説明

室内用耐力壁の構造

【課題】耐震性能を向上するための室内用耐力壁について、リフォームによる後付での設置や撤去が可能であり、かつ、設置後においても良好な開放感を得ることが可能な、新規な室内用耐力壁について提案する。
【解決手段】天井仕上げ材7と、床仕上げ材8の間に、厚み方向に貫通部を有する面材2が配置され、前記面材2の左右端部は、それぞれ柱材3・3に固定されるものであり、前記各柱材3・3は、上部が前記天井仕上げ材7の上方の横架材としての梁12に固定され、下部が前記床仕上げ材8の下方の横架材としての土台13に固定される、室内用耐力壁1Aの構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の室内に配置する室内用耐力壁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の木造の戸建住宅においては、建築基準法施行令46条に定める壁量計算にて、構造的な検討をする物件がほとんどであり、平成12年建設省告示第1352号「建築物の基礎の構造方法及び構造計算の基準を定める件」で定められる内容にしたがって、構造上耐力壁の配置や、偏心率の検討が一般的に行われている。
【0003】
そして、上記告示との関係上、例えば、図14に示されるような狭小間口の建物(幅方向よりも奥行方向が長いような建物)においては、室外と面する箇所90において、耐力壁の配置、偏心率の問題を解決するために、一般的には、外周部耐力壁91を配置せざるを得ず、開口部を大きくとることができないものが多い。
【0004】
また、建築基準法施行令46条に関連し、室内床面積に対して確保すべき壁面積の比率についての取り決めがある関係上、図14に示される間取りにおいて、X方向にも抵抗する多くの耐力壁が必要となるため、図14室内にも室内側耐力壁92・92が配置され、この室内耐力壁92・92によって耐震性能を確保する設計がなされている。そのため、閉鎖的な空間になりやすく、暗く、通風も悪い設計になりやすい。
【0005】
また、図15に示すように、外周部耐力壁91や、室内側耐力壁92・92は、例えば、閉じた壁面91a、壁面92aを形成可能な構造用面材を使用することで、この構造用面材にて耐力を発揮させることとされている。
【0006】
また、図15に示すように、外周部耐力壁91や、室内側耐力壁92・92の構造用面材は、その上部及び下部が、それぞれ天井裏に隠れる梁や、床下に隠れる土台に対して留めつけられることで、建物に作用する風・地震等の水平荷重に抵抗し得る構成としている。
【0007】
他方、特許文献1、2に開示されるように、耐力を発揮させる面材について、厚み方向に貫通する孔を有するものを使用する耐力壁パネルが知られている。このような耐力壁パネルの場合、特許文献1のように、耐力壁パネルの上下が直接的に梁や土台に留めつけられる、若しくは、特許文献2のように、耐力壁パネルを取り囲むフレーム材が梁や土台に留めつけられる構成となっている。
【0008】
そして、以上のように、図14、図15に示される外周部耐力壁91や、室内側耐力壁92、また、従来の耐力壁パネルにおいては、耐震性能を発揮させる面材が直接、若しくは、フレーム材を介して梁や土台に固定されることにより、建物に作用する風・地震等の水平荷重に抵抗し、耐震性能を発揮させようとする構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実用新案登録第3126116号公報
【特許文献2】特許第3689650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上述したように、耐震性能を発揮させる面材が直接、若しくは、フレーム材を介して梁や土台に固定される形態では、新築時における施工において、面材やフレーム材を天井や床の施工前に設置することが必要となり、施工手順の自由度が制限されるものであった。
【0011】
また、間取り変更時や改装時において、室内に配置される耐力壁を除去、移設、或いは、追加的に新設する場合においては、耐震性能を発揮させる面材を梁や土台に固定する必要があるため、面材の幅に対応する広い範囲において天井や床を剥がす必要が生じることから、大掛かりな作業が発生するとともに、コストが嵩んでしまうことになる。また、柱や梁、土台の内側部、軸間内(真壁納まり)に耐力壁を配置しようとした場合では、階高と各場所の梁成(梁の高さ)によって、寸法がばらばらになるため、都度現場で場所ごとの寸法調整が必要で、現場加工が面倒な面材では手間がかかるとともに、製品化する場合に寸法の規格化、集約化が図りにくい。
【0012】
さらに、図15に示すように、従来は、外周部耐力壁91や、室内側耐力壁92・92は、閉じた壁面91a、壁面92aを形成するため、閉塞感が高いものであった。また、図14に示される間取りにおいては、外周部耐力壁91が存在する箇所では、耐力壁の配置や偏心率の関係からサッシを設置することができないこととなり、いわゆる「全面開口」の形態(壁一面に開口部が配置される形態)を採用することができないものであった。
【0013】
この「全面開口」に関し、平成12年建設省告示第1352号が告示される前に建築された戸建住宅については、「全面開口」を採用するものも存在する。そして、このような告示前に建築された戸建住宅について、耐震性能を向上させることを目的として、サッシを撤去するとともに、上述した外周部耐力壁91(図15)や、特許文献1、2に開示されるような耐力壁パネルを設置することが考えられる。
【0014】
しかしながら、このようないわゆるリフォームによる後付での設置の場合では、一般的な耐力壁は、両側に木製の90cm角以上の柱材を配置して面材を取り付けるものがおおく、その場合、既存のサッシ部への開口部補強では、既存サッシの移動、撤去を伴って柱を新設する必要ができてしまう。また、面材の幅に対応する広い範囲において天井や床を剥がす必要が生じるため、大掛かりな作業が発生するとともに、コストが嵩むことになってしまう。また、サッシが撤去されて壁になってしまうため、「全面開口」の開放感が損なわれ、暗く、通風性も損なってしまうことになる。
【0015】
そこで、本発明は以上の問題に鑑み、耐震性能を向上させるための室内用耐力壁について、リフォームによる後付での設置や撤去が可能であり、かつ、設置後においても良好な開放感を得ることが可能な、新規な室内用耐力壁について提案するものであり、さらに、既存サッシも残し、開口部補強を可能とする方法も提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0017】
即ち、請求項1に記載のごとく、
天井仕上げ材と、床仕上げ材の間に、厚み方向に貫通部を有する面材が配置され、前記面材の左右端部は、それぞれ柱材に固定されるものであり、前記各柱材は、上部が前記天井仕上げ材の上方の横架材に固定され、下部が前記床仕上げ材の下方の横架材に固定される、室内用耐力壁の構造とするものである。
【0018】
また、請求項2に記載のごとく、
前記柱材の少なくとも一つは、
建物内空間と建物外空間を連通させる開口部の左右方向の端部に設けられる、
或いは、
建物内空間と建物外空間を連通させる開口部の左右方向の中途部に設けられる、
こととするものである。
【0019】
また、請求項3に記載のごとく、
前記面材は、透過性を有する面材を備えるサッシの室内側に設けられる、こととするものである。
【0020】
また、請求項4に記載のごとく、
前記サッシは引違いサッシである、こととするものである。
【0021】
また、請求項5に記載のごとく、
前記面材は、室内に配置される柱材に対して固定されるものであって、室内空間を間仕切る構成とするものである。
【0022】
また、請求項6に記載のごとく、
前記面材は、前記柱材の見込み幅の範囲内に納められる、こととするものである。
【0023】
また、請求項7に記載のごとく、
前記面材は、前記柱材に固定される金属製の一次ファスナを介して前記柱材に固定される、若しくは、前記一次ファスナに固定される金属製の二次ファスナを介して前記柱材に固定されるものであって、前記面材、若しくは、前記二次ファスナは、前記一次ファスナに対して着脱自在に構成されることとするものである。
【0024】
また、請求項8に記載のごとく、
前記面材の上下端部には、それぞれ、補強材が付設される、こととするものである。
【0025】
また、請求項9に記載のごとく、
前記面材は、厚さ1.0mm以上、5.0mm以下の金属製とする、こととするものである。
【0026】
また、請求項10に記載のごとく、
前記面材は、複数の分割面材を並べて配置することで構成されることとするものである。
【0027】
また、請求項11に記載のごとく、
前記各分割面材は、各分割面材の境界部分において中間部補強材を介して連結されることとするものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0029】
即ち、請求項1に記載の発明においては、
耐震性能を向上するための室内用耐力壁について、リフォームによる後付での設置や撤去が可能であり、かつ、設置後においても、貫通部の存在によって採光・通風といった良好な開放感を得ることが可能となる。
【0030】
また、請求項2に記載の発明においては、
面材を固定する対象は、施工現場の状況などに応じて適宜選定することが可能である。
【0031】
また、請求項3に記載の発明においては、
サッシが配置される箇所において室内用耐力壁が発揮する耐力によって、耐力壁の配置や偏心対策としての耐震性能を確保することが可能となって、いわゆる「全面開口」を実現することも可能となる。また、既存の「全面開口」などを有する建物について、既存サッシの移動、交換等は不要でそのまま残すことが可能となり、後付で室内用耐力壁を設置した場合においても、良好な開放感を維持しつつ、耐震性能の向上を図ることが可能となる。
【0032】
また、請求項4に記載のごとく、
引違いサッシが設置される開口部において室内用耐力壁が配置される構成とすることができる。
【0033】
また、請求項5に記載の発明においては、
間仕切られる空間の間での採光・通風が可能となるととともに、隣の空間が見えることとなって、閉塞感が感じられることを抑えることができる。
【0034】
また、請求項6に記載の発明においては、
室内壁との関係での納まりの問題の発生を防止することができる。このことは、特に、リフォームによる後付での設置の際においては、施工性の向上に寄与することとなる。
【0035】
また、請求項7に記載の発明においては、
特に柱材が木材からなる場合には、面材の着脱を自由に行うことが可能となって、例えば、面材の裏側にあるサッシのガラス面の拭き掃除をすることや、ガラスが割れた場合の交換時などに有効で、面材の取り外し、取り付けによる、間仕切りの変更や、動線の変更なども容易に行うことが可能となる。
【0036】
また、請求項8に記載の発明においては、
補強材が面材の面外座屈を抑制し、面材を補強することが可能となって、室内用耐力壁にて発揮される耐震性能の向上を図ることができる。また、補強材を上下端部に配置することで、貫通部を避けるようにして補強材を配置することが可能となって、貫通部により得られる開放感の阻害を避けることが可能となる。
【0037】
また、請求項9に記載の発明においては、
柱材と比較して厚さの薄い面材を採用することにより、面材の重量も軽く施工性がよく、輸送、ストック面でも有利である。また、低コストにて実施することが可能となる。また、金属製とすることにより、木材やプラスチックなどと違って、建築基準法上の内装制限にかかる部分でも安心して使用できることが可能となる。
【0038】
また、請求項10に記載の発明においては、
各分割面材の寸法を、一枚の面材と比較してコンパクトに構成することが可能となって、運搬性に優れ、トラック等での搬送が不要となる。また、現場搬入後のストックスペースも小さくてすみ、取付・輸送時等の撓みが発生し難い構成とすることが可能となる。
【0039】
また、請求項11に記載の発明においては、
中間部補強材により、2枚の面材が一体化して耐力を発揮する構造となり、面外座屈も抑制し、室内用耐力壁にて発揮される耐震性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】室内用耐力壁を設置した室内の例について示す図。
【図2】室内用耐力壁を設置した間取りの例について示す平面図。
【図3】設置された室内用耐力壁の正面図。
【図4】図3のA−A線断面図。
【図5】(a)は、柱への面材の固定について示す水平断面図。(b)は、柱への面材の固定について示す正面断面図。
【図6】(a)は、面材の垂直断面図。(b)は、面材に板状の補強材を設ける例について示す図。(c)は、面材に略コ字状の補強材を設ける例について示す図。(d)は、面材に略L字状の補強材を設ける例について示す図。(e)は、二つの面材を補強材にて連結する例について示す図。
【図7】(a)は、実施例1の構成について示す図。(b)は、実施例2の構成について示す図。(c)は、実施例3の構成について示す図。
【図8】引違いサッシの室内側に室内用耐力壁を設置する場合の配置例について示す参考正面図。
【図9】図8のA−A線断面図。
【図10】引違いサッシの室内側に室内用耐力壁を設置する場合の配置例について示す参考縦断面図。
【図11】引違いサッシの室内側に室内用耐力壁を設置する場合の他の配置例について示す参考正面図。
【図12】図11のA−A線断面図。
【図13】(a)は、実施例2の構成におけるact荷重の挙動について説明する図。(b)は、実施例2の構成におけるact荷重の挙動について説明する図。
【図14】従来の建物の間取りの例について説明する図。
【図15】従来の建物の室内の例について説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1及び図2は、本発明に係る室内用耐力壁1A・1Bを設置した例について示すものである。
室内用耐力壁1Aは、室内外を仕切るサッシ5(図2)の室内側に配置される。また、室内用耐力壁1Bは、室内空間の間仕切りを行う箇所に配置される。また、室内用耐力壁1A・1Bは、厚み方向に複数の貫通部21・21が形設された面材2を有する構成としている。また、面材2の横幅方向の両端は、耐震性能に影響する構造躯体として機能する柱3・3など対して固定されるようになっている。
【0042】
以上の構成により、図1に示される室内用耐力壁1A・1Bを設置することにより、面材2の発揮する耐力によって耐震性能を得ることが可能となる。図1及び図2の例のように、室外に近い窓際11に室内用耐力壁1Aを設置することによれば、この窓際11において耐震性能を確保できるため、この箇所に従来のような外壁を設置する代わりに、サッシ5、及び、その室内側に室内用耐力壁1Aを配置する形態を採用することが可能となる。これにより、図2の例においては、窓際11において、サッシ5・6によって、いわゆる「全面開口」を実現することが可能となる。
【0043】
また、図1に示すごとく、室内用耐力壁1A・1Bを設置した場合においても、面材2に形設される貫通部21・21によって、通風と採光が確保でき、良好な開放感を得ることが可能となる。具体的には、室内用耐力壁1Aについては、サッシ5を透過する光を、室内側に取り込めるとともに、室内から室外の景色が見えることとなって、良好な開放感を確保できる。また、室内用耐力壁1Bについては、間仕切られる空間の間での通風が可能となるととともに、隣の空間が見えることとなって、閉塞感が感じられることを抑えることができる。
【0044】
次に、室内用耐力壁の実施形態について詳細に説明する。
図3に示すごとく、室内用耐力壁1Aは、左右の柱3・3と、上側の天井仕上げ材7と、下側の床仕上げ材8にて囲まれる空間内に、面材2を配置することで構成される。面材2の左右の端部は、それぞれ柱3・3に対して固定される一方で、面材2の上下の端部は、天井仕上げ材7の上方に配置される梁12や、床仕上げ材8の下方に配置される土台13に対しては固定されない構成としている。また、面材2の上下の端部は、天井仕上げ材7や床仕上げ材8に対しても固定されない構成としている。
【0045】
また、図4に示すごとく、左右の柱3・3の間には、ガラス面51を備えるサッシ5が設けられる。本実施形態では、サッシ5の縦枠52・52は、柱3の見込み方向において室外側の約半分の位置まで嵌め込まれるようにして固定されており、ガラス面51が柱よりも室外側に配置されることで、サッシ5が半外付サッシとして構成されている。そして、サッシ5の室内側に、室内用耐力壁1Aが設置される。
【0046】
また、図4及び図5(a)(b)に示すごとく、室内用耐力壁1Aの面材2の左右の端部は、それぞれ、金属製の一次ファスナ41、及び、金属製の二次ファスナ42を介して木製の柱3に固定される。より詳しくは、図5(a)(b)に示すごとく、まず、一次ファスナ41は、柱3の見込み幅34よりも狭い幅を有する長尺の板材で構成されており、厚み方向に貫通する貫通孔41aにコーチネジ41cを挿入するとともに、このコーチネジ41cを柱3にねじ込むことで、一次ファスナ41が柱3に対して固定される。なお、貫通孔41aは一次ファスナ41の長手方向において間隔を開けて複数箇所に配置されており、一次ファスナ41は、複数箇所において柱3に対して留めつけられる。また、一次ファスナ41には、厚み方向において固定孔41b(図5(b)参照)が設けられている。この固定孔41bは、貫通孔41aと位置をずらして配置されており、貫通孔41aと同様に、一次ファスナ41の長手方向において間隔を開けて複数箇所に配置される。
【0047】
また、図5(a)(b)に示すごとく、二次ファスナ42は、見付部42aと見込部42bから略L字状の水平断面を形成する長尺の部材で構成される。見付部42aには、上下方向に間隔を開けて貫通孔42cが複数形設される。この貫通孔42cは、面材2の端部において、上下方向に間隔を開けて複数形設される貫通孔2aの配置と一致するように設けられており、面材2に対し、二次ファスナ42の見付部42aを当て付けつつ、貫通孔42cを貫通孔2aの位置にあわせて、両孔42c・2aに固定ボルト42eを挿入するとともに、固定ボルト42eの突端にナット42fを締結することで、面材2と二次ファスナ42が固定されるようになっている。
【0048】
また、コーチネジ41cの頭部は皿形状になっており、1次ファスナの貫通孔41aはコーチネジ41cの頭部は皿形状に対応する形状の皿孔となっている。これによって、1次ファスナ41と2次ファスナ42がフラットに納まる機構となっている。また、1次ファスナに設ける41bの孔は、事前に2次ファスナ留めつけのためのボルト42gのボルトに対応する雌ネジ加工をしておくことで、施工が容易となる。また、2次ファスナ留めつけ用のボルト42e、42gも頭部を皿形状にし、2次ファスナの貫通孔42d、42cも皿孔加工にすることによってフラットな納まりができ、意匠的にもすっきりとした形態になり、また、他の部材との干渉を防ぐ効果をもたらすものとなる。
【0049】
また、図5(a)(b)に示すごとく、見込部42bには、上下方向に間隔を開けて貫通孔42dが複数形設される。この貫通孔42dは、一次ファスナ41の固定孔41bの配置と一致するように設けられており、柱3に固定された一次ファスナ41に対し、二次ファスナ42の見込部42bを当て付けつつ、貫通孔42dから固定ボルト42gを挿入し、固定孔41bに螺挿することで、一次ファスナ41に対し二次ファスナ42が固定されるようになっている。このように固定ボルト42gを用いることで、二次ファスナ42が一次ファスナ41に対して着脱自在に構成されるようになっている。
【0050】
そして、以上のように、二次ファスナ42を一次ファスナ41を介して柱3に固定する形態とすることで、二次ファスナ42を一次ファスナ41から一旦取り外した場合においても、二次ファスナ42を容易に一次ファスナ41に再固定することが可能となる。仮に、二次ファスナ42を木製の柱3に直接的にビス留めなどする場合には、一旦このビスを抜いてしまうと同一箇所に再度のビス留めができないことになる。この点、一次ファスナ41に固定ボルト42gにて二次ファスナ42を固定することで、二次ファスナ42を何度でも脱着することが可能となる。これにより、例えば、二次ファスナ42を一次ファスナ41から取り外すことで、面材2を柱3から取り外してサッシ5(図4)の室内側ガラス面の拭き掃除を行うことや、万が一ガラスが破損したときの交換などが可能となり、図2に示す間取りにおいて、室内用耐力壁1Bの面材を取り外す、若しくは、再度取り付けるなどして、間仕切りの変更や、動線の変更などを容易に行うことが可能となる。なお、取り外しを必要としないようなケースや設計の場合は、1次ファスナーを省略して、2次ファスナーを直接柱にコーチビスを用いて留めつけることも可能である。
【0051】
また、図4及び図5(a)(b)の例では、二次ファスナ42を設ける構成としたが、このほかに、一次ファスナ41において面材2の取り付け片を設けることや、面材端部を略L字に曲げてその面に貫通孔42dを設けるようにするなどして、一次ファスナ41に対して面材2が直接的に固定されることとしてもよい。つまり、二次ファスナ42を省略した構成とするものである。
【0052】
また、図4及び図5(a)(b)に示す実施形態では、木製の柱3への面材2の固定の例をもって説明をしているが、柱3については木製のものに限られず、鋼製の角管やパイプ、アングル材等、木製の柱材同等の曲げ剛性など耐力を有するものであればよく、サイズも曲げ剛性などの性能があれば、通常の木製の105mm角以下のものでもよい。これら通常の木製の構造上の柱材とは異なる別のものを設ける場合は、面材と固定できることはもちろん、梁や土台の横架材にしっかりと緊結、固定するなど水平力を伝達できるものである必要がある。このように、柱材の形態については、面材が固定可能であり、梁や土台といった横架材に対して固定可能であって、横架材に水平力を伝達できる構造であれば、特に限定されるものではない。
【0053】
また、図4に示すごとく、柱3に対して固定された面材2は、柱3の見込み幅34の範囲内に納められている。本実施形態では、面材2が、柱3の見込み方向の略中心位置に配置される形態としており、室内用耐力壁1Aが室内壁14よりも室内側に出っ張らないようになっている。また、室内用耐力壁1Aが配置される箇所における柱3のコーナー部は、室内壁14と、パッキング材15による隅部が構成されており、この隅部が水平断面において略L字状の仕上げ用額縁16によって隠されることで、室内側の意匠性が確保できるようになっている。なお、パッキング材15は、仕上げ用額縁16と柱3の間に形設される隙間を埋め、仕上げ用額縁16を固定するためのものである。
【0054】
また、図3に示すごとく、室内用耐力壁1Aを構成する面材2には、厚み方向に複数の貫通部21・21が形成されており、この貫通部21・21によって、面材2の裏表の間での通風や光の通過が可能となっている。この貫通部21・21は、意匠性や、詳しくは後述する一定の壁強さ倍率を満たすように、適宜選定されるものである。本実施形態では、面材2の仕様を、厚さ2mm、幅875mm、高さ2315mmとするものにおいて、45mm角の正方形の貫通部を、90mmピッチ(隣り合う貫通部の上下・左右距離が45mm)にて、垂直方向、水平方向に規則的に配置する構成としている。なお、貫通部21はプレス加工などにより打ち抜かれることが考えられ、図3に示す面材2の形態は、一般に、パンチングメタルと称されるものである。また、実施形状については面材のサイズ、孔形状、孔ピッチはこれに規定されるものではない。とくに、孔形状は、今回の実施例とほぼ同じ開口率であれば地震時に同様の座屈性状となることが想定でき、同様の耐力となるもの想定できる。
【0055】
このような図3の実施形態において、面材2の素材については、例えば、アルミなどの金属製の板材や、スチール製の板材、ステンレス製の板材、などを採用することができる。この面材2については、後述する壁強さ倍率を発揮すること、脆性破壊が発生し難いもの、不燃、準不燃、難燃等の防火・耐火上の配慮が可能なもの、内装材としての使用制限がないもの、などの機能や特性を有することが要求されるものであり、前述の各種の板材の使用することが想定される。
【0056】
また、図3の実施形態において、面材2の厚みについては、後述する実施例で説明するように、2.0mmで設定することで、従来の一般的な構造用合板よりも高い耐震性能(壁倍率)を確保できることや、後述する実施例3によれば、1.5mmに設定しても耐震性能を確保できることが確認されている。このため、面材2の厚みについては、特に限定するものではないが、実験例からは1.5mm以上が望ましく、1.0mm程度でも後述の2.0mmと1.5mmの結果などからも、1.0mmでも多少の耐力低下はあったとしても耐震性向上につながるものと想定できる。上限厚については、面材は厚ければ厚いほど座屈等が抑制され、耐力が高くでるため、耐力上は規定するものものではないが、重さによる施工性の問題や、厚さによる製造上の孔空けの難易度、サッシ部等に用いた場合の納まり上の問題や、コスト等を考えると5.0mm以下が望ましい。
【0057】
また、図4に示すごとく、この面材2の厚みに関し、例えば、2.0mmと設定することによれば、柱3の見込み幅34(見込み方向の寸法)と比較して薄く構成されるため、この柱3の見込み幅34内に容易に納めることが可能となって、室内壁14との関係での納まりの問題の発生を防止できる。このことは、特に、リフォームによる後付での設置の際においては、施工性の向上に寄与することとなる。また、面材2が薄く構成されることによって、柱3の見込み方向において、サッシ5の縦枠52・52の留め付け幅53・53を容易に確保することが可能となる。
【0058】
また、図3の実施形態において、面材2に形設される貫通部21の形状や配置についても、上述した意匠性や機能を発揮できるものであれば特に限定されるものではない。また、複数ある貫通部21の一部、或いは、全部について、投光性や他の機能を有する部材などで遮蔽することで、面材2において投光性を保ちつつ遮熱性を確保するなどとしてもよい。また、面材2の一側面、若しくは、両面に、板状の部材などを貼設し、まとまった範囲において貫通部21を遮蔽することとしてもよい。
【0059】
また、図3の実施形態において、貫通部21にブラケットを差し込むとともに、その上に棚板を設置することなどによれば、簡易の棚を構成することも可能である。また、貫通部21に単純にハンガーを引っ掛けるなど、貫通部21を係止部として利用することも可能である。
【0060】
また、図6(a)に示すごとく、面材2は一枚の板状とするものであるが、図6(b)に示すごとく、この面材2の一部である上下端部2d・2eの一側面において、それぞれ、補強材2f・2gが付設されることとしてもよい。このように、面材2の一部の箇所において板状の補強材2f・2gを付設することによって、面材2を補強することが可能となって、室内用耐力壁にて発揮される耐震性能の向上を図ることができる。また、補強材2f・2gを上下端部2d・2eに配置することで、貫通部21を避けるようにして補強材2f・2gを配置することが可能となって、貫通部21により得られる開放感の阻害を避けることが可能となる。
【0061】
また、図6(b)に示すごとく、この補強材2f・2gは、例えば、厚さ4mm、縦幅30mm(図において上下方向の幅)、横幅790mm(図において見込み方向の幅)の板材であって、面材2と同一素材のものを採用することができる。また、図6(c)のように、面材2の上下端部2d・2eの両面及び端面を覆うように、略コ字状の断面を有する補強材2j・2kを付設する形態としてもよい。なお、これらの補強材は、面材2に対して接着剤やボルトなどにより固定することができる。
【0062】
さらに、図6(d)に示す補強材2m・2nのように、縦面と水平面を有する断面略L字状に構成することとしてもよい。また、図6(e)に示すごとく、後述する実施例3のように、複数の分割面材20A・20Bを配列して室内用耐力壁1Aを形成する場合には、分割面材20A・20Bの境界部に中間補強材2pを設けることとしてもよい。この中間補強材2pは、図6(e)のように、両分割面材20A・20Bを跨ぐように設けて両分割面材20A・20Bを連結することとしてもよいし、各分割面材20A・20Bの端部のいずれか一方、若しくは、両方にそれぞれ設けることとしてもよい。
【0063】
また、さらなる他の実施の形態として、既存の「全面開口」などを有する建物について、既存サッシの移動、交換等せず、そのまま残し、耐震補強する実施形態が考えられる。
即ち、図9、図12に示すごとく、既存サッシが設置されている空間を構成する柱、梁、土台等に、新たに厚さの薄い柱材84・85を既存サッシの室内側に取り付けて、上述したものと同様の面材82を柱材84・85に取り付ける構成で、採光、通風、解放感を残し、既存サッシをそのままにして、耐震性を確保することが可能とする形態である。
この形態の場合、追加する柱材84・85の厚み(奥行き方向の寸法は)は、既存建物の柱サイズと既存サッシの見込み寸法(室内側への入り込みのかかり寸法)にもよるが、一般的には30mm程度が望ましい。
【0064】
以上のようにして本発明を実施することができる。
即ち、図3及び図4に示すごとく、左右の柱材としての柱3・3と、上側の天井仕上げ材7と、下側の床仕上げ材8にて囲まれる空間内に、厚み方向に貫通部21を有する面材2が配置され、前記面材2の左右端部がそれぞれ前記柱3・3に固定される、室内用耐力壁1Aの構造とするものである。
【0065】
また、図3及び図4に示すごとく、天井仕上げ材7と、床仕上げ材8の間に、厚み方向に貫通部を有する面材2が配置され、前記面材2の左右端部は、それぞれ柱材3・3に固定されるものであり、前記各柱材3・3は、上部が前記天井仕上げ材7の上方の横架材としての梁12に固定され、下部が前記床仕上げ材8の下方の横架材としての土台13に固定される、室内用耐力壁1Aの構造とするものである。
【0066】
これにより、図1及び図2に示すごとく、耐震性能を向上するための室内用耐力壁1A・1Bについて、天井や床面を剥がすことなくリフォームによる後付での設置や撤去が可能であり、かつ、設置後においても、貫通部21の存在によって良好な開放感を得ることが可能となる。
【0067】
また、図3及び図4に示すごとく、前記面材2は、前記柱3の見込み幅34(壁の厚さ方向における奥行き方向の幅)の範囲内に納められる、こととするものである。
【0068】
これにより、図4に示すごとく、室内壁14との関係での納まりの問題の発生を防止することができる。このことは、特に、リフォームによる後付での設置の際においては、施工性の向上に寄与することとなる。
【0069】
また、図3及び図4に示すごとく、前記面材2は、ガラス面51などの透過性を有する面材を備えるサッシ5の室内側に設けられる、こととするものである。
【0070】
これにより、図1及び図2に示すごとく、サッシ5が配置される箇所において室内用耐力壁1Aが発揮する耐力によって、耐震性能を確保することが可能となって、いわゆる「全面開口」を実現することも可能となる。また、既存の「全面開口」などを有する建物について後付で室内用耐力壁1を設置した場合においても、良好な開放感を維持しつつ、耐震性能の向上を図ることが可能となる。
【0071】
また、図1及び図2に示すごとく、前記面材2は、室内に配置される柱材としての柱3・3に対して固定されるものであって、室内空間を間仕切る構成とするものである。
【0072】
これにより、図1及び図2に示すごとく、間仕切られる空間の間での通風が可能となるととともに、隣の空間が見えることとなって、閉塞感が感じられることを抑えることができる。
【0073】
また、図4及び図5に示すごとく、前記面材2は、前記柱材としての柱3に固定される金属製の一次ファスナ41を介して柱3に固定される、若しくは、前記一次ファスナ41に固定される金属製の二次ファスナ42を介して前記柱3に固定されるものであって、前記面材2、若しくは、前記二次ファスナ42は、前記一次ファスナ41に対して着脱自在に構成されることとするものである。
【0074】
これにより、特に柱材が木材からなる場合には、面材2の着脱を自由に行うことが可能となって、例えば、面材2の裏側にあるサッシのガラス面の拭き掃除をすることや、面材2の取り外し、取り付けによる、間仕切りの変更や、動線の変更などを容易に行うことが可能となる。
【0075】
また、図6(b)乃至(d)に示すごとく、前記面材2の上下端部2d・2eには、それぞれ、補強材2f・2gが付設される、こととするものである。
【0076】
これにより、補強材2f・2gが発揮する耐力によって面材2を補強することが可能となって、室内用耐力壁にて発揮される耐震性能の向上を図ることができる。また、補強材2f・2gを上下端部2d・2eに配置することで、貫通部21を避けるようにして補強材2f・2gを配置することが可能となって、貫通部21により得られる開放感の阻害を避けることが可能となる。
【0077】
また、図4に示すごとく、前記面材は、厚さ1.0mm以上、5.0mm以下の金属製とするものであって、後述する実施例で説明するように、1.5mmの設定や、2.0mmの設定において、有効な耐震性能を発揮できることが確認されている。
【0078】
このように、柱材と比較して厚さの薄い面材を採用することにより、面材の重量も軽く、また、低コストにて実施することが可能となる。また、金属製とすることにより、ガラスなどのような脆性破壊が発生し難く、木材やプラスチックなどと違って、建築基準法上の内装制限にかかる部分でも安心して使用できることが可能となる。また、面材と各ファスナ41・42の総厚(図4のL)を40mm以下とすることで、1つの柱に、サッシを取り付け、その室内側に耐力壁を取り付け、さらに仕上げとしての額縁等の部材を取り付けてきれいに納めることが可能となる。
【0079】
また、図7(c)に示すごとく、前記面材は、複数の分割面材70・71(図の例では2枚)を並べて配置することで構成されることとするものである。
【0080】
この構成によれば、各分割面材70・71の寸法を、一枚の面材と比較してコンパクトに構成することが可能となって、運搬性に優れ、また、撓みが発生し難い構成とすることが可能となる。なお、図7(c)のように、上下に二つの分割面材70・71を並べる構成とするほか、床から天井までの寸法などに応じて、三つの分割面材を上下方向に並べる等の形態も考えられる。
【0081】
また、図7(c)に示すごとく、前記各分割面材70・71は、各分割面材の境界部分において中間部補強材72を介して連結されることとするものである。
【0082】
これによれば、中間部補強材72が発揮する耐力によって、室内用耐力壁にて発揮される耐震性能の向上を図ることができる。
【0083】
さらに、図8乃至図10に示すごとく、引違いサッシ80の室内側に面材82を設置することで、引違いサッシ80が設置される開口部において室内用耐力壁1Cが配置される構成とすることもできる。なお、引違いサッシ80としては、2枚の窓体が左右方向にそれぞれスライドする構成とするもののほか、それぞれスライドする3枚以上の窓体を有する構成や、少なくとも1枚の窓体がスライドし他の窓体はスライドしない構成とするものなどが想定される。
【0084】
図8乃至図10に示す構成は、引違いサッシの室内側に面材82を設置する場合を想定したものである。天井仕上げ材87と、床仕上げ材88の間に、厚み方向に貫通部82a・82aを有する面材82が配置され、面材82の左右端部が、それぞれ柱材83・84に対して固定される。各柱材83・84は、上部が天井仕上げ材87の上側にある梁112に固定され、下部が床仕上げ材88の下側にある土台113に対固定される。また、柱材83と柱材86の間に開口部が構成され、この開口部を塞ぐように引違いサッシ80が配置される。
【0085】
また、図9に示すごとく、柱材84は、建物内空間と建物外空間を連通させる開口部89の左右方向の中途部に設けられるものであり、引違いサッシ80の左右幅方向の中途部に配置されることとなっている。図9の例では、柱材84は、いわゆる「方立て」としても機能するようになっており、また、引違いサッシ80の召し合せ部80aの室内側に配置されるようになっている。また、柱材84は、金属製の中空角柱(断面ロ字型)の形態にて構成することができるが、断面コ字型、断面I字型、断面H型、断面丸型など、さまざま形態を採用し得る。
【0086】
また、図10に示すごとく、柱材84の上部は梁112に対し固定金具84aを介して固定され、柱材84の下部は土台113に対し固定金具84bを介して固定される。リフォームなどの後付で柱材84を設置する場合には、柱材84の固定を行うために天井仕上げ材87や床仕上げ材88などの切欠作業などが必要となるが、切欠作業は一部の範囲に限られるため(面材82の高さが天井仕上げ材87と床仕上げ材88の範囲に納められ、面材82の左右幅ではないため)、柱材84の設置は簡易に行うことができる。
【0087】
また、図9に示すごとく、面材82の左端部は柱材84に対して固定される。一方、面材82の右端部は柱材83に対して、直接固定することも可能ではあるが、入隅状態や仕上げとの関連も考慮して、連結用柱材85を介して固定される。図9の例では、連結用柱材85は柱材84と同一断面を有する共通部材にて構成されることとしている。また、この連結用柱材85は、その上下寸法が、面材82と略同一であって、柱材83に対して固定がされるため、連結用柱材85の設置について、天井仕上げ材や床仕上げ材などの切欠作業は不要である。また、連結用柱材85は、金属製の中空角柱(断面ロ字型)の形態にて構成することができるが、断面コ字型、断面I字型、断面H型、断面丸型など、さまざま形態を採用し得る。
【0088】
また、図9に示すごとく、面材82は、柱材84や連結用柱材85の室内側に固定され、面材82が柱材84や連結用柱材85の室内側に配置される構成としたが、この構成のほか、面材82を柱材84や連結用柱材85の室外側に固定する構成や、面材82を柱材84や連結用柱材85の見込幅の範囲内に納める構成としてもよい。つまり、面材82の配置については、柱材84や連結用柱材85の室内側、室外側、或いは、見込幅の範囲内、のいずれの位置に配置されるものであってもよく、設置後の意匠性や、施錠装置80cとの接触の回避の観点などから、適宜選定されることができる。
【0089】
また、図9に示すごとく、柱材84は、引違いサッシ80の召し合せ部80aの室内側に配置されるが、クレセント錠などの施錠装置80cに接触しない位置に配置されることとしている。これにより、引違いサッシ80の開閉を許容しながらにして、面材82を設置することが可能となる。なお、引違いサッシ80の配置や、施錠装置80cの配置によっては、柱材84や連結用柱材85をより室内側に配置することにより、施錠装置80cとの接触を回避することとしてもよい。
【0090】
以上のようにして、図8乃至図10に示すごとく、引違いサッシ80が配置される開口部においても、良好な開放感を維持しつつ、耐震性能の向上を図ることが可能となる。また、施錠装置80cとの接触が回避されるように面材82、及び、柱材84を設置することによれば、面材82の設置後においても、引違いサッシ80の開閉を行うことができる。
【0091】
さらに、図11及び図12に示す構成とすることもできる。
即ち、この例では、躯体を構成する柱材83・86の間に、二本の柱材84A・84Bを立設し、各柱材84A・84Bに対して面材82Aを止めつけることにより、引違いサッシ80Aが設置される開口部において室内用耐力壁1Dが配置される構成とするものである。
【0092】
また、図11及び図12に示すごとく、各柱材柱材84A・84Bは、建物内空間と建物外空間を連通させる開口部89Aの左右方向の中途部に設けられるものであり、引違いサッシ80Aの左右幅方向の中途部に間隔を開けて配置され、いわゆる「方立て」としても機能することとなっている。また、柱材84は、金属製の中空角柱(断面ロ字型)の形態にて構成することができるが、断面コ字型、断面I字型、断面H型、断面丸型など、さまざま形態を採用し得る。
【0093】
また、図11に示すごとく、柱材84A・84Bの上部は梁112に対しそれぞれ固定金具84aを介して固定され、柱材84A・84Bの下部は土台113に対しそれぞれ固定金具84bを介して固定される。リフォームなどの後付で柱材84A・84Bを設置する場合には、柱材84A・84Bの固定を行うために天井仕上げ材や床仕上げ材などの切欠作業などが必要となるが、切欠作業は一部の範囲に限られるため(面材82Aの左右幅ではないため)、柱材84A・84Bの設置は簡易に行うことができる。
【0094】
以上のようにして、図11及び図12に示すごとく、引違いサッシ80Aの室内側において、引違いサッシ80Aの幅方向の任意の位置に、柱材84A・84B、及び、面材82Aを設置することで、室内用耐力壁1Dを実現することが可能となる。なお、面材82Aの裏側(室外側)に引違いサッシ80Aの図示せぬ施錠装置が配置される場合には、面材82Aの一部を切り欠くなどして、施錠装置が操作し易い構成を実現してもよい。
【0095】
また、以上に述べた各実施形態の要素は、組み合わせて使用することも想定され、施工現場の状況に応じるなどして、適宜、最適な構成を選定することができる。
【0096】
また、図3に示される構成、図8に示される構成、図11に示される構成から判るように、
面材を固定するための柱材の少なくとも一つは、
建物内空間と建物外空間を連通させる開口部の左右方向の端部に設けられる(図3、図8)、
或いは、
建物内空間と建物外空間を連通させる開口部の左右方向の中途部に設けられる(図8、図11)、
こととするものである。
【0097】
このように、面材を固定する対象(柱材)は、施工現場の状況などに応じて適宜選定することが可能である。
【0098】
<実施例と比較例>
次に、本発明の構成を適用した実施例を用いて、本発明の構成による効果を説明する。
主要な条件は次の通りである。
【0099】
(1)共通仕様
以下に各実施例に共通する仕様について記載する。また、図7(a)〜(c)に仕様の概要を示した。
・上梁61:断面105mm×180mm、長さ1910mm:樹種=米松
・土台62:断面105mm×105mm、長さ1910mm:樹種=すぎ
・上梁と土台の間隔L:2594mm
・柱63:断面105mm×105mm、長さ2594mm:樹種=すぎ
・各柱の上梁への止めつけ:25kN用ホールダウン金物
・各柱の土台への止めつけ(試験架台へ):30kN用ホールダウン金物
【0100】
(2)実施例1の仕様:図7(a)
・面材64:厚さ2mm、幅875mm、高さ2315mm:材質=アルミ(JIS:A5052)
・面材64の下端から土台62の上面までの距離M:184mm
・貫通部65:45mm角正方形、上下左右直線状に90mmピッチで配列(縦24列、横8列)、面材の上端部から最上部の貫通部の上端までの距離=100mm、面材の下端部から最下部の貫通部の下端までの距離=100mm、面材の左右端部から左右端部の各貫通部の左端/右端までの距離=100mm
・一次ファスナ:使用せず
・二次ファスナ:厚さ4mm、見付部幅50mm、見込部幅35mm、高さ2310mm
:材質JISA6063
・二次ファスナと柱の固定:径6mm、長さ50mmのコーチネジ使用
柱への留め付けピッチは端あき55mmとして上下端部66a・66bの領域だけ5本づつ100mmピッチ、中間部66cの領域は200mmピッチとした。
【0101】
(3)実施例2の仕様:図7(b)
実施例1と異なる点として、次の仕様。
・補強材67・68:断面L字状の長尺材(図6(d)の補強材2m・2nの形態を参照):厚さ3mm、縦面幅15mm、水平面幅30mm、長さ790mm
・補強材67・68の固定方法:M6ボルトにて5か所面材に固定
【0102】
(4)実施例3の仕様:図7(c)
実施例1と実施例2と異なる点として、次の仕様。
・二枚の分割面材70・71を上下に並べて一枚の面材を形成する仕様
・分割面材70・71:厚さ1.5mm、幅875mm、高さ1186mm:材質=アルミ(JIS:H4040、等級:A5052)
・中間部補強材72:厚さ4.0mm、縦面幅50mm、幅790mm(図6(e)の中間補強材2pの形態を参照)
・中間部補強材72の固定方法:各分割面材70・71に対しM6ボルトにて各面材に5か所 合計10か所を固定
【0103】
また、以下に実施例、比較例の仕様の概要を示す。
【表1】

【0104】
また、表1から判るように、実施例1と実施例2は、補強材の有無による比較を検討するためのものである。また、実施例2と実施例3は、面材の厚みと枚数を変更した場合における比較を検討するためのものである。
【0105】
<試験条件>
評価試験は、財団法人日本住宅・木材技術センターが定める「木造耐力壁及びその倍率の試験・評価業務方法書」に記載される試験方法に準拠して、壁の面内剪断試験を実施した。試験体幅柱間は1000mmとし、柱脚固定式として実施した。
【0106】
<試験結果>
表2に試験結果を示す。なお、この表2には、後述の実施例4の試験結果も表記する。(実施例4については柱間の距離を角柱位置の800mmで計算したものである。)
【表2】

【0107】
なお、Pmaxは最大耐力、Pyは降伏耐力、Puは終局耐力、Dsは構造特性係数である。壁倍率は、財団法人日本住宅・木材技術センターが定める「木造耐力壁及びその倍率の試験・評価業務方法書」に記載される評価方法によって求めた。また、以下の説明において、耐震性能の評価は、「壁倍率」を基準として行うこととした。また、「壁倍率」は、表2でいうところの「低減前壁倍率」のことを意味するものである。
【0108】
また、図13(a)(b)に実施例2、実施例3におけるact荷重(kN)の測定結果の挙動を示す。なお、各図において、横軸は、「見かけの剪断変形角(rad×10−3)」、縦軸は、「act荷重(kN)」である。
【0109】
<検討>
(1)
まず、実施例1の壁倍率を参照して判るように、本発明の形態を採用した実施例1による壁倍率の値が、従来の一般的な耐力壁として頻繁に使用されている構造用合板の壁倍率(昭和56年建設省告示第1100号)の値2.5と比較して、大きくなっていることが確認された。また、従来の一般的な耐力向上の方策として適用される筋交い(仕様:厚さ4.5cmで幅9.0cmの木材)を使用した場合の壁倍率(建築基準法施行令 第四十六条)の値2.0と比較しても、大きくなっていることが確認された。また、この実施例1での実験ではその破壊性状が面材の面外座屈とコーチネジの躯体からの引きぬけによるものであったことから、さらに高い倍率を求める場合は面材の厚みを厚くする(実施例1の2.0mmを3.0mmにする等)か、コーチネジの長さを長くする(実施例1の50mmを75mmにする等)ことで可能であることがわかった。これにより、本発明の形態を採用することで、少なくとも従来と同等、及び、それ以上の耐震性能を確保できることが確認された。
【0110】
なお、特に、筋交いを使用する場合には、そのまま露出させて使用する場合は、耐久性、防火性等にも配慮が必要となってしまうが、この点、実施例1によれば、筋交いを設けた場合に懸念される不具合を回避することができる。
【0111】
(2)
また、実施例1と実施例2の壁倍率を比較して判るように、補強材を加えることで、耐震性能を向上できることが確認された。
【0112】
(3)
また、実施例2と実施例3の壁倍率を比較して判るように、両者においては、略同等の壁倍率を確保できることが確認された。
また、このことから、実施例3の1.5mm厚の分割面材は、実施例2の2.0mm厚の面材よりも薄いにもかかわらず、実施例2と同等の壁倍率を発揮できることを確認できた。つまり、実施例3を採用した場合でも、十分な耐震性能を確保できることが確認された。もちろん、従来の一般的な耐力壁の構造と比較しても、耐震性能に優れることは確認された。
【0113】
(4)
また、実施例2と実施例3において、図13(a)(b)に示すごとく、Pmax時の変形角はほぼ同じ程度の値であるが、そこからは(a)は荷重が急激に低下し、(b)は(a)と比較し緩やかに低下していることが見て取れる。破壊にいたる状況は(a)、(b)ともに、面材が座屈・変形して、柱に留め付けているファスナに力がかかり、その留めつけビスが抜けて破壊へと至るのは共通であるが、(a)の場合は面材が1枚であり、面材が大きく変形するため、その端部に大きな応力が作用するため、一気に破壊へとつながり、荷重が急激に低下することとなる。これに対し(b)の2分割タイプは面材の座屈が2枚に分散されるためファスナ部分に作用する力が分散され、Pmax以降も急激に耐力低下がおきず、粘りのある耐力性能を示す状況となっている。これはDs値からも明らかで、Ds値は値が小さい方が粘りのある耐力性能を示す指標であるが、(a)0.35>(b)0.30となっており、(b)の2分割タイプの方が粘りがあることがわかる。Pmax値だけをみると(a)13.73kN>(b)11.95kNとなっているが、壁倍率換算値では厚みが異なるにもかかわらず、同等の値となっているのはこのためであり、分割による特徴的な効果が確認できる。
【0114】
加えて、図8乃至図10に示されるように、引違いサッシ80の室内側に面材82を設置する場合についても、実施例4として検討を行った。
・梁112:断面105mm×180mm、長さ1910mm:樹種=米松
・土台113:断面105mm×105mm、長さ1910mm:樹種=すぎ
・梁と土台の間隔L1:2566mm
・柱材83、柱材86:断面105mm×105mm、長さ2566mm:樹種=すぎ
・各柱材の梁への止めつけ:25kN用ホールダウン金物
・各柱材の土台への止めつけ(試験架台へ):30kN用ホールダウン金物
・柱材84:断面30mm×70mm、3mm厚のアルミ製角管、長さ2566mm
・柱材84の梁、及び、土台への止めつけ:それぞれ3.2mm厚、各片長さ90mm、幅60mmのL字金物を2つ使用
・柱材84のL字金物への止めつけ:M8ボルトを使用
・柱材83と柱材84の間隔(柱芯距離):800mm
・L字金物の梁、及び、土台への止めつけ:M6、長さ75mmのコーチネジ使用
・連結用柱材85:断面30mm×40mm、3mm厚のアルミ製角管、長さ1760mm
・連結用柱材85の柱材83への止めつけ:M8、長さ90のコーチネジ使用、上下ピッチ150mm
・面材82:厚さ2.5mm、幅750mm、高さ1760mm:材質=アルミ(JIS:A5052)
・面材82の片側面の上下端部における横方向の板材を用いた補強:それぞれ厚さ8.0mm、幅30mm、長さ750mm、の板材を使用:材質=アルミ(JIS:A5052)
・面材82の柱材84・85への止めつけ:径6mm、長さ19mmのクイックビス使用、上下ピッチ100mm
・貫通部82a:30mm角正方形、上下左右直線状に50mmピッチで配列(縦34列、横14列)、面材の上端部から最上部の貫通部の上端までの距離=40mm、面材の下端部から最下部の貫通部の下端までの距離=40mm、面材の左右端部から左右端部の各貫通部の左端/右端までの距離=35mm
【0115】
以上の構成とする実施例4について、上述の実施例1と同様の試験条件により、上述の表2に示される試験結果を得た。
【0116】
まず、表2における実施例4の壁倍率を参照して判るように、本発明の形態を採用した実施例4による壁倍率の値は、従来の一般的な耐力壁として頻繁に使用されている構造用合板の壁倍率(昭和56年建設省告示第1100号)の値2.5と比較して、大きくなっていることが確認された。また、従来の一般的な耐力向上の方策として適用される筋交い:厚さ4.5cmで幅9cmの木材を使用した場合の壁倍率(建築基準法施行令 第四十六条)の値2.0と比較しても、大きくなっていることが確認された。これにより、本発明の形態を採用することで、少なくとも従来と同等、及び、それ以上の耐震性能を確保できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の構成は、新築時において、耐震性能を確保するために適用できるほか、既存の木造住宅のリフォームにより、耐震性能を向上させる場合についても適用することができる。
【符号の説明】
【0118】
1A 室内用耐力壁
1B 室内用耐力壁
2 面材
2a 貫通孔
3 柱
5 サッシ
7 天井内装材
8 床内装材
12 梁
13 土台
14 室内壁
21 貫通部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井仕上げ材と、床仕上げ材の間に、厚み方向に貫通部を有する面材が配置され、
前記面材の左右端部は、それぞれ柱材に固定されるものであり、
前記各柱材は、
上部が前記天井仕上げ材の上方の横架材に固定され、
下部が前記床仕上げ材の下方の横架材に固定される、室内用耐力壁の構造。
【請求項2】
前記柱材の少なくとも一つは、
建物内空間と建物外空間を連通させる開口部の左右方向の端部に設けられる、
或いは、
建物内空間と建物外空間を連通させる開口部の左右方向の中途部に設けられる、
ことを特徴とする請求項1に記載の室内用耐力壁の構造。
【請求項3】
前記面材は、透過性を有する面材を備えるサッシの室内側に設けられる、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の室内用耐力壁の構造。
【請求項4】
前記サッシは引違いサッシである、
ことを特徴とする請求項3に記載の室内用耐力壁の構造。
【請求項5】
前記面材は、室内に配置される柱材に対して固定されるものであって、室内空間を間仕切る構成とする、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の室内用耐力壁の構造。
【請求項6】
前記面材は、前記柱材の見込み幅の範囲内に納められる、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の室内用耐力壁の構造。
【請求項7】
前記面材は、前記柱材に固定される金属製の一次ファスナを介して前記柱材に固定される、
若しくは、
前記一次ファスナに固定される金属製の二次ファスナを介して前記柱材に固定されるものであって、
前記面材、若しくは、前記二次ファスナは、
前記一次ファスナに対して着脱自在に構成される、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の室内用耐力壁の構造。
【請求項8】
前記面材の上下端部には、それぞれ、補強材が付設される、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の室内用耐力壁の構造。
【請求項9】
前記面材は、厚さ1.0mm以上、5.0mm以下の金属製とする、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の室内用耐力壁の構造。
【請求項10】
前記面材は、複数の分割面材を並べて配置することで構成される、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の室内用耐力壁の構造。
【請求項11】
前記各分割面材は、各分割面材の境界部分において中間部補強材を介して連結される、
ことを特徴とする請求項10に記載の室内用耐力壁の構造。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−7462(P2012−7462A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289206(P2010−289206)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(305003542)旭トステム外装株式会社 (38)
【Fターム(参考)】