説明

寝具

【課題】1.快適睡眠に適するとされる25〜35℃付近の寝床内温度が長時間維持される寝具。2.通気性と放熱性に優れる寝具。3.適度の柔軟性と風合いを兼ね揃えた寝具を提供する。
【解決手段】融点が約25〜35℃の範囲の蓄熱材を内包する複数のマイクロカプセルからなる造粒物を通気性のある布帛で保持することにより得られ、造粒物の最短径は0.1mm以上、最長径が20mm以下であることが好ましい。蓄熱材としてノルマルパラフィンより構成され、炭素数17〜20の化合物の合計質量比率が60%以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掛け布団、敷き布団、毛布、マットレス、ベッドパッド、シーツ及び枕などの寝具に関するものであり、環境温度が不快な領域に変化しても快適な温度と寝心地、通気性、風合いが維持される温度緩衝性に優れた寝具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蓄熱材を繊維やシートなどの支持体に付着させて、体温調節機能をもたらす手法や被服材料は以前より提案されており具体的には以下のような例が知られている。繊維構造物にパラフィン封入マイクロカプセルを樹脂バインダーを用いて固着することにより得られる蓄熱性を有する繊維構造物。(例えば、特許文献1)繊維基材及び当該基材全体にマイクロカプセルが分散され、該マイクロカプセルが加熱又は冷却された場合に熱安定性を示すような可逆的熱貯蔵性を示す繊維。(例えば、特許文献2)鞘部が熱可塑性重合体、芯部が潜熱蓄熱材から成る複合繊維。(例えば、特許文献3)
【0003】
上記被服材料と同様に寝具に蓄熱機能が付与された例として、表面に金属をスパッタリングした寝具(例えば、特許文献4)、水分子吸着発熱剤と蓄熱剤が付着した繊維を用いた寝具又はインテリア用繊維製品。(例えば特許文献5)等が挙げられるが充分な蓄熱能力が得られなかったり、長期の耐久性の点で不十分な例が多かった。
【0004】
枕も寝具の一つとして、通気性、堅さ、高さなどに加え、熱伝導性、保温性などの熱的な特性も快眠適性に大きく影響し、ウレタンフォーム素材の中に蓄熱材を練り込んだ枕が提案されている。(例えば、特許文献6、7)また、それ以外にも保冷剤や潜熱蓄熱材を樹脂製の包材にパッキングした蓄冷枕が市販されているがこれらには通常の枕の様な通気性は期待されず発熱時の緊急用として一時的に使われるものであり、季節を問わず常時使用する枕とは性質が異なるものである。
【特許文献1】特開平5−156570
【特許文献2】特公平5−55607
【特許文献3】特開平6−200417
【特許文献4】特許公開2004−8229
【特許文献5】特許公開2003−193371
【特許文献6】特許公開2001−299801
【特許文献7】特許公開2001−299538
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は次の特徴を兼ね揃えた寝具を提供することである。1.快適睡眠に適するとされる25〜35℃付近の寝床内温度が長時間維持される寝具。2.通気性と放熱性に優れる寝具。3.適度の柔軟性と風合いを兼ね揃えた寝具。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題は、融点が約25〜35℃の範囲の蓄熱材を内包する複数のマイクロカプセルの造粒物を通気性のある布帛で充填して布団状、パッド状又は枕状に加工することにより得られる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の寝具類は夏場の暑い環境下でも35℃以上には上がりにくく、それ以下の温度を長時間維持し得るためしばらく冷涼感が持続し快適な睡眠が得られることが期待できる。また従来より知られている冷蔵庫又は冷凍庫で冷やして使用するゲル状の蓄熱材の充填物は冷えすぎたり通気性がないため体温の発熱時の緊急目的であれば効果を発揮するが、本発明の寝具の如く室温領域で蓄冷が可能で通気性のある固形状の蓄熱材粒子を保持させた寝具の例は知られていなかった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で用いられる蓄熱材を内包するマイクロカプセルを製造する方法としては、複合エマルジョン法によるカプセル化法(特開昭62−1452号公報)、蓄熱材粒子の表面に熱可塑性樹脂を噴霧する方法(同62−45680号公報)、蓄熱材粒子の表面に液中で熱可塑性樹脂を形成する方法(同62−149334号公報)、蓄熱材粒子の表面でモノマーを重合させ被覆する方法(同62−225241号公報)、界面重縮合反応によるポリアミド皮膜マイクロカプセルの製法(特開平2−258052号公報)等に記載されている方法を用いることができる。
【0009】
本発明のマイクロカプセルの膜材は特に限定されないが、界面重合法、インサイチュー法等の手法で得られる、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアクリルアミド、エチルセルロース、ポリウレタン、アミノプラスト樹脂、またゼラチンとカルボキシメチルセルロース若しくはアラビアゴムとのコアセルベーション法を利用した合成あるいは天然の樹脂が用いられる。
【0010】
本発明で用いられる蓄熱材の融点は寝床内の雰囲気温度あるいは枕内部の温度が快適と感じられ自然と睡眠に陥りやすい温度範囲に維持されることが好ましく、具体的には約25〜35℃、特に約29〜33℃の範囲に設定されることが好ましい条件であることが見出され、この温度範囲の融点を有する蓄熱材を寝具内に固定化すれば良いことを見出した。例えば蓄熱材としてノルマルノナデカン(C19H40、融点32℃)のマイクロカプセルを用いた場合、予め32℃以下の雰囲気中に曝すことにより蓄熱材は凝固する。一方就寝時には人体から発せられる熱を蓄熱材が吸熱し32℃以上には上がりにくくなり睡眠に快適な雰囲気が得られることが分かった。
【0011】
上記温度範囲に融点を有する化合物としては炭素数が17〜22の脂肪族炭化水素及びこれらの混合物、ステアリン酸メチル、パルミチン酸ラウリル等のエステル化合物、その他アルコール、カルボン酸、酸アミド等の有機化合物が使用可能である。これらの蓄熱材の中には必要に応じ過冷却防止材、比重調節材、劣化防止剤等を添加することができる。また、融点の異なる2種以上のマイクロカプセルを混合して用いることも可能である。特に本発明の融点温度域を持続させる為には蓄熱材としてノルマルパラフィンより構成され、尚かつ炭素数17〜20の化合物の合計質量比率が60%以上であることが特に好ましい条件である。
【0012】
本発明で述べる造粒物とはマイクロカプセルを、粉体、顆粒状、ペレット状等の固形状に成型したものである。造粒物の大きさや形態は寝具に加工した際の風合いや感触に大きく影響を与えるが、最短径が0.1mm以上、最長径が20mm以下が好ましく、更に最短径が1mm以上、最長径が10mm以下に設定することが好ましいことが見出された。この値より小さ過ぎると粉舞や通気性が悪くなり、大きいとごつごつした感触となり感触が悪くなるため好ましくない。
【0013】
マイクロカプセルの造粒物は、マイクロカプセルスラリーをドラムドライヤー、スプレードライヤー、フリーズドライヤー、フィルタープレス、遠心分離等の各種粉体化装置、脱水装置で流動性をなくした後、押し出し造粒機、転動造粒機等、流動乾燥装置等の各種造粒装置を用いて固形化処理される。更に整粒機、粉砕器などを用いて球状、円柱状、立方体、直方体、卵型、星形などの形状に加工することが可能であるが好ましくは球状に近い形態が感触として最も優れる形態である。
【0014】
粉体化または造粒化の際に必要であれば各種バインダー、防黴剤、防虫剤、難燃化のための薬剤をこの工程で添加しても良い。更に、劣化防止剤、酸化防止剤、可塑剤、粘着付与剤、滑剤、着色剤、硬化剤、発泡剤、合成繊維、合成樹脂類、断熱材、VOC除去材、活性炭、吸放湿剤、香気成分などを添加可能である。特に香気成分である、ヒノキ油、ヒバ油、ラベンダー油などの植物性香気成分は睡眠を誘発する上で優れた成分である。これらの香気成分は造粒物表面にコーティングしても良いが、これらの香気成分を単独でマイクロカプセルにして同様の形態の造粒物として混合することにより放香時間が長時間持続するため好ましい態様である。
【0015】
本発明の造粒物は布帛類に充填され、シート状、パッド状に加工されて寝具に仕上げられるが、本発明の造粒物と共にポリエステル、アクリルなどの長繊維、羽毛、ウレタンフォーム又はその裁断物、枕用芯材と混合して使用することにより固さや風合いが調節可能で、しかも各素材の相乗効果が得られ好ましい態様である。本発明の寝具は特に枕として応用した場合にその効果が顕著に得られるため好ましい態様である。枕として用いる場合にも本発明の蓄熱材の造粒物の他に枕用芯材として用いられている、蕎麦殻、プラスティックパイプ、炭、木粒、小豆、天然石、金属粒、低反発ウレタン素材等と混合、組み合わせて用いることも可能である。
【0016】
本発明で用いられる通気性のある布帛とは造粒物を充填して固定化するための包材であるがより通気性があることにより放熱性に優れるため本発明の効果は一層助長される。布帛の具体例としては、綿、麻(亜麻、ラミー)、絹、羊毛などの繊維、再生繊維としてのレーヨン、キュプラ、半合成繊維としてのアセテート、トリアセテート、プロミックス、合成繊維としてのナイロン、アクリル、ビニロン、ビニリデン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、フェノール系などの繊維を用いて得られた布帛が用いられる。
【実施例】
【0017】
以下に本発明の実施例を示す。実施例中の部数は固形質量部を表す。また、融点及び融解熱量は示差熱熱量計(米国パーキンエルマー社製、DSC−7型)を用いて測定した。
【0018】
実施例1
メラミン粉末12重量部に37%ホルムアルデヒド水溶液15.4重量部と水40重量部を加え、pHを8に調整した後、約70℃まで加熱してメラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物水溶液を得た。pHを4.5に調整した10%スチレン−無水マレイン酸共重合体のナトリウム塩水溶液100重量部中に蓄熱材として、オクタデカン(C18)10%、ノナデカン(C19)80%、エイコサン(C20)8%の混合物、及びその他の化合物2%からなる蓄熱材混合物(融点30℃、融解熱量150kJ/kg)70重量部を激しく撹拌しながら添加し、粒子径が3.0μmになるまで乳化を行なった。得られた乳化液に、上記メラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物水溶液全量を添加し70℃で2時間撹拌を施した後、pHを9まで上げて水を添加して乾燥固形分濃度40%の蓄熱材マイクロカプセル分散液を得た。
【0019】
このマイクロカプセル分散液をフィルタープレスで水分20%以下まで脱水した後、押出式造粒機を用いて、平均系が短径3mm、長径5mmのペレット状に加工して蓄熱材造粒物を得た。この造粒物700gを綿製の布に充填して高さ約40mmの枕の形態に加工した。この枕を予め25℃の雰囲気下に8時間放置し蓄冷しておき、その後枕の上部に37℃に加熱した熱板を押し当てた際の枕内部の中心付近の温度を計測したところ、2時間経過しても枕内部の温度は30℃付近を維持し5時間経過しても34℃を越えることはなかった。また、感触も通常の蕎麦殻またはプラスティック充填枕と同感触で通気性もあるため実際に枕として使用した場合も柔らかなヒンヤリ感が持続し快適であった。
【0020】
実施例2
蓄熱材として、ヘプタデカン(C17)5%、オクタデカン60%、ノナデカン(15%)及びエイコサン(C20)20%の混合物(融点28℃、融解熱量140kJ/kg)を実施例1と同様の手法でマイクロカプセル化を行い、スプレードライヤーで直径約0.2mmの粉体粒子を得た。この粉体をポリエステル繊維の内側に400g/m2の充填量になるようにキルティング加工を行ないベッドパッドを得た。このベッドパッド実施例1と同様に予め25℃の雰囲気下に8時間放置し蓄冷しておき、その後30℃の室温下でベッドパッドとして使用したところしばらく28℃付近の冷感が持続し通気性もあり快適な感触を得ることができた。
【0021】
(比較例1)
実施例1の蓄熱材の替わりに枕の芯材として用いられている蕎麦殻を用いて同様に枕を試作し同様の手法で温度計測を行ったところ、30分後には32℃を越え、5時間後には34℃に至り冷感の持続性は蓄熱材を利用したものより明らかに劣る結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0022】
実施例からも明らかなように、本発明のごとく蓄熱材の造粒物を通気性のある包材に充填して得られた寝具は予め蓄熱材の融点以下の温度で蓄冷しておくことにより使用時にはその融点以上には上がりにくい効果を発揮し、何ら電気的なエネルギーを必要とすることなく就寝時の冷涼感を得ることが可能である。また本発明の寝具は主に就寝時の補助具として極めて有効であるが、同じ形態で座布団、ソファー用クッションに使用することも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が約25〜35℃の範囲の蓄熱材を内包する複数のマイクロカプセルからなる造粒物が、通気性のある布帛で保持された寝具。
【請求項2】
造粒物の最短径が0.1mm以上、最長径が20mm以下である請求項1記載の寝具。
【請求項3】
蓄熱材がノルマルパラフィンより構成され、炭素数17〜20の化合物の合計質量比率が60%以上である請求項1記載の寝具。
【請求項4】
造粒物と香気成分の混合物が通気性のある布帛で保持された請求項1記載の蓄熱機能を有する寝具。
【請求項5】
寝具が枕である請求項1記載の寝具。

【公開番号】特開2006−61561(P2006−61561A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−250159(P2004−250159)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】