説明

室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物及び自動車オイルシール

【解決手段】(A)分子鎖両末端が水酸基及び/又は加水分解性基で封鎖され、25℃での粘度が25〜1,000,000mPa・sであるジオルガノポリシロキサン
100質量部、
(B)一分子中に3個以上の加水分解性基を含有するオルガノシラン及び/又はその部分加水分解物 0.5〜30質量部、
(C)表面処理された酸化マグネシウム 1〜500質量部、
(D)硬化触媒 0.01〜20質量部、
(E)シランカップリング剤 0.1〜20質量部
を含有することを特徴とする室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【効果】本発明によれば、経時変化が少なく、かつ耐油性に優れた硬化物(シリコーンゴム)を提供でき、自動車用FIPG材料として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐油性に優れる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物に関し、特に自動車用FIPG(Formed In Place Gaskets)材料として有用な室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物及び該組成物を硬化させることにより得られる自動車オイルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車エンジン部のエンジンオイル、ギヤオイル、オートマチックトランスミッションフルイド等をシールするための材料には、コルク、有機ゴム、アスベスト等でできた耐油性のガスケット又はパッキング材が使用されている。しかし、これらのシール材は、在庫管理の煩雑さ及び作業工程の複雑さという不利があり、シール性能の信頼性にも欠けるという問題があった。そこで、密着性及び耐熱性に優れる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を用いたFIPG方式が採用されるようになり、現在に至っている。
【0003】
自動車エンジン回りに用いられる室温硬化性シリコーンゴム組成物は、自動車用オイルに対する耐性が必須である。耐油劣化による硬化物のゴム物性や接着性の低下は、シール部位からのオイル滲み、オイル漏れに繋がる。一般に、エンジンオイルには、極圧添加剤としてリン酸金属塩、亜リン酸金属塩等の酸性添加物が用いられており、その影響を受けて硬化物のゴム物性が劣化したり、密着性が低下したりすることが判明している。そのため、該組成物には、酸性添加物の中和を目的として、通常、カルシウム、亜鉛、マグネシウム等の酸化物、水酸化物又は炭酸塩が添加されている。また、硬化物のポリマー鎖が酸性添加物により切断されても、硬化物のゴム物性が低下しないように、予め、硬化物の架橋密度を上げておく手法も知られている。
【0004】
しかし、自動車用オイルは、近年ますます高性能化し、上記リン系の酸性添加物が増量され、また、前記の酸化物、水酸化物又は炭酸塩では中和のできないイオウ又はモリブデン系化合物が添加されるようになってきた。前記酸化物、水酸化物又は炭酸塩の添加又は架橋密度の向上だけでは、耐油性が満足されないレベルになりつつある。
【0005】
更に、近年の自動車用オイルは省燃費化を目的として低粘度の基油を用いる方向にある。これは、低粘度の自動車用潤滑油は低抵抗で可動部の動きを妨げにくく、結果としてエンジンの燃費が上げる方向となるためである。しかしながら、低粘度の基油を用いた自動車用オイルでは、先述の酸性成分によるシリコーンゴムの劣化に加えて、ゴムの膨潤による影響が無視できなくなっている。自動車用オイルによるゴムの膨潤は機械的強度の低下に加えて、上記酸性成分のゴム中への浸入を促進する効果が認められる。
【0006】
これを解決する一つの手法として異方性充填剤の使用が挙げられる。異方性充填剤はシリコーンゴム硬化物の変形への抵抗を大きくし、潤滑油、溶剤等による膨潤を抑える効果がある。特開平10−17773号公報(特許文献1)では、耐油性向上を目的として平均粒子径が50μm以下の薄片状無機粉末、好ましくは平均粒子径が50μm以下のタルク、マイカ、カオリン及びアルミナ、更に好ましくは平均粒子径が50μm以下のタルク及びアルミナを用いることが提案されている。
【0007】
しかしながら、タルク、マイカ、カオリン等はその表面活性が高いため組成物に配合すると極端に粘度が増加し、作業性が大きく低下する。また、層間化合物であるためナトリウム、カリウム等のイオン性物質がゴム中に拡散し、組成物の増粘、ゲル化等の問題を起こす場合がある。
【0008】
また、別手法として、塩基性充填剤の使用が挙げられる。充填剤の塩基性度を利用し、自動車用オイルに使用されている酸性成分を中和あるいは吸着する効果がある。特開昭57−76055号公報(特許文献2)では、補強性シリカと酸化マグネシウムを少量併用することが提案されている。更に、特許第2568406号公報(特許文献3)では、酸化マグネシウムを多量に使用することが提案されている。また、特公昭61−23942号公報(特許文献4)では、炭酸亜鉛、あるいは酸化亜鉛を使用することも提案されている。
【0009】
このように、耐油性を向上させるためには様々な充填剤、添加剤を大量に添加する手法により達成され、特に酸化マグネシウムを使用することが有効であった。しかしながら、充填剤、添加剤の大量添加は、組成物の経時変化を大きくしてしまい、大きな問題となっていた。
【0010】
一方、表面処理した酸化マグネシウムを用いた組成物としては、特許第3127093号公報(特許文献5)に、シラザン等の表面を疎水化処理した酸化マグネシウムを大量に配合した熱伝導性シリコーンゴム組成物が提案されている。また、特開2008−074683号公報(特許文献6)には表面が複酸化物/リン酸マグネシウム系化合物/有機シリケートで処理された耐水性に優れた酸化マグネシウムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−17773号公報
【特許文献2】特開昭57−76055号公報
【特許文献3】特許第2568406号公報
【特許文献4】特公昭61−23942号公報
【特許文献5】特許第3127093号公報
【特許文献6】特開2008−074683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明の課題は、経時変化が少なく、かつ耐油性に優れる硬化物が得られる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物であって、特に自動車用FIPG材料に好適な該組成物及び該組成物を硬化させることにより得られる自動車オイルシールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、耐油性を向上させる充填剤、特に酸化マグネシウムに関して鋭意検討を行った結果、特定の表面処理剤、特に有機チタネート及びシリコーンオイルで酸化マグネシウムの表面を処理することで、経時変化が殆どなく、かつ耐油性に優れる硬化物が得られることを見出した。
この場合、上記特許文献5,6も表面処理酸化マグネシウムを用いているが、表面処理を施す理由は耐湿性、流動性を向上させるためであって、本発明が目的とする耐薬品性の向上、組成物の経時変化抑制を示唆する記述はない。本発明は分子鎖両末端が水酸基及び/又は加水分解性基で封鎖されたジオルガノポリシロキサンをベースポリマーとする縮合反応硬化型の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物(シリコーンゴム組成物)に、表面処理された酸化マグネシウムを用いることで、後述する実施例に示す通り、経時変化が殆んどなく、かつギヤオイルに高温、長時間浸漬しても劣化が顕著に抑制された硬化物(シリコーンゴム)が得られることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0014】
従って、本発明は下記の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物及び自動車オイルシールを提供する。
請求項1:
(A)分子鎖両末端が水酸基及び/又は加水分解性基で封鎖され、25℃での粘度が25〜1,000,000mPa・sであるジオルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)一分子中に3個以上の加水分解性基を含有するオルガノシラン及び/又はその部分加水分解物 0.5〜30質量部、
(C)表面処理された酸化マグネシウム 1〜500質量部、
(D)硬化触媒 0.01〜20質量部、
(E)シランカップリング剤 0.1〜20質量部
を含有することを特徴とする室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
請求項2:
(C)酸化マグネシウムの表面処理剤が有機チタネートである請求項1記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
請求項3:
(C)酸化マグネシウムの表面処理剤がシリコーンオイルである請求項1記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
請求項4:
自動車のオイルシール形成用である請求項1乃至3のいずれか1項記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
請求項5:
請求項1乃至3いずれか1項記載の組成物を硬化させることにより得られる自動車オイルシール。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、経時変化が少なく、かつ耐油性に優れた硬化物(シリコーンゴム)を提供でき、自動車用FIPG材料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(A)成分
本発明の(A)成分は、分子鎖両末端が水酸基及び/又は加水分解性基で封鎖され、25℃での粘度が25〜1,000,000mPa・s、好ましくは1,000〜100,000mPa・sのジオルガノポリシロキサンである。なお、この粘度は回転粘度計によって測定することができる。
【0017】
該ジオルガノポリシロキサンとしては、例えば下記一般式(1):
HO−[R2SiO]L−H (1)
(式中、Rは同一又は異種の、非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、Lは上記の粘度範囲を満たす数で、通常、10以上の整数である。)
で示される化合物が挙げられる。
【0018】
一般式(1)中のRは、炭素原子数が、通常、1〜10、好ましくは1〜8の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基;並びにこれらの基の炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部をハロゲン原子、シアノ基等で置換した基(例えばクロロメチル基、トリフルオロプロピル基及びシアノエチル基)が挙げられる。これらの中では、メチル基、ビニル基、フェニル基及びトリフルオロプロピル基が好ましく、特に好ましくはメチル基及びフェニル基である。
【0019】
更に、例えば下記一般式(2)
(R1O)n3-nSi−R2−(R2SiO)L−SiR2−R2−SiR3-n(OR1n (2)
(式中、R、Lは前記と同様であり、R1は同一又は異種の、非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、R2は酸素原子又は非置換もしくは置換の二価炭化水素基であり、nは2又は3である。)
で示される化合物が挙げられる。
【0020】
一般式(2)中のR1は、炭素原子数が、通常、1〜6、好ましくは1〜3の一価炭化水素基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基が挙げられる。これらの中では、メチル基、エチル基、プロピル基が好ましく、特に好ましくはメチル基及びエチル基である。R2は炭素原子数が通常、1〜6、好ましくは1〜3の二価炭化水素基であり、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等のアルキレン基が挙げられる。これらの中では、メチレン基、エチレン基、プロピレン基が好ましく、特に好ましくはエチレン基である。
【0021】
(B)成分
本発明の(B)成分は、一分子中に3個以上の加水分解性基を含有するオルガノシラン及び/又はその部分加水分解物であり、本発明の組成物において架橋剤として作用するものである。シラン化合物及びその部分加水分解物が有する加水分解性基としては、例えばケトオキシム基、アルコキシ基、アセトキシ基、イソプロペノキシ基等が挙げられる。具体例としては、テトラキス(メチルエチルケトオキシム)シラン、メチルトリス(ジメチルケトオキシム)シラン、メチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、エチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、メチルトリス(メチルイソブチルケトオキシム)シラン、ビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン等のケトオキシムシラン類、メチルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のオルガノオキシシラン類、メチルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のアセトキシシラン類、メチルトリイソプロペノキシシラン、ビニルトリイソプロペノキシシラン、フェニルトリイソプロペノキシシラン等のイソプロペノキシシラン類、並びにこれらのシランの部分加水分解縮合物が挙げられる。これらは単独で用いても複数種を併用してもよい。
【0022】
(B)成分は、(A)成分100質量部に対して0.5〜30質量部の範囲、好ましくは、1〜15質量部の範囲で使用される。0.5質量部未満では十分な架橋が得られず、目的とするゴム弾性を有する組成物が得難く、30質量部を超えると価格的に不利となる。
【0023】
(C)成分
(C)成分の表面処理された酸化マグネシウムは、本発明の組成物において自動車用オイルに使用されている酸性成分を中和あるいは吸着して耐油性能を向上させるものである。本発明では、特に特定の表面処理を行うことで組成物の経時変化を少なくし、耐油性能を著しく向上させることができる。
【0024】
以下、表面処理について詳細を説明する。表面処理は、公知の無機表面処理剤でも有機表面処理剤でもよい。表面処理剤としては有機化合物による処理が好ましく、特に有機チタネート又はシリコーンオイルによる処理が好ましい。有機チタネート化合物としては、テトライソプロポキシチタン、テトラn−ブトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキソキシ)チタン、ジプロポキシビス(アセチルアセトナ)チタン、イソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムイソプロポキシオクチレングリコール等のチタン酸エステル又はチタンキレート化合物が挙げられる。また、シリコーンオイルとしては、反応性シリコーンオイル、非反応性シリコーンオイルのいずれか、あるいは両方を用いてもよく、反応性シリコーンオイルとしては、側鎖型、両末端型、片末端型、側鎖両末端型があり、変性タイプとしてはモノアミン、ジアミン、アミノ・ポリエーテル等のアミノ変性、エポキシ、エポキシ・ポリエーテル、エポキシ・アラルキル等のエポキシ変性、カルビノール変性、メルカプト変性、カルボキシル変性、フェノール変性、シラノール変性、メタクリル変性等が挙げられる。また、非反応性シリコーンオイルとしては、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロヘプタシロキサン、α,ω−トリメチルシロキシジメチルポリシロキサンの他、側鎖型、両末端型があり、変性タイプとしては、ポリエーテル基、ポリエーテル・長鎖アルキル・アラルキル基等のポリエーテル変性、アラルキル変性、フルオロアルキル変性、長鎖アルキル、長鎖アルキル・アラルキル等の長鎖アルキル変性、フェニル変性、高級脂肪酸エステル変性、高級脂肪酸アミド変性等が挙げられる。特に、ジプロポキシビス(アセチルアセトナ)チタン、イソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムイソプロポキシオクチレングリコール等のチタンキレート化合物や、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロヘプタシロキサン、α,ω−トリメチルシロキシジメチルポリシロキサンが好ましい。
【0025】
表面処理条件としては、常温〜200℃の温度とすることができるが、50〜180℃が好ましく、70〜150℃がより好ましい。常温より低い温度では表面処理が不十分であり、200℃より高い温度では処理剤の分解等が起こってしまうおそれがある。また、時間は、30分〜24時間、特に1〜12時間が好ましい。30分より短い時間では表面処理が不十分であり、24時間より長い時間では、経済的に不利となってしまう。また、処理剤の量は、酸化マグネシウム100質量部に対し、0.1〜20質量部、特に0.5〜10質量部が好ましい。0.1質量部未満では表面処理が不十分となることがあり、20質量部を超える量では経済的に不利となることがある。
【0026】
なお、上記表面処理酸化マグネシウムとしては、未処理の酸化マグネシウムを上記処理剤で処理しても市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば後述する実施例で用いた市販品を用いることができる。
【0027】
配合量は、(A)成分100質量部当たり、1〜500質量部、好ましくは10〜300質量部、より好ましくは30〜200質量部、特に好ましくは50〜150質量部である。この配合量が1質量部未満では酸性成分の中和効果が薄れて耐油性が不十分となり、500質量部を超えると組成物の粘度が高くなりすぎる結果、組成物の硬化性が低下し、作業性も低下する。
【0028】
(D)成分
(D)成分の硬化触媒は、本発明の組成物において組成物の加水分解による硬化反応の触媒として作用するものである。これにはジオクテート錫等の錫エステル化合物、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクトエート、ジオクチル錫ジオクトエート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジバーサテート等のアルキル錫エステル化合物、テトライソプロポキシチタン、テトラn−ブトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキソキシ)チタン、ジプロポキシビス(アセチルアセトナ)チタン、イソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムイソプロポキシオクチレングリコール等のチタン酸エステル又はチタンキレート化合物、テトラメチルグアニジン、ジアザビシクロノナンのような強塩基性化合物、テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン、テトラメチルグアニジルプロピルメチルジメトキシシラン、テトラメチルグアニジルプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン等のグアニジル基を含有するシラン又はシロキサン等が例示されるが、特にはアルキル錫エステル化合物、チタンキレート化合物、グアニジル基を含有するシランが好適に使用される。これらの使用量はその1種に限定されず、2種もしくはそれ以上の混合物として使用してもよい。なお、これら硬化触媒の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.01〜20質量部、特には0.05〜10質量部が好ましい。
【0029】
(E)成分
本発明の(E)成分のシランカップリング剤は、本発明の組成物において接着助剤として作用するものである。シランカップリング剤としては特に制限されないが、反応性有機基としてアミノ基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、メルカプト基、イソシアネート基等の反応性有機基を有するものが挙げられ、特にアミノ基を有する有機基が好ましい。なお、本発明では、ビニル基含有シランカップリング剤は、(E)成分でなく、(B)成分とする。
シランカップリング剤の加水分解性基としては、上記(B)成分と同様の基が挙げられる。また、(E)成分は、シランカップリング剤の部分加水分解物であってもよい。
【0030】
アミノ基を官能基として有するシランカップリング剤としては、下記式で表される化合物が好ましく、その部分加水分解物も好ましく用いられる。
2N−R3−SiR4a(OR53-a
(式中、R3は酸素原子、窒素原子又は硫黄原子を含んでもよい非置換又は置換の二価炭化水素基であり、R4、R5は非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、aは0又は1を表す。)
【0031】
上記式中、R3は炭素数1〜8の酸素原子、窒素原子又は硫黄原子を含んでもよい非置換又は置換の二価炭化水素基であり、具体的には、例えば、−CH2−、−C24−、−C36−等の炭素数1〜6のアルキレン基、−C36−NH−C24−、−C36−NH−C(=O)−等が挙げられる。
【0032】
4は炭素数1〜12の非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、オクタデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、α−,β−ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基等のアラルキル基;また、これらの基の水素原子の一部又は全部が、F、Cl、Br等のハロゲン原子で置換された基、例えば、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等を例示することができる。これらの中でも、メチル基が好ましい。
【0033】
また、R5は炭素数1〜12の非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、前記R4と同様のものを例示することができるが、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、特にメチル基、エチル基が好ましい。
【0034】
上記アミノシラン化合物の具体例としては、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、エチレンジアミノプロピルトリメトキシシラン、エチレンジアミノプロピルトリエトキシシラン、エチレンジアミノプロピルメチルジメトキシシラン、エチレンジアミノプロピルメチルジエトキシシラン、α−アミノプロピルトリメトキシシラン等が例示される。
【0035】
この(E)成分の配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1〜20質量部、特に0.2〜15質量部が好ましい。0.1質量部未満の場合、十分な接着性が得られず、20質量部より多い場合は、経済的に不利となってしまう。
【0036】
その他の成分
本発明の組成物には、上記(A)〜(E)成分のほかに、本発明の目的を阻害しない限り、種々の添加剤を添加することもできる。例えば、煙霧質シリカ、沈降性シリカ、石英粉末、炭素粉末等の補強剤;ガラス繊維、炭素繊維等の繊維質充填剤;酸化セリウム等の耐熱性向上剤;防錆剤;トリメチルシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン等の可塑剤、トリオルガノシロキシ単位及びSiO2単位からなる網状ポリシロキサン等の液状補強剤、顔料、染料等が挙げられる。これらの使用量は、本発明の目的を阻害しないかぎり任意である。
【0037】
これらの中で、表面が疎水化処理された煙霧質シリカを配合することが好ましい。この成分を配合することにより、(C)成分の配合量を多くしなくても優れた物理的特性が得られる。この成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、0〜30質量部、より好ましくは1〜20質量部である。
【0038】
本発明の組成物は、一液型室温硬化性組成物として、通常、上記した(A)〜(E)成分、必要に応じてその他の成分を品川ミキサー、プラネタリーミキサー、ニーダー等の混合機を用いて乾燥もしくは減圧雰囲気中で均一に混合することにより得られる。得られる組成物は、空気中に暴露されると、水分により架橋硬化され、ゴム状弾性体となる。
本発明の組成物は、自動車用FIPG材料として好適であり、上記ゴム状弾性体は自動車オイルシールとして使用することができる。
【実施例】
【0039】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。なお、例中の部は質量部を示し、粘度は25℃での測定値である。
【0040】
[実施例1]
分子鎖両末端が水酸基で封鎖され、粘度が5,000mPa・sのジメチルポリシロキサン100部、表面が有機チタネート処理された酸化マグネシウム(協和化学工業社製、マグサラット30)100部、煙霧質シリカ(DEGUSSA社製、エロジルR972)5部を均一になるまで混合した。次いで、ビニルトリ(メチルエチルケトオキシム)シラン15部、ジオクチル錫ジラウレート0.3部、3−アミノプロピルトリエトキシシラン2部を添加し、減圧下で混合して、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物(試料1)を作製した。
【0041】
[実施例2]
実施例1の表面が有機チタネート処理された酸化マグネシウムを表面がシリコーンオイルで処理された酸化マグネシウム(堺化学社製、FINEX−30S−LP2)100部へ変更した以外は、実施例1と同様に室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物(試料2)を作製した。
【0042】
[実施例3]
分子鎖両末端がプロピレン基を介したトリメトキシシリル基で封鎖され、粘度が5,000mPa・sのジメチルポリシロキサン100部、表面が有機チタネート処理された酸化マグネシウム(協和化学工業社製、マグサラット30)100部、煙霧質シリカ(DEGUSSA社製、エロジルR974)5部を均一になるまで混合した。次いで、メチルトリメトキシシラン5部、イソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)2部、3−アミノプロピルトリエトキシシラン0.5部を減圧下で混合して、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物(試料3)を作製した。
【0043】
[比較例1]
分子鎖両末端が水酸基で封鎖され、粘度が5,000mPa・sのジメチルポリシロキサン100部、コロイダル炭酸カルシウム(白石工業社製、白艶華CCR)100部、煙霧質シリカ(DEGUSSA社製、エロジルR972)5部を均一になるまで混合した。次いで、ビニルトリ(メチルエチルケトオキシム)シラン15部、ジオクチル錫ジラウレート0.3部、3−アミノプロピルトリエトキシシラン2部を減圧下で混合して、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物(試料4)を作製した。
【0044】
[比較例2]
比較例1のコロイダル炭酸カルシウム(白石工業社製、白艶華CCR)100部を表面がパラフィン処理された重質炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製、MCコートP−20)100部へ変更した以外は、実施例1と同様に室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物(試料5)を作製した。
【0045】
[比較例3]
比較例1のコロイダル炭酸カルシウム(白石工業社製、白艶華CCR)100部を未処理の酸化マグネシウム(協和化学社製、キョーワマグ30)100部へ変更した以外は、実施例1と同様に室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物(試料6)を作製した。
【0046】
[比較例4]
分子鎖両末端が水酸基で封鎖され、粘度が5,000mPa・sのジメチルポリシロキサン100部、酸化亜鉛(ハクスイテック社製、酸化亜鉛2種)100部、煙霧質シリカ(DEGUSSA社製、エロジルR972)5部を均一になるまで混合した。次いで、ビニルトリ(メチルエチルケトオキシム)シラン15部、ジオクチル錫ジラウレート0.3部、3−アミノプロピルトリエトキシシラン2部を減圧下で混合して、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物(試料7)を作製した。
【0047】
[実施例4]
実施例1の表面がチタネート処理された酸化マグネシウム(協和化学工業社製、マグサラット30)100部を250部とした以外は実施例1と同様に室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を作製した。
【0048】
[比較例5]
比較例1のコロイダル炭酸カルシウム(白石工業社製、白艶華CCR)100部を表面がシリコーンオイルで処理された酸化亜鉛(ハクスイテック社製、酸化亜鉛2種S22)100部とした以外は実施例1と同様に室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を作製した。
【0049】
[比較例6]
比較例3の未処理の酸化マグネシウム(協和化学工業社製、キョーワマグ30)を250部へ変更した以外は実施例1と同様に室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を作製した。
【0050】
次に、各実施例及び比較例で調製された調製直後の各組成物を厚さ2mmのシート状に押し出し、23℃,50%RHの空気に曝し、次いで、該シートを同じ雰囲気下に7日間放置して得た硬化物の物性(初期物性)を、JIS K6249に準拠して測定した。なお、硬さは、JIS K6249のデュロメーターA硬度計を用いて測定した。
また、幅25mm、長さ100mmの被着体を用いて接着面積2.5mm2、接着厚さ1mmの剪断接着試験体を作製した。23℃,50%RHで7日間養生して測定を行い、JIS K6850に準じて剪断接着力と凝集破壊率を確認した。
また、保管試験として、各実施例及び比較例で調製された調製直後の各組成物を密閉容器に入れて、70℃の温度で7日間放置したもの、及び23℃で6ヶ月間放置したものから作った厚さ2mmのシートについても同様の測定を行った。また、耐油性の評価は上記条件で硬化させた硬化物からダンベルを打ち抜き、更にギヤオイル[商品名:キャッスルMGギヤオイルスペシャルII(75W−90)]に150℃の温度で240時間浸漬した。その後、JIS K6249に従って劣化後ゴム物性を確認した。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

測定不能:ダンベルが溶解

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子鎖両末端が水酸基及び/又は加水分解性基で封鎖され、25℃での粘度が25〜1,000,000mPa・sであるジオルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)一分子中に3個以上の加水分解性基を含有するオルガノシラン及び/又はその部分加水分解物 0.5〜30質量部、
(C)表面処理された酸化マグネシウム 1〜500質量部、
(D)硬化触媒 0.01〜20質量部、
(E)シランカップリング剤 0.1〜20質量部
を含有することを特徴とする室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項2】
(C)酸化マグネシウムの表面処理剤が有機チタネートである請求項1記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項3】
(C)酸化マグネシウムの表面処理剤がシリコーンオイルである請求項1記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項4】
自動車のオイルシール形成用である請求項1乃至3のいずれか1項記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項5】
請求項1乃至3いずれか1項記載の組成物を硬化させることにより得られる自動車オイルシール。

【公開番号】特開2011−252079(P2011−252079A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126637(P2010−126637)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】