説明

射出成形機用ノズル

【課題】ハンディタイプや卓上で使用する小型の射出成形機に適用可能であり、ノズルの大型化や構造の複雑化を招くことなく、確実にノズルの断熱を行い溶融樹脂の温度を安定させてハイサイクル可能な射出成形機用ノズルを提供する。
【解決手段】樹脂材料を可塑化して射出する可塑化バレル2と、この可塑化バレル2に供給する樹脂材料のペレットを貯留するホッパー3と、可塑化バレル2内で可塑化した樹脂材料を押圧するプランジャー4及びこのプランジャー4の駆動機構5とからなる射出成形機1に用いられるノズル6であり、ノズル6全体を断熱性を有する材料により形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂材料を金型キャビティに射出充填して樹脂成形品を得るのに用いられる射出成形機用ノズルに関し、更に詳しくは、作業者が手作業で取り扱うハンディタイプの射出成形機や、卓上で使用する小型の射出成形機等のノズルとして好適に用いられる射出成形機用ノズルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、射出成形機に用いられるノズルは、全体が熱伝導率の良い金属材料で形成されていた。熱可塑性樹脂の射出成形に於いて、溶融樹脂の固化を行う金型は、溶融樹脂の充填開始と共に樹脂の固化が開始されるように、通常は溶融樹脂の固化温度以下の温度(例えば、100℃〜常温程度)に保たれる。一方、ノズルは加熱バレルの先端に該加熱バレルと一体となるように取り付けられ、加熱バレルと金型の間の溶融樹脂流路を形成し、通常は溶融樹脂の固化温度以上の高温(例えば180〜300℃程度)に保たれる。
【0003】
射出成形を行う場合、金型に射出成形機のノズルの先端が接触し、加熱された溶融樹脂がノズル先端部から金型に注入され、冷却、固化することで成形品が得られる。ノズルの先端が金型に接触した際に、熱伝導によりノズルの熱が温度の低い金型に伝わり、ノズルの温度が低下する。このため、射出成形機の加熱バレルに於いて、成形樹脂を溶融する可塑化計量工程では、ノズルの温度低下による溶融樹脂の固化を防止するために、ノズルと金型とを離した状態で行うようにし、樹脂の射出直前に金型とノズルを接触させて金型内に溶融樹脂を射出充填していた。
【0004】
ところが、射出成形サイクルタイムの短縮を行うハイサイクル成形では、金型とノズルを常時接触させた状態で連続成形を行うことが主流であり、ノズルから金型に熱が放熱することは避けられない。そこで、ノズル内部の溶融樹脂の流動性を損なわないようにするために、ノズルを断熱することが行われている。
【0005】
ノズルの断熱方法として、ノズルの外側全体を断熱層で覆う方法(例えば特許文献1参照)、ノズルと射出装置の間に断熱リングを設ける方法(例えば特許文献2参照)等が公知である。
【0006】
【特許文献1】特許第2675953号公報(0004、図7)
【特許文献2】特許第3277321号公報(0010、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されているように、ノズル全体を断熱材で覆うと、ノズル付近の構造が複雑になってしまい、コストが上昇してしまうという問題があった。また、特許文献2に記載されているように、断熱リングを設けることは、断熱リングとノズルの間にある微少な隙間に樹脂が入り込み、樹脂焼けを起こす虞が大きくなるという問題がある。更に、断熱リングのみでは、断熱は不十分である。
【0008】
また、上記特許文献1及び特許文献2に記載のノズルの断熱手段は、ノズルが大型化したり、構造が複雑になってしまう。上記従来のノズルの断熱手段を小型の射出成形機に適用しようとした場合、小型の射出成形装置はノズルが小さくなることから、ノズルの周囲に加工を施したり、ノズル自体に複雑な加工を施すことが極めて困難であり、実際には適用できないという問題がある。
【0009】
上記実情に鑑み、本発明の解決しようとする課題は、ハンディタイプや卓上で使用する小型の射出成形機に適用可能であり、ノズルの大型化や構造の複雑化を招くことなく、確実にノズルの断熱を行い溶融樹脂の温度を安定させて、成形工程のハイサイクル化が可能な射出成形機用ノズルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明の射出成形機用ノズルは、ノズル全体が断熱性を有する材料により形成されているものである。
【0011】
本発明の射出成形機用ノズルにおいて、断熱性を有する材料は、多孔質の金属、セラミックス、又は熱変形温度の高いプラスチックを用いることができる。
【0012】
本発明の射出成形機用ノズルは、ノズル本体と、ノズル本体の周囲を覆うジャケットとから構成したり、発泡ステンレス製のノズル本体と、ノズル本体の周囲を覆うセラミックス製のジャケットとから構成したり、ノズルの内側の表面をコーティングすることができる。
【0013】
本発明の射出成形機用ノズルは、型締力が5トン以下の小型の射出成形機に用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
上記本発明に係る射出成形機用ノズルによれば、ノズル全体が断熱性を有する材料により形成されているから、ノズルを断熱材で覆うことなく断熱することができ、ノズルを介した射出装置と金型の熱交換を抑止して、金型温度と射出装置の温度の安定化を図ることができる。
【0015】
さらに本発明の射出成形機用ノズルは、従来のノズルの断熱手段の様に、ノズルの大型化や構造の複雑化を招くことがないので、ハンディタイプや卓上で使用する小型の射出成形機に適用可能である。この場合、ノズルと金型が常時接触していても、確実にノズルの断熱が行われ、溶融樹脂の温度を安定させることができるから、射出成形サイクルタイムを短縮してハイサイクル成形を行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。本発明のノズルは、射出成形機に用いられる射出成形機用ノズルである。図1は、本発明の射出成形機用ノズルが用いられる射出成形機の要部の構造を示す図である。なお、図1では、プランジャーの駆動機構は外観を示し、それ以外の部分は断面構造を示した。図1に示す射出成形機は、卓上に設置される小型のものであり、1回の射出操作につき20cm以下、好適には10cm以下程度の樹脂材料を射出する能力を備えるものである。
【0017】
図1に示す射出成形機1は、樹脂材料を可塑化して射出する可塑化バレル2と、この可塑化バレル2に供給する樹脂材料のペレットを貯留するホッパー3と、可塑化バレル2内で可塑化した樹脂材料を押圧するプランジャー4及びこのプランジャー4の駆動機構5と、プランジャー4により押圧された樹脂材料を射出する本発明の射出成形機用ノズル6(以下、単にノズルという)を備える。可塑化バレル2の外周面には、可塑化バレル2に供給された樹脂材料を加熱するために、所定の長さにわたってコイル状に巻き付けられたワイヤーヒーター7が取り付けられている。
【0018】
図2は、射出成形機のノズル先端付近を拡大した状態を示す断面図である。図2に示すように、ノズル6は可塑化バレル2の先端に固定されている。可塑化バレル2は、先端に突出させて雄ねじ状に形成したノズル固定部11が設けられている。一方、ノズル6の可塑化バレル2側には、前記ノズル固定部11にねじ込み可能に雌ねじ状に形成した取付部64が設けられている。ノズル6は、可塑化バレル2の先端のノズル固定部11にノズル6の取付部64をねじ込むことで、可塑化バレル2に固定されている。
【0019】
図1に示す様に、射出成形機1の可塑化バレル2は、金属材料等により円筒形状に形成され、内部に長手方向に貫通する貫通孔12が設けられている。貫通孔12はプランジャー4側の内径が大きく形成され、ノズル6側の内径が小さく形成されている。また可塑化バレル2には、外部に開口する樹脂材料供給部8が設けられ、該樹脂材料供給部8に、ホッパー3に連通する樹脂材料供給管9が接続されている。プランジャー4は、駆動機構5が外部に配設された油圧源10から油圧の供給を受けて駆動し、可塑化した樹脂材料をノズル6から押し出す。尚、図1の射出成形機は樹脂の可塑化方式としてプランジャー式を用いたが、可塑化方式としてスクリュー式を用いても良い。
【0020】
図1に示すノズル6は、図2に示すように内部に貫通孔60を有し先端側が先細に形成された円筒体からなり、全体が断熱性を有する材料により形成されている。ノズル6に用いられる断熱性を有する材料としては、例えば、発泡ステンレス、発泡アルミニウム等の多孔質の金属、アルミナ、アルミナ−シリカ、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化珪素等のセラミックス、熱変形温度の高いプラスチック等が用いられる。プラスチックの熱変形温度は、使用する樹脂材料の可塑化温度よりも高いものであれば利用することができる。
【0021】
ノズル6に用いられる断熱性を有する材料として、発泡ステンレスは、強度的に最も好ましいものである。またセラミックスは、断熱性に優れるものである。また、プラスチックは、コスト的に安価であり、ノズル6を頻繁に交換する用途等に最適であり、ノズル6を使い捨てとすることも可能である。ノズル6の材料は、成形品の種類等に応じて適宜、選択することができる。
【0022】
ノズル6に用いられる上記した断熱性を有する材料は、一般的な金型鋼よりも破壊脆性が低いことから、ノズルタッチ力が過大になった場合でも、金型の破損を防止することができるという利点がある。
【0023】
図1の射出成形機の動作は次の通りである。ヒーター7により可塑化バレル2を加熱し、ホッパー3に貯留されている樹脂材料のペレットを、樹脂材料供給管9及び樹脂材料供給部8を通じて可塑化バレル2の内部に供給すると、樹脂材料は可塑化バレル2内で加熱されて可塑化する。プランジャー5を作動させて可塑化した樹脂材料を押圧してノズル6の先端から射出する。射出された樹脂材料は、図2に示すように、金型21のスプルー22を通り金型のキャビティ内(図示せず)に導入される。
【0024】
可塑化バレル2の内壁面温度は、樹脂材料の可塑化温度より70℃程度高い温度に温調する。例えば樹脂材料としてPBT(ポリブチレンテレフタレート)を用いる場合には290℃近傍に、TPS(スチレン系熱可塑性エラストマー材料)を用いる場合には280℃近傍にする。
【0025】
ノズル6の前端を金型21に接触させた場合、ノズル6は全体が断熱性を有する材料により形成されていることから、金型21に接触しても可塑化バレル2の熱がノズル2を介して金型21側に熱伝導することが妨げられる。その結果、ノズルを常時接触させる連続成形を行う場合に、ノズル6を介した射出成形機1の可塑化バレル2と金型21の熱交換を抑止して、金型21の温度と可塑化バレル2の温度の安定化が図れる。
【0026】
図3は本発明のノズルの他の態様を示し、(a)は樹脂の射出方向の断面図であり、(b)は(a)のA−A線断面図である。ノズル6は、図1及び図2に示すように全体を同じ材料で均一に形成しても良いが、図3(a)、(b)に示すように、貫通孔60が形成されるノズル本体61と、該ノズル本体61の周囲を覆うジャケット62との2層構造に構成することができる。また、3層以上の層構造としても良い。また、ノズル本体61とジャケット62とは同じ材料から構成しても良いが、異なる材料から構成しても良い。
【0027】
ノズル本体61とジャケット62とは、両者は異なる断熱性を有していることが好ましい。例えば、ノズル本体61は、強度は高いが断熱性がセラミックスよりも低い発泡ステンレスにより形成し、ジャケット62を発泡ステンレスよりも断熱性の優れるセラミックスにより形成する。このように、断熱性の異なる材料を厚み方向に積層した構造とすることで、強度と断熱性を両立させることができる。
【0028】
図3(a)、(b)に示すように、ノズル6は成形樹脂の流れ方向は同じ材料で一体に形成されていて、樹脂流路となる貫通孔60には、従来の断熱リングのように異なる材料の接合部分は存在しない。そのため、材料同士の接合面の微少な隙間から成形樹脂が漏れて、樹脂やけ等の不具合が生じる虞は全くない。
【0029】
更に図3(a)、(b)に示すように、ノズル6には内側の表面をコーティングして、表面処理層63を設けることができる。コーティングの材料としては、セラミックス、耐熱性の樹脂等を用いることができる。ノズル内側をコーティングすることにより、樹脂の流動性や成形品の外観を改良することができる。
【0030】
ノズル6は、ノズル本体61を発泡アルミニウムや発泡ステンレスの様に多孔質の材料により形成した場合、貫通孔60の表面に存在する凹凸が、貫通孔60を通過する樹脂に影響を与える。その結果、成形品の表面が梨地になったり、光沢がなくなり意匠的な不具合が生じる虞がある。ノズルの内側をコーティングして、表面に表面処理層63を設けて表面を平滑に形成することで、成形品表面が梨地になることを防止できる。
【0031】
本発明のノズル6が適用される射出成形機としては、型締力が5トン以下の小型の射出成形機に用いることが好ましく、更に好ましくは型締力が1トン以下の小型の射出成形機に用いることである。このような型締力の小さな射出成形機であれば、ノズルの材質として強度の低い材料であっても使用可能であるため、ノズルの材料の選択の幅が広がるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の射出成形機用ノズルが用いられる射出成形機の要部の構造を示す図である。
【図2】射出成形機のノズル先端付近を拡大した状態を示す断面図である。
【図3】本発明のノズルの他の態様を示し、(a)は樹脂の射出方向の断面図であり、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 射出成形機
2 可塑化バレル
3 ホッパー
4 プランジャー
5 プランジャーの駆動機構
6 ノズル
60 貫通孔
61 ノズル本体
62 ジャケット
63 表面処理層
64 取付部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル全体が断熱性を有する材料により形成されていることを特徴とする射出成形機用ノズル。
【請求項2】
断熱性を有する材料が、多孔質の金属であることを特徴とする請求項1記載の射出成形機用ノズル。
【請求項3】
断熱性を有する材料が、セラミックスであることを特徴とする請求項1記載の射出成形機用ノズル。
【請求項4】
断熱性を有する材料が、熱変形温度の高いプラスチックであることを特徴とする請求項1記載の射出成形機用ノズル。
【請求項5】
ノズル本体と、ノズル本体の周囲を覆うジャケットとからなることを特徴とする請求項1記載の射出成形機用ノズル。
【請求項6】
発泡ステンレス製のノズル本体と、ノズル本体の周囲を覆うセラミックス製のジャケットとからなることを特徴とする請求項1記載の射出成形機用ノズル。
【請求項7】
ノズルの内側の表面がコーティングされていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1に記載の射出成形機用ノズル。
【請求項8】
型締力が5トン以下の小型の射出成形機に用いられることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1に記載の射出成形機用ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−203561(P2007−203561A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24074(P2006−24074)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】