説明

密封装置

【課題】シールリングおよびバックアップリングを装着する装着溝の加工工程を容易化することができ、しかも偏芯追随性に優れた密封装置を提供する。
【解決手段】装着溝は、断面矩形状に形成される。外周部材の内周面に段付き形状が設けられて、同内周面に、シールリングの外周側に配置される小径部と、バックアップリングの外周側に配置される大径部と、小径部および大径部間に配置される軸直角平面状の段差面とが設けられる。バックアップリングは、断面矩形状に形成される。バックアップリングの内径寸法は、装着溝の溝底部の径寸法と同等以下に設定される。バックアップリングの外径寸法は、小径部の径寸法よりも大きくかつ大径部の径寸法と同等以下に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール技術に係る密封装置に関するものである。本発明の密封装置は例えば、筒内直噴ガソリンエンジン用インジェクタ(燃料噴射弁)におけるシールとして用いられ、またはその他の高圧用シールとして用いられる。
【背景技術】
【0002】
本願出願人らが先に提案した図5に示す密封装置は、内周部材(例えば前記インジェクタ)51の外周面に設けた環状の装着溝52に装着されてこの内周部材51と内周部材51の外周側に配置される外周部材(例えば前記インジェクタを差し込む燃料デリバリパイプ)53との間の環状隙間をシールする密封装置であって、密封流体側に配置されるシールリング54と、大気側に配置されるバックアップリング55との組み合わせよりなり、溝底部の一部を傾斜面状52aに形成した装着溝52に、内周面を同じく傾斜面状55aに形成したバックアップリング55をシールリング54とともに装着するものであって、密封流体の圧力(高圧)Pが作用するとバックアップリング55がクサビのように溝浅方向へ食い込むことから、高圧の密封流体をシールするのに適した構造とされている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開11−72162号公報
【0004】
しかしながら、この先行技術によると、上記したように装着溝52における溝底部の一部を傾斜面状52aに形成する必要があるため、装着溝52の断面形状が単純な矩形状である場合と比較して、装着溝52の加工工程が複雑化する不都合がある。
【0005】
また、内周部材51および外周部材53は往々にして互いに偏芯した状態で組み付けられることがあり、このためこの種の密封装置にはシール性のほかに偏芯追随性が要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の点に鑑みて、シールリングおよびバックアップリングを装着する装着溝の加工工程を容易化することができ、しかも偏芯追随性に優れた密封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1による密封装置は、内周部材と前記内周部材の外周側に配置される外周部材との間の環状隙間をシールする密封装置であって、前記内周部材の外周面に設けた装着溝に装着されるシールリングと、前記シールリングの大気側で前記装着溝に装着されるバックアップリングとの組み合わせよりなる密封装置において、前記装着溝は、断面矩形状に形成され、前記外周部材の内周面に環状の段付き形状が設けられて、前記内周面には、前記シールリングの外周側に配置される小径部と、前記バックアップリングの外周側に配置される大径部と、前記小径部および大径部間に配置される軸直角平面状の段差面とが設けられ、前記バックアップリングは、断面矩形状に形成され、前記バックアップリングの内径寸法は、前記装着溝の溝底部の径寸法と同等以下に設定され、前記バックアップリングの外径寸法は、前記小径部の径寸法よりも大きくかつ前記大径部の径寸法と同等以下に設定されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2による密封装置は、内周部材と前記内周部材の外周側に配置される外周部材との間の環状隙間をシールする密封装置であって、前記内周部材の外周面に設けた装着溝に装着されるシールリングと、前記シールリングの大気側で前記装着溝に装着されるバックアップリングとの組み合わせよりなる密封装置において、前記装着溝は、断面矩形状に形成され、前記外周部材の内周面に環状の段付き形状が設けられて、前記内周面には、前記シールリングの外周側に配置される小径部と、前記小径部の大気側に配置される大径部と、前記小径部および大径部間に配置されるとともに前記バックアップリングの外周側に配置される傾斜面部とが設けられ、前記バックアップリングの外周面は、前記傾斜面部と同じ向きに傾斜する傾斜面状に形成され、前記バックアップリングの内径寸法は、前記装着溝の溝底部の径寸法と同等以下に設定され、前記バックアップリングの最大外径寸法は、前記小径部の径寸法よりも大きくかつ前記大径部の径寸法と同等以下に設定され、前記バックアップリングの最小内径寸法は、前記小径部の径寸法と同等以上に設定されていることを特徴とする。
【0009】
上記構成を備える本発明の密封装置においては、シールリングおよびバックアップリングを装着する装着溝が断面矩形状に形成されているため、その溝底部を含む溝内面に傾斜面を設ける必要がなく、よって装着溝の加工工程を容易化することが可能とされている。装着溝の溝底部に傾斜面を設ける代わりとして本発明では、外周部材の内周面に段付き形状が設けられる。
【0010】
また、本発明(請求項1)の密封装置においては、外周部材の内周面に段付き形状が設けられることにより、同内周面に、シールリングの外周側に配置される小径部と、バックアップリングの外周側に配置される大径部と、小径部および大径部間に配置される軸直角平面状の段差面とが設けられる。バックアップリングは断面矩形状に形成され、バックアップリングの内径寸法は装着溝の溝底部の径寸法と同等以下に設定され、バックアップリングの外径寸法は小径部の径寸法よりも大きくかつ大径部の径寸法と同等以下に設定されている。したがってバックアップリングは、その密封流体側端面の外周部が偏芯時も含めて常に全周に亙って段付き形状における段差面に接触するため、バックアップリングと外周部材との間に隙間が発生することがない。したがってシールリングが密封流体の圧力に押されて隙間へはみ出すのを防止することができ、よって優れた偏芯追随性を発揮することが可能とされている。
【0011】
また、本発明(請求項2)の密封装置においては、外周部材の内周面に段付き形状が設けられることにより、同内周面に、シールリングの外周側に配置される小径部と、小径部の大気側に配置される大径部と、小径部および大径部間に配置されるとともにバックアップリングの外周側に配置される傾斜面部とが設けられる。バックアップリングの外周面は傾斜面部と同じ向きに傾斜する傾斜面状に形成され、バックアップリングの内径寸法は装着溝の溝底部の径寸法と同等以下に設定され、バックアップリングの最大外径寸法は小径部の径寸法よりも大きくかつ大径部の径寸法と同等以下に設定され、バックアップリングの最小内径寸法は小径部の径寸法と同等以上に設定されている。したがってバックアップリングは、その傾斜面状に形成された外周面が偏芯時も含めて常に全周に亙って段付き形状における傾斜面部に接触するため、バックアップリングと外周部材との間に隙間が発生することがない。したがってシールリングが密封流体の圧力に押されて隙間へはみ出すのを防止することができ、よって優れた偏芯追随性を発揮することが可能とされている。偏芯時における非圧縮側では、バックアップリングは初期的な組み付け荷重により傾斜面部上を軸方向にスライドすることにより傾斜面部との間に隙間が発生するのを防止することになる。
【0012】
バックアップリングの材質は例えばPTFEのような軟質材とするのが好適である。バックアップリングの材質がこのような軟質材であるとバックアップリングは、径方向のつぶしが発生する状況となったときに、つぶしに対応して変形することが可能である。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本発明によれば、装着溝が断面矩形状に形成されているために、その溝底部を含む溝内面に傾斜面を設ける必要がなく、よって装着溝の加工工程を容易化することができる。尚、請求項2に係る発明では、装着溝の溝底部に傾斜面を設ける代わりとして外周部材の内周面に傾斜面部が設けられるが、外周部材の内周面には通常、シールリングおよびバックアップリングの装着(挿入)をガイドするための面取りが設けられるので、加工工程を追加することにはならない。したがって内周部材および外周部材を含め総じて、加工工程を容易化することができる。
【0014】
また、バックアップリングの密封流体側端面の外周部が偏芯時も含めて常に全周に亙って段付き形状における段差面に接触し、またはバックアップリングの傾斜面状に形成された外周面が偏芯時も含めて常に全周に亙って段付き形状における傾斜面部に接触するため、バックアップリングと外周部材との間には隙間が発生することがない。したがってシールリングが密封流体の圧力に押されて隙間へはみ出すのを防止することができ、よって優れた偏芯追随性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第一実施例に係る密封装置の半裁断面図
【図2】同密封装置における偏芯時の状態を示す断面図
【図3】本発明の第二実施例に係る密封装置の半裁断面図
【図4】同密封装置における偏芯時の状態を示す断面図
【図5】従来例に係る密封装置の半裁断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明には、以下の実施形態が含まれる。
【0017】
(1)現在直噴で使用している1枚または2枚テーパバックアップリングは、耐圧性・Oリング(シールリング)はみ出し・および軸偏芯に対して有効であり、高圧用シールに広く使用されている。但し、溝形状にテーパ部を設ける必要がある。そのため、矩形溝にくらべ、溝の加工工程が複雑化される。また、従来の矩形バックアップリングでは、ハウジング(外周部材)と軸(内周部材)の偏芯時に、非圧縮側でスキマが発生するため、Oリングのはみ出しが発生する問題がある。これらの不都合を解消するため、以下の発明を提案する。
【0018】
(2)提案その1(請求項1関連)・・・
(2−1)図1のように矩形のバックアップリングを用いて、ハウジングおよび軸でバックアップリングを挟み込み、加圧時にOリングのはみ出しを防ぐ。従来のテーパバックアップリングは、軸側およびバックアップリングの形状をテーパにする必要があるが、本形状は形状・構造が簡潔な矩形溝および矩形バックアップリングで、テーパバックアップリングと同等の機能を有する。
(2−2)バックアップリング(BR)形状のポイントその1
(2−2−1)BR内径は、軸径と同等に設定する。もしくは軸径との間に隙間が発生しないように、BR内径は軸径より小さくする。
(2−2−2)BR外径は、ハウジング(大径部)径と同等に設定する。もしくは軸偏芯を考慮して、BR外径はハウジング(大径部)径より小さく設定する。但し、Oリングの面取り部が設けられないため、Oリングが挿入しにくい可能性がある。
(2−3)ポイントその2
(2−3−1)形状について
a.溝は矩形溝
b.ハウジングは段付き形状
c.BRは矩形
d.BR内径は軸径と同寸法に設定
e.BR外径はハウジング(小径部)内径Aよりも大きく設定し、ハウジング(大径部)内径Bよりも同等以下に設定する(ハウジング内径A<BR外径≦ハウジング内径B)
(2−3−2)メリットについて
a.矩形溝で溝加工費が低減
b.偏芯時に加圧縮側でOリングのはみ出し隙間は発生しない。仮にBRにつぶしが発生しても、PTFEのような軟材質であれば溝形状に沿った変形をする。
c.非圧縮側ではBRのテーパ部を上り、スキマを埋める
(2−3−3)デメリットについて
a.Oリングの面取りがないため、挿入しにくい(Oリングがかじる可能性あり)
【0019】
(3)提案その2(請求項2関連)・・・
(3−1)図3のように、上記提案その1に対してBR外周側をテーパ形状に設定する。上記提案その1では挿入時にOリングの面取りがなく、Oリングがハウジングとの間に挟まれて、かじる(破損する)可能性がある。そのため、挿入しやすいようにハウジング部にテーパ(面取り)を設定し、BR外径もテーパ形状とする。ハウジングの面取りを設定する必要があるが、面取り自体はOリングの挿入には不可欠のため、特段追加する加工ではない。
(3−2)BR形状のポイントその3
(3−2−1)上記提案その1の(2−2−1)(2−2−2)と基本的には同じ。
(3−2−2)テーパ部の形状は、ハウジング面取り寸法と同等もしくは若干小さく設定する。加圧縮側ではハウジング面取り部と軸外径角部によって、バックアップリングを挟み込む。非圧縮側ではスキマが発生しない寸法で設定する。
(3−3)ポイントその4
(3−3−1)形状について
(a)溝は矩形溝
(b)ハウジングは一段テーパ付き形状(通常面取りを設けるためハウジング加工工程の追加にはならない)
(c)BRは外周側テーパ形状
(d)BR内径は軸径と同寸法に設定
(e)BR外径(最大外径)Cはハウジング(小径部)内径Aよりも大きく設定し、ハウジング(大径部)内径Bより同等以下に設定する(ハウジング内径A<BR外径C≦ハウジング内径B)
(f)BR外径(最小外径)Dはハウジング(小径部)内径Aに対して同等以上に設定し、BR外径(最大外径)Cより小さく設定する(ハウジング内径A≦BR外径D<BR外径C)
(3−3−2)メリットについて
a.矩形溝で溝加工費が低減
b.偏芯時、加圧縮側でOリングのはみ出し隙間は発生しない。BR外周につぶしが発生するが、PTFEのような軟材質であれば変形するため、BRが割れにくい。
c.非圧縮側でも、ハウジング内径A≦BR外径Dの関係から、スキマは発生しない。
(3−3−3)デメリットについて
a.特になし
【実施例】
【0020】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0021】
第一実施例(請求項1関連)・・・
図1は、本発明の第一実施例に係る密封装置1を示しており、当該実施例に係る密封装置1は以下のように構成されている。尚、当該密封装置1は、筒内直噴ガソリンエンジン用インジェクタにおける軸封部に高圧用シールとして用いられる。
【0022】
すなわち、当該密封装置1は、円筒面状の外周面を備える内周部材(軸、例えばインジェクタ)11とこの内周部材11の外周側に配置される外周部材(ハウジング、例えばインジェクタを差し込む燃料デリバリパイプ)21との間の環状隙間において高圧の密封流体Pをシールするものであって、内周部材11の外周面に設けた環状の装着溝12に装着されるとともに外周部材21の内周面に密接するゴム状弾性体製のシールリング(パッキン)3と、このシールリング3の低圧側(大気側)で装着溝12に装着される樹脂製のバックアップリング5とを有している。シールリング3としてはOリングが用いられているが、その他の断面形状を備えるものであっても良い。
【0023】
装着溝12は、その断面形状が矩形状(直角四辺形状)に形成され、傾斜面の類は設けられておらず、円筒面状の溝底部12aと、軸直角平面状の高圧側側面部12bと、同じく軸直角平面状の低圧側側面部12cとによって構成されている。これら3面12a,12b,12cは何れも内周部材11によって形成されているが、側面部12b,12cのうちの少なくとも一方は内周部材11に組み付けられるワッシャなどの別部品によって構成されていても良い。
【0024】
外周部材21の内周面に環状の段付き形状22が設けられ、この段付き形状22によって外周部材21の内周面に、シールリング3の外周側に配置される円筒面状の小径部23と、バックアップリング5の外周側に配置される同じく円筒面状の大径部24と、小径部23および大径部24間に配置される軸直角平面状の段差面25とが設けられている。小径部23はその名のとおり、大径部24よりも内径寸法が小さく設定され、大径部24はその名のとおり、小径部23よりも内径寸法が大きく設定されている。
【0025】
バックアップリング5は、その断面形状が矩形状に形成され、傾斜面の類は設けられておらず、円筒面状の内周面および外周面と、軸直角平面状の高圧側端面(密封流体側端面)および低圧側端面(大気側端面)とによって構成されている。またバックアップリング5はその断面形状が縦長(径方向に長い)の矩形状に形成されているが、これに限らず、横長(軸方向に長い)の矩形状や正方形などであっても良い。
【0026】
バックアップリング5の内径寸法は、装着溝12の溝底部12aの径寸法と同等以下に設定されており、図ではバックアップリング5の内径寸法は、装着溝12の溝底部12aの径寸法と同等に設定されている。
【0027】
バックアップリング5の外径寸法Cは、小径部23の内径寸法Aよりも大きくかつ大径部24の内径寸法Bと同等以下に設定されており(A<C≦B)、図ではバックアップリング5の外径寸法Cは、小径部23の内径寸法Aよりも大きくかつ大径部24の内径寸法Bよりも小さく設定されている(A<C<B)。
【0028】
また、バックアップリング5の軸方向厚み寸法は、装着溝12における低圧側側面部12cと段付き形状22における段差面25との軸方向間隔と同等に設定され、これによりバックアップリング5はその高圧側端面の外周部5aが全周に亙って段付き形状22の段差面25に接触した状態で組み付けられる。尚、バックアップリング5は組込み時に多少つぶしてセットされることもあるので、この場合、バックアップリング5の軸方向厚み寸法は装着溝12における低圧側側面部12cと段付き形状22における段差面25との軸方向間隔に対し、つぶし代の分だけ厚く設定されることもある。
【0029】
上記構成の密封装置1においては、上記したように装着溝12の断面形状が矩形状に形成されているため、その溝底部12aを含む内面に傾斜面を設ける必要がなく、よって装着溝12の加工工程が容易化されている。
【0030】
また、上記構成の密封装置1に対し高圧の密封流体Pが作用すると、シールリング3は弾性変形してバックアップリング5に強く押し付けられるが、上記したようにバックアップリング5の高圧側端面の外周部5aが全周に亙って段付き形状22の段差面25に接触しているため、ここにシールリング3がはみ出すような隙間は発生していない。したがってシールリング3のはみ出しが防止され、はみ出しによるシールリング3の破損が防止される。
【0031】
また、上記したように内周部材11および外周部材21は互いに偏芯した状態で組み付けられることがあり、このため密封装置1には偏芯追随性が要求されるが、当該密封装置1はこの偏芯に対して以下のように作用する。
【0032】
すなわち、図2は、内周部材11が外周部材21に対し図上上方へ偏芯した状態を示しており、図中における一点鎖線が外周部材21の中心軸線を示すとともに二点鎖線が内周部材11の中心軸線を示している。
【0033】
しかして、この図2に示されるように、バックアップリング5は偏芯時においても、その高圧側端面の外周部5aが全周に亙って段付き形状22の段差面25に接触するため、ここにシールリング3がはみ出すような隙間は発生しない。したがってシールリング3のはみ出しが防止され、はみ出しによるシールリング3の破損が防止される。
【0034】
尚、初期的に設定されるバックアップリング5外周の径方向間隙(この径方向間隙はバックアップリング5外周面と大径部24内周面との間に形成され、その大きさは、(B−C)/2をもって表される)に対し、これを偏芯量が上回ると、バックアップリング5は加圧縮側(偏芯時に内周部材11および外周部材21間の径方向間隔が最も小さくなる円周上部位)において、つぶしを生じることになる。また、初期的にバックアップリング5外周に径方向間隙が設定されない場合には、バックアップリング5は当初から加圧縮側において、つぶしを生じることになる。したがってこれらのときにバックアップリング5が弾性変形することによりつぶしを許容し得るよう、バックアップリング5はこれをPTFE樹脂等の軟質樹脂材にて製作するのが好ましい。これに対しナイロン等の硬質樹脂材によると、バックアップリング5がつぶしに耐え切れず破損するおそれがある。
【0035】
また、初期的に設定される段差面25に対するバックアップリング5の径方向接触幅(この径方向接触幅は段差面25とこれに接触するバックアップリング5の高圧側端面の外周部5aによって形成され、その大きさは、(C−A)/2をもって表される)に対し、これを偏芯量が上回ると、バックアップリング5は非圧縮側(偏芯時に内周部材11および外周部材21間の径方向間隔が最も大きくなる円周上部位)において、段差面25から離れることになる。したがってこれを限りとして、バックアップリング5および外周部材21間に隙間が生じないと云うことになる。
【0036】
また、当該実施例のように外周部材21の内周面に段付き形状22を設けることにすると、挿入の方向如何によっては段付き形状22が引っかかりとなってシールリング3を外周部材21内周に挿入しにくくなることが懸念されるが、これに対処するには例えば、段付き形状22における段差面25の内周縁部に、シールリング挿入ガイド用の面取り部(図示せず)を設けること等が考えられる。但し、このような面取り部を設けると、上記した初期的に設定される段差面25に対するバックアップリング5の径方向接触幅が小さくなるので、両者の兼ね合いについて留意する必要がある。
【0037】
第二実施例(請求項2関連)・・・
図3は、本発明の第二実施例に係る密封装置1を示しており、当該実施例に係る密封装置1は以下のように構成されている。尚、当該密封装置1は、筒内直噴ガソリンエンジン用インジェクタにおける軸封部に高圧用シールとして用いられる。
【0038】
すなわち、当該密封装置1は、円筒面状の外周面を備える内周部材(軸、例えばインジェクタ)11とこの内周部材11の外周側に配置される外周部材(ハウジング、例えばインジェクタを差し込む燃料デリバリパイプ)21との間の環状隙間において高圧の密封流体Pをシールするものであって、内周部材11の外周面に設けた環状の装着溝12に装着されるとともに外周部材21の内周面に密接するゴム状弾性体製のシールリング(パッキン)3と、このシールリング3の低圧側(大気側)で装着溝12に装着される樹脂製のバックアップリング5とを有している。シールリング3としてはOリングが用いられているが、その他の断面形状を備えるものであっても良い。
【0039】
装着溝12は、その断面形状が矩形状(直角四辺形状)に形成され、傾斜面の類は設けられておらず、円筒面状の溝底部12aと、軸直角平面状の高圧側側面部12bと、同じく軸直角平面状の低圧側側面部12cとによって構成されている。これら3面12a,12b,12cは何れも内周部材11によって形成されているが、側面部12b,12cのうちの少なくとも一方は内周部材11に組み付けられるワッシャなどの別部品によって構成されていても良い。
【0040】
外周部材21の内周面に環状の段付き形状22が設けられ、この段付き形状22によって外周部材21の内周面に、シールリング3の外周側に配置される円筒面状の小径部23と、この小径部23の大気側に配置される大径部24と、小径部23および大径部24間に配置されるとともにバックアップリング5の外周側に配置される傾斜面部26とが設けられている。小径部23はその名のとおり大径部24よりも内径寸法が小さく設定され、大径部24はその名のとおり小径部23よりも内径寸法が大きく設定されている。傾斜面部26はその密封流体側端部で小径部23に連なるとともにその大気側端部で大径部24に連なるものであって、その密封流体側端部から大気側端部へかけて内径寸法が徐々に拡大するように形成されている。
【0041】
バックアップリング5は、その断面形状が四角形に形成されているが、その外周面5bは傾斜面状に形成されており、よってバックアップリング5は、円筒面状の内周面と、軸直角平面状の高圧側端面(密封流体側端面)および低圧側端面(大気側端面)と、傾斜面状の外周面5bとによって構成されている。外周面5bの傾斜の向きは上記傾斜面部26と同様、その密封流体側端部から大気側端部へかけて外径寸法が徐々に拡大するように形成されている。外周面5bの傾斜角度は上記傾斜面部26の傾斜角度と同等に設定されている。またバックアップリング5はその断面形状が縦長(径方向に長い)の四角形に形成されているが、これに限らず、横長(軸方向に長い)の四角形または内周面と側面とで長さが等しい四角形などであっても良い。
【0042】
バックアップリング5の内径寸法は、装着溝12の溝底部12aの径寸法と同等以下に設定されており、図ではバックアップリング5の内径寸法は、装着溝12の溝底部12aの径寸法と同等に設定されている。
【0043】
バックアップリング5の最大外径寸法(低圧側端面の外径寸法)Cは、小径部23の内径寸法Aよりも大きくかつ大径部24の内径寸法Bと同等以下に設定されており(A<C≦B)、図ではバックアップリング5の最大外径寸法Cは、小径部23の内径寸法Aよりも大きくかつ大径部24の内径寸法Bよりも小さく設定されている(A<C<B)。
【0044】
また、バックアップリング5の最小外径寸法(高圧側端面の外径寸法)Dは、小径部23の内径寸法Aと同等以上に設定されており(A≦D)、図ではバックアップリング5の最小外径寸法Dは、小径部23の内径寸法Aよりも大きく設定されている(A<D)。
【0045】
また、バックアップリング5の軸方向厚み寸法は、傾斜面部26の軸方向幅寸法と同等以下に設定されており、図ではバックアップリング5の軸方向厚み寸法は、傾斜面部26の軸方向幅寸法よりも小さく設定されている。
【0046】
したがってバックアップリング5は、その傾斜面状に形成された外周面5bが全周に亙って段付き形状22の傾斜面部26に接触した状態で組み付けられる。
【0047】
上記構成の密封装置1においては、上記したように装着溝12の断面形状が矩形状に形成されているため、その溝底部12aを含む内面に傾斜面を設ける必要がなく、よって装着溝12の加工工程が容易化されている。
【0048】
また、上記構成の密封装置1に対し高圧の密封流体Pが作用すると、シールリング3は弾性変形してバックアップリング5に強く押し付けられるが、上記したようにバックアップリング5の傾斜面状に形成された外周面5bが全周に亙って段付き形状22の傾斜面部26に接触しているため、ここにシールリング3がはみ出すような隙間は発生していない。したがってシールリング3のはみ出しが防止され、はみ出しによるシールリング3の破損が防止される。
【0049】
また、上記したように内周部材11および外周部材21は互いに偏芯した状態で組み付けられることがあり、このため密封装置1には偏芯追随性が要求されるが、当該密封装置1はこの偏芯に対して以下のように作用する。
【0050】
すなわち、図4は、内周部材11が外周部材21に対し図上上方へ偏芯した状態を示しており、図中における一点鎖線が外周部材21の中心軸線を示すとともに二点鎖線が内周部材11の中心軸線を示している。
【0051】
しかして、この図4に示されるように、バックアップリング5は偏芯時においても、その傾斜面状に形成された外周面5bが全周に亙って段付き形状22の傾斜面部26に接触するため、ここにシールリング3がはみ出すような隙間は発生しない。したがってシールリング3のはみ出しが防止され、はみ出しによるシールリング3の破損が防止される。
【0052】
尚、バックアップリング5は、加圧縮側(偏芯時に内周部材11および外周部材21間の径方向間隔が最も小さくなる円周上部位)において、図示するようにつぶしを生じることになる。したがってこのときにバックアップリング5が弾性変形することによりつぶしを許容し得るよう、バックアップリング5はこれをPTFE樹脂等の軟質樹脂材にて製作するのが好ましい。これに対しナイロン等の硬質樹脂材によると、バックアップリング5がつぶしに耐え切れず破損するおそれがある。
【0053】
また、バックアップリング5は、非圧縮側(偏芯時に内周部材11および外周部材21間の径方向間隔が最も大きくなる円周上部位)において、図示するように初期的な組み付け荷重(軸方向荷重)により傾斜面部26上を軸方向密封流体側へスライドすることにより傾斜面部26との間に隙間が発生するのを防止することになる。
【符号の説明】
【0054】
1 密封装置
3 シールリング
5 バックアップリング
5a 高圧側端面外周部
5b 外周面
11 内周部材
12 装着溝
12a 溝底部
12b,12c 側面部
21 外周部材
22 段付き形状
23 小径部
24 大径部
25 段差面
26 傾斜面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周部材と前記内周部材の外周側に配置される外周部材との間の環状隙間をシールする密封装置であって、前記内周部材の外周面に設けた装着溝に装着されるシールリングと、前記シールリングの大気側で前記装着溝に装着されるバックアップリングとの組み合わせよりなる密封装置において、
前記装着溝は、断面矩形状に形成され、
前記外周部材の内周面に環状の段付き形状が設けられて、前記内周面には、前記シールリングの外周側に配置される小径部と、前記バックアップリングの外周側に配置される大径部と、前記小径部および大径部間に配置される軸直角平面状の段差面とが設けられ、
前記バックアップリングは、断面矩形状に形成され、
前記バックアップリングの内径寸法は、前記装着溝の溝底部の径寸法と同等以下に設定され、
前記バックアップリングの外径寸法は、前記小径部の径寸法よりも大きくかつ前記大径部の径寸法と同等以下に設定されていることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
内周部材と前記内周部材の外周側に配置される外周部材との間の環状隙間をシールする密封装置であって、前記内周部材の外周面に設けた装着溝に装着されるシールリングと、前記シールリングの大気側で前記装着溝に装着されるバックアップリングとの組み合わせよりなる密封装置において、
前記装着溝は、断面矩形状に形成され、
前記外周部材の内周面に環状の段付き形状が設けられて、前記内周面には、前記シールリングの外周側に配置される小径部と、前記小径部の大気側に配置される大径部と、前記小径部および大径部間に配置されるとともに前記バックアップリングの外周側に配置される傾斜面部とが設けられ、
前記バックアップリングの外周面は、前記傾斜面部と同じ向きに傾斜する傾斜面状に形成され、
前記バックアップリングの内径寸法は、前記装着溝の溝底部の径寸法と同等以下に設定され、
前記バックアップリングの最大外径寸法は、前記小径部の径寸法よりも大きくかつ前記大径部の径寸法と同等以下に設定され、
前記バックアップリングの最小内径寸法は、前記小径部の径寸法と同等以上に設定されていることを特徴とする密封装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−37007(P2012−37007A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179363(P2010−179363)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】