説明

密封装置

【課題】軸方向に並んだ複数の環状部材21,22の対向端部間の内周に跨って形成された装着溝23内に配置される密封装置10において、装着溝23へのシールリング1の装着作業性を向上させる。
【解決手段】軸方向に並んだ複数の環状部材21,22の互いの対向端部の内周に跨って形成された装着溝23内に、前記対向端部間を塞ぐように配置されるシールリング1を備え、前記装着溝23は溝肩23c,23d間の軸方向幅w1より溝底23e,23f側の軸方向幅w2が広く、前記シールリング1の外径部の軸方向幅w4が装着溝23の溝底23e,23f側の軸方向幅w2より狭く、溝肩23c,23d間の軸方向幅w1より広いことによって、シールリング1が装着溝23に遊嵌状態に保持されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置であって、例えば圧延機のロールネックの軸受を密封するのに好適に用いられるものに関する。
【背景技術】
【0002】
圧延機では、冷却用の大量の圧延水を必要とするため、そのロールネック用軸受は、内部に圧延水などが浸入しないように、密封装置が設けられる。
【0003】
図4は、従来の密封装置を装着した圧延機のロールネック用軸受を示すもので、この軸受は、軸方向に並んだ一対の内輪101と、その外周側に配置され間座103を介して軸方向に並んだ3個の外輪102と、これら内輪101と外輪102の間にそれぞれ転動可能に円周方向4列に配置された円錐ころ104と、これら各列の円錐ころ104を円周方向所定間隔に保持する保持器105と、外輪102の外端部に装着されると共に内輪101の外端部外周面に摺動可能に密接された一対のオイルシール106と、内輪101,101の互いの対向端部間に介在された密封装置110とを備える。
【0004】
密封装置110は、本発明の対象となるものであって、詳しくは図5に示されるように、内輪101,101の互いの対向端部の内周面に跨って形成された環状の装着溝107内に配置され、ゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなるシールリング111と、このシールリング111の内周面に形成されて円周方向へ連続した溝内に嵌め込まれた環状の補強用スプリング112からなり、内輪101,101の内周から、この内輪101,101の互いの対向端部間(装着溝107)を介して圧延水などが軸受の内部空間108に浸入するのを防止するものである。
【0005】
なお、この種の密封装置の典型的な従来技術としては、下記の先行技術文献に記載されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−329243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら従来の密封装置110は、シールリング111が補強用スプリング112の剛性によって装着溝107の内面に摺動可能に密接され、内輪101,101間を封止しているため、軸受の内部空間108は、運転時の温度差によって負圧になることがあり、このような負圧が発生した場合は、軸方向両側のオイルシール106,106から内部空間108への圧延水の浸入量が増大してしまうおそれがある。詳しくは、軸受の温度が上昇すると、軸受内部空間108に存在する空気が膨張することによって、その空気の一部が、シールリング111やオイルシール106,106を押し開いて外部へ流出し、その後で軸受の温度が低下すると、軸受内部空間108内の空気が収縮することによって外部の大気圧よりも低くなるのである。
【0008】
したがって従来は、補強用スプリング112によって装着溝107の内面に対するシールリング111の面圧を調整し、適度な通気性を確保することによって内部空間108の負圧の発生の防止を図っているが、その目的のために補強用スプリング112の剛性を小さくすると、例えば圧延ロールの軸心(軸受の軸心)が略水平に延びるものである場合、装着溝107内への密封装置110の装着の際に、図6に示されるように、密封装置110の上部110aがその自重によって装着溝107から垂れ下がってしまうことがある。このため装着作業性が悪く、しかもこのような垂れ下がり状態で内輪101,101の内周にロールネックが挿入された場合は、このロールネックとの干渉によって密封装置110が損傷し、所要の密封性が得られなくなる問題があった。
【0009】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、軸方向に並んだ複数の環状部材の対向端部間の内周に跨って形成された装着溝内に配置される密封装置において、前記装着溝へのシールリングの装着作業性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る密封装置は、軸方向に並んだ複数の環状部材の互いの対向端部の内周に跨って形成された装着溝内に、前記対向端部間を塞ぐように配置されるゴム状弾性材料からなるシールリングを備え、前記装着溝は溝肩間より溝底側で軸方向幅が広く、前記シールリングの外径部の軸方向幅が前記装着溝の溝底側の軸方向幅より狭く、溝肩間の軸方向幅より広いことを特徴とするものである。
【0011】
また、請求項2の発明に係る密封装置は、請求項1に記載の構成において、装着溝の溝底に接触されるシールリングの外径部が通気性を有するフッ素樹脂からなるものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明に係る密封装置によれば、装着溝にシールリングを取り付ける際に、シールリングの外径部の軸方向幅が装着溝の溝肩間より広くなっていることによって、シールリングが装着溝に遊嵌状態に保持されるので、装着作業性が向上する。
【0013】
また、請求項2の発明に係る密封装置によれば、請求項1による効果に加えて、シールリングに適当な通気性が確保されるので、密封装置の内側空間の圧力変化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第一の形態に係る密封装置を装着した圧延機のロールネック用軸受を、その軸心を通る平面で切断して示す断面図である。
【図2】図1の要部を拡大して示す断面図である。
【図3】本発明の第二の形態に係る密封装置を、その軸心を通る平面で切断して示す断面図である。
【図4】従来の密封装置を装着した圧延機のロールネック用軸受を、その軸心を通る平面で切断して示す断面図である。
【図5】図4の一部を拡大して示す断面図である。
【図6】密封装置の装着過程で垂れ下がりが発生した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る密封装置の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。まず図1及び図2は、本発明の第一の形態を示すものである。
【0016】
図1に示される圧延機のロールネック用軸受は、外周面に各2列の軌道面を有し軸方向に並んだ一対の内輪21,22と、一方の内輪21における一方の軌道面21a及び他方の内輪22における他方の軌道面22bの外周側に位置する2列の軌道面31a,31bを有する外輪31と、一方の内輪21における他方の軌道面21bの外周側に位置する軌道面32aを有する外輪32と、他方の内輪22における一方の軌道面22aの外周側に位置する軌道面33aを有する外輪33と、軸方向に並んだ前記外輪31〜33の互いの対向端部間に介在された間座34,35と、軌道面21a,31a間、軌道面22b,31b間、軌道面21b,32a間、及び軌道面22a,33a間にそれぞれ転動可能に円周方向へ4列に配置された円錐ころ41〜44と、これら各列の円錐ころ41〜44を円周方向所定間隔に保持する保持器51〜54と、外径部が外輪32とその外側に固定された端部材36との間に取り付けられて内径のシールリップが内輪21の外端部外周面に摺動可能に密接されたオイルシール61と、外径部が外輪33とその外側に固定された端部材37との間に取り付けられて内径のシールリップが内輪22の外端部外周面に摺動可能に密接されたオイルシール62と、内輪21,22の互いの対向端部の内周に配置された密封装置10とを備える。
【0017】
内輪21,22は、請求項1に記載された環状部材に相当するものであって、軸方向に互いに衝合された状態で、内径が不図示の圧延ロールの軸部のロールネックの外周面に装着され、外輪31〜33は間座34,35を介して互いに衝合した状態で、不図示のハウジングの内周面に装着されている。
【0018】
内輪21,22の互いの対向端部の内周面には、環状の装着溝23が双方の内輪21,22に跨って形成されており、密封装置10は、図2に示されるように、装着溝23内に前記対向端部間を塞ぐように配置されるシールリング1と、このシールリング1の内周面に形成されて円周方向へ連続した溝11内に嵌め込まれた環状の補強用スプリング2からなる。
【0019】
詳しくは図2に示されるように、装着溝23は蟻溝状をなすものであって、すなわちこの装着溝23における軸方向両側の内側面23a,23bは、溝肩23c,23d間の軸方向幅w1より溝底23e,23f側の軸方向幅w2が広くなるような斜面をなしている。
【0020】
一方、シールリング1は、ゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)で成形されたものであって、外周面1aが、前記装着溝23における内輪21側の溝底23eと、内輪22側の溝底23fの双方に対して、部分的に面接触した状態で微小隙間を介して近接対向され、内周面1bは、内輪21,22の内径よりも僅かに大径となっている。また、このシールリング1の軸方向両側面1c,1dは、内径部の軸方向幅w3より外径部の軸方向幅w4が広くなるような斜面をなしており、外径部の軸方向幅w4は装着溝23の溝底23e,23f側の軸方向幅w2よりは狭いが、溝肩23c,23d間の軸方向幅w1よりもやや広くなっている。そして内輪21,22は運転時に僅かな回転差があるため、シールリング1の外周面1aは、装着溝23の溝底23e,23fのいずれかと摺動するようになっている。
【0021】
補強用スプリング2は、細長いコイルスプリングを環状に繋げたものであって、シールリング1を外径方向へ押圧する適当なばね性を有し、非円形に変形されたときに円形に復元しようとする復元力によって、シールリング1の剛性を補う作用を奏するものである。
【0022】
以上の構成を備える本発明の密封装置10によれば、シールリング1は、予め補強用スプリング2が嵌め込まれた状態で、内輪21,22の互いに衝合した対向端部内周の装着溝23へ装着される。この装着に際しては、先に説明した図6に示される密封装置110の変形状態と同様に密封装置10の円周方向一部を内径側へ撓ませることによって、見かけの外径寸法を内輪21,22の内径より小さくしながら装着溝23の内周側に挿入して行く。なお、シールリング1は外径部の軸方向幅w4が装着溝23の溝肩23c,23d間の軸方向幅w1より広いため、装着溝23内へ内周側から軽く押し込むようにして適当に変形させながら挿入する。
【0023】
そして、シールリング1の外径部がいったん溝肩23c,23d間を変形しながら通過して装着溝23内へ入り込んだ後は、溝肩23c,23d間の軸方向幅w1より広いシールリング1の外径部は、容易に溝肩23c,23d間を溝外側へ通過することができないため、例えば圧延ロールの軸心(軸受の軸心)が略水平に延びるものである場合、密封装置10の上部が、その自重によって先に説明した図6のように垂れ下がって装着溝23から脱落してしまうことがない。このため装着作業性が向上し、密封装置10が垂れ下がった状態で内輪21,22の内周にロールネックが挿入されることによる密封装置10の損傷を防止することができる。
【0024】
そして、シールリング1は装着溝23に対して遊嵌されているため、図2に示されるように、シールリング1の軸方向両側面1c,1dと装着溝23の内側面23a,23bとの間には通気路Aとなる隙間が存在する。また、装着溝23へのシールリング1の保持力は、外径側への補強用スプリング2の押圧力に依存するものではないため、シールリング1の外周面1aは装着溝23の溝底23e,23fに対して完全に密接しておらず、部分接触状態で微小隙間を介して近接対向される。このため、シールリング1の外周面1aと装着溝23の溝底23e,23fとの間には、気体(例えば空気)は通過可能であるが液体(例えば圧延水や油脂類)は容易に通過できない微小隙間を確保することができる。
【0025】
ここで、軸受の温度が上昇すると、軸受内部空間(円錐ころ41〜44及び保持器51〜54が配置された空間)Sに存在する空気が膨張する。そしてこれによって、軸受内部空間Sの圧力が外部の大気圧よりも高くなると、軸受内部空間Sの空気の一部は、内輪21,22における装着溝23の溝底23e,23fとシールリング1の外周面1aとの間の微小隙間、及び通気路Aを通じて外部へ排出される。
【0026】
また、この状態から軸受の温度が低下すると、軸受内部空間Sに存在する空気が収縮するので、これによって、軸受内部空間Sの圧力が外部の大気圧よりも低く(負圧に)なると、軸受外部の空気が、通気路Aから、内輪21,22における装着溝23の溝底23e,23fとシールリング1の外周面1aとの間の微小隙間を通じて軸受内部空間Sへ流入する。また前記微小隙間は、空気は通過可能であるが液体は容易に通過できないため、外部の圧延水などの浸入は有効に遮断される。
【0027】
そして、軸受内部空間Sの空気の収縮に伴って軸受外部の空気が流入することで、負圧が解消されるため、負圧によって外部の圧延水などが軸方向両側のオイルシール61,62を通過して軸受内部空間Sへ流入することがなく、また、外部の大気圧との圧力差によって内輪21,22の外周面に対するオイルシール61,62の摩擦負荷が増大することもない。
【0028】
次に図3は、本発明の第二の形態に係る密封装置を、その軸心を通る平面で切断して示す要部断面図である。
【0029】
第二の形態の密封装置10において、上述の第一の形態と異なるところは、シールリング1に補強用スプリングが嵌め込まれておらず、このシールリング1の外径部12が多孔質のフッ素樹脂、好ましくは多孔質のPTFE(Polytetrafluoroethylene:4フッ化エチレン)からなる点にある。その他の部分は、第一の形態と同様に構成されている。
【0030】
詳しくは、シールリング1は、多孔質のフッ素樹脂からなる外径部12と、その内周側に一体的に接合されたゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなる内径部13との複合体となっている。外径部12は、無数の微細な連続気孔を有する多孔質であることによる適当な通気性を有する。シールリング1の全体としての断面形状や大きさは図2と同様である。
【0031】
この第二の形態も、第一の形態と同様にしてシールリング1を蟻溝状の装着溝23へその内周側から軽く押し込むようにして適当に変形させながら挿入することにより装着されるため、例えば圧延ロールの軸心(軸受の軸心)が略水平に延びるものである場合、密封装置10の上部が、その自重によって先に説明した図6のように垂れ下がって装着溝23から脱落してしまうことがなく、したがって装着作業性が向上し、密封装置10が垂れ下がった状態で内輪21,22の内周にロールネックが挿入されることによる密封装置10の損傷を防止することができる。
【0032】
また、軸受の温度が上昇すると、軸受内部空間Sに存在する空気が膨張する。そしてこれによって、軸受内部空間Sの圧力が外部の大気圧よりも高くなると、軸受内部空間Sの空気の一部は、シールリング1の外径部12の微細な連続気孔と、装着溝23の内側面23a,23bとの間の隙間(通気路A)を通じて外部へ排出される。
【0033】
また、この状態から軸受の温度が低下すると、軸受内部空間Sに存在する空気が収縮するので、これによって、軸受内部空間Sの圧力が外部の大気圧よりも低く(負圧に)なると、軸受外部の空気が、通気路Aから、シールリング1の外径部12の微細な連続気孔を通じて軸受内部空間Sへ流入することによって、前記負圧が解消される。また前記連続気孔は、空気は通過可能であるが液体は容易に通過できないため、外部の圧延水などの浸入は有効に遮断される。
【0034】
したがって、第二の形態による密封装置10も、第一の形態と同様の効果が得られ、しかもシールリング1の外径部12をフッ素樹脂からなるものとすることによって、装着溝23の内面に対する摩擦抵抗を低減することができると共に、このフッ素樹脂からなる外径部12が、シールリング1の適当な剛性を確保する機能を有する。
【0035】
また、シールリング1の外径部12を、微細な連続気孔の存在しない緻密質のフッ素樹脂からなるものとし、装着溝23の溝底23e,23fに接触される外周面1aを粗面加工しても良い。この場合は、粗面加工による微細凹凸によって、装着溝23の溝底23e,23fとの間に、空気は通過可能で圧延水や油脂類は容易に通過できない微小隙間を確保することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 シールリング
12 外径部
13 内径部
21,22 内輪(環状部材)
23 装着溝
23a,23b 内側面
23c,23d 溝肩
23e,23f 溝底

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に並んだ複数の環状部材の互いの対向端部の内周に跨って形成された装着溝内に、前記対向端部間を塞ぐように配置されるゴム状弾性材料からなるシールリングを備え、前記装着溝は溝肩間より溝底側で軸方向幅が広く、前記シールリングの外径部の軸方向幅が前記装着溝の溝底側の軸方向幅より狭く、溝肩間の軸方向幅より広いことを特徴とする密封装置。
【請求項2】
装着溝の溝底に接触されるシールリングの外径部が通気性を有するフッ素樹脂からなる請求項1に記載の密封装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−255642(P2010−255642A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102806(P2009−102806)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】