説明

室内除染システム

【課題】第1に、ダクトの量を必要最小限にして省スペース化及び低コスト化を図り、第2に、少量の過酸化水素投入量で所望の除染性能を発揮させ、除染性能を向上させることを可能にした室内除染システムを提供する。
【解決手段】過酸化水素を用いて除染対象室1を除染するための室内除染システムBであって、過酸化水素発生装置11から放出した過酸化水素ガスを含む空気を除染対象室1と過酸化水素発生装置11の間で循環させる放出ラインと、空気に含まれる過酸化水素を順次過酸化水素分解装置12で分解させるように除染対象室1と過酸化水素分解装置12の間で空気を循環させる分解ラインとを、同一の循環ダクト6、8、15を利用して構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば無菌製剤クリーンルーム等の除染対象室内を除染するための室内除染システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、無菌製剤クリーンルームでは、無菌保証水準(SAL)が10−6(製品100万個中、非無菌製品1個以下)となる無菌環境に保持することが求められる。このため、除染を行って増殖可能な芽胞菌数を指定されたレベルまで減少させるようにしている。
【0003】
一方、除染剤には、ホルムアルデヒド(ホルムアルデヒドガス燻蒸)が多用されていたが、ホルムアルデヒドは発ガン性物質であり、低濃度でもシックハウス原因物質になることが知られ、GMP(医薬品の製造・品質管理基準)ではその使用が規制されている。これに対し、ホルムアルデヒドの代替除染剤として、過酸化水素、オゾン、二酸化塩素、過酢酸などが検討され、このうち、過酸化水素は、クリーンルームの温湿度(20〜25℃、40〜60%)で使用可能(除染可能)、且つ加湿・除湿などが不要であり、さらに、他の除染剤に比べてデメリットが少なく扱いやすいという利点を有している。このため、従来、主にアイソレータやグローブボックスの除染に使用されてきた過酸化水素を、近年、クリーンルームの除染に適用することが提案・実用化されている。
【0004】
また、除染剤として過酸化水素を使用する場合には、過酸化水素発生装置によって過酸化水素をガス化し、この過酸化水素ガスをクリーンルーム内に供給しつつ循環させて除染を行う。そして、除染が完了した段階で、過酸化水素分解装置でクリーンルーム内の内気を吸引しつつ内気中の過酸化水素を分解してゆく。すなわち、順次クリーンルームと、過酸化水素発生装置あるいは過酸化水素分解装置との間で空気を循環させながら過酸化水素の供給、分解を行うようにしている。また、クリーンルームへの適用事例では、過酸化水素発生装置からクリーンルーム内へ過酸化水素ガスを直接放出する方式で運用することが多い(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−113727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、除染剤として過酸化水素を使用した従来の室内除染システムでは、除染時循環系統の過酸化水素放出ラインと過酸化水素分解ラインに対し、それぞれ個別のダクトを設けて構成されている。すなわち、過酸化水素発生装置と過酸化水素分解装置がそれぞれ個別に設けたダクトでクリーンルームに繋げられている。このため、ダクトスペースの確保が必要になるとともに、ダクト分のコストがかかるという問題があった。
【0007】
また、従来の室内除染システムでは、クリーンルームの内気を過酸化水素発生装置あるいは過酸化水素分解装置に戻すダクト(戻りダクト、給気ダクト)が断熱されていないため、この戻りダクト内で過酸化水素の結露が生じる場合がある。そして、特に過酸化水素発生装置に繋がる戻りダクト内で過酸化水素の結露が生じると、例えば、所要の室内過酸化水素濃度を達成するために、結露なしを仮定して求めた予定過酸化水素投入量に対して約5倍の実質過酸化水素投入量が必要になる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、第1に、ダクトの量を必要最小限にして省スペース化及び低コスト化を図り、第2に、少量の過酸化水素投入量で所望の除染性能を発揮させ、除染性能を向上させることを可能にした室内除染システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0010】
本発明の室内除染システムは、過酸化水素を用いて除染対象室を除染するための室内除染システムであって、前記除染対象室に設けられた吸込口と吹出口との間に設けられ、前記除染対象室内の空気を吸い込んで、ふたたび除染対象室内へ吹き出す循環ダクトと、前記循環ダクトに接続された第1給気ダクトと第1排気ダクトとの間に配置されるとともに、過酸化水素水を気化させて過酸化水素ガスを発生させる過酸化水素発生装置と、前記循環ダクトに接続された第2給気ダクトと第2排気ダクトとの間に配置されるとともに、空気中に含まれる過酸化水素を分解する過酸化水素分解装置とを備え、前記過酸化水素発生装置と前記過酸化水素分解装置を、前記循環ダクトに沿って切替機構を介して直列に配置したことを特徴とする。
【0011】
この発明においては、過酸化水素発生装置と過酸化水素分解装置を、循環ダクトに沿って切替機構を介して直列に配置し、放出ラインと分解ラインが同一の循環ダクトを利用して構成されているため、放出ラインと分解ラインにそれぞれ個別のダクトを設けるようにした従来の室内除染システムと比較して、ダクトの量を少なくすることができる。
【0012】
また、本発明の室内除染システムにおいては、前記循環ダクトに外気と連通する空調システムの第3給気ダクトと第3排気ダクトとを切替可能に接続するとともに、前記第3給気ダクトと第3排気ダクトとの間に位置する循環ダクトに前記第1給気ダクト及び前記第2給気ダクトと前記第1排気ダクト及び前記第2排気ダクトを接続することが望ましい。
【0013】
この発明においては、建築空調システムのダクトを循環ダクトに利用することで、この空調システムの除染対象室に設けられた吹出口と吸込口を活かして、過酸化水素を均一に除染対象室に供給することが可能になる。また、このように空調システムのダクトを循環ダクトに利用することで、除染対象室だけでなく、空調システムのダクト(循環ダクト)、ファン、吹出口及び吸込口に設けたHEPAフィルタなど、循環系統全体を除染することが可能になる。これにより、効率的且つ確実に除染を行うことが可能になる。
【0014】
さらに、本発明の室内除染システムにおいては、前記第1給気ダクトと前記第2給気ダクトの少なくとも一方の給気ダクトから前記吸込口までの循環ダクトが断熱処理されていることがより望ましい。
【0015】
この発明においては、除染前に、すなわち過酸化水素を供給する前に、除染対象室から過酸化水素発生装置及び/又は過酸化水素分解装置に空気を戻すダクト内を加温しておくことで、この断熱処理したダクト内の温度を高めて保持することができる。これにより、放出ラインや分解ラインで過酸化水素を含む空気が循環した場合であっても、ダクト内に結露が発生することを防止できる。よって、従来の室内除染システムと比較し、所要の室内過酸化水素濃度を達成するための過酸化水素投入量が少なくて済み、除染性能を向上させることが可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の室内除染システムによれば、過酸化水素発生装置と過酸化水素分解装置を、循環ダクトに沿って切替機構を介して直列に配置し、放出ラインと分解ラインが同一の循環ダクトを利用して構成されているため、放出ラインと分解ラインにそれぞれ個別のダクトを設けるようにした従来の室内除染システムと比較して、ダクトの量を少なくすることができる。これにより、ダクトの量を必要最小限にして省スペース化及び低コスト化を図り、効率的且つ確実に除染を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る室内除染システムを示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る室内除染システムの通常空調運転時の状態を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る室内除染システムの注入運転時の状態を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る室内除染システムの保持運転時の状態を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る室内除染システムの分解運転(エアレーション分解運転)時の状態を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る室内除染システムの外気導入運転時の状態を示す図である。
【図7】実証実験の説明(実施例)で用いたクリーンルーム及びBI設置箇所を示す図である。
【図8】実証実験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1から図8を参照し、本発明の一実施形態に係る室内除染システムについて説明する。本実施形態は、無菌製剤クリーンルーム内に過酸化水素を供給して除染する室内除染システムに関するものである。
【0019】
本実施形態のクリーンルーム(除染対象室)1は、図1に示すように、従来周知の空調システムAを備えている。この空調システムAは、クリーンルーム1に設けられ、HEPAフィルタ2が設置された吹出口3及び吸込口4と、吹出口3とクリーンルーム1の外側の外調機5とに繋がる給気ダクト6と、吸込口4とクリーンルーム1の外側の排気ファン7とに繋がる還気ダクト8とを備えて構成されている。また、給気ダクト6と還気ダクト8にはそれぞれ開閉弁(第1開閉弁9、第2開閉弁10)が設けられている。
【0020】
そして、このクリーンルーム1の空調システムAによれば、第1開閉弁9を開いた状態で外調機5を駆動すると、外気が給気ダクト6を通じて吹出口3に送気され、HEPAフィルタ2を通過するとともに吹出口3からクリーンルーム1内に供給される。また、第2開閉弁10を開いた状態で排気ファン7を駆動すると、クリーンルーム1内の空気(還気)が還気ダクト8を通じて外部に送気され、外調機5に送られる。このとき、還気ダクト8を通じて外部に送気された空気の一部は、外部に排気される。これにより、空調システムAによる通常空調運転時には、図2に示すように、クリーンルーム1内に清浄化した空気が通常空調ラインS1で流通して循環する。
【0021】
一方、本実施形態の室内除染システムBは、除染剤に過酸化水素を使用してクリーンルームを除染するシステムであり、図1に示すように、過酸化水素発生装置11と過酸化水素分解装置12を備えて構成されている。過酸化水素発生装置11は、例えば、過酸化水素水を貯留するタンクから送水ポンプの駆動とともに過酸化水素水を吸引し、これとともに過酸化水素水を加熱面に滴下してフラッシュ蒸発させて、過酸化水素ガス(過酸化水素蒸気)を発生させるように構成されている。また、過酸化水素分解装置12は、触媒として白金触媒などを備え、過酸化水素ガスを含む空気から過酸化水素を白金触媒などで分解して除去するように構成されている。
【0022】
また、本実施形態の室内除染システムBでは、空調システムAの給気ダクト6と還気ダクト8に繋げて連絡ダクト15が架設されている。この連絡ダクト15は、一端を給気ダクト6の第1開閉弁9と吹出口3の間に、他端を還気ダクト8の第2開閉弁10と吸込口4の間にそれぞれ繋げて設けられている。すなわち、給気ダクト6と還気ダクト8と連絡ダクト15とで循環ダクトが構成されている。
【0023】
そして、過酸化水素発生装置11は、連絡ダクト15に第1排気ダクト16と第1給気ダクト17を介して接続されている。また、過酸化水素分解装置12は、連絡ダクト15に第2排気ダクト18と第2給気ダクト19を介して接続されている。さらに、連絡ダクト15には、第1排気ダクト16と第1給気ダクト17のそれぞれの接続部の間に循環ファン20が設けられ、過酸化水素分解装置12の第2排気ダクト18と第2給気ダクト19のそれぞれの接続部の間に第3開閉弁(切替機構)21が設けられている。
【0024】
また、過酸化水素発生装置11と連絡ダクト15を繋ぐ第1排気ダクト16と第1給気ダクト17には、第4開閉弁(切替機構)22と第5開閉弁(切替機構)23がそれぞれ設けられ、過酸化水素分解装置12と連絡ダクト15を繋ぐ第2給気ダクト19には、第6開閉弁(切替機構)24が設けられている。
【0025】
さらに、本実施形態では、連絡ダクト15、第1給気ダクト17、第2給気ダクト19、還気ダクト8の外側にグラスウール等の断熱材が巻かれており、これらダクト15、17、19、8に断熱処理が施されている。
【0026】
そして、上記構成からなる本実施形態の室内除染システムBでクリーンルーム1の除染作業を行う際には、はじめに、注入運転を行う。通常空調運転から注入運転に切り替える際には、空調システムAの第1開閉弁9と第2開閉弁10を閉じ、第3開閉弁21、第4開閉弁22、第5開閉弁23を開くとともに循環ファン20を駆動する。これにより、図3に示すように、循環ファン20の駆動によって、過酸化水素発生装置11の第1排気ダクト16から連絡ダクト15、連絡ダクト15から給気ダクト6、給気ダクト6からクリーンルーム1、クリーンルーム1から還気ダクト8、還気ダクト8から連絡ダクト15、連絡ダクト15から過酸化水素発生装置11の第1給気ダクト17に空気が流通して循環し、通常空調運転時の通常空調ラインS1から注入運転時の放出ラインS2に切り替わる。
【0027】
また、本実施形態では、通常空調ラインS1から放出ラインS2に切替えるとともに(除染前に)、断熱処理を施したダクト15、17、19、8内を加温しておく。
【0028】
このように放出ラインS2に切替えた段階で、過酸化水素発生装置11を駆動し、この過酸化水素発生装置11で発生した過酸化水素ガスを放出ラインS2に放出する。これにより、放出ラインS2によって過酸化水素ガスを含む空気が循環し、過酸化水素ガスがクリーンルーム1に供給される。また、過酸化水素発生装置11から所定の過酸化水素投入量の過酸化水素を投入した段階で過酸化水素発生装置11の駆動を停止する。そして、本実施形態では、ダクト15、17、19、8に断熱処理が施されるとともに、これらダクト15、17、19、8内が加温されているため、放出ラインS2で過酸化水素ガスを含む空気が循環する際に、過酸化水素がダクト15、17、19、8で結露することがない。このため、従来の室内除染システムと比較し、過酸化水素投入量が少なくて済む。
【0029】
また、このように注入運転によって所定の過酸化水素投入量の過酸化水素を投入した段階で、保持運転を行う。この保持運転では、図4に示すように、第4開閉弁22と第5開閉弁23を閉じ、連絡ダクト15と給気ダクト6とクリーンルーム1と還気ダクト8の放出ラインS2’で過酸化水素ガスを含む空気を循環させる。これにより、所定濃度の過酸化水素を含む空気が確実にクリーンルーム1に供給され、クリーンルーム1内の増殖可能な芽胞菌が殺滅されてクリーンルーム1が除染される。また、このとき、クリーンルーム1だけでなく、空調システムAの給気ダクト6、吹出口3及び吸込口4、HEPAフィルタ2、還気ダクト8に過酸化水素ガスを含む空気が流通して循環するため、連絡ダクト15、循環ファン20を含む放出ラインS2、S2’の循環系統全体がクリーンルーム1を除染すると同時に除染される。さらに、空調システムA(空調システムAの吹出口3、吸込口4等)を利用して過酸化水素ガスをクリーンルーム1に供給することで、クリーンルーム1内に均一に過酸化水素が供給される。このため、好適且つ確実にクリーンルーム1内が除染されることになる。
【0030】
ついで、クリーンルーム1の除染が完了した段階で分解運転を行う。この分解運転(エアレーション分解)では、第3開閉弁21を閉じるとともに第6開閉弁24を開く。これにより、図5に示すように、過酸化水素分解装置12の第2排気ダクト18から連絡ダクト15、連絡ダクト15から給気ダクト6、給気ダクト6からクリーンルーム1、クリーンルーム1から還気ダクト8、還気ダクト8から連絡ダクト15、連絡ダクト15から過酸化水素分解装置12の第2給気ダクト19に過酸化水素ガスを含む空気が流通して循環し、保持運転時の放出ラインS2’から分解運転時の分解ラインS3に切り替わる。
【0031】
このように分解ラインS3に切替えることで、順次クリーンルーム1から過酸化水素分解装置12に過酸化水素ガスを含む空気が導入され、過酸化水素分解装置12によって過酸化水素が分解・減衰される。そして、この分解運転は、循環空気中の過酸化水素が安全な濃度レベル(例えば1ppm以下)になるまで行われる。なお、本実施形態の過酸化水素分解装置12は、過酸化水素を分解するための触媒として白金触媒を使用するようにしているが、他の触媒を使用することも可能であり、他の触媒の候補としては、二酸化マンガン、ニッケル、銅などの金属や、酵素類、活性炭等がある。
【0032】
ついで、分解運転によって空気中の過酸化水素を安全な濃度レベルまで分解された段階で外気導入運転を行う。この外気導入運転では、第6開閉弁24を閉じて循環ファン20の駆動を停止する。また、これとともに、第1開閉弁9と第2開閉弁10を開き、外調機5を駆動する。これにより、通常空調ラインS1と同様の外気導入ラインS4でクリーンルーム1内に清浄化した空気が流通し、過酸化水素濃度の減衰速度が低下する低濃度域でこの外気導入運転に切り替えることによって、クリーンルーム1内の過酸化水素濃度低下を促進する。なお、この外気導入運転時には、クリーンルーム1から還気ダクト8を通じて排出された全ての空気を外部に排気する。また、この外気導入運転は、使用者の判断で適宜選択的に行えばよい。
【0033】
そして、上記のように通常空調運転から、注入運転、保持運転、分解運転、外気導入運転を行うことで、クリーンルーム1の除染作業が完了する。また、このとき、空調システムAと室内除染システムBを統合制御し、注入運転、保持運転、分解運転の除染の一連動作を自動化するようにしてもよい。また、この場合には、除染全自動運転への切替を空調制御盤タッチパネルで操作するようにしてもよい。なお、このように除染の一連動作を自動化する場合において、外気導入運転は手動で行えるようにしてもよい。
【実施例】
【0034】
ここで、本実施形態に係る室内除染システムBによってクリーンルーム1の除染を行った実証実験について説明する。
【0035】
本実証実験のクリーンルーム1は、バイオロジカルクリーンルームであり、室容積が約51m(2.7m×7.0m×2.7m(W×D×H))、ダクト等の設備を含めた除染時循環系の系内容積が約53mである。
【0036】
また、過酸化水素発生装置11は、澁谷工業株式会社製のHYDEC2100を使用し、過酸化水素分解装置12には白金触媒で過酸化水素を分解する装置を使用している。
【0037】
また、過酸化水素(H)は35%重量濃度で安定剤の少ない電子用を使用し、過酸化水素発生装置11の注入速度を20g/min、送風量を40m/hに設定した。そして、実験パラメータは、注入量(過酸化水素投入量)、保持時間、循環風量、初期相対湿度の4項目で検討を行っている。
【0038】
ここで、BI(バイオロジカル・インジケーター)の定義では、対象とする滅菌法に対して最抵抗性菌(最も生存しやすい強い菌)を用いることになっており、VPHP(過酸化水素蒸気)の場合には、Geobacillus stearothermophilusの芽胞でステンレス担体のものがBIとして使用される。このため、本実証実験において、BIには、Apex Laboratories社製のGeobacillus stearothermophilus ATCC12980 芽胞をステンレス製ディスク担体に接種したものを使用している。また、このBIは、高密度ポリエチレン製のタイベックで作られた小さな袋(28mm×64mm)内に収められている。そして、BIは、図1及び図7に示すように、除染が容易と予想されるテーブル25の上(BI−1)と、除染しにくいと予想されるテーブル25の下の床上(BI−2)と、吹出口3の直下でない床上(4つの吹出口3から等距離の床面上)(BI−3)と、隅角部の床上(BI−4)とに設置した。
【0039】
ここで、過酸化水素濃度の測定は、除染循環系各部での濃度の同時多点計測によって行っており、純水インピンジャーに捕集した過酸化水素を、過マンガン酸カリウムを用いて酸化滴定することによって濃度を求めた。また、このインピンジャーへの捕集時間は、昇温・注入・保持の時間帯(約1時間)で、吸引流量を1L/minとした。さらに、濃度の経時変化測定は、過酸化水素濃度センサー(ポリトロン7000、ドレーゲル社製、13×13×16cm)で測定した。
【0040】
本実施例のBI試験結果を表1に示す。実験No.1〜3では、投入量を400gで一定とし、初期相対湿度を変化させている。そして、この結果、初期相対湿度が高いほど到達濃度(室内における最高濃度)が低くなることが確認された。これは、ダクト内表面などでの過酸化水素の結露に伴う濃度低下、さらに水蒸気結露に伴う濃度低下が起こりやすくなるなどが考えられる。なお、過酸化水素の露点温度は水蒸気の露点温度より高いため、過酸化水素の結露は水蒸気の結露より先に起こると考えられる。また、実験No.1〜3の全てのケースでテーブル下床(BI−2)のBIが陽性を示した。これは、気流が到達しにくいためと考えられる。
【0041】
ついで、実験No.4〜7では、投入量と保持時間の効果を検討した。この結果、500g投入すれば、保持時間が20分でも(実験No.1〜3の30分より短くても)、BIは全て陰性となった。また、実験No.6で400g投入し保持時間を40分とした場合でもBIは全て陰性となった。
【0042】
一方、実験No.7で300g投入し保持時間を60分とした場合、BIは2箇所で陽性となった。このことから、投入量の方が保持時間よりも除染効果に対して大きく影響することが確認された。
【0043】
ついで、実験No.8〜12では、投入量を500g、保持時間を20分とした条件で、循環風量を変化させた。この結果、循環風量の大小に関係なくBIは全て陰性になることが確認された。
【0044】
【表1】

【0045】
そして、図8は、好成績をあげた実験No.4と実験No.5におけるエアレーション(分解運転)を含めた全時間帯について、過酸化水素濃度センサーで測定した過酸化水素濃度の経時変化を示している。なお、この過酸化水素濃度の経時変化は、吹出口3と吸込口4の2箇所で計測している。
【0046】
この結果から、注入・保持時では、吹出口3と吸込口4の濃度はほぼ等しく、システムBが順調に稼動しており、室内での過酸化水素の分解は殆んどないことが確認できる。また、エアレーション分解時では、白金触媒フィルタで分解された循環空気(還気)が出る吹出口3の濃度は急激に低下しているが、吸込口4の濃度は徐々に低下していた。これは、吸込口4に入る空気には、室内空気に蓄積された過酸化水素に加えて、室内表面から再放出した過酸化水素残留分(結露分、吸着分)が含まれているためであると考えられる。
【0047】
以上の結果から、過酸化水素の除染と分解が円滑に稼動し、現状でもシステムとして十分に施設へ展開できることが実証された。また、検討した4項目のパラメータのうち、過酸化水素溶液(35%)投入量が最も除染に影響があることが実証された。さらに、室内相対湿度が高いと室内の過酸化水素濃度が低下する傾向が見られ、ダクト内表面などでの水蒸気結露や、室内表面での過酸化水素結露が影響することが確認された。
【0048】
したがって、本実施形態の室内除染システムBにおいては、過酸化水素発生装置11と過酸化水素分解装置12を、循環ダクトに沿って切替機構22、23、24を介して直列に配置し、放出ラインS2(S2’)と分解ラインS3が同一の循環ダクト(連絡ダクト15、空調システムAの給気ダクト6及び還気ダクト8)を利用して構成されているため、放出ラインS2と分解ラインS3にそれぞれ個別のダクトを設けるようにした従来の室内除染システムと比較して、ダクトの量を少なくすることができる。これにより、ダクトの量を必要最小限にして省スペース化及び低コスト化を図り、効率的且つ確実に除染を行うことが可能になる。
【0049】
また、建築空調システムAのダクト(給気ダクト6、還気ダクト8)を循環ダクトに利用することで、この空調システムAのクリーンルーム(除染対象室)1に設けられた吹出口3と吸込口4を活かして、過酸化水素を均一にクリーンルーム1に供給することが可能になる。さらに、このように空調システムAのダクト6、8を循環ダクトに利用することで、クリーンルーム1だけでなく、空調システムAのダクト6、8、循環ファン20、吹出口3及び吸込口4に設けたHEPAフィルタ2など、循環系統全体を除染することが可能になる。これにより、効率的且つ確実に除染を行うことが可能になる。
【0050】
さらに、除染前に、すなわち過酸化水素を供給する前に、クリーンルーム1から過酸化水素発生装置11及び/又は過酸化水素分解装置12に空気を戻すダクト15、17、19、8内を加温しておくことで、この断熱処理したダクト15、17、19、8内の温度を高めて保持することができる。これにより、放出ラインS2や分解ラインS3で過酸化水素を含む空気が循環した場合であっても、ダクト15、17、19、8内に結露が発生することを防止できる。よって、従来の室内除染システムと比較し、所要の室内過酸化水素濃度を達成するための過酸化水素投入量が少なくて済み、除染性能を向上させることが可能になる。
【0051】
以上、本発明に係る建物の室内除染システムの一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、除染対象室を無菌製剤クリーンルームであるものとして説明を行ったが、本発明の室内除染システムは、他のクリーンルームに適用してもよい。
【0052】
また、本発明に係る建物の室内除染システムは、過酸化水素発生装置11と過酸化水素分解装置12を各種センサーと連動させて制御することも可能である。このため、各種センサーによってセンシングした種々の物理量の値を反映させて、室内除染システムを最適運転させるようにしてもよい。そして、この場合、センサーとしては、結露センサー、温湿度センサー、過酸化水素センサー、差圧センサーなどを適用でき、特に結露センサーを用いると有効である。
【0053】
具体的に、過酸化水素のある程度の結露は、除染に有効であり、一般に、これを「マイクロコンデンセーション理論」と呼んでいる。そして、過酸化水素の蒸気圧は水の蒸気圧より低いため、すなわち、過酸化水素の露点温度は水蒸気の露点温度よりも高いため、過酸化水素の結露は水蒸気の結露より先に起こると考えられる。例えば、35wt%(30℃)の過酸化水素水の飽和蒸気圧は23mmHgであり、そのときの過酸化水素分圧は0.36mmHg、水分圧は22.64mmHgである。なお、水のみ(30℃)の飽和蒸気圧は32mmHgである。このため、水が結露する温湿度条件では過酸化水素も当然結露することになる。一方、過酸化水素の過剰な結露は、薬液(過酸化水素水溶液)の無駄であり、また、除染系内(室内の内装材、機器類、循環ダクト等)への腐食負荷が大きくなる。以上のことを勘案すると、除染時循環系内では、過酸化水素を過剰にならないように結露させ、水を結露させないようにすることで、過酸化水素の結露を除染に有効に活用することが可能になる。
【0054】
そして、本発明に係る建物の室内除染システムにおいては、結露センサー、温湿度センサー、過酸化水素センサー、差圧センサーなどによって循環空気の温湿度と室内内表面・循環ダクトの内表面をセンシングし、その結果を空調制御にフィードバックし、過酸化水素を過剰にならないように結露させ、水を結露させないように循環空気の温湿度コントロールと循環ダクト内の加熱を適宜行うようにすることで、過酸化水素の結露を除染に有効に活用することが可能になる。
【符号の説明】
【0055】
1 クリーンルーム(除染対象室)
2 HEPAフィルタ
3 吹出口
4 吸込口
5 外調機
6 給気ダクト
7 排気ファン
8 還気ダクト
9 第1開閉弁
10 第2開閉弁
11 過酸化水素発生装置
12 過酸化水素分解装置
15 連絡ダクト
16 第1排気ダクト
17 第1給気ダクト
18 第2排気ダクト
19 第2給気ダクト
20 循環ファン
21 第3開閉弁(切替機構)
22 第4開閉弁(切替機構)
23 第5開閉弁(切替機構)
24 第6開閉弁(切替機構)
25 テーブル
A 空調システム
B 室内除染システム
S1 通常空調ライン
S2 放出ライン
S2’ 放出ライン
S3 分解ライン
S4 外気導入ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素を用いて除染対象室を除染するための室内除染システムであって、
前記除染対象室に設けられた吸込口と吹出口との間に設けられ、前記除染対象室内の空気を吸い込んで、ふたたび除染対象室内へ吹き出す循環ダクトと、
前記循環ダクトに接続された第1給気ダクトと第1排気ダクトとの間に配置されるとともに、過酸化水素水を気化させて過酸化水素ガスを発生させる過酸化水素発生装置と、
前記循環ダクトに接続された第2給気ダクトと第2排気ダクトとの間に配置されるとともに、空気中に含まれる過酸化水素を分解する過酸化水素分解装置とを備え、
前記過酸化水素発生装置と前記過酸化水素分解装置を、前記循環ダクトに沿って切替機構を介して直列に配置したことを特徴とする室内除染システム。
【請求項2】
請求項1記載の室内除染システムにおいて、
前記循環ダクトに外気と連通する空調システムの第3給気ダクトと第3排気ダクトとを切替可能に接続するとともに、前記第3給気ダクトと第3排気ダクトとの間に位置する循環ダクトに前記第1給気ダクト及び前記第2給気ダクトと前記第1排気ダクト及び前記第2排気ダクトを接続したことを特徴とする室内除染システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の室内除染システムにおいて、
前記第1給気ダクトと前記第2給気ダクトの少なくとも一方の給気ダクトから前記吸込口までの循環ダクトが断熱処理されていることを特徴とする室内除染システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−10892(P2011−10892A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158015(P2009−158015)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(000253019)澁谷工業株式会社 (503)
【Fターム(参考)】