説明

導電フィルムの欠点検査方法および欠点検査装置

【課題】 導電層を形成してなる導電フィルムの検査を非接触で精度良く行うことができる、導電フィルムの欠点検査方法および欠点検査装置を提供すること。
【解決手段】 導電層を有する導電フイルムにマイクロ波を照射するマイクロ波照射手段と、マイクロ波が照射された導電フイルムの表面の温度分布を測定する表面温度分布測定手段と、前記表面温度分布測定手段の測定結果に基づき導電フイルムの導電層の欠点を検出する良否判定手段とを備え、導電層を有する導電フィルムにマイクロ波を照射し、導電層を加熱し、導電フィルムの表面の温度分布を測定することにより、導電フイルムの導電層の欠点を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電層を形成した導電フィルムの欠点検査方法および欠点検査装置に関する。特に、高分子フィルム上に透明導電層を形成した透明導電フィルムの欠点検査に好適な導電フイルムの欠点検査方法および欠点検査装置である。なお、高分子フィルムの材質は特に限定しないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネイト(PC)等が該当する。
【背景技術】
【0002】
高分子フィルム上に導電層を形成した導電フィルムは、透明タッチパネル用の電極として広く使用されているとともに、近年では電子ペーパー等のフィルムディスプレイ用への採用も進み、急速に生産量を増している。
【0003】
高分子フィルムには、可視領域での透明性に優れるとともに、弾性強度、耐熱性や低吸湿性が求められ、現在ではポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)やポリカーボネート(PC)等が用いられている。また、フィルムの厚みとしては、柔軟性と強度のバランスを考慮して、用途に応じて20μm〜250μmの範囲で選ばれている。
【0004】
また、導電層としては、透明性と導電性の両立という観点から、酸化インジウム・スズ(ITO)、酸化インジウム・亜鉛(IZO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)等の酸化物が主に用いられている。膜厚は、必要となる導電性により異なるが、数十〜数百ナノメーターの範囲の極めて薄い膜であり、主にスパッタや蒸着のような真空プロセスにより形成されている。
【0005】
この導電フィルムを所謂ロールトゥロール工程で、コーティングや貼り合わせの加工を施して、所望の形状に仕上げている。また、必要に応じて、導電層をパターンエッチングする場合もある。
【0006】
このようなロールトゥロール工程においては、高分子フィルムの可塑性を活かした加工が可能である一方、導電層を形成する酸化物は柔軟性に乏しく、基板となる高分子フィルムの伸びや屈曲に対して充分な追従性を備えていない。その結果、導電層にクラックやキズを生じることがある。このクラックやキズは、導電層の膜厚方向に進行するため、導電フィルムの面方向の導電性を悪化させる。その結果、導電層の電極としての機能が低下し、この導電フィルムを用いた製品の性能に支障を来す。例えば、単純マトリックス方式のディスプレイに用いる導電フィルムの導電層にクラックが生じた場合は、通電不良に伴う表示不良を引き起こす。
【0007】
このような製品不良を防ぐためには、導電フィルムの加工段階で、導電層のクラックやキズなどの欠点を検出しておくことが望ましい。
【0008】
このような欠点検出の方法として、従来より目視検査が行われている。目視検査では、透過光や反射光を用い、種々の角度から観察することにより欠点を検出するものであるが、数10cm角程度の範囲を観察するにしても1分程度の時間を要するため、ロールトゥロール工程での連続体の全長の検査には長時間を要し、疲れによる検査ミスの懸念もある。そこで、導電層の欠点検査を行う装置が望まれている。なお、高分子フィルムは機械的な圧力によりキズを生じやすいことから、導電層のクラックやキズを検出する際には、非接触で検知する必要がある。
【0009】
非接触で欠点を検出する装置として、特許文献1に記載されているような透明電極膜基板の検査装置がある。特許文献1に記載されている検査装置は、ガラス基板上に形成された透明電極層の薄膜形成工程で発生したピンホールなどの欠点検出を行うことができるようになっている。
【0010】
また、特許文献2では透明電極などの見えにくい配線パターンの良否判定を行うことができる検査方法が開示されている。特許文献2に記載されている検査装置は、配線パターンに通電して、配線パターンから赤外線を発生させ、その赤外線を撮像し良否判定を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−20254号公報
【特許文献2】特開平11―337454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、特許文献1に記載されているような欠点検査装置は、ガラス基板上に形成された透明導電層の欠点検出が前提となっており、導電フイルムの導電層などの基板の変形に伴うクラックの欠点は検出することが困難となっている。
【0013】
また、特許文献2に記載されているような欠点検査装置では、電圧印加のための機械的接触を完全に避けることは出来ないので、導電フイルムなどの高分子フィルムを基板とするものには不適である。
【0014】
そこで、本発明の目的は、導電層を形成してなる導電フィルムの検査を非接触で精度良く行うことができる、導電フィルムの欠点検査方法および欠点検査装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以上の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
導電層を有する導電フィルムにマイクロ波を照射し、
導電層を加熱し、
導電フィルムの表面の温度分布を測定することにより、
導電フイルムの導電層の欠点を検出することを特徴とする導電フィルムの欠点検査方法である。
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、導電フィルムの導電層にマイクロ波が照射されると渦電流損により導電層が加熱される。この際、導電層の表面抵抗によって発熱の状態が異なるため、導電層の抵抗値に影響をもたらすようなクラックやキズの欠点部分では発熱に変化を生じる。このような発熱の変化を非接触で測定することにより導電フイルムを傷つけたりすることなく導電層の欠点を検出することができる。
【0017】
請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載の発明において、
良品の導電フイルムにマイクロ波を照射し、
導電フイルムの表面の温度分布を測定することにより、基準温度分布を求め、
前記基準温度分布と導電フイルム毎に測定した温度分布とを比較することにより導電フイルムの導電層の欠点を検出することを特徴とする導電フィルムの欠点検査方法である。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、基準温度分布が良品によるものであるため、検査対象と良品との温度分布の相対比較が行え、検査の信頼性が得られる。
【0019】
例えば、マイクロ波を導電フィルムの表面に対して強度分布を均一に照射できなくても、良品の温度分布を測定する際と同様のマイクロ波の照射を検査対象に繰り返すことにより、良品から得た基準温度分布との相対比較で検査対象の導電フイルムを検査することができる。従って、マイクロ波の照射バラツキに左右されず、良好に導電層の欠点を検出することができる。
【0020】
請求項3に記載の発明は、
請求項1に記載の発明において、
等速で連続走行する導電フィルムの導電層にマイクロ波を照射して導電層を加熱した後に
導電フィルム走行方向の下流側で、導電フィルム表面温度分布を測定し、
表面温度分布の測定値の経時変化を示すトレンドデータを求め、各測定毎の導電フィルム表面温度分布データを前記トレンドデータと比較することにより欠点を検出することを特徴とする導電フィルムの欠点検査方法である。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば、外部環境等の影響でマイクロ波照射前の導電フィルム温度や装置温度が徐々に変化して、導電フィルムの表面抵抗が同じで、照射後の温度分布が徐々に変化する場合においても、各測定の導電フィルム表面温度分布データをトレンドデータと比較することによって、上記の経時的な温度分布変化を欠点と認識することを回避し、良好に導電層の欠点を検出することができる。
【0022】
請求項4に記載の発明は、
導電層を有する導電フイルムにマイクロ波を照射するマイクロ波照射手段と、
マイクロ波が照射された導電フイルムの表面の温度分布を測定する表面温度分布測定手段と、
前記表面温度分布測定手段の測定結果に基づき導電フイルムの導電層の欠点を検出する良否判定手段とを備えたことを特徴とする導電フイルムの欠点検査装置である。
【0023】
請求項4に記載の発明によれば、
マイクロ波の照射による導電フイルムの導電層に発生した渦電流損を、表面温度分布測定手段で測定することにより、導電層に発生したクラックやキズによる欠点を検出することができるので、欠点の検出を非接触で測定することができる。
【0024】
請求項5に記載の発明は、
請求項4に記載の発明において、
前記良否判定手段が、良品の導電フイルムの表面の温度分布を前記表面温度分布測定手段で測定することにより、基準温度分布を求め、
前記基準温度分布と導電フイルム毎に測定した温度分布とを比較することにより導電フイルムの欠点を検出する良否判定出手段であることを特徴とする導電フイルムの欠点検査装置である。
【0025】
請求項5に記載の発明によれば、
良否判定手段が良品の導電フイルムの温度分布を基準温度分布にしているので、検査対象と良品との温度分布の相対比較が行え、検査の信頼性が得られる。
【0026】
請求項6に記載の発明は、
請求項4に記載の発明において、
導電フィルムを等速で連続走行させるフィルム搬送手段と、
前記良否判定手段が、導電フィルムの表面温度分布の測定値の経時変化を示すトレンドデータを求め、各測定毎の導電フィルム表面温度分布データを前記トレンドデータと比較することにより欠点を検出する良否判定手段であること特徴とする導電フィルムの欠点検査装置である。
【0027】
請求項6に記載の発明によれば、
欠点検出手段が走行中の導電フィルムの温度分布を検出し良否判断することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によると、導電層を形成してなる導電フィルムに生じる導電不良となる欠点検出を非接触で精度良く行うことができる、導電フィルムの欠点検査方法および欠点検査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る導電フィルムの欠点検査装置の構成概略図である。
【図2】導電フィルム基本構成の断面図である。
【図3】付加機能を加えた導電フィルム構成の断面図である。
【図4】導電フィルムの導電性に影響を及ぼす欠点を説明する図である。
【図5】赤外線センサの受光面の構成を模した図である。
【図6】導電フイルムの欠点検査方法を説明するブロック図である。
【図7】実施例1において測定した導電フィルムの表面温度分布データである。
【図8】実施例2において測定した導電フィルムの表面温度分布データである。
【図9】実施例2において測定した導電フィルムの表面温度分布データである。
【図10】実施例2における表面温度分布測定範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、本発明を図面に基づいてより詳しく説明する。図1は本発明の導電フイルムの欠点検査装置の模式図であり、検査対象として導電フィルム10を検査する状態が示されている。図2には導電フィルム10の断面が示されている。
【0031】
まず、図2に示す導電フィルム10について説明すると、導電フィルム10は所定厚さの高分子フィルム基板11を備えている。この高分子フィルム基板11としては、可視域で透明性に優れるとともに、弾性強度、耐熱性や低吸湿性が求められ、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)やポリカーボネート(PC)等が用いられている。また、高分子フィルム基板11の厚みとしては、柔軟性と強度のバランスを考慮して、用途に応じて20μm〜250μmの範囲で選ばれている。この高分子フィルム基板11上に導電層12が形成されており、導電層12の材質としては、透明性と導電性の両立という観点から、酸化インジウム・スズ(ITO)、酸化インジウム・亜鉛(IZO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)等の酸化物が主に用いられている。導電層12の膜厚は、必要となる導電性により異なるが、数十〜数百ナノメーターの範囲の極めて薄い膜であり、主にスパッタや蒸着のような真空プロセスにより形成されている。
【0032】
なお、本発明の導電フイルム10は、波長550nmの可視光に対する光透過率が50%以上である透明導電フイルムであることが望ましい。
【0033】
また、導電フィルム10の構成として、高分子フィルム11基板と導電層12の他に、必要に応じ図3に示す下地処理層13、表面処理層14、裏面処理層15が含まれることがある。各層の役割は、導電フィルム10の用途によって異なるが、下地処理層13では高分子フィルム基板11と導電層12の接合強度改善、表面処理層14では導電層12の保護、裏面処理層15では高分子フィルム面の機械的強度改善などである。
【0034】
導電層12の導電性は用途により異なり、表面抵抗がディスプレイ用途では数十Ω/□以下、タッチパネル用途で数百Ω/□以下、帯電防止用途では10Ω/□より高抵抗となっている。マイクロ波の照射による導電層12の影響は導電層12の表面抵抗によって異なり、1Ω/□未満ではスパークを生じ、表面抵抗が10Ω/□を超える場合にはマイクロ波照射による導電層12の加熱効率が低下し、温度上昇に時間を要し、導電フィルム10面内への熱拡散の影響が無視出来なくなる。そのため、本発明の導電フイルム10は導電層12の表面抵抗が1〜10Ω/□の範囲であることが望ましい。
【0035】
なお、本発明において検査の対象となる導電層12の欠点16としては、図4に示すキズ161、クラック162、ピンホール163、部分的薄肉164がある。いずれも、導電層12の導電性に悪影響を及ぼし、導電フィルム10を用いた製品(タッチパネルやフィルムディスプレイ)の不良につながる。
【0036】
図1に示すように、導電フィルム10は通常、連続体として取り扱われており、本実施の形態においてもフィルム巻出し部21からフィルム巻き取り部22の間においても連続的につながっている。このフィルム巻だし部21とフィルム巻き取り部22から成るフィルム搬送機構20を制御部50で制御することにより、導電フィルム10はフィルム巻出し部21からフィルム巻き取り部22に搬送される。なお、図1においては、フィルム搬送機構20として、最小限の構成であるフィルム巻出し部21とフィルム巻き取り部22のみを記してあるが、これ以外に制御部50につながる張力制御機構や搬送速度制御機構が必要に応じて含まれることもある。
【0037】
マイクロ波照射装置30は、マグネトロン等のマイクロ波発振器31で発生したマイクロ波を導波管32でマイクロ波照射域300に導く構成となっており、マイクロ波の出力や照射時間は制御部50により制御される。マイクロ波の周波数としては、原理的には広い周波数範囲で加熱が可能であるが、通信機器への弊害を避けるため所謂ISM周波数から選ぶ必要があり、2.45GHzまたは5.8GHzのいずれかが妥当である。
【0038】
マイクロ波照射装置30は、本発明のマイクロ波照射手段に相当する。
【0039】
表面温度分布測定装置40としては、赤外線サーモグラフィが好適であり、赤外線サーモグラフに用いられる赤外線センサ41は、図5に模式的に示されているようにその受光面には多数の受光素子411がマトリクス状に配列されている。また、図6に示されているように、赤外線センサ41にて撮像された表面温度分布データは、良否判別手段42に入力され、良否判別手段42にて後述する基準温度分布データと比較される。ここで、良否判定の基準として用いられる基準温度分布データは記憶部43に格納されるようになっている。また、判定結果は表示部44に表示されるが、導電フィルム10の位置情報とともに記憶部43に格納される機能があることが好ましい。
【0040】
また、表面温度分布データは、記憶部43に記憶された後、表面温度分布の経時変化を示す表面温度分布トレンドデータとして記憶を蓄積していく。良否判定手段42では、導電フィルム10の各位置の表面温度分布測定データと表面温度分布トレンドデータとを相対比較し、良否判定を行う機能を有している。
【0041】
なお、表面温度分布測定装置40において表面温度分布を測定する導電フィルム10の領域としては、マイクロ波照射中のものが測定上は好ましいが、マイクロ波による赤外線センサ41の電子回路への電磁ノイズの影響を避けるため、本実施の形態では、マイクロ波照射の終わった後の導電フィルム10の表面温度分布を測定する方式としている。
【0042】
表面温度分布測定装置40は、本発明の表面温度分布測定手段に相当する。
【0043】
以下に、本発明の導電フイルムの欠点検査装置を用いた欠点検査方法1を説明する。
【0044】
<欠点検査方法1>
まずは、フィルム搬送機構20により、マイクロ波照射装置30のマイクロ波照射領域300に、良品の導電フイルム10を搬送する。良品の導電フイルム10は、予め、目視検査により静止状態の導電フイルム10を観察することで判断する。この場合、導電フイルム10の導電層12に可視光を照射して、種々の角度からその導電層12を観察することで欠点の有無を判断したものである。
【0045】
次に、マイクロ波発振器31から出力されたマイクロ波を導電フィルム10に照射する。これにより、導電フイルム10の導電層12に渦電流が発生し、導電フィルム10の表面温度が上昇する。ここで、マイクロ波照射方向と導電層12との位置関係であるが、導電フィルム10の非導電面がマイクロ波照射側であっても検査は可能であるが、導電層12がマイクロ波照射側にある方が好ましい。なお、ここで照射するマイクロ波のパワーおよび照射時間は、その照射による加熱で導電フィルム10の温度が基板となる高分子フィルム基板11のガラス転移点を超えないようにする必要がある。一方、マイクロ波の照射を受けた場合の効果は導電層12の表面抵抗によって異なり、1Ω/□未満ではスパークを生じ、10Ω/□を超えると加熱効率が低下し、温度上昇に時間を要し、導電フィルム10面内への熱拡散の影響が無視出来なくなる。
【0046】
その後、フィルム搬送機構20により、マイクロ波照射を受けた導電フィルム10を表面温度分布測定装置40の測定域400に進め、表面温度分布測定装置40で、マイクロ波照射後の導電フィルム10の表面温度分布を測定する。その表面温度分布データを基準温度分布データとして、記憶部43に格納する。ここまでが、基準温度分布データを得る工程である。
【0047】
なお、マイクロ波照射領域300で導電フィルム10にマイクロ波照射を完了してから、測定域400で表面温度分布測定を開始する迄の時間は5秒以内とする。この時間が5秒を超えると導電フィルム10の面内での熱伝導と導電フィルム10の表面からの熱放射により、本来の表面温度分布とは異なるものになる。また、上記では、マイクロ波照射領域300と測定域400で導電フィルム10を停止させるよう導電フィルム10を間欠運転としているが、導電フィルム10がマイクロ波照射領域300でマイクロ波照射を受け、測定域400で表面温度分布を測定されるものであれば、導電フィルム10を連続走行させることも可能である。
【0048】
この基準温度分布データを得た後に、導電フィルム10の欠点検査が行える。欠点検査工程において、まずは、マイクロ波照射装置30のマイクロ波照射領域300に、欠点16の有無が不明な導電フィルム10を搬送する。ここで、導電フィルム10は、上述した良品の導電フイルム10と同じ仕様であることが前提である。すなわち、導電フイルム10の高分子フィルム11の材質、厚み及び導電層12の材質、厚み、表面抵抗値が同規格(下地処理層13、表面処理層14及び裏面処理層15が存在する場合はそれぞれも同規格)のものである必要がある。
【0049】
次に、マイクロ波発振器31から出力されたマイクロ波を良品の導電フィルム10に照射したのと同条件(出力、時間、分布およびマイクロ波照射方向と導電層12の位置関係)で照射する。その後、フィルム搬送機構20により、マイクロ波照射を受けた導電フィルム10を表面温度分布測定装置40の測定域400に進め、表面温度分布測定装置40で、マイクロ波照射後の導電フィルム10の表面温度分布データを測定する。この際、マイクロ波照射後の導電フィルム10の表面温度分布測定までの時間は良品の導電フイルム10を測定した時と同じにする。
【0050】
そして、ここで得られた表面温度分布データは良否判別手段42において、先に得られた基準温度分布データが一致または(測定誤差レベルから設定する)一定の差以内であれば、その領域は「良」と判定される。これに対して、導電層12に欠点16のある領域においては欠点部分の導電不良に伴い、欠点部分周辺の温度が良品における基準温度分布データと異なる。このようにして、通常の光学機器では検出が困難な、可視光に対して透明な導電フィルム10の導電層12の欠点を検出することが出来る。なお、基準温度分布データとの比較を行わないと、マイクロ波の照射強度バラツキによる導電フイルム10の表面温度分布を導電層12の欠点として認識してしまう。
【0051】
本実施の形態では、良否判別手段42において、表面温度分布データを相対比較することにより良否判定を行ったが、良品の導電フイルム10の表面温度の平均値を求め、検査対象の導電フイルム10との相対比較を行っても良い。さらに、表面温度の時間的変化を測定し、温度プロファイル(マイクロ波照射後の導電フイルム10の表面温度の変化)を相対比較することで良否判定を行っても良い。また、温度プロファイルを時間軸で積分または微分することにより、導電フイルム10の欠点検出を行っても良い。
【0052】
次に、本発明の導電フイルムの欠点検査装置を用いた欠点検査方法2を説明する。
【0053】
<欠点検査方法2>
まずは、フィルム搬送機構20により、導電フィルム10の搬送を開始し、搬送速度を徐々に上げるとともにマイクロ波照射装置30を稼働させる。そして、導電フィルム10の搬送速度および、マイクロ波照射装置30のマイクロ波発振器31の出力が所定の値で安定した時点で、検査を開始する。この時に、マイクロ波照射域300の上流側に入る導電フィルム10の長さ方向の位置をL1とする。
【0054】
マイクロ波照射装置30の稼働後、導電フィルム10は、マイクロ波発振器31から出力されたマイクロ波の照射を受ける。これにより、導電フイルム10の導電層12に渦電流が発生し、導電フィルム10の表面温度が上昇する。ここで、マイクロ波照射方向と導電層12との位置関係であるが、導電フィルム10の非導電面がマイクロ波照射側であっても検査は可能であるが、導電層12がマイクロ波照射側にある方が好ましい。なお、ここで照射するマイクロ波のパワーは、その照射による加熱で導電フィルム10の温度が基板となる高分子フィルム基板11のガラス転移点を超えないようにする必要がある。一方、マイクロ波の照射を受けた場合の効果は導電層12の表面抵抗によって異なり、1Ω/□未満ではスパークを生じ、10Ω/□を超えると加熱効率が低下し、温度上昇に時間を要し、導電フィルム10面内への熱拡散の影響が無視出来なくなる。
【0055】
その後、フィルム搬送機構20により、マイクロ波照射を受けた導電フィルム10を表面温度分布測定装置40側へ進め、導電フィルム10の長さ方向位置L1が表面温度分布測定装置40の測定域400の最下流部に到達した段階で、表面温度分布測定装置40で、マイクロ波照射後の導電フィルム10の表面温度分布を測定する。その表面温度分布測定データDL1は記憶部43に収納される。
【0056】
なお、導電フィルムの長さ方向位置L1が、マイクロ波照射領域300の最下流部を通過してから、測定域400の最下流部に到達して表面温度分布測定を行う迄の時間は5秒以内とする。この時間が5秒を超えると導電フィルム10の面内での熱伝導と導電フィルム10の表面からの熱放射により、本来の表面温度分布とは異なるものになる。
【0057】
この後、表面温度分布測定装置40は、所定の時間間隔Tを経て、表面温度分布測定装置40の測定域400の最下流部の位置にL2が到達した段階で表面温度分布を測定する。その表面温度分布測定データDL2は記憶部43に収納される。
【0058】
更に、表面温度分布測定装置40は、所定の時間間隔Tを経て、表面温度測定装置40の測定域400の最下流部の位置L3が到達した段階で、表面温度分布を測定する。その表面温度分布測定データDL3は記憶部43に収納される。
【0059】
以下同様に、所定の時間間隔T毎に、表面温度分布測定装置40の最下流部にL4、L5、L6、・・、Lnが到達した段階で、表面温度分布を測定し、その表面温度分布測定データDL4、DL5、DL6、・・、DLnは記憶部43に収納される。
【0060】
なお、導電フィルム10の搬送速度Vは一定であり、時間間隔Tも一定であることから、導電フィルム10の長さ方向位置L1、L2、・・、Ln−1、Lnの各間隔ΔLはΔL=V×Tで一定である。そこで、このΔLが、表面温度測定装置40の測定域400の導電フィルム走行方向長さY0以下であれば、導電フィルム10の長さ方向にわたり抜けのない測定が可能となる。
【0061】
良否判別手段42は、記憶部43に収納された導電フィルム10の長さ方向位置L1、L2、・・、Ln−1、Lnでの表面温度分布測定データDL1、DL2、・・、DLn−1、DLnが蓄積された時点で、導電フィルム10の長さ方向位置に対する表面温度分布トレンドの近似式を求め、その近似式から、導電フィルム10の長さ方向位置L1、L2、・・、Ln−1、Lnでの表面温度分布トレンドデータDTL1、DTL2、・・、DTLn−1、DTLnを得て、これらの表面温度分布トレンドデータを記憶部43に収納する。
【0062】
そして、良否判別手段42は、導電フィルム10の長さ方向位置L1における表面温度分布測定データDL1と表面温度分布トレンドデータDTL1の比較を行い、両者が一致または(測定誤差レベルから設定する)一定の差以内であれば、その領域は「良」と判定される。これに対して、その差が一定の値を超えた場合は、その領域内の導電層12に欠点16が存在する確率が高いと判定される。以後、導電フィルムの長さ方向位置L2、L3、・・、Ln−1、Lnにおいても同様な比較を行うことにより、各領域における欠点有無の判定が行える。
【実施例1】
【0063】
実施の形態で説明した欠点検査方法1を用いて検査した実施例を説明する。
【0064】
厚さ125μmで幅200mmでロール状に巻かれた導電フィルム10を用いた(導電面はロール内側)。導電フィルム10の構成は高分子フィルム基板11としてPETフィルムを用い、導電層12はスパッタで形成されたITOであり、表面抵抗は180Ω/□、波長550nmの可視光に対する光線透過率は84%であった。
【0065】
この導電フィルム10を図1のフィルム巻出し部21〜フィルム巻き取り部22の間にセットし、目視観察により良品と判定した部分をマイクロ波照射域300に入るよう導電フィルム10を搬送・停止し、その領域にマイクロ波を照射した。
【0066】
その際のマイクロ波の周波数は2.45GHzで発振器出力30W、照射時間は30秒とした。
【0067】
その後、フィルム搬送機構20によりマイクロ波照射を受けた部分を表面温度分布の測定域400に搬送・停止し、赤外線サーモグラフィで表面温度分布データを測定した。
【0068】
ここで、マイクロ波照射終了から、導電フィルム10の表面温度分布データ測定開始までの時間は2秒にした。
【0069】
この測定における導電フィルム10の表面温度分布データを導電フィルム10の幅方向について示した結果は図7(a)のようになった。
【0070】
次に、導電フィルム10の幅方向真中付近に故意によるITOクラックを発生させた部分について、上記の良品部分と同条件でマイクロ波照射〜表面温度分布測定を行った。この測定における導電フィルム10の表面温度分布データを導電フィルム10の幅方向について示した結果が図7(b)のようになった。図7(a)と図7(b)の比較により、ITOクラックによる導電不良の影響がマイクロ波照射による表面温度分布データに反映されている。
【0071】
従って、図7(a)と図7(b)を比較することにより、導電フイルム10の導電層12に発生した欠点を検出することができた。
【実施例2】
【0072】
実施の形態で説明した欠点検査方法2を用いて検査した実施例を説明する。
【0073】
厚さ100μmで幅160mmでロール状に巻かれた導電フィルム10を用いた(導電面はロール内側)。導電フィルム10の構成は基板となる高分子フィルムとしてPETフィルムを用い、導電層12はスパッタで形成されたITOであり、表面抵抗は180Ω/□、波長550nmの可視光に対する光線透過率は84%であった。
【0074】
この導電フィルム10を図1のフィルム巻出し部21〜フィルム巻き取り部22の間にセットし、フィルム搬送機構により走行速度Vを10cm/secに設定して搬送を開始するとともに、マイクロ波発振器31を稼働させマイクロ波照射を開始した。その際のマイクロ波の周波数は2.45GHzで発振器の設定出力は100Wとした。また、マイクロ波照射領域300の導電フィルム10の走行方向における長さが20cmであったので、導電フィルム10がマイクロ波照射の照射を受けるのは2秒になる。
【0075】
その後、フィルム搬送機構20により搬送された導電フィルム100はマイクロ波照射領域300のより下流側にある表面温度分布の測定域400で、赤外線サーモグラフィで表面温度分布データを測定される。なお、マイクロ波照射域300の最下流部から、表面温度分布測定域400の最上流部までの距離は15cmに設定した。さらに表面温度測定域の導電フィルム走行方向における長さY0は15cmとしている。したがって、マイクロ波照射領域300の最下流部から、表面温度測定域400の最下流部までの距離は30cmであり、導電フィルム10の走行速度Vが10cm/secであることから、マイクロ波照射域300を出てから温度分布が測定されるまでの時間は3秒である。
【0076】
この装置で、マイクロ波発振器31の電力および、導電フィルム10の走行速度が設定値に安定した時点が測定の開始であり、この時点でマイクロ波照射領域300の最上流部にある導電フィルムの長さ方向位置L1が、表面温度測定域400の最下流部に達した時に表面温度分布を測定し、表面温度分布測定データDL1を得る。その後、測定周期Tを1秒として表面温度測定データを得ていく。ここで、この測定周期Tが1秒で、導電フィルムの走行速度Vが10cm/secで、導電フィルムの走行方向での表面温度測定範囲Y0が15cmであることから、T≦Y0/Vが成立している。
【0077】
以上によって得られた、10cm間隔での表面温度分布測定データを用いて、近似式から、表面温度分布トレンドデータを得た。本実施例において、近似式としては二次近似を用いたが、三次次近似等の別の多項式近似式を用いても大きな差はなかった。
【0078】
次に、表面温度分布測定データと表面温度分布トレンドデータの比較を示す。図8(a)及び図8(b)には測定開始後10.0m地点での表面温度分布測定データと表面温度分布トレンドデータを示す。なお、測定では2次元の温度分布を測定しているが、図8(a)及び図8(b)では、図10に示す表面温度測定域400における中心点Oをとおる導電フィルム幅方向の直線上XOでの表面温度分布を示す。また、図9(a)及び図9(b)には測定開始後112.0m地点での表面温度分布測定データと表面温度分布トレンドデータを示す。図9(a)及び図9(b)ともに図8(a)及び図8(b)と同じく、導電フィルム幅方向の表面温度分布を示すものである。
【0079】
図8(a)と図8(b)を比較した場合、表面温度分布測定データと表面温度分布トレンドデータに大きな差は見られず、測定開始後10.0m付近の導電フィルム10を目視で観察しても欠点は発見出来なかった。一方、図9(a)と図9(b)の比較では、図9(a)の表面温度分布測定データにおいて、図9(b)の表面温度分布トレンドデータと大きく異なる部分があり。実際、測定開始後112.0m付近の導電フィルム10を目視で観察したところ、導電層の一部にクラックを生じていることが判った。
【符号の説明】
【0080】
10 導電フィルム
11 高分子フィルム基板
12 導電層
13 下地処理層
14 表面処理層
15 裏面処理層
16 導電層の欠点
20 フィルム搬送機構
21 フィルム巻出し部
22 フィルム巻き取り部
30 マイクロ波照射装置
31 マイクロ波発振器
32 導波管
300 マイクロ波照射域
40 表面温度分布測定装置
41 赤外線センサ
42 良否判別手段
43 記憶部
44 表示部
400 測定域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電層を有する導電フィルムにマイクロ波を照射し、
導電層を加熱し、
導電フィルムの表面の温度分布を測定することにより、
導電フイルムの導電層の欠点を検出することを特徴とする導電フィルムの欠点検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の発明において、
良品の導電フイルムにマイクロ波を照射し、
導電フイルムの表面の温度分布を測定することにより、基準温度分布を求め、
前記基準温度分布と導電フイルム毎に測定した温度分布とを比較することにより導電フイルムの導電層の欠点を検出することを特徴とする導電フィルムの欠点検査方法。
【請求項3】
請求項1に記載の発明において、
等速で連続走行する導電フィルムの導電層にマイクロ波を照射して導電層を加熱した後に
導電フィルム走行方向の下流側で、導電フィルム表面温度分布を測定し、
表面温度分布の測定値の経時変化を示すトレンドデータを求め、各測定毎の導電フィルム表面温度分布データを前記トレンドデータと比較することにより欠点を検出することを特徴とする導電フィルムの欠点検査方法。
【請求項4】
導電層を有する導電フイルムにマイクロ波を照射するマイクロ波照射手段と、
マイクロ波が照射された導電フイルムの表面の温度分布を測定する表面温度分布測定手段と、
前記表面温度分布測定手段の測定結果に基づき導電フイルムの導電層の欠点を検出する良否判定手段とを備えたことを特徴とする導電フイルムの欠点検査装置。
【請求項5】
請求項4に記載の発明において、
前記良否判定手段が、良品の導電フイルムの表面の温度分布を前記表面温度分布測定手段で測定することにより、基準温度分布を求め、
前記基準温度分布と導電フイルム毎に測定した温度分布とを比較することにより導電フイルムの欠点を検出する良否判定出手段であることを特徴とする導電フイルムの欠点検査装置。
【請求項6】
請求項4に記載の発明において、
導電フィルムを等速で連続走行させるフィルム搬送手段と、
前記良否判定手段が、導電フィルムの表面温度分布の測定値の経時変化を示すトレンドデータを求め、各測定毎の導電フィルム表面温度分布データを前記トレンドデータと比較することにより欠点を検出する良否判定手段であること特徴とする導電フィルムの欠点検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−169649(P2010−169649A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88871(P2009−88871)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】