説明

対象物処理装置

【課題】プレート上の対象物に対して個別的かつ効率的な液体処理(試薬処理、洗浄処理)を行う。
【解決手段】ノズルユニット10は内筒12、中筒14及び外筒16により構成されている。外筒16はプレート18の上面に当接され、これによって隔離空間としての密閉空間が形成される。その状態は、内筒12及び中筒14の先端面は対象物20に近接しつつも、そこに接触しない高さに位置決められる。外筒16に対して、内筒12及び中筒14の高さを相対的に調整する機構を設けるようにしてもよい。試薬処理時には、空間Aから試薬が吐出され、残液が空間Bから吸引される。洗浄時には、空間Aから洗浄液が吐出され、空間Bから洗浄液が吸引される。空間Cは洗浄液流路及びエア供給路等として機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は対象物処理装置に関し、特に、抗体抗原反応、核酸ハイブリダイゼーション等の分析、試験において対象物を液体(試薬、洗浄液)により処理するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
抗体抗原反応、核酸ハイブリダイゼーション等の分析、試験においては、抗体、抗原、核酸等の対象物が多数の試薬を利用して段階的に処理される。つまり、そのような一連の過程では、対象物の試薬反応処理や洗浄処理が段階的に実行される。具体的には、例えば、スライドガラスのようなプレートの表面上に互いに離間して複数の対象物がそれぞれスポット状に設けられ、これにより対象物アレイが構成される。対象物アレイに対して試薬反応処理を行わせる場合、そこに試薬が導入される。その後、対象物アレイを洗浄する場合、プレート表面へ大量の洗浄液が供給され、あるいは、プレートが洗浄漕に漬けられる。以下においては、洗浄処理について具体的に説明するが、そこで指摘された事項は試薬反応処理においても同様に指摘可能なものである。
【0003】
従来法によると、どうしてもアレイ全体を常に一律に処理しなければならず、個々の対象物に対して洗浄処理条件(洗浄液種類(親水性、疎水性)、洗浄実行タイミング、洗浄期間、流量、等)を異ならせることができない。あるいは、従来法によると、洗浄液が大量に必要になり、洗浄効率を高められないので、時間がかかるし、装置の小型化も困難となる。しかも、あまり強烈に洗浄液を供給すると、対象物にダメージを与えたりあるいは対象物が剥離したりする問題も危惧される。なお、洗浄効率を高めるためにはノズルの先端を対象物に近付けることが望ましいが、空中における高精度の位置決めは非常に難しい。もし、対象物にノズル先端面が接触すると、対象物を損傷させてしまうおそれがある。
【0004】
特許文献1には洗浄等に用いられる二重管ノズルが開示されている。洗浄対象は反応管及び測定セル等である。その内部の底面に外パイプの先端を接触させた状態で、外パイプに形成された溝から洗浄液が外パイプの外部へ流出する構成となっている。特許文献2には溶液吸引具内の吸収部材によってウエル上の溶液を吸い取ることが記載されている。その図24等にはパイプの先端面をウエル上面から隔てて位置決めすることが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平1−223353号公報
【特許文献2】特開2005−55316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の洗浄処理装置では、プレート単位で洗浄処理が行われ、つまり複数の対象物を同時に洗浄していたので、対象物ごとに洗浄処理条件を変えることができなかった。あるいは、洗浄効率を高められなかった。この問題は試薬反応処理についても同様に指摘でき、従来においては対象物ごとに試薬を変えることが困難であった。また、試薬や洗浄液が各対象物からその周囲に飛散する問題が指摘されている。
【0007】
本発明の目的は、対象物ごとに能率的にあるいは適切に液体処理を行えるようにすることにある。本発明の他の目的は、対象物ごとに個別的な洗浄を行えるようにすることにある。本発明の他の目的は、対象物の試薬処理効率又は洗浄効率を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、対象物が表面に設けられたプレートと、前記プレート上の対象物に対して液体処理を行う場合に利用され、複数の流路を有する多重管構造をもったノズルユニットと、前記ノズルユニットが有する複数の流路に接続された吸引吐出機構と、を含み、前記ノズルユニットは、前記対象物の液体処理において、前記対象物を取り囲みつつ前記プレートの表面に当接される外筒先端面を有し、その外筒先端面の当接状態で前記対象物を含んだ密閉空間を形成する外筒と、前記外筒の中に設けられた筒状部材であって、前記対象物の液体処理において、前記対象物に対してその上方から非接触で近接する中筒先端面を有する中筒と、前記中筒の中に設けられた筒状部材であって、前記対象物の液体処理において、前記対象物に対してその上方から非接触で近接する内筒先端面を有する内筒と、を含み、前記外筒と前記中筒との間に外側流路が形成され、前記中筒と前記内筒との間に中間流路が形成され、前記内筒の中に内側流路が形成され、前記密閉空間の形成状態で、前記外側流路、前記中間流路及び前記内側流路からなる流路群の中から選択された複数の流路を利用して前記対象物の液体処理が行われる、ことを特徴とする対象物処理装置に関する。
【0009】
上記構成によれば、対象物処理の際に、対象物が外筒によって包み込まれ、外部と区画された密閉空間(例えば、試薬処理空間、洗浄処理空間)が形成される。その状態で、複数の流路の内の少なくとも1つを利用して液体(試薬や洗浄液)が密閉空間に注入され、同時に又はその後に、複数の流路の内の少なくとも1つを利用して密閉空間から液体が吸引される。よって、対象物の処理効率を高めることができる。密閉空間の形成状態では、3つの流路が形成されるので、液体の供給及び吸引の他に、ガス供給等も行うことも可能である。なお、2つの流路を使って液体を供給し、他の1つの流路を使って液体を吸引することも可能であり、その逆のパターン、つまり1つの流路を使って液体を供給し、他の2つの流路を使って液体を吸引することも可能である。1つの流路が吐出と吸引で兼用されてもよい。
【0010】
密閉空間の形成によれば、対象物単位での個別処理を実現でき、つまり、ある対象物の処理による他の対象物への影響を防止できる。局所集中的な処理により処理効率を高められるという利点を得られ、また、処理の最後に、吐出後の液体を吸引する場合においても残液の残留量を従来よりも低減できるので、その後の処理を適正に行えるという利点が得られる。外筒先端面はプレート上面における対象物周囲に接触するだけであり(対象物に対しては非接触に保たれる)、中筒先端面及び内筒先端面は対象物に近接しつつもそれに接触しない高さに位置決めされるので、対象物の破損や剥がれを防止でき、しかも近接状態で処理を行えるから、その意味においても処理効率を高められる。液体の供給と吸引とを繰り返し行うようにしてもよい。試薬処理と洗浄処理とを同一の多重管ノズルユニットで行えれば、装置構成を簡略化でき、しかも一連の処理を効率化できる。
【0011】
望ましくは、前記吸引吐出機構は、前記流路群の中の第1流路に接続され、前記対象物の液体処理としての前記対象物の洗浄処理の際に前記密閉空間へ洗浄液を供給するための第1ポンプ手段と、前記流路群の中の第2流路に接続され、前記対象物の洗浄処理の際に前記密閉空間へ供給された洗浄液を吸引するための第2ポンプ手段と、前記流路群の中の第3流路に接続され、前記対象物の洗浄処理の際に乾燥用ガスを供給する第3ポンプ手段と、を含む。ガス供給によれば、残液を吹き飛ばして、より低減できるという利点を得られる。
【0012】
望ましくは、前記吸引吐出機構は、前記流路群の中の所定流路に接続され、前記対象物の液体処理としての試薬による反応処理の際に、試薬槽から当該流路へ試薬の吸引を行わせ且つ当該流路から前記密閉空間へ試薬を吐出させる分注手段を含む。
【0013】
望ましくは、前記所定流路及び前記第1流路は前記内側流路であり、前記内側流路が、前記反応処理における試薬の吸引及び吐出並びに前記対象物の洗浄処理における洗浄液の吐出で兼用される。
【0014】
望ましくは、前記内側流路にはシリンジポンプが接続され、前記シリンジポンプは、前記反応処理において前記分注手段を構成し且つ前記対象物の洗浄処理において前記第1ポンプ手段を構成する。望ましくは、前記シリンジポンプは、前記対象物の洗浄処理後の前記ノズルユニット自身の洗浄処理において、前記第1流路としての前記内側流路に洗浄液を供給し、前記第2ポンプ手段は、前記ノズルユニット自身の洗浄処理において、前記第2流路としての前記中間流路に洗浄液を供給し、前記第3流路としての前記外側流路には第4ポンプ手段が接続され、前記第4ポンプ手段は、前記ノズルユニット自身の洗浄処理において、前記第3流路としての前記外側流路に洗浄液を供給する。この構成によれば、すべての流路を清浄状態に保てる。ノズルユニット自身の洗浄に関しては、垂れ流し方式の他、環流方式も考えられる。
【0015】
望ましくは、前記第3ポンプ手段は、前記ノズルユニット自身の洗浄処理において、前記第4ポンプ手段による前記外側流路への前記洗浄液の供給後に、前記外側流路へ乾燥用ガスを供給する。
【0016】
望ましくは、前記プレートの表面は平坦面であり、少なくとも前記外筒先端面の当接状態において、前記外筒先端面よりも前記中筒先端面及び前記内筒先端面が奥側に引っ込んだ高い位置にある。
【0017】
望ましくは、前記プレートの表面には、前記対象物を底面に収容する凹部とその底面よりも高い周囲部とが形成され、前記外筒先端面が前記周囲部の上面に当接した状態において、 前記中筒先端面及び前記内筒先端面が前記対象物の上面よりも高い位置に位置決めされる。
【0018】
望ましくは、前記外筒に対して前記中筒及び前記内筒のうち少なくとも一方を相対的に上下動させる調整機構が設けられる。この構成によれば、対象物の高さに応じて、あるいは、接触相手となるプレートの形状に応じて、中筒及び内筒の高さを最適化できる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、対象物ごとに能率的にあるいは適切に液体処理を行える。本発明によれば、対象物ごとに個別的な洗浄を行える。あるいは、本発明によれば、対象物の試薬処理効率又は洗浄効率を高められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1には、本発明に係る対象物処理装置の好適な実施形態が示されており、図1はその要部構成を示す概念図である。この処理装置は、対象物に対して段階的に試薬処理を行う試薬処理装置の中に組み込まれるものであってもよい。対象物の処理の概念には、試薬処理及び洗浄処理が含まれる。
【0022】
図1において、プレート18は図1に示す例において平坦なプレートであり、その上面には対象物20が設けられている。具体的には、プレート18の上面に相互に離間して複数の対象物20がアレイ状に設けられており、各対象物20はスポットを構成する。対象物20は例えば抗体、抗原、核酸などである。対象物20の厚みd1は例えば数百nm〜数μmである。
【0023】
本処理装置は、本実施形態において、ノズルユニット10を備えている。ノズルユニット10は三重管構造を有し、具体的には、内筒12、中筒14及び外筒16を有している。図1に示す構成例ではそれらの3つの筒部材が互いに一体的に連結されている。流路Aは内筒12内に存在する空間であり、流路Bは中筒14と内筒12との間に形成される空間であり、流路Cは外筒16と中筒14との間に形成される空間である。
【0024】
本実施形態において、外筒16における先端面の高さよりも、中筒14及び内筒12のそれぞれの先端面の高さが上方に引き上げられている。それらの高さのギャップが図1においてΔdで表されている。対象物20の厚みd1よりもギャップΔdの方が大きく(例えば、数百μm)、その結果、外筒16の先端面をプレート18の上面に当接させ、ノズルユニット10内に密閉空間が形成された状態では、試料20の上面に対して内筒12及び中筒14の先端面が近接しつつも非接触の状態におかれる。そのような状態で液体(試薬、洗浄液)の吐出および吸引を行えば対象物20を効率的に処理(試薬処理、洗浄処理)することができ、しかも、液体が他の対象物に対して回り込んでしまうことを防止できるので、各対象物ごとの個別処理を実現できるという利点がある。さらに、内筒12及び中筒14の先端面が対象物20に対して非接触の状態におかれるため、対象物20の破損やはがれといった問題を効果的に防止できるという利点が得られる。
【0025】
搬送機構22は、ノズルユニット10を搬送する機構である。搬送機構22及びその他の図1に示される各構成は制御部28によって制御されている。なお、各筒状部材12,14,16は例えばテフロン(登録商標)等の部材によって構成されるのが望ましい。
【0026】
次に、ノズルユニット10以外の構成(吸引吐出機構を含む)について説明する。ノズルユニット10内の流路Aには流路aが接続されており、流路aには弁V1を介して流路a1及び流路a2が接続されている。流路a1にはシリンジポンプP1が接続されている。このシリンジポンプP1は洗浄液を内部に取り込んで、その取り込まれた洗浄液を流路a1に対して送り込むポンプである。流路a2は洗浄液タンク24へ導かれている。このシリンジポンプP1は、洗浄液の吸引吐出時の他、試薬の吸引吐出時においても機能する。
【0027】
ノズルユニット10内の流路Bは流路bに接続されている。流路b上にはポンプ(送液/吸引ポンプ)P2が設けられており、さらに、その流路bには弁V2を介して流路b1及び流路b2が接続されている。流路b1は廃液タンク26に繋がっており、流路b2は洗浄液タンク24に繋がっている。
【0028】
ノズルユニット10内の流路Cには流路cが接続されており、その流路cには弁V3を介して流路c1及び流路c2が接続されている。流路c1上にはポンプ(送液ポンプ)P3が設けられており、流路c1の上流端は洗浄液タンク24内に位置している。流路c2にはポンプ(送気ポンプ)P4が接続されており、その流路c2上には大気開放用の弁V4が接続されている。
【0029】
図2には、図1に示した構成の動作例がフローチャートとして示されている。このフローチャートは特に試薬処理後の洗浄工程を示すものである。初期状態において、各ポンプP1‐P4は停止状態にある。S101では、ポンプP2の作用により、流路(中空間)Bに対する吸引が行われ(弁V2はb1を選択)、それに先立ってノズルユニットが対象となる検体(対象物)の上方位置に位置決めされ、その後ノズルユニットの下降が開始される。これにより、S102で示される基板洗浄処理工程が実行される。すなわち、S103では、下降途中において弁V4が開放され(弁V4はc2を選択)、これによって流路Cが大気圧とされる。S104において、外筒の先端面(下面)が基板上面に接触したことがセンサによって検知されると、ノズルユニットの下降が停止される。外筒の先端面の接触によりノズルユニット内に密閉空間が形成され、その際において圧力上昇が生じても、それは上記の大気開放等によって逃がされる。つまり、接触時においてプレート上に液滴等があっても、それが隣接する対象物へ飛散するといったことが大気開放及び流路Bの吸引によって防止されている。
【0030】
S105では、シリンジポンプP1により洗浄液タンク24から洗浄液が吸引され(弁V1は流路b2を選択)、その後弁V1により流路a1と流路aとが接続され、その状態でポンプP1の作用により流路(内空間)Aに対して洗浄液が一定量吐出される。続いて、S106において、ポンプP2の作用により流路Bに対して吸引が実行される。吸引された洗浄液は流路B、流路b、ポンプP2、弁V2を介して流路b1から廃液タンク26へ導かれる。このS105及びS106の工程が必要回数分だけ繰り返される。本実施形態においては、その回数nとして3が設定されており、S105及びS106の工程が3回繰り返される。S105において供給される洗浄液の量を少量としておけば、洗浄液供給を原因とする悪影響が対象物に対して及ぶことを効果的に防止することが可能である。
【0031】
S107では、今まで開放されていた弁V4が閉じられ、その後、S108においては流路(外空間)Cに対してポンプP4の作用によってエアが供給される。同時に、流路(中空間)Bに対してポンプP2の作用により吸引が実行される。このS108の工程においてノズルユニット内における残液の吸引が効果的に行われる。このように残液の残留量を極力少なくすることによって次の試薬処理を適正に行えるという利点が得られる。
【0032】
次に、ノズル洗浄処理工程S109について説明する。S110では、ノズルユニットが洗浄ポジションへ移動される。S111では、弁V2が洗浄液側つまり流路b2に切り替えられ、弁V3についてはポンプP3側つまり流路c1側に切り替えられる。そして、S112では、ポンプP1,P2,P3の作用により、すべての流路A,B,Cに対して洗浄液が供給される。すなわち垂れ流し方式によってノズルユニット内が効果的に洗浄される。必要に応じて、ノズルユニットの先端部を洗浄井戸内に差し込み、その状態で各流路から洗浄液を流せば、ノズルユニットの外側表面の洗浄を行うことも可能である。また、場合によっては環流方式により洗浄処理を行うようにしてもよい。
【0033】
S113では、各ポンプによる送液が停止され、S114では、弁V2が廃液タンク26側に切り替えられ、弁V3が送気側に切り替えられる。そして、S115では、搬送機構22によってノズルユニットが上昇され、洗浄井戸の液面から離脱された後、流路(外空間)Cに対する送気が実行され、これにより流路Cを乾燥させる。そして、S116では、送気及び吸引が停止される。S117では、次の洗浄処理を行うか否かが判断され、そのような処理が必要であれば対象となる検体の上方にノズルユニットが位置決めされ、すなわち上述したS101以降の各工程が繰り返し実行される。
【0034】
以上のように、本実施形態では、密閉空間を形成した状態で複数の流路を使って洗浄液の供給及び吸引を行うことができるので、対象物を効率的に洗浄することが可能である。しかも、内筒及び中筒が対象物に近接しつつもそこから隔てられて位置決めされるので、対象物の破損やはがれといった問題を効果的に防止することができる。さらに、送気により残留液を吹き飛ばしてそれを除去吸引できるので、次の試薬処理を適正に行えるという利点がある。上述した実施形態においては、ひとつのノズルユニットが示されていたが、複数のノズルユニットを同時にあるいは個別的に動作させるようにしてもよい。いずれにしても、各対象物ごとに洗浄処理を独立して行うことができるので、各対象物に対して必要なタイミングで洗浄処理を実行できるという利点がある。
【0035】
次に、図3を用いて他の実施形態について説明する。なお、図1に示した構成と同様の構成には同一符号を付し、その説明を省略する。図3に示されるノズルユニット30は、図1に示した実施形態と同様に内筒12,中筒14及び外筒16を有している。ただし、内筒12及び中筒14は一体化された内部二重管32を構成し、その内部二重管32は外筒16に対して独立して相対運動をすることが可能である。内部二重管32と外筒16とを合わせてノズル体34が構成される。
【0036】
外筒16にはブロック36を介して搬送機構38が連結されている。搬送機構38は、軸40を備えており、その軸40を介して搬送機構38による上下運動がブロック36に伝達されている。ただし、フレーム42に対してバネ46を介してブロック36が連結されており、外筒16がプレート上面に当接した段階における衝撃はバネ46によって吸収可能である。搬送機構38は接触センサ44を備えており、接触センサ44によりプレートへの当接が検出される。
【0037】
本実施形態では、ブロック36上にアクチュエータ52が設けられており、そのアクチュエータ52はブロック36に対して相対的にブロック54を運動させるものである。そのブロック54には内部二重管32の上端部が連結されている。すなわち、アクチュエータ52によって外筒16を基準として内部二重管32の上下方向の位置を定めることが可能である。
【0038】
ブロック36には内部二重管32の中間部分を保持するシール構造が形成されており、具体的には図示されるようにシール部材としてのOリング50が設けられている。すなわち外筒16に対して内部二重管32が運動しても気密性が保持されている。ブロック54には距離センサ56が設けられている。距離センサ56は発光器60及び受光器62により構成され、発光器60により生じた光がブロック36上の反射面58にて反射され、その光が受光器62にて受波される。このような光計測によりブロック54とブロック36との間の相対的な距離、すなわち外筒16を基準とした場合における内部二重管32の位置を観測することが可能である。その結果、制御部の制御により、外筒16の先端面を基準として、内筒12及び中筒14の先端面の高さを適正にすることができ、すなわちギャップΔhを設定することが可能である。このギャップΔhは例えばサンプルの厚みに応じて可変するようにしてもよい。すなわち、サンプルに近接しつつもそこに接触しないように内部二重管32の高さを位置決めするものである。
【0039】
また、図4に示されるように、プレート60にサンプルとしての対象物64を収容するウェル62が形成され、そのウェル62の外側周囲に外筒16の先端面を当接させる場合、図3に示されるような構成を採用するのが望ましい。すなわち、ウェル62の深さに応じて、あるいは対象物64の厚みに応じて、外筒16の先端面を基準としつつ内筒12及び中筒14の先端面の高さを定めるものである。一般に、外筒16の先端面の高さh2よりも、内部二重管の先端面の高さh3の方が高い位置にあると考えられるが、状況によっては、それらの高さ関係が逆転するということも考えられる。
【0040】
次に、図5乃至図8を用いて、図1に示した装置を用いた試薬処理の例を説明する。本実施形態に係る装置は、三重管であるノズルユニットを試薬処理及び洗浄処理の両方において用いることが可能であるという特徴事項を具備する。勿論、ノズルユニットを試薬処理及び洗浄処理の一方だけで用いることも可能である。
【0041】
図5には試薬処理を行う場合の要部構成が示されている。装置全体については図1に示したものが利用される。ノズルユニット10は、内筒12、中筒14及び外筒16で構成され、図5に示す例では、外筒16の外側に温度管理用のヒーター106が設けられている。プレート18には対象物である検体20が設けられ、試薬処理時においては、外筒16の先端面が、プレート18の上面であって検体20の周囲に当接される。これにより試薬処理用の密閉空間が形成されれる。その際、内筒12の先端面及び中筒14の先端面は、検体20に近接するが、それに接触しない高さに位置決めされる。プレート18の下面側には温度管理用のヒーター108が設けられている。
【0042】
プレート18の近くには試薬容器110が設置されている。試薬容器110はその内容に試薬を貯留するものであり、その下部112が水平方向に広がっており、その上部には中間壁117から突出形成された差込筒116が存在し、それに隣接して中間壁117から突出形成した貯留室114が存在する。貯留室114の上部開口は開閉可能な蓋114Aによって塞がれている。差込筒116の開口面レベルと、貯留室114の開口面レベルは図5に示す構成例において同一であるが、それらの間に相違があってもよい。差込筒116は、図6に示すように、ノズルユニットにおける内筒12と中筒14との間の隙間である空間Bに挿入可能な直径をもって円形の形態に構成されている。貯留室114は上方から見て矩形の形態を有しているが、その他の形態をもって構成されていてもよい。
【0043】
図7には、試薬吸引時の様子が示されている。試薬吸引時においては、この例において、内筒12及び中筒14が外筒16に対して下方へ引き下ろされ、それらの間に差込筒116が差し込まれる。その状態において、外筒16の先端面レベルは符合122に示す高さにあり、内筒12及び中筒14の先端面レベルは符号124に示す高さにある。その先端面レベル124は、衝突防止のために中間壁の上面よりも若干高く、差込筒116内の液面レベルよりも低いところに定められ、図示の例では、差込筒116の大部分が内筒12及び中筒14の間に入り込んでいる。その状態で、試薬がノズルユニット10の内筒12の内部に吸引される。なお、本実施形態では、内筒12と中筒14とが一体化されており、それによって、それらが同時に上下動するが、それらを個別的に上下動させることが可能な構成が採用されている場合には内筒12だけを下降させてその内部に試薬を吸引させるようにしてもよい。
【0044】
試薬吸引後における試薬処理の際には、図5に示したように、外筒16により構成される密閉空間内に対して、空間Aから試薬が供給されて、検体に対する試薬処理が遂行される。一定時間の後、密閉空間内の試薬は空間Bを介して吸引される。密閉空間から試薬吸引を行えるので、残液を極力少なくできる。試薬の吐出及び吸引がなされた後、図5に示される洗浄槽120を利用してノズルユニット10が洗浄される。その場合には、各流路から洗浄液を垂れ流して洗浄槽120で洗浄液を捕獲するようにしてもよいし、洗浄槽120を洗浄井戸として利用して、ノズルユニット10から流出した洗浄液を外筒16の外部表面へ環流させて、いわゆるオーバーフロー方式によってノズルユニット10を洗浄するようにしてもよい。
【0045】
次に、図8を用いて図1に示した装置についての他の動作例について説明する。なお、図2に示した動作例では、プレート洗浄からノズルユニット洗浄までの工程が示されていたが、図8に示した動作例では、試薬処理からノズルユニット洗浄までの工程が示されている。ここで、S201は試薬処理工程を示し、S202はプレート洗浄工程を示し、S203はノズル洗浄工程を示している。以下、各工程の具体的内容を説明する。
【0046】
S204では、図5に示した試薬容器110の上方にノズルユニット10が位置決めされる。S205では、ノズルユニット10の全体が一定の高さまで引き下ろされた後、外筒16をそのままの高さに維持させたままで、内筒12及び中筒14だけが更に下方へ引き下ろされ、それらの間に試薬吸引口である差込筒116が差し込まれる。S206では、内筒12の内部である空間A内に試薬が吸引される。その場合、図1に示した弁V1により流路a1が選択され、シリンジポンプP1による吸引動作がなされる。その後、その吸引状態が試薬吐出まで維持される。S207では、内筒12及び中筒14が上方へ引き上げられ、それらが外筒16内に格納される。格納状態において、外筒16の先端面レベルよりも内筒12及び中筒14の先端面レベルの方が所定量だけ上方に位置決められるように構成するのが望ましい。S208では、ノズルユニット10が上方に引き上げられ、それが反応処理を行う部位の上方へ、つまりプレート18上の検体20の上方へ位置決められる。その後、弁V3及び弁V4によって空間Cが大気開放状態におかれる(S209)。S210では、ノズルユニット10が下降し、外筒16の先端面がプレート18の上面に当接され、その時点でノズルユニット10の下降が停止する。その状態では、外筒16内に検体20を含む密閉空間が形成される。S211では、密閉空間内で内筒12及び中筒14を上下動し、検体20との間の位置制御を行う。S212では、シリンジポンプP1が駆動されて、空間Aから検体20に対して試薬が吐出される。その直後のS213で弁V4が閉じられ、一定時間にわたって試薬処理が遂行される。その際に必要であれば温度が管理される。
【0047】
試薬処理後のプレート洗浄時には、S214において、弁V4が開放され、外筒16による検体を包んだ密閉状態つまりプレート上での隔離状態のまま、S215において、弁V1及びシリンジポンプP1の作用により、一定量の洗浄液が空間Aを経由して密閉空間へ注ぎ込まれる。その後、S216において、ポンプP2により洗浄液が吸引され、その際に弁V2は流路b1(廃液タンク側)を選択する。これらのS215及びS216の工程が必要回数繰り返される。例えば3回繰り返される。S217では、弁V4が閉鎖され、S218において、弁V3及びポンプP4の作用により、空間Cにエアが注ぎ込まれ、同時に、ポンプP2及び弁V2の作用によって、空間Bが吸引される。
【0048】
次に、S219においては、ノズルユニットが上昇駆動され、それがノズルユニット10の洗浄を行う洗浄槽120(図5)の上方へ位置決めされる。そして、S220において、ノズルユニット10の下降駆動によりそれが洗浄槽120内に差し込まれてその状態で停止される。S221では、弁V1,V2,V3及びポンプP1,P2,P3の作用によって、空間A,B,Cにそれぞれ洗浄液が流し込まれる。その洗浄液は洗浄槽120で捕獲され、その際に、ノズルユニット10の外部まで洗浄液が環流するならば、その部分の洗浄効率も高められる。S222では、洗浄液の供給が停止され、S223では、弁V2,V3が切り替えられた後、ノズルユニット10が上昇駆動される。S224では、ポンプP3により、空間Cに対してエアが送り込まれる。その際、ポンプP2により空間Bが吸引される。S225では、空間Cへのエアの供給及び空間Bからの吸引がそれぞれ停止される。S226では、プロセスを続行するか否かが判断され、続行する場合にはS204以降の工程が繰り返し実行される。
【0049】
上記実施形態によれば、三重管構造をもったノズルユニットを利用して試薬処理及びプレート洗浄を効率的に行うことができる。特に、それらの工程間でノズルの運動を行わせる必要がないので、つまりノズルユニットの接触状態をそのまま維持できるから、動作効率が非常によい。また、ノズルユニットに形成された複数の流路を使って効率的な試薬処理及び洗浄処理を行えるという利点が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る処理装置の好適な実施形態を示すブロック図である。
【図2】図1に示した処理装置の動作例を説明するためのフローチャートである。
【図3】他の実施形態に係る洗浄処理装置を説明するための図である。
【図4】ウェルを有するプレートに対する洗浄処理を説明するための図である。
【図5】試薬処理のための構成を示す概念図である。
【図6】試薬容器の上面図である。
【図7】試薬吸引時の動作を示す説明図である。
【図8】図1に示した処理装置の他の動作例を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0051】
10 ノズルユニット、12 内筒、14 中筒、16 外筒、18 プレート、20 対象物、22 搬送機構、28 制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物が表面に設けられたプレートと、
前記プレート上の対象物に対して液体処理を行う場合に利用され、複数の流路を有する多重管構造をもったノズルユニットと、
前記ノズルユニットが有する複数の流路に接続された吸引吐出機構と、
を含み、
前記ノズルユニットは、
前記対象物の液体処理において、前記対象物を取り囲みつつ前記プレートの表面に当接される外筒先端面を有し、その外筒先端面の当接状態で前記対象物を含んだ密閉空間を形成する外筒と、
前記外筒の中に設けられた筒状部材であって、前記対象物の液体処理において、前記対象物に対してその上方から非接触で近接する中筒先端面を有する中筒と、
前記中筒の中に設けられた筒状部材であって、前記対象物の液体処理において、前記対象物に対してその上方から非接触で近接する内筒先端面を有する内筒と、
を含み、
前記外筒と前記中筒との間に外側流路が形成され、前記中筒と前記内筒との間に中間流路が形成され、前記内筒の中に内側流路が形成され、
前記密閉空間の形成状態で、前記外側流路、前記中間流路及び前記内側流路からなる流路群の中から選択された複数の流路を利用して前記対象物の液体処理が行われる、
ことを特徴とする対象物処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記吸引吐出機構は、
前記流路群の中の第1流路に接続され、前記対象物の液体処理としての前記対象物の洗浄処理の際に前記密閉空間へ洗浄液を供給するための第1ポンプ手段と、
前記流路群の中の第2流路に接続され、前記対象物の洗浄処理の際に前記密閉空間へ供給された洗浄液を吸引するための第2ポンプ手段と、
前記流路群の中の第3流路に接続され、前記対象物の洗浄処理の際に乾燥用ガスを供給する第3ポンプ手段と、
を含むことを特徴とする対象物処理装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、
前記吸引吐出機構は、前記流路群の中の所定流路に接続され、前記対象物の液体処理としての試薬による反応処理の際に、試薬槽から当該流路へ試薬の吸引を行わせ且つ当該流路から前記密閉空間へ試薬を吐出させる分注手段を含む、ことを特徴とする対象物処理装置。
【請求項4】
請求項3記載の装置において、
前記所定流路及び前記第1流路は前記内側流路であり、
前記内側流路が、前記反応処理における試薬の吸引及び吐出並びに前記対象物の洗浄処理における洗浄液の吐出で兼用される、ことを特徴とする対象物処理装置。
【請求項5】
請求項4記載の装置において、
前記内側流路にはシリンジポンプが接続され、
前記シリンジポンプは、前記反応処理において前記分注手段を構成し且つ前記対象物の洗浄処理において前記第1ポンプ手段を構成する、ことを特徴とする対象物処理装置。
【請求項6】
請求項5記載の装置において、
前記シリンジポンプは、前記対象物の洗浄処理後の前記ノズルユニット自身の洗浄処理において、前記第1流路としての前記内側流路に洗浄液を供給し、
前記第2ポンプ手段は、前記ノズルユニット自身の洗浄処理において、前記第2流路としての前記中間流路に洗浄液を供給し、
前記第3流路としての前記外側流路には第4ポンプ手段が接続され、
前記第4ポンプ手段は、前記ノズルユニット自身の洗浄処理において、前記第3流路としての前記外側流路に洗浄液を供給する、
ことを特徴とする対象物処理装置。
【請求項7】
請求項6記載の装置において、
前記第3ポンプ手段は、前記ノズルユニット自身の洗浄処理において、前記第4ポンプ手段による前記外側流路への前記洗浄液の供給後に、前記外側流路へ乾燥用ガスを供給する、
ことを特徴とする対象物処理装置。
【請求項8】
請求項1記載の装置において、
前記プレートの表面は平坦面であり、
少なくとも前記外筒先端面の当接状態において、前記外筒先端面よりも前記中筒先端面及び前記内筒先端面が奥側に引っ込んだ高い位置にある、
ことを特徴とする対象物処理装置。
【請求項9】
請求項1記載の装置において、
前記プレートの表面には、前記対象物を底面に収容する凹部とその底面よりも高い周囲部とが形成され、
前記外筒先端面が前記周囲部の上面に当接した状態において、前記中筒先端面及び前記内筒先端面が前記対象物の上面よりも高い位置に位置決めされる、
ことを特徴とする対象物処理装置。
【請求項10】
請求項1記載の装置において、
前記外筒に対して前記中筒及び前記内筒のうち少なくとも一方を相対的に上下動させる調整機構が設けられた、
ことを特徴とする対象物処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate