説明

密封容器のリーク検査方法及びその装置

【課題】導電性内容物の絶縁性密封容器に高電圧を印加させてリークの有無を迅速かつ正確に判定する。
【解決手段】導電性内容物が封入された被検査物12に高電圧を印加して前記被検査物12を流れる電流の受信信号をA/D変換してリークの有無の判定を行う密封容器のリーク検査方法において、前記A/D変換した後、放電ノイズを除去する最小値フィルタ処理を行い、前記最小値フィルタ処理後の受信信号と予め定めた閾値とに基づいて、リークの有無の判定を行うことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、高電圧を用いた密封容器のリーク検査方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に液体状の医薬品や食品などは、合成樹脂製のパック、ペットボトル、ガラスアンプルなどの容器に封入された状態で保管または流通させている。
このような医薬品や食品を製造する際、容器内に異物が混入し汚染されることがないように所定の清浄度に維持された製造ラインで製造されている。そして医薬品や食品が密封された容器は、密封した後、製造ライン上でリーク検査が行われている。リーク(ピンホール)検査は、パックあるいはガラスアンプルなどを密封した容器にリークを生じさせるピンホールやクラック等の欠陥が存在するか否かを検査するものである。
【0003】
一例としてガラスアンプルなどは、内液が充填された後、バーナーで頭部を熱せられて密封される。このとき冷却過程でガラスに歪みが発生してクラック、ピンホールなどが発生してリークが生じることがある。そのほか製造ライン上の搬送途中でもクラックが発生する場合がある。
【0004】
図10は従来のリーク検査装置の構成概略を示す図である。図10(1)はアナログ増幅器によるリーク検査装置を示し、図10(2)は積分アンプ及びA/D変換器を備えたリーク検査装置の構成概略図である。
【0005】
まず(1)に示すようにリーク検査装置1は、電源手段2とトランス3により高電圧を被検査物4に印加する。そして被検査物4を流れる電流を電流検出用抵抗5により測定し、検出された信号を後段のアナログ増幅器6に通す。アナログ増幅器6では、高周波放電ノイズを除去している。そしてコンパレータ等の判定手段7により、予め定めた基準電圧値と受信信号とを比較してリーク品か否かを判定している。
【0006】
また(2)に示すような積分アンプ及びA/D変換器を備えたリーク検査装置1Aは、(1)に示すように被検査物4に高電圧を印加した後、電流検出用抵抗5により被検査物を流れる電流を測定する。そして検出された信号を後段の積分アンプ8に通して積分処理を行う。ついでA/D変換器9によりA/D変換した後、判定手段7により比較値と比較して判定している。このようなA/D変換器を備えたリーク検査装置として特許文献1に示す装置が開示されている。
【特許文献1】特開2002−372509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図11はアナログ増幅器を用いた検査装置の信号波形を示す図である。同図(1)は良品サンプルの信号波形を示し、(2)はピンホールを有するサンプル(不良品)の信号波形をそれぞれ示している。なお縦軸は電圧(V)を示し、横軸は時間(s)を示している(以下の信号波形のグラフも同様とする)。(1)に示すように、良品サンプルの場合、通常、高圧電極と被検査物との間には、隙間が生じており、この隙間を流れる放電電流が検出された信号(放電ノイズ)が検出される。また(2)に示すように、不良品の場合、ピンホールに由来する受信信号、すなわちピンホール信号(放電信号)は、良品の放電ノイズと隣接し、かつ良品の放電ノイズよりも電圧値が小さく幅広の信号となる。このようにアンプルを流れる放電電流には、不要な放電ノイズがあるため、良品と不良品の識別を難しくしている。またアナログ増幅器と判定手段で処理すると、良品と不良品のレベルさが少ないため、閾値の設定条件によって良品と誤検知することがあり、判定手段で正しく判定することができないという問題があった。
【0008】
一方、図12は従来のA/D変換器を用いたリーク検査装置の説明図である。図示のように被検査物は、上面に電極プレートを取り付けた搬送ライン上を矢印A方向に移動する。このときの信号波形は、被検査物の良品が電極プレートの入口、中心、出口と通過したとき、中心が最大のため、中心以外の位置でピンホールに放電があった場合には、ピンホール信号が良品より低くなってしまう。このため、受信信号の全体に積分処理を行うと、信号波形の大きい中心に比べて小さい入口又は出口付近では小さな放電信号が消されてしまい、正しく判定することができないという問題があった。
【0009】
上記従来技術の問題点を改善するため本発明は、密封容器の高電圧を印加したリークの有無を迅速かつ正確に判定できる密封容器のリーク検査方法およびその装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の密封容器のリーク検査方法は、導電性内容物が密封された被検査物に高電圧を印加して前記被検査物を流れる電流の受信信号をA/D変換してリークの有無の判定を行う密封容器のリーク検査方法において、前記A/D変換した後、放電ノイズを除去して最小の前記受信信号を抽出する最小値フィルタ処理を行い、前記最小値フィルタ処理後の受信信号と予め定めた閾値とに基づいて、リークの有無の判定を行うことを特徴としている。これにより最小値フィルタによって良品の放電ノイズを除去することができ、かつ容易にリーク信号を抽出して強調することができる。したがって、リーク信号を迅速かつ正確に検出することができる。
【0011】
また本発明の密封容器のリーク検査方法は、前記最小値フィルタ処理した後、現時点の受信信号と予め定めた周期前の受信信号との差分を取り、前記差分により得られた受信信号と予め定めた閾値とに基づいて、リークの有無の判定を行うことを特徴としている。これにより最小値フィルタ処理によって良品の放電ノイズを除去することができ、かつリーク信号を抽出することができる。そして予め定めた周期前の受信信号との差分を取ることにより、良品の受信信号を除去して、リーク信号のみを表示することができる。よってリーク信号を迅速かつ正確に検出することができる。またS/N比を向上させることができ、良品と不良品の差が明確となり、判定がより確実になる。
【0012】
本発明の密封容器のリーク検査装置は、導電性内容物が密封された被検査物に高電圧を印加して前記被検査物を流れる電流の受信信号をA/D変換するA/D変換器と、前記A/D変換処理した信号の放電ノイズを除去して最小の前記受信信号を抽出する最小値フィルタと、前記最小値フィルタの処理後の受信信号と予め定めた閾値とに基づいて、リークの有無の判定を行う判定部と、を備えたことを特徴としている。これにより最小値フィルタによって良品の放電ノイズを除去することができ、かつ容易にリーク信号を強調することができる。したがって、リーク信号を迅速かつ正確に検出することができる。
【0013】
本発明の密封容器のリーク検査装置は、導電性内容物が密封された被検査物に高電圧を印加して前記被検査物を流れる電流の受信信号をA/D変換するA/D変換器と、前記A/D変換処理した信号の放電ノイズを除去して最小の前記受信信号を抽出する最小値フィルタと、前記最小値フィルタで処理した現時点の受信信号と、予め定めた周期前の受信信号との差分をとる差分処理手段と、前記差分処理手段の処理後の受信信号と予め定めた閾値とに基づいて、リークの有無の判定を行う判定部と、を備えたことを特徴としている。これにより最小値フィルタ処理によって良品の放電ノイズを除去することができ、かつリーク信号を抽出することができる。そして予め定めた周期前の受信信号との差分を取ることにより、良品の受信信号を除去して、リーク信号のみを表示することができる。よってリーク信号を迅速かつ正確に検出することができる。またS/N比を向上させることができ、良品と不良品の差が明確となり、判定がより確実になる。
【発明の効果】
【0014】
上記構成による本発明の密封容器のリーク検査方法及びその装置によれば、導電性内容物が封入された密封容器の放電ノイズを容易に除去して、リークの有無を迅速かつ正確に判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の密封容器のリーク検査方法及びその装置の実施形態を添付の図面を参照しながら、以下詳細に説明する。
図1は本発明の密封容器のリーク検査装置の第一実施形態の構成概略図である。図示のように第一実施形態の密封容器のリーク検査装置10(以下、単にリーク検査装置という。)は、測定部20と信号処理部40と判定部60から構成されている。
【0016】
測定部20は、交流電源22とトランス24と高圧電極26と低圧電極28と電流検出用抵抗30を備えている。
交流電源22は被検査物12に印加する高電圧の電源である。トランス24は低圧から高圧に変換する変圧器である。具体的に本実施形態のトランス24は交流電源22の電圧を昇圧している。
【0017】
被検査物12は、内容物として導電性溶液を充填した絶縁性の密封容器、例えばガラスまたはプラスチック製のアンプル容器である。アンプル容器はアンプル内に導電性溶液を充填したのち一端の先端開口を密封させている。
【0018】
高圧電極26および低圧電極28は、前述のトランス24と電気的に接続し、所定の間隔を開けて被検査物12が搬送される製造ライン上に取り付けている。高圧電極26は被検査物12の先端開口を密封した一端側と対向するように取り付けた電極である。一方、低圧電極28は、被検査物12の他端側(底部)と対向する位置に取り付けた電極である。このような高圧電極26および低圧電極28は、高圧電極26から低圧電極28に電流が流れ、電極間の被検査物12に対して高電圧を印加させている。
電流検出用抵抗30は、低圧電極28とトランス24との間に取り付け、被検査物12に流れる電流を抵抗(R)を介して電圧として測定している。
【0019】
次に信号処理部40は、ローパスフィルタ42とA/D変換器44と記憶手段46と最小値フィルタ48とを備えている。
ローパスフィルタ(アンチエイリアシングフィルタ)42は、電流検出用抵抗30で測定した受信信号のうち高域周波数の信号をカットして低域周波数の信号のみを通過させるフィルタである。本実施形態のローパスフィルタ42は、後段のA/D変換器44で影響を及ぼさない程度のノイズを除去している。
【0020】
A/D変換器44は、ローパスフィルタ42でノイズを除去した受信信号をデジタル信号に変換し、後述の演算処理を容易かつ迅速に行えるようにしている。
また記憶手段(メモリ)46は、デジタル変換した信号を一時的に記憶するメモリである。
【0021】
最小値フィルタ48は、最小値処理を行うフィルタである。最小値処理とは、任意に選択した連続した信号列の中から最小値を算出する演算処理であり、具体的には次式にしたがって最小値処理が行われる。
【0022】
すなわち最小値フィルタ48は、A/D変換された受信信号列をa(i)とし、最小フィルタ出力をs(i)とした場合に、
s(i)=min〔a(i−j),,a(i−1),a(i),a(i+1),,a(i+j)〕
の関係を満たしている。なおjは1〜10の間の任意に定めた整数とすることができる。
【0023】
判定部60は、最小値フィルタ48からの信号が入力される。判定部60は、被検査物12の良品の受信信号に基づいて良品の閾値を予め任意に設定してあり、この閾値と最小値フィルタ処理後の受信信号とに基づいて良否判定を行っている。
【0024】
上記構成による第一実施形態の密封容器のリーク検査方法(以下、単にリーク検査方法という。)について以下説明する。図2は第一実施形態のリーク検査方法のフローチャートを示す図である。
【0025】
交流電源22の電圧をトランス24で昇圧して、トランス24に接続する高圧電極26および低圧電極28から搬送ライン上を搬送する被検査物12に高電圧を印加する(ステップ100)。
【0026】
このとき高圧電極26から被検査物12に電流が流れ、電流は被検査物12の容器と導電性内容物を通り、低圧電極28に流れる。そして電流検出用抵抗30に、流れた交流電流に比例した大きさの電流受信信号、すなわち電圧信号が測定される(ステップ102)。
【0027】
取り出された電圧は、ローパスフィルタ42に送られて高周波ノイズを除去して低域周波数を通過させる処理(後段のデジタル処理に影響を与えない程のフィルタ処理)を行う(ステップ104)。
【0028】
ついでA/D変換器44により受信信号をデジタル化する(ステップ106)。デジタル変換された信号は、記憶手段46に一時的に記憶される(ステップ108)。
【0029】
記憶手段46に記憶された信号は最小値フィルタ48により最小値処理が行われる。記憶手段46に記憶された連続した所定範囲の受信信号を読み出す。このうちA/D変換された受信信号列をa(i)、一例としてj=2とした場合、最小フィルタ出力s(i)は、
s(i)=min〔a(i−2),a(i−1),a(i),a(i+1),a(i+2)〕となる。
【0030】
ここでリークの放電信号は40μs以上の信号幅を持っている。一方、放電ノイズは5μs〜10μs以内のパルスである。よって本実施形態の1サンプリング幅を少なくとも5μsとればよい。そうするとj=2とし、5ポイントとすれば、5μs×5ポイント=25μsの信号幅で最小値フィルタ処理を行うことになる。
【0031】
すなわち受信信号a(i)を中心として連続する受信信号の前後2個の信号を含めた全部で5個の受信信号の最小値を求めることになる(ステップ110)。次に受信信号列a(i+1)についても同様に行い、このような処理を連続して行う。
【0032】
ここで図3は第一実施形態のリーク検査方法の信号波形の説明図である。図中(A),(B)はそれぞれ被検査物12の良品の信号波形、リーク品の信号波形を示している。また図中(C),(D)はそれぞれ最小値フィルタ処理後の良品の信号波形およびリーク品の信号波形を示している。(A)に示すように、良品の場合には低周波でまんべんなく放電している。一方(B)に示すように、不良品の場合にはリークがあると空気の絶縁破壊が加速して低周波波形のピーク後半に、矢印bに示すような低周波部分の急激な増加が見られる。
【0033】
本発明では連続する受信信号列に最小値処理を行うと、(A),(B)に現れている放電ノイズが、(C),(D)では除去され、特に(D)では放電信号が強調されている。これは、受信信号のうち放電ノイズと放電信号が近接した連続信号として検出されるが、最小値フィルタにより電圧値の高い放電ノイズが消去されて、電圧値の小さい放電信号が残り、その部分を抽出して強調されたためである。
【0034】
最後に判定部60では、最小値フィルタ処理後の受信信号と、良品の受信信号により予め定めた良品の閾値とに基づいて良否判定を行う。例えば、(C)に示す良品波形の+側の閾値を0.15(V)と定める。そして(D)に示す電圧波形にこの閾値を適用すると、0.15(V)を越える電圧値があるため、リークが存在する不良品と判断する。このように受信信号が閾値よりも大きい場合は、被検査物にリークが存在する不良品と判断し、受信信号が閾値よりも小さい場合には、良品と判断する(ステップ112)。
【0035】
次に本発明のリーク検査装置の第二実施形態について説明する。図4は本発明のリーク検査装置の第二実施形態の構成概略図である。
第二実施形態のリーク検査装置10Aと前述の第一実施形態のリーク検査装置10と異なる構成は、記憶手段46の後段に周期測定手段50を設けた点と、信号処理部40Aの最小値フィルタ48と判定部60の間に差分処理手段52と第2フィルタ56を設けた点である。その他の構成は第一実施形態のリーク検査装置と同様であり、同一符号を付し詳細な説明を省略する。
【0036】
信号処理部40Aの周期測定手段50は、記憶手段46の後段に取り付け、記憶手段46からの信号が入力される。周期測定手段50は、記憶手段46に記憶された連続した所定範囲の受信信号を読み出し、信号波形から周期を測定している。そして1周期中のm個のサンプリング数を求めている。したがってn周期のサンプリング数は、n×m個と表すことができる。
【0037】
また信号処理部40Aの差分処理手段52は、最小値フィルタ48と周期測定手段50の信号が入力される。差分処理手段52は、前段の信号遅延メモリ53と後段の加算器54からなる。信号遅延メモリ53は、周期測定手段50の周期データとなるn周期のサンプリング数n×m個からn周期前の受信信号s’を求め記憶するメモリである。ここでn周期前の受信信号s’は、記憶手段46から読み出した連続した所定範囲の受信信号のうち現時点の受信信号をs(i)とすると、s’(nm+i)と表すことができる。加算器54では、この現時点の受信信号s(i)と、任意に設定した周期前の受信信号s’(nm+i)との差分をとっている。すなわち現時点の受信信号とn周期前の受信信号との差分e(i)は
e(i)=s(i)−s’(nm+i)
の関係となる。
【0038】
第2フィルタ56は、例えばローパスフィルタを用いている。第2フィルタ56は差分処理手段52からの信号が入力され、高周波のノイズを除去している。
上記構成による第二実施形態のリーク検査方法について以下説明する。図5は第二実施形態のリーク検査方法のフローチャートを示す図である。
【0039】
第二実施形態における測定部20から記憶手段46までの処理は、第一実施形態と同様の処理が行われる。すなわち交流電源22の電圧をトランス24で昇圧して、トランス24に接続する高圧電極26および低圧電極28から搬送ライン上を搬送する被検査物12に高電圧を印加する(ステップ100)。
【0040】
このとき高圧電極26から被検査物12に電流が流れ、電流は被検査物12の容器と導電性内容物を通り、低圧電流28に流れる。そして電流検出用抵抗30に、流れた交流電流に比例した大きさの電流受信信号、すなわち電圧信号が測定される(ステップ102)。
【0041】
取り出された電圧は、ローパスフィルタ42に送られて高周波ノイズを除去して低域周波数を通過させる処理(後段のデジタル処理に影響を与えない程のフィルタ処理)を行う(ステップ104)。
【0042】
ついでA/D変換器44により受信信号をデジタル化する(ステップ106)。デジタル変換された信号は、記憶手段46に一時的に記憶される(ステップ108)。
【0043】
次に記憶手段46に記憶された連続した所定範囲の受信信号を読み出し周期を周期測定手段50により測定する(ステップ200)。周期測定手段50では、連続した所定範囲の受信信号の信号波形から周期を測定し、1周期中のm個のサンプリング数を求めている。n周期のサンプリング数は、n×m個となる。なおnは任意の整数を用いることができる。
【0044】
一方、記憶手段46に記憶された信号は最小値フィルタ48により最小値処理が行われる。記憶手段46に記憶された連続した所定範囲の受信信号を読み出す。このうちA/D変換された受信信号列をa(i)、一例としてj=2とした場合、最小値フィルタ出力s(i)は、
min〔a(i−2),a(i−1),a(i),a(i+1),a(i+2)〕となり、
受信信号a(i)を中心として連続する受信信号の前後2個の信号を含めた全部で5個の受信信号の最小値を求めることになる(ステップ110)。次に受信信号列a(i+1)についても同様に行い、このような処理を連続して行う。
【0045】
差分処理手段52には、最小値フィルタ48の最小値フィルタ処理後の信号と、周期測定手段50の周期データが入力される。周期測定手段50により求めた1周期中のサンプリング数mから、一例として、3周期前の受信信号s’を求める場合、最小値フィルタ処理後の連続した所定範囲の受信信号のうち現時点の受信信号をs(i)とすると3周期前の受信信号s’は、s’=(3m+i)と表すことができる。信号遅延メモリ53では、この3周期前の受信信号s’を一時的に記録する。次に加算器54により、現時点の受信信号s(i)と、信号遅延メモリ53で記憶した3周期前の受信信号s’との差分を取る。差分をとった信号を信号e(i)とした場合、
e(i)=s(i)−s’(3m+i)
の関係により求めることができる(ステップ202)。
【0046】
ここで図6は第二実施形態のリーク検査方法の信号波形の説明図である。図中(A)は記憶手段46の良品およびリーク品の連続信号を示し、(B)は最小値フィルタ処理後の良品およびリーク品の連続信号を示し、(C)は差分処理後の良品およびリーク品の連続信号を示している。(A)に示すように、図中矢印cに示すリーク信号が検出されているが、良品の放電ノイズよりも小さい信号である。(B)に示すようにこの連続信号を最小値処理すると、良品の放電ノイズが除去されてリーク信号のみが抽出され強調される。さらに(C)に示すように現時点の連続信号とn周期前の連続信号との差分処理を行うと、良品の信号が除去されて放電信号のみが残る。
【0047】
さらに第2フィルタ56で差分処理後の信号の誤差ノイズを除去する(ステップ204)。
最後に判定部60では、差分処理後の受信信号と、予め定めた良品の閾値とに基づいて良否判定を行う。例えば、受信信号が閾値よりも大きい場合は、被検査物にリークが存在する不良品と判断し、受信信号が閾値よりも小さい場合には、良品と判断する(ステップ206)。
【0048】
次に本発明に関連するリーク検査装置について説明する。図7は本発明に関連するリーク検査装置の構成概略を示す図である。図示のように本発明に関連するリーク検査装置10Bは、測定部20と信号処理部40Bと判定部60から構成されている。
【0049】
測定部20は、交流電源22とトランス24と高圧電極26と低圧電極28と電流検出用抵抗30を備えている。
交流電源22は被検査物12に印加する高電圧の電源である。トランス24は低圧から高圧に変換する変圧器である。具体的に本実施形態のトランス24は交流電源22の電圧を昇圧している。
【0050】
被検査物12は、内容物として導電性溶液を充填したガラスまたはプラスチック製のアンプル容器である。アンプル容器はアンプル内に導電性溶液を充填したのち一端の先端開口を密封させている。
【0051】
高圧電極26および低圧電極28は、前述のトランス24と電気的に接続し、所定の間隔を開けて被検査物12が搬送される製造ライン上に取り付けている。高圧電極26は被検査物12の先端開口を密封した一端側と対向するように取り付けた電極である。一方、低圧電極28は、被検査物12の他端側(底部)と対向する位置に取り付けた電極である。このような高圧電極26および低圧電極28は、高圧電極26から低圧電極28に電流が流れ、電極間の被検査物12に対して高電圧を印加させている。
【0052】
電流検出用抵抗30は、低圧電極28とトランス24との間に取り付け、被検査物12に流れる電流を抵抗(R)を介して電圧として測定している。
次に信号処理部40Bは、ローパスフィルタ42とA/D変換器44と記憶手段46と周期測定手段50と差分処理手段52と第2フィルタ56とを備えている。
【0053】
ローパスフィルタ(アンチエイリアシングフィルタ)42は、電流検出用抵抗30で測定した受信信号のうち高域周波数の信号をカットして低域周波数の信号のみを通過させるフィルタである。本実施形態のローパスフィルタ42は、後段のA/D変換器44で影響を及ぼさない程度のノイズを除去している。
【0054】
A/D変換器44は、ローパスフィルタ42でノイズを除去した受信信号をデジタル信号に変換し、後述の演算処理を容易かつ迅速に行えるようにしている。
また記憶手段(メモリ)46は、デジタル変換した信号を一時的に記憶するメモリである。
【0055】
周期測定手段50は、記憶手段46の後段に取り付け、記憶手段46からの信号が入力される。周期測定手段50は、記憶手段46に記憶された連続した所定範囲の受信信号を読み出し、信号波形から周期を測定している。そして1周期中のm個のサンプリング数を求めている。したがってn周期のサンプリング数は、n×m個と表すことができる。
【0056】
また差分処理手段52は、記憶手段46と周期測定手段50の信号が入力される。差分処理手段52は、前段の信号遅延メモリ53と後段の加算器54からなる。信号遅延メモリ53は、周期測定手段50の周期データとなるn周期のサンプリング数n×m個からn周期前の受信信号s’を求め記憶するメモリである。ここでn周期前の受信信号s’は、記憶手段46から読み出した連続した所定範囲の受信信号のうち現時点の受信信号をs(i)とすると、s’(nm+i)と表すことができる。加算器54では、この現時点の受信信号s(i)と、任意に設定した周期前の受信信号s’(nm+i)との差分をとっている。すなわち現時点の受信信号とn周期前の受信信号との差分e(i)は
e(i)=s(i)−s’(nm+i)
の関係となる。
【0057】
第2フィルタ56は、例えばローパスフィルタを用いている。第2フィルタ56は差分処理手段52からの信号が入力され、高周波のノイズを除去している。
判定部60は、第2フィルタ56からの信号が入力される。判定部60は、被検査物12の良品の閾値を予め任意に設定してあり、この閾値と差分処理後の受信信号とに基づいて良否判定を行っている。
【0058】
このように本発明に関連するリーク検査装置10Bが第二実施形態に係るリーク検査装置10Aと異なる構成は、最小値フィルタ48を具備していない点である。
【0059】
上記構成による本発明に関連するリーク検査方法について以下説明する。図8は本発明に関連するリーク検査方法のフローチャートを示す図である。
交流電源22の電圧をトランス24で昇圧して、トランス24に接続する高圧電極26および低圧電極28から搬送ライン上を搬送する被検査物12に高電圧を印加する(ステップ100)。
【0060】
このとき高圧電極26から被検査物12に電流が流れ、電流は被検査物12の容器と導電性内容物を通り、低圧電流28に流れる。そして電流検出用抵抗30に、流れた交流電流に比例した大きさの電流受信信号、すなわち電圧信号が測定される(ステップ102)。
【0061】
取り出された電圧は、ローパスフィルタ42に送られて高周波ノイズを除去して低域周波数を通過させる処理(後段のデジタル処理に影響を与えない程のフィルタ処理)を行う(ステップ104)。
【0062】
ついでA/D変換器44により受信信号をデジタル化する(ステップ106)。デジタル変換された信号は、記憶手段46に一時的に記憶される(ステップ108)。
【0063】
次に記憶手段46に記憶された連続した所定範囲の受信信号を読み出し周期を周期測定手段50により測定する(ステップ200)。周期測定手段50では、連続した所定範囲の受信信号の信号波形から周期を測定し、1周期中のm個のサンプリング数を求めている。n周期のサンプリング数は、n×m個となる。なおnは任意の整数を用いることができる。
【0064】
差分処理手段52には、記憶手段46の受信信号と、周期測定手段50の周期データが入力される。周期測定手段50により求めた1周期中のサンプリング数mから、一例として、3周期前の受信信号s’を求める場合、最小値フィルタ処理後の連続した所定範囲の受信信号のうち現時点の受信信号をs(i)とすると3周期前の受信信号s’は、s’=(3m+i)と表すことができる。信号遅延メモリ53では、この3周期前の受信信号s’を一時的に記録する。次に加算器54により、現時点の受信信号s(i)と、信号遅延メモリ53で記憶した3周期前の受信信号s’との差分を取る。差分をとった信号を信号e(i)とした場合、
e(i)=s(i)−s’(3m+i)
の関係により求めている(ステップ300)。
【0065】
ここで図9は本発明に関連するリーク検査方法の信号波形の説明図である。図中(A)は記憶手段46の良品とリーク品の連続信号を示し、(B)は差分処理後の良品およびリーク品の連続信号を示している。(A)に示すように、図中は先lの前段は良品の信号波形であり、破線lの後段はリーク品の信号波形が現れている。(B)に示すように現時点の連続信号とn周期前の連続信号との差分処理を行うと、表品の信号が除去されて放電信号のみが強調されて表示される。
【0066】
さらに第2フィルタ56で差分処理後の信号の誤差ノイズを除去する(ステップ302)。
最後に判定部60では、差分処理後の受信信号と、予め定めた良品の閾値とに基づいて良否判定を行う。例えば、受信信号が閾値よりも大きい場合は、被検査物にリークが存在する不良品と判断し、受信信号が閾値よりも小さい場合には、良品と判断する(ステップ304)。
【0067】
このような密封容器のリーク検査方法およびその装置によれば、高電圧を用いて導電性内容物が封入された容器のリークの有無を迅速かつ正確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の密封容器のリーク検査装置の第一実施形態の構成概略図である。
【図2】第一実施形態のリーク検査方法のフローチャートを示す図である。
【図3】第一実施形態のリーク検査方法の説明図である。
【図4】本発明のリーク検査装置の第二実施形態の構成概略図である。
【図5】第二実施形態のリーク検査方法のフローチャートを示す図である。
【図6】第二実施形態のリーク検査方法の説明図である。
【図7】本発明に関連するリーク検査装置の構成概略図である。
【図8】本発明に関連するリーク検査方法のフローチャートを示す図である。
【図9】本発明に関連するリーク検査方法の説明図である。
【図10】従来のリーク検査装置の構成概略を示す図である。
【図11】従来のアナログ増幅器を用いたリーク検査装置の信号波形を示す図である。
【図12】従来のA/D変換器を用いたリーク検査装置の説明図である。
【符号の説明】
【0069】
1………リーク検査装置、2………電源手段、3………トランス、4………被検査物、5………電流検出用抵抗、6………アナログ増幅器、7………判定手段、8………積分アンプ、9………A/D変換器、10,10A,10B………リーク検査装置、12………被検査物、20………測定部、22………交流電源、24………トランス、26………高圧電極、28………低圧電極、30………電流検出用抵抗、40,40A,40B………信号処理部、42………ローパスフィルタ、44………A/D変換器、46………記憶手段、48………最小値フィルタ、50………周期測定手段、52………差分処理手段、53………信号遅延メモリ、54………加算器、56………第2フィルタ、60………判定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性内容物が密封された被検査物に高電圧を印加して前記被検査物を流れる電流の受信信号をA/D変換してリークの有無の判定を行う密封容器のリーク検査方法において、
前記A/D変換した後、放電ノイズを除去して最小の前記受信信号を抽出する最小値フィルタ処理を行い、
前記最小値フィルタ処理後の受信信号と予め定めた閾値とに基づいて、リークの有無の判定を行うことを特徴とする密封容器のリーク検査方法。
【請求項2】
前記最小値フィルタ処理した後、
現時点の受信信号と予め定めた周期前の受信信号との差分を取り、
前記差分により得られた受信信号と予め定めた閾値とに基づいて、リークの有無の判定を行うことを特徴とする請求項1に記載の密封容器のリーク検査方法。
【請求項3】
導電性内容物が密封された被検査物に高電圧を印加して前記被検査物を流れる電流の受信信号をA/D変換するA/D変換器と、
前記A/D変換処理した信号の放電ノイズを除去して最小の前記受信信号を抽出する最小値フィルタと、
前記最小値フィルタの処理後の受信信号と予め定めた閾値とに基づいて、リークの有無の判定を行う判定部と、
を備えたことを特徴とする密封容器のリーク検査装置。
【請求項4】
導電性内容物が密封された被検査物に高電圧を印加して前記被検査物を流れる電流の受信信号をA/D変換するA/D変換器と、
前記A/D変換処理した信号の放電ノイズを除去して最小の前記受信信号を抽出する最小値フィルタと、
前記最小値フィルタで処理した現時点の受信信号と、予め定めた周期前の受信信号との差分をとる差分処理手段と、
前記差分処理手段の処理後の受信信号と予め定めた閾値とに基づいて、リークの有無の判定を行う判定部と、
を備えたことを特徴とする密封容器のリーク検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−66012(P2010−66012A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−229816(P2008−229816)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(000110952)ニッカ電測株式会社 (12)
【Fターム(参考)】