説明

封着用無鉛着色ガラス

【課題】実質的にPbOを含有せず、かつP系ガラスの問題点である耐湿性を向上させ、さらに高温で処理した場合でも結晶化せず安定な無鉛低融点ガラスが求められている。
【解決手段】実質的にPbOを含有せず、モル%で表して、Pが40〜80、Feが3〜50、Alが0〜15、TiOが0〜20、ZrOが0〜10、RO(LiO、NaO、KOから選択される1種以上)が0〜40、MgOが0〜60、CaOが0〜60、SrOが0〜60、BaOが0〜60、ZnOが0〜60であり、原子モル比で、(Fe+Al+Ti+Zr+Li+Na+K+Mg+Ca+Sr+Ba+Zn)/Pが1.0未満であることを特徴とする封着用無鉛着色ガラスである。30から300℃の線膨張係数が(50〜200)×10−7/℃、軟化点が400℃以上750℃未満である特徴を有す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネル、液晶表示パネル、エレクトロルミネッセンスパネル、蛍光表示パネル、エレクトロクロミック表示パネル、発光ダイオード表示パネル、ガス放電式表示パネル等に代表される電子材料基板用の封着材料及び、光学フィルタの周辺部(光遮光部)用のカラーセラミック材料として用いられる無鉛低融点ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から電子部品の接着や封着材料として低融点ガラスが用いられている。特に近年の電子部品の発達に伴い、プラズマディスプレイパネル、液晶表示パネル、エレクトロルミネッセンスパネル、蛍光表示パネル、エレクトロクロミック表示パネル、発光ダイオード表示パネル、ガス放電式表示パネル等、多くの種類の表示パネルが開発されている。
【0003】
そしてこれらに用いられるガラスは、その用途に応じて化学耐久性、機械的強度、流動性、電気絶縁性等種種々の特性が要求されるが、それゆえ何れの用途においてもガラスの融点を下げる効果が極めて大きいPbOを多量に含有した低融点ガラスが広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながらPbOは、人体や環境に与える弊害が大きく、近年その採用を避ける趨勢にあり、プラズマディスプレイパネルを始めとする電子材料では無鉛化が検討されている(例えば、特許文献2参照)。
PbO系に替わる無鉛組成としては、V系ガラス(例えば、特許文献3参照)や、最近開発されつつあるP系ガラス(例えば、特許文献4参照)がある。
【0005】
また、エレクトロルミネッセンスパネル中のエレクトロルミネッセンス素子は内部に有機発光部を有し、その発光部は熱に弱く、外周封止時には発光部への熱の影響を極力少なくしなければならない。エレクトロルミネッセンス素子への水分、熱の影響を抑える方法として、既存技術では外周封止部に低融点ガラスペーストを塗布し、これをレーザー焼成することで、有機エレクトロルミネッセンス素子内への水分の浸入を防ぎ、局所加熱により、有機エレクトロルミネッセンス発光部の熱による影響を試みているものが提案されている(例えば特許文献5、6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3775556号公報
【特許文献2】特開平9−227214号公報
【特許文献3】特開2006−290665号公報
【特許文献4】特許第4061762号公報
【特許文献5】特開平10−125463号公報
【特許文献6】特開2001−319775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、低融点ガラス、例えば電子部品の接着や封着材料として、或いは電子部品に形成された電極や抵抗体の保護や絶縁のための被服材料としてのガラスには鉛系のガラスが採用されてきた。鉛成分はガラスを低融点とするうえで重要な成分ではあるものの、人体や環境に与える弊害が大きく、近年その採用を避ける趨勢にあり、近年、電子材料では無鉛ガラスが求められている。
【0008】
PbO系に替わる無鉛組成では、不安定なガラスが多く、高温で処理された場合、焼成途中で結晶化し、その機能が十分発揮されない。
【0009】
すなわち、特許第3775556号公報に記載のものは、低融点ガラスとしての効果は認められるが、鉛を含んでいるという基本的な問題がある。
【0010】
また、特開平9−227214号公報に記載のものは、鉛を含んでいないが、不安定なガラスであり、高温で処理された場合、焼成途中で結晶化し、その機能が十分発揮されない
また、特開2006−290665号公報に記載のV系ガラスは、原料として劇物を使用するため、取り扱いに過大な注意が必要となる。また、ガラスの着色が無いもしくは薄いためにレーザー光による熱吸収が小さいため、所望のガラス軟化温度まで上昇させるのにレーザー照射に多大のエネルギーを必要とする。
【0011】
さらに、特許第4061762号公報に記載のP系ガラスは、耐湿性が悪く、ガラスが空気中の水分を吸収して不安定化を示すという問題がある。
【0012】
本発明は前記問題点を考慮し、実質的にPbOを含まず、高温で処理した場合でも結晶化せずに安定で、かつFeを必須成分とすることでガラスが着色し、レーザー焼成に代表される光照射による封着も可能であることを特徴とするFe−P系の封着用無鉛着色ガラスを与えることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、無鉛低融点ガラスにおいて、実質的にPbOを含有せず、モル%で表して、Pが40〜80、Feを5〜50含むことを特徴とする封着用無鉛着色ガラスである。
【0014】
また、モル%で表して、RO(LiO、NaO、KOから選択される1種以上の合計)を0〜40、Alを0〜15、TiOを0〜20、ZrOを0〜10、MgOを0〜60、CaOを0〜60、SrOを0〜60、BaOを0〜60、ZnOを0〜60含むことを特徴とする上記のRO−ZnO−Fe−P系封着用無鉛着色ガラスである。
【0015】
さらに、原子モル比で、(Fe+Al+Ti+Zr+Li+Na+K+Mg+Ca+Sr+Ba+Zn)/Pが1.0未満であることを特徴とする上記の封着用無鉛着色ガラスである。
【0016】
また、30℃から300℃の線膨張係数が(50〜200)×10−7/℃、軟化点が400℃以上750℃未満であることを特徴とする上記の封着用無鉛着色ガラスである。
【0017】
また、上記に記載の無鉛低融点ガラスを使用していることを特徴とする電子材料用基板である。
【0018】
さらに、上記の無鉛低融点ガラスを使用していることを特徴とするディスプレイ用パネルである。
【0019】
さらにまた、上記の無鉛低融点ガラスを使用していることを特徴とするディスプレイ用カバーフィルタである。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、プラズマディスプレイパネル等の電子基板材料において、高温時に結晶化しにくく安定で、かつレーザー焼成に代表される光照射による封着も可能な封着用無鉛着色ガラス組成物を得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、モル%でPが40〜80、Feを5〜50含むことを特徴とするFe−P系の封着用無鉛着色ガラスである。
【0022】
本発明の成分系においてPはガラスの主成分であり、ガラス溶融を容易とし、ガラスの熱膨張係数において過度の上昇を抑え、かつ、焼付け時にガラスに適度の流動性を与えるものである。ガラス中にモル%で40〜80%の範囲で含有させることが望ましい。40%未満では上記作用を発揮しえずかつガラス化が困難となり、80%を超えるとガラスの耐湿性が悪くなる。より好ましくは40〜70%の範囲である。
【0023】
Feは必須成分であり、P系ガラスの特徴である吸湿性によるガラスの不安定化を抑制し、ガラスの熱膨張係数において過度の上昇を抑え、かつ、ガラスに着色を与えるものである。ガラス中にモル%で5〜50%の範囲で含有させることが望ましい。5%未満では上記作用を発揮しえず、50%を超えるとガラス化しなくなる。より好ましくは5〜45%の範囲である。
【0024】
Alはガラスの結晶化を抑制して安定化させるもので、ガラス中にモル%で0〜15%の範囲で含有させることが好ましい。15%を超えるとガラス溶融が困難となる。より好ましくは0〜12%、さらに好ましくは5〜10%の範囲である。
【0025】
TiOはガラスの耐熱性を向上させる成分であり、軟化点を適宜範囲に調整するもので、ガラス中にモル%で0〜20%の範囲で含有させることが望ましい。20%を超えるとガラス化が困難となる。より好ましくは0〜15%、さらに好ましくは5〜15%の範囲である。
【0026】
ZrOはガラスの耐熱性を向上させる成分であり、軟化点を適宜範囲に調整するもので、ガラス中にモル%で0〜10%の範囲で含有させることが望ましい。10%を超えるとガラス化が困難となる。より好ましくは0〜8%、さらに好ましくは2〜8%の範囲である。
【0027】
O(LiO、NaO、KOから選択される1種以上の合計)はガラスの軟化点を下げ、適度に流動性を与え、熱膨張係数を適宜範囲に調整するもので、ガラス中にモル%で0〜40%の範囲で含有させることが望ましい。40%を超えると熱膨張係数が高くなり過ぎ、また、耐湿性も悪くなる。より好ましくは0〜35%、さらに好ましくは5〜30%の範囲である。
【0028】
MgOは必須成分ではないが含有することでガラスの軟化点を下げ、適度に流動性を与え、熱膨張係数を適宜範囲に調整するもので、ガラス中にモル%で0〜60%の範囲で含有させる。60%を超えると熱膨張係数が高くなり過ぎる。より好ましくは0〜50%、さらに好ましくは20〜40%の範囲である。
【0029】
CaOは必須成分ではないが含有することでガラス溶解時の溶融ガラスの粘度を下げ、ガラスに適度な流動性を与え、熱膨張係数を適宜範囲に調整するもので、ガラス中にモル%で0〜60%の範囲で含有させる。60%を超えると熱膨張係数が高くなり過ぎる。より好ましくは0〜50%、さらに好ましくは20〜40%の範囲である。
【0030】
SrOは必須成分ではないが含有することでガラスの耐久性を向上させ、かつ、軟化点を下げ、適度にガラスに流動性を与え、熱膨張係数を適宜範囲に調整するもので、ガラス中にモル%で0〜60%の範囲で含有させる。60%を超えると熱膨張係数が高くなり過ぎる。より好ましくは0〜50%の範囲である。
【0031】
BaOは必須成分ではないが含有することでガラスの軟化点を下げ、適度に流動性を与え、熱膨張係数を適宜範囲に調整するもので、ガラス中にモル%で0〜60%の範囲で含有させる。60%を超えると熱膨張係数が高くなり過ぎる。より好ましくは0〜50%の範囲である
ZnOはガラスの軟化点を下げ、熱膨張係数を適宜範囲に調整するもので、ガラス中に0〜60%の範囲で含有させる。60%を超えるとガラスが不安定となり結晶を生じ易い。より好ましくは0〜50%、さらに好ましくは20〜50%の範囲である。
【0032】
上記組成範囲内において、金属元素と非金属元素の原子モル比(Fe+Al+Ti+Zr+Li+Na+K+Mg+Ca+Sr+Ba+Zn)/Pが1.0未満とすることで安定なガラスを得ることができる。1.0以上だとガラス化しない。
【0033】
この他にも、一般的な酸化物で表すIn、SnO、TeOなどを上記性質を損なわない範囲で1%まで加えてもよい。
【0034】
実質的にPbOを含まないことにより、人体や環境に与える影響を皆無とすることができる。ここで、実質的にPbOを含まないとは、PbOがガラス原料中に不純物として混入する程度の量を意味する。例えば、低融点ガラス中における0.3質量%以下の範囲であれば、先述した弊害、すなわち人体、環境に対する影響、絶縁特性等に与える影響は殆どなく、実質的にPbOの影響を受けないことになる。
【0035】
また、30℃から300℃の線膨張係数が(50〜200)×10−7/℃、軟化点が400℃以上750℃未満であることを特徴とする封着用無鉛着色ガラスである。軟化点が750℃を越えると構成する他材料の変形などの問題が発生する。好ましくは、400℃以上730℃以下である。
【0036】
本発明の封着用無鉛着色ガラスは、電子材料用基板、ディスプレイ用パネル、ディスプレイ用カバーフィルタに対して好適に使用出来る。
【0037】
本発明の封着用無鉛着色ガラスは、粉末化して使用されることが多い。この粉末化されたガラスは、必要に応じてムライトやアルミナに代表される低膨張セラミックスフィラー等と混合され、次に有機オイルと混練してペースト化されるのが一般的である。
【0038】
ガラス基板としては透明なガラス基板、特にソーダ石灰シリカ系ガラス、または、それに類似するガラス(高歪点ガラス)、あるいは、アルカリ分の少ない(又は殆ど無い)アルミノ石灰ホウ珪酸系ガラスが多用されている。
【実施例】
【0039】
以下、実施例に基づき、説明する。
【0040】
(低融点ガラス混合ペーストの作製)
源として正リン酸を、Fe源として酸化鉄を、Al源として酸化アルミニウムを、TiO源として酸化チタンを、ZrO源として酸化ジルコニウムを、LiO源として炭酸リチウムを、NaO源として炭酸ナトリウムを、KO源として炭酸カリウムを、MgO源として炭酸マグネシウムを、CaO源として炭酸カルシウムを、SrO源として炭酸ストロンチウムを、BaO源として炭酸バリウムを、ZnO源として酸化亜鉛を使用し、これらを表の組成となるべく調合したうえで、白金ルツボに投入し、電気加熱炉内で1100〜1300℃、1〜2時間加熱溶融し、表1の実施例1〜12、表2の比較例1〜4に示す組成のガラスを得た。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
ガラスの一部は鋳型に流し込み、ブロック状とし、ガラス転移点以上に保持した電気炉内に移入して徐冷した。このようにして作製した各試料について軟化点、結晶化温度、耐湿性を評価した。
【0044】
軟化点及び結晶化温度は、熱分析装置TG―DTA(リガク(株)製)を用いて測定した。
【0045】
なお、軟化点は、粘度係数η=107.6 に達したときの温度とした。また、熱膨張係数は、熱膨張計を用い、5℃/分で昇温したときの30〜200℃での伸び量から求めた。
【0046】
耐湿性は、ガラスブロックを粉砕し、ガラスパウダーとし、温度が約25℃かつ湿度が約60%の状態に放置し、1ヶ月経過後にガラス粉末の吸湿の有無(表中では○×で示す)を観察し、評価した。
【0047】
(結果) 低融点ガラス組成および、各種試験結果を表に示す。
【0048】
表1における実施例であるNo.1〜12の各試料は、各組成及び(Fe+Al+Ti+Zr+Li+Na+K+Mg+Ca+Sr+Ba+Zn)/Pが適切な範囲であるため、ガラス化し、耐湿性も良好で安定な着色ガラスが得られた。また、熱膨張係数及び軟化点も所望の範囲に入っていた。
これらに対して表2の比較例であるNo.1〜4の各試料は、各組成が適切な範囲でないため、ガラス化しない、または耐湿性が良くなかった。比較例2及び3の試料は、組成が適切な範囲であるものの、(Fe+Al+Ti+Zr+Li+Na+K+Mg+Ca+Sr+Ba+Zn)/Pが適切な範囲でないため、ガラス化しない。比較例4は、(Fe+Al+Ti+Zr+Li+Na+K+Mg+Ca+Sr+Ba+Zn)/Pは適切な範囲であるためガラス化したものの、Feの範囲が適切でないため耐湿性が良くない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無鉛低融点ガラスにおいて、実質的にPbOを含有せず、モル%で表して、
が40〜80、
Feを5〜50、
含むことを特徴とする封着用無鉛着色ガラス。
【請求項2】
モル%で表して、
O(LiO、NaO、KOから選択される1種以上の合計)を0〜40、
Alを0〜15、
TiOを0〜20、
ZrOを0〜10、
MgOを0〜60、
CaOを0〜60、
SrOを0〜60、
BaOを0〜60、
ZnOを0〜60含むことを特徴とする請求項1に記載のRO−ZnO−Fe−P系封着用無鉛着色ガラス。
【請求項3】
原子モル比で、(Fe+Al+Ti+Zr+Li+Na+K+Mg+Ca+Sr+Ba+Zn)/Pが1.0未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の封着用無鉛着色ガラス。
【請求項4】
30℃から300℃の線膨張係数が(50〜200)×10−7/℃、軟化点が400℃以上750℃未満であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の封着用無鉛着色ガラス。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の無鉛低融点ガラスを使用していることを特徴とする電子材料用基板。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の無鉛低融点ガラスを使用していることを特徴とするディスプレイ用パネル。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の無鉛低融点ガラスを使用していることを特徴とするディスプレイ用カバーフィルタ。

【公開番号】特開2010−235408(P2010−235408A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86523(P2009−86523)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】