説明

容器用有機樹脂フィルム被覆鋼板

【課題】耐食性に優れた容器用有機樹脂フィルム被覆鋼板を提供する。
【解決手段】鋼板を容器成形した後に容器外面側になる鋼板表面上に、容器成形後の全層の酸素透過係数が5×103cm3・cm/m2・24h・atm以下(38℃)で、かつ、水蒸気透過係数が2.0g・mm/m2/24h以下(38℃、90%RH)となる有機樹脂フィルムを被覆する。例えば、有機樹脂フィルムとしてポリアクリロニトリル系樹脂を用い、その表層にテトラメチルジシロキサンを被覆するシリコーン処理すなわち撥水化処理を行う。その結果、酸素透過係数および水蒸気透過係数が所定の値以下となり、容器成形後の容器外面側は良好な耐食性を示すことになる。有機樹脂フィルムとしては、他にエチレン・ビニルアルコール共重合体樹脂を用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器用有機樹脂フィルム被覆鋼板、特に容器成形後の耐食性に優れた容器用有機樹脂フィルム被覆鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
製缶業界では、環境問題への対応のため、近年、塗装に代わって、有機樹脂フィルムをラミネートした素材が使用されている。塗装時には、塗料や有機溶剤及びそれらから揮発する排気ガスの処理や使用後の廃塗料・廃溶剤が環境問題となっており、それらの処理コストは製缶業界の負担となっているためである。さらに、京都議定書で定められた二酸化炭素排出量の低減目標を達成するためには、塗装後の焼付け・乾燥のために使用される炉から排出される二酸化炭素もその低減が必要とされている。また、製缶業界においては、複数回にも及び塗装工程を省略できれば製缶コストの低減が可能となる。このような事情から、金属板に有機樹脂フィルムをラミネートした素材の重要性は今後もさらに高まるものと考えられる。
【0003】
上記事情を受けて、飲料缶や食品缶詰等に使用される素材として、食品安全性に優れ、さらに耐内容物性にも優れた特性を有するポリエステル樹脂をラミネートした素材の使用量が年々増加しつつある。
そして、ポリエステル樹脂をラミネートした鋼板の製造方法が多く提案されている。
例えば、特許文献1では、ポリエステルフィルムを、フィルムの融点以上の温度で熱融着することを必須条件とし、金属板の界面近傍には低配向層が生成し、この樹脂層が金属板との密着性を向上させている。これは、有機樹脂層が低配向化されることにより、金属板に濡れやすくなるためである。
また、特許文献2および特許文献3では、金属板の界面近傍の樹脂層を、複屈折率0.010以下の低配向状態とし、その厚み比を40%〜90%に規定することで、加工後密着性を向上させることが記載されている。ポリエステル樹脂から二軸延伸によって製造される二軸延伸フィルムは、高配向であるため、さまざまなガスや水蒸気の透過係数が小さく、バリアー効果が高く、さらに耐衝撃性も高く、耐食性や耐候性が優れている。しかし、加工後密着性を向上させるために低配向層で厚み比を40%〜90%と高くした場合は、上層の二軸延伸された配向性の高い樹脂層の厚み比は少なく、そのため、二軸延伸された配向性の高い樹脂層による効果が少ないため、耐食性や耐候性が悪化するという欠点がある。これは、無配向層や低配向層の場合、耐衝撃性が低下して、フィルム層内に亀裂が発生し易くなるためである。また、製缶後の飲料や食品内容物を充填された後に実施されるレトルト殺菌時やその後の貯蔵時に湿潤環境に置かれた場合、ポリエステル樹脂では、樹脂層を通じて、金属板と樹脂層の界面へ、腐食の原因となる酸素や水蒸気が透過する。特に、製缶時やその後のハンドリング時に樹脂層に疵や欠陥が発生した場合には、酸素や水蒸気の透過量が増大して、腐食の発生し易い状態となる。そして、ラミネートの熱融着により、上記のように非常に厚い低配向層が形成された場合、低配向層はガスや水蒸気が透過しやすい状態になるため、レトルト時や湿潤環境下で、下地の金属板の腐食が発生し易い状態となる。
一例として、ポリエステル樹脂を低炭素鋼板上にラミネートしたラミネート鋼板の場合の腐食反応を下記する。
アノード反応 Fe → Fe2+ + 2e-
カソード反応 1/2O2 + H2O + 2e- → 2OH-(pH上昇)
pH上昇により、エステルの加水分解反応が促進され、
エステルの加水分解反応 RCOOR’ + H2O → RCOOH + R’OH
このような製缶後の缶外面側の耐食性や耐候性を改善するためには、有機樹脂層を厚くしたり、下地のめっき層を厚膜化する等の対策がとられることがある。しかしながら、有機樹脂層やめっき層を厚膜化することは、経済的でないばかりか、過度の厚膜化は、樹脂層やめっき層内の応力増大によって、製缶時に樹脂層やめっき層内あるいは界面での剥離の危険性が増大するため好ましくない。
また、有機樹脂層の酸素透過係数及び水蒸気透過係数は、ラミネート時の熱影響によって金属板との界面付近に生成する低配向層の厚さが増大すると低下するが、製缶後に、金属板に接する最下層に存在する複屈折率が0.015以下の溶融密着層の厚さを全層の5%以上30%以下とし、さらに、上層のうち複屈折率0.05以上の高配向層の厚さが全層の40%以上とすることによって、ポリエステル樹脂の場合、組成によらず、全層の酸素透過係数が5×103cm3・cm/m2・24h・atm以下(38℃)でかつ水蒸気透過係数を2.0g・mm/m2/24h以下(38℃、90%RH)に維持することが可能となる。
しかし、このような、ポリエステル樹脂の層構造を制御するためには、ラミネート条件を特定の製造範囲に限定する必要があり、高速化に限界が生じ、製造コストアップをもたらすため、好ましくない。
【特許文献1】特開2001-179880号公報
【特許文献2】特開平10−138389号公報
【特許文献3】特開平10−138390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、容器成形後の耐食性に優れた有機樹脂フィルム被覆鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、容器用有機樹脂フィルム被覆鋼板の、容器成形した後の容器外面側になる有機樹脂層の表面に着目し、酸素透過係数および水蒸気透過係数を制御することで、容器成形後に優れた耐食性が得られることを見出した。
【0006】
その要旨は以下のとおりである。
[1]鋼板を容器成形した後に容器外面側になる鋼板表面上に、容器成形後の全層の酸素透過係数が5×103cm3・cm/m2・24h・atm以下(38℃)で、かつ、水蒸気透過係数が2.0g・mm/m2/24h以下(38℃、90%RH)となる有機樹脂フィルムが被覆された容器用有機樹脂フィルム被覆鋼板。
[2]前記[1]において、前記有機樹脂フィルムは単層もしくは複層から構成され、前記有機樹脂フィルムを構成する層の少なくとも一層は、アクリルニトリル含有率が85質量%以上で、厚さが8μm以上50μm以下のポリアクリロニトリル系樹脂であることを特徴とする容器用有機樹脂フィルム被覆鋼板。
[3]前記[1]または[2]において、前記有機樹脂フィルムは単層もしくは複層から構成され、前記有機樹脂フィルムを構成する層の少なくとも一層は、エチレン含有率が38〜50質量%で、厚さが8μm以上50μm以下のエチレン・ビニルアルコール共重合体樹脂であることを特徴とする容器用有機樹脂フィルム被覆鋼板。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかにおいて、前記有機樹脂フィルムの最表層に撥水化処理を施すことを特徴とする容器用有機樹脂フィルム被覆鋼板。
[5]前記[1]〜[4]のいずれかにおいて、前記有機樹脂フィルムの全層の厚さ合計は8μm以上50μm以下であることを特徴とする容器用有機樹脂フィルム被覆鋼板。
【発明の効果】
【0007】
本発明の容器用有機樹脂フィルム被覆鋼板は、耐食性に優れている。また、特定のラミネート条件で製造したり、有機樹脂層を厚膜化する必要もないので、製造コストがかからず、界面等での剥離もない。ゆえに、レトルト処理等の加熱処理を必要とする食缶あるいは飲料缶の蓋材・胴材として好適に使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
まず、本発明の有機樹脂フィルムが被覆される容器用鋼板について説明する。
また、本発明で使用する鋼板としては、各種表面処理鋼板が挙げられる。表面処理鋼板としては、冷延板を焼鈍後二次冷間圧延し、錫めっき、ニッケルめっき、クロムめっき、錫/クロムの二層めっき、電解クロム酸処理、クロム酸処理、りん酸処理等の表面処理の一種または二種以上行ったものを用いることができる。
また、特に下層が金属クロム、上層がクロム水酸化物からなる二層皮膜を形成させた表面処理鋼板(いわゆるTFS)等が最適である。
TFSの金属クロム層、クロム水酸化物層の付着量については、特に限定されないが、加工後密着性、耐食性の観点から、何れもCr換算で、金属クロム層は50〜200mg/m、クロム水酸化物層は5〜30mg/mの範囲とすることが望ましい。
【0010】
そして、本発明では上記鋼板に有機樹脂フィルムを被覆し容器用有機樹脂フィルム被覆鋼板とする。この時、鋼板を容器成形した後に容器外面側になる鋼板表面上に、容器成形後の全層の酸素透過係数が5×103cm3・cm/m2・24h・atm以下(38℃)で、かつ、水蒸気透過係数が2.0g・mm/m2/24h以下(38℃、90%RH)となる有機樹脂フィルムを被覆する。このように全層の酸素透過係数および水蒸気透過係数を規定することは、本発明の特徴であり、本発明において最も重要な要件である。
容器用有機樹脂フィルム被覆鋼板の少なくとも外面側にあたる片面上に形成される有機樹脂フィルム(ポリエステル樹脂層)の容器成形後の全層の酸素透過係数及び水蒸気透過係数が高い場合、レトルト処理時に水蒸気が有機樹脂層中を透過して、鋼板との界面付近に凝縮水が滞留し、樹脂層の膨れや膨れによる白化現象が発生する可能性が高まる。さらに、その後の空容器あるいは内容物充填後の保管中での容器外面側での発錆や腐食の危険性が高くなる。特に、巻締部付近では、樹脂層に疵が付くことがあり、そのような場合、酸素透過性や水蒸気透過性の高い有機樹脂層では、より短期間での発錆が起こり、かつその進展が早い。また、巻締部付近には、内容液が充填時に吹きこぼれて付着するケースもあり、高塩分濃度等の腐食性の高い内容液の場合には、より発錆の危険性が高まる。
そこで、発明者らは、食品缶詰用ラミネート鋼板の耐食性について調査検討した。その結果、製缶・内容物充填、印刷、運送等、食品容器が消費者に購入され、最終的に消費されるまでの期間に、容器外面や巻締部周辺に発錆がない状態を保つためには、容器成形後の全層の酸素透過係数が5×103cm3・cm/m2・24h・atm以下(38℃)でかつ水蒸気透過係数を2.0g・mm/m2/24h以下(38℃、90%RH)とする必要があることを見出し、本発明に至ることができた。
【0011】
なお、酸素透過係数の測定は下記の方法を採用することができる。 JIS K7126A法に準拠した酸素透過試験によるもので、(株)東洋精機製の差圧法ガス透過試験装置 MT-C3を使用し、測定条件は、温度38℃、湿度0%RH、サンプルサイズ:透過面積5cm2とする。
【0012】
また、水蒸気透過係数の測定は下記の方法を採用することができる。 JIS K7129B法に準拠した水蒸気透過試験によるもので、(株)モコン社製の透湿度測定装置 PERMATRAN W3/31を使用し、測定条件は、温度38℃、湿度90%RH、サンプルサイズ:透過面積5cm2とする。
【0013】
次に、容器成形した後に容器外面側となる有機樹脂フィルム(有機樹脂層)について説明する。現在最も多用されている標準的なフィルムはポリエステル樹脂(PET)であるが、このポリエステル樹脂(PET)フィルムよりも酸素透過係数の小さい樹脂系としては、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、エチレンとビニルアルコールの共重合体(EVOH)、延伸ポリビニルアルコール(OV)、ポリアクリロニトリル(PAN)、延伸ナイロン(ONy)、末延伸ナイロン(CNy)等が挙げられる。一方、水蒸気透過係数がポリエステル樹脂(PET)フィルムよりも小さい樹脂系としては、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)等、一部に限られる。
【0014】
次に、発明者らは、酸素に対するバリアー効果の点から上記有機樹脂について検討した。その結果、酸素に対するバリアー効果の高い樹脂として、ポリアクリルニトリル樹脂およびエチレン・ビニルアルコール共重合体樹脂が挙げられた。そして、ポリアクリルニトリル樹脂およびエチレン・ビニルアルコール共重合体樹脂を本発明の有機樹脂フィルムの有機樹脂として適用することにより、高耐食化が図れることが確認された。
さらに、ポリアクリルニトリル樹脂及びエチレン・ビニルアルコール共重合体樹脂は、酸素透過係数は小さいが、水蒸気透過係数はポリエステル樹脂とあまり大きな差がないため、さらなる高耐食化のためには、有機樹脂層の最表層に撥水化処理を施すことが有効であるとの結論を得た。撥水化処理することで、容器成形後あるいは内容物充填後の保管時に容器に付着する結露水等の水分や大気中の水蒸気が有機樹脂層中へ透過することを抑制し、有機樹脂層と金属めっき層との界面に達する水分が減少し、その結果、発錆を抜本的に防止することが可能となる。
本発明で好適に使用されるポリアクリルニトリル系樹脂は、酸素に対するバリアー効果が高く、小さな酸素透過係数を有するが、さらに好ましくは、ポリアクリロニトリル系樹脂は、そのアクリロニトリル含有率が85%質量%以上であることが好ましい。85%未満のポリマーでは、目標とする酸素に対するバリアー効果の発現が十分に得られず、さらに二軸延伸フィルムである必要がある。
また、ポリアクリロニトリル系樹脂フィルムが十分なバリアー効果を発揮するためには、厚さが8μm以上である必要がある。一方、厚さが50μmを超えると、経済的でないばかりか、容器成形時に端面付近でフィルムヘアーの発生が起こり易くなる。(フィルムヘアー:絞り加工や再絞り加工時に発生する糸状くず)。そのため、厚さは8〜50μmとすることが好ましい。
以上ような樹脂として、ポリアクリロニトリル樹脂フィルムは、アクリロニトリルポリマーまたはコポリマーによるもので、コポリマーの場合、コモノマーとしてアクリル酸エステル、塩化ビニリデン、スチレン等から選択される。
【0015】
一方、エチレン・ビニルアルコール共重合体樹脂の場合、酸素透過係数は、エチレン/ビニルアルコールの含有率に依存しており、エチレンの含有率が低下すれば、酸素透過しにくくなる。しかし、高湿度の環境では、エチレン含有率が低下すると、吸水量が増え、吸水によって分子内及び分子間の凝集力が低下して、酸素透過しやすい状態となる。このような相反する現象を考慮し、食品缶詰用途に適用するためには、エチレン含有率は38〜50質量%とすることが好ましい。より好ましくは40〜46%である。また、エチレン・ビニルアルコール共重合体樹脂フィルムが十分なバリアー効果を発揮するためには、厚さが8μm以上である必要がある。一方、厚さが50μmを超えると、経済的でないばかりか、容器成形時に端面付近でフィルムヘアーの発生が起こり易くなる。そのため、厚さは8〜50μmとすることが好ましい。
【0016】
本発明で使用される有機樹脂フィルムは、単層もしくは複層から構成され、上記のように少なくとも一層はポリアクリロニトリル樹脂層および/またはエチレン・ビニルアルコール共重合体樹脂から構成されることが好ましい。また、これら2種の樹脂の他、ポリエステル樹脂やポリプロピレン等を積層して用いることができる。そのうち、ポリエステル樹脂やポリプロピレンは、耐熱性及び機械特性が優れ、容器成形後、内容物充填後に125℃程度の温度でレトルト処理される食品缶詰用途に適している。
積層フィルムを製造するためには各層を貼り合わせる必要がある。その方法としては、ドライ、ウェット、あるいはエキストルージョンラミネーション法等常套の手段が採用され、必要に応じて、接着剤の使用や、コロナ放電処理、及び酸化処理が施される。
【0017】
また、前述したように、より高耐食化するために、上記樹脂フィルムの最表層に、撥水化処理を施すことが好ましい。最表層に撥水化処理を施すことにより、容器成形、内容物充填後の貯蔵時での高湿度下で水分付着が原因となる発錆を防止することが可能となる。撥水化処理としては、樹脂フィルム表面へのフッ素処理やシリコーン処理等、最表層をフッ素基や炭化水素基等、非極性基で被覆する方法が適する。このため、フィルムへのコーティング処理や樹脂層へのワックス添加等の手段が想定される。具体的な有機樹脂フィルム表面への疎水性高分子のコーティングとしては、ポリテトラフルオロエチレンや、テトラメチルジシロキサンを樹脂層表面に被覆したものが挙げられる。
撥水層の厚さは、フィルムコーティングの場合には、0.2〜5μm程度の薄膜が好ましい。さらに好ましくは0.5〜2μm厚程度で、必要以上に厚膜化することは、フィルムとの密着性劣化をもたらすとともに、製造コスト上も不利となる。
【0018】
有機樹脂層フィルムの全層の厚さ合計は8μm以上50μm以下が好ましい。全層が厚さ合計が8μm未満では、酸素透過係数や水蒸気透過係数が小さくても十分な耐食性や耐候性が得られない場合がある。一方、全層の厚さ合計が50μmを超えると、容器成形時に金属板と樹脂層界面での剥離が発生し易くなるばかりか、経済的にも好ましくない。容器成形上、有機樹脂層フィルムの全層の厚さ合計は10〜30μmとすることがさらに好ましい。
【0019】
なお、以上のような有機樹脂フィルムを鋼板表面に被覆する方法については、本発明に示す有機樹脂フィルム被覆鋼板が形成可能であれば、特に制限されるものではない。
【実施例1】
【0020】
以下、本発明の実施例について説明する。
表1に示す各種の有機樹脂を、ラミネート装置にて、ラミネート条件(金属帯加熱温度・ラミネートロール温度・有機樹脂フィルム熱圧着後の冷却条件他)を調整することにより、有機樹脂フィルム被覆鋼板を製造した。
具体的には、基体として、厚さ0.19mmの低炭素鋼板にクロムめっきを施したクロムめっき鋼板(ティンフリースチール:TFS)を使用した。めっき浴組成及び電解条件を調整して、金属クロム付着量を115mg/m2、クロム水和酸化物付着量を15mg/m2とした。
【0021】
次いで、前記で得られたクロムめっき鋼板上を金属加熱装置で加熱した後、ラミネートロールで有機樹脂フィルムを加熱された鋼板の両面に熱融着させることによって有機樹脂フィルム被覆鋼板を製造した。なお、有機樹脂フィルムをクロムめっき鋼板の両面に熱融着させる際、クロムめっき鋼板に接する界面付近の有機樹脂フィルムの温度が融点以上となる時間を1〜20msecとなるよう調整した。
なお、発明例12〜23で使用した有機樹脂フィルムは、樹脂層表面に疎水性高分子をコーティングし撥水化処理したものである。そのうち、発明例15、16、17、20、22、23は、ポリテトラフルオロエチレンを樹脂層表面に被覆した(表1中ではフッソ処理)ものであり、発明例12、13、14、18、19、21は、テトラメチルジシロキサンを樹脂層表面に被覆した(表1中ではシリコーン処理)ものである。
【0022】
次いで、上記により得られた有機樹脂フィルム被覆鋼板にワックスを塗布後、直径180mmの円板を打ち抜き、絞り比2.20及び2.90で再絞り加工を行った。この後、ドーミング成形し、さらにトリミング、次いで、ネックイン−フランジ加工を施し、深絞り缶を成形した。
以上のようにして得られた缶に対して、耐候性及び耐食性を評価した。なお、耐候性及び耐食性は以下の2つの方法で行った。
(1)湿潤試験1
上記で製缶した空缶を温度50℃、相対湿度95%以上に保った恒温恒湿槽中に入れて、120時間後の発錆状況を目視で観察し評価した。
(評価点)
◎フランジ端面以外に発錆なし
○端面から樹脂層に若干の発錆あり
△缶胴の一部に発錆あり
×缶胴全体に発錆発生
(2)湿潤試験2
上記で製缶した空缶をSST(35℃)に1時間入れた後、恒温恒湿試験機(温度40℃、相対湿度85%)で240時間経過後の発錆状況を観察した。
(評価点)
◎フランジ端面以外に発錆なし
○端面から樹脂層に若干の発錆あり
△缶胴の一部に発錆あり
×缶胴全体に発錆発生
以上より得られた結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1より、本発明の容器用有機樹脂フィルム被覆鋼板を用いて成形した缶は良好な耐食性を示した。一方、本発明の範囲から外れた比較例の鋼板を用いて成形した缶は、耐食性が劣ることが確認された。
【実施例2】
【0025】
表2に示す各種の有機樹脂を、ラミネート装置にて、ラミネート条件(金属帯加熱温度・ラミネートロール温度・有機樹脂フィルム熱圧着後の冷却条件他)を調整することにより、有機樹脂被覆金属板を製造した。
具体的には、基体として、厚さ0.19mmの低炭素鋼板にクロムめっきを施したクロムめっき鋼板(ティンフリースチール:TFS)を使用した。めっき浴組成及び電解条件を調整して、金属クロム付着量を115mg/m2、クロム水和酸化物付着量を15mg/m2とした。
次いで、前記で得られたクロムめっき鋼板上を金属加熱装置で加熱した後、ラミネートロールで有機樹脂フィルムを加熱された鋼板の両面に熱融着させることによって有機樹脂フィルム被覆鋼板を製造した。なお、有機樹脂フィルムをクロムめっき鋼板の両面に熱融着させる際、クロムめっき鋼板に接する界面付近の有機樹脂フィルムの温度が融点以上となる時間を1〜20msecとなるよう調整した。
なお、発明例41〜47で使用した有機樹脂フィルムは、樹脂層表面に疎水性高分子をコーティングし撥水化処理したものである。そのうち、発明例43、44、46、47は、ポリテトラフルオロエチレンを樹脂層表面に被覆した(表2中ではフッ素処理)ものであり、発明例41、42、45は、テトラメチルジシロキサンを樹脂層表面に被覆した(表2中ではシリコーン処理)ものである。
【0026】
次いで、上記により得られた有機樹脂フィルム被覆鋼板にワックスを塗布後、直径180mmの円板を打ち抜き、絞り比2.20及び2.90で再絞り加工を行った。この後、ドーミング成形し、さらにトリミング、次いで、ネックイン−フランジ加工を施し、深絞り缶を成形した。
以上のようにして得られた缶に対して、耐候性及び耐食性を評価した。なお、耐候性及び耐食性の測定方法および評価基準は、実施例1と同様である。
以上より得られた結果を表2に条件と併せて示す。
【0027】
【表2】

【0028】
表2より、本発明の容器用有機樹脂フィルム被覆鋼板を用いて成形した缶は良好な耐食性を示した。一方、本発明の範囲から外れた比較例の鋼板を用いて成形した缶は、耐食性が劣ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0029】
前記鋼板は容器成形後の耐食性に優れるので、深絞り加工が施される食缶あるいは飲料缶の胴材等を中心に広く適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を容器成形した後に容器外面側になる鋼板表面上に、
容器成形後の全層の酸素透過係数が5×103cm3・cm/m2・24h・atm以下(38℃)で、かつ、水蒸気透過係数が2.0g・mm/m2/24h以下(38℃、90%RH)となる有機樹脂フィルムが被覆された容器用有機樹脂フィルム被覆鋼板。
【請求項2】
前記有機樹脂フィルムは単層もしくは複層から構成され、
前記有機樹脂フィルムを構成する層の少なくとも一層は、アクリルニトリル含有率が85質量%以上で、厚さが8μm以上50μm以下のポリアクリロニトリル系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の容器用有機樹脂フィルム被覆鋼板。
【請求項3】
前記有機樹脂フィルムは単層もしくは複層から構成され、
前記有機樹脂フィルムを構成する層の少なくとも一層は、エチレン含有率が38〜50質量%で、厚さが8μm以上50μm以下のエチレン・ビニルアルコール共重合体樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の容器用有機樹脂フィルム被覆鋼板。
【請求項4】
前記有機樹脂フィルムの最表層に撥水化処理を施すことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の容器用有機樹脂フィルム被覆鋼板。
【請求項5】
前記有機樹脂フィルムの全層の厚さ合計は8μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の容器用有機樹脂フィルム被覆鋼板。

【公開番号】特開2008−213153(P2008−213153A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−49639(P2007−49639)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】