説明

射出成形用金型の温度調節構造

【課題】金型の成形製品に接する金型表面の温度を効率よく調節すると共に、型板への熱拡散を低減する。
【解決手段】金型温調用通路3は、金型表面1a、2aの下地となる金型基礎面31に沿って掘り込み形成された第1の溝32と、第1の溝の上面側に当該第1の溝の溝幅より広く切り欠かれた第2の溝33と、第1の溝を覆うように形成され、各型板の材料の熱伝導率より低い熱伝導率の材料から成る第1の金属層34と、第1の金属層を覆うように形成され、各型板の材料の熱伝導率より高い熱伝導率の材料から成る第2の金属層35と、第2の溝を塞いで第2の溝を密閉するように設けられ、第2の金属層と熱伝導率が実質的に同一の材料から成る埋め板36と、基礎面及び埋め板を覆って製品用金型表面とするように形成され、第2の金属層と熱伝導率が実質的に同一の材料から成る第3の金属層37とから構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は射出成形用金型の温度調節構造に係り、特に成形製品に接する製品用金型表面を金型温調用通路に温調用媒体を供給して急速に加熱、冷却することで、樹脂の流動性や金型の面転写性を向上させることができる射出成形用金型の温度調節構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、射出成形用金型においては、樹脂の流動性や金型の面転写性を向上させると共に、成形サイクルを短くするために、成形製品に接する製品用金型表面の温度を調節する射出成形用金型が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【0003】
この射出成形用金型は図3(A)、(B)、(C)に示すように、固定側型板51及び移動側型板52にはそれぞれ、成形製品MPに接する製品用金型表面51a、52aの温度を調節するための温調用媒体が供給される金型温調用通路53が形成されている。
【0004】
固定側型板51の金型温調用通路53は、固定側型板51に形成された凹部51bに嵌め込まれる入れ子54の裏面に形成され、移動側型板52の金型温調用通路53は、移動側型板52に形成された凹部52bに嵌め込まれる入れ子55の裏面に形成されている。したがって、固定側型板51及び移動側型板52自体に金型温調用配管を設けなくてもよくなる。また、入れ子54、55にはそれぞれ金型温調用通路53を塞ぐ断熱材56を嵌め込むことができる溝54a、55aが設けられている。さらに、入れ子54、55にはそれぞれ金型温調用通路53に温調用媒体を供給する供給通路54b、55bと、その金型温調用通路53に供給された温調用媒体を排出する排出通路54c、55cとが設けられている。
【0005】
なお、金型温調用通路53は図3(B)では矢印の付いた引出線で示しているが、実際は図3(A)、(C)に示すような溝のことである。
【0006】
このように構成された射出成形用金型50は、金型のキャビティ内に樹脂成形材料を充填している間は金型温調用通路53に加圧熱水等の加熱媒体を供給し、キャビティ内に充填された樹脂成形材料を冷却する間は金型温調用通路53に冷却水等の冷却媒体を供給することで、樹脂の流動性や金型の面転写性を向上させると共に、成形サイクルを短くすることができる。
【0007】
また、この射出成形用金型50は、入れ子54の金型温調用通路53と固定側型板51との間、及び入れ子55の金型温調用通路53と移動側型板2との間に断熱板56を介在させているので、この断熱板56の断熱効果により入れ子54、55を加熱、冷却する温調用媒体の熱量が固定側型板51及び移動側型板52に熱伝導する熱量の損失を防ぐと共に、断熱板56が金型温調用通路53から漏れないようにシールするようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−80507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、背景技術に記載した射出成形用金型50では、金型温調用通路53を設けるために入れ子構造を採用しているので、型板及び入れ子はそれぞれ精度の高い機械加工を行わなければならず、金型費用の上昇を招いている。また、入れ子54、55の変形によるキャビティの精度悪化を防ぐために、入れ子54、55の剛性を確保していることから、入れ子54、55の厚みをある程度厚くしなければならないので、その入れ子54、55の厚み分に応じた温調用媒体による熱量が固定側型板51及び移動側型板52に熱伝達していた。したがって、固定側型板51及び移動側型板52の熱量を効率よく低減することができなかった。
【0010】
本発明は、このような従来の難点を解消するためになされたもので、金型の成形製品に接する製品用金型表面の温度を効率よく調節すると共に、固定側型板及び移動側型板の熱量を効率よく低減することができる射出成形用金型の温度調節構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成する第1の態様である射出成形用金型の温度調節構造は、熱伝導率が実質的に同一な材料から成る固定側型板及び移動側型板に、成形製品に接する製品用金型表面の温度を調節するための温調用媒体が供給される金型温調用通路が形成された射出成形用金型の温度調節構造において、金型温調用通路は、製品用金型表面の下地となるように当該製品用金型表面に沿って形成された基礎面と、固定側型板及び移動側型板の基礎面の形状に沿って掘り込まれた第1の溝と、第1の溝の上面側に当該第1の溝の溝幅より広く切り欠かれた第2の溝と、第1の溝の側面及び底面を覆うように形成され、固定側型板及び移動側型板の材料の熱伝導率より低い熱伝導率の材料から成る第1の金属層と、第1の金属層の側面及び底面を覆うように形成され、固定側型板及び移動側型板の材料の熱伝導率より高い熱伝導率の材料から成る第2の金属層と、第2の溝を塞いで第2の溝を密閉するように設けられ、第2の金属層と熱伝導率が実質的に同一の材料から成る埋め板と、基礎面及び埋め板を覆って製品用金型表面とするように形成され、第2の金属層と熱伝導率が実質的に同一の材料から成る第3の金属層とから構成されているものである。
【0012】
このような第1の態様である射出成形用金型の温度調節構造によれば、固定側型板及び移動側型板の製品用金型表面の下地となるように当該製品用金型表面に沿って形成された基礎面の形状に沿って金型温調用通路となる第1の溝を掘り込むので、入れ子構造のような精度の高い機械加工を行わなくともよく、また、温調用媒体が直接流動する第2の金属層、埋め板と共に製品用金型表面となる第3の金属層は各型板の材料の熱伝導率より高い熱伝導率の材料から成るので、温調用媒体から埋め板及び第3の金属層への熱伝導率が高められ製品用金型表面の温度を効率よく調節することができ、さらに、固定側型板及び移動側型板に接触している各型板の材料の熱伝導率より低い熱伝導率の材料から成る第1の金属層が、各型板の材料の熱伝導率より高い熱伝導率の材料から成る第2の金属層と、固定側型板及び移動側型板との間に介在していることから、第1の金属層により第2の金属層から固定側型板及び移動側型板への熱量の伝達を抑えることができるので、固定側型板及び移動側型板の熱量を効率よく低減することができる。
【0013】
本発明の第2の態様は第1の態様である射出成形用金型の温度調節構造において、第1の金属層及び第3の金属層は、粒子をコールドスプレーによって成膜して形成されているものである。このような第2の態様である射出成形用金型の温度調節構造によれば、第1の金属層は第1の溝の大きさが小さくても金属層の厚さ寸法を精度よく簡易に形成させることができ、第3の金属層は薄膜に形成させることができるので、熱伝導効率を高めることができる。
【0014】
本発明の第3の態様は第2の態様である射出成形用金型の温度調節構造において、第2の金属層は、粒子をコールドスプレーによって成膜して形成されているものである。このような第3の態様である射出成形用金型の温度調節構造によれば、粒子をコールドスプレーによって成膜して形成された第1の金属層に、熱伝導率の異なる他の材料を精度よく簡易に形成させることができる。
【0015】
本発明の第4の態様は第3の態様である射出成形用金型の温度調節構造において、基礎面には、埋め板の箇所を覆うことなく第3の金属層との間に第1の金属層と熱伝導率が実質的に同一の材料から成る第4の金属層が、粒子をコールドスプレーによって成膜して形成されているものである。このような第4の態様である射出成形用金型の温度調節構造によれば、埋め板の箇所を除く第3の金属層と、固定側型板及び移動側型板との間に、固定側型板及び移動側型板の材料の熱伝導率より低い熱伝導率の材料から成る第4の金属層を形成させることで、この第4の金属層により第3の金属層から固定側型板及び移動側型板への熱量の伝達を抑えることができるので、さらに、固定側型板及び移動側型板の熱量を効率よく低減することができる。
【0016】
本発明の第5の態様は第1の態様乃至第4の態様のうちの何れか1態様である射出成形用金型の温度調節構造において、金型温調用通路は、成形製品の構造に応じて固定側型板及び移動側型板の各基礎面に複数設けられているものである。このような第5の態様である射出成形用金型の温度調節構造によれば、固定側型板及び移動側型板の成形製品に接する製品用金型表面全体の温度を調節することができるようになる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の射出成形用金型の温度調節構造によれば、金型の成形製品に接する製品用金型表面の温度を効率よく調節すると共に、固定側型板及び移動側型板の熱量を効率よく低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の射出成形用金型の温度調節構造による好ましい実施の形態例で、(A)は断面図、(B)は金型温調用通路の詳細図、(C)は金型温調用通路の入口及び出口の詳細図、(D)は(C)のA−A断面図、(E)は(D)のB−B断面図である。
【図2】本発明の射出成形用金型の温度調節構造で形成される金型温調用通路の製造工程を示す説明図で、(A)は第1の溝に第1の金属層を積層させる図、(B)は第1の金属層に第2の金属層を積層させる図、(C)は第2の溝に埋め板を嵌め込んで基礎面と共に第3の金属層を積層させる図、(D)は第3の金属層を積層する前に埋め板の箇所を除いた基礎面に第4の金属層を積層させる図である。
【図3】従来の射出成形用金型の温度調節構造を示す図で、(A)は断面図、(B)は(A)のA−A断面図、(C)は金型温調用通路の詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の射出成形用金型の温度調節構造を実施するための最良の形態例について図面に基き説明する。
【0020】
本発明の射出成形用金型の温度調節構造は図1(A)に示すように、熱伝導率が実質的に同一な材料から成る固定側型板1及び移動側型板2に、成形製品MPに接する製品用金型表面1a、2aの温度を調節するための温調用媒体が供給される金型温調用通路3が、製品用金型表面1a、2aに沿って設けられている。
【0021】
この金型温調用通路3は図1(B)に示すように、製品用金型表面1a、2aの下地となるように当該製品用金型表面1a、2aに沿って形成された基礎面31と、固定側型板1及び移動側型板2の基礎面31の形状に沿って掘り込まれた第1の溝32と、第1の溝32の上面側に当該第1の溝32の溝幅より広く切り欠かれた第2の溝33と、第1の溝32の側面32a、32b及び底面32cを覆うように形成された第1の金属層34と、第1の金属層34の側面34a、34b及び底面34cを覆うように形成された第2の金属層35と、第2の溝35を塞いで第2の溝33を密閉するように設けられた埋め板36と、基礎面31及び埋め板36を覆って製品用金型表面1a、2aとするように形成された第3の金属層37とから構成されている。なお、基礎面31は、製品用金型表面1a、2aとするように形成された第3の金属層37の形成方法によって掘り込み深さが異なる。
【0022】
第1の金属層34は、固定側型板1及び移動側型板2の材料の熱伝導率より低い熱伝導率の材料から成るものである。第2の金属層35は、固定側型板1及び移動側型板2の材料の熱伝導率より高い熱伝導率の材料から成るものである。埋め板36は、第2の金属層35と熱伝導率が実質的に同一の材料から成るものである。第3の金属層37は、第2の金属層35と熱伝導率が実質的に同一の材料から成るものである。
【0023】
このように温調用媒体が直接流動する第2の金属層35、埋め板36と共に製品用金型表面1a、2aとなる第3の金属層37は各型板1、2の材料の熱伝導率より高い熱伝導率の材料から成るので、温調用媒体から埋め板36及び第3の金属層37への熱伝導率が高められ製品用金型表面1a、2aの温度を効率よく調節することができる。また、固定側型板1及び移動側型板2に接触している各型板1、2の材料の熱伝導率より低い熱伝導率の材料から成る第1の金属層34は、各型板1、2の材料の熱伝導率より高い熱伝導率の材料から成る第2の金属層35と、固定側型板1及び移動側型板2との間に介在していることから、第1の金属層34により第2の金属層35から固定側型板1及び移動側型板2への熱量の伝達を抑えることができるので、固定側型板1及び移動側型板2の熱量を効率よく低減することができる。したがって、背景技術に記載した従来の射出成形用金型より樹脂の流動性や金型の面転写性を向上させると共に、成形サイクルを短くすることができる。
【0024】
このような射出成形用金型の材料は、具体的には、固定側型板1及び移動側型板2の材料が、モールドベースの型板として多用される熱伝導率が83.5W/m・kの鋼材、熱伝導率が47.3W/m・kの機械構造用炭素鋼鋼材(S50C)、熱伝導率が38.9のプリハードン鋼(NAK80)の場合には、例えば、第2の金属層35、第3の金属層37及び埋め板36の材料は、熱伝導率が403W/m・kの銅、熱伝導率が236W/m・kのアルミニウム、熱伝導率が130W/m・kのベリリウム銅、熱伝導率が94のニッケルを、また、第1の金属層34の材料は、熱伝導率が30W/m・kのアルミナ(Al23)、熱伝導率が20W/m・kの窒化珪素(Si34)、熱伝導率が3W/m・kのジルコニア(ZrO2)をそれぞれ採用することができる。なお、ここで言う熱伝導率は室温付近での数値である。
【0025】
このような第1の金属層34、第2の金属層及び第3の金属層37は、皮膜の厚さを自由に設定でき、形状に沿わせた積層が可能で、而も被積層品への熱影響が少なく変形、歪を補正する加工が不要となるコールドスプレー法が好適である。
【0026】
このコールドスプレー法は、粒子の融点又は軟化温度よりも低い温度のガスを先細末広がり形状のラバルノズルにより超音速流にして、その超音速流のガス中に粒子を投入して加速させ、固相状態のまま基材に高速で衝突させて皮膜を形成する技術である。
【0027】
このようなコールドスプレー法は、粒子を溶融させることなく基材に衝突させるために、粒子供給部、ガス供給部、ガス加熱部、ラバルノズルを具備したスプレーガン部から構成されたコールドスプレー装置5(図2参照。)によって行われる。
【0028】
このコールドスプレー装置は、ヘリウム、アルゴン、窒素などの不活性ガスを作動ガスとしてガス供給部から高圧で粒子供給部及びガス加熱部に供給し、粒子供給部では作動ガスと共に粒子をスプレーガン部に供給し、ガス加熱部では作動ガスを粒子の融点又は軟化温度よりも低い温度に加熱してスプレーガン部に供給する。この際、ガス加熱部による加熱温度は粒子の材質に応じて300〜500℃とする。なお、粒子はスプレーガン部から超音速流で噴出された時に粒径が5μmより小さいと、基材付近に生じる衝撃波によって粒子の慣性力が小さくなり付着率が低下し、また原料粉末の安定供給が困難になるので、粒径が5〜50μmのものが好ましい。また、ガス加熱部による粒子の加熱温度は、粒子の材質、粒径及び衝突速度に応じて設定される。
【0029】
加熱された作動ガス及び粒子が供給されたスプレーガン部は、作動ガスを超音速流で噴き出させることにより粒子を作動ガス流で基材に高速で衝突させ、そのエネルギにより基材と粒子に塑性変形を生じさせて硬質化された皮膜を成膜する。したがって、皮膜は、緻密で密度が高く酸化皮膜を生成しない接合強度の高い皮膜を形成することができることから、第3の金属層37で基礎面31及び埋め板36を覆うことで、温調用媒体が金型温調用通路3から漏れないようにシールすることができる。
【0030】
このように構成された出成形用金型の温度調節構造によれば、固定側型板1及び移動側型板2の製品用金型表面1a、2aの下地となるように当該製品用金型表面1a、2aに沿って形成された基礎面31の形状に沿って金型温調用通路3となる第1の溝32を掘り込むので、入れ子構造のような精度の高い機械加工を行わなくともよくなる。
【0031】
なお、第2の金属層35は高い熱伝導率及びコールドスプレーによる粒子の高い付着効率を有する材料が求められているが、第3の金属層37は製品用金型表面1a、2aとなるので、さらに、高い強度及び高い硬度を有する材料が求められる。
【0032】
また、本発明の射出成形用金型の温度調節構造は、基礎面31に埋め板36の箇所を覆うことなく第3の金属層37との間に第4の金属層38を形成させるとよい。この第4の金属層38は、第1の金属層と熱伝導率が実質的に同一の材料から成るものが好ましく、上述した第1の金属層34、第2の金属層35及び第3の金属層37が粒子をコールドスプレーによって成膜して形成されている場合には、同様に粒子をコールドスプレーによって成膜して形成させる。このように埋め板36の箇所を除く第3の金属層37と、固定側型板1及び移動側型板2との間に、固定側型板1及び移動側型板2の材料の熱伝導率より低い熱伝導率の材料から成る第4の金属層38を形成させることで、この第4の金属層38により第3の金属層37から固定側型板1及び移動側型板2への熱量の伝達を抑えることができるので、さらに、固定側型板1及び移動側型板2の熱量を効率よく低減することができる。
【0033】
さらに、このように構成された金型温調用通路3は図1(C)、(D)、(E)に示すように、金型温調用通路3の温調用媒体の入口及び出口には、管用ねじ4が設けられている。この管用ねじ4は、金型温調用通路3に加圧熱水等の加熱媒体や冷却水等の冷却媒体を供給する温調器等に接続された接続ホース(図示せず)を接続するためのもので、この金型温調用通路3のように、ねじ部に耐密性をもたせる場合には管用テーパねじが適用される。この管用ねじ4は、金型温調用通路3の温調用媒体の入口及び出口にコールドスプレーや溶接で取り付けられている。なお、金型温調用通路3の温調用媒体の入口及び出口は、金型温調用通路3が固定側型板1及び移動側型板2の端部まで延伸している場合にはその端部に設けられることになる。
【0034】
このように構成された射出成形用金型の温度調節構造をコールドスプレー法で製造するには図2(A)に示すように、固定側型板1及び移動側型板2の基礎面31にその形状に沿って第1の溝32を掘り込み加工する。また、第1の溝32の上面側に当該第1の溝32の溝幅より広く切り欠かれるように第2の溝33を掘り込み加工する。なお、この第1の溝32及び第2の溝33は掘り込み加工ではなく鋳造加工でもよい。この第1の溝32にコールドスプレー装置5で粒子をコールドスプレーにより成膜して、固定側型板1及び移動側型板2への温調用媒体の熱量の伝達を抑えることができるような膜厚で第1の金属層34を形成する。
【0035】
第1の金属層34を第1の溝32に形成後、図2(B)に示すように、第1の溝32にコールドスプレー装置5で粒子をコールドスプレーにより成膜して、金型温調用通路3を流動する温調用媒体によって製品用金型表面1a、2aの温度を効率よく調節することができるような膜厚で第2の金属層35を形成する。第1の金属層34及び第2の金属層35を第1の溝32に形成後、図2(C)に示すように、第2の溝33に埋め板36を嵌合させ、基礎面31及び埋め板36にコールドスプレー装置5で粒子をコールドスプレーにより成膜して、製品用金型表面1a、2aに仕上げる仕上げ代を加味した膜厚で第3の金属層37を形成する。このように、第3の金属層37はコールドスプレーによる積層構造なので、製品用金型表面1a、2aの仕上げ精度はこの最終工程のみで実現できる。したがって、精度の高い機械加工は必要なくなるので、金型費用の上昇を抑えることができる。
【0036】
なお、図2(D)に示すように、基礎面31に埋め板36の箇所を覆うことなく第3の金属層37との間に第4の金属層38を形成させる場合には、第3の金属層37を形成させる前に、埋め板36の箇所を除いた基礎面31にコールドスプレー装置5で粒子をコールドスプレーにより成膜して、第3の金属層37から固定側型板1及び移動側型板2への温調用媒体の熱量の伝達を抑えることができるような膜厚で第4の金属層38を形成する。
【0037】
このような金型温調用通路3は、成形製品MPの構造に応じて固定側型板1及び移動側型板2の各基礎面31に複数設けられているとよい。このように、金型温調用通路3を設けることで、金型のキャビティを構成する固定側型板1及び移動側型板2の成形製品に接する製品用金型表面1a、2a全体の温度を調節することができるようになる。
【0038】
これまで本発明について図面に示した特定の実施の形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、これまで知られたいかなる構成であっても採用することができることはいうまでもないことである。
【符号の説明】
【0039】
1……固定側型板
2……移動側型板
3……金型温調用通路
31……基礎面
32……第1の溝
32a、32b……第1の溝の側面
32c……第1の溝の底面
33……第2の溝
34……第1の金属層
34a、34b……第1の金属層の側面
34c……第1の金属層の底面
35……第2の金属層
36……埋め板
37……第3の金属層
38……第4の金属層
MP……成形製品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導率が実質的に同一な材料から成る固定側型板及び移動側型板に、成形製品に接する製品用金型表面の温度を調節するための温調用媒体が供給される金型温調用通路が形成された射出成形用金型の温度調節構造において、
前記金型温調用通路は、
前記製品用金型表面の下地となるように当該製品用金型表面に沿って形成された基礎面と、
前記固定側型板及び前記移動側型板の前記基礎面の形状に沿って掘り込まれた第1の溝と、
前記第1の溝の上面側に当該第1の溝の溝幅より広く切り欠かれた第2の溝と、
前記第1の溝の側面及び底面を覆うように形成され、前記固定側型板及び前記移動側型板の前記材料の熱伝導率より低い熱伝導率の材料から成る第1の金属層と、
前記第1の金属層の側面及び底面を覆うように形成され、前記固定側型板及び前記移動側型板の前記材料の熱伝導率より高い熱伝導率の材料から成る第2の金属層と、
前記第2の溝を塞いで前記第2の溝を密閉するように設けられ、前記第2の金属層と熱伝導率が実質的に同一の材料から成る埋め板と、
前記基礎面及び前記埋め板を覆って前記製品用金型表面とするように形成され、前記前記第2の金属層と熱伝導率が実質的に同一の材料から成る第3の金属層とから構成されていることを特徴とする射出成形用金型の温度調節構造。
【請求項2】
前記第1の金属層及び前記第3の金属層は、粒子をコールドスプレーによって成膜して形成されていることを特徴とする請求項1記載の射出成形用金型の温度調節構造。
【請求項3】
前記第2の金属層は、粒子をコールドスプレーによって成膜して形成されていることを特徴とする請求項2記載の射出成形用金型の温度調節構造。
【請求項4】
前記基礎面には、前記埋め板の箇所を覆うことなく前記第3の金属層との間に前記第1の金属層と熱伝導率が実質的に同一の材料から成る第4の金属層が、粒子をコールドスプレーによって成膜して形成されていることを特徴とする請求項3記載の射出成形用金型の温度調節構造。
【請求項5】
前記金型温調用通路は、前記成形製品の構造に応じて前記固定側型板及び前記移動側型板の前記各基礎面に複数設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のうち何れか1項に記載の射出成形用金型の温度調節構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−201846(P2010−201846A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51787(P2009−51787)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【出願人】(306017014)地方独立行政法人 岩手県工業技術センター (61)
【Fターム(参考)】