説明

導波路型光スイッチ

【課題】N入力N出力(N×N)の導波路型光スイッチ(マトリックススイッチ)において、クロスコネクト(1対1の接続関係の切り替え)機能と一つの入力信号を複数の出力ポートに分配する機能を併せ持ち提供する。
【解決手段】本発明は、N行N列のマトリックスの格子上に2入力2出力のN個の要素スイッチを配置する。このN個の要素スイッチはそれぞれ、2つの出力の分岐比を可変にして出力する可変分岐構成を有し、かつ、このN個の要素スイッチは、クロス状態に設定した要素スイッチ及びバー状態に設定した要素スイッチだけでなく、所定の分岐比で2出力に分配動作させる設定にした要素スイッチを包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1対1の接続関係の切り替えを行うクロスコネクト機能だけでなく、入力信号を分岐して複数のポートに出力する分配機能を持たせることができる導波路型光スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
N本の入線とN本の出線の間の1対1の接続関係を切り替える機能を担うノード装置は、光クロスコネクトと呼ばれ、光パスネットワークに幅広い構成可変性を持たせるために必要である。N入力N出力(N×N)の光クロスコネクトには、メムス(Micro Electro Mechanical Systems;MEMS)素子を用いるもの(特許文献1参照)、導波路型光スイッチ(マトリックススイッチ)(特許文献2参照)によるもの等がある。導波路型光スイッチは、スイッチ素子と、スイッチ素子に接続される入力及び出力のためのファイバアレイとを備えている。また、光スイッチを半導体技術で小さくしたメムス素子は、小さなミラーを半導体製造技術で基板上に作製し、静電気によりこのミラーを立ち上げて、光路を切り換えるというものである。
【0003】
従来の導波路型N×Nマトリックススイッチは、N2個の2×2クロスバースイッチを要素スイッチとして用いる。要素スイッチは、図12に例示するような2×2導波路型マッハツェンダー干渉計によって構成される(非特許文献1参照)。図12(A)は、要素スイッチとしての2入力(a,b)2出力(c,d)の導波路型マッハツェンダー干渉計を例示する図であり、(B)はその要素スイッチの簡略表示を示している。図示の導波路型マッハツェンダー干渉計は、2つの3dB スプリッタ(e)と移相器(f)から構成されて、分岐比を移相器(f)の位相シフト量で変えられる、2入力2出力(2×2)の可変分岐である。入力端aまたはbから入射した光は、左側の3dB スプリッタ(e)で2つの光波に分けられ、長さの等しい上下の光路をそれぞれ伝播した後、右側の3dB スプリッタ(e)で合波される。端子c、dからの出力のされ方は、移相器(f)に与える位相変化Φによって変化する。
【0004】
単位強度の光を、ポートaから入力したとき、移相器(f)に与える位相変化Φが0ラジアンであれば、ポートdへ出力される。Φがπラジアンのとき、ポートcへ出力される。ポートbから入力する場合も同様に、Φが0ラジアンのとき出力はポートc、πラジアンのとき出力はポートdに生じる。入出力の結果的な接続関係を見て、aがdに、bがcにつながっている状態をクロス状態、aがcに、bがdにつながっている状態をバー状態と呼び、2×2スイッチが取るべき2つの状態である。このように、適切な位相変化(Φ=0又はπラジアン)を与えてクロス、バーのいずれかの状態をとらせることによって、2×2スイッチとして機能する。
【0005】
このように、導波路型マッハツェンダー干渉計は、移相器によって分岐比を連続的に変えられる2×2可変分岐ではあるが、従来の導波路型N×Nマトリックススイッチは、導波路型マッハツェンダー干渉計をクロスバースイッチとしてのみ利用し、それ以外の分岐比の状態が利用されることはなかった。
【0006】
また、ノード装置は、クロスコネクト(1対1の接続関係の切り替え)機能と一つの入力信号を複数の出力ポートに分配する機能を併せ持つことが、今後の、例えば映像配信等のサービスにとって、望まれる。しかし、従来型の単体の(1×N)分岐素子(特許文献3参照)では、一つの入力信号を複数の出力ポートに分配する機能を有しているものの、分岐数や分岐先の出力ポートは固定であり、分岐した信号の出力ポートを任意に設定できることができないために、映像配信等のサービスに対応することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6643425号
【特許文献2】特表昭63-500140号
【特許文献3】特開平10-232324号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】R. Nagase, A. Himeno, M. Okuno, K. Kato, K. Yukimasa, M. Kawachi, “Silica-Based 8×8 Optical Matrix Switch Module with Hybrid Integrated Driving Circuits and its System Application”, Journal of Lightwave Technology, Vol.12, no.9, 1631 (1994).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、係る問題点を解決して、N入力N出力(N×N)の導波路型光スイッチ(マトリックススイッチ)において、クロスコネクト(1対1の接続関係の切り替え)機能と一つの入力信号を複数の出力ポートに分配する機能を併せ持ち提供することを目的としている。
【0010】
また、本発明は、N2個の要素スイッチそれぞれの可変分岐の役割を適切に決めることによって、起こり得る全ての、1対1接続、分配、両者の混合状態をつくることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の導波路型光スイッチは、Nを整数として、N行N列のマトリックスの格子上に2入力2出力のN個の要素スイッチを配置する。このN個の要素スイッチはそれぞれ、2つの出力の分岐比を可変にして出力する可変分岐構成を有し、かつ、このN個の要素スイッチは、クロス状態に設定した要素スイッチ及びバー状態に設定した要素スイッチだけでなく、所定の分岐比で2出力に分配動作させる設定にした要素スイッチを包含する。
【0012】
要素スイッチの入力及び出力を所定の関係で接続して構成したことにより、クロスコネクト機能だけでなく、入力信号を分岐して複数のポートに出力する分配機能を持たせることができる。この要素スイッチは、2つの3dB スプリッタと移相器から構成されて、分岐比を移相器の位相シフト量で変えられる2入力2出力の導波路型マッハツェンダー干渉計である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ひとつの導波路型光スイッチで、N×Nクロスコネクトとしても1×M分岐(M≦N)(M、Nは整数)としても使えるほか、クロスコネクト機能と分岐機能の混合動作が可能となる。さらに、1×M分岐においては、分岐数や分岐先の出力ポートを任意に設定することができる。
【0014】
また、本発明によれば、一般的なN×Nの導波路型光スイッチを構成する要素スイッチのそれぞれとして、クロス状態、バー状態、所定の分配比率の分岐、及びそれぞれの配置を適切に選び直すことによって、所望の、1対1接続や複数ポートへの分配、または両者の混合状態をつくることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に基づき構成した導波路型光スイッチ(マトリックススイッチ)構成を例示する図である。
【図2】(A)は、図1に示す要素スイッチの動作を説明する図であり、(B)はクロス接続を、また、(C)はバー接続をそれぞれ示す図である。
【図3】1系統(〇)の1×4分配を行う場合の、各可変分岐の設定を説明する図である。
【図4】1系統(〇)の1×3分配と1系統(●)の1×1接続を行う場合を例示する図である。
【図5】2系統(〇、●)の1×2分配を行う場合を例示する図である。
【図6】1系統(〇)の1×2分配と2系統(□、●)の1×1接続を行う場合を例示する図である。
【図7】本発明に基づき構成した、図1とは異なるもう1つの導波路型光スイッチ(マトリックススイッチ)構成を例示する図である。
【図8】1系統(〇)の1×4分配を行う場合の、各可変分岐の設定を説明する図である。
【図9】1系統(〇)の1×3分配と1系統(●)の1×1接続を行う場合を例示する図である。
【図10】2系統(〇、●)の1×2分配を行う場合を例示する図である。
【図11】1系統(〇)の1×2分配と2系統(□、●)の1×1接続を行う場合を例示する図である。
【図12】(A)は、要素スイッチとしての2入力(a,b)2出力(c,d)の導波路型マッハツェンダー干渉計を例示する図であり、(B)はその要素スイッチの簡略表示を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をパイロス(PILOSS:Path-independent Insertion Loss)として知られるトポロジーのマトリックススイッチに適用した場合を例として説明する。パイロス型と称されるマトリックススイッチ(特許文献2参照)は、通過するスイッチセル(要素スイッチ)の数による損失のバラツキを解消するために、各々2入力2出力のN個のスイッチセルをN行N列のマトリックスの格子上に配置し、損失のパス依存性が生じないようにスイッチセルの入力及び出力を適切に接続して構成される。
【0017】
図1は、本発明に基づき構成した導波路型光スイッチ(マトリックススイッチ)構成を例示する図である。図示の導波路型光スイッチは、各々2入力2出力のN個の要素スイッチ(S11〜SNN)をN行N列のマトリックスの格子上に配置して、構成する。各要素スイッチは、2入力2出力(2×2)の可変分岐であり、それぞれ、クロス状態、バー状態、或いは所定の分岐比のいずれかで動作させることにより、クロスコネクト機能だけでなく、入力信号を分岐して複数のポートに出力する分配機能を持たせることが可能になる。
【0018】
図2(A)は、図1に示す要素スイッチの動作を説明する図であり、(B)はクロス接続を、また、(C)はバー接続をそれぞれ示している。要素スイッチは、図12に例示したような2×2導波路型マッハツェンダー干渉計により構成される。例示の要素スイッチは、上述したように、移相器(f)の位相シフト量Φ=0の場合、図2(B)に示すクロス接続を与える状態になり、Φ=πの場合、(C)に示すバー接続を与える状態になる。図示の要素スイッチは、移相器の位相シフト量Φを変えることにより、クロス接続、或いはバー接続として動作させる以外にも、2つの出力ポートに所定の分岐比(例えば、1:1、1:2、或いは1:3等)で出力させる。
【0019】
図2(A)に示すように、要素スイッチの入力ポートbから光電力1.0の信号を入力したとき、出力ポートc、dにそれぞれ、cos2(Φ/2)、sin2(Φ/2)の光電力で分配される。或いは、入力ポートaから入力した場合は、出力ポートc、dにそれぞれ、sin2(Φ/2)、cos2(Φ/2)の光電力で分配される。移相器の位相シフト量Φは、公知のように、例えば、熱光学効果、キャリアプラズマ効果、電気光学効果等によって変化させることができる。
【0020】
次に、図3〜図6を参照して、本発明の導波路型光スイッチの動作例について説明する。図3は、1系統(〇)の1×4分配を行う場合の、各可変分岐の設定を説明する図である。4×4のマトリックススイッチ(ポート数N= 4)の場合を例にとる。クロス状態、バー状態のほか、要素スイッチP、Q、Rについては図下に示す、特別な分岐を持たせる。指定のない可変分岐(図中に空白で示した要素スイッチ)の状態は何であってもよい。図3は、一つの入力信号を4つ全ての出力ポートに等分配するための可変分岐の設定を示している。信号を入力するのは1つのポートだけからとし、残りの3ポートへの信号入力は無いものとする。クロスまたはバー状態にする分岐のほかに、図中P,Q、Rと記した可変分岐は、図下に示した分岐比を持つように設定する。これによって、一つの入力信号が、4つ全ての出力ポートに、等分配される。
【0021】
図4は、1系統(〇)の1×3分配と1系統(●)の1×1接続を行う場合を例示する図である。ある一つのポートに入力される信号を3つの出力ポートに等分配し、別のひとつのポートへの入力を、残る1つの出力ポートに接続する場合である。図中P,Qと記した可変分岐は、図下に示した分岐比を持つように設定する。
【0022】
図5は、2系統(〇、●)の1×2分配を行う場合を例示する図である。2つのポートに入力される信号を、それぞれ2つの出力ポートに等分配する場合を示す。図中P,Qと記した可変分岐は、図下に示した分岐比を持つように設定する。
【0023】
図6は、1系統(〇)の1×2分配と2系統(□、●)の1×1接続を行う場合を例示する図である。1つのポートに入力される信号を2つの出力ポートに等分配し、2つのポートに入力される信号をそれぞれ、異なる出力ポートに接続する場合を示す。図中Pと記した可変分岐は、図下に示した分岐比を持つように設定する。
【0024】
図7に、パイロスではないが、図1とは異なるもう1つの標準的なマトリックストポロジーを示す。図示のような標準的なマトリックストポロジー自体は、公知のように、各々2入力2出力のN個の要素スイッチ(S11〜SNN)をN行N列のマトリックスの格子上に配置して、構成する。入力側からの接続路は要素スイッチS11〜SN1となり、出力側への接続路は要素スイッチSN1〜SNNとなる。任意の入力側接続路は、任意の出力側接続路との間の1箇所でクロスポイントを持つことにより、両接続路の間にパスが設定される。このパス設定のために、クロスポイントの要素スイッチは、クロス接続からバー接続に切り換えられる。このように、従来、要素スイッチをクロス接続か、バー接続かのいずれかに設定して構成されていたそれ自体は公知の標準的なマトリックストポロジーにも、本発明を適用することができる。
【0025】
本発明を、標準的なマトリックストポロジーに適用するに際して、N個の要素スイッチ(S11〜SNN)の全てに対して、図2を参照して説明したような2入力2出力(2×2)の可変分岐の要素スイッチを用いる。そして、このN個の要素スイッチのいくつかを、クロス状態、或いはバー状態に設定するだけでなく、1つ或いは複数の要素スイッチを所定の分岐比で動作させる。
【0026】
図8〜図11は、この標準的なマトリックストポロジーでも、先の図3〜図6に対応した動作が可能であることを示している。
【0027】
図8は、1系統(〇)の1×4分配を行う場合の、各可変分岐の設定を説明する図である。図3の場合に対応する。
【0028】
図9は、1系統(〇)の1×3分配と1系統(●)の1×1接続を行う場合を例示する図である。図4の場合に対応する。
【0029】
図10は、2系統(〇、●)の1×2分配を行う場合を例示する図である。図5の場合に対応する。
【0030】
図11は、1系統(〇)の1×2分配と2系統(□、●)の1×1接続を行う場合を例示する図である。図6の場合に対応する。
【0031】
上述のように、図3と図8は1×4を1系統、図4と図9は1×3と1×1をそれぞれ1系統づつ、図5と図10は1×2を2系統、図6と図11は1×2を1系統、1×1を2系統、含む場合の1例であるが、信号の入力先と出力先として、例示したものと異なるポートを選ぶ場合でも、クロス、バー、上記のP、Q、Rのような特別な分岐比、それぞれの配置を適切に選び直すことによって所望の、1対1接続や複数ポートへの分配、または両者の混合状態をつくることができる。更には、一般的なN×Nのマトリックスの場合についても、N2個の要素スイッチそれぞれの可変分岐の役割を適切に決めることによって、起こり得る全ての、1対1接続、分配、両者の混合状態をつくることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nを整数として、N行N列のマトリックスの格子上に2入力2出力のN個の要素スイッチを配置した導波路型光スイッチにおいて、
前記N個の要素スイッチはそれぞれ、2つの出力の分岐比を可変にして出力する可変分岐構成を有し、かつ
前記N個の要素スイッチは、クロス状態に設定した要素スイッチ及びバー状態に設定した要素スイッチだけでなく、所定の分岐比で2出力に分配動作させる設定にした要素スイッチを包含することを特徴とする導波路型光スイッチ。
【請求項2】
前記要素スイッチの入力及び出力を所定の関係で接続して構成したことにより、クロスコネクト機能だけでなく、入力信号を分岐して複数のポートに出力する分配機能を持たせた請求項1に記載の導波路型光スイッチ。
【請求項3】
前記要素スイッチは、2つの3dB スプリッタと移相器から構成されて、分岐比を移相器の位相シフト量で変えられる2入力2出力の導波路型マッハツェンダー干渉計である請求項1に記載の導波路型光スイッチ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−220664(P2012−220664A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85323(P2011−85323)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】