密閉型圧縮機
【課題】吐出弁等におけるオイルスラッジの堆積をなくし、高効率で信頼性が高い密閉型圧縮機を提供すること。
【解決手段】巻線111の下端と冷凍機油103との間に隙間を形成することによって、冷凍機油103が巻線111および固定子113全体に吸上げられることがなく、固定子113の絶縁材123および巻線縛り糸117に使用されているPET(ポリエチレンテレフタレート)等のオリゴマの冷凍機油103による抽出を抑制し、吐出弁等でのオイルスラッジの堆積を防止するものである。
【解決手段】巻線111の下端と冷凍機油103との間に隙間を形成することによって、冷凍機油103が巻線111および固定子113全体に吸上げられることがなく、固定子113の絶縁材123および巻線縛り糸117に使用されているPET(ポリエチレンテレフタレート)等のオリゴマの冷凍機油103による抽出を抑制し、吐出弁等でのオイルスラッジの堆積を防止するものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍冷蔵庫等の冷凍サイクルに用いられる密閉形圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の密閉型圧縮機は電動要素を冷却するため、巻線の下端が冷凍機油に浸かったものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
以下、図面を参照しながら上記従来の密閉型圧縮機を説明する。
【0004】
図5は、特許文献1に記載された従来の密閉型圧縮機を示す側面断面図、図6は図5のB−B線断面図、図7は図6の要部拡大図、図8は従来の密閉型圧縮機における固定子の下側平面図である。
【0005】
図5から8において、冷凍機油1を貯留する密閉容器2内には、固定子3と回転子4とからなる電動要素5と電動要素5によって駆動される圧縮要素6を収容している。
【0006】
シャフト7は、回転子4を固定した主軸部8および主軸部8に対し偏心して形成された偏心軸部9を有し、シリンダブロック10は、略円筒形の圧縮室11を有する。
【0007】
ピストン12は、シリンダブロック10の圧縮室11に往復摺動自在に挿入され、偏心軸部9との間を連結手段13によって連結されている。
【0008】
圧縮室11の開口端面を封止するバルブプレート14は吸入弁16および吐出弁18を備えている。
【0009】
電動要素5はコア20に巻線22を巻回した固定子3と回転子4を備えた誘導型電動機を形成するとともに、巻線縛り糸24で固定された巻線22の下端は冷凍機油1に浸かっている。
【0010】
コア20は板厚が0.50mmである電磁鋼板を複数枚積層したものであり、回転子4収納用のコア内径部26を形成している。また、コア内径部26の径と回転子4の外径との差が0.60mmで形成している。
【0011】
固定子3は主巻線22aと補助巻線22bがスロット28間を通るように巻回している。主巻線22aおよび補助巻線22bはスロット28内でお互いが接触しないよう、それぞれ絶縁材30である相関絶縁紙30aに巻装されており、スロット28内壁には主巻線22aおよび補助巻線22bと接触しないよう絶縁材30であるスロット絶縁紙30bが嵌挿されている。
【0012】
以上のように構成された密閉型圧縮機について、以下その動作を説明する。
【0013】
商用電源(図示せず)から主巻線22aと補助巻線22bに電流が供給されると回転子4が回転起動する。回転子4よって主軸部8が回転駆動されると、偏心軸部9の偏芯運動により連結手段13を介してピストン12が圧縮室11内を往復運動し、吸込、圧縮、吐出行程を順次繰り返す。それにより、冷媒ガスは冷却システム(図示せず)から吸入弁16を通り圧縮室11内へ吸入・圧縮された後、吐出弁18を通り再び冷却システムへと吐出される。その際に巻線22で発生する熱はコア20の表面から放熱されるとともに巻線22の下端から冷凍機油1へと放熱される。
【特許文献1】特開2000−356188号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記従来の構成では、巻線の下端が冷凍機油に浸かっている為に冷凍機油が巻線および固定子全体に吸上げられる。高効率化を目的に冷凍機油の粘度を低くするとオイルの分子量が小さくなり、固定子の絶縁材および巻線縛り糸に使用されているPET(ポリエチレンテレフタレート)等の材料に含まれるオリゴマを抽出しやすくなり、冷凍機油中のPET(ポリエチレンテレフタレート)等のオリゴマの含有量が増加してしまう。
【0015】
オリゴマとは、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の重合体の中で連鎖が途切れて浮遊している比較的重合度の低いものを示しており、重合体の中に冷凍機油が浸透することによって抽出されて冷凍機油中に浮遊する。
【0016】
また、冷凍機油の粘度を低くすると冷凍機油の沸点が低下し、特に高温となる吐出弁等で冷媒とともに吐出される冷凍機油が蒸発しやすくなり、冷凍機油中のPET(ポリエチレンテレフタレート)等が吐出弁等の表面に析出しやすくなる。この析出物は高温下で炭化してオイルスラッジとして堆積し、吐出弁等のシール性を阻害して圧縮不良が起きる可能性があるという課題を有していた。
【0017】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、固定子の絶縁材および巻線縛り糸等に含まれるオリゴマの抽出量を減らすことで、高効率で信頼性が高い密閉型圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記従来の課題を解決するために、本発明の密閉型圧縮機は、巻線の下端と冷凍機油との間に隙間を形成したもので、冷凍機油が巻線および固定子全体に吸上げられることがなく、固定子の絶縁材および巻線縛り糸に使用されているPET(ポリエチレンテレフタレート)等のオリゴマの冷凍機油による抽出が抑制されるという作用を有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の密閉型圧縮機は、固定子の絶縁材および巻線縛り糸等に含まれるオリゴマの抽出量を減らすことができるので、冷凍機油中のPET(ポリエチレンテレフタレート)等の含有量増加が減り、吐出弁等でのオイルスラッジの堆積が起こりにくくなり、信頼性が高い密閉型圧縮機を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
請求項1に記載の発明は、密閉容器内に冷凍機油を貯溜するとともに、冷媒を圧縮する圧縮要素と、前記圧縮要素の下方に配設され前記圧縮要素を駆動する電動要素を収納し、前記電動要素は積層鋼板で形成したコアに巻線を巻回した固定子を備えた誘導型電動機を形成するとともに、前記巻線の下端と前記冷凍機油との間に隙間を形成したもので、前記冷凍機油が前記巻線および前記固定子全体に吸上げられることがなく、前記固定子の絶縁材および巻線縛り糸に使用されているPET(ポリエチレンテレフタレート)等のオリゴマの冷凍機油による抽出量が抑制されるため、吐出弁等でのオイルスラッジの堆積を防止することができる。
【0021】
請求項2に記載の発明は、請求項1の発明において、冷凍機油はVG3〜8の粘度を有した鉱油または合成油としたものであり、粘度が低く各摺動部における摩擦係数が低減でき、電動要素の入力が低減されるため、請求項1に記載の発明の効果に加えてさらに高効率の密閉型圧縮機にすることができる。
【0022】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、コア内径部の径と回転子の外径との差が0.6mm未満としたものであり、従来よりも磁束を有効に用いることができるため、従来と同じモータ効率の場合には銅量を低減することが可能となり、巻線高さを低減することによってさらに前記巻線の下端と冷凍機油との間に隙間ができるため、請求項1または2に記載の発明の効果に加えてさらに信頼性を高くすることができる。
【0023】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の発明において、電磁鋼板の板厚は0.35mm以下としたものであり、軸方向への渦電流が流れにくくなるために鉄損が減少し、従来と同じモータ効率の場合には銅量を低減することが可能となり、巻線高さを低減することによってさらに前記巻線の下端と冷凍機油との間に隙間ができるため、請求項1から3のいずれか一項に記載の発明の効果に加えてさらに信頼性を高くすることができる。
【0024】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載の発明において、固定子の絶縁材および巻線縛り糸は低オリゴマタイプの材料としたものであり、冷凍機油によるオリゴマの抽出量がさらに抑制されるため、請求項1から4のいずれか一項に記載の発明の効果に加えてさらに信頼性を高くすることができる。
【0025】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載の発明において、冷媒は塩素を含まない炭化水素系冷媒としたものであり、冷媒ガスを大気開放しても塩素を大気中に排出させないために、請求項1から5のいずれか一項に記載の発明の効果に加えてさらにオゾン層の破壊や地球温暖化を抑えることができる。
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0027】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における密閉型圧縮機の側面断面図、図2は図1のA−A線断面図、図3は図2の要部拡大図、図4は同実施の形態における密閉型圧縮機の固定子の下側平面図である。
【0028】
図1から4において、密閉容器101は冷凍機油103を貯留するとともに、圧縮要素105と圧縮要素105を駆動する電動要素107を収容している。
【0029】
電動要素107はコア109に巻線111を巻回した固定子113と回転子115を備えた誘導型電動機を形成するとともに、巻線縛り糸117で固定された巻線111の下端と冷凍機油103との間に隙間を形成している。
【0030】
コア109は板厚が0.35mmである電磁鋼板を複数枚積層したものであり、回転子115収納用のコア内径部119を形成している。また、コア内径部119の径と回転子115の外径との差が0.50mmで形成している。
【0031】
固定子113は商用電源(図示せず)から供給される電流が流れる主巻線111aと圧縮機の始動時のみ電流の流れる補助巻線111bがスロット121間を通るように巻回している。主巻線111aおよび補助巻線111bはスロット121内でお互いが接触しないよう、それぞれ絶縁材123である相関絶縁紙123aに巻装されており、スロット121内壁には主巻線111aおよび補助巻線111bと接触しないよう絶縁材123であるスロット絶縁紙123bが嵌挿されている。
【0032】
相関絶縁紙123a、スロット絶縁紙123bおよび巻線縛り糸117はキシレンを抽出溶剤とし、ソックスレー抽出方法で48時間抽出した際に、抽出量が1.0wt%以下の低オリゴマタイプのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを使用している。
【0033】
シャフト131は、回転子115を固定した主軸部133および主軸部133に対し偏心して形成された偏心軸部135を有し、シリンダブロック137は、略円筒形の圧縮室141を有する。
【0034】
ピストン143は、シリンダブロック137の圧縮室141に往復摺動自在に挿入され、偏心軸部135との間を連結手段139によって連結されている。
【0035】
圧縮室141の開口端面を封止するバルブプレート145は吸入弁147および吐出弁149を備えている。
【0036】
さらに、冷媒は塩素を含まない炭化水素系冷媒であり、冷凍機油103はVG5の粘度を有する鉱油である。
【0037】
以上のように構成された密閉型圧縮機について、以下その動作、作用を説明する。
【0038】
電動要素107の回転子115によって主軸部133が回転駆動されると、偏心軸部135の偏芯運動により連結手段139を介してピストン143が圧縮室141内を往復運動し、吸込、圧縮、吐出行程を順次繰り返す。それにより、冷媒ガスは冷却システム(図示せず)から吸入弁147を通り圧縮室141内へ吸入・圧縮された後、吐出弁149を通り再び冷却システムへと吐出される。
【0039】
本実施の形態では、巻線111の下端と冷凍機油103との間に隙間が形成されていることによって冷凍機油103が巻線111および固定子113全体に吸上げられることがなく、固定子113の相関絶縁紙123a、スロット絶縁紙123bおよび巻線縛り糸117に使用されているPET(ポリエチレンテレフタレート)等のオリゴマの冷凍機油103による抽出が抑制される。
【0040】
また巻線111で発生する熱はコア109の表面および巻線111から放熱される。従来は巻線111の下端が冷凍機油103に浸漬していたことから冷凍機油103への放熱効果もあったが、本実施の形態においてはコア109の形状、積厚や電磁鋼板の材質を最適化することによってモータ効率が向上しており、電動要素107の発熱量が低減していることから、巻線111の下端と冷凍機油103との間に隙間を形成しても十分な放熱効果を得ている。
【0041】
さらに、コア内径部119の径と回転子115の外径との差を0.50mm、電磁鋼板の板厚を0.35mmにすることによって、従来よりも磁束を有効に用いることができるとともに軸方向への渦電流を流れにくくして鉄損を減少させ、従来よりもモータ効率を向上させるとともに銅量を低減し、巻線111の高さを低減させることによって巻線111の下端と冷凍機油103との間にさらなる隙間を形成した。
【0042】
本実施の形態では、相関絶縁紙123a、スロット絶縁紙123bおよび巻線縛り糸117は低オリゴマタイプのフィルムを使用したものであり、冷凍機油103によるオリゴマの抽出量がさらに抑制される。
【0043】
冷凍機油103はVG5の粘度を有した鉱油であり、極めて粘度が低いため、各摺動部における摩擦係数が大幅に低減でき、電動要素107の入力を大きく低減することで、密閉型圧縮機の効率を大幅に向上させることができる。
【0044】
一方、本実施の形態によれば、冷凍機油103中のPET(ポリエチレンテレフタレート)等の含有量が少なくなり、その結果、低い粘度を有する冷凍機油103使用時においてもPET(ポリエチレンテレフタレート)等が吐出弁149等の表面に析出しにくくなり、オイルスラッジの堆積が起こりにくいので、吐出弁等のシール性阻害による圧縮不良の発生を抑えることができる。
【0045】
さらに冷媒は塩素を含まない炭化水素系冷媒であり、冷媒ガスを大気開放しても塩素を大気中に排出させないために、オゾン層の破壊や地球温暖化を抑えることができる。よって、環境に優しく高効率で信頼性の高い密閉型圧縮機を提供することができる。
【0046】
なお、本実施の形態では、相関絶縁紙123aおよびスロット絶縁紙123bとして低オリゴマタイプのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムとしたが、PEN(ポリエチレンナフタレート)フィルムなどを用いても、オリゴマの抽出量を低く抑えることができ同様の効果が得られる。
【0047】
また、今回炭化水素系冷媒を例に挙げて説明をしたが、使用する冷媒がHFC系冷媒でも同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上のように、本発明にかかる密閉型圧縮機は、オイルスラッジの堆積がなく、信頼性が高い密閉型圧縮機の提供が可能となるので、冷蔵庫に加えて空調機や自販機にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施の形態1における密閉型圧縮機の側面断面図
【図2】図1のA−A線上における断面図
【図3】図2の要部拡大図
【図4】同実施の形態における密閉型圧縮機の固定子の下側平面図
【図5】従来の密閉型圧縮機を示す側面断面図
【図6】図5のB−B線上における断面図
【図7】図6の要部拡大図
【図8】従来の密閉型圧縮機における固定子の下側平面図
【符号の説明】
【0050】
101 密閉容器
103 冷凍機油
105 圧縮要素
107 電動要素
109 コア
111 巻線
113 固定子
115 回転子
117 巻線縛り糸
119 コア内径部
123 絶縁材
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍冷蔵庫等の冷凍サイクルに用いられる密閉形圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の密閉型圧縮機は電動要素を冷却するため、巻線の下端が冷凍機油に浸かったものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
以下、図面を参照しながら上記従来の密閉型圧縮機を説明する。
【0004】
図5は、特許文献1に記載された従来の密閉型圧縮機を示す側面断面図、図6は図5のB−B線断面図、図7は図6の要部拡大図、図8は従来の密閉型圧縮機における固定子の下側平面図である。
【0005】
図5から8において、冷凍機油1を貯留する密閉容器2内には、固定子3と回転子4とからなる電動要素5と電動要素5によって駆動される圧縮要素6を収容している。
【0006】
シャフト7は、回転子4を固定した主軸部8および主軸部8に対し偏心して形成された偏心軸部9を有し、シリンダブロック10は、略円筒形の圧縮室11を有する。
【0007】
ピストン12は、シリンダブロック10の圧縮室11に往復摺動自在に挿入され、偏心軸部9との間を連結手段13によって連結されている。
【0008】
圧縮室11の開口端面を封止するバルブプレート14は吸入弁16および吐出弁18を備えている。
【0009】
電動要素5はコア20に巻線22を巻回した固定子3と回転子4を備えた誘導型電動機を形成するとともに、巻線縛り糸24で固定された巻線22の下端は冷凍機油1に浸かっている。
【0010】
コア20は板厚が0.50mmである電磁鋼板を複数枚積層したものであり、回転子4収納用のコア内径部26を形成している。また、コア内径部26の径と回転子4の外径との差が0.60mmで形成している。
【0011】
固定子3は主巻線22aと補助巻線22bがスロット28間を通るように巻回している。主巻線22aおよび補助巻線22bはスロット28内でお互いが接触しないよう、それぞれ絶縁材30である相関絶縁紙30aに巻装されており、スロット28内壁には主巻線22aおよび補助巻線22bと接触しないよう絶縁材30であるスロット絶縁紙30bが嵌挿されている。
【0012】
以上のように構成された密閉型圧縮機について、以下その動作を説明する。
【0013】
商用電源(図示せず)から主巻線22aと補助巻線22bに電流が供給されると回転子4が回転起動する。回転子4よって主軸部8が回転駆動されると、偏心軸部9の偏芯運動により連結手段13を介してピストン12が圧縮室11内を往復運動し、吸込、圧縮、吐出行程を順次繰り返す。それにより、冷媒ガスは冷却システム(図示せず)から吸入弁16を通り圧縮室11内へ吸入・圧縮された後、吐出弁18を通り再び冷却システムへと吐出される。その際に巻線22で発生する熱はコア20の表面から放熱されるとともに巻線22の下端から冷凍機油1へと放熱される。
【特許文献1】特開2000−356188号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記従来の構成では、巻線の下端が冷凍機油に浸かっている為に冷凍機油が巻線および固定子全体に吸上げられる。高効率化を目的に冷凍機油の粘度を低くするとオイルの分子量が小さくなり、固定子の絶縁材および巻線縛り糸に使用されているPET(ポリエチレンテレフタレート)等の材料に含まれるオリゴマを抽出しやすくなり、冷凍機油中のPET(ポリエチレンテレフタレート)等のオリゴマの含有量が増加してしまう。
【0015】
オリゴマとは、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の重合体の中で連鎖が途切れて浮遊している比較的重合度の低いものを示しており、重合体の中に冷凍機油が浸透することによって抽出されて冷凍機油中に浮遊する。
【0016】
また、冷凍機油の粘度を低くすると冷凍機油の沸点が低下し、特に高温となる吐出弁等で冷媒とともに吐出される冷凍機油が蒸発しやすくなり、冷凍機油中のPET(ポリエチレンテレフタレート)等が吐出弁等の表面に析出しやすくなる。この析出物は高温下で炭化してオイルスラッジとして堆積し、吐出弁等のシール性を阻害して圧縮不良が起きる可能性があるという課題を有していた。
【0017】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、固定子の絶縁材および巻線縛り糸等に含まれるオリゴマの抽出量を減らすことで、高効率で信頼性が高い密閉型圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記従来の課題を解決するために、本発明の密閉型圧縮機は、巻線の下端と冷凍機油との間に隙間を形成したもので、冷凍機油が巻線および固定子全体に吸上げられることがなく、固定子の絶縁材および巻線縛り糸に使用されているPET(ポリエチレンテレフタレート)等のオリゴマの冷凍機油による抽出が抑制されるという作用を有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の密閉型圧縮機は、固定子の絶縁材および巻線縛り糸等に含まれるオリゴマの抽出量を減らすことができるので、冷凍機油中のPET(ポリエチレンテレフタレート)等の含有量増加が減り、吐出弁等でのオイルスラッジの堆積が起こりにくくなり、信頼性が高い密閉型圧縮機を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
請求項1に記載の発明は、密閉容器内に冷凍機油を貯溜するとともに、冷媒を圧縮する圧縮要素と、前記圧縮要素の下方に配設され前記圧縮要素を駆動する電動要素を収納し、前記電動要素は積層鋼板で形成したコアに巻線を巻回した固定子を備えた誘導型電動機を形成するとともに、前記巻線の下端と前記冷凍機油との間に隙間を形成したもので、前記冷凍機油が前記巻線および前記固定子全体に吸上げられることがなく、前記固定子の絶縁材および巻線縛り糸に使用されているPET(ポリエチレンテレフタレート)等のオリゴマの冷凍機油による抽出量が抑制されるため、吐出弁等でのオイルスラッジの堆積を防止することができる。
【0021】
請求項2に記載の発明は、請求項1の発明において、冷凍機油はVG3〜8の粘度を有した鉱油または合成油としたものであり、粘度が低く各摺動部における摩擦係数が低減でき、電動要素の入力が低減されるため、請求項1に記載の発明の効果に加えてさらに高効率の密閉型圧縮機にすることができる。
【0022】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、コア内径部の径と回転子の外径との差が0.6mm未満としたものであり、従来よりも磁束を有効に用いることができるため、従来と同じモータ効率の場合には銅量を低減することが可能となり、巻線高さを低減することによってさらに前記巻線の下端と冷凍機油との間に隙間ができるため、請求項1または2に記載の発明の効果に加えてさらに信頼性を高くすることができる。
【0023】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の発明において、電磁鋼板の板厚は0.35mm以下としたものであり、軸方向への渦電流が流れにくくなるために鉄損が減少し、従来と同じモータ効率の場合には銅量を低減することが可能となり、巻線高さを低減することによってさらに前記巻線の下端と冷凍機油との間に隙間ができるため、請求項1から3のいずれか一項に記載の発明の効果に加えてさらに信頼性を高くすることができる。
【0024】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載の発明において、固定子の絶縁材および巻線縛り糸は低オリゴマタイプの材料としたものであり、冷凍機油によるオリゴマの抽出量がさらに抑制されるため、請求項1から4のいずれか一項に記載の発明の効果に加えてさらに信頼性を高くすることができる。
【0025】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載の発明において、冷媒は塩素を含まない炭化水素系冷媒としたものであり、冷媒ガスを大気開放しても塩素を大気中に排出させないために、請求項1から5のいずれか一項に記載の発明の効果に加えてさらにオゾン層の破壊や地球温暖化を抑えることができる。
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0027】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における密閉型圧縮機の側面断面図、図2は図1のA−A線断面図、図3は図2の要部拡大図、図4は同実施の形態における密閉型圧縮機の固定子の下側平面図である。
【0028】
図1から4において、密閉容器101は冷凍機油103を貯留するとともに、圧縮要素105と圧縮要素105を駆動する電動要素107を収容している。
【0029】
電動要素107はコア109に巻線111を巻回した固定子113と回転子115を備えた誘導型電動機を形成するとともに、巻線縛り糸117で固定された巻線111の下端と冷凍機油103との間に隙間を形成している。
【0030】
コア109は板厚が0.35mmである電磁鋼板を複数枚積層したものであり、回転子115収納用のコア内径部119を形成している。また、コア内径部119の径と回転子115の外径との差が0.50mmで形成している。
【0031】
固定子113は商用電源(図示せず)から供給される電流が流れる主巻線111aと圧縮機の始動時のみ電流の流れる補助巻線111bがスロット121間を通るように巻回している。主巻線111aおよび補助巻線111bはスロット121内でお互いが接触しないよう、それぞれ絶縁材123である相関絶縁紙123aに巻装されており、スロット121内壁には主巻線111aおよび補助巻線111bと接触しないよう絶縁材123であるスロット絶縁紙123bが嵌挿されている。
【0032】
相関絶縁紙123a、スロット絶縁紙123bおよび巻線縛り糸117はキシレンを抽出溶剤とし、ソックスレー抽出方法で48時間抽出した際に、抽出量が1.0wt%以下の低オリゴマタイプのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを使用している。
【0033】
シャフト131は、回転子115を固定した主軸部133および主軸部133に対し偏心して形成された偏心軸部135を有し、シリンダブロック137は、略円筒形の圧縮室141を有する。
【0034】
ピストン143は、シリンダブロック137の圧縮室141に往復摺動自在に挿入され、偏心軸部135との間を連結手段139によって連結されている。
【0035】
圧縮室141の開口端面を封止するバルブプレート145は吸入弁147および吐出弁149を備えている。
【0036】
さらに、冷媒は塩素を含まない炭化水素系冷媒であり、冷凍機油103はVG5の粘度を有する鉱油である。
【0037】
以上のように構成された密閉型圧縮機について、以下その動作、作用を説明する。
【0038】
電動要素107の回転子115によって主軸部133が回転駆動されると、偏心軸部135の偏芯運動により連結手段139を介してピストン143が圧縮室141内を往復運動し、吸込、圧縮、吐出行程を順次繰り返す。それにより、冷媒ガスは冷却システム(図示せず)から吸入弁147を通り圧縮室141内へ吸入・圧縮された後、吐出弁149を通り再び冷却システムへと吐出される。
【0039】
本実施の形態では、巻線111の下端と冷凍機油103との間に隙間が形成されていることによって冷凍機油103が巻線111および固定子113全体に吸上げられることがなく、固定子113の相関絶縁紙123a、スロット絶縁紙123bおよび巻線縛り糸117に使用されているPET(ポリエチレンテレフタレート)等のオリゴマの冷凍機油103による抽出が抑制される。
【0040】
また巻線111で発生する熱はコア109の表面および巻線111から放熱される。従来は巻線111の下端が冷凍機油103に浸漬していたことから冷凍機油103への放熱効果もあったが、本実施の形態においてはコア109の形状、積厚や電磁鋼板の材質を最適化することによってモータ効率が向上しており、電動要素107の発熱量が低減していることから、巻線111の下端と冷凍機油103との間に隙間を形成しても十分な放熱効果を得ている。
【0041】
さらに、コア内径部119の径と回転子115の外径との差を0.50mm、電磁鋼板の板厚を0.35mmにすることによって、従来よりも磁束を有効に用いることができるとともに軸方向への渦電流を流れにくくして鉄損を減少させ、従来よりもモータ効率を向上させるとともに銅量を低減し、巻線111の高さを低減させることによって巻線111の下端と冷凍機油103との間にさらなる隙間を形成した。
【0042】
本実施の形態では、相関絶縁紙123a、スロット絶縁紙123bおよび巻線縛り糸117は低オリゴマタイプのフィルムを使用したものであり、冷凍機油103によるオリゴマの抽出量がさらに抑制される。
【0043】
冷凍機油103はVG5の粘度を有した鉱油であり、極めて粘度が低いため、各摺動部における摩擦係数が大幅に低減でき、電動要素107の入力を大きく低減することで、密閉型圧縮機の効率を大幅に向上させることができる。
【0044】
一方、本実施の形態によれば、冷凍機油103中のPET(ポリエチレンテレフタレート)等の含有量が少なくなり、その結果、低い粘度を有する冷凍機油103使用時においてもPET(ポリエチレンテレフタレート)等が吐出弁149等の表面に析出しにくくなり、オイルスラッジの堆積が起こりにくいので、吐出弁等のシール性阻害による圧縮不良の発生を抑えることができる。
【0045】
さらに冷媒は塩素を含まない炭化水素系冷媒であり、冷媒ガスを大気開放しても塩素を大気中に排出させないために、オゾン層の破壊や地球温暖化を抑えることができる。よって、環境に優しく高効率で信頼性の高い密閉型圧縮機を提供することができる。
【0046】
なお、本実施の形態では、相関絶縁紙123aおよびスロット絶縁紙123bとして低オリゴマタイプのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムとしたが、PEN(ポリエチレンナフタレート)フィルムなどを用いても、オリゴマの抽出量を低く抑えることができ同様の効果が得られる。
【0047】
また、今回炭化水素系冷媒を例に挙げて説明をしたが、使用する冷媒がHFC系冷媒でも同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上のように、本発明にかかる密閉型圧縮機は、オイルスラッジの堆積がなく、信頼性が高い密閉型圧縮機の提供が可能となるので、冷蔵庫に加えて空調機や自販機にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施の形態1における密閉型圧縮機の側面断面図
【図2】図1のA−A線上における断面図
【図3】図2の要部拡大図
【図4】同実施の形態における密閉型圧縮機の固定子の下側平面図
【図5】従来の密閉型圧縮機を示す側面断面図
【図6】図5のB−B線上における断面図
【図7】図6の要部拡大図
【図8】従来の密閉型圧縮機における固定子の下側平面図
【符号の説明】
【0050】
101 密閉容器
103 冷凍機油
105 圧縮要素
107 電動要素
109 コア
111 巻線
113 固定子
115 回転子
117 巻線縛り糸
119 コア内径部
123 絶縁材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内に冷凍機油を貯溜するとともに、冷媒を圧縮する圧縮要素と、前記圧縮要素の下方に配設され前記圧縮要素を駆動する電動要素を収納し、前記電動要素は積層鋼板で形成したコアに巻線を巻回した固定子を備えた誘導型電動機を形成するとともに、前記巻線の下端と前記冷凍機油との間に隙間を形成した密閉型圧縮機。
【請求項2】
冷凍機油はVG3〜8の粘度を有した鉱油または合成油とした請求項1に記載の密閉型圧縮機。
【請求項3】
コア内径部の径と回転子の外径との差が0.6mm未満とした請求項1または2に記載の密閉型圧縮機。
【請求項4】
電磁鋼板の板厚は0.35mm以下とした請求項1から3のいずれか一項に記載の密閉型圧縮機。
【請求項5】
固定子の絶縁材および巻線縛り糸は低オリゴマタイプの材料とした請求項1から4のいずれか一項に記載の密閉型圧縮機。
【請求項6】
冷媒は塩素を含まない炭化水素系冷媒である請求項1から5のいずれか一項に記載の密閉型圧縮機。
【請求項1】
密閉容器内に冷凍機油を貯溜するとともに、冷媒を圧縮する圧縮要素と、前記圧縮要素の下方に配設され前記圧縮要素を駆動する電動要素を収納し、前記電動要素は積層鋼板で形成したコアに巻線を巻回した固定子を備えた誘導型電動機を形成するとともに、前記巻線の下端と前記冷凍機油との間に隙間を形成した密閉型圧縮機。
【請求項2】
冷凍機油はVG3〜8の粘度を有した鉱油または合成油とした請求項1に記載の密閉型圧縮機。
【請求項3】
コア内径部の径と回転子の外径との差が0.6mm未満とした請求項1または2に記載の密閉型圧縮機。
【請求項4】
電磁鋼板の板厚は0.35mm以下とした請求項1から3のいずれか一項に記載の密閉型圧縮機。
【請求項5】
固定子の絶縁材および巻線縛り糸は低オリゴマタイプの材料とした請求項1から4のいずれか一項に記載の密閉型圧縮機。
【請求項6】
冷媒は塩素を含まない炭化水素系冷媒である請求項1から5のいずれか一項に記載の密閉型圧縮機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2007−187035(P2007−187035A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−4500(P2006−4500)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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