説明

容器詰製剤

【課題】リン脂質及び/又は長鎖脂肪酸トリグリセリドをそれぞれ所定量以下とすることによる効果を、プロポフォールの保管時における安定性を維持しつつ達成可能な容器詰製剤を提供する。
【解決手段】プロポフォール、(1)組成物の全容量に対して、0.2w/v%以上1.0w/v%以下のリン脂質、及び(2)組成物の全容量に対して、4.0w/v%以下の長鎖脂肪酸トリグリセリドを含む又は長鎖脂肪酸トリグリセリドを含まない油性成分、の少なくとも一方を満たす含有量の組み合わせとなるリン脂質及び油性成分、並びに水、を含むプロポフォール含有水中油型エマルション組成物と、前記プロポフォール含有水中油型エマルション組成物を収容すると共に内部表面が所定の条件を満たす容器との組み合わせである容器詰製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器詰製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
プロポフォール(化学名2,6−ジイソプロピルフェノール)は、水にほとんど溶けない油溶性薬物であるため、脂肪乳剤の形態として、静注用全身麻酔剤及び近年は静注用鎮静剤として使用されている。この脂肪乳剤は速やかな麻酔導入、速やかな覚醒、覚醒後の吐き気、嘔吐等の不快感が少ない等の特徴を有し、外科手術に広く使用されており、集中治療室等において鎮静目的にも使用されている。
【0003】
このようなプロポフォール脂肪乳剤には、油脂及びレシチンが含有されているため、製剤を投与することに起因する脂肪負荷が、投与対象に高脂血症などの影響が生じる可能性がある。脂肪負荷による影響を低減するための方法としては、油脂及び/又はレシチンを減少させることが考えられる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
プロポフォールによる効果を有効に活用するために、安定性に優れたプロポフォール含有製剤も求められている。例えば、特許文献2には、プロポフォールとシステインとを含む医薬組成物が開示されており、この医薬組成物は広範な環境条件にわたって化学的及び物理的に安定であると記載されている。また、特許文献3には、ブロックコポリマーと、ポリエチレングリコールと、プロポフォールとを含む水性処方が開示されており、この水性処方は、安定であり、長期間保存できると記載されている。
【0005】
また、プロポフォール脂肪乳剤には、静注時高い頻度で強い血管痛が発現する副作用が多く報告されている(非特許文献1)。この注射時の血管痛については、いくつかの方法が提案されている。脂肪乳剤の油相に用いる油性成分を、従来の長鎖脂肪酸トリグリセリド、具体的にはダイズ油から、ダイズ油と中鎖脂肪酸トリグリセリドとの質量比50対50の混合物とするにより軽減されたとの報告がある(非特許文献2)。
【0006】
一方、特定の効能を有する薬剤の有効期間を長期化させるために、例えば、特許文献4には、ガラス容器に密封させた後に加熱滅菌された脂肪乳剤が開示されている。この特許文献4では、ガラスアンプルの内部表面からアルカリ成分が溶出して製剤のpHが滅菌前よりも上昇することを見出し、このようなpHの変動を抑制するガラス容器に密封された脂肪乳剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2002−541086号公報
【特許文献2】特表2006−504771号公報
【特許文献3】特表2007−519732号公報
【特許文献4】特表2009−011112号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】British Journal of Anaethsia,1991, Vol.67, pp.281−284
【非特許文献2】Anesth Analg 1997, Vol.85, pp.1399-1403
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、脂肪負荷の観点から油脂及び/又はレシチンを低減した場合、また血管痛を緩和するために長鎖脂肪酸トリグリセリドの量を低減させた場合には、プロポフォールの分解が生じやすくなり、経時試験においてプロポフォールの分解生成物の一種であるプロポフォールダイマー体(3,3’−5,5’−テトライソプロピルジフェノール)の増加量が大きくなる現象が見出された。このため、脂肪負荷の低減又は血管痛の緩和などの目的のためにリン脂質又は長鎖脂肪酸トリグリセリドを低減させる場合には、プロポフォールの保管時における安定性を確保する必要があることがわかった。
【0010】
従って本発明は、リン脂質及び/又は長鎖脂肪酸トリグリセリドをそれぞれ所定量以下とすることによる効果を、プロポフォールの保管時における安定性を維持しつつ達成可能な容器詰製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下のとおりである。
[1] プロポフォール、下記(1)及び(2):(1)組成物の全容量に対して、0.2w/v%以上1.0w/v%以下のリン脂質、(2)組成物の全容量に対して、4.0w/v%以下の長鎖脂肪酸トリグリセリドを含む又は長鎖脂肪酸トリグリセリドを含まない油性成分、の少なくとも一方を満たす含有量の組み合わせとなるリン脂質及び油性成分、並びに水、を含むプロポフォール含有水中油型エマルション組成物と、前記プロポフォール含有水中油型エマルション組成物を収容すると共に、内部表面をアルゴンイオンエッチングX線光電子分光法により測定(測定装置:アルバックファイ社製QuanteraSXM、X線源:単色化AlKα線25W−15kV、光電子取り出し角:45度、中和銃を使用して測定、アルゴンイオンエッチング加速電圧:1kV−25nA)した場合に、ホウ素、ナトリウム、アルミニウム、カリウム及びカルシウムからなる群に含まれる少なくともひとつの特定元素とケイ素との関係が、下記の条件(I):
[Q]/[Q]≧3.0 ・・・・・(I)
(式中、Qは、前記容器の内部表面に対してエッチング時間0.0分、0.5分及び1.0分でエッチング処理したときに得られる前記特定元素のケイ素元素に対するモル比の平均値を示し;Qは、前記容器の内部表面に対してエッチング時間5.0分、10分、15分及び20分でエッチング処理したときに得られる前記特定元素のケイ素元素に対するモル比の平均値を示す。)
を満たす容器と、の組み合わせである容器詰製剤。
[2] 前記リン脂質及び油性成分の組み合わせが、以下(a)〜(d):
(a) 組成物の全容量に対し1.0w/v%以上30w/v%以下の油性成分、及び組成物の全容量に対し0.2w/v%以上1.0w/v%以下のリン脂質、
(b) 組成物の全容量に対し1.0w/v%以上9.0w/v%以下の油性成分、及び組成物の全容量に対し0.2w/v%以上10w/v%以下のリン脂質、又は、
(c) 組成物の全容量に対し1.0w/v%以上9.0w/v%以下の油性成分、及び組成物の全容量に対し0.2w/v%以上1.0w/v%以下のリン脂質、
(d) 組成物の全容量に対し1.0w/v%以上30w/v%以下の油性成分、該油性成分の質量の70w/w%以上100w/w%以下の中鎖脂肪酸トリグリセリド、及び組成物の全容量に対し0.2w/v%以上10w/v%以下のリン脂質
の少なくともいずれかを満たす[1]に記載の容器詰製剤。
[3] 前記(a)〜(c)において、前記油性成分が、該油性成分の全質量に対する質量が30w/w%以上100w/w%以下の中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有する[2]記載の容器詰製剤。
[4] 前記(a)又は(d)において、前記油性成分の含有量が、組成物の全容量に対して1.0w/v%以上10.0w/v%以下である[2]記載の容器詰製剤。
[5] 前記容器の内部表面が、酸化ケイ素皮膜で被覆された表面である[1]〜[4]のいずれか記載の容器詰製剤。
[6] 前記容器が、内部表面を酸化ケイ素皮膜により被覆されたガラス容器である[1]〜[5]のいずれか記載の容器詰製剤。
[7] 前記リン脂質がレシチンである[1]〜[6]のいずれか記載の容器詰製剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リン脂質及び/又は長鎖脂肪酸トリグリセリドをそれぞれ所定量以下とすることによる効果を、プロポフォールの保管時における安定性を維持しつつ達成可能な容器詰製剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の容器詰製剤は、プロポフォール、下記(1)及び(2):
(1) 組成物の全容量に対して、0.2w/v%以上1.0w/v%以下のリン脂質、
(2) 組成物の全容量に対して、4.0w/v%以下の長鎖脂肪酸トリグリセリドを含む又は長鎖脂肪酸トリグリセリドを含まない油性成分、
の少なくとも一方を満たす含有量の組み合わせとなるリン脂質及び油性成分、並びに水、を含むプロポフォール含有水中油型エマルション組成物と、
前記プロポフォール含有水中油型エマルション組成物を収容すると共に、内部表面をアルゴンイオンエッチングX線光電子分光法により測定(測定装置:アルバックファイ社製QuanteraSXM、X線源:単色化AlKα線25W−15kV、光電子取り出し角:45度、中和銃を使用して測定、アルゴンイオンエッチング加速電圧:1kV−25nA)した場合に、ホウ素、ナトリウム、アルミニウム、カリウム及びカルシウムからなる群に含まれる少なくともひとつの特定元素とケイ素との関係が、下記の条件(I):
[Q]/[Q]≧3.0 ・・・・・(I)
(式中、Qは、前記容器の内部表面に対してエッチング時間0.0分、0.5分及び1.0分でエッチング処理したときに得られる前記特定元素のケイ素元素に対するモル比の平均値を示し;Qは、前記容器の内部表面に対してエッチング時間5.0分、10分、15分及び20分でエッチング処理したときに得られる前記特定元素のケイ素元素に対するモル比の平均値を示す。)
を満たす容器と、の組み合わせである容器詰製剤である。
【0014】
本発明によれば、プロポフォールと、リン脂質及び油性成分と、水とを含むプロポフォール含有水中油型エマルション組成物の各成分が、前記(1)の記載のリン脂質の量を0.2w/v%以上1.0w/v%以下となる場合、又は前記(2)に記載の長鎖脂肪酸トリグリセリドが4.0w/v%以下となる場合であっても、ホウ素、ナトリウム、アルミニウム、カリウム及びカルシウムからなる群に含まれる少なくともひとつの特定元素とケイ素との関係が上述したような条件(I)を満たす容器に収容しているので、上記(1)又は(2)によって生じることがあるプロポフォールの分解を抑制し得る。前記(1)は、リン脂質の量を低減させた処方であり、例えば脂肪負荷の低減を達成可能な処方であり、また、前記(2)は長鎖脂肪酸トリグリセリドの量を低減させた処方であり、例えば血管痛の緩和を達成可能な処方である。この結果、このようなプロポフォール含有水中油型エマルションを上述したような容器に収容することにより、プロポフォールの保管時における安定性も維持して、所期の効果を得ることができる。
【0015】
本発明においてプロポフォール含有水中油型エマルション組成物を、単に「エマルション組成物」又は「組成物」ということがある。
また、本発明において、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても本工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
また、本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0016】
本発明において、例えば本発明のエマルション組成物を構成する各成分の配合量(濃度)について用いられる「w/v%」は、全組成物の容積(容量)100mLに対する各成分の質量(g)の100分率(下記式1a)を意味する。組成物の全容量に対する質量で表現する場合も、特に断らない限り、同様に、全組成物の容積(容量)100mLに対する各成分質量(g)を意味する。例えば、組成物100mL中に1.0gの質量で配合される成分の配合量は「1.0w/v%」と表記される。
また、本発明において、例えば本発明のエマルション組成物を構成する各成分の配合量(濃度)について用いられる「w/w%」は、当該成分の質量(g)の、基準となる物質の質量(g)の100分率(下記式1b)を意味する。
式1a:[各成分質量(g)/全組成物の容積(容量)100mL]×100(%)
式1b:[当該成分の質量(g)/基準となる物質の質量(g)]×100(%)
以下、本発明について説明する。
【0017】
本発明にかかる容器詰製剤は、前記プロポフォール含有水中油型エマルションと、該エマルション組成物を収容する所定の容器との組み合わせである。
【0018】
<プロポフォール含有水中油型エマルション>
プロポフォール(propofol)は、2,6−ジイソプロピルフェノール (2,6-diisopropylphenol)の一般名であり、例えば特開2002−179562号公報にも記載されているとおり、医薬品分野で全身麻酔薬又は鎮静薬などとして利用できることの知られている化合物である。該化合物の水に対する溶解性は、その有効投与量で使用する場合、同様の有効投与量の他の薬剤と比較してかなり低い。本発明のエマルション組成物において、該プロポフォールは、一般には、全エマルション組成物の容量に対して0.1w/v%〜5w/v%の量で存在し、より好ましくは、0.5w/v%〜3w/v%で用いられる。
また、本発明において、前記油性成分の質量に対するプロポフォールの質量は、1w/w%〜50w/w%が好ましく、5w/w%〜30w/w%がより好ましい。
【0019】
本発明のエマルション組成物は、油性成分及びリン脂質の組み合わせを含有する。
本発明において「油性成分」とは、医薬として許容可能であり、水中油型エマルション組成物において油相を構成し得る成分を広く意味する。本発明のおけるこのような油性成分としては、例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリド;植物油(即ち天然のトリグリセリド)、化学合成トリグリセリド、若しくは動物油などの長鎖脂肪酸トリグリセリド;鉱油;合成油;精油;エステル油など、又はこれらの混合物が挙げられる。ただし、本発明における油性成分には、プロポフォール、及びリン脂質は含まれない。
【0020】
本発明における油性成分は、長鎖脂肪酸トリグリセリドを含有し得る。長鎖脂肪酸トリグリセリドを含む場合には、プロポフォールの分解を効果的に抑制できるという利点を得ることができる。
本発明において前記長鎖脂肪酸トリグリセリドとは、当該長鎖脂肪酸トリグリセリドに含有されるトリグリセリドを構成する脂肪酸鎖の平均炭素数が、12より大きい油脂を意味する。脂肪酸鎖を構成する脂肪酸は飽和脂肪酸であっても不飽和脂肪酸であってもよい。長鎖脂肪酸トリグリセリドの例としては、天然のトリグリセリドに相当する植物油と、化学合成トリグリセリドとを挙げることができる。
【0021】
植物油の具体例としては、例えばダイズ油、綿実油、菜種油、胡麻油、サフラワー油、コーン油、落花生油、オリーブ油、ヤシ油、シソ油、及びヒマシ油などを挙げることができる。中でも、注射剤への使用実績の観点からダイズ油が好ましい。
ダイズ油(大豆油)とは、マメ科ダイズ属の植物の種子から得た植物油であり、公知の搾取方法・公知の精製方法を用いて種子から得ることができる。例えば日本薬局方に記載の「ダイズ油」の規格に適合するものを使用できる。ダイズ油の市販品としては、「日本薬局方 ダイズ油」(カネダ社)、「大豆油YM」(日清オイリオ社)、SR-SOYBEAN-LQ-(JP) (クローダジャパン社)などを例示できる。
化学合成トリグリセリドの例としては、例えば2−リノレオイル−1,3−ジオクタノイルグリセロールを例示できる。
【0022】
前記長鎖脂肪酸トリグリセリドの含有質量は、プロポフォールの分解抑制の観点から、油性成分の全質量に対して10w/w%以上70w/w%未満であることが好ましい。
【0023】
また本発明における油性成分としては、特に、長鎖脂肪酸トリグリセリドは、前記中鎖脂肪酸トリグリセリドとの二成分で構成されていることが好ましく、この場合には、長鎖脂肪酸トリグリセリドは、油性成分の全質量の40w/w%未満%、特に20w/w%よりも多く30w/w%未満であることが特に好ましい。
【0024】
また、本発明における油性成分としては、血管痛の緩和及びプロポフォールの溶解度の観点から、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含むことが好ましい。
本発明において中鎖脂肪酸トリグリセリドとは、当該中鎖脂肪酸トリグリセリドに含有されるトリグリセリドを構成する脂肪酸鎖の平均炭素数が12以下の油脂を意味する。
中鎖脂肪酸トリグリセリドにおける脂肪酸の平均炭素数とは、中鎖脂肪酸トリグリセリドに含まれるトリグリセリドを構成する脂肪酸鎖(本明細書中では「構成脂肪酸」ということがある)の炭素数(例えば、カプリル酸であれば8、カプリン酸であれば10)を構成脂肪酸の組成比によって加重平均したものである。
【0025】
本発明に使用する中鎖脂肪酸トリグリセリドとしては、構成脂肪酸に特に制限はなく、例えば炭素数が6以上12以下の脂肪酸を挙げることができる。前記中鎖脂肪酸トリグリセリドにおけるこれらの構成脂肪酸は飽和又は不飽和であってもよい。好ましくは、前記中鎖脂肪酸トリグリセリドは、主として炭素数6以上12以下の飽和脂肪酸のトリグリセリドで構成されたものである。また、前記中鎖脂肪酸トリグリセリドは、天然植物油由来のものであってもよく、合成脂肪酸のトリグリセリドであってもよい。これらを単独で又は2種以上を組み合わせて使用してよい。また、中鎖脂肪酸トリグリセリドは、構成脂肪酸鎖の平均炭素数が上述した範囲内であれば、1種単独で用いられてもよく、構成脂肪酸鎖の平均炭素数が異なる2種以上の中鎖脂肪酸トリグリセリドの混合物であってもよい。2種以上の中鎖脂肪酸トリグリセリドを混合する場合には、中鎖脂肪酸トリグリセリドの混合物の全体として、構成脂肪酸の平均炭素数が上述した範囲内になればよい。
【0026】
本発明に使用可能な中鎖脂肪酸トリグリセリドとしては、例えば、「医薬品添加物規格2003(薬事日報社)」の「中鎖脂肪酸トリグリセリド」の規格に適合するものを挙げることができる。中鎖脂肪酸トリグリセリドの市販品としては、商品名:「ココナード」(COCONARD TM、花王社)、「ODO TM」(日清オイリオ社)、「ミグリオール」(Myglyol TM、SASOL社)又は「パナセート」(Panasate TM、日油社)などを例示できる。
【0027】
本発明における中鎖脂肪酸トリグリセリドの含有質量は、血管痛の緩和及び、組成物中に充分な量のプロポフォールを溶解させる観点から、油性成分の全質量に対して30w/w%以上100w/w%以下であることが好ましく、60w/w%以上100w/w%以下がより好ましく、70w/w%以上100w/w%以下が更に好ましい。
【0028】
なお、本発明においてこれらの油性成分は、1種を単独で利用することもでき、2種以上を併用することもできる。なお、2種以上を併用する場合は、併用される各成分は、植物油、中鎖脂肪酸トリグリセリド、動物油、鉱油などの同一群から選択される必要はなく、異なる群から選択することが可能である。
【0029】
油性成分の含有質量は、エマルション組成物の所期の目的に応じて適宜設定される。
一般に油性成分は、エマルション組成物の全容量に対して1.0〜30.0w/v%であることが好ましく、5.0〜25.0w/v%であることがより好ましい。1.0w/v%以上であれば、エマルション組成物中に十分な濃度の薬剤を含有することができ、30.0w/v%以下であれば、エマルション組成物の安定性を損なうことがなく、それぞれ好ましい。
また、脂肪負荷の低減の観点から、油性成分は、エマルション組成物の全容量に対して、1.0〜10.0w/v%であることが好ましく、1.0〜9.0w/v%であることがより好ましく、2.0〜8.5w/v%であることが更により好ましく、3.0〜7.0w/v%であることが特に好ましい。1.0w/v%以上であれば、エマルション組成物中に十分な濃度の薬剤を含有することができ、10.0w/v%以下であれば、脂肪負荷の低減効果をより顕著に得ることができ、それぞれ好ましい。
【0030】
本発明のエマルション組成物は、プロポフォールを含む水中油型エマルション組成物を構成するためにリン脂質を含む。
リン脂質の例としては、天然のリン脂質であるレシチンを挙げることができる。レシチンの例としては、卵黄レシチン、卵黄ホスファチジルコリン、大豆レシチン、大豆ホスファチジルコリン、それらを水素添加した水添卵黄レシチン、水添卵黄ホスファチジルコリン、水添大豆レシチン、水添大豆ホスファチジルコリンなどを挙げることができる。
【0031】
また、前記リン脂質は、天然成分に限定されず、化学合成したリン脂質でもよい。該化学合成したリン脂質の例には、ホスファチジルコリン(ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリンなど)、ホスファチジルグリセロール(ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロールなど)、ホスファチジルエタノールアミン(ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミンなど)などが含まれる。
【0032】
これらのリン脂質は1種を単独で又は2種以上を混合して利用することができる。
本発明におけるリン脂質としては、生体適合性の観点から、卵黄レシチン、卵黄ホスファチジルコリン、大豆レシチン及び大豆ホスファチジルコリンがより好ましく、特に卵黄レシチンが好ましい。
【0033】
リン脂質の含有質量は、エマルション組成物の所期の目的に応じて適宜設定される。
一般にリン脂質は、エマルション組成物を形成できる範囲であればその含有量に特に制限はなく、例えば、エマルション組成物の全容量に対して0.2〜10.0w/v%であることが好ましく、0.5〜7w/v%であることがより好ましく、0.6〜2w/v%が特に好ましい。0.2w/v%以上であれば、エマルション組成物の安定性が充分であり、10.0w/v%以下であれば、投与対象への投与時の影響をほとんど考慮する必要がない
【0034】
また、脂肪負荷の低減の観点から、リン脂質の含有質量は、エマルション組成物の全容量に対して、0.2〜1.2w/v%であることが好ましく、0.2w/v%〜1.0w/v%であることがより好ましく、0.5〜1.0w/v%であることが更に好ましく、0.6〜0.9w/v%が特に好ましい。0.2w/v%以上であれば、エマルション組成物の安定性が充分であり、1.2w/v%以下であれば、脂肪負荷の発生などの点による過剰投与の観点に基づいても影響をほとんど考慮する必要がない。
【0035】
脂肪負荷の低減の観点から、油性成分の含有質量に対するリン脂質の含有質量の比は、0.04以上0.2以下であることが好ましく、0.05以上0.14以下であることがより好ましく、0.06以上0.13以下であることが最も好ましい。油性成分に対するリン脂質の質量比が0.04以上であれば、エマルション組成物の安定性が充分であり、0.2以下であれば、エマルジョン組成物を長期保存した場合に不溶物が生成しにくい傾向がある。
【0036】
また、脂肪負荷の低減の観点から、前記油性成分及びリン脂質の組み合わせの合計含有質量が、合計の含有質量で組成物の全容量に対して1.2w/v%以上11.0w/v%以下となる量であることが好ましい。11.0w/v%以下とすることにより、脂肪負荷による影響、例えば高脂血症の発生を低減させることができ、1.2w/v%以上とすることにより、エマルション組成物中に十分量のプロポフォールを含有でき、好ましい。脂肪負荷の低減の観点から、油性成分とリン脂質との合計量は、より好ましくは、組成物の全容量に対して4.0w/v%以上11.0w/v%以下であり、更に好ましくは6.0w/v%以上10.0w/v%以下である。
【0037】
本発明にかかるエマルション組成物は、上述した油性成分及びリン脂質を以下の(1)及び(2)の少なくとも一方を満たす含有量の組み合わせで含む。
(1) 組成物の全容量に対して、0.2w/v%以上1.0w/v%以下のリン脂質、及び、
(2) 組成物の全容量に対して、4.0w/v%以下の長鎖脂肪酸トリグリセリドを含む又は長鎖脂肪酸トリグリセリドを含まない油性成分。
【0038】
前記(1)及び(2)の少なくとも一方を満たす含有量の組み合わせは、リン脂質又は長鎖脂肪酸トリグリセリドが通常用いられる量よりも低いとなるものである。例えば、血管痛緩和の観点から中鎖脂肪酸トリグリセリドの量を減らした場合や、脂肪負荷の低減のために、リン脂質及び/又は長鎖脂肪酸トリグリセリドの量を減らした場合が該当する。リン脂質及び/又は長鎖脂肪酸トリグリセリドの量を減らした場合に今回見出されたプロポフォールの酸化分解の促進は、リン脂質及び長鎖脂肪酸トリグリセリドがいずれも、プロポフォールに対して抗酸化作用を奏する成分として作用することに起因するものと推測される。
本発明では、このようなプロポフォールの分解が促進する可能性がある場合に、後述する容器と組み合わせることにより、効果的にプロポフォールの分解を抑制することができる。
【0039】
前記油性成分とリン脂質のエマルション組成物の全容量の対する含有質量の組み合わせは、以下の(a)〜(d)の少なくともひとつを満たすものであることが好ましい。(a)〜(c)の組み合わせは、例えば脂肪負荷の低減の観点から好ましく、(d)の組み合わせは、例えば血管痛緩和の観点から好ましい。
(a) 組成物の全容量に対し1.0w/v%以上30w/v%以下の油性成分、及び組成物の全容量に対し0.2w/v%以上1.0w/v%以下のリン脂質、
(b) 組成物の全容量に対し1.0w/v%以上9.0w/v%以下の油性成分、及び組成物の全容量に対し0.2w/v%以上10w/v%以下のリン脂質、又は、
(c) 組成物の全容量に対し1.0w/v%以上9.0w/v%以下の油性成分、及び組成物の全容量に対し0.2w/v%以上1.0w/v%以下のリン脂質、
(d) 組成物の全容量に対し1.0w/v%以上30w/v%以下の油性成分、該油性成分の質量の70w/w%以上100w/w%以下の中鎖脂肪酸トリグリセリド、及び組成物の全容量に対し0.2w/v%以上10w/v%以下のリン脂質。
【0040】
前記(a)〜(d)の含有質量の組み合わせにおける油性成分、リン脂質、又は中鎖脂肪酸トリグリセリドの含有量は、上述したこれらの成分について好ましい範囲としてそれぞれ記載した範囲とすることが、それぞれ、好ましい。
また、前記(a)〜(c)において、前記油性成分が、該油性成分の全質量に対する質量が30w/w%以上100w/w%以下の中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有することが、脂肪負荷の低減に加えて血管痛を緩和することができるため、より好ましい。
また、前記(a)又は(d)において、前記油性成分の含有量が、組成物の全容量に対して1.0w/v%以上10.0w/v%以下であることが、血管痛の緩和に加えて脂肪負荷を低減することができるため、より好ましい。
【0041】
本発明では、所望により、上述した各成分とは別に、乳化安定性を改善するための安定化剤を更に添加してもよい。このような安定化剤としては、脂肪酸及びその塩を挙げることができ、これらを1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
本発明で好ましく用いられる脂肪酸としては、脂肪酸の炭素数が12〜18の脂肪酸を例示することができ、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、リノール酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸等が挙げられるまた、脂肪酸塩の例としては、ナトリウム、カリウム等の金属との塩や、L−アルギニン、L−ヒスチジン、L−リジン等の塩基性アミノ酸との塩、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンとの塩等が挙げられる。脂肪酸塩の種類は、用いられる脂肪酸の種類等により適宜選択されるが、溶解性及び分散液の安定性の観点から、ナトリウムなどの金属との塩が好ましい。
【0043】
これらの安定化剤の中でも、注射剤への使用実績の観点から、オレイン酸、又はオレイン酸ナトリウムであることが好ましく、オレイン酸ナトリウムであることが更に好ましい。
安定化剤のエマルション組成物における含有質量には特に制限はないが、エマルション組成物の安定性の観点から、エマルション組成物の容量に対して0.01w/v%以上0.05w/v%未満であることが好ましく、0.015w/v%以上0.04w/v%以下であることがより好ましく、0.02w/v%以上0.03w/v%以下であることが特に好ましい。0.01w/v%以上であれば、エマルション組成物の安定性が充分であり、0.05w/v%未満であれば、過剰投与の影響をほとんど考慮する必要がない。
【0044】
本発明のエマルション組成物には、更に、特に必要ではないが、所望により、この種のエマルション組成物中に添加配合できることの知られている各種の添加剤の適当量を更に添加配合することもできる。該添加剤としては、例えば酸化防止剤、抗菌剤、pH調整剤、等張化剤などを挙げることができる。
【0045】
酸化防止剤の具体例としては、メタ重亜硫酸ナトリウム(抗菌剤としても作用する)、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム、亜硫酸カリウム、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸などを例示することができる。抗菌剤の例としては、例えば、エデト酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウム、安息香酸メチル、メタ重亜硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
pH調整剤の例としては、塩酸、酢酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、水酸化ナトリウムなどを使用できる。
等張化剤の例としてはグリセリン;ブドウ糖、果糖、マルトースなどの糖類;ソルビトール、キシリトールなどの糖アルコール類;塩化ナトリウム、塩化マグネシウムなどの塩類などを挙げることができる。
【0046】
これらの内、油溶性の物質は、エマルション組成物を構成する油性成分などに予め混合して利用することができる。水溶性の物質は、注射用水に混合するか、又は得られる乳化液の水相中に添加配合することができる。これらの添加配合量は、当業者にとり自明であり、従来知られているそれらの添加配合量と特に異ならない。
【0047】
本発明のエマルション組成物は、当業界で公知の方法(乳化分散方法)によって調製することができる。
例えば、水相と油粗を混合して粗乳化後、得られる粗乳化液を適当な高圧乳化機などを利用して乳化(精乳化)する方法によることができる。粗乳化は、より詳しくは、例えば特殊機化工業社製T.K.ホモミキサーなどのホモミキサーを用いて、通常5000回転/分以上で5分間以上を要して実施できる。また、超音波ホモジナイザーを用いることもできる。精乳化は、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザーなどを用いて実施できる。高圧ホモジナイザーを用いる場合、一般には約200kg/cm以上の圧力条件下に、1〜50回程度、好ましくは1〜20回程度通過させることにより実施することができる。これらの混合乳化操作は、常温下に実施してもよく、若干の冷却操作又は加温操作を採用して実施してもよい。
【0048】
本エマルション組成物は、必要に応じてpHを調整した後、常法に従って、濾過、滅菌して製品とすることができる。濾過方法としては、例えばメンブランフィルターを用いた公知の方法を適用すればよく、また滅菌方法としては、例えば高圧蒸気滅菌(例えば、121℃、12分)、熱水浸漬滅菌及びシャワー滅菌などの公知の方法を適用すればよい。
本エマルション組成物のpHは、通常、pH5.0〜9.0、好ましくはpH6.0〜8.0とすることができる。
【0049】
<容器>
本発明にかかる容器は、前記プロポフォール含有水中油型エマルション組成物を収容すると共に、内部表面をアルゴンイオンエッチングX線光電子分光法により測定(測定装置:アルバックファイ社製QuanteraSXM、X線源:単色化AlKα線25W−15kV、光電子取り出し角:45度、中和銃を使用して測定、アルゴンイオンエッチング加速電圧:1kV−25nA)した場合に、ホウ素、ナトリウム、アルミニウム、カリウム及びカルシウムからなる群に含まれる少なくともひとつの特定元素とケイ素との関係が、下記の条件(I)を満たす容器である。
[Q]/[Q]≧3.0 ・・・・・(I)
(式中、Qは、前記容器の内部表面に対してエッチング時間0.0分、0.5分及び1.0分でエッチング処理したときに得られる前記特定元素のケイ素元素に対するモル比の平均値を示し;Qは、前記容器の内部表面に対してエッチング時間5.0分、10分、15分及び20分でエッチング処理したときに得られる前記特定元素のケイ素元素に対するモル比の平均値を示す。)
【0050】
このような容器は、前記エマルション組成物が接触する厚み方向容器内側となる内部表面及び該内部表面から厚み方向容器外側となる所定の位置までの領域に含まれるケイ素の量が、容器の更に厚み方向容器外側となる所定の領域に含まれるケイ素の量よりも多いものである。前記エマルション組成物をこの容器に収容することにより、プロポフォールは、ケイ素がより多く含まれる容器の内部表面と接触し、プロポフォールの分解が効果的に抑制されると推測されるが、この理論に拘束されない。なお、ここでの容器の「内側」とは、前記エマルション組成物を収容する空間が配置されている側を意味し、「外側」とは、当該容器内部とは反対側となる容器の外部を意味する。
【0051】
内部表面を評価するために用いられるX線光電子分光法(ESCA,XPS)は、表面近傍を構成する原子の種類、濃度および結合状態を分析可能な当業界で既知の技術である。
容器の内部表面については、上述したようにアルゴンイオンエッチングを適用してX戦光電子分光法によりケイ素と前記特定元素との関係を分析する。
本発明における測定は、測定装置としてアルバックファイ社製QuanteraSXMを使用し、X線源:単色化AlKα線25W−15kV、光電子取り出し角:45度、中和銃を使用して行う。また、アルゴンイオンエッチング加速電圧は、1kV−25nAとする。
【0052】
前記条件(I)を得るために適用されるエッチング時間は、0.0分、0.5分、1.0分、5.0分、10分、15分及び20分である。このうち、0.0分、0.5分及び1.0分のエッチング時間でのエッチングとすることにより、前記容器の内部表面と該内部表面から厚み方向容器外側となる所定の位置までの領域、即ち、前記エマルション組成物との接触面を含む容器の内側の表面とその近傍が分析の対象となる。一方、5.0分、10分、15分及び20分のエッチング時間でのエッチングとすることにより、前記容器の、更に厚み方向容器外側となる所定の領域が分析対象となる。
【0053】
前記特定元素は、ホウ素、ナトリウム、アルミニウム、カリウム及びカルシウムからなる群に含まれる少なくともひとつである。これらの元素のうちの少なくともひとつとケイ素の関係が上記式(I)を満たせばよい。皮膜の検出しやすさの観点から、カルシウム又はナトリウムの少なくともひとつを特定元素とすることが好ましい。
【0054】
前記特定元素とケイ素との関係は、下記条件(I)を満たすものである。
[Q]/[Q]≧3.0 ・・・・・(I)
は、前記容器の内部表面に対してエッチング時間0.0分、0.5分及び1.0分でエッチング処理したときに得られる前記特定元素のケイ素元素に対するモル比の平均値を示す。一方、Qは、前記容器の内部表面に対してエッチング時間5.0分、10分、15分及び20分でエッチング処理したときに得られる前記特定元素のケイ素元素に対するモル比の平均値を示す。[Q]/[Q]が3.0未満では、内部に接触したプロポフォールの分解が十分に抑制できない。プロポフォールの分解抑制の観点から、[Q]/[Q]は、3.3以上であることが好ましく、5.0以上であることがより好ましい。
【0055】
前記容器は、内部表面が前記条件(I)を満たすものであればよく、例えば、内部表面が前記条件(I)となるような皮膜を容器内部の表面に被覆したものでもよい。このような皮膜の例としては、酸化ケイ素を挙げることができる。この場合には、容器全体が、前記特定元素と成りうる一群の元素を含むものであってもよく、例えば、ガラス容器、ポリプロピレン容器、環状ポリオレフィン容器等が挙げられる。中でも、酸化ケイ素皮膜で被覆された内部表面を有するガラス容器であることが容器の酸素透過性の観点から好ましい。このような容器としては、例えば、酸化ケイ素皮膜瓶:「バイアル瓶白V−NT10mL CS シリコート」(不二硝子社)を挙げることができる。
【0056】
なお、前記容器としては、内部表面が前記条件(I)を満たしていれば、容器全体が前記特定元素を有している必要はなく、例えば、全体としてポリプロピレン、環状ポリオレフィン等の樹脂を成形した袋状として、その内部に、条件(I)を満たすような前記皮膜を被覆したものであってもよい。
【0057】
本発明のプロポフォール含有水中油型エマルション組成物は、脂肪負荷を低減すると共にプロポフォールの分解も抑制されたエマルション組成物である。
プロポフォールの分解抑制効果については、例えば、プロポフォールダイマー体の検出によって評価することができる。プロポフォールダイマー体の検出は、公知の方法を採用することができ、例えばHPLC測定によって検出することができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。
【0059】
以下の実施例において使用した原料は以下のとおりである。
プロポフォール: 「PROPOFOL」(SOCHINAZ SA社)
ダイズ油: 「日本薬局方 ダイズ油」(カネダ社)
グリセリン: 「日本薬局方濃グリセリン」(坂本薬品工業社)
中鎖脂肪酸トリグリセリド: 「ミグリオール812 中性油」(ミツバ貿易社)
精製卵黄レシチン: 「卵黄レシチンPL100−M」(キユーピー社)
【0060】
以下の実施例において使用した容器は、以下のとおりである。
通常瓶: 「バイアル瓶 V−3A」(日電理化硝子社)
酸化ケイ素皮膜瓶: 「バイアル瓶白V−NT10mL CS シリコート」(不二硝子社)
なお、各瓶におけるケイ素と、ホウ素、ナトリウム、アルミニウム、カリウム及カルシウムとの関係を以下のようにして確認した。
【0061】
各容器を適当な大きさに粉砕し、純水中で超音波洗浄した後、下記の条件にてアルゴンイオンエッチングX線光電子分光法により、各元素の分析を行った。結果を表1に示す。
測定条件:
測定装置:アルバックファイ社製QuanteraSXM
X線源: 単色化AlKα線25W−15kV
Pass Energy: 112eV
Step Energy: 0.2eV
測定領域: 300μm×300μm
中和銃を使用
光電子取り出し角: 45度
アルゴンイオンエッチング条件:
加速電圧: 1kV−25nA
エッチング面積: 2mm×2mm
【0062】
測定結果を表1に示す。表1に示されるように、酸化ケイ素皮膜瓶は、ホウ素、ナトリウム、アルミニウム、カリウム、及びカルシウムのいずれも、ケイ素との関係が、前記条件(I)を満たしていた。これに対して、通常瓶は、ホウ素、ナトリウム、アルミニウム、カリウム、及びカルシウムのいずれも、ケイ素との関係が、前記条件(I)を満たしていなかった。
【0063】
【表1】

【0064】
[実施例1]
(プロポフォール含有エマルション組成物の作製)
表2に記載の各成分を表中の含有量となるように用いて、以下の手順でプロポフォール含有水中油型エマルション組成物を作製した。
【0065】
プロポフォールと油脂(中鎖脂肪酸トリグリセリド及び/又はダイズ油)を混合し、室温にて混和した。グリセリンを水に溶解し、水相を作製した。油相に精製卵黄レシチンを添加して混合した後、水相を添加し、グローブボックス中に設置したホモジナイザー(エクセルオートホモジナイザーED−3、日本精機製作所社)を用い、窒素雰囲気下にて粗乳化を行った。得られた粗乳化液を高圧乳化機(スターバースト ミニラボ機、スギノマシン社)を用いて210MPaの条件で2回通過させ、乳化した。この液に、高圧蒸気滅菌後のpHが約8となるように水酸化ナトリウムを適量加えた。グローブボックス中、窒素雰囲気下にてこの液を、前記酸化ケイ素皮膜瓶に入れて密閉した後、オートクレーブ(オートクレーブSP200、ヤマト科学社)を用いて高圧蒸気滅菌し、エマルション組成物を収容した容器詰製剤を作製した。
【0066】
作製した容器詰製剤を40℃1ヶ月で加熱経時した。加熱時間前及び経時後の容器詰製剤中のエマルション組成物について、ダイマー体(3,3’−5,5’−テトライソプロピルジフェノール:下記参照)の質量のプロポフォールに対する割合をHPLCにて測定し、経時後の値から経時前の値を引いた値をダイマー体発生率とした。結果を表2に示す。
【0067】
[ダイマー体含有量のHPLC測定条件]
カラム: Shim−pack XR−ODSII 3.0×75mm(島津製作所社)
溶離液A: 酢酸0.1v/v%水溶液
溶離液B: 酢酸0.1v/v%メタノール溶液
タイムプログラム(溶離液Bの体積分率、時間):(40%、0.1分)→(100%、30.0分)→(100%、35分)→(40%、35.1分)→40分で停止。
溶離液流量: 1.0mL/分
カラム温度: 40℃
検出: UV(波長 270nm)
注入量: 5μL
ダイマー体の標品として「Propofol関連化合物A(3,3’−5,5’−tetraisopropyldiphenol)」(和光純薬工業社)を、プロポフォールの標品として上記のものを用い、得られたクロマトグラムからそれぞれの濃度を算出し、プロポフォールに対するダイマー体の質量比を算出した。
【0068】
【化1】

【0069】
[比較例1]
実施例1で作製したプロポフォール含有水中油型エマルション組成物を収容する容器を、前記通常瓶に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例にかかる容器詰製剤を得た。比較例にかかる容器詰製剤についても、実施例1と同様にして、ダイマー発生率を評価した。結果を表2に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
表2に示されるように、本発明の実施例によれば、リン脂質を1.0w/v%以下、及び/又は長鎖脂肪酸トリグリセリドを4w/v%以下とした場合でも、プロポフォールの分解物の発生を効果的に抑制することができる。
従って本発明によれば、リン脂質及び/又は長鎖脂肪酸トリグリセリドをそれぞれ所定量以下とすることによる効果を、プロポフォールの保管時における安定性を維持しつつ達成可能な容器詰製剤を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロポフォール、
下記(1)及び(2):
(1) 組成物の全容量に対して、0.2w/v%以上1.0w/v%以下のリン脂質、
(2) 組成物の全容量に対して、4.0w/v%以下の長鎖脂肪酸トリグリセリドを含む又は長鎖脂肪酸トリグリセリドを含まない油性成分、
の少なくとも一方を満たす含有量の組み合わせとなるリン脂質及び油性成分、並びに
水、
を含むプロポフォール含有水中油型エマルション組成物と、
前記プロポフォール含有水中油型エマルション組成物を収容すると共に、内部表面をアルゴンイオンエッチングX線光電子分光法により測定(測定装置:アルバックファイ社製QuanteraSXM、X線源:単色化AlKα線25W−15kV、光電子取り出し角:45度、中和銃を使用して測定、アルゴンイオンエッチング加速電圧:1kV−25nA)した場合に、ホウ素、ナトリウム、アルミニウム、カリウム及びカルシウムからなる群に含まれる少なくともひとつの特定元素とケイ素との関係が、下記の条件(I):
[Q]/[Q]≧3.0 ・・・・・(I)
(式中、Qは、前記容器の内部表面に対してエッチング時間0.0分、0.5分及び1.0分でエッチング処理したときに得られる前記特定元素のケイ素元素に対するモル比の平均値を示し;Qは、前記容器の内部表面に対してエッチング時間5.0分、10分、15分及び20分でエッチング処理したときに得られる前記特定元素のケイ素元素に対するモル比の平均値を示す。)
を満たす容器と、
の組み合わせである容器詰製剤。
【請求項2】
前記リン脂質及び油性成分の組み合わせが、以下(a)〜(d):
(a) 組成物の全容量に対し1.0w/v%以上30w/v%以下の油性成分、及び組成物の全容量に対し0.2w/v%以上1.0w/v%以下のリン脂質、
(b) 組成物の全容量に対し1.0w/v%以上9.0w/v%以下の油性成分、及び組成物の全容量に対し0.2w/v%以上10w/v%以下のリン脂質、又は、
(c) 組成物の全容量に対し1.0w/v%以上9.0w/v%以下の油性成分、及び組成物の全容量に対し0.2w/v%以上1.0w/v%以下のリン脂質、
(d) 組成物の全容量に対し1.0w/v%以上30w/v%以下の油性成分、該油性成分の質量の70w/w%以上100w/w%以下の中鎖脂肪酸トリグリセリド、及び組成物の全容量に対し0.2w/v%以上10w/v%以下のリン脂質
の少なくともいずれかを満たす請求項1記載の容器詰製剤。
【請求項3】
前記(a)〜(c)において、前記油性成分が、該油性成分の全質量に対する質量が30w/w%以上100w/w%以下の中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有する請求項2記載の容器詰製剤。
【請求項4】
前記(a)又は(d)において、前記油性成分の含有量が、組成物の全容量に対して1.0w/v%以上10.0w/v%以下である請求項2記載の容器詰製剤。
【請求項5】
前記容器の内部表面が、酸化ケイ素皮膜で被覆された表面である請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の容器詰製剤。
【請求項6】
前記容器が、内部表面を酸化ケイ素皮膜により被覆されたガラス容器である請求項1〜請求項5のいずれか1項記載の容器詰製剤。
【請求項7】
前記リン脂質がレシチンである請求項1〜請求項6のいずれか1項記載の容器詰製剤。

【公開番号】特開2013−6811(P2013−6811A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141939(P2011−141939)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】