説明

封着材料層付きガラス部材の製造方法及び製造装置、並びに電子デバイスの製造方法

【課題】ガラス基板全体を加熱できないような場合においても、封着材料層を良好に形成することができる封着材料層付きガラス部材の製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス基板2上の封着材料ペーストの枠状塗布層8にレーザ光9A、9Bを照射し、少なくとも一方を枠状塗布層8に沿って走査しながら照射して封着材料層を形成する。照射開始位置と照射終了位置の少なくとも一方で、一対のレーザ光の外周の一部が重なる、外周が隣接する、もしくはレーザ光のビーム径以下の間隔で外周が離間するように、レーザ光9A、9Bを照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封着材料層付きガラス部材の製造方法及び製造装置、並びに電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイ(Organic Electro−Luminescence Display:OELD)、電界放出型ディスプレイ(Feild Emission Dysplay:FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、液晶表示装置(LCD)等の平板型ディスプレイ装置(FPD)では、表示素子を形成した素子用ガラス基板と封止用ガラス基板とを対向配置し、これら2枚のガラス基板間を封着したガラスパッケージで表示素子を封止した構造が適用されている(特許文献1参照)。色素増感型太陽電池のような太陽電池においても、2枚のガラス基板で太陽電池素子(光電変換素子)を封止したガラスパッケージを適用することが検討されている(特許文献2参照)。
【0003】
2枚のガラス基板間を封止する封着材料には、耐湿性等に優れる封着ガラスの適用が進められている。封着ガラスによる封着温度は400〜600℃程度であるため、加熱炉を用いて焼成した場合にはOEL素子や色素増感型太陽電池素子等の電子素子部の特性が劣化するおそれがある。そこで、2枚のガラス基板の周辺部に設けられた封止領域間に封着ガラスとレーザ吸収材とを含む封着材料層を配置し、これにレーザ光を照射して封着材料層を加熱、溶融させて封着することが試みられている(特許文献1,2参照)。
【0004】
レーザ封着を適用する場合には、まず封着材料をビヒクルと混合して封着材料ペーストを調製し、これを一方のガラス基板の封止領域に塗布した後、封着材料の焼成温度(封着ガラスの軟化温度以上の温度)まで昇温し、封着ガラスを溶融してガラス基板に焼き付けて封着材料層を形成する。また、封着材料の焼成温度への昇温過程で有機バインダを熱分解して除去する。次いで、封着材料層を有するガラス基板と他方のガラス基板とを封着材料層を介して積層した後、一方のガラス基板側からレーザ光を照射し、封着材料層を加熱、溶融させることによって、ガラス基板間に設けられた電子素子部を封止する。
【0005】
封着材料層の形成には、一般的に加熱炉が用いられている。特許文献3には、封着材料層の形成工程で有機バインダを除去する第1の昇温過程と、封着材料を焼き付ける第2の昇温過程とを実施することが記載されている。第1の昇温過程においては、ホットプレート、赤外線ヒータ、加熱用ランプ、レーザ光等を用いて、ガラス基板をその裏面側から加熱している。第2の昇温過程は通常の焼成工程と同様に、加熱炉内のヒータを用いてガラス基板全体を加熱している。特許文献3に記載された方法においても、封着材料の焼き付けは加熱炉を用いてガラス基板全体を加熱することにより実施されている。
【0006】
ところで、FPD用のガラスパッケージにおいては、素子用ガラス基板のみならず、封止用ガラス基板にもカラーフィルタ等の有機樹脂膜を形成することが行われている。このような場合には、加熱炉を用いて基板全体を加熱すると有機樹脂膜が熱ダメージを受けるため、封止用ガラス基板への封着材料層の形成時においても、一般的な加熱炉を用いた焼成工程を適用することができない。また、色素増感型太陽電池では対向基板側にも素子膜等が形成されるため、焼成工程における素子膜等の熱劣化を抑制することが求められている。さらに、加熱炉を用いた焼成工程は通常長時間要し、エネルギー消費量も多いことから、製造工数や製造コストの削減、また省エネの観点等からも改善が求められている。
【0007】
特許文献4には、低融点ガラス(封着ガラス)とバインダと溶剤とを混合したペーストからなる封着材料を一方のパネル基板に塗布した後、レーザアニールして封着材料層を形成することが記載されている。レーザアニールを適用した場合、封着材料の塗布層におけるレーザ光の照射開始位置と照射終了位置とは重なることになるため、レーザ光の照射終了時に封着ガラスが表面張力や空隙減少等に起因して収縮し、これにより照射終了位置にギャップ(間隙)が生じるおそれがある。封着材料層に生じるギャップは、その後のレーザ封着工程でガラスパッケージの気密封止性を低下させる要因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2006−524419号公報
【特許文献2】特開2008−115057号公報
【特許文献3】特開2003−068199号公報
【特許文献4】特開2002−366050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ガラス基板全体を加熱することができないような場合においても、良好な封着材料層を低コストで再現性よく形成することを可能にした封着材料層付きガラス部材の製造方法及び製造装置と電子デバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の態様に係る封着材料層付きガラス部材の製造方法は、封止領域を有するガラス基板を用意する工程と、封着ガラスとレーザ吸収材とを含む封着材料を有機バインダと混合して調製した封着材料ペーストを、前記ガラス基板の前記封止領域上に枠状に塗布する工程と、少なくとも一対のレーザ光を、前記枠状の封着材料ペーストの塗布層の照射開始位置に照射し、次いで前記少なくとも一対のレーザ光のうちの少なくとも一方を、前記照射開始位置から照射終了位置まで前記枠状の封着材料ペーストの塗布層に沿って走査しながら照射し、前記レーザ光で前記塗布層全体を加熱することによって、前記塗布層内の前記有機バインダを除去しつつ、前記封着材料を焼成して封着材料層を形成する工程とを具備し、前記照射開始位置と前記照射終了位置の少なくとも一方で、前記一対のレーザ光の外周の一部が重なる、前記一対のレーザ光の外周が隣接する、もしくは前記レーザ光の照射ビーム径以下の間隔で前記一対のレーザ光の外周が離間するように、前記少なくとも一対のレーザ光を照射することを特徴としている。
【0011】
本発明の態様に係る封着材料層付きガラス部材の製造装置は、封着ガラスとレーザ吸収材とを含む封着材料を有機バインダと混合して調製した封着材料ペーストの枠状塗布層を有するガラス基板が載置される試料台と、レーザ光を出射するレーザ光源と、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を前記ガラス基板の前記枠状塗布層に照射する光学系をそれぞれ有する少なくとも一対のレーザ照射ヘッドと、前記少なくとも一対のレーザ照射ヘッドから前記枠状塗布層に照射される少なくとも一対のレーザ光の出力を制御する出力制御部と、前記試料台と前記少なくとも一対のレーザ照射ヘッドとの個別位置を相対的に移動させる移動機構と、前記少なくとも一対のレーザ光のうちの少なくとも一方を、前記枠状塗布層の照射開始位置から照射終了位置まで前記枠状塗布層に沿って走査しながら照射するように、前記移動機構を制御する走査制御部とを具備し、前記少なくとも一対のレーザ照射ヘッドは、前記照射開始位置と前記照射終了位置の少なくとも一方における前記一対のレーザ光の照射位置が、前記一対のレーザ光の外周の一部が重なる、前記一対のレーザ光の外周が隣接する、もしくは前記レーザ光の照射ビーム径以下の間隔で前記一対のレーザ光の外周が離間するように、前記走査制御部により制御されることを特徴としている。
【0012】
本発明の態様に係る電子デバイスの製造方法は、第1の封止領域が設けられた第1の表面を有する第1のガラス基板を用意する工程と、前記第1の封止領域に対応する第2の封止領域が設けられた第2の表面を有する第2のガラス基板を用意する工程と、封着ガラスとレーザ吸収材とを含む封着材料を有機バインダと混合して調製した封着材料ペーストを、前記第2のガラス基板の前記第2の封止領域上に枠状に塗布する工程と、少なくとも一対の焼成用レーザ光を、前記枠状の封着材料ペーストの塗布層の照射開始位置に照射し、次いで前記少なくとも一対の焼成用レーザ光のうちの少なくとも一方を、前記照射開始位置から照射終了位置まで前記枠状の封着材料ペーストの塗布層に沿って走査しながら照射し、前記焼成用レーザ光で前記塗布層全体を加熱することによって、前記塗布層内の前記有機バインダを除去しつつ、前記封着材料を焼成して封着材料層を形成する工程と、前記第1の表面と前記第2の表面とを対向させつつ、前記封着材料層を介して前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板とを積層する工程と、前記第1のガラス基板又は前記第2のガラス基板を通して前記封着材料層に封着用レーザ光を照射し、前記封着材料層を溶融させて前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間に設けられた電子素子部を封止する封着層を形成する工程とを具備し、前記少なくとも一対の焼成用レーザ光による前記照射開始位置と前記照射終了位置の少なくとも一方で、前記一対の焼成用レーザ光の外周の一部が重なる、前記一対の焼成用レーザ光の外周が隣接する、もしくは前記焼成用レーザ光の照射ビーム径以下の間隔で前記一対の焼成用レーザ光の外周が離間するように、前記少なくとも一対の焼成用レーザ光を照射することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の態様に係る封着材料層付きガラス部材の製造方法によれば、ガラス基板全体を加熱することができないような場合においても、良好な封着材料層を低コストで再現性よく形成することができる。従って、そのようなガラス基板を用いる場合においても、信頼性や封止性等に優れる電子デバイスを安価に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態による電子デバイスの製造工程を示す断面図である。
【図2】図1に示す電子デバイスの製造工程で使用する第1のガラス基板を示す平面図である。
【図3】図2のA−A線に沿った断面図である。
【図4】図1に示す電子デバイスの製造工程で使用する第2のガラス基板を示す平面図である。
【図5】図4のA−A線に沿った断面図である。
【図6】図1に示す電子デバイスの製造工程における第2のガラス基板への封着材料層の形成過程を示す断面図である。
【図7】本発明の実施形態におけるレーザ光の照射開始位置及び照射終了位置の第1の例を示す図である。
【図8】本発明の実施形態におけるレーザ光の照射開始位置及び照射終了位置の第2の例を示す図である。
【図9】本発明の実施形態におけるレーザ光の照射開始位置及び照射終了位置の第3の例を示す図である。
【図10】本発明の第1の実施形態による封着材料層付きガラス部材の製造装置を示す平面図である。
【図11】図10に示す封着材料層付きガラス部材の製造装置の正面図である。
【図12】図10に示す封着材料層付きガラス部材の製造装置の側面図である。
【図13】本発明の実施形態による封着材料層付きガラス部材の製造装置におけるレーザ照射ヘッドの構造を示す図である。
【図14】本発明の実施形態の封着材料層付きガラス部材の製造装置におけるレーザ光の第1の走査例を示す図である。
【図15】本発明の第2の実施形態による封着材料層付きガラス部材の製造装置を示す平面図である。
【図16】図15に示す封着材料層付きガラス部材の製造装置の正面図である。
【図17】図15に示す封着材料層付きガラス部材の製造装置の変形例を示す平面図である。
【図18】図17に示す封着材料層付きガラス部材の製造装置の正面図である。
【図19】図17に示す封着材料層付きガラス部材の製造装置の他の変形例を示す平面図である。
【図20】図19に示す封着材料層付きガラス部材の製造装置の正面図である。
【図21】図19に示す封着材料層付きガラス部材の製造装置の側面図である。
【図22】本発明の実施形態の封着材料層付きガラス部材の製造装置におけるレーザ光の第2の走査例を示す図である。
【図23】本発明の実施形態の封着材料層付きガラス部材の製造装置による封着材料層の形成方法の一例を示すフローチャートである。
【図24】本発明の実施形態の封着材料層付きガラス部材の製造装置におけるレーザ光の他の走査例を示す図である。
【図25】本発明の実施形態の封着材料層付きガラス部材の製造装置におけるレーザ光のさらに他の走査例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。図1乃至図6は本発明の実施形態による電子デバイスの製造工程を示す図である。ここで、本発明の実施形態の製造方法を適用する電子デバイスとしては、OELD、FED、PDP、LCD等のFPD、OEL素子等の発光素子を使用した照明装置、あるいは色素増感型太陽電池のような封止型の太陽電池が挙げられる。
【0016】
まず、図1(a)に示すように、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2とを用意する。第1及び第2のガラス基板1、2には、例えば各種公知の組成を有する無アルカリガラスやソーダライムガラス等で形成されたガラス基板が用いられる。無アルカリガラスは35〜40×10-7/℃程度の熱膨張係数を有している。ソーダライムガラスは80〜90×10-7/℃程度の熱膨張係数を有している。
【0017】
第1のガラス基板1は、図2及び図3に示すように、素子領域3が設けられた表面1aを有している。素子領域3には対象物である電子デバイスに応じた電子素子部4が設けられる。電子素子部4は、例えばOELDやOEL照明であればOEL素子、FEDであれば電子放出素子、PDPであればプラズマ発光素子、LCDであれば液晶表示素子、太陽電池であれば色素増感型太陽電池素子(色素増感型光電変換素子)を備えている。OEL素子のような発光素子や色素増感型太陽電池素子等を備える電子素子部4は各種公知の構造を有している。この実施形態は電子素子部4の素子構造に限定されるものではない。
【0018】
第1のガラス基板1の表面1aには、素子領域3の外周に沿って第1の封止領域5が設けられている。第1の封止領域5は素子領域3を囲うように設けられている。第2のガラス基板2は、第1のガラス基板1の表面1aと対向する表面2aを有している。第2のガラス基板2の表面2aには、図4及び図5に示すように、第1の封止領域5に対応する第2の封止領域6が設けられている。第1及び第2の封止領域5、6は封着層の形成領域(第2の封止領域6については封着材料層の形成領域)となる。
【0019】
電子素子部4は第1のガラス基板1の表面1aと第2のガラス基板2の表面2aとの間に設けられる。図1に示す電子デバイスの製造工程において、第1のガラス基板1は素子用ガラス基板を構成しており、その表面1aにOEL素子やPDP素子等の素子構造体が電子素子部4として形成される。第2のガラス基板2は第1のガラス基板1の表面1aに形成された電子素子部4の封止用ガラス基板を構成するものである。ただし、電子素子部4の構成はこれに限られるものではない。
【0020】
例えば、電子素子部4が色素増感型太陽電池素子等の場合には、第1及び第2のガラス基板1、2の各表面1a、2aに素子構造を形成する配線膜や電極膜等の素子膜が形成される。電子素子部4を構成する素子膜やそれらに基づく素子構造体は、第1及び第2のガラス基板1、2の表面1a、2aの少なくとも一方に形成される。さらに、封止用ガラス基板を構成する第2のガラス基板2の表面2aには、前述したようにカラーフィルタ等の有機樹脂膜が形成される場合がある。この実施形態の製造方法は、特に第2のガラス基板2の表面2aに有機樹脂膜や素子膜等が形成されている場合に有効である。
【0021】
第2のガラス基板2の封止領域6には、図1(a)、図4及び図5に示すように枠状の封着材料層7が形成されている。封着材料層7は封着ガラスとレーザ吸収材とを含む封着材料の焼成層である。封着材料は主成分としての封着ガラスにレーザ吸収材、さらに必要に応じて低膨張充填材等の無機充填材を配合したものである。封着材料はこれら以外の充填材や添加材を必要に応じて含有していてもよい。
【0022】
封着ガラス(ガラスフリット)には、例えば錫−リン酸系ガラス、ビスマス系ガラス、バナジウム系ガラス、鉛系ガラス等の低融点ガラスが用いられる。これらのうち、ガラス基板1、2に対する封着性(接着性)やその信頼性(接着信頼性や密閉性)、さらには環境や人体に対する影響性等を考慮して、錫−リン酸系ガラスやビスマス系ガラスからなる低融点の封着ガラスを使用することが好ましい。
【0023】
錫−リン酸系ガラス(ガラスフリット)は、55〜68モル%のSnO、0.5〜5モル%のSnO2、及び20〜40モル%のP25(基本的には合計量を100モル%とする)を含む組成を有することが好ましい。SnOはガラスを低融点化させるための成分である。SnOの含有量が55モル%未満であるとガラスの粘性が高くなって封着温度が高くなりすぎ、68モル%を超えるとガラス化しなくなる。
【0024】
SnO2はガラスを安定化するための成分である。SnO2の含有量が0.5モル%未満であると封着作業時に軟化溶融したガラス中にSnO2が分離、析出し、流動性が損なわれて封着作業性が低下する。SnO2の含有量が5モル%を超えると低融点ガラスの溶融中からSnO2が析出しやすくなる。P25はガラス骨格を形成するための成分である。P25の含有量が20モル%未満であるとガラス化せず、その含有量が40モル%を超えるとリン酸塩ガラス特有の欠点である耐候性の悪化を引き起こすおそれがある。
【0025】
ここで、ガラスフリット中のSnO及びSnO2の割合(モル%)は以下のようにして求めることができる。まず、ガラスフリット(低融点ガラス粉末)を酸分解した後、ICP発光分光分析によりガラスフリット中に含有されているSn原子の総量を測定する。次に、Sn2+(SnO)は酸分解したものをヨウ素滴定法により求められるので、そこで求められたSn2+の量をSn原子の総量から減じてSn4+(SnO2)を求める。
【0026】
上記した3成分で形成されるガラスはガラス転移点が低く、低温用の封着材料に適したものであるが、SiO2等のガラスの骨格を形成する成分やZnO、B23、Al23、WO3、MoO3、Nb25、TiO2、ZrO2、Li2O、Na2O、K2O、Cs2O、MgO、CaO、SrO、BaO等のガラスを安定化させる成分等を任意成分として含有していてもよい。ただし、任意成分の含有量が多すぎるとガラスが不安定となって失透が発生したり、またガラス転移点や軟化点が上昇するおそれがあるため、任意成分の合計含有量は30モル%以下とすることが好ましい。この場合のガラス組成は基本成分と任意成分との合計量が基本的には100モル%となるように調整される。
【0027】
ビスマス系ガラス(ガスフリット)は、70〜90質量%のBi23、1〜20質量%のZnO、及び2〜12質量%のB23(基本的には合計量を100質量%とする)の組成を有することが好ましい。Bi23はガラスの網目を形成する成分である。Bi23の含有量が70質量%未満であると低融点ガラスの軟化点が高くなり、低温での封着が困難になる。Bi23の含有量が90質量%を超えるとガラス化しにくくなると共に、熱膨張係数が高くなりすぎる傾向がある。
【0028】
ZnOは熱膨張係数等を下げる成分である。ZnOの含有量が1質量%未満であるとガラス化が困難になる。ZnOの含有量が20質量%を超えると低融点ガラス成形時の安定性が低下し、失透が発生しやすくなる。B23はガラスの骨格を形成してガラス化が可能となる範囲を広げる成分である。B23の含有量が2質量%未満であるとガラス化が困難となり、12質量%を超えると軟化点が高くなりすぎて、封着時に荷重をかけたとしても低温で封着することが困難となる。
【0029】
上記した3成分で形成されるガラスはガラス転移点が低く、低温用の封着材料に適したものであるが、Al23、CeO2、SiO2、Ag2O、MoO3、Nb23、Ta25、Ga23、Sb23、Li2O、Na2O、K2O、Cs2O、CaO、SrO、BaO、WO3、P25、SnOx(xは1又は2である)等の任意成分を含有していてもよい。ただし、任意成分の含有量が多すぎるとガラスが不安定となって失透が発生したり、またガラス転移点や軟化点が上昇するおそれがあるため、任意成分の合計含有量は30質量%以下とすることが好ましい。この場合のガラス組成は基本成分と任意成分との合計量が基本的には100質量%となるように調整される。
【0030】
封着材料はレーザ吸収材を含有している。レーザ吸収材としてはFe、Cr、Mn、Co、Ni、及びCuから選ばれる少なくとも1種の金属又は前記金属を含む酸化物等の化合物が用いられる。また、これら以外の顔料であってもよい。レーザ吸収材の含有量は封着材料に対して0.1〜10体積%の範囲とすることが好ましい。レーザ吸収材の含有量が0.1体積%未満であると封着材料層7を十分に溶融させることができないおそれがある。レーザ吸収材の含有量が10体積%を超えると第2のガラス基板2との界面近傍で局所的に発熱するおそれがあり、また封着材料の溶融時の流動性が劣化して第1のガラス基板1との接着性が低下するおそれがある。
【0031】
さらに、封着材料は必要に応じて低膨張充填材を含有してもよい。低膨張充填材としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、珪酸ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、ムライト、コージェライト、ユークリプタイト、スポジュメン、リン酸ジルコニウム系化合物、石英固溶体、ソーダライムガラス、及び硼珪酸ガラスから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。リン酸ジルコニウム系化合物としては、(ZrO)227、NaZr2(PO43、KZr2(PO43、Ca0.5Zr2(PO43、NbZr(PO43、Zr2(WO3)(PO42、これらの複合化合物が挙げられる。低膨張充填材とは封着ガラスより低い熱膨張係数を有するものである。
【0032】
低膨張充填材の含有量は、封着ガラスの熱膨張係数がガラス基板1、2の熱膨張係数に近づくように適宜に設定される。低膨張充填材は封着ガラスやガラス基板1、2の熱膨張係数にもよるが、封着材料に対して5〜50体積%の範囲で含有させることが好ましい。ガラス基板1、2を無アルカリガラス(熱膨張係数:30〜40×10-7/℃)で形成する場合には、比較的多量(例えば30〜50体積%の範囲)の低膨張充填材を添加することが好ましい。ガラス基板1、2をソーダライムガラス(熱膨張係数:80〜90×10-7/℃)で形成する場合には、比較的少量(例えば5〜40体積%の範囲)の低膨張充填材を添加することが好ましい。
【0033】
封着材料層7は以下のようにして形成される。封着材料層7の形成工程について、図6を参照して説明する。図6は本発明の封着材料層付きガラス部材の製造方法の実施形態を示すものである。まず、封着ガラスにレーザ吸収材や低膨張充填材等を配合して封着材料を作製し、これをビヒクルと混合して封着材料ペーストを調製する。
【0034】
ビヒクルとしては、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、オキシエチルセルロース、ベンジルセルロース、プロピルセルロース、ニトロセルロース等の樹脂を、ターピネオール、ブチルカルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート等の溶剤に溶解したもの、またメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロオキシエチルメタアクリレート等のアクリル系樹脂を、メチルエチルケトン、ターピネオール、ブチルカルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート等の溶剤に溶解したものが用いられる。
【0035】
ビヒクル中の樹脂成分は封着材料のバインダとして機能するものであり、封着材料を焼成する以前に除去する必要がある。封着材料ペーストの粘度は、ガラス基板2に塗布する装置に対応した粘度に合わせればよく、樹脂成分(有機バインダ)と溶剤(有機溶剤等)の割合や封着材料とビヒクルとの割合により調整することができる。封着材料ペーストには、消泡剤や分散剤のようにガラスペーストで公知の添加物を加えてもよい。封着材料ペーストの調製には、攪拌翼を備えた回転式の混合機やロールミル、ボールミル等を用いた公知の方法を適用することができる。
【0036】
図6(a)に示すように、第2のガラス基板2の封止領域6に封着材料ペーストを塗布し、これを乾燥させて塗布層8を形成する。封着材料ペーストは、例えばスクリーン印刷やグラビア印刷等の印刷法を適用して第2の封止領域6上に塗布したり、あるいはディスペンサ等を用いて第2の封止領域6に沿って塗布する。塗布層8は、例えば120℃以上の温度で10分以上乾燥させることが好ましい。乾燥工程は塗布層8内の溶剤を除去するために実施するものである。塗布層8内に溶剤が残留していると、その後の焼成工程(レーザ焼成工程)で有機バインダを十分に除去できないおそれがある。
【0037】
次に、図6(b)に示すように、封着材料ペーストの塗布層(乾燥膜)8に焼成用のレーザ光9を照射する。後に詳述するように、焼成用のレーザ光9には少なくても一対のレーザ光が用いられる。焼成用のレーザ光9を塗布層8に沿って照射して選択的に加熱することによって、塗布層8中の有機バインダを除去しつつ、封着材料を焼成して封着材料層7を形成する(図6(c))。焼成用のレーザ光9は特に限定されるものではなく、半導体レーザ、炭酸ガスレーザ、エキシマレーザ、YAGレーザ、HeNeレーザ等からのレーザ光が使用される。後述する封着用のレーザ光も同様である。
【0038】
焼成用のレーザ光9は、封着ガラスの軟化温度T(℃)に対して塗布層8の加熱温度が(T+80℃)以上で(T+550℃)以下の範囲となるように、塗布層8に沿って走査しながら照射することが好ましい。この際のレーザ光9の走査速度は0.1mm/秒以上で5mm/秒以下の範囲とすることが好ましい。封着ガラスの軟化温度Tは軟化流動するが結晶化しない温度を示すものである。また、レーザ光9を照射した際の塗布層8の温度は放射温度計で測定した値とする。
【0039】
塗布層8の温度が(T+80℃)以上で(T+550℃)以下の範囲となるようにレーザ光9を照射すると、封着材料中の封着ガラスが溶融並びに急冷固化され、これにより封着材料が第2のガラス基板2に焼き付けられて封着材料層7が形成される。塗布層8の温度が(T+80℃)に達しないようなレーザ光9の照射条件下では、塗布層8の表面部分のみが溶融され、塗布層8全体を均一に溶融させることができないおそれがある。一方、塗布層8の温度が(T+550℃)を超えるようなレーザ光9の照射条件下では、ガラス基板2や封着材料層(焼成層)7にクラックや割れ等が生じやすくなる。
【0040】
塗布層8の温度が上述した加熱温度となるように焼成用のレーザ光9を走査しながら照射することによって、塗布層8中の有機バインダが熱分解されて除去される。レーザ光9は塗布層8に沿って走査しながら照射されるため、レーザ光9の進行方向前方に位置する部分は適度に予熱される。有機バインダの熱分解は、塗布層8の該当部分にレーザ光9が直に照射されているときに加えて、レーザ光9の進行方向前方の予熱された部分によっても進行する。これらによって、塗布層8中の有機バインダを有効にかつ効率よく除去することができる。具体的には、封着材料層7内の残留カーボン量を低減することができる。残留カーボンはガラスパネル内の不純物ガス濃度を上昇させる要因となる。
【0041】
有機バインダの除去工程を実現する上で、レーザ光9は0.1mm/秒以上で5mm/秒以下の範囲の走査速度で走査しながら照射することが好ましい。レーザ光9の走査速度が0.1mm/秒未満であると、ガラス基板2が過剰に加熱されてクラックや割れ等が生じやすくなる。レーザ光9の走査速度が5mm/秒を超えると、塗布層8全体が均一に加熱される前に表面部分のみが溶融してガラス化されるため、有機バインダの熱分解により生じたガスの外部への放出性が低下する。このため、封着材料層7の内部に気泡が生じたり、表面に気泡による変形が生じる。封着材料層7の残留カーボン量も増大する。有機バインダの除去状態が悪い封着材料層7を用いてガラス基板1、2間を封止すると、ガラス基板1、2と封着層との接合強度が低下したり、ガラスパネルの気密性が低下する。
【0042】
さらに、走査速度が0.1mm/秒以上で5mm/秒以下の範囲のレーザ光9で、塗布層8の加熱温度を(T+80℃)以上で(T+550℃)以下の範囲とするにあたって、レーザ光9は200〜900W/cm2の範囲の出力密度を有することが好ましい。レーザ光9の出力密度が200W/cm2未満であると、塗布層8全体を均一に加熱することができない。レーザ光9の出力密度が900W/cm2を超えると、ガラス基板2が過剰に加熱されてクラックや割れ等が生じやすくなる。
【0043】
図6(b)はレーザ光9を塗布層8上から照射する状態を示しているが、レーザ光9はガラス基板2を介して塗布層8に照射してもよい。例えば、封着材料ペーストの塗布層8の焼成時間を短縮するためには、レーザ光9の高出力化や走査速度の高速化が有効である。例えば、高出力化したレーザ光9を塗布層8上から照射すると、塗布層8の表面部分のみがガラス化するおそれがある。塗布層8の表面部分のみのガラス化は、上述したような種々の問題を引き起こす。このような点に対して、レーザ光9をガラス基板2側から塗布層8に照射すると、レーザ光9が照射された部分からガラス化したとしても、有機バインダの熱分解により生じたガスを塗布層8の表面から逃すことができる。さらに、レーザ光9を塗布層8の上下両面から照射することも有効である。
【0044】
レーザ光9の照射スポットの形状は、特に限定されるものではない。レーザ光9の照射スポットは一般的には円形であるが、円形に限られるものではない。レーザ光9の照射スポットは、塗布層8の幅方向が短径となる楕円形としてもよい。照射スポットを楕円形に整形したレーザ光9によれば、塗布層8に対するレーザ光9の照射面積を拡大することができ、さらにレーザ光9の走査速度を速くすることができる。これらによって、塗布層8の焼成時間を短縮することが可能となる。
【0045】
レーザ光9による塗布層8の焼成工程は、必ずしも塗布層8の膜厚に限定されるものではないが、焼成後の厚さ(封着材料層7の厚さ)が20μm以下となるような膜厚を有する塗布層8に対して有効である。封着材料層7は20μm以下の厚さを有することが好ましい。焼成後の厚さが20μmを超えるような膜厚を有する塗布層8では、レーザ光9で塗布層8全体を均一に加熱することができないおそれがある。このような場合には、塗布層8の表面部分のみが溶融してガラス化され、有機バインダやその熱分解ガスの除去性が低下しやすい。封着材料層7の厚さは実用的には5μm以上とすることが好ましい。
【0046】
この実施形態による封着材料層7の形成工程においては、封着材料ペーストの塗布層8に焼成用のレーザ光9を照射して選択的に加熱している。このため、第2のガラス基板2の表面2aにカラーフィルタ等の有機樹脂膜、また素子膜等が形成されているような場合においても、有機樹脂膜や素子膜等に熱ダメージを与えることなく、封着材料層7を良好に形成することができる。さらに、有機バインダの除去性にも優れていることから、封着性や信頼性等に優れる封着材料層7を得ることができる。
【0047】
また当然ながら、焼成用のレーザ光9による封着材料層7の形成工程は、第2のガラス基板2の表面2aに有機樹脂膜や素子膜等が形成されていない場合でも適用可能であり、そのような場合にも封着性や信頼性等に優れる封着材料層7を得ることができる。さらに、レーザ光9による焼成工程は、従来の加熱炉による焼成工程に比べてエネルギー消費量が少なく、また製造工数や製造コストの削減に寄与する。従って、省エネやコスト削減等の観点からも、レーザ光9による封着材料層7の形成工程は有効である。
【0048】
次に、レーザ光9による封着材料層7の形成工程について詳述する。まず、図7に示すように、封着材料ペーストの枠状塗布層8の照射開始位置に一対のレーザ光9(第1及び第2のレーザ光9A、9B)を照射する。次いで、第1のレーザ光9Aと第2のレーザ光9Bのうちの少なくとも一方を、枠状塗布層8に沿って走査しながら照射する。第1のレーザ光9Aと第2のレーザ光9Bのうちの少なくとも一方を枠状塗布層8の照射終了位置まで走査して枠状塗布層8全体を加熱した後、レーザ光9A、9Bの照射を終了する。
【0049】
ところで、封着材料ペーストの枠状塗布層8に沿って1本のレーザ光を走査しながら照射する場合、枠状塗布層8におけるレーザ光の照射開始位置と照射終了位置とは重なることになる。レーザ光を走査している間に、封着ガラスの溶融が終了している照射開始位置は冷却されて固化している。このため、照射開始位置と同一の照射終了位置にレーザ光が到達した際に、封着ガラスが表面張力や空隙減少等に起因して収縮し、これにより照射終了位置にギャップ(間隙)が生じるおそれがある。すなわち、レーザ光で加熱溶融された封着ガラスの流動性より表面張力が勝ることによって、照射終了位置で封着ガラスが収縮してギャップが生じるものと考えられる。封着材料層7に生じるギャップは、その後のレーザ封着工程でガラスパッケージの気密封止性を低下させる要因となる。
【0050】
このような点に対しては、レーザ光9の照射終了時における封着ガラスの流動性を高めることが有効である。具体的な手法としては、第1のレーザ光9Aと第2のレーザ光9Bとを照射開始位置と照射終了位置で重ね合わせる方法が挙げられる。第1のレーザ光9Aと第2のレーザ光9Bとを照射開始位置及び照射終了位置に同時に照射することによって、照射終了位置での封着ガラスの流動性を高めることができる。これによって、レーザ光9A、9Bで加熱されて流動した状態の封着ガラスが融合するため、封着ガラスの途切れによるギャップ(間隙)の発生を抑制することが可能となる。
【0051】
ただし、第1のレーザ光9Aと第2のレーザ光9Bとを照射開始位置及び照射終了位置で完全に重ね合わせると、封着材料ペーストの塗布層8の加熱温度が設定温度より高くなるおそれがある。このような点に対して、第1及び第2のレーザ光9A、9Bの出力密度を照射開始位置及び照射終了位置に照射している間だけ低下させ、第1のレーザ光9Aと第2のレーザ光9Bとが重なった部分の加熱温度の上昇を抑えることが考えられる。しかしながら、レーザ光9A、9Bの出力制御は、レーザ光9A、9Bによる封着材料ペーストの枠状塗布層8の焼成工程を煩雑にするおそれがある。
【0052】
そこで、この実施形態では封着材料ペーストの枠状塗布層8の照射開始位置及び照射終了位置において、図7に示したように第1及び第2のレーザ光9A、9Bの外周の一部が重なるように、第1及び第2のレーザ光9A、9Bを照射する。あるいは、図8に示すように第1及び第2のレーザ光9Aの9Bの外周が隣接する、もしくは図9に示すように第1及び第2のレーザ光9A、9Bの外周がレーザ光9A、9Bの照射ビーム径D以下の間隔で離間するように、第1及び第2のレーザ光9A、9Bを照射する。なお、レーザ光9A、9Bのビーム形状は、ビーム最大強度の1/e2の強度になる領域で定義し、該領域の外周の一部が重なるか、外周が接するか、もしくは該領域の径(ビーム径D)以下の間隔で離間するように、レーザ光9A、9Bを照射する。
【0053】
このように、第1及び第2のレーザ光9A、9Bを照射開始位置及び照射終了位置で図7、図8、図9のいずれかの状態となるように照射することで、封着材料ペーストの塗布層8の加熱温度の上昇を抑制しつつ、照射終了位置での封着ガラスの流動性を高めて、封着ガラスの途切れによるギャップ(間隙)の発生を抑制することができる。すなわち、レーザ光9A、9Bによる封着材料ペーストの塗布層8の焼成工程を煩雑化することなく、ギャップのない良好な封着材料層7を再現性よく得ることが可能となる。
【0054】
図7に示すレーザ光9A、9Bの照射状態を適用する場合、第1のレーザ光9Aと第2のレーザ光9Bとの重なり量が大きくなりすぎると加熱温度の上昇を招くおそれがあるため、重なり量は照射面積の50%以下とすることが好ましい。また、図9に示すレーザ光9A、9Bの照射状態を適用する場合、第1のレーザ光9Aと第2のレーザ光9Bとの間隔がビーム径Dを超えると、封着ガラスを流動状態で融合させることが困難となり、照射終了位置におけるギャップの抑制効果が低下する。
【0055】
さらに、図9に示すレーザ光9A、9Bの照射状態を適用する場合には、照射開始位置又は照射終了位置で第1のレーザ光9Aの照射により溶融した部分と第2のレーザ光9Bの照射により溶融した部分とが連続するまで定点照射した後、少なくとも一方のレーザ光の走査を開始又は終了することが好ましい。これによって、ギャップの抑制効果を高めることができる。なお、図7、図8、図9に示すレーザ光9A、9Bの照射状態は、照射開始位置及び照射終了位置のいずれか一方のみに適用してもよい。
【0056】
次に、レーザ焼成装置について詳述する。図10、図11及び図12に第1の実施形態によるレーザ焼成装置を示す。これらの図は本発明の第1の実施形態による封着材料層付きガラス部材の製造装置を示すものである。レーザ焼成装置(封着材料層付きガラス部材の製造装置)21は、封着材料ペーストの枠状塗布層8を有するガラス基板2が載置される試料台22と、レーザ光源23と、レーザ光源23から出射されたレーザ光を塗布層8に照射する第1及び第2のレーザ照射ヘッド(一対のレーザ照射ヘッド)24A、24Bとを具備している。
【0057】
ここでは図示を省略したが、第1及び第2のレーザ照射ヘッド24A、24Bは、それぞれレーザ光源23から出射されたレーザ光を集光し、所定の照射スポットに整形して塗布層8に照射する光学系を有している。光学系については後に詳述する。レーザ光源23から出射されたレーザ光は、例えば図示を省略した分波器を介して第1及び第2のレーザ照射ヘッド24A、24Bに送られる。また、レーザ照射ヘッド24A、24Bの数に応じたレーザ光源23を使用してもよい。
【0058】
レーザ光源23から出射されるレーザ光の出力は、出力制御部25により制御される。出力制御部25は、例えばレーザ光源23に入力される電流を制御することによりレーザ光の出力を制御する。また、出力制御部25はレーザ光源23から出射されたレーザ光の出力を制御する出力変調器を有していてもよい。レーザ光の出力は、第1及び第2のレーザ照射ヘッド24A、24Bに応じて個々に制御するようにしてもよい。
【0059】
第1のレーザ照射ヘッド24Aは固定されている。すなわち、第1のレーザ照射ヘッド24Aから照射される第1のレーザ光9Aは、封着材料ペーストの枠状塗布層8の照射開始位置を照射し続ける固定照射レーザである。一方、第2のレーザ照射24Bは以下に示す移動機構により移動可能されている。すなわち、第2のレーザ照射ヘッド24Bから照射される第2のレーザ光9Bは、封着材料ペーストの枠状塗布層8の照射開始位置から照射終了位置まで走査しながら照射する可動レーザである。
【0060】
第2のレーザ照射24BはXステージ26によりX方向に移動可能とされている。Xステージ26は2個のYステージ27A、27BによりY方向に移動可能とされている。Xステージ26は固定された試料台22の上方をY方向に移動する。第2のレーザ照射ヘッド24Bと試料台22との位置関係は、Xステージ26とYステージ27A、27Bとにより相対的に移動可能とされている。Xステージ26とYステージ27A、27Bは移動機構を構成している。移動機構は第2のレーザ照射ヘッド24BをX方向に移動させるXステージ26と試料台22をY方向に移動させるYステージとで構成してもよい。
【0061】
Xステージ26とYステージ27A、27Bは走査制御部28により制御される。走査制御部28は、第2のレーザ光9Bを照射開始位置から照射終了位置まで枠状塗布層8に沿って走査しながら照射するように、Xステージ26及びYステージ27A、27B(移動機構)を制御する。レーザ焼成装置21は、出力制御部25や走査制御部28を総合的に制御する主制御系29を具備している。さらに、レーザ焼成装置21は枠状塗布層8の焼成温度(加熱温度)を測定する放射温度計(図示せず)を備えている。レーザ焼成装置21は、枠状塗布層8から除去された有機バインダが光学系やガラス基板2に付着することを防止する吸引ノズルや送風ノズル等を備えていることが好ましい。
【0062】
レーザ照射ヘッド24A、24Bは、例えば図13に示すように、レーザ光源23から出射されたレーザ光を伝送する光ファイバ31と、レーザ光を集光して所望の照射スポットに整形する集光レンズ32と、レーザ光9A、9Bの照射部分を観察するための撮像レンズ33及びCCD撮像素子34と、レーザ光9A、9Bの照射部分からのレーザ光以外の光を反射(レーザ光は透過)してCCD撮像素子34へ導くダイクロイックミラー35及び反射ミラー36とで構成されている。また、レーザ光9A、9Bの照射部分の温度を測定する放射温度計37が設置されている。
【0063】
次に、レーザ焼成装置21によるレーザ光9A、9Bの走査例を、図14を参照して説明する。図14は第1のレーザ光9Aを照射開始位置Sに照射し続けると共に、第2のレーザ光9Bを照射開始位置Sから照射終了位置Fまで枠状塗布層8に沿って走査しながら照射する例を示している。まず、第1のレーザ光9Aと第2のレーザ光9Bとを照射開始位置Sに照射する。第1のレーザ光9Aは照射開始位置Sを照射し続けるのに対し、第2のレーザ光9Bは照射開始位置Sから照射終了位置Fまで塗布層8に沿って走査される。照射開始位置S及び照射終了位置Fにおける第1及び第2のレーザ光9A、9Bの照射状態は、図7、図8、図9のいずれかとなるようにする。
【0064】
塗布層8の照射開始位置Sには第1のレーザ光9Aが照射され続けているため、その部分の封着ガラスは加熱溶融状態が維持されている。このため、第2のレーザ光9Bの走査で加熱溶融された封着ガラスと第1のレーザ光9Aで加熱溶融状態が維持されている封着ガラスとが、それぞれ流動状態で融合することになる。従って、溶融後に冷却された部分(固化部分)に再度レーザ光が照射されることによる封着ガラスの収縮、及びそれに基づくギャップの発生を抑制することが可能となる。
【0065】
図15及び図16は第2の実施形態によるレーザ焼成装置、すなわち第2の実施形態による封着材料層付きガラス部材の製造装置を示している。これらの図に示すレーザ焼成装置(封着材料層付きガラス部材の製造装置)41は、封着材料ペーストの枠状塗布層8を有するガラス基板2(図15及び図16では図示せず)が載置される試料台22と、レーザ光源23と、レーザ光源23から出射されたレーザ光を塗布層8に照射する第1及び第2のレーザ照射ヘッド24A、24Bとを具備している。
【0066】
ここでは図示を省略したが、第1及び第2のレーザ照射ヘッド24A、24Bは、それぞれレーザ光源23から出射されたレーザ光を集光し、所定の照射スポットに整形して塗布層8に照射する光学系を有している。光学系等については、前述した図13に示した通りである。レーザ光源23から出射されたレーザ光は、例えば図示を省略した分波器を介して第1及び第2のレーザ照射ヘッド24A、24Bに送られる。また、レーザ照射ヘッド24A、24Bの数に応じたレーザ光源23を使用してもよい。
【0067】
レーザ光源23から出射されるレーザ光の出力は、出力制御部25により制御される。出力制御部25は、例えばレーザ光源23に入力される電流を制御することによりレーザ光の出力を制御する。また、出力制御部25はレーザ光源23から出射されたレーザ光の出力を制御する出力変調器を有していてもよい。レーザ光の出力は、第1及び第2のレーザ照射ヘッド24A、24Bに応じて個々に制御するようにしてもよい。
【0068】
第2の実施形態のレーザ焼成装置41において、第1及び第2のレーザ照射ヘッド24A、24Bから照射されるレーザ光9A、9Bはいずれも可動レーザである。すなわち、第1及び第2のレーザ照射ヘッド24A、24BはXステージ26によりX方向に移動可能とされている。試料台22はYステージ27によりY方向に移動可能とされている。第1及び第2のレーザ照射ヘッド24A、24Bと試料台22との位置関係は、Xステージ26とYステージ27とにより相対的に移動可能とされている。Xステージ26とYステージ27は移動機構を構成している。
【0069】
第1及び第2のレーザ照射ヘッド24A、24Bは、それぞれXステージ26に設置されている。Xステージ26は、第1及び第2のレーザ照射ヘッド24A、24BをYステージ27の進行方向と直交する方向に進行させるように、試料台22の上方に固定されている。第1及び第2のレーザ照射ヘッド24A、24Bはガラス基板2の上下に設置してもよい。Xステージ26とYステージ27は走査制御部28により制御される。第1及び第2のレーザ照射ヘッド24A、24Bは、例えばそれらから照射されるレーザ光9A、9Bがそれぞれ照射開始位置に達するように斜め方向に設置されている。第1及び第2のレーザ照射ヘッド24A、24BはX方向に傾斜されている。
【0070】
図15及び図16では試料台22をYステージ27で移動させる構成を示しているが、移動機構の構成はこれに限られるものではない。図17及び図18は固定された試料台22の上方に配置されるXステージ26を、2個のYステージ27A、27BでY方向に移動させる構成を示している。このように、移動機構は第1及び第2のレーザ照射ヘッド24A、24BをX方向に移動させるXステージ26を、2個のYステージ27A、27BでY方向に移動させるように構成することも可能である。
【0071】
第1及び第2のレーザ照射ヘッド24A、24Bは、図19、図20及び図21に示すように、2個のXステージ26A、26Bに設置してもよい。第1及び第2のXステージ26A、26BはX方向に対して平行に配置されている。この場合、第1及び第2のレーザ照射ヘッド24A、24BはX方向に対して直交する方向に傾斜させる。いずれの構成においても、レーザ光9A、9Bを照射開始位置から照射終了位置まで枠状塗布層8に沿って走査しながら照射することが可能とされている。
【0072】
走査制御部28は、第1及び第2のレーザ光9A、9Bを照射開始位置から照射終了位置まで枠状塗布層8に沿って走査しながら照射するように、Xステージ26及びYステージ27(移動機構)を制御する。レーザ焼成装置41は、出力制御部25や走査制御部28を総合的に制御する主制御系29を具備している。さらに、レーザ焼成装置41は枠状塗布層8の焼成温度(加熱温度)を測定する放射温度計(図示せず)を備えている。レーザ焼成装置41は、枠状塗布層8から除去された有機バインダが光学系やガラス基板2に付着することを防止する吸引ノズルや送風ノズル等を備えていることが好ましい。
【0073】
次に、レーザ焼成装置41によるレーザ光9A、9Bの走査例を、図22を参照して説明する。図22は第1のレーザ光9Aと第2のレーザ光9Bとを、照射開始位置Sから逆方向に向けてそれぞれ枠状の塗布層8に沿って照射終了位置Fまで走査しながら照射する例を示している。まず、第1のレーザ光9Aと第2のレーザ光9Bとを照射開始位置Sに照射する。第1のレーザ光9Aと第2のレーザ光9Bは逆方向に向けて走査され、それぞれ独立して塗布層8に沿って照射終了位置Fまで走査される。照射開始位置S及び照射終了位置Fにおける第1及び第2のレーザ光9A、9Bの照射状態は、図7、図8、図9のいずれかとなるようにする。照射終了位置Fにおいて、第1のレーザ光9Aで加熱溶融された封着ガラスと第2のレーザ光9Bで加熱溶融された封着ガラスとが融合するため、照射終了位置Fでのギャップの発生を抑制することが可能となる。
【0074】
図23はレーザ焼成装置41による封着材料層の形成方法(封着材料ペーストの枠状塗布層のレーザ光9A、9Bによる焼成方法)を示すフローチャートである。図23を参照してレーザ焼成装置41による封着材料層の形成工程について述べる。まず、封着材料ペーストの枠状塗布層を形成したガラス基板2を用意し、これをレーザ焼成装置41の試料台22上に配置する。ガラス基板2は枠状塗布層8が上となるように配置される。第1及び第2のレーザ照射ヘッド24A、24Bが初期位置に移動し(101)、第1及び第2のレーザ光9A、9Bを枠状塗布層の照射開始位置Sに照射する。
【0075】
次に、Xステージ26を動作させて、第1及び第2のレーザ光9A、9Bが枠状塗付層8上を反対方向に遠ざかるように、第1及び第2のレーザ照射ヘッド24A、24Bを移動させる(103)。第1及び第2のレーザ光9A、9Bが枠状塗付層8の角部に差し掛かるとXステージ26の動作を停止し(104)、換わりにYステージ27を動作させて試料台22を移動させる(105)。第1及び第2のレーザ光9A、9Bが枠状塗付層8の角部に差し掛かるとYステージ27の動作を停止した後(106)、Xステージ26を動作させて、第1及び第2のレーザ光9A、9Bが近づくように、第1及び第2のレーザ照射ヘッド24A、24Bを移動させる(107)。
【0076】
第1及び第2のレーザ光9A、9Bが照射終了位置Fに到達したらXステージ26の動作を停止する(108)。その後、第1及び第2のレーザ光9A、9Bの照射を停止し(109)、Xステージ26及びYステージ27を原点に復帰させる(110)。上述した一連の動作は予めプログラムされており、封着材料ペーストの枠状塗布層8を形成したガラス基板2を試料台22に置いて動作ボタンを押すと、自動的に上述した全ての工程が実施される。ここでは図15及び図16に構成を示したレーザ焼成装置41を用いた封着材料層の形成工程について述べたが、他の構成のレーザ焼成装置の場合も同様である。
【0077】
封着材料ペーストの塗布層8に照射するレーザ光9A、9Bは一対に限られるものではなく、複数対のレーザ光を使用することも可能である。この場合、封着材料ペーストの枠状塗布層8をレーザ光の対数(ペア数)に対応させて複数の領域に分割する。一方のレーザ光のみを走査する場合には、複数の領域が隣接する部分にそれぞれ各領域内の照射開始位置Sと照射終了位置Fとを設定する。複数対のレーザ光のうちのそれぞれ一方のレーザ光を照射開始位置Sに照射し続けると共に、それぞれ他方のレーザ光を各領域内の照射開始位置Sから照射終了位置Fまで枠状塗布層8に沿って走査しながら照射する。
【0078】
また、一対のレーザ光の両方を走査する場合にも、レーザ光の対数(ペア数)に対応させて枠状塗布層8を複数の領域に分割する。複数の領域の中間部分にそれぞれ照射開始位置Sを設定すると共に、複数の領域が隣接する部分にそれぞれ照射終了位置Fを設定する。複数対のレーザ光を、それぞれ複数の領域の照射開始位置Sに照射する。各対のレーザ光をそれぞれ照射開始位置Sから逆方向に向けて枠状塗布層8に沿って照射する。各レーザ光を照射終了位置Fまで枠状塗布層8に沿って走査しながら照射する。
【0079】
図24は二対のレーザ光(第1対のレーザ光91A、91Bと第2対のレーザ光92A、92B)を用いた場合の走査例を示している。まず、塗布層8を第1及び第2の領域8A、8Bに分割する。各領域8A、8Bの中間部分にそれぞれ照射開始位置S1、S2を設定すると共に、複数の領域8A、8Bが隣接する部分にそれぞれ照射終了位置F1、F2を設定する。照射終了位置F1は第1対における第1のレーザ光91Aと第2対における第1のレーザ光92Aの照射終了位置となる。照射終了位置F2は第1対における第2のレーザ光91Bと第2対における第2のレーザ光92Bの照射終了位置となる。
【0080】
第1対のレーザ光91A、91Bはそれぞれ照射開始位置S1に照射され、それぞれ照射開始位置S1から逆方向に向けて枠状塗布層8に沿って走査される。第2対のレーザ光92A、92Bも同様であり、それぞれ照射開始位置S2を照射した後、それぞれ照射開始位置S2から逆方向に向けて枠状塗布層8に沿って走査される。そして、第1対における第1のレーザ光91Aと第2対における第1のレーザ光92Aはそれぞれ照射終了位置F1まで走査される。第1対における第2のレーザ光91Bと第2対における第2のレーザ光92Bはそれぞれ照射終了位置F2まで走査される。
【0081】
図25は四対のレーザ光(第1対のレーザ光91A、91B、第2対のレーザ光92A、92B、第3対のレーザ光93A、93B、及び第4対のレーザ光94A、94B)を用いた場合の走査例を示している。四対のレーザ光を用いた場合には、塗布層8を第1、第2、第3、及び第4の領域8A、8B、8C、8Dに分割する。各領域8A、8B、8C、8Dの中間部分にそれぞれ照射開始位置S1、S2、S3、S4を設定すると共に、複数の領域8A、8B、8C、8Dが隣接する部分にそれぞれ照射終了位置F1、F2、F3、F4を設定する。各対のレーザ光の走査は二対のレーザ光を用いた場合と同様に実施される。複数対のレーザ光を使用することによって、枠状塗布層8の焼成時間を短縮することができる。照射開始位置S及び照射終了位置Fにおけるレーザ光9A、9Bの照射状態は、図7、図8、図9のいずれかとなるようにする。
【0082】
上述した封着材料ペーストの塗布層8の焼成工程で封着材料層7を形成した第2のガラス基板2と、それとは別に作製した第1のガラス基板1とを用いて、OELD、FED、PDP、LCD等のFPD、OEL素子を用いた照明装置、色素増感型太陽電池のような太陽電池等の電子デバイスを作製する。すなわち、図1(b)に示すように、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2とを、それらの表面1a、2a同士が対向するように封着材料層7を介して積層する。第1のガラス基板1と第2のガラス基板2との間には、封着材料層7の厚さに基づいて間隙が形成される。
【0083】
次に、図1(c)に示すように、第2のガラス基板2を通して封着材料層7に封着用レーザ光10を照射する。封着用レーザ光10は第1のガラス基板1を通して封着材料層7に照射してもよい。封着用レーザ光10は枠状の封着材料層7に沿って走査しながら照射される。封着材料層7はレーザ光10が照射された部分から順に溶融し、レーザ光10の照射終了と共に急冷固化されて第1のガラス基板1に固着する。そして、封着材料層7の全周にわたって封着用レーザ光10を照射することによって、図1(d)に示すように第1のガラス基板1と第2のガラス基板2との間を封止する封着層11を形成する。
【0084】
このようにして、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2と封着層11とで構成したガラスパネルで、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2との間に配置される電子素子部4を気密封止した電子デバイス12を作製する。なお、この実施形態のガラスパネルは電子デバイス12の構成部品に限られるものではなく、電子部品の封止体、あるいは真空ペアガラスのようなガラス部材(建材等)にも応用することが可能である。
【0085】
この実施形態の電子デバイス12の製造工程によれば、第2のガラス基板2の表面2aに有機樹脂膜や素子膜等が形成されているような場合においても、それらに熱ダメージを与えることなく、封着材料層7並びに封着層11を良好に形成することができる。従って、電子デバイス12の機能やその信頼性を低下させることなく、気密封止性や信頼性に優れる電子デバイス12を再現性よく作製することが可能となる。
【実施例】
【0086】
次に、本発明の具体的な実施例及びその評価結果について述べる。なお、以下の説明は本発明を限定するものではく、本発明の趣旨に沿った形での改変が可能である。
【0087】
(実施例1)
Bi2383質量%、B235質量%、ZnO11質量%、Al231質量%の組成を有し、平均粒径が1μmのビスマス系ガラスフリット(軟化温度:450℃)と、低膨張充填材として平均粒径が2μmのコージェライト粉末と、Fe23−Cr23−MnO−Co23組成を有し、平均粒径が1μmのレーザ吸収材とを用意した。
【0088】
上記したビスマス系ガラスフリット72.7体積%とコージェライト粉末22.0体積%とレーザ吸収材5.3体積%とを混合して封着材料を作製した。この封着材料80質量%をビヒクル20質量%と混合して封着材料ペーストを調製した。ビヒクルはバインダ成分としてのエチルセルロース(2.5質量%)をターピネオールからなる溶剤(97.5質量%)に溶解したものである。
【0089】
次に、無アルカリガラス(熱膨張係数:38×10-7/℃)からなる第2のガラス基板(寸法:90×90×0.7mmt)を用意し、このガラス基板の封止領域に封着材料ペーストをスクリーン印刷法で塗布した後、120℃×10分の条件で乾燥させた。封着材料ペーストは乾燥後の膜厚が20μm、線幅が1mmとなるように塗布した。第2のガラス基板の表面には樹脂製カラーフィルタが形成されており、カラーフィルタに熱ダメージを与えることなく、第2のガラス基板の封止領域に封着層を形成する必要がある。
【0090】
次いで、封着材料ペーストの塗布層を形成した無アルカリガラス基板を、レーザ照射装置のサンプルホルダ上に厚さ0.5mmのアルミナ基板を介して配置した。ガラス基板上の封着材料ペーストの塗布層に、波長808nm、出力密度194W/cm2、ビーム形状が直径1.5mmの円形の第1のレーザ光を定点照射し、同時に波長940nm、出力密度298W/cm2、ビーム形状が直径1.5mmの円形の第2のレーザ光を、塗布層上の第1のレーザ光と隣接する位置に照射した。
【0091】
第2のレーザ光を1mm/秒の走査速度で塗布層に沿って照射した後、第2のレーザ光が第1のレーザ光と隣接する位置(照射開始位置とは反対側)に到達したところで、第1及び第2のレーザ光の照射を終了した。第1のレーザ光の定点照射時における塗布層の加熱温度は637℃である。第2のレーザ光を1mm/秒で走査した際の塗布層の加熱温度は637℃である。このような2つのレーザ光を使用して、封着材料ペーストの塗布層全体を焼成することによって、膜厚が12μmの封着材料層を形成した。
【0092】
得られた封着材料層の状態をSEMで観察したところ、封着材料層全体が良好にガラス化していることが確認された。封着材料層には有機バインダに起因する気泡や表面変形の発生も認められなかった。さらに、レーザ光の照射終了位置にギャップは生じていないことが確認された。封着材料層の残留カーボン量を測定したところ、同一の封着材料ペーストの塗布層を電気炉で焼成(250℃×40分)した際の残留カーボン量と同等であることが確認された。さらに、ガラス基板の表面に形成されたカラーフィルタに熱ダメージ等は生じていないことが確認された。
【0093】
次に、上述した封着材料層を有する第2のガラス基板と素子領域を有する第1のガラス基板(第2のガラス基板と同組成、同形状の無アルカリガラスからなる基板)とを積層した。次いで、第2のガラス基板を通して封着材料層に沿って走査しながらレーザ光を照射し、封着材料層を溶融並びに急冷固化することによって、第1のガラス基板と第2のガラス基板とを封着した。得られたガラスパネルは外観や接合強度等に優れ、また気密性にも優れていることが確認された。
【0094】
(実施例2)
実施例1と同様にして、無アルカリガラス基板(第1のガラス基板)上に封着材料ペーストの塗布層を形成した。このようなガラス基板を実施例1と同一のレーザ照射装置のサンプルホルダ上に厚さ0.5mmのアルミナ基板を介して配置した。次いで、封着材料ペーストの塗布層に、波長808nm、出力密度194W/cm2、ビーム形状が直径1.5mmの円形の第1のレーザ光を定点照射し、同時に波長940nm、出力密度298W/cm2、ビーム形状が直径1.5mmの円形の第2のレーザ光を、その外周が第1のレーザ光の外周から0.5mm離れた位置に照射した。
【0095】
第2のレーザ光を照射開始位置に5秒間照射した後、1mm/秒の走査速度で塗布層に沿って照射した。第2のレーザ光の外周が第1のレーザ光の外周から0.5mm離れた位置(照射開始位置とは反対側)に到達したところで走査を停止し、その位置に第2のレーザ光を5秒間照射した後、第1及び第2のレーザ光の照射を終了した。第1のレーザ光の定点照射時における塗布層の加熱温度は637℃である。第2のレーザ光の1mm/秒で走査した際の塗布層の加熱温度は637℃であり、また照射開始位置及び照射終了位置での5秒間固定照射時の塗布層の加熱温度は880℃である。
【0096】
このような2つのレーザ光を使用して封着材料ペーストの塗布層を焼成することによって、膜厚が12μmの封着材料層を形成した。封着材料層の状態をSEMで観察したところ、封着材料層全体が良好にガラス化していることが確認された。さらに、照射終了位置にギャップは生じていないことが確認された。また、実施例1と同様にして、第2のガラス基板と第1のガラス基板とを積層した後、第2のガラス基板を通して封着材料層にレーザ光を照射することによって、第1のガラス基板と第2のガラス基板とを封着した。得られたガラスパネルは外観、気密性、接合強度等に優れるものであった。
【0097】
(実施例3)
実施例1と同様にして、無アルカリガラス基板(第1のガラス基板)上に封着材料ペーストの塗布層を形成した。このようなガラス基板を実施例1と同一のレーザ照射装置のサンプルホルダ上に厚さ0.5mmのアルミナ基板を介して配置した。封着材料ペーストの塗布層に、波長940nm、出力密度298W/cm2、ビーム形状が直径1.5mmの円形の第1のレーザ光と第2のレーザ光とを、それらの外周が隣接するように同時に照射した。第1のレーザ光と第2のレーザ光とを互いに反対方向に1mm/秒の走査速度で塗布層に沿って走査しながら照射し、第1のレーザ光と第2のレーザ光とが再び接近して隣接した位置に到達したところで、第1及び第2のレーザ光の照射を終了した。第1及び第2のレーザ光を1mm/秒で走査した際の塗布層の加熱温度はいずれも637℃である。
【0098】
このような2つのレーザ光を使用して封着材料ペーストの塗布層を焼成することによって、膜厚が12μmの封着材料層を形成した。封着材料層の状態をSEMで観察したところ、封着材料層全体が良好にガラス化していることが確認された。さらに、照射終了位置にギャップは生じていないことが確認された。また、実施例1と同様にして、第2のガラス基板と第1のガラス基板とを積層した後、第2のガラス基板を通して封着材料層にレーザ光を照射することによって、第1のガラス基板と第2のガラス基板とを封着した。得られたガラスパネルは外観、気密性、接合強度等に優れるものであった。
【0099】
(実施例4)
実施例1と同様にして、無アルカリガラス基板(第1のガラス基板)上に封着材料ペーストの塗布層を形成した。このようなガラス基板を実施例1と同一のレーザ照射装置のサンプルホルダ上に厚さ0.5mmのアルミナ基板を介して配置した。封着材料ペーストの塗布層に、波長940nm、出力密度298W/cm2、ビーム形状が直径1.5mmの円形の第1のレーザ光と第2のレーザ光とを、それぞれの外周が他方の照射ビームの中心を通るように同時に照射した。第1のレーザ光と第2のレーザ光とを互いに反対方向に1mm/秒の走査速度で塗布層に沿って走査しながら照射し、第1のレーザ光と第2のレーザ光とが再び接近して、それぞれの外周が他方の照射ビームの中心を通る位置に到達したところで、第1及び第2のレーザ光の照射を終了した。第1及び第2のレーザ光を1mm/秒で走査した際の塗布層の加熱温度はいずれも637℃である。
【0100】
このような2つのレーザ光を使用して封着材料ペーストの塗布層を焼成することによって、膜厚が12μmの封着材料層を形成した。封着材料層の状態をSEMで観察したところ、封着材料層全体が良好にガラス化していることが確認された。さらに、照射終了位置にギャップは生じていないことが確認された。また、実施例1と同様にして、第2のガラス基板と第1のガラス基板とを積層した後、第2のガラス基板を通して封着材料層にレーザ光を照射することによって、第1のガラス基板と第2のガラス基板とを封着した。得られたガラスパネルは外観、気密性、接合強度等に優れるものであった。
【0101】
(実施例5)
実施例1と同様にして、無アルカリガラス基板(第1のガラス基板)上に封着材料ペーストの塗布層を形成した。このようなガラス基板を実施例1と同一のレーザ照射装置のサンプルホルダ上に厚さ0.5mmのアルミナ基板を介して配置した。封着材料ペーストの塗布層に、波長940nm、出力密度298W/cm2、ビーム形状が直径1.5mmの円形の第1のレーザ光と第2のレーザ光とを、それらの外周が0.5mm離れるように同時に照射した。第1のレーザ光と第2のレーザ光とをそれぞれ照射開始位置に5秒間照射した後、互いに反対方向に1mm/秒の走査速度で塗布層に沿って照射した。
【0102】
第1のレーザ光と第2のレーザ光とが再び接近し、それらの外周が0.5mm離れた位置に到達したところで走査を停止し、それぞれの位置に5秒間照射した後、第1及び第2のレーザ光の照射を終了した。第1及び第2のレーザ光を1mm/秒で走査した際の塗布層の加熱温度はいずれも637℃であり、また照射開始位置及び照射終了位置での5秒間固定照射時の塗布層の加熱温度は約880℃である。
【0103】
このような2つのレーザ光を使用して封着材料ペーストの塗布層を焼成することによって、膜厚が12μmの封着材料層を形成した。封着材料層の状態をSEMで観察したところ、封着材料層全体が良好にガラス化していることが確認された。さらに、照射終了位置にギャップは生じていないことが確認された。また、実施例1と同様にして、第2のガラス基板と第1のガラス基板とを積層した後、第2のガラス基板を通して封着材料層にレーザ光を照射することによって、第1のガラス基板と第2のガラス基板とを封着した。得られたガラスパネルは外観、気密性、接合強度等に優れるものであった。
【0104】
(実施例6)
実施例1と同様にして、無アルカリガラス基板(第1のガラス基板)上に封着材料ペーストの塗布層を形成した。このようなガラス基板を実施例1と同一のレーザ照射装置のサンプルホルダ上に厚さ0.5mmのアルミナ基板を介して配置した。封着材料ペーストの塗布層に、波長940nm、出力密度746W/cm2、ビーム形状が直径1.5mmの円形の第1のレーザ光と第2のレーザ光とを、それらの外周が0.5mm離れるように同時に照射した。第1のレーザ光と第2のレーザ光とをそれぞれ照射開始位置に1秒間照射した後、互いに反対方向に3mm/秒の走査速度で塗布層に沿って照射した。
【0105】
第1のレーザ光と第2のレーザ光とが再び接近し、それらの外周が0.5mm離れた位置に到達したところで走査を停止し、それぞれの位置に1秒間照射した後、第1及び第2のレーザ光の照射を終了した。第1及び第2のレーザ光を3mm/秒で走査した際の塗布層の加熱温度はいずれも897℃であり、また照射開始位置及び照射終了位置での1秒間固定照射時の塗布層の加熱温度は約940℃である。
【0106】
このような2つのレーザ光を使用して封着材料ペーストの塗布層を焼成することによって、膜厚が12μmの封着材料層を形成した。封着材料層の状態をSEMで観察したところ、封着材料層全体が良好にガラス化していることが確認された。さらに、照射終了位置にギャップは生じていないことが確認された。また、実施例1と同様にして、第2のガラス基板と第1のガラス基板とを積層した後、第2のガラス基板を通して封着材料層にレーザ光を照射することによって、第1のガラス基板と第2のガラス基板とを封着した。得られたガラスパネルは外観、気密性、接合強度等に優れるものであった。
【0107】
(実施例7)
実施例1と同様にして、無アルカリガラス基板(第1のガラス基板)上に封着材料ペーストの塗布層を形成した。このようなガラス基板を実施例1と同一のレーザ照射装置のサンプルホルダ上に厚さ0.5mmのアルミナ基板を介して配置した。封着材料ペーストの塗布層に、波長940nm、出力密度249W/cm2、ビーム形状が直径1.5mmの円形の第1のレーザ光と第2のレーザ光とを、それらの外周が0.5mm離れるように同時に照射した。第1のレーザ光と第2のレーザ光とをそれぞれ照射開始位置に5秒間照射した後、互いに反対方向に0.5mm/秒の走査速度で塗布層に沿って照射した。
【0108】
第1のレーザ光と第2のレーザ光とが再び接近し、それらの外周が0.5mm離れた位置に到達したところで走査を停止し、それぞれの位置に5秒間照射した後、第1及び第2のレーザ光の照射を終了した。第1及び第2のレーザ光を0.5mm/秒で走査した際の塗布層の加熱温度はいずれも600℃であり、また照射開始位置及び照射終了位置での5秒間固定照射時の塗布層の加熱温度は約700℃である。
【0109】
このような2つのレーザ光を使用して封着材料ペーストの塗布層を焼成することによって、膜厚が12μmの封着材料層を形成した。封着材料層の状態をSEMで観察したところ、封着材料層全体が良好にガラス化していることが確認された。さらに、照射終了位置にギャップは生じていないことが確認された。また、実施例1と同様にして、第2のガラス基板と第1のガラス基板とを積層した後、第2のガラス基板を通して封着材料層にレーザ光を照射することによって、第1のガラス基板と第2のガラス基板とを封着した。得られたガラスパネルは外観、気密性、接合強度等に優れるものであった。
【符号の説明】
【0110】
1…第1のガラス基板、1a…第1の表面、2…第2のガラス基板、2a…第2の表面、3…素子領域、4…電子素子部、5…第1の封止領域、6…第2の封止領域、7…封着材料層、8…封着材料ペーストの塗布層、9…焼成用レーザ光、9A…第1のレーザ光、9B…第2のレーザ光、10…封着用レーザ光、11…封着層、12…電子デバイス、21,41…レーザ焼成装置、22…試料台、23…レーザ光源、24A,24B…レーザ照射ヘッド、25…出力制御部、26…Xステージ、27,27A,27B…Yステージ、28…走査制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
封止領域を有するガラス基板を用意する工程と、
封着ガラスとレーザ吸収材とを含む封着材料を有機バインダと混合して調製した封着材料ペーストを、前記ガラス基板の前記封止領域上に枠状に塗布する工程と、
少なくとも一対のレーザ光を、前記枠状の封着材料ペーストの塗布層の照射開始位置に照射し、次いで前記少なくとも一対のレーザ光のうちの少なくとも一方を、前記照射開始位置から照射終了位置まで前記枠状の封着材料ペーストの塗布層に沿って走査しながら照射し、前記レーザ光で前記塗布層全体を加熱することによって、前記塗布層内の前記有機バインダを除去しつつ、前記封着材料を焼成して封着材料層を形成する工程とを具備し、
前記照射開始位置と前記照射終了位置の少なくとも一方で、前記一対のレーザ光の外周の一部が重なる、前記一対のレーザ光の外周が隣接する、もしくは前記レーザ光の照射ビーム径以下の間隔で前記一対のレーザ光の外周が離間するように、前記少なくとも一対のレーザ光を照射することを特徴とする封着材料層付きガラス部材の製造方法。
【請求項2】
前記一対のレーザ光のうちの一方のレーザ光を前記照射開始位置に照射し続けると共に、他方のレーザ光を前記照射開始位置から前記照射終了位置まで前記枠状の封着材料ペーストの塗布層に沿って走査しながら照射することを特徴とする請求項1記載の封着材料層付きガラス部材の製造方法。
【請求項3】
前記レーザ光として複数対のレーザ光を用意すると共に、前記枠状の封着材料ペーストの塗布層を前記レーザ光の対数に応じて複数の領域に分割し、
前記複数の領域が隣接する部分にそれぞれ前記複数の領域内の前記照射開始位置と前記照射終了位置とを設定し、
前記複数対のレーザ光のうちのそれぞれ一方のレーザ光を前記照射開始位置に照射し続けると共に、それぞれ他方のレーザ光を各領域内の前記照射開始位置から前記照射終了位置まで前記枠状の封着材料ペーストの塗布層に沿って走査しながら照射することを特徴とする請求項1記載の封着材料層付きガラス部材の製造方法。
【請求項4】
前記一対のレーザ光をそれぞれ前記照射開始位置から逆方向に向けて前記照射終了位置まで前記枠状の封着材料ペーストの塗布層に沿って走査しながら照射することを特徴とする請求項1記載の封着材料層付きガラス部材の製造方法。
【請求項5】
前記レーザ光として複数対のレーザ光を用意すると共に、前記枠状の封着材料ペーストの塗布層を前記レーザ光の対数に応じて複数の領域に分割し、
前記複数の領域の中間部分にそれぞれ前記照射開始位置を設定すると共に、前記複数の領域が隣接する部分にそれぞれ前記照射終了位置を設定し、
前記複数対のレーザ光をそれぞれ前記複数の領域内の前記照射開始位置から逆方向に向けて前記照射終了位置まで前記枠状の封着材料ペーストの塗布層に沿って走査しながら照射することを特徴とする請求項1記載の封着材料層付きガラス部材の製造方法。
【請求項6】
前記封着ガラスの軟化温度T(℃)に対して、前記封着材料の加熱温度が(T+80℃)以上で(T+550℃)以下の範囲となるように、前記レーザ光を前記封着材料ペーストの塗布層に照射することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の封着材料層付きガラス部材の製造方法。
【請求項7】
前記照射開始位置と前記照射終了位置の少なくとも一方で、前記一対のレーザ光の照射により溶融した部分が連続した後に、前記レーザ光の前記走査を開始又は終了することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の封着材料層付きガラス部材の製造方法。
【請求項8】
前記レーザ光の走査速度を0.1mm/秒以上で5mm/秒以下の範囲とすることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の封着材料層付きガラス部材の製造方法。
【請求項9】
前記封着材料は、Fe、Cr、Mn、Co、Ni、及びCuから選ばれる少なくとも1種の金属又は前記金属を含む化合物からなる前記レーザ吸収材を0.1〜10体積%の範囲で含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載の封着材料層付きガラス部材の製造方法。
【請求項10】
前記封着材料は、さらにシリカ、アルミナ、ジルコニア、珪酸ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、ムライト、コージェライト、ユークリプタイト、スポジュメン、リン酸ジルコニウム系化合物、石英固溶体、ソーダライムガラス、及び硼珪酸ガラスから選ばれる少なくとも1種からなる低膨張充填材を5〜50体積%の範囲で含むことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載の封着材料層付きガラス部材の製造方法。
【請求項11】
封着ガラスとレーザ吸収材とを含む封着材料を有機バインダと混合して調製した封着材料ペーストの枠状塗布層を有するガラス基板が載置される試料台と、
レーザ光を出射するレーザ光源と、
前記レーザ光源から出射されたレーザ光を前記ガラス基板の前記枠状塗布層に照射する光学系をそれぞれ有する少なくとも一対のレーザ照射ヘッドと、
前記少なくとも一対のレーザ照射ヘッドから前記枠状塗布層に照射される少なくとも一対のレーザ光の出力を制御する出力制御部と、
前記試料台と前記少なくとも一対のレーザ照射ヘッドとの個別位置を相対的に移動させる移動機構と、
前記少なくとも一対のレーザ光のうちの少なくとも一方を、前記枠状塗布層の照射開始位置から照射終了位置まで前記枠状塗布層に沿って走査しながら照射するように、前記移動機構を制御する走査制御部とを具備し、
前記少なくとも一対のレーザ照射ヘッドは、前記照射開始位置と前記照射終了位置の少なくとも一方における前記一対のレーザ光の照射位置が、前記一対のレーザ光の外周の一部が重なる、前記一対のレーザ光の外周が隣接する、もしくは前記レーザ光の照射ビーム径以下の間隔で前記一対のレーザ光の外周が離間するように、前記走査制御部により制御されることを特徴とする封着材料層付きガラス部材の製造装置。
【請求項12】
前記少なくとも一対のレーザ照射ヘッドは、前記照射開始位置を照射するように固定された第1のレーザ照射ヘッドと、走査可能とされた第2のレーザ照射ヘッドとを備え、
前記移動機構は、前記第2のレーザ照射ヘッドをX方向に移動させるXステージと、前記試料台又は前記XステージをY方向に移動させるYステージとを備え、
前記走査制御部は、前記第2のレーザ照射ヘッドから照射される第2のレーザ光を、前記照射開始位置から前記照射終了位置まで前記枠状塗布層に沿って走査しながら照射するように、前記Xステージ及び前記Yステージを駆動させることを特徴とする請求項11記載の封着材料層付きガラス部材の製造装置。
【請求項13】
前記少なくとも一対のレーザ照射ヘッドは、第1のレーザ照射ヘッドと第2のレーザ照射ヘッドとを備え、
前記移動機構は、前記第1及び第2のレーザ照射ヘッドをX方向に移動させるXステージと、前記試料台又は前記XステージをY方向に移動させるYステージとを備え、
前記走査制御部は、前記第1のレーザ照射ヘッドから照射される第1のレーザ光と前記第2のレーザ照射ヘッドから照射される第2のレーザ光とを、前記照射開始位置から逆方向に向けて前記照射終了位置まで前記枠状塗布層に沿って走査しながら照射するように、前記Xステージ及び前記Yステージを駆動させることを特徴とする請求項11記載の封着材料層付きガラス部材の製造装置。
【請求項14】
前記出力制御部は、前記封着ガラスの軟化温度T(℃)に対して前記封着材料の加熱温度が(T+80℃)以上で(T+550℃)以下の範囲となるように、前記レーザ光の出力を制御することを特徴とする請求項11乃至13のいずれか1項記載の封着材料層付きガラス部材の製造装置。
【請求項15】
前記走査制御部は、前記照射開始位置と前記照射終了位置の少なくとも一方で、前記一対のレーザ光の照射により溶融した部位が繋がった後に、前記レーザ光の前記走査を開始又は終了するように、前記Xステージ及び前記Yステージを駆動させることを特徴とする請求項11乃至14のいずれか1項記載の封着材料層付きガラス部材の製造装置。
【請求項16】
前記走査制御部は、前記レーザ光の走査速度がそれぞれ0.1mm/秒以上で5mm/秒以下の範囲となるように、前記移動機構を制御することを特徴とする請求項11乃至15のいずれか1項記載の封着材料層付きガラス部材の製造装置。
【請求項17】
第1の封止領域が設けられた第1の表面を有する第1のガラス基板を用意する工程と、
前記第1の封止領域に対応する第2の封止領域が設けられた第2の表面を有する第2のガラス基板を用意する工程と、
封着ガラスとレーザ吸収材とを含む封着材料を有機バインダと混合して調製した封着材料ペーストを、前記第2のガラス基板の前記第2の封止領域上に枠状に塗布する工程と、
少なくとも一対の焼成用レーザ光を、前記枠状の封着材料ペーストの塗布層の照射開始位置に照射し、次いで前記少なくとも一対の焼成用レーザ光のうちの少なくとも一方を、前記照射開始位置から照射終了位置まで前記枠状の封着材料ペーストの塗布層に沿って走査しながら照射し、前記焼成用レーザ光で前記塗布層全体を加熱することによって、前記塗布層内の前記有機バインダを除去しつつ、前記封着材料を焼成して封着材料層を形成する工程と、
前記第1の表面と前記第2の表面とを対向させつつ、前記封着材料層を介して前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板とを積層する工程と、
前記第1のガラス基板又は前記第2のガラス基板を通して前記封着材料層に封着用レーザ光を照射し、前記封着材料層を溶融させて前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間に設けられた電子素子部を封止する封着層を形成する工程とを具備し、
前記少なくとも一対の焼成用レーザ光による前記照射開始位置と前記照射終了位置の少なくとも一方で、前記一対の焼成用レーザ光の外周の一部が重なる、前記一対の焼成用レーザ光の外周が隣接する、もしくは前記焼成用レーザ光の照射ビーム径以下の間隔で前記一対の焼成用レーザ光の外周が離間するように、前記少なくとも一対の焼成用レーザ光を照射することを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【請求項18】
前記一対の焼成用レーザ光のうちの一方のレーザ光を前記照射開始位置に照射し続けると共に、他方のレーザ光を前記照射開始位置から前記前記照射終了位置まで前記枠状の封着材料ペーストの塗布層に沿って走査しながら照射することを特徴とする請求項17記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項19】
前記一対の焼成用レーザ光をそれぞれ前記照射開始位置から逆方向に向けて前記照射終了位置まで前記枠状の封着材料ペーストの塗布層に沿って走査しながら照射することを特徴とする請求項17記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項20】
前記封着ガラスの軟化温度T(℃)に対して前記封着材料の加熱温度が(T+80℃)以上で(T+550℃)以下の範囲となるように、前記焼成用レーザ光を前記枠状の封着材料ペーストの塗布層に照射することを特徴とする請求項17乃至19のいずれか1項記載の電子デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2011−256092(P2011−256092A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134193(P2010−134193)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】