説明

実質的に純粋なヒスチジン結合タンパク質−ポリマー結合体

【課題】実質的に純粋なヒスチジン結合タンパク質−ポリマー結合体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】タンパク質と活性化ポリマー(ポリアルキレンオキシド)とを、ポリマー鎖の少なくとも一部がタンパク質のヒスチジン残基に共有結合するのを促進するのに十分な条件下で接触させ、その後ヒスチジン残基で結合した物質を残りの反応物質から実質的に分離することを含む組成物の製法およびえられる組成物。αインターフェロンのHis−34による結合が例示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.発明の分野
本発明は、実質的に純粋なタンパク質-ポリマー結合体に関する。特に、本発明は、ヒスチジン結合タンパク質-ポリマー結合体および該結合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2.関連分野の説明
生物活性タンパク質をポリマーに結合させることにより、循環寿命 (circulating life)、水溶性またはin vivo抗原性の特性のうちの1つ以上が改善されるということが示唆されている。例えば、ペプチドまたはポリペプチドのポリエチレングリコール(PEG)および同様の水溶性ポリマーへの結合についての最初の概念のいくつかが米国特許第4,179,337号に開示されている。この開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
インスリンおよびヘモグロビンは、最初の結合治療薬のうちの一つである。このような比較的大きなポリペプチドには、いくつかの遊離リシンε-アミノ結合部位が含まれる。いくつかのポリマーは生物活性を有意に損失させることなく結合され得る。
【0004】
しかしながら、多くの生物活性物質に関し、その結合プロセスには必ず問題がある。結合プロセスは結合部位に関して特異的ではない。結合反応によって引き起こされる生物活性の損失を抑えることに注意を払う必要がある。例えば、過剰の活性化ポリマーが標的タンパク質またはポリペプチドに結合すると、生物活性は激しく低下するか消失する可能性がある。さらに、タンパク質にポリマーを結合するのに不適切なリンカーを用いた場合、または不十分な量のポリマーを標的に結合させた場合、得られる結合体の治療上の価値はかなり抑制される。多くの場合、そのような結合体は生物活性の損失を補うのほどの循環寿命の増大を示さない。治療成分の活性部位(すなわち生物活性に関連する基が見出される)がポリマー結合の結果としてブロックされる場合も問題が発生し得る。ポリマーとタンパク質は典型的には溶液ベースの反応において結合し、ポリマー結合プロセスは結合部位に関して特異的ではないので、この問題を回避するのは困難であり得る。ピリドキサールリン酸などの物質で活性部位を予めブロックすることが提案されているが、その結果には一貫性がない。タンパク質のリシン欠失変異体もポリマー結合を制御する一つの方法として提案されている。しかしながら、この技術は最終生成物のコストを有意に増大させるので実際的でない場合が多い。この問題は、低分子量のタンパク質およびペプチドに関して特に深刻である。これらの生物活性物質は、生物活性に関係しない結合部位はほとんど持たない場合が多い。
【0005】
ポリマー結合後の生物活性の損失を回避するための別の試みにおいては、顆粒球コロニー刺激因子(「G-CSF」)をmPEGカルボキシメチル-N-ヒドロキシ-スクシンイミジルエステルに結合させ、次いで2モルのヒドロキシルアミン(pH7.3)で処理して「不安定な」リンカーを除去し、その後pHを3.5まで低下させている。Kinstlerら, 1996, Pharmaceutical Res. 13(7):996-1002。改良型G-CSFを得るための記載や示唆も任意のその他のタンパク質結合体の処理に関するガイダンスも示されていない。
【0006】
インターフェロン類(以下「IFN類」という)は、改良型ポリマー結合技術からの恩恵を受け得るタンパク質の特定の例である。例えば、米国特許第4,766,106号および4,917,888号を参照されたい。これらには、とりわけ、mPEG-2,4,6-トリクロロ-S-トリアジン、mPEG-N-スクシンイミジルグルタル酸またはmPEG-N-スクシンイミジルコハク酸などの活性化ポリマーと結合したβインターフェロンが記載されている。この特許権者らは、タンパク質の共有結合的修飾をpH5〜9で行い、タンパク質がそのリシン残基により反応する場合にはタンパク質の共有結合的修飾をpH8〜9で行うということを開示している。活性化ポリマーはかなりモル過剰(10、20および50倍)でも用いられている。
【0007】
欧州特許出願公開第0 236 987号には、好ましくはpHが約7〜9という条件下でのαおよびγインターフェロンとモル過剰のアルキルイミドエステル活性化ポリエチレングリコールとの反応が記載されている。欧州特許出願公開第0 510 356号には、7〜9のpHにおけるαインターフェロンとピリジニルカルボニルおよびチオカルボニル活性化PEGとの結合が記載されている。これらの開示ではリシン以外のアミノ酸が結合に関与していること、またはリシン以外のアミノ酸が結合に有利であることは言及されていない。
【0008】
WO96/11953には、例えば共通IFNのようなタンパク質とポリマーとを、N-末端にポリマー、例えばPEGを選択的に結合させるために還元的アルキル化反応を用いて酸性pH(pH4)にて反応させることにより結合体を調製することが報告されている。WO96/11953には、この反応がリシンεアミノ基への結合を選択的に阻止する一方、N-末端αアミノ基との結合には好都合であるということが述べられている。またWO96/11953には、G-CSFをPEGとpH8.0で反応させた後、単に分離カラム上に生成物を付加するための準備としてpHをpH4.0まで低下させる2段階pH処理プロセスも記載されている。WO96/11953には、N-末端またはリシン以外のIFN残基にポリマーを選択的に結合させるためのアシル化反応の利点は教示されておらず、示唆すらされていない。
【発明の開示】
【0009】
上記の開示に鑑みると、種々の短所に取り組むためにインターフェロン-ポリマー結合体におけるさらなる改良が望まれていると考えられる。本発明は、本分野に対するさらなる改良を提供するものであり、よってこれらの短所に取り組むものである。
【0010】
発明の概要
1つの態様においては、本発明は、実質的に純粋なタンパク質-ポリマー結合体を含む。これらの結合体は、タンパク質のヒスチジン(His)残基に、ポリエチレングリコールなどのポリマーが共有結合したαインターフェロンなどのタンパク質を含む。αインターフェロンの場合、ヒスチジンは好ましくはヒスチジン34である。好ましくはαインターフェロンはインターフェロンα2bであり、結合体はαインターフェロン1分子当たり約1個のポリマー鎖を含む。IL-10などのその他のタンパク質についてのヒスチジン結合モノポリマー結合体も本発明の一部として含まれる。好ましいモノポリマーHis結合結合体を含む組成物は、所望により、少量のその他のモノ-PEG-タンパク質種も含み得る。
【0011】
本発明の別の実施形態においては、実質的に純粋なタンパク質-ポリマー結合体の製造方法が提供される。特に、この方法は、タンパク質-ヒスチジン残基結合ポリマー-結合体の製造に関する。この方法は、αインターフェロンなどのタンパク質と、十分な量の適切に活性化されたポリマーとを、タンパク質分子の活性化ポリマー鎖への共有結合を促進するのに十分な条件下で反応させることにより複数のタンパク質-ポリマー結合体種または位置異性体を形成すること、その後タンパク質とポリマーとの間にHis結合が形成された結合種または位置異性体を、残りの結合体種から実質的に単離することを含む。本実施形態の1つの好ましい態様においては、活性化ポリマーはベンゾトリアゾールカーボネート-活性化ポリマーである。別の態様においては、活性化ポリマーはオキシカルボニル-オキシ-N-ジカルボキシミド-活性化ポリマー、例えばスクシンイミジルカーボネート(SC-PEG)である。これらの活性化ポリマーによって、当業者は、結合体のかなりの部分がαインターフェロン上のリシン残基またはN-末端ではなくヒスチジン残基に共有結合したポリマー鎖を含むものであるような反応プールを形成できる。
【0012】
αIFN His34異性体などのタンパク質His位置異性体を、その他の位置異性体に対して相対的に多量に形成させる条件のいくつかには、アシル化ポリマー結合反応を特定のpH範囲内、すなわち好ましくは約7以下、より好ましくは約4.5〜約6.8で行うことが含まれる。これは、少なくとも一部のポリマー鎖の、タンパク質のヒスチジン残基のアミノ基への優先的共有結合を促進する。次いで、クロマトグラフィーカラム、例えばゲル濾過とその後の陽イオン交換、または陰イオン交換とその後の陽イオン交換などを用いて、所望の実質的に純粋なタンパク質結合体を反応プール中の残りのタンパク質結合体から単離するのが好ましい。
【0013】
適当なα-インターフェロンとしては、哺乳動物から単離された組換えおよび非組換えα-インターフェロンが挙げられる。結合体のポリマー部分は、好ましくは、モノメトキシポリエチレングリコール(mPEG)などのポリアルキレンオキシド(PAO)である。別の実施形態においては、その他の実質的に非抗原性のポリマーも用いることができる。ポリマーの分子量は、好ましくは約200〜約35,000である。
【0014】
また本発明は、哺乳動物におけるα-インターフェロン感受性症状などの種々の医学的症状を治療する方法も含む。この態様においては、治療には、そのような治療が必要な哺乳動物に本明細書に記載したタンパク質結合体を含む組成物を有効量投与することが含まれる。
【0015】
本発明の目的に関し、「位置異性体」という用語は、一般に、利用可能なアミノ酸残基の中の1つにポリマー鎖が結合した結合体を説明するものであると理解されるであろう。具体的な位置異性体は、本明細書ではアミノ酸残基結合点に関して記載されている。例えば、タンパク質Lys31-ポリマー位置異性体は、タンパク質のLys31にポリマーが結合したモノポリマー結合体を示すものである。その他の位置異性体、すなわちタンパク質の他の部位にポリマーが結合した結合体も同様に示される。
【0016】
本発明の目的に関し、「実質的に純粋な」という用語は、タンパク質-ポリマー結合体の所望の位置異性体を含む組成物の純度のレベルまたは程度を示すものと理解されるであろう。結合されるタンパク質および用いられる結合体分離技術に依存するが、本発明による組成物は、所望の位置異性体を大部分含む場合には実質的に純粋であるとみなされる。好ましくは組成物には少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約80%の所望の位置異性体が含まれる。
【0017】
また本発明の目的に関し、「実質的に分離する」とは、(好ましくは)高速液体クロマトグラフィーを用いた結果、広範な位置異性体から所望の位置異性体を回収する本発明の方法の一部を記載するものと理解されるであろう。得られた単離物には、所望の位置異性体とできる限り少量、例えば15%未満のその他の位置異性体からなる実質的に純粋な単離物が含まれる。
【0018】
本発明の結果、意外なことにタンパク質-ポリマー結合体組成物において付加的な改良が可能であることが分かった。例えば、比較的高レベルの生物活性を比較的高収量で含む、実質的に純粋な位置異性体を得ることが可能である。αIFNの場合、好ましい位置異性体、すなわちモノポリマー-His34結合IFNα-2b結合体は、天然のαインターフェロンのみならずその他の位置異性体よりも予想外に高レベルの生物活性を示す。その他の位置異性体、すなわちN-末端またはリシンアミノ基のようなインターフェロンのその他の位置にポリマーが結合した結合体は、より低いがそれでもなお有効な量の生物活性を示す場合が多く、いくつかの本発明の組成物に少量含まれ得る。
【0019】
驚いたことに、結合反応にベンゾトリアゾールカーボネート(BTC)活性化ポリマーなどの特定の活性化ポリマーが含まれる場合、予想外に多量のヒスチジン結合位置異性体が形成されるということも分かった。
【0020】
本発明をより良く理解するために、下記の説明および図面を参照する。
【0021】
発明の詳細な説明
1. タンパク質
本発明の目的に関し、「タンパク質」という用語は、タンパク質のみならずポリマー結合に関して利用可能な少なくとも1個のヒスチジンを有するポリペプチド、酵素、ペプチドなども包含するものと理解されるであろう。さらに、本発明で使用することが考えられるタンパク質は、限定するものではないが、生理学的活性または薬理活性を有するものである。例えば、有機溶媒中で反応を触媒することができる酵素結合体も含まれる。同様に、いくつかの本発明のポリマー結合体は検査室診断にも有用である。すべての結合体についての2つの主要な特徴は、それらが好ましくはHis残基を介して結合されており、非修飾タンパク質と関連した活性の少なくともいくらかの部分を維持するものであるということである。
【0022】
対象となるタンパク質、ポリペプチドおよびペプチドとしては、限定するものではないが、ヘモグロビン、第VII因子、第VIII因子、第IX因子などの血液因子のような血清タンパク質;免疫グロブリン、サイトカイン、例えばインターロイキン、すなわちIL-1〜IL-13、α-、β-およびγ-インターフェロン、好ましくは以下により詳しく記載したα-インターフェロン、コロニー刺激因子、例えば顆粒球コロニー刺激因子、血小板由来増殖因子およびホスホリパーゼ-活性化タンパク質(PLAP)が挙げられる。一般的な生物学的または治療目的のその他のタンパク質としては、インスリン、植物タンパク質、例えばレクチンおよびリシン、腫瘍壊死因子および関連タンパク質、形質転換増殖因子などの増殖因子、例えばTGFαまたはTGFβおよび上皮増殖因子、ホルモン、ソマトメジン、エリスロポエチン、色素ホルモン、視床下部放出因子、抗利尿ホルモン、プロラクチン、絨毛性ゴナドトロピン、卵胞刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、組織プラスミノゲン活性化因子などが挙げられる。対象となる免疫グロブリンとしては、IgG、IgE、IgM、IgA、IgDおよびそれらのフラグメントが挙げられる。
【0023】
インターロイキン、インターフェロンおよびコロニー刺激因子などのいくつかのタンパク質は、通常組換え技術を用いた結果、非グリコシル化形態でも存在する。非グリコシル化体も本発明のタンパク質に含まれる。
【0024】
対象となる酵素としては、炭水化物特異的酵素、タンパク質分解酵素、オキシドリダクターゼ、トランスフェラーゼ、ヒドロラーゼ、リアーゼ、イソメラーゼおよびリガーゼが挙げられる。具体的な酵素に限定するものではないが、対象となる酵素としては、例えば、アスパラギナーゼ、アルギナーゼ、アルギニンデアミナーゼ、アデノシンデアミナーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、エンドトキシナーゼ、カタラーゼ、キモトリプシン、リパーゼ、ウリカーゼ、アデノシンジホスファターゼ、チロシナーゼおよびビリルビンオキシダーゼが挙げられる。対象となる炭水化物特異的酵素としては、グルコースオキシダーゼ、グルコダーゼ、ガラクトシダーゼ、グルコセレブロシダーゼ、グルクロニダーゼなどが挙げられる。
【0025】
また本発明にはin vivoで生物活性を示すポリペプチドの任意の部分も含まれる。これには、ヒスチジン-含有アミノ酸配列、抗体フラグメント、1本鎖抗原結合タンパク質(例えば米国特許第4,946,778号(この開示は参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)、結合分子、例えば抗体またはフラグメントの融合物、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体および触媒抗体が含まれる。
【0026】
タンパク質またはその部分は、組織培養、動物起源からの抽出のような当業者に知られた技術を用いて、または組換えDNA法により、調製または単離することができる。トランスジェニック起源のタンパク質、ポリペプチド、アミノ酸配列なども含まれる。そのような材料はトランスジェニック動物、すなわち、マウス、ブタ、ウシなどから得られるものであり、タンパク質は乳、血液または組織中に発現される。トランスジェニック昆虫およびバキュロウイルス発現系も起源として含まれる。さらに、突然変異インターフェロンなどのタンパク質の突然変異体も本発明の範囲に含まれる。
【0027】
対象となるその他のタンパク質は、ブタクサ、Antigen E、ミツバチ毒、ダニアレルゲンなどのアレルゲンタンパク質である。
【0028】
好ましいタンパク質の一つは以下により詳細に記載したαインターフェロンである。本発明に適したタンパク質は上記に例示したとおりである。本明細書で規定したように、具体的に言及していないが利用可能なヒスチジン基を有するタンパク質も対象とするものであり、本発明の範囲に含まれることは理解されるであろう。
【0029】
当業者には、本明細書に規定したように、ポリマー結合部位として使用するために特に遺伝子工学的に操作してヒスチジンを含有させたタンパク質が本発明に含まれることも理解されるであろう。
【0030】
本発明の別の態様においては、結合部分は、ポリマーを結合するためのアミノ基もしくは他の適当な結合基を天然に含むか、または標準合成技術を用いて修飾することによりヒスチジン、チロシン、イミダゾールまたは本明細書に記載したようにポリマーを結合するための同様の窒素もしくはアミン含有基を含有させた、有機合成分子などの非タンパク質ベースの化合物である。
【0031】
2. インターフェロン
タンパク質がインターフェロン(IFN)である本発明の態様においては、タンパク質が、大腸菌(E.coli)で発現される合成遺伝子を用いる技術のような組換え技術を用いて種々の起源から調製または取得できることは理解されるであろう。Pestka, ヒトサイトカインにおける「インターフェロンα」, Blackwell Scientific Publications 1-16 (1992)も参照されたい。この開示は参照により本明細書に組み込まれる。さらに、IFNは好ましくはαIFNであり、ヒト、反芻動物またはウシαIFNのような哺乳動物起源の抽出物でもよい。特に好ましいIFNの一つは、Schering社(Kenilworth, NJ)により組換え産生された産物IFNα-2bである。
【0032】
「インターフェロン」または「IFN」という用語は、本明細書で用いられる場合、ウイルス複製および細胞増殖を阻害し、免疫応答をモジュレートする高度に相同なタンパク質のファミリーを意味する。ヒトインターフェロンは細胞起源および抗原性に基づいて3つのクラス:α-インターフェロン(白血球)、β-インターフェロン(繊維芽細胞)およびγ-インターフェロン(B細胞)に分類される。各グループの組換え体が開発されており、市販されている。各グループのサブタイプは抗原/構造特性に基づくものである。異なるアミノ酸配列を有する少なくとも24種のインターフェロンα(サブタイプA〜Hに分類される)が、これらのペプチドをコードするDNAを単離し、配列決定することにより同定されている。また、Viscomi, 1996 Biotherapy 10:59-86も参照されたい。この内容は参照により本明細書に組み込まれる。「α-インターフェロン」、「αインターフェロン」、「インターフェロンα」および「ヒト白血球インターフェロン」という用語は、本出願では、このグループのメンバーを記載するために同義で用いられている。米国特許第4,897,471号(この内容は参照により本明細書に組み込まれる)に記載されたような共通インターフェロンを含む天然および組換えα-インターフェロンの両方を本発明の実施に用いることができる。
【0033】
全血のバフィーコート画分より単離されたヒト白血球からのインターフェロンαの精製は、米国特許第4,503,035号に記載されている。この方法で調製されたヒト白血球インターフェロンには、異なるアミノ酸配列をもつヒト白血球インターフェロンの混合物が含まれる。本発明の実施に用いられ得る精製天然ヒトα-インターフェロンおよびその混合物としては、限定するものではないが、Sumitomo(日本)から市販されているSumiferon(登録商標)インターフェロンα-n1、Glaxo-Wellcome社(ロンドン, 英国)から市販されているWellferon(登録商標)インターフェロンα-n1(Ins)、およびPurdue Frederick社(ノーウォーク, CT)から市販されているAlferon(登録商標)インターフェロンα-n3が挙げられる。
【0034】
インターフェロン製造に適用される組換えDNA技術の出現により、数種のヒトインターフェロンをうまく合成することが可能になり、それによって大規模培養、産生、単離および種々のインターフェロンの均質な精製が可能になった。組換え産生インターフェロンは、そのin vitroおよびin vivoの抗ウイルス活性および免疫調節活性を維持している。また組換え技術には組換え誘導ポリペプチド上に炭水化物部分を付加するためのグリコシル化部位も含まれ得ることは理解されるであろう。
【0035】
ヒト白血球インターフェロンの少なくとも一部をコードする配列を含む組換えDNAプラスミドの構築、およびヒト白血球インターフェロンの免疫学的または生物学的活性を有するポリペプチドの大腸菌における発現は、米国特許第4,530,901号および欧州特許第EP 0 032 134号に開示されている。異なるサブタイプ配列の組合せ(例えばAとD、AとB、AとF)を含むハイブリッドα-インターフェロン遺伝子の構築は、米国特許第4,414,150号、4,456,748号および4,678,751号に開示されている。本発明の実施に用いられ得る典型的で適切な組換えα-インターフェロンとしては、限定するものではないが、Schering Corporation(Kenilworth, N.J.)から市販されているIntron(登録商標)Aなどのインターフェロンα-2b、Hoffmann-La Roche(Nutley, N.J.)から市販されているRoferon(登録商標)Aなどのインターフェロンα-2aおよびAmgen(Thousand Oaks, CA)から市販されているInfergen(登録商標)が挙げられる。
【0036】
外来αIFNが完全に自己由来のものではない別の実施形態も所望により用いることができる。しかしながら、非自己由来αIFNが標的哺乳動物において十分な生物活性または抗ウイルス活性のようなαIFN作用を有することは重要である。αIFN画分または前身(predecessor)ポリペプチドを含むその他の物質も本発明の結合体に含まれ得る。本明細書で用いられる場合、「哺乳動物におけるα-IFN作用」とは、αIFN類で観察された作用に対応するin vivo活性を意味する。これらの物質は、組織培養、動物起源からの抽出のような当業者に知られた技術を用いることにより、または組換えDNA法により調製される。トランスジェニック起源のαIFNおよび関連部分も含まれる。そのような物質は、αIFNタンパク質が乳、血液またはその他の組織中に発現されるトランスジェニック動物、例えばマウス、ブタ、ウシなどから取得される。αIFNを本発明の結合体用に調製する方法は限定するものではないが本明細書に記載された方法である。本発明の目的に関し、αIFN類がその生化学的特性および血清学的特性により好ましい。特に、αIFNは抗ウイルス特性を示し、その他のインターフェロンよりも効率的に血流中に拡散する。
【0037】
3. 非抗原性ポリマー
ポリ(アルキレンオキシド)などのポリマーにタンパク質を結合させるために、ポリマーのヒドロキシル末端基の一つを、結合を可能にする反応性官能基に変換する。このプロセスはしばしば「活性化」と呼ばれ、その生成物は「活性化」ポリマーまたは活性化ポリ(アルキレンオキシド)と呼ばれる。その他の実質的に非抗原性のポリマーも同様に「活性化」または官能基化される。
【0038】
本発明によれば、ポリマー結合が好ましくはヒスチジンのアミノ基で生じ、リシンのε-アミノ基およびN-末端アミノ基でより低い程度で生じるように、活性化ポリマーをαIFNなどのタンパク質と反応させる。遊離のカルボン酸基、適切に活性化されたカルボニル基、酸化した炭水化物部分およびメルカプト基がタンパク質上で利用可能である場合、それらを所望により補足的結合部位として用いてもよい。
【0039】
本発明の好ましい態様においては、好ましくはタンパク質のヒスチジンアミノ残基と活性化ポリマーの間にウレタン(カルバメート)結合が形成される。本発明の好ましい態様の一つにおいては、活性化ポリマーは米国特許第5,650,234号(この開示は参照により本明細書に組み込まれる)に記載されたもののようなベンゾトリアゾールカーボネート-活性化ポリマーである。別の態様においては、ウレタン結合は、スクシンイミジルカーボネート基などの末端オキシカルボニル-オキシ-N-ジカルボキシミド基を用いて形成される。別の活性化基としては、N-スクシンイミド、N-フタルイミド、N-グルタルイミド、N-テトラヒドロフタルイミドおよびN-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシドが挙げられる。これらのウレタン-形成基は、米国特許第5,122,614号(この開示は参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。これらの好ましい活性化ポリマーを本発明の一部として用いる場合、当業者は、全範囲の位置異性体を含んでも含まなくてもよい複数のタンパク質-ポリマー結合体を形成することが可能になる。しかしながら、溶液ベースの反応で形成された結合体の凝集集合体(aggregate collection)には、標的タンパク質、すなわちαインターフェロン上のヒスチジン残基に共有結合したポリマー鎖を含む結合体がかなりの部分含まれ、リシン残基結合またはN-末端結合ポリマー鎖を有するものもより少量含まれる。
【0040】
実質的に非抗原性のポリマーの中で、モノ活性化アルコキシ末端ポリアルキレンオキシド(PAO)、例えばモノメトキシ末端ポリエチレングリコール(mPEG)が好ましく、ビス-活性化ポリエチレンオキシド(グリコール)も、タンパク質を架橋するか、または例えば肝臓などの特定の領域にタンパク質-ポリマー結合体を局在化させるための標的薬剤のようなその他の成分を結合するための手段を提供する目的で用いられる。
【0041】
適当なポリマーの分子量は、実質的に様々であろう。約200〜約35,000の範囲の数平均分子量をもつポリマーが本発明の目的に対して通常選択される。約1,000〜約25,000の分子量が好ましく、2,000〜約20,000が特に好ましい。
【0042】
また含まれるポリマー物質は、好ましくは室温で水溶性である。そのようなポリマーとしては、限定するものではないが、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリプロピレングリコールのようなポリアルキレンオキシドホモポリマー、ポリオキシエチレン化ポリオール、それらのコポリマーならびにそれらのブロックコポリマー(そのブロックコポリマーの水溶性が維持されるという条件で)が挙げられる。mPEGに加えて、C1-4アルキル末端ポリマーも有用である。
【0043】
PAOベースポリマーの代替物として、事実上非抗原性の材料、例えばデキストラン、ポリビニルピロリドン、HPMA-ヒドロキシプロピルメタクリルアミドなどのポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、炭水化物ベースポリマー、それらのコポリマーなどを用いることができる。当業者には、上記リストが単なる例示的なものであり、本明細書に記載された性質をもつポリマー材料が全て含まれるものであることは認識されるであろう。本発明の目的に関し、「実質的にまたは事実上非抗原性の」とは、非毒性であり、哺乳動物において免疫原性応答をほとんど誘発しないと当技術分野で理解されている物質全てを意味するものである。
【0044】
4. 反応条件
時々PEG化反応と呼ばれる結合反応は、ポリマーがタンパク質に結合する場所に無関係に溶液中で行われる場合が多い。このような技術は、通常、αIFNを結合するためにわずかにアルカリ性pH、すなわちpH7+〜約9で行われる。しかしながら、本発明の鍵は、αIFNの場合のように一定の場合において、1つのポリマー鎖がリシンまたはN-末端ではなくヒスチジンに結合した場合に保持されたタンパク質生物活性が最大化され得るということである。αIFN、特にαIFN2bの場合、好ましい結合点はHis34である。αIFNの様々な種はアミノ酸34にヒスチジンを有する場合も有さない場合もあるが、それでもなお反応条件が、好ましくは、利用可能なヒスチジンに結合したポリマーを含む少なくともいくつかの位置異性体を提供し得ることが、当業者には理解されるであろう。当業者には、αIFN以外のタンパク質についてポリマー結合に最適なヒスチジン残基を過度の実験を行うことなく決定し得ることも認識されるであろう。
【0045】
したがって、本発明の方法は、
1) 十分な量のタンパク質、例えばαインターフェロンを含む溶液と、十分な量の適切に活性化されたポリマー、例えば好ましくはベンゾトリアゾールカーボネート活性化ポリマーまたはオキシカルボニル-オキシ-N-ジカルボキシミド-活性化ポリマーとを、該タンパク質と該活性化ポリマーとの共有結合を促進し、複数のタンパク質-ポリマー結合体を形成させるのに十分な条件下で反応させること;および
2) 前記タンパク質のヒスチジン残基に結合したポリマーを含むタンパク質-ポリマー結合体を、複数の残りのタンパク質-ポリマー結合体から実質的に分離すること
を含む。
【0046】
好ましい態様においては、タンパク質がαIFN-2bである場合、実質的に純粋な組成物には、実質的にαIFN-2bのHis34に結合したポリマーが含まれる。
【0047】
この反応は、標的タンパク質上に見出されるヒスチジンに対するポリマー鎖の少なくとも一部の共有結合を促進するのに十分なpHで行われる。特に、pHは好ましくはわずかに酸性、すなわち約7.0以下であり、より好ましくは約6.8以下であり、最も好ましくは約4.5〜約6.8の範囲である。
【0048】
結合を行うための反応条件には、さらに、タンパク質に対してほぼ等モルから相対的に少しモル過剰の活性化ポリマーを用いて結合反応を行うことが含まれる。この点に関し、本方法は、約1〜25倍モル過剰のポリマー、好ましくは約1.5〜7倍モル過剰のポリマー、最も好ましくは約1.75〜5倍モル過剰のポリマーを用いて行うことができる。当業者の選択により、活性化ポリマーは標的タンパク質に対して固体として、または溶液にして添加し得る。結合反応は、比較的広い温度範囲、例えば約0〜25℃で行うことができる。反応時間も当業者の選択によって変動し、選択した活性化ポリマーに依存して1時間未満から24時間、またはさらにそれ以上の範囲であり得る。反応のクエンチングは任意である。これらの反応条件により、予想外に比較的多量のHis-位置異性体を含むタンパク質-ポリマー位置異性体の混合物が得られる。好ましくは、各異性体にはアミノ酸残基を介してタンパク質に結合した1個のポリマー鎖が含まれる。別の実施形態においては、結合プロセスの結果2個以上の結合したポリマー鎖が存在し得る。これらの複数鎖のポリマー結合体を含む溶液も、分子量を基準に結合体を分離してモノポリマー結合体を得るためにさらに処理されるか、または処理し得るので、有用である。
【0049】
5. モノ-PEG結合体の単離
本発明の方法により1個のポリマー鎖を有する結合体がかなりの量で製造されるが、様々な程度のポリアルキレンオキシド置換を有し、したがって様々な分子量をもつ結合体も生じる。結合していない残留PAOおよびタンパク質も存在し得る。この混合物は、典型的にはリン酸イオン、塩化物イオンおよび重炭酸イオンの1種以上を含む反応バッファー中である。PAO、タンパク質および結合体混合物は、好ましくは約1〜約10mg/mlのタンパク質結合体を含むバッファー溶液中で分画される。適当な分画溶液のpHは約7.0〜約9.0であり、好ましくは約7.5〜約8.5である。この溶液には、好ましくは、KCl、NaCl、K2HPO4、KH2PO4、Na2HPO4、NaH2PO4、NaHCO3、NaBO4、(NH4)2CO3、およびグリシンNaOHから選択される1種以上のバッファー塩が含まれる。リン酸ナトリウムバッファーが好ましい。
【0050】
反応バッファーに依存して、まずタンパク質-ポリマー結合体含有溶液についてバッファー交換/限外濾過を行わなくてはならない。例えば、αIFN結合体溶液は低分子量カットオフ(10,000〜30,000ダルトン)膜で限外濾過し得る。この膜は界面活性剤が存在する場合にはその大部分も同様に除去する。
【0051】
分子量に基づいた結合体の所望の化学種への分画は、好ましくは、陰イオン交換媒体を用いて行われる。そのような媒体は、所定の、すなわち1個以上のポリマー鎖を有するタンパク質-ポリマー結合体、過剰のポリマーおよび非修飾タンパク質を選択的に結合することが可能である。この分画は、様々な置換の程度のタンパク質分子は多少予測可能な様式で変化する等電点を有するために生じる。例えば、タンパク質の等電点は、タンパク質の表面上の利用可能なアミノ基の数で決定される。またこれらのアミノ基はポリアルキレンオキシド結合体の結合点としても作用する。したがって、ポリアルキレンオキシドの置換の程度が増大するにつれて、等電点は低下し、結合体が陰イオン交換樹脂に結合する能力が弱まる。ゲル濾過HPLCを用いて高分子量(複数鎖)結合体を除去することもできる。
【0052】
本発明の方法には、極性の強い陰イオン交換樹脂の使用が特に好ましい。かかる理由で、第4級アミンで被覆した陰イオン交換樹脂が用いられる。第4級アミン樹脂は、ポリマーまたはシリカマトリックス上に被覆され得るが、ポリマーマトリックスが好ましい。支持体マトリックス上にテトラメチルアミン、または第4級メチルアミンを被覆した多数の陰イオン交換樹脂が市販されている。本発明で使用するのに適した市販の第4級陰イオン交換樹脂の中には、Bio-Sepraから市販されているQ-HD;IBF(Garenne, フランス)によりSepracor社(Marlborough,マサチューセッツ)に対して製造された第4級アミン樹脂で被覆したポリマーマトリックスQA TRISACRYL(登録商標)およびQMA-SPHEROSIL(登録商標);EM-Separators(Gibbstown, ニュージャージー)により製造されたテトラメチルアミノエチル樹脂で被覆したポリマーマトリックスTMAE650M(登録商標);TosoHaas(Montgomeryville, PA)により製造されたポリマーマトリックスをそれぞれ第4級アミン樹脂で被覆したQAE550C(登録商標)およびSUPERQC(登録商標)がある。Millipore(Millford, MA)により製造されたQMA AccellおよびJT Baker(Phillipsburg, NJ)により製造されたPEI樹脂も使用できる。
【0053】
陰イオン交換樹脂をカラムに充填し、通常の方法で平衡化する。結合タンパク質溶液と同じpHおよび浸透圧モル濃度のバッファーが用いられる。次いで、結合体含有溶液をカラム上に吸着させる。添加が完了したら、塩濃度の上昇を伴う溶離バッファーの勾配フローをカラムに適用し、ポリアルキレンオキシド-結合タンパク質の所望の画分を溶出させる。この画分の分子量および置換度は実質的に均一である。しかしながら、種々の位置異性体の分離はこのタイプの分離の間には行われない。
【0054】
タンパク質に依存して、好ましい結合体画分はタンパク質1分子当たり1〜4個のポリマー鎖を含む。より好ましくは、この画分はタンパク質1分子当たり約1〜2個、最も好ましくは約1個のポリマーを含む。溶離バッファーには、好ましくはKCl、NaCl、K2HPO4、KH2PO4、Na2HPO4、NaH2PO4、NaHCO3、NaBO4および(NH4)2CO3から選択される1種以上の塩が含まれる。これらの画分は、実質的に他の結合体を含まない。次いで、通常の技術により非結合種をカラムから逆洗し得る。
【0055】
濃度を増大させる多重アイソクラチックステップ(multiple isocratic steps)を利用する技術も用いることができる。濃度を増大させる多重アイソクラチック溶離ステップにより、タンパク質-ポリマー結合体の連続溶離が生じる。各画分に含まれるポリマー結合体の程度は実質的に均一であろう。しかしながら、各画分についてのポリマー結合の程度は、溶出時間の経過につれて低下するであろう。結合体のイオン交換精製も、例えばBioSepra社製のQ-HDカラムを希薄なリン酸ナトリウム溶液とともに用いて行うことができる。例えば、PEG-IFNサンプルを含むサンプルを10mMのNaPO4で洗浄して未反応のPAOをすべて除去し、その後NaClを用いた段階的勾配溶離を行う。10mMのNaClでの溶出によってIFN 1分子当たり3個以上のポリマー鎖PAOを有する結合体を含む画分が回収され、50mMのNaClでの溶出によって1〜2個の鎖を含む結合体が回収され、150mMのNaClでの溶出によって修飾されていないIFNが回収される。
【0056】
溶出の温度範囲は約4℃〜約25℃である。好ましくは溶出は約6℃〜約22℃の温度で行われる。PAO-αIFN画分の溶出は、254nmにおけるUV吸光度により検出される。画分回収は、単純時間溶出特性(simple time elution profiles)により行うことができる。その他のタンパク質結合体も同様に溶出される。
【0057】
6. 位置異性体の分離
本発明の方法によれば、選択されたタンパク質-ポリマーの位置異性体は、好ましくはモノ-ポリマー結合体がその他の反応物質から分離された後に反応混合物から実質的に分離される。溶液ベースの結合反応の性質に起因して、結合体は、タンパク質の種々の部位に結合した1個または複数のポリマー鎖を含む化学種の不均質な混合物である。結合体を含む溶液または反応プールにはいずれも実質的に全範囲の位置異性体が存在すると考えられる。αIFN-2bの場合、好ましい結合体含有溶液には、ポリマーがHis34などの3個の利用可能なヒスチジン残基の1つに結合し、任意にαインターフェロン-2bのCys1、Lys31、Lys49、Lys83、Lys121、Lys131およびLys134の中の1つ以上に結合した結合体が含まれる。本明細書に記載した反応条件および活性化ポリマーを用いる場合、αインターフェロン2b上のHis残基におけるポリマーの結合は反応プール全体の少なくとも約50%であり、好ましくは反応プール中の結合体の少なくとも約75%であり、最も好ましくは少なくとも約85%である。例えば、BTC-活性化mPEGを用いてIFNα-2b結合体を形成した場合、形成された結合体の約90%がIFN-His-PEG位置異性体であった。SC-PEGを用いた場合、形成された結合体の約55%がIFN-His-PEG位置異性体であった。少量のその他の位置異性体も見出された。別のIFNならびにその他のタンパク質により、その出発物質のアミノ酸配列に依存して位置異性体の別の分布が得られることは理解されるであろう。
【0058】
本発明者らは、任意のタンパク質結合体についての位置異性体の範囲内で個々の位置異性体の生物活性が異なるということを確認した。本発明者らは理論に縛られるものではないが、種々の位置異性体の活性の相違は一般に予測不能であると考えられる。このような確認に鑑みると、本発明の方法によって当業者はどの異性体が多量の特定の位置異性体をもたらすものであるかを決定でき、反応プールから特定の位置異性体を単離するにはどの方法が非常に望ましいかを決定できる。
【0059】
広範な結合体からの所望のHis-位置異性体またはその他の位置異性体の分離は、イオン交換クロマトグラフィーなどの方法により行うことができる。本発明の目的に関し、イオン交換には陽イオンおよび/または陰イオン交換が含まれる。種々の位置異性体の形成をもたらす結合プロセスによって異なる荷電分布を有する個々の位置異性体が形成される。次いで荷電分布の相違を用いることにより、イオン交換クロマトグラフィー(すなわち陽イオンおよび/または陰イオン)にて任意の所望の位置異性体を分離(回収)することができる。例えば、分離前に、結合反応から得られた広範な種々の位置異性体を、約0.5〜約10重量%の結合体を含むバッファー溶液に加える。このバッファー溶液には、限定するものではないがKCl、NaCl、K2HPO4、KH2PO4、Na2HPO4、NaH2PO4、NaHCO3、NaBO4、(NH4)2CO3およびグリシンNaOHから選択される1種以上のバッファー塩が含まれる(本発明で使用するにはこれらのバッファーが好ましい)。もちろん、溶出条件は当業者の要求および求められる位置異性体に依存するであろう。
【0060】
一般に、通常の高速液体クロマトグラフィー技術がその後に行われる。所望の分離を行うためのそのような装置の1つは、Pharmacia Biotechから市販されている、Mini-S陽イオン交換カラムを含むHPLCシステムである。当業者には、別の装置およびカラム、例えばToso Haasから市販されているSP-5PWカラムを含むHPLCシステムなども所望の分離を達成するために用いられることは明白であろう。分離を行うのに適した樹脂としては、限定するものではないが、SP-、およびCM-、Q-またはDEAEセファロース(Pharmacia製)およびCM-、Q-Hyper D-(BioSepra製)のような陽イオンまたは陰イオン交換樹脂が挙げられる。
【0061】
説明に役立つ例として、実質的に純粋なIFNα2b-His-ポリマー結合体、すなわち90%以上を含む組成物は、ゲル濾過後陽イオン交換する、または陰イオン交換後陽イオン交換する、などのようにクロマトグラフィーカラムを用いて反応プール中のIFN-ポリマー結合体から単離できる。そのような技術により、少なくとも約85%のIFNα2b-His34-ポリマー結合体、好ましくは少なくとも約90%のIFNα2b-His34-ポリマー結合体を含む組成物が得られる。組成物の残りのパーセントには、所望の実質的に純粋な位置異性体の治療上の有効性をほとんど損なわないようなその他の位置異性体が含まれるであろう。インターフェロンまたはその他のタンパク質のその他の位置異性体も同様に単離される。その他のタンパク質結合体については、同様の分離技術が用いられる。直線および/または逐次勾配分離技術も特定のピークに対応する結合体を得るのに有用であることも前述の記載から理解されるであろう。さらに、各ピークに関連した結合体は、所望によりこの様式で単離できる。必要に応じて、回収された画分を供給体積のカラム床体積に対する割合が同じになるようにクロマトグラフィー装置に再注入し、回収された画分の純度を高めることができる。修飾されたアミノ酸残基を決定するために、実質的に純粋な位置異性体をペプチド配列決定にかけることができる。
【0062】
上記の技術のさらなる例として、特定のピークに対応する特定のIFNα-2b-ポリマー結合体を、HPLCシステムにおいてmini-Sなどの陽イオン交換樹脂を用いて回収し得る。各ピークは直線勾配(A-40mMの酢酸ナトリウム、B-40mMの酢酸ナトリウム、100mMのNaCl)を用いて、pH4.7〜5.3で214ナノメートルの波長にて陽イオン交換クロマトグラフィーシステム上で精製される。上記の溶離バッファーの濃度を増大させる多重アイソクラチックステップを用いる技術を、モノ-ポリマー結合体を回収するために、特定のピークに対応する所望の結合体の回収に適合させることもできる。
【0063】
7. 位置異性体分布に対する反応pHの効果
本発明の工程は、大部分のタンパク質のポリマー結合部位は、反応系のpHにより大きく影響を受けるという発見を利用したものである。反応液のpHは様々であるので、α-アミン、イミダゾールおよびε-アミンなど種々の官能基の、活性化ポリマーの特定の形態に対する反応性は様々であろう。典型的には、リシンε-アミノ基での結合を最大化するために、ポリマー結合反応は塩基性pHで行われる。例えば、ZalipskyらのBiotech.&App.Biochem, 15巻, p.100-114;(1992)は、PEG化(PEGylation)に対してSC-PEG試薬を評価し、最適な反応性はpH約9.3におけるものであることを報告した。しかしながら、本発明の方法は、活性化ポリマー鎖のかなりの部分をヒスチジンアミノ基に結合させ、リシンおよびN末端部位への結合を重視するのをやめる(しかし排除はしない)ために、かなり低いpH値で反応を行うことを含む。
【0064】
位置異性体の相対的分布は、意外にも、結合反応を行うpHに大きく依存していることが測定された。例えば、pHを塩基性からわずかに酸性のpH(約4.5〜6.8)に変えると、IFNα2bのHis34、ならびにより少ない程度であるが、N末端(Cys1)およびリシン残基に結合した結合体の形成が促進される。一方、結合反応時にpH(8〜10)を用いると、リシン関連結合部位の形成が促進され、これは陽イオン交換クロマトグラフィーにより確認される。もちろん、IFNα2bを含有しない場合は、His残基は異なるであろう。それでもなお、その反応条件により、活性化ポリマーはHisへ共有結合し得る。
【0065】
8. 薬物動態パラメーター
前記で指摘したように、本発明の好適な組成物は、ポリマー−IFN種の不均一な混合物、つまり1個または複数のポリマー鎖がインターフェロン分子の別の部位に結合しているものを含まない。したがって、該組成物について、結合体タンパク質の治療的効果を最大化するような、in vivo薬物動態および生物活性プロファイルを予測可能である。
【0066】
IFNαの場合、好適な組成物には、実質的に純粋なPEG-His34-IFNの位置異性体であるものもある。その組成物は、非修飾タンパク質の生物活性の、少なくとも約20%、好ましくは少なくとも約35%および最も好ましくは少なくとも約50%を維持する。維持されている活性量および循環寿命(circulating life)の長さが、タンパク質、ならびにそのタンパク質に結合するポリマー鎖の数および分子量を含むいくつもの要因に依存するであろうことは理解されるだろう。
【0067】
9. 治療法
本発明の別の態様は、哺乳動物、好ましくはヒトの種々の医学的症状の治療方法を提供する。該方法には、本明細書中の記載に従って調製した有効量のタンパク質−ポリマー 結合体を、そのような治療が必要な哺乳動物に投与することを含む。前記結合体は、とりわけ非修飾タンパク質を用いて治療される症状の治療に対して有用である。例えば、酵素置換治療または血液因子を必要とする哺乳動物に、所望の物質を含む、実質的に純粋なポリマー結合体を与えることができる。αインターフェロンの場合、インターフェロン感受性症状、またはインターフェロンに基づく治療にポジティブに (positively)または有利に (favorably)(これらは医療業界では公知の専門用語である)反応するであろう症状がある。
【0068】
本発明に従って治療できる症状は、一般的に、インターフェロンαを用いた治療に感受性がある場合である。例えば、感受性のある症状には、インターフェロンαに基づく治療に対し、ポジティブに(positively)または有利に(favorably)(これらは医療業界で公知の専門用語である)反応するであろう症状が含まれる。本発明の意図として、インターフェロンα療法で治療できる症状には、インターフェロンαを用いた療法がなんらかの有効性を示すが、負の副作用が治療の利益を上回るためにインターフェロンαでは治療できない可能性のある症状を含む。例えば、α療法に伴う副作用によって、インターフェロンαを用いたエプスタイン・バーウイルスの治療は事実上不可能になった。本発明の実施により、従来のインターフェロンα治療と比較して、副作用を大幅に減らし、または無くすことができる。
【0069】
インターフェロンによって治療できる典型的な症状には、限定するものではないが、細胞増殖障害、特に癌(例えば、有毛細胞白血病、カポジ肉腫、慢性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、基底細胞癌および悪性黒色腫、卵巣癌、皮膚T細胞リンパ腫)、およびウイルス感染を含む。限定するものではないが、インターフェロンによる治療は、インターフェロン感受性ウイルスの複製を阻害することが有効である症状を治療するために用いることができる。本発明に従って治療され得るウイルス感染としては、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、他の非A型/非B型肝炎、ヘルペスウイルス(エプスタイン・バーウイルス(EBV)、サイトメガロウイルス(CMV)、単純ヘルペス、ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6))、パピローマ、ポックスウイルス、ピコルナウイルス、アデノウイルス、ライノウイルス、ヒトリンパ球向性ウイルス1型および2型(HTLV-1/-2)、ヒトロタウイルス、狂犬病、ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)を含むレトロウイルス、脳炎および呼吸器ウイルス感染が例として挙げられる。本発明の方法は種々の免疫反応を改変するために用いることもできる。
【0070】
インターフェロンα変異体は、現在米国および他国で、有毛細胞白血病、性病いぼ、カポジ肉腫、および慢性非A型/非B型肝炎の治療用に認可されている。インターフェロンα-2bは商品名INTRON(登録商標) A(Schering Corporation, Kenilworth N.J.)として市販され、インターフェロンα-2aは商品名Roferon(登録商標) A(Hoffmann-La Roche, Nutley, N.J.)として市販され、共通インターフェロンは商品名InfergenTM(Amgen, Thousand, Oaks, CA)として市販されている。全てのインターフェロンの中でも、インターフェロンα-2bは、慢性C型肝炎の治療のために世界中で最も広く認可されているので、本発明の実施に従って慢性C型肝炎の治療に用いるにはこれが最も好適である。
【0071】
前記剤形の投与は一日おきでもよいが、好ましくは週に1回または2回である。各投与量を通常、24週以上にわたり注射によって投与する。
【0072】
一回の投与量を、静脈内、皮下、筋肉内、または他の任意の許容される全身性の手法で投与することができる。担当医の判断に基づき、投薬量および用いる治療上の投薬計画は当然、治療を受ける患者の年齢、性別および病歴、好中球数(例えば好中球減少の重症度)、特定の病状の重症度、ならびに局所的毒性および全身性の副作用によって明示される、患者の該治療に対する耐性に依存するであろう。投与する量および頻度は、好中球数の最初のスクリーニングの際に決定することもあり得る。
【0073】
本発明の実質的に純粋な結合体含有組成物を用いて、従来型の医薬製剤を調製することもできる。該製剤は、治療上有効な量の、実質的に純粋なインターフェロン−ポリマー 結合体組成物を製薬上許容される担体と共に含む。もし必要であれば、例えば、アジュバント、希釈剤、保存剤、および/または可溶化剤を本発明の実施の際に用いてもよい。本発明の組成物を含むインターフェロンの医薬組成物には、ある範囲のpHおよびイオン強度を有する種々のバッファー(例えばTris-HCl、酢酸塩、リン酸塩)である希釈剤、担体(例えば、ヒト血清アルブミン)、可溶化剤(例えば、トゥイーン、ポリソルベート)、および保存剤(例えば、チメロソール(thimerosol)、ベンジルアルコール)を含有してもよい。例えば、米国特許第4,496,537号を参照のこと。
【0074】
前記症状を治療するための、実質的に純粋なα-IFNポリマー結合体の投与量は、ポリマー結合体のIFN活性に基づく。それは、ポジティブな臨床反応に大きな影響を及ぼすのに十分な量である。患者の中には、臨床投薬量によって多少のレベルの副作用が引き起こされる人もいるであろうが、ヒトを含む哺乳動物に対する最大投与量は、手に余る臨床上重大な副作用を引き起こさないような最高投与量である。本発明の意図としては、そういった臨床上の重大な副作用とは、重篤なインフルエンザ様症状、中枢神経系抑制、重篤な胃腸障害、脱毛症、重篤な掻痒症または発疹を引き起こすために治療の中断が必要になるであろう場合である。白血球および/もしくは赤血球および/もしくは肝酵素の実質的異常または貧血症様症状も、投薬量が制限される。
【0075】
もちろん、種々のα-IFN組成物の投与量は、選択したα-IFN成分およびポリマーにある程度依存しており、様々である。しかし一般的に、上記結合体は一日につき約100,000〜約数百万IU/m2の範囲の量を、その哺乳動物の症状に基づいて投与する。前記範囲は例示であり、当業者であれば、臨床経験および治療指標に基づいて、選択した結合体の最適な投与量を決定するであろう。
【0076】
上記医薬組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、カプセル、凍結乾燥化粉末などの形態であって、当技術分野で周知の方法により調製したものでありうる。これらの組成物は主に非経口経路によって投与されるが、経口または吸入経路も当業者の必要性に応じて用いられ得ることも意図する。
【実施例】
【0077】
以下の実施例は本発明のさらなる理解のために提供するものであるが、本発明の有効な範囲をいかようにも制限することを意図しない。
【0078】
実施例1
この実施例では、組換えα-インターフェロン2b (rαIFN)である、Schering Corporation, Kenilworth, New Jerseyの製品を、分子量12,000の活性化ポリエチレングリコール-N-スクシンイミジルカルボナート(SC-PEG)(米国特許第5,122,614に記載の通りに調製)と結合させた。該結合反応は、室温およびpH約6.5で行われた。IFN 1gに対し、SC-PEG12,000 2.6gの比率で用いた。SC-PEGを固体で加え、その反応は約4℃で行った。反応の最後に、グリシンを加えて残留するPEG化試薬を抑制した。次いでQ-HyperD樹脂を用い、pH8で、未反応成分および多PEG化種を塩溶出によって除去し、反応物から生成物を精製した。Q-HyperDから回収したモノ-PEG-IFNは、His-34結合PEG-IFNが約55%、N末端結合PEG-IFNが20%、リシン121結合PEG-IFNが12%で、残りはLys 131、Lys 1134、Lys 49およびLys 83結合性である。次にいくつかの位置異性体を含むこの物質を、pH4.9の20mM酢酸バッファーに対し透析し、pH4.9の10mM酢酸バッファーで平衡化したSP-Sepharose High Performanceを充填したカラム上にロードした(樹脂4mlに対し物質約4mg)。この物質は酢酸バッファー中の塩化ナトリウム濃度勾配(0〜500mM)を用いて溶出した。図1は、カラムからの溶出プロファイルを示している。ピーク1は、His-34結合PEG-IFNが90%以上であることが見出された。
【0079】
実施例2
この実施例では、実施例1の結合過程を数回繰り返した。しかし、種々の位置異性体の同定は、陰イオン交換とそれに引き続いての陽イオン交換を利用して行った。
【0080】
HPLCを用い、Mini-S陽イオン交換カラム(Pharmacia Biotech)を使用して、ポリマー結合部位を決定し、個々の位置異性体を同定した。流動相Aは10mM酢酸ナトリウムpH5.3バッファーおよび25%2-プロパノールを含む。流動相Bは流動相Aに、溶解させた500mM塩化ナトリウムを含む。流速は0.5ml/minに定め、溶出タンパク質は214nmで検出した。それぞれのPEG-IFN溶液は、2-プロパノールを5%含む10mM酢酸ナトリウム(pH5.3)で希釈して、タンパク質濃度1mg/mlにした。注入量は、タンパク質濃度に依存して10〜30μlの範囲であった。
【0081】
以下の線形勾配を用いた。
【0082】

結果が下の表1に示され、図2に図示されている。今この図を参照すると、ピーク3が主たる成分であると測定されたことがわかる。さらに、クロマトグラフィー分離によって、主な異なる強度のピークを回収した。しかしながら、個々の化学種、すなわち位置異性体は、この系では互いに十分に分離されないことに注意すべきである。例えばピーク3を含む画分は、His-34位置異性体を約90%、およびlys-31位置異性体を約10%含むと測定された。この画分の単離および回収により、実質的に純粋なαIFN2b- His-34-PEGを含む組成物が得られた。位置異性体溶出においては多少重複がある。しかし、該ピークつまり画分3は全PEG-インターフェロン種の約50%に相当したことがわかる。
【0083】
【表1】

主たるピークの帰属:ピーク2:Lys-134結合PEG-IFN;ピーク3/4:His-34結合PEG-IFN;ピーク6:Lys-121結合PEG-IFNおよびLys-131結合PEG-IFN;ピーク8:Cys-1結合PEG-IFN
これらの結果は、結合体の大部分がピーク3および4(His-34結合PEG-IFN)に見出されたことを示している。該結果は予測されたものとは対照的に、結合体の大部分が、リシンアミノ基の1つよりもむしろヒスチジンにポリマーが結合することによって形成されたことも示している。
【0084】
実施例3
この実施例では、実施例2で同定された種々の位置異性体を、モノ-S 陽イオン交換を数サイクル用いることにより回収した。次いで、回収したクロマトグラフィー画分の各々をCPEバイオアッセイ(抗ウイルス活性)により試験した。以下の表2は天然インターフェロンと比較した生物活性を示している(天然=100%とする)。
【0085】
【表2】

表2からは、His34位置異性体の位置(site)(少量のLys31位置異性体も含む)は天然インターフェロンと比較して、最も高い固有の生物活性(51%)を有することがわかる。したがって、この画分(主にHis-34位置異性体である)のみを含有する実質的に純粋な組成物は、広範な位置異性体を有する結合体よりも有用である。
【0086】
次いで前記画分を、トリプシンおよびV-8 プロテアーゼを用いた酵素的切断解析スキームと、続く精製のためのサイズ排除クロマトグラフィー工程によって、特性付けた。その物質についてタンパク質配列解析を行い、該インターフェロンペプチド内のPEG化アミノ酸残基の存在をタンパク質配列の欠位により推測した。この特性評価作業により、PEGがα-インターフェロン-2b分子の異なる8つの部位(Cys1、Lys31、His34、Lys49、Lys83、Lys121、Lys131およびLys134)に結合していることが明示された。詳細は以下に提供する。
【0087】
【表3】

実施例4
本実施例では、Shearwater Polymers, Inc.より入手した炭酸ベンゾトリアゾール活性化PEG(BTC-PEG)(分子量12,000)を用いて、実施例1の手順を繰り返す。特に、1gのIFNに対し2.6gのBTCという比率で、IFNα-2bをBTC-PEGと反応させた。グリシンによる抑制の前に、その反応を室温で4時間、インターフェロン2mg/mlの濃度で行った。全部で60mgのIFNを用いた。反応混合物を、100mMリン酸ナトリウムバッファーおよび150mM塩化ナトリウム(pH5.0)を含有するゲル濾過バッファーに対して透析した。透析した物質5mlを、ゲル濾過バッファーで平衡化されたSuperdex 200 カラム 200ml上にロードし、複鎖種からモノ-PEG種を分離した。
【0088】
種々の位置異性体の特性付けを行う前に、前記モノ-PEG-IFN反応混合物についてヒドロキシルアミン感受性テストを行い、ヒスチジン部位(IFN-His34を含む)でPEG化された結合体のパーセンテージを測定した。ヒドロキシルアミンは、PEGをIFNヒスチジン残基から選択的に切断することが知られている。サンプルの各々一部(50μl)を、10mMリン酸ナトリウム(pH7.0) 0.45mlで希釈した。このタンパク質溶液の一部(150μl)を0.5Mヒドロキシルアミン 150μlで処理し、室温で60分間インキュベートした。前記結合体の90%以上がヒドロキシルアミン感受性であると測定され、このことは、その物質の90%以上がHis結合PEGインターフェロンであることを示唆している。反応混合物をさらに特性付けすることによって、His34が結合している唯一のヒスチジン残基であることが確認された。Superdex 200 プールのHPLCクロマトグラフィーにより、実際にHis34が主なPEG化部位であることが示唆された。このことはさらに、実施例3に記載された手法とよく似た酵素的切断解析スキームを用いて、最終産物を特性付けることによっても確認され、His34がPEG化の主たる部位であることが示された。この位置異性体の比活性は、89 MIU/mgであることがわかった。
【0089】
実質的に純粋なIFN-His34-PEG結合体は、陽イオン交換クロマトグラフィーを1サイクル使用して、BTC-PEG-IFN反応混合物からも回収された。反応混合物は、40mM酢酸ナトリウムバッファー(pH5.1)に対して透析した。透析した反応混合物約3.2mlをSP-5PWカラム4ml上にロードし、His34-PEG-IFNピークはpH5.1のNaCl濃度勾配(0〜500mM)を用いて溶出した。産物プールのHis34-PEG-IFN純度は、少なくとも94%であった。プール中のdi-PEG-IFNは、約3〜5%と測定された。
【0090】
実施例5〜6
これらの実施例では、BTC-PEG(それぞれの分子量は、実施例5では5,000、実施例6では20,000)を用いて、実施例4の工程を繰り返した。ヒドロキシルアミン反応によって、実施例5のHis-PEGインターフェロン量は約90〜95%、実施例6では約91%と決定された。次いでゲル濾過を用いてPEG-IFNの種々の位置異性体を単離し、非モノ鎖結合体を除去した。PEG5,000-結合体の比活性は約119 MIU/mg、PEG20,000-His34位置異性体の比活性は89 MIU/mgと測定された。
【0091】
実施例7
この実施例では、上記で同定した各々の位置異性体(His-34, Lys-121およびN末端)について、正常ヒト血清中、37℃で72時間までインキュベートした後、生物活性を試験し、PEG化していない天然インターフェロンと比較した。この結果は図3に示す。
【0092】
ここで図3を参照すると、意外にも、His-34位置異性体の活性だけが徐々に増大しており、それに対して他の位置異性体の活性は比較的一定であることがわかる。一方、天然インターフェロンは予想通り、測定時間の間、活性の低下を示す。本発明者らは理論に拘束されるものではないが、His34結合物質の活性の増加は、His-PEG結合の比較的緩慢な加水分解および続いて起こる遊離IFNの放出と関係があると思われる。この図は、一定の条件下ではHis-PEG結合はLys-PEG結合より弱く、つまりその開裂によって、延長されたすなわち「緩放出性の」送達機構が与えられるというHis-PEG結合の固有の特性を示している。
【0093】
実施例8〜9
IL-10-PEG結合体
これらの実施例では、非共有結合性ホモダイマーであるタンパク質IL-10を、pH6.5でBTC-PEG12,000(実施例8)またはSC-PEG12,000(実施例9)と結合させ、得られた反応プール中のヒスチジン結合位置異性体の程度を測定した。IL-10には3つの利用可能なヒスチジンがある。
【0094】
結合を起こさせるため、IFNに関して上述したPEG化法に従った。しかし特に、各場合について2〜3倍モル濃度過剰の活性化ポリマーおよびゲル濾過を使用した。ヒドロキシルアミン感受性テストを各バッチについて行い、His含有位置異性体の量を測定した。BTCベースの結合体は、SCベースの結合体よりもヒドロキシルアミンに不安定な結合体を約50%多く含有することが見出された。BTCベースの結合体の比生物活性は、MC-9バイオアッセイを用いて約84%と測定された。SC-PEGベースの結合体は、約49%の比生物活性を有することが見出された。
【0095】
本明細書の検討または本明細書に開示した本発明の実施例から当業者には本発明の他の実施形態が明らかであろう。以下の請求項により明示された本発明の正当な範囲および精神をもってすれば、本明細書の記載および実施例が典型的なものとしてのみ考えられると意図される。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】図1は、実施例1で言及したクロマトグラムである。
【図2】図2は、実施例2で言及したクロマトグラムである。
【図3】図3は、正常なヒト血清における種々の位置異性体の生物活性を示す実施例7で言及したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質-ポリアルキレンオキシド結合体を含む組成物であって、該結合体の大部分が該タンパク質にヒスチジン残基のみにて共有結合したポリアルキレンオキシドを含んでなる、上記組成物。
【請求項2】
前記ポリアルキレンオキシドがポリエチレングリコールである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ポリエチレングリコールがモノメトキシ-ポリエチレングリコール(mPEG)である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ポリアルキレンオキシドが200〜35,000の分子量のものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記ポリアルキレンオキシドが1,000〜25,000の分子量のものである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記ポリアルキレンオキシドが2,000〜20,000の分子量のものである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
実質的に純粋なタンパク質-ポリアルキレンオキシド結合体であって、タンパク質上のヒスチジン残基でポリアルキレンオキシドに共有結合したタンパク質を含んでなり、前記ポリアルキレンオキシドの少なくとも50%が、前記タンパク質のヒスチジン残基にて該タンパク質に結合している上記結合体。
【請求項8】
前記タンパク質がαインターフェロンまたはIL−10である、請求項7に記載のタンパク質-ポリアルキレンオキシド結合体。
【請求項9】
前記αインターフェロンがインターフェロンα2bである、請求項8に記載のタンパク質-ポリアルキレンオキシド結合体。
【請求項10】
請求項1記載の組成物の製造方法であって、
a) タンパク質と十分な量の活性化ポリアルキレンオキシドとを該タンパク質の該活性化ポリアルキレンオキシドへの共有結合を促進するのに十分な条件下で反応させることにより複数のタンパク質-ポリアルキレンオキシド結合体を形成すること、および
b) 前記複数のタンパク質-ポリアルキレンオキシド結合体から、タンパク質のヒスチジンに結合したポリアルキレンオキシドを含むタンパク質-ポリアルキレンオキシド結合体を実質的に分離することを含み、
そして、分離をゲル濾過クロマトグラフィー、次いでイオン交換クロマトグラフィーによって行う、
上記方法。
【請求項11】
前記タンパク質がαインターフェロンまたはIL-10である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記活性化ポリアルキレンオキシドがベンゾトリアゾールカーボネート-活性化ポリアルキレンオキシドである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記活性化ポリアルキレンオキシドがオキシカルボニル-オキシ-N-ジカルボキシミド-活性化ポリアルキレンオキシドである、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記オキシカルボニル-オキシ-N-ジカルボキシミドがスクシンイミジルカーボネートである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記イオン交換クロマトグラフィーが陰イオン交換クロマトグラフィーである、請求項10〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記分離が、陰イオン交換クロマトグラフィー、次いで陽イオン交換クロマトグラフィーにより行われる、請求項10〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記条件が、7.0以下のpHで前記反応を行うことを含む、請求項10〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記条件が、6.8以下のpHで前記反応を行うことを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記条件が、4.5〜6.8のpHで前記反応を行うことを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記αインターフェロンがαインターフェロン2bである、請求項11に記載の方法。
【請求項21】
前記活性化ポリアルキレンオキシドが前記タンパク質に対してモル過剰で存在する、請求項10〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記ポリアルキレンオキシドがポリエチレングリコールである、請求項10〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記ポリアルキレンオキシドが200〜35,000の分子量のものである、請求項10〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記ポリアルキレンオキシドが1,000〜25,000の分子量のものである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ポリアルキレンオキシドが2,000〜20,000の分子量のものである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
有効量の請求項1に記載の組成物を投与することを含む、非ヒト哺乳動物における医学的症状を治療する方法。
【請求項27】
請求項10に記載の方法により製造されたインターフェロン-ポリアルキレンオキシド結合体を含む組成物であって、該結合体の大部分が該タンパク質にヒスチジン残基のみにて共有結合したポリアルキレンオキシドを含んでなる、上記組成物。
【請求項28】
請求項1に記載の組成物を含む医薬組成物。
【請求項29】
前記ポリアルキレンオキシドの少なくとも75%が、前記αインターフェロンのヒスチジン残基にて該αインターフェロンに結合している、請求項8に記載のタンパク質-ポリアルキレンオキシド結合体。
【請求項30】
前記ポリアルキレンオキシドの少なくとも85%が、前記αインターフェロンのヒスチジン残基にて該αインターフェロンに結合している、請求項29に記載のタンパク質-ポリアルキレンオキシド結合体。
【請求項31】
前記タンパク質がαインターフェロンまたはIL-10である、請求項1に記載の組成物。
【請求項32】
前記αインターフェロンがインターフェロンα2bである、請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
前記ポリアルキレンオキシドの少なくとも75%が、前記タンパク質のヒスチジン残基にて該タンパク質に結合している、請求項1に記載の組成物。
【請求項34】
前記ポリアルキレンオキシドの少なくとも85%が、前記タンパク質のヒスチジン残基にて該タンパク質に結合している、請求項33に記載の組成物。
【請求項35】
有効量の請求項7に記載の結合体を投与することを含む、非ヒト哺乳動物における医学的症状を治療する方法。
【請求項36】
請求項7のタンパク質-ポリアルキレンオキシド結合体を含む医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−143897(P2008−143897A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309982(P2007−309982)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【分割の表示】特願2000−525125(P2000−525125)の分割
【原出願日】平成10年12月16日(1998.12.16)
【出願人】(596124151)エンゾン ファーマシューティカルズ,インコーポレーテッド (24)
【Fターム(参考)】