説明

容量性負荷駆動回路

【課題】容量成分または誘導成分を有する容量性負荷の駆動信号を、安定してしかも電力
消費を抑制しながら生成する。
【解決手段】容量性負荷に印加すべき駆動信号の基準となる駆動波形信号を、パルス変調
することによって変調信号を生成し、得られた変調信号を電力増幅した後、平滑化するこ
とによって、駆動信号を生成する。また、こうして容量性負荷に印加された駆動信号を、
駆動信号の基準となる駆動波形信号に負帰還させる。このとき、駆動信号に含まれる周波
数帯域でのゲイン特性が平坦となるような所定のアナログ補償処理を駆動信号に対して加
えた後、得られた信号をデジタル信号に変換して、駆動波形信号に負帰還させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容量成分が変動する容量性負荷を駆動する技術や、あるいは容量成分が異な
る複数の容量性負荷を切り換えて駆動する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンターに搭載されている噴射ヘッドなどのように、所定の駆動信号
を印加することによって動作するアクチュエーターは数多く存在する。この駆動信号を、
アナログ増幅回路を用いて生成しようとすると、回路内を大きな電流が流れるために大き
な電力が消費される。その結果、電力効率が低下するだけでなく、回路基板が大きくなり
、更には、消費された電力が熱に変わるので大きな放熱版が必要になって、ますます基板
が大型化する。
【0003】
そこで、アナログの駆動信号を直接増幅するのではなく、駆動信号の基準となる駆動波
形信号を変調信号に一旦変換し、得られた変調信号を増幅した後に平滑フィルターを通す
ことによって、増幅された駆動信号を得るようにした技術が提案されている(特許文献1
)。変調信号の増幅は、スイッチのON/OFFを切り換えるだけで実現することが可能
である。更に、平滑フィルターは、コイルとコンデンサーとを組み合わせたLC回路を用
いて実現できるので、原理的には電力を消費することがない。このため提案の技術によれ
ば、大きな電力を消費することなく駆動信号を生成することが可能であり、その結果、電
力効率が向上するだけでなく、回路基板を小型化することが可能である。しかし、提案の
技術では、LC回路で平滑フィルターを構成しているため、高周波数帯域における共振特
性が生じてしまい、目的の駆動信号を得ることが困難となる。この共振特性を抑制するた
めに抵抗を平滑フィルターに挿入する方法があるが、電流が抵抗を通過する際に電力が消
費されてしまうので、電力効率を向上させて回路基板を小型化するという当初も目的が大
きく減殺されてしまう。
【0004】
そこで、アクチュエーターへ印加された駆動信号をA/Dコンバータで変換し、微分演
算等の安定化処理をデジタル信号処理することによって共振特性を抑制して安定した駆動
信号を得るようにした技術が提案されている(特許文献2)。この技術によれば、デジタ
ル駆動信号とデジタル負荷電圧信号とから、圧電素子に流れる電流の大きさを推定する状
態安定機構を構成することで、抵抗を用いることなく平滑フィルターの共振特性を抑制す
ることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−168172号公報
【特許文献2】特開2010−46989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、提案の技術では、この状態安定機構でのデジタル信号処理は複雑であり、処理
を完了するのに十数〜数十クロックかかるため、負帰還させるための遅れ時間が長くなる
。例えば、デジタル信号処理ICのクロック周波数が数十MHzである場合、処理を完了
するのに数百n〜数μ秒の時間を要するので、駆動信号の周波数成分を数百kHzにまで
高くしようとすると、その逆数となる周期成分の数μ秒に対して、デジタル信号処理を含
めた全体の遅れ時間が180度以上の位相遅れとなり、この負帰還システムの安定性が低
下する。また、駆動しようとする容量性負荷の特定が変更されると、駆動信号が歪んでし
まうことがあるという問題があった。これは次のような理由によるものである。たとえば
、インクジェットプリンターに搭載されている噴射ヘッドではピエゾ素子を駆動すること
によってインクを噴射しているが、同時に駆動するピエゾ素子の数は、印刷しようとする
画像によって大きく変動する。そして、ピエゾ素子は容量成分を有する容量性負荷なので
、駆動するピエゾ素子の数が増加するということは、駆動信号を生成するための平滑フィ
ルターのコンデンサー容量が増加することに等しく、コンデンサー容量が増加すると平滑
フィルターの周波数特性が変化する。その結果、得られる駆動信号がその影響で歪んでし
まう。あるいは、たとえば特性の異なるアタッチメントを付け替えながら使用するような
装置で、アタッチメントに内蔵されたアクチュエーターとしてピエゾ素子が用いられてい
る場合にも、同様な問題が生じ得る。すなわち、装着したアタッチメントによってピエゾ
素子の容量成分の大きさが違うので、平滑フィルターの周波数特性が変化して駆動信号が
歪んでしまうことが起こり得る。
【0007】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題の少なくとも一部を解決するためになさ
れたものであり、平滑フィルターの共振特性を抑制しながら、駆動信号の周波数成分を数
百kHzまで高く設定した場合や、外乱に対しても安定して精度の良い駆動信号を生成す
ることが可能で、しかも電力効率が高く、回路基板を小型化することが可能な技術を提供
することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の容量性負荷駆動回路は次の
構成を採用した。すなわち、
容量成分を有する容量性負荷に対して所定の駆動信号を印加することによって、該容量
性負荷を駆動する容量性負荷駆動回路であって、
前記駆動信号の基準となる駆動波形信号を、デジタル信号の形態で出力する駆動波形信
号発生回路と、
前記容量性負荷に印加された駆動信号からデジタル信号の形態で生成されたデジタル補
償信号を、前記駆動波形信号に対して負帰還させて得られる信号を、デジタル演算するこ
とによって生成するデジタル演算回路と、
前記デジタル演算回路の出力をパルス変調することによって変調信号を生成する変調回
路と、
前記変調信号を電力増幅して、パルス波状の電力増幅変調信号を生成するデジタルデジ
タル電力増幅回路と、
前記パルス波状の電力増幅変調信号を平滑化することによって、前記容量性負荷に印加
される前記駆動信号を生成する平滑フィルターと、
前記駆動信号に含まれる周波数帯域でのゲイン特性が平坦となるように、前記容量性負
荷に印加された前記駆動信号に対して所定のアナログ補償処理を加えるアナログ補償回路
と、
前記アナログ補償回路の出力をデジタル信号に変換して、前記デジタル補償信号として
前記デジタル演算回路に供給するデジタル変換回路と
を備えることを要旨とする。
【0009】
こうした本発明の容量性負荷駆動回路においては、容量性負荷に印加すべき駆動信号の
基準となる駆動波形信号を、パルス変調することによって変調信号を生成し、得られた変
調信号を電力増幅した後、平滑化することによって、駆動信号を生成する。また、こうし
て容量性負荷に印加された駆動信号を、駆動信号の基準となる駆動波形信号に負帰還させ
る。このとき、駆動信号に含まれる周波数帯域でのゲイン特性が平坦となるような所定の
アナログ補償処理を駆動信号に対して加えた後、得られた信号をデジタル信号に変換して
、駆動波形信号に負帰還させる。
【0010】
こうすれば、容量性負荷に印加された駆動信号に対して、駆動信号の周波数帯域でのゲ
イン特性が平坦となるような補償を加えて負帰還させるので、平滑フィルターのLC回路
による共振特性を抑制することが可能となる。また、パルス変調された変調信号を電力増
幅しているので、電力を増幅する際に余分な電力が消費されることがなく、回路基板を小
型化することもできる。更に、駆動信号の負帰還や、変調信号への変調はデジタル信号で
行うが、駆動信号を負帰還させる際の駆動信号に対する補償は、アナログ回路によって実
行するので、負帰還させるための遅れ時間を短くすることができる。その結果、駆動信号
を負帰還させているにも拘わらず、駆動信号の周波数成分を数百kHzまで高く設定した
場合でも安定した駆動信号を出力することが可能となる。
【0011】
また、上述した本発明の容量性負荷駆動回路においては、駆動波形信号に対してデジタ
ル補償信号を負帰還させるためのデジタル演算回路を、減算回路によって構成するように
してもよい。
【0012】
減算回路であれば、迅速にデジタル演算が可能なので、負帰還させる際の遅れ時間を短
縮して、安定して駆動信号を出力することが可能となる。
【0013】
また、上述した本発明の容量性負荷駆動回路においては、容量性負荷に印加された駆動
信号に対するアナログ補償として、位相進み補償を行うようにしてもよい。
【0014】
容量性負荷に印加される駆動信号は、平滑フィルターによって平滑化された電圧波形で
あるため、基準となる駆動波形信号に対して位相が遅れた電圧波形となっている。従って
、駆動信号を負帰還させる際に、位相進み補償を行ってから負帰還させれば、負帰還によ
る共振現象の発生を抑制することができるので、駆動信号が不安定になることを回避する
ことが可能となる。
【0015】
また、駆動信号に対して位相進み補償を行う本実施例の容量性負荷駆動回路においては
、次のようにしても良い。先ず、位相進み補償を行うための第1のアナログ回路と、駆動
信号を所定の分圧比で分圧する第2のアナログ回路とを並列に設けておく。そして、駆動
信号を、第1のアナログ回路および第2のアナログ回路のそれぞれに導いて、第1のアナ
ログ回路の出力と第2のアナログ回路の出力とを合成したアナログ信号をデジタル信号に
変換した後、駆動波形信号に対して負帰還させるようにしても良い。
【0016】
こうすれば、駆動信号に位相進み補償を行って負帰還させることによる効果と、駆動信
号を分圧して負帰還させることによる効果とを得ることができる。このため、容量性負荷
の容量成分(あるいは誘導成分)の大きさの変動や、変調信号を増幅する際の電源電圧の
変動や、容量性負荷駆動回路を構成する各種の素子のバラツキなどが生じた場合でも、駆
動信号に歪みが生じることを抑制することが可能となる。更に、合成したアナログ信号を
デジタル信号に変換しているので、A/Dコンバータが1つのみで実現が可能となる。
【0017】
また、液体を噴射するためのアクチュエーターと、該アクチュエーターを駆動するため
の駆動信号を生成する容量性負荷駆動回路とを備えた液体噴射装置においては、上述した
本発明の何れかの容量性負荷駆動回路を搭載しても良い。
【0018】
こうすれば、アクチュエーターの容量成分の大きさ、あるいは誘導成分の大きさが変わ
った場合でも、そのことによる影響を受けることのない駆動信号をアクチュエーターに印
加することができるので、適切に液体を噴射することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施例の容量性負荷駆動回路を搭載したインクジェットプリンターを例示した説明図である。
【図2】プリンター制御回路の制御の下で、容量性負荷駆動回路が噴射ヘッドを駆動する様子を示した説明図である。
【図3】第1実施例の容量性負荷駆動回路の詳細な構成を示した説明図である。
【図4】デジタル増幅回路が駆動信号を生成する動作の概要を示した説明図である。
【図5】LC回路で平滑フィルターを構成した場合に、駆動信号に歪みが発生する理由を示した説明図である。
【図6】第1実施例の容量性負荷駆動回路の動作を示す説明図である。
【図7】第1実施例の容量性負荷駆動回路の伝達関数のゲイン特性を示した説明図である。
【図8】第1実施例の容量性負荷駆動回路の一巡伝達関数Ho(s)の周波数応答を示した説明図である。
【図9】第1実施例の容量性負荷駆動回路で容量性負荷の容量成分が大幅に増加したことによるゲイン特性の変化を示した説明図である。
【図10】第2実施例の容量性負荷駆動回路の構成を示した説明図である。
【図11】第2実施例の容量性負荷駆動回路の動作を示す説明図である。
【図12】第2実施例の容量性負荷駆動回路を採用することで駆動信号帯域のゲイン特性を良好に維持できる様子を示した説明図である。
【図13】ピエゾ素子を用いて液体を噴射する液体ポンプの大まかな構成を示した説明図である。
【図14】第2変形例の容量性負荷駆動回路の構成を示した説明図である。
【図15】第3変形例の容量性負荷駆動回路の構成を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施
例を説明する。
A.第1実施例:
A−1.装置構成:
A−2.容量性負荷駆動回路の回路構成:
A−3.容量性負荷駆動回路の動作:
B.第2実施例:
C.変形例:
C−1.第1変形例:
C−2.第2変形例:
C−3.第3変形例:
【0021】
A.第1実施例 :
A−1.装置構成 :
図1は、本実施例の容量性負荷駆動回路を搭載したインクジェットプリンター10を例
示した説明図である。図示したインクジェットプリンター10は、主走査方向に往復動し
ながら印刷媒体2上にインクドットを形成するキャリッジ20と、キャリッジ20を往復
動させる駆動機構30と、印刷媒体2の紙送りを行うためのプラテンローラー40などか
ら構成されている。キャリッジ20には、インクを収容したインクカートリッジ26や、
インクカートリッジ26が装着されるキャリッジケース22、キャリッジケース22の底
面側(印刷媒体2に向いた側)に搭載されてインクを噴射する噴射ヘッド24などが設け
られており、インクカートリッジ26内のインクを噴射ヘッド24に導いて、噴射ヘッド
24から印刷媒体2にインクを噴射することによって画像を印刷する。
【0022】
キャリッジ20を往復動させる駆動機構30は、プーリーによって張設されたタイミン
グベルト32や、プーリーを介してタイミングベルト32を駆動するステップモータ34
などから構成されている。タイミングベルト32の一箇所はキャリッジケース22に固定
されており、タイミングベルト32を駆動することでキャリッジケース22を往復動させ
ることができる。また、プラテンローラー40は、図示しない駆動モータやギア機構とと
もに、印刷媒体2の紙送りを行う紙送り機構を構成しており、印刷媒体2を副走査方向に
所定量ずつ紙送りすることが可能となっている。
【0023】
インクジェットプリンター10には、全体の動作を制御するプリンター制御回路50や
、噴射ヘッド24を駆動するための容量性負荷駆動回路200も搭載されている。プリン
ター制御回路50は、容量性負荷駆動回路200や、駆動機構30、紙送り機構などが、
印刷媒体2を紙送りしながら、噴射ヘッド24を駆動してインクを噴射する全体の動作を
制御している。
【0024】
図2は、プリンター制御回路50の制御の下で、容量性負荷駆動回路200が噴射ヘッ
ド24を駆動する様子を示した説明図である。先ず始めに、噴射ヘッド24の内部構造に
ついて簡単に説明する。図示されている様に、噴射ヘッド24の底面(印刷媒体2に向い
ている面)には、インク滴を噴射する複数の噴射口100が設けられている。各噴射口1
00はそれぞれインク室102に接続されており、インク室102には、インクカートリ
ッジ26から供給されたインクが満たされている。各インク室102の上にはピエゾ素子
104が設けられており、ピエゾ素子104に電圧を印加すると、ピエゾ素子が変形して
インク室102を加圧することによって、噴射口100からインクが噴射される。また、
ピエゾ素子104は、印加する電圧値に応じて変形量が変わるので、ピエゾ素子104に
適切な電圧波形を印加して、インク室102の変形量やタイミングを制御してやれば、適
切な分量のインクを、適切なタイミングで噴射することが可能となる。
【0025】
ピエゾ素子104に印加する電圧波形(駆動信号)は、プリンター制御回路50の制御
の下で容量性負荷駆動回路200によって生成される。また、生成された駆動信号は、ゲ
ートユニット300を介してピエゾ素子104に供給される。ゲートユニット300は、
複数のゲート素子302が並列に接続された回路ユニットであり、各ゲート素子302は
、プリンター制御回路50からの制御の下で、個別に導通状態または切断状態とすること
が可能である。従って、容量性負荷駆動回路200から出力された駆動信号は、プリンタ
ー制御回路50によって予め導通状態に設定されたゲート素子302だけを通過して、対
応するピエゾ素子104に印加され、その噴射口からインクが噴射される。
【0026】
A−2.容量性負荷駆動回路の回路構成 :
図3は、第1実施例の容量性負荷駆動回路200の詳細な構成を示した説明図である。
図示されているように、容量性負荷駆動回路200は、駆動信号の基準となる駆動波形信
号を出力する駆動波形信号発生回路210と、駆動波形信号を増幅してアナログの駆動信
号を生成するデジタル増幅回路220と、アナログの駆動信号をデジタル増幅回路220
に負帰還させるための負帰還回路230およびデジタル演算器240などから構成されて
いる。また、デジタル増幅回路220は、駆動波形信号をパルス変調して変調信号を出力
する変調回路222と、変調信号の電力を増幅するデジタルデジタル電力増幅回路224
と、増幅された変調信号の高周波数成分を取り除いて駆動信号を生成するための平滑フィ
ルター226などから構成されており、負帰還回路230は、駆動信号の特性を改善する
ために所定の補償を加えるアナログ補償回路232と、補償された駆動信号をデジタル信
号に変換するA/D変換器234と、A/D変換器234の入力インピーダンスを変換す
る演算増幅回路235などから構成されている。尚、図3中に示された破線の矢印は、デ
ジタル信号の形態で信号が伝達されることを表しており、実線の矢印は、アナログ信号の
形態で信号が伝達されることを表している。
【0027】
図4は、デジタル増幅回路220が駆動信号を生成する動作の概要を示した説明図であ
る。デジタル増幅回路220内の変調回路222は、駆動波形信号発生回路210からの
駆動波形信号を受け取ると、変調信号に変換する。このとき、駆動波形信号の階調値が大
きい場合には個々のパルスの幅が広くなるように、逆に階調値が小さい場合にはパルスの
幅が狭くなるように、パルス幅が変調された変調信号に変換する。尚、ここでは、変調回
路222は駆動波形信号の階調値に応じてパルス幅が変調されたパルス幅変調回路である
ものとして説明するが、変調の形態はこのような形態に限られるものではない。たとえば
変調回路222を、パルス幅はそのままで、駆動波形信号の階調値に応じてパルスの密度
が変調されたパルス密度変調回路としてもよい。
【0028】
続いて、得られた変調信号をデジタル電力増幅回路224に供給して電力増幅を行う。
変調信号であれば、プッシュ・プル接続されたスイッチ素子(MOSFETなど)と、電
源と、スイッチ素子を駆動するゲートドライバーとを用いて容易に電力を増幅することが
できる。図4に示した例では、デジタル電力増幅回路224によって変調信号の電圧が増
幅されている。こうして電力増幅された変調信号を、今度は平滑フィルター226に供給
する。すると、広いパルス幅に変調されている部分は電圧値が高く、狭いパルス幅に変調
されている部分は電圧値が低いアナログの駆動信号を得ることができる。平滑フィルター
226は、コイルとコンデンサーとを組み合わせることによって簡単に実現することがで
きる。
【0029】
このようにして駆動信号を生成してやれば、デジタル電力増幅回路224の内部では単
にスイッチ素子を用いて、電源を接続したり切断したりしているだけなので、電力を増幅
するために余分な電力が消費されることがない。また、平滑フィルター226も、コイル
やコンデンサーのように電力を消費しない部品で構成することができる。このため、ほと
んど電力を消費することなく駆動信号を生成することが可能となる。
【0030】
ここで、コイルとコンデンサーとによって構成されている平滑フィルター226は、一
種の共振回路となっている。図5は、この共振回路の周波数特性を示した説明図である。
図5中の破線に示すように、平均化回路226のコイルの誘導成分をL、コンデンサーの
容量成分をCとすると、共振周波数f0は、図5中に示した計算式で求められる。従って
、コイルの誘導成分の大きさ(インピーダンスL)と、コンデンサーの容量成分の大きさ
(キャパシタンスC)とによって決まる共振周波数に近い周波数成分の波形が入力される
と、共振を起こして、たいへんに大きな振幅の波形が出力される。
【0031】
図5中の実線に示すように、平滑フィルター226に抵抗Rを挿入すれば、共振による
歪みの影響を抑制することができるが、すべての電流が抵抗Rを流れることになって大き
な電力が消費されてしまう。これでは、電力消費を抑制するために、駆動信号を変調信号
に一旦変換してから電力増幅している意味が無くなってしまう。
【0032】
そこで、本実施例の容量性負荷駆動回路200では、この共振周波数f0付近の共振特
性を抑制するために、図3に示すように負帰還回路230を設けて、ピエゾ素子104に
出力された駆動信号を負帰還させる。更に、出力された駆動信号を負帰還させたことによ
って制御システムの安定性が損なわれることを回避するために、負帰還回路230を、ア
ナログ補償回路232およびA/D変換器234などによって構成し、アナログの駆動信
号に対して所定の補償を加えた後、デジタルデータに変換して、デジタル増幅回路220
に負帰還させる構成を採用している。こうすることで、平滑フィルターの共振特性を抑制
することができ、しかもアナログ補償回路232では遅延することなく補償を加え、更に
加減算といった簡素なデジタル演算器240により負帰還を行うことによって、全体とし
ての遅れ時間を短く抑えることが可能となるので、駆動信号の周波数成分を数百kHzま
で高く設定した場合でも、安定して動作する容量性負荷駆動回路200を実現することが
できる。もちろん、変調信号の状態で電力増幅しているために、電力効率が高く、回路基
板を小型化することも可能である。以下では、このような本実施例の容量性負荷駆動回路
200の動作について説明する。
【0033】
A−3.容量性負荷駆動回路の動作 :
図6は、第1実施例の容量性負荷駆動回路200の動作についての説明図である。図6
(a)には、図3に示した第1実施例の容量性負荷駆動回路200のブロック線図が示さ
れている。図6では、駆動波形信号発生回路210の出力する駆動波形信号は、制御シス
テムへの入力に対応するので「Vin」と表示され、ピエゾ素子104に出力される駆動信
号は、制御システムの出力に対応するので「Vout 」と表示されている。また、デジタル
電力増幅回路224は、入力をG倍するゲイン要素として表示され、平滑フィルター22
6は、伝達関数Lf(s)を有するローパスフィルターとして表示され、アナログ補償回
路232は、伝達関数β(s)を有する要素として表示されている。
【0034】
尚、Lf(s)あるいはβ(s)は、周波数領域で表示されていることを表している。
すなわち、平滑フィルター226やアナログ補償回路232の応答は、本来的には時間を
変数とする線形微分方程式によって記述されるが、ラプラス変換を行って変数を周波数に
変更すれば、線形微分方程式は単純な伝達関数によって表すことができる。そして、平滑
フィルター226やアナログ補償回路232などの複数の要素を組み合わせたシステムの
応答は、周波数領域では、それぞれの要素の伝達関数の加減算や乗算によって表すことが
できる。従って、時間領域で微分方程式を解くことによってシステムの応答を調べるより
も、ラプラス変換によって周波数領域での伝達関数に変換してから周波数応答を調べた方
が簡単である。Lf(s)あるいはβ(s)は、平滑フィルター226あるいはアナログ
補償回路232の時間的な応答を表す微分方程式を、ラプラス変換して得られた周波数領
域での伝達関数を表している。
【0035】
また、図3に示した第1実施例の容量性負荷駆動回路200の動作は、図6(a)のブ
ロック線図で表される制御システムの全体の伝達関数によって記述することができる。そ
して、制御システム全体の伝達関数を求めるためには、各要素についての伝達関数を求め
ればよい。
【0036】
図6(b)には、平滑フィルター226の伝達関数Lf(s)が示されている。コイル
の誘導成分の大きさをL、コンデンサーの容量成分の大きさをCとすれば、平滑フィルタ
ー226の伝達関数Lf(s)は、図6(b)中に示したように、1/(sLC+1)
で与えられる。また、平滑フィルター226は、位相を遅らせる特性を有しており、位相
が遅れた波形を負帰還させると、制御システムを不安定にする虞がある。そこで、遅れた
位相を進ませるために、アナログ補償回路232では、位相を進ませる補償を行う。
【0037】
図6(c)には、アナログ補償回路232の伝達関数β(s)が示されている。図示さ
れているように、アナログ補償回路232は、コンデンサーと抵抗とを組み合わせること
によって構成することができる。そして、コンデンサーの容量成分の大きさをC、抵抗の
大きさをRとすると、アナログ補償回路232の伝達関数β(s)は、図中に示されるよ
うに、1/(1+1/CRs)で与えられる。
【0038】
従って、図6(a)のブロック線図に示されるように、システムの出力Vout (s)に
アナログ補償回路232の伝達関数β(s)を乗算した値を、システムへの入力Vin(s
)から減算し、得られた値に、ゲインGと、平滑フィルター226の伝達関数Lf(s)
とを乗算した値が、システムの出力Vout (s)となることが分かる。そして、この関係
式を整理してVout (s)/Vin(s)を求めると、図6(d)に示されるように制御シ
ステム全体の伝達関数H(s)は、
H(s)=1/{β(s)+1/GLf(s)}
となる。
【0039】
図7には、こうして得られた伝達関数のゲイン特性に関する周波数応答が示されており
、図中に示した実線が伝達関数H(s)の周波数応答を表し、細い一点鎖線が位相進み補
償回路の伝達関数β(s)の周波数応答を表している。尚、参考として図7には、駆動信
号の負帰還を行わなかった場合(従って、位相進み補償も行わない場合)の伝達関数GL
f(s)のゲイン特性も、破線で示されている。図示されているように、駆動信号に位相
進み補償を行って負帰還することにより、駆動信号帯域でのゲインを保ったまま、共振周
波数f0 付近でのピークを十分に抑制することができる。また、平滑フィルター226に
抵抗Rを挿入した場合とは異なって、図6(c)に示すようなアナログ補償回路が追加さ
れているだけなので、大きな電力が消費されることもない。
【0040】
もちろん、平滑フィルター226のように、デジタル信号を最終的にアナログ信号に変
換するための要素だけを残して、他のすべての要素をデジタル化すれば、容量性負荷の変
動の影響を受けずに、しかも電力消費を抑制することが可能である。例えば、ピエゾ素子
104に出力された駆動信号をA/D変換器によってアナログ信号に変換し、アナログ補
償回路232をデジタルフィルターによって実現しても、同様なことは実現することがで
きる。しかし実際には、こうした方法では安定した駆動信号を生成することは困難である
。以下では、この点について説明する。
【0041】
まず、位相進み補償をデジタル的に実現するために、微分フィルターを搭載することが
考えられるが、微分フィルターはノイズの影響を受け易く、ノイズを負帰還することにな
ってしまうので、安定した駆動信号を生成することは困難である。微分フィルターの前段
に、ノイズを取り除くためのデジタルフィルター(ローパスフィルター)を挿入する方法
も考えられるが、デジタルフィルターを用いてローパスフィルターを構成すると、大きな
遅れ時間が発生する。他にも、特許文献2(特開2010−46989号公報)のように
、デジタル駆動信号とデジタル負荷電圧信号とから、圧電素子に流れる電流の大きさを推
定する状態安定機構を構成する場合にも大きな遅れ時間が発生する。そして、大きな遅れ
時間の発生は、制御システムの安定性を大きく損なう結果となる。
【0042】
これに対して、図6に示した第1実施例の容量性負荷駆動回路200では、アナログ補
償回路232をアナログ回路によって実現しているため、全体としての遅れ時間は、負帰
還回路230の中のA/D変換器234や、デジタル信号を負帰還させるためのデジタル
演算器240(実際には減算回路)や、変調回路222、およびデジタル電力増幅回路2
24で生じる遅れ時間によって決定されるが、これら個々の要素で生じる遅れ時間は短い
ので、全体としての遅れ時間も、高々200n秒程度と十分に短くすることができる。そ
して、この程度の遅れ時間であれば、以下に示すように、制御システムを十分に安定に動
作させることができる。
【0043】
先ず、制御システムの安定性は、一巡伝達関数Ho(s)によって決定される。制御シ
ステムが安定して動作するためには、一巡伝達関数Ho(s)のゲインが0db以上とな
る周波数範囲で、位相の遅れが180度より大きくならなければよい(位相が−180度
以下にならなければよい)。図6に示した制御システムの一巡伝達関数Ho(s)は、
Ho(s)=G・Lf(s)・β(s)・exp(−sτ)
となる。これは、負帰還させない場合の伝達関数G・Lf(s)に、位相進み回路の伝達
関数β(s)と、制御システム全体としての遅れ時間を「τ」とした時の遅れ時間要素の
伝達関数exp(−sτ)を乗算したものに相当するから、Ho(s)のゲインおよび位
相の周波数応答は、図8に示したものとなる。
【0044】
図8は、第1実施例の容量性負荷駆動回路200の一巡伝達関数Ho(s)についての
周波数応答を示した説明図である。図8(1a)、図8(1b)には、遅れ時間τが短い
場合のゲインの周波数応答、位相の周波数応答が示されており、図8(2a)、図8(2
b)には、遅れ時間τが長い場合のゲインの周波数応答、位相の周波数応答が示されてい
る。また、図中に示した実線が、一巡伝達関数Ho(s)の周波数応答を表しており、図
中に示した細い破線が、負帰還させない場合の伝達関数の周波数応答を、細い一点鎖線が
、位相進み補償回路の伝達関数β(s)の周波数応答を表し、細い二点鎖線が、遅れ時間
を表している。図中に細い破線で示したように、負帰還させない場合の伝達関数の位相は
最大で−180度まで遅れるが、β(s)の位相進み補償を行っているために90度分の
余裕が生じる。その結果、Ho(s)のゲインが0db以上の周波数範囲において安定に
動作する条件は、
−90度<−τ・動作周波数f・360度
が成り立つこと、すなわち、「τ・動作周波数f<1/4」であればよい。上述したよう
に、図6に示した第1実施例の容量性負荷駆動回路200の遅れ時間τは、高々200n
秒(実際には、百数十n秒程度)と短いため、図8(1b)に示すように、動作周波数f
が1MHzまでの範囲であっても十分に安定に動作する。これに対して、補償回路を微分
フィルターおよびノイズを取り除くためのローパスフィルターをデジタル的に実現したり
、あるいは特許文献2(特開2010−46989号公報)のように、デジタル駆動信号
とデジタル負荷電圧信号とに基づいて、圧電素子に流れる電流の大きさを推定する状態安
定機構をデジタル的に実現したりしたのでは、遅れ時間が数百n秒〜数μ秒に長くなる。
その結果、図8(2b)に示すように、動作周波数fが数百kHzになると、上記の条件
を満足しなくなって、制御システムが不安定になり易くなり、安定して駆動信号を生成す
ることが困難となる。
【0045】
以上に説明したように、図6に示した第1実施例の容量性負荷駆動回路200では、平
滑フィルター226から出力された駆動信号を、位相進み補償を行って負帰還させること
によって、共振周波数付近でのゲイン特性を抑制することができる。また、その位相進み
補償は、アナログ補償回路232を用いてアナログ的に行っている。このため、駆動信号
を負帰還させているにも拘わらず、制御システムを安定に保つことができ、駆動信号の周
波数成分を数百kHzまで高く設定した場合でも、精度の良い駆動信号を安定して生成す
ることが可能となる。しかも、電力増幅は変調信号の段階で行っているため、電力消費を
抑制して、回路基板を小型化することが可能となる。また、A/D変換器234には、演
算増幅回路235を介して入力しているので、入力インピーダンスが低くなり、その結果
、位相進み補償された駆動信号は、ノイズなどの影響を受けることなく確実にデジタル変
換することが可能となる。尚、本実施例では、演算増幅回路235の構成を非反転増幅(
ボルテージフォロワ)として構成しているが、反転増幅として構成し、デジタル演算器2
40を加算回路としても構わない。
【0046】
B.第2実施例 :
以上に説明した第1実施例の容量性負荷駆動回路200では、平滑フィルター226の
共振周波数付近でゲインが増大することを抑制することで、駆動信号に歪みが生じないよ
うにしていた。しかし、実際には、容量性負荷の容量成分(あるいは誘導成分)の大きさ
が大幅に増加すると、平滑フィルターの周波数特性が変化して、駆動信号に若干の歪みが
現れる。
【0047】
図9は、第1実施例の容量性負荷駆動回路200で容量性負荷の容量成分が大幅に増加
したことによるゲイン特性の変化を示した説明図である。図中に破線で示した特性が、容
量性負荷の容量成分が大幅に増加する前のゲイン特性であり、図中に実線で示した特性が
、容量性負荷の容量成分が大幅に増加した場合のゲイン特性である。図9では若干強調し
て表示されているが、容量性負荷の容量成分が大幅に増加したことで、共振周波数が「−
df」だけ低下して駆動信号帯域に近付くとともに、共振周波数付近でのゲインの増加も
完全には抑制できなくなっている。その結果、駆動信号の高周波数成分が強調されて、僅
かではあるが、駆動信号に歪みが現れるようになる。しかし、前述した第1実施例の容量
性負荷駆動回路200のアナログ補償回路232を、以下のような構成とすることで、こ
うした僅かな波形の歪みも抑制することができる。更に、駆動信号の周波数成分を数百k
Hzまで高く設定した場合や外乱に対しても、より一層安定して駆動信号を生成すること
が可能となる。以下、このような第2実施例の容量性負荷駆動回路250について説明す
る。
【0048】
図10は、第2実施例の容量性負荷駆動回路250の詳細な構成を示した説明図である
。図3を用いて前述した第1実施例の容量性負荷駆動回路200と比較すると明らかなよ
うに、第2実施例の容量性負荷駆動回路250では、アナログ補償回路232が変更され
ている点と、駆動波形信号に対してある定数を乗算した値に対して負帰還制御されている
点とが異なっている。そして、第2実施例のアナログ補償回路232は、第1実施例のア
ナログ補償回路232に対応する位相進み補償回路232aに対して、分圧回路232b
が並列に接続された構成となっている。この分圧回路232bの分圧比が、α/Gである
ものとする。すると、駆動波形信号に対して乗算される定数は(α+1)に設定される。
【0049】
このような第2実施例の容量性負荷駆動回路250の伝達関数K(s)が、駆動信号帯
域でどのような周波数応答を示すかについて考える。先ず、この第2実施例の位相進み補
償回路232aは、第1実施例の図3に示した移動進み補償回路232と同じなので、デ
ジタル増幅回路220と位相進み補償回路232aとで構成される伝達関数は、H(s)
となる。その結果、図10に示した第2実施例の容量性負荷駆動回路250の動作は、次
のようなブロック線図によって記述することができる。
【0050】
図11は、第2実施例の容量性負荷駆動回路250の動作を示す説明図である。図11
(a)には、第2実施例の容量性負荷駆動回路250のブロック線図が示されている。尚
、ブロック線図中に示された外乱要素δは、容量性負荷の容量成分の大きさの変動や、変
調信号を増幅する際の電源電圧の変動によるゲインGの変動や、容量性負荷駆動回路25
0を構成する各種の素子のバラツキなどによる影響を表している。
【0051】
このようなブロック線図に基づいて、制御システムへの入力Vin(駆動波形信号発生回
路210が出力する駆動波形信号に相当)と、制御システムの出力Vout (容量性負荷駆
動回路250が生成する駆動信号に相当)との関係を記述すると、図11(b)に示す関
係式が得られる。そして、この式をVinとδとについて整理することで、図11(c)に
示すように、信号成分であるVinと、外乱成分であるδとが、それぞれ出力Vout に与え
る影響を示す関係式が求められる。更に、ここでは駆動信号帯域に着目しており、この周
波数範囲ではH(s)の大きさはほぼ「G」となる。従って、図11(c)に示した関係
式でH(s)を「G」とすると、最終的に、図11(d)に示した関係式が得られる。
【0052】
この関係式から明らかなように、第2実施例の容量性負荷駆動回路250では、信号成
分である入力VinについてはG倍に増幅されているが、外乱成分δについては1/(1+
α)に抑制されている。従って、容量性負荷の容量成分(あるいは誘導成分)の大きさや
、変調信号を増幅する際の電源電圧などの影響を受けることなく、精度の良い駆動信号を
安定して生成することが可能となる。尚、第2実施例の容量性負荷駆動回路250では、
入力Vinをそのまま入力するのではなく、定数(α+1)を乗算してから入力しているの
は、図11(c)に示した関係式の信号成分で、H(s)=Gの条件で、信号成分が、
Vout=G・Vin
となるようにするためである。また、図12には、第2実施例の容量性負荷駆動回路25
0を採用することで、容量性負荷の変動などによる外乱の影響を受けることなく、駆動信
号帯域のゲイン特性を良好に維持できる様子が示されている。図12(a)に示した第1
実施例の容量性負荷駆動回路200のゲイン特性H(s)と、図12(b)に示した第2
実施例の容量性負荷駆動回路250のゲイン特性K(s)とを比較すれば、第2実施例の
容量性負荷駆動回路250を採用することで、外乱の影響を受けずに、駆動信号帯域での
ゲイン特性を良好に保っておくことが可能になるとともに、高周波数帯域におけるゲイン
特性も向上していることが了解される。その結果、第2実施例の容量性負荷駆動回路25
0では、より一層精度の良い駆動信号を安定して生成することが可能となる。もちろん、
第1実施例と同様に、全体としての遅れ時間τを短く抑えることが可能となるので、駆動
信号の周波数成分を数百kHzまで高く設定した場合でも、精度の良い駆動信号を安定し
て生成することが可能となる。更に、合成したアナログ信号をデジタル信号に変換してい
るので、A/Dコンバータが1つのみで実現が可能となる。
【0053】
尚、第1実施例の容量性負荷駆動回路200とは異なり、第2実施例の容量性負荷駆動
回路250では、負帰還回路230を構成するアナログ補償回路232の中に、抵抗によ
って構成された分圧回路232bが挿入されている。従って、第2実施例の容量性負荷駆
動回路250では、この抵抗を流れる電流に相当する電力が消費されることになる。しか
し、負帰還回路230の中に、演算増幅回路235を挿入しているので、分圧回路232
bを大きな抵抗で構成しておくことが可能となり、分圧回路232bでの電力消費はほと
んど問題にならない程度に抑制することができる。
【0054】
C.変形例 :
上述した各種実施例の容量性負荷駆動回路には、いくつかの変形例を考えることができ
る。以下では、これらの変形例について簡単に説明する。
【0055】
C−1.第1変形例 :
上述した第1実施例あるいは第2実施例では、駆動信号を印加することによって駆動す
る容量性負荷が、噴射ヘッド24内のピエゾ素子104であるものとして説明した。前述
したように、駆動されるピエゾ素子104の数は、画像の印刷中に大きく変動するので、
それに伴って容量性負荷の容量成分の大きさが大きく変動する。しかし、駆動する容量性
負荷は噴射ヘッド24内のピエゾ素子104に限られるものではなく、容量成分の大きさ
が変動するような容量性負荷であれば、どのような容量性負荷であってもよい。たとえば
、ピエゾ素子を用いて液体を噴射する液体ポンプを駆動する場合にも、上述した第1実施
例の容量性負荷駆動回路200あるいは第2実施例の容量性負荷駆動回路250を好適に
適用することができる。
【0056】
図13は、ピエゾ素子を用いて液体を噴射する液体ポンプ70の大まかな構成を示した
説明図である。図示されているように液体ポンプ70は、大きく分けると、液体をパルス
状に噴射する噴射ユニット80と、噴射ユニット80から噴射される液体を噴射ユニット
80に向けて供給する供給ポンプ90と、噴射ユニット80および供給ポンプ90の動作
を制御する制御ユニット75などから構成されている。
【0057】
噴射ユニット80は、金属製で略長方形形状の前ブロック83に、同じく金属製の後ブ
ロック84を重ねてネジ止めしたような構造となっており、前ブロック83の前面には円
管形状の液体通路管82が立設され、液体通路管82の先端には噴射ノズル81が挿着さ
れている。前ブロック83と後ブロック84との合わせ面には、薄い円板形状の液体室8
5が設けられており、液体室85は、液体通路管82を介して噴射ノズル81に接続され
ている。また、後ブロック84の内部には、ピエゾ素子によって構成されたアクチュエー
ター86が設けられており、アクチュエーター86を駆動することによって、液体室85
を変形させて、液体室85の容積を変化させることが可能となっている。
【0058】
供給ポンプ90は、噴射しようとする液体(水、生理食塩水、薬液など)が貯められた
液体タンク93から、チューブ91を介して液体を吸い上げた後、チューブ92を介して
噴射ユニット80の液体室85内に供給する。供給ポンプ90の動作は、制御ユニット7
5によって制御されている。更に、制御ユニット75には容量性負荷駆動回路200,2
50が内蔵されており、この容量性負荷駆動回路200,250が生成した駆動信号を供
給してアクチュエーター86を駆動することによって、噴射ユニット80の噴射ノズル8
1から、パルス状の液体を噴射している。
【0059】
ここで、噴射ユニット80は、噴射しようとする液体に応じて、あるいは噴射する態様
(パルスの大きさ、パルスの繰り返し周波数、噴射流量など)に応じて、適切な特性の噴
射ユニット80に付け替えて使用される。そして、噴射ユニット80の特性が異なれば、
内蔵されているアクチュエーター86(ピエゾ素子)の容量成分の大きさは異なったもの
となる。あるいは、噴射ユニット80が誘導成分を有する場合は、誘導成分の大きさが異
なったものとなる。
【0060】
従って、アクチュエーター86の駆動信号を、上述した第1実施例の容量性負荷駆動回
路200、あるいは第2実施例の容量性負荷駆動回路250を用いて生成すれば、噴射ユ
ニット80が付け替えられた場合でも、常に精度の良い駆動信号を安定して出力すること
が可能となる。
【0061】
C−2.第2変形例 :
上述した第1実施例あるいは第2実施例では、アナログ補償回路232の出力が正負に
振れる波形となるので、この波形をA/D変換するためには正電圧の電源と、負電圧の電
源とが必要になる。そこで、図14に示すように、演算増幅回路235の非反転入力端子
にバイアス電圧Vcを加えることで正電圧側のみに振れる波形を出力し、A/D変換器2
34でA/D変換した後、負帰還させる直前にバイアス電圧Vcを減算するようにしても
よい。こうすれば、負電圧の電源が不要となるので、回路を小型化することが可能となる
。尚、第2実施例のような分圧回路232bを用いる必要はなく、図14に示すように、
抵抗を介して直接演算増幅回路235に駆動信号を入力しても良い。こうすることで、抵
抗の数を減らすことが可能となり、より低コストで実現することができる。
【0062】
C−3.第3変形例 :
上述した第2実施例の容量性負荷駆動回路250では、分圧比α/Gを大きくする程、
外乱の影響を抑制することが可能となる。しかし、分圧比α/Gを大きくすることは、負
帰還させる際のゲインを大きくすることに他ならない。従って、外乱の影響を抑制しよう
として、あまりに分圧比α/Gを大きくすると、制御システムを不安定にする虞がある。
そこで、たとえば、図2に示した複数の容量性負荷を選択して駆動する場合には、同時に
駆動するピエゾ素子の数による影響を打ち消すような逆フィルターや、あるいは図13に
示した噴射ユニット80を付け替えるような場合には、噴射ユニット80を付け替えたこ
とによる影響を打ち消すような逆フィルターを用いて、駆動波形信号発生回路210が出
力するデジタル波形を予め補償しておくようにしても良い。
【0063】
図15は、駆動波形信号発生回路210に逆フィルターを挿入した場合の構成を示した
説明図である。プリンター制御回路50によって予め導通状態に設定されたゲート素子3
02の数や、噴射ユニット80毎にゲイン特性の劣化(周波数に応じてゲインが変化する
様子)を予め調べておき、劣化を打ち消すような逆フィルターを求めておく。そして、駆
動波形信号発生回路210が出力する駆動波形信号に、予め求めておいた逆フィルターを
作用させた後に、制御システムに入力するようにしてもよい。
【0064】
もちろん、同時に駆動するピエゾ素子の数や、噴射ユニット80を付け替えたことによ
る影響を、すべて逆フィルターだけで打ち消そうとすると、逆フィルターを精度良く設定
しなければならない。しかし、第2実施例の容量性負荷駆動回路250に加えて、逆フィ
ルターを併用してやれば、逆フィルターを用いて大まかに打ち消した状態で、分圧比α/
Gの分だけ更に外乱の影響を抑制することができる。その結果、同時に駆動するピエゾ素
子の数や、噴射ユニット80を付け替えたことによる影響をほとんど受けることなく、精
度の良い駆動信号を安定して出力することが可能となる。
【0065】
以上、本実施例の容量性負荷駆動回路について説明したが、本発明は上記すべての実施
例および変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様
で実施することが可能であり、例えば、薬剤や栄養剤を内包するマイクロカプセルを形成
することに用いる流体噴射装置など、医療機器を含む様々な電子機器に本実施例の容量性
負荷駆動回路を適用することで、電力効率が良く小型化の電子機器を提供することができ
る。
【符号の説明】
【0066】
2…印刷媒体、 10…インクジェットプリンター、 20…キャリッジ、
22…キャリッジケース、 24…噴射ヘッド、 26…インクカートリッジ、
30…駆動機構、 32…タイミングベルト、 34…ステップモータ、
40…プラテンローラー、 50…プリンター制御回路、 70…液体ポンプ、
75…制御ユニット、 80…噴射ユニット、 81…噴射ノズル、
82…液体通路管、 83…前ブロック、 84…後ブロック、
85…液体室、 86…アクチュエーター、 90…供給ポンプ、
91…チューブ、 92…チューブ、 93…液体タンク、
100…噴射口、 102…インク室、 104…ピエゾ素子、
200…容量性負荷駆動回路、 210…駆動波形信号発生回路、
220…デジタル増幅回路、 222…変調回路、 224…デジタル電力増幅回路、
226…平滑フィルター、 230…負帰還回路、 232…アナログ補償回路、
232a…補償回路、 232b…分圧回路、 234…A/D変換器、
235…演算増幅回路、 240…デジタル演算器、
250…容量性負荷駆動回路、 300…ゲートユニット、 302…ゲート素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容量成分を有する容量性負荷に対して所定の駆動信号を印加することによって、該容量
性負荷を駆動する容量性負荷駆動回路であって、
前記駆動信号の基準となる駆動波形信号を、デジタル信号の形態で出力する駆動波形信
号出力回路と、
前記容量性負荷に印加された駆動信号からデジタル信号の形態で生成されたデジタル補
償信号を、前記駆動波形信号に対して負帰還させて得られる信号を、デジタル演算するこ
とによって生成するデジタル演算回路と、
前記デジタル演算回路の出力をパルス変調することによって変調信号を生成する変調回
路と、
前記変調信号を電力増幅して、パルス波状の電力増幅変調信号を生成するデジタル電力
増幅回路と、
前記パルス波状の電力増幅変調信号を平滑化することによって、前記容量性負荷に印加
される前記駆動信号を生成する平滑フィルターと、
前記容量性負荷に印加された前記駆動信号に対して、該駆動信号に含まれる周波数帯域
でのゲイン特性が平坦となるような所定のアナログ補償を実行するアナログ補償回路と、
前記アナログ補償回路の出力をデジタル信号に変換して、前記デジタル補償信号として
前記デジタル演算回路に供給するデジタル変換回路と
を備える容量性負荷駆動回路。
【請求項2】
前記デジタル演算回路が減算回路である請求項1に記載の容量性負荷駆動回路。
【請求項3】
前記アナログ補償回路が、前記アナログ補償として、位相進み補償を行うアナログ回路
である請求項1または請求項2に記載の容量性負荷駆動回路。
【請求項4】
請求項3に記載の容量性負荷駆動回路であって、
前記アナログ補償回路は、
前記位相進み補償を行う第1のアナログ回路と、
前記第1のアナログ回路と並列に設けられて、前記容量性負荷に印加された前記駆動
信号を所定の分圧比で分圧する第2のアナログ回路と
を備え、
前記第1のアナログ回路の出力と前記第2のアナログ回路の出力とを合成したアナロ
グ信号を、前記デジタル変換回路に出力する回路である容量性負荷駆動回路。
【請求項5】
液体を噴射するためのアクチュエーターと、該アクチュエーターを駆動するための駆動
信号を生成する容量性負荷駆動回路とを備えた液体噴射装置であって、
前記容量性負荷駆動回路は、請求項1ないし請求項4の何れかに記載された容量性負荷
駆動回路である液体噴射装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2012−105239(P2012−105239A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254577(P2010−254577)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】