒドロキシピリド−4−オン、1−メチル−3−ヒドロキシピリド−2−オン、3−ヒドロキシ−2(1H)−ピリジノン、エチルマルトールまたはピリドキサルイソニコチニルヒドラゾンなどである。また、本発明の金属結合性化合物は、Ca++およびMg++などの二価のカチオンに結合するものであってもよい。
【0053】
本発明の培養培地には、アデニン、エタノールアミン、D−グルコース、ヘパリン、緩衝剤、ヒドロコルチゾン、インスリン、リノール酸、リポ酸、フェノールレッド、ホスホエタノールアミン、プトレシン、ピルビン酸ナトリウム、トリ−ヨードサイロニン、チミジン、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−システイン、L−グルタミン酸、L−グルタミン、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リシン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−トレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、L−バリン、N−アセチル−システイン、ビオチン、塩化コリン、D−Ca++−パントテン酸、葉酸、i−イノシトール、ナイアシンアミド、ピリドキシン、リボフラビン、チアミン、ビタミンB12、プルロニックF68、組換えインスリン、カルシウム塩、CuSO、FeSO、FeCl、Fe(NO、KCl、マグネシウム塩、マンガン塩、酢酸ナトリウム、NaCl、NaHCO、NaHPO、NaSO、セレン塩、ケイ素塩、モリブデン塩、バナジウム塩、ニッケル塩、スズ塩、ZnCl、ZnSOまたは他の亜鉛塩からなる群より選択される1種類以上の成分が含まれ得、この場合、各成分は、インビトロ細胞培養が補助される量で添加される。
【0054】
別の態様において、本発明の培養培地には、任意選択で、さらに1種類以上のサイトカイン、ダイズペプトン、1種類以上の酵母ペプチドおよび1種類以上の植物性ペプチド(最も好ましくは、米、アロエ、ダイズ、トウモロコシ、コムギ、マメ、スカッシュ、ホウレンソウ、ニンジン、イモ、サツマイモ、タピオカ、アボカド、オオムギ、ココナッツおよび/またはサヤインゲンの1種類以上、および/または1種類以上の他の植物)からなる群より選択される1種類以上の補給物を含めてもよく、例えば、国際特許出願番号PCT/US97/18255(WO98/15614として公開)を参照のこと。
【0055】
また、本発明の培養培地には、任意選択で、至適pHを維持するための1種類以上の緩衝剤を含めてもよい。好適な緩衝剤としては、限定されないが、N−[2−ヒドロキシエチル]−ピペラジン−N’−[2−エタンスルホン酸](HEPES)、MOPS、MES、リン酸塩、重炭酸塩および細胞培養適用用途における使用のための適当な他の緩衝剤が挙げられる。好適な緩衝剤は、培養細胞に対して実質的な細胞傷害性なく緩衝能をもたらすものである。適当な緩衝剤の選択は、細胞培養の技術分野の通常の技能の範囲内である。
【0056】
上記の培地成分は、溶液中で一緒に混合されると、本発明の完全培養培地を形成する。完全培地は、本明細書においてより詳細に記載しているように、さまざまな哺乳動物細胞の培養における使用に適している。本明細書で得られる情報および当業者が有する知識に基づき、当業者は、必要以上に実験を行なうことなく、作業用の培地配合物を得ることができよう。
【0057】
最初に、化学的に規定される無血清培地での増殖に適応させる前に、宿主細胞を、当業者には充分わかる標準的な培地で増殖してもよい。該培地は、通常、細胞の増殖と生存に必要なすべての栄養分を含有する。真核生物細胞の培養に好適な培地は、ロスウェル・パーク・メモリアル・インスチチュート(RPMI)培地1640(RPMI 1640)、最小必須培地(MEM)および/またはダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、DMEM/F12、およびExCell 325培地であり、これらにはすべて、培養対象の具体的な細胞株によって指示されるとおりに血清および/または増殖因子を補給してもよい。しかしながら、注目すべきことに、本発明は、次いで培地中の血清を培養液から除去し、無血清培地中で増殖することができる宿主細胞を得ることを提供する。したがって、本発明は、宿主細胞を、rFurinの最大産生のための無血清条件下で培養するための至適培地を提供する。さらなる態様では、該細胞を無血清培地中で浮遊培養する。本発明の種々の培地の配合を、本明細書に記載の実施例に示す。
【0058】
一態様において、形質転換細胞の選択的増殖に有用な抗生物質または他の化合物は、培地に対する補給物として添加される。使用される化合物は、宿主細胞を形質転換したプラスミド上に存在する選択可能マーカーエレメントによって決定される。通常動物細胞に対して毒性である特定の薬物に対して耐性を付与する選択可能マーカーが、本発明の方法および組成物において使用され得る。例えば、選択可能マーカーエレメントがカナマイシン耐性である場合、培養培地に添加される化合物はカナマイシンである。選択的増殖のための他の化合物としては、アンピシリン、テトラサイクリン、ジェネティシン、ネオマイシン、ゼオマイシン(zeo);プロマイシン(PAC);ブラストサイジンS(BlaS)、およびGPTが挙げられる。さらなる選択可能マーカーは、当該技術分野で知られており、本発明の組成物および方法に有用である。
【0059】
また、所定の条件下で細胞生存をもたらすか、または細胞死を誘導する代謝酵素も、本発明の方法および組成物に使用することができる。例としては、限定されないが:ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR);単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(TK)、ヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT)、およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(APRT)(これらは、それぞれ、TK、HGPRTまたはAPRTが欠損した細胞において使用され得る遺伝子である)が挙げられる。しかしながら、当業者には、本発明のrFurin生成物に、本質的にこのような添加タンパク質は含まれないことが認識されよう。
【0060】
該培地は、組換えタンパク質作製のための当該技術分野で知られた任意の宿主細胞または宿主を培養するために使用され得る。本発明の一態様において、例示的な宿主細胞はCHO細胞である。本発明のさらなる態様において、該培地は、CHO細胞を浮遊培養するために使用される。
【0061】
対象の組換えタンパク質を宿主細胞によって培地中に分泌させる場合、数回の回収サイクルを通して同じ宿主細胞が使用され得るように、培地を定期的に回収してもよい。培養培地は、バッチプロセス(例えば、培養培地を単一のバッチ内の細胞に1回添加する)で添加してもよく、フィードバッチプロセス(少量バッチの培養培地を定期的に添加する)で添加してもよい。培地は、培養の最後に回収してもよく、培養中に数回回収してもよい。また、連続灌流生成プロセスも当該技術分野で知られており、培地への新鮮培地の連続供給をしつつ、反応器からの同容量の連続抜去を伴うものである。灌流培養は、一般的に、バッチ式培養よりも高い細胞密度で行なわれ、反復回収を伴って数週間または数カ月間維持され得る。したがって、ケモスタット培養およびバッチ式再供給(reefed)培養は、ともにrFurinの製造に適しており、他の培養方法と同様、当該技術分野で知られている。
【0062】
さまざまな培養系が当該技術分野で知られており、T字型フラスコ、攪拌振とうフラスコ、ローラーボトルおよび攪拌槽バイオリアクターが挙げられる。ローラーボトル培養は、一般的には、培地を一部充填して(例えば、最大容量の10〜30%)ゆっくり回転させたローラーボトル内に細胞を播種し、該細胞がボトルの側面に付着してコンフルエンシーまで増殖するのを可能にすることにより行なわれる。細胞培地を、上清みのデカンテーションによって回収し、新鮮培地と交換する。また、足場依存性細胞を、攪拌槽バイオリアクター内に浮遊状態で維持したマイクロ担体(例えば、ポリマースフィア)上で培養してもよい。あるいはまた、細胞を単一細胞懸濁物にて増殖してもよい。
【0063】
宿主細胞によって産生されるrFurinの量は、当該技術分野で知られた標準的な方法を用いて評価され得る。かかる方法としては、限定されないが、ウエスタンブロット解析、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動、非変性ゲル電気泳動、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分離、免疫沈降、ELISA、および/または活性のアッセイ(DNA結合ゲルシフトアッセイなど)が挙げられる。また、本発明では、rFurinの比生産性(タンパク質/細胞/日の量で表示)が、当該技術分野で知られた本明細書に記載の標準的な方法を用いて評価され得ることが想定される。
【0064】
「実質的に動物性タンパク質を含まないrFurin」は、約0.1〜0.6ng タンパク質/単位フリン活性もしくはそれ未満の、または約2〜11μg タンパク質/mLもしくはそれ未満の範囲の濃度の宿主細胞タンパク質を含み、培養培地中の血清由来の夾雑タンパク質が本質的にないrFurinの調製物を包含すると規定する。一態様において、実質的に動物性タンパク質を含まないrFurinは、約0〜0.4pg DNA/単位フリン活性もしくはそれ未満の、または約0〜24ng DNA/mLもしくはそれ未満の範囲の濃度の宿主細胞DNAを含み、培養培地中の血清由来の夾雑タンパク質が本質的にないrFurinの調製物を包含する。一態様において、rFurinを発現する宿主細胞は、化学的に規定される無血清培地中で増殖される。あるいはまた、該細胞を、血清を含む培地中で増殖し、本明細書において提供した方法に従って精製してもよい。
【0065】
rFurinを発現する宿主細胞は、動物(ヒトを含む)由来の物質を含まない培地中で、ケモスタット条件下で浮遊培養する。細胞を濾過によって除去し、rFurin含有細胞培養上清みを限外濾過によって濃縮し、イオン交換クロマトグラフィーによって精製し、少なくとも約1000単位/ml、少なくとも約2000単位/ml、少なくとも約3000単位/ml、少なくとも約4000単位/ml、少なくとも約5000単位/ml、少なくとも約6000単位/ml、少なくとも約7000単位/ml、少なくとも約8000単位/ml、少なくとも約9000単位/ml、少なくとも約10000単位/ml、少なくとも約15000単位/ml、少なくとも約20000単位/ml、少なくとも約25000単位/ml、少なくとも約30000単位/ml、少なくとも約35000単位/ml、少なくとも約40000単位/ml、少なくとも約45000単位/ml、少なくとも約50000単位/ml、少なくとも約55000単位/ml、少なくとも約60000単位/ml、少なくとも約65000単位/ml、少なくとも約70000単位/ml、少なくとも約75000単位/ml、少なくとも約80000単位/ml、少なくとも約85000単位/ml、少なくとも約90000単位/ml、少なくとも約95000単位/ml、少なくとも約100000単位/ml、少なくとも約120000単位/ml、少なくとも約140000単位/ml、少なくとも約160000単位/ml、少なくとも約180000単位/ml、少なくとも約200000単位/ml、少なくとも約500000単位/ml、および500000U/ml超に至る活性を有するrFurinの溶液を得る。
【0066】
別の態様において、本発明の組換えフリンの精製溶液は、少なくとも約10U/μgタンパク質、少なくとも約20U/μgタンパク質、少なくとも約30U/μgタンパク質、少なくとも約40U/μgタンパク質、少なくとも約50U/μgタンパク質、少なくとも約60U/μgタンパク質、少なくとも約70U/μgタンパク質、少なくとも約80U/μgタンパク質、少なくとも約90U/μgタンパク質、少なくとも約100U/μgタンパク質、少なくとも約120U/μgタンパク質、少なくとも約140U/μgタンパク質、少なくとも約160U/μgタンパク質、少なくとも約180U/μgタンパク質、少なくとも約200U/μgタンパク質、少なくとも約250U/μgタンパク質、少なくとも約300U/μgタンパク質、少なくとも約350U/μgタンパク質、少なくとも約400U/μgタンパク質、少なくとも約450U/μgタンパク質、少なくとも約500U/μgタンパク質、少なくとも約550U/μgタンパク質、少なくとも約600U/μgタンパク質、少なくとも約650U/μgタンパク質、少なくとも約700U/μgタンパク質、少なくとも約750U/μgタンパク質、少なくとも約800U/μgタンパク質、少なくとも約850U/μgタンパク質、少なくとも約900U/μgタンパク質、少なくとも約950U/μgタンパク質、および少なくとも約1000U/μgタンパク質の比活性を有する。
【0067】
別の実施形態において、本発明におけるrFurinの精製溶液に含まれる宿主細胞タンパク質は、約20.0μg/ml未満、約19.0μg/ml未満、約18.0μg/ml未満、約17.0μg/ml未満、約16.0μg/ml未満、約15.0μg/ml未満、約14.0μg/ml未満、約13.0μg/ml未満、約12.0μg未満/ml、約11.0μg未満/ml、約10.5μg未満/ml、約10.0μg/ml未満、約9.5μg/ml未満、約9.0μg/ml未満、約8.5μg/ml未満、約8.0μg/ml未満、約7.5μg/ml未満、約7.0μg/ml未満、約6.5μg/ml未満、約6.0μg/ml未満、約5.5μg/ml未満、約5.0μg/ml未満、約4.5μg/ml未満、約4.0μg/ml未満、約4.0μg/ml未満、約3.5μg/ml未満、約3.0μg/ml未満、約2.5μg/ml未満、約2.0μg/ml未満、約1.5μg/ml未満、約1.0μg/ml未満、約0.5μg/ml未満、約0.4μg/ml未満、約0.3μg/ml未満、約0.2μg/ml未満、約0.1μg/ml未満、および約0μg/mlの濃度である。
【0068】
別の態様において、本発明におけるrFurinの精製溶液に含まれる宿主細胞タンパク質は、約1.0ng タンパク質/U rFurin未満、約0.95ng タンパク質/U rFurin未満、約0.90ng タンパク質/U rFurin未満、0.85ng タンパク質/U rFurin未満、約0.80ng タンパク質/U rFurin未満、約0.75ng タンパク質/U rFurin未満、約0.70ng タンパク質/U rFurin未満、約0.65ng タンパク質/U rFurin未満、約0.60ng タンパク質/U rFurin未満、約0.55ng タンパク質/U rFurin未満、約0.50ng タンパク質/U rFurin未満、約0.45ng タンパク質/U rFurin未満、0.40ng タンパク質/U rFurin未満、約0.35ng タンパク質/U rFurin未満、約0.30ng タンパク質/U rFurin未満、約0.25ng タンパク質/U rFurin未満、約0.20ng タンパク質/U rFurin未満、約0.15ng タンパク質/U rFurin未満、約0.10ng タンパク質/U rFurin未満、約0.05ng タンパク質/U rFurin未満、約0.04ng タンパク質/U rFurin未満、約0.03ng タンパク質/U rFurin未満、約0.02ng タンパク質/U rFurin未満、約0.01ng タンパク質/U rFurin未満、および約0ng タンパク質/U rFurinの濃度である。
【0069】
以下の本明細書における実施例には、rFurinの産生にCHO宿主細胞を用いた発明を示すが、当業者には、任意の宿主細胞型が、本発明のrFurinの産生に同様に適合され得ることが認識されよう。CHO細胞は、組換えタンパク質の産生に広く使用されており、操作したCHO細胞(CHO細胞株を産生物の遺伝子と選択可能マーカー遺伝子でトランスフェクトしたもの)を、血清含有培養培地中で常套的に増殖する。しかしながら、血清の使用はいくつかの問題を呈する。血清は、高価な商品であり、商業的作製に必要とされる量で容易に入手可能ではない。また、血清は、生化学的に規定されない物質であり、充分に特定されておらず、かつ作用も測定されていない多くの成分を含む。したがって、血清はバッチごとに異なり、場合によっては、種々の該成分のレベルおよび細胞に対するその効果を調べるための試験が必要とされる。
【0070】
また、血清は、多くの場合、ウイルスおよびマイコプラズマなどの微生物(その多くは無害であり得るが、それでもさらなる未知因子を構成する)が混入している。さらに、培養培地中に動物性タンパク質が存在すると、長時間の精製手順が必要となり得る。特に、ウシ血清アルブミン(BSA)中にウシ抗体が存在すると、組換えCHO細胞株によって発現された所望の抗体の精製が極めて困難になる。使用前に培地からウシ抗体を除去することは可能であるが、この除去および除去後に必要とされるさらなる生成物の試験は、該生成物の作製のコストを大きく増大させる。そのため、細胞(特にCHO細胞の)増殖を補助する動物性成分無含有培養培地を使用することは有益である。CHO細胞は無血清条件では容易に増殖しないが、本発明は、無血清条件下でのCHO細胞増殖によるrFurinを提供する。
【0071】
また、操作されたCHO細胞は、浮遊状態で増殖することが困難である。rFurinなどの産物を発現させるために細胞を使用する場合、浮遊状態での増殖を行なうことが非常に望ましい。商業規模でのかかる生物学的タンパク質の生成のためには、相当な大きさの発酵槽内での増殖を補助できることが望ましい。また、適当な培地には、大量生成条件で増殖され得るように細胞を補助することが必要とされる。かかる適当な培地は、本明細書に記載の実施例に示している。当業者には、当該技術分野における任意の細胞培養方法が、本発明に示したrFurinを含む宿主細胞の培養に使用され得ることが認識されよう。培養方法の非限定的な例は、本明細書に記載の実施例に示している。
【0072】
また、本発明は、細胞を無血清培地中で増殖した後に行なわれる、CHO細胞タンパク質をrFurinから除去するための精製方法を提供する。当業者には、当該技術分野で知られた任意のタンパク質精製方法が、培養培地からのrFurinの精製に使用され得ることが認識されよう。精製方法の非限定的な例は、本明細書に記載の実施例に示している。したがって、あらゆる動物源タンパク質を本質的に実質的に含まないrFurinが作製され得る。実質的に動物性タンパク質を含まないrFurinは、任意選択で、使用時まで凍結保存される。
【実施例】
【0073】
実施例
本発明のさらなる態様および詳細は、以下の実施例から自明であろう。実施例は、限定ではなく例示を意図するものである。実施例1には、rFurin発現プラスミドの構築および宿主細胞のトランスフェクションを記載する;実施例2には、rFurin発現CHO細胞クローンの無血清条件での増殖への適応プロセスを記載する;実施例3には、動物性タンパク質無含有培地中でのrFurin製造のための最適化プロセスを記載する;実施例4には、rFurinの精製を記載する;実施例5は、下流処理(濃縮および精製)ならびに大規模生成rFurinの解析を示す;実施例6は、宿主細胞バンクの品質の測定および維持のために行なわれる安全性、無菌性および安定性の試験を示す。
【0074】
実施例1:
組換えフリン発現プラスミドの構築および宿主細胞のトランスフェクション
#556と表示するrFurin発現プラスミドを構築するために使用したフリン前駆プラスミドの詳細説明を表1に示す。構成的サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下で発現させると、成熟rFurinは、触媒ドメイン、Pドメイン、および小さなシスチンリッチドメイン部分を含むが、アミノ酸577のC末端の側に存在する領域は除去され、充分な活性プロテアーゼの分泌がもたらされる。
【0075】
選択プラスミドとして使用したDHFR−ベクターの構築の説明を表2に示す。安定発現CHO/rFurin細胞クローン(#488−3および#289−20で表示)の開発のため、機能性内在DHFR遺伝子が欠損したCHO細胞を、リン酸カルシウム共沈降を使用し、プラスミド#556と#73でコトランスフェクトした。高レベルのrFurinを分泌するクローンを、DHFR/MTX選択系を用いた数回のサブクローニング/増幅にて選択した。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

トランスフェクトCHO細胞を、DHFR培地(DMEM NUT MIX F12(1:1)、ヒポキサンチン、チミジンおよびグリシンなし、Hepes、L−グルタミン、ペニシリン−ストレプトマイシンを補給、5%または10%の透析済γ照射FBS(=5%DHFR、10%DHFR)を有するように構成)中で増殖した。透析済γ照射FBSは、Life Technologies(解析、起源および照射に関する充分な説明の証明書付き)から購入した。γ−トリプシン溶液(1mg/ml)の調製は、Baxter(オルト,オーストリア)の培地調製/PCC部門によって行なわれた。
【0078】
CHO/rFurinクローン#488−3の作製の系図を図2に示す。クローンCHO/rFurin #488−3は、10%DHFR選択培地中で2回のサブクローニングを行なった後、100nM MTXを補給した選択培地中での増幅を行なった(このとき、1回のサブクローニングは、未変更MTX濃度を含有する培地中で行なった)初期クローンから得た。クローン#448−3は、凍結のために拡大培養した。CHO/rFurinクローン#289−20も同様にして調製および拡大培養した。しかしながら、クローン#289−20は、クローン#488−3由来の後続クローンである。CHO/rFurinクローン#289−20の作製の系図を図3に示す。
【0079】
Furin活性を、無血清DHFR培地中で24時間培養したクローンの馴化培地中で測定した。高フリン活性(U/10細胞/24時間)を示した細胞クローンを選択した。選択した高産生細胞クローンを、凍結ストックアンプルの調製用に拡大培養し、次の回のクローニングのために分割するために使用した。高産生細胞クローンの単離および同定を行なった。Casy細胞計数器を用いて細胞密度を解析した。200〜300U/10細胞/24時間に至るまでのFurin発現レベルが、クローン#488−3で得られた。クローン#289−20では、400U/10細胞/24時間に至るまでのFurin発現レベルが得られた。
【0080】
実施例2:
組換えフリン発現細胞クローンの無血清条件での増殖への適応
細胞株の適応および選択のストラテジーは、段階的な希釈にて徐々に、または急激にのいずれかによって、細胞株を血清とタンパク質を含まない細胞株に適応させることである。この試験の目的は、無血清条件下で増殖され、安定的にrFurinを産生するCHO細胞集団を見い出すことであった。CHO細胞クローン#488−3を出発材料として使用した。rFurin発現細胞クローンCHO #488−3を、パラレルで実施した以下に詳細に示す3つの適応において、無血清条件に変更した。
【0081】
血清枯渇プロセスは、スピナーフラスコにおいて開始し、適応相内の細胞を引き止める(hold back)手段を見い出すためのマイクロ担体を使用した(該相では細胞は通常、低速増殖を示すため)。この方法を使用することにより、その後の培地交換時、増殖が抑制され得るような濃度まで細胞が希釈されるのを回避することが可能であった。
【0082】
3種類の異型の内部開発培地BAP、BASおよびBCS(表3に示す)を、この試験過程に使用した。
【0083】
【表3】

それぞれの実験の目的に応じて、これらの培地異型に、表4に示すような異なる補給物を供給した。
【0084】
【表4】

以下の表は、この試験過程で使用した培地と試薬の概要を示す。表5に、プレマスター細胞バンククローンPMCB#01およびPMCB#04の確立に使用した培地と試薬を要約する。
【0085】
【表5】

表6に、サブクローニング過程、ならびにサブクローン#488−3/CJ06−19/5F10(5F10)および#488−3/CJ06−19/1E8(1E8)の対応する評価細胞バンク(ECB)の確立に使用した培地と試薬を要約する。
【0086】
【表6】

培地に添加したすべての補給物のロット番号は、対応する培地の適切な製造プロトコルを参照している。他の培地添加物を表7に示す。
【0087】
【表7】

無血清条件に対する適応は、ウシ胎仔血清(FBS)からの細胞の分離による細胞保持(遠心分離など)とともに、T字型フラスコまたはスピナーフラスコにおいて行なった。
【0088】
T字型フラスコ内の浮遊培養物を、36±2℃および7.5±1.0%COでインキュベートした。スピナーフラスコ内での培養は、TechneスピナーフラスコおよびBellcoスピナーフラスコ内で、担体なしで36±2℃にて、それぞれ、80rpmおよび130rpmで行なった。
【0089】
無血清培地条件への適応後のCHO/rFurin細胞クローン#488−3のサブクローニングにより、無血清内部開発培地中で浮遊状態で増殖され、安定的にrFurinを大量に産生するCHO細胞クローンが得られた。この手順は、限定希釈法に基づくものであった。簡単には、細胞懸濁物を、100μlの懸濁物が1つの細胞を含むように希釈した。96ウェルプレートのウェルに、この懸濁物100μlを充填した。理論的には、各ウェルに、クローン生成用の1つの細胞が含まれる。これらの単一細胞が増殖を開始するにつれて、クローンが生成される。したがって、新たに生成した細胞はいずれも、ウェル内の最初の元の細胞に遡ることができる。このクローンを24ウェルプレート内で、次いでT25フラスコ内で、次いでT75フラスコ内で、次いでT175フラスコ内で拡大培養した。
【0090】
培養中、増殖条件をモニターするため、およびrFurin発現を測定するために、プロセス内制御(in process control)(IPC)を行なった。Casy装置を用いて培養中の細胞密度を測定した。Nucleo計数装置を、CTX抽出後の細胞核の検出に適用した。細胞密度および解凍後のバイアビリティの測定は、トリパンブルー排除法を用いて行なった(血球計を使用)。また、細胞密度とバイアビリティを、自動トリパンブルー排除法を使用することによっても解析した(Cedex装置によって実施)。
【0091】
細胞培養物の上清みを使用し、発現されたrFurinの量および活性を調べた。蛍光標示式細胞分取(FACS)解析を使用し、所与の細胞集団における非産生細胞に対する産生細胞の比を調べた。細胞の形態構造および増殖挙動を、光学的制御によって調べた。また、培地条件のモニター(pH値ならびにグルコース、グルタミン、乳酸およびアンモニウムの残留濃度の測定など)のためにも、細胞培養物の上清みも調べた。これらの解析は、NOVA装置によって行なった。
【0092】
この試験過程では、2種類のプレマスター細胞バンク(PMCB)PMCB#01およびPMCB#04を作製し、以下に示す2つの細胞クローン株を確立した。また、評価細胞バンク(ECB)(表15参照)も作製した。
【0093】
PMCB#01の調製およびQC試験
CHO/rFurin #488−3(ECB#01)のバイアルの1つを、添加物(Put、Glut、SynpおよびFe)ならびに5%FBSを含有するBAS培地中で解凍した。細胞は、T175内で5日間培養した細胞であった。次いで、細胞を、以下に示すようにして無血清条件に適応させた。
【0094】
細胞を、0.2g/lの5%FBSを含有する150mlの増殖培地(Put、Glut、SynpおよびFeを含むBAS)中で調製した。無血清条件への適応にCytopore 2担体を使用した。約2.0×10細胞/mlの開始細胞密度がもたらされるように5日齢の細胞懸濁物を播種すると、細胞が最初の数時間以内に該多孔質担体に付着した。したがって、細胞はスピナーフラスコ内に維持され、その間、増殖培地を交換し、血清濃度を2工程で5%から3.8%から第05日に0%まで低下させた。続く培養期間中に、細胞は無血清培地条件に適応状態となった。細胞は担体表面から剥離し、浮遊状態で増殖が継続された。懸濁細胞の細胞密度およびバイアビリティは、連続的に増大した。2〜3日ごとに、懸濁細胞を1:2の比で分割した。
【0095】
次いで、評価細胞バンク(ECB)を調製した。培養の第28日目、60%より高いバイアビリティを有する細胞を新たな実験に移行させた。培養物は、担体なしのBellcoスピナーフラスコ内にて200〜300mlのBAS培地(Put、Glut、SynpおよびFeを含む)中で増殖した。測定されたCASY細胞密度に従い、浮遊培養物を、2〜3日ごとに開始細胞密度である約2.0×10細胞/mlに分割した。16日後、細胞培養物が80%より高いバイアビリティに達したとき、6つのバイアルの細胞からなる評価細胞バンク(ECB)を作製した。
【0096】
ECBのバイアルの1つを新たな実験において解凍した。細胞を4日間、T175内で、Put、Glut、Synp、FeおよびZnを含むBAS培地中で増殖した。次いで、細胞を、600mlまでのBAS培地をPut、Glut、Synp、FeおよびZnとともに入れたBellcoスピナーフラスコに移した。この場合も、2〜3日ごとに、 浮遊培養物を、開始細胞密度である約2.0×10細胞/mlに分割した。培養の第13日目、20個のバイアルからなるPMCB#01の調製のために、143mlの細胞懸濁物を取り出した。細胞を拡大培養し、PMCB#01に対して品質管理試験を行なった。
【0097】
PMCB#04の調製およびQC試験
CHO/rFurin #488−3(ECB#01)のバイアルの1つを、Put、Glut、Synp、Feおよび5%FBSを含有する(containing containing)BAS培地中で解凍した。6日齢の培養物の半量を、無血清条件への適応のための新たな実験に移行させた。
【0098】
ここでは、無血清条件への適応を段階的に行なうのではなく、急激に行なった。Bellcoスピナーフラスコに、FBSも担体も含まないBAS培地(Put、Glut、SynpおよびFeの添加を伴う)を調製した。細胞を約2.5×10細胞/mlの開始細胞密度で播種した。急激な無血清条件のため、細胞の倍加時間は、かなり低いレベルまで減少した。場合によっては増殖が抑制され得るような濃度まで細胞が希釈されるのを回避するため、細胞懸濁物をスピンダウンすることにより培地を交換した。細胞ペレットを新鮮増殖培地中に再懸濁させた。細胞密度が4.0×10細胞/mlより大きくなったとき、培養物の分割を行なった。培養の第15日目に約50%の最小バイアビリティに達した後、細胞の回収を開始し、培養の第32日目(当日を含む)から、バイアビリティは85〜90%まで増大した。培養の第61日目、適応細胞を、15個のバイアルからなるECBとして凍結させた。
【0099】
ECBのバイアルの1つを新たな実験において、Put、Glut、SynpおよびFeを含む無血清BAS培地中で解凍した。培養物をT175フラスコ内で7日間培養した後、Bellcoスピナーフラスコに移し、そこで、細胞をさらに2日間増殖した。次いで、Znの添加を試験した。約100mlの遠心分離した細胞懸濁物を、Put、Glut、Synp、FeおよびZnを含有する無血清BAS培地中に再懸濁させた。この懸濁物をBellcoスピナーフラスコ内で培養した。測定されたCASY細胞密度に従い、2〜3日ごとに、浮遊培養物を、開始細胞密度である約2.0×10細胞/mlに分割した。
【0100】
播種材料の調製のため、およびPMCB#04の作製のための大量の均一な細胞懸濁物を生成させることができるようにするため、細胞培養を、Bellcoスピナーフラスコ内で1000mlまでスケールアップした。培養の第02日目、465mlの細胞懸濁物を使用し、20個のアンプルからなるPMCB#04を作製した。細胞を拡大培養し、PMCB#04に対して品質管理試験を行なった。
【0101】
図4は、PMCB#01およびPMCB#04の細胞集団におけるrFurin産生細胞のグラフによる分布の比較を示す。PMCB#04の細胞の80.74%がrFurinを発現している。PMCB#01の細胞の74.06%がrFurinを発現している。
【0102】
次いで、CHO/rFurin #488−3 サブクローンCJ06−19/5F10およびCJ06−19/1E8を作製した。CHO/rFurinクローン#488−3のアンプルを解凍し、培養物をT175フラスコ内で継代した。培養の第17日目、各々に5%FBSを含めた3種類の異なる培地、BAP培地(Baxterによって開発)、CD−CHO(Gibcoによって供給)およびExCell 325PF CHO(JRHによって供給)を試験した。T175フラスコ内での増殖の4日後、ExCell培地中で増殖した細胞は、無血清条件に適応した。
【0103】
細胞を少数回の工程で血清から分離した。全手順は3回の実験に及んだ。まず、足場依存性細胞を最初に、T175フラスコ内にて、5%FBS含有ExCell 325PF CHO中で培養した。次いで、血清を、培養の第13日目に0.5%までゆっくりと減少させた。次の13日間の培養中、2回の分割を行ない、このとき、血清濃度を0.25%までさらに減少させると、バイアビリティは70%より低くなるまで低下した。細胞は足場依存性挙動を失い、だんだんと球形状を示し、浮遊状態での増殖が開始された。
【0104】
血清低減の最後の工程は、Techneスピナーフラスコ内にて、0.25%FBSを含有し、担体を含まないExCell 325PF CHO培地中で行なった。23日間の培養期間後、血清濃度は0%に達した。細胞を分割し、関連するすべてのパラメータが所定の範囲に維持されるように培養した。細胞密度は0.15〜0.9×10細胞/mlに移動した。バイアビリティは、最初の週の間に40%未満に低下したが、次いで90%より高い値に戻った。培養の第42日目、適応細胞を凍結させ、20個のバイアルからなるECB/CJ06−20とした。
【0105】
次いで、細胞をサブクローニングした。細胞懸濁物を事前に条件付けしたExCell 325PF CHOで、100μlの懸濁物が理論的に0.5〜1.0個の細胞を含むように希釈した。このサブクローニング実験では、5つの96ウェルプレートに、ウェル1つあたりこの細胞懸濁物100μlを充填した。細胞播種の翌日、ウェルを単一細胞について顕微鏡下で調べた。1つの細胞を含むウェルに印を付け、さらに観察した。事前に条件付けしたExCell 325PF CHOの添加および交換は、必要時に行なった。次の2週間の間に細胞が死滅した場合、または細胞分裂がない場合、当該ウェルを実験から除外した。
【0106】
2つの単一細胞が増殖を示した。適切な大きさに達した進化クローンを24ウェルプレートのウェルの1つに移した。また、ここで、事前に条件付けしたExCell 325PF CHOの交換も、増殖および培養物の必要性に応じて行なった。サブクローンCJ06−19/5F10およびCJ06−19/1E8を、それぞれ、培養の第07日目および第10日目にT25フラスコに移した。
【0107】
ECBをExCell培地中で調製した。このECBは、該2つのサブクローンに関するさらなる研究(購入に費用がかかる培地からより経済的な配合(Baxterで自社開発)への再適応など)のための原料物質を提示する。サブクローンCJ06−19/5F10のECB、CJ06−42をExCell 325PF CHO培地中で、T25からT75を経てT175まで、次いでBellcoスピナーフラスコ内で拡大培養した。第21日目のT175からの1つの培養物に由来する10個のバイアルからなるECB/CJ06−63を凍結させた。また、サブクローンCJ06−19/1E8のECB、CJ06−43もExCell 325PF CHO培地中で拡大培養した。培養物は、T25からT75を経てT175まで、次いでBellcoスピナーフラスコ内で拡大培養した。第18日目のT175からの1つの培養物に由来する10個のバイアルからなるECB/CJ06−64を凍結させた。
【0108】
ECB(サブクローン5F10および1E8)をBCS培地に、以下に示すようにして適応させた。ECBクローンCJ06−19のサブクローンCJ06−19/5F10を実験CJ06−66において解凍し、次いで、BCS培地をExCell培地に漸増容量で添加することにより、細胞をExCell培地から分離し、BCS培地中での増殖能を獲得させた。同時に、ECBクローンCJ06−19のサブクローンCJ06−19/1E8も同様の様式でBCS培地に適応させた。
【0109】
表8は、この試験過程で調製したすべての無血清細胞バンクを示す。
【0110】
【表8】

PMCB#01とPMCB#04およびサブクローン5F10と1E8の比較を表9に示す。
【0111】
【表9】

実験CJ06−69ならびにSK06−49およびSK06−63において培養した細胞集団は、PMCB用の細胞株の前駆培養物に相当する。これらの細胞をBAS培地(Put、Glut、Synp、FeおよびZnの添加を伴う)中で増殖し、それぞれ、PMCB#01およびPMCB#04として凍結させた。
【0112】
サブクローン5F10および1E8を、市販の培地ExCell 325PF CHO(JRHによって供給)中で増殖した。BASの形成に基づいた培地中で増殖できることが好ましかったため、PMCB#01とPMCB#04を、rFurinのさらなる生成に選択した。
【0113】
表10に示されるように、PMCB#04の細胞は、PMCB#01と比べ、より良好な増殖挙動を示した。PMCB#04の方が、バイアビリティおよび増殖速度が高く、生成倍加時間が短かった。また、rFurinの細胞特異的生成比ならびに容積生成比も、評価期間を通して大きかった。さらなる実験において、バイアビリティに関するデータを確認した。各PMCBのアンプルの1つを、添加物としてZnを含むBCS培地を入れたT175フラスコ内で解凍した。表10に示されるように、PMCB#04のバイアビリティは、この場合もPMCB#01より高かった。
【0114】
【表10】

したがって、PMCB#04を、rFurinマスターセルバンク(MCB)およびあらゆるさらなる作業用細胞バンク(WCB)のさらなる生成のための原料物質として選択した。20個のバイアルからなるPMCB#04を、現行のGood Tissue Practice規則に準じて確立した。ICH−Guideline Q5Dの要請に従って品質管理(QC)試験を行なった。PMCB#04を、製造プロセスにおけるrFurinの生成に選択した。
【0115】
増殖培地は、ヒトまたは動物由来の物質を含まず、自社開発したものである。細胞を濾過によって除去し、rFurin含有上清みを限外濾過によって濃縮する。交換クロマトグラフィーによる精製後、rFurin溶液の活性を、少なくとも200単位 rFurin/mlに目標設定する。
【0116】
マイコプラズマ、ウイルス、外来因子、無菌性、および発現効率に関する試験を行なった。選択基準は、高Furin活性(例えば、Furinタンパク質、ELISA)、および最初のクローン#488−3および#289−20のそれぞれとの比較において、異なるサブクローンにおいて行なった免疫蛍光検査(FACS)における細胞集団の均一性である。また、不純物プロフィールを定性的に比較しなければならない(例えば、RP HPLC後のUV−ピークパターンまたはSDS−PAGE/クーマシー手法により)。
【0117】
実施例3:
動物性タンパク質無含有培地中での組換えフリン製造のための最適化
この実施例では、rFurin発現CHOクローン#488−3の培養のための開発および最適化プロセスを記載する。アミノ酸、グルコース、およびNaHCO3濃度に関して特定の培地最適化を行ない、これにより、細胞増殖速度が増大し、発酵プロセスの生産性が高くなった。インライン制御プロセスパラメータの最適化を、pO2(10%、20%および50%)に対して最適化した培地配合物を用いて行ない、要因実験を行なって最適pH(7.1〜7.3の範囲)および温度(35.1℃〜37.9℃の範囲)を調べた。これにより、35〜36℃の低温で発酵を行なった場合、CHOクローン#488−3について有意な収率の改善がもたらされた。
【0118】
可能な生産様式として、ケモスタット培養とバッチ式再供給培養を比較すると、どちらのプロセス型もrFurinの製造に適しており、同一のパラメータ設定条件で同等の収率が得られることが示された。異なるバイオリアクター設定での攪拌型と速度の影響を調べるための具体的な実験を行なった。比増殖速度および比発現速度、細胞密度、したがって容積生産性は、バイオリアクター設定における変動によって大きく影響されること、および攪拌速度増大条件下では、収率が有意に増大し得ることが示された。総合すると、rFurin上流プロセスの主要パラメータの影響は、その効果に関して充分特徴付けられ、高収率プロセスは、前臨床および臨床製造のためのパイロットプラントに移行され得る。詳細を以下に示す。
【0119】
サブクローン#488−03は自社開発したものであり、これを、血清無含有インスリン無含有培地に適応させた。以下の実験は、基本培地配合物としてFBS無含有インスリン無含有培地(BACD培地)において行なった(表11参照)。
【0120】
【表11】

細胞増殖を改善するため、および細胞繁殖に対して至適条件を提供するため、ケモスタット培養の上清みのアミノ酸解析を行なった(表12参照)。その結果、3つの必須アミノ酸、すなわち、メチオニン(10mg/L)、ロイシン(40mg/L)およびフェニルアラニン(10mg/L)を培地に添加した。発酵は1.5L容バイオリアクター内で、37℃、pH7.15およびpO20%にて行なった。
【0121】
【表12】

培養物の上清み中のグルタミン濃度が低いため、グルタミンを培地に添加し(300mg/L)、グルタミンの終濃度を900mg/Lとした。グルタミンを培地に添加後、増殖速度は0.55d−1から0.67d−1に増大した(表13および14参照)。これらの上記の3つのアミノ酸(すなわち、メチオニン(10mg/L)、ロイシン(40mg/L)フェニルアラニン(10mg/L))を培地に添加することにより、この場合も、細胞の増殖速度を増大させることができた(0.69d−1)(表15参照)。容積生産性は、ほぼ267kU/L/dまで(=+13%)上昇し、比生産性は16%の増大を示した。培地へのグルタミン、メチオニン、ロイシンおよびフェニルアラニンの補給により、細胞増殖、ならびに容積比活性に対してプラスの効果が示され、したがって、さらなる培地調製のために保持した。
【0122】
【表13】

【0123】
【表14】

【0124】
【表15】

培地中のアミノ酸の補給量が充分であるかどうかを確認するため、ケモスタット培養(10L)の別のアミノ酸解析を行なった。培養物に、300mg/Lのグルタミンと、それぞれの量の該3つのアミノ酸を供給した。培養の第7日目と第15日目に試料を抜き取り、培養条件は上記のものと同様とした。結果(メチオニン、ロイシンおよびフェニルアラニンに関するデータのみを示した表16参照)により、充分な量の補給アミノ酸が発酵ブイヨン中に存在することが確認された。
【0125】
【表16】

NaHCO濃度の減少およびグルコース濃度の増大。増殖および生産性に対する細胞培養における高溶存CO濃度の影響を調べた。バイオリアクターでは生成規模が大きいため、細胞培養でのCO濃度は、2.5〜32L容バイオリアクターよりも高いことが予測され得る。したがって、2つの発酵操作をパラレルで行ない、一方の操作はおよそ7.5%のCO濃度とし、他方はおよそ12%のCO濃度とした。CO濃度は、ヘッドスペースフロー内のCO割合を変更することにより調整した。細胞培養におけるCO濃度は、抜き取った試料をNOVA装置で解析することにより測定した。発酵は、37℃、pH7.15およびpO20%で行なった。
【0126】
11〜12%のCO濃度は、細胞増殖および生産性に対してマイナスの影響を有した。このCO濃度では、1.1×10細胞/mLの細胞計数において、12日間の期間で増殖速度が0.29d−1に達し、希釈速度は0.30d−1であった。およそ7.5%COでの発酵操作では、1.49×10細胞/mLの細胞計数において、増殖速度は0.52d−1に達し、同じ期間での希釈速度は0.53d−1であった。高CO濃度では、バイアビリティが86.1%に低下したのに対し、7.5%COでは95.9%であった。また、容積生産性はおよそ36%に、比生産性は50%低下した。CO濃度が高いため、比グルコース取込み速度は同様に低下した(−39%)。細胞増殖および生産性に対する高CO濃度(11〜12%)のマイナスの影響は非常に明白であり、したがって、発酵を7.5%COで行なうことが最適である。
【0127】
上記に示したように、実験により、1,000L容バイオリアクターにおいてCOの濃度を12%に増大させると、CHO−Furinクローン488−3の性能が大きく低下することが予測され得ることが示された。したがって、培地中のNaHCO濃度を2g/Lから1.5g/Lに下げることを決定した。培地中のNaHCOの量が少ないと、同様に培地の緩衝能が低下した。したがって、一方を培地中3.15g/Lのグルコースおよび2g/LのNaHCOとし(FUR_06/24_F01)、他方を4.65g/Lのグルコースおよび1.5g/LのNaHCO(FUR_06/26_F04)として2つの発酵操作(10L)を比較した。
【0128】
大規模バイオリアクター(1,000L)での条件をシミュレーションするため、ヘッドスペース内への一定のCOガス供給により、発酵中の溶存COの濃度を、2g/LのNaHCOの発酵槽内では7〜8%に、1.5g/LのNaHCOの発酵槽内では6〜7%に調整した。両方の培養物の増殖速度は類似しており(0.58および0 56d−1)、培養物は、同等の容積生産性およびバイアビリティを示した。しかしながら、比グルコース取込み速度は、低NaHCO濃度の培養物において、わずかに高かった(0.83mg/10細胞/d対0.67mg/10細胞/d)。したがって、4.65g/Lのグルコース濃度が妥当であるとみなし、さらなる培地調製において保持した。
【0129】
Furin培地中のSynperonic F68濃度の検討。細胞培養培地中のSynperonic F68の通常濃度を0.25g/Lに設定した。培地中におけるSynperonic F68の目的は、細胞を液中酸素付加による損傷から保護することである。したがって、2×10L容バイオリアクターにおいて、1.0g/Lの高Synperonic F68濃度と0.25g/Lの通常濃度を対比して調べる一例の実験を行なった。発酵は、35.8℃、pH7.30およびpO20%で行なった。
【0130】
プルロニック濃度(Synperonic F68)を増大させるにつれて、わずかに高い比増殖速度および細胞密度が達成され得た。したがって、比生産性の増大のため、容積生産性が比例して大きくなり、278kU/L/dに対して365kU/L/dが達成され得た。
【0131】
この実験の上清みを収集し、デプスフィルター(Cuno Cart.Z08P4A30SP 4ディスク)で濾過した後、薄膜フィルター(Pall Fluorodyne II KA2DFLP2)で濾過した。濾過した上清みを限外濾過(Sartorius 30S 1463901 E−SG PSU 10KD、0.2m)によって濃縮し、Furinダイアフィルトレーションバッファーに対してダイアフィルトレーションを行なった。滅菌濾過した濃縮液(Sartorius Sartobran P 523130748−00 0.45/0.2μ)を、Capto MMCカラムにて精製した。この精製実験の結果により、Synperonic F68の増大は、精製rFurinの品質および/または純度に対して有害な影響を及ぼさないことが明らかになった。Capto MMCカラムの溶出液中において、Synperonic F68濃度の上昇は見られず、どちらの溶出液でも<0.15mg/mLであった。
【0132】
このような結果にもかかわらず、rFurin培地中のSynperonic F68濃度は当初の0.25g/Lに維持した。しかしながら、液中酸素付加による問題が大きくなる場合では、Synperonic濃度を1.0g/Lまで増大させることが考慮され得、おそらく、最終のFurin生成物に有害な影響なく収率が増大する。
【0133】
発酵におけるrFurin生成のための最終培地組成。培地最適化実験に基づき、以下の培地組成が、バイオリアクター培養におけるrFurin生成のためのCHOクローン488−3の発酵に最適であると示される。
【0134】
【表17】

また、増殖速度および生産性に対する種々のpO設定点の影響も調べた。3つの異なるpO設定点、すなわち、10%、20%および50%を試験した。実験は1.5L容バイオリアクターにおいて行ない、ヘッドスペースを介してガス供給を行なった。発酵操作はすべて、35.1℃にてpH7.20で行なった。10、20および50%のpOでの発酵操作の比較により、pO設定点の上昇に伴い、増殖速度のわずかな増大(0.59、0.62および0.65d−1)が示された。同様に、容積生産性は50%pOで最大であった。異なる発酵操作での平均細胞計数は、非常に類似していた。したがって、容積生産性の増大は、増殖速度の増大の結果であった。
【0135】
そのため、50%のpO設定点は増殖速度にプラスの影響を及ぼすようであり、その結果、容積生産性は、標準条件(=20%PO)の場合よりもおよそ4%高かった。バイアビリティに対する効果は観察されなかった。したがって、pO2=20%の設定点および通常10%〜50%の範囲が、CHOクローン#488−3の発酵に適していると確認され得た。
【0136】
容積生産性を最大にするための温度とpHの最適化。CHO−Furinクローンの性能に対するpHおよび温度の影響を調べた。「実験方法の設計」を使用することにより、種々の温度を種々のpH値と組み合わせ、最大容積生産性がもたらされる条件を確認した。「Doehlertマトリックス」に従って5つの温度を3つのpH値と組み合わせ、図5に示した温度とpHの7通りの組み合わせを得た。
【0137】
36.5℃とpH7.20の組み合わせを中心点として選択し、これを2つの発酵ロットに適用した。表18は、異なる発酵ロットで使用した培養条件を示す。
【0138】
【表18】

【0139】
【表19】

データを、応答曲面法(RSM)により、「Minitab」ソフトウェアを用いて統計学的に解析した。RSMにより、いくつかの説明変数と1つ以上の反応変数との関係が調べられる。RSMの主な意図は、設計された一組の実験を用いて至適応答を得ることである。この解析では、容積生産性および比生産性ならびに増殖速度に焦点を当てた。
【0140】
容積生産性に関するデータの解析。第1の工程として、表面プロットを作成した(図6)。図6においてデータ座標を点で示す。表面は、単一データの推定相関を示す。
【0141】
表面プロットにより、パラメータ温度/pHと応答容積生産性との間に線形相関が推定される。このチャートは、温度の低下に伴って容積生産性が増大することを示す。pHの影響は小さいと考えられる。その後の計算により、データの線形相関が示された(計算は表示せず)。分散解析により、pH、温度および容積生産性間の相関を示す等式を作成した:
P = 7693.1 − 162.4Temp − 202.8pH
この数学モデルに基づき、容積生産性に対する温度とpHの影響を示すコンタープロットを作成した(図7)。点は、実験で試験した条件(pH/温度)を示す。
【0142】
このコンタープロットは、最大容積生産性が期待され得る領域が35.1℃およびpHおよそ7.10であることを示す。どちらの値も実験設計の端部であり、これは、実際の最大生産性は、これらよりもさらに低い値で見られ得ることを意味する。さらに、このコンタープロットは、容積生産性に対するpH影響がわずかであり、低pH値での方がわずかに高いことを示す。
【0143】
この数学モデルの3次元表示である表面プロット(図8)でも、コンタープロットと同じ結果が得られる:容積生産性に対して温度の影響が大きく、pHの影響は小さい。
【0144】
増殖速度μに関するデータの解析。増殖速度と温度およびpHとの相関は、二次方程式で示される。この場合も、温度の影響が大きく、pHの影響は小さいことがわかる。増殖速度の大きな変動により、数学モデルの設計が障害される。分散および回帰の解析により以下の等式が得られる:
P = −103.539 + 5.706Temp − 0.079Temp − 0.233pH − 0.020pH
増殖速度に対するpHの影響は、pHの項のP値が0.99であると計算され、高いこと(計算は表示せず)によって示されるように、統計学的に確認可能ではない。
【0145】
表面プロット(図9)は、モデル相関を3次元的に示し、二次方程式の関係であることを示し、36.5℃において増殖速度が最大であることを示す。
【0146】
データの解析により、容積生産性で見られたものと同様の比生産性と温度およびpHとの相関が示されている(図10)。この相関は、一次方程式によって示される。この場合も、分散解析(計算は表示せず)
によって示されるように、pHの影響は小さい:
qP = 4261.40 − 93.35temp − 93.77pH
要約すると、温度およびpHの最適化のための実験およびその後のデータ解析により、非常に明白な結果が得られた。プロセス最適化に最も重要なパラメータであるとみなされる最大の容積生産性は、最も低い温度(35.1℃)および低pH(7.10)での培養によって得られた。pHの影響は、統計学的にほとんど有意ではなく、7.10〜7.30のpH値で非常に類似した結果が得られ得る。温度を37℃から35.1℃に下げることにより、容積生産性は、およそ200kU/L/dから、2.7倍高い540kU/L/dに上昇し得る(図11)。このような結果に基づき、ケモスタット様式でのCHO−Furinクローンの培養に対して、温度およびpHの新たな設定点を、35.1℃および7.15と決定した。
【0147】
ケモスタット様式とバッチ式再供給様式との比較。低温(35.1℃)でケモスタット様式でのCHO−Furinクローンの培養により、小規模実験(1.5L、2.5L、10Lおよび32L)では高収率がもたらされ、rFurinの生成のための大規模培養に適切な培養方法であるとみなした。しかしながら、大規模(PP1設備の1200L容バイオリアクター)での初期の発酵操作において、ケモスタット様式で、増殖速度の大きな低下が示された。択一例として、より高い増殖速度を得るため、バッチ式再供給様式を大規模で設定した。10L容規模のバイオリアクターで実験を行ない、ケモスタット様式とバッチ式再供給様式とで、増殖および生産性を比較した。細胞は、36.5℃にてpH7.15およびpO20%で培養した。培養2日目ごとに、バッチを0.6〜0.7×10細胞/mLの細胞計数に分割した。
【0148】
ケモスタット発酵とバッチ式再供給発酵は、播種材料として同じ細胞培養を使用し、パラレルで操作した。細胞は、第6日目までケモスタット様式で培養した。次いで、発酵操作の一方をバッチ式再供給様式に切り替え(FUR_06_50−F03)、他方は、ケモスタット様式を継続した(FUR_06_51−F04)。バッチ式再供給様式での培養では、バッチ終了時に2.22×10細胞/mLの平均細胞計数が得られ、増殖速度は0.64d−1であった(表20)。ケモスタット様式では、0.50d−1の増殖速度が得られ、平均細胞計数は1.67×10細胞/mLであった。バッチ式再供給様式の方が細胞計数と増殖速度が高いため、容積生産性も大きかった(197kU/L/dに対して238kU/L/d)。
【0149】
データは、バッチ式再供給様式が、10L規模でのCHO−Furinクローンに好ましい培養方法であることを示し、この様式では、ケモスタット様式よりも、さらにわずかに高い容積生産性がもたらされる(36.5℃およびpH7.15のとき)。しかしながら、バッチ式再供給様式では、回収プロセスおよび下流のさらなるプロセスが一定時間内に制限されるが、ケモスタット様式では回収は連続的に行なわれ得る。したがって、各方法がそれぞれ利点を有する。バッチ終了時の至適細胞計数または最良分割比率などのバッチ式再供給様式のパラメータについては、最適化実験は行なわなかった。
【0150】
【表20】

規模拡大の検討。異なる攪拌速度におけるRushton型の羽根とball型の羽根との比較。増殖速度および生産性に対する攪拌機の型の影響を調べた。CHO−Furinクローンを用いた実験でのバイオリアクターに使用した標準設定条件は、Rushton羽根と4枚のバッフルプレートで構成した。rFurin生成のための1,000L容バイオリアクターに、バッフルプレートなしで3対のball羽根を設置した。したがって、10L容のバイオリアクターにおいて3つの異なる設定条件を試験する実験を行なった:反応器の1つには標準設定条件を設置し、別の反応器には、2対のball羽根を設置してバッフルプレートは設置せず、第3の反応器は、標準のものと同様に組み立てたが、攪拌速度を170rpmから90rpmに下げた。
【0151】
表21は、バイオリアクターの設定の概要を示す。ball羽根で60rpmの攪拌速度では、rushton羽根で90rpmのときと同様の先端速度が得られる(表21参照)。しかしながら、羽根の幾何的構造(形状、直径)が異なるため、先端速度は互いに等しくなり得ない。
【0152】
【表21】

発酵条件は、以下のとおり:37℃,pH7.15,pO20%およびpCO6〜7%(培地:4,65g/LのGlc、1,5g/LのNaHCO)とした。発酵データの比較により、標準設定、すなわちrushton羽根を設置して170rpmの速度で攪拌したバイオリアクターの性能は、その他の設定のバイオリアクターよりも高いことが示された(表22)。60rpmでのball羽根の使用では、rushton羽根で170rpmのときと比べて、いくぶん遅い増殖速度(0.61d−1に対して0.57)、低い容積生産性(227kU/L/Dに対して197)がもたらされた。しかしながら、バイアビリティはほとんど影響を受けなかった。170rpmではなく90rpmの攪拌速度でのrushton羽根攪拌バイオリアクターを使用すると、増殖速度(0.61d−1に対して0.54)、容積生産性(227kU/L/Dに対して175)および細胞比生産性(138U/10細胞/日に対して115)が明白に低下した。
【0153】
この実験のデータにより、ball羽根で60rpmのとき、およびRushton羽根で低攪拌速度のときはともに、Rushton羽根で170rpmのときと比べ、CHO−Furinクローンの性能の低下がもたらされることが示された。とは言うものの、この結果により、CHO−Furinクローンの培養にball羽根を使用することが可能であることも示された。試験した設定のうち、rushton羽根で170rpm+4枚のバッフルプレートの設定は、最も荒い条件が示された。しかしながら、注目すべきことに、この条件下で細胞バイアビリティの低下は観察されず、これは、調べたCHO−Furinクローンの高い機械抵抗性を示す。
【0154】
【表22】

32L容バイオリアクターにおけるピッチブレード羽根での異なる攪拌速度の比較。GMP操作のため、PP1バイオリアクター(作動容積950L)内のキャンペーンORFURFB07002に、先で使用したball型の羽根の代わりに、ピッチブレード型の羽根(2枚、d=700mm)を設置した。
【0155】
このキャンペーン中、2日間のバッチ式再供給サイクルを行なった。先のキャンペーンと比較したときのこの変化を評価するため、32L容のバイオリアクターに、同様の型のピッチブレード羽根(1枚、d=140mm)を設定し、PP1設備由来の細胞懸濁物および同等の材料の使用を確保する培地を用いて発酵を行なった。
【0156】
同様のバッチ式再供給プロセスを行ない、このとき、2〜3回連続で2日間バッチサイクルを、0.5×10E06細胞/mLの開始細胞密度で開始した。実験は、2つの異なる攪拌速度、すなわち55rpmと120rpm)で行なった。培養条件は、PP1で使用した培養条件と同一:pH−SP 7.15,Temp−SP 35.5℃,pO2−SP 20%とした。最後のバッチのデータを、それぞれの攪拌条件への適応後に比較した。
【0157】
【表23】

この実験により、この場合も、CHOクローン#488−3の比増殖速度に対する攪拌条件の効果が示された。同じ開始細胞密度を適用した場合、増殖速度が増大すると、バッチ終了時の最終細胞密度は高くなった。容積生産性は276kU/L/Dから445kU/L/Dに増大した(+61%)が、最終細胞密度は30%増大した(1.5×10E06細胞/mLに対して1.95)。この結果は、攪拌速度の増大が細胞の比生産性に対してプラスの影響を有したことを示す。
【0158】
また、ほぼ200kU/L/Dの平均生産性がもたらされた発酵操作は、主に、20rpmという低攪拌速度の適用の結果であって、羽根の設計そのもののためではなかったという結論付けがなされ得る。ここで、ピッチブレード羽根により、相応して攪拌速度を調整すると、>400kU/L/Dの収率がもたらされ得ることが示され得る。
【0159】
実施例4:
組換えフリン(rFURIN)の精製
この実施例では、rFurinの濾過および精製のための方法を示す。収集した細胞培養上清みを、まず、デプスフィルター(Cuno Zetaplusフィルター)で濾過して細胞無含有および微粒子無含有とした後、0.45μmのPVDFフィルター(PALL Fluorodyne II)で薄膜濾過した。濾過したrFurin含有細胞培養上清みを、次いで、10 K PES UFカセット(Sartorius製(Sartocon PESU 10kDa))での限外濾過により、10〜50の範囲の濃縮係数で濃縮した。次いで、フリン濃縮物(290〜1700単位/ml範囲のフリン活性を有する)を、アリコートに分けて<−60℃で保存した。
【0160】
VWF成熟プロセスにおける使用のためのより均一なrFurin調製物を得る試みにおいて、細胞培養上清みからrFurinを一部精製する実験を行なった。一部精製rFurin試薬は、特性評価および放出試験での使用がより容易になる。また、VWF成熟プロセスにおいてCHO宿主細胞タンパク質の存在の低減がもたらされる。
【0161】
rFurinの効率的な結合に必要とされる負荷導電率が<5mS/cm(RT)であるアニオン交換樹脂での精製手順を開発した。次いで、溶出を、およそ500〜300mM NaClのイオン強度で段階的手順として行ない、このスクリーニング期間中、300mM NaClまでの勾配溶出を適用した(表24の概要参照)。バッファーの最初のpH6.7(RT)を7.5に上げると、特に、高タンパク質負荷量および高線形流速において、負荷量中のrFurin結合が改善された(表25の関連バッファーの概要参照)。精製実験は、充填流速の安定性および操作最大流速が異なるEMD TMAE(Merck)およびCaptoQ(GE Healthcare)アニオン交換樹脂において行なった。表26に要約した解析データは、rFurinが細胞培養上清みから、20〜71%の範囲の収率で362倍まで濃縮され得ることを示す。溶出液プール中のrFurin活性は、適応された負荷量に応じて639単位/ml〜27651単位/mlであった。溶出液中のCHO不純物レベルは、10〜134ng CHOタンパク質/単位rFurinの範囲であることがわかり、CaptoQ樹脂では、12.3までの減少割合により、CHO減少に関してわずかに良好な性能が見られた。
【0162】
要約すると、アニオン交換クロマトグラフィーによるrFurinの精製は、<−60℃でのrFurin試薬の保存に重要である濃縮の一選択肢であることが示された。また、3〜12倍のわずかなCHOの減少が、VWFの調製物中のCHOタンパク質濃度の低減に重要である。
【0163】
【表24】

【0164】
【表25】

【0165】
【表26】

実施例5:
rFurinの濃縮、精製および解析
この実施例では、大規模rFurinの濃縮および精製(すなわち、下流の処理)
に使用される他の方法を記載する。かかる処理の方法としては、限外濾過、ダイアフィルトレーション、およびcapto−MMCクロマトグラフィー(実質的に動物性タンパク質を含まないrFurinの作製において実施)が挙げられる。また、タンパク質の濃度、比活性、ならびに宿主細胞のタンパク質およびDNAによる夾雑の解析方法を記載する。
【0166】
限外濾過。上清み(ケモスタットキャンペーンではおよそ800〜1200kg、およびRFBキャンペーンではおよそ550〜700kg)を細胞から分離し、限外濾過によって終容量35〜45Lまで濃縮した。濃縮工程での限外濾過/ダイアフィルトレーションシステム(UFS)のパラメータおよび設定点を表27に示す。
【0167】
【表27】

ダイアフィルトレーション。濃縮工程の終了直後、保持液のダイアフィルトレーションを開始した。ダイアフィルトレーション工程でのUFSのパラメータおよび設定点を表28に示す。
【0168】
【表28】

保持液の導電率が2mS/cm未満に下がったとき(UFSのインライン導電率プローブにより測定)、このプロセス工程を終了した。この低い導電率は、後続の精製工程でのクロマトグラフィーゲルに対するrFurinの定量的結合を確保するために必要とされる。ダイアフィルトレーション生成物を移し、このダイアフィルトレーション生成物のpH値を1M酢酸溶液の添加によって6.0に調整した。この生成物を、Capto−MMCカラムに適用する前に室温(RT)で保存した。
【0169】
Capto−MMCクロマトグラフィー。マルチモーダルカチオン交換体であるCapto−MMCゲルを使用し、rFurinを結合し、大部分の夾雑物をダイアフィルトレーション生成物から排除した。クロマトグラフィーゲルの平衡後、ダイアフィルトレーション生成物をカラムに負荷する。0.22μmフィルターカプセルを取り付け、ダイアフィルトレーション生成物のオンライン濾過を行なった。表29に、さらなるクロマトグラフィー工程を列挙および詳述する。
【0170】
【表29】

下流の処理では、問題は観察されなかった。下流工程(濾過、UF、DF)は、ケモスタット培養物からの回収に使用されるものと同じ条件で行なわれ得る。平均全rFurin活性収率91%(キャンペーンORFU06002)、66%(キャンペーンORFU07001)および84%(キャンペーンORFU07002)が達成され得た。唯一の小さな変化は、UF工程の開始容量が連続的な培養と比べていくぶん少ないことによって示される。しかしながら、この変化は、精製生成物の品質に対して効果を有しない(全活性、宿主細胞DNA、宿主細胞タンパク質に関するデータ参照;表30参照)。
【0171】
宿主細胞タンパク質および宿主細胞DNA含有量に関する3つのキャンペーンすべての平均値は、それぞれ、かなり低い平均最大値8.55μg/ml(2.2〜10.4μg/mlの範囲)および13.48ng/ml(0.0〜23.9ng/mlの範囲)(表30参照)を示す。クロマトグラフィー工程により、比夾雑を、低い平均最大値0.35ng CHOタンパク質/U rFurin活性(0.13〜0.52ng CHOタンパク質/Uの範囲)および0.148pg宿主細胞DNA/U rFurin活性(0.0〜.365pg DNA/U rFurin活性の範囲)まで減少させることができた。
【0172】
【表30】

Furin特性評価。rFurinの品質および機能性を、以下の生化学的/生物物理学的方法によって評価した(表31)。
【0173】
【表31】

Furin活性のアッセイ。精製rFurinバッチ(Capto−MMC溶出液プール)を、Furinの酵素活性について試験した。基質は、蛍光アミノ−メチルクマリン(AMC)基(これは、切断(BOC−RVRR−AMC)後に放出される)に結合された二塩基性認識配列を含む短鎖の合成ペプチドである。放出された蛍光発生基は、380nmでの励起、続いて435nmでの発光の測定によって検出され得る。1活性単位は、30℃で1分あたり1pMolのAMCの放出と定義する。
【0174】
発酵および精製の有効性に応じて、rFurin活性の測定値は約10000U/mlから約100000U/ml超までの範囲であり、平均値はおよそ69000U/mlであった(表32、表32、および表34)。RFB様式キャンペーンでは、特に、ケモスタットキャンペーンORFU06002(47737U/ml)の平均値と、RFB キャンペーンORFU07001(77653U/ml)およびORFU07002(93178U/ml)の平均値を比較した場合、rFurin活性の増大がみとめられた(全般的には、rFurin活性は、約10000から100000U/ml超までの範囲であった;すべてデータ表示せず)。
【0175】
Furinの比活性は、活性U/μgタンパク質で示す(表32〜34参照)。キャンペーンORFU06002の平均比活性は269U/μgタンパク質であり、それぞれ、ORFU07001では500U/μgに、およびORFU07002では563U/μgに増大した(全般的には、比活性は、124〜620U/μgタンパク質の範囲であった;データ表示せず)。したがって、比活性はこの2つのRFB キャンペーンで倍加し、ケモスタット様式で生成させたバッチと比べてRFB rFurinの酵素活性が高い結果である。
【0176】
【表32】

【0177】
【表33】

【0178】
【表34】

フリン使用試験活性。フリン使用試験は、プロVWFから成熟rVWFにプロセッシングされるrFurinの有効性が定量されるように設計されたものである。成熟有効性は、1VWF抗原単位の成熟に必要とされるFurin単位の量(Uフリン/U VWF)で示す。基質は、パイロット規模で現行の製造手順(Furinの成熟およびSuperose 6での最終精製工程は省略)に従って精製されたプロVWF/VWF調製物である。rVWF基質濃度は100U Ag/mlであった(F8HL_24_01 UF02−R)。
【0179】
試料の4つの希釈物を、1ml容のエッペンドルフ型チューブ内で、例えば、0.25〜2.0U/U VWFの比Furin濃度を包含するように試験した。反応および希釈用バッファーは、100mM HEPES、1mM CaCl(pH7.0)とし、成熟実験は、わずかに攪拌下、37℃で16時間行なった。インキュベーション後、SDS−試料バッファーの添加および>90℃で5分間の試料の加熱によって酵素反応を停止させる。次いで、試料を、8%ゲル上でのSDS−PAGEおよび分離されたポリペプチドの銀染色の使用によって解析する。次いで、ゲルの目視検査(プロVWFバンドは、成熟VWFバンドと比べ、5%未満を示すはずである)によって評価される成熟有効性>95%を得るのに必要とされる比Furin活性を報告し、試験したrFurinの品質条件として使用する。
【0180】
【表35】

【0181】
【表36】

【0182】
【表37】

良好で一貫したプロVWFの成熟活性が、試験したすべてのrFurinバッチで見られた。キャンペーンの平均値は、1.0U Furin/U VWF未満である:Agおよび成熟度は、すべての場合で95%を超える(表35〜37)。rFurinバッチの成熟活性はすべて同等であり、キャンペーンORFU06002、ORFU07001およびORFU07002の平均計算値を参照すると、ケモスタット様式およびRFB様式で生成されたrFurin間に、ほぼ違いは見い出され得ない。
【0183】
Furin SDS−PAGEおよび銀染色。8%SDS−PAGEとともに銀染色およびウエスタンブロット解析を、すべてのrFurinバッチに対して行ない、一貫した品質を保証し、不純物の程度を可視化した。図12に見られるように、キャンペーンORFU06002とORFU07002のCapto−MMC溶出液のバンドパターンは、高度に相関している。;試料はすべて、およそ60kDaに顕著なFurinバンドを示す。バッチMMC01〜MMC08由来のキャンペーンORFU06002の試料では、Furinバンドがわずかに小さい分子量である傾向が見られる(図12、レーン1〜8)。このバッチの試料は脱グリコシル化されており、この傾向は、後続の銀染色を伴いSDS−PAGEは見られなくなる(データ表示せず)という効果を有し、キャンペーンORFU06002では、rFurinが、発酵進行中の過程で、わずかに異なる程度またはより低い程度でグリコシル化されるという仮定を裏付ける。この傾向は、RFB キャンペーンORFU07002ではみとめられず、全キャンペーンでのrFurinの定常的なグリコシル化を示す。ORFU06002およびORFU07002に由来するバッチ中の不純物は、ほぼ完全に同じである;しかしながら、RFB様式キャンペーンORFU07002由来の試料は、40kDaの領域に強度の小さいバンド、キャンペーンORFU06002の試料中で特に強く富化されたポリペプチドを示す。
【0184】
SDS−PAGEウエスタンブロット。すべての試料に対し、モノクローナル抗Furin抗体を用いてウエスタンブロット解析を行なった(図13)。約60kDaにおける顕著なバンドは、Furinバンドと同定され得、すべての試料に見られる。試料の同等性は非常に高い。バンド強度におけるわずかな変動は、試料中のFurin濃度が異なることによるものである。全般的には、SDS−PAGE解析により、ケモスタットおよびRFB様式で生成されたrFurinの同等性が強調される。
【0185】
慣用的なSDS−PAGEを補助するため、キャンペーンORFU06002およびORFU07002の試料に対して等電点電気泳動(IEF)を行なった。IEFは、垂直型IEFを使用し、pH7.0〜pH3.0で行なった。ポリペプチドは、クーマシー染色およびウエスタンブロット解析によって可視化した。キャンペーンORFU06002のrFurin試料のIEFおよびその後のウエスタンブロットにより、Furinの特異的バンドパターンが示された(図14参照)。pH4.5〜pH5.5の領域内に7個までの別個のバンドが確認され得、少なくとも5個のバンドは、すべての試料に存在する。
【0186】
キャンペーンORFU07002の試料のIEFは、可視化のためにクーマシー染色およびウエスタンブロット解析を用いて行なった。クーマシー染色では、特異的バンドパターンが示され、すべての試料で、pH4.5〜pH5.5の領域内に最小5個の別個のバンドが示され、8個までのバンドが確認され得る(図15、レーン3参照)。
【0187】
ウエスタンブロット解析(図16参照)により、これらの結果が確証され、一部の試料では、クーマシーゲルで見られたバンド全部は示されない(図17参照)。これは、おそらく、ゲルからブロッティング膜へのタンパク質の移行が不完全なためである。
【0188】
Furin逆相HPLC。rFurinのフィンガープリントパターンを確立するため、キャンペーンORFU06002およびORFU07003由来の試料(Capto−MMC溶出液)を、C4 RP−HPLCにより試験した。この2つのキャンペーンの試料のピークパターンを比較した(図17および図18参照)。
【0189】
試験したすべての試料のクロマトグラムには、およそ13分の保持時間の時点に特徴的なメインピークが示されており、これはFurinに帰属され得る。ピークの高さは、試料中のFurin濃度と充分に相関している。他のタンパク質不純物は、8分〜17分の範囲にマイナーピークとして見られ得る。キャンペーンORFU07002由来の試料はすべて、ORFU06002のものよりも有意に少なく小さい不純物由来のピークを示す。このことは、少数で少量の不純物が見られたRFB様式キャンペーンORFU07002の場合のSDS−PAGEの結果と充分に整合する。
【0190】
上記の特性評価方法で得られた解析データは、ケモスタット様式とRFB様式の両方で生成されたrFurinの非常に良好な同等性を示す。入手可能なデータからは、rFurinの品質に大きな差は検出され得なかったが、RFB様式で生成されたrFurinバッチでは、ケモスタット様式での生成と比べ、高い比活性および少ない不純物が示された。クロマトグラフィー工程により、原薬原料(BDS)中の宿主細胞タンパク質および宿主細胞DNAの含有量は非常に低くなる。RFB発酵および全下流処理(濾過、UF/DF、Capto−MMCクロマトグラフィー)からなる少なくとも完全な生成プロセスは、おそらく、例えば、単独使用バイオリアクター(SUB)系におけるrFurinの商業的作製のための実施が、より容易である。
【0191】
実施例6:
安全性、無菌性、および安定性の試験
この実施例では、CHO細胞バンクの品質の測定および維持のために行なわれる安全性、無菌性および安定性の試験を記載する。無菌性/マイコプラズマに対する試験は、ICH−Guideline Q5Dの要請に従って行なわれなければならない。細胞バンクの品質は、解凍細胞の平均バイアビリティおよび細胞密度の測定ならびにその後の培養物の増殖速度によって確認されなければならない。
【0192】
ウイルス安全性(表38)、遺伝子安定性(表39)、および同一性(表40)について、細胞を試験した。細胞は無菌性であり、マイコプラズマを含まず、外来因子を含まず、レトロウイルスを含まず、MVMウイルスに対して陰性であり、外来ウイルスに対して陰性であり、齧歯類ウイルスに対して陰性であり、ブタおよびウシウイルスを含まず、Cache Vallleyウイルス(CVV)を含まないことがわかった。
【0193】
細胞バンクを、Furin産生細胞/非産生細胞比に関して、FACS解析によって検査した。また、長期安定性(長期間にわたってFurinを産生する能力)についても試験する。さらに、無血清条件下で産生された分泌型Furinは、生成されるアイソフォームに関して調べなければならない。データはすべて、安定な培養およびFurin生成が、このような細胞バンクを用いて達成され得ることを示すはずである。
【0194】
MCB/WCB由来の細胞では、生成プロセス全体にわたって、安定な増殖およびFurin発現が示されるはずである。
【0195】
【表38】

【0196】
【表39】

【0197】
【表40】

本発明を、本発明の実施のための好ましい様式を含むことがわかった、または含むと提案される特定の実施形態に関して説明したが、当業者には、本開示に鑑みると、例示した該特定の実施形態において本発明の意図する範囲を逸脱することなく、数多くの変形および変更がなされ得ることが認識されよう。したがって、添付の特許請求の範囲は、特許請求の範囲に記載の発明の範囲に含まれるかかるすべての均等な異型を包含するものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に動物性タンパク質を含まない組換えフリンを含む組成物。
【請求項2】
少なくとも約10000Uフリン/mLの活性の組換えフリン、および約11μgタンパク質/mL未満の濃度のCHO宿主細胞タンパク質を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
少なくとも約10000Uフリン/mLの活性の組換えフリン、および約1.0ng タンパク質/Uフリン活性未満の濃度のCHO宿主細胞タンパク質を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
少なくとも約10000Uフリン/mLの活性の組換えフリン、および約14ng DNA/mL未満の濃度のCHO宿主細胞DNAを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
少なくとも約10000Uフリン/mLの活性の組換えフリン、および約0.5pg DNA/Uフリン活性未満の濃度のCHO宿主細胞DNAを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
少なくとも約100U/μgの活性の組換えフリン、および約11μg タンパク質/mL未満の濃度のCHO宿主細胞タンパク質を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
少なくとも約100U/μgの活性の組換えフリン、および約1.0ng タンパク質/Uフリン活性未満の濃度のCHO宿主細胞タンパク質を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
少なくとも約100U/μgの活性の組換えフリン、および約14ng DNA/mL未満の濃度のCHO宿主細胞DNAを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
少なくとも約100U/μgの活性の組換えフリン、および約0.5pg DNA/Uフリン活性未満の濃度のCHO宿主細胞DNAを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
実質的に動物性タンパク質を含まない組換えフリンの作製方法であって、フリンをコードするポリヌクレオチドで形質転換またはトランスフェクトした宿主細胞を無血清培地中で、該フリンの該培地中への分泌を可能にする条件下で増殖させる工程を含む、方法。
【請求項11】
前記宿主細胞を培地中で、血清濃度をだんだん低下させながら、すべての血清が該培地から除去されるまで適応させる工程を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記宿主細胞を、血清を含む培地中での増殖から無血清培地中での増殖に移すことを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記宿主細胞がCHO細胞である、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載の組成物の使用方法であって、プロタンパク質を該組成物と、該プロタンパク質からプロペプチドが切断されて成熟タンパク質が形成される条件下で接触させる工程を含む、方法。
【請求項15】
前記成熟タンパク質がフォンヴィレブランド因子である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記成熟タンパク質が第VIII因子である、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公表番号】特表2011−507550(P2011−507550A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540818(P2010−540818)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【国際出願番号】PCT/US2008/087732
【国際公開番号】WO2009/088713
【国際公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【Fターム(参考)】