説明

密閉型圧縮機

【課題】密閉型圧縮機において、冷媒の旋回流により、吸入マフラが加熱され、能力、効率の向上度が低い課題を有していた。
【解決手段】密閉容器301の内部の空間は、分流制御板911により、熱的空間として、高温空間部900と低温空間部901に分割されており、密閉容器301の外部から、冷媒ガス411を吸い込む吸入配管905と、吸入配管905に近接して設けられた吸入マフラ410側が、低温空間部901として熱的に大きく区分された構成を有し、吸入マフラ410の温度上昇を抑制し、体積効率の向上による能力向上、効率向上が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍冷蔵庫などの冷凍サイクルシステムに用いられる密閉型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、この種の密閉型圧縮機は、高信頼性を前提とした消費電力の低減が強く望まれている。消費電力低減のための課題として、密閉型圧縮機内での熱を効率よく利用する課題が挙げられる。
【0003】
これらの課題に対し、従来の密閉型圧縮機としては、吸入マフラを吸入管に近づけ、吸入する冷媒ガスをより低温で吸い込む構造としたものがあげられる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図4において、電動要素100は、固定子1、回転子2からなり、圧縮要素200は、シリンダ5、シリンダヘッド20、ピストン8、シャフト6の偏心部7を有し、電動要素100によって駆動される。ピストン8によって冷媒ガス19は圧縮され、吐出管22より密閉容器13の外部に吐出される。
【0005】
吸入管配管21は、密閉型圧縮機1aの密閉容器13外の冷媒ガス19を吸入し、吸入マフラ30から、吸入管3を通って、シリンダ5内に冷媒ガス19を導く構成を有する。
【0006】
電動要素100によりシャフト6が回転し、その偏心部7を介して伝達される運動によりピストン8がシリンダ5内で動き、冷媒ガス19を圧縮室10内に吸入、圧縮し、吐出する。その後、圧縮室10より吐出された冷媒ガス19は、吐出管22を通って密閉容器13外部に吐出される。
【0007】
本従来例は、回転式圧縮機を図示し、説明しているが、往復動圧縮機でもその動作・作用は、基本的に同一である。
【0008】
従来の密閉型圧縮機は、密閉容器13の外部の吸入配管21から吸い込まれた冷媒ガス19が、吸入配管21と近接されて配置された吸入マフラ30に吸い込まれることで、より低温の冷媒ガス19がシリンダ5内に吸入され、冷媒ガス19の密度をより高く保てることから、密閉型圧縮機1aの効率を高くできるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4599651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来の構成では、冷媒ガス19の密閉容器13の外部からシリンダ5の吸い込みに至る経路での受熱低減は考慮されているが、密閉容器13の内部における熱の分布については、考慮されておらず、密閉容器13内に滞在する冷媒ガス19により、吸入マフラ30が加熱され、結果として冷媒ガス19が吸入マフラ30内で加熱されてしまい、期待どおりにシリンダ5に入る冷媒ガス19の温度低減が図れず、十分な効率向上が得られない課題を有していた。
【0011】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、圧縮機の効率向上を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、密閉容器の内部を、吸入マフラを含む低温空間部と、吐出管を含む高温空間部に概略分割したものである。
【0013】
かかる構成とすることにより、密閉容器内で発生する冷媒ガスの旋回流を、高温空間部と低温空間部に略分割し、低温空間部の吸入マフラから吸入される冷媒ガスを、より低温にして体積効率の増加を可能にし、効率の向上をはかることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の密閉型圧縮機は、冷媒ガスが吸入マフラを含む密閉容器内の吸入側サイドで加熱されることを少なくすることにより、吸入される冷媒ガスの密度を高く保ち、効率を上げるとともに、さらに、吸入側を含む系の全体の温度を低く保ち、吐出側を含む部分の温度を高く維持するような温度分布を可能とすることで、効率の高い圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1の密閉型圧縮機の縦断面図
【図2】本発明の実施の形態1の密閉型圧縮機の水平断面図
【図3】本発明の実施の形態1の密閉型圧縮機の立体模式図
【図4】従来の密閉型圧縮機の縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
請求項1に記載の発明は、底部に潤滑油を貯留する密閉容器と、前記密閉容器内に配置された電動要素と、前記密閉容器内に配置され、前記電動要素によって駆動される圧縮要素を備え、前記圧縮要素を、前記電動要素によって回転駆動されるシャフトと、前記シャフトに形成された偏心部と、圧縮室と、前記シャフトを回転可能に支持する軸受部と、前記圧縮室内で運動するピストンと、前記潤滑油を摺動面に供給する給油手段とを具備し、冷媒ガスを、前記密閉容器に設けられた吸入配管から吸入マフラを介して圧縮室へ導き、吐出管から吐出する構成とし、さらに、前記密閉容器の内部を、前記吸入マフラを含む低温空間部と、前記吐出管を含む高温空間部に概略分割し、前記冷媒ガスを、前記低温空間部と前記高温空間部に熱的に偏在して存在するようにしたものである。
【0017】
かかる構成とすることにより、密閉容器内で発生する冷媒ガスの旋回流を、高温空間部と低温空間部に略分割し、低温空間部に吸入マフラ、吸入配管を配置することにより、吸入マフラから吸入される冷媒ガスを、より低温にすることができる。さらに、吸入マフラ自体の加熱も低減することができるので、圧縮室に吸入される冷媒ガスの密度を高くすることができる。その結果、冷媒ガスの密度の上昇により、冷凍能力が増加するとともに、体積効率を増加し、効率、C.O.P.を向上する。したがって、高効率で、エネルギー消費が少なく、また、能力の向上により、相対的に小型の密閉型圧縮機を提供することができる。
【0018】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記低温空間部と前記高温空間部を、前記密閉容器内に設けた分流制御板によって分割したものである。
【0019】
かかる構成とすることにより、分流制御板によって冷媒ガスの流れを密閉容器全体の空間の途中で曲げることができる。その結果、分流制御板を設けるといった簡単な構成により、密閉空間全体において冷媒ガスが略分割された流れを発生させることができる。
【0020】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記分流制御板を、フィルムカーテンとしたものである。
【0021】
かかる構成とすることにより、分流制御板にフィルムカーテンを用いることで、より確実に高温空間部と低温空間部を形成することが可能となり、請求項1および2に記載した作用、効果をより確実かつ大きく得ることができる。
【0022】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記フィルムカーテンを、耐冷媒性ゴム材料により形成したものである。
【0023】
かかる構成とすることにより、フィルムカーテンが耐冷媒性のゴム材料であるので、圧縮要素が密閉容器内部で動く構成の密閉型圧縮機においても、フィルムカーテンと圧縮要素等の部品の接触による騒音を回避することができ、さらに、冷媒ガスや潤滑油による劣化促進を抑制することができ、信頼性を向上することができる。
【0024】
請求項5に記載の発明は、請求項3または4に記載の発明において、前記フィルムカーテンを、前記密閉容器側に固定したものである。
【0025】
かかる構成とすることにより、前記フィルムカーテンを、密閉容器の製造に連続して形成することが可能となり、密閉容器を基準として、密閉型圧縮機の各モデル展開をする場合に、生産性を向上することが可能となる。
【0026】
請求項6に記載の発明は、請求項3または4に記載の発明において、前記フィルムカーテンを、前記圧縮要素または前記電動要素側に固定したものである。
【0027】
かる構成とすることにより、前記フィルムカーテンを、電動要素または圧縮要素の製造に連続して形成することが可能となり、電動要素または圧縮要素を基準として、密閉型圧縮機の各モデル展開をする場合に、生産性を向上することが可能となる。
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0029】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における密閉型圧縮機の縦断面図、図2は、同実施の形態1における密閉型圧縮機の水平断面模式図、図3は、同実施の形態1における密閉型圧縮機の内部構成を示す立体模式図である。
【0030】
図1から図3において、密閉型圧縮機300は、密閉容器301の内部において、下方に配置された電動要素302と、この電動要素302によりシャフト303を介して駆動される圧縮要素307を上方に配置している。圧縮要素307は、シャフト303に設けられた偏心部303aの回転運動を、コンロッド304の小端孔304aとピストン305のピストンピン孔305aに挿入されたピストンピン305bを介してピストン305の往復運動に変換し、シリンダ306内をピストン305が往復運動するように構成されている。
【0031】
シャフト303は、シリンダブロック331に形成された軸受部334とシャフト337の主軸部340が隙間を介して回転する軸線である。
【0032】
シリンダブロック331には、その側部に吸入マフラ410と、反シャフト方向である
前部に弁座板408を介してシリンダヘッド409とが備えられ、冷媒ガス411の吸入と吐出径路418が形成されている。
【0033】
また、密閉容器301の底部には、密閉型圧縮機300の各摺動部と、これを駆動するシャフト303の軸受摺動部414を摺動潤滑するための潤滑油415を貯留しており、シャフト303の下端部に設けられた給油手段416によって潤滑油415を汲み上げ、先ず軸受摺動部414へ給油し、更にシャフト303と偏心部303aとの内径に備えた給油孔418aを通して上方に位置する圧縮要素307に給油している。
【0034】
圧縮要素307に給油された潤滑油415は、偏心部303aの外径に導かれ、コンロッド304の内径の摺動部を潤滑した後、偏心部303aの上部から周囲に飛散し、ピストン305とシリンダブロック331の円筒形孔部350にも供給され、シリンダブロック331の円筒形孔部350の中で往復動をするピストン305が冷媒ガス441を圧縮する空間である圧縮室353から冷媒ガス441が過剰に漏れることがないようにシールしている。
【0035】
さらに、シリンダブロック331の円筒形孔部350の内壁355は、ピストン305の外周面420と摺動する摺動面425を有するとともに、ピストン305の外周面420には、円筒形孔部350と摺動しない面である凹部430が形成されている。
【0036】
次に、ピストン305の詳細を説明する。
【0037】
ピストン305には、ピストンピン孔305aが形成され、ピストンピン305bが挿入されている。ピストン305の凹部430は、円筒形孔部350との摺動を減らす構造をとることで、シリンダブロック331の円筒形孔部350とピストン305の摺動損失は最小限となる構造となっている。
【0038】
密閉容器301の内部の空間は、分流制御板911により、熱的空間として、高温空間部900と低温空間部901に分割されており、密閉容器301の外部から、冷媒ガス411を吸い込む吸入配管905と、吸入配管905に近接して設けられた吸入マフラ410側が低温空間部901として熱的に大きく区分された構成である。また、分流制御板911は、本実施の形態1においては、フィルムカーテン912によって形成しているが、樹脂製あるいはゴム製の板によって形成することもできる。ここでは、分流制御板911を、フィルムカーテン912とした場合について説明する。
【0039】
フィルムカーテン912は、固定部920により、密閉容器301の内壁の一部、あるいは、電動要素302や圧縮要素307の一部に固定されている。
【0040】
密閉型圧縮機300の電動要素302に通電されると、シャフト337が回転し、回転は、ピストン305の往復運動に変換され、シリンダブロック331の円筒形孔部350の中をピストン305が往復運動する。これにより、圧縮室353の容積が変化し、冷媒ガス411の吸入と圧縮が行われる。
【0041】
シリンダブロック331の円筒形孔部350は、テーパー形状を有するとともに、ピストン305に形成された凹部430は、ピストン305とシリンダブロック331の円筒形孔部350との摺動部分を出来る限り小さくすることで、摺動の損失を低減し、効率を向上するようにしている。
【0042】
また、給油手段416により、ピストン305と円筒形孔部350に潤滑油415を供給している。さらに、密閉容器301の内部壁面との熱交換による放熱方法は、種々提案
されているが、本実施の形態1においても周知技術と同様に潤滑油415の供給を行っており、ピストン305の凹部430および、摺動部である外周面420には、十分な潤滑油415が供給されている。
【0043】
次に、密閉容器301内部の冷媒ガス411の挙動と熱分布について述べる。ここで、本実施の形態1に示す圧縮要素307は、密閉型圧縮機300を鉛直上方から見た時、シャフト337は時計回りに回転することを前提として説明する。
【0044】
シャフト337が時計回り、即ち右回転すると、電動要素302の回転子も右回りしている。これらの右回転は、密閉容器301内部の冷媒ガス411に右旋回流を起こしている。
【0045】
しかし、このことは、従来の密閉型圧縮機でも同じであり、冷媒ガス411の旋回流は、密閉容器301の内部全体の温度を均一化させてしまう。特に、従来の密閉型圧縮機では、吸入配管905から、吸入マフラ410に至る部分、また、吸入マフラ410の表面は、冷媒ガス411の旋回流により、圧縮要素307の各摺動部や、電動要素302の加熱部分の高温が伝熱していた。この伝熱により、吸入マフラ410への吸い込み冷媒ガス411の加熱や、吸入マフラ410自体の加熱が起こっていたが、本実施の形態1によれば、この様な熱の均一化を、分流制御板911により、図2に示すように、高温空間流れ902と低温空間流れ903に分割する。これは、フィルムカーテン912(分流制御板911)が分流制御流れ904を起こし、これにより、密閉容器301内の流れが、大きく高温空間部900の高温空間流れ902と低温空間部901の低温空間流れ903に分かれることにより得られるものである。
【0046】
これにより、低温空間部901は、より低温になり、その結果、吸入マフラ410に吸入される冷媒ガス411は、より高密度となり、体積効率の向上が得られ、能力向上と効率向上ができることとなる。またさらに、低温空間部901は、吸入マフラ410の壁面周囲温度も低下させることとなるので、より効果的に吸入される冷媒ガス411の温度を下げることができる。
【0047】
さらに、分流制御板911をフィルムカーテン912で構成しているため、熱的分割の効果は大きい。また、潤滑油415も同様に高温側と低温側に分類されるので、潤滑油415の吸入側への熱伝達も防げることとなり、吸入側の低温空間部901は、より低く保つことができる。
【0048】
発明者らの検討によると、低温空間部901の温度低減は、約5K得られており、これにより、体積効率、即ち冷凍能力の向上と、効率(C.O.P.)の向上が得られる実測結果を得ている。
【0049】
尚、フィルムカーテン912および、分流制御板911は、耐冷媒ゴム材料や、PPS、PBT、ナイロン66等のフィルムを用いることで、圧縮要素307が密閉容器301に固定されていない密閉型圧縮機300においても、金属接触音などが生じない構成とすることができる。
【0050】
また、フィルムカーテン912は、密閉容器301側のみならず、圧縮要素307や、電動要素302側あるいは、それら双方に取り付けることも可能であり、その構成は容易であり、圧縮要素307や、密閉容器301の形態に応じて、同様の技術思想のもとに、具体設計は容易に種々行うことができる。
【0051】
このような構成は、本実施の形態1に述べたピストン・コンロッド型の圧縮機のみなら
ず、他の方式の圧縮機にも応用展開できる。電動要素302や圧縮要素307の摺動部分の発熱が旋回流により全体に均一化される圧縮機において、吸入側との熱分離をはかることが基本技術思想であり、同様な構成における種々の圧縮機に適用でき、高効率と能力の向上が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、冷凍サイクルを構成する密閉型圧縮機の効率向上を可能とするもので、家庭用あるいは業務用の冷凍機器に適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
300 密閉型圧縮機
301 密閉容器
302 電動要素
303a 偏心部
305 ピストン
307 圧縮要素
337 シャフト
334 軸受部
353 圧縮室
410 吸入マフラ
415 潤滑油
416 給油手段
900 高温空間部
901 低温空間部
905 吸入配管
911 分流制御板
912 フィルムカーテン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部に潤滑油を貯留する密閉容器と、前記密閉容器内に配置された電動要素と、前記密閉容器内に配置され、前記電動要素によって駆動される圧縮要素を備え、前記圧縮要素を、前記電動要素によって回転駆動されるシャフトと、前記シャフトに形成された偏心部と、圧縮室と、前記シャフトを回転可能に支持する軸受部と、前記圧縮室内で運動するピストンと、前記潤滑油を摺動面に供給する給油手段とを具備し、冷媒ガスを、前記密閉容器に設けられた吸入配管から吸入マフラを介して圧縮室へ導き、吐出管から吐出する構成とし、さらに、前記密閉容器の内部を、前記吸入マフラを含む低温空間部と、前記吐出管を含む高温空間部に概略分割し、前記冷媒ガスを、前記低温空間部と前記高温空間部に熱的に偏在して存在するようにした密閉型圧縮機。
【請求項2】
前記低温空間部と前記高温空間部を、前記密閉容器内に設けた分流制御板によって分割した請求項1に記載の密閉型圧縮機。
【請求項3】
前記分流制御板を、フィルムカーテンとした請求項2に記載の密閉型圧縮機。
【請求項4】
前記フィルムカーテンを、耐冷媒性ゴム材料により形成した請求項3に記載の密閉型圧縮機。
【請求項5】
前記フィルムカーテンを、前記密閉容器側に固定した請求項3または4に記載の密閉型圧縮機。
【請求項6】
前記フィルムカーテンを、前記圧縮要素または前記電動要素側に固定した請求項3または4に記載の密閉型圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−87684(P2013−87684A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228568(P2011−228568)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】