説明

容器詰め乳化状食品

【課題】保存安定性、特に容器開封後に内容物を絞り出す為に容器を繰り返し押圧しても水中油型乳化状食品の油分離が防止された容器詰め乳化状食品を提供する。
【解決手段】(1)不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品を可撓性多層樹脂製容器に充填してなる容器詰め乳化状食品において、前記可撓性多層樹脂製容器が、酸素吸収性樹脂層を有し、かつ、前記酸素吸収性樹脂層より外面側に酸素バリヤ性樹脂層を有する。(2)不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品を可撓性多層樹脂製容器に充填してなる容器詰め乳化状食品において、前記可撓性多層樹脂製容器が、酸素吸収性樹脂層を有するとともに前記酸素吸収性樹脂層より外面側に第1の酸素バリヤ性樹脂層を有し、さらに前記酸素吸収性樹脂層より内面側に水分の存在により酸素バリヤ機能が低下する樹脂よりなる第2の酸素バリヤ性樹脂層が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器詰め乳化状食品に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、可撓性多層樹脂製容器に充填されてなる容器詰め食品であって、保存安定性、特に容器開封後に内容物を絞り出す為に容器を繰り返し押圧しても水中油型乳化状食品の分離が防止された保存安定性にすぐれた容器詰め乳化状食品に関するものである。
【0002】
さらに、本発明は、特定の水中油型乳化状食品を用いることにより、保存安定性ならびに食品の分離防止がより高度に達成された容器詰め乳化状食品に関するものである。
【0003】
さらに、本発明は、保存安定性ならびに食品の分離防止がなされるとともに、より好ましいコクおよび口当たりを有する容器詰め乳化状食品に関するものである。
【背景技術】
【0004】
従来から利便性等を考慮して、マヨネーズのような水中油型乳化状食品を可撓性樹脂製容器に充填し、開封後に当該容器を押圧することによって、水中油型乳化状食品を取出しないし注出しが行われている。
【0005】
このように、可撓性樹脂製容器詰め水中油型乳化状食品は、押圧されることによって部分的に乳化状態が壊れて油層と水層とに分離し、とりわけ油層が目立つ、いわゆる油分離が生ずるという問題が広く知られている。
【0006】
また、水中油型乳化状食品が、保存中に風味が劣化するという問題も広く知られている。
【0007】
前記水中油型乳化状食品の押圧による油分離、風味劣化という問題は、空気中の酸素による酸化が大きな影響を及ぼしているものと考えられていた。
【0008】
そこで、空気中の酸素を出来るだけ透過しない容器に水中油型乳化状食品を詰めると上記問題は起こらないと考え、酸素透過性の低い可撓性樹脂製容器に前記乳化状食品を詰めることが考えられた。
【0009】
また、可撓性樹脂製容器の厚さ、特にエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂層の厚さを増すことにより酸素透過量は減少することは以前から知られており、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂層の肉厚を厚くし、酸素透過量を限りなく微量にした可撓性樹脂製容器に乳化状食品を詰めると、風味劣化が防止されることが知られている(特開2002−255249号公報)。
【特許文献1】特開2002−255249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記酸素透過量が限りなく微量、具体的には上記公報の酸素透過量(0.025mL/日以下)である可撓性樹脂製容器に水中油型乳化状食品を詰めたとしても、風味劣化を防止することはできても、押圧による油分離という問題の解決には不十分なものであった。
【0011】
その原因として、空気中の酸素の透過量を少なくしたとしても、押圧による油分離という問題に関しては、可撓性樹脂製容器を成形する際の当該容器内面に吸着した酸素や、乳化状食品を充填する際に前記容器内面と乳化状食品の隙間に残存したわずかな酸素が、大きな影響を及ぼしているものと本発明者は推察した。
【0012】
ところで、酸素を吸収する機能を有する容器として、下記の公報が存在する。
特開2004−196337号公報、特開2002−240813号公報、特開2001−58363号公報、特公平6−49354号公報
このように酸素を吸収する容器は以前から知られているが、上記公報などは酸素バリヤ性の向上、具体的に空気中の酸素を外側から吸収し、結果的に容器内に酸素を透過させないという出願であり、可撓性樹脂製容器に水中油型乳化状食品を詰めたことにより、容器内側から酸素、具体的に可撓性樹脂製容器を形成する際の当該容器内面に吸着した酸素や、乳化状食品を充填する際に前記容器内面と乳化状食品の隙間に残存したわずかな酸素を吸収することについては記載されておらず、押圧による油分離という問題点が解決されるか否かについては全く示唆されていない。
【0013】
さらに、油分離という問題に関し、水中油型乳化状食品の成分を特定化することにより、具体的には油脂中のクロロフィル類含量および(または)トランス酸含量を特定化することにより、特定の可撓性樹脂製容器に充填された水中油型乳化状食品の油分離が防止され、また、保存安定性向上による風味がより向上するのではないかと本発明者は推察した。尚、クロロフィル類やトランス酸は、従来水中油型乳化状食品の着色ないし摂取後の栄養学的特性面から着目されることはあったが、これら両成分に着目し両性分の含量を所定量以下に抑制することにより水中油型乳化状食品の油分離防止や、保存安定性の向上が達成されるか否かについては全く示唆されていない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題の解決にあたり、可撓性樹脂製容器を成形する際の当該容器内面に吸着した酸素や、乳化状食品を充填する際に前記容器内面と乳化状食品の隙間に残存した酸素を酸素吸収樹脂層によって、より吸収させるために、解決手段として請求項1、2、3に記載した容器を採用した。
【0015】
上記酸素と水中油型乳化状食品との接触部位が酸化、具体的に不飽和脂肪酸を有する乳化材が酸化されることにより、乳化状態が不安定になる。不安定となった乳化状態にある水中油型乳化状食品は、押圧による物理的な衝撃が与えられることにより、乳化状態が壊れて油分離が生じることになる。
【0016】
特に、高粘度の物性を有する水中油型乳化状食品は、その流動性が低いため、上記酸素によって限られた接触部位のみが集中的に酸化されることにより、乳化状態が不安定になり易い。不安定な乳化状態となった水中油型乳化状食品を、押圧による物理的な衝撃をあたえることにより、油分離が生じるのである。
【0017】
上記の課題を解決するために、本発明による容器詰め乳化状食品は、不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品を可撓性多層樹脂製容器に充填してなる容器詰め乳化状食品において、前記可撓性多層樹脂製容器が、酸素吸収性樹脂層を有し、かつ、前記酸素吸収性樹脂層より外面側に酸素バリヤ性樹脂層を有すること、を特徴とするものである。
【0018】
また、本発明による他の容器詰め乳化状食品は、不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品を可撓性多層樹脂製容器に充填してなる容器詰め乳化状食品において、前記可撓性多層樹脂製容器が、酸素吸収性樹脂層を有するとともに前記酸素吸収性樹脂層より外面側に第1の酸素バリヤ性樹脂層を有し、さらに前記酸素吸収性樹脂層より内面側に水分の存在により酸素バリヤ機能が低下する樹脂よりなる第2の酸素バリヤ性樹脂層が形成されてなること、を特徴とするものである。
【0019】
また、本発明によるもう一つの容器詰め乳化状食品は、不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品を可撓性多層樹脂製容器に充填してなる容器詰め乳化状食品において、前記可撓性多層樹脂製容器が、酸素吸収性樹脂と酸素バリヤ性樹脂とを溶解混合してなる酸素吸収バリヤ性樹脂層を有すること、を特徴とするものである。
【0020】
本発明による上記の容器詰め乳化状食品は、好ましい態様として、不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品が、30Pa・s以上の水中油型乳化状食品であるもの、を包含する。
【0021】
本発明による上記の容器詰め乳化状食品は、好ましい態様として、不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品が、100Pa・s以上の水中油型乳化状食品であるもの、を包含する。
【0022】
本発明による上記の容器詰め乳化状食品は、好ましい態様として、前記乳化材がリポ蛋白質であるもの、を包含する。
【0023】
本発明による上記の容器詰め乳化状食品は、好ましい態様として、前記リポ蛋白質が卵黄リポ蛋白質であるもの、を包含する。
【0024】
本発明による上記の容器詰め乳化状食品は、好ましい態様として、乳化状食品がマヨネーズ様食品であるもの、を包含する。
【0025】
そして、本発明者らは、上記の本発明による容器詰め乳化状食品において、特定の水中油型乳化状食品を用いることによって、保存安定性ならびに食品の分離防止がより高度に達成されることを見いだした。
【0026】
したがって、本発明による上記の容器詰め乳化状食品は、好ましい態様として、不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品が、脂質中のクロロフィル類含量が200ppb以下の水中油型乳化状食品であるもの、を包含する。
【0027】
本発明による上記の容器詰め乳化状食品は、さらに好ましい態様として、不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品が、脂質中のクロロフィル類含量が100ppb以下の水中油型乳化状食品であるもの、を包含する。
【0028】
本発明による上記の容器詰め乳化状食品は、好ましい態様として、不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品が、脂質中のトランス酸含量が3重量%以下の水中油型乳化状食品であるもの、を包含する。
【0029】
本発明による上記の容器詰め乳化状食品は、さらに好ましい態様として、不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品が、脂質中のトランス酸含量が2重量%以下の水中油型乳化状食品であるもの、を包含する。
【0030】
そして、本発明者らは、水中油型乳化状食品の油滴の粒径を特定することによって、保存安定性ならびに食品の分離防止がなされるとともに、より好ましいコクおよび口当たりを有する容器詰め乳化状食品が得られることを見いだした。
【0031】
したがって、本発明による上記の容器詰め乳化状食品は、好ましい態様として、不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品が、該水中油型乳化状食品中に分散している油滴粒子の平均粒径が1〜2μmのものであるもの、を包含する。
【0032】
本発明による上記の容器詰め乳化状食品は、好ましい態様として、不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品が、粒径1μm以上、2μm以下の油滴として存在している脂質量が全脂質量の70重量%以上を占めるもの、を包含する。
【0033】
本発明による上記の容器詰め乳化状食品は、好ましい態様として、不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品が、脂質含量が40重量%以下のもの、を包含する。
【0034】
本発明による上記の容器詰め乳化状食品は、好ましい態様として、不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品が、澱粉含量が1重量%以下のもの、を包含する。
【発明の効果】
【0035】
本発明においては、不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品を、酸素吸収樹脂層を有する可撓性樹脂製容器に詰めることにより、前記容器の内面に吸着もしくは残存した酸素を除去することができるため、水中油型乳化状食品の油分離を極めて効果的に防止する。また、水中油型乳化状食品の保存安定性が長期間維持されることにより風味も向上することになった。
【0036】
本発明によれば、乳化状食品を可撓性多層樹脂製容器に充填してなる容器詰め乳化状食品において、
(1)前記可撓性多層樹脂製容器が、酸素吸収性樹脂層を有し、かつ、前記酸素吸収性樹脂層より外面側に酸素バリヤ性樹脂層を有するものであること、
(2)前記可撓性多層樹脂製容器が、酸素吸収性樹脂層を有するとともに前記酸素吸収性樹脂層より外面側に第1の酸素バリヤ性樹脂層を有し、さらに前記酸素吸収性樹脂層より内面側に水分の存在により酸素バリヤ機能が低下する樹脂よりなる第2の酸素バリヤ性樹脂層が形成されてなること、
(3)前記可撓性多層樹脂製容器が、酸素吸収性樹脂と酸素バリヤ性樹脂とを溶解混合してなる酸素吸収バリヤ性樹脂層を有するものであること、により、
前記容器の内面に吸着若しくは残存した酸素を除去することができるため、水中油型乳化状食品の押圧による油分離に対して極めて効果的である。また、水中油型乳化状食品の酸化による風味の劣化を効果的に防ぐことが可能な容器詰め水中油型乳化状食品が提供される。
【0037】
そして、上記の本発明による容器詰め乳化状食品においては、特定の水中油型乳化状食品を用いることによって、保存安定性ならびに食品の分離防止がより高度に達成される。
【0038】
そして、油滴の粒径が特定された上記の本発明による水中油型乳化状食品は、油分離が防止されているとともに、より好ましいコクおよび口当たりを有し、良好な風味および風味バランスを備えたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
<容器詰め乳化状食品の分離抑制メカニズム>
容器壁の酸素透過性を抑制することによって内容物の酸化防止を図ることは従来から検討されてきたものの、乳化状食品という特定の食品を可撓性容器に充填し、それを押圧に付したときに発生する特有の問題について、乳化状食品と容器内面との間の界面部分に存在する酸素に着目し、系統的解析のもとにこの問題の解決を図ることは従来行われていなかった。
【0040】
本発明による容器詰め乳化状食品は、従来の可撓性樹脂製容器に充填された乳化状食品よりも押圧による油分離が抑制されたものである。その作用機序については詳細は定かでないが、以下の作用によって油分離が抑制されるのではないかと推察される。
【0041】
可撓性樹脂製容器の内面に吸着した酸素や、充填する際に前記容器内面と内容物の隙間に残存した酸素により不飽和脂肪酸を有する乳化材が酸化され、当該乳化材の機能に変化を受けると、乳化安定性が著しく低下する。もちろん乳化状食品がマヨネーズ様食品の場合は卵黄リポ蛋白質が乳化材として関与しており、当該卵黄リポ蛋白質が酸化を受けることにより乳化安定性は、著しく低下する。
【0042】
上記のように、酸化により乳化状態が著しく不安定となった水中油型乳化状食品は、押圧のような物理的衝撃が加わると乳化状態を維持できず油脂粒子の会合が生じ、油分離が認められるようになる。
【0043】
特に高粘度の物性を有する水中油型乳化状食品は、その流動性が低いため、上記酸素と限られた接触部位に残存する乳化材のみが集中的に酸化され、乳化状態が特に不安定となり易い。
【0044】
従って、可撓性樹脂製容器の内面に吸着もしくは残存した酸素を除去することはマヨネーズ様食品のような高粘度で流動性の低い水中油型乳化状食品の油分離の防止に対し極めて効果的である。
【0045】
本発明においては、さらに水中油型乳化状食品の成分を特定化することにより、具体的には脂質中のクロロフィル類含量および(または)トランス酸含量を特定化することにより、乳化材を特定した前記容器詰め乳化状食品よりも特に油分離を抑制し、水中油型乳化状食品の保存安定性をさらに向上させることができる。尚、クロロフィル類は、水中油型乳化状食品の脂質として一般的に用いられている植物油等によって水中油型乳化状食品中に存在することになるが、これらのクロロフィル類は、植物油の脱色および脱臭工程などの精製工程を経た後においても依然として残存し、水中油型乳化状食品の保存条件においても酸化(特に光酸化)促進作用を有している。トランス酸は植物油製造工程における、主に脱臭工程においてごく少量副成されるが、このトランス酸含量が多い場合も同様に、水中油型乳化状食品の保存条件において酸化が促進される。クロロフィル類およびトランス酸は、従来水中油型乳化状食品の着色ないし摂取後のコレステロール抑制、栄養学的特性面から着目されることはあったが、可撓性樹脂製容器に充填された水中油型乳化状食品の保存安定性の向上、特に油分離の抑制のために、これら両成分に着目することおよび両成分の含量を所定量以下に抑制することは従来検討されていなかった。
【0046】
また、本発明では、水中油型乳化状食品のコクおよび口当たりを、該水中油型乳化状食品中に分散している油滴粒子の粒径および(または)油滴粒子の粒度分布を特定化することによって、風味およびそのバランスを向上させることができる。水中油型乳化状食品のコクおよび口当たりは、具体的には油滴粒子の平均粒径が1〜2μmである場合もしくは粒径1μm以上2μm以下の油滴として存在している脂質量が全脂質量の70重量%以上を占める場合に顕著に向上するが、このような小粒径の均一な油滴が分散した水中油型乳化状食品を実質的に油分離や味覚、風味等の劣化を伴うことなく長期間安定的に保存することは、従来困難であった。油滴の粒径が小さくなる程、油滴表面積が増大して、酸素との接触機会の増大および温度、光等の影響をより大きく受けることになるからである。
【0047】
なお、水中油型乳化状食品のコク、口当たりの改良は食品のボディー感を向上させる。これにより、水中油型乳化状食品中の脂質量の低減、ならびに従来ボディー感改良のために配合されてきた澱粉の省略または使用量の低減を図ることができる。
【0048】
<乳化状食品の具体例(その1)>
本発明は、マヨネーズ様食品(マヨネーズ及び低カロリー等の機能を付与したマヨネーズタイプの水中油型乳化状食品を含む。)、タルタルソース、ドレッシング等の乳化状食品に関するものである。このような乳化状食品は、高粘度であれば本発明の課題が顕在化し易く、特に30Pa・s以上、とりわけ100Pa・s以上、の水中油型乳化状食品が包含される。例えば、マヨネーズ様食品、タルタルソース、半固体状ドレッシング等の水中油型乳化状食品等がこれに該当する。
【0049】
このような本発明による乳化状食品は、不飽和脂肪酸を有する乳化材を配合する。そのような乳化材の好ましい具体例としては、(イ)不飽和脂肪酸残基を有した乳化材、例えばホスファチジルコリン等のリン脂質、リゾホスファチジルコリン等のリゾリン脂質、モノグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルおよびこれらの誘導体、および、(ロ)上記の(イ)の乳化材もしくは遊離不飽和脂肪酸を構成成分として含有したリポ蛋白質からなる乳化材、例えば卵黄リポ蛋白質、ホスフォリパーゼAl処理卵黄、ホスフォリパーゼA2処理卵黄、乳由来のリポ蛋白質等を例示することができる。
【0050】
本発明による乳化状食品の好ましい具体例として、例えば下記のマヨネーズ等を特に好ましいものとして挙げることができる。
(1)マヨネーズ
食酢10.0kg、清水4.0kg、食塩1.7kg、辛子粉0.2kg、グルタミン酸ナトリウム0.4kgをミキサーにて撹拌して均一として後、生卵黄7.2kg、生卵白4.0kgを添加し、ミキサーにて撹拌して均一とした後、植物油72.5kgを注加して粗乳化させた。得られた粗乳化物をコロイドミルで仕上げ乳化を行った。
得られたマヨネーズは、粘度が約250Pa・s[B型粘度計、((株)東京計器製)でローターNo.6、品温約20℃、回転数2rpmで測定]であった。
【表1】

【0051】
(2)マヨネーズ様食品(低カロリーマヨネーズタイプ調理料)
食酢15.0kg、清水27.2kg、食塩2.5kg、辛子粉0.5kg、グルタミン酸ナトリウム0.5kg、デキストリン0.1kg、澱粉3.0kg、キサンタンガム0.2kgをミキサーにて撹拌して均一として後、生卵黄6.0kgおよび生卵白15.0kgを添加し、ミキサーにて撹拌して均一とした後、植物油30.0kgを注加して粗乳化させた。得られた粗乳化物をコロイドミルで仕上げ乳化を行った。
得られたマヨネーズ様食品は、粘度が約130Pa・s[B型粘度計、((株)東京計器製)でローターNo.6、品温約20℃、回転数2rpmで測定]であった。
【表2】

【0052】
(3)30Pa・s以上の水中油型乳化状食品
食酢8.0kg、清水13.0kg、食塩2.0kg、胡椒0.5kg、グルタミン酸ナトリウム1.0kg、澱粉2.0kg、チーズ10.0kg、キサンタンガム0.5kg、生卵黄3.0kgをミキサーにて撹拌して均一とした後、植物油60.0kgを注加して粗乳化させた。得られた粗乳化物をコロイドミルで仕上げ乳化を行った。
得られたこの水中油型乳化状食品は、粘度が約40Pa・s[B型粘度計、((株)東京計器製)でローターNo.6、品温約20℃、回転数2rpmで測定]であった。
【表3】

【0053】
<乳化状食品の具体例(その2)>
本発明における乳化状食品の好ましい他の具体例としては、例えば下記(4)〜(7)を特に好ましいものとして挙げることができる。
【0054】
(4)脂質中のクロロフィル類含量が200ppb以下の水中油型乳化状食品
本発明による容器詰め乳化状食品の好ましい一具体例としては、不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品が、脂質中のクロロフィル類含量が200ppb以下の水中油型乳化状食品であるもの、を挙げることができる。脂質中のクロロフィル類含量が200ppbを超過する場合には、保存安定性が十分でない場合がある。本発明では、脂質中のクロロフィル類含量が100ppb以下であるものが特に好ましい。
【0055】
ここで、「クロロフィル類」とは、一般的に精製植物油脂に含まれる主要四物質、即ち、フェオフィチンa(Pheophytin a)(以下、「Phy a」と言う)、フェオフィチンb(Pheophytin-b)(以下、「Phy b」と言う)、ピロフェオフィチンa(Pyropheophytin a)(以下、「Pyr a」と言う)およびピロフェオフィチンb(Pyropheophytin b)(以下、「Pyr b」と言う)の四物質、を指し、「クロロフィル類含量」とは、これら四物質の合計値の油脂に対する重量割合を言う。これら四物質は、下記式〔I〕においてX、RおよびRとして下記所定の置換基を有するものであって、原料である油糧種子中に含まれるクロロフィルa(Chlorophyll a)(以下、「Chl a」と言う)およびクロロフィルb(Chlorophyll b)(以下、「Chl b」と言う)が植物油脂の抽出および精製のいずれかの段階において誘導体化されたものと考えられる。
【化1】

Phy a X=H、R=CH、R=COOCH
Phy b X=H、R=CHO、R=COOCH
Pyr a X=H、R=CH、R=H
Pyr b X=H、R=CHO、R=H
Chl a X=Mg、R=CH、R=COOCH
Chl b X=Mg、R=CHO、R=COOCH
食用植物油脂に含有される上記のクロロフィル類の量は、原料となる油糧植物種子の種差や成熟度合い等に影響され、一般的に大豆や菜種種子には比較的多く含まれている。一般的に、これらの油糧植物種子に含まれるクロロフィルは、抽出、脱ガム、脱酸、脱色および脱臭などの処理工程を経ることにより次第に除去ないし分解される。代表的な抽出処理としてはヘキサン抽出処理を、代表的な脱色処理としては活性白土処理を、代表的な脱臭工程としては水蒸気蒸留処理を、挙げることができる。
【0056】
一般に、精製植物油に含有されることになるクロロフィル類含量は、原料および上記各工程(特に脱色工程および脱臭工程)の条件等に影響を受ける。クロロフィル類含量の低減のためには脱色工程で活性白土量を増加させる、あるいは脱臭工程における水蒸気蒸留の加熱条件を高めることが効果的であるが、過度に水蒸気処理を行うことはトランス酸や共役ジエンの副生量が増大する場合がある。
【0057】
本発明における好ましい水中油型乳化状食品としては、例えば上記方法によって得られた、脂質中のクロロフィル類含量が200ppb以下、好ましくは100ppb以下、の水中油型乳化状食品を挙げることができる。クロロフィル類含量の定量は、「基準油脂試験法 暫5−2000 クロロフィル類(高速液体クロマトグラフ法)」(「植物油脂中のクロロフィル類の高速液体クロマトグラフィーによる定量法の確立と合同実験結果」、日本油化学会誌 第47巻、第11号(1998)参照)によって行うことができる。
【0058】
本発明においては、特定の可撓性多層樹脂製容器を用い、かつ光酸化促進作用を有するクロロフィル類含量を200ppb以下に低減することによって油分離を抑制し、保存安定性を向上させることができる。
【0059】
植物油脂を製造する他の方法としては、例えばオーガニック(有機食品)の植物油脂のように、製造工程においてヘキサン等の有機溶媒による抽出処理を行わず、一番搾り等の搾油方法を挙げることができる。本発明における好ましい水中油型乳化状食品には、このような搾油方法によって得られたものも包含される。
【0060】
(5)脂質中のトランス酸含量が3重量%以下の水中油型乳化状食品
本発明による容器詰め乳化状食品の好ましい一具体例としては、不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品が、脂質中のトランス酸含量が3重量%以下の水中油型乳化状食品であるもの、を挙げることができる。本発明では、トランス酸含量が2重量%以下であることがより好ましい。
【0061】
トランス酸や共役ジエンは、水中油型乳化状食品の初期段階の酸化生成物でもある。従って、水中油型乳化状食品においてトランス酸含量および共役ジエン含量が抑制されていることは、水中油型乳化状食品を容器に充填した後における保存安定性の向上および分離防止に効果的である。
【0062】
本発明において、水中油型乳化状食品中のトランス酸含量は、「AOCS Official Method Ce 1f-96(「Determination of cis- and trans- Fatty Acids in Hydrogenated and Refined Oils and Fats by Capillary GLC」)によって求めることができる。
【0063】
なお、トランス酸は、血中のLDLコレステロールを増加させ、HDLコレステロールを減少させる作用があると言われており、このため大量に摂取した場合には、動脈硬化などによる心臓疾患のリスクを高めるとの報告もある。一般に植物油脂には少量しか含まれないが、このような背景から、なるべくトランス酸含有量が低いことが望まれている。
【0064】
トランス酸含量の調整は、主として脱臭工程における水蒸気蒸留の条件を緩和する(例えば、水蒸気蒸留の温度を低下させる等)ことによって行うことができる。
【0065】
本発明においては、特定の可撓性多層樹脂製容器を用い、さらにトランス酸含量を3重量%以下にすることによって、食品の分離を防止し、保存安定性を向上させることができる。
【0066】
(6)油滴粒子の平均粒径が1〜2μmの水中油型乳化状食品および(7)粒径1μm以上、2μm以下の油滴として存在している脂質量が全脂質量の70重量%以上を占める水中油型乳化状食品
本発明による容器詰め乳化状食品の好ましい一具体例としては、不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品が、該水中油型乳化状食品中に分散している油滴粒子の平均粒径が1〜2μmのもの、を挙げることができる。
【0067】
このように油滴粒子の平均粒径が小さい水中油型乳化状食品は、より好ましいコクおよび口当たりを有するものである。特に、粒径1μm以上、2μm以下の油滴として存在している脂質量が全脂質量の70重量%以上を占めるものである本発明による水中油型乳化状食品は、口当たりが滑らかで、コクや風味等が良好なものである。本発明では、上記の通りに、油滴粒子の平均粒径が小さい水中油型乳化状食品であっても良好な保存安定性を得ることができるので、保存前の水中油型乳化状食品が有する風味および風味バランスを実質的に損なわずに長期間維持することができる。
【0068】
油粒子の平均粒径が2μmを越えると、水中油型乳化状食品の粘度が緩い場合があり、一方、平均粒径が1μm未満のものを安定して製造するためには、特殊な製造設備を要し、食品工業上適切なコストで製造することが困難である。そこで、滴粒子の平均粒径が1〜2μmのものが特に好ましい。また、粒径1μm以上、2μm以下の油滴として存在している脂質量が全脂質量の70重量%未満では、例え平均粒径が1〜2μmであったとしても、粒径が2μm超過の油粒子を多く含むことにより目的とするきめ、質感を有する水中油型乳化状食品を得ることが困難になる。
【0069】
ところで、近年、生活習慣病の予防やダイエット志向により低カロリーの水中油型乳化状食品が好まれる傾向があって、油脂含有量が低い水中油型乳化状食品の開発が望まれるようになってきている。本発明による水中油型乳化状食品は、上記の通りに、口当たりが滑らかでコクや風味等が良好なものでありかつ良好な保存安定性を有していることから、油脂含有量が低い水中油型乳化状食品(例えば脂質含量が40重量%以下の水中油型乳化状食品)として特に好ましいものである。
【0070】
なお、一般に油脂含有量が低い水中油型乳化状食品は、油脂含有量が低いことに起因して、粘度が適切でなかったりコクやボディー感が不足するように感じられることがある。これらの問題点は澱粉を通常1重量%以上配合することによって改良することも可能であるが、その場合、配合した澱粉によって食品の風味が損なわれたり口溶け感が悪化することがあった。よって、所望のコクやボディー感が得られるのであれば、澱粉の配合量は出来るだけ少ない方が好ましい。
【0071】
本発明による水中油型乳化状食品は、上記の通り、油脂含有量が低い場合であってもコクや風味等が良好であるので、澱粉を全く配合しなくても、あるいは少量の澱粉配合量で、好ましいコクやボディー感を得ることができる。したがって、本発明による水中油型乳化状食品では、澱粉を全く配合しなくても、あるいは1重量%以下という少量の澱粉配合量で、好ましいコクやボディー感を得ることができる。
【0072】
<可撓性多層樹脂製容器>
本発明における可撓性多層樹脂製容器は、下記の(1)〜(3)のいずれかである。
(1)可撓性多層樹脂製容器が、酸素吸収性樹脂層を有し、かつ、前記酸素吸収性樹脂層より外面側に酸素バリヤ性樹脂層を有するもの。
(2)可撓性多層樹脂製容器が、酸素吸収性樹脂層を有するとともに前記酸素吸収性樹脂層より外面側に第1の酸素バリヤ性樹脂層を有し、さらに前記酸素吸収性樹脂層より内面側に水分の存在により酸素バリヤ機能が低下する樹脂よりなる第2の酸素バリヤ性樹脂層が形成されてなるもの。
(3)可撓性多層樹脂製容器が、酸素吸収性樹脂と酸素バリヤ性樹脂とを溶解混合してなる酸素吸収バリヤ性樹脂層を有するもの。
【0073】
図1は、上記(1)の可撓性多層樹脂製容器の好ましい一具体例についてその断面構造を模式的に示すものである。この図1において、1は可撓性多層樹脂製容器の側壁であって、1aはこの可撓性多層樹脂製容器の側壁1の内面(即ち、容器の食品側の表面)を示し、1bはこの可撓性多層樹脂製容器の側壁1の外面(即ち、容器の外部側の表面)を示す。2は酸素吸収性樹脂層を示し、3は酸素バリヤ性樹脂層を示す。5および6は軟質樹脂層を示す。この可撓性多層樹脂製容器1は、前記酸素吸収性樹脂層2によって容器内面と乳化状食品との界面に存在する酸素を吸収するように構成されている。
【0074】
図2は、上記(2)の可撓性多層樹脂製容器の好ましい一具体例についてその断面構造を模式的に示すものである。この図2において、1は可撓性多層樹脂製容器の側壁であって、1aはこの可撓性多層樹脂製容器の側壁1の内面(即ち、容器の食品側の表面)を示し、1bはこの可撓性多層樹脂製容器の側壁1の外面(即ち、容器の外部側の表面)を示す。2は酸素吸収性樹脂層を示し、31は第1の酸素バリヤ性樹脂層を示す。32は、第2の酸素バリヤ性樹脂層を示す。5および6は軟質樹脂層を示す。
【0075】
この可撓性多層樹脂製容器も、前記酸素吸収性樹脂層2によって容器内面と乳化状食品との界面に存在する酸素を吸収するように構成されている。
【0076】
上記の第2の酸素バリヤ性樹脂層32は、前記容器に乳化状食品が充填される前に、酸素吸収性樹脂層2に酸素が吸収されて、この酸素吸収性樹脂層2の酸素吸収能力が消失することを防止する。しかし、この第2の酸素バリヤ性樹脂層32は、前記容器に水中油型乳化状食品が充填された後においては、可撓性樹脂製容器の内面に吸着若しくは残存した酸素を酸素吸収性樹脂層2が吸収できるような適当な酸素透過性を有するものが好ましい。したがって、この第2の酸素バリヤ性樹脂層32は、湿度上昇によって酸素バリヤ性が低下する材料、例えばエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(以下、本明細書において「EVOH」ということがある)によって形成することが好ましい。その理由は後述する。
【0077】
図3は、上記(3)の可撓性多層樹脂製容器の好ましい一具体例についてその断面構造を模式的に示すものである。この図3において、1は可撓性多層樹脂製容器の側壁であって、1aはこの可撓性多層樹脂製容器の側壁1の内面(即ち、容器の食品側の表面)を示し、1bはこの可撓性多層樹脂製容器の側壁1の外面(即ち、容器の外部側の表面)を示す。4は、酸素吸収性樹脂と酸素バリヤ性樹脂とを溶解混合してなる酸素吸収バリヤ性樹脂層を示す。5および6は軟質樹脂層を示す。この可撓性多層樹脂製容器は、酸素吸収バリヤ性樹脂層4によって容器内面と乳化状食品との界面に存在する酸素を吸収するように構成されている。下記に示す厚さについては、図4に示す胴部を測定したものである。
【0078】
図1に示される可撓性多層樹脂製容器の場合、酸素吸収性樹脂層2の厚さは、5〜30μmが好ましい。酸素バリヤ性樹脂層3の厚さは、3〜20μmが好ましい。耐湿性樹脂層5の厚さは、10〜50μmが好ましい。軟質樹脂層6の厚さは、100〜190μmが好ましい。
【0079】
図2に示される可撓性多層樹脂製容器の場合、酸素吸収性樹脂層2の厚さは、5〜30μmが好ましい。第1の酸素バリヤ性樹脂層31の厚さは、3〜20μmが好ましい。第2の酸素バリヤ性樹脂層32の厚さは、3〜20μmが好ましい。軟質樹脂層5の厚さは、10〜50μmが好ましい。軟質樹脂層6の厚さは、80〜180μmが好ましい。
【0080】
図3に示される可撓性多層樹脂製容器の場合、酸素吸収バリヤ性樹脂層4の厚さは、5〜30μmが好ましい。軟質樹脂層5の厚さは、30〜100μmが好ましい。軟質樹脂層6の厚さは、70〜170μmが好ましい。
【0081】
本発明での可撓性多層樹脂製容器では、本発明の趣旨に反しない限り、上記以外の他の層を必要に応じて設けることができる。例えば、接着層(図示せず)を、軟質樹脂層5と酸素バリヤ性樹脂層3との間、酸素バリヤ性樹脂層3と酸素吸収性樹脂層2との間、軟質樹脂層5と第1の酸素バリヤ性樹脂層31との間、第1の酸素バリヤ性樹脂層31と酸素吸収性樹脂層2との間、軟質樹脂層5と酸素吸収バリヤ性樹脂層4との間に、必要に応じて設けることができる。さらに、リプロダクション層(図示せず)あるいは酸素バリヤ性樹脂層(図示せず)を、上記接着層の形成位置と同じ位置に、必要に応じて設けることができる。また、これらの接着層、リプロダクション層、酸素バリヤ性樹脂層の二種以上を形成することもできる。ここで、「リプロダクション層」とは、容器の吹込成型などで生じた打ち抜き屑やスクラップ屑などの端部を粉砕再生し、再び軟質樹脂などに溶融混入させた樹脂などを言うものである。
【0082】
本発明での可撓性多層樹脂製容器における酸素吸収性樹脂層2としては、それが食品用容器に使用されることを考慮したうえで、適当な任意のものを使用することができる。例えば、空気中の酸素を吸収可能な成分を少なくとも1種を含んでなる樹脂組成物を使用することができる。酸素吸収性は、樹脂成分自体が有していても、それに配合された有機または無機成分が有していてもよい。(イ)前者としては、酸化性樹脂(例えば、炭素側鎖を有するオレフィン系樹脂、分岐鎖を有するポリエステル系樹脂、分岐鎖を有するポリアミド系樹脂等)と触媒化合物(例えば、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、錫、チタン、ジルコニウム、バナジウムおよびこれらの塩等)とからなる樹脂組成物を挙げることができ、(ロ)後者としては、酸素吸収性化合物(例えば、還元性鉄)が配合された各種の樹脂組成物を挙げることができる。酸素吸収性樹脂層2の特に好ましい具体例には、繊遷金属系酸化触媒または酸化鉄系酸素吸収剤を樹脂中に分散させたものが包含される。なお、樹脂組成物およびその配合成分の両方が酸素吸収性を有していてもよい。
【0083】
酸素バリヤ性樹脂層3、31、32も、合目的的な任意のものを利用することができる。本発明では、例えば、(イ)エチレン−ビニルアルコール共重合体、(ロ)ポリアミド類、特にナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン13等を好ましく利用することができる。
【0084】
このうち、第2の酸素バリヤ性樹脂層32は、湿度上昇によって酸素バリヤ性が低下する材料、例えばエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(EVOH)、ナイロン6等によって形成するものであるが、特に好ましいのはEVOHである。
【0085】
その理由は、前記容器にマヨネーズ様食品が充填された後は、水中油型乳化状食品の水分の存在によって、その水分がわずかながら軟質樹脂層を透過して酸素バリヤ性樹脂にまで到達して、酸素バリヤ樹脂層が有する酸素バリヤ性機能を低下させることにより、可撓性樹脂製容器の内面に吸着若しくは残存した酸素を効率的に吸収できるようになるからである。
【0086】
請求項2に記載した酸素吸収性樹脂層を有する可撓性樹脂製容器において、前記酸素吸収性樹脂層の内面側に酸素バリヤ性樹脂層として例えばEVOHよりなる層(以下、EVOH層という。)を有している場合、水中油型乳化状食品を前記容器に充填する前は、水分が存在しないため酸素バリヤ性機能は高いレベルで維持される。しかし、EVOH層は、わずかでも水分が存在する場合においては、酸素バリヤ性が著しく低下し、酸素を多く透過してしまうことが知られている。
【0087】
そこで、前記水中油型乳化状食品の水分の存在によりEVOH層の酸素バリヤ機能が低下するというEVOH特有の特性を利用することにより、マヨネーズ様食品のような水中油型乳化状食品を、酸素吸収性樹脂層の内面側に酸素バリヤ性樹脂(例えばEVOH)を有している可撓性樹脂製容器に充填すると、容器内側に吸着若しくは残存した酸素が、水部の存在により酸素バリヤ性が低下したEVOH層を透過し酸素吸収樹脂層に吸収されるため、押圧による油分離の防止に対し極めて効果的であると考えられる。
【0088】
ちなみに、EVOHが、湿度によるバリヤ性特性変化が大きいものであることは、例えば文献1:「透明ハイバリヤーボトル『ブローエース』について」、上田和男 著、ジャパンフードサイエンス(1989年7月号第61頁)および文献2:「各種バリヤー性フィルム」、猪狩恭一郎 著、包装技術(昭和60年4月号第25頁)に記載されている。この文献2に示されるように、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)等のような水分存在下であっても酸素透過量は変わらないが、EVOHは高湿度雰囲気になるにつれ酸素透過量が上昇する。なお、本願の図5は上記文献1に示された前記内容を、本願明細書の表4は上記文献2に示された前記内容を、示すものである。
【0089】
このことから、第2の酸素バリヤ性樹脂層32は、湿度上昇によって酸素バリヤ性が低下する材料、例えばエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)によって形成することが好ましい。このような水分の存在により酸素透過量が増加するという上記樹脂特有の特性を使用した本発明による容器詰め乳化状食品は、乳化状食品充填前に酸素吸収性樹脂層2の酸素吸収能力が低下することが抑制されたものであり、かつ乳化状食品充填後は容器内側の酸素を効率的に吸収できるものなので、押圧による油分離防止効果に特に優れるものである。
【表4】

【0090】
本発明による可撓性多層樹脂製容器では、酸素吸収バリヤ性樹脂層4は任意のものを利用することができる。例えば、酸素吸収性性樹脂層に関して例示した上記樹脂組成物(即ち、(イ)酸化性樹脂と触媒化合物とからなる樹脂組成物および(ロ)還元性化合物が配合された各種の樹脂組成物)と、酸素バリヤ性樹脂層3に関して例示した上記樹脂組成物(即ち、(イ)エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂および(ロ)ポリアミド類等の樹脂組成物)とを溶解混合してなる樹脂組成物を例示することができる。
【0091】
軟質樹脂層5、6としては、(イ)オレフィン系樹脂、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブテン−1、エチレン−ブテン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体等、(ロ)ポリエステル系樹脂等を好ましく利用することができる。
【0092】
本発明での可撓性多層樹脂製容器において上記各層の厚さは任意である。マヨネーズ用のボトル状容器として特に好ましいものについて、各層の厚さを具体的な層構成と共に例示すると下記の通りである。なお、一番左の記載された層が容器外層となり、一番右に記載された層が容器内層となる。括弧内の数字は、全体の厚さに対する各層の占める割合(%)である。
(イ)PE(10%)/第1のEVOH(3%)/PE+Co(5%)/第2のEVOH(3%)/PE(79%)
(ロ)PE(30%)/EVOH+ナイロン+Co(20%)/PE(50%)
(ハ)PP(10%)/接着層(2.5%)/EVOH(3%)/接着層(2.5%)/ポリメタキシレンアジパミド+Co(5%)/接着層(2.5%)/EVOH(3%)/接着層(2.5%)/PP(69%)
(ニ)PE(30%)/接着層(5%)/ステアリン酸Co+PP+EVOH(10%)/接着層(5%)/PE(50%)
(ホ)PP(20%)/EVOH(5%)/酸素吸収剤層(10%)/PP(65%)
ここで、「PE」は「ポリエチレン」を、「EVOH」は「エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂」を、「PE+Co」は「ポリエチレン成分とコバルト成分とからなる樹脂組成物」を、「EVOH+ナイロン+Co」は「EVOH成分とナイロン成分およびコバルト成分からなる樹脂組成物」を、「PP」は「ポリプロピレン」を、それぞれ意味する。「酸素吸収剤層」としては、酸素吸収剤(好ましくは、鉄系酸素吸収剤、アスコルビン酸、ネオデカン酸コバルト等)を、樹脂材料(好ましくはPE、PP等)中に、必要に応じて接着剤樹脂やMXナイロン樹脂と共に、分散させてなる層を例示することができる。ここで、鉄系酸素吸収剤には、還元性鉄粉と酸化促進剤ないし触媒とがブレンドされたもの、および還元性鉄粉からなるコア粒子が酸化促進剤ないし触媒を含む層によってコーティングされたもの、が包含される。
【0093】
本発明による可撓性多層樹脂製容器の大きさ、形状、容器壁の厚さおよび製造方法等は、必要に応じて適宜定めることができる。例えば、容器容量、水中油型乳化状食品の性状、必要な保存安定性、酸素吸収性能、可撓性、コスト、および商品として流通し販売される際に望まれる各種要求等に応じて、適宜定めることができる。
【0094】
代表的な容器としては、例えば上記(イ)〜(ホ)の層構成を有するパリソンを共押し法により壁厚約200μmに成形し、この多層パリソンを溶融ブロー成形することによって製造された高さ20cmの容器を挙げることができる。
【実施例】
【0095】
実施例および比較例で用いられた、乳化状食品、可撓性多層樹脂製容器、および評価方法は、下記の通りである。
【0096】
〔I〕 乳化状食品
マヨネーズ
食酢10.0kg、清水4.0kg、食塩1.7kg、辛子粉0.2kg、グルタミン酸ナトリウム0.4kgをミキサーにて撹拌して均一として後、生卵黄7.2kg、生卵白4.0kgを添加し、ミキサーにて撹拌して均一とした後、植物油72.5kgを注加して粗乳化させた。得られた粗乳化物をコロイドミルにより仕上げ乳化を行った。
得られたマヨネーズは、粘度が約250Pa・s[B型粘度計、((株)東京計器製)でローターNo.6、品温約20℃、回転数2rpmで測定]であった。
【表5】

【0097】
〔II〕 可撓性多層樹脂製容器
容器A(実施例容器)
マヨネーズ等を充填する樹脂製ボトル容器として、ポリエチレン(軟質樹脂)、エチレンビニルアルコール共重合体樹脂(酸素バリヤ性樹脂)およびポリエチレン成分とコバルト成分とからなる樹脂組成物(酸素吸収性樹脂)を4層に積層してブロー成形法により製造した、高さ20cmで上端が開口したボトル形状の容器を用意した。
【表6】

【0098】
容器B(実施例容器)
マヨネーズ等を充填する樹脂製ボトル容器として、ポリエチレン(軟質樹脂)、エチレンビニルアルコール共重合体樹脂(酸素バリヤ性樹脂)およびポリエチレン成分とコバルト成分とからなる樹脂組成物(酸素吸収性樹脂)を5層に積層してブロー成形法により製造した、高さ20cmで上端が開口したボトル形状の容器を用意した。
【表7】

【0099】
容器C(比較例容器)
マヨネーズ等を充填する樹脂製ボトル容器として、ポリエチレン(軟質樹脂)、エチレンビニルアルコール共重合体樹脂(酸素バリヤ性樹脂)を3層に積層してブロー成形法により製造した、高さ20cmで上端が開口したボトル形状の容器を用意した。
【表8】

【0100】
〔III〕 評価方法
上記で得たマヨネーズを、上記の「容器A」、「容器B」および「容器C」に充填し、前記容器開口部をアルミシールで封止して、容器詰め乳化状食品を作製した。それぞれについて、下記の「押圧分離試験」、「静置分離試験」、「風味評価試験」および「酸化劣化試験」を行った。
【0101】
押圧分離試験
上記で得たマヨネーズを、上記の「容器A」、「容器B」および「容器C」に充填し、容器の口部を上にして、25℃の雰囲気中に、10日間、3ヵ月間、6ヵ月間、10ヵ月間、12ヵ月間、15ヵ月間、静置保存した。
上記期間を経過した時点で、各容器を採取り出し、容器キャップを開け、アルミシールを剥がした後、口部から容器中のマヨネーズの総重量の10%を除いた後、容器キャップを緩く締め、マヨネーズの口部を上にして容器を立てた状態にした。その状態で、(1)容器中央部を手で押しながら、容器キャップにつかない程度までマヨネーズを押し上げ、次いで(2)手を離して自重でマヨネーズが元の状態に戻るのを待つことを、5回繰り返し、その後、2時間静置する作業を行った。この一連の作業を1セットとする。
この一連の作業を繰り返し行い、マヨネーズの状態を30cm離れた所から目視にて観察した。油分離が確認されるまでのセット数によって、押圧による油分離性の評価を行った。
結果は、下記表に示される通りである。
【表9】

【0102】
静置分離試験
上記で得たマヨネーズを、上記の「容器A」、「容器B」および「容器C」に充填し、容器の口部を上にして、25℃の雰囲気中に、10日間、3ヵ月間、6ヵ月間、10ヵ月間、12ヵ月間、15ヵ月間、静置保存した。
容器の口部と胴部において、マヨネーズの油分離の状態を目視で確認した。
結果は、下記表に示される通りである。
尚、下記表において、
「−」は、「分離なし」を、
「±」は、「わずかに分離(20cmまで近づけて確認できる程度)」を、
「+」は、「分離(30cmまで近づけて確認できる程度)」を、
「++」は、「激しく分離(一目で確認できる程度)」を、意味する。
【表10】

【0103】
風味評価試験(1)
上記で得たマヨネーズを、上記の「容器A」、「容器B」および「容器C」に充填し、容器の口部を上にして、25℃の雰囲気中に、10日間、3ヵ月間、6ヵ月間、10ヵ月間、12ヵ月間、15ヵ月間、静置保存した。
各サンプルの酸化臭と、風味のバランス(おいしさ、酸味、コク、口当り、熟成味の総合的なバランス)を確認した。
結果は、下記表に示される通りである。
【表11】

【0104】
酸化劣化試験(TBARS)
上記で得たマヨネーズを、上記の「容器A」、「容器B」および「容器C」に充填し、容器の口部を上にして、25℃の雰囲気中に、10日間、3ヵ月間、6ヵ月間、10ヵ月間、12ヵ月間、15ヵ月間、静置保存した。
各容器を、底部より約8cmのところをカッターナイフで胴切りし、壁面から1gのマヨネーズのサンプルを採取した。それぞれのサンプルを0.15mol/L NaCl溶液にて5倍に希釈し、その1mLを試験管に採り、20%(W/V)トリクロロ酢酸溶液1mLを加えて振とうした。さらに、0.67%(W/V)チオバルビツール酸溶液2mLを加えて、沸騰水中で約10分間加熱した後、シリンジフィルター(Cellulose Acetate 0.45μm(hydrophilic)ADVANTEC製)にて残渣を取り除き、波長535nmでの吸光度を測定器(U−2010、spectrophotometer HITACHI製)にて測定した。別に、試料を含まない対照液についても同様に反応させて得られた上澄み液の吸光度を測定し、差し引いた。
結果は、下記表に示される通りである。
【表12】

【0105】
上記の結果から明らかなように、本発明の可撓性多層樹脂製容器(容器A及び容器B)に充填された水中油型乳化状食品は、保存安定性、特に容器開封後に内容物を絞り出すために容器を繰り返し押圧しても油分離が有効に防止されている。これは、表12に示される酸化劣化試験の結果から明らかなように、容器Cは時間が経過するにつれ酸化が進み、乳化状態が不安定になると考えられる。これに対し、容器Aおよび容器Bは15ヵ月経過しても酸化がほとんど進まないため、乳化状態が安定であると考えられる。
【0106】
よって、本発明の容器詰め乳化状食品は、表9に示される押圧分離試験の結果からも明らかなように、物理的な衝撃、具体的に押圧しても油分離が生じない容器詰め乳化状食品である。また、この容器詰め乳化状食品は、表11に示される風味評価試験の結果からも明らかなように、風味も長期間良好なものであることが分かる。
【0107】
風味評価試験(2)
食酢10.0kg、清水4.0kg、食塩1.7kg、辛子粉0.2kg、グルタミン酸ナトリウム0.4kgをミキサーにて撹拌して均一として後、生卵黄7.2kg、生卵白4.0kgを添加し、ミキサーにて撹拌して均一とした後、植物油72.5kgを注加して粗乳化させ、得られた粗乳化物をコロイドミルにより仕上げ乳化を行って、下記のマヨネーズ(試料1、2および3)を製造した。
【0108】
試料1:上記方法において、植物油として、市販の精製大豆油を入手し、これを活性白土(「ガレオンアースV」、水澤化学工業(株)社製)を用いて脱色処理(100℃、真空中)を行った脱色植物油を使用して得られたマヨネーズ(この試料1は、クロロフィル類含量が約80ppbであり、トランス酸含量が1.7重量%のものである)
試料2:上記方法において、植物油として、市販の精製大豆油を入手し、これを活性白土(「ガレオンアースV」、水澤化学工業(株)社製)を用いて脱色処理(100℃、真空中)を行った脱色植物油を使用して得られたマヨネーズ(この試料2は、クロロフィル類含量が約200ppbであり、トランス酸含量が1.7重量%のものである)。
【0109】
試料3:上記方法において、植物油として市販の精製大豆油をそのまま使用して得られたマヨネーズ(この試料3は、クロロフィル類含量が約500ppbであり、トランス酸含量が1.7重量%のものである)。
【0110】
上記の試料1〜3の各マヨネーズ350gを、上記の「容器B」または「容器C」に充填密閉した。容器の一側面に対し10000Lxの蛍光灯照射を24時間行い、その後容器を切断し、照射面の容器接触内面(厚さ5mm程度の部分)のマヨネーズをサンプリングし、その過酸化物価(POV)、風味のバランス、および酸化臭を確認した。
【0111】
尚、過酸化物価(POV)の測定は、以下のように行った。
先ず、前記サンプリングしたマヨネーズ1gを、一般的なブライダイヤー法(Bligh&Dyer method)を用いて脂質成分を抽出し、この抽出成分を試料溶液とした。この得られた試料溶液について、電位差−電量法により、飯島電子工業(株)製POV計、IP200を使用して過酸化物価を測定した。
結果は、下記表に示される通りである。
【表13】

【0112】
このように、酸素吸収性樹脂層を含む容器Bを用いる本発明によれば、苛酷な蛍光灯照射試験においてもマヨネーズの酸化劣化を有効に防止することができる。
【0113】
風味評価試験(3)
食酢10.0kg、清水4.0kg、食塩1.7kg、辛子粉0.2kg、グルタミン酸ナトリウム0.4kgをミキサーにて撹拌して均一として後、生卵黄7.2kg、生卵白4.0kgを添加し、ミキサーにて撹拌して均一とした後、植物油72.5kgを注加して粗乳化させ、得られた粗乳化物をコロイドミルにより仕上げ乳化を行って、下記のマヨネーズ(試料4、5および6)を製造した。
【0114】
試料4:上記方法において、植物油として、市販の精製大豆油(クロロフィル類含量は約500ppb、トランス酸含量は1.7重量%)を活性白土(「ガレオンアースV」、水澤化学工業(株)製)を用いた脱色処理(100℃、真空中)を行った植物油を使用して得られたマヨネーズ(この試料4は、クロロフィル類含量が約80ppbであり、トランス酸含量が1.7重量%のものである)。
【0115】
試料5:上記方法において、植物油として、市販の精製大豆油(クロロフィル類含量は約200ppb、トランス酸含量は2.8重量%)を活性白土(「ガレオンアースV」、水澤化学工業(株)製)による脱色処理(100℃、真空中)をした脱色植物油を使用して得られたマヨネーズ(この試料5は、クロロフィル類含量が約80ppbであり、トランス酸含量が2.8重量%のものである)。
【0116】
試料6:上記方法において、植物油として、市販の精製大豆油(クロロフィル類含量約80ppb、トランス酸含量は5.4重量%)をそのまま使用して得られたマヨネーズ。
【0117】
上記の試料4〜6の各マヨネーズ350gを、上記の「容器B」または「容器C」に充填密閉した。40℃の雰囲気中に、30日間保存し、その後容器を切断し、容器接触内面(厚さ5mm程度の部分)のマヨネーズをサンプリングし、前記の「風味評価試験(2)」と同様の方法により、過酸化物価(POV)、風味のバランス、および酸化臭を確認した。
結果は、下記表に示される通りである。
【表14】

【0118】
このように、酸素吸収性樹脂層を含む容器Bを用いる本発明によれば、苛酷な酸化促進試験においてもマヨネーズの酸化劣化を有効に防止することができる。
【0119】
風味評価試験(4)
生卵黄をホスホリパーゼAで処理して、リゾ化率30%のホスホリパーゼA処理卵黄(固形分50%)を得た。前記ホスホリパーゼA処理卵黄60g、生卵黄150g(固形分12%)、食酢(酸度4%)150g、清水300g、食塩25g、キサンタンガム5g、からし粉5gおよびグルタミン酸ナトリウム5gをミキサーで均一とし水相を調整した後、菜種油300gを注加して粗乳化させた。得られた粗乳化物をホモジナイザー、例えば「ヒスコトロン NS−30U」、((株)マイクロテック・ニチオン製)で仕上げ乳化を行った。得られたマヨネーズ様食品の油滴の平均粒子径および粒度分布を下記方法により測定したところ、平均粒子径は1.5μmであり、粒径1μm以上2μm以下の油滴が占める割合は油脂全体の73%であった。
【0120】
平均粒径および粒度分布の測定方法:0.2〜0.3gの試料を100mLのビーカーに採り、0.5%ドデシル硫酸ナトリウム溶液をポリスマン攪拌棒で攪拌しながら20〜30mLになるように少しずつ加え、分散させた。分散させた試料は粒度分布計(島津製作所社製「SALD−200V ER」)のサンプラに「測定領域」の表示がでるまで適量投入し、測定した。
【0121】
このマヨネーズ様食品210gを、上記の「容器B」または「容器C」に充填密閉した。常温(25℃)で保存した。経時的にチオバルビツール酸価(TBARS)を測定するとともに、風味のバランス、および酸化臭を確認した。
結果は、下記表に示される通りである。
【0122】
チオバルビツール酸価の測定方法:実施例容器(容器B)と比較例容器(容器C)にそれぞれ保存したマヨネーズ様食品について、0、4、8、10、12ヵ月常温(25℃)保存後、−40℃で1週間冷却し、水相と油相に分離した。油相部分から試料として300mgを精密に量り、0.8%ドデシル硫酸ナトリウム溶液0.40mL、酢酸緩衝液(pH3.5)1.50mL、ジブチルヒドロキシトルエン溶液50μL、TBA溶液1.50mL、水0.80mLを順に加え、5℃、60分処理したのち、直ちに沸騰水浴上60分処理したのち、直ちに沸騰水浴上60分加熱した。冷却後、水1.0mL、n‐ブタノール‐ピリジン混液(15:1)5.0mLを加えて、激しく攪拌した。3000rpmで10分間遠心分離したのち、上澄液の535nmにおける吸光度を測定した。別に試料を含まない対照液についても同様に反応させて得られた上澄液の吸光度を測定し差し引いた。これにより得られた値をTBARSとして標記した。なお、吸光度の測定に用いた測定器は、前記の「酸化劣化試験(TBARS)」において用いたのと同じもの、即ち、U−2010、spectrophotometer HITACHI製 である。
【0123】
上記で得たマヨネーズを、上記の「容器A」、「容器B」および「容器C」に充填し、容器の口部を上にして、25℃の雰囲気中に、10日間、3ヵ月間、6ヵ月間、10ヵ月間、12ヵ月間、15ヵ月間、静置保存した。
各容器を、底部より約8cmのところをカッターナイフで胴切りし、壁面から1gのマヨネーズのサンプルを採取した。それぞれのサンプルを0.15mol/L NaCl溶液にて5倍に希釈し、その1mLを試験管に採り、20%(W/V)トリクロロ酢酸溶液1mLを加えて振とうした。さらに、0.67%(W/V)チオバルビツール酸溶液2mLを加えて、沸騰水中で約10分間加熱した後、シリンジフィルター(Cellulose Acetate 0.45μm(hydrophilic)ADVANTEC製)にて残渣を取り除き、波長535nmでの吸光度を測定器(U−2010、spectrophotometer HITACHI製)にて測定した。
【表15】

【0124】
容器B(実施例容器)では、12ヵ月間保存してもTBARSの増加は緩やかで、0.1以下で推移し、12ヵ月目の風味評価試験においても食品として風味良好とされる基準を満たす結果となった。これに対し、容器C(比較例容器)では、TBARSが8ヵ月目より急激に上昇し、10ヵ月目で0.15を越え、その後も増加した。これに相関し官能結果も8ヵ月目を越えた時点でバランスがやや不良となり、10ヵ月目では酸化臭いが少し確認された。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本発明における可撓性多層樹脂製容器の好ましい具体例について、その断面構造を模式的に示す図。
【図2】本発明における可撓性多層樹脂製容器の好ましい具体例について、その断面構造を模式的に示す図。
【図3】本発明における可撓性多層樹脂製容器の好ましい具体例について、その断面構造を模式的に示す図。
【図4】本発明において可撓性多層樹脂製容器の肉厚を測定した部位を示す図。
【図5】EVOHによって形成されたボトルの酸素透過量を示す図。
【符号の説明】
【0126】
1:可撓性多層樹脂製容器の側壁
2:酸素吸収性樹脂層
3:酸素バリヤ性樹脂層
31:第1の酸素バリヤ性樹脂層
32:第2の酸素バリヤ性樹脂層
4:酸素吸収バリヤ性樹脂層
5、6:軟質樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品を可撓性多層樹脂製容器に充填してなる容器詰め乳化状食品において、
前記可撓性多層樹脂製容器が、酸素吸収性樹脂層を有し、かつ、前記酸素吸収性樹脂層より外面側に酸素バリヤ性樹脂層を有することを特徴とする、容器詰め乳化状食品。
【請求項2】
不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品を可撓性多層樹脂製容器に充填してなる容器詰め乳化状食品において、
前記可撓性多層樹脂製容器が、酸素吸収性樹脂層を有するとともに前記酸素吸収性樹脂層より外面側に第1の酸素バリヤ性樹脂層を有し、さらに前記酸素吸収性樹脂層より内面側に水分の存在により酸素バリヤ機能が低下する樹脂よりなる第2の酸素バリヤ性樹脂層が形成されてなることを特徴とする、容器詰め乳化状食品。
【請求項3】
不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品を可撓性多層樹脂製容器に充填してなる容器詰め乳化状食品において、
前記可撓性多層樹脂製容器が、酸素吸収性樹脂と酸素バリヤ性樹脂とを溶解混合してなる酸素吸収バリヤ性樹脂層を有することを特徴とする、容器詰め乳化状食品。
【請求項4】
不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品が、30Pa・s以上の水中油型乳化状食品である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の容器詰め乳化状食品。
【請求項5】
不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品が、100Pa・s以上の水中油型乳化状食品である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の容器詰め乳化状食品。
【請求項6】
前記乳化材がリポ蛋白質である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の容器詰め乳化状食品。
【請求項7】
前記リポ蛋白質が卵黄リポ蛋白質である、請求項6に記載の容器詰め乳化状食品。
【請求項8】
前記乳化状食品がマヨネーズ様食品である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の容器詰め乳化状食品。
【請求項9】
不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品が、脂質中のクロロフィル類含量が200ppb以下の水中油型乳化状食品である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の容器詰め乳化状食品。
【請求項10】
不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品が、脂質中のクロロフィル類含量が100ppb以下の水中油型乳化状食品である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の容器詰め乳化状食品。
【請求項11】
不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品が、脂質中のトランス酸含量が3重量%以下の水中油型乳化状食品である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の容器詰め乳化状食品。
【請求項12】
不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品が、脂質中のトランス酸含量が2重量%以下の水中油型乳化状食品である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の容器詰め乳化状食品。
【請求項13】
不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品が、該水中油型乳化状食品中に分散している油滴粒子の平均粒径が1〜2μmのものである、請求項1〜12のいずれか1項に記載の容器詰め乳化状食品。
【請求項14】
不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品が、粒径1μm以上、2μm以下の油滴として存在している脂質量が全脂質量の70重量%以上を占めるものである、請求項1〜13のいずれか1項に記載の容器詰め乳化状食品。
【請求項15】
不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品が、脂質含量が40重量%以下のものである、請求項13または14に記載の容器詰め乳化状食品。
【請求項16】
不飽和脂肪酸を有する乳化材を含有してなる水中油型乳化状食品が、澱粉含量が1重量%以下のものである、請求項13〜15のいずれか1項に記載の容器詰め乳化状食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−69673(P2006−69673A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2005−294872(P2005−294872)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】