説明

室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物

【課題】 トランスミッションオイルの泡立ちが少なく、耐油性に優れたシールを与える脱アルコール型の一液型室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供する。
【解決手段】 下記成分(A)〜(E)を含むことを特徴とする低起泡性室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物。
(A)1分子当たり少なくとも2つのシラノール基またはアルコキシ基を有し、重合度が10以上であるジオルガノポリシロキサン 100質量部
(B)無機充填剤 10〜300質量部
(C)下記一般式(7)で示されるアルコキシシラン、その部分加水分解物、又はその組み合わせ
4-nSi(OR) (7)
(式中、Rは、互いに独立に、炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは、互いに独立に、炭素原子数1〜20の置換もしくは非置換の一価の基、及びnは2〜4の整数である) 1〜30質量部
(D)硬化触媒 0.01〜15質量部
(E)シランカップリング剤 0.05〜15質量部。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物及び該組成物を硬化して得られる自動車オイルシールに関する。該組成物は、オートマチック車のトランスミッションオイルに混入した場合にも、該オイルを泡立てる程度が低い。また、該組成物の硬化物は耐油性、耐薬品性に優れ、自動車オイルシールとして好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジンの種々のオイル漏れ止め用シールには、従来、コルク、有機ゴム、アスベストなどで作られた耐油性の固形ガスケット及びパッキング材が使用されている。しかし、これらの材料は、在庫管理及び作業工程が複雑であるという不利がある。さらに、そのシール性能にも信頼性が低いという欠点がある。
【0003】
そこで、該固形ガスケットに代わり、室温硬化性シリコーンゴムを用いたFIPG(Formed In Place Gaskets )方式と呼ばれるシール方法が採用されている。これは、エンジンの組み立て時に、一液型室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物をエンジンブロックのシール面に塗布し、組成物が未硬化状態のうちに、シール面同志を張り合わせて、ボルト締めするものである。この方式は作業性に優れ、シール材の密閉性及び耐熱性の面でも優れる。
【0004】
FIPG方式によるオイルシールを施しながら組み立てられたエンジンは、通常、組み立てた直後に、オイルを注入して、始動テストに付される。ところが、上記の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、その硬化に比較的長い時間を要する。従って、始動テストの際に、該オルガノポリシロキサン組成物の一部がオイル中に分散又は溶解してしまう。特に、オートマチックトランスミッションオイル(ATF)および連続可変トランスミミッションオイル(CVT)中に分散又は溶解した場合には、トランスミッションの複雑な構造にも起因して該オイルを泡立ててしまい、エンジン上部にあるオイル注入口からオイルが噴き出す問題を起こすこともある。そこで、低泡立ち性の一液型室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物が要望されている。
【0005】
泡立ち対策は、種々検討されている。例えば、組成物にイソシアネートシランを添加する方法(特許文献1)、アミノシロキサンを添加する方法(特許文献2、3)がある。しかし、これらの何れも添加成分をオイルに溶出させる事により泡立ちを抑制する為、オイルの性能を低下する可能性がある。また、組成物から得られるオイルシールの耐油性も十分ではなかった。
【0006】
他の方法として、ガスケット用組成物中にアルコキシシランとアルミニウムステアレートを配合する方法(特許文献4)、特定のシランカップリング剤を配合する方法(特許文献5)がある。これらの方法によれば、オイルへの影響は殆ど無い。しかし、泡立ちを低減する効果は不十分であり、シールの耐油性も十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平08−73745号公報
【特許文献2】特開平02−215862号公報
【特許文献3】特開平02−67364号公報
【特許文献4】特開平03−17157号公報
【特許文献5】特開平09−124946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明者らは、トランスミッションオイルの泡立ちが少なく、耐油性に優れたシールを与える脱アルコール型の一液型室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供することを目的として研究した結果、泡立ちの原因は、トランスミッションオイル中に含まれる水酸基を有する物質と、組成物中に含まれる加水分解性基を有するケイ素化合物が反応して、オイル成分と該ケイ素化合物が結合した物質が生成し、界面活性剤として作用することである旨の知見を得た。該知見に基づき、特に上記水酸基を有する物質との反応が比較的遅いアルコキシシランを用いたところ、泡立ちの低減を達成した。さらに、シランカップリング剤成分を配合することによって、オイルシールの耐油性の向上を達成した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は下記成分(A)〜(E)を含むことを特徴とする低起泡性室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物である。
(A)1分子当たり少なくとも2つのシラノール基またはアルコキシ基を有し、重合度が10以上であるジオルガノポリシロキサン 100質量部
(B)無機充填剤 10〜300質量部
(C)下記一般式(7)で示されるアルコキシシラン、その部分加水分解物、又はその組み合わせ
4-nSi(OR) (7)

(式中、Rは、互いに独立に、炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは、互いに独立に、炭素原子数1〜20の置換もしくは非置換の一価の基、及びnは2〜4の整数である) 1〜30質量部
(D)硬化触媒 0.01〜15質量部
(E)シランカップリング剤 0.05〜15質量部また、本発明は、上記組成物の硬化物を含む自動車オイルシールである。
【発明の効果】
【0010】
上記本発明の組成物は、自動車用オイル、特にトランスミッションオイルと接触した場合、オイルを泡立てる程度が顕著に低い。また、エンジンへの密着性に優れると共にオイルによる劣化が少ない硬化物を形成する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の組成物において、(A)成分はベースポリマーとなるオルガノポリシロキサンである。該オルガノポリシロキサンは、1分子当たり少なくとも2つのシラノール基またはアルコキシ基を、好ましくは分子の両末端に有する。(A)成分は、重合度が10以上であり、液状であることが好ましい。より好ましくは、25℃における粘度が1,000〜300,000mPa・sであり、特に好ましくは5,000〜100,000mPa・sである。本発明において、粘度は回転粘度計による測定値である。粘度が低すぎると硬化物の物理的性質、特に柔軟性・耐衝撃性が不足する傾向がある。一方、粘度が高すぎると組成物の粘度が高くなり、作業性が低下する場合がある。また、このオルガノポリシロキサンは、実質的に直鎖状のジオルガノポリシロキサンであるが、硬化後ゴム弾性を有する範囲で分岐構造を有していてもよい。
【0012】
好ましくは、(A)成分は、下記式(1)〜(6)で表されるオルガノポリシロキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種である。

HO(SiRO)H (1)

(ここでRは置換もしくは非置換の、炭素原子数1〜10の一価炭化水素基であり、mは10以上の整数である。)
【0013】
【化1】


(式中、R及びR2は上記のとおりであり、Yは酸素原子または炭素原子数1〜5のアルキレン基であり、mは10以上の整数、nは互いに独立に0又は1である。)
【0014】
【化2】


(式中、R、R2、Y、m、nは上記のとおりであり、Zは炭素原子数2〜5のアルケニル基である。)
【0015】
【化3】


(式中、R、R2、Y、m、nは上記のとおりであり、kは1〜10の整数であり、R3は下記一般式(5)で示される加水分解性基を含む分岐鎖である。)
【0016】
【化4】


(ここで、R、R2、Y、nは上記の通りである。)
【0017】
【化5】


(式中、R、R2、R3、Y、Z、n、mは上記のとおりである。)
【0018】
これらのうち、式(1)で表されるオルガノポリシロキサンがより好ましい。該オルガノポリシロキサンと、式(2)〜(6)で表されるオルガノポリシロキサンの少なくとも1種を併用することによって、保存安定性がより高い組成物を得ることができる。
【0019】
上記一般式(2)〜(6)中、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、メチル基又はエチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。Rは炭素原子数1〜10、特に1〜6、の置換又は非置換の一価の炭化水素基である。Rの例としては、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基;シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;フェニル基等のアリール基及びこれらの基の水素原子が部分的にハロゲン原子で置換された基、例えば3,3,3−トリフルオロプロピル基等が挙げられる。これらのうち、メチル基、エチル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基が好ましく、メチル基が特に好ましく、Rの50モル%以上、特に80モル%以上がメチル基であることが好ましい。複数のRは、互いに同一の基であっても異種の基であってもよい。
【0020】
Yは酸素原子、または炭素原子数1〜5のアルキレン基である。アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられ、エチレン基が好ましい。
【0021】
Zは炭素数2〜5のアルケニル基である。アルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基等が挙げられ、それらのうちビニル基が好ましい。
【0022】
(B)無機充填剤としては、表面された又は無処理の、煙霧質シリカ、沈降性シリカ、湿式シリカ、カーボン粉、タルク、ベントナイト、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミ、及び水酸化アルミ等が例示される。これらのうち、煙霧質シリカ、カーボン粉、炭酸カルシウムが好ましく、表面処理された炭酸カルシウムが特に好ましい。
【0023】
(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して10〜300質量部、好ましくは、20〜200質量部である。充填剤の量が前記下限値未満である組成物では、その硬化物のゴム強度が低くなる。一方、充填剤を、前記上限値を超えて含む組成物は、保存安定性が低く、カートリッジからの吐出性も悪くなる。さらに、得られる硬化物のゴム物性の機械特性も満足の行くものではない。
【0024】
(C)成分は、下記一般式(7)で示されるアルコキシシラン、その部分加水分解物、又はその組み合わせである。ここで、「部分加水分解物」にはアルコキシ基の一部が加水分解し、生成したシラノール基が縮合している縮合物も含む。

4-nSi(OR) (7)

式(7)において、Rは、互いに独立に、メチル基又はエチル基である。Rは、互いに独立に、炭素原子数1〜20の置換もしくは非置換の一価の基、及びnは2〜4の整数である。Rとしては、メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基等のアリール基;アルキルオキシカルボニルアルキル基等のカルボニルオキシ含有基;及びこれらのハロゲン置換基、例えば3,3,3−トリフルオロプロピル基が挙げられる。(C)成分の例としては、テトラメトキシシラン、エチルシリケ−ト、プロピルシリケ−ト、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メチルトリス(メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシランなど一般的なアルコキシシラン、アクリル酸エステルとアルコキシメチルシランとの反応生成物、例えばアクリル酸2−エチルヘキシルとジメトキシメチルシランとの反応物及びアクリル酸2−エチルヘキシルとトリメトキシシランとの反応物及びこれらシランの部分加水分解物が挙げられる。これらのうちの2種以上の組み合わせであってもよい。部分加水分解縮合物である場合、重合度が2〜8程度のオリゴマーであることが好ましい。
【0025】
(C)成分として、メチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物、下記式で表されるアクリル酸エステルとジアルコキシメチルシランとの反応生成物が好ましい。
【0026】
【化6】


Rは上記のとおりであり、Rは炭素原子数1〜15の炭化水素基であり、より好ましくは2−エチルヘキシル基である。Rは炭素数2〜4の二価炭化水素基である。Rは炭素原子数1〜10の炭化水素基であり、好ましくはメチル基である。
【0027】
(C)成分は、2種以上の混合物であってもよい。(C)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、1〜30質量部であり、好ましくは3〜15質量部である。(C)成分が前記下限値未満の組成物は、製造時あるいは保存中にゲル化を起し、所望の弾性を示す硬化物が得られない場合がある。一方、上記上限値より多く含む組成物は、硬化時における収縮率が大きくなり、得られる硬化物の弾性も低くなる傾向がある。
【0028】
(D)硬化触媒は、本発明の組成物における(A)成分のベースオイルと(C)成分との縮合反応の触媒作用を行なうものである。(D)成分としては、オクタン酸鉄、ナフテン酸鉄、オクタン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、オクタン酸錫、ナフテン酸錫、オクタン酸鉛、ナフテン酸鉛のような有機酸金属塩、ジブチル錫ジアセテ−ト、ジブチル錫ジラウレ−ト、ジブチル錫ジオクトエ−トなどのアルキル錫エステル化合物、ハロゲン化錫化合物、錫オルソエステル化合物、テトラブチルチタネ−ト、テトラブチルジルコネ−トのような金属アルコレ−ト、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナ−ト)チタン、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテ−ト)チタンなどのチタンキレ−ト、ジエチルヒドロキシルアミン、ジメチルヒドロキシルアミンなどのアミン類、グアニジル基含有アルコキシシランなどが例示される。これらの2種以上を使用してもよい。好ましくはアルキル錫エステル化合物、グアニジル基含有アルコキシシラン、又はチタンキレ−トが使用される。
【0029】
(D)成分の配合量は(A)成分100質量部に対して、0.01から15質量部であり、0.05〜10質量部が好ましい。(D)成分の量が上記下限値未満の組成物では、空気中に曝したときにタックフリーの皮膜形成に長時間が必要となり、内部硬化性もわるい。一方、(D)成分の量が前記上限値を超える組成物は、皮膜形成時間が数秒間と極めて短くなって作業性が劣り、得られる硬化物の耐熱性が低い傾向がある。
【0030】
(E)シランカップリング剤は、本発明の組成物の接着性、耐薬品性を向上する作用を奏する。シランカップリング剤としては、(メタ)アクリルシランカップリング剤、エポキシシランカップリング剤、アミノシランカップリング剤、メルカプトシランカップリング剤等が包含される。例えば、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキプロピルメチルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が例示される。
【0031】
これらの中でアミノシランカップリング剤が好ましく、特に下記一般式(8)のシランカップリング剤が好ましく、耐薬品性が顕著に向上する。
【0032】
【化7】


式中、R、R2は上記の通りであり、Rは炭素数1〜10の二価の炭化水素基、Rは芳香環を含む炭素数7〜10の二価の炭化水素基を示し、Rは芳香環を含む炭素数7〜10の二価の炭化水素基、但し、NH基及びNH2基の少なくとも一方は該芳香環には結合しておらず、及びpは1〜3、好ましくは2、3の整数である。該シランカップリング剤の詳細は、特開平5−105689号公報を参照されたい。
【0033】
式(8)において、Rはメチル基又はエチル基であることが好ましく、Rはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基、2−メチルプロピレン基等のアルキレン基、フェニレン基等のアリーレン基、これらアルキレン基とアリーレン基とが結合した基などが挙げられるが、好ましくはメチレン基、エチレン基、プロピレン基等が挙げられ、特に好ましくはプロピレン基である。
【0034】
としては、フェニレン基とアルキレン基とが結合した基が好ましく、例えば下記式で示されるものが挙げられる。
−CH2−C64
−CH2−C64−CH2
−CH2−C64−CH2−CH2
−CH2−C64−CH2−CH2−CH2
−CH2−CH2−C64
−CH2−CH2−C64−CH2
−CH2−CH2−C64−CH2−CH2
−CH2−CH2−CH2−C64
−CH2−CH2−CH2−C64−CH2
これらの中で、特に好ましくは −CH2−C64−CH2− である。これらの式において、フェニレン基の右側(式(8)においてNH2側)に結合するアルキレン基(アルキレン基がない場合は−NH2基となる)は、オルト位、メタ位、パラ位であってもよい。
【0035】
式(8)で示されるシランカップリング剤としては、下記式のものが例示される。
【0036】
【化8】

【0037】
【化9】

【0038】
【化10】

【0039】
【化11】

【0040】
【化12】

【0041】
【化13】

【0042】
【化14】

【0043】
【化15】

【0044】
【化16】

【0045】
【化17】

【0046】
【化18】

【0047】
【化19】

【0048】
【化20】

【0049】
(E)成分の量は、(A)成分100質量部当たり、0.05〜15質量部であり、好ましくは0.5〜10質量部、特に好ましくは1〜5質量部である。前記下限値未満での使用では、硬化物が十分な接着性能を示さない場合がある。一方、前記上限値を超える量で使用すると、所望のゴム弾性を備える硬化物を得難くなり、経済的にも不利になる。
【0050】
本発明の組成物は、(A)〜(E) 成分に加えて、種々の添加剤を、本発明の目的達成を阻害しない量で、配合することが可能である。例えば、アスベスト、ガラス繊維、炭素繊維、有機繊維などの繊維質充填剤;ベンガラ、酸化セリウムなどの耐熱性向上剤;耐寒性向上剤;脱水剤;防錆剤;顔料;分子鎖がトリオルガノシロキシ基で封鎖されたジオルガノポリシロキサンなどの希釈剤;トリオルガノシロキシ単位及びSiO2 単位よりなる網状ポリシロキサンなどの液状補強剤;及び、ヘキサメチルジシラザン、グリセリン、脂肪酸などの有機多価アルコール、脂肪酸エステルなどの保存安定化剤等が挙げられる。これらの2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0051】
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、(A)〜(E)成分及び必要に応じて各種添加剤を、湿気を遮断した状態で混合することにより得られる。得られた組成物は密閉容器中で保存し、使用時に空気中の水分に晒すことによりゴム状弾性体に硬化する、いわゆる1液型室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物として用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下、合成例及び実施例と比較例を参照して本発明を説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において部は質量部を示し、粘度は25℃での回転粘度計による測定値である。
【0053】
[実施例1]
分子鎖両末端が水酸基で封鎖された、粘度5,000mPa・sのジメチルポリシロキサン100重量部に、表面が脂肪酸で処理された重質炭酸カルシウム(商品名;MCコートS−20,丸尾カルシウム(株)製)80重量部、表面が脂肪酸で処理されたコロイダル炭酸カルシウム(商品名;白艶華CC-R,白石カルシウム(株)製)40重量部、及びアセチレンブラック粉末(商品名;デンカブラック粉状、電気化学工業(株)製)12重量部を均一になるまで分散混合した。得られた混合物に、アクリル酸2−エチルヘキシルとジメトキシメチルシランとの反応生成物(商品名;OCMS−2,信越化学工業(株)製)5重量部とメチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物(商品名;KC−89E,信越化学工業(株)製)5重量部および1,1,3,3−テトラメチル−2−[3−トリメトキシシリル]プロピルグアニジン0.6重量部を添加し、減圧下均一になるまで分散混合した。得られた混合物に、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン1.2重量部、ジオクチル錫ジバーサテート 0.12重量部を加え、減圧下でよく混合し、組成物1を得た。
【0054】
[実施例2]
分子鎖両末端が水酸基で封鎖された、粘度20,000mPa・sのジメチルポリシロキサン100重量部に、表面が脂肪酸で処理された重質炭酸カルシウム(商品名;MCコートS−20,丸尾カルシウム(株)製)80重量部、表面が脂肪酸で処理されたコロイダル炭酸カルシウム(商品名;白艶華CC-R,白石カルシウム(株)製)20重量部、アセチレンブラック粉末(商品名;デンカブラック粉状、電気化学工業(株)製)12重量部を均一になるまで分散混合した。得られた混合物に、アクリル酸2−エチルヘキシルとジメトキシメチルシランとの反応生成物(商品名;OCMS−2,信越化学工業(株)製)3重量部とメチルトリメトキシシランの部分加水分解物(商品名;KC−89E,信越化学工業(株)製) 5重量部および1,1,3,3−テトラメチル−2−[3−トリメトキシシリル]プロピルグアニジン0.6重量部を添加し、減圧下均一になるまで分散混合した。得られた混合物に、下記式で表わされる構造の、キシリレンジアミンと3−クロロプロピルトリメトキシシランの脱塩酸反応により得られた化合物(商品名;CF−73、信越化学工業(株)製)2.5重量部、ジオクチル錫ジバーサテート0.12重量部を加え、減圧下でよく混合し、組成物2を得た。
【0055】
【化21】


【0056】
[実施例3]
分子鎖両末端がトリメトキシ基で封鎖された、粘度20,000mPa・sのジメチルポリシロキサン100重量部に、表面がパラフィン系で処理された重質炭酸カルシウム(商品名;MCコートP−20,丸尾カルシウム(株)製)60重量部とアセチレンブラック粉末(商品名;デンカブラック粉状、電気化学工業(株)製)15重量部を均一になるまで分散混合した。得られた混合物に、メチルトリメトキシシラン5重量部、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナ−ト)チタン2重量部、キシリレンジアミンと3−クロロプロピルトリメトキシシランの脱塩酸反応により得られた上記化合物(商品名;CF−73,信越化学工業(株)製)1重量部を加え、減圧下でよく混合し、組成物3を得た。
【0057】
[実施例4]
分子鎖両末端がトリメトキシ基で封鎖された、粘度20,000mPa・sのジメチルポリシロキサン100重量部に、表面が脂肪酸で処理された重質炭酸カルシウム(商品名;MCコートS−20,丸尾カルシウム(株)製)80重量部とアセチレンブラック粉末(商品名;デンカブラック粉状、電気化学工業(株)製)12重量部を均一になるまで分散混合した。得られた混合物に、メチルトリメトキシシランの部分加水分解物(商品名;KC−89E,信越化学工業(株)製)5重量部、キシリレンジアミンと3−クロロプロピルトリメトキシシランの脱塩酸反応により得られた上記化合物(商品名;CF−73,信越化学工業(株)製)2.5重量部、ジオクチル錫ジバーサテート 0.12重量部を加え、減圧下で完全に混合し、組成物4を得た。
【0058】
[実施例5]
分子鎖両末端がエチレン基を介し、トリメトキシ基で封鎖された、粘度20,000mPa・sのジメチルポリシロキサン100重量部に、表面がパラフィン系で処理された重質炭酸カルシウム(商品名;MCコートP−20,丸尾カルシウム(株)製)60重量部とアセチレンブラック粉末(商品名;デンカブラック粉状、電気化学工業(株)製)15重量部を均一になるまで分散混合した。得られた混合物に、メチルトリメトキシシランの部分加水分解物(商品名;KC−89E,信越化学工業(株)製)3重量部、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナ−ト)チタン2重量部、キシリレンジアミンと3−クロロプロピルトリメトキシシランの脱塩酸反応により得られた上記化合物(商品名;CF−73,信越化学工業(株)製)1重量部を加え、減圧下でよく混合し、組成物5を得た。
【0059】
[実施例6]
分子鎖両末端がエチレン基を介し、トリメトキシ基で封鎖された、粘度20,000mPa・sのジメチルポリシロキサン100重量部に、表面が脂肪酸で処理された重質炭酸カルシウム(商品名;MCコートS−20,丸尾カルシウム(株)製)80重量部とアセチレンブラック粉末(商品名;デンカブラック粉状、電気化学工業(株)製)12重量部を均一になるまで分散混合した。得られた混合物に、メチルトリメトキシシランの部分加水分解物(商品名;KC−89E,信越化学工業(株)製)5重量部、キシリレンジアミンと3−クロロプロピルトリメトキシシランの脱塩酸反応により得られた上記化合物(商品名;CF−73,信越化学工業(株)製)2.5重量部、ジオクチル錫ジバーサテート0.12重量部を加え、減圧下でよく混合し、組成物6を得た。
【0060】
[比較例1]
実施例1において、アクリル酸2−エチルヘキシルとジメトキシメチルシランとの反応物とメチルトリメトキシシランの部分加水分解物の代わりに、メチルトリ(メチルエチルケトオキシム)シランを用いた以外は実施例1と同様の手順で比較組成物を調製した。
【0061】
<評価方法>
得られた組成物を以下の方法に従い評価した。結果を表1に示す。
1.泡立ち性試験
組成物0.63gを秤り取り、キシレンに溶解した。得られた溶液を、オートマチックトランスミッションオイル[商品名:ニッサン純正ATFフルードMATIC S]250mlに添加後混合したのち、JIS K 2518に従って泡立ち性を測定した。また、その溶液を120 ℃で240時間エージングさせた後に、同様に泡立ち性を評価した。
2.組成物のタックフリータイム及びスランプ性
JIS A 5758に従い測定した。
3.ゴム物性値
組成物を2mmの型枠に流し込み、23℃、50%RHで7日間養生して2mm厚のゴムシートを得た。該シートにつき、JIS K 6249に従い、ゴム物性(「初期ゴム物性」とする)を測定した。
4.剪断接着力
幅25mm、長さ100mm、厚さ1mmのアルミニウム板2枚を、幅25mm、長さ10mm、厚さ1mmに施与された組成物を介して、各板の長さ方向の端部10mmでのみ重なるように長さ方向にずらして重ねて置き、上側のアルミニウム板の上に錘を置いて、23℃、50%RHで7日間養生して、2枚の板を接着した。得られた試験片につき、剪断接着力を測定した。
5.耐オイル性
上記の方法で得られたゴムシート、及び剪断接着試験片を150℃のオートマチックトランスミッションオイル及び連続可変トランスミミッションオイルの各々に、10日間浸漬した後、上記の方法で、ゴム物性及び接着力を測定した。使用したオートマチックトランスミッションオイルおよび連続可変トランスミミッションオイルは以下のとおりである。
オートマチックトランスミッションオイル[ 商品名:ニッサン純正ATFフルード MATIC S]
連続可変トランスミミッションオイル[ 商品名:ニッサン純正CVTフルード NS−2]
【0062】
【表1】

【0063】
表1に示すように、(C)成分を含む実施例の組成物は、該成分を欠く比較例1(脱オキシムタイプ)に比べて顕著に泡立ちが少なく、また、オイルに浸漬することによる物性の劣化の程度も低い。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、自動車用オートマチックトランスミッションオイルならびに連続可変トランスミッションオイルに分散又は溶解した場合であっても、従来の組成物に比べて、顕著に起泡の程度が低い。同組成物は、構造が複雑なオートマチックトランスミッションのオイルシール材として特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子当たり少なくとも2つのシラノール基またはアルコキシ基を有し、重合度が10以上であるジオルガノポリシロキサン 100質量部
(B)無機充填剤 10〜300質量部
(C)下記一般式(7)で示されるアルコキシシラン、その部分加水分解物、又はその組み合わせ
4-nSi(OR) (7)

(式中、Rは、互いに独立に、炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは、互いに独立に、炭素原子数1〜20の置換もしくは非置換の一価の基、及びnは2〜4の整数である) 1〜30質量部
(D)硬化触媒 0.01〜15質量部
(E)シランカップリング剤 0.05〜15質量部を含むことを特徴とする低起泡性室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項2】
(A)成分が、下記式(1)〜(6)で表されるオルガノポリシロキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に係る組成物。

HO(SiRO)H (1)

(ここでRは置換もしくは非置換の炭素原子数1〜10の一価炭化水素基であり、mは10以上の整数である。)



(式中、R及びR2は上記のとおりであり、Yは酸素原子または炭素原子数1〜5のアルキレン基であり、mは10以上の整数、nは互いに独立に0又は1である。)



(式中、R、R2、Y、m、nは上記のとおりであり、Zは炭素原子数2〜5のアルケニル基である。)



(式中、R、R2、Y、m、nは上記のとおりであり、kは1〜10の整数であり、R3は下記一般式(5)で示される加水分解性基を含む分岐鎖である。)

(ここで、R、R2、Y、nは上記の通りである。)



(式中、R、R2、R3、Y、Z、n、mは上記のとおりである。)
【請求項3】
(E)成分が下記一般式(8)で表されるシラン化合物またはその部分加水分解物であることを特徴とする請求項1または2に係る組成物。



(式中、R、R2は上記のとおりであり、Rは炭素数1〜10の二価の炭化水素基、Rは芳香環を含む炭素数7〜10の二価の炭化水素基、但し、NH基及びNH2基の少なくとも一方は該芳香環には結合しておらず、及びpは1〜3の整数である。)
【請求項4】
自動車のトランスミッションオイルと接触する所に使用され、該トランスミッションオイルに含まれる物質と反応して界面活性剤として作用する成分を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に係る組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に係る組成物の硬化物を含む自動車オイルシール。

【公開番号】特開2010−180382(P2010−180382A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27798(P2009−27798)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】