説明

射出成形用金型

【課題】射出成形用金型において、ゲートや冷却配管の配置の自由度が増すとともに、金型を構成するパーツの数を最小限にすることでより高い寸法精度の製品を得られること。
【解決手段】固定型スライドブロック11と可動型スライドブロック16とは、貫通孔15a,17aに傾斜ピン15,17が嵌合することによって、型締めとともに矢印の方向にスライドして想像線で示される位置に先端がくるまで移動しながら嵌合して、型締め状態において密着して貫通孔内面に型抜き方向にアンダーカットを形成する凹凸部を有する有機合成樹脂製品のキャビティPCを形成する。 射出成形・冷却が終了して型を開く際には、矢印と逆の方向へスライドするため、有機合成樹脂製品のキャビティPCの貫通孔内面から離れ、両スライドブロック11,16が製品のアンダーカットに掛からない位置まで後退するので、スムーズに型開きを行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Oリング・シールリングを内面に嵌め込むリング部材を始めとする貫通孔内面に型抜き方向にアンダーカットを形成する凹凸部を有する有機合成樹脂製品を、射出成形によって簡単な構造でしかも精度良く得るための射出成形用金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、貫通孔内面に型抜き方向にアンダーカットを形成する凹凸部を有する有機合成樹脂製品を射出成形によって得るための金型として、特許文献1においては、貫通孔内面を形成するための雄型部を、円錐状芯コアと該芯コアの斜面の傾斜方向に摺動する第1楔状コアと第2楔状コアとに分割構成し、芯コアの後退に追従して第1楔状コアを中心側に集めて縮小し、離型した後、第1楔状コアの離型によって生じた空間部分に第2楔状コアを集合して離型するものが提案されている。
【0003】
しかし、特許文献1に開示された射出成形用金型においては、第1楔状コアと第2楔状コアとを全て一方の金型に配置しており、かつ円錐状芯コアの後退時に楔状コアの後退移動を阻止しつつ芯コアの斜面の傾斜方向に摺動するように構成しなければならないため、一方の金型の構造が極めて複雑になり、各パーツ間にガタが生ずる結果、射出成形によって得られる製品の寸法精度が低下してしまうという問題があった。
【0004】
そこで、特許文献2に記載された特許発明においては、貫通孔を形成する雄型部がセンターコアとその外周に沿って交互に配置される主スライドコアと副スライドコアとから構成され、両スライドコアが貫通孔の凹凸部に応じた凹凸外面を備え、センターコアと主スライドコアが一方の金型に、副スライドコアが他方の金型に設けられ、型開き時にまずセンターコアが単独で後退し、それによって生じた空間の中心側に主スライドコアが摺動して離型可能となり、それによって生じた空間の中心側に副スライドコアが摺動することによって有機合成樹脂製品を抜き出し可能とする射出成形用金型について開示している。これによって、貫通孔に凹凸部を有するアンダーカット樹脂製品を精密にかつ能率的に成形することができるとしている。
【特許文献1】特開昭59−38032号公報
【特許文献2】特許第3537744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献2に記載された射出成形用金型においては、主スライドコアと副スライドコアのスライド機構が製品キャビティの外側の金型外周部に設けられており、射出成形時の高温による熱膨張の影響を受け易く、スムーズなスライド動作を確保し難い。また、両スライドコアのスライド機構が細い腰折れ部を有するL字型であるため強度を確保できず、またスムーズなスライド動作がし難い。更に、両スライドコアをそれぞれ四分割としているため、金型を構成するパーツの数が増えてガタが生じ易く、より高い寸法精度の製品を得ることができないという問題点があった。
【0006】
そこで、本発明は、固定型と可動型にそれぞれ二分割された平面的に摺動するスライド部材を設けることによって、スライド機構が製品キャビティの内側に収まり、ゲートの配置や冷却配管の配置の自由度が増すとともに、金型を構成するパーツの数を最小限にすることによってより高い寸法精度の製品を得ることができる射出成形用金型を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明にかかる射出成形用金型は、貫通孔内面に型抜き方向にアンダーカットを形成する凹凸部を有する有機合成樹脂製品を射出成形するための固定型と可動型とからなる射出成形用金型であって、前記固定型の中心部分に配置された前記固定型の中心部から外側部に亘って前記可動型の移動方向に垂直な方向に前記アンダーカットの大きさ以上の幅をスライド可能に設けられた1対の固定型スライドブロックと、前記可動型の中心部分に配置され、前記可動型の中心部から外側部に亘って前記可動型の移動方向に垂直な方向に前記アンダーカットの大きさ以上の幅をスライド可能に設けられ、外側端までスライドした前記1対の固定型スライドブロックと外側端までスライドして嵌合することによって、前記有機合成樹脂製品の前記貫通孔内面に当接するキャビティ部分を構成する1対の可動型スライドブロックと、前記1対の固定型スライドブロックの間において前記固定型の基板に固定され、前記1対の固定型スライドブロックとの摺動面は前記1対の固定型スライドブロックがスライドする幅の分だけテーパーが形成されている第1のロッキングブロックと、前記1対の可動型スライドブロックの間において前記固定型の基板に固定され、前記1対の可動型スライドブロックとの摺動面は前記1対の可動型スライドブロックがスライドする幅の分だけテーパーが形成されている第2のロッキングブロックとを具備し、前記1対の固定型スライドブロック、前記1対の可動型スライドブロック、前記第1のロッキングブロック及び前記第2のロッキングブロックは全て前記有機合成樹脂製品が射出成形されるキャビティの内側に配置されているものである。
【0008】
請求項2の発明にかかる射出成形用金型は、請求項1の構成において、前記第1のロッキングブロックと前記第2のロッキングブロックとを一体化して1つのロッキングブロックとしたものである。
【0009】
請求項3の発明にかかる射出成形用金型は、請求項1または請求項2の構成において、前記1対の固定型スライドブロック及び前記1対の可動型スライドブロックには、前記固定型の基板または前記可動型の基板に取り付けられ、それぞれ前記第1のロッキングブロック及び前記第2のロッキングブロックまたは前記1つのロッキングブロックのテーパーと異なる角度を付けて固定された傾斜ピンが摺動可能に嵌合しており、前記1対の固定型スライドブロック及び前記1対の可動型スライドブロックは、型締めの際には前記傾斜ピンの角度に沿って摺動して前記固定型及び前記可動型の外周側にスライドすることによって前記有機合成樹脂製品の貫通孔の内面側のキャビティ部分を構成し、型開き時には前記固定型の基板と前記可動型の基板が離間するのに伴って前記傾斜ピンの角度に沿って摺動することによって射出成形された有機合成樹脂製品の貫通孔内面から離れるように前記固定型及び前記可動型の中心側にスライドするものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明にかかる射出成形用金型は、貫通孔内面に型抜き方向にアンダーカットを形成する凹凸部を有する有機合成樹脂製品を射出成形するための固定型と可動型とからなる射出成形用金型であって、固定型の中心部分に配置された固定型の中心部から外側部に亘って可動型の移動方向に垂直な方向にアンダーカットの大きさ以上の幅をスライド可能に設けられた1対の固定型スライドブロックと、可動型の中心部分に配置され、可動型の中心部から外側部に亘って可動型の移動方向に垂直な方向にアンダーカットの大きさ以上の幅をスライド可能に設けられ、外側端までスライドした1対の固定型スライドブロックと外側端までスライドして嵌合することによって、有機合成樹脂製品の貫通孔内面に当接するキャビティ部分を構成する1対の可動型スライドブロックと、1対の固定型スライドブロックの間において固定型の基板に固定され、1対の固定型スライドブロックとの摺動面は1対の固定型スライドブロックがスライドする幅の分だけテーパーが形成されている第1のロッキングブロックと、1対の可動型スライドブロックの間において固定型の基板に固定され、1対の可動型スライドブロックとの摺動面は1対の可動型スライドブロックがスライドする幅の分だけテーパーが形成されている第2のロッキングブロックとを具備し、1対の固定型スライドブロック、1対の可動型スライドブロック、第1のロッキングブロック及び第2のロッキングブロックは全て有機合成樹脂製品が射出成形されるキャビティの内側に配置されている。
【0011】
ここで、1対の固定型スライドブロック及び1対の可動型スライドブロックをスライドさせる機構としては、各1対のスライドブロックをそれぞれバネで固定型及び可動型の中心側に付勢しておいて、型締めのときには第1のロッキングブロック及び第2のロッキングブロックのテーパーに沿って摺動することによってバネの付勢力に抗して外側にスライドしてキャビティを形成し、型開きのときにはバネの付勢力によって中心側にスライドして離型する方式とすることができる。
【0012】
また、バネを用いずに、前記テーパーと異なる角度に傾斜した傾斜ピンを1対の固定型スライドブロック及び1対の可動型スライドブロックにそれぞれ摺動可能に嵌合させておき、型締めのときには1対の固定型スライドブロック及び1対の可動型スライドブロックが傾斜ピンに沿って外側にスライドしてキャビティを形成し、型開きのときには傾斜ピンに沿って中心側にスライドして有機合成樹脂製品の貫通孔内面から離型する方式とすることもできる。
【0013】
このように、本発明にかかる射出成形用金型においては、貫通孔内面に当接するキャビティ部分を構成する固定型スライドブロックと可動型スライドブロックとを必要最小限の二分割とすることによって、金型を構成するパーツの数を最小限に抑えてガタが生じるのを防止し、より高い寸法精度の製品を得ることができる。また、スライド機構を構成するパーツを全て製品キャビティの内側に納めることによって、ゲートの配置や冷却配管の配置の自由度を大幅に向上させている。更に、スライド部材を可動型の移動方向に垂直な方向に摺動するブロックとすることによって、スライド部材の大幅な強度の向上を実現している。
【0014】
特に、貫通孔内面に型抜き方向にアンダーカットを形成する凹凸部を有する有機合成樹脂製品が、Oリング・シールリング等を内面に嵌め込むリング部材を始めとする密閉用部品である場合には、スライドブロックを必要最小限の二分割とすることによって分割合わせ部分が最小になることから、分割合わせ部の精度のずれから製品に微細な段差が生ずることによるシール性への悪影響をも最小限に抑えることができるという作用効果が得られる。
【0015】
このようにして、固定型と可動型にそれぞれ二分割された平面的に摺動するスライド部材を設けることによって、スライド機構が製品キャビティの内側に収まり、ゲートの配置や冷却配管の配置の自由度が増すとともに、金型を構成するパーツの数を最小限にすることによってより高い寸法精度の製品を得ることができる射出成形用金型となる。
【0016】
請求項2の発明にかかる射出成形用金型は、第1のロッキングブロックと第2のロッキングブロックとを一体化して1つのロッキングブロックとしたものである。これによって、請求項1に記載の効果に加えて、射出成形用金型を構成するパーツの数がより少なくなるため、金型の構造が簡単になるとともに得られる製品の精度もより向上させることができる。
【0017】
このようにして、固定型と可動型にそれぞれ二分割された平面的に摺動するスライド部材を設けることによって、スライド機構が製品キャビティの内側に収まり、ゲートの配置や冷却配管の配置の自由度が増すとともに、金型を構成するパーツの数を最小限にすることによってより高い寸法精度の製品を得ることができる射出成形用金型となる。
【0018】
請求項3の発明にかかる射出成形用金型は、1対の固定型スライドブロック及び1対の可動型スライドブロックには、固定型の基板または可動型の基板に取り付けられ、それぞれ第1のロッキングブロック及び第2のロッキングブロックまたは1つのロッキングブロックのテーパーと異なる角度を付けて固定された傾斜ピンが摺動可能に嵌合しており、1対の固定型スライドブロック及び1対の可動型スライドブロックは、型締めの際には傾斜ピンの角度に沿って摺動して固定型及び可動型の外周側にスライドすることによって有機合成樹脂製品の貫通孔の内面側のキャビティ部分を構成し、型開き時には固定型の基板と可動型の基板が離間するのに伴って傾斜ピンの角度に沿って摺動することによって射出成形された有機合成樹脂製品の貫通孔内面から離れるように固定型及び可動型の中心側にスライドする。
【0019】
このように、本発明にかかる射出成形用金型は、1対の固定型スライドブロック及び1対の可動型スライドブロックをスライドさせる機構として、両スライドブロックに摺動可能に嵌合した傾斜ピンを用いているため、バネを使用しなくても固定型と可動型が閉じる際には自動的に1対の固定型スライドブロック及び1対の可動型スライドブロックが外周側にスライドしてキャビティの内面部分を形成し、固定型と可動型が開く際には自動的に1対の固定型スライドブロック及び1対の可動型スライドブロックが中心側にスライドして、射出成形された製品の貫通孔の内面から離型する。
【0020】
したがって、バネを使用していないため部品の消耗による交換の必要がなく、長期間に亘って連続的に使用できる耐久性の高い射出成形用金型となる。また、金型の構造がより簡単になり、強度的にもより優れたものとなる。
【0021】
このようにして、固定型と可動型にそれぞれ二分割された平面的に摺動するスライド部材を設け、金型の開閉に伴ってスライド部材を自動的にスライドさせる傾斜ピンを設けることによって、より耐久性に優れた金型となり、スライド機構が製品キャビティの内側に収まり、ゲートの配置や冷却配管の配置の自由度が増すとともに、金型を構成するパーツの数を最小限にすることによってより高い寸法精度の製品を得ることができる射出成形用金型となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図1乃至図7を参照しつつ説明する。
【0023】
図1は本発明の実施の形態にかかる射出成形用金型の型を開いた状態の全体構成を示す正面図である。図2は本発明の実施の形態にかかる射出成形用金型の型を開いた状態の固定型及び可動型の内面構成を示す斜視図である。図3(a)は本発明の実施の形態にかかる射出成形用金型の固定型の要部の構造を示す平面図、(b)は可動型の要部の構造を示す平面図、(c)は型締めした際にスライドブロックが移動して有機合成樹脂製品のキャビティが形成された状態を金型を透視した状態で示す平面図、(d)は本発明の実施の形態にかかる射出成形用金型によって得られる有機合成樹脂製品を示す一部断面斜視図である。
【0024】
図4は本発明の実施の形態にかかる射出成形用金型の固定型を構成する各パーツを示す分解斜視図である。図5は本発明の実施の形態にかかる射出成形用金型の可動型を構成する各パーツを示す分解斜視図である。図6(a)は本発明の実施の形態にかかる射出成形用金型の固定型を示す平面図、(b)は(a)のA−A断面図、(c)は(a)のB−B断面図である。図7(a)は本発明の実施の形態にかかる射出成形用金型の可動型を示す平面図、(b)は(a)のC−C断面図、(c)は(a)のD−D断面図である。
【0025】
まず、本発明の実施の形態にかかる射出成形用金型の全体構造について、図1を参照して説明する。図1に示されるように、本実施の形態にかかる射出成形用金型1は、横型射出成形機に使用されるものであり、固定型2と可動型3とに分割されて構成されており、固定型2と可動型3との間は1対の外部引っ張り棒4によって接続されている。固定型2は、第1プレート(固定側取付板)2A,第2プレート2B,第3プレート2C,第4プレート2Dの4枚のプレート(SKD鋼板製)を具備しており、これら4枚のプレート2A,2B,2C,2Dには、第1プレート2A側から4本のガイドピン10が貫通している。
【0026】
一方、第4プレート2D側からは、4本の内部引っ張り棒9が第4プレート2D,第3プレート2Cを貫通して、第2プレート2Bにねじ込み固定されており、これらの内部引っ張り棒9には第4プレート2Dと第3プレート2Cとの間にコイルばね8Aが、第3プレート2Cと第2プレート2Bとの間にコイルばね8Bが、それぞれ取り付けられている。ここで、コイルばね8Aのばね力は、コイルばね8Bのばね力より大きく設定されている。
【0027】
更に、第4プレート2Dにはボルトヘッドがスライド可能な孔を設けて、4本のボルト14Aが第3プレート2Cにねじ込み固定されており、同様に第1プレート2Aにはボルトヘッドがスライド可能な孔を設けて、4本のボルト14Bが第2プレート2Bにねじ込み固定されている。これによって、型開き時における第4プレート2Dと第3プレート2Cの開き量及び第1プレート2Aと第2プレート2Bの開き量が決められる。そして、第1プレート(固定側取付板)2Aの図示しない射出成形機のスクリューシリンダ側には、スクリューシリンダの図示しない射出成形ノズルの先端を、第1プレート2Aのスプルーブッシュに正確に位置決めするためのロケートリング5が固定されている。
【0028】
かかる構造を有する固定型2の型開きの際には、上述の如くコイルばね8Aのばね力がコイルばね8Bのばね力より大きいため、まずコイルばね8Aの弾性力によって第4プレート2Dと第3プレート2Cとの間が開き、続いて同じくコイルばね8Bの弾性力によって第3プレート2Cと第2プレート2Bとの間が開く。この状態で更に可動型3が固定型2から離れることによって、外部引っ張り棒4によって第4プレート2Dが引っ張られるため、内部引っ張り棒9がねじ込まれている第2プレート2Bが引っ張られて、第2プレート2Bが第1プレート(固定側取付板)2Aから離れる。このようにして、射出成形によってスプルーPS,ランナーPLに充填された有機合成樹脂が固定型2から外されて、ロボットによって取り除かれる。
【0029】
一方、可動型3はキャビティプレート3A,可動側取付板3B,1対のスペーサーブロック7を具備しており、1対のスペーサーブロック7の間には2枚のエジェクタープレート6がスライド可能に設けられており、2枚のうち左側のエジェクタープレート6には、射出成形によって得られた製品を突き出すための2本のエジェクターピン6a,6bが固定されている。キャビティプレート3A内には、固定型2と可動型3とが型締めされた状態において製品形状の空間(キャビティ)PCが形成される。
【0030】
型締めされた状態においては、固定型2の4枚のプレート2A,2B,2C,2D内に設けられたスプルーPS,ランナーPLも、4枚のプレート2A,2B,2C,2Dが密着することによって密閉された一連の空間を形成し、図示しない射出成形ノズルから高圧で射出された高温溶融状態の有機合成樹脂が、スプルーPS,ランナーPLを通過してゲートGからキャビティPC内に流入する。そして、冷却固化して得られた製品が、図1に示されるように固定型2と可動型3とが型開きされた状態において、上記エジェクターピン6a,6bによって突き出される。
【0031】
次に、射出成形機から取り外された状態の本実施の形態にかかる射出成形用金型1を、外部引っ張り棒4を取り外して固定型2と可動型3の内面を示した図2を参照して、更に説明する。図2に示されるように、固定型2は4枚のプレート2A,2B,2C,2Dが密着して型締めされた状態を示している。固定型2に設けられた4本の内部引っ張り棒9のボルトヘッド及び4本のガイドピン10の突出部分は、可動型3のキャビティプレート3Aに設けられた4箇所の孔3Aa、及びキャビティプレート3Aとスペーサーブロック7を貫通して設けられた4箇所の孔7aに収容される。これによって、型締め時に固定型2の第4プレート2Dと可動型3のキャビティプレート3Aが密着する。
【0032】
可動型3のキャビティプレート3Aの中心部には、矢印方向へスライド可能な1対の可動型スライドブロック16が設けられており、1対の可動型スライドブロック16には傾斜した貫通孔15aがそれぞれ穿設されている。一方、固定型2の中心部には、これらの貫通孔15aに対応する位置に、1対の傾斜ピン15が固定されている。これらの傾斜ピン15の傾斜角度は、第2のロッキングブロック13の外面のテーパーの角度と同一であり、型締め時に1対の傾斜ピン15が1対の可動型スライドブロック16の貫通孔15aに嵌合して1対の可動型スライドブロック16をガイドすることによって、1対の可動型スライドブロック16が矢印方向へスライドしてキャビティPCの一部を形成する。
【0033】
一方、固定型2の中心部に設けられた矢印方向へスライド可能な1対の固定型スライドブロック11にも、傾斜した貫通孔17aがそれぞれ穿設されており、固定型2の奥に設けられた図示しない1対の傾斜ピン17が貫通孔17aに嵌合して1対の固定型スライドブロック11をガイドすることによって、1対の固定型スライドブロック11が矢印方向へスライドしてキャビティPCの一部を形成する。図2においては、固定型2が型締めされた状態が示されているため、1対の固定型スライドブロック11は矢印方向の外側端までスライドした状態が示されている。
【0034】
このように、固定型2と可動型3とが型締めされる際に、1対の固定型スライドブロック11が1対の可動型スライドブロック16の間へ入り込むとともに、1対の固定型スライドブロック11及び1対の可動型スライドブロック16がそれぞれ1対の傾斜ピン17及び1対の傾斜ピン15にガイドされて矢印方向へスライドすることによって、貫通孔内面に型抜き方向にアンダーカットを形成する凹凸部を有する有機合成樹脂製品であるシールリングのキャビティPCの貫通孔内面を形成する。
【0035】
この点について、図3を参照して更に説明する。図3(a)に示されるように、固定型2の開放状態においては、1対の固定型スライドブロック11は中心側端に位置しており、貫通孔17aに傾斜ピン17が嵌合しているため、型締めとともに矢印の方向にスライドして想像線で示される位置に先端がくるまで(外側端まで)移動する。一方、図3(b)に示されるように、可動型3の開放状態においては、1対の可動型スライドブロック16は中心側端に位置しており、貫通孔15aに傾斜ピン15が嵌合することによって、型締めとともに矢印の方向にスライドして想像線で示される位置に先端がくるまで(外側端まで)移動する。
【0036】
このとき、1対の固定型スライドブロック11の両側面には段差が設けられており、1対の可動型スライドブロック16の内側にはこの段差と嵌合する段差が設けられているため、1対の固定型スライドブロック11と1対の可動型スライドブロック16とは矢印の方向にスライドしながら嵌合して、型締め状態においては、図3(c)に示されるように密着して貫通孔内面に型抜き方向にアンダーカットを形成する凹凸部を有する有機合成樹脂製品のキャビティPCを形成する。
【0037】
そして、射出成形・冷却が終了して型を開く際には、1対の固定型スライドブロック11と1対の可動型スライドブロック16とが矢印と逆の方向へスライドするため、有機合成樹脂製品のキャビティPCの貫通孔内面から離れ、両スライドブロック11,16のスライド長さがアンダーカットの幅よりも大きいことから、1対の固定型スライドブロック11と1対の可動型スライドブロック16とが製品のアンダーカットに掛からない位置まで後退するので、スムーズに型開きを行うことができる。
【0038】
このようにして得られる本実施の形態にかかる有機合成樹脂製品としてのOリング・シールリングを内面に嵌め込むリング部材について、図3(d)を参照して説明する。図3(d)に示されるように、本実施の形態にかかる貫通孔内面に型抜き方向にアンダーカットを形成する凹凸部を有する有機合成樹脂製品PはOリング・シールリングを内面に嵌め込むリング部材であり、一部断面を示したように貫通孔内面の中央部分全周に亘ってOリング・シールリングを嵌め込む凹部があり、この部分がリング部材PのアンダーカットUCとなっている。
【0039】
次に、固定型2を構成する各パーツとその接続関係について、図4を参照して説明する。図4に示されるように、第3プレート2Cには第2のロッキングブロック12が固定されており、この第2のロッキングブロック12の両側面にはテーパー12aが設けられている。そして、この第2のロッキングブロック12の両側には、テーパー12aの角度と異なる傾斜角度を有する1対の傾斜ピン17が固定されている。かかる第3プレート2Cと第4プレート2Dの間には、円形ブロック20が配置されている。
【0040】
円形ブロック20は、1対のガイドブロック22と1対の第1のロッキングブロック13とを有しており、1対のガイドブロック22には、第1のロッキングブロック13に設けられたテーパー13aの角度と異なる傾斜角度を有する1対の傾斜ピン15が固定されている。また、1対のガイドブロック22の内側下部にはガイド溝22aが設けられており、このガイド溝22aに固定型スライドブロック11の突出部11bが嵌合することによって、固定型2から外れることなく、可動型3の移動方向に垂直な方向にスライド可能に取り付けられる。
【0041】
更に、円形ブロック20には1対の円形の貫通孔21と、1対の第1のロッキングブロック13の間に長方形の貫通孔23が穿設されている。1対の円形の貫通孔21は1対の傾斜ピン17が傾斜状態で貫通可能な大きさになっており、長方形の貫通孔23は第2のロッキングブロック12が貫通可能な大きさとなっている。かかる円形ブロック20が嵌合する大きな貫通孔2Daが、第4プレート2Dの中央に穿設されており、円形ブロック20に1対の傾斜ピン17及び第2のロッキングブロック12が嵌合し、貫通孔2Daに円形ブロック20が嵌合することによって、型締め時に第3プレート2Cと第4プレート2Dが密着することができる。
【0042】
次に、可動型3を構成する各パーツとその接続関係について、図5を参照して説明する。図5に示されるように、キャビティプレート3Aとエジェクタープレート6の間には円形ブロック25が配置されている。円形ブロック25には1対のガイドブロック26と1対のストッパー27が設けられており、またエジェクターピン6a,6bが貫通する1対の貫通孔25bが穿設されている。更に、1対のガイドブロック26の内側下部にはガイド溝26aが設けられており、このガイド溝26aに可動型スライドブロック16の突出部16aが嵌合することによって、可動型3から外れることなく、可動型3の移動方向に垂直な方向にスライド可能に取り付けられる。
【0043】
キャビティプレート3Aの裏側には、かかる円形ブロック25が嵌合する貫通孔の一部をなす凹部3Acが設けられており、キャビティプレート3Aの表側には、可動型スライドブロック16が嵌め込まれるとともにキャビティの外周側を構成する貫通孔の一部をなす凹部3Abが設けられており、凹部3Abと凹部3Acの間に形成されるリング状の壁面には、エジェクターピン6a,6bが貫通する1対の貫通孔3Adが穿設されている。
【0044】
次に、固定型2の断面構造について、図6を参照して説明する。図6(a)に示されるように、固定型2を外して平面に置いた場合には、最上部には第4プレート2Dがあり、最下部には第1プレート2Aの一部が見える。この固定型2のA−A断面を第1プレート2Aを上にして見たものが図6(b)に示される断面図であり、B−B断面を第1プレート2Aを上にして見たものが図6(c)に示される断面図である。
【0045】
図6(b),(c)に示されるように、第1プレート2A及び第2プレート2Bの中心にはスプルーPSが穿設されており、それに続いてランナーPLが第3プレート2C及び第4プレート2Dに彫られている。そして、ランナーPLの先端はゲートGとして第4プレート2Dの表面に開口している。図6(b)に示される1対の傾斜ピン15は、可動型3に設けられた1対の可動型スライドブロック16に穿設された貫通孔15aに嵌合するものであり、図6(c)に示される1対の傾斜ピン17は、図示されるように1対の固定型スライドブロック11に穿設された貫通孔17aに嵌合するものであ
【0046】
次に、可動型3の断面構造について、図7を参照して説明する。図7(a)に示されるように、可動型3を外して平面に置いた場合には、最上部にはキャビティプレート3Aがあり、最下部には可動側取付板3Bの一部が見える。この可動型3のC−C断面をキャビティプレート3Aを上にして見たものが図7(b)に示される断面図であり、D−D断面をキャビティプレート3Aを上にして見たものが図7(c)に示される断面図である。
【0047】
図7(b),(c)に示されるように、キャビティプレート3Aに穿設された凹部3Ab内には1対の可動型スライドブロック16が嵌め込まれており、これらの可動型スライドブロック16に穿設された貫通孔15aに上述した固定型2の1対の傾斜ピン15が嵌合する。そして、型締め時に1対の傾斜ピン15が貫通孔15aの奥に入っていくのにしたがって、1対の可動型スライドブロック16が凹部3Abの内面に近づくようにスライドしていき、型締めが終了した時点で1対の可動型スライドブロック16と凹部3Abの内面との間に製品Pの形状の空間(キャビティ)PCが形成される。
【0048】
上述した1対の固定型スライドブロック11も同様に、型締め時に1対の傾斜ピン17が貫通孔17aの奥に入っていくのにしたがって、1対の固定型スライドブロック11が凹部3Abの内面に近づくようにスライドしていき、型締めが終了した時点で1対の固定型スライドブロック11と凹部3Abの内面との間に製品Pの形状の空間(キャビティ)PCが形成される。
【0049】
そして、射出成形が実施された後に、型開きが行われる際には、1対の傾斜ピン15,17が貫通孔15a,17aから抜き出されるのにしたがって、1対の可動型スライドブロック16及び1対の固定型スライドブロック11が中心側にスライドして、射出成形品Pの内面から離れ、元の位置に戻る。このときの1対の可動型スライドブロック16及び1対の固定型スライドブロック11のスライド長さは、射出成形品PのアンダーカットUCの幅よりも大きいため、可動型スライドブロック16及び1対の固定型スライドブロック11が射出成形品Pに引っ掛かる恐れがなく、確実に型開きをすることができる。
【0050】
以上説明したように、本実施の形態にかかる射出成形用金型1は、固定型2と可動型3にそれぞれ二分割された平面的に摺動するスライド部材11,16を設け、金型の開閉に伴ってスライド部材11,16を自動的にスライドさせる傾斜ピン15,17を設けることによって、より耐久性に優れた金型となり、スライド機構が製品キャビティPCの内側に収まり、ゲートGの配置や冷却配管の配置の自由度が増すとともに、金型を構成するパーツの数を最小限にすることによってより高い寸法精度の製品Pを得ることができる。
【0051】
本実施の形態においては、射出成形用金型として横型射出成形機に用いられる横型金型の場合について説明したが、縦型射出成形機に用いられる縦型射出成形用金型とすることもできる。この場合には、固定型が上型となり可動型が下型となる。
【0052】
また、本実施の形態においては、ロッキングブロックとして第1のロッキングブロック12と第2のロッキングブロック13とを別々に設けた場合について説明したが、第1のロッキングブロックと第2のロッキングブロックとを一体化して1つのロッキングブロックとすることもできる。これによって、射出成形用金型の構造がより簡単になるという作用効果を得ることができる。
【0053】
本発明を実施するに際しては、射出成形用金型のその他の部分の構成、形状、材質、大きさ、数量、接続関係等についても、本実施の形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は本発明の実施の形態にかかる射出成形用金型の型を開いた状態の全体構成を示す正面図である。
【図2】図2は本発明の実施の形態にかかる射出成形用金型の型を開いた状態の固定型及び可動型の内面構成を示す斜視図である。
【図3】図3(a)は本発明の実施の形態にかかる射出成形用金型の固定型の要部の構造を示す平面図、(b)は可動型の要部の構造を示す平面図、(c)は型締めした際にスライドブロックが移動して有機合成樹脂製品のキャビティが形成された状態を金型を透視した状態で示す平面図、(d)は本発明の実施の形態にかかる射出成形用金型によって得られる有機合成樹脂製品を示す一部断面斜視図である。
【図4】図4は本発明の実施の形態にかかる射出成形用金型の固定型を構成する各パーツを示す分解斜視図である。
【図5】図5は本発明の実施の形態にかかる射出成形用金型の可動型を構成する各パーツを示す分解斜視図である。
【図6】図6(a)は本発明の実施の形態にかかる射出成形用金型の固定型を示す平面図、(b)は(a)のA−A断面図、(c)は(a)のB−B断面図である。
【図7】図7(a)は本発明の実施の形態にかかる射出成形用金型の可動型を示す平面図、(b)は(a)のC−C断面図、(c)は(a)のD−D断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 射出成形用金型
2 固定型
3 可動型
4 外部引っ張り棒
6 エジェクタープレート
6a,6b エジェクターピン
9 内部引っ張り棒
10 ガイドピン
11 固定型スライドブロック
12 第1のロッキングブロック
13 第2のロッキングブロック
15,17 傾斜ピン
16 可動型スライドブロック
G ゲート
P 有機合成樹脂製品
PC キャビティ
PL ランナー
PS スプルー
UC アンダーカット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔内面に型抜き方向にアンダーカットを形成する凹凸部を有する有機合成樹脂製品を射出成形するための固定型と可動型とからなる射出成形用金型であって、
前記固定型の中心部分に配置された前記固定型の中心部から外側部に亘って前記可動型の移動方向に垂直な方向に前記アンダーカットの大きさ以上の幅をスライド可能に設けられた1対の固定型スライドブロックと、
前記可動型の中心部分に配置され、前記可動型の中心部から外側部に亘って前記可動型の移動方向に垂直な方向に前記アンダーカットの大きさ以上の幅をスライド可能に設けられ、外側端までスライドした前記1対の固定型スライドブロックと外側端までスライドして嵌合することによって、前記有機合成樹脂製品の前記貫通孔内面に当接するキャビティ部分を構成する1対の可動型スライドブロックと、
前記1対の固定型スライドブロックの間において前記固定型の基板に固定され、前記1対の固定型スライドブロックとの摺動面は前記1対の固定型スライドブロックがスライドする幅の分だけテーパーが形成されている第1のロッキングブロックと、
前記1対の可動型スライドブロックの間において前記固定型の基板に固定され、前記1対の可動型スライドブロックとの摺動面は前記1対の可動型スライドブロックがスライドする幅の分だけテーパーが形成されている第2のロッキングブロックとを具備し、
前記1対の固定型スライドブロック、前記1対の可動型スライドブロック、前記第1のロッキングブロック及び前記第2のロッキングブロックは全て前記有機合成樹脂製品が射出成形されるキャビティの内側に配置されていることを特徴とする射出成形用金型。
【請求項2】
前記第1のロッキングブロックと前記第2のロッキングブロックとを一体化して1つのロッキングブロックとしたことを特徴とする請求項1に記載の射出成形用金型。
【請求項3】
前記1対の固定型スライドブロック及び前記1対の可動型スライドブロックには、前記固定型の基板または前記可動型の基板に取り付けられ、それぞれ前記第1のロッキングブロック及び前記第2のロッキングブロックまたは前記1つのロッキングブロックのテーパーと異なる角度を付けて固定された傾斜ピンが摺動可能に嵌合しており、
前記1対の固定型スライドブロック及び前記1対の可動型スライドブロックは、型締めの際には前記傾斜ピンの角度に沿って摺動して前記固定型及び前記可動型の外周側にスライドすることによって前記有機合成樹脂製品の貫通孔の内面側のキャビティ部分を構成し、型開き時には前記固定型の基板と前記可動型の基板が離間するのに伴って前記傾斜ピンの角度に沿って摺動することによって射出成形された有機合成樹脂製品の貫通孔内面から離れるように前記固定型及び前記可動型の中心側にスライドすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の射出成形用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−119917(P2008−119917A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305100(P2006−305100)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【出願人】(503056964)株式会社 トラスト (4)
【Fターム(参考)】