説明

対向ピストン型ディスクブレーキ

【課題】キャリパ5cのアウタ、インナ両ボディ部3c、4cを一体化した構造で、圧油の温度上昇を抑えると共に、エアー抜け性を良好にする。
【解決手段】キャリパ5cの内部にアウタ、インナシリンダ7、8を連通させる為の通油路30を設ける。この通油路30は、キャリパ5cの周方向両端部の1対の連結部25a、25bのうち、車両への取り付け状態で下側となる一方の連結部25aを含む、周方向一端部に設けた直線状通油孔32と、この直線状通油孔32に連結した第二、第三の直線状通油孔33、34とを備える。上記直線状通油孔32は、ロータの軸方向に対し平行に設け、この直線状通油孔32の長さL32を、開口部27の幅W27以上とする。上記第二、第三の各直線状通油孔33、34は、上記直線状通油孔32から離れる程、ロータの周方向に関して他方の連結部25bに近づく方向にこの直線状通油孔32に対し傾斜させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の制動に使用するディスクブレーキのうち、ロータの両側にピストンを、互いに対向する状態で設けた、対向ピストン型ディスクブレーキの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の制動を行なう為に、ディスクブレーキが広く使用されている。ディスクブレーキによる制動時には、車輪と共に回転するロータの軸方向両側に配置された1対のパッドを、ピストンによりこのロータの両側面に押し付ける。この様なディスクブレーキとして従来から各種構造のものが知られているが、ロータの両側にピストンを、互いに対向する状態で設けた、対向ピストン型ディスクブレーキは、安定した制動力を得られる事から、近年使用例が増えている。例えば、図15は、特許文献1に記載された対向ピストン型のディスクブレーキの従来構造の第1例を示している。この対向ピストン型のディスクブレーキ1は、ロータ2を挟む両側位置にアウタボディ部3及びインナボディ部4から成るキャリパ5を設け、これら各ボディ部3、4内にアウタシリンダ及びインナシリンダを、それぞれの開口部を上記ロータ2を介して互いに対向させた状態で設けている。そして、これらアウタシリンダ及びインナシリンダ内にアウタピストン及びインナピストンを、液密に、且つ上記ロータ2の軸方向に関する変位自在に嵌装している。又、上記アウタボディ部3にはアウタパッドを、上記インナボディ部4にはインナパッドを、それぞれ上記ロータ2の軸方向に変位自在に支持している。
【0003】
制動時には、上記アウタシリンダ及びインナシリンダ内に圧油を送り込み、上記アウタピストン及びインナピストンにより、上記アウタパッド及びインナパッドを、上記ロータ2の内外両側面に押し付ける。尚、図15に示した特許文献1に記載された構造の場合には、互いに別個に形成した上記アウタボディ部3とインナボディ部4とを、複数本の結合ボルトにより結合して、上記キャリパ5としている。
【0004】
又、図16は、特許文献2に記載された従来構造の第2例を示している。この図16に示した対向ピストン型のディスクブレーキ1の場合も、互いに別個に形成したアウタボディ部3a及びインナボディ部4aを、図示しない結合ボルトにより結合してキャリパ5aとしている。又、この図16に示したディスクブレーキ1の場合には、上記両ボディ部3a、4aに複数のパイプ6a、6bを鋳ぐるみして、アウタシリンダ7、7及びインナシリンダ8、8に圧油を給排する為の通油路9を構成している。即ち、上記両ボディ部3a、4aの、ロータ2の周方向(図16の左右方向)両端部に1対ずつのパイプ6a、6aを一部を曲げた状態で鋳ぐるみしている。そして、これら各パイプ6a、6aを構成する、ロータ2の軸方向に対し傾斜した傾斜部10、10の一端部同士の接続部に、液封シール11、11を設けている。
【0005】
又、各アウタシリンダ7、7同士、及び、各インナシリンダ8、8同士は、それぞれ上記各ボディ部3a、4aに鋳ぐるみした別のパイプ6b、6bにより連通させている。又、インナボディ部4aの側面に一端を開口させた給排口12の他端を、1個のインナシリンダ8に通じさせている。制動時には、この給排口12及び通油路9を通じて各シリンダ7、8に圧油を送り込む。この圧油の送り込みに伴い、アウタ、インナ各シリンダ7、8内にそれぞれ嵌装したアウタ、インナ各ピストン13、14が押し出され、これら各ピストン13、14により、アウタ、インナ各パッド15、16を構成するライニング17、17をロータ2の両側面に押し付ける。尚、図示はしないが、特許文献3にも、上述の図15〜16に示した構造と同様の、アウタ、インナ両ボディ部を結合ボルトにより結合してキャリパとした、対向ピストン型ディスクブレーキが記載されている。又、特許文献4には、アウタ、インナ両ボディ部の間に1対の中間部材を介在させ、これら両ボディ部及び中間部材を複数本の結合ボルトにより結合してキャリパとした、対向ピストン型ディスクブレーキが記載されている。
【0006】
これに対して、アウタ、インナ両ボディ部を一体とした(一体成形した)対向ピストン型ディスクブレーキも、特許文献5〜6に記載されている様に、従来から知られている。例えば、図17〜18は、特許文献5に記載されたディスクブレーキの従来構造の第3例を示している。このディスクブレーキ1の場合、アウタボディ部3bとインナボディ部4bとを一体としたキャリパ5bを設けている。このキャリパ5bは、これら両ボディ部3b、4b同士を、ロータ2の周方向(図17の左右方向、図18の表裏方向)両端部に設けた1対の連結部18a、18bと、同じく中央部に設けた中間リブ19とにより互いに連結している。又、上記キャリパ5bの、この中間リブ19を含むロータ2の周方向中央部に、3本の直線状通油孔20a〜20cを備えた通油路21を設けている。これら3本の直線状通油路20a〜20cのうち、両側の1対の直線状通油路20a、20cの一端は、1対のアウタシリンダ7、7同士、及び、1対のインナシリンダ8、8同士をそれぞれ連通させる第二の直線状通油孔22、22の中間部に通じさせている。又、インナボディ部4bの側面に一端を開口させた給排口12の他端を、このインナボディ部4bの内部に設けた第二の直線状通油孔22の中間部に通じさせている。キャリパ5bの車両への取り付け状態では、上記各直線状通油路20a〜20cが水平方向に位置する様に、車輪の後側又は前側に取り付ける。又、特許文献6に記載された対向ピストン型ディスクブレーキの場合には、アウタ、インナ両ボディ部を一体としたキャリパの、ロータの周方向一端部にパイプを鋳ぐるみして、このパイプにより、インナシリンダ及びアウタシリンダ同士を連通させている。
【0007】
前述の図15〜16に示した様な、特許文献1〜4に記載された対向ピストン型ディスクブレーキの場合、アウタボディ部3、3a及びインナボディ部4、4aを結合ボルトにより結合している為、組立作業に手間を要する。又、図16に示した特許文献2に記載された従来構造の第2例の場合には、ブレーキ油である圧油の温度が上昇し易いと言った問題もある。即ち、この図16に示した構造の場合、キャリパ5aの内部に設けた通油路9が、ロータ2の周方向両端部に、このロータ2の軸方向(図16の上下方向)に対し傾斜した1対の傾斜部10、10を備えている。そして、上記キャリパ5aのロータ2の軸方向に関する中央部で、上記各傾斜部10、10の一端同士を接続している。この為、上記通油路9のうち、上記キャリパ5aの、ロータ2の外周を跨ぐ部分に存在する部分の長さが、上記各傾斜部10、10をロータ2の軸方向に対し傾斜させている分だけ長くなる。これに対して、ロータ2は、制動時に各パッド15、16との摩擦により発熱する為、キャリパ5aのうち、このロータ2の外周を跨ぐ部分の温度は著しく上昇する。この結果、上述の図16に示した構造の様に、上記通油路9のうち、ロータ2の外周を跨ぐ部分に存在する部分の長さが大きい(長い)場合には、上記キャリパ5a内の圧油の温度が上昇し易い。
【0008】
これに対して、上述の図17〜18に示した様な、特許文献5〜6に記載された従来構造のディスクブレーキの場合には、アウタボディ部3b及びインナボディ部4bを一体としたキャリパ5bを備える為、これら両ボディ部3b、4b同士を結合する手間が不要となり、前述の特許文献1〜4に記載された構造に比べて、組立作業性が有利になる。但し、上述の図17〜18に示した、特許文献5に記載された従来構造の第3例の場合、キャリパ5b内の通油路21及び各第二の直線状通油孔22、22と各シリンダ7、8とをブレーキ油で満たす際にエアー溜りが生じ易く、エアー抜け性が良くない。
【0009】
即ち、上述の図17〜18に示した従来構造の第3例の場合、アウタ、インナ各ボディ部3b、4bのうち、ロータ2の周方向両端部に設けた、アウタ、インナ各シリンダ7、8に通じる第三の直線状通油孔23、23の端部開口を、ブリーダスクリュ24、24により塞いでいる。ディスクブレーキを車両へ組み付けた後、上記通油路21及び各シリンダ7、8内をブレーキ油で満たす場合には、キャリパ5b内にエアー溜りが生じるのを防止すべく、上記各ブリーダスクリュ24、24を用いてエアー抜きを行なう。このエアー抜きは、これら各ブリーダスクリュ24、24の何れかにチューブを接続した状態で、ブレーキペダルの作動・非作動とブリーダスクリュ24、24の緩め及び締めとを繰り返す事により、キャリパ5b内からエアーを混入したブレーキ油を、上記チューブを通じて外部に排出する。但し、上述の図17〜18に示した従来構造の第3例の場合には、キャリパ5bの車両への取り付け状態で、このキャリパ5bの、ロータ2の周方向中央部に位置する3本の直線状通油孔20a〜20cの何れもが水平方向に位置する。この為、これら各直線状通油孔20a〜20c内にエアー溜りが生じ易く、キャリパ5b内のエアー溜りを完全になくす為には、エアー抜きの回数を多くする必要がある。この様にエアー抜きの回数を多くするのは、作業者の手間を要し、ディスクブレーキを組み付けた後、ブレーキ油の注入に要する時間が長くなる事に繋る。
尚、本発明に関連する先行技術文献として、特許文献1〜6以外に特許文献7、8がある。
【0010】
【特許文献1】実開平5−27364号公報
【特許文献2】特開2002−227886号公報
【特許文献3】特許第2861217号公報
【特許文献4】実開昭57−75238号公報
【特許文献5】米国特許出願公開第2004/0216967号明細書
【特許文献6】特開平6−74266号公報
【特許文献7】実開昭57−153827号公報
【特許文献8】特開昭57−15131号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の対向ピストン型ディスクブレーキは、上述の様な事情に鑑みて、キャリパのアウタ、インナ両ボディ部を一体化した構造で、圧油の温度上昇を抑えると共に、エアー抜け性を良好にできる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の対向ピストン型ディスクブレーキは、例えば前述の図17〜18に示した様な、従来から広く知られている対向ピストン型ディスクブレーキと同様に、車輪と共に回転するロータを挟んで設けられたアウタボディ部及びインナボディ部を一体化したキャリパと、これら両ボディ部に、互いに対向して設けられたアウタシリンダ及びインナシリンダと、これら各シリンダ内に上記ロータの軸方向に関する変位自在に嵌装されたピストンと、この軸方向に関する変位を自在に上記キャリパに支持された1対のパッドとを備える。又、上記キャリパは、上記両ボディ部の周方向両端部同士を1対の連結部により連結している。
【0013】
特に、本発明の対向ピストン型ディスクブレーキに於いては、上記キャリパの、上記1対の連結部のうち、車両への取り付け状態で下側となる一方の連結部を含む部分に、上記アウタシリンダ及びインナシリンダ同士を連通させる通油路を設けており、この通油路は、上記ロータの軸方向に対し平行で、且つ、上記両ボディ部の間で径方向外側に設けられた開口部の幅以上の長さを有する直線状通油孔と、この直線状通油孔の少なくとも一端に、この直線状通油孔から離れる程ロータの周方向に関して他方の連結部に近づく方向にこの直線状通油孔に対し傾斜する状態で連結した第二の直線状通油孔とを備えている。又、上記1対の連結部のうち、他方の連結部には、上記アウタシリンダ及びインナシリンダ同士を連通させる通油路を設けていない。
尚、本明細書及び特許請求の範囲で「周方向」とは、特に断らない限り、上記ロータの円周方向(=回転方向)を言い、同じく「径方向」とは、このロータの半径方向を言う。
【発明の効果】
【0014】
上述の様に構成する本発明の対向ピストン型ディスクブレーキの場合、キャリパの内部に設けた通油路が、ロータの軸方向に対し平行で、且つ、両ボディ部の間で径方向外側に設けられた開口部の幅以上の長さを有する直線状通油孔を備える。この為、前述の図16に示した従来構造の第2例の様な、ロータの外周を跨ぐ部分に存在する通油路がこのロータの軸方向に対し傾斜している構造の場合と異なり、ロータの外周を跨ぐ通油路の長さを短くできる。この為、制動時にロータの外周を跨ぐ部分の温度が上昇するのにも拘らず、この部分に存在する通油路内を流れる圧油の温度上昇を十分に抑える事ができる。しかも、本発明の場合には、キャリパ中に存在する通油路全体の長さも短くできる為、このキャリパ中に滞留する圧油の、キャリパ以外に存在する圧油も含めた圧油全量に対する割合を少なくできる。この為、制動時のキャリパの温度上昇に拘らず、圧油の温度上昇を、より有効に抑える事ができる。即ち、キャリパ内に存在する通油路全体の表面積を小さくできる事で、このキャリパから圧油に伝達される熱量を少なく抑え、この圧油の温度上昇を、より有効に抑える事ができる。
【0015】
又、キャリパ中に滞留する圧油の量を少なくできる事で、この圧油に溶け込んでいるエアーの量も少なくでき、高温時でのベーパロック現象の発生をより有効に抑える事ができる。更に、制動時の圧油の圧縮量を減らせる事ができると共に、インナ、アウタ両側での圧力発生に要する時間差を十分に短くでき、ブレーキペダルの踏み込みに対する制動の応答性をより高くできる。
【0016】
しかも、本発明の場合には、車両への取り付け状態で下側となる一方の連結部を含む部分に設けた通油路のうち、上記直線状通油孔の少なくとも一端に第二の直線状通油孔を連結している。又、この第二の直線状通油孔を、上記直線状通油孔から離れる程、ロータの周方向に関して、車両への取り付け状態で上側となる他方の連結部に近づく方向に、この直線状通油孔に対し傾斜させている。この為、前述の図17〜18に示した従来構造の第3例の場合と異なり、キャリパ内の通油路及び各シリンダをブレーキ油で満たす際に、キャリパの一部にエアーが溜まった状態になる事を十分に少なくでき、しかも、このキャリパの一部にエアー溜りが生じた場合でも、少ない回数のエアー抜きで、このエアー溜りを容易になくす事ができる。この為、ブレーキ油の注入作業に要する手間を軽減できると共に、ブレーキ油の交換作業の容易化を図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した様に、上記通油路を、上記直線状通油孔の両端に、それぞれこの直線状通油孔から離れる程ロータの周方向に関して他方の連結部に近づく方向にこの直線状通油孔に対し傾斜する状態で連結した第二、第三の直線状通油孔を備えたものとする。そして、これら直線状通油孔と第二、第三の直線状通油孔とを、上記キャリパの高さ方向に対し直交する同一の仮想平面上に位置させる。尚、「キャリパの高さ方向」とは、本明細書及び特許請求の範囲全体で、キャリパのうち、ロータの径方向内側に向く内側面が下側に向く様に水平面上に支持した状態で上下方向となる、ロータの中心軸に対し直交する方向を言う。
この好ましい構成によれば、上記直線状通油孔と第二、第三の直線状通油孔とが同一の仮想平面上に位置する為、キャリパ中に滞留する圧油の全量をより少なくでき、制動時の圧油の温度上昇をより有効に抑える事ができる。又、上記通油路を上記直線状通油孔と第二、第三の直線状通油孔とにより構成する為、キャリパに孔あけ加工を施す事により、これら各通油孔を容易に形成できる。この為、キャリパの内部にパイプを鋳ぐるみする必要がなくなり、部品点数の削減と軽量化とを図れる。更に、このキャリパを治具にセットし、その高さ方向と鉛直方向とを一致させた状態で、その高さ方向に動かす事なく、水平方向に移動させたり、回転させつつ、上記直線状通油孔と第二、第三の直線状通油孔とを容易に加工できる。又、この加工の際、ドリル、リーマ等の加工工具の位置はそのままで、上記キャリパを、水平面上の直線方向に移動させる、水平面上で回転させる等、水平方向に動かすだけで、上記各通油孔の総てを加工できる為、加工装置全体の構造を単純化でき、加工に要するコストを低減できる。
【0018】
又、より好ましくは、請求項3に記載した様に、上記直線状通油孔を、上記一方の連結部を含む上記キャリパの周方向一端部の、この周方向に関して上記開口部寄りに設ける。
このより好ましい構成によれば、キャリパ中に滞留する圧油の全量を更に少なくできる。この為、制動時の圧油の温度上昇をより有効に抑える事ができる。
【0019】
又、より好ましくは、車両への取り付け状態で上側面となる上記両ボディ部の側面に、アウタ側、インナ側両通油路の端部を開口させると共に、これら両通油路の上端部となる端部開口をそれぞれブリーダスクリュにより塞ぐ。
尚、「アウタ側、インナ側両通油路」は、それぞれ1本の通油孔のみにより構成したものだけに限定するものではなく、シリンダを介して別の通油孔同士を通じさせたものも「アウタ側、インナ側各通油路」とする。
このより好ましい構成によれば、上記各ブリーダスクリュを使用する事により、キャリパ内のエアー溜りの発生をより有効に防止できる。
【実施例1】
【0020】
図1〜8は、本発明の実施例1を示している。本実施例のディスクブレーキは、車輪と共に回転するロータ2を跨ぐ状態で配置されたキャリパ5cを備える。このキャリパ5cは、アルミニウム合金等の軽合金、或は鉄系合金の鋳造等により一体成形したもので、上記ロータ2の軸方向(図2、5の上下方向、図3、4、7の表裏方向)両側に配置されたアウタボディ部3c及びインナボディ部4cと、これら両ボディ部3c、4cの周方向(図1〜4、7の左右方向)両端部同士を一体成形によって連結する1対の連結部25a、25bとを備える。ディスクブレーキの車両への取り付け時には、上記1対の連結部25a、25bのうち、一方(図1〜3、5、7の右方、図4の左方)の連結部25aが、他方(図1〜3、5、7の左方、図4の右方)の連結部25bよりも下側になる様に、キャリパ5cを車体に取り付ける。このキャリパ5cの、ロータ2に関してインナ側(「インナ側」とは、車両への取り付け状態で車両の幅方向中央寄りとなる側を言い、図1、3、7の裏側、図2の上側、図4の表側、図5の下側。逆に、車両への取り付け状態で車両の幅方向外側となる、図1、3、7の表側、図2の下側、図4の裏側、図5の上側を「アウタ側」と言う。)の周方向両端部に取付孔26、26を設けており、これら各取付孔26、26に挿通した図示しないボルトにより、キャリパ5cを車体に取り付ける。
【0021】
例えば、図8に模式図で示す様に、同図の矢印αで示す車両の進行方向に関して車輪44の後側にキャリパ5cを配置する場合には、同図の左側で示す様に、キャリパ5cの高さ方向(図1、3、4、7の上下方向、図2、5の表裏方向)と水平方向(図8の左右方向)とが一致する様に車体に取り付けたり、図8の右側で示す様に、キャリパ5cの高さ方向が水平方向に対し傾斜する様に車体に取り付ける。これらの場合に、上記一方の連結部25aが上記他方の連結部25bよりも下側になる様に、キャリパ5cを車体に取り付ける。尚、キャリパ5cは、車両の進行方向に関して車輪44の後側に配置する場合だけでなく、車輪44の前側に配置する事もできる。この場合でも、上記一方の連結部25aが上記他方の連結部25bよりも下側になる様にキャリパ5cを車体に取り付ける。
【0022】
又、本実施例の場合には、上記両ボディ部3c、4cにそれぞれ3個ずつ、合計6個のアウタ、インナ各シリンダ7、8を設け、これら各シリンダ7、8にアウタピストン13、13(図16参照)とインナピストン14、14(図7)とを、それぞれ液密に且つ上記ロータ2の軸方向の変位自在に嵌装している。尚、図示の例の場合には、上記各シリンダ7、8の内径が、車両への取り付け状態で上側となる他方の連結部25bに近いもの程大きくなっている。
【0023】
又、上記両ボディ部3c、4cの間で径方向外側に設けられた開口部27の周方向中央部に、補強リブ28を、上記両ボディ部3c、4c同士の間に掛け渡す状態で設けている。又、上記キャリパ5cの内側にインナ、アウタ各パッド16a(インナパッド16aのみ図7に示し、アウタパッドの図示を省略する。)を、ロータ2の軸方向の変位を自在に支持している。この為に、上記各連結部25a、25bの内径側面(図1、3、4、7の下側面、図2の裏側面、図5の表側面)の、ロータ2の軸方向に離隔した4個所位置の、合計8個所位置に、図示しないねじ孔を、キャリパ5cの高さ方向(図1、3、4、7の上下方向、図2、5の表裏方向)に形成している。そして、図7に示す様に、これら各ねじ孔のうち、上記ロータ2の軸方向にのみ離隔した2個を1組としたねじ孔に螺合・緊締したボルト47、47により、キャリパ5cの内径側面に第一の受け板45、45及び第二の受け板46、46を結合固定している。このうちの各第一の受け板45、45は、ステンレス鋼板等の金属板により断面L字形に造っている。又、上記各第二の受け板46、46は、高剛性を有する金属板により、平板状に造っている。そして、上記第一、第二の各受け板45、46にそれぞれ2個ずつ形成した図示しない通孔にボルト47、47の雄ねじ部を挿通させた後、この雄ねじ部を上記各ねじ孔に螺合・緊締する事により、上記各受け板45、46を、上記各連結部25a、25bの内径側面の、ロータ2の軸方向に離隔した2個所ずつに結合固定している。この状態で、上記各第一の受け板45、45を構成する、上記キャリパ5cの高さ方向の受側壁部48、48の外側面は、上記各連結部25a、25bの内側面(各連結部25a、25b同士で互いに対向する側の面)に接触させている。又、上記各第二の受け板46、46の周方向一端部は、上記各第一の受け板45、45の内側面から周方向に突出させている。そして、上記各第二の受け板46、46のこの周方向に突出させた部分の径方向外側面(図7の上側面)と、上記各第一の受け板45、45の受側壁部48、48の内側面とより、断面L字形の係止部49、49を構成している。
【0024】
そして、これら各係止部49、49に、インナ、アウタ各パッド16aの周方向両端部を、ロータ2の軸方向の変位自在に係合させている。即ち、これら各パッド16aは、プレッシャプレート29aの片面にライニング17を添着して成る。そして、これら各プレッシャプレート29aの周方向両端部に設けた突部50、50を、上記各係止部49、49に係止している。又、上記各プレッシャプレート29aの外周縁の周方向中央部に径方向外側に突出する第二の突部51を設けると共に、これら各突部51の外周縁と前記補強リブ28の径方向内側面とを、径方向の僅かな隙間を介して対向させている。この構成により、上記各パッド16aは、キャリパ5cに対し、ロータ2の軸方向の変位を自在に支持される。又、制動時等に、上記各パッド16aが挙動した場合には、上記第二の突部28が上記補強リブ28の径方向内側面に接触し、これら各パッド16aの挙動を安定させる。
【0025】
一方、上記キャリパ5cに設けた前記各シリンダ7、8に、圧油を給排自在としている。そして、前記アウタ、インナ両ボディ部3c、4cと、前記1対の連結部25a、25bのうちの一方の連結部25aとの内部に通油路30(図5)を設け、この通油路30により、上記各シリンダ7、8のうちの一方の連結部25a側のシリンダ7、8を互いに連通させている。この通油路30は、上記一方の連結部25aを含むキャリパ5cの周方向一端部(図1〜3、5、7の右端部、図4の左端部)にそれぞれ設けた直線状通油孔32及び第二、第三の直線状通油孔33、34とを備える。このうちの直線状通油孔32は、上記ロータ2の軸方向に対し平行に設けている。又、この直線状通油孔32の、上記第二、第三の各直線状通油孔33、34との連結部までの実質的な長さL32(図5)を、上記両ボディ部3c、4cの間で径方向外側に設けた開口部27の幅W27(図5)以上としている(L32≧W27)。
【0026】
又、上記第二、第三の各直線状通油孔33、34は、上記直線状通油孔32の両端に、この直線状通油孔32から離れる程、ロータ2の周方向に関して前記他方の連結部25bに近づく方向にこの直線状通油孔32に対し傾斜する状態で連結している。そして、図5に示す様に、キャリパ5cをロータ2の径方向に見た場合に、上記直線状通油孔32の両端に上記第二、第三の各直線状通油孔33、34がハ字形に連結される様にしている。又、これら直線状通油孔32と第二、第三の各直線状通油孔33、34とを、キャリパ5cの高さ方向(図1、3、4、7の上下方向、図2、5の表裏方向)に対し直交する同一の仮想平面上に位置させている。
【0027】
又、上記直線状通油孔32は、上記一方の連結部25aを含むキャリパ5cの周方向一端部の、ロータ2の周方向に関して前記開口部27側(図5の左側)に設けている。言い換えれば、上記一方の連結部25aの周方向に関する全長をL1 (図5)とした場合に、この一方の連結部25aの開口部27側の側面から上記直線状通油孔32までの長さL2 (図5)を、L1 /2未満としている(L2 <L1 /2)。
【0028】
この様な直線状通油孔32及び第二、第三の各直線状通油孔33、34は、上記キャリパ5cに孔あけ加工を施す事により直接形成しており、これら各通油孔32〜34を構成する為にキャリパ5cにパイプを鋳ぐるみしていない。各通油孔32〜34を孔あけ加工で形成する事により、これら各通油孔32〜34の少なくとも一端は、加工直後にキャリパ5cの外面に開口する。この為、本実施例の場合には、これら各通油孔32〜34の一端開口を、図6に示す様な塞ぎ手段35により塞いでいる。この塞ぎ手段35は、円柱状の軸体36と、玉37とにより成る。このうちの軸体36は、外周面に雄ねじ部38を形成しており、基端面(図6の下端面)に直線状の係止溝39を形成している。又、上記各通油孔32〜34の一端開口には、他の部分よりも内径が大きくなった大径部40と、部分球面状の座面41とを設けている。そして、この大径部40の開口端寄り内周面に雌ねじ部42を形成している。この様な塞ぎ手段35により各通油孔32〜34の一端開口を塞ぐのには、上記大径部40の内側に上記玉37を挿入した状態で、上記軸体36の雄ねじ部38を上記雌ねじ部42に螺合し、上記係止溝39にマイナスドライバを係合させつつ、上記雄ねじ部38を上記雌ねじ部42に緊締する。これにより、上記軸体36の先端面(図6の上端面)が上記玉37に押し付けられ、この玉37の外面が上記座面41に押し付けられる。この様にして軸体36を上記各通油孔32〜34の一端開口に結合した状態では、この一端開口が液密に塞がれる。
【0029】
又、前記通油路30とは異なるアウタ側、インナ側両通油路52a、52bを上記アウタ、インナ各ボディ部3c、4cに設けており、各アウタシリンダ7、7同士、及び、各インナシリンダ8、8同士をそれぞれ連通させる通油孔31a、31bと、キャリパ5cの周方向両端寄りに設けた通油孔31c、31cとにより、上記アウタ側、インナ側各通油路52a、52bをそれぞれ構成している。そして、車両への取り付け状態で、上端面となる、インナ、アウタ各ボディ部3c、4cの、キャリパ5cの周方向他側面(図1、2、5の左側面)に1対のブリーダスクリュ24(図7)を結合している。そして、これら各ブリーダスクリュ24により、車両への取り付け状態で最も上端寄りに位置する、アウタ、インナ両ボディ部3c、4cに設けた通油孔31c、31cの上端となる一端開口を塞いでいる。又、車両への取り付け状態で、最も下端寄りに位置する通油孔31c、31cの、上記ブリーダスクリュ24とは反対側の端部開口は、前述の図6に示した塞ぎ手段35と同様の塞ぎ手段35(図7)により塞いでいる。車両への取り付け状態で、各通油孔31a、31b、31c(図7の右端部の通油孔31cを除く)の下端となる端部は、各シリンダ7、8の最も上端となる部分に開口させている。又、インナボディ部4cの周方向中央寄り部分に一端を開口させた給排口43(図3、5)の他端を、このインナボディ部4c内に設けた通油孔31bの中間部に通じさせている。車両への取り付け状態では、上記給排口43にブレーキホースの端部を接続し、このブレーキホースから前記各シリンダ7、8への圧油の給排を自在とする。又、本発明の場合、キャリパ5cの1対の連結部25a、25bのうち、他方の連結部25bには、アウタシリンダ7及びインナシリンダ8同士を連通させる通油路は設けていない。
【0030】
制動時には、上記キャリパ5cに支持された前記アウタ、インナ両パッド16aのライニング17を、前記各ピストン13、14により、ロータ2の両側面に押し付ける事で制動を行なう。
【0031】
上述の様に構成する本実施例の対向ピストン型ディスクブレーキの場合、キャリパ5cの内部に設けた通油路30が、ロータ2の軸方向に対し平行で、且つ、両ボディ部3c、4cの間で径方向外側に設けられた開口部27の幅W27以上の長さL32(≧W27)を有する直線状通油孔32を備える。この為、前述の図16に示した従来構造の第2例の様に、ロータ2の外周を跨ぐ部分に存在する通油路9がこのロータ2の軸方向に対し傾斜している構造の場合と異なり、ロータ2の外周を跨ぐ通油路30の長さを短くできる。従って、制動時に上記ロータ2の外周を跨ぐ部分の温度が上昇するのにも拘らず、この部分に存在する通油路30内を流れる圧油の温度上昇を十分に抑える事ができる。
【0032】
しかも、本実施例の場合には、キャリパ5c中に存在する通油路30、52a、52b全体の長さも短くできる。即ち、前述の図16に示した従来構造の第2例の場合には、図9(A)に略示する様に、キャリパ5aの周方向一端部に存在する通油路9を、ロータ2の軸方向(図9の上下方向)に対し傾斜した傾斜部10、10と接続部に設けた液封シール11とだけにより構成している。この為、上記通油路9のうちのロータ2の軸方向中央寄り部分が、開口部27aから大きく離れる。従って、上記キャリパ5aの周方向一端部に存在する通油路9の全長(La +Lb )は大きくなる。これに対して、図9(B)に略示する本実施例の構造の場合には、通油路30のうち、キャリパ5cの周方向一端部に存在する部分を、ロータ2の軸方向に対し平行な直線状通油孔32と、この直線状通油孔32に対し傾斜する状態で連結した第二、第三の各直線状通油孔33、34とにより構成している。この為、これら各通油孔32〜34の全体を開口部27の内周縁に大きく近付ける事ができ、これら各通油孔32〜34の全長(LA +LB +LC )を、図9(A)に示す構造の傾斜部10、10を組合せた長さ(La +Lb )よりも短くできる{(LA +LB +LC )<(La +Lb )}。
【0033】
この様に、キャリパ5c中に存在する通油路30、52a、52b全体の長さを短くできる本実施例の場合には、キャリパ5c中に滞留する圧油の、キャリパ5c以外に存在する圧油も含めた圧油全量に対する割合を少なくできる。この為、制動時のキャリパ5cの温度上昇に拘らず、圧油の温度上昇を、より有効に抑える事ができる。即ち、キャリパ5c内の通油路30、52a、52b全体の表面積を小さくできる事で、このキャリパ5cから圧油に伝達される熱量を小さく抑え、この圧油の温度上昇をより有効に抑える事ができる。
【0034】
又、キャリパ5c中に滞留する圧油の量を少なくできる事で、この圧油に溶け込んでいるエアーの量も少なくでき、高温時でのベーパロック現象の発生をより有効に抑える事ができる。更に、制動時の圧油の圧縮量を減らせる事ができると共に、インナ、アウタ両側での圧力発生に要する時間差を十分に短くでき、ブレーキペダルの踏み込みに対する制動の応答性をより高くできる。
【0035】
しかも、本実施例の場合には、1対の連結部25a、25bのうち、車両への取り付け状態で下側となる一方の連結部25aを含む部分に設けた通油路30のうち、上記直線状通油孔32の両端に、第二、第三の各直線状通油孔33、34を連結している。又、これら第二、第三の各直線状通油孔33、34を、上記直線状通油孔32から離れる程、ロータ2の周方向に関して、車両への取り付け状態で上側となる他方の連結部25bに近づく方向に、この直線状通油孔32に対し傾斜させている。この為、前述の図17〜18に示した従来構造の第3例の場合と異なり、キャリパ5c内の通油路30、52a、52b及び各シリンダ7、8をブレーキ油で満たす際に、キャリパ5cの一部にエアーが溜まった状態になる事を十分に少なくでき、しかも、このキャリパ5cの一部にエアー溜りが生じた場合でも、少ない回数のエアー抜きで、このエアー溜りを容易になくす事ができる。例えば、第二、第三の各直線状通油孔33、34にエアーが混入した場合でも、このエアーを、取り付け状態で上方に位置するブリーダスクリュ24を通じて容易に排出できる。又、水平方向に位置する直線状通油孔32の長さは、インナ、アウタ両側に位置する1対の通油路52a、52b同士の間隔よりも十分に小さくなる為、上記直線状通油孔32に入り込んだエアーも上記第二、第三の各直線状通油孔33、34内に容易に押し出され、これら各通油孔33、34を通じて容易に排出できる。この為、ブレーキ油の注入作業に要する手間を軽減できると共に、ブレーキ油の交換作業の容易化を図れる。
【0036】
又、本実施例の場合には、上記通油路30を、上記直線状通油孔32の両端に、それぞれこの直線状通油孔32から離れる程他方の連結部25bに近づく方向にこの直線状通油孔32に対し傾斜する状態で連結した第二、第三の直線状通油孔33、34を備えたものとし、これら直線状通油孔32と第二、第三の直線状通油孔33、34とを、上記キャリパ5cの高さ方向に対し直交する同一の仮想平面上に位置させている。この為、キャリパ5c中に滞留する圧油の全量をより少なくでき、制動時の圧油の温度上昇をより有効に抑える事ができる。
【0037】
又、上記通油路30を、上記直線状通油孔32と第二、第三の直線状通油孔33、34とにより構成する為、キャリパ5cに孔あけ加工を施す事により、これら各通油孔32〜34を容易に形成できる。この為、キャリパ5cの内部にパイプを鋳ぐるみする必要がなくなり、部品点数の削減と軽量化とを図れる。更に、このキャリパ5cを治具によりその高さ方向と鉛直方向とを一致させる様にして掴んだ状態で、このキャリパ5cをその高さ方向に動かす事なく、水平方向に移動させたり、鉛直方向の軸を中心とする回転方向に回転させ(水平面上で回転させ)つつ、上記直線状通油孔32と第二、第三の直線状通油孔33、34とを容易に加工できる。又、この加工の際、ドリル、リーマ等の加工工具の位置はそのままで、上記キャリパ5cを、水平面上の直線方向に移動させる、水平面上で回転させる等、水平方向に動かすだけで、上記各通油孔32〜34の総てを加工できる為、キャリパ5c側の加工装置全体の構造を鉛直方向に移動させる機能を持たないものに単純化でき、加工に要するコストを低減できる。
【0038】
更に、本実施例の場合には、上記直線状通油孔32を、上記一方の連結部25aを含むキャリパ5cの周方向一端部の、前記ロータ2の周方向に関して開口部27寄りに設けている。この為、上記キャリパ5c内に存在する通油路30、52a、52b全体の長さをより短くでき、キャリパ5c中に滞留する圧油の全量を更に少なくできる。この為、制動時の圧油の温度上昇をより有効に抑える事ができる。
【0039】
尚、本実施例の場合には、キャリパ5cにアウタ、インナ各パッド16aを支持する為に、このキャリパ5cに第一、第二の受け板45、46を結合固定し、これら各受け板45、46の一部により構成した係止部49、49に、上記各パッド16aの周方向両端部を係合している。但し、本発明は、この様な構造に限定するものではなく、キャリパ5cに対する各パッド16aの支持構造は、従来から知られている構造を含め種々の構造を採用できる。例えば、キャリパ5cの補強リブ28を周方向両側から挟む2個所位置に、1対のパッドピンを、前記開口部27にロータ2の軸方向に掛け渡す状態で支持すると共に、上記各パッド16aのプレッシャプレート29aの一部に形成した通孔内に、上記各パッドピンの中間部を軸方向の摺動自在に挿通させる事もできる。
又、本発明は、アウタシリンダ7、7同士、インナシリンダ8、8同士を、別個の通油孔31a、31bにより連通させた構造に限定するものではない。例えば、アウタシリンダ7、7同士、インナシリンダ8、8同士を、それぞれ1本の直線状の通油孔により連通させる事もできる。
【実施例2】
【0040】
次に、図10〜11は、本発明の実施例2を示している。本実施例の対向ピストン型ディスクブレーキの場合には、インナボディ部4cの周方向(図10、11の左右方向)中央部にキャリパ5d内に圧油を給排する為の給排口を設けず、その代わりに、一方の連結部25aに、ロータ2の軸方向(図10、11の上下方向)に対し平行に設けた直線状通油孔32aの一端(図11の下端)開口を、給排口43aとして使用している。この為に、この一端開口には、ブレーキホースの端部を接続自在としている。
その他の構成及び作用に就いては、上述の実施例1と同様である為、同等部分には同一符号を付して重複する説明並びに図示は省略する。
【0041】
次に、図12は、本発明の実施例3を示している。本実施例の対向ピストン型ディスクブレーキの場合には、アウタボディ部3c(図1、2、4、5参照)とインナボディ部4cとにそれぞれ2個ずつ、合計4個のアウタシリンダ7(図4、5参照)とインナシリンダ8、8とを設けている。そして、これら各シリンダ7、8にアウタピストン13、13(図16参照)と、インナピストン14、14とを、それぞれ液密に且つ軸方向の変位自在に嵌装している。又、上記アウタ、インナ各ボディ部3c、4cにアウタ側、インナ側両通油路53(インナ側通油路53のみ図示し、アウタ側通油路の図示は省略する。)を設けている。これら各通油路53は、各アウタシリンダ3c同士及び各インナシリンダ4c同士をそれぞれ連通させる第一通油孔54aと、他方の連結部25b寄りに設けた第二通油孔54bとにより構成している。アウタボディ部3cに設けた第一、第二通油孔と、インナボディ部4cに設けた第一、第二通油孔54a、54bとは、それぞれ同一の仮想直線上に位置しており、加工時には、ドリル、リーマ等の加工工具により、第一、第二通油孔54a、54bを、アウタボディ部3c側とインナボディ部4c側とでそれぞれ同時に加工する。又、アウタボディ部3c側の第一、第二通油孔同士を含む仮想直線と、インナボディ部4c側の第一、第二通油孔54a、54b同士を含む仮想直線とに、それぞれ各シリンダ7、8の中心軸が直角に交わる様にしている。
【0042】
又、キャリパ5eの高さ方向(図12の上下方向)に対し直交し、一方の連結部25a寄りの通油路30を構成する直線状通油孔32、第二の直線状通油孔33(図5、6参照)、第三の直線状通油孔34を含む同一の仮想平面上に、上記各通油孔54a、54bを位置させている。又、車両への取り付け状態で最も上端寄りに位置する、アウタ側、インナ側各通油路53を構成する第二通油孔54bの上端となる一端開口を、ブリーダスクリュ24により塞いでいる。
【0043】
上述の様に構成する本実施例の構成によれば、キャリパ5eを治具にセットした状態で、このキャリパ5eをその高さ方向に動かす事なく、キャリパ5eを水平方向に移動させたり、回転させつつ、上記直線状通油孔32及び第二、第三の直線状通油孔33、34と、上記第一、第二通油孔54a、54bとを、容易に加工できる。又、加工の際には、上記加工工具の位置はそのままで、キャリパ5eを水平方向に動かすだけで、上記各通油孔32〜34、54a、54bの総てを加工できる。この為、上記各通油孔32〜34、54a、54bの総てを加工できる、キャリパ5e側の加工装置の構造をより単純にでき、加工に要するコストをより低減できる。
その他の構成及び作用に就いては、前述の図1〜8に示した実施例1の場合と同様である為、同等部分には同一符号を付して重複する説明は省略する。
【0044】
次に、本発明の発明者が本発明の効果を確認すべく行なった第一、第二の実験結果を、図13〜14を用いて説明する。先ず、第一の実験は、本発明により圧油の温度上昇を抑える事ができると言った効果を得られる事を、確認する為に行なった。この実験は、前述の図16に示した従来構造の第2例の様に、ロータ2の外周を跨ぐ部分に存在する通油路9を1対の傾斜部10、10により構成した、長い通油路9を有する構造の比較品1と、前述の図1〜8に示した実施例1の構造を有する本発明品とを使用した。そして、これら比較品1と本発明品とを用いて、同一のダイナモシミュレーション試験を行ないつつ、アウタボディ部3a、3cの圧油の温度(ブレーキ液温)を測定した。本実験では、この温度として、インナ側の通油孔31cの端部を塞ぐ状態で設けたブリーダスクリュ24(図17参照)近辺の温度を測定した。又、この実験に於いて、アウタパッドの温度を同時に測定したところ、本発明品と比較品1とで、このアウタパッドの温度は殆ど一致した。この事から、温度測定時の条件が同じであり、しかも温度測定の精度が良好である事を確認できた。図13は、この様にして行なった第一の実験結果を示している。この図13に示した第一の実験結果から明らかな様に、所定時間の経過後に、本発明品は、比較品1に対して、アウタ側の圧油の温度を5〜10℃程度低下できた。この様に本発明品により、圧油の温度を比較品1に比べて低下できた理由は、本発明で次の(1)(2)の構成を採用した事にある。
(1) 車両への取り付け状態で下側となる一方の連結部25aを含む部分に設けた直線状通油孔32が、ロータ2の軸方向に対して平行となっており、しかも、この直線状通油孔32の両端に、それぞれこの直線状通油孔32から離れる程ロータ2の周方向に関して他方の連結部25bに近づく方向にこの直線状通油孔32に対し傾斜した第二、第三の両直線状通油孔33、34を連結している。
(2) 上記直線状通油孔32を、上記一方の連結部25aを含むキャリパ5cの周方向一端部の、この周方向に関して開口部27寄りに設けている。
【0045】
次に、図14にその実験結果を示す、第二の実験に就いて説明する。この第二の実験は、本発明によりエアー抜け性を良好にできると言った効果を得られる事を確認する為に行なった。又、この実験は、前述の図17〜18に示した従来構造の第3例の様に、中間リブ19を含む部分に設けた通油孔20bと、この通油孔20bの両側に連結した2本の通油孔20a、20cとが、車両への取り付け状態で水平方向に位置する構造を有する比較品2と、前述の図1〜8に示した実施例1の構造を有する本発明品とを用いて行なった。そして、この比較品2と本発明品とを用いて、エアー抜き回数に対応する、キャリパ5cに送り込むブレーキ油量の変化率を求めた。この為に、先ず、ブリーダスクリュ24(図7)、インナピストン14(図7)、アウタピストン13(図16参照)、図示しないピストンシールを取り外して、キャリパ5cの全体をブレーキ油に浸し、ブレーキ油内でこれらの部品を組み付けて、キャリパ5c内の通油路30、52a、52b内がブレーキ油で完全に満たされた状態で、給排口43を通じてブレーキ油に所定の油圧を加えた場合に、キャリパ5c内に送り込まれるブレーキ油量を求め、これを基準量とした。
【0046】
又、本発明品と比較品2とで、それぞれ車両への取り付け状態で、インナ、アウタ両側の1対のブリーダスクリュ24をそれぞれ1回ずつ操作して、エアー抜きを行なう作業を1回のエアー抜きとした。そして、1回毎のエアー抜きで所定の油圧を加えた場合にキャリパ5c内に送り込まれるブレーキ油量の、上記基準量に対する変化率を求めた。この変化率が多い程、キャリパ5c内にエアー溜りが多く生じている事になる。この為、この変化率は、キャリパ5c内にエアー溜りが生じている割合(残留エアー率)に対応する。言い換えれば、この残留エアー率が0に近い程、キャリパ5c内に殆どエアー溜りが生じていない事を意味する。
【0047】
この様にして、エアー抜きを行ないながら残留エアー率を測定した、第二の実験結果を、図14に示している。この図14に示した第二の実験結果から明らかな様に、本発明品の場合は、比較品2に対して、より少ない回数で、エアー溜りをより少なくする事ができ、しかもエアー抜きの回数を多くする事により、残留エアーを殆どなくす事ができた。これに対して、比較品2の場合には、エアー抜きの回数を多くしても、残留エアー率を10%よりも小さくする事ができなかった。この様に本発明品でエアー抜け性を良好にできた理由は、本発明で前述の(1)の構成を採用した事にある。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施例1を構成するキャリパを取り出して、一部を省略して示す斜視図。
【図2】同ロータの径方向外側から見た図。
【図3】図2のA−A断面図。
【図4】同B−B断面図。
【図5】図1をロータの径方向内側から見た図。
【図6】図5のC部部分の拡大断面図。
【図7】インナピストン及びインナパッドを組み付けた状態で示す、図2のD−D断面相当図。
【図8】キャリパを車両に組み付けた状態で示す模式図。
【図9】本発明により通油路の長さを従来構造の場合よりも短くできる事を説明する為の、(A)は従来構造を、(B)は実施例1を、それぞれ示す、図5の右端部に相当する略図。
【図10】本発明の実施例2を構成するキャリパを取り出して示す、図2と同様の図。
【図11】同じく図5と同様の図。
【図12】本発明の実施例3を示す、図7と同様の図。
【図13】第一の実験結果を示すグラフ。
【図14】第二の実験結果を示すグラフ。
【図15】従来構造の第1例を示す斜視図。
【図16】同第2例を示す断面図。
【図17】同第3例を、一部を省略して示す断面図。
【図18】一部を省略して示す、図17のE−E断面図。
【符号の説明】
【0049】
1 ディスクブレーキ
2 ロータ
3、3a、3b、3c アウタボディ部
4、4a、4b、4c インナボディ部
5、5a、5b、5c、5d、5e キャリパ
6a、6b パイプ
7 アウタシリンダ
8 インナシリンダ
9 通油路
10 傾斜部
11 液封シール
12 給排口
13 アウタピストン
14 インナピストン
15 アウタパッド
16、16a インナパッド
17 ライニング
18a、18b 連結部
19 中間リブ
20a、20b、20c 直線状通油孔
21 通油路
22 第二の直線状通油孔
23 第三の直線状通油孔
24 ブリーダスクリュ
25a、25b 連結部
26 取付孔
27、27a 開口部
28 補強リブ
29、29a プレッシャプレート
30 通油路
31a、31b、31c 通油孔
32、32a 直線状通油孔
33 第二の直線状通油孔
34 第三の直線状通油孔
35 塞ぎ手段
36 軸体
37 玉
38 雄ねじ部
39 係止溝
40 大径部
41 座面
42 雌ねじ部
43、43a 給排口
44 車輪
45 第一の受け板
46 第二の受け板
47 ボルト
48 受側壁部
49 係止部
50 突部
51 第二の突部
52a アウタ側通油路
52b インナ側通油路
53 インナ側通油路
54a 第一通油孔
54b 第二通油孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転するロータを挟んで設けられたアウタボディ部及びインナボディ部を一体化したキャリパと、これら両ボディ部に、互いに対向して設けられたアウタシリンダ及びインナシリンダと、これら各シリンダ内に上記ロータの軸方向に関する変位自在に嵌装されたピストンと、この軸方向に関する変位を自在に上記キャリパに支持された1対のパッドとを備え、このキャリパは、上記両ボディ部の周方向両端部同士を1対の連結部により連結している対向ピストン型ディスクブレーキに於いて、
上記キャリパの、上記1対の連結部のうち、車両への取り付け状態で下側となる一方の連結部を含む部分に、上記アウタシリンダ及びインナシリンダ同士を連通させる通油路を設けており、この通油路は、上記ロータの軸方向に対し平行で、且つ、上記両ボディ部の間で径方向外側に設けられた開口部の幅以上の長さを有する直線状通油孔と、この直線状通油孔の少なくとも一端に、この直線状通油孔から離れる程ロータの周方向に関して他方の連結部に近づく方向にこの直線状通油孔に対し傾斜する状態で連結した第二の直線状通油孔とを備えており、上記1対の連結部のうち、他方の連結部には、上記アウタシリンダ及びインナシリンダ同士を連通させる通油路を設けていない事を特徴とする対向ピストン型ディスクブレーキ。
【請求項2】
上記通油路が、上記直線状通油孔の両端に、それぞれこの直線状通油孔から離れる程ロータの周方向に関して他方の連結部に近づく方向にこの直線状通油孔に対し傾斜する状態で連結した第二、第三の直線状通油孔を備えたものであり、これら直線状通油孔と第二、第三の直線状通油孔とが、キャリパの高さ方向に直交する同一の仮想平面上に位置している、請求項1に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ。
【請求項3】
上記直線状通油孔が、上記一方の連結部を含む上記キャリパの周方向一端部の、この周方向に関して上記開口部寄りに設けられている、請求項1又は請求項2に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−78055(P2010−78055A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247065(P2008−247065)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】