説明

対象物位置推定装置

【課題】過大光の影響による誤誘導を低減することができる対象物位置推定装置を提供す
ることを目的とする。
【解決手段】本発明の対象物位置推定装置は、電磁波画像データを取得する画像データ取
得手段と、前記画像データの輝度情報に対して所定の閾値を超える領域を飽和領域として
抽出する飽和領域抽出手段と、前記飽和領域抽出手段によって得られた各飽和領域におい
て画像座標系に対する傾きベクトルを算出する領域傾斜算出手段と、前記傾きベクトルか
ら対象物の位置を推定する位置推定手段と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物位置推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の赤外線誘導装置は、中波長赤外線画像を撮像するセンサで画像データを
取得し、輝度の大小によって対象の飛翔体を検出し誘導している。しかし、同方法では対
象の飛翔体からレーザー光などの過大光が照射された場合、輝度情報が飽和してしまい誤
った誘導を行ってしまう。
【0003】
また、このような場合、誤誘導を防ぐため、過大光が発生した場合、処理系を切り替え
る、また、ハード上で減光し、対象物を検出するなどの手法も提案されているが、装置自
体のサイズが大きくなる(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−185498
【特許文献2】特開平11−295408
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
装置自体に新たなセンサ機構を追加する必要があるなどのハードウェアの変更が必要で
あったり、装置自体のサイズが大きくなってしまったりなどの問題があった。
【0006】
例えば、特許文献1にある飛翔体シーカは、レーザー光検出器を設け、レーザー光の強
度によって処理系を切り替えることによって、過大なレーザー光が対象物から発せられた
場合においても飛翔体の姿勢制御を維持させる発明である。ただ、余分なレーザー検出器
を取り付けるなどのハード変更の必要があり、装置全体のサイズが大きくなってしまう。
【0007】
また、特許文献2にある対象物追跡装置は、受光の強度に応じて、減光フィルタやバン
ドパスフィルタを制御することによって、過大光がセンサへ入射すること防ぎ、処理対象
画像を維持し追跡を継続させる発明である。同装置も、上記フィルタの挿入やフィルタ制
御機構の追加などの必要があり、また装置全体のサイズを大きくしてしまう。
【0008】
本発明は、上記の問題を解決するためのものであり、過大光の影響による誤誘導を低減
する対象物位置推定装置である。本発明では、過大光が発せられた場合、撮像上に現れる
飽和領域の形状および姿勢情報を利用することで対象物の位置が推定される。従来のよう
な輝度閾値処理のみに比べ、過大光が発せられ画像の大部分の輝度情報が飽和してしまっ
ても、対象物位置を正確に推定することができ、正確な誘導が可能となる。また、装置を
構成する場合においても、余分なセンサを追加する必要がなく、装置サイズの肥大化を防
ぐことができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する為に請求項1記載の対象物位置推定装置は、電磁波画像データを取
得する画像データ取得手段と、前記画像データの輝度情報に対して所定の閾値を超える領
域を飽和領域として抽出する飽和領域抽出手段と、前記飽和領域抽出手段によって得られ
た各飽和領域において画像座標系に対する傾きベクトルを算出する領域傾斜算出手段と、
前記傾きベクトルから対象物の位置を推定する位置推定手段と、を有することを特徴とす
る。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、過大光の影響による誤誘導を低減することができる対象物位置推定装
置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1に係る対象物位置推定装置の構成を示す図。
【図2】本発明の実施の形態1に係る対象物位置推定装置の動作処理を示すフローチャート。
【図3】本発明の実施の形態1に係る電磁波画像データの一例を示す図。
【図4】本発明の実施の形態1に係る飽和領域の扁平率を説明するための図。
【図5】本発明の実施の形態1に係る飽和領域の傾きベクトルを説明するための図。
【図6】本発明の実施の形態1に係る対象物の位置の推定を説明する図。
【図7】本発明の実施の形態1に係る対象物の位置の推定を説明する図。
【図8】本発明の実施の形態2に係る対象物位置推定装置の構成を示す図。
【図9】本発明の実施の形態3に係る対象物位置推定装置の構成を示す図。
【図10】本発明の実施の形態3に係る領域分割を説明するための図。
【図11】本発明の実施の形態4に係る対象物位置推定装置の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る対象物位置推定装置の構成を示すブロック図であ
る。対象物位置推定装置は、電磁波画像データを取得する画像データ取得部100、画像
データ取得部100で取得された電磁波画像データの輝度情報に対して輝度閾値を超える
領域を飽和領域として抽出する飽和領域抽出部101、飽和領域抽出部101により抽出
された各飽和領域において画像座標系に対する飽和領域の傾きを算出する領域傾斜算出部
102と、領域傾斜算出部102で算出された飽和領域の傾きから対象物の位置を推定す
る位置推定部103から構成される。
【0014】
続いて、本発明の実施の形態1に係る対象物位置推定装置の動作処理について図2を参
照して説明する。
【0015】
図2は、本発明の実施の形態1に係る対象物位置推定装置の動作処理を示すフローチャ
ートである。
【0016】
画像データ取得部100によって電磁波画像データが取得される(S1)。図3は、画
像データ取得部100により電磁波画像データとして得られた赤外線画像データの一例を
示している。
【0017】
ここで、対象物から過大な赤外線レーザー光が発せられた場合、赤外線画像中における
対象物の像301の位置によって撮像結果が異なり、対象物の像301が画像中心付近に
ある場合の撮像結果は図3(a)、(b)のようになる。
【0018】
また、対象物から過大な赤外線レーザー光が発せられると画像中心を含む大部分の輝度
情報が飽和してしまい、さらに画像の周辺部分に円弧状の小領域として飽和領域302が
現れる。
【0019】
一方、対象物の像301が画像の端付近にとらえられた場合の撮像は図3(c)、(d
)のようになる。
【0020】
この場合、対象物の像301の位置から放射状に飽和領域302が広がる傾向にある。
これらの事象は、一般的に撮像系の機構および光学特性により生じる。
【0021】
次に、画像データ取得部100により取得された赤外線画像データは飽和領域抽出部1
01において飽和領域302が抽出される(S2)。
【0022】
ここで飽和領域302の抽出は、任意の輝度閾値を設定し輝度閾値よりも高い輝度値を
有する画素部分を飽和領域302として抽出する。
【0023】
また、飽和領域302の抽出において、任意に設定した面積閾値に対して面積閾値より
も大きい領域のみを抽出し、小さい領域は除外することによりランダムノイズ等の除去を
行うことができる。
【0024】
さらに、各飽和領域302の扁平率fが算出され、任意に設定した扁平率閾値に対して
扁平率閾値よりも扁平率の高い飽和領域302のみを抽出することにより、後述する傾き
ベクトル303(図5、図6、及び図7参照)の算出精度向上を図ることが出来る。
【0025】
なお、扁平率fは下式(1)によって算出することが出来る。
【数1】

【0026】
ここで、図4に示すようにaは飽和領域302の長軸の長さ、bは短軸の長さを示す。
【0027】
飽和領域抽出部101において抽出された飽和領域302は、領域傾斜算出部102へ
入力され、画像座標系における各飽和領域302の傾きが傾きベクトル303として算出
される(S3)。
【0028】
図5に示すように傾きベクトル303は、飽和領域302内の各画素の座標データ30
4を一次元空間へ投影したとき、同一次元空間内におけるデータの分散を最大とする軸方
向を傾きベクトル303として決定する。
【0029】
領域傾斜算出部102において算出された傾きベクトル303は、位置推定部103へ
入力され、対象物位置306が推定される(S4)。
【0030】
ここで、図6に示すように各飽和領域302における重心305を通り傾きベクトル3
03の方向へ直線を延ばした際の交点が対象物位置306として推定される。
【0031】
また、位置推定部103は、複数の飽和領域302のうち最大面積を持つ飽和領域の重
心位置に伴い、傾きベクトル303の方向もしくは傾きベクトル303の直交方向のどち
らかの方向を選択し位置を推定する機能を持たせることも可能である。
【0032】
つまり、図3(c)、(d)に示すように重心が画像の端部付近に現れる場合は、上述
した図6に示すように傾きベクトル303の方向を利用することで対象物位置306を求
めることができる。
【0033】
また、図3(a)、(b)に示すように重心が画像の中心付近に現れる場合は、図7に
示すように傾きベクトル303の方向に対する法線方向307へ直線を伸ばした際の交点
を対象物位置306として求めることができる。
【0034】
以上のように、本実施の形態1によれば、対象物から過大な赤外線レーザー光が発せら
れ画像の大部分の輝度情報が飽和してしまっても、対象物位置を正確に推定することがで
き、正確な誘導が可能となる。また、余分なセンサを追加する必要がなく、装置サイズの
肥大化を防ぐことができる。
【0035】
(実施の形態2)
続いて、本発明の実施の形態2について説明する。本発明の実施の形態2では、画像デ
ータ取得部100に、長波長赤外線画像データと中波長赤外線画像データとを同じ視野で
取得する機能を付与することによって、異なる幅広い帯域のデータを観察することが出来
る。
【0036】
同じ視野の2波長帯の画像データを取得する対象物位置推定装置の構成としては、例え
ば、図8に示すものが考えられる。対象物が存在すると思われる方向に向けられた画像デ
ータ取得部100は、その対象物の像をレンズ200およびダイクロイックミラー201
により長波長赤外線センサ202および中波長赤外線センサ203に案内する。レンズ2
00の後部にダイクロイックミラー201を配置し、ダイクロイックミラー201は、長
波長赤外線を透過し、中波長赤外線を反射するものとする。
【0037】
その透過方向には長波長赤外線センサ202が配置され、反射方向には中波長赤外線セ
ンサ203が配置される。また、両センサへの対象物像の案内方法については多焦点レン
ズを利用してもよい。
【0038】
二波長帯以上の波長帯の画像を観測することで、ある波長帯のみの過大光であった場合
、過大光の影響を受けていない波長帯の画像を選択して処理することにより誤誘導を回避
することができる。また、両波長帯に渡る過大光が発せられた場合においても、統計的に
情報量が増えるため、位置推定の性能が向上する。
【0039】
(実施の形態3)
続いて、本発明の実施の形態3について説明する。図9および図10を用いて実施の形
態3を説明する。
【0040】
図9は、本発明の実施の形態3に係る対象物位置推定装置の構成を示している。本実施
の形態では、実施の形態1に係る対象物位置推定装置に輝度勾配算出部104と、領域分
割部105が加わる。
【0041】
実施の形態1と同一構成については同一の符号を付し重複する説明は省略する。
【0042】
次に本発明の実施の形態3に係る対象物位置推定装置の動作処理について説明する。
【0043】
画像データ取得部100により得られた画像データは、輝度勾配算出部104に入力さ
れ、各画素に対して輝度勾配ベクトルを算出する。ここで、輝度勾配ベクトルの算出は下
式(2)による。
【数2】

【0044】
ここで、I(i,j)は座標(i,j)における輝度を示している。
【0045】
輝度勾配算出部104において算出された輝度勾配ベクトルは、輝度勾配情報として領
域分割部105へ入力され、入力された輝度勾配情報を元に画像全体が領域分割される。
【0046】
ここで、上式(2)で示した輝度勾配ベクトルに直交するベクトル(以下、回転ベクト
ルr(i,j)とする。下式(3))を考える。
【数3】

【0047】
図10に示すように、画像データ400上において、回転ベクトル401の大きさが大
きい部分にはエッジが存在し、回転ベクトル401の方向はエッジに沿う。
【0048】
この回転ベクトル401の情報を用いて、その大きさが局所的に極大となるものを選び
その方向を辿ることにより領域を分割する分割線402を描くことができる。
【0049】
領域分割部105で分割された領域情報は、飽和領域抽出部101へ入力され、分割さ
れた領域ごとに飽和領域であるか否かが判断される。その後の動作処理は実施の形態1と
同様であるため説明は省略する。
【0050】
本発明の実施の形態3によれば、輝度勾配ベクトルを利用することにより、領域の抽出
が絶対値の評価から相対値の評価で実施されるため、輝度の強弱の変動に対してロバスト
に位置推定が行うことができ、誘導性能を向上させることができる。
【0051】
(実施の形態4)
続いて、本発明の実施の形態4について説明する。図11は、本発明の実施の形態4に
係る対象物位置推定装置の構成を示している。本実施の形態では、実施の形態1に係る対
象物位置推定装置の構成において、推定位置記憶部106が加わる。なお、実施の形態1
と同一構成については同一の符号を付し重複する説明は省略する。
【0052】
次に本発明の実施の形態4に係る対象物位置推定装置の動作処理について説明する。
【0053】
まず、実施の形態1と同様に、位置推定部103において対象物位置が推定されるが、
その推定された対象物の位置情報は推定位置記憶部106へ入力され、記録される。ここ
での、記録量はユーザーが任意に設定することができ、たとえば、Mフレーム分の記録を
設定しておけば、直前のMフレーム分の対象物の推定位置の履歴を蓄積することができる
。そして、位置推定部103では、推定位置記憶部106に記録されているMフレーム分
の推定結果の時間変化を総合して、対象物位置が推定される。
【0054】
この実施の形態4によれば、推定結果を一定時間観察することにより、時間変化をひと
つの特徴量として評価することができ、白色ランダムノイズ等の影響による誤推定を低減
することができる。実際に、対象飛翔体から過大光が発せられている場合、撮像は安定し
ないため、時間的、統計的に位置を推定することによって推定値が安定する。
【0055】
なお、この発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、実施段階ではその
要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具現化できる。また、上述の実施の形態に開
示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例え
ば、実施の形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。さらに
異なる実施の形態にわたる構成要素を適宜組み合わせても良い。
【符号の説明】
【0056】
100 画像データ部
101 飽和領域抽出部
102 領域傾斜算出部
103 位置推定部
104 輝度勾配算出部
105 領域分割部
106 推定位置記憶部
202 長波長赤外線センサ
203 中波長赤外線センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波画像データを取得する画像データ取得手段と、
前記画像データの輝度情報に対して所定の閾値を超える領域を飽和領域として抽出する飽
和領域抽出手段と、
前記飽和領域抽出手段によって得られた各飽和領域において画像座標系に対する傾きベク
トルを算出する領域傾斜算出手段と、
前記傾きベクトルから対象物の位置を推定する位置推定手段と、
を有することを特徴とする対象物位置推定装置。
【請求項2】
前記位置推定手段は、
前記各飽和領域の重心から前記傾きベクトル方向へ直線を延ばした際、それら複数の直線
の交差点を対象物の位置として推定することを特徴とする請求項1記載の対象物位置推定
装置。
【請求項3】
前記飽和領域抽出手段は、
前記各飽和領域のうち、所定の閾値よりも大きい面積の飽和領域のみ抽出することを特徴
とする請求項1又は請求項2記載の対象物位置推定装置。
【請求項4】
前記飽和領域抽出手段は、
前記各飽和領域のうち、所定の閾値よりも高い扁平率の飽和領域のみを抽出することを特
徴とする請求項1乃至請求項3記載の対象物位置推定装置。
【請求項5】
前記領域傾斜算出手段は、
前記各飽和領域内の各画素の座標データを一次元空間へ投影したとき分散を最大とする一
次元空間の軸方向を傾きベクトルとして算出ことを特徴とする請求項1乃至請求項4記載
の対象物位置推定装置。
【請求項6】
前記位置推定手段は、
前記各飽和領域のうち、最大面積を有する飽和領域の重心位置に伴い前記ベクトル方向或
いは前記傾きベクトルの直交方向の何れかの方向を選択して対象物の位置を推定すること
を特徴とする請求項1乃至請求項5記載の対象物位置推定装置。
【請求項7】
前記電磁波画像データから輝度勾配情報を算出する輝度勾配情報算出手段と、
前記輝度勾配情報から勾配変曲位置に基づいて前記電磁波画像データを領域分割する領域
分割手段と、
を更に有し、
前記飽和領域抽出手段は、
前記領域分割手段によって領域分割された電磁波画像データから飽和領域を抽出すること
を特徴とする請求項1乃至請求項6記載の対象物位置推定装置。
【請求項8】
前記画像データ取得手段は、
第1の波長帯の電磁波画像データと第2の波長帯の電磁波画像データを同じ視野で取得す
ることを特徴とする請求項1乃至請求項7記載の対象物位置推定装置。
【請求項9】
前記位置推定手段は、
予め設定した時間内の推定値の変化に基づいて対象物の位置を推定することを特徴とする
請求項1乃至請求項8記載の対象物位置推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−58012(P2012−58012A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199868(P2010−199868)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】