説明

封止部材抜け止め構造

【課題】封止部材への加工等を要せず、簡単な方法で、封止部材の抜け止めを実現することができる、減速機の封止部材抜け止め構造を提供すること。
【解決手段】減速機のハウジング62に溝14が設けられる。溝14の内周部には、弾性接着剤12が塗布される。オイルシール10を圧入すると、溝14におけるオイルシール10の外周部分は、圧力から解放されるため、弾性復元力により、溝14内で弾性接着剤12に接触するように膨らむ。これにより、オイルシール10が溝14の部分で固定されることになり、オイルシール10とハウジング62との固定が強化される。オイルシール10の加工は不要であり、弾性接着剤12も市販されているシリコーン系液状ガスケットを使用できるため、工数及びコストがかからない簡単な方法で、封止部材の抜け止めを実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機のハウジング又はシールサポータに圧入して固定される封止部材の抜け止め構造に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車式減速機では、摩擦の低減による歯車の摩耗防止と冷却のため、ギアボックスには一定量の潤滑油が封入される。従って、その潤滑油が、外部に漏れ出ないことが要請される。
一般的に、入出力軸等の回転部の潤滑油漏れを防止するための部材として、オイルシールが用いられる。オイルシールは減速機のハウジングや歯車箱の回転部に固定される。また、回転部以外の箇所には、シールキャップを用いることで減速機外部への潤滑油漏れを防止している。
【0003】
しかし、以下の1〜3の原因により、ハウジングやシールサポータから、潤滑油漏れを防止するための金属環外周にゴムが具えられたオイルシールやシールキャップ(以下、「封止部材」と略称することがある。)が抜けるという問題があった。
1.ギアの回転と潤滑油の攪拌による発熱に伴い、封止部材の外周部が熱により軟化する。
2.ハウジングやシールサポータの封止部材取付け部が膨張し、寸法が増大する。
3.軟化した封止部材は、減速機内部の圧力が上昇することで、ハウジングやシールサポータ内周部との緊迫力を失う。
【0004】
そこで、従来技術として特許文献1から4に示す、オイルシール抜け止め構造がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平6−73383号公報
【特許文献2】実開昭62−45468号公報
【特許文献3】特開平8−193661号公報
【特許文献4】特開2003−214359号公報
【0006】
特許文献1の考案は、クランクケースの軸挿通孔の内周面に没設した固定溝に、オイルシールの外周面に膨出させた変形部を係合させることで、オイルシールが抜けるのを防止している。
特許文献2乃至4の考案及び発明は、ハウジングに設けた溝にオイルシールの外周面に形成した環状突起を係合させる、オイルシール抜け止め構造を開示している。
【0007】
しかし、特許文献1の考案は、クランクケースの固定溝にシーリング弾性材料を膨出させたに過ぎず、オイルシール圧入時に発生するシーリング材料の損傷や歯車の噛合いにより生じる発熱や内部の圧力上昇が生じた場合に、オイルシールの抜けが防止できるか否かが明らかでない。また、クランクケースの固定溝に係合される膨出変形部は、オイルシールの外面に形成した凸状の弯曲面であることから、特殊な加工が必要とされる。
さらに、特許文献2乃至4の考案及び発明は、それぞれオイルシールの外周面に環状突起を形成する必要があり、オイルシールを補強する部材をハウジングに形成された係止溝に対応させるために外側に折り曲げなければならない等、オイルシールの抜け止めを実現するために、コストや工数が多くかかる、という問題を抱えている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
オイルシールやシールキャップは1台の減速機に多数用いられるため、その抜けを防止する構造は、コスト及び加工に時間がかからない方法で実現できることが望ましい。
【0009】
そこで、オイルシール及びシールキャップの形状を変えずに、オイルシールやシールキャップの抜け止めを実現する方法として、圧入により、減速機のハウジングの嵌め合い部に締め代を持たせて固定保持する方法がある。この方法では、封止部材に圧入時のキズがつくことを防止し、且つ、固定保持力を上げるために封止部材外周部に接着剤を塗布することがあるが、オイルシールメーカーは、接着剤の使用を推奨してはいないため、接着剤を塗布せずに、封止部材抜け止めを実現する必要があった。
また、この方法では、抜け止め効果を高めるために、減速機のハウジングの嵌め合い部に粗さを出すが、ハウジングがアルミ、チタン等の軽合金製の場合、軟質であるため、加工上、粗さを出すのに工数がかかる、という問題があった。
【0010】
本発明は、従来技術の以上のような問題を解決する封止部材抜け止め構造の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ハウジング内に潤滑油が封入され、前記ハウジング又はシールサポータに封止部材が圧入された減速機において、
前記ハウジング又はシールサポータの内周部の周方向に溝が形成され、該溝には弾性接着剤が塗布され、
前記封止部材の前記溝に対応する部分が、前記圧入による圧力から解放され、前記弾性接着剤に接着されていることを特徴とする封止部材抜け止め構造により前記課題を解決した。
なお、請求項2のように、前記溝の断面形状は用途に合わせて、四角形、直角三角形、二等辺三角形、又は半円にしてよい。
また、請求項3のように、前記溝は、周方向に連続したものに限られず、断続したものであってもよい。
さらに、請求項4のように、前記溝は、軸方向に間隔をおいて複数形成してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、減速機のハウジング又はシールサポータに溝を設けることで、圧入された封止部材が、外周部のゴム弾性の復元力により溝内で膨らみ、この溝に塗布されている弾性接着剤が封止部材に接着することで抜け止めとなる。ここで、「弾性接着剤」とは、常温で硬化するゴム状の弾性体を形成する接着剤であり、耐寒性、耐熱性、耐水性、耐候性、電気絶縁性、耐油性、耐振動性、耐衝撃性に優れている。また、弾性接着剤は、流動性にも富むため、小さな隙間にも容易に充填でき、特に、高温時における接合面のシール材として有効に機能する。
従って、溝への弾性接着剤の塗布は、下記3つの効果を有する。
1.封止部材圧入時に、溝のエッジ部分と接触することが原因で、封止部材に傷がつくことを防止することができる。
2.弾性接着剤の接着性により、封止部材の固定保持力を向上させることができる。
3.弾性接着剤は、空気に触れるとゴム状弾性体に硬化するため、シーリング材としての性能を有し、潤滑油漏れ防止効果を高めることができる。
【0013】
さらに、前記溝の軸方向の断面形状は、普通は、加工が容易な四角形状でよいが、必要に応じて、二等辺三角形、直角三角形や半円にしてもよい。二等辺三角形、直角三角形や半円は加工が困難であるが、四角形に比べて圧入時の傷防止及び抜け止め効果が高い、という利点がある。また、封止部材自体には加工が不要であるため、市販のものを使用でき、コスト及び工数を削減することができる。弾性接着剤としては、例えば、市販のシリコーン系液状ガスケットを用いればよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a),(b)は、ハウジングに溝を設けた減速機の回転軸にオイルシールを配設した減速機のオイルシールの圧入前後の縦断面図。
【図2】(a),(b)は、シールサポータに溝を設けた減速機にシールキャップを配設した減速機のシールキャップの圧入前後の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面1及び2を参照して、本発明の実施形態を説明する。
図1の(a)は、ハウジングに溝を設けた減速機の回転軸にオイルシールを配設する前の減速機の縦断面図、図1の(b)は、ハウジングに溝を設けた減速機の回転軸にオイルシールを配設した後の減速機の縦断面図、図2の(a)は、シールサポータに溝を設けた減速機にシールキャップを配設する前の減速機の縦断面図、図2の(b)は、シールサポータに溝を設けた減速機にシールキャップを配設した後の減速機の縦断面図である。
なお、図1の(a)及び図2の(a)は、オイルシール及びシールキャップが「圧入」されることを分かり易くするために、オイルシール及びシールキャップの大きさを誇張して描いている。
【0016】
まず、図1に示す、ハウジングに溝を設けた減速機の回転軸にオイルシールを配設した封止部材抜け止め構造を説明する。
ハウジング62には、深さ0.5mm〜0.8mmの溝14が設けられる。溝14の内周部には、弾性接着剤12が塗布される。弾性接着剤12には、市販されているシリコーン系液状ガスケットが用いられる。オイルシール10の圧入部には、0.3mm〜0.5mmの締め代があるため、図1(a)に示す矢印方向に圧入されると、ハウジング62からの圧力を受ける。しかし、溝14におけるオイルシール10の外周部分は、圧力から解放されるため、弾性復元力により、図1(b)に示すとおり、溝14内で弾性接着剤12に接触するように膨らむ。これにより、オイルシール10が溝14の部分でしっかりと固定されることになり、オイルシール10とハウジング62との固定が強化される。
また、弾性接着剤12は、接着性を有するとともに、硬化前は液状であるため、溝14内周部にまんべんなく充填され、オイルシール12と溝14の間からの潤滑油漏れを防止する。硬化後は、ゴム状弾性体を形成するため、水密性、気密性、接着性、追従性、耐久性、耐振動性、耐衝撃性及び耐熱性に優れたシーリング材としての役割を果たす。従って、弾性接着剤12を溝14に塗布することで、その接着性により、オイルシール10とハウジング62との固定が強化され、シーリング材としての役割により、潤滑油漏れ防止効果を高めることができる。
【0017】
さらに、弾性接着剤12には、塗布後、オイルシール10が圧入されるまでは、オイルシール10の損傷防止可能な一定の弾性力を保持することが要請される。このような性質の弾性接着剤12を塗布することで、オイルシール10の圧入時に溝14のエッジ部との接触により、オイルシール10が損傷するのを防ぐことができる。従って、弾性接着剤12として瞬間接着剤や硬化形接着剤を用いることはできない。
なお、弾性接着剤12の量は、溝14の半分程度にするのが好適である。弾性接着剤12の量を溝14の半分程度にすることで、オイルシール10とハウジング62を接着させる機能及び潤滑油漏れ防止効果を高めるシール機能の両方を果たさせることができる。
【0018】
溝14の形状は、通常は、加工が容易な四角形でよい。しかし、溝14エッジ部によるオイルシール10の損傷をより高い確率で防止したい場合やオイルシール10の抜け止め効果をさらに高めたい場合は、直角三角形、二等辺三角形又は半円にしてもよい。
また、図示は省略するが、ハウジング内周部の溝14は、ハウジング又はシールサポータの円筒状内周部に沿って連続した形状ではなく、断続して設けてもよく、また、軸方向に、間隔をおいて複数設けてもよい。溝14を複数設けることで、封止部材とハウジング又はシールサポータの引っかかりが増えるため、封止部材がより抜けにくくなる。
このように、溝14の数や形状は、所望の機能に応じて、適宜決めればよい。
【0019】
次に、図2は、シールサポータに溝を設けた減速機にシールキャップを配設した封止部材抜け止め構造である。
図2に示すように、本発明は、オイルシール使用箇所だけではなく、シールキャップ使用箇所にも利用できる。また、溝はハウジングではなく、シールサポータに設けてもよい。
シールキャップ20は、ギアボックス等、加工の都合上設けた孔部からの潤滑油漏れ防止及び外部からの異物侵入を防止するための密封用蓋であり、減速機の回転軸以外の箇所に用いられる。
シールキャップ20の外周部は、ゴム製のため、図2(a)に示す矢印方向に圧入されると、オイルシールを圧入した場合と同様にシールサポータ70からの圧力を受けるが、溝14に達すると圧力から解放され、図2(b)に示すとおり、ゴムの弾性により、溝14内の弾性接着剤12に接するように膨らむ。これにより、シールキャップ20と溝14に固定され、シールキャップ20の抜け止めを実現することができる。
シールサポータ70に塗布する弾性接着剤12にも、市販されているシリコーン系液状ガスケットを使用すればよい。また、溝14に塗布する弾性接着剤12の量は、オイルシールを圧入した場合と同様に、溝14の半分程度にするのが好適である。
【0020】
このように、本発明は、圧入タイプの封止部材であればよいため、オイルシール、シールキャップ等の封止部材の種類を問わずに、その抜け止めを実現することができる。また、ハウジングやシールサポータに溝を設けるだけでよく、封止部材の加工は不要であり、弾性接着剤も市販されているシリコーン系液状ガスケットを使用できるため、工数及びコストの削減になる。
また、溝の形状は、用途に合わせて直角三角形、二等辺三角形又は半円にしてもよい。
さらに、溝はハウジング又はシールサポータの円筒状内周部に沿って断続して複数設けてもよく、軸方向に間隔をおいて設けてもよい。溝を複数設けることで、封止部材とハウジング又はシールサポータの引っかかりが増え、封止部材がより抜けにくくなる上、溝を隙間なく形成する必要がないため、工数及びコストをかけずに、簡単な方法で、封止部材の抜け防止を強化することができる。
【符号の説明】
【0021】
10 封止部材(オイルシール)
12 弾性接着剤
14 溝
20 封止部材(シールキャップ)
62 ハウジング
70 シールサポータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に潤滑油が封入され、前記ハウジング又はシールサポータに封止部材が圧入された減速機において、
前記ハウジング又はシールサポータの内周部の周方向に溝が形成され、該溝には弾性接着剤が塗布され、
前記封止部材の前記溝に対応する部分が、前記圧入による圧力から解放され、前記弾性接着剤に接着されていることを特徴とする、
封止部材抜け止め構造。
【請求項2】
前記溝の軸方向断面が四角形、直角三角形、二等辺三角形、又は半円である、請求項1の封止部材抜け止め構造。
【請求項3】
前記溝が周方向に断続して2箇所以上形成された、請求項1又は2の封止部材抜け止め構造。
【請求項4】
前記溝が軸方向に2箇所以上間隔を置いて形成された、請求項1から3いずれかの封止部材抜け止め構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−230104(P2010−230104A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79319(P2009−79319)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000150800)株式会社ツバキエマソン (102)
【Fターム(参考)】