説明

導線挿入用ガイド

【課題】 真空容器の開口部の平滑な面とOリング間に介在させる導線挿入用ガイドを、導線挿入用ガイドの端部とOリングとの間に隙間が生じないものとする。
【解決手段】 Oリングにより密閉される真空容器の開口部の平滑な面とOリング間に介在させられる、2枚のシート1間に導線2が挟持させられる導線挿入用ガイド10を、2枚のシート1が導線2を挟持した状態で、2枚のシート1の導線2に垂直な断面における両端部において反対方向に斜めにカットされたものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空容器の開口部に挿入する導線挿入用ガイドに関し、特に真空容器の平滑な面とOリング間に介在させられる2枚のシート間に導線が挟持された導線挿入用ガイドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
真空容器と他の部材又は、接続部材と接続部材を真空状態を維持して連結する際などに、連結した部分の真空性を維持することは、減圧して使用する装置、例えば真空蒸着装置、減圧CVD装置、スパッタリング装置、プラズマ発生装置、高真空実験装置などの各種真空装置において重要な問題である。
【0003】
例えば、特許文献1には平滑な対向する2つの面間の一方の平滑な面に固定溝を刻設し、この固定溝の底部に弾性体の反発力を受けて歪む支持部を設け、この支持部の歪みを圧力センサで測定するようにしたシール構造が記載されている。このシール構造は、直接弾性体に加わる圧力を測定し、シール部として必要な弾性体の反発力を感知することにより、シール状態を確認することができるとともに、このシール構造を減圧CVD装置に適用した場合おいては、従来真空引きを行い、真空センサと時間によって漏れを確認していたものが真空引き前に判断できるため、大気の混入を防ぎ、ウエハの歩留り低下をなくすことができるというものである。
【0004】
一方、上述した各種真空装置外から装置内に配される導線においてもシール性が確実に行われていないと、大気の巻き込みや導線を配線した部分からの大気の漏れ等の問題を引起こすこととなる。従来、Oリングにより密閉される真空容器の開口部の平滑な対向する2つの面間を通して真空容器外から容器内へ導線を挿入する場合には、平滑な面とOリング間に、2枚のシート間に導線が挟持させられた導線挿入用ガイドを介在させて、真空装置外から装置内に導線を配していた。
【0005】
しかし、導線が挟持させられた導線挿入用ガイドを真空容器の平滑な面とOリング間に介在させた場合、導線挿入用ガイドの厚みによって、導線挿入用ガイドの端部とOリングと真空容器の平滑な面との間に隙間が生じるという問題があった。このため、従来は導線が挟持させられた導線挿入用ガイドの厚みを50〜100μmと薄くすることによってこの隙間をなるべく小さいものにするという方法がとられていた。
【特許文献1】特許第2914296号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような導線挿入用ガイドの厚みを薄くすることによってこの隙間をなるべく小さいものにするという方法は、真空容器の真空度が〜1Pa程度の比較的低い場合にはある程度効果が得られるものである。しかし、導線挿入用ガイドの厚みを薄くすることには限界がある上、導線挿入用ガイドの厚みがあまりに薄いと、取り扱いにくかったり、製造しにくいという新たな問題が生じる。
【0007】
また、真空容器の真空度が10-2Pa以上と高度な真空状態の場合には、導線挿入用ガイドの厚みとOリングと真空容器の平滑な面との間に生じるこのわすかな隙間であっても真空度が保てないという問題がある。さらに、真空装置によっては温度センサ、真空センサ、圧力センサ、振動センサ、湿度センサ、成分センサ、流量センサなどの多数のセンサを真空容器内に入れて、これらのセンサからの信号を真空容器外で逐次取り出すために多数の導線を真空容器内に入れたいという要請があり、このような場合には導線挿入用ガイドとOリングと真空容器の平滑な面との間のわずかな隙間は、〜1Pa程度の比較的低い真空度であっても、見逃すことができないものとなる。
【0008】
加えて、半導体ウエハの処理温度が比較的低い場合、例えば処理温度が200℃以下の場合にはそれ程問題は生じないが、例えば成膜処理において、成膜速度を上げるためや膜質の改善のために処理温度を200℃以上、例えば300℃程度まで上昇させることがあるが、このような高温域になると、導線が挟持させられた導線挿入用ガイドのシート分解が発生してシール性が劣化し、真空漏れが起こるという問題もある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、Oリングにより密閉される真空容器の開口部の平滑な面とOリング間に配される、2枚のシート間に導線が挟持させられた導線挿入用ガイドにおいて、導線挿入用ガイドの端部とOリングと真空容器の平滑な面との間に隙間が生じるということがなく、高い真空度が要求される真空容器であっても、真空装置外から装置内に導線を配することが可能な導線挿入用ガイドを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の導線挿入用ガイドはOリングにより密閉される真空容器の開口部において、該開口部のOリングと該Oリングに対向する前記真空容器の平滑な面間を通して導線を前記真空容器外から容器内へ挿入するための、前記平滑な面と前記Oリング間に介在させられる2枚のシート間に導線が挟持させられる導線挿入用ガイドであって、前記2枚のシートが前記導線を挟持させられた状態で、前記2枚のシートの前記導線に垂直な断面における両端部において反対方向に斜めにカットされたものであることを特徴とするものである。
【0011】
前記シートは延伸多孔性ポリテトラフロロエチレンからなることが好ましい。前記2枚のシートの厚みは100μm〜1000μm、より好ましくは100μm〜500μmであることが望ましい。前記2枚のシートは接着されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の導線挿入用ガイドは真空容器の平滑な面とOリング間に介在させられる2枚のシート間に導線が挟持させられる導線挿入用ガイドにおいて、2枚のシートが導線を挟持させられた状態で、2枚のシートの導線に垂直な断面における両端部において反対方向に斜めにカットされたものとしたので、導線挿入用ガイドの端部とOリングと真空容器の平滑な面との間に隙間が生じるということがなく、高い真空度が要求される真空容器であっても、あるいは多数のセンサを真空容器内に入れて、このセンサからの信号を真空容器外で逐次取り出すような場合においても、真空性を保ちながら真空装置外から装置内に導線を配することが可能となる。
【0013】
また、2枚のシートが導線を挟持させられた状態で、2枚のシートの導線に垂直な断面における両端部において反対方向に斜めにカットされたものとしたので、2枚のシートの厚みを100μm〜500μmと従来のものより厚くしても、導線挿入用ガイドの端部とOリングと真空容器の平滑な面との間に隙間が生じるということがないため、導線挿入用ガイドの取り扱いがしやすく、また、導線挿入用ガイドの製造工程においても製造効率をあげることが可能となる。
【0014】
なお、導線を挟持させられた状態で2枚のシートを接着した場合には、2枚のシートとこれに挟持させられた導線との間の隙間も完全に塞ぐことが可能となるので、より高い真空性を保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の詳細を図面を用いて説明する。図1は、本発明の一の実施の形態を示す導線挿入用ガイドの拡大模式斜視図、図2は導線挿入用ガイドによって導線が配された真空容器を示す模式平面図、図3は図2におけるIII−III線から見た拡大断面図である。
【0016】
図1に示すように、本発明の導線挿入用ガイド10は、2枚のシート1が導線2を挟持させられた状態で、2枚のシート1の導線2に垂直な断面における両端部において反対方向に斜めにカットされたものである。なお、図1では2枚のシート1が四角形状のものを示しているが、シートの形状はこれに限定されるものではなく、例えば丸形状であってもよい。また、図1では2枚のシート1間に2本の導線2が挟持させられたものを示しているが、導線は1本であっても3本以上であってもよく、目的に応じて導線の数は変更が可能である。
【0017】
図2および図3に示すように、本発明の導線挿入用ガイド10は、Oリング3により密閉される真空容器20の開口部において、この開口部のOリング3とOリング3に対向する真空容器20の平滑面4間を通して導線2を真空容器20の外から真空容器20内に設置されているセンサ5へ配するために用いられる。なお、ここに示す真空容器20にはセンサが1つのみ収容され、開口部のOリング3とOリング3に対向する真空容器20の平滑面4間に介在させられる導線挿入用ガイド10も1つのみの場合を示しているが、温度センサ、真空センサ、圧力センサ、振動センサ、湿度センサ、成分センサ、流量センサなどの多数のセンサを真空容器20内に入れて、これらのセンサからの信号を真空容器外で逐次取り出す場合には、そのセンサの数に応じて、導線挿入用ガイド10を開口部のOリング3とOリング3に対向する真空容器20の平滑面4間に介在させればよい。
【0018】
図3に示すように、導線挿入用ガイド10は2枚のシート1の導線2に垂直な断面における両端部において反対方向に斜めにカットされているので、導線挿入用ガイド10の端部10aとOリング3及び真空容器20の平滑面4との間に隙間が生じることがなく、高い真空度が要求される真空容器であっても、真空性を保ちながら真空装置外から装置内に導線を配することが可能となる。
【0019】
図4は従来の導線挿入用ガイドを図3に対応させて表した模式拡大断面図である。図4に示すように、従来の導線挿入用ガイド40は2枚のシート41の厚みが50μm〜100μmと薄く構成されてはいたものの、Oリング43の弾性をもってしても、導線挿入用ガイド40の端部40aとOリング43及び真空容器の平滑面44との間に隙間Pが生じていた。
【0020】
しかし、上述したように、本発明の導線挿入用ガイド10は2枚のシート1の導線2に垂直な断面における両端部において反対方向に斜めにカットされているので、導線挿入用ガイド10の端部10aとOリング3及び真空容器20の平滑面4との間に隙間Pは発生しない。このため、シート1の2枚合わせての厚みを、作業性、取扱性、製造効率の観点から100μm〜500μmと厚くしても、導線を配線した部分からの大気の漏れを確実に抑制することが可能である。
【0021】
本発明の導線挿入用ガイド10のシート1は延伸多孔性ポリテトラフロロエチレン(PTFE)からなることが好ましい。延伸多孔性PTFEはPTFEが微細繊維となって相互に結合された節よりなる微細構造を有して延伸されたものであり、延伸多孔性PTFEは引抜き非焼結PTFEを、この重合物から通常の引抜きで使用する液体循環剤を除去した後、延伸することによって製造されるものである(例えば、特公昭53−39719号等参照)。
【0022】
延伸多孔性PTFEはその孔径から特定すると、バブルポイント法(ASTM(American Sosiety of Mechanical Engineers 米国材料試験協会規格) F−316)で測定した最大孔径が0.01〜10μm、さらには0.05〜5μmのものが好ましい。最大孔径が0.01μm未満であると、後述するアンカー効果を利用した融着が困難になり、最大孔径が10μm超過では十分な機械的強度が得られなくなる。
【0023】
延伸多孔性PTFEは締付前は連続多孔性構造を有するが、締付圧力によってこの構造は容易に潰れて充実構造体となり、一度締付圧力を加えれば、その応力を維持し続けることができ、OリングとOリングに対向する真空容器の平滑な面間を完全にシールすることが可能となる。延伸多孔性PTFEは、ASTM D−638(耐ストレスクラック性試験)における引張り弾性率が360kg/cm2程度と柔軟性に優れ、ASTM F−38(応力緩和性試験)における応力緩和率が35%と低い値を示すものが好ましい。このような延伸多孔性PTFEとしては、例えばゴアテックス(登録商標、ジャパンゴアテックス株式会社)をあげることができる。
【0024】
また、従来の導線挿入用ガイドのシートはシリコンからなるためその耐熱は200℃程度までしかなかったが、PTFEは耐寒性、耐熱性に優れ、−240℃〜315℃の幅広い温度範囲でシールすることが可能であるため、成膜処理において、処理温度を300℃程度まで上昇させる成膜処理においても確実に真空漏れを防ぐことが可能である。
【0025】
2枚のシート1の間に導線2を固定する方法としては、2枚のシート1の間に導線2を挟みPTFEの多孔質構造をヒートロール等により加熱・加圧する方法、2枚のシート1の間に導線を挟むとともに、2枚のシートの間に熱可塑性樹脂を挟みヒートロール等により加熱・加圧する方法、2枚のシート1の間に導線を挟み2枚のシートを接着剤で接着する方法などにより行うことができる。特に、後者の2つの場合には、導線の周りの空間が熱で溶解された熱可塑性樹脂や接着剤で確実に塞がれるので好ましい。
【0026】
上記の熱可塑性樹脂フィルムは、シート2枚を一体化するための接着剤として機能し、熱可塑性樹脂フィルムを用いることにより、融着加工が可能になる。PTFEは通常、極めて融着加工や接着加工が難しい素材として知られているが、延伸多孔性PTFEは多孔質構造であるため、この孔を利用して加熱溶融状態の熱可塑性樹脂を孔内部に食い込ませるいわゆるアンカー効果により、シート2枚を強固に一体化することができる。
【0027】
熱可塑性樹脂としてはPTFEに融着が可能な素材であればいずれも使用できるが、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレンメチルメタクリレート、ポリイミド等が好ましく、高耐熱性の観点からポリイミドがより好ましい。熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、好ましくは10μm以上、更に好ましくは20μm以上のものが最も適切である。厚みが10μ未満であると加工性が悪く、しかも融着領域が少なく、融着不良が起こるため好ましくない。
【0028】
接着剤としては、特に限定されるものではないが、例えばシリコン系接着剤、ポリエチレン系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリイミド樹脂などを用いることができる。
【0029】
2枚のシートの間に導線を挟み固定した後、2枚のシートの導線に垂直な断面における導線挿入用ガイドの両端部を反対方向に斜めにカットする方法としては、例えば鋭利な刃物を接着済みシートに押し当てて切断するなどの方法で行うことができる。斜めにカットする角度は導線挿入用ガイドの上面に締付されるOリングの柔軟性によって導線挿入用ガイドとOリング及び真空容器の平滑面との間に隙間が生じない角度とし、具体的には上面から2〜30度の範囲でカットされることが好ましく、より好ましくは10度前後であって15度以下が望ましい。
【0030】
以上のように、本発明の導線挿入用ガイドは真空容器の平滑な面とOリング間に介在させられる2枚のシート間に導線が挟持させられる導線挿入用ガイドにおいて、2枚のシートが導線を挟持させられた状態で、2枚のシートの導線に垂直な断面における両端部において反対方向に斜めにカットされたものとしたので、導線挿入用ガイドの端部とOリングとの間に隙間が生じるということがなく、高い真空度が要求される真空容器であっても、真空性を保ちながら真空装置外から装置内に導線を配することが可能となる。
【0031】
また、2枚のシートの厚みを従来のものより厚くしても、導線挿入用ガイドの端部とOリングとの間に隙間が生じるということがないため、導線挿入用ガイドの取り扱いがしやすく、製造工程においても製造効率をあげることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一の実施の形態を示す導線挿入用ガイドの拡大模式斜視図
【図2】導線挿入用ガイドによって導線が配された真空容器を示す模式平面図
【図3】図2におけるIII−III線から見た拡大断面図
【図4】従来の導線挿入用ガイドによって導線が配された状態を示す拡大断面図
【符号の説明】
【0033】
1 シート
2 導線
3 Oリング
4 真空容器の平滑面
5 センサ
10 導線挿入用ガイド
20 真空容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Oリングにより密閉される真空容器の開口部において、該開口部のOリングと該Oリングに対向する前記真空容器の平滑な面間を通して導線を前記真空容器外から容器内へ挿入するための、前記平滑な面と前記Oリング間に介在させられる2枚のシート間に導線が挟持させられる導線挿入用ガイドであって、
前記2枚のシートが前記導線を挟持させられた状態で、前記2枚のシートの前記導線に垂直な断面における両端部において反対方向に斜めにカットされたものであることを特徴とする導線挿入用ガイド。
【請求項2】
前記シートが延伸多孔性ポリテトラフロロエチレンからなることを特徴とする請求項1記載の導線挿入用ガイド。
【請求項3】
前記2枚のシートの厚みが100μm〜1000μmであることを特徴とする請求項1または2記載の導線挿入用ガイド。
【請求項4】
前記2枚のシートが接着されたものであることを特徴とする請求項1、2または3記載の導線挿入用ガイド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−9883(P2006−9883A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185932(P2004−185932)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(503148649)株式会社東京技術研究所 (7)
【Fターム(参考)】