説明

家畜ふん堆肥の可給態窒素含量の評価方法

【課題】家畜ふん堆肥の可給態窒素含量を迅速且つ簡易に推定できる手段を提供すること。
【解決手段】本発明の家畜ふん堆肥の可給態窒素含量の評価方法は、以下の(a)〜(d)の工程を含む。
(a) 家畜ふん堆肥試料を水素イオン濃度0.8 mol/L〜2.0 mol/Lの酸で抽出する。
(b) (a)で得られた抽出液について、400nm〜500nmの範囲内のいずれかの波長における吸光度、アンモニア態窒素量及び硝酸態窒素量を測定する。
(c) 家畜ふん堆肥の塩酸抽出液の吸光度と抽出液中有機態窒素量との相関関係を表す回帰式を用いて、(b)で得られた吸光度測定値から堆肥試料抽出液の有機態窒素量を求める。
(d) (b)で得られたアンモニア態窒素量及び硝酸態窒素量と、(c)で得られた有機態窒素量との合計値を指標として、家畜ふん堆肥試料の可給態窒素含量を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜ふん堆肥の可給態窒素含量を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肥料価格の高騰に伴う施肥コスト低減、循環型農業の確立のためには適正な家畜ふん堆肥施用法の確立が必須である。家畜ふん堆肥に含まれるリン酸やカリウムの大半は無機態であるため、それらの肥効は高く、全量分析値からの推定が容易である。
【0003】
一方、家畜ふん堆肥は有機態窒素を多く含むため、肥効(可給態窒素含量)の推定法は極めて重要である。家畜ふん堆肥の可給態窒素含量の推定においては従来、培養法(非特許文献1)が用いられてきたが、長期間(最低4週間)の試験が必要なため、それに代わる簡易分析法が検討されてきた。鶏ふん堆肥に限れば、尿酸態窒素含量の測定によりかなり正確に窒素肥効を推定できることが明らかにされている(非特許文献2、3)。牛ふん堆肥、豚ぷん堆肥については、小柳ら(非特許文献4)は飼料の分析法である酸性デタージェント(AD)法(非特許文献5)を堆肥に適用し、AD可溶窒素量から窒素肥効を推定できることを培養試験および栽培試験によって明らかにした。松田ら(非特許文献6)や森岡ら(非特許文献7)はそれぞれ堆肥の水、リン酸緩衝液(以下、PB)抽出窒素を測定することにより堆肥窒素の肥効が推定可能であることを示した。
【0004】
非特許文献4、6、7の方法は、培養法と比較した場合、簡易であるがいずれも堆肥もしくは抽出液の強酸分解(加熱分解)が必要である。また、ドラフトスクラバーなどの施設がない場合や分析担当者が未経験であったりする場合は分析が困難である。従って、より簡易な分析法が求められている。
【0005】
土壌の可給態窒素含量の簡易推定ではPB抽出液の吸光度による推定法(非特許文献8、9)が提案されており、簡易・迅速な普及現場に適した方法である。しかし、吸光度を用いた分析法を堆肥について検討した例はない。土壌の場合はPB抽出液によって土壌に保持された易分解性の有機物を抽出し、有機物による着色度(吸光度)が抽出液中の窒素含量と相関があることを利用したものである。一方、堆肥の場合は、易分解性有機物が多い点、有機物が土壌に保持されていない点、およびpHが高い点などで土壌とは異なる抽出条件の検討が必要である。
【0006】
棚橋は、未風乾堆肥10gに対し、0.5mol/L塩酸100mLを加え、60分振とうすることにより、家畜ふん堆肥中のアンモニア態窒素、硝酸態窒素、リン酸、カルシウム、マグネシウム、カリウムが測定できること、堆肥の種類によっては塩酸抽出での無機態窒素量評価のみで窒素肥効を評価できる場合があることを報告している(非特許文献10)。しかしながら、非特許文献10は、堆肥中に高い割合で存在する有機態窒素まで考慮して可給態窒素量を評価する手段を全く提供していない。上記したように、家畜ふん堆肥は有機態窒素を多く含むため、非特許文献10の方法は種々の家畜ふん堆肥の窒素肥効を適切に評価する方法として満足できるものではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本土壌協会編:堆肥等有機物分析法,p.18〜139(2000)
【非特許文献2】日高秀俊・田中達也・森国博全:鶏糞の窒素の形態が野菜の生育に及ぼす影響,土肥誌,77,p.73〜76(2006)
【非特許文献3】松村昭治・佐藤拓也:有機質資材窒素の無機化特性評価項目としての酸性デタージェント繊維の有用性,土肥誌,76,p.645〜648(2005)
【非特許文献4】小柳渉・棚橋寿彦・村上圭一・石岡厳・木村武:家畜ふん堆肥の種類に応じた窒素肥効評価法 : 第3報 家畜ふん堆肥の速効的・緩効的窒素とその評価法(その2),土肥要旨集,53,p.150(2007)
【非特許文献5】高野信雄・佳山良正・川鍋裕夫:粗飼料・草地ハンドブック,p.772〜774,養賢堂,東京(1989)
【非特許文献6】松田晃・山崎恭子・間藤徹:化学分析と小ポット栽培試験による家畜排泄物窒素の肥効評価:土肥誌,78,p.479〜485(2007)
【非特許文献7】森岡幹夫:たい肥施用コーディネーター養成研修シリーズ(15)優良レポート(その7)山形県における堆肥連用圃場の実態と堆肥施用支援システムの開発,農業技術,61,p.419〜423(2006)
【非特許文献8】小川吉雄・加藤弘道・石川実:リン酸緩衝液抽出による可給態窒素の簡易測定法,土肥誌,60,p.160〜163(1989)
【非特許文献9】柳井政史・上沢正志・今野隆光・清水義昭:リン酸緩衝液土壌抽出ろ液の吸光度測定による湛水培養可給態窒素量の簡易推定,土肥誌,69,p.371〜378(1998)
【非特許文献10】棚橋 寿彦:家畜ふん堆肥からの塩酸抽出の意義と肥料成分の簡易分析法,農業技術,60,p.308-312(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、家畜ふん堆肥の可給態窒素含量を迅速且つ簡易に推定できる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、多数の牛ふん、豚ふん、鶏ふん等の家畜ふん堆肥を用いて各種形態の窒素成分の抽出条件を鋭意検討した結果、水素イオン濃度1.0 mol/Lの酸を用いて30℃という穏やかな条件下で堆肥から抽出される全窒素量が、堆肥の可給態窒素含量の推定に従来用いられている培養法によって測定された無機態窒素量と高い正の相関を示すことを見出した。さらに、塩酸抽出液の430nmにおける吸光度と該抽出液中の有機態窒素量(全窒素量からアンモニア態窒素量と硝酸態窒素量を差し引いた量)との間に高い正の相関があること、従って塩酸抽出液の吸光度に基づいて堆肥の有機態窒素量を評価できることを見出した。これらの結果から、堆肥の塩酸抽出液の吸光度、アンモニア態窒素量及び硝酸態窒素量に基づき、堆肥の可給態窒素含量を評価できることを見出し、本願発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の(a)〜(d)の工程を含む、家畜ふん堆肥の可給態窒素含量の評価方法を提供する。
(a) 家畜ふん堆肥試料を水素イオン濃度0.8 mol/L〜2.0 mol/Lの酸で抽出する。
(b) (a)で得られた抽出液について、400nm〜500nmの範囲内のいずれかの波長における吸光度、アンモニア態窒素量及び硝酸態窒素量を測定する。
(c) 家畜ふん堆肥の塩酸抽出液の吸光度と抽出液中有機態窒素量との相関関係を表す回帰式を用いて、(b)で得られた吸光度測定値から堆肥試料抽出液の有機態窒素量を求める。
(d) (b)で得られたアンモニア態窒素量及び硝酸態窒素量と、(c)で得られた有機態窒素量との合計値を指標として、家畜ふん堆肥試料の可給態窒素含量を評価する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、堆肥や抽出液の分解操作等をすることなく、かつ、培養法のように長期間を要することなく、所定の回帰式を用いて、堆肥の酸抽出液の吸光度、アンモニア態窒素量及び硝酸態窒素量から迅速に堆肥の可給態窒素含量を評価することができる。本発明の方法では、酸抽出液の吸光度に基づいて有機態窒素量も算出し、有機態窒素量も考慮に入れるので、種々の家畜ふん堆肥の可給態窒素含量を迅速・簡便な操作で正確に評価することができる。酸抽出液の吸光度により、酸抽出性窒素のうちの有機態窒素を測定できるということは、本願発明者らが初めて見出した知見である。塩酸で抽出した場合、該抽出液は、リン酸や塩基成分(カルシウム、カリウム、マグネシウム等)等の他の各種成分の分析にも用いることができるため、本発明は各種成分のマルチ分析にも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】培養試験における堆肥由来無機態窒素含量を示す。
【図2】塩酸で抽出される全窒素含量(HCl-TN)と培養112日における堆肥由来無機態窒素含量との関係を示す。
【図3】塩酸抽出液の吸光度と塩酸で抽出される有機態窒素量(HCl-ON)との関係を示す。
【図4】推定可給態窒素含量とHCl-TN(左)及び堆肥由来培養無機態窒素含量(右)との関係を示す。
【図5】収穫時の窒素吸収量(棒グラフ)および推定可給態窒素施用量(●)を示す。
【図6】推定可給態窒素施用量と家畜ふん堆肥由来窒素吸収量との関係を示す。
【図7】抽出時の温度が抽出液の吸光度に及ぼす影響を表すグラフである。
【図8】抽出時の温度が炭素及び窒素の抽出量に及ぼす影響を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の方法では、家畜ふん堆肥の酸抽出液の吸光度と、該抽出液中の有機態窒素量(全窒素量ー(アンモニア態窒素量+硝酸態窒素量))との間の相関関係を示す回帰式を用いる。所定濃度の酸による抽出液の特定範囲の波長における吸光度と、該抽出液中の全窒素量からアンモニア態窒素量及び硝酸態窒素量を差し引いた窒素量(有機態窒素量)との間には、下記実施例に示す通り高い正の相関がある。従って、複数の家畜ふん堆肥の酸抽出液について吸光度と有機態窒素量とを分析して求めた回帰式を利用すれば、目的の堆肥試料の酸抽出液中の有機態窒素量を求めることができる。以下、本明細書において、回帰式を求めるために用いる複数の堆肥を「堆肥標本」といい、本発明の方法により可給態窒素含量を評価すべき堆肥を「堆肥試料」という。単に「堆肥」といった場合には、文脈からそうではないことが明らかな場合を除き、堆肥標本と堆肥試料の両者を指すものとする。
【0014】
堆肥の抽出に用いる酸は、水素イオン濃度が0.8 mol/L〜2.0 mol/L程度であり、好ましくは0.8〜1.2 mol/L程度、より好ましくは1.0 mol/L程度である。そのような酸の具体例としては、塩酸(0.8 mol/L〜2.0 mol/L)及び硫酸(0.4 mol/L〜1.0 mol/L)を挙げることができる。後述するように、塩酸を用いた場合には、他の成分(カルシウム等)の分析も含めたマルチ分析にも応用できるので有利である。酸の使用量は、堆肥1gに対して25〜75 mL程度、例えば50 mL程度である。この濃度の酸によれば、2M塩化カリウムを用いた常法では抽出できないアンモニア態窒素をも抽出することができる。硝酸態窒素は常法と同等に抽出できる。
【0015】
全窒素を抽出するための好ましい抽出温度は、25〜35℃程度、より好ましくは28〜32℃程度、特に好ましくは30℃程度である。下記実施例に記載されるように、抽出時の温度が高いと、抽出される全窒素の量は増大し、吸光度も上昇する。従って、回帰式を得るために用いる堆肥標本の抽出温度と、可給態窒素含量を評価すべき目的の堆肥試料の抽出温度は、大きくずれることは望ましくなく、一致させることが好ましい。例えば、堆肥標本を30℃で酸抽出して回帰式を得た場合、堆肥試料の酸抽出は30℃ないしはその付近(28〜32℃程度)で行なうことが好ましい。
【0016】
抽出時間は少なくとも30分間以上であればよく、例えば30〜120分間程度、特に60分間程度の抽出時間で好ましく抽出できる。特に限定されないが、例えば、上記した比率で堆肥(そのまま又は風乾後若しくは凍結乾燥後)を酸中に添加し、60分間振とうする振とう抽出、または、1分間程度振とうする前処理後30〜60分間程度静置する静置抽出により、好ましく抽出処理を行なうことができる。下記実施例に示される通り、上記振とう抽出も上記静置抽出も、窒素成分を同等に抽出可能である。振とう抽出の際の振とうの強度は特に限定されず、例えば200rpm程度でよい。静置抽出の場合に前処理として行なう振とうの強度は、堆肥を添加した塩酸を容器内に密閉し、容器を手で激しく振とうする程度でよい。なお、酸に堆肥を添加するとガスが発生するため、数分程度蓋を開けて初期に発生するガスを追い出してから密閉することに留意すべきである。
【0017】
抽出後、加圧濾過等により濾過して抽出液を回収する。回収された酸抽出液は、希釈せずにそのまま吸光度測定及び無機態窒素(アンモニア態窒素及び硝酸態窒素)の測定に用いることができる。
【0018】
抽出液の吸光度の測定は、400〜500nm、好ましくは420〜440nm、より好ましくは430nm程度で行なう。下記実施例に記載されるように、堆肥酸抽出液の吸光度と有機態窒素量との間には正の相関関係があり、400〜500nmの範囲のいずれにおいても正の相関関係が認められ、特に430nmにおいて相関係数が最も高い。
【0019】
酸抽出液のアンモニア態窒素量及び硝酸態窒素量の測定は、分光光度計等を用いて常法により容易に測定することができる。
【0020】
回帰式を求める場合、抽出液中の全窒素量からアンモニア態窒素量及び硝酸態窒素量を差し引いた値を有機態窒素量とし、各堆肥標本の抽出液についての吸光度と有機態窒素量を回帰分析する。抽出液中の全窒素量は、例えば硫酸分解−水蒸気蒸留法もしくはインドフェノール法等を用いて常法により容易に測定できる。例えば、下記実施例では、計158点の堆肥(牛ふん堆肥54点、豚ぷん堆肥51点、採卵鶏ふん堆肥35点、ブロイラーふん堆肥6点およびその他堆肥(剪定屑、米ぬかなどが主体の家畜ふん堆肥)12点)をそれぞれ1.0 mol/L塩酸で抽出し、抽出液の430nmにおける吸光度と有機態窒素量(全窒素量ー(アンモニア態窒素+硝酸態窒素))を測定し、下記の回帰式が得られている。
(式1) 有機態窒素量(g/kg)=8.49×吸光度(430nm)−0.40
【0021】
評価の精度を高める観点からは、可能な限り多数の堆肥標本を集めて、抽出液の吸光度及び有機態窒素量のデータを得ることが望ましい。回帰式は、一旦求めれば、その後も同一の回帰式を使用することができる。また、実施者自身が回帰式を求める必要は必ずしもなく、予め定められた回帰式を利用して本発明の方法を実施することができる。例えば、上記式1を用いてもよい。上記式1を用いる場合には、可給態窒素含量を評価すべき堆肥試料についても、1 mol/L塩酸を用いて30℃条件下で抽出処理を行なうことが望ましい。ただし、抽出操作は、上記した振とう抽出でも静置抽出でも同等に(1対1対応で)窒素成分を抽出できるため、いずれの操作を用いてもよい。
【0022】
本発明の方法により目的の堆肥試料の可給態窒素含量を評価する場合、上記した条件に則り堆肥試料を酸抽出し、該抽出液の吸光度、アンモニア態窒素量及び硝酸態窒素量を測定し、複数の堆肥標本から作成した又は予め定められた回帰式を用いて吸光度から有機態窒素量を求め、得られた有機態窒素量と測定したアンモニア態窒素量及び硝酸態窒素量を合計する。この合計値が、堆肥試料の可給態窒素含量の指標となる。このようにして求めた指標値は、従来の培養法により求めた堆肥の培養無機態窒素含量と相関が高く、また、栽培試験により確認した植物体の窒素吸収量とも相関が高い。従って、この指標値により堆肥の可給態窒素含量を好適に評価することができる。
【0023】
本発明の方法が適用できる家畜ふん堆肥としては、牛ふん堆肥、豚ふん堆肥、羊ふん堆肥、馬ふん堆肥、鶏ふん堆肥等のような種々の家畜ふん堆肥が挙げられる。また、家畜ふんのみからなるものに限らず、剪定屑等を主体に家畜ふんを混合して製造された堆肥にも本発明の方法を適用することができる。ただし、米ぬかを主体とした堆肥は、下記実施例に記載されるように、酸抽出性窒素と培養無機態窒素との相関が低く、本発明の方法を適用できない。米ぬか入り堆肥が相関関係から外れる理由の詳細は明らかではないが、米ぬかには低分子のタンパク質やアミノ酸が多く含まれ、これらの窒素分は腐植化度が低いために吸光度による評価ができないものと考えられる。家畜ふん堆肥のうち、牛ふん堆肥、豚ふん堆肥及び鶏ふん堆肥が好ましく、牛ふん堆肥及び豚ふん堆肥が特に好ましい。
【0024】
本発明の方法で適切に可給態窒素含量を評価できる堆肥は、尿酸態窒素含量が10 g/kg以下のものである。尿酸態窒素は酸性条件で抽出できないため、尿酸態窒素含量が非常に多い(10 g/kgを超える)家畜ふん堆肥については、本発明の方法で可給態窒素含量を評価するのは困難である。一方、尿酸態窒素含量が比較的多い堆肥であっても、その含量が10 g/kg以下であれば、酸により抽出される窒素量は培養法で測定した無機態窒素含量と高い相関を示すので(下記実施例参照)、本発明の方法を好ましく適用できる。尿酸態窒素含量が非常に多い堆肥の具体例としては、縦型密閉堆肥化装置で製造された鶏ふん堆肥等が挙げられる。鶏ふん堆肥は他の家畜ふん堆肥と比較して尿酸含量が高いが、例えば堆積方式や開放型方式によって製造された鶏ふん堆肥は一般に尿酸態窒素含量が低く、通常10 g/kg以下であるため、本発明の方法を好ましく適用可能である。尿酸態窒素含量が低い又は高い鶏ふん堆肥の種類は当業者に公知であり、上記例示に限定されるものではない。なお、尿酸態窒素含量が10 g/kgを超えることが予想される堆肥については、尿酸態窒素含量を実際に確認して本発明の方法の適用の可否を判断してもよい。堆肥の尿酸態窒素含量の測定方法は公知であり(非特許文献2等参照)、例えば、堆肥を0.067mol/L程度のリン酸緩衝液(pH7)で抽出し、市販の医薬用尿酸分析キット(例えば、WAKO 尿酸C-テストワコー等)によって発色し、分光光度計を用いて容易に測定することができる。
【0025】
なお、酸として塩酸を用いた場合、堆肥の塩酸抽出液はリン酸及び塩基(カリウム、マグネシウム、カルシウム)の分析にも用いることができ、堆肥成分のマルチ分析にも応用可能である。硫酸を用いて抽出すると、カルシウムと硫酸イオンが反応して不溶化合物を形成してしまうため、本発明の方法をマルチ分析に応用する場合には塩酸で抽出することが好ましい。もっとも、可給態窒素含量の評価自体は、下記実施例に示されるように硫酸でも可能である。抽出液中に含まれるリン酸及び塩基成分の測定自体は、市販の分析機器を用いて常法により容易に行なうことができる。塩基成分のうちマグネシウムは、60分振とう抽出と60分静置抽出では抽出量は同等であるが、静置抽出時間が長くなるに伴い抽出量が増大する(下記実施例参照)。従って、本発明の評価方法を他の各種成分の分析と併せて実施する場合、抽出処理としては、30℃の条件下で1分間振とう後60分間の静置抽出又は60分間振とう抽出が特に好ましい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0027】
1.塩酸抽出による家畜ふん堆肥可給態窒素の評価法の確立
材料および方法
1)抽出液の検討(予備試験)
全国で生産された堆肥27点(牛ふん堆肥14点、豚ぷん堆肥13点)を供試した。堆肥は風乾もしくは凍結乾燥後に粉砕し、試験に供した。全炭素、全窒素含量はNCアナライザー(Sumigraph NC-220F、住化分析センター)で分析した。
【0028】
抽出液として、水、0.1molL-1水酸化ナトリウム水溶液、0.067molL-1リン酸緩衝液(PB)(pH7)、0.5 molL-1硫酸を検討した。抽出の際は堆肥1gを遠心管に採取し、抽出液50mlを加えた後、恒温振とう機(30℃、200rpm)で1時間振とうした。遠心分離(3000rpm、5分間)後、上澄み液をろ過した。ろ液中のアンモニア態窒素、硝酸態窒素をオートアナライザー(SWAT2000、BLTEC)で、全炭素および全窒素を全有機炭素計(TOC-VCPN、Shimadzu)で測定した。尿酸態窒素は、非特許文献2に記載の方法に従い、鶏ふん堆肥を0.067molL-1リン酸緩衝液(pH7)で抽出し、医薬用の尿酸分析キット(WAKO 尿酸C-テストワコー)によって発色し、分光光度計を用いて定量した。また、500〜200nmにおける吸光度を分光光度計(U-2800A、HITACHI)で10nm毎に計測した。吸光度の測定は10mmのフローセルを用いて行った。
【0029】
培養無機態窒素の測定は以下のように行った。100ml容のUMガラス瓶に神奈川県平塚市の窒素肥沃度が極めて低い褐色低地土(pH6.6、EC 0.03 dSm-1、土壌無機態窒素含量8 mgNkg-1、112日培養後無機態窒素含量15 mgNkg-1、トルオーグリン酸364 mgP2O5kg-1、CEC20.4 cmolckg-1)の湿潤土を乾土として20g秤量し、堆肥を全窒素として5mg相当施用した。土壌水分は最大容水量の50%とし、温度は30℃に保った。培養開始0、28、112日目に2M塩化カリウム溶液を80ml加え抽出し、ろ液のアンモニア態窒素および硝酸態窒素含量を測定した。堆肥施用区と堆肥無施用(ブランク)区の無機態窒素量の差を堆肥由来の無機態窒素量とした。
【0030】
2)1.0 mol/L塩酸抽出
1)で供試した堆肥27点に加えて、131点を収集し、計158点の堆肥(牛ふん堆肥54点、豚ぷん堆肥51点、採卵鶏ふん堆肥35点、ブロイラーふん堆肥6点およびその他堆肥(剪定屑、米ぬかなどが主体の家畜ふん堆肥)12点)について1.0 molL-1塩酸抽出法を検討した。抽出条件は1)と同様であり、また、培養試験もすべての堆肥について行った。
【0031】
3)栽培試験
2)で検討した堆肥のうち12点(牛ふん堆肥4点、豚ぷん堆肥4点および採卵鶏ふん堆肥4点)を栽培試験に供し、神奈川県平塚市のJA全農営農・技術センター内の露地畑(培養試験に用いた土壌)でキャベツ(B.O.var.capitata)の栽培試験を行った。1区画5.6 m2で、栽植密度は6.0株/m2である。堆肥は乾物として1500 g/m2相当量を現物で施用した。処理区は堆肥を施用する12区に加えて慣行区(18 gN/m2)、窒素半量区(9 gN/m2)および無窒素区を設けた。試験は2連で行った。慣行区の窒素施肥は硫安で行い、充分量のリン酸およびカリウムをそれぞれ重過石および塩化カリウムを用いて施用した。
【0032】
耕種概要は以下のとおりである。キャベツ(品種:輝岬)定植一週間前に堆肥の施用、混和を行った。その他の肥料は定植直前に施肥をした。1作目キャベツの定植は2007年10/17に行い、収穫は2008年3/14であった。窒素溶脱を最小限にするためにマルチ栽培で行った。
【0033】
結果および考察
1)各種抽出液による抽出窒素形態および抽出液吸光度(予備試験)
予備試験に供した堆肥27点の性質を表1に示した。全窒素含量、全炭素含量、CN比、およびpHは一般的な堆肥の値(財団法人畜産環境整備機構:家畜ふん堆肥の肥効を取り入れた堆肥成分表と利用法、p1〜44(2007))と類似した。表2には各種抽出液で抽出された全窒素、アンモニア態窒素、硝酸態窒素、有機態窒素含量および抽出液の吸光度(420nm)を示した。吸光度の測定波長は土壌リン酸緩衝液抽出液の窒素含量の推定に用いられている420nmを採用した。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
抽出全窒素量は牛ふん堆肥、豚ぷん堆肥のいずれにおいても1molL-1NaOHによる抽出量が最も大きかった。牛ふん堆肥では0.5 molL-1硫酸による抽出量が小さかったが、豚ぷん堆肥では0.067 molL-1PBや水と同等であった。抽出アンモニア態窒素量は牛ふん堆肥、豚ぷん堆肥のいずれにおいても0.5 molL-1硫酸による抽出量が最も高かった。それは特に豚ぷん堆肥で顕著であった。これは、棚橋(非特許文献10)が示したように、堆肥中に含まれるリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)の溶解性が低pH条件で高いことによるものと考えられた。硝酸態窒素の抽出量は抽出液によって大きく異ならなかった。
【0037】
抽出全窒素含量と培養112日無機態窒素含量との関係を検討したところ、いずれの抽出全窒素量も培養無機態窒素含量との間に有意な正の相関が認められた。さらに、各種抽出液の吸光度と抽出有機態窒素(全窒素−(アンモニア態窒素+硝酸態窒素))含量との関係を調べたところ、1molL-1NaOH、0.067 molL-1PBおよび水抽出液の吸光度と抽出有機態窒素量との間には明確な関係はなかったが、0.5molL-1硫酸抽出液吸光度との間には極めて高い正の相関が認められた。これらの結果及び表1に示した吸光度から、硫酸以外の抽出液では腐植化度の高い有機物が抽出されたことが相関低下の原因と推察される。
【0038】
2)堆肥の塩酸抽出成分
1)の予備試験より、堆肥の0.5molL-1硫酸抽出は酸可溶性のアンモニア化合物が抽出される点、吸光度から可給態窒素の一部と考えられる抽出液中の有機態窒素量を推定できる点において有効と考えられた。しかし、硫酸は抽出の際、硫酸カルシウムの沈殿を生じ、塩基成分を含めたマルチ抽出には不向きと考えられた。そこで、0.5molL-1硫酸と酸濃度が等しい1.0molL-1塩酸抽出の検討を行った。
【0039】
表3に供試堆肥の成分および塩酸抽出液の特徴を示した。全窒素含量およびC/N比は、おおむね一般的な家畜ふん堆肥の値(財団法人畜産環境整備機構:家畜ふん堆肥の肥効を取り入れた堆肥成分表と利用法、p1〜44(2007))と類似した。塩酸で抽出される全窒素含量(以下、HCl-TN)は採卵鶏ふん堆肥(10.4 gkg-1)、ブロイラー鶏ふん堆肥(10.2)、豚ぷん堆肥(8.3)、牛ふん堆肥(2.9)の順であった。採卵鶏ふん堆肥や豚ぷん堆肥では塩酸で抽出されるアンモニア態窒素含量(以下、HCl-AN)が高く、牛ふん堆肥では硝酸態窒素含量(以下、HCl-NN)が高い傾向であった。
【0040】
【表3】

【0041】
いずれの畜種もHCl-TNの半分以上は有機態窒素(HCl-ON)であった。塩酸抽出液の全有機態炭素(すなわち表中の「全炭素」)/有機態窒素比は、牛ふん堆肥、豚ぷん堆肥、採卵鶏ふん堆肥、ブロイラー鶏ふん堆肥およびその他堆肥でそれぞれ9.6、8.5、6.1、5.8および11.1であった。土壌の可給態窒素含量推定に有効とされる土壌リン酸緩衝液抽出液(分子量6000〜8000以上)のC/N比の一例(樋口太重:緩衝液で抽出される有機窒素化合物の性質について、土肥誌、53、p.1〜5(1982))(約10)と比較すると、牛・豚ふん堆肥では同等であり、また鶏ふん堆肥では低く、HCl-ONは土壌中で分解されやすい有機物であると考えられた。
【0042】
3)培養法と塩酸抽出法との関係
図1には培養28日、112日における堆肥由来の無機態窒素含量を示した。培養112日における無機態窒素含量はブロイラーふん堆肥(11.2gkg-1)で最も高く、次いで採卵鶏ふん堆肥(10.7)、豚ぷん堆肥(7.2)、その他(1.8)、牛ふん堆肥(1.1)の順であった。いずれの畜種も変動が大きく、すべての畜種で変動係数は50%以上であった。このことからも、堆肥施用にあたっては個々の堆肥について、その可給態窒素含量の測定が重要であることが明らかである。培養法は直接的に堆肥中の可給態窒素含量を測定することが可能であるが、一方では時間がかかる、分析が手間であるなどの問題もある。図2には、HCl-TNと培養112日における堆肥由来の無機態窒素含量との関係を示した。回帰直線の傾きは1に近く、また切片も0に近いことから、塩酸で抽出される窒素によって可給態窒素の簡易推定が可能である。この結果は1)の予備試験の結果と同様であった。ただし、鶏ふん堆肥に含まれる尿酸は酸不溶であるため、尿酸態で存在する窒素分は評価ができない。図2では尿酸態窒素含量が10gkg-1を超える鶏ふん堆肥はプロットから除外した。
【0043】
4)可給態窒素含量の推定法
1)予備試験の結果より硫酸抽出液の吸光度と抽出液中の有機態窒素量との間に正の相関関係があることを示した。同様に、図3に塩酸抽出液の吸光度(430nm)とHCl-ONとの相関を示した。400〜500nmの範囲において10nm毎検討した結果、いずれの吸光度においても正の相関関係は認められたが、最も相関係数が高かった430nmを採用した。回帰式は、
HCl-ON(gkg-1)=8.49×吸光度(430nm)−0.40(r=0.88***)
となった。
【0044】
本試験においては1.0molL-1塩酸で抽出される窒素を可給態窒素とし、以下の式により推定した。
推定可給態窒素含量(gkg-1
=[HCl-TN(gkg-1)]
=[HCl-ON(gkg-1)] + [HCl-AN(gkg-1)] + [HCl-NN(gkg-1)]
=[8.49×吸光度(430nm)−0.40] + [HCl-AN(gkg-1)] + [HCl-NN(gkg-1)]
【0045】
本推定法を用いれば、分解操作等をすることなく、可給態窒素含量が推定可能である。図4には推定可給態窒素含量とHCl-TNおよび堆肥由来培養無機態窒素含量との関係を示した。両者ともに相関関係が高く、いずれの回帰式の傾きも1に近かった。相関が高かった理由として、実測値である無機態窒素含量(HCl-ANおよびHCl-NN)のHCl-TNに占める割合が28〜48%と高かったことが考えられた。以上の結果より、塩酸抽出液の吸光度を利用した家畜ふん堆肥の可給態窒素の推定が可能であった。
【0046】
5)圃場試験
表4には、圃場試験における施肥設計と供試堆肥の窒素形態を示した。牛ふん堆肥について、推定可給態窒素含量が低いものから順に牛A、牛B、牛C、牛Dとした。豚ぷんおよび鶏ふん堆肥についても同様である。
【0047】
【表4】

【0048】
収穫時の新鮮重を調べたところ、牛ふん堆肥では牛Cおよび牛Dの生育が良好であった。これは、牛CはHCl-ANが高く、牛DはHCl-NNが高かったためと考えられた。豚ぷん堆肥では豚Dが塩酸抽出液吸光度、HCl-ANおよび推定可給態窒素含量が最も高かったのにも関わらず収量は豚Cに劣った。豚Dは凝集材処理された汚泥を含む堆肥であり、初期生育が明らかに抑制されていたことから何らかの生育阻害が起きていたと考えられた。鶏ふん堆肥では尿酸態窒素を大量(28.2gkg-1)に含む鶏Dが最も高い収量であった。
【0049】
図5には収穫時の窒素吸収量および推定可給態窒素施用量を示した。牛ふん堆肥、豚Dを除く豚ぷん堆肥および鶏Dを除く鶏ふん堆肥では、推定可給態窒素施用量の増加とともに窒素吸収量は増加した。図6に、推定可給態窒素施用量と堆肥由来窒素吸収量(堆肥区の窒素吸収量−無窒素区の窒素吸収量)との関係を示した。両者の相関は高く、塩酸抽出液の吸光度を利用した可給態窒素含量の推定法が有効であることを示している。
【0050】
一方で、鶏Dについては大きく相関から外れたため相関図から除外した。尿酸は酸性条件では抽出されないため、鶏Dのように尿酸を大量に含む鶏ふん堆肥については本推定法による可給態窒素の推定は困難であると考えられた。本試験に供試した採卵鶏ふん堆肥(n=35)の尿酸態窒素含量の平均値は4.7 gkg-1であった。栽培試験において、鶏Bは4.8 gkg-1の尿酸態窒素を含有していたが、栽培試験結果より本推定法の適用は可能であると判断した。従って、縦型密閉堆肥化装置で製造された鶏ふん堆肥など大量の尿酸態窒素を含有する鶏ふん堆肥を除けば、本推定法は鶏ふん堆肥に対しても適用可能である。
【0051】
2.可給態窒素評価法の簡易化をめざした塩酸抽出条件の検討
材料と方法
1)供試堆肥
市販の牛ふん堆肥、豚ぷん堆肥、採卵鶏ふん堆肥それぞれ4試料の計12試料を用いた(表5).
【0052】
【表5】

【0053】
2)1molL-1塩酸の抽出温度が成分抽出量に及ぼす影響(試験1)
30℃での恒温条件が必要かどうかを検討するために、温度条件が成分抽出量に及ぼす影響を検討した。抽出条件は、抽出温度は10、20、30、40℃とし、供試堆肥1gに対し、1molL-1塩酸50mLを加え、60分間振とう抽出を行ったのち、遠心、ろ過により抽出液を得た。抽出液について、430nm吸光度、全窒素、全炭素、リン酸、カルシウム、マグネシウム、カリウムについて分析した。
【0054】
3)1molL-1塩酸抽出の簡易抽出条件法の検討(試験2)
60分の振とう抽出ではなく、より簡易的な装置での抽出法として静置法による抽出を検討した。表5で示した試料のうち、牛ふん-2、豚ぷん-2、鶏ふん-3の各畜種1種類の堆肥を用い、抽出条件の事前検討を行い、条件決定後、表5のすべての堆肥について分析を行った。抽出条件の事前検討は次のとおり行った。あらかじめ密閉可能な抽出容器に1molL-1塩酸50mLを入れ、30℃となるように調整したのち、堆肥1gを加え、蓋をあけたまま、軽く横に振とうし、初期に発生するガスを追い出した。その後、直ちに密閉し、1分間手で激しく上下に振とうした。さらに、30℃の定温条件で0、15、30、60、120、960分静置したのち、加圧ろ過し、抽出液を得た。抽出液について、430nm吸光度、りん、カルシウム、マグネシウム、カリウムについて分析した。
【0055】
4)分析方法
抽出液の分析は次のとおり行った。吸光度については、分光光度計(日立製作所製)にて測定した。全窒素、全炭素について全有機炭素計(TOC-VCPN、島津製作所製)により分析した。リン酸および塩基(カリウム、マグネシウム、カルシウム)については、ICP(SPS-3000,セイコーインスツルメンツ製)により測定した。また、無機態窒素については、抽出液を活性炭にて脱色したのち、オートアナライザー(ビーエルテック製)で測定した。
【0056】
結果と考察
1)1molL-1塩酸の抽出温度が成分抽出量に及ぼす影響(試験1)
いずれの各種家畜ふん堆肥でも、1molL-1塩酸による抽出温度が高いほど、塩酸抽出液の430nmの吸光度が上昇する傾向が認められた(図7)。また、全窒素、全炭素についても、ほとんどの試料で抽出温度の上昇に伴って抽出量が増加する傾向を示し、特に全炭素は抽出温度による影響が大きかった(図8)。
【0057】
吸光度により有機態窒素を推定する手法については、土壌のリン酸緩衝液抽出による可給態窒素量の推定において報告がある(非特許文献8)。特に柳井ら(非特許文献9)は、土壌をリン酸緩衝液での抽出液の420nm吸光度に及ぼす温度の影響について検討しており、10〜30℃の温度上昇に伴い吸光度が増加したこと、抽出温度はアレニウスの法則の適用により、標準温度20℃への換算が可能であることを報告している。今回行った堆肥の塩酸抽出液の吸光度も柳井が報告した土壌のリン酸抽出と同様な結果であり、抽出温度の上昇に伴い吸光度が増加した。したがって、塩酸抽出液の吸光度によって抽出液の有機態窒素を推定する際には抽出時の温度を考慮しなくてはいけないことが明らかになった。
【0058】
一方、リン酸、カルシウム、カリウムの抽出量は温度による影響は小さく、10℃の条件でも、今回の処理温度によって得られた最大抽出量とほぼ同等の抽出量であった(データ略)。ただし、マグネシウムについては、豚ぷん堆肥、鶏ふん堆肥については抽出温度の影響は大きくないものの、牛ふんのマグネシウムについては、供試した4堆肥のうち3つの堆肥で温度が高いほど抽出量が上昇する傾向が認められた。
【0059】
2)1molL-1塩酸抽出の簡易抽出法の検討(試験2)
塩酸抽出のより簡易な抽出法として静置抽出による検討を行った。供試した3つの家畜ふん堆肥の1molL-1抽出液の430nmの吸光度は、1分振とう後15分間静置抽出において、60分振とう抽出によって得られる吸光度とほぼ同等であり、さらに静置時間を960分としても、吸光度に大きな変化は認められなかった。
【0060】
リン酸、塩基成分のカルシウム及びカリウム、並びに無機態窒素については、静置抽出時間が30分以上であれば、ほぼ60分振とう抽出と同等の抽出の量、吸光度が得られた(データ略)。豚ぷん、鶏ふん堆肥のマグネシウムについては、1分振とうのみでも60分振とうと同程度の抽出量であった。一方、牛ふん堆肥のマグネシウムについては、60分振とう抽出と60分静置抽出は同等の抽出量であったものの、静置抽出時間が長くなるに伴い、マグネシウム抽出量は増大した。
【0061】
これらの結果から、静置抽出により60分間振とう抽出と同等の結果を安定的に得るための条件としては、堆肥の可給態窒素含量を評価する場合には、30℃の条件下で1分間振とう後30分以上の静置処理で十分であること、また、他の各種成分も併せて分析する場合には、30℃の条件下で1分間振とう後60分間の静置処理が好ましいことが考えられた。
【0062】
さらに本条件を検証するため、試料数を増やして評価を行った。その結果、1分振とう+静置抽出時間60分によって得られた各種家畜ふん堆肥の430nmの吸光度、リン酸、塩基成分、無機態窒素量の抽出量は、60分振とう法と量的にもほぼ1対1に対応した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(d)の工程を含む、家畜ふん堆肥の可給態窒素含量の評価方法。
(a) 家畜ふん堆肥試料を水素イオン濃度0.8 mol/L〜2.0 mol/Lの酸で抽出する。
(b) (a)で得られた抽出液について、400nm〜500nmの範囲内のいずれかの波長における吸光度、アンモニア態窒素量及び硝酸態窒素量を測定する。
(c) 家畜ふん堆肥の塩酸抽出液の吸光度と抽出液中有機態窒素量との相関関係を表す回帰式を用いて、(b)で得られた吸光度測定値から堆肥試料抽出液の有機態窒素量を求める。
(d) (b)で得られたアンモニア態窒素量及び硝酸態窒素量と、(c)で得られた有機態窒素量との合計値を指標として、家畜ふん堆肥試料の可給態窒素含量を評価する。
【請求項2】
前記酸が、0.4 mol/L〜1.0 mol/L硫酸又は0.8 mol/L〜2.0 mol/L塩酸である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記酸が0.8 mol/L〜2.0 mol/L塩酸である請求項2記載の方法。
【請求項4】
420〜440nmの範囲内のいずれかの波長における吸光度を用いる請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
堆肥試料の塩酸抽出における抽出温度が25〜35℃である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記抽出温度が28〜32℃である請求項5記載の方法。
【請求項7】
堆肥試料の塩酸抽出は堆肥(g):塩酸(mL)=1:25〜1:75で行なわれる請求項1ないし6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記家畜ふん堆肥は、尿酸態窒素含量が10 g/kg以下である請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記家畜ふん堆肥は牛ふん堆肥又は豚ふん堆肥である請求項1ないし8のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−197340(P2010−197340A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45523(P2009−45523)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本土壌肥料学会講演要旨集第54集、第154頁、2008年9月9日発行
【出願人】(000201641)全国農業協同組合連合会 (69)
【Fターム(参考)】