説明

対象位置検出装置及び対象位置検出方法

【課題】雑音の影響を低減して対象の位置を検出できる対象位置検出装置を提供する。
【解決手段】定常的な雑音及び周囲に存在する対象から発生する対象発生音を含む音波を入力する音波入力部10と、単位時間毎の音波に基づいて対象の方向を示す複数の方向推定値を算出する方向推定部22と、方向推定値を方向毎に計量化することにより、第1計量化データを作成する計量化処理部23と、定常的な雑音に基づく方向推定値が方向毎に計量化されたデータとして、第2計量化データを記憶する計量化データ記憶部31と、第1計量化データから、第2計量化データを減算することにより、対象発生音に基づく方向推定値が方向毎に計量化されたデータとして、第3計量化データを作成する減算処理部24と、第3計量化データから対象の方向を検出する方向検出部25とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雑音の影響を低減して対象の位置を検出する対象位置検出装置及び対象位置検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
音声信号処理において、加法性雑音を取り除く有効な手法としてスペクトルサブトラクション法が提案されている(特許文献1参照)。スペクトルサブトラクション法は、雑音のスペクトルを推定し、入力信号のスペクトルから推定した雑音のスペクトルを減算することにより、所望の音声信号を得るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−215568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、スペクトルサブトラクション法は、位相領域における減算は行わないため、音源の方向の検出等、位相情報に含まれる加法性雑音の除去が必要な分野には有効でない。
本発明は、上記問題点を鑑み、雑音の影響を低減して対象の位置を検出できる対象位置検出装置及び対象位置検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
音波入力部は、定常的な雑音及び周囲に存在する対象から発生する対象発生音を含む音波を入力する。方向推定部は、単位時間毎の音波に基づいて対象の方向を示す複数の方向推定値を算出する。計量化処理部は、方向推定値を方向毎に計量化することにより、第1計量化データを作成する。計量化データ記憶部は、定常的な雑音に基づく方向推定値が方向毎に計量化されたデータとして、第2計量化データを記憶する。減算処理部は、第1計量化データから、第2計量化データを減算することにより、対象発生音に基づく方向推定値が方向毎に計量化されたデータとして、第3計量化データを作成する。方向検出部は、第3計量化データから対象の方向を検出する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、計量化された領域において減算することで、雑音の影響を低減して対象の位置を検出できる対象位置検出装置及び対象位置検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置の基本的な構成を説明するブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置が備える音波入力部のを説明するブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置が音波を入力する様子を説明する模式的な図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る対象位置検出方法を説明するフローチャートである。
【図5】本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置の処理工程を図示した一例である。
【図6】(a),(b),(c)は、本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置の計量化データを図示した一例である。
【図7】(a),(b),(c)は、本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置の計量化データを図示した一例である。
【図8】本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置が入力する音波信号を図示した一例である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、以下に示す実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、下記の実施の形態に例示した装置や方法に特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0009】
(対象位置検出装置)
本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置は、例えば、車両等の移動体に搭載され、移動体の周囲に存在する対象から発生する対象発生音に基づいて、移動体から見た対象の相対位置を検出する。検出される対象は、例えば、移動体に接近する車両等である。
【0010】
本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置は、図1に示すように、周囲の音波を入力し、入力した音波を離散信号に変換して出力する音波入力部10と、本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置が行う種々の演算を処理する処理部20と、プログラムファイル等を含む種々のデータを記憶する記憶部30と、本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置が搭載される移動体の状態を検出する状態検出部40とを備える。
【0011】
音波入力部10は、図2に示すように、音波を検出するセンサ部11-1,11-n(n:正の整数)と、センサ部11-1,11-nが検出した音波を示す信号を増幅する増幅器12と、増幅器12が増幅した信号をA/D変換して離散化するAD変換器13とを備える。センサ部11-1,11-nは、例えば、マイクロフォン、ハイドロフォン等の音響デバイスから構成される。センサ部11-1,11-nは、図3に示すように、検出する音波の音圧の勾配(音圧の空間微分)を得るため、複数設けられる。図3に示すように音源の方向を示す方位角θを考えると、方位角θは、θ=sin−1(n)と表すことができる。信号処理により音圧の勾配を得ることができれば、センサ部11-1,11-nの数は、複数である必要はなく、単数であって構わない。
【0012】
音波入力部10が入力する音波は、定常的な雑音及び周囲に存在する対象から発生する対象発生音を含む。音波入力部10は、入力した音波を示す電気信号である音波信号を処理部20に出力する。
【0013】
処理部20は、音波入力部10から出力された音波信号を処理する音波信号処理部21と、音波信号処理部21により処理された単位時間毎の音波信号に基づいて、対象の相対的な方向を示す複数の方向推定値ESを算出する方向推定部22と、音波信号に基づく方向推定値ESを方向毎に計量化することにより、第1計量化データHS1(d)を作成する計量化処理部23と、第1計量化データHS1(d)から、予め記憶部30に記憶された第2計量化データHS0(d)を減算することにより、対象発生音に基づく方向推定値ESが方向毎に計量化されたデータとして、第3計量化データHS2(d)を作成する減算処理部24と、第3計量化データHS2(d)から対象の方向を検出する方向検出部25と、記憶処理部26と、読出処理部27とを備える。処理部20は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)等の演算処理装置からなる。
【0014】
方向推定部22は、例えば、時空間勾配法により、周波数ビン毎、複数の周波数ビンをまとめたブロック毎、又は時間周波数毎に方向推定値を求めることができる。或いは、単位時間の更に短いブロックの時間毎に1つの方位推定値を求めるようにしても良い。方向推定値を求める手法は、時空間勾配法に限るものでなく、相互相関法により、周波数毎に算出するようにしても良い。
【0015】
記憶部30は、定常的な雑音に基づく方向推定値ES(τ,ω)が方向毎に計量化されたデータとして、第2計量化データHS0(d)を記憶する計量化データ記憶部31と、移動体が車両の場合におけるタイヤの情報等、移動体に関する情報を記憶する移動体情報記憶部32と、地図上の位置に応じた環境を記憶する地図情報記憶部33とを備える。記憶部30は、例えば、半導体メモリ、ハードディスク装置等の記憶装置から構成される。
【0016】
状態検出部40は、移動体の移動状態を検出する移動状態検出部41と、移動体の周囲の環境を検出する移動環境検出部42と、移動体の位置を検出する位置検出部43とを備える。移動状態検出部41は、例えば移動体が自動車の場合、CAN(Controller Area Network)等に接続され、例えば移動体の速度、エンジンの回転数、ギヤ比等、移動体の移動状態を示す情報を検出する。移動環境検出部42は、移動体の周囲にある壁、高架等、環境を示す情報を検出する。また、移動環境検出部42は、ワイパ動作を検知し、雨天であることを検出するようにしても良い。位置検出部43は、例えば全地球測位システム(GPS)受信器等から構成される。移動環境検出部42は、例えば、位置検出部43が検出した移動体の現在位置情報を用いて、地図情報記憶部33を参照することにより、移動体の周囲の環境に関する情報を検出する。
【0017】
図1に示す処理部20、記憶部30、状態検出部40は、それぞれ論理構造としての表示であり、処理部20、記憶部30、状態検出部40それぞれを構成する各部は、同一のハードウェアである演算処理装置により構成されて良く、別個のハードウェアにより構成されても構わない。
【0018】
減算処理部24による減算処理は、第1計量化データHS1(d)の作成より前に算出された方向推定値ESを方向毎に計量化することにより作成され、計量化データ記憶部31に記憶された第2計量化データHS0(d)を用いる。第2計量化データHS0(d)は、例えば、計量化処理部23が、単位時間毎の音波信号に基づく方向推定値ESを方向毎に計量化することにより作成され、以降に作成された第1計量化データHS1(d)から減算処理部24が減算するようにして良い。
【0019】
計量化処理部23が作成する計量化データの方向の範囲は、例えば、道路を走行する車両の前方及び後方にあわせて−90°〜90°の180°とすることができる。
【0020】
処理部20の記憶処理部26は、計量化処理部23が作成した第2計量化データHS0(d)を計量化データ記憶部31に記憶させる。計量化データ記憶部31が記憶する第2計量化データHS0(d)は、移動体の移動中に随時計算、記憶されるようにしても良く、予め、状態検出部40が検出可能な移動体の状態に応じた複数の種類の第2計量化データHS0(d)が記憶されるようにしても良い。
【0021】
読出処理部27は、計量化データ記憶部31に記憶された第2計量化データHS0(d)を読み出す。減算処理部24は、読出処理部27が計量化データ記憶部31から読み出した第2計量化データHS0(d)を用いて第3計量化データHS2(d)を作成する。
【0022】
(方向推定の処理の一例)
方向推定部22は、例えば、以下に原理を説明する時空間勾配法により、方向推定値を求めることができる。方向推定値を求める手法は、時空間勾配法に限るものでなく、相対的な角度に対応する値が求められれば、相互相関法等、他の手法を用いても構わない。
音圧をf(t)、音圧の時間微分をf(t)とすると、音圧の空間微分f(t),f(t),f(t)は、以下の式(1)〜(3)のように表される。
【0023】
【数1】


【数2】

【数3】

【0024】
,n,nは、観測点となるセンサ部11の中心から音源となる対象方向の単位ベクトルの要素である。Rは観測点から音源までの距離、Cは温度の関数である音速を示す。式(1)〜式(3)は、音源が1つの点音源であれば、音圧と、音圧の時間微分及び音圧の空間微分とは、従属関係にある。以下、式(1)〜式(3)を「波源拘束偏微分方程式」という。
【0025】
観測点の任意の時間における音圧、音圧の時間微分、音圧の空間微分を取得し、波源拘束偏微分方程式を適用することで、音源となる対象の位置を算出することができる。例えば、入力された時間領域の音波信号を、適当な時間間隔の窓関数を適用してフレームに分解する。その後、短時間フーリエ変換によって、周波数領域に変換した音波信号を用いて、音源の方向を推定する。
【0026】
任意の周波数における音圧をF(ω)、音圧の時間微分をF(ω)とすると、音圧の空間微分F(ω),F(ω),F(ω)は、以下の式(4)〜式(6)のように表される。
【0027】
【数4】

【数5】

【数6】

【0028】
式(4)〜式(6)について、方向毎に独立して最小二乗法を適用することで、ベクトルの3軸方向の要素を得ることができる。ここで、対象の水平面の位置を除外すれば、ベクトルnの要素であるn,n,nのいずれか1つが求まればよい。
以下、nの解法を例として説明する。式(4)を変形して、式(7)の二乗誤差が最小となるようなn及び距離Rを求める。
【0029】
【数7】

式(8)〜式(13)のようにS,Stt,Sxx,S,S,Sxtを定める。
【0030】
【数8】

【数9】

【数10】

【数11】

【数12】

【数13】

このとき、ベクトルnの要素、及び距離Rは、式(14)、式(15)から求めることができる。この場合、ベクトルnの要素が方向推定値に対応する。
【0031】
【数14】

【数15】

【0032】
なお、式(8)〜式(13)は、短時間フーリエ変換によって、得られたすべての周波数帯域について総和を計算しており、任意の時間区間に対し唯一の方向推定結果を計算している。式(14)、式(15)の結果は、式(8)〜式(13)を総和でなく周波数毎に計算することで、周波数毎に方位推定結果を得ることも可能である。
【0033】
(対象位置検出方法)
図4のフローチャートを用いて、本発明の実施の形態に係る対象位置検出方法の一例について説明する。
先ず、ステップS1において、本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置は初期化され、ステップS2において、音波信号処理部21は、音波入力部10が入力した音波を離散的な音波信号として音波入力部10から入力し、信号処理する。
【0034】
ステップS2における信号処理として、音波信号処理部21は、例えば、図5のステップS10-1,S10-nに示すように、音波入力部10が備えるセンサ部11-1,11-nにおいてそれぞれ検出された音波について信号処理を行う。音波信号処理部21は、例えば、音波信号にハン窓等の窓関数を適用することにより短時間毎に分解したフレームτに対し、短時間フーリエ変換を行い、フレーム毎に周波数領域の信号(全体として時間周波数領域の信号)に変換する。
【0035】
次に、図4のステップS3(図5のステップS12に相当)において、方向推定部22は、単位時間毎の音波信号に基づいて、対象の方向を示す方向推定値ESを算出する。方向推定部22は、例えば、時空間勾配法を用いて方向推定値ESを算出する。このとき、算出される方向推定値ESは、周波数ビン毎、又はフレームτ毎に算出される。方向推定部22により算出される方向推定値ESは、例えば、時空間勾配法により、周波数毎、単位時間の更に短いブロックの時間毎、又は時間周波数毎に算出される。或いは、方向推定値ESは、相互相関法により、周波数毎に算出するようにしても良い。
【0036】
方向推定部22による方向推定値ESの算出は、例えば、図5のステップS11に示すように、音波信号処理部21により処理された音波信号から、音圧(ステップS111)、音圧の時間微分(ステップS112)、音圧の空間微分(ステップS113)を算出してから行われる。
【0037】
次に、図4のステップS4(図5のステップS13に相当)において、計量化処理部23は、方向推定部22が算出した方向推定値ESを方向毎に計量化することにより、第1計量化データHS1(d)を作成する。第1計量化データHS1(d)は、例えば図6(a)に示すように、ヒストグラムとして表すことができる。
【0038】
次に、図4のステップS5において、減算処理部24は、計量化処理部23が計量化した第1計量化データHS1(d)を、予め設定された、方向毎のブロック数で正規化する。
【0039】
次に、ステップS6において、読出処理部27は、計量化データ記憶部31から第2計量化データHS0(d)を読み出す(図5のステップS135に相当)。減算処理部24は、計量化処理部23が計量化し、正規化した第1計量化データHS1(d)から、読出処理部27が計量化データ記憶部31から読み出した第2計量化データHS0(d)を減算し、第3計量化データHS2(d)を算出する(図5のステップS14に相当)。このとき、HS1(d)又はHS0(d)の絶対値を制御する係数βを、HS1(d)又はHS0(d)に乗ずることにより、HS2(d)のバランスを調整し、方向検出における精度劣化を低減することができる。係数βは、方向毎に設定されても良い。
【0040】
次に、図4のステップS7において、減算処理部24は、ステップS6において算出された第3計量化データHS2(d)が、0より小さいか否かを判定する。HS2(d)が、0より小さい負値である場合、減算処理部24は、ステップS8において、負値を0又は微小な値に置き換える。
【0041】
次に、図4のステップS8(図5のステップS15に相当)において、方向検出部25は、第3計量化データHS2(d)から、対象の方向を検出する。正規化された第2計量化データHS0(d)は、例えば、図6(b)のようなヒストグラムとして表すことができ、図6(a)に示す第1計量化データHS1(d)から、図6(b)に示す第2計量化データHS0(d)を減算して得られた第3計量化データHS2(d)は、例えば図6(c)に示すようなヒストグラムとして表すことができる。減算処理部24は、第2計量化データHS0(d)を、予め設定された、方向毎のブロック数で正規化する。方向検出部25は、図6(c)に示すように、第3計量化データHS2(d)のヒストグラムのピーク位置、又は尖度の大きい山から、対象の方向を検出する。
【0042】
−移動体の状態が取得可能な場合−
本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置は、例えば、移動体が車両の場合、事前に、プルービンググラウンドのように、状態が決められた道路と、他に車両が存在しない状況下で収録した走行雑音を定常的な雑音として収録し、その走行雑音に基づいた様々な第2計量化データを計量化データ記憶部31に記憶させておくことができる。この場合、記憶処理部26が車両の状態に関連付けて計量化データ記憶部31に記憶させておき、読出処理部27が走行中の車両の状態に応じて、第2計量化データHS0(d)を読み出す。
【0043】
発明者らの検討に拠れば、タイヤから発生するロードノイズと風切り音は、検出される方向において、自車位置(0°)と同じ位置付近に定位し、かつ、車速が高まるに連れ帯域広がり、自車位置付近のヒストグラムの尖度が高まっていく傾向にあった。対象の方向の検出において、ロードノイズ、風切り音の雑音の影響を除去するため、既知の環境におけるこれらの雑音から、第2計量化データHS0(d)を計算し計量化データ記憶部31に記憶させる。
【0044】
ロードノイズ、風切り音等からなる雑音は、車両の速度が低速の場合、例えば図7(a)に示すように、正規化されたヒストグラムは広がった方向にピークをもつ。一方、車両の速度が高速の場合、図7(b)に示すように、正規化されたヒストグラムは自車位置付近に高い尖度のピークをもつ。図7(c)は、高速道路入り口付近に頻出する自車周辺に存在する壁において反射した走行雑音に基づいて作成され、正規化されたヒストグラムの例である。この場合、自車位置および自車位置前方付近にピークを有する分布となる。
【0045】
その他、車両が電気自動車(EV)の場合、時速20km周辺を境に、雑音の特性が変化するので、車速に応じて、異なる第2計量化データHS0(d)を記憶させることも有効である。
【0046】
このように、計量化データ記憶部31は、状態検出部40が検出可能な移動体の状態に応じて、様々な第2計量化データHS0(d)を記憶することが可能である。読出処理部27は、状態検出部40が検出する状態に応じて、対応する第2計量化データHS0(d)を読み出すことができる。
【0047】
−移動体の状態が取得不能の場合−
本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置は、例えば、第3計量化データHS2(d)の算出に用いる第2計量化データHS0(d)を、第1計量化データHS1(d)の算出の数フレーム前に算出することで、状態検出部40等を備えず、移動体の状態が未知の場合であっても加法性の雑音の影響を低減し、対象の方向を検出することができる。
【0048】
例えば、図8に示すように、フレームτにおいて入力した音波信号を基づく第1計量化データHS1(d)の減算に用いる第2計量化データHS0(d)は、フレームτより前のフレームτ1−α(α:1以上の整数)において入力された音波信号を用いる。例えば、第2計量化データHS0(d)の作成に用いるフレームは、例えば、現在のフレームτの信号の総和エネルギと同じ、または小さいフレームを選択すると良い。例えば、図8に示すように、第2計量化データHS0(d)の作成に用いるフレームとして、例えば、現在のフレームτの信号と比較してエネルギが大きいフレームτ−1は選択せず、フレームτ−2を選択するようにすれば良い。
【0049】
本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置によれば、対象の検出に用いる音波に含まれる加法性の雑音を、方向推定値を計量化したヒストグラム領域で減算することにより、雑音の影響を低減して対象の位置を検出できる。
【0050】
また、本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置によれば、移動体の状態を検出する状態検出部40を備え、移動体の状態に応じて第2計量化データを用いて減算することにより、適切に加法性の雑音の影響を低減できる。
【0051】
また、本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置によれば、定常的な雑音として移動体から発生する音に基づく第2計量化データを記憶することにより、適切に加法性雑音の影響を低減できる。
【0052】
また、本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置によれば、定常的な雑音として移動体から発生し、周囲において反射した音に基づく第2計量化データを記憶することにより、適切に加法性雑音の影響を低減できる。
【0053】
また、本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置によれば、地図情報記憶部33、位置情報検出部43を備えることにより、移動体の周囲の環境を考慮して、適切に加法性雑音の影響を低減できる。
【0054】
また、本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置によれば、移動状態検出部41を備えることにより、移動体の移動状態に応じて適切に加法性雑音の影響を低減できる。
【0055】
また、本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置によれば、計量化処理部23により作成された第2計量化データを用いて減算することにより、移動体の状態が取得不能の場合であっても、加法性の雑音の影響を低減できる。
【0056】
また、本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置によれば、音波入力部10が複数のセンサ部11を備えることにより、容易に音圧の勾配を取得することができる。
【0057】
また、本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置によれば、周波数領域に変換された音波信号に基づいて、周波数ビン毎に方位推定値を算出することにより、方位推定値の算出に用いる信号の時間周波数に関する分割方法を変更することができる。
【0058】
また、本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置によれば、複数の方向推定値を算出する単位時間を、更に短いブロックに分割し、ブロック毎に1つの方向推定値を算出することにより、方位推定値の算出に用いる信号の時間周波数に関する分割方法を変更することができる。
【0059】
また、本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置によれば、方向推定値が示す方向内の範囲で前記第1計量化データを作成することにより、検出したい範囲に対応する第3計量化データを作成することができる。
【0060】
また、本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置によれば、第1及び第2計量化データを正規化することにより、適切なスケールレベルを有する第3計量化データを作成することができる。
【0061】
また、本発明の実施の形態に係る対象位置検出装置によれば、減算処理部は、前記第1計量化データ又は前記第2計量化データのいずれかに係数を乗じることにより、適切なスケールレベルを有する第3計量化データを作成することができる。
【0062】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
既に述べた実施の形態においては、対象位置検出装置が搭載される移動体は、車両に限るものでなく、ヘリコプター、船、潜水艦等にも適用可能である。
【0063】
また、既に述べた実施の形態においては、移動環境検出部42は、方向検出部25の検出結果により、移動体の周囲にある壁、高架等、環境を示す情報を検出するようにしても良い。例えば、移動体の移動方向に平行に壁がある場合、方向検出部25による方向検出結果は、所定の範囲の方向(角度)に定位する。読出処理部27は、これらのデータを予め移動環境検出部42に設定することにより、方向検出部25による方向検出結果から、移動体の周囲の環境を示す情報を検出することができる。
【0064】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0065】
10…音波入力部
11…センサ部
12…増幅器
13…AD変換器
20…処理部
21…音波信号処理部
22…方向推定部
23…計量化処理部
24…減算処理部
25…方向検出部
26…記憶処理部
27…読出処理部
30…記憶部
31…計量化データ記憶部
32…移動体情報記憶部
33…地図情報記憶部
40…状態検出部
41…移動状態検出部
42…移動環境検出部
43…位置検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定常的な雑音及び周囲に存在する対象から発生する対象発生音を含む音波を入力する音波入力部と、
単位時間毎の前記音波に基づいて前記対象の方向を示す複数の方向推定値を算出する方向推定部と、
前記方向推定値を前記方向毎に計量化することにより、第1計量化データを作成する計量化処理部と、
前記定常的な雑音に基づく前記方向推定値が前記方向毎に計量化されたデータとして、第2計量化データを記憶する計量化データ記憶部と、
前記第1計量化データから、前記第2計量化データを減算することにより、前記対象発生音に基づく前記方向推定値が前記方向毎に計量化されたデータとして、第3計量化データを作成する減算処理部と、
前記第3計量化データから前記対象の方向を検出する方向検出部と
を備えることを特徴とする対象位置検出装置。
【請求項2】
移動体に搭載された対象位置検出装置であって、
前記移動体の状態を検出する状態検出部を更に備え、
前記減算処理部は、前記状態検出部が検出する前記移動体の状態に応じた前記第2計量化データを用いて、前記第3計量化データを計算することを特徴とする請求項1に記載の対象位置検出装置。
【請求項3】
前記計量化データ記憶部は、前記定常的な雑音として、前記移動体から発生する音に基づく第2計量化データを記憶することを特徴とする請求項2に記載の対象位置検出装置。
【請求項4】
前記計量化データ記憶部は、前記定常的な雑音として、前記移動体から発生し、周囲において反射した音に基づく第2計量化データを記憶することを特徴とする請求項2又は3に記載の対象位置検出装置。
【請求項5】
地図上の位置に応じた環境を記憶する地図情報記憶部を更に備え、
前記状態検出部は、前記移動体の位置を検出する位置検出部と、前記位置検出部が検出した前記移動体の位置を用いて前記地図情報記憶部を参照することにより、前記移動体の状態として前記移動体の周囲の環境に関する情報を検出することを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の対象位置検出装置。
【請求項6】
前記移動体は自動車であって、
前記計量化データ記憶部が、速度、エンジンの回転数、ギヤ比のいずれかに応じて複数の前記第2計量化データを記憶することを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の対象位置検出装置。
【請求項7】
前記計量化処理部は、前記第1計量化データの作成より前に、前記方向推定値を前記方向毎に計量化することにより前記第2計量化データを作成することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の対象位置検出装置。
【請求項8】
前記音波入力部は、前記音波を検出する複数のセンサ部を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の対象位置検出装置。
【請求項9】
前記音波を示す信号を周波数領域の信号に変換する音波信号処理部を更に備え、
前記方向推定部は、前記周波数領域の信号に基づいて、周波数ビン毎に前記方位推定値を算出することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の対象位置検出装置。
【請求項10】
前記方向推定部は、前記単位時間を更に短いブロックに分割し、前記ブロック毎に1つの方向推定値を算出することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の対象位置検出装置。
【請求項11】
前記計量化処理部は、−90°〜90°の範囲で前記第1計量化データを作成することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の対象位置検出装置。
【請求項12】
前記減算処理部は、前記第1計量化データ及び第2計量化データを正規化し、前記正規化された前記第1計量化データ及び第2計量化データを用いて第3計量化データを作成することを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の対象位置検出装置。
【請求項13】
前記減算処理部は、前記第1計量化データ又は前記第2計量化データのいずれかに係数を乗じることにより、第3計量化データの値を制御することを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の対象位置検出装置。
【請求項14】
定常的な雑音及び周囲に存在する対象から発生する対象発生音を含む音波を入力する音波入力ステップと、
単位時間毎の前記音波に基づいて前記対象の方向を示す複数の方向推定値を算出する方向推定ステップと、
前記方向推定値を前記方向毎に計量化することにより、第1計量化データを作成する計量化処理ステップと、
前記定常的な雑音に基づく前記方向推定値が前記方向毎に計量化されたデータとして、第2計量化データを記憶する計量化データ記憶ステップと、
前記第1計量化データから、前記第2計量化データを減算することにより、前記対象発生音に基づく前記方向推定値が前記方向毎に計量化されたデータとして、第3計量化データを作成する減算処理ステップと、
前記第3計量化データから前記対象の方向を検出する方向検出ステップと
を含むことを特徴とする対象位置検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−104767(P2013−104767A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248368(P2011−248368)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】