説明

容器の溶接方法、及びこれを用いた二次電池の製造方法

【課題】溶接部内における気孔の発生を防止可能な容器の溶接方法、及びこれを用いた二次電池の製造方法を提供する。
【解決手段】開口面を有する収納部11、及び収納部11の開口面を塞ぐ蓋部12からなる容器10を具備する二次電池1の製造工程S1であって、密閉した容器10の内部が外部に対して減圧状態となるように、減圧ポンプ40を用いて、容器10の内部と外部との間に差圧を発生させた状態で、収納部11と蓋部12との接触部分を溶融させ、当該溶融部分が容器10の内部に到達するまで、容器10の側面全周に亘って溶接を行う溶接工程S12を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器の溶接方法、及びこれを用いた電池の製造方法に関し、特に金属製の密閉容器の溶接部内における気孔の発生を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二次電池の容器のように、上面が開口された収納部と、当該収納部の開口面を塞ぐ蓋部とを具備する金属製の密閉容器に対し、収納部と蓋部とを接合するための溶接が行われている。
【0003】
上記のような容器に対する溶接においては、収納部と蓋部とを接触させた状態で、それらの接触部分をレーザによって溶融させ、当該溶融部分を凝固させることで、収納部と蓋部とを接合している。
この時、収納部と蓋部との接合部分の強度を担保するために、溶接深さを所定以上(例えば、0.3mm以上)とする必要がある。そこで、このような溶接深さを実現するために、溶接時における金属の蒸発による反力で生じる穴を利用した、所謂、キーホール型レーザ溶接が行われる。
【0004】
キーホール型レーザ溶接によれば、上記のような溶接深さを達成できるが、高いパワー密度のレーザにより、溶融される金属(例えば、アルミニウム合金)に含まれる水素等の不純物が気化し、金属の溶融部分が凝固することで形成される溶接部内に気孔として残存することとなる。そのため、溶接部、つまり収納部と蓋部との接合部分の強度を所望のものとすることができない等の問題が生じる。
【0005】
特許文献1には、溶接対象となる金属として、水素の含有量を比較的少なく規制した金属を採用することで、溶接部内における気孔の発生を抑制する技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、溶接対象となる金属に微量ながら水素が含まれることとなる点で不利である。また、溶接対象となる金属そのものが気化することによって形成される気孔の発生を抑制することができないという点においても不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−118783公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、溶接部内における気孔の発生を防止可能な容器の溶接方法、及びこれを用いた二次電池の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の容器の溶接方法は、開口面を有する収納部と、前記収納部の開口面を塞ぐ蓋部と、を具備する容器の溶接方法であって、密閉した前記容器の内部が外部に対して減圧状態となるように、当該容器の内部と外部との間に差圧を発生させた状態で、前記収納部と前記蓋部との接触部分を溶融させ、当該溶融部分が前記容器の内部に到達するまで、前記接触部分の全域に亘って溶接を行う。
【0010】
本発明の容器の溶接方法において、前記容器の溶接には、キーホール型レーザ溶接が適用されることが好ましい。
【0011】
本発明の容器の溶接方法において、前記差圧は、22〜70[kPa]とすることが好ましい。
【0012】
本発明の二次電池の製造方法は、前記容器を具備する二次電池の製造方法であって、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の容器の溶接方法を用いて、前記容器を溶接する溶接工程を具備する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る容器の溶接方法によれば、溶接部内における気孔の発生を防止できる。
また、本発明に係る二次電池の製造方法によれば、二次電池の容器の強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る二次電池を示す図。
【図2】本発明に係る二次電池の製造工程を示すフローチャート。
【図3】収納部と蓋部との接触部分を示す端面図。
【図4】溶接工程における容器の外部の様子を示す図。
【図5】溶接工程における容器の内部の様子を示す端面図。
【図6】容器の内部と外部との差圧が比較的大きい場合における溶接工程の様子を示す端面図。
【図7】容器の内部と外部との差圧が比較的小さい場合における溶接工程の様子を示す端面図。
【図8】容器の内部と外部との差圧と、溶接部の溶接肉厚との関係を示す図。
【図9】収納部の側板に形成された隔壁部を示す端面図。
【図10】収納部の側板に形成された切欠部を示す端面図。
【図11】収納部の側板に形成された隔壁部及び切欠部を示す図。
【図12】容器の溶接位置と、容器の内部と外部との差圧との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、図1を参照して、本発明に係る二次電池1について説明する。
なお、説明の便宜上、図1における上下方向を二次電池1の上下方向と規定する。
【0016】
図1に示すように、二次電池1は、図示せぬ電極体、及び電解液が収納される容器10と、前記電極体の正極及び負極に接続される端子20・20とを具備する。
【0017】
容器10は、アルミニウム合金からなる密閉型の容器であり、二次電池1の外装として用いられる。容器10は、収納部11、及び蓋部12から構成されている。
【0018】
収納部11は、上面が開口した略直方体形状を有する箱状部材である。
【0019】
蓋部12は、収納部11の開口面の外周形状に応じた形状を有する平板状部材である。蓋部12は、収納部11の開口面(上面)を覆うように、前記電極体が内部に収納された状態の収納部11の上端部に当接される。この状態で、レーザ等により収納部11と蓋部12との接触部分が溶融され、当該溶融部分が凝固することで溶接部30が形成されて、収納部11と蓋部12とが接合される。つまり、蓋部12の下面に収納部11の上端部が接触した状態で、収納部11と蓋部12とが溶接されることとなる。
【0020】
また、蓋部12には、前記電解液を注液するための開口部である注液口13が容器10の内部と外部とを連通するように形成されている。収納部11と蓋部12とが溶接された後、注液口13から前記電解液が注液され、注液口13が封止材14により封止される。
更に、蓋部12には、端子20・20が貫通可能な開口部が二つ形成されており、これらの開口部に端子20・20を貫装し、固定することによって、最終的に端子20・20が容器10の外部に突出した状態で固定されることとなる。
【0021】
端子20・20は、アルミ、又は銅等の金属からなる部材である。端子20・20の一端部は、それぞれ前記電極体の正極及び負極と電気的に接続され、端子20・20の他端部は、容器10の外部に向けて蓋部12から突出するように配置される。
【0022】
以下では、図2〜図12を参照して、本発明に係る二次電池の製造方法の一実施形態である、二次電池1の製造工程S1について説明する。
【0023】
図2に示すように、製造工程S1は、収納工程S11、溶接工程S12、注液工程S13を具備する。
【0024】
収納工程S11は、前記電極体を容器10の内部に収納する工程である。
収納工程S11においては、端子20・20の一端をそれぞれ前記電極体の正極及び負極に接続すると共に、端子20・20の他端を蓋部12に貫通させて、これらを一体化した状態で、前記電極体を収納部11の開口面から内部へと収納する。
この時、図3に示すように、蓋部12に形成された当接部12aの下端部と、収納部11の側板11aの上端部とが当接するように、収納部11の開口面(上面)が蓋部12によって閉塞される。
当接部12aは、蓋部12の外縁部がその全周に亘って、蓋部12の下面から上方に向けて切り欠けることによって形成されている。つまり、蓋部12において、当接部12aの厚み(上下寸法)は、それ以外の部分の厚みよりも小さくなっている。当接部12aは、蓋部12の外縁部から収納部11の側板11aの内周面よりも若干内側(図3における左側)の位置まで形成されており、当接部12aに側板11aが当接した状態で、側板11aの内周面と蓋部12との間に所定のクリアランスが形成されている。
なお、本実施形態においては、収納工程S11の前に、前記電極体が作製されているものとし、前記電極体は一般的な二次電池に用いられる公知なものであるため、その作製方法についての詳細な説明は省略する。
【0025】
図2に示すように、収納工程S11の後は、溶接工程S12が行われる。
溶接工程S12は、容器10に対して溶接を行う工程であり、本発明に係る容器の溶接方法の実施の一形態である。
【0026】
図4に示すように、溶接工程S12においては、まず、蓋部12に対して、収納部11をエアシリンダ等のアクチュエータ(不図示)により所定の押圧力で当接させると共に、吸引管41を介して注液口13に減圧ポンプ40を取り付けて容器10を密閉する。
減圧ポンプ40は、容器10の内部を減圧するポンプであり、容器10の内部が外部に対して減圧状態となるように、容器10の内部と外部との間に差圧を発生させる手段として機能する。
吸引管41は、容器10の内部と減圧ポンプ40とを連通する管である。
【0027】
次に、減圧ポンプ40によって、容器10の内部を減圧する。
この状態で、容器10の側面全周に亘って、収納部11と蓋部12との溶接が行われる。
詳細には、図5に示すように、収納部11の側板11aと、蓋部12の当接部12aとの接触部分がその全域に亘ってレーザによって溶融される。
この時、レーザによる容器10の溶融部分が容器10の内部まで到達するように、容器10を成すアルミニウム合金の蒸発による反力で生じる穴を利用した、所謂、キーホール型レーザ溶接が行われる。
ここで、キーホール型レーザ溶接は、深溶け込みが可能な溶接方法であり、レーザの出力を大きくすること、又はレーザの集光径を小さくすること等を行い、溶接対象となる金属を急激に蒸発させる程度にまでレーザのパワー密度を高めることによって実現される。
【0028】
このように、減圧ポンプ40によって容器10の内部を減圧しつつ、容器10の内部まで到達するように容器10の溶融が行われるため、側板11aの内周面と蓋部12との間に形成されたクリアランスから容器10の内部に向けて容器10の溶融部分が吸引される。
ここで、容器10の溶融部分には、容器10を成すアルミニウム合金に含まれる水素等の不純物、及びアルミニウム合金そのものが気化することによって発生した気体が含まれており、当該気体は、容器10の溶融部分におけるレーザの照射部から遠い部分、つまり容器10の内部に近い部分に多く残存することが明らかとなっている。
そのため、上記のように、減圧ポンプ40によって容器10の内部から容器10の溶融部分を吸引しつつ溶接を行うことで、前記気体が容器10の溶融部分から除去されることとなる。
これにより、容器10の溶融部分が凝固し、溶接部30が形成された際に、溶接部30内に前記気体が気孔C(図7参照)として残存することを防止することができる。
したがって、溶接部30の溶接肉厚(溶接部30の外側面から容器10の内部までの寸法であって、図5におけるD参照)を充分な値(本実施形態においては、0.3mm以上)とすることができ、容器10の強度の低下を防止することができる。
なお、本実施形態においては、減圧ポンプ40によって容器10の内部を減圧することで、容器10の内部と外部との間に差圧を設けたが、容器10の内部を外部に対して減圧状態とすることができれば、その手段は問わない。例えば、密閉状態とした容器10の外部を加圧することによって、容器10の内部と外部との間に差圧を設けてもよい。
【0029】
なお、減圧ポンプ40による容器10の内部の減圧は、容器10の内部と外部との差圧が適切な値となるように行われる。
例えば、容器10の内部と外部との差圧が適切な値よりも大きい場合には、図6の如く、容器10の溶融部分に対して過剰吸引となって、溶接部30の外側面が容器10の内部側へと過剰に窪み、充分な溶接肉厚(図6におけるD参照)を有する溶接部30を形成できないばかりか、容器10の溶融部分が容器10の内部へと落下し、容器10の内部に収納された前記電極体等に悪影響を及ぼすおそれがある。
また、容器10の内部と外部との差圧が適切な値よりも小さい場合には、図7の如く、容器10の溶融部分に対して吸引不足となって、前記気体を容器10の溶融部分から充分に除去できず、溶接部30に形成された気孔Cの分だけ溶接部30の溶接肉厚(図7におけるD参照)が薄くなるという問題が生じる。
そのため、図8に示すように、容器10の内部と外部との差圧が22〜70[kPa]となるように、減圧ポンプ40による容器10の内部の減圧を行うことが好ましい。
図8は、容器10の内部と外部との差圧と、溶接部30の溶接肉厚との関係を示す図であり、容器10の内部と外部との差圧が22〜70[kPa]の範囲にあるときは、溶接肉厚が0.3mm以上の溶接部30を形成できることが確認できる。
【0030】
また、図9に示すように、側板11aの内周面と蓋部12との間に形成されたクリアランスを確保した状態で、当該クリアランスと容器10の内部とが連通しないように、側板11aの内周面に隔壁部11bを形成してもよい。
隔壁部11bは、側板11aの内周面における蓋部12の下端部以下に位置する部分を容器10の内部に向けて突出させ、当該突出部分と蓋部12の下端部とが接触するように形成される。
なお、隔壁部11bを側板11aの内周面全周に亘って形成すると、前記クリアランスと容器10の内部とが連通せず、減圧ポンプ40による容器10の溶融部分の吸引が不可能となる。そのため、図10及び図11に示すように、前記クリアランスと容器10の内部とを連通させるための切欠部11cが隔壁部11bの一部分に形成される。
切欠部11cは、隔壁部11bにおける蓋部12の下端部との接触部分を切り欠くように形成され、側板11aの内周面における一箇所に配置される。
【0031】
このように、収納部11の側板11aに隔壁部11b及び切欠部11cを形成することで、減圧ポンプ40による容器10の溶融部分の吸引が行われた際に、当該溶融部分の一部が容器10の内部に落下することを抑制することができる。
なお、本実施形態においては、収納部11の側板11aに隔壁部11bを形成したが、その代わりとして蓋部12に同様の隔壁部を形成することも可能である。
【0032】
なお、図12に示すように、容器10における切欠部11c近傍の部分に対して溶接を行う際には、容器10の内部と外部との差圧を比較的小さく設定し、溶接位置が切欠部11cから離間するに従って、容器10の内部と外部との差圧を徐々に大きく設定することが好ましく、この時設定される差圧の範囲は、隔壁部11b及び切欠部11cが形成されていない場合と同様に、22〜70[kPa]とすることが更に好ましい。
これにより、切欠部11cから容器10の溶融部分が容器10の内部に落下することを抑制しつつ、良好に容器10の溶接を行うことができる。
なお、図12は、容器10の溶接位置と、容器10の内部と外部との差圧との関係を示す図であり、容器10の側面における切欠部11cが位置する部分から溶接を開始し、容器10の側面全周に対して連続的に溶接を行い、再び容器10の側面における切欠部11cが位置する部分に戻ってくるまでの間における、容器10の内部と外部との差圧の変化が示されている。
【0033】
図2に示すように、溶接工程S12の後は、注液工程S13が行われる。
注液工程S13は、前記電極体が収納された容器10の内部に前記電解液を注液する工程である。
注液工程S13においては、容器10の蓋部12に形成された注液口13から容器10の内部に前記電解液を注液する。その後、注液口13を封止材14で塞いだ状態で、蓋部12に封止材14を溶接等により固定することで、注液口13を封止する。
【0034】
注液工程S13の後は、公知の所定の工程(初期充電工程、エージング工程等)を経ることで二次電池1が製造されることとなる。
【0035】
以上のように、二次電池1の製造工程S1において、溶接工程S12を行うことにより、容器10に形成される溶接部30の溶接肉厚を良好な値とすることができ、延いては二次電池1の容器10の強度を向上させることができる。
【0036】
なお、本実施形態における二次電池1の容器10は、所謂、角型の容器であって、収納部11の上端部と蓋部12の下面とが接触する構成となっているが、円筒状の容器又は、蓋部の外縁部が収納部の内周面に接触するように構成された容器等に対しても同様に本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 二次電池
10 容器
11 収納部
11a 側板
11b 隔壁部
11c 切欠部
12 蓋部
12a 当接部
13 注液口
14 封止材
20 端子
30 溶接部
40 減圧ポンプ
41 吸引管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口面を有する収納部と、
前記収納部の開口面を塞ぐ蓋部と、を具備する容器の溶接方法であって、
密閉した前記容器の内部が外部に対して減圧状態となるように、当該容器の内部と外部との間に差圧を発生させた状態で、
前記収納部と前記蓋部との接触部分を溶融させ、当該溶融部分が前記容器の内部に到達するまで、前記接触部分の全域に亘って溶接を行うことを特徴とする容器の溶接方法。
【請求項2】
前記容器の溶接には、キーホール型レーザ溶接が適用されることを特徴とする請求項1に記載の容器の溶接方法。
【請求項3】
前記差圧は、22〜70[kPa]とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の容器の溶接方法。
【請求項4】
前記容器を具備する二次電池の製造方法であって、
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の容器の溶接方法を用いて、前記容器を溶接する溶接工程を具備することを特徴とする二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−200768(P2012−200768A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68412(P2011−68412)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】