説明

導線、及び絶縁皮膜の除去方法

【課題】低出力のレーザ光にて絶縁皮膜を除去することができる導線を提供する。
【解決手段】導線Dは、導電性金属であって銅よりなる導線本体201と該導線本体201を被覆する絶縁皮膜202とを有する。絶縁皮膜202は、ウレタン系材料などと比べて耐熱性の高い材料(高耐熱性材料)であって、例えば、ポリイミド系やポリアミドイミド系やポリエステルイミド系の材料よりなる。絶縁皮膜202にはレーザ光吸収部材としての黒鉛粉203が含有される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁皮膜を有する導線、及び絶縁皮膜の除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、モータの電機子における巻線等を構成する導線は、導電性金属よりなる導線本体と該導線本体を被覆する絶縁皮膜とからなる。このような導線は、他の導体に電気的に接続する前に絶縁皮膜を除去することが望ましい。そして、絶縁皮膜を除去する方法としては、レーザ光を照射する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−038330号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記したような導線及び絶縁皮膜の除去方法では、絶縁皮膜を除去する際に、高出力のレーザ光を照射する必要があった。特に、モータの電機子における巻線等を構成する導線は、耐熱性の高い絶縁皮膜を用いることがあり、特に高出力のレーザ光を照射する必要があった。このことは、例えば、絶縁皮膜を除去する際の効率を下げるとともに高コスト化の原因となったり、導線本体をも損傷させてしまう原因となる。
【0004】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、低出力のレーザ光にて絶縁皮膜を除去することができる導線及び絶縁皮膜の除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明では、導電性金属よりなる導線本体と該導線本体を被覆する絶縁皮膜とを有する導線において、前記絶縁皮膜にレーザ光吸収部材を含有させた。
同構成によれば、絶縁皮膜にはレーザ光吸収部材が含有されるため、レーザ光を照射して絶縁皮膜を除去する際、レーザ光がレーザ光吸収部材に吸収されることになり、低出力のレーザ光にて絶縁皮膜を除去することができる。よって、例えば、絶縁皮膜を除去する際の高効率化及び低コスト化を図ることができる。又、例えば、高出力のレーザ光にて絶縁皮膜を除去する場合のように導線本体をも損傷させてしまうといったことが低減される。
【0006】
請求項2に記載の発明では、導電性金属よりなる導線本体と該導線本体を被覆する絶縁皮膜とを有する導線において、前記絶縁皮膜の外表面にレーザ光吸収塗料を塗布した。
同構成によれば、絶縁皮膜の外表面にはレーザ光吸収塗料が塗布されるため、レーザ光を照射して絶縁皮膜を除去する際、レーザ光がレーザ光吸収塗料に吸収されることになり、低出力のレーザ光にて絶縁皮膜を除去することができる。よって、例えば、絶縁皮膜を除去する際の高効率化及び低コスト化を図ることができる。又、例えば、高出力のレーザ光にて絶縁皮膜を除去する場合のように導線本体をも損傷させてしまうといったことが低減される。
【0007】
請求項3に記載の発明では、導電性金属よりなる導線本体と該導線本体を被覆する絶縁皮膜とを有する導線において、前記絶縁皮膜の外表面に低屈折率部材を設けた。
同構成によれば、絶縁皮膜の外表面には低屈折率部材が設けられるため、レーザ光を照射して絶縁皮膜を除去する際、低屈折率部材より内部に通過したレーザ光が外部に逃げ難くなり、低出力のレーザ光にて絶縁皮膜を除去することができる。よって、例えば、絶縁皮膜を除去する際の高効率化及び低コスト化を図ることができる。又、例えば、高出力のレーザ光にて絶縁皮膜を除去する場合のように導線本体をも損傷させてしまうといったことが低減される。
【0008】
請求項4に記載の発明では、導電性金属よりなる導線本体と該導線本体を被覆する絶縁皮膜とを有する導線にレーザ光を照射して前記絶縁皮膜を除去する絶縁皮膜の除去方法において、予め前記絶縁皮膜にレーザ光吸収部材を含有させておき、レーザ光を照射して前記絶縁皮膜を除去する皮膜除去工程を備えた。
【0009】
同発明によれば、予め絶縁皮膜にはレーザ光吸収部材が含有されるため、レーザ光を照射して絶縁皮膜を除去する皮膜除去工程の際、レーザ光がレーザ光吸収部材に吸収されることになり、低出力のレーザ光にて絶縁皮膜を除去することができる。よって、例えば、絶縁皮膜を除去する際の高効率化及び低コスト化を図ることができる。又、例えば、高出力のレーザ光にて絶縁皮膜を除去する場合のように導線本体をも損傷させてしまうといったことが低減される。
【0010】
請求項5に記載の発明では、導電性金属よりなる導線本体と該導線本体を被覆する絶縁皮膜とを有する導線にレーザ光を照射して前記絶縁皮膜を除去する絶縁皮膜の除去方法において、予め前記絶縁皮膜の外表面にレーザ光吸収塗料を塗布しておき、レーザ光を照射して前記絶縁皮膜を除去する皮膜除去工程を備えた。
【0011】
同発明によれば、予め絶縁皮膜の外表面にはレーザ光吸収塗料が塗布されるため、レーザ光を照射して絶縁皮膜を除去する皮膜除去工程の際、レーザ光がレーザ光吸収塗料に吸収されることになり、低出力のレーザ光にて絶縁皮膜を除去することができる。よって、例えば、絶縁皮膜を除去する際の高効率化及び低コスト化を図ることができる。又、例えば、高出力のレーザ光にて絶縁皮膜を除去する場合のように導線本体をも損傷させてしまうといったことが低減される。
【0012】
請求項6に記載の発明では、導電性金属よりなる導線本体と該導線本体を被覆する絶縁皮膜とを有する導線にレーザ光を照射して前記絶縁皮膜を除去する絶縁皮膜の除去方法において、予め前記絶縁皮膜の外表面に低屈折率部材を設けておき、レーザ光を照射して前記絶縁皮膜を除去する皮膜除去工程を備えた。
【0013】
同構成によれば、予め絶縁皮膜の外表面には低屈折率部材が設けられるため、レーザ光を照射して絶縁皮膜を除去する皮膜除去工程の際、低屈折率部材より内部に通過したレーザ光が外部に逃げ難くなり、低出力のレーザ光にて絶縁皮膜を除去することができる。よって、例えば、絶縁皮膜を除去する際の高効率化及び低コスト化を図ることができる。又、例えば、高出力のレーザ光にて絶縁皮膜を除去する場合のように導線本体をも損傷させてしまうといったことが低減される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低出力のレーザ光にて絶縁皮膜を除去することができる導線及び絶縁皮膜の除去方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を具体化した一実施の形態を図1〜図11に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の直流モータ101は、固定子102と電機子(回転子)103とを備えている。固定子102は、略筒形状のヨークハウジング104と、該ヨークハウジング104の内周面に等角度間隔で配置固着された複数(本実施形態では6つ)のマグネット105とを備えている。本実施の形態では、マグネット105は6個(6極)設けられ、磁極数が6とされている。
【0016】
電機子103は、図1及び図2に示すように、回転軸106と、該回転軸106に固定された電機子コア107と、同じく回転軸106に固定された整流子108等とを備える。電機子103は、図2に示すように、回転軸106の両端側がヨークハウジング104を含むハウジング(詳しくはヨークハウジング104及びその開口部を塞ぐエンドハウジングE)に保持された軸受Gにて回転可能に支持されている。尚、この状態で整流子108の外周には前記エンドハウジングEに保持され給電を行うための陽極側及び陰極側ブラシ109a,109bが摺接可能に押圧接触される。又、この状態で電機子コア107はマグネット105と対向して周囲を囲まれるように配置される。
【0017】
電機子コア107は回転軸106を中心として放射状に延びる8個のティース部としてのティースT1〜T8を有し、該ティースT1〜T8間にはそれぞれスロットS1〜S8が形成されている(図1及び図4(a)参照)。
【0018】
詳述すると、電機子コア107は、図5に示すように、前記ティースT1〜T8の基端部を周方向に連結する周方向連結部107aと、回転軸106が内嵌される環状の固定部107bと、周方向連結部107aの周方向の一部(90°毎)から径方向内側に延出し周方向連結部107aと固定部107bとを連結する径方向連結部107cとを備える。
【0019】
電機子コア107における整流子108が配置される側である軸方向一端側(図2中、上側)にはインシュレータX(図5参照)が装着され、整流子108が配置されない側である軸方向他端側(図2中、下側)にはインシュレータY(図6参照)が装着されている。
【0020】
インシュレータXには、図5に示すように、前記周方向連結部107aを覆う環状被覆部Xaと、ティースT1〜T8を覆うティース被覆部Xbと、ティースT1〜T8の基端部毎に対応して配置された分離部Xcと、その分離部Xcの径方向内側(即ち環状被覆部Xa上)に配置された載置凸部Xdとが設けられている。このインシュレータXは、樹脂製であって、前記各部(環状被覆部Xa、ティース被覆部Xb、分離部Xc及び載置凸部Xd)が一体形成されている。環状被覆部Xaは、周方向連結部107aを軸方向から覆う軸方向被覆部Xeと、周方向連結部107aにおける外周面(隣り合うティースT1〜T8の間)を径方向から覆う径方向被覆部Xfとを有する。径方向被覆部Xfは、周方向に隣り合うティースT1〜T8の間の中央ほど径方向外側に突出すべく軸方向から見て角状に形成され、その角に径方向内側に凹設された形状で軸方向に延びる溝Xgが形成されている。尚、前記角状の角度は正八角形に対応した角度である。又、溝Xgは略円弧形状に凹設されている。又、分離部Xcは、ティース被覆部Xbより軸方向に突出している。分離部Xcは、ティースT1〜T8の基端部において、ティース被覆部Xb側と載置凸部Xd側とを仕切るように形成されている。又、分離部Xcには、径方向内側から径方向外側に延びる凹部Xhが凹設されている。又、載置凸部Xdは、ティース被覆部Xbより軸方向に突出し、分離部Xcより突出量が小さく設定されている。本実施の形態の載置凸部Xdは、径方向から見て略台形形状(平行な2辺の内の短い方が先端(頂面)に設定された略台形形状)に形成されている(図7参照)。又、載置凸部Xdの先端(頂面)における周方向中央には、空隙形成溝Xiが凹設されている。
【0021】
インシュレータYには、図6に示すように、前記周方向連結部107aを覆う環状被覆部Yaと、ティースT1〜T8を覆うティース被覆部Ybと、ティースT1〜T8の基端部毎に対応して周方向に断続的に軸方向に突出した外側壁Ycと、外側壁Ycの内側(環状被覆部Yaの内縁)で略円筒状に軸方向に突出した内側壁Ydとが設けられている。尚、本実施の形態では、外側壁Yc及び内側壁Ydがガイド部を構成している。このインシュレータYは、樹脂製であって、前記各部(環状被覆部Ya、ティース被覆部Yb、外側壁Yc及び内側壁Yd)が一体形成されている。環状被覆部Yaは、周方向連結部107aを軸方向から覆う軸方向被覆部Yeと、周方向連結部107aにおける外周面(隣り合うティースT1〜T8の間)を径方向から覆う径方向被覆部Yfとを有する。径方向被覆部Yfは、周方向に隣り合うティースT1〜T8の間の中央ほど径方向外側に突出すべく軸方向から見て角状に形成され、その角に径方向内側に凹設された形状で軸方向に延びる溝Ygが形成されている。尚、前記角状の角度は正八角形に対応した角度である。又、溝Ygは略円弧形状に凹設されている。
【0022】
そして、電機子103には、インシュレータX,Yが装着された電機子コア107のティースT1〜T8に(スロットS1〜S8内を通るように)集中巻にて巻回された巻線M1〜M8と、複数の巻線M1〜M8を繋ぐ渡り線110(図2、図10及び図11参照)とを連続して構成する導線Dが設けられている。尚、図4(a)は、電機子103を平面状に展開した模式図である。又、巻線M1〜M8は、ティースT1〜T8に巻回されることで該ティースT1〜T8の径方向に全体的に配設されるものであって、(ティースT1〜T8に対して)緊縛力を有するように配設されるものである。又、渡り線110は、周方向に複数配置されるティースT1〜T8の2つを結ぶように少なくとも1つの前記ティースを跨いで(越えて)配設されるものであって、(軸直交方向に対して)緊張力を有するように配設されるものである。
【0023】
本実施の形態の導線Dは、例えば、まずティースT1に集中巻にて巻回されて巻線M1を構成し、次にティースT8,T7を跨いでティースT6まで達する渡り線110を構成し、次にティースT6に集中巻にて巻回されて巻線M6を構成するといったパターンを繰り返して設けられる(図11参照)。尚、図11は、前述したような導線Dの配設工程(後述する「導線配設工程」)における途中段階を図示している。
【0024】
又、各巻線M1〜M8は、それぞれにおいて最終の巻線(最後のひと巻き)である一部の巻線としての端巻線Ma(図1及び図7参照)を除いて前記分離部Xcの径方向外側でティースT1〜T8に巻回されて該分離部Xcにて径方向内側への移動が規制される。又、前記端巻線Maの一部である導線接続部Mbは、前記載置凸部Xd上であって、空隙形成溝Xiが形成された部分においては局部的に載置凸部Xdと離間して配置される。即ち、各巻線M1〜M8は、分離部Xcによって端巻線Ma(一部の巻線)とその他の巻線とに分離されている。
【0025】
又、各渡り線110は、前記載置凸部Xd上を避けて配置される。詳しくは、図2、図10及び図11に示すように、各渡り線110は、電機子コア107における軸方向他端側(整流子108が配置される側の反対側)に配置される。各渡り線110は、ガイド部(外側壁Yc及び内側壁Yd)によって、ティースT1〜T8より径方向内側で周方向に沿って案内される。即ち、各渡り線110は、外側壁Ycによって径方向外側への移動が規制され、内側壁Ydによって径方向内側への移動が規制される。
【0026】
又、導線Dにおいて前記導線接続部Mb(前記軸方向一端側)と前記渡り線110(前記軸方向他端側)とを連結する導線連結部Mc(図10参照)は前記溝Xg,Ygに配置(略半分が収容)される。
【0027】
整流子108は、図2に示すように、整流子本体111と短絡部材112とからなる。整流子本体111は、略円筒形状の本体絶縁材113と、本体絶縁材113の外周面に周方向に24個配設されるセグメント1〜24(図4(a)参照)とを備える。尚、このセグメント1〜24は本体絶縁材113の外周で略円筒状をなし、その径方向外側から前記陽極側及び陰極側ブラシ109a,109bが当接(押圧接触)されることになる。
【0028】
短絡部材112は、整流子本体111の軸方向端部に固定され、図4(a)に示すように、24個のセグメント1〜24を120度間隔に電気的に接続し、例えば、セグメント1,9,17の組や、セグメント5,13,21の組を短絡された(同電位)状態とする。詳しくは、短絡部材112は、図3に示すように、絶縁層(絶縁紙)114を挟む2つの層にそれぞれ24個ずつ配置された短絡片115,116を備える。一方(図3中、紙面手前側の層)の各短絡片115は、その径方向内側端部が径方向外側端部に対して周方向一方(図3中、時計回り方向)に60°ずれるように形成されている。又、他方(図3中、紙面奥側の層であって、破線で示す)の各短絡片116は、その径方向内側端部が径方向外側端部に対して周方向他方(図3中、反時計回り方向)に60°ずれるように形成されている。そして、2つの層の各短絡片115,116は、互いに径方向内側端部同士、及び径方向外側端部同士が(絶縁層114を挟まずに)それぞれ電気的に接続されている。これにより、短絡部材112における短絡片115,116の径方向外側端部は、120度間隔に電気的に接続されることになる。
【0029】
そして、短絡部材112は、その各径方向外側端部がセグメント1〜24にそれぞれ電気的に接続されるように整流子本体111に固定されている。又、本実施の形態では、他方(図3中、紙面奥側の層であって、破線で示す)の短絡片116における径方向外側端部に前記セグメント1〜24から径方向外側に延出する接続部116a(図9参照)が形成されている。この接続部116aは、前記端巻線Maの一部である導線接続部Mbと前記載置凸部Xd上で電気的に接続固定される。
【0030】
詳しくは、導線Dは、図8に示すように、導電性金属(本実施の形態では銅)よりなる導線本体201と該導線本体201を被覆する絶縁皮膜202とを有する。そして、本実施の形態の絶縁皮膜202にはレーザ光吸収部材としての黒鉛粉203が含有されている。又、本実施の形態の絶縁皮膜202(黒鉛粉203を除く)は、ウレタン系材料などと比べて耐熱性の高い材料(高耐熱性材料)であって、例えば、ポリイミド系やポリアミドイミド系やポリエステルイミド系の材料(樹脂)よりなる。そして、導線接続部Mbにおける絶縁皮膜202は除去され、該部分で露出した導線本体201と接続部116aとが電気的に接続されている。尚、本実施の形態では、導線接続部Mb及び接続部116aは、載置凸部Xd上に軸方向に重ねて、詳しくは接続部116aが載置凸部Xdと共に導線接続部Mbを挟むように配置される。又、接続部116aは、前記凹部Xhと周方向に対応した位置に配置される。又、この接続部116aは、24個の短絡片116において、周方向に3つおきに(即ち全体で8個)形成されている。
【0031】
次に、上記のように構成された電機子103の製造方法(絶縁皮膜202の除去方法を含む)について詳述する。電機子103の製造方法は、「導線配設工程」、「皮膜除去工程」、「接触工程」、及び「接続工程」を含む。
【0032】
「導線配設工程」では、前記導線Dによって前記巻線M1〜M8を構成する過程で(即ち巻回作業中に)その一部を前記接続部116aと対応した位置(本実施の形態では載置凸部Xd上)に配置する。詳しくは、本実施の形態では、導線Dによって、各巻線M1〜M8を構成する際に、それぞれにおいて最終の巻線(最後のひと巻き)である一部の巻線としての端巻線Ma(図1及び図7参照)を前記分離部Xcより径方向内側に(載置凸部Xd上を通るように)配置し、端巻線Maを除くその他の巻線を前記分離部Xcより径方向外側に配置する。又、本実施の形態では、前記渡り線110を電機子コア107における軸方向他端側(整流子108が配置されない側)に配置する(図11参照)。
【0033】
次に、「皮膜除去工程」では、図7及び図8に示すように、上記したように予め絶縁皮膜202に黒鉛粉203を含有しておいた導線Dにおける導線接続部Mbにレーザ光LBを照射して該部分の絶縁皮膜202を除去し、導線本体201を露出させる。尚、本実施の形態では、空隙形成溝Xiによって、導線接続部Mbが載置凸部Xdと離間しているため、「皮膜除去工程」時の発熱が載置凸部Xdに伝達されてしまうことが低減される。
【0034】
次に、「接触工程」では、前記電機子コア107に対して前記整流子108の軸方向の位置決めを行うことで、前記接続部116aを前記導線Dに軸方向に接触させる。詳しくは、本実施の形態では、電機子コア107が固定された回転軸106に整流子108を圧入によって固定することで前記軸方向の位置決めを行い、それによって接続部116aを導線Dの導線接続部Mbにおける露出した導線本体201に軸方向に接触させる(図9参照)。又、本実施の形態では、このとき、接続部116aと前記載置凸部Xd(空隙形成溝Xiが形成された部分を除く)とで導線Dの導線接続部Mbを軸方向に挟む。
【0035】
次に、「接続工程」では、図9に示すように、前記接続部116aと前記導線Dの導線接続部Mbにおける露出した導線本体201とをレーザ光LBを照射するレーザ溶接によって電気的に接続する。尚、本実施の形態の「皮膜除去工程」と「接続工程」では、同一のレーザ光照射装置を用いてレーザ光LBを照射する。
【0036】
このように構成された電機子103においては、前記巻線M1〜M8は、全部で1つの閉ループを構成する。尚、本実施の形態の巻線M1〜M8は、M1、M4、M7、M2、M5、M8、M3、M6、M1…の順で閉ループを構成している。即ち、図4(a)における巻線M1〜M8によって形成される回路を視覚的に分かり易く展開すると図4(b)のようになる。
【0037】
次に、上記実施の形態の特徴的な作用効果を以下に記載する。
(1)絶縁皮膜202にはレーザ光吸収部材としての黒鉛粉203が含有されるため、レーザ光LBを照射して絶縁皮膜202を除去する「皮膜除去工程」の際、レーザ光LBが黒鉛粉203に吸収される、言い換えると、黒鉛粉203にてレーザ光LBの透過や反射が低減されることになり、低出力のレーザ光LBにて絶縁皮膜202を除去することができる。よって、例えば、絶縁皮膜202を除去する際の高効率化及び低コスト化を図ることができる。又、例えば、高出力のレーザ光にて絶縁皮膜を除去する場合(従来技術)のように導線本体201をも損傷させてしまうといったことが低減される。
【0038】
(2)絶縁皮膜202は、一般的に低出力のレーザ光LBにて除去することが困難な高耐熱性材料よりなるため、導線Dの絶縁不良、即ち巻線M1〜M8の短絡等を防止することができるとともに、上記効果(1)が顕著となる。
【0039】
(3)「導線配設工程」では、導線Dによって巻線M1〜M8を構成する過程で(即ち巻回作業中に)その一部が接続部116aと対応した位置に配置される。即ち、「導線配設工程」では、導線Dによって巻線M1〜M8や渡り線110を構成する過程とかけ離れた動作である「導線を接続部に巻き付ける」といった動作を行わず、単に巻線M1〜M8を構成する一連の過程でその一部(端巻線Maの導線接続部Mb)が接続部116aと対応した位置に配置される。よって、「導線を接続部に巻き付ける」場合に比べて製造工程の簡略化を図ることができ、ひいては製造時間の短縮化等を図ることができる。又、「接続工程」では、接続部116aと導線Dとがレーザ溶接によって電気的に接続されるため、上記したように導線D(導線接続部Mb)を接続部116aと対応した位置に配置するだけ(本実施の形態のように重なるように当接させるだけ)の「導線配設工程」で十分となる。言い換えると、治具を接触させて溶接を行う場合では、治具(例えば一対の電極)を当接させるスペースを(例えば導線を接続部に巻き付けることでその周辺に)確保するといった必要がある。これに対してレーザ溶接の場合では前記スペースが不要となるため、簡単な(本実施の形態のように重なるように当接させるだけの)前記「導線配設工程」としながら、接続部116aと導線Dとを容易に電気的に接続することができる。又、「皮膜除去工程」と「接続工程」では、同一のレーザ光照射装置を用いてレーザ光LBを照射するため、「皮膜除去工程」と「接続工程」とで異なるレーザ光照射装置を用いた場合に比べて、設備、即ち電機子103の製造装置の小スペース化及び低コスト化を図ることができる。
【0040】
上記実施の形態は、以下のように変更してもよい。
・上記実施の形態では、レーザ光吸収部材を黒鉛粉203としたが、少なくとも絶縁皮膜202(黒鉛粉203を除く)よりレーザ光LBを吸収しやすい(透過や反射し難い)部材であれば他のレーザ光吸収部材に変更してもよい。例えば、黒鉛粉203をレーザ光吸収部材としての鉄粉や、黒色等に着色された着色樹脂粉体に変更してもよい。
【0041】
・上記実施の形態では、絶縁皮膜202にレーザ光吸収部材としての黒鉛粉203を含有させたが、これに限定されず、絶縁皮膜の外表面にレーザ光吸収塗料を塗布した導体としてもよい。例えば、図12に示すように、導線本体301を被覆する絶縁皮膜302の外表面にレーザ光吸収塗料としての黒色のインク303を塗布した導線D2としてもよい。尚、図12では、塗布された黒色のインク303を模式的に太線で図示している。又、この例においても、絶縁皮膜302は、ウレタン系材料などと比べて耐熱性の高い材料(高耐熱性材料)であって、例えば、ポリイミド系やポリアミドイミド系やポリエステルイミド系の材料(樹脂)よりなる。又、この場合、導線D2において絶縁皮膜302を除去する部分、即ち前記導線接続部Mbのみにインク303を塗布してもよい。又、この場合、導線接続部Mbを接続部116aと対応した位置(即ち載置凸部Xd上)に配置する「導線配設工程」の後であって「皮膜除去工程」の前に、導線接続部Mbにインク303を塗布することで、インク303を正確に無駄なく塗布することが可能となる。
【0042】
このようにしても、絶縁皮膜302の外表面にはレーザ光吸収塗料としての黒色のインク303が塗布されるため、レーザ光LBを照射して絶縁皮膜302を除去する「皮膜除去工程」の際、レーザ光LBが塗布されたインク303に吸収されることになり、低出力のレーザ光LBにて絶縁皮膜302を除去することができる。よって、例えば、絶縁皮膜302を除去する際の高効率化及び低コスト化を図ることができる。又、例えば、高出力のレーザ光にて絶縁皮膜を除去する場合(従来技術)のように導線本体301をも損傷させてしまうといったことが低減される。
【0043】
・上記実施の形態では、絶縁皮膜202にレーザ光吸収部材としての黒鉛粉203を含有させたが、これに限定されず、絶縁皮膜の外表面に低屈折率部材(絶縁皮膜より屈折率が低い部材)を設けた導体としてもよい。例えば、図13に示すように、導線本体401を被覆する絶縁皮膜402の外表面に低屈折率部材としてのフッ素樹脂403を設けた(コーティングした)導線D3としてもよい。尚、図13では、フッ素樹脂403を模式的に太線で図示している。又、この例においても、絶縁皮膜402は、ウレタン系材料などと比べて耐熱性の高い材料(高耐熱性材料)であって、例えば、ポリイミド系やポリアミドイミド系やポリエステルイミド系の材料(樹脂)よりなる。
【0044】
このようにしても、絶縁皮膜402の外表面には低屈折率部材としてのフッ素樹脂403が設けられるため、レーザ光LBを照射して絶縁皮膜402を除去する「皮膜除去工程」の際、フッ素樹脂403より内部に通過したレーザ光LBが外部に逃げ難くなり、低出力のレーザ光LBにて絶縁皮膜402を除去することができる。尚、図13では、フッ素樹脂403より内部に通過し同内部で反射を繰り返すレーザ光LBaを矢印にて模式的に図示している。よって、例えば、絶縁皮膜402を除去する際の高効率化及び低コスト化を図ることができる。又、例えば、高出力のレーザ光にて絶縁皮膜を除去する場合(従来技術)のように導線本体401をも損傷させてしまうといったことが低減される。
【0045】
・上記実施の形態では、絶縁皮膜202(302,303)は、高耐熱性材料よりなるとしたが、これに限定されず、他の材料(例えばウレタン系材料)よりなるものとしてもよい。
【0046】
・上記実施の形態では、「皮膜除去工程」と「接続工程」では、同一のレーザ光照射装置を用いてレーザ光LBを照射するとしたが、「皮膜除去工程」と「接続工程」とで異なるレーザ光照射装置を用いてもよい。
【0047】
・上記実施の形態では、直流モータ101の電機子103における巻線M1〜M8を構成する導線D(D2,D3)としたが、これに限定されず、他のモータに用いられる導線D(D2,D3)や、モータ以外の他の用途に用いられる導線D(D2,D3)としてもよい。
【0048】
上記各実施の形態から把握できる技術的思想について、以下にその効果とともに記載する。
(イ)請求項1乃至3のいずれか1項に記載の導線において、前記絶縁皮膜は、高耐熱性材料よりなることを特徴とする導線。
【0049】
このようにすると、絶縁皮膜は、一般的に低出力のレーザ光にて除去することが困難な高耐熱性材料よりなるため、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発明の効果が顕著となる。
【0050】
(ロ)請求項4乃至6のいずれか1項に記載の絶縁皮膜の除去方法において、前記絶縁皮膜は、高耐熱性材料よりなることを特徴とする絶縁皮膜の除去方法。
このようにすると、絶縁皮膜は、一般的に低出力のレーザ光にて除去することが困難な高耐熱性材料よりなるため、請求項4乃至6のいずれか1項に記載の発明の効果が顕著となる。
【0051】
(ハ)放射状に延びる複数のティース部を有する電機子コアと、前記電機子コアに装着されたインシュレータと、前記インシュレータが装着された前記電機子コアの前記ティース部に巻回された巻線と複数の前記巻線を繋ぐ渡り線とを連続して構成する導線と、複数のセグメント及び該セグメントから延出し前記導線の一部が電気的に接続された接続部を有する整流子とを備えた電機子の製造方法であって、前記導線によって前記巻線又は前記渡り線を構成する過程でその一部を前記接続部と対応した位置に配置する導線配設工程と、前記導線配設工程の後に行う、請求項4乃至6及び上記(ロ)のいずれか1つに記載の皮膜除去工程と、前記皮膜除去工程の後、前記接続部と前記導線本体とをレーザ光を照射するレーザ溶接によって電気的に接続する接続工程とを備えたことを特徴とする電機子の製造方法。
【0052】
このようにすると、導線配設工程では、導線によって巻線又は渡り線を構成する過程でその一部が接続部と対応した位置に配置される。即ち、導線配設工程では、導線によって巻線又は渡り線を構成する過程とかけ離れた動作である導線を接続部に巻き付けるといった動作を行わず、単に巻線又は渡り線を構成する一連の過程でその一部が接続部と対応した位置に配置される。又、レーザ光を照射して絶縁皮膜を除去する皮膜除去工程の際、低出力のレーザ光にて絶縁皮膜を除去することができる。又、接続工程では、接続部と導線本体とがレーザ光を照射するレーザ溶接によって電気的に接続されるため、上記したように導線を接続部と対応した位置に配置するだけ(例えば重なるように当接させるだけ)の前記導線配設工程で十分となる。言い換えると、治具を接触させて溶接を行う場合では、治具(例えば一対の電極等)を当接させるスペースを(例えば導線を接続部に巻き付けることでその周辺に)確保するといった必要があるが、レーザ溶接の場合では前記スペースが不要となるため、簡単な前記導線配設工程としながら、接続部と導線とを容易に電気的に接続することができる。
【0053】
(ニ)上記(ハ)に記載の電機子の製造方法において、前記皮膜除去工程と前記接続工程は、同一のレーザ光照射装置を用いてレーザ光を照射することを特徴とする電機子の製造方法。
【0054】
このようにすると、皮膜除去工程と接続工程とで異なるレーザ光照射装置を用いた場合に比べて、設備、即ち電機子の製造装置の小スペース化及び低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本実施の形態におけるモータの概略構成図。
【図2】本実施の形態におけるモータの要部断面図。
【図3】本実施の形態における短絡部材の平面図。
【図4】(a)本実施の形態の電機子を平面状に展開して説明するための説明図。(b)本実施の形態の電機子の巻線によって形成される回路図。
【図5】本実施の形態の軸方向一端側のインシュレータ及び電機子コアの平面図。
【図6】本実施の形態の軸方向他端側のインシュレータ及び電機子コアの底面図。
【図7】本実施の形態における電機子の製造方法を説明するための要部拡大斜視図。
【図8】本実施の形態における導線の断面図。
【図9】本実施の形態における電機子の製造方法を説明するための要部拡大斜視図。
【図10】本実施の形態における電機子を説明するための要部拡大底面図。
【図11】本実施の形態における電機子を説明するための斜視図。
【図12】別例における導線の断面図。
【図13】別例における導線の断面図。
【符号の説明】
【0056】
201,301,401…導線本体、202,302,402…絶縁皮膜、203…黒鉛粉(レーザ光吸収部材)、303…黒色のインク(レーザ光吸収塗料)、403…フッ素樹脂(低屈折率部材)、D,D2,D3…導線、LB…レーザ光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性金属よりなる導線本体と該導線本体を被覆する絶縁皮膜とを有する導線において、
前記絶縁皮膜にレーザ光吸収部材を含有させたことを特徴とする導線。
【請求項2】
導電性金属よりなる導線本体と該導線本体を被覆する絶縁皮膜とを有する導線において、
前記絶縁皮膜の外表面にレーザ光吸収塗料を塗布したことを特徴とする導線。
【請求項3】
導電性金属よりなる導線本体と該導線本体を被覆する絶縁皮膜とを有する導線において、
前記絶縁皮膜の外表面に低屈折率部材を設けたことを特徴とする導線。
【請求項4】
導電性金属よりなる導線本体と該導線本体を被覆する絶縁皮膜とを有する導線にレーザ光を照射して前記絶縁皮膜を除去する絶縁皮膜の除去方法において、
予め前記絶縁皮膜にレーザ光吸収部材を含有させておき、レーザ光を照射して前記絶縁皮膜を除去する皮膜除去工程を備えたことを特徴とする絶縁皮膜の除去方法。
【請求項5】
導電性金属よりなる導線本体と該導線本体を被覆する絶縁皮膜とを有する導線にレーザ光を照射して前記絶縁皮膜を除去する絶縁皮膜の除去方法において、
予め前記絶縁皮膜の外表面にレーザ光吸収塗料を塗布しておき、レーザ光を照射して前記絶縁皮膜を除去する皮膜除去工程を備えたことを特徴とする絶縁皮膜の除去方法。
【請求項6】
導電性金属よりなる導線本体と該導線本体を被覆する絶縁皮膜とを有する導線にレーザ光を照射して前記絶縁皮膜を除去する絶縁皮膜の除去方法において、
予め前記絶縁皮膜の外表面に低屈折率部材を設けておき、レーザ光を照射して前記絶縁皮膜を除去する皮膜除去工程を備えたことを特徴とする絶縁皮膜の除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−166222(P2008−166222A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−131(P2007−131)
【出願日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(000101352)アスモ株式会社 (1,622)
【Fターム(参考)】