説明

密封カセットを持つラジアル軸受及び密封カセット

本発明は、密封カセット(20)を持つラジアル軸受(15)及び密封カセット(20)自体に関し、ラジアル軸受が内レース(26)、外レース(3)及びその間に設けられる転動体(4)を持ち、密封カセット(20)が、軸線方向に転動体(4)のそばで、内レース(26)と外レース(3)との間に圧力ばめで設けられ、密封カセット(20)が、支持体(21)、この支持体に取付けられる密封片(22)、及び角形板環(23)を持ち、この角形板環に密封片(22)の密封リップ(24,25)が当接している。このようなラジアル軸受(15)を安価に製造しかつ有効に密封するため、本発明によれば、角形板環(23)とレース(26)との間に静的な密封用の付加的な密封手段(32)が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封カセットを持つラジアル軸受であって、ラジアル軸受が内レース、外レース及びその間に設けられる転動体を持ち、密封カセットが、軸線方向に転動体のそばで、内レースと外レースとの間に圧力ばめで設けられ、密封カセットが、支持体、この支持体に取付けられる密封片、及び角形板環を持ち、この角形板環に密封片の密封リップが当接しているものに関する。更に本発明は、前記の特徴を持ちかつ別々に売買可能な密封カセットに関する。
【背景技術】
【0002】
密封カセットを持つ転がり軸受は数10年前から公知である。
【0003】
図5は、アンギュラコンタクト玉軸受1として構成される転がり軸受において、軸受自体、及びそこで軸及びハウジング穴に圧力ばめで差込まれる密封カセットを示している。
【0004】
アンギュラコンタクト玉軸受1は、内レース2及び外レース3を含み、それらの間で例えば玉4として構成される転動体が、転動路8及び9に可動に設けられている。玉4は、内レース2の詳細には示してない環状溝にスナップばめされる保持器5に収容されている。
【0005】
内レース2と外レース3との間で軸線方向力を伝達するため、これら両方のレースに曲げ縁6が形成されている。
【0006】
転がり軸受1を密封するため、内レース2と外レース3との間で、密封カセット10が、圧力ばめ27aで内レース2に、また圧力ばめ27bで外レース3に圧入され、圧力ばめ27bは外レース3に環状段部7として形成されている。
【0007】
密封カセット10は、大体において、外レースに設けられる支持体11、この支持体11に取付けられてそこで又はハウジング穴の範囲で静的密封を行うエラストマ密封片12(エラストマ範囲),及び内レースに設けられてそこで又は軸の範囲で金属圧力結合を行う角形板環13から成っている。
【0008】
角形板環13は、密封片12の2つの密封リップ用の摺動面として役立つ。
【0009】
3つの部材即ち支持体11、密封片12及び角形板環13は、内レース2と外レース3との間に取付ける前に、密封カセット10となるように組合わされる。
【0010】
転がり軸受1と密封カセット10のこのような公知の組合わせは、転がり軸受への粒子及び湿気の侵入を回避するために、特に慎重に行われる。できるだけはまり合いで内レース2の曲げ縁6の半径方向面上にはまらねばならない(27a)角形板環13の正確な形状の製造に、特別な注意が払われる。
【0011】
このような角形板環13は、現在は通常深絞り工程で製造される。
【0012】
圧力ばめ27aの所で内レース2と角形板環13の形状寸法に望ましくない大きい相違があると、このような軸受1の作動中に、軸受1における圧力差のため、湿気が軸受内へ達し、ここで軸受が腐食し、最後には軸受の早期の故障を生じることがある。
【0013】
このような作動損傷をさけるため、内レース2及び角形板環13の(金属)圧力ばめ27aの所で半径面が慎重に小さい公差で製造され、それにより著しい費用を生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って本発明の基礎になっている課題は、少なくとも同じ密封効果で公知の装置より安価に製造可能な密封カセットを持つラジアル軸受を提案することである。
【0015】
本発明の基礎になっている認識は、(金属)圧力結合の範囲において、例えば内レース又は軸の所における密封カセットの構成に応じて、密封カセットの範囲におけるラジアル軸受の静的に作用する付加的な密封がその密封作用を改善して、軸受の曲げ縁及び/又は角形板環が、形状寸法に対する少ない要求で安価に製造可能であるようにすることである。
【0016】
従って本発明は、まず密封カセットを持つラジアル軸受であって、ラジアル軸受が内レース、外レース及びその間に設けられる転動体を持ち、密封カセットが、軸線方向に転動体のそばで、内レースと外レースとの間に圧力ばめで設けられ、密封カセットが、支持体、この支持体に取付けられる密封片、及び角形板環を持ち、この角形板環に密封片の密封リップが当接しているものに関する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、角形板環とレースとの間、特に密封カセットの適当な構成によれば内レースとの間に、(付加的な)密封手段が設けられている。
【0018】
従ってこの付加的な密封手段は静的密封手段として作用する。なぜならば、それは、レース及びそこに圧力ばめにより設けられる角形板環におけるように、この密封手段は軸受及び密封カセットの相対回転しない部材に接触するだけだからである。
【0019】
更にここでは特に内レースにある付加的な密封手段による付加的な静的密封が説明されるけれども、これは、外レースにある付加的な密封手段による付加的な密封の場合に対して(角形板環のそこにおける圧力ばめの場合)共に含まれ、本発明の対象である。
【0020】
この静的な密封は、幾何学的に低い精度で従って安価に製造される角形板環又はレース曲げ縁でも、例えば軸受に圧力差が生じる時、軸受への湿気の侵入を確実に防止する。
【0021】
密封手段は、なるべく角形板環と共同作用するレースにある環状の半径方向段部に設けられ、このレースは、密封カセットの構成に応じて内レース又は外レースなるべく内レースである。
【0022】
本発明の別の構成では、密封片が少なくとも1つの密封リップ特に密封リップに対して付加的な密封リップを持ち、この付加的な密封リップが軸受内で半径方向内方へ軸受の回転軸線の方へ向き、なるべくレース特に内レースの半径面にかつ/又は角形板環の軸線方向脚辺の端面に当接している。
【0023】
本発明の別の展開によれば、半径方向内方へ向きかつレース特に内レース上に載る密封リップが、角形板環の軸線方向脚辺の内径D2より小さい直径D1を持っている。
【0024】
別の特徴によれば、レース上に載る密封リップが、このレースの圧力ばめの直径D2より小さい直径D1を持っている。
【0025】
相対回転しない部材のみと接触する密封手段が、ラジアル軸受へ密封カセットを圧入する際分離される密封リップの半径方向端部により形成されているのがよい。本発明のこの特徴によって、これに関する密封手段の別々の製造及び軸受へのその別々の取付けを省略することができる。
【0026】
本発明の別の構成によれば、密封片が3リップに構成されて、前述した付加的な密封リップ、角形板環の半径方向脚辺の内側に当接する第2の密封リップ、及び角形板環の軸線方向脚辺の内側に当接する第3の密封リップを持っている。
【0027】
本発明による密封カセットの更に改善される密封作用を得るため、支持体に、ハウジングを静的に密封するための別の密封リップ特にエラストマ密封リップが設けられて、それぞれ対応するレース特に外レースに半径方向に当接している(エラストマ範囲)ことも可能である。
【0028】
更に第1の密封リップの分離される半径方向端部から形成される付加的な密封手段を収容するための上述した環状段部が0.05対1又は0.1対1又は0.02対1特に0.15対1の範囲にある半径方向高さHと軸線方向幅Bとの比を持っているのがよい。
【0029】
更に環状段部を形成されているレースが内レース又は外レースとして、特になるべく内レースとして構成されている。
【0030】
しかし両方のレースのうちどちらが環状段部を備えているかは、密封カセットの幾何学的構成に関係し、特に分離可能な自由端を持つ第1の密封リップが密封カセット又は軸受内でどちらの半径方向へ向けられているかに関係している。
【0031】
最後に本発明は、独立して製造可能でかつ売買可能な単位としてのカセットに関し、支持体、支持体に取付けられる密封片、密封片に形成される密封リップ、及び角形板環を持ち、密封リップが半径方向内方へ向き、かつ角形板環の軸線方向脚辺の内径D2より小さい直径D1を持ち、半径方向に軸線方向脚辺上に載っていないことを特徴としている。この密封リップはなるべく角形板環の軸線方向脚辺の端部に当接している。取付けられた状態で、この密封リップは更にラジアル軸受のレースの半径面に当接している。
【0032】
本発明の実施例が、添付図面により以下に詳細に説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
図1はアンギュラコンタクト玉軸受として構成されるラジアル軸受15を示し、この軸受は背景技術において説明した図5によるラジアル軸受1に広範囲に類似して構成されている。このラジアル軸受15では、転動体としての玉4が保持器5に収容され、かつ内レース26と外レース3との間に回転可能に設けられている。内レース26は曲げ縁6を持ち、この曲げ縁6が(圧力ばめ27aにより)密封カセット20を収容するのに役立つ。
【0034】
特に図2及び4からわかるように、この密封カセット20は、3リップに構成される密封片22を取付けられる支持体21を持っている。密封カセット20に角形板環23も属し、この角形板環23により密封カセット20が、内レース26上に圧力ばめ27aにより取付けられる。
【0035】
角形板環23は軸線方向脚辺34及び半径方向脚辺35を持ち、密封片22の方を向くこれらの脚辺の内側に密封リップ24及び25が当接している。半径方向脚辺35の自由端は支持体21の軸線方向に向く部分の方へ向き、これらの間に詳細には示してない軸線方向間隙が形成され、支持体21の軸線方向へ向く部分は圧力ばめ27bにより外レース3に設けられている。
【0036】
支持体21の軸線方向に他方の側には、半径方向端部を比較的厚く構成される密封片22のエラストマ密封リップ33が設けられて、半径方向に外レース3に支持され、ハウジングに対する静的密封部を形成している(エラストマ範囲)。
【0037】
さて本発明に関連して特に重要なのは、半径方向に内レース26の方へ向きかつ半径方向端部32を持つ密封リップ29である。密封リップ29は、角形板環23の軸線方向脚辺34又は内レース26の圧力ばめ27aの内径D2より小さい直径D1を持っている。
【0038】
更にラジアル軸受15の動作のために、内レース26がその曲げ縁6の転動体から遠い方の端部に環状段部28(図3)を持っている。この段部は比較的小さく形成され、その半径方向高さHと軸線方向幅Bとの比は0.005対1又は0.1対1又は0.02対1特に0.15対1である。この段部28の内径は密封リップ29の直径と一致しているのがよい。
【0039】
図3及び4を一覧するとわかるよに、密封リップ29の半径方向端部32の直径D1、角形板環23の軸線方向脚辺34の直径、及び内レース26にある環状段部28の高さH又は内径は互いに合わされて、内レース26と外レース3との間の収容範囲へ密封カセット20を矢印14に従って導入する際、密封リップ29の半径方向端部32が、環状段部28内にまず損傷なく収容されるようにしている。
【0040】
密封リップ29の半径方向端部32は角形板環23の軸線方向脚辺34の自由端面に当接しているので、密封カセット20を軸受15の内レース26と外レース3との間へ更に導入又は圧入する際、この半径方向端部32が角形板環23の軸線方向脚辺34により分離され、(付加的な)静的密封手段32として、内レース26と角形板環23の軸線方向脚辺34とにより形成される環状密封間隙内に留まる。このため図1の細部30及び32が指摘される。
【0041】
ラジアル軸受15及び密封カセット20の前述した構造的特徴の共同作用により、個別部分及び組立てに関して安価に例えば自動車用ラジアル軸受として製造可能で非常に効果的に密封されるラジアル軸受が得られる。
【0042】
最後に本発明は軸受製造者が他の製造者から下請け部品として入手できる製品であってもよい密封カセット自体にも関する。この密封カセット20は特に支持体21、支持体21に取付けられかつ密封リップ29を有する密封片22及び角形板環23を持ち、密封リップ29は半径方向内方へレース26用の収容開口の方を向き、角形板環23の軸線方向脚辺34の内径D2より小さい直径D1を持っている。密封リップ29は軸線方向脚辺34上に載るのではなく、なるべくその端部の端面に当接している。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】 本発明による密封カセットを持つアンギュラコンタクト玉軸受の概略断面図を示す。
【図2】 図1による密封カセットの詳細図を示す。
【図3】 図2による密封カセットと組合わせる前における図1のアンギュラコンタクト玉軸受の内レースを示す。
【図4】 内レースと組合わせる前における密封カセットを示す。
【図5】 従来技術による密封カセットを持つアンギュラコンタクト玉軸受を示す。
【符号の説明】
【0044】
1,15 ラジアル軸受、アンギュラコンタクト玉軸受
2 内レース
3 外レース
4 転動体、玉
5 保持器
6,26 内レースにある曲げ縁
7 外レースにある段部
8,9 転動体用転動路
10,20 密封カセット
11,21 支持体
12,22 密封片
13,23 角形板環
14 矢印、取付け方向
24,25 密封リップ
27a 内レース又は軸の範囲にある圧力ばめ
27b 外レース又はハウジングの範囲にある圧力ばめ
28 環状段部
29 密封リップ(付加的な静的密封用)
30,31 細部
32 密封リップ29の半径方向端部、密封手段
33 静的密封部、エラストマ範囲
34 角形板環の軸線方向脚辺
35 角形板環の半径方向脚辺
B 段部の幅
H 段部の高さ
D1 密封リップ29の直径、段部28の内径
D2 圧力ばめの直径、角形板環の内径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密封カセット(20)を持つラジアル軸受(15)であって、ラジアル軸受が内レース(26)、外レース(3)及びその間に設けられる転動体(4)を持ち、密封カセット(20)が、軸線方向に転動体(4)のそばで、内レース(26)と外レース(3)との間に圧力ばめで設けられ、密封カセット(20)が、支持体(21)、この支持体に取付けられる密封片(22)、及び角形板環(23)を持ち、この角形板環に密封片(22)の密封リップ(24,25)が当接しているものにおいて、角形板環(23)とレース(26)との間に密封手段(32)が設けられていることを特徴とする、ラジアル軸受。
【請求項2】
密封手段(32)が、レース特に内レース(26)にあって角形板環(23)と共同作用する環状の半径方向段部(28)に設けられていることを特徴とする、請求項1に記載のラジアル軸受。
【請求項3】
密封片(22)が少なくとも1つの密封リップ(29)を持っていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のラジアル軸受。
【請求項4】
密封カセット(20)にある密封リップ(29)が半径方向内方へ向き、かつレース特に内レース(26)上に載り、かつ/又は角形板環(23)の軸線方向脚辺(34)の端面に当接していることを特徴とする、請求項3に記載のラジアル軸受。
【請求項5】
密封リップ(29)が、角形板環(23)の軸線方向脚辺(34)の直径(D2)より小さい直径(D1)を持っていることを特徴とする、請求項3又は4に記載のラジアル軸受。
【請求項6】
密封リップ(29)が、レース特に内レース(26)の圧力ばめ(27a)の直径(D2)より小さい直径(D1)を持っていることを特徴とする、請求項3〜5の1つに記載のラジアル軸受。
【請求項7】
密封手段(32)が、ラジアル軸受(15)へ密封カセット(20)を取付ける際分離される密封リップ(29)の半径方向端部(32)によって形成されていることを特徴とする、請求項1〜6の1つに記載のラジアル軸受。
【請求項8】
密封片(22)が3リップ(24,25,29)に構成されて、密封リップ(29)、角形板環(23)の半径方向脚辺(35)の内側に当接する密封リップ(24)、及び角形板環(23)の軸線方向脚辺(34)の内側に当接する密封リップ(25)を持っていることを特徴とする、請求項1〜7の1つに記載のラジアル軸受。
【請求項9】
支持体(21)に、特にハウジングを静的に密封するための別の密封リップ(33)が設けられて、それぞれ対応するレース特に外レース(3)に半径方向に当接していることを特徴とする、請求項1〜7の1つに記載のラジアル軸受。
【請求項10】
環状段部(28)が0.05対1又は0.1対1又は0.02対1特に0.15対1の範囲にある半径方向高さ(H)と軸線方向幅(B)との比を持っていることを特徴とする、請求項2〜9の1つに記載のラジアル軸受。
【請求項11】
レースが内レース(26)又は外レース(3)として構成されていることを特徴とする、請求項1〜10の1つに記載のラジアル軸受。
【請求項12】
支持体(21)、支持体に取付けられる密封片(22)、密封片(22)に形成される密封リップ(29)、及び角形板環(23)を持ち、密封リップ(29)が半径方向内方へ向き、かつ角形板環(23)の軸線方向脚辺(34)の内径(D2)より小さい直径(D1)を持ち、半径方向に軸線方向脚辺(34)上に載っていないことを特徴とする、ラジアル軸受(15)用密封カセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−520935(P2009−520935A)
【公表日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−549754(P2008−549754)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【国際出願番号】PCT/DE2006/002186
【国際公開番号】WO2007/071230
【国際公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(506420843)シエフレル・コマンデイトゲゼルシヤフト (80)
【Fターム(参考)】