説明

射出成形機におけるバルブゲート開閉用バルブピンの押切力制限機構付きピストン装置

【課題】バルブピンを作動させるピストン機構にコイルばね等の緩衝材を組込んだ二重構造とすることにより、バルブピン先端の押切量および押切力の調整を容易とすることができる射出成形機におけるバルブゲート開閉用バルブピンの押切力制限機構付きピストン装置を提供すること。
【解決手段】金型内に設けられるピストン,シリンダにより、バルブピン1を往復動させて射出合成樹脂などの溶融原料を、ゲートを開閉させてキャビティで成形する射出成形機において、シリンダのピストン機構Aは、内蔵するコイルばね等の緩衝材6を介してバルブピン1と接続される前部ピストン4と、前記前部ピストン4と間隔を置いて調節可動する後部ピストン5の二重構造とし、バルブピン1がゲートを閉じる際の押切力の衝撃をピストン機構に内蔵されるコイルばね等の緩衝材6で吸収緩和できるようにして成ることを特徴とする射出成形機におけるバルブゲート開閉用バルブピンの押切力制限機構付きピストン装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂などを原料とする射出成形機におけるバルブゲート開閉用バルブピンの押切力制限機構付きピストン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂成形に際し、射出成形装置にあっては、キャビティに通ずるゲートに対して、バルブ部材を往復動させる空気圧または油圧のピストンを備えた射出成形機は広く知られている。
【0003】
そして、バルブ部材のピンとゲートとの係合離脱の一連のゲート開閉に基づく成形操作を確実に行わせるために、ゲートやバルブ部材のピンの高温な原料樹脂による熱膨張に起因する衝撃などの悪影響を防止することも知られている(例えば、特許文献1または特許文献2参照)。
【0004】
また、さらに、バルブピン先端がテーパで押し切るバルブゲートにおいては、ピストン推力によってゲート・キャビティを破損することがあり、ピストン内部でバルブピンの頭に皿にばねを押切力を入れて緩和しているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−283412号公報
【特許文献2】特開平7−251429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1によれば、バルブピンおよびその案内支持部に無理な力が加わることを防止するために、バルブピンの頭部と座金および受け板との間に隙間を設けてバルブピンに無理な力が加わるのを防いでいる。さらに、上記特許文献2には、バルブピンの基端部にばね室を設けてバルブ部材の前端部およびゲートの双方に加えられる衝撃を弱めながら作動させているが、この特許文献2は組立製作時におけるバルブピンとゲートとの微調整は行うことが不可能であり、専ら作動運転時のバルブピンに対する衝撃緩和しか考慮されていない。
【0007】
また、皿ばねを入れて押切力を緩和している場合は、皿ばねのばね定数が大きすぎるために調整が困難であり、ゲートを破損してしまう場合が多いと言われている。
【0008】
本発明は叙上の点に着目して成されたもので、バルブピンを作動させるピストン機構にコイルばね等の緩衝材を組込んだ二重構造とすることにより、従来と同等の金型寸法に入る大きさに形成でき、しかもコイルばねを使用した場合、ばね定数を、従来の皿ばねのばね定数よりも小さくして、バルブピン先端の押切量および押切力の調整を容易とすると共に、組込み後の調節を不要にした新規な射出成形機におけるバルブゲート開閉用バルブピンの押切力制限機構付きピストン装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記の構成を備えたことにより上記課題を解決できるものである。
【0010】
(1)金型内に設けられるピストン,シリンダにより、バルブピンを往復動させて射出合成樹脂などの溶融原料を、ゲートを開閉させてキャビティで成形する射出成形機において、シリンダのピストン機構は、内蔵するコイルばね等の緩衝材を介してバルブピンと接続される前部ピストンと、前記前部ピストンと間隔を置いて調節可動する後部ピストンの二重構造とし、バルブピンがゲートを閉じる際の押切力の衝撃をピストン機構に内蔵されるコイルばね等の緩衝材で吸収緩和できるようにして成ることを特徴とする射出成形機におけるバルブゲート開閉用バルブピンの押切力制限機構付きピストン装置。
【0011】
(2)バルブピンは、基端頭部を摺動筒に挿通し、スペーサを挿通して位置決め可能とし、かつ摺動筒の外周にピストン機構の前部ピストンを環状に突設し、前記前部ピストンと同軸上に後部ピストンを可動自在に配設し、前部ピストンと後部ピストンとの間に弾性張力を付与させて配設されるコイルばね等の緩衝材により間隙を設けて成ることを特徴とする前記(1)記載の射出成形機におけるバルブゲート開閉用バルブピンの押切力制限機構付きピストン装置。
【0012】
(3)前部ピストンおよび後部ピストンより成る二重構造のピストン機構は、金型に凹設されるシリンダ部に配設して成ることを特徴とする前記(1)記載の射出成形機におけるバルブゲート開閉用バルブピンの押切力制限機構付きピストン装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、バルブピンを往復動させるピストン機構を、前部ピストンと後部ピストンとの二重構成とし、両ピストン間にコイルばね等の緩衝材を介装させて、バルブピンのゲートに対する押切力を弾性的に緩和吸収してピストン推力によってゲートやキャビティが破損,損傷することを防止可能とすると共に、金型自体にシリンダ部を設けて、全体を小型コンパクトに組込み可能とすることができる。
【0014】
さらに、ゲートに対するバルブピンの組立調節やピストン機構のシリンダ部内への配置も組込み時に行うのみで良く、使用後での調整を不要とすることもできるなどの効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る一実施例を示すゲート開の状態を示す断面説明図
【図2】図1の構成においてゲート閉の状態とした場合の断面説明図
【図3】図1のIII−III線断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明を実施するための最良の形態を、実施例により詳しく説明する。
【実施例】
【0017】
以下に、本発明の一実施例を図面と共に説明する。
【0018】
1はバルブピン、2は前記バルブピン1の基部1aを挿通固定させた摺動筒で、自由に長さを選択できるスペーサ3を挿通し、止杆3aにより前記バルブピン1の基部1aを押止固定でき、このスペーサ3により金型Xやバルブピン1の長さ寸法に合わせて大まかに調整している。
【0019】
4は、前記摺動筒2の外周に突設したピストン機構Aの前部ピストン、5はコイルばね6を介在させて間隔Gを保持して移動可能の後部ピストンを示す。
【0020】
そして、前記ピストンに機構Aの前部ピストン4の外周には外方に向けて周壁4aが設けられ、後部ピストン5には、前記前部ピストン4の周壁4aを包囲する胴部5aが設けられ、さらに摺動筒2の外周2a上を移動する内筒部5bを備える。そして、この内筒部5bの端部Pと摺動筒2の外周2aに設けた段部2bとの間に間隙gを形成する。
【0021】
7は金型Xに設けられるピストン機構Aが往復動できるシリンダ部であって、空気圧などの作動流体の出入孔8,9を開孔してある。
【0022】
10は、前記シリンダ部7と通ずる金型Xに設けた挿通孔で、前記摺動筒2の摺動操作を可能としており、11は、金型Xの複数の可動部分のシール効果を保持するパッキン、12は、摺動筒2の外周に設けた止め輪で、後部ピストン5の移動を制止できる働きを有する。
【0023】
13は、キャビティに通ずるゲートを示し、テーパ状αの形状を備えており、バルブピン1の先端形状も同様に射出溶融樹脂の押切りを有効に行わせるためにテーパ状αを備えている。
【0024】
叙上の構成に基づいて、始めにバルブピン1の組立作用について簡単に説明する。
【0025】
金型Xに配設されるキャビティに通ずるゲート13に対し、バルブピン1を金型Xに設けられる挿通孔10内に摺動筒2を挿通し、予めスペーサ3によりバルブピン1の長さを止杆3aにより調節して置いて摺動自在に固定して置く。
【0026】
ついで、摺動筒2に設けた前部ピストン4と摺動筒2上に移動できる後部ピストン5をコイルばね6に張力を付与させた状態を保持して介在させたピストン機構Aを金型Xのシリンダ部7内に組込んで、開口部分を図示しないが閉蓋するものである。
【0027】
上述の構成の下に射出成形操作を行う。
【0028】
射出される溶融原料は、ゲート13を介してキャビティ内に射出されるが、バルブピン1は射出成形操作の都度ピストン機構Aのシリンダ部7内で前後に移動してゲート13を開閉することができる。
【0029】
図1の状態、即ちゲート13が開いて射出原料がキャビティ内に射出されると、図2の状態にピストン機構Aはシリンダ部7内を移動してバルブピン1はゲート13を閉じるが、バルブピン1のゲート13への突き当てが常に正常である場合は問題はないが、金型Xやバルブピン1の温度変化に基づく膨張や変形などによってバルブピン1に対するピストン機構Aの前部ピストン4に働く推力は、内蔵したコイルばね6の張力と緩衝し、ゲート13への異常な突き当てに伴う過大な突き当てを回避でき、ゲート13やキャビティの破損を防ぐことができる。
【0030】
図2で示されるように、ピストン機構Aの後部ピストン5の胴部5aの先端Qはシリンダ部7の内端と衝接していても、前部ピストン4はコイルばね6の張力と対抗して必要以上の移動は制限され、緩衝するので、不必要なピストン機構Aの推力を受けることがなくなり、ゲート13は勿論のこと、バルブピン1,キャビティの破損を完全に防止できる。
【0031】
なお、この場合、後部ピストン5の間隙gは、最大偏位置として形成して置くことにより、正常な押切力の下に、ゲート13でのバルブピン1の開閉操作を安全に行わせることが可能である。
【0032】
以上、本発明の一実施例を説明したが、例えば、シリンダ部分の掘り込み寸法やピストン機構Aで作動するバルブピンの位置を調節するスペーサ3の寸法は、バルブピン1の長さとバルブピンの熱膨張量に対して0.2mm程度の押切量を加えた寸法で容易に算出でき、しかも一旦組込んだ後の調節は不要である。
【0033】
さらに、ピストン機構Aに設けられるコイルばね6は、図示では相対向して2組であるが、1組でも3個以上でも差し支えなく、前部ピストン4に対して後部ピストン5がバランス良く作動できる構成であれば、その数は特定されない。
【0034】
なお、この実施例では、符号6をコイルばねとして特定してあるが、このコイルばねと均等な機能を有する弾性材として緩衝材とかクッション材等に変えて実施することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 バルブピン
1a 基部
2 摺動筒
2a 外周
2b 段部
3 スペーサ
3a 止杆
4 前部ピストン
4a 周壁
5 後部ピストン
5a 胴部
5b 内筒部
6 コイルばね
7 シリンダ部
8,9 出入孔
10 挿通孔
11 パッキン
12 止め輪
13 ゲート
X 金型
A ピストン機構
G 間隔
P 端部
g 間隙
α テーパ状
Q 先端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型内に設けられるピストン,シリンダにより、バルブピンを往復動させて射出合成樹脂などの溶融原料を、ゲートを開閉させてキャビティで成形する射出成形機において、シリンダのピストン機構は、内蔵するコイルばね等の緩衝材を介してバルブピンと接続される前部ピストンと、前記前部ピストンと間隔を置いて調節可動する後部ピストンの二重構造とし、バルブピンがゲートを閉じる際の押切力の衝撃をピストン機構に内蔵されるコイルばね等の緩衝材で吸収緩和できるようにして成ることを特徴とする射出成形機におけるバルブゲート開閉用バルブピンの押切力制限機構付きピストン装置。
【請求項2】
バルブピンは、基端頭部を摺動筒に挿通し、スペーサを挿通して位置決め可能とし、かつ摺動筒の外周にピストン機構の前部ピストンを環状に突設し、前記前部ピストンと同軸上に後部ピストンを可動自在に配設し、前部ピストンと後部ピストンとの間に弾性張力を付与させて配設されるコイルばね等の緩衝材により間隙を設けて成ることを特徴とする請求項1記載の射出成形機におけるバルブゲート開閉用バルブピンの押切力制限機構付きピストン装置。
【請求項3】
前部ピストンおよび後部ピストンより成る二重構造のピストン機構は、金型に凹設されるシリンダ部に配設して成ることを特徴とする請求項1記載の射出成形機におけるバルブゲート開閉用バルブピンの押切力制限機構付きピストン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−183549(P2011−183549A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47630(P2010−47630)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(390029218)世紀株式会社 (11)
【Fターム(参考)】